JP5600380B2 - 潤滑システム - Google Patents

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Description

本発明は機械装置の摺動部や回転部に潤滑油を供給可能な潤滑システムに関する。
一般に、自動車や産業用機械に代表されるようなほとんどの機械の摺動部や回転部において潤滑剤が使用されている。潤滑剤は大別して液体潤滑剤と固体潤滑剤に分けられるが、潤滑油を増ちょうさせて保形性を持たせたグリースや、液体潤滑剤を保持してその飛散や垂れ落ちを防止できる固形潤滑剤も知られている。
例えば、潤滑油やグリースに、超高分子量ポリオレフィン、またはウレタン樹脂およびその硬化剤を混合し、樹脂の分子間に液状の潤滑成分を保持させて徐々に染み出る物性を持たせた固形潤滑剤が知られている(特許文献1〜特許文献3参照)。
また、潤滑剤の存在下でポリウレタン原料であるポリオールとジイソシアネートを潤滑成分中で反応させた自己潤滑性のポリウレタンエラストマーが知られている(特許文献4参照)。
このような固形潤滑剤は、軸受に封入して固化させると、潤滑油を徐々に染み出させるものであり、これを用いると潤滑油の補充のためのメンテナンスが不要になり、水分の多い厳しい使用環境や強い慣性力の働く環境などでも軸受寿命の長期化に役立てることを狙ったものである。
しかしながら、このような固形潤滑剤を、等速ジョイントの駆動部のような圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し加わる部位に使用すると、圧縮や屈曲に追従して変形させるために非常に大きな力が必要になり、または非常に大きな応力が固形潤滑剤に加わって、それを保持する部分にも機械的強度が必要になる。
しかし、固形潤滑剤の強度と充填率は通常、補償的なものであるので、潤滑剤を高充填率で保持することが困難であり、長寿命化を妨げる可能性がある。
そのため、圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し起こるような部位においても簡便に使用可能な固形潤滑剤が求められている。
この固形潤滑剤として、例えば、発泡して連通気孔を形成した柔軟な樹脂に潤滑油を含浸し、その気孔内に潤滑油を保持させた含油発泡体も軸受や等速ジョイントの内部に充填して使用されることが知られている(特許文献5参照)。
しかし、上記した特許文献1〜特許文献4による技術では固形潤滑剤は、潤滑油保持力は大きいが、柔軟な変形性に欠ける。また、特許文献5の含油発泡体は外力に応じる柔軟な変形性があって圧縮や屈曲変形にも追従することはできるが、潤滑油保持力が小さく、軸受などの高速条件で使用した場合には、潤滑油が急速に抜け出て枯渇する可能性もある。この含油発泡体は、短時間での潤滑や密閉空間においては使用可能であるが、長時間の潤滑を要する部分や開放空間で使用すると潤滑油が供給不足になり、または、油保持力が弱いと、余剰の潤滑油は気孔から放出および吸収を繰り返し、絶えず空間内を流動することになる。
このような固形潤滑剤から余剰に染み出した潤滑油は、ゴムなどの外装材に接すると、その素材を潤滑油やその添加剤が化学的に腐食または劣化させるものもある。
また、該潤滑剤を製造する工程では、潤滑油やグリースを確実に含浸させるために多くの製造工程が必要になり、これでは低コスト化の要求に応えることも困難である。
そこで、製造工程が簡便で、柔軟で潤滑成分保持力が高い発泡潤滑剤が提案されている(特許文献6参照)。
しかし、特許文献6の発泡潤滑剤も使い方によっては外力や温度上昇による潤滑剤の放出が少ない場合がある。また、耐久性を考慮すると樹脂成分からの潤滑成分の放出は必要最小限であることが望ましい。潤滑成分の放出速度が小さければ、摺動部に必要量の潤滑剤が到達する速度は遅くなる。そのため、潤滑剤が枯渇状態となり摺動部でも摩耗や潤滑不良を引き起こす場合がある。
特開平6−41569号公報 特開平6−172770号公報 特開2000−319681号公報 特開平11−286601号公報 特開平9−42297号公報 特開2007−177226号公報
本発明は、このような問題点に対処するためになされたものであり、潤滑成分を保持する発泡固形潤滑剤の潤滑成分保持力を向上させるとともに、発泡固形潤滑剤の変形や外力による潤滑剤の滲み出し量を必要最小限に留めることができ、かつ発泡固形潤滑剤からの潤滑成分が不足する場合でも潤滑機能を補うことができる長寿命で低コストな潤滑システムの提供を目的とする。
本発明の潤滑システムは発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤と、補助潤滑用グリースとが潤滑対象部位に共存する潤滑システムであって、上記補助潤滑用グリースは融点が 70℃〜150℃であるワックスを少なくとも含有することを特徴とする。
また、上記ワックスが、脂肪酸アミドおよび水素硬化油から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。なお、本発明においてワックスは常温では固体で、加熱すれば比較的低粘度な液体となる物をいう。
また、上記発泡固形潤滑剤は、発泡・硬化して多孔質化する樹脂がゴム状弾性を有し、該樹脂内に含まれる潤滑成分がゴム状弾性体の変形により滲出性を有することを特徴とする。
また、上記発泡・硬化して多孔質化する樹脂の発泡倍率が、1.1 倍〜100 倍であることを特徴とする。
上記発泡固形潤滑剤は潤滑成分と、上記樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなり、上記潤滑成分は潤滑油およびグリースから選ばれた少なくとも1つであり、上記樹脂が分子内にイソシアネート基を 2 重量%以上 6 重量%未満含有するウレタンプレポリマーであり、上記発泡剤が水であり、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分を 30〜70 重量%含み、発泡後の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする。
上記ウレタンプレポリマーは、エステル系ウレタンプレポリマー、カプロラクトン系ウレタンプレポリマー、およびエーテル系ウレタンプレポリマーから選ばれた少なくとも1つのウレタンプレポリマーであることを特徴とする。
上記イソシアネート基と、該イソシアネート基と反応する上記硬化剤の官能基との割合が当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲であることを特徴とする。
また、上記水の水酸基と、上記硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲であることを特徴とする。
また、上記硬化剤が芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする。
また、上記芳香族ポリアミノ化合物がアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする。
また、上記混合物は、摺動部材の周囲、または成形用型内に充填された後に、発泡・硬化されてなることを特徴とする。
本発明の潤滑システムは、発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤と、補助潤滑用グリースとが潤滑対象部位に共存する潤滑システムであって、上記補助潤滑用グリースには所定のワックス成分が添加されているので、遠心力などの外力が加わっても補助潤滑用グリースが摺動部から移動しにくく、発泡固形潤滑剤より滲み出してくる潤滑成分が不足する場合でも該補助潤滑用グリースにより潤滑機能を担うことができる。また、局部的に、一時的な潤滑剤不足により摺動部が金属接触状態になったとしても、金属接触により温度が上昇するため、補助潤滑用グリース中のワックス成分が溶融し補助潤滑用グリースの流動性が向上するために摺動部にすばやく供給され、円滑な潤滑状態を保つことができる。
このため、発泡固形潤滑剤が封入される軸受や自在継手等の機械要素における摺動部等において潤滑剤が(流出しないために)不足することなく継続して潤滑機能を十分に果たすことができる。
本発明の潤滑システムにおいて発泡固形潤滑剤は、潤滑成分と、発泡・硬化して多孔質化する樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなるので、潤滑成分が発泡・硬化した樹脂内に保持される。発泡させることで、外部応力に対する自在な変形を可能にし、特に柔軟性を向上させることができる。この潤滑成分は主として樹脂内に存在し、例えば圧縮、屈曲、ねじり、膨張などの外的な因子によって滲み出す潤滑成分量を必要最小限に保ちつつ、必要部位に徐放することができる。
以上の結果、本発明の潤滑システムを軸受や自在継手等の機械要素に適用することで、従来のグリース使用量の低減によるコストダウン、ブーツ材への負荷低減、等速ジョイントの軽量化とコンパクト化を可能にすることができ、工業的に有利な経済的側面だけでなく環境に対する負荷低減、設計の自由度という複数の観点からも社会的重要度の高い技術となる。
本発明の潤滑システムは発泡固形潤滑剤と、所定のワックスを含有する補助潤滑用グリースとが潤滑対象部位に共存する構成とすることに特徴がある。潤滑対象部位において発泡固形潤滑剤より潤滑成分が十分に滲み出してくるまでの潤滑を補助潤滑用グリースが担うとともに、補助潤滑用グリースに添加されたワックスが補助潤滑用グリースの流動性を抑えることで潤滑対象部位における潤滑機能を長期間を保持することができる。
本発明の潤滑システムを自在継手に適用した例について図面を用いて具体的に説明する。図1は等速自在継手を示す断面図である。図1に示すように等速自在継手は内方部材(内輪ともいう)1、外方部材(外輪ともいう)2、内方部材側トラック溝3、外方部材側トラック溝4、鋼球5、ケージ6、シャフト7、ブーツ8、発泡固形潤滑剤9、グリースに所定のワックスを配合してなる補助潤滑用グリース10、および、その他の付属部品より構成される。このとき等速自在継手において、補助潤滑用グリース10は外方部材2の底部に収容され、発泡固形潤滑剤9は鋼球5の付近に配置される形で、発泡固形潤滑剤9と補助潤滑用グリース10が共存している。
発泡固形潤滑剤9は樹脂成分と潤滑成分とを含み、このうち樹脂成分を発泡させることで、外部応力に対する変形を可能にした。発泡固形潤滑剤9のうち潤滑成分は主に樹脂内に吸蔵され、回転運動に伴う遠心力や、等速自在継手が角度を取ったときに発生する圧縮、屈曲、膨張などの外的な応力によって発泡固形潤滑剤中より外部に潤滑成分が徐放されるものである。また、補助潤滑用グリース10は発泡固形潤滑剤9中から徐放される潤滑成分と共に自在継手内の潤滑を担う。この場合、発泡固形潤滑剤のみよりも、自在継手内に存在する潤滑成分の絶対量が多くなる。よって、発泡固形潤滑剤を使用した場合の大きな利点である潤滑剤使用量の低減やブーツやブーツバンドへの負荷低減の特徴を保ちながら、より長寿命が達成できる。
なお、潤滑成分が発泡・硬化した樹脂内に吸蔵されるとは、後述する潤滑油やグリースなどの液体・半固体状の潤滑成分が発泡・硬化した樹脂や硬化剤と反応することなく、化合物にならないで含まれることをいう。
本発明の潤滑システムを転がり軸受に適用した例について図面を用いて具体的に説明する。図2は本発明の他の実施例に係る深溝玉軸受の断面図である。
図2に示すように軸受11は、内輪12と、内輪12と同心に配置された外輪13と、これら内、外輪間に介在する複数個の転動体14と、この複数個の転動体14を保持する保持器15と、外輪13等に固定されるシール部材16とにより構成される。発泡固形潤滑剤17が、内輪12と、外輪13と、転動体14と、シール部材16とに囲まれた空間に配置され、グリースに所定のワックスを配合してなる補助潤滑用グリース18が、転がり部である転動体14の近傍に配置される形で、発泡固形潤滑剤17と、補助潤滑用グリース18とが軸受内部において共存している。
発泡固形潤滑剤は、遠心力、圧縮、屈曲、膨張などの外的な応力等によって外部に潤滑成分を徐放するので、発泡固形潤滑剤からの潤滑成分の滲み出しが不足したり、潤滑成分が枯渇すると、潤滑成分が摺動部に十分存在していない場合がある。本発明では補助潤滑用グリースを併用することで、発泡固形潤滑剤から滲み出す潤滑成分の不足を補うことができるとともに、補助潤滑用グリースに所定のワックスを含ませるので、潤補助潤滑グリースの流動性を抑え摺動部に潤滑成分が留まりやすくなるという効果が得られる。
その上、本発明に用いる発泡固形潤滑剤は、非発泡体と比較して屈曲時に必要なエネルギーが非常に小さく、潤滑油などの潤滑成分を高密度に保持しながら柔軟な変形が可能である。よって、該発泡固形潤滑剤を例えば等速自在継手内部で固化させた後冷却する過程において、発泡固形潤滑剤が収縮し、等速自在継手の鋼球を抱き込んだとしても屈曲・変形時に必要なエネルギーが小さいために容易に変形することができ、回転トルクが大きくなるという問題を防ぐことができる。また、発泡部分すなわち多孔質な部分を多く持つため、軽量化の点でも有利である。
また、本発明に用いる発泡固形潤滑剤は潤滑成分と、樹脂成分とを含む混合物を発泡・硬化させるだけであるので、特別な設備も不要であり、任意の場所に充填して成形することが可能である。
また、上記混合物の配合成分の配合量をコントロールすることにより発泡固形潤滑剤の密度を変化させることができる。
本発明において発泡固形潤滑剤を構成する発泡・硬化して多孔質化する樹脂としては、発泡・硬化後にゴム状弾性を有し、変形により潤滑成分の滲出性を有するものが好ましい。
発泡・硬化は、樹脂生成時に発泡・硬化させる形式であっても、樹脂に発泡剤を配合して成形時に発泡・硬化させる形式であってもよい。ここで硬化は架橋反応および/または液状物が固体化する現象を意味する。また、ゴム状弾性とは、ゴム弾性を意味するとともに、外力により加えられた変形がその外力を無くすことにより元の形状に復帰することを意味する。
本発明において発泡固形潤滑剤に用いられる樹脂成分には、耐熱性および柔軟性に優れ、低コスト化が可能となるウレタンプレポリマーを用いることが好ましい。
この発泡固形潤滑剤は、上記ウレタンプレポリマーが発泡・硬化して多孔質化された固形物であり、かつ潤滑成分を樹脂内部に吸蔵してなる発泡固形潤滑剤である。この発泡固形潤滑剤は潤滑成分保持力に優れ、外力による変形を受けても潤滑成分の滲み出し量を必要最小限に抑制し、かつ安価に製造できる。
本発明に使用できるウレタンプレポリマーは、活性水素基を有する化合物とポリイソシアネートとの反応によって得られ、イソシアネート基は、分子鎖末端であっても、あるいは分子鎖内から分岐した側鎖末端に含まれていてもよい。また、ウレタンプレポリマーは分子鎖内にウレタン結合を有していてもよい。
反応するモノマー(=活性水素基を有する化合物)の種類によって、カプロラクトン系、エステル系、エーテル系などに分類される。エーテル系にはタケネートL−1170(三井化学ポリウレタン社製)、L−1158(三井化学ポリウレタン社製)、コロネート4090(日本ポリウレタン社製)がある。また、エステル系としてはコロネート4047(日本ポリウレタン社製)などがあり、カプロラクトン系にはタケネートL-1350(三井化学ポリウレタン社製)、タケネートL-1680(三井化学ポリウレタン社製)、サイアナプレン7−QM(三井化学ポリウレタン社製)、プラクセルEP1130(ダイセル化学工業社製)などが挙げられる。
また、末端基をイソシアネート基に変性したオリゴマーやプレポリマー化合物も使用することが出来る。このような化合物としては末端イソシアネート変性ポリエーテルポリオールや水酸基末端ポリブタジエンのイソシアネート変性体が挙げられる。末端イソシアネート変性ポリエーテルポリオールにはコロネート1050(日本ポリウレタン社製)などが挙げられる。また、水酸基末端ポリブタジエンのイソシアネート変性体には poly-bd MC50(出光興産社製)や poly-bd HTP9(出光興産社製)が挙げられる。
これらウレタンプレポリマーは目的とする機械的性質などに応じて 2 種類以上を混合して使用することができる。
本発明では、イソシアネート基含有量が 2 重量%以上 6 重量%未満のウレタンプレポリマーを使用できる。イソシアネート基(−NCO)の含有量が 2 重量%未満であると発泡性と弾力性の両立が難しくなるし、 6 重量%以上であると硬度が大きくなりすぎて反発弾性が大きくなり外力による変形を受けるときに発熱等を起こしやすくなる。
また、イソシアネート基は、フェノール類、ラクタム類、アルコール類、オキシム類などのブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート等を使用することができる。
上記ウレタンプレポリマーを硬化させる硬化剤としては、活性水素を有する化合物が好ましく、官能基がアミノ基であるポリアミノ化合物、官能基が水酸基であるポリオール化合物が挙げられる。
ポリアミノ化合物としては、3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン(以下、MOCAと記す)、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジメトキシ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジエチル-5,5′-ジメチルジフェニルメタン、トリメチレン-ビス-(4-アミノベンゾアート)、ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミン、メチルチオトルエンジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,6-ジアミンに代表される芳香族ポリアミノ化合物が挙げられる。
上記ポリアミノ化合物の中でも芳香族アミノ化合物が低コストであり、物性が優れているため、好ましく、特にアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ジアミノ化合物が好ましい。本発明においては、発泡と共に硬化させる工程を経るため、隣接位の置換基によりアミノ基の反応性が抑制されるためと考えられる。
ウレタンプレポリマーをポリアミノ化合物で硬化させるとウレタンおよびウレア結合を分子内に有する発泡固形潤滑剤となる。ウレア結合を生成させることによって分子中のウレタン結合密度を下げることになり、伸びや反発弾性が向上する。また、ウレア結合を生成させることによって剛性を与えることができる。
ポリオール化合物としては、1,4-ブタングリコールやトリメチロールプロパンに代表される低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ひまし油系ポリオール、ポリエステル系ポリオールが挙げられる。ポリオール化合物の中ではトリメチロールプロパンが好ましい。
ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基(−NCO)と、該イソシアネート基と反応する硬化剤の官能基との割合は、官能基がアミノ基または水酸基である場合、当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲である。
ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基と硬化剤のアミノ基(−NH2 )または水酸基(−OH)、そして発泡剤である水の水酸基(−OH)との割合で発泡固形潤滑剤の発泡倍率や柔軟性、弾力性等が定まる。硬化剤のアミノ基(−NH2 )または水酸基(−OH)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(−NCO)とを当量で反応させると、発泡剤である水と反応するイソシアネート基(−NCO)が消失してしまうため、(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲が好ましい。また、発泡剤である水の水酸基と、硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲である。
上記範囲よりも硬化剤の量が少なくなると発泡固形潤滑剤の強度等の物性が著しく低下するばかりでなく、ウレタンエラストマーとして硬化しない場合もある。
本発明に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば使用することができる。潤滑成分としては、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独でもしくは混合して使用できる。特に好ましいものとして炭化水素系潤滑油、炭化水素系グリース、または炭化水素系潤滑油と炭化水素系グリースとの混合物が挙げられる。
炭化水素系潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、炭化水素系合成油、GTL基油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。また、エステル系合成油、エーテル系合成油、フッ素油、シリコーン油等も使用することができる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
炭化水素系グリースは炭化水素油を基油とするグリースであり、基油としては上述の炭化水素系潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物はジイソシアネートとモノアミンの反応で、ポリウレア化合物はジイソシアネートとポリアミンの反応で、それぞれ得られる。また、エステル系合成油、エーテル系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等を基油としたグリースも使用できる。
上記潤滑成分には、炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル系ワックス、高級脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを混合して使用することができる。
本発明において発泡固形潤滑剤を発泡させる手段は、原料にイソシアネート化合物を用いることから、イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水を用いることが好ましい。
また、必要に応じて触媒を使用することが好ましく、例えば、3級アミン系触媒や有機金属触媒などが用いられる。3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミダゾール誘導体、酸ブロックアミン触媒などが挙げられる。
また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレート、オクテン酸塩などが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
本発明において発泡固形潤滑剤は、上記潤滑成分と、上記ウレタンプレポリマーなどの樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させて得られる。
上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、 30〜70 重量%、好ましくは 40〜60 重量%である。潤滑成分が 30 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡固形潤滑剤としての機能を発揮できず、70 重量%より多いときには固化しない場合がある。
発泡固形潤滑剤を製造するときの各成分を混合する方法としては、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー、ミキシングヘッド等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。
上記混合物は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが好ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
本発明において潤滑油などの潤滑成分存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なう反応型含浸法を用いることが、潤滑成分の高充填化と材料物性の高伸化を同時に両立させるためには望ましい。これは発泡体形成段階において発泡体に形成された気泡に潤滑成分が均一に含浸されるとともに、潤滑成分が発泡・硬化した樹脂内に吸蔵されることにより潤滑成分の高充填化と材料物性の高伸化が両立するものと考えられる。
これに対してあらかじめ発泡体を製造しておき、これに潤滑成分を含浸させる後含浸法では潤滑成分保持力が十分でなく、短時間で潤滑剤が放出され長期的に使用すると潤滑成分が供給不足となる。
本発明において発泡固形潤滑剤の発泡後の連続気泡率が 50 %以上であり、好ましくは 50 %以上 90 %以下である。連続気泡率が 50 %未満の場合は、樹脂成分(固形成分)の潤滑油が一時的に独立気泡中に取り込まれている割合が多くなり、必要な時に外部へ供給されない場合がある。なお、 90 %をこえると潤滑剤の保油性の低下および潤滑剤の放出量が多くなることで長期使用に不利となったり、発泡固形潤滑剤自体の強度(耐久性)が低下したりするおそれがでる。
本発明において発泡固形潤滑剤の連続気泡率は以下の手順で算出できる。
(1)発泡硬化した発泡固形潤滑剤を適当な大きさにカットし、試料Aを得る。試料Aの重量を測定する。
(2)Aを 3 時間ソックスレー洗浄(溶剤:石油ベンジン)する。その後 80℃で 2 時間恒温槽に放置し、有機溶剤を完全に乾燥させ、試料Bを得る。試料Bの重量を測定する。
(3)連続気泡率を以下の手順で算出する。
連続気泡率=(1−(試料Bの樹脂成分重量−試料Aの樹脂成分重量)/試料Aの潤滑成分重量)×100
なお、試料A、Bの樹脂成分重量、潤滑成分重量は、試料A、Bの重量に組成の仕込み割合を乗じて算出する。
連続していない独立気泡中に取り込まれた潤滑成分は 3 時間ソックスレー洗浄では外部へ放出されないため試料Bの重量を減少させることがないので、上記の操作で試料Bの重量減少分は連続気泡からの潤滑成分の放出によるものとして連続気泡率が算出できる。
本発明において発泡固形潤滑剤には必要に応じて顔料や帯電防止剤、難燃剤、防黴剤やフィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。
さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
発泡固形潤滑剤の発泡倍率は 1.1 倍以上 100 倍未満がよい。発泡倍率 1.1 倍以下の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できない。また、100 倍以上の時には外部応力に耐える強度を得ることが困難となる。発泡倍率としては 1.1 倍〜10 倍が望ましい。
発泡固形潤滑剤は、潤滑対象部材内に潤滑成分および樹脂を含む混合物を流し込んだ後、発泡・硬化させてもよく、また常圧で発泡・硬化した後に裁断や研削等で目的の形状に後加工し、潤滑対象部材内に組み込むこともできる。
形状が複雑な潤滑対象部材内の任意の部位にも容易に充填することが可能であり、発泡成形体を得るための成形金型や研削工程等も不要であることから、本発明では、混合物を発泡・硬化前に潤滑対象部材内に流し込み、該部材内において発泡・硬化させる方法を採用することが好ましい。該方法を採用することで、製造工程が簡易となり低コスト化が図れる。
なお、潤滑対象部材としては、上記等速自在継手および軸受の他、ボールねじ、リニアガイド、球面ブッシュ等が挙げられる。
本発明において発泡固形潤滑剤と共存させることができる補助潤滑用グリースの増ちょう剤、基油としては、発泡固形潤滑剤中の潤滑成分の一例として挙げたものを用いることができる。同様に各種添加剤を含むこともできる。
本発明において補助潤滑用グリースにワックスを添加することにより、比較的低温時(常温)ではその流動性を抑え潤滑必要部位に留まることができるが、金属接触等により軸受や自在継手等の機械要素の摺動部で温度が上昇するとワックスが溶けるために補助潤滑用グリースの流動性が向上し、潤滑剤の必要な場所へすばやく供給される。
補助潤滑用グリースに用いるワックスは、融点が 70〜150℃の範囲のものである。融点が 70℃未満であると軟化する(流動性が上がる)温度が低いため、必要以上に流動してしまい潤滑剤が必要な場所から移動してしまう恐れがあり、期待した役目を成さない。150℃をこえると、融点が高すぎて必要なときにワックスが溶融しない場合があり、目的の流動性の低下が得られず摺動部に潤滑成分の供給が遅れる場合がある。また、ワックスの融点が高いと、ワックスを溶融・分散させる際に補助潤滑用グリースを高温に上昇させる必要があり、補助潤滑用グリース自体の劣化を引き起こす要因となる。
補助潤滑用グリースに用いるワックスは、脂肪酸アミド、水素硬化油の中の 1 種類以上から選ばれることが望ましい。脂肪酸アミドは、飽和脂肪酸アミドであっても不飽和脂肪酸アミドであってもよい。好ましい脂肪酸アミドとしては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドが挙げられる。水素硬化油としては、硬化ひまし油が挙げられる。
補助潤滑用グリースに用いるワックスの添加量は、補助潤滑用グリース全体に対して 1 重量%以上 15 重量%未満、さらに好ましくは 2〜10 重量%である。1 重量%未満の場合は常温での流動性の低下が得られず、15 重量%以上の場合には補助潤滑グリースが硬くなりすぎて潤滑必要箇所に行きにくくなり好ましくない。
これらのワックスを補助潤滑用グリースへ添加するときは、選択したワックスの融点以上に補助潤滑用グリースを加熱の上、均一に混合して用いることが好ましい。
本発明において発泡固形潤滑剤と共存させることができる補助潤滑用グリースの量は潤滑対象の空間容積の 1〜60 体積%が望ましい。さらに好ましくは、3〜40 体積%である。1 体積%より少ないとグリース量としては不十分であるし、60 体積%よりも多いと長期にわたって潤滑に寄与する発泡固形潤滑剤の封入量が少なくなってしまうため、耐久性に問題が生じる。
本発明において補助潤滑用グリースを潤滑対象部位に封入する方法は問わない。潤滑対象部位に発泡固形潤滑剤を充填させる前に潤滑対象部位内やその部品に補助潤滑用グリースを塗布しておいてもよいし、潤滑対象部位に発泡固形潤滑剤を充填した後に注射器(もしくはそれに類似するもの)で目的の場所へ注入してもよい。
また、潤滑システムにおいて補助潤滑用グリースを封入あるいは塗布する場所は特に問わないが、潤滑対象部位の摺動部近傍に封入あるいは塗布することが好ましい。等速自在継手に用いる場合では、上述したように外方部材底部も好ましい。封入あるいは塗布された補助潤滑用グリースは潤滑対象部位の遠心力や屈曲運動により、潤滑対象部位の摺動部に徐々に移動し、潤滑に寄与することができる。
<補助潤滑用グリースの作製>
実施例1〜実施例8、比較例1および比較例2に用いる補助潤滑用グリースA〜補助潤滑用グリースHを以下の方法で作製した。
補助潤滑用グリースA
鉱油(新日本石油社製:タービン100) 83 g 中で、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアナート 9.16 g、p-トルイジン 7.84 g を反応させ、生成したジウレア系化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、ステアリン酸アミド(花王社製:脂肪酸アマイドT 融点 97〜102℃ )を 10 重量%添加し、110℃に昇温した後よく撹拌して、補助潤滑用グリースAを得た。
補助潤滑用グリースB
鉱油(新日本石油社製:タービン100) 83 g 中で、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアナート 9.16 g、p-トルイジン 7.84 g を反応させ、生成したジウレア系化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、ステアリン酸アミド(花王社製:脂肪酸アマイドT 融点 97〜102℃ )を 3 重量%添加し、110℃に昇温した後よく撹拌して、補助潤滑用グリースBを得た。
補助潤滑用グリースC
鉱油(新日本石油社製:タービン100) 83 g 中で、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアナート 9.16 g、p-トルイジン 7.84 g を反応させ、生成したジウレア系化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、エチレンビスステアリン酸アミド(花王社製:脂肪酸アマイドEB−G 融点 141.5〜146.5℃ )を 5 重量%添加し、150℃に昇温した後よく撹拌して、補助潤滑用グリースCを得た。
補助潤滑用グリースD
鉱油(新日本石油社製:タービン100) 92 g 中で、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアナート 3.94 g、オクチルアミン 4.07 g を反応させ、生成したジウレア系化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、エルカ酸アミド(花王社製:脂肪酸アマイドE 融点 79〜85℃ )を 5 重量%添加し、100℃に昇温した後よく撹拌して、補助潤滑用グリースDを得た。
補助潤滑用グリースE
鉱油(新日本石油社製:タービン100) 92 g 中で、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアナート 3.94 g、オクチルアミン 4.07 g を反応させ、生成したジウレア系化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、オレイン酸アミド(花王社製:脂肪酸アマイドO−N 融点 70〜75℃ )を 5 重量%添加し、100℃に昇温した後よく撹拌して、補助潤滑用グリースEを得た。
補助潤滑用グリースF
鉱油(新日本石油社製:タービン100) 92 g 中で、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアナート 3.94 g、オクチルアミン 4.07 g を反応させ、生成したジウレア系化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、硬化ひまし油(花王社製:カオーワックス85−P 融点 85〜87℃ )を 5 重量%添加し、100℃に昇温した後よく撹拌して、補助潤滑用グリースFを得た。
補助潤滑用グリースG
鉱油(新日本石油社製:タービン100) 83 g 中で、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアナート 9.16 g、p-トルイジン 7.84 g を反応させ、生成したジウレア系化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、パラフィンワックス(日本精蝋社製:HNP−5 融点 62℃ )を 5 重量%添加し、80℃に昇温した後よく撹拌して、補助潤滑用グリースGを得た。
補助潤滑用グリースH
鉱油(新日本石油社製:タービン100) 83 g 中で、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアナート 9.16 g、p-トルイジン 7.84 g を反応させ、生成したジウレア系化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、ステアリン酸アミド(花王社製:脂肪酸アマイドT 融点 97〜102℃ )を 15 重量%添加し、110℃に昇温した後よく撹拌して、補助潤滑用グリースHを得た。
実施例1〜実施例6および比較例1
最初に、図1に示す、外方部材2、内方部材1、ケージ6およびトルク伝達部材である鋼球5を組み付けた固定式8個ボールジョイントサブアッシー(NTN社製:EBJ82 外径サイズ 72.6 mm )の外方部材底部に、表1に示す補助潤滑用グリースを 5 g 封入した。次に表1に示す組成のうち(a)、(d)、(e)、(i)を 80℃でよく混合し、次に 120℃で溶解した(b)、(h)を加えて素早く混合した。最後に(c)を投入し撹拌した後、補助潤滑用グリースを封入した前述のジョイントサブアッシーに 18.0 g 封入した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃に設定した恒温槽で 30 分間放置し硬化させ、ブーツ、シャフトなど他の部区を組み付け発泡固形潤滑剤と、補助潤滑用グリースとが内部に共存する等速自在継手の試験片を得た。得られた試験片を以下に示す耐久性試験に供し、寿命時間を測定した。また前述の連続気泡率の算出法に基づき発泡固形潤滑剤の連続気泡率を測定した。結果を表1に併記する。
<等速自在継手を用いた耐久性試験>
目的の耐久性の向上が得られているか評価するために、等速自在継手試験片を以下の条件で実機評価を行なった。試験中に外方部材表面温度が 100℃をこえたものは、異常温度上昇として試験打ち切りとした。また、試験後に試験片内部を点検し、摩耗やピーリング等の内部損傷が見られなかったものを可と判定して「○」を、損傷が確認されたものを不可と判定して「×」を記録する。
・トルク 451 N・m
・角度 6 deg
・回転数 580 rpm
・試験時間 300 時間
実施例7、実施例8および比較例2
最初に、図1に示す、外方部材2、内方部材1、ケージ6およびトルク伝達部材である鋼球5を組み付けた固定式8個ボールジョイントサブアッシー(NTN社製:EBJ82 外径サイズ 72.6 mm )の外方部材底部に、表1に示す補助潤滑用グリースを 5 g 封入した。表1に示す成分量(組成)で、ポリエーテルポリオールにシリコーン系整泡剤、鉱油、アミン系触媒、発泡剤としての水を加え、90℃で加熱しよく撹拌した。これにイソシアネートを加えてよく撹拌した後、補助潤滑用グリースを封入した前述のジョイントサブアッシーに 16.0 g 封入した。数秒後に発泡反応が始まり、90℃に設定した恒温槽で 15 分間放置し硬化させ、ブーツ、シャフトなど他の部区を組み付け発泡固形潤滑剤と、補助潤滑用グリースとが内部に共存する等速自在継手の試験片を得た。実施例1同様の項目を測定した。結果を表1に併記する。
Figure 0005600380
実施例1〜実施例8は試験終了後も継続運転可能で、良好な結果であった。比較例1および比較例2はワックス入りの補助潤滑用グリースを封入したが、結果は不可であった。比較例1は、ブーツ側への潤滑成分の流出は多くなり、自在継手内が潤滑剤不足になり、損傷にいたったものと考えられる(補助潤滑用グリースに添加したワックス が低融点だったため、その効果が現れなかったと推測する)。比較例2は、発泡固形潤滑剤の連続気泡率が 50%以下であったため、必要箇所(ボール-トラック部やケージ球面部等の摺動部)へ潤滑剤が充分に供給されなかったものと推測する。
実施例9および実施例10
表2に示す組成のうち(a)、(d)、(e)を 80℃でよく混合し、次に 120℃で溶解したアミン系硬化剤(b)を加えて素早く混合した。最後に水(c)、アミン系触媒(h)を投入し撹拌して得た混合物を、テーパ軸受(NTN社製:30204 外径サイズ 47 mm )の内部空間に充填した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30 分間放置し硬化させた後、転動体近傍に上記補助潤滑用グリース 0.3 g を注射器にて注入して(図2参照)、発泡固形潤滑剤封入軸受の試験片を得た。得られた試験片を以下に示す初期特性試験および寿命試験に供し、初期特性の発現状況および寿命時間を測定した。また前述の連続気泡率の算出法に基づき発泡固形潤滑剤の連続気泡率を測定した。これらの結果を表2に併記する。
<軸受を用いた初期特性試験>
目的の補助潤滑の1つとして初期特性が得られているか評価するために、得られた軸受試験片について、Fa=Fr=67 N の荷重を負荷し、80℃で 5000 rpm で 10 時間回転させた。試験後分解し、ローラ大端部にすべり痕が見られなかったものを可として「○」を、すべり痕が観察されたものを不可として「×」を記録する。
<軸受を用いた寿命試験>
初期特性試験が可であったものについて、引き続き寿命試験を行なった。得られた試験片にラジアル荷重 67 N 、スラスト荷重 67 N を負荷し、80℃で 5000 rpm で回転させ、回転軸を駆動している電動機の入力電流が制限電流を超過した時(回転トルクが始動トルクの 2 倍をこえた時)までの寿命時間を測定した。
実施例11および実施例12
表2に示す組成でポリエーテルポリオール(g)にシリコーン系整泡剤(d)、潤滑油(i)、アミン系触媒(h)、発泡剤としての水(c)を加え、90℃で加熱しよく撹拌した。これにイソシアネートを加えてよく撹拌して得た混合物を、テーパ軸受(NTN社製:30204 外径サイズ 47 mm )の内部空間に充填した。数秒後に発泡反応が始まり、90℃で 15 分間放置し硬化させた後、転動体近傍に上記補助潤滑用グリース 0.3 g を注射器にて注入して(図2参照)、発泡固形潤滑剤封入軸受の試験片を得た。実施例9同様の項目を測定した。結果を表2に併記する。
比較例3
表2に示す組成で実施例9および実施例10と同様の手順で軸受試験片を作成したが、補助潤滑用グリースは封入しなかった。実施例9同様の項目を測定した。結果を表2に併記する。
比較例4
表2に示す組成で実施例11および実施例12と同様の手順で軸受試験片を作成したが、補助潤滑用グリースは封入しなかった。実施例9同様の項目を測定した。結果を表2に併記する。
Figure 0005600380
本発明の潤滑システムは、潤滑成分を保持する発泡固形潤滑剤の潤滑成分保持力を向上させるとともに、発泡固形潤滑剤の変形による潤滑剤の滲み出し量を必要最小限に留めることができ、かつ発泡固形潤滑剤からの潤滑成分が不足する場合でも潤滑機能を補うことができ、長寿命で低コスト化の要望に応じ得る。このため、各種産業機械用および自動車用等に用いられる各種転がり軸受、自在継手等における潤滑システムとして好適に利用できる。
本発明の潤滑システムを用いた等速自在継手を示す断面図である。 本発明の潤滑システムを用いた深溝玉軸受を示す断面図である。
符号の説明
1 内方部材
2 外方部材
3 内方部材側トラック溝
4 外方部材側トラック溝
5 鋼球
6 ケージ
7 シャフト
8 ブーツ
9 発泡固形潤滑剤
10 補助潤滑用グリース
11 深溝玉軸受
12 内輪
13 外輪
14 転動体
15 保持器
16 シール部材
17 発泡固形潤滑剤
18 補助潤滑用グリース

Claims (10)

  1. 発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤と、補助潤滑用グリースとが潤滑対象部位に共存する潤滑システムであって、
    前記発泡固形潤滑剤の連続気泡率が 50%以上であり、
    前記補助潤滑用グリースは、融点が 70〜150℃であるワックスを少なくとも含有し、該ワックスが脂肪酸アミドおよび水素硬化油から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする潤滑システム。
  2. 前記発泡固形潤滑剤は、前記発泡・硬化して多孔質化する樹脂がゴム状弾性を有し、該樹脂内に含まれる潤滑成分がゴム状弾性体の変形により滲出性を有することを特徴とする請求項1記載の潤滑システム。
  3. 前記発泡・硬化して多孔質化する樹脂の発泡倍率が、1.1〜100 倍であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の潤滑システム。
  4. 前記発泡固形潤滑剤は、潤滑成分と、前記樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなり、
    前記潤滑成分は潤滑油およびグリースから選ばれた少なくとも1つであり、
    前記樹脂が分子内にイソシアネート基を 2 重量%以上 6 重量%未満含有するウレタンプレポリマーであり、
    前記発泡剤が水であり、
    前記混合物は、混合物全体に対して、前記潤滑成分を 30〜70 重量%含、発泡後の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項記載の潤滑システム。
  5. 前記ウレタンプレポリマーは、エステル系ウレタンプレポリマー、カプロラクトン系ウレタンプレポリマー、およびエーテル系ウレタンプレポリマーから選ばれた少なくとも1つのウレタンプレポリマーであることを特徴とする請求項4記載の潤滑システム。
  6. 前記イソシアネート基と、該イソシアネート基と反応する前記硬化剤の官能基との割合が当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の潤滑システム。
  7. 前記水の水酸基と、前記硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲であることを特徴とする請求項4、請求項5または請求項6記載の潤滑システム。
  8. 前記硬化剤が芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか一項記載の潤滑システム。
  9. 前記芳香族ポリアミノ化合物がアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする請求項8記載の潤滑システム。
  10. 前記混合物は、摺動部材の周囲、または成形用型内に充填された後に、発泡・硬化されてなることを特徴とする請求項4ないし請求項9のいずれか一項記載の潤滑システム。
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