以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態による近距離通信システム1のシステム構成を示す図である。同図に示すように、近距離通信システム1は、近接型アンテナ11、ICチップ12、及び本体部15を有する携帯電話10a(無線通信装置)と、近接型アンテナ21及びCPU22を有するリーダ/ライタ20(外部通信装置)とから構成される。携帯電話10aに搭載される近接型アンテナ11及びICチップ12は、非接触型ICカードの構成要素である。
近距離通信システム1は、例えばMIFARE(登録商標)やFelica(登録商標)などであり、リーダ/ライタ20を使ってICチップ12内のメモリ(不図示)に記憶されるデータの読み書きを行うシステムである。
非接触型ICカードとしての携帯電話10aとリーダ/ライタ20の間の通信は、磁気結合による近距離通信によって実現される。具体的に説明すると、リーダ/ライタ20は近接型アンテナ21に常時電流を流しており、この電流によって近接型アンテナ21の周囲に磁界が発生している。近接型アンテナ11がこの磁界の中に入ると、磁気結合によって近接型アンテナ11に起電力が発生し、この起電力を電源としてICチップ12が起動される。読み出し時には、ICチップ12は、内部のメモリ(不図示)に記憶しているデータに応じた電流を生成し、近接型アンテナ11に流す。これにより磁界が変化し、近接型アンテナ21に流れる電流も変化する。CPU22は、この電流の変化から、ICチップ12内に記憶されているデータを読み取る。書き込み時には、CPU22は、書き込みデータに基づいて近接型アンテナ21に流す電流を変化させる。これにより磁界が変化し、近接型アンテナ11に流れる電流も変化する。ICチップ12は、この電流の変化から書き込みデータを検出し、内部のメモリに書き込む。
携帯電話10aは、移動通信システムを構成する移動局装置としても機能する。移動局装置としての機能は、主として本体部15によって実現される。本体部15は、図示しない基地局との間で通信を行う機能や、音声入出力機能、画像入出力機能などを有する。
図1に示すように、近接型アンテナ11は、アンテナ部13と導電板14aとを含んで構成される。
図2は、アンテナ部13の平面図である。同図に示すように、アンテナ部13は、基板30と、基板30の表面に形成されたアンテナパターン31とから構成される。図2には、アンテナパターン31として3ターンの矩形平面スパイラルコイルを用いる例を図示しているが、アンテナパターン31の構成はこれに限られるものではない。アンテナパターン31の両端部31a,31bは、図1に示したICチップ12と接続される(不図示)。
アンテナパターン31に関し、本発明では外形面積SOUTER、内径面積SINNERという用語を用いる場合がある。外形面積SOUTERは、アンテナパターン31の外周によって囲まれた領域の面積、内形面積SINNERは、アンテナパターン31の内周によって囲まれた領域の面積をそれぞれ意味する。例えば図2の例では、外周の横方向長さと縦方向長さがそれぞれLOX及びLOYであり、したがって外形面積SOUTER=LOX×LOYとなる。また、内周の横方向長さと縦方向長さがそれぞれLIX及びLIYであり、したがって内形面積SINNER=LIX×LIYとなる。
図1に戻る。導電板14aは、携帯電話10aの筐体14の一部によって構成される導電性の板であり、アンテナ部13と並行に設置される。導電板14aとアンテナ部13とは互いに絶縁されている。リーダ/ライタ20は、導電板14aに対向して配置される。
なお、図1では、アンテナ部13が筐体14の内部にあり、したがって導電板14aがアンテナ部13と近接型アンテナ21の間に配置されるように描いているが、アンテナ部13を筐体14の外部に配置し、アンテナ部13が導電板14aと近接型アンテナ21の間にあるように構成しても構わない。また、ここでは導電板14aが筐体14の一部であるとしているが、携帯電話10aのマザーボード(後述)に形成されるグランド層(不図示)を導電板14aとして使用してもよいし、携帯電話10aの携帯電話としての構成要素を利用するのではなく、非接触型ICカードとしての機能専用に導電板を設け、導電板14aとして用いることとしてもよい。
図3(a)は、携帯電話10aの斜視図である。また、図3(b)は、図3(a)のA−A'線断面図である。なお、図3(a)は断面図ではないが、分かりやすくするために導電板14aに図3(b)の断面図と同様のハッチングを施している。これは、後掲の各図でも同様である。
図3(a)(b)に示すように、携帯電話10aの筐体14は略直方体であり、その6表面のうちの1つにはLCD50及びキーパッド51が設けられている。携帯電話10aの内部には、アンテナ部13及びICチップ12(図3では図示していない。)の他、多層基板52や電池53が設けられる。多層基板52は携帯電話10aのマザーボードを構成しており、その表面及び内部には、通信用回路及びグランド層を含む各種の電子回路が形成される。アンテナ部13及びICチップ12以外の各部は、図1に示した本体部15に相当する。
筐体14は導電性の金属によって構成されており、導電板14aは筐体14の背面(6表面のうちLCD50及びキーパッド51が設けられる面の反対面)を利用して形成される。導電板14aは、開口部OPと、該開口部OPから導電板14aの端部に至るスリットSLとを有している。
以下では、スリットSLの長さ,幅をそれぞれLSL,WSLと表し、開口部OPの面積をSOPと表す。また、スリットSLの延伸方向の導電板14aの長さをLCP、スリットSLの延伸方向と直交する方向の導電板14aの長さをLCOと表す。なお、スリットSLの長さLSLは、図3(a)に示すように、開口部OPの中央点から導電板14aの端部までの長さとして定義する。また、スリットSLの幅WSLは、両側の導電板14aが導通したり、両側の導電板14aによってキャパシタが形成されることのない範囲で、できるだけ狭く設定される。
なお、スリットSL及び開口部OPの内部は、図3(a)(b)に示したように何もない空間としてもよいし、絶縁樹脂などの非導電性物質で埋めてもよい。非導電性物質で埋めれば、その分筐体14の強度を確保できる。
開口部OP及びスリットSLは、図3(a)に示すように、導電板14aの中央点Pを避け、導電板14aの端部に配置される。中央点Pは、長方形である導電板14aの対角線の交点である。このような配置を採用するのは、カップリング特性の指向性を広くするためである。この点については、後にシミュレーション結果を参照しながら詳述する。なお、中央点Pは、ここでは導電板14aの対角線の交点となるが、導電板14aが多角形や曲線で構成された任意の形状や立体状になっている場合には、開口部OPを有する面の法線方向に投影した形状を均質物で構成したと仮定した時の重心となる。
図3(a)(b)にはアンテナ部13の設置位置も示している。図示するように、アンテナ部13は、開口部OPの少なくとも一部とアンテナパターン31とが平面的に見て重なる位置に配置される。
以上の構成により、導電体である導電板14aがあっても、非接触型ICカードとしての携帯電話10aとリーダ/ライタ20との間のカップリング特性は低下せず、むしろ導電板14aがない場合に比べてカップリング特性が向上する。以下、具体的に説明する。
図4(a)は、近接型アンテナ21を構成するスパイラルコイルと、導電板14aとを示す図である。同図に示す矢印付きの線は、導電板14aに流れる渦電流を示している。この線によって示されるように、近接型アンテナ21に近づくと、導電板14aに渦電流V1,V2が流れる。渦電流V1は導電板14aの縁部に沿って流れる電流であり、渦電流V2は開口部OPの周囲を流れる電流である。なお、V1,V2は電流値ではなく、電流を識別するための識別符号である。
ここで、比較例として、開口部OP及びスリットSLを有しない導電板14aを用いた場合の例を図4(b)に示す。この比較例と図4(a)とを比較すると理解されるように、渦電流V2は、開口部OP及びスリットSLが存在することによって初めて導電板14aに流れる電流である。つまり、スリットSLがあるため、渦電流V1は導電板14aの縁部を一周することができず、スリットSLを迂回することになる。そして、迂回先(スリットSLの内側端)には開口部OPが設けられているため、渦電流V1とは逆回りの渦電流V2が発生する。
導電板14aに流れる渦電流は近接型アンテナ21から生ずる磁界によって生成されるものであるため、渦電流V1は、この磁界を弱める磁界を発生する方向に流れる。これに対し、渦電流V2は、渦電流V1とは逆方向に流れることから、近接型アンテナ21から生ずる磁界を強める方向の磁界を発生する電流となる。したがって、渦電流V2が流れることでむしろ磁界が強められ、導電板14aに開口部OPとスリットSLを設けない場合は勿論、導電板14aがない場合に比べてもカップリング特性が向上することになる。
図5(a)(b)は、近接型アンテナ21及び導電板14a付近の磁界をシミュレーションした結果を示す図である。図5(a)は図4(a)のB−B'線断面の磁界を示しており、図5(a)は図4(b)のC−C'断面の磁界を示している。
図5(a)(b)では、色が薄い部分ほど磁界が強いことを示している。両図から理解されるように、開口部OPの周囲には、開口部OPを設けない場合には存在しない強力な磁界が発生している。これは前述した渦電流V2によって生ずるもので、開口部OPとスリットSLを設けた導電板14aを用いるとカップリング特性が向上するのは、この磁界が発生するためである。
以上説明したように、導電板14aに開口部OP及びスリットSLを設けることで、非接触型ICカードとしての携帯電話10aとリーダ/ライタ20との間のカップリング特性が向上するが、その向上度合いは、アンテナパターン31、導電板14a、開口部OP、及びスリットSLの各サイズ、並びに導電板14aの材料などによって影響される。そこで以下では、これらの最適値について、シミュレーション結果を参照しながら説明する。
図6(a)〜(e)は、第1のシミュレーションに用いた導電板14aを示す図である。同図に示すように、第1のシミュレーションでは、変化パラメータとして導電板14aのスリット直交方向長さLCOを用い、導電板14aの面積(=LCO×LCP)の変化に対するカップリング効率の変化傾向を確認した。
表1は、LCO及びその他のパラメータの具体的な値を示している。同表において、各パラメータの下に示す記号(mmなど)は、各パラメータの単位を示している。この点は、後掲する各表でも同様である。表1には示していないが、開口部OPについては、スリットSLの延伸方向の長さを20mm、スリットSLの延伸方向と直交する方向の長さを10mmとした。
なお、このシミュレーション及び後掲の各シミュレーションにおいて、特に断らない限り、近接型アンテナ21のサイズは110mm角とし、近接型アンテナ21とアンテナ部13間の距離は30mmとし、導電板14aの厚さは35μmとした。また、導電板14a及びアンテナパターン31の配置は、近接型アンテナ21、開口部OP、及びアンテナパターン31の内周の各中央点が平面的に見て一致するように決定した。
図7(a)(b)は、第1のシミュレーションの結果を示す図である。図7(a)(b)ともに、横軸をパラメータS2/S1とし、縦軸をカップリング効率(dB)とした。変化パラメータである導電板14aの面積(=LCO×40mm)は、パラメータS1とした。パラメータS2については、図7(a)ではアンテナパターン31の外形面積SOUTER(=LOX×LOY)とし、図7(b)では開口部の面積SOPとした。
図7(a)を見ると、少なくともシミュレーションを行った範囲では、S2/S1の値によらず、導電板14aがない場合に比べて高いカップリング効率が得られている。そして、S2/S1=0.2の近傍で急激にカップリング効率が変化し、S2/S1≦0.2では概ね良好なカップリング効率が得られている。また、S2/S1≦0.15ではカップリング効率がより良好となり、S2/S1≦0.11でほぼ最良のカップリング効率が得られている。したがって、アンテナパターン31の外形面積SOUTER(S2)は、導電板14aの面積(S1)の20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、11%以下とすることが特に好ましいと言える。
一方、図7(b)を見ると、S2/S1=0.1の近傍で急激にカップリング効率が変化し、S2/S1≦0.1では概ね良好なカップリング効率が得られている。また、S2/S1≦0.07でほぼ最良のカップリング効率が得られている。したがって、開口部の面積SOP(S2)は、導電板14aの面積(S1)の10%以下とすることが好ましく、7%以下とすることがより好ましいと言える。
次に、図8(a)(b)は、第2のシミュレーションの結果を示す図である。また、表2は、第2のシミュレーションにおけるSOP及びその他のパラメータの具体的な値を示している。第2のシミュレーションでは、変化パラメータとして開口部OPの面積SOPを用い、面積SOPの変化に対するカップリング効率の変化傾向を確認した。ただし、開口部OPの形状は正方形とした。このシミュレーションでは、アンテナパターン31のサイズがカップリング効率に与える影響も確認するため、サイズの異なる2種類のアンテナパターン31(パターン1、パターン2)を用意し、それぞれについてシミュレーションを行った。表2には示していないが、パターン1のアンテナパターン31では、線幅を0.1mm、線間距離を0.1mmとした。同様に、パターン2のアンテナパターン31では、線幅を0.2mm、線間距離を0.1mmとした。
図8(a)(b)ともに、横軸をパラメータS2/S1とし、縦軸をカップリング効率(dB)とした。変化パラメータである開口部OPの面積SOPは、パラメータS2とした。パラメータS1については、図8(a)ではアンテナパターン31の内径面積SINNER(=LIX×LIY)とし、図8(b)ではアンテナパターン31の外形面積SOUTER(=LOX×LOY)とした。なお、図8(a)には、開口部OPの面積SOPがアンテナパターン31の内径面積SINNERより小さい場合(S2/S1<1)のみをプロットし、図8(b)には、開口部OPの面積SOPがアンテナパターン31の外形面積SOUTERより大きい場合(S2/S1>1)のみをプロットした。
図8(a)を見ると、パターン1,2ともに、S2/S1が概ね0.2未満であると、カップリング効率が通信困難な値(約−20dB以下)となることが理解される。したがって、開口部OPの面積SOP(S2)は、アンテナパターン31の内形面積SINNER(S1)の20%以上とすることが好ましいと言える。
一方、図8(b)を見ると、少なくともパターン2については、S2/S1が概ね4以下であると、S2/S1が小さいほど良好なカップリング効率を得られることが理解される。また、S2/S1が概ね4以上であると、S2/S1の値によらない安定したカップリング効率を得られることも理解される。パターン1についてはS2/S1=4近傍でのデータが取れていないが、図8(b)にプロットした2つのデータの傾向から推測すると、パターン2と同様の傾向を示すものと考えられる。したがって、S2/S1が小さいほど良好なカップリング効率が得られるようにするためには、開口部OPの面積SOP(S2)は、アンテナパターン31の外形面積SOUTER(S1)の400%以下とすることが好ましく、一方、S2/S1の値によらないカップリング効率を得るためには、開口部OPの面積SOP(S2)は、アンテナパターン31の外形面積SOUTER(S1)の400%以上とすることが好ましいと言える。
次に、図9は、第3のシミュレーションの結果を示す図である。また、表3は、第3のシミュレーションにおけるLSL及びその他のパラメータの具体的な値を示している。第3のシミュレーションでは、変化パラメータとしてスリットSLの長さLSLを用い、長さLSLの変化に対するカップリング効率の変化傾向を確認した。このシミュレーションでは、導電板14aのサイズがカップリング効率に与える影響も確認するため、サイズの異なる2種類の導電板14a(パターン1、パターン2)を用意し、それぞれについてシミュレーションを行った。
図9では、横軸をパラメータS2/S1とし、縦軸をカップリング効率(dB)とした。変化パラメータであるスリットSLの長さLSLは、パラメータS2とした。パラメータS1については、導電板14aのスリットSLの延伸方向の長さLCPとした。
図9を見ると、パターン1,2ともに、S2/S1が概ね0.3以上0.7以下であると、カップリング効率が比較的大きな値(約−13dB〜約−15dB)で安定することが理解される。一方、導電板14aの強度維持の観点からは、S2/S1は概ね0.2以下であることが好ましいが、図9によれば、S2/S1を0.2以下としても、カップリング効率はそれほど小さくならない(−20dB以下とはならない)。したがって、カップリング効率を比較的大きな値で安定させるためには、スリットSLの長さLSLは、導電板14aのスリット方向長さLCPの30%以上70%以下とすることが好ましく、一方、導電板14aの強度維持の観点からは、S2/S1を0.2以下とすることが好ましいと言える。
次に、図10(a)は、第4のシミュレーションで用いる角度θ1について説明するための説明図である。同図に示す携帯電話10aの断面図は、図3(b)に示した断面図を傾けたものである。実際の使用シーンでは、図10(a)に示すように、携帯電話10aとリーダ/ライタ20の近接型アンテナ21とは、必ずしも平行とはならず、角度θ1(≠0°)の傾きをもって配置されることになる。第4のシミュレーションでは、この角度θ1を変化パラメータとして用い、角度θ1の変化に対するカップリング効率の変化傾向を確認した。
第4のシミュレーションの目的は、開口部OP及びスリットSLを導電板14aの中央点P(図3(a)参照)を避けて配置することの効果を示す点にある。そこで、開口部OPが中央点Pに重なる場合と、そうでない場合とのそれぞれについて、シミュレーションを行った。また、比較のために、導電板14aが存在しない場合(導電板14aに相当する部分を含む携帯電話10aの筐体14が、非導電性の材料によって構成されている場合)についても、併せてシミュレーションを行った。
表4は、第4のシミュレーションにおける角度θ1及びその他のパラメータの具体的な値を示している。同表に示すように、開口部OPが中央点Pに重ならない場合と重なる場合とは、LSLの値によって区別した。このシミュレーションでは、導電板14aに対するアンテナ部13の配置を、開口部OPの中央点とアンテナパターン31の内周の中央点とが平面的に見て一致するように決定した。導電板14aが存在しない場合については、開口部OPが中央点Pに重ならない場合と同じ位置にアンテナ部13を配置した。また、近接型アンテナ21に対する携帯電話10aの配置を、近接型アンテナ21の中央点とアンテナパターン31の内周の中央点とが平面的に見て一致し、さらにこれらの最小距離D1(図10(a)を参照)が一定値となるように決定した。
図10(b)は、第4のシミュレーションの結果を示す図である。図10(b)では、横軸を角度θ1(°)とし、縦軸をカップリング効率(dB)とした。図10(b)を見ると、導電板14aの有無によらず、角度θ1が大きくなるほどカップリング効率が小さくなることが理解される。これは、カップリング特性に指向性があり、角度θ1が大きいほど通信が困難になることを示している。
しかしながら、図10(b)によれば、スリットSLの長さLSLが10mmである場合には、他の場合に比べて角度θ1の増大に対するカップリング効率の低下の度合いが小さくなっている。このことは、開口部OP及びスリットSLを導電板14aの中央点Pを避けて配置することにより、カップリング特性の指向性が広くなっていることを示している。したがって、開口部OP及びスリットSLは、図3(a)に示したように、導電板14aの中央点Pを避け、導電板14aの端部に配置することが好ましいと言える。
次に、図11は、第5のシミュレーションの結果を示す図である。また、表5は、第5のシミュレーションにおけるWSL及びその他のパラメータの具体的な値を示している。第5のシミュレーションでは、変化パラメータとしてスリットSLの幅WSLを用い、幅WSLの変化に対するカップリング効率の変化傾向を確認した。このシミュレーションでは、開口部OPのサイズがカップリング効率に与える影響も確認するため、サイズの異なる2種類の開口部OP(パターン1、パターン2)を用意し、それぞれについてシミュレーションを行った。ただし、いずれのパターンでも、開口部OPの形状は正方形とした。
図11では、横軸を変化パラメータであるスリットSLの幅WSL(mm)とし、縦軸をカップリング効率(dB)とした。図11を見ると、パターン1,2ともに、カップリング効率は、スリットSLの幅WSLにあまり影響されないことが理解される。ただし、今回のシミュレーションでは示せていないものの、幅WSLを小さくし過ぎると、スリットSLの両側の導電板14aが導通してしまい、スリットSLを設けた意義が失われることは明らかである。また、スリットSLの両側の導電板14aによってキャパシタが形成されることも、好ましくないと考えられる。したがって、スリットSLの幅WSLは、上述したように、両側の導電板14aが導通したり、両側の導電板14aによってキャパシタが形成されることのない範囲で、できるだけ狭く設定すればよいと言える。
次に、図12は、第6のシミュレーションの結果を示す図である。また、表6は、第6のシミュレーションにおいてシミュレートした導電板14aの材料、その導電率C14a、及びその他のパラメータの具体的な値を示している。第6のシミュレーションでは、様々な材料によって構成された導電板14aを用い、各材料の導電率の違いに対するカップリング効率の変化傾向を確認した。
図12では、横軸を変化パラメータである導電板14aの導電率C14a(107S/m)とし、縦軸をカップリング効率(dB)とした。図12を見ると、材料がFeである1点(導電率C14a=1.030×107S/m)を除き、カップリング効率は、導電率C14aが高いほど大きくなり、導電率が1×107S/m以上である場合に安定することが理解される。一方、材料がFeである場合のカップリング効率は、ほぼ同じ導電率の他の材料を用いる場合に比べて大幅に低下することが理解される。これは、Feが強磁性体である(他の材料は常磁性体又は反磁性体)ことによるものであると考えられる。したがって、導電板14aとしては、常磁性又は反磁性で、かつ導電率C14aが1×107S/m以上である材料を用いることが好ましいと言える。
以上、説明したように、非接触型ICカードとしての携帯電話10aとリーダ/ライタ20との間のカップリング特性は、アンテナパターン31、導電板14a、開口部OP、及びスリットSLのサイズ、並びに導電板14aの材料によって影響される。上述したようにしてこれらの具体的な値を選択すれば、最適なカップリング特性を得ることが可能になる。
図13(a)は、本発明の第2の実施の形態による近距離通信システムで用いる携帯電話10bの斜視図である。また、図13(b)は、図13(a)のE−E'線断面図である。本実施の形態による近距離通信システムは、携帯電話10aに代えて携帯電話10bを用いる点で第1の実施の形態による近距離通信システム1と異なっており、その他の点は第1の実施の形態と同一である。携帯電話10bは、導電板14aに代えて導電板14bを有する点で、第1の実施の形態による携帯電話10aと異なっている。以下、第1の実施の形態との相違点を中心に、本実施の形態による携帯電話10bの構成等について詳しく説明する。なお、以下の説明及び図面において、第1の実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付している。
図13(a)(b)に示すように、導電板14bは、背面に加え、背面から幅WB分だけ筐体14の各側面にも広がっている。言い換えれば、導電板14bの端辺は、リーダ/ライタ20(図1)から離れる方向に、曲げ幅WBの分だけ曲がっている。スリットSLも側面に延伸して導電板14bの端部まで設けられており、したがってリーダ/ライタ20から離れる方向に曲がっている。
このように端辺を曲げた導電板14bを用いることで、カップリング特性の指向性を広くすることが可能になる。以下、シミュレーション結果を参照しながら詳しく説明する。
図14(a)は、第7のシミュレーションで用いる角度θ2について説明するための説明図である。同図に示す携帯電話10bの断面図は、図13(b)に示した断面図を傾けたものである。図14(a)を図10(a)と比較すると理解されるように、第7のシミュレーションは、上述した第4のシミュレーションにおいて携帯電話10aを携帯電話10bで置換したものである。第7のシミュレーションでは、角度θ2を変化パラメータとして用い、角度θ2の変化に対するカップリング効率の変化傾向を確認した。
第7のシミュレーションの目的は、端辺を曲げた導電板14bを用いることの効果を示す点にある。そこで、曲げ幅WB=0mm,3mmのそれぞれについて、シミュレーションを行った。WB=0mmの導電板14bは、要するに第1の実施の形態で示した導電板14aである。また、比較のために、導電板14bが存在しない場合(導電板14bに相当する部分を含む携帯電話10bの筐体14が、非導電性の材料によって構成されている場合)についても、併せてシミュレーションを行った。
表7は、第7のシミュレーションにおける各パラメータの具体的な値を示している。このシミュレーションでは、導電板14bに対するアンテナ部13の配置を、開口部OPの中央点とアンテナパターン31の内周の中央点とが平面的に見て一致するように決定した。導電板14bが存在しない場合についても、同じ位置にアンテナ部13を配置した。また、近接型アンテナ21に対する携帯電話10bの配置を、近接型アンテナ21の中央点とアンテナパターン31の内周の中央点とが平面的に見て一致し、さらにこれらの最小距離D2(図14(a)を参照)が一定値となるように決定した。
図14(b)は、第7のシミュレーションの結果を示す図である。図14(b)では、横軸を角度θ2(°)とし、縦軸をカップリング効率(dB)とした。図14(b)を見ると、曲げ幅WBが3mmである場合には、特に角度θ2が60°以上である場合に、他の場合に比べて角度θ2の増大に対するカップリング効率の低下の度合いが小さくなっている。このことは、端辺を曲げた導電板14bを用いることにより、カップリング特性の指向性が広くなっていることを示している。
以上説明したように、本実施の形態による近距離通信システムによれば、端辺を曲げた導電板14bを有する携帯電話10bを用いていることから、カップリング特性の指向性を広くすることが可能になっている。
図15(a)は、本発明の第3の実施の形態による近距離通信システムのシステム構成を模式的に示す図である。本実施の形態による近距離通信システムは、磁性シート40を用いる点で第1の実施の形態による近距離通信システム1と異なっており、その他の点は第1の実施の形態と同一である。以下、第1の実施の形態との相違点を中心に、詳しく説明する。なお、以下の説明及び図面において、第1の実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付している。
図15(a)に示すように、本実施の形態では、アンテナパターン31を挟んで導電板14aの反対側に、磁性シート40が配置される。磁性シート40は、酸化鉄、酸化クロム、コバルト、フェライトなどの磁性体をシート状に形成してなる磁性部材であり、アンテナパターン31の表面に絶縁性の糊(不図示)を介して貼付される。磁性シート40は、アンテナパターン31とほぼ同等かやや大きく、導電板14aよりも小さい。
図15(a)に示す構成によれば、導電体14aから生ずる磁場のうちアンテナパターン31方向に生ずるものが、アンテナパターン31通過後に、磁性シート40によってアンテナパターン31方向に閉じ込められる。これにより、カップリング効率が改善される。
表8は、磁性シート40の効果を示すためのシミュレーションに用いた近距離通信システム1の各パラメータを示している。磁性シート40は、アンテナ部13の基板30と同じ大きさの7mm×7mmの大きさとした。表9は、磁性シート40を用いる場合と用いない場合のそれぞれについて、磁性シート40以外の構成を同一にしてカップリング効率(dB)をシミュレートした結果の一例を示している。表9から明らかなように、磁性シート40を用いることによってカップリング効率(dB)は改善している。
なお、第1の実施の形態で説明したように、アンテナパターン31は携帯電話10aの筐体14の外部、すなわち導電板14aのリーダ/ライタ20側に配置してもよい。図15(b)は、この場合の磁性シート40の配置例を示している。同図に示すように、この場合の磁性シート40は、導電板14aを挟んでアンテナパターン31の反対側に配置される。この場合、磁性シート40は、導電板14aの表面に絶縁性の糊(不図示)を介して貼付される。
図15(b)に示す構成によれば、導電体14aから生ずる磁場のうちアンテナパターン31とは逆方向に生ずるものが、磁性シート40によってアンテナパターン31方向に閉じ込められる。これにより、カップリング効率が改善される。
表10は、図15(b)の例において、磁性シート40を用いる場合と用いない場合のそれぞれについて、磁性シート40以外の構成を同一にしてカップリング効率(dB)をシミュレートした結果の一例を示している。このシミュレーションに用いた各パラメータは、表8に示したものと同様である。表10から明らかなように、図15(b)の例でも、磁性シート40を用いることによってカップリング効率(dB)は改善している。
以上説明したように、本実施の形態による近距離通信システムによれば、磁性シート40を用いていることから、磁性シート40を用いない場合に比べ、カップリング効率(dB)を改善することが可能になっている。
なお、上記実施の形態では、リーダ/ライタ20から最も遠い位置に磁性シート40を配置したが、リーダ/ライタ20から最も近い位置に磁性シート40を配置してもよい。図16(a)(b)は、このような配置の具体例を示している。図16(a)はアンテナパターン31が導電板14aのリーダ/ライタ20側に配置される場合の例であり、これによれば、図15(a)の構成と同様、導電体14aから生ずる磁場のうちアンテナパターン31方向に生ずるものが、アンテナパターン31通過後に、磁性シート40によってアンテナパターン31方向に閉じ込められる。したがって、カップリング効率が改善される。また、図16(b)は導電板14aがアンテナパターン31がリーダ/ライタ20側に配置される場合の例であり、これによれば、図15(b)の構成と同様、導電体14aから生ずる磁場のうちアンテナパターン31とは逆方向に生ずるものが、磁性シート40によってアンテナパターン31方向に閉じ込められる。したがって、カップリング効率が改善される。
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
例えば、上記各実施の形態では開口部OPが矩形であるとして説明したが、開口部OPの形状は矩形に限られるものではなく、例えば円形や楕円形の開口部OPを用いてもよい。
図17は、開口部OPが正方形である場合と円形である場合とについて、開口部の面積SOPの変化に対するカップリング効率の変化傾向を確認したシミュレーションの結果を示す図である。同図から明らかなように、カップリング効率の値は開口部OPの形状によらずほぼ同一の傾向を示しており、開口部OPの形状がカップリング効率の値に与える影響は小さいと言える。
また、図18(a)は、本発明の第1の実施の形態で示した携帯電話10aの変形例を示す斜視図である。図18(b)は、図18(a)のF−F'線断面図である。この変形例では、筐体14はプラスチックなどの絶縁体であり、導電板14aは筐体14の背面に嵌めこまれた金属板によって構成される。このようにしても、導電板14aを構成することが可能である。その他、導電板14aは、導電箔や導電板を貼り付けたり、印刷することによって作製してもよい。
また、上記各実施の形態ではスリットの例として一定幅の直線状のもののみを挙げたが、スリットSLは一定幅の直線状でなければならないわけではない。例えば曲線状でもよいし、場所によって異なる幅を有する形状(台形状、楔状、エンタシス状など)としてもよい。
また、上記各実施の形態では導電板14aとアンテナ部13とが互いに絶縁されているとしたが、導電板14aがグランド層によって構成される場合には、接地端を介して導電板14aとアンテナ部13とが電気的に接続されていてもよい。
また、上記各実施の形態では携帯電話に非接触ICカードを搭載する例を挙げて説明したが、本発明は携帯電話のみに適用されるものではなく、無線通信機器を含む通信機器一般に広く適用可能である。