JP5594056B2 - 転造用平ダイス - Google Patents

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本発明は、歯車部品などの転造加工に用いる転造用平ダイスに関する。
近年、機械工具分野では自動車分野と同様に周囲の環境に配慮して転造加工時に用いるクーラント(冷却液)については、かつて主流であった油性クーラント方式から微量のクーラントによる加工を行うセミドライ方式へ変わりつつある。セミドライ方式による転造用平ダイスを用いた転造加工では、従来の油性クーラント方式による加工に比べてワーク(被加工物)と転造用平ダイスとの間の滑りが発生しにくいので、転造用平ダイスの食付き部における加工歯の表面粗さを小さくすることができる。
例えば、特許文献1では転造用平ダイスの食付き部を加工歯の表面粗さが20μmR以上35μmR以下である前半部分と表面粗さが5μmR以上20μmR以下である後半部分に分割することで加工歯のチッピングを防止してセミドライ方式による加工において長寿命化を図る転造用平ダイスが開示されている。
また、特許文献2では従来の油性クーラント方式による転造用平ダイスの食付き部を勾配の異なる前半部と後半部に分けるとともに、前半部の加工歯の表面粗さを20μmR以上35μmR以下とし、後半部の加工歯の表面粗さを2μmR以上10μmR以下とすることで長寿命化を図る転造用平ダイスが開示されている。
特開2002−192282号公報 特許第3778790号公報
しかし、特許文献1に開示された転造用平ダイスでは食付き部の加工歯の表面粗さが20μmR以上35μmR以下の部分(前半部分)と5μmR以上20μmR以下の部分(後半部分)とで分割しているので、転造加工時に前半部分から後半部分へワークが移動すると、ワークへの負荷(圧縮応力)が急激に変化する。その結果、圧縮応力が急激に変化することで、例えばブリネル硬さ250HB〜350HBのいわゆる高硬度材(ワーク)の累積ピッチ誤差が要求水準を満たさないという問題があった。
また、特許文献2に開示された転造用平ダイスでは、前述した圧縮応力の急激な変化に伴う高硬度材(ワーク)の累積ピッチ誤差が要求水準を満たさない問題に加えて、食付き部の前半部と後半部とで勾配を変えていることから、従来の転造用平ダイスに比べて製作工数やコストが増加するという問題があった。
そこで、本発明においては前述した問題点に鑑みて高硬度材の累積ピッチ誤差の要求水準を確保して、従来の製作工数やコストで製造可能である転造用平ダイスを提供することを課題とする。
前述した課題を解決するために、本発明においては、加工歯の表面粗さが各々異なる第1の食付き部、第2の食付き部と、第1の食付き部および第2の食付き部との間に設けた応力緩衝部とを備えて、応力緩衝部の加工歯の表面粗さが第1の食付き部側から第2の食付き部側へ向けて漸減している転造用平ダイスを提供することとした。これにより、転造加工時におけるワークへの負荷(圧縮応力)が緩やかに変化する。
本発明に係る転造用平ダイスの第1の食付き部、第2の食付き部および応力緩衝部について以下に説明する。第1の食付き部は、本発明に係る転造用平ダイスの第1番目の加工歯を含む先端部に位置しており、ワークに対して最初に転造加工を開始する部位である。第1の食付き部の長さは、本発明に係る食付き部全体の30%〜65%の割合を占める。また、第1の食付き部を構成する加工歯の表面粗さは、20μmR〜35μmRの範囲である。
応力緩衝部は、本発明に係る転造用平ダイスの食付き部において、第1の食付き部と後述する第2の食付き部との間に位置し、第1の食付き部にて転造加工したワークに発生する応力を第2の食付き部へ向かうにしたがって徐々に軽減する部位である。応力緩衝部の長さは、本発明に係る食付き部全体の5%〜20%の割合を占める。
また、応力緩衝部の加工歯の表面粗さは第1の食付き部側から第2の食付き部側へ向けて1μmR〜35μmRの範囲で漸減している。例えば、第1の食付き部の最後部の加工歯の表面粗さが25μmRであり、第2の食付き部の最前部の加工歯の表面粗さが2μmRである場合には、応力緩衝部の加工歯の表面粗さは第1の食付き部側から第2の食付き部側へ向けて25μmRから2μmRまでの範囲で漸減している。
さらに、応力緩衝部の加工歯の表面処理方法については、後述する第2の食付き部のみをマスキングした状態で、第1の食付き部および応力緩衝部の各加工歯に対して珪砂によるサンドブラスト処理を行う。その後、上述のマスキングを第1の食付き部のみに変更した状態で、第2の食付き部および応力緩衝部の各加工歯に対して鋼球によるショットピーニング処理を行う。これらの表面処理により応力緩衝部の加工歯の表面粗さは第1の食付き部側から第2の食付き部側に向けて漸減する。そのため、第1の食付き部で転造加工されたワークを第2の食付き部での転造加工へとスムーズにつなげていくことができて、転造加工時における高硬度材への負荷(圧縮応力)を緩やかに変化した状態で転造加工を行うことができる。
第2の食付き部は、本発明に係る転造用平ダイスの食付き部において、第1の食付き部および応力緩衝部よりも後部側に位置し、応力緩衝部にて転造加工による応力が軽減されたワークに対して、食付き部にて最終の転造加工を行う部位である。また、第2の食付き部を構成する加工歯の表面粗さは、1μmR〜4μmRの範囲である。
なお、本発明に係る転造用平ダイスの食付き部における勾配は、第1の食付き部、応力緩衝部、第2の食付き部を通して一定である。また、第2の食付き部の長さは、本発明に係る食付き部全体から第1の食付き部と応力緩衝部の占める割合を差し引いた残余の割合となる。
以上述べたように、本発明においては、加工歯の表面粗さが各々異なる第1の食付き部、第2の食付き部と、第1の食付き部および第2の食付き部との間に設けた応力緩衝部とを備えて、応力緩衝部の加工歯の表面粗さが第1の食付き部側から第2の食付き部側へ向けて漸減している転造用平ダイスにより、転造加工時におけるワークへの負荷(圧縮応力)が緩やかに変化するので、例えばブリネル硬さ250HB〜350HBである高硬度材(ワーク)であっても累積ピッチ誤差の要求水準を十分に確保できるという効果を奏する。
また、本発明に係る転造用平ダイスは食付き部の勾配を変えずに一定であることから、従来の製作工数やコストで製造可能であるという効果も奏する。
本発明に係る転造用平ダイス1の側面図である。 図1の転造用平ダイス1の食付き部2における拡大側面図である。
本発明に係る転造用平ダイスの実施の形態の一例を図面に基いて説明する。図1は、本発明に係る転造用平ダイス1の側面図であり、図2は図1に示す転造用平ダイス1の食付き部2における拡大側面図である。
図1に示すように、転造用平ダイス1は転造加工時の移動方向側(図面右側)より食付き部2、仕上げ部3および逃げ部4を備えている。食付き部2は、転造用平ダイス1を被加工物の外周面に食付かせる部位であり、そのための加工歯20が設けられている。食付き部2の加工歯20の表面にはサンドブラストなどで予めその表面の表面粗さを粗くしておくことで、加工歯20と被加工物との間に生じる滑りを防止する。
次に、食付き部2を構成する第1の食付き部21、応力緩衝部22および第2の食付き部23については図2を用いて説明する。図2に示すように、食付き部2は第1の食付き部21と、応力緩衝部22と、第2の食付き部23と、から構成されている。第1の食付き部21は食付き部2の中で被加工物の外周面に対して、最初に転造用平ダイス1が食付く部位である。第1の食付き部21の長さは、本発明に係る食付き部2全体の30%〜65%の割合を占める。また、第1の食付き部を構成する加工歯20の表面粗さは、20μmR〜35μmRの範囲である。
応力緩衝部22は、本発明に係る転造用平ダイス1の食付き部2において、第1の食付き部21と後述する第2の食付き部23との間に位置し、第1の食付き部21にて転造加工したワークに発生する圧縮応力を第2の食付き部23へ向かうに従って徐々に軽減する部位である。応力緩衝部の加工歯20は、第1の食付き部21側から第2の食付き部23側へ向けて徐々に歯丈が増加するのに対して、その表面粗さ(1μmR〜35μmR)は漸減している。
第2の食付き部23は、本発明に係る転造用平ダイス1の食付き部2において、第1の食付き部21および応力緩衝部22よりも後部側に位置し、応力緩衝部22にて転造加工による圧縮応力が軽減されたワークに対して、最終の転造加工を行う部位である。また、第2の食付き部23を構成する加工歯20の表面粗さは、1μmR〜4μmRの範囲である。
従来の転造用平ダイスと本発明に係る転造用平ダイスをそれぞれ用いて転造速度10m/minの条件で転造加工を行った被加工物(歯車)の加工精度結果について表1を用いて説明する。表1は、従来の転造用平ダイスと本発明に係る転造用平ダイスをそれぞれ用いて転造加工を行った被加工物の累積ピッチ誤差の測定結果を示す。本測定における累積ピッチ誤差については、被加工物(歯車)の各歯のピッチ誤差を足した合計として算出した。
本実施例で用いた従来の転造用平ダイスおよび本発明に係る転造用平ダイスの各部の寸法は、共通仕様として全長623mm、幅25mm、全歯数196山とした。また、本発明に係る転造用平ダイスは、食付き部、仕上げ部、逃げ部からなり、食付き部については加工歯の表面粗さが28μmRである第1の食付き部と、第1の食付き部と第2の食付き部との間に設けられて、加工歯の表面粗さが3μmR〜28μmRの範囲で第2の食付き部へ向けて漸減している応力緩衝部と、加工歯の表面粗さが3μmRの範囲である第2の食付き部から構成されている。また、第1の食付き部、応力緩衝部および第2の食付き部の歯数は、各々48山、24山、76山としたので、食付き部全体に占める長さの割合は各々33%、16%、51%である。
従来の転造用平ダイスは、食付き部、仕上げ部、逃げ部からなり、食付き部については加工歯の表面粗さが20μmRである前半食付き部と加工歯の表面粗さが4μmRである後半食付き部に分かれている。さらに、被加工物(歯車)の完成諸元は、モジュール1.0mm、圧力角30°、歯数24枚、外径24.8mm、材質S45C、歯底径22.6mm、ねじれ角0°、歯幅20mm、ブリネル硬さ260HBである。
Figure 0005594056
表1に示すように、本発明に係る転造用平ダイスを用いて転造加工を行った歯車の測定結果については、その累積ピッチ誤差は、右歯面が15.4μmであり、左歯面が23.1μmであった。
これに対して、従来の転造用平ダイスを用いて転造加工を行った歯車の測定結果については、その累積ピッチ誤差は、右歯面が37.9μmであり、左歯面が32.8μmであった。したがって、本発明に係る転造用平ダイスを用いて転造加工を行うと、従来の転造用平ダイスを用いた場合に比べて累積ピッチ誤差はおよそ9μm〜23μmの誤差分が改善されることがわかった。
以上より、転造用平ダイスの食付き部を、第1および第2の食付き部と、第1食付き部および第2の食付き部の間に設けた応力緩衝部とから構成し、応力緩衝部の加工歯の表面粗さを第1食付き部側から第2の食付き部側へ向けて漸減している転造用平ダイスを用いて転造加工することで、ワークに対する急激な圧縮応力の変化が緩和できるので、高硬度材の加工精度も向上できる転造用平ダイスとなった。また、本発明に係る転造用平ダイスは食付き部の勾配を変えずに一定であることから、従来の製作工数やコストで製造可能である。
1 転造用平ダイス
2 食付き部
3 仕上げ部
4 逃げ部
20 加工歯
21 第1の食付き部
22 応力緩衝部
23 第2の食付き部

Claims (1)

  1. 加工歯の表面粗さが各々異なる第1の食付き部、第2の食付き部と、前記第1の食付き部および前記第2の食付き部との間に設けられた応力緩衝部と、を備える転造用平ダイスであって、前記応力緩衝部の加工歯の表面粗さが前記第1の食付き部側から前記第2の食付き部側へ向けて漸減していることを特徴とする転造用平ダイス。
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