JP5579144B2 - 可変容量圧縮機 - Google Patents

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Description

本発明は、車両エアコンシステム等に使用される可変容量圧縮機に関する。
駆動軸に同期回転すると共に駆動軸の軸線に対する傾角(傾斜角度)を可変として往復動するピストンのストローク量を変化させて吐出容量を可変に制御する可変容量圧縮機が知られている。
この種の可変容量圧縮機においては、ピストンの往復動慣性力によって斜板に傾角増大方向のモーメントが作用するが、これを打ち消すために通常は斜板の回転によって斜板に傾角減少方向の回転運動のモーメントが作用するように斜板の慣性乗積が設定されている。
しかしながら、斜板の最小傾角または最小傾角の近傍では、特定の目的のために斜板の回転によって斜板に傾角増大方向の回転運動のモーメントが作用するように斜板の慣性乗積を設定する場合がある。
特許文献1では、最小傾角0°における斜板の慣性乗積を大きく設定して斜板の回転運動による傾角増大モーメントを容量復帰に積極的に利用するものであるが、一方、特許文献2では最小傾角0°での斜板の慣性乗積を比較的小さく設定して斜板の回転運動による傾角増大モーメントを抑制し、圧縮機OFF時の消費電力を抑制しようとするものである。
特開平7−293429号公報 特開2000−2180号公報
駆動軸が回転しているとき、斜板に作用する回転運動のモーメントは、斜板及び斜板に固定されている部材については、例えば特許文献1に開示されている計算式によって算出できる。
しかしながら、例えば特開2002−188565に開示されているように、リンクアームが斜板に固定されておらず、斜板の傾角が変化すると第1連結ピン(ピン11)周りにリンクアームが回動する構造となっている可変容量圧縮機に対しては、特許文献1に開示されている計算式ではリングアームの影響を含めた斜板に作用する回転運動のトータルのモーメントを算出できない。したがって、従来では、例えば、リンクアームの遠心力による傾角増大モーメントのみを考慮して計算しており、駆動軸が回転しているときの斜板に作用する回転運動のトータルモーメントが計算値と実体とでずれがあった。
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、斜板とロータとを、両端部が回動自由に連結されたリンク機構を介して連結した可変容量圧縮機において、リンクアームの影響を含めた斜板に作用する回転運動のトータルモーメントを正確に算出でき、最小傾角において斜板に作用する傾角増大方向の回転運動のトータルモーメントを小さく設定できる可変容量圧縮機を提供することを目的とする。
このため請求項1に係る発明は、
ハウジング内に回転自由に支持された駆動軸に固定されたロータと、前記駆動軸の軸線に対する傾角が可変となるように前記駆動軸に摺動自由に取り付けられた斜板とを、一端が第1連結ピンを介して前記ロータと回動自由に連結し、他端が第2連結ピンを介して前記斜板と回動自由に連結したリンクアームを介して連結し、前記斜板の傾動を許容しつつ前記ロータと同期回転させると共に、前記斜板の回転をシリンダボア内に嵌挿されたピストンの前記駆動軸と平行な往復動に変換して冷媒を吸入・吐出し、前記斜板の傾角を制御してピストンのストローク量を制御することにより冷媒の吐出容量を可変に制御する可変容量圧縮機において、以下の構成とした。
前記斜板の最小傾角θmin位置において、前記駆動軸が回転したときに前記斜板または該斜板及びこれと一体の連結体によって発生する回転運転のモーメントが前記斜板の傾角減少方向に作用するように前記斜板または該斜板及びこれと一体の連結体の形状、質量、重心を設定し、
前記リンクアーム、前記斜板及びこれらと一体の連結体によって発生するトータルの回転運動のモーメントが前記斜板の傾角増大方向に作用するように、前記リンクアームまたは該リンクアーム及びこれと一体の連結体の形状、質量、重心を設定し、
かつ、前記リンクアームまたは該リンクアーム及びこれと一体の連結体の形状、質量、重心の設定による前記斜板の傾角増大方向へ作用する回転運動のモーメント RX を、下式に示す前記重心周りのモーメント成分と前記重心に作用する遠心力によるモーメント成分との和 LX によって算出する。

LX =ω [(1/2)(Iz ”Z” −I Y”Y” )sin2β−mL G sinβ(L Y +L G cosβ)]

ω :駆動軸の回転角速度
Z”Z” :リンクアームの重心Gを原点とし、駆動軸の軸心と上死点位置にあるピストンの中心軸線とを含む平面において第1連結ピンの中心と第2連結ピンの中心を通る線をZ”軸に関するリンクアームの慣性モーメント
Y”Y” :リンクアームの重心Gを原点とし、Z”軸と直交するY”軸に関するリンクアームの慣性モーメント
β:斜板の傾角θのときのリンクアームの傾斜角度(第1連結ピン122の中心を通り、駆動軸の軸心と直交するY軸とZ”軸のなす角)
m:リンクアームの質量
:第1連結ピンの中心とリンクアームの重心との間の距離
:駆動軸の軸心(Z軸)と第1連結ピンの中心との間の距離
また、請求項2に係る発明は、
斜板の最小傾角θminは、前記斜板が前記駆動軸の軸線に対して直交するときの斜板の傾角を0°とした場合0°に設定され、前記リンクアーム、前記斜板、及びこれらと一体の連結体によって発生する回転運動のモーメントは、前記最小傾角θminから所定の傾角θbに至る間は前記斜板の傾角増大方向に作用し、前記所定の傾角θbを超えて最大傾角θmaxに至る間は前記斜板の傾角減少方向に作用するものであって、かつ前記所定の傾角θbは、前記ピストンが前記冷媒を圧縮する際の圧縮反力が作用する最小の傾角範囲に設定されている構成とした。
請求項1に係る発明によれば、
斜板の最小傾角において斜板に作用する傾角増大方向のトータルの回転運動のモーメントを小さく、かつ精度よく設定することができ、ひいては可変容量圧縮機の最小傾角近傍での斜板の傾角の制御精度を向上できる。
請求項2に係る発明によれば、
斜板に作用する傾角増大向の回転運動のモーメントは必要最小限の傾角領域のみに作用し、斜板の傾角がθb未満であった場合での傾角の増大がスムースに行われるともに、ピストン等の往復動の慣性力によるモーメントのカウンターモーメントとなる傾角領域(θ>θb)が十分確保できる。
本発明に係る可変容量圧縮機の内部構造を示す断面図。 同上可変容量圧縮機に使用されるリンクアームの側面図及びA矢視図。 同上可変容量圧縮機に使用される駆動軸とロータの組立体の斜視図。 同上可変容量圧縮機に使用される斜板の斜視図。 同上可変容量圧縮機に使用される駆動軸、ロータ、斜板、リンクアームの組立体について回転運転のモーメントの算出に用いる座標系を示す図。 同上リンクアームのX”Y”Z”座標系を示す図。 同上リンクアームの重心位置G(G、G)の算出に用いる図。 同上斜板に作用する回転運動の各モーメントを示す線図。
以下に、本発明の実施形態を、図に基づいて説明する。図1は、本発明に係る可変容量圧縮機の内部構造を示す。
可変容量圧縮機100はクラッチレス圧縮機であって、周辺部に複数のシリンダボア101aを備えたシリンダブロック101と、シリンダブロック101の一端側に連結されたフロントハウジング102と、シリンダブロック101の他端側にバルブプレート103を介して連結されたシリンダヘッド104とを備えている。
シリンダブロック101と、フロントハウジング102とによって規定されるクランク室140内を横断して、駆動軸110が設けられ、該駆動軸110の軸線方向中心部の周囲には、斜板111が配置されている。斜板111は、駆動軸110に固定されたロータ112とリンク機構120を介して連結し、駆動軸110の軸線に対する傾角(傾斜角度)が可変に構成されている。
ロータ112と斜板111の間には斜板111を最小傾角に向けて最小傾角に至るまで付勢する傾角減少バネ114が装着され、また斜板111を挟んで反対側には斜板111の傾角を増大する方向に向けて付勢する傾角増大バネ115が装着されている。最小傾角において傾角増大バネ115の付勢力は傾角減少バネ114の付勢力より大きく設定され、これにより、駆動軸110が回転せず傾角減少バネ114と傾角増大バネ115の付勢力がバランスするとき、斜板111は、最小傾角より大きい傾角に位置する。
駆動軸110の一端は、フロントハウジング102の外側に突出したボス部102a内を貫通して外側まで延在し、図示しない動力伝達装置に連結されている。尚、駆動軸110とボス部102aとの間には、軸封装置130が挿入され、内部と外部とを遮断している。
駆動軸110及びロータ112はラジアル方向に軸受131、132で支持され、スラスト方向に軸受133、スラストプレート134で支持されている。
そして、車両用エンジンなど外部駆動源からの動力が動力伝達装置に伝達され、駆動軸110は動力伝達装置の回転と同期して回転可能となっている。尚、駆動軸110のスラストプレート134の当接部とスラストプレート134との隙間は調整ネジ135により所定の隙間に調整されている。
シリンダボア101a内には、ピストン136が配置され、ピストン136のクランク室140側に突出している端部の内側に形成された窪みには、斜板111の外周部が収容され、斜板111は一対のシュー137を介して、ピストン136と連動する構成となっている。したがって斜板111の回転によりピストン136がシリンダボア101a内を往復動することが可能となる。
シリンダヘッド104には、中央部に吸入室141及び吸入室141を環状に取り囲む吐出室142が区画形成され、吸入室141は、シリンダボア101aとは、バルブプレート103に設けられた連通孔103a、吸入弁(図示せず)を介して連通し、吐出室142は、シリンダボア101aとは、吐出弁(図示せず)、バルブプレート103に形成された連通孔103bを介して連通している。
フロントハウジング102、シリンダブロック101、バルブプレート103、シリンダヘッド104が、図示しないガスケットを介して複数の通しボルト105によって締結されて圧縮機ハウジングが形成される。
またシリンダブロック101の図中上部にはマフラが設けられ、マフラは蓋部材106と、シリンダブロック101上部に区画形成された形成壁101bとが図示しないシール部材を介してボルトにより締結されることにより形成される。マフラ空間143には逆止弁200が配置されている。逆止弁200は連通路144とマフラ空間143との接続部に配置され、連通路144(上流側)とマフラ空間143(下流側)との圧力差に応答して動作し、圧力差が所定値より小さい場合連通路144を遮断し、圧力差が所定値より大きい場合は、連通路144を開放する。したがって吐出室142は、連通路144、逆止弁200、マフラ空間143及び吐出ポート106aで形成される吐出通路を介してエアコンシステムの吐出側冷媒回路と接続されている。
シリンダヘッド104には、吸入ポート104a、連通路104bが形成され、吸入室141は、連通路104b及び吸入ポート104aで形成される吸入通路を介してエアコンシステムの吸入側冷媒回路と接続されている。吸入通路はシリンダヘッド104の径方向外側から吐出室142の一部を横切るように直線状に伸びている。
シリンダヘッド104にはさらに制御弁300が設けられている。制御弁300は吐出室142とクランク室140とを連通する連通路145の開度を調整し、クランク室140への吐出ガス導入量を制御する。またクランク室140内の冷媒は、連通路101c、空間146、バルブプレート103に形成されたオリフィス103cを経由して吸入室141へ流れる。
したがって制御弁300によりクランク室140の圧力、つまりピストン136の背圧を変化させ、斜板111の傾角、つまりピストン136のストローク量を変化させることにより可変容量圧縮機100の吐出容量を可変制御することができる。
エアコン作動時、つまり可変容量圧縮機100の作動状態では、外部信号に基づいて制御弁300に内蔵されるソレノイドの通電量が調整され、吸入室141の圧力が所定値になるように吐出容量が可変制御される。制御弁300は、外部環境に応じて、吸入圧力を最適制御することができる。
またエアコン非作動時、つまり可変容量圧縮機100の非運転状態では、制御弁300に内蔵されるソレノイドの通電をOFFすることにより連通路145を強制開放し、可変容量圧縮機100の吐出容量を最小に制御する。
次に、本発明に係るリンク機構120について説明する。
駆動軸110にはロータ112が固定され、ロータ112には一対の第1アーム112aが駆動軸110と平行に斜板111側に向かって突設されている。一対の第1アーム112aの内側にリンクアーム121のほぼ筒状に形成された一端側121aがガイドされる。
即ち、第1アーム112aに形成された貫通孔112b及びリンクアーム121の一端側121aに形成された貫通孔121bに、連結手段としての第1連結ピン122を挿通することにより、リンクアーム121は一対の第1アーム112aにガイドされながら第1連結ピン122の軸心を中心として回動可能となっている。
尚、第1連結ピン122はリンクアーム121に形成された貫通孔121bに圧入保持され、第1連結ピン122の外周と第1アーム112aに形成された貫通孔112bとの間には微小な隙間が形成されて相対的に回動可能となっている。
リンクアーム121の他端側121cは筒状に形成された一端側121aから突設された一対のアームとなっており、その内側に斜板111から突設された第2アーム111aがガイドされる。リンクアーム121の他端側121cに形成された貫通孔121d及び第2アーム111aに形成された貫通孔111bに連結手段としての第2連結ピン123を挿通することにより、リンクアーム121と斜板111とが連結され、第2連結ピン123の軸心を中心としてリンクアーム121と斜板111とが相対的に回動可能となっている。
尚、第2連結ピン123は第2アーム111aの貫通孔111bに圧入保持され、第2連結ピン123の外周とリンクアーム121に形成された貫通孔121dとの間には微小な隙間が形成されて相対的に回動可能となっている。
第1アーム112a、第2アーム111a、リンクアーム121、第1連結ピン122及び第2連結ピン123でリンク機構120が構成されており、したがって斜板111は駆動軸110に固定されたロータ112とリンク機構120を介して連結し、ロータ112の回転トルクを受け、駆動軸110に沿ってその傾角が変化可能となっている。
斜板111の駆動軸110を貫通して形成された貫通孔111cは、斜板111が最大傾角(θmax)と最小傾角(θmin)の範囲で傾動可能となる形状に形成されている。即ち、貫通孔111cには駆動軸110と当接して最大傾角を規制する最大傾角規制部と、同じく最小傾角を規制する最小傾角規制部と、が形成されている。
斜板111が駆動軸110に対して直交するときの斜板の傾角を0°とした場合、貫通孔111cの最小傾角規制部は、斜板111を略0°まで傾角変位可能なように形成されている。尚、略0°とは0°±0.5°の範囲を指す。
以上のように構成された可変容量圧縮機において、斜板111の傾角に関るモーメントについて、以下に説明する。
まず、斜板111に作用するリンクアームによる回転運動のモーメントの算出を、図5〜図7を参照して説明する。
なお、リンクアーム121をロータに連結する第1連結ピン122等の連結部がリンクアーム121側に固定される場合は、リンクアーム121と第1連結ピン122等の連結部との連結体のモーメントとして算出する。また、リンクアーム121を斜板111に連結する第2連結体等の連結部がリンクアーム121側に固定される場合も同様に、リンクアーム121と第2連結ピン123等の連結部との連結体のモーメントとして算出する。
a.座標系
可変容量圧縮機100の駆動軸110、ロータ112、斜板111及びリンク機構120の組立体において、図5及び図6に示すように3つの座標系(XYZ、X’Y’Z’、X”Y”Z”)を考える。
1つ目はXYZ座標系で、駆動軸110の軸心と上死点位置にあるピストン136の中心軸線とを含む平面において駆動軸110の軸心をZ軸、第1連結ピン122の中心を通り、駆動軸110の軸心と直交する線をY軸とし、Z軸とY軸の交点を通りZ軸とY軸と直交する線をX軸とする。
2つ目はX’Y’Z’座標系で、リンクアーム121の重心Gを原点とし、X軸と平行なX’軸、Y軸と平行なY’軸、Z軸と平行なZ’軸を有する。尚、リンクアーム121は駆動軸110の軸心と上死点位置にあるピストン136の中心軸線とを含む平面に対して対称形状を成し、かつ前記平面に直交し貫通孔121b(つまり第1連結ピン122)の中心と貫通孔121d(つまり第2連結ピン123)の中心を通る平面に対しても対称形状を成している。したがって重心GはYZ平面にあり、かつ第1連結ピン122の中心と第2連結ピン123の中心を通る線上にある。
3つ目は、X”Y”Z”座標系で、リンクアームの重心Gを原点とし、駆動軸110の軸心と上死点位置にあるピストン136の中心軸線とを含む平面において第1連結ピン122の中心と第2連結ピン123の中心を通る線をZ”軸、Z”軸と直交する軸をY”軸とし、Z”軸とY”軸と直交する軸線をX”軸とする。
斜板111の変角動作に応じてリンクアーム121はYZ平面で第1連結ピン122を中心として回動し、それに伴い第2連結ピン123の位置が変化する。斜板111の傾角θのときのリンクアーム121の傾斜角度βはY軸とZ”軸のなす角である。
b.リンクアーム重心G周りのモーメント
ロータ112が回転すると、リンクアーム121によってロータ112に連結されている第1連結ピン122周りに回転運動のモーメントが作用する。
この第1連結ピン122周りのモーメントベクトルMは角運動量Hの時間微分であるから次式で表される。
リンクアーム121は前述のように対称形状であるため、慣性主軸はX”Y”Z”軸と一致する。したがって慣性モーメントテンソルIは次式で表される。
(2)式をX’Y’Z’座標系に座標変換すると慣性モーメントテンソルI’は次式により表される。
したがって重心周りのモーメントMGLは次式で求められる。
c.リンクアーム重心に作用する遠心力によるモーメント
(1)式の第2項 r×ma は位置ベクトルと力ベクトルの外積になっており、これは力のモーメントである。
リンクアーム121はYZ平面で第1連結ピン122を中心として回動するので、モーメントベクトルはX軸方向である。
したがって力maは重心にかかる遠心力、rは第2連結ピン中心〜リンクアーム重心間距離のZ軸方向距離である。
リンクアーム121の重心位置G(G、G)は、図7より以下のように求めることができる。
よって遠心力F及びこの遠心力Fによる第1連結ピン122周りのモーメントMFLは次式で求めることができる。
d.第1連結ピン周りのリンクアームによる回転運動のモーメント
(1)式、(5)式及び(6)式から、第1連結ピン122周りのリンクアーム121による回転運動のモーメントMは次式により求めることができる。

e.斜板変角瞬間中心周りのリンクアームのモーメント
斜板変角瞬間中心R は、YZ平面において斜板111の回転中心Kを通りZ軸と直交する線と、第1連結ピン122の中心と第2連結ピン123の中心を通る線との交点である。
第1連結ピン122周りのモーメントM LX によって発生する第2連結ピン123の回転方向の力F と、第2連結ピン中心〜瞬間中心間距離L との積がリンクアーム121による斜板変角瞬間中心Rc周りのモーメントM RX となり、次式によって求めることができる。
斜板の傾角を変化させるモーメント(図8)
斜板111は、既述のように、制御弁300によってピストン136のガス圧縮反力による傾角増大モーメントに対抗するピストン136に作用するクランク室140の圧力を制御することにより、斜板111の傾角を変化させて吐出容量を制御するが、以下のようなモーメントが斜板111の傾角変化に作用する。具体的には、コイルバネ114の付勢力とコイルバネ115の付勢力の合力によるモーメントの他、ピストン136等の往復動によって発生する慣性力によるモーメントM、斜板111に作用する回転運動のモーメントMがある。
尚、モーメントM及びモーメントMは駆動軸110の回転数の二乗に比例して増大するので、回転数が小さい領域ではほとんど無視できるが、高速回転になると斜板111の傾角変化に影響を及ぼす。
モーメントMは傾角増大方向に作用し、モーメントMは基本的にモーメントMのカウンターモーメントとなるものであるが、傾角の小さい領域では傾角増大方向に作用するようになっている。
図8は、所定の駆動軸回転数における斜板111に作用する回転運動のモーメントを示すものである。
第2連結ピン123は斜板111に圧入されており、斜板111の慣性乗積の設定に基づいて斜板111の回転によって発生する回転運動のモーメントMは第2連結ピン123を含めたものとなり、図8のMに示す特性となるように斜板111の形状、質量、重心が設定されている。つまり第2連結ピン123と斜板111の一体構成物は、最小傾角θmin(0°)において、斜板111を傾角減少方向へ向かわせる回転運動のモーメントを生じるべく設定されている(M<0)。
なお、第2連結ピン等の連結部材がリンクアーム121に固定されている場合は、モーメントMは、斜板111のみのモーメントとして算出される。
またロータ112が回転したとき、リンクアーム121によって第1連結ピン122を中心として回転運動のモーメントが作用し、図8に示すように、それは第2連結ピン123を介して斜板111を傾角増大方向へ向かわせる回転運動のモーメントMRXとなる(MRX>0)。
したがって斜板111に作用する回転運動によるモーメントMはM+MRXとなる。
ここでリンクアーム121の形状、質量、重心を、最小傾角θmin(0°)において、M+MRX>0となるように設定する。
これにより、第2連結ピン123と斜板111の一体構成物にリンクアーム121を連結させた組立体は、最小傾角θmin(0°)から傾角θbに至る間は斜板111を傾角増大方向へ向かわせる回転運動のモーメントが作用し、傾角θbを超えて最大傾角(θmax)に至る間は斜板111を傾角減少方向へ向かわせる回転運動のモーメントが作用する。
尚、M+MRX>0となるように設定されているが、M+MRXの影響ができるだけ小さくなるようにリンクアーム121の形状、質量、重心が設定されている。
斜板111を傾角増大方向へ向かわせる回転運動のモーメントM+MRXは、傾角θb未満の領域から斜板の傾角を増大させることに寄与するものであるが、ピストン136がガスを圧縮する際の圧縮反力が発生する傾角領域に至ればもはや不要なものである。このため傾角θbはピストン136がガスを圧縮する際の圧縮反力が発生する最小の傾角領域に設定されている。具体的には傾角θbは、最大傾角θmaxに対応する最大吐出容量を100%としたとき、吐出容量が2%から5%の範囲となるような傾角領域に設定されている。
したがって、例えば可変容量圧縮機100を非作動状態で運転しているとき斜板111の傾角がθb未満であった場合、この状態から可変容量圧縮機100を作動状態に切り替えると回転運動のモーメントM+MRXはコイルバネ115の付勢力による斜板の傾角の増大を補助して斜板の傾角の増大がスムースに行われ、かつ斜板111の傾角がθbを超えれば回転運動のモーメントM+MRXはただちに慣性力によるモーメントMのカウンターモーメントとなってモーメントアンバランスを低減する方向に寄与する。
斜板111に作用する傾角増大向の回転運動のモーメントが、吐出容量で2%から5%の範囲に限定されているので、可変容量圧縮機100が高速回転しても傾角増大向の回転運動のモーメントよる悪影響を実質的に回避することができる。
このように、斜板に作用する傾角増大向の回転運動のモーメントは必要最小限の傾角領域のみに作用し、斜板の傾角がθb未満であった場合での傾角の増大がスムースに行われるともに、ピストン等の往復動の慣性力によるモーメントのカウンターモーメントとなる傾角領域(θ>θb)が十分確保できる。
かかる設定は、上記モーメント算出過程で説明したように、リンクアーム121によって、第1連結ピン122周りに回転運動のモーメントMLXが作用し、該モーメントMLXが、リンクアーム122と斜板111との連結を介して斜板111の傾角増大方向のモーメントM(図8に示すように傾角変化によらず略一定)となって作用し、一方、斜板111の最小傾角θmin位置において、駆動軸110が回転したときに斜板111及び第2連結ピン123によって発生する回転運動のモーメントMを、斜板111の傾角減少方向に作用するように設定することで達成される。
そして、かかる設定により、駆動軸回転に伴うモーメントM+M+MRXを0に近い値に維持できることにより、制御弁300でのクランク室140内圧力(ピストン136の背圧)制御による吐出容量制御への影響をできるだけ小さくすることができ、制御精度を向上させることができる。
尚、本発明対象となるリンク機構を備えた可変容量圧縮機において、リンクアームについて、簡易的に遠心力による傾角増大モーメントのみを考慮して計算すると、駆動軸が回転したときの回転運動のトータルモーメントが正確に算出できない。特に、特許文献2に開示されているように、最小傾角において斜板の慣性乗積を小さく設定して斜板の回転運動による傾角増大モーメントが大きくなることを抑制しようとする場合には、リンクアームによって斜板に作用する傾角増大モーメントの影響が相対的に大きくなるので、斜板が最小傾角近傍に位置している場合斜板の傾角が狙いよりずれてしまうこととなる。
この点、上記実施形態では、リンクアームの形状、質量、重心の設定による前記斜板の傾角増大方向の回転運動のモーメントを、リンクアームの重心周りのモーメント成分と前記リンクアームの重心に作用する遠心力によるモーメント成分との和によって算出することにより、精度よく算出することができる。
これにより、最小傾角近傍での斜板の傾角を精度よく設定でき、傾角の制御特性すなわちピストンストローク量による冷媒吐出容量を高精度に制御することができる。
なお、上記実施形態では、リンクアームは単一の部材としたが、複数の部材で構成してもよい。
また、上記実施形態ではリンクアームは対称形状となっているが、非対称形状としてもよい。
また、上記実施形態ではリンクアームの連結手段はピンであるが、ピンを用いない構造としてもよい。例えば第1連結ピンを用いず、リンクアームの一端側の先端を回動自在に支持する構造をロータ側に設けてもよい。
また、上記実施形態では斜板が駆動軸に直接支持された構造であるが、駆動軸に滑動可能に嵌装された斜板支持体(スリーブ)に支持される斜板構造であってもよい。
また、実施形態では斜板の貫通孔111cに最小傾角規制部が形成されているが、駆動軸にサークリップ等を装着して最小傾角を規制しても良い。
また、実施形態ではクラッチレス圧縮機としたが、電磁クラッチを装着した可変容量圧縮機としても良い。またモータで駆動される可変容量圧縮機にも適用できる。
100…可変容量圧縮機、101…シリンダブロック、101a…シリンダボア、102…フロントハウジング、104…シリンダヘッド、110…駆動軸、111…斜板、111a…第2アーム、111c…貫通孔、112…ロータ、112a…第1アーム、114…傾角減少バネ、115…傾角増大バネ、116…バネ支持部材、116a…円筒部、120…リンク機構、121…リンクアーム、122…第1連結ピン、123…第2連結ピン、136…ピストン、140…クランク室、141…吸入室、142…吐出室、145…連通路、300…制御弁、M…ピストン136等の往復動によって発生する慣性力によるモーメント、MRX…リンクアーム121によって斜板111に作用する回転運動のモーメント、M…斜板111及び第2連結ピン123に作用する回転運動のモーメント

Claims (2)

  1. ハウジング内に回転自由に支持された駆動軸に固定されたロータと、前記駆動軸の軸線に対する傾角が可変となるように前記駆動軸に摺動自由に取り付けられた斜板とを、一端が第1連結ピンを介して前記ロータと回動自由に連結し、他端が第2連結ピンを介して前記斜板と回動自由に連結したリンクアームを介して連結し、前記斜板の傾動を許容しつつ前記ロータと同期回転させると共に、前記斜板の回転をシリンダボア内に嵌挿されたピストンの前記駆動軸と平行な往復動に変換して冷媒を吸入・吐出し、前記斜板の傾角を制御してピストンのストローク量を制御することにより冷媒の吐出容量を可変に制御する可変容量圧縮機において、
    前記斜板の最小傾角θmin位置において、前記駆動軸が回転したときに前記斜板または該斜板及びこれと一体の連結体によって発生する回転運転のモーメントが前記斜板の傾角減少方向に作用するように前記斜板または該斜板及びこれと一体の連結体の形状、質量、重心を設定し、
    前記リンクアーム、前記斜板及びこれらと一体の連結体によって発生するトータルの回転運動のモーメントが前記斜板の傾角増大方向に作用するように、前記リンクアームまたは該リンクアーム及びこれと一体の連結体の形状、質量、重心を設定し、
    かつ、前記リンクアームまたは該リンクアーム及びこれと一体の連結体の形状、質量、重心の設定による前記斜板の傾角増大方向へ作用する回転運動のモーメント RX を、下式に示す前記重心周りのモーメント成分と前記重心に作用する遠心力によるモーメント成分との和 LX によって算出することを特徴とする可変容量圧縮機。

    LX =ω [(1/2)(Iz ”Z” −I Y”Y” )sin2β−mL G sinβ(L Y +L G cosβ)]

    ω :駆動軸の回転角速度
    Z”Z” :リンクアームの重心Gを原点とし、駆動軸の軸心と上死点位置にあるピストンの中心軸線とを含む平面において第1連結ピンの中心と第2連結ピンの中心を通る線をZ”軸に関するリンクアームの慣性モーメント
    Y”Y” :リンクアームの重心Gを原点とし、Z”軸と直交するY”軸に関するリンクアームの慣性モーメント
    β:斜板の傾角θのときのリンクアームの傾斜角度(第1連結ピン122の中心を通り、駆動軸の軸心と直交するY軸とZ”軸のなす角)
    m:リンクアームの質量
    :第1連結ピンの中心とリンクアームの重心との間の距離
    :駆動軸の軸心(Z軸)と第1連結ピンの中心との間の距離
  2. 前記斜板の最小傾角θminは、前記斜板が前記駆動軸の軸線に対して直交するときの斜板の傾角を0°とした場合0°に設定され、前記リンクアーム、前記斜板、及びこれらと一体の連結体によって発生する回転運動のモーメントは、前記最小傾角θminから所定の傾角θbに至る間は前記斜板の傾角増大方向に作用し、前記所定の傾角θbを超えて最大傾角θmaxに至る間は前記斜板の傾角減少方向に作用するものであって、かつ前記所定の傾角θbは、前記ピストンが前記冷媒を圧縮する際の圧縮反力が作用する最小の傾角範囲に設定されている、請求項1に記載の可変容量圧縮機。
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