JP5590821B2 - 多能性幹細胞用の凍結保存液と多能性幹細胞の凍結保存方法 - Google Patents

多能性幹細胞用の凍結保存液と多能性幹細胞の凍結保存方法 Download PDF

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Description

本発明は、多能性幹細胞用の凍結保存液と多能性幹細胞の凍結保存方法に関する。
多能性幹細胞を用いた再生医療の実現化のため、多能性幹細胞の凍結保存方法の確立が重視されている。しかし、従来の凍結保存液を用いた方法では、凍結時の氷晶形成に起因する細胞障害等により凍結融解後の多能性幹細胞の生存率が低いため、必要量の多能性幹細胞を得るために多くの時間を要する(非特許文献1および2)。また、ヒト多能性幹細胞用の凍結保存液には、改良が加えられているが(非特許文献1、2、3および4)、その殆どにジメチルスルホキシド(DMSO)が用いられている(特許文献1)。このDMSOの使用は、多能性幹細胞を中内胚葉系へ分化させるとの報告があることから(非特許文献5および6)、多能性幹細胞用の凍結保存液にDMSOを用いないことが好ましいと考えられる。さらに、これまでの多くの凍結保存液には、動物由来の血清が含まれているが、未知の病原体への危惧を避けるため、動物由来の血清は用いないことが好ましいと考えられる。
一方、凍結時の氷晶形成による細胞障害を防ぐために、有機溶剤を凍結保存液に添加し、急速に凍結する方法が提案されている。これまで、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、DMSO、ポリビニルピロリドンおよびユーロコリンズ液を含む保存液により、アガロースハイドロゲル中の膵島の液体窒素下での保存に成功している(非特許文献7および8)。この方法は、卵や胚を保存するために使用されている(非特許文献9、10および11)。この方法はヒト胚性幹細胞でも用いられているが(非特許文献12)、この場合、DMSOの使用を要する。
WO2003/064634
Reubinoff BE, et al. Hum Reprod. 16:2187-94(2001) Fujioka T, et al. Int. J. Dev. Biol. 48:1149-1154 (2004) Richards M, et al. Stem Cells. 22:779-89(2004) Ji L, et al. Biotechnol Bioeng. 88:299-312(2004) Katkov II, et al. Cryobiology. 53:194-205(2006) Ameen C, et al. Crit Rev Oncol Hematol. 65:54-80(2008) Agudelo CA and Iwata H, Biomaterials. 29(9):1167-76(2008) Agudelo CA, et al. Transplantation. 87(1):29-34(2009) Rall WF and Fahy GM, Nature. 313(6003):573-5(1985) Kuleshova L, et al. Hum Reprod. 14(12):3077-9(1999) Michelmann HW and Nayudu P, Cell Tissue Bank.7(2):135-41(2006) Fujioka T, et al. Int. J. Dev. Biol. 48:1149-1154 (2004)
本発明は、多能性幹細胞を未分化状態を維持したまま凍結保存することができ、かつ、多能性幹細胞の生存率の高い凍結保存液を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、エチレングリコールを含有し、ジメチルスルホキシドを含有しない溶液を用いることにより、多能性幹細胞を未分化状態を維持したまま、高い生存率で凍結保存することができことを見出して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1]エチレングリコールを含有し、ジメチルスルホキシドを含有しない多能性幹細胞用の凍結保存液。
[2]動物血清を含有しない[1]に記載の凍結保存液。
[3]細胞培養用培地成分もしくは臓器保存液成分をさらに含有する[1]または[2]に記載の凍結保存液。
[4]細胞培養用培地成分として、血清代替物を20%(V/V)以下で含有する[3]に記載の凍結保存液。
[5]前記エチレングリコールの濃度が40%(V/V)である[1]から[4]の何れかに記載の凍結保存液。
[6]ポリエチレングリコールをさらに含有する[1]から[5]の何れか一項に記載の凍結保存液。
[7]前記ポリエチレングリコールの濃度が20%(W/V)以下である[6]に記載の凍結保存液。
[8]前記ポリエチレングリコールの平均モル質量が、1000 g/mol以上である[6]または[7]に記載の凍結保存液。
[9]前記細胞培養用培地がDMEM/F12である[3]から[8]の何れかに記載の凍結保存液。
[10]前記臓器保存液がユーロコリンズ液である[3]から[8]の何れかに記載の凍結保存液。
[11]前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である[1]から[10]の何れかに記載の凍結保存液。
[12][1]から[11]の何れかに記載の凍結保存液を利用して多能性幹細胞を凍結保存する工程を含む、多能性幹細胞の凍結保存方法。
[13]多能性幹細胞を懸濁させた前記凍結保存液を、液体窒素を用いて急冷させる工程を含む、[12]に記載の方法。
[14]前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である[12]または[13]に記載の方法。
本発明の凍結保存液を用いることにより、多能性幹細胞を未分化状態を維持したまま凍結保存することができ、また、凍結融解後の多能性幹細胞の生存率を高めることができる。
冷却過程での凍結保存液(VS1D、VS2DおよびCS)の温度変化を示す。 CMK6 ES細胞(A)およびヒトES細胞(KhES-1)(B)を、各凍結保存液(VS1D、VS2E)を用いて凍結保存後、溶解させ継代した後の細胞の形態を示す位相差顕微鏡写真。矢印は、ES細胞のコロニーを示す。スケールバーは、500μm。 CMK6 ES細胞(A)およびヒトES細胞(KhES-1)(B)の凍結溶解後1日目の生存率を示す。結果は、n=3(CMK6)およびn=4(KhES-1)の平均±SDで表示されている。(A):全データは、互いに有意差があった(p<0.05)。(B):*は、有意差があったことを示している(p<0.05)。 VS2Eで凍結保存し融解後、3日目のCMK6 ES細胞(A)および6日目のヒトES細胞(B)における幹細胞マーカーの発現を示す顕微鏡写真。凍結保存したCMK6 ES細胞およびヒトES細胞のアルカリフォスファターゼ活性(a)を調べた。ES細胞の免疫染色は、SSEA-4(b)、Oct-4(c)、Nanog(d)の発現に対して調べた。(b)において、核はHoechst33342で染色(実際の写真は青色)された。スケールバーは、1mm(a)、200μm(b、cおよびd)。 VS2E溶液で凍結保存したCMK6 ES細胞からのSCIDマウスにおけるテラトーマ形成を示す顕微鏡写真。矢印は、内胚葉系上皮細胞(A)、筋肉(B)、軟骨(C)および神経上皮細胞(D)を示す。スケールバーは、100μm。 各ヒトiPS細胞クローンの凍結溶解後1日目の生存率を示す。(A)iPS細胞のクローンとして、6-2を用いた。結果は、n=4の平均±SDで表示されている。(B)iPS細胞のクローンとして、BM66を用いた。結果は、n=1で表示されている。(C)iPS細胞のクローンとして、5-1を用いた。結果は、n=3の平均±SDで表示されている。(D)iPS細胞のクローンとして、4-2を用いた。n=3(VS2E)およびn=2(DAP)の平均±SDで表示されている。(E)iPS細胞のクローンとして、4-1を用いた。結果は、n=3の平均±SDで表示されている。
本明細書において、「凍結保存液」という用語は、低温、好ましくは−80℃以下、より好ましくは−196℃以下にて細胞を保存させるための溶液を指す。冷却時の形態によって「ガラス化溶液」とも記載するが、本明細書においてこれらは同一の溶液を指す。
本発明の多能性幹細胞用の凍結保存液は、エチレングリコールを含有し、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと称す)を含有しない。より好適には、本凍結保存液は、動物血清を含有しない。
本発明の凍結保存液の溶媒としては、水または水性媒体が好ましい。ここで、水性媒体としては、水と他の溶媒との混合物を意味し、他の溶媒としては、水と一相に混合できる溶媒であることが好ましく、例えば、グリセロール等が挙げられる。水性媒体における水の含量は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。
また、本発明の凍結保存液は、細胞培養用培地成分及び/又は臓器保存液成分をさらに含有することが好ましい。より好適には、臓器保存液成分を用いる。本発明の凍結保存液は、エチレングリコール及び溶媒以外の成分が全て細胞培養用培地成分もしくは臓器保存液成分であってもかまわない。
本発明の凍結保存液は、水や水性媒体などの溶媒に、エチレングリコールならびに細胞培養用培地成分及び/又は臓器保存液成分を溶解させることによって得ることができるが、あらかじめ調製された細胞培養用培地及び/又は臓器保存液にエチレングリコールを溶解させることによって得ることもできる。
細胞培養培地成分を用いる場合、血清代替物を同時に含有することが望ましい。その含有率は少ない方が好ましく、20%(V/V)以下であることがより好ましい。
本発明の凍結保存液は、ポリエチレングリコールをさらに含有することが望ましい。その含有率は、20%(V/V)以下であることがより好ましく、特に好ましくは、10%(W/V)である。
凍結保存液中のエチレングリコールの濃度は、30%(V/V)以上であることが好ましく、50%(V/V)以下であることが好ましい。特に好ましくは、40%(V/V)である。
これらの数値範囲は、凍結融解後の保存した多能性幹細胞の生存率とその多能性の維持との調和から選択された範囲であり、目的と合致する限り各数値の約の範囲も本発明の対象である。
本発明において、ポリエチレングリコールとは、エチレングリコールが重合した構造をもつ高分子化合物であり、その重合度は不均一であってよく、平均モル質量は1000 g/mol以
上であることが好ましい。より好ましくは、重合度が20以上である。平均モル質量および重合度の上限は特に制限されないが、50000 g/mol 以下であることが好ましい。より好ましくは、重合度が1200以下である。
本発明において、血清代替物としては、少なくともアルブミンまたはアルブミン代替物を含有する水溶液が好ましく、アルブミンまたはアルブミン代替物とトランスフェリンまたはトランスフェリン代替物との少なくとも2成分を含有する水溶液がより好ましい。最も好ましい血清代替物は、アルブミンまたはアルブミン代替物、トランスフェリンまたはトランスフェリン代替物、および、インシュリンまたはインシュリン代替物の少なくとも3成分を含有する水溶液である。
上記血清代替物は、さらに、アミノ酸、ビタミン類、抗酸化剤、コラーゲン前駆体および微量元素からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む水溶液であることが好ましい。
本発明において、上記アルブミンとしては、ウシ血清アルブミン(BSA)、ウシ胎児アルブミン(フェチュイン)、ヒト血清アルブミン(HSA)、遺伝子組換えヒトアルブミン(rHSA)、卵アルブミンなどが好ましい。また、アルブミン代替物としてはウシ下垂体抽出物、ウシ胎児抽出物、ニワトリ抽出物、植物アルブミン類などが好ましい。トランスフェリンとしては、鉄結合トランスフェリンまたは鉄が結合していないトランスフェリンが好ましく、後者の場合は鉄イオンと共存させることが好ましい。トランスフェリン代替物としては可溶性の鉄化合物や鉄イオンが好ましく、例えばクエン酸第二鉄キレート、硫酸第一鉄キレートなどの鉄キレート化合物が好ましい。インシュリンとしては亜鉛イオンなどの金属イオンが結合したインシュリンまたは金属イオンが結合していないインシュリンが好ましく、後者の場合は金属イオンと共存させることが好ましい。インシュリン代替物としては可溶性の金属化合物や金属イオンが好ましく、金属としては亜鉛が好ましい。具体的には、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硫化亜鉛七水和物などがある。
本発明において、上記アミノ酸としては、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-システイン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-フェニルアラニン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-リジン、L-ロイシン、L-グルタミン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-プロリン、L-ヒドロキシプロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリンなどがある。ビタミン類としては、ビオチン、パントテン酸、コリン、ホラシン(葉酸)、myo-イノシトール、ナイアシン、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、コバラミンなどのビタミンB群のビタミン類が好ましい。抗酸化剤としては、グルタチオン、アスコルビン酸などがある。コラーゲン前駆体としては、L-プロリン多量体やその誘導体、L-ヒドロキシプロリン多量体やその誘導体などがある。微量元素としては、上記鉄や亜鉛以外に、Ag+、Al3+、Ba2+、Cd2+、Co2+、Cr3+、Ge4+、Mn2+、Mo6+、NI2+、Rb+、Se4+、Si4+、Sn2+、V5+、Zr4+、Br-、F-、I-などがある。
上記アミノ酸、ビタミン類、抗酸化剤、コラーゲン前駆体、微量元素などの成分は2種以上併用してもよく、また各成分はそれぞれ2種以上用いてもよい。
本発明において用いる血清代替物は、例えば、KnockOut Serum Replacement(KSR)(Invitrogen)でもよいが、これに限定されない。
本発明において、細胞培養用培地成分は、少なくともグルコースを0.3%(W/V)以上5%(W/V)以下で含有する動物組織培養用の基本培地の成分を用いることが好ましい。このグルコース含有率の数値範囲は、動物組織培養用に用いられる培地のグルコース濃度は0.1%(W/V)程度からが一般的であるのに対し、多能性幹細胞用のものはグルコース濃度が多少高いものが一般的に用いられることから選択された。
本明細書において、細胞培養用培地成分の種類は特に限定はされず、本技術的分野における当業者によって、その細胞の培養が可能である培地を適宜選択することができるが、例えば、表1に記載の物質である。具体的には、ダルベッコ変法イーグル培地/F12(DMEM/F12) (Sigma)に含有される成分が例示される。
本発明において、臓器保存液成分は、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(1000mL中に次の成分を含む:リン酸2水素1カリウム0.0425g;塩化ナトリウム8.5g)、クエン酸緩衝液又はリンゲル液(500mL中に次の成分を含む:塩化ナトリウム4.3g;塩化カリウム0.15g;塩化カルシウム・2水和物0.165g)又はKrebs−Henseleit緩衝液(塩化ナトリウム118.0mM; 塩化カリウム4.7mM;塩化カルシウム2.5mM;リン酸2水素カリウム1.2mM;硫酸マグネシウム1.2mM;炭酸水素ナトリウム25.0mM;グルコース10.0mM)等の生理的に許容される緩衝液や等張化液の成分であり、好ましくは、ユーロコリンズ液(Euro−Collins液,最終調製液100mL中に次の成分を含む:リン酸一水素カリウム730mg;リン酸二水素カリウム204mg;塩化カリウム112mg;炭酸水素ナトリウム84mg;ブドウ糖3.495g)やUW(University of Wisconsin)液(最終調製液1000mL中に下記の組成を含む:ペンタフラクション50g;ラクトビオン酸35.83g;リン酸二水素カリウム3.4g;硫酸マグネシウム1.23g;ラフィノース17.83g;アデノシン1.34g;アロプリノール0.136g;還元型グルタチオン0.922g;水酸化カリウム,適量;水酸化ナトリウム,pH7.4に調整)の成分であるが、これらに限定されない。
本発明において、臓器保存液成分として、さらに、例えばグリシン、α−ケトグルタミン酸、ヒドロキシエチルスターチ又は/及びレシチン化スーパーオキシドジスムターゼ等を配合することもできる。前記化合物の濃度は特に限定されないが、グリシン及びα−ケトグルタミン酸の場合には、一般的に約0.1〜10mM程度の範囲、好ましくは約2mM程度であり、ヒドロキシエチルスターチの場合、一般的には約3〜7.5%程度の範囲、好ましくは約5%程度である(真崎義彦ら、今日の移植、1994年、第7巻(第2号)、p.171−174)。レシチン化スーパーオキシドジスムターゼの場合には、液剤とした状態で約5μg/mL〜50mg/mL(15〜150000U/mL)程度、好ましくは50μg/mL程度である(特開2002−60301号公報)。
本発明において、多能性幹細胞とは、内胚葉系、中胚葉系および/または外胚葉系の多様な細胞種に分化可能な細胞であり、in vitroでの培養が可能な細胞を指す。特に限定されないが、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)(Shamblott MJ, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 95(23):13726-31(1998))、人工多能性幹細胞(iPS細胞)(WO 2007/069666およびWO 2008/118820)、間葉系幹細胞(MCS細胞)および/または多能性生殖幹細胞(GS細胞)(Kanatsu-Shinohara M, et al. Cell. 119(7):1001-12 (2004))が例示される。
本発明において、多能性幹細胞の由来は、哺乳類動物であれば特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、サル、ヒトなどが好ましい。より好ましくはヒト由来である。
本発明において、多能性幹細胞を凍結保存する際には、回収した多能性幹細胞を上記の凍結保存液を利用して凍結保存する。つまり、多能性幹細胞を上記凍結保存液に懸濁する工程と、該多能性幹細胞懸濁凍結保存液を低温、例えば-80℃以下または−196℃以下まで冷却し凍結させる冷却工程と、凍結した該多能性幹細胞懸濁凍結保存液を低温、例えば-80℃以下または−196℃以下で保存する保存工程を含む方法により凍結保存される。通常、冷却工程においては、急激に冷却した場合には、細胞内と細胞外の水分の氷結に差が生じ、細胞の微細構造を破壊してしまうため、1分間に0.5℃ から10℃ の比率で冷却を行われているが、本発明の凍結保存液を用いることにより、液体窒素に直接浸漬し、急速凍結させることも可能である。また、保存工程は、低温、例えば-80℃以下で可能となるが、より安定な保存の面から液体窒素中(−196℃以下)および/ または液体窒素蒸気層中で保存することが好ましい。
以下に、本発明の実施例と比較例について説明するが、本実施例は本発明の再現を補助する目的でその一実施態様を示すものであって、本実施例から本発明の限界や制限事項は示唆されない。
方法
1.ES細胞の培養法
未分化なCMK6 ES細胞(サルES細胞)(Suemori H, et al. Dev Dyn. 222(2):273-9(2001))(京都大学、中辻教授の好意により受領)は、フィーダー細胞としてのマイトマイシンC(Wako、日本)で処理した初代マウス胚性線維芽細胞(MEF)上で培養した。CMK6 ES細胞は、20%KnockOut Serum Replacement(KSR)(Invitrogen、カリフォルニア州)、1mMピルビン酸ナトリウム(Sigma)、0.1mM非必須アミノ酸(NEAA)(Invitrogen)、2mM L-グルタミン(Sigma)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(Sigma)、5mM水酸化ナトリウム、100U/mL ペニシリンおよび100μg/mL ストレプトマイシンを加えたダルベッコ変法イーグル培地/F12(DMEM/F12)(Sigma、セントルイス)を用いて培養した。MEFは、妊娠12日
目の胎児(ICRマウス)(日本エスエルシー株式会社、日本)から単離され、10%ウシ胎児血清(FBS)(Equitec-Bio, Inc、米国)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Sigma)で培養した。MEFは従来の方法を用いて、液体窒素で保存した。CMK6 ES細胞は、20%KSRと1mM塩化カルシウム(ナカライテスク、日本)を含むリン酸緩衝液(PBS)中の0.25%のトリプシン(Invitrogen)を用いて解離させ、3日置きに継代した。
未分化なヒトES細胞(KhES-1)(Suemori H, et al. Biochem Biophys Res Commun. 345(3):926-32(2006))(京都大学、中辻教授の好意により受領)は、フィーダー細胞としてマイトマイシンンC処理をしたMEF上で培養した。ヒトES細胞は、20%KSR、0.1mM NEAA、2mM L-グルタミン、0.1mM 2-メルカプトエタノールおよび5ng/ml FGF2(科研製薬株式会社、日本)を含むDMEM/F12で培養した。ヒトES細胞は、20%KSRと1mM塩化カルシウムを含むPBS (-)中の0.25%のトリプシンおよび8mg/mlコラゲナーゼ(1型)(新田ゼラチン株式会社、日本)で解離させ、継代した。ヒトES細胞の使用は、日本の文部科学省発行の「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針(2001)」に従って行われた。
人工多能性幹細胞(iPS細胞)(6-2、BM66、5-1、4-2および4-1)(京都大学、戸口田教授の好意により受領)は、従来のiPS細胞用の培養方法にて培養した。
2.ES細胞のガラス化保存
2-1.液体窒素下での保存
表2に示した4種のガラス化保存液、すなわち、DMEM/F12使用のVS1(VS1D)、VS2(VS2D)、ユーロコリンズ液使用のVS1(VS1E)、VS2(VS2E)、および従来の凍結保存液を用いた。これらの保存液は、滅菌処理のため使用前にフィルター(φ:0.22μm)処理を行った。60mmのディッシュにコンフルエントなCMK6 ES細胞またはKhES-1細胞は、それぞれ上記のトリプシンまたはコラゲナーゼを用いて解離させ回収した。1000rpmで5分間遠心させ回収したペレット状のES細胞は、凍結チューブ(1.8ml、CryoTubeバイアル)(Nunc、デンマーク)で200μlのガラス化保存液に再懸濁した。凍結チューブは、即座に液体窒素へ浸漬し、使用までの7日間保存した。
各凍結保存液は、DMEM/F12培地またはユーロコリンズ液に、DMSO、EG、PEG及び/又はKSRを上記濃度で溶解させることで調製した。
2-2.液体窒素下での保存後のES細胞の生存率
37℃で事前に温めた培地1mlを、ガラス化ES細胞の入った凍結チューブへ加え、ピペッティングにより素早く溶解させた。ES細胞懸濁液は、即座に遠心用チューブに移し替え、1000rpmで3分間、室温で遠心した。上清を除去後、ペレットは4mlの培養用培地に再懸濁させ、懸濁細胞溶液は、培養用ディッシュ内のフィーダー細胞としてのMEF上にのせた。これらは、37℃、5%CO2の条件下で培養し、1日後、位相差顕微鏡で観察した。対照のため、凍結保存しなかったES細胞のペレットをMEFフィーダー細胞上に播種した。
凍結保存後のES細胞の生存率を評価するため、MEF上に付着させたES細胞のコロニーは培養1日後に計数された。生存率は下記のように定義された。
生存率=(液体窒素下での凍結保存後のES細胞からの細胞島の数)/(凍結保存しなかったES細胞からの細胞島の数)
従来の凍結保存液(CS)を用いたES細胞の凍結保存を、参照のため行った。凍結保存は藤岡らに報告された方法で行われた(Fujioka T, et al.,Int. J. Dev. Biol. 48: 1149 - 1154 (2004))。簡潔には、ES細胞のペレットは500μlのCSで再懸濁され、即座に凍結チューブへ移した。凍結チューブは、凍結用コンテナへ設置し、コンテナは12時間、超低温フリーザー(-80℃)で保存した。その後、凍結チューブは液体窒素に浸漬された。溶解のため、凍結チューブは37℃の湯浴へ浸漬され、溶解後、慎重に振り混ぜた。ES細胞懸濁液は5mlの培養用培地(DMEM/F12-KSR)へ混ぜ、遠心チューブを用いて遠心させた(1000rpm、3分間、室温)。上清を除去後、細胞は培養用培地で懸濁された。細胞懸濁液は、培養用ディッシュ内のフィーダー細胞としてのMEF上にのせた。
3.液体窒素での保存後のES細胞の多能性の評価
3-1.液体窒素での保存後のES細胞のIn vitroでの免疫化学分析
CMK6 ES細胞およびKhES-1細胞は、溶解後、3日間および6日間の培養を行った。これらの細胞は、15分間、4%パラホルムアルデヒド(PFA)(PBS中)で固定され、室温で15分間、0.2%のトライトンX-100溶液で透過処理された。Blocking One(ナカライテスク)を用いて室温で1時間のブロッキングの後、サンプル細胞は、4℃、12時間で一次抗体とインキュベーションされた。一次抗体および希釈率は次の通りである;マウス抗SSEA-4、1:400(Chemicon、カリフォルニア州)、マウス抗Oct-4、1:200(Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州)およびラビット抗Nanog、1:200(リプロセル株式会社、日本)。これらの抗体は、Blocking One溶液で希釈された。サンプル細胞は0.05%ポリオキシレンソルビタンモノラウリン酸(Tween20)(Wako)で3度洗浄し、2時間室温で二次抗体と共にインキュベーションされた。二次抗体および希釈率は次の通りである;Alexa Fluor 488標識ヤギ抗マウスIgG、1:500(Invitrogen)またはAlexa Fluor 594標識ヤギ抗ラビットIgG、1:500(Invitrogen)。これらの抗体は、Blocking One溶液で希釈された。細胞の核を染色するため、サンプル細胞は、Blocking Oneで1:500に希釈されたHoechst33342蛍光色素(同仁化学研究所、日本)と室温で15分間、インキュベーションされた。PBSで洗浄後、サンプルは、蛍光顕微鏡(IX71)(オリンパス光学工業、日本)を用いて観察された。
アルカリフォスファターゼ活性は、Alkaline Phosphatase Substrate Kit III(Vector laboratories、カリフォルニア州)を用いて、PFAで固定されたCMK6 ES細胞およびヒトES細胞に対して検出された。
3-2.ユーロコリンズ液を含むVS2を用いた凍結保存後のCMK6 ES細胞のテラトーマ形成
CMK6 ES細胞は、VS2Eを用いて液体窒素中で保存された後に12回の継代培養を行った。細胞は培養用ディッシュから回収された。106個の細胞を、重症複合型 の免疫欠損(SCID)マウスの左側腹部へ投与した。50日後、形成したテラトーマを取り出し、一晩、4%のパラホルムアルデヒドにより固定した。4μmの厚さのパラフィン組織切片は、従来の方法で作成され、ヘマトシキリンおよびエオシンで染色した(HE染色)。
4.熱解析
冷却中における、凍結保存液中での氷晶形成を測定するため、凍結保存機(Planar Kryo 360-1.7)(Planar Product Ltd.、英国)で上記の溶液の温度変化を観測した。凍結チューブ内の溶液(各500μlの凍結保存液)の温度は、凍結保存機により、0℃から-150℃までは-43℃/分で、続いて-185℃までは-3℃/分の冷却速度で冷却させる間、観測した。
実施例1:冷却過程での凍結保存液の特徴
CMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞の液体窒素中での保存のために、表2に示した4種のガラス化溶液と1種の従来の凍結保存液を用いた。これらの溶液の冷却過程における氷晶の形成について調べた。冷凍庫内を、コンピューター制御による凍結機により0℃から-150℃までは-43℃/分、続いて-185℃までは-3℃/分で冷却させた場合の時間に対するVS1D、VS2DおよびCS溶液の温度を図1に示した。冷却過程における溶液の温度は直線的に下がらなかった。特に、CSは-20℃付近で発熱変化によるピークを呈している。この発熱現象は、CSにおける水の氷晶形成が原因である。冷却過程後、CS溶液は不透明になった。これもまた、CSにおける氷晶形成を示す。それに対し、VS1DおよびVS2Dでは、発熱現象が温度の減少中に観測されなかった。また、これらの溶液は-185℃への冷却後も、透明であった。VS1DおよびVS2Dにおいて、図1で曲線にほとんど違いが観測されなかった。このことは、DMSO(10%)はこれらの溶液での氷晶形成の抑制に効果がないことを示した。
実施例2:ガラス化
CMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞は、ガラス化溶液を用いて急冷させ、液体窒素下で保存された。凍結融解後のCMK6 ES細胞の形態は、図2Aに示す。CSを用いて凍結保存したCMK6 ES細胞の形態もまた、図2Aに示す。VS1DおよびVS2E を用いて凍結保存したCMK6 ES細胞は溶解後、1日目で小さい細胞凝集としてMEF層に接着しており、VS1DおよびVS2Eを用いた細胞間に違いは見られなかった(図2Aにおける矢印)。3日目で、細胞は増殖し、継代のできる大きな島を形成した。一方、CSを用いて保存した細胞では、1日目および3日目においてMEF層に接着した細胞凝集はほとんど観測されなかった。
ヒトES細胞の液体窒素下での保存におけるVS1DおよびVS2Eの効果もまた、調べられた。凍結融解後のKhES-1 ES細胞の形態を、図2Bに示す。CMK6 ES細胞と同様に、KhES-1 ES細胞凝集は、MEF層に接着し、増殖した。両保存液間に明らかな違いは見られなかった。これらのES細胞は4から5日の培養後、継代することができた。これらの結果は霊長類ES細胞が、VS1DおよびVS2Eを用いて液体窒素下で保存できることを示唆する。
CMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞の生存率を、図3AおよびBに示す。VS1D、VS1E、VS2DおよびVS2Eを用いたガラス化により保存されたCMK6 ES細胞の生存率は、それぞれ12.2、6.5、33.0および18.9%であった。VS1EおよびVS2Eを用いたガラス化により保存されたKhES-1
ES細胞の生存率は、それぞれ24.3、および22.9%であった。一方、CSを用いた従来の方法によるCMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞に対する生存率は、わずか0.59および0.39%であった。これらの値から、VS溶液を用いたガラス化により劇的に生存率が改善することが確認された。DMSOは、凍結保存剤(CPA)として一般的に用いられている。VS溶液の成分としてDMSOを添加することは、CMK6 ES細胞の場合、生存率の増加に効果的であったが、KhES-1 ES細胞の場合、明らかな違いが観測されなかった。
実施例3:液体窒素下での保存後のES細胞の未分化状態のマーカー
VS2Eを用いた凍結保存後のES細胞は、未分化状態マーカーであるSSEA-4、Oct-4およびNanogに対する免疫組織化学染色、ならびにアルカリフォスファターゼ活性染色によって調べられた(図4)。CMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞は、VS2Eで凍結保存した後溶解し、それぞれ3日および6日培養したものを用いた。アルカリフォスファターゼ活性およびSSEA-4、Oct-4およびNanogの発現は、CMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞で明確に確認された(図4AおよびB)。これらの結果は、液体窒素下での凍結保存、溶解、培養後のいずれのES細胞でも未分化状態を維持したことを示す。
実施例4:テラトーマ形成によるES細胞の多能性の確認
VS2Eを用いて液体窒素下で保存したCMK6 ES細胞を12回継代した後、in vivoでの多能性を
調べるためSCIDマウスへ皮下移植した。50日後形成したテラトーマを組織学的な実験のため取り出した。スライスしたテラトーマの組織切片のHE染色を図5に示す。内胚葉性の上皮、筋肉、軟骨および神経上皮を含む三胚葉が、CMK6 ES細胞からのテラトーマで確認された(図5)。以上より、単離したテラトーマの組織学的な解析により、VS2Eを用いて液体窒素下で保存したCMK6 ES細胞の多能性が維持されていることが示された。
実施例5:液体窒素下での保存後のiPS細胞の生存率
iPS細胞(6-2、BM66、5-1、4-2および4-1)は、ガラス化溶液を用いて急冷させ、液体窒素下で保存された。各iPS細胞クローンの生存率は、図6AからEに示す。ここで、従来の凍結保存液としてDAP溶液(2M DMSO、1M アセトアミド、3M プロピレングリコール、0.1mM 2-メルカプトエタノール、20% KSR、2 mM L-グルタミンおよび1% MEM 非必須アミノ酸を含むDMEM/F12)(Fujioka T, et al.,Int. J. Dev. Biol. 48: 1149 - 1154 (2004))を用い、本発明のVS2E溶液とその生存率を比較した。生存率はES細胞での方法と同様の方式で算出した。各iPS細胞クローンにおいて、VS2E溶液での凍結保存の方が、生存率が高い傾向が見られた。従って、DMSOを含有していないVS2E溶液でも従来のDMSOを含有している凍結保存液と同等、もしくはそれ以上の効力を有することが確認された。
本発明によれば、多能性幹細胞を簡便且つ高い生存率で凍結保存することが可能となる。また、アルブミンとインスリンおよびトランスフェリンを含有する血清代替物によっても凍結保存が可能であることから、血清等に含まれる未知の因子による分化を防ぐことも可能になる。さらに、DMSOを使わずに凍結保存することが可能になったため、分化を防ぐことも可能になる。また、液体窒素による急冷しても生存率に影響がないことから、簡便な方法で凍結保存が可能になる。したがって、本発明を用いて多能性幹細胞を凍結保存することで、簡便に再生医療に必要な未分化な細胞の確保が可能となる。

Claims (13)

  1. 下記(i)から(iii)を含有し、ジメチルスルホキシドを含有しない、-80℃以下での凍結保存に用いるための、多能性幹細胞用の凍結保存液
    (i)30%(V/V)〜50%(V/V)のエチレングリコール、
    (ii)20%(W/V)以下の、平均モル質量が1000 g/mol〜50000 g/molであるポリエチレングリコール、および
    (iii)細胞培養用培地成分または臓器保存液成分
  2. 動物血清を含有しない請求項1に記載の凍結保存液。
  3. 細胞培養用培地成分として、血清代替物を20%(V/V)以下で含有する請求項に記載の凍結保存液。
  4. 前記血清代替物の濃度が20%(V/V)である、請求項3に記載の凍結保存液。
  5. 前記エチレングリコールの濃度が40%(V/V)である請求項1から4の何れか一項に記載の凍結保存液。
  6. 前記ポリエチレングリコールの濃度が10%(W/V)である、請求項1から5の何れか一項に記載の凍結保存液。
  7. 前記ポリエチレングリコールの平均モル質量が、1000 g/molある請求項1からの何れか一項に記載の凍結保存液。
  8. 前記細胞培養用培地がDMEM/F12である請求項からの何れか一項に記載の凍結保存液。
  9. 前記臓器保存液がユーロコリンズ液である請求項から8の何れか一項に記載の凍結保存液。
  10. 前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である請求項1からの何れか一項に記載の凍
    結保存液。
  11. 請求項1から10の何れか一項に記載の凍結保存液を利用して多能性幹細胞を-80℃以下で凍結保存する工程を含む、多能性幹細胞の凍結保存方法。
  12. 多能性幹細胞を懸濁させた前記凍結保存液を、液体窒素を用いて急冷させる工程を含む、請求項11に記載の方法。
  13. 前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である請求項11または12に記載の方法。
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