JP5600286B2 - 全輪駆動車の駆動力配分制御装置 - Google Patents

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本発明は、複数の走行モードから所望のモードを選択可能な全輪駆動車の駆動力配分制御装置に関する。
従来より、車両に搭載されるパワートレインにおいては、燃費向上を重視した走行やスポーツ性を重視した走行等を実現する複数の走行モードを備え、これらの複数の走行モードの中からドライバが所望するモードを選択可能とする技術が開発されている。
例えば、特許文献1には、ドライバのアクセル開度に対して出力トルクが略リニアに変化するモードと、出力トルクをセーブしてイージードライブ性と低燃費性との双方を両立させるモードと、エンジンの低回転域から高回転域までレスポンスに優れる出力特性を実現したパワー重視のモードとを備え、センターコンソールに設けられているスイッチを操作することでドライバの好みに応じた運転モードを選択可能とした技術が開示されている。
特許第3872507号公報
ところで、上述の複数の走行モードから所望のモードを選択可能な車両が前後輪にトランスファクラッチを介して駆動力を配分する全輪駆動車である場合、燃費訴求モードを選択しても、トランスファクラッチの締結力を制御するための油圧や電力等を必要とするため、燃費向上効果が不十分となる可能性がある。このため、ドライバが他のモードとの差を実感できない場合があり、車両の商品性をより向上させる上での支障となっている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、燃費訴求モードの効果をより向上させると共に、各モードの差を明確にして車両商品性を向上させることのできる全輪駆動車の駆動力配分制御装置を提供することを目的としている。
本発明による全輪駆動車の駆動力配分制御装置は、前輪と後輪とにトランスファクラッチを介して駆動力を配分すると共に、複数の走行モードから所望のモードを選択可能な全輪駆動車の駆動力配分制御装置であって、選択されている現在の走行モードが燃費訴求モードであるか否かを判定するモード判定部と、上記燃費訴求モードが選択されていないと判定した場合、上記トランスファクラッチを締結状態に制御して車両の運動状態に応じた配分で前輪と後輪とに駆動力を伝達する一方、上記燃費訴求モードが選択されていると判定した場合、車輪のスリップが検知されていないときに上記トランスファクラッチを開放状態として前輪にのみ駆動力を伝達し、車輪のスリップが検知されているときには上記トランスファクラッチを締結状態に制御してスリップを早期に解消させる駆動力を前輪と後輪とに伝達する駆動方式切換部とを備えるものである。
本発明によれば、燃費訴求モードの効果をより向上させることができると共に、各モードの差を明確にして車両商品性を向上させることができる。
車両のパワートレイン系の構成図 走行モード毎の駆動力特性を示すマップの概念図 駆動方式切換ルーチンのフローチャート
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
先ず、車両のパワートレイン系について説明する。図1において、符号1は車両前部に配置されるエンジンを示し、本実施の形態においては、エンジン1の駆動力が前輪を主駆動輪として前輪と後輪とに可変配分されるフロントエンジン・フロントドライブ車ベース(FFベース)の全輪駆動(AWD;all-wheel drive)車に適用される。
具体的には、エンジン1の駆動力は、エンジン1後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含む)2からトランスミッション出力軸2aを経てトランスファ3に伝達される。更に、トランスファ3に伝達された駆動力は、リヤドライブ軸4、プロペラシャフト5、ドライブピニオン軸部6を介して後輪終減速装置7に入力される一方、リダクションドライブギヤ8、リダクションドリブンギヤ9、ドライブピニオン軸部となっているフロントドライブ軸10を介して前輪終減速装置11に入力される。
尚、自動変速装置2、トランスファ3および前輪終減速装置11等は、一体にケース12内に設けられている。
後輪終減速装置7に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸13RLを経て左後輪14RLに伝達され、後輪右ドライブ軸13RRを経て右後輪14RRに伝達される。また、前輪終減速装置11に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸13FLを経て左前輪14FLに伝達され、前輪右ドライブ軸13FRを経て右前輪14FRに伝達される。
トランスファ3は、リダクションドライブギヤ8側に設けたドライブプレート20aとリヤドライブ軸4側に設けたドリブンプレート20bとを交互に重ねて構成したトルク伝達容量可変型クラッチとしての湿式多板クラッチ(トランスファクラッチ)20と、このトランスファクラッチ20の締結力を可変自在に付与するトランスファピストン21とにより構成されている。従って、トランスファピストン21による押圧力を制御することで、トランスファクラッチ20の締結力を可変することができ、前輪と後輪とのトルク配分比を、例えば100:0から50:50の間で可変することができる。
次に、車両のパワートレインを制御する電子制御系について説明する。パワートレインの電子制御系は、CAN(Controller Area Network)等の車内LAN100に接続される複数の制御ユニットによって構成され、これらの制御ユニットを介した協調制御によりエンジン1及び自動変速装置2が制御される。複数の制御ユニットは、それぞれマイクロコンピュータを中心として構成され、エンジン1を制御するエンジン制御ユニット(ECU)50、自動変速装置2を制御するトランスミッション制御ユニット(TCU)60、車両挙動を制御するビークルダイナミクス制御(VDC;Vehicle Dynamics Control)ユニット70、複数の走行モードから所望のモードを選択するドライバの操作入力に対する処理及びマルチファンクションディスプレイ等のメータ類への表示制御を行うメータ制御ユニット80によって代表される。
ここで、本実施の形態における全輪駆動車は、ドライバが選択可能な走行モードとして、アクセル操作に対するパワートレインの駆動力特性が異なる複数のモードを備えている。複数の走行モードとしては、アクセル開度に対して出力トルクが略リニアに変化するノーマルモードと、エンジントルクをセーブしてイージードライブ性と低燃費性との双方を両立させるセーブモード(燃費訴求モード)と、エンジンの低回転域から高回転域までレスポンスに優れる出力特性を実現するパワー重視のスポーツモードとが備えられており、これらのモードの中からドライバが好みに応じて所望するモードを選択すると、選択された走行モードに応じた駆動力特性への制御と、選択された走行モードに応じて駆動方式を切換える制御とが同時に実施される。
走行モードに応じた駆動力特性への制御は、センターコンソール等に設けられている走行モード切換スイッチ81をドライバが操作すると、この操作入力がモード判定部としての機能を有するメータ制御ユニット80で判定され、ECU50によるエンジン1の制御及びTCU60による自動変速装置2の制御として実行される。尚、このとき、メータ制御ユニット80は、選択された走行モードの特性情報や燃費情報等に関する表示制御を行う。
ECU50は、各走行モード毎のエンジン出力特性を示すマップとして、図2(a)〜(c)に示すように、アクセル開度θaccとエンジン回転数Neとを格子軸とし、各格子点にエンジン出力指示値(目標トルク)を格納したマップMpe1,Mpe2,Mpe3を保有しており、これらの3種類のマップを走行モードに応じて選択する。そして、ECU50は、選択したモードマップと各センサ類からの検出信号等に基いて、エンジンの燃料噴射タイミング及び燃料噴射パルス幅を設定すると共に、電子制御スロットル装置(図示せず)を介してエンジンのスロットル開度を制御する。
図2(a)に示すマップMpe1は、ノーマルモードの場合に選択されるマップであり、アクセル開度θaccが比較的小さい領域で目標トルクがリニアに変化し、スロットル開度が全開付近で最大目標トルクとなるように設定されている。また、図2(b)に示すマップMpe2は、セーブモードの場合に選択されるマップであり、ノーマルモードのマップMpe1に比し、目標トルクの上昇が抑えられ、アクセルペダルを全踏してもスロットル全開とせず、相対的にアクセルペダルの踏み込みに対してスロットル開度変化がノーマルモードよりも小さくなる特性に設定されている。
従って、セーブモードでは、ノーマルモードと同じアクセルペダルの踏み込み量であってもスロットル開度が小さく、出力トルクの上昇が抑制される。その結果、セーブモードのマップMpe2に基づき出力トルクを抑制した走行を行うことで、アクセルペダルを思い切り踏み込む等のアクセルワークを楽しむことができる。さらに、目標トルクの上昇が抑えられているため、イージードライブ性と低燃費性との双方をバランス良く両立させることができ、例えば、3リッタエンジンを搭載する車両であっても、2リッタエンジン相当の十分な出力を確保しながらスムーズな出力特性とし、特に街中等の実用領域における扱いやすさを重視した目標トルクが設定される。
また、図2(c)に示すマップMpe3は、パワーモードの場合に選択されるマップであり、略全運転領域でアクセル開度の変化に対する目標トルクの変化率が大きく設定されている。従って、例えば、3リッタエンジンを搭載する車両であれば、3リッタエンジンの有するポテンシャルを最大限に発揮できるような目標トルクが設定される。
また、TCU60は、ノーマルモード、セーブモード、スポーツモードのマップMpe1〜Mpe3にそれぞれ適合した変速特性にて自動変速装置2の変速特性を制御するための3種類の変速用マップを保有している。TCU60は、走行モードに応じて変速用マップを選択し、選択した変速用マップと各センサ類からの検出信号等に基いて、自動変速装置2の油圧回路に供給する各油圧の制御を通じて、自動変速装置2のロックアップ制御やシフトアップポイントの変更等を行う。
一方、走行モードに応じて駆動方式を切換える制御は、走行モードに応じてAWDとFFとの駆動方式を切換える制御として実施される。具体的には、トランスファ3のトランスファピストン21に供給する油圧を、複数のソレノイドバルブ等を擁した油圧回路で構成されるトランスファ駆動部61を介してTCU60が制御し、トランスファクラッチ20の締結状態を切換えることで、AWDとFFとの駆動方式を切換える。
上述したノーマルモード、セーブモード、スポーツモードの各走行モードでは、エンジン回転数と駆動力との関係からは明確な特性差があるものの、スロットル開度によっては、ドライバが感じる特性差が小さくなる可能性がある。また、セーブモードでは、AWD制御におけるトランスファクラッチ20の締結力を調整するための油圧や電力消費によって十分な燃費訴求効果が得られない虞がある。
従って、メータ制御ユニット80によってドライバがノーマルモードやスポーツモードを選択していると判定された場合には、駆動方式切換部としての機能を有するTCU60により、前後輪を最適なトルク配分で駆動する通常のAWD制御が実施される。このAWD制御における前後輪のトルク配分は、VDCユニット70に入力される各センサからの信号、例えば、各車輪14FL,14FR,14RL,14RRの車輪速を検出する車輪速センサ15FL,15FR,15RL,15RR、操舵角を検出する舵角センサ71、車両の横加速度を検出する横加速度センサ72、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ73等からの信号に基いて最適に制御される。
また、セーブモードを選択していると判定された場合には、基本的に、トランスファクラッチ20を開放状態として前後輪のトルク配分を100:0とする前輪駆動(FF)としての制御に切換えられる。これにより、ドライバに対して各走行モードの差を明確に印象付けることができると共に、燃費訴求モードであるセーブモードにおいてAWD制御の油圧や電力を不要とすることができる。
この場合、通常、セーブモードでトランスファクラッチ20を開放とするが、VDCユニット70からの情報によって車輪がスリップしたことをTCU60が認識した場合には、トランスファクラッチ20を締結し、必要に応じて後輪へも駆動力を伝達するスタンバイAWD制御を行うことで、安全性がより向上する方向への制御とする。
すなわち、セーフモードが選択されて駆動方式をAWDからFFに切換えた場合、或いはAWD駆動の状態からセーフモードが選択された場合であっても、VDCユニット70が車輪のスリップを感知した場合には、VDCユニット70を介して自動的に適切なブレーキ制御を行うと共に、ECU50を介してエンジン出力を制御して車両の安定性を向上させ、更にTCU60を介して前後輪に駆動力を適切に伝達させ、スリップを早期に解消させる。
次に、TCU60における駆動方式切換処理に係るプログラム処理について、図3のフローチャートを用いて説明する。
図3は、TCU60で実行される駆動方式切換制御ルーチンを示し、先ず、最初のステップS1において、現在、選択されている走行モードがセーブモード(燃費訴求モード)であるか否かを調べる。その結果、セーブモードが選択されていない場合には、ステップS1からステップS2へ進み、トランスファ駆動部61を介してトランスファ3のトランスファピストン21に供給する油圧を調整してトランスファクラッチ20の締結力を制御し、前後輪の駆動力配分を車両の運動状態に応じて最適に制御する通常のAWD制御を行う。
一方、ステップS1においてセーブモードが選択されている場合には、ステップS1からステップS3へ進み、車輪速センサ15FL,15FR,15RL,15RRの信号からVDCユニット70でスリップが検知されているか否かを調べる。そして、スリップが検出されていない場合には、ステップS4でトランスファピストン21の油圧を抜いてトランスファクラッチ20を開放状態とし、後輪へ伝達する駆動力を0%として前輪への駆動力を100%とする前輪駆動の制御を行う。また、ステップS3にてスリップが検出されている場合には、ステップS3からステップS5へ進み、スリップを早期に解消すべくトランスファクラッチ20を締結状態に制御し、スタンバイAWD制御を実行する。
このように本実施の形態においては、ドライバが選択した走行モードに応じて車両の駆動方式をAWDとFFとの間で切換える。これにより、ドライバが各走行モード毎の特性の差を明確に認知し易くなるばかりでなく、燃費訴求モードにおいてはAWD制御の油圧や電力を必要としなくなるため、より大きな燃費訴求効果を得ることができ、車両としての商品性を向上することができる。
1 エンジン
2 自動変速装置
3 トランスファ
20 トランスファクラッチ
60 トランスミッション制御ユニット
61 トランスファ駆動部
80 メータ制御ユニット

Claims (2)

  1. 前輪と後輪とにトランスファクラッチを介して駆動力を配分すると共に、複数の走行モードから所望のモードを選択可能な全輪駆動車の駆動力配分制御装置であって、
    選択されている現在の走行モードが燃費訴求モードであるか否かを判定するモード判定部と、
    上記燃費訴求モードが選択されていないと判定した場合、上記トランスファクラッチを締結状態に制御して車両の運動状態に応じた配分で前輪と後輪とに駆動力を伝達する一方、上記燃費訴求モードが選択されていると判定した場合、車輪のスリップが検知されていないときに上記トランスファクラッチを開放状態として前輪にのみ駆動力を伝達し、車輪のスリップが検知されているときには上記トランスファクラッチを締結状態に制御してスリップを早期に解消させる駆動力を前輪と後輪とに伝達する駆動方式切換部と
    を備えることを特徴とする全輪駆動車の駆動力配分制御装置。
  2. 上記複数の走行モードは、アクセル操作に対するパワートレインの駆動力特性が異なる複数のモードであることを特徴とする請求項記載の全輪駆動車の駆動力配分制御装置。
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