JP5590821B2 - 多能性幹細胞用の凍結保存液と多能性幹細胞の凍結保存方法 - Google Patents
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Description
[1]エチレングリコールを含有し、ジメチルスルホキシドを含有しない多能性幹細胞用の凍結保存液。
[2]動物血清を含有しない[1]に記載の凍結保存液。
[3]細胞培養用培地成分もしくは臓器保存液成分をさらに含有する[1]または[2]に記載の凍結保存液。
[4]細胞培養用培地成分として、血清代替物を20%(V/V)以下で含有する[3]に記載の凍結保存液。
[5]前記エチレングリコールの濃度が40%(V/V)である[1]から[4]の何れかに記載の凍結保存液。
[6]ポリエチレングリコールをさらに含有する[1]から[5]の何れか一項に記載の凍結保存液。
[7]前記ポリエチレングリコールの濃度が20%(W/V)以下である[6]に記載の凍結保存液。
[8]前記ポリエチレングリコールの平均モル質量が、1000 g/mol以上である[6]または[7]に記載の凍結保存液。
[9]前記細胞培養用培地がDMEM/F12である[3]から[8]の何れかに記載の凍結保存液。
[10]前記臓器保存液がユーロコリンズ液である[3]から[8]の何れかに記載の凍結保存液。
[11]前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である[1]から[10]の何れかに記載の凍結保存液。
[12][1]から[11]の何れかに記載の凍結保存液を利用して多能性幹細胞を凍結保存する工程を含む、多能性幹細胞の凍結保存方法。
[13]多能性幹細胞を懸濁させた前記凍結保存液を、液体窒素を用いて急冷させる工程を含む、[12]に記載の方法。
[14]前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である[12]または[13]に記載の方法。
本発明の凍結保存液の溶媒としては、水または水性媒体が好ましい。ここで、水性媒体としては、水と他の溶媒との混合物を意味し、他の溶媒としては、水と一相に混合できる溶媒であることが好ましく、例えば、グリセロール等が挙げられる。水性媒体における水の含量は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。
また、本発明の凍結保存液は、細胞培養用培地成分及び/又は臓器保存液成分をさらに含有することが好ましい。より好適には、臓器保存液成分を用いる。本発明の凍結保存液は、エチレングリコール及び溶媒以外の成分が全て細胞培養用培地成分もしくは臓器保存液成分であってもかまわない。
本発明の凍結保存液は、水や水性媒体などの溶媒に、エチレングリコールならびに細胞培養用培地成分及び/又は臓器保存液成分を溶解させることによって得ることができるが、あらかじめ調製された細胞培養用培地及び/又は臓器保存液にエチレングリコールを溶解させることによって得ることもできる。
上であることが好ましい。より好ましくは、重合度が20以上である。平均モル質量および重合度の上限は特に制限されないが、50000 g/mol 以下であることが好ましい。より好ましくは、重合度が1200以下である。
上記アミノ酸、ビタミン類、抗酸化剤、コラーゲン前駆体、微量元素などの成分は2種以上併用してもよく、また各成分はそれぞれ2種以上用いてもよい。
本明細書において、細胞培養用培地成分の種類は特に限定はされず、本技術的分野における当業者によって、その細胞の培養が可能である培地を適宜選択することができるが、例えば、表1に記載の物質である。具体的には、ダルベッコ変法イーグル培地/F12(DMEM/F12) (Sigma)に含有される成分が例示される。
1.ES細胞の培養法
未分化なCMK6 ES細胞(サルES細胞)(Suemori H, et al. Dev Dyn. 222(2):273-9(2001))(京都大学、中辻教授の好意により受領)は、フィーダー細胞としてのマイトマイシンC(Wako、日本)で処理した初代マウス胚性線維芽細胞(MEF)上で培養した。CMK6 ES細胞は、20%KnockOut Serum Replacement(KSR)(Invitrogen、カリフォルニア州)、1mMピルビン酸ナトリウム(Sigma)、0.1mM非必須アミノ酸(NEAA)(Invitrogen)、2mM L-グルタミン(Sigma)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(Sigma)、5mM水酸化ナトリウム、100U/mL ペニシリンおよび100μg/mL ストレプトマイシンを加えたダルベッコ変法イーグル培地/F12(DMEM/F12)(Sigma、セントルイス)を用いて培養した。MEFは、妊娠12日
目の胎児(ICRマウス)(日本エスエルシー株式会社、日本)から単離され、10%ウシ胎児血清(FBS)(Equitec-Bio, Inc、米国)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Sigma)で培養した。MEFは従来の方法を用いて、液体窒素で保存した。CMK6 ES細胞は、20%KSRと1mM塩化カルシウム(ナカライテスク、日本)を含むリン酸緩衝液(PBS)中の0.25%のトリプシン(Invitrogen)を用いて解離させ、3日置きに継代した。
人工多能性幹細胞(iPS細胞)(6-2、BM66、5-1、4-2および4-1)(京都大学、戸口田教授の好意により受領)は、従来のiPS細胞用の培養方法にて培養した。
2-1.液体窒素下での保存
表2に示した4種のガラス化保存液、すなわち、DMEM/F12使用のVS1(VS1D)、VS2(VS2D)、ユーロコリンズ液使用のVS1(VS1E)、VS2(VS2E)、および従来の凍結保存液を用いた。これらの保存液は、滅菌処理のため使用前にフィルター(φ:0.22μm)処理を行った。60mmのディッシュにコンフルエントなCMK6 ES細胞またはKhES-1細胞は、それぞれ上記のトリプシンまたはコラゲナーゼを用いて解離させ回収した。1000rpmで5分間遠心させ回収したペレット状のES細胞は、凍結チューブ(1.8ml、CryoTubeバイアル)(Nunc、デンマーク)で200μlのガラス化保存液に再懸濁した。凍結チューブは、即座に液体窒素へ浸漬し、使用までの7日間保存した。
37℃で事前に温めた培地1mlを、ガラス化ES細胞の入った凍結チューブへ加え、ピペッティングにより素早く溶解させた。ES細胞懸濁液は、即座に遠心用チューブに移し替え、1000rpmで3分間、室温で遠心した。上清を除去後、ペレットは4mlの培養用培地に再懸濁させ、懸濁細胞溶液は、培養用ディッシュ内のフィーダー細胞としてのMEF上にのせた。これらは、37℃、5%CO2の条件下で培養し、1日後、位相差顕微鏡で観察した。対照のため、凍結保存しなかったES細胞のペレットをMEFフィーダー細胞上に播種した。
生存率=(液体窒素下での凍結保存後のES細胞からの細胞島の数)/(凍結保存しなかったES細胞からの細胞島の数)
3-1.液体窒素での保存後のES細胞のIn vitroでの免疫化学分析
CMK6 ES細胞およびKhES-1細胞は、溶解後、3日間および6日間の培養を行った。これらの細胞は、15分間、4%パラホルムアルデヒド(PFA)(PBS中)で固定され、室温で15分間、0.2%のトライトンX-100溶液で透過処理された。Blocking One(ナカライテスク)を用いて室温で1時間のブロッキングの後、サンプル細胞は、4℃、12時間で一次抗体とインキュベーションされた。一次抗体および希釈率は次の通りである;マウス抗SSEA-4、1:400(Chemicon、カリフォルニア州)、マウス抗Oct-4、1:200(Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州)およびラビット抗Nanog、1:200(リプロセル株式会社、日本)。これらの抗体は、Blocking One溶液で希釈された。サンプル細胞は0.05%ポリオキシレンソルビタンモノラウリン酸(Tween20)(Wako)で3度洗浄し、2時間室温で二次抗体と共にインキュベーションされた。二次抗体および希釈率は次の通りである;Alexa Fluor 488標識ヤギ抗マウスIgG、1:500(Invitrogen)またはAlexa Fluor 594標識ヤギ抗ラビットIgG、1:500(Invitrogen)。これらの抗体は、Blocking One溶液で希釈された。細胞の核を染色するため、サンプル細胞は、Blocking Oneで1:500に希釈されたHoechst33342蛍光色素(同仁化学研究所、日本)と室温で15分間、インキュベーションされた。PBSで洗浄後、サンプルは、蛍光顕微鏡(IX71)(オリンパス光学工業、日本)を用いて観察された。
CMK6 ES細胞は、VS2Eを用いて液体窒素中で保存された後に12回の継代培養を行った。細胞は培養用ディッシュから回収された。106個の細胞を、重症複合型 の免疫欠損(SCID)マウスの左側腹部へ投与した。50日後、形成したテラトーマを取り出し、一晩、4%のパラホルムアルデヒドにより固定した。4μmの厚さのパラフィン組織切片は、従来の方法で作成され、ヘマトシキリンおよびエオシンで染色した(HE染色)。
冷却中における、凍結保存液中での氷晶形成を測定するため、凍結保存機(Planar Kryo 360-1.7)(Planar Product Ltd.、英国)で上記の溶液の温度変化を観測した。凍結チューブ内の溶液(各500μlの凍結保存液)の温度は、凍結保存機により、0℃から-150℃までは-43℃/分で、続いて-185℃までは-3℃/分の冷却速度で冷却させる間、観測した。
CMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞の液体窒素中での保存のために、表2に示した4種のガラス化溶液と1種の従来の凍結保存液を用いた。これらの溶液の冷却過程における氷晶の形成について調べた。冷凍庫内を、コンピューター制御による凍結機により0℃から-150℃までは-43℃/分、続いて-185℃までは-3℃/分で冷却させた場合の時間に対するVS1D、VS2DおよびCS溶液の温度を図1に示した。冷却過程における溶液の温度は直線的に下がらなかった。特に、CSは-20℃付近で発熱変化によるピークを呈している。この発熱現象は、CSにおける水の氷晶形成が原因である。冷却過程後、CS溶液は不透明になった。これもまた、CSにおける氷晶形成を示す。それに対し、VS1DおよびVS2Dでは、発熱現象が温度の減少中に観測されなかった。また、これらの溶液は-185℃への冷却後も、透明であった。VS1DおよびVS2Dにおいて、図1で曲線にほとんど違いが観測されなかった。このことは、DMSO(10%)はこれらの溶液での氷晶形成の抑制に効果がないことを示した。
CMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞は、ガラス化溶液を用いて急冷させ、液体窒素下で保存された。凍結融解後のCMK6 ES細胞の形態は、図2Aに示す。CSを用いて凍結保存したCMK6 ES細胞の形態もまた、図2Aに示す。VS1DおよびVS2E を用いて凍結保存したCMK6 ES細胞は溶解後、1日目で小さい細胞凝集としてMEF層に接着しており、VS1DおよびVS2Eを用いた細胞間に違いは見られなかった(図2Aにおける矢印)。3日目で、細胞は増殖し、継代のできる大きな島を形成した。一方、CSを用いて保存した細胞では、1日目および3日目においてMEF層に接着した細胞凝集はほとんど観測されなかった。
ES細胞の生存率は、それぞれ24.3、および22.9%であった。一方、CSを用いた従来の方法によるCMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞に対する生存率は、わずか0.59および0.39%であった。これらの値から、VS溶液を用いたガラス化により劇的に生存率が改善することが確認された。DMSOは、凍結保存剤(CPA)として一般的に用いられている。VS溶液の成分としてDMSOを添加することは、CMK6 ES細胞の場合、生存率の増加に効果的であったが、KhES-1 ES細胞の場合、明らかな違いが観測されなかった。
VS2Eを用いた凍結保存後のES細胞は、未分化状態マーカーであるSSEA-4、Oct-4およびNanogに対する免疫組織化学染色、ならびにアルカリフォスファターゼ活性染色によって調べられた(図4)。CMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞は、VS2Eで凍結保存した後溶解し、それぞれ3日および6日培養したものを用いた。アルカリフォスファターゼ活性およびSSEA-4、Oct-4およびNanogの発現は、CMK6 ES細胞およびKhES-1 ES細胞で明確に確認された(図4AおよびB)。これらの結果は、液体窒素下での凍結保存、溶解、培養後のいずれのES細胞でも未分化状態を維持したことを示す。
VS2Eを用いて液体窒素下で保存したCMK6 ES細胞を12回継代した後、in vivoでの多能性を
調べるためSCIDマウスへ皮下移植した。50日後形成したテラトーマを組織学的な実験のため取り出した。スライスしたテラトーマの組織切片のHE染色を図5に示す。内胚葉性の上皮、筋肉、軟骨および神経上皮を含む三胚葉が、CMK6 ES細胞からのテラトーマで確認された(図5)。以上より、単離したテラトーマの組織学的な解析により、VS2Eを用いて液体窒素下で保存したCMK6 ES細胞の多能性が維持されていることが示された。
iPS細胞(6-2、BM66、5-1、4-2および4-1)は、ガラス化溶液を用いて急冷させ、液体窒素下で保存された。各iPS細胞クローンの生存率は、図6AからEに示す。ここで、従来の凍結保存液としてDAP溶液(2M DMSO、1M アセトアミド、3M プロピレングリコール、0.1mM 2-メルカプトエタノール、20% KSR、2 mM L-グルタミンおよび1% MEM 非必須アミノ酸を含むDMEM/F12)(Fujioka T, et al.,Int. J. Dev. Biol. 48: 1149 - 1154 (2004))を用い、本発明のVS2E溶液とその生存率を比較した。生存率はES細胞での方法と同様の方式で算出した。各iPS細胞クローンにおいて、VS2E溶液での凍結保存の方が、生存率が高い傾向が見られた。従って、DMSOを含有していないVS2E溶液でも従来のDMSOを含有している凍結保存液と同等、もしくはそれ以上の効力を有することが確認された。
Claims (13)
- 下記(i)から(iii)を含有し、ジメチルスルホキシドを含有しない、-80℃以下での凍結保存に用いるための、多能性幹細胞用の凍結保存液:
(i)30%(V/V)〜50%(V/V)のエチレングリコール、
(ii)20%(W/V)以下の、平均モル質量が1000 g/mol〜50000 g/molであるポリエチレングリコール、および
(iii)細胞培養用培地成分または臓器保存液成分。 - 動物血清を含有しない、請求項1に記載の凍結保存液。
- 細胞培養用培地成分として、血清代替物を20%(V/V)以下で含有する、請求項2に記載の凍結保存液。
- 前記血清代替物の濃度が20%(V/V)である、請求項3に記載の凍結保存液。
- 前記エチレングリコールの濃度が40%(V/V)である、請求項1から4の何れか一項に記載の凍結保存液。
- 前記ポリエチレングリコールの濃度が10%(W/V)である、請求項1から5の何れか一項に記載の凍結保存液。
- 前記ポリエチレングリコールの平均モル質量が、1000 g/molである、請求項1から6の何れか一項に記載の凍結保存液。
- 前記細胞培養用培地がDMEM/F12である、請求項1から7の何れか一項に記載の凍結保存液。
- 前記臓器保存液がユーロコリンズ液である、請求項1から8の何れか一項に記載の凍結保存液。
- 前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である、請求項1から9の何れか一項に記載の凍
結保存液。 - 請求項1から10の何れか一項に記載の凍結保存液を利用して多能性幹細胞を-80℃以下で凍結保存する工程を含む、多能性幹細胞の凍結保存方法。
- 多能性幹細胞を懸濁させた前記凍結保存液を、液体窒素を用いて急冷させる工程を含む、請求項11に記載の方法。
- 前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である、請求項11または12に記載の方法。
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