[実施の形態1]
図1は、本願発明の基礎となるパターン修正装置の要部を示す断面図である。図1において、このパターン修正装置は、静電吸引型のインクジェットノズル1を備える。ノズル1内には修正インク2が注入される。またノズル1内には電極3が設けられ、ノズル1の先端から所定の距離だけ離れた位置に対向電極4が設けられ、対向電極4のノズル1側の表面上に修正対象の基板5が配置される。電極3,4間にパルス電圧を印加すると、ノズル1の先端から修正インク2の液滴が吐出され、帯電した液滴が空間を飛翔して基板5の表面に付着(着弾)する。
図2(a)は、基板5の構成を例示する図である。図2(a)において、基板5は、ガラス基板のような絶縁基板6を含む。絶縁基板6の表面には、複数の導電性パターン(配線)7が所定の間隔で平行に形成されている。複数の導電性パターン7のうちの1本の導電性パターン7には、オープン欠陥部7aが存在するものとする。
オープン欠陥部7aの一方側(図では上側)および他方側(図では下側)には、正常な導電性パターン7が存在する。ノズル1の先端を一方側の導電性パターン7の端部からオープン欠陥部7aを介して他方側の導電性パターン7の端部まで移動させながら修正インク2の液滴を吐出すると、図2(b)に示すように、オープン欠陥部7aを覆うように帯状の修正インク層2Aが形成される。修正インク層2Aを焼成すると、修正インク層2Aは導電性を示し、オープン欠陥部7aの一方側の導電性パターン7と他方側の導電性パターン7とが電気的に接続される。このようにして、オープン欠陥部7aが修正される。
ところで、このようなパターン修正装置は、クリーンルーム内に設置される。クリーンルーム内は、室温20℃前後、湿度50%以下に管理されるので、乾燥して静電気を発生し易い環境となる。このような低湿度の環境下で、静電吸引型のインクジェットノズル1を用いて表面抵抗が高くて静電気を帯び易い絶縁性の高い材質(たとえば、ガラスや樹脂)で形成された絶縁基板6の表面に修正インク2を吐出する場合には、静電気の影響で良好な修正インク層2Aを得るのが難しくなる。
また、絶縁基板6上に導電性パターン7が形成された基板5の場合には、絶縁基板6の表面が露出した部分と導電性パターン7の表面では静電気の発生状況が異なる。すなわち、導電性パターン7が存在しない位置や導電性パターン7が欠損して絶縁基板6が露出した部分は表面抵抗が高くて静電気を帯び易い。逆に、導電性パターン7の表面は抵抗が低く、帯電した静電気を大気中に放電し易くなるため、静電気の影響を受け難い。
たとえば、静電吸引型のインクジェットノズル1からオープン欠陥部7aに修正インク2の液滴2aを吐出すると、露出した絶縁基板6の表面に溜まった静電気によって液滴2aが弾かれてノズル1の直下には着弾せず、周りの導電性パターン7に吸引されて、導電性パターン7の表面または導電性パターン7と絶縁基板6の境界部(図2(a)の領域A1〜A4)に修正インク2の液滴2aが付着(着弾)する。あるいは、液滴2aが発散し、霧状になって基板5表面に飛散する現象も発生する。このように、乾燥した環境下では、高抵抗の絶縁材質を含む基板6に対して修正インク2を吐出すると、安定した描画性が得られず、オープン欠陥部7aの修正が困難になる可能性が高くなる。
特許文献4では、この問題を解決するために、基板5とインクジェット装置全体を恒温槽内に収容し、恒温室内を高湿度雰囲気に維持して基板5の表面に溜まった電荷を放電させている。しかし、この方法では、上述したように、装置の大型化、複雑化を招くなどの問題がある。また、そのような大型の恒温槽をクリーンルーム内に設置することは好ましくない。また、インクジェットノズル1などを搭載して修正位置に移動させる位置決めステージなどの精密機器が恒温槽内に配置され、高湿度雰囲気下に置かれると、位置決めステージに含まれるセンサ、モータ、軸受部などの精密機器への悪影響が懸念される。また、基板5の種類によってはパターンへの悪影響の発生も考えられる。
また、近年では、フラットパネルディスプレイの大型化、高精細化に伴い導電性パターン7の微細化が進み、線幅5μm以下の導電性パターン7もある。そのような導電性パターン7のオープン欠陥部7aを修正するためには、ノズル1の噴射口1aの内径を小さくして液滴2aを小さくする必要がある。ノズル1の噴射口1aの内径を小さくすると、圧力や熱を利用して修正インク2を押し出す吐出方法ではインクの吐出が難しくなる。したがって、静電吸引型のインクジェットノズル1を使用することが必要である。本願発明は、このようなパターン修正装置の問題点を解決するものである。
図3は、この発明の実施の形態1によるパターン修正装置の要部を示す断面図である。図3において、このパターン修正装置では、静電吸引型のインクジェットノズル1および対向電極4に加え、加湿装置10および加湿ノズル11が設けられる。加湿装置10は、湿度の高い気体を生成する。加湿ノズル11は、加湿装置10で生成された湿度の高い気体をオープン欠陥部7aに噴射し、オープン欠陥部7aおよびその近傍の湿度を高めて静電気を除去するために設けられる。また、加湿ノズル11の噴射口11aから結露した水滴が基板5上に落下するのを防止するため、吸水部材12を噴射口11aに設けてもよい。
導電性パターン7のオープン欠陥部7aを修正する場合は、図3に示すように、位置決め装置(図示せず)により、オープン欠陥部7aの上方の所定位置にインクジェットノズル1の先端を位置決めする。加湿ノズル11の先端部はインクジェットノズル1の先端部に対して斜めに配置されており、インクジェットノズルの先端をオープン欠陥部7aの上方の所定位置に位置決めすると、加湿ノズル11の先端がオープン欠陥部7aの斜め上方に位置決めされ、加湿ノズル11の先端がオープン欠陥部7aに対向する。
次に、加湿ノズル11の噴射口11aから湿った気体をオープン欠陥部7aに噴射して、オープン欠陥部7aおよびその近傍の湿度を局部的に高くする。これにより、オープン欠陥部7aおよびその近傍において絶縁基板6の表面抵抗が低下し、オープン欠陥部7aおよびその近傍において絶縁基板6の表面に帯電した静電気が大気に放電される。
次いで、電極3,4間にパルス電圧を印加する。これにより、ノズル1の先端から修正インク2の液滴2aが吐出され、帯電した液滴2aが空間を飛翔して基板5の表面の目標位置に付着(着弾)する。このとき、オープン欠陥部7aおよびその近傍において絶縁基板6の表面に帯電した静電気は減少しているので、修正インク2の液滴2aは静電気の影響を受けず、目標位置に付着する。ノズル1,11をオープン欠陥部7aに沿って移動させながら、修正インク2の液滴2aを吐出すると、図2(b)に示した正常な形状の修正インク層2Aが形成される。
修正インク2の液滴2aの吐出が終了したら、湿った気体の噴射を終了する。このように、局部的な加湿は修正インク2の吐出が終了した時点で停止するので、局部加湿は短時間となり、基板5に対する加湿の影響を最小限に留めることができる。
なお、パターン修正装置の設置場所(クリーンルーム)の湿度が50%未満であると、絶縁基板6の表面に発生する静電気が増大して液滴2aの発散現象が発生し易くなる。一方、湿度が55%以上になると、静電気の帯電量よりも放電量が多くなって静電気が減少する。そのため、オープン欠陥部7aおよびその近傍の湿度を55%以上にすることが好ましい。したがって、本願発明は、クリーンルームのように湿度50%以下の乾燥雰囲気中、あるいは冬場の乾燥した室内でパターン修正を行なう場合に、特に有効である。
また、加湿ノズル11の噴射口11aから噴射される加湿した気体の流量が多過ぎると、インクジェットノズル1ら吐出された修正インク2の液滴2aが気体の圧力によって流され、ノズル1の直下から離れた位置に着弾する。また、気体の流量をさらに増大させると、修正インク2の液滴2aが発散してしまい、所定形状の修正インク層2Aが得られなくなる。
そのため、加湿ノズル11から噴射される加湿された気体の流量は、液滴2aが流されずノズル1の直下に着弾する程度に設定することが好ましい。内径2mmの加湿ノズル11をインクジェットノズル1から10mm程度離間位置に配置し、加湿した気体を斜め上方から噴射した場合、加湿ノズル11の噴射口11aの面積1mm2当たりの流量を0.6ml/sec(ミリリットル/秒)以下に設定すれば、ほぼノズル1の直下に液滴2aが着弾する。しかし、気体の流量を3ml/sec以上に設定すると、気体によって液滴2aが流され、液滴2aがノズル1の直下に着弾しない傾向が観察された。そのため、噴射口11aの面積1mm2当たりの気体の噴射流量は、3ml/sec以下の微量に設定することが好ましい。
図4は、加湿装置10の構成を示す図である。図4において、加湿装置10では、容器13の底に加湿用の液体(たとえば蒸留水や純水などの水)14が注入されている。気体(たとえば空気)は、気体供給部15から流量制御部16を経由して容器13の液体14内に供給される。これにより、液体14内に気体の泡が発生し、気体の湿度が高められる。
なお、多孔質部材17を介して液体14内に気体を供給すれば、より細かい泡が発生するので、気体の湿度を効率良く高めるとともに、大きな液体14のミストが加湿ノズル11内に搬送されることを防止することができる。また、容器13の出口にフィルタ18を設けて、加湿された気体内の大きなミストを除去するようにしてもよい。また、容器13内の液体14を加熱するヒータ19を設けてもよい。
液体14の温度と基板5の表面温度とが室温とほぼ同じであり、それらの温度差が小さければ、加湿装置10で生成された高湿度の気体の露点温度は基板5の表面温度よりも数度低い程度であり、基板5の表面での結露が抑制される。たとえば、液体14と基板5の温度が20℃であれば、湿度90%の気体の露点温度は18℃となり、この場合、基板5の表面での結露はない。
なお、加湿装置10は、図4で示したものに限るものではなく、市販の精密加湿装置でもよいし、超音波やエアー噴射によって液体14を霧化するものでもよい。
また図5は、実施の形態1の変更例を示す図であって、図3と対比される図である。この変更例では、加湿ノズル11の噴射口11aに多孔質部材20が設けられる。加湿された気体は、多孔質部材20によって分散されて、基板5の表面に噴射される。加湿された気体が集中的に噴射されると、気体の圧力によって液滴2aが流され、ノズル1の直下に着弾しなくなる。これに対して、この変更例では、加湿された気体を分散させて噴射するので、気体の圧力を低下させることができ、液滴2aが流されるのを抑制することができる。
また図6は、実施の形態1の他の変更例を示す図であって、図3と対比される図である。この変更例では、インクジェットノズル1の周りに複数の加湿ノズル11が等角度間隔で配置される。インクジェットノズル1の噴射口1aをオープン欠陥部7aの上方の所定位置に配置したときに、複数の加湿ノズル11の噴射口11aがオープン欠陥部7aに対向するように、複数の加湿ノズル11は斜めに配置される。複数の加湿ノズル11は、リング状の保持部材21に保持されている。複数の加湿ノズル11の基端部は、1本の気体供給管22に接続されている。加湿装置10から気体供給管22を介して複数の加湿ノズル11に加湿された気体が供給される。複数の加湿ノズル11は、オープン欠陥部7aに対して加湿された気体を均等に噴射する。インクジェットノズル1から吐出された修正インク2の液滴2aは、複数の加湿ノズル11から噴射された気体によって均等に押されるので、液滴2aはインクジェットノズル1の直下に着弾する。
なお、2つの円錐形のテーパ面を隙間を開けて配置し、その隙間からオープン欠陥部7aに対して気体を噴射してもよい。その断面図は、図6と同じになる。
また図7は、実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図3と対比される図である。この変更例では、加湿ノズル11が除去され、インクジェットノズル1の近傍に加湿用の液体(たとえば蒸留水や純水)の吸収と放出が可能な液体吸収部材23が配置される。液体吸収部材23としては、たとえば、金属や樹脂からなる多孔質材料、あるいはクリーンルームでも使用可能な不織布などが使用される。
予め液体吸収部材23に加湿用の液体(たとえば蒸留水)を吸収させておき、インクジェットノズル1が基板5に対峙する付近に1個または複数個配置する。あるいはリング状に形成した液体吸収部材23の中央の穴にノズル1を通すようにしてあってもよい。
液体吸収部材23に染み込んだ液体はその表面から次第に蒸発していくため、ノズル1と対峙する基板5の表面は適度に加湿される。この場合、図3に示した加湿した気体を噴射する方式とは異なり、吐出された修正インク2の液滴2aが流されることがなく、また、気体の流量の制御も不要となるので装置構成の簡素化が可能となる。
また、液体吸収部材23は、その表面から液体が蒸発するため時間経過とともに乾燥していく。そのため、作業員が液体吸収部材23に液体を定期的に供給してもよいし、液体供給装置24を設けて液体吸収部材23に液体を定期的に供給してもよい。あるいは、液体吸収部材23に近接して湿度センサ25を配置し、湿度センサ25の検出結果に基づいて液体吸収部材23の表面から放出される加湿された空気中の湿度を監視して、その湿度が一定の値以下になった時点で液体供給装置24から液体吸収部材23に液体を供給するようにしてもよい。
[実施の形態2]
インクジェットノズル1としてガラスのキャピラリーチューブを使用する場合、そのノズル1の先端は繊細であるので、着脱の際に他の部品と接触してノズル1の先端を損傷しないように保護することが望ましい。そこで、この実施の形態2では、インクジェットノズル1の先端を保護する保護カバー30が設けられる。
図8(a)(b)は、この発明の実施の形態2によるパターン修正装置の要部を示す断面図である。特に図8(a)は、保護カバー30を下降させてインクジェットノズル1の先端を保護した状態を示す。また図8(b)は、保護カバー30を上昇させてノズル1の先端をオープン欠陥部7aに対峙させた状態を示し、修正インク2の吐出が可能な状態を示す。
保護カバー30は筒状に形成されており、保護カバー30内にノズル1が挿入されている。保護カバー30は、固定台31の下部に設けられた穴31aに内挿される。ノズル1の上端部は、固定台31の穴31aの底の中央部の孔に挿嵌される。固定台31には磁石(図示せず)が固着され、その磁石の磁気吸引力によって着脱自在とされ、たとえば基板5に対して垂直方向に進退可能なZテーブル(図示せず)に装着される(図14参照)。
保護カバー30の側面にはレバー32が固定されている。このレバー32は、固定台31の穴31aの側壁に形成された長孔31bに挿入されている。レバー32は、長孔31b内において上下方向に移動可能に設けられている。レバー32を手で上下方向に移動させると、保護カバー30は固定台31に対して長孔31bの範囲内で上下方向に移動する。
また、保護カバー30の下端部には、複数の加湿ノズル30aが内蔵されている。複数の加湿ノズル30aは、保護カバー30の孔の下端部の周りに等角度間隔で配置されており、共通の気体供給管22に接続されている。複数の加湿ノズル30aの噴射口は、保護カバー30の下端面に円形に配列されている。複数の加湿ノズル30aは、加湿した気体を噴射して、インクジェットノズル1と対峙する基板5の表面を局部的に加湿する。加湿する範囲は、ノズル1と対峙する基板5の表面を含む局所範囲とされる。
保護カバー30の上端部の外周には環状の溝30bが形成され、保護カバー30の下端部の外周には環状の溝30cが形成される。固定台31の穴31aの下端部の側壁にはプランジャ33が設けられる。プランジャ33の球33a(またはシリンダ)は、スプリング33bによって保護カバー30の外周面に対して垂直方向に付勢される。球33aが溝30bまたは30cに入ることにより、保護カバー30は上側の位置または下側の位置に固定される。
溝30bに球33aが入ると、図8(a)に示すように、保護カバー30は下側の位置で固定され、ノズル1の先端は保護カバー30で覆われて保護される。溝30cに球33aが入ると、図8(b)に示すように、保護カバー30は上側の位置で固定され、ノズル1の先端が露出して修正インク2の吐出が可能となる。このとき、複数の加湿ノズル30aはオープン欠陥部7aに向けて加湿された気体を噴射し、オープン欠陥部7aおよびその近傍の湿度を局部的に高めて静電気を除去する。
この実施の形態2では、インクジェットノズル1に対して保護カバー30を上下に進退させることでノズル1の先端を保護することができるので、ノズル1を着脱するときにノズル1が損傷するのを防止することができる。
なお、ノズル1の下側から独立したキャップを被せて保護することも考えられるが、その場合には、キャップをノズル1の先端に衝突させる場合が想定される。これに対して本実施の形態2では、ノズル1と保護カバー30の衝突が生じることもなく、操作性は良好となる。
さらに、保護カバー30に加湿ノズル30aを設けたので、加湿された気体がノズル1と対峙する基板5の表面に噴射されるように加湿ノズル30aを位置合わせする必要がない。このため、加湿ノズル30aの位置調整も簡略化される。
また図9は、実施の形態2の変更例を示す図であって、図8(b)と対比される図である。図9において、この変更例では、保護カバー30が保護カバー35で置換されている。保護カバー30と35の構成は、下端部以外は同じである。保護カバー35の下端面には、所定寸法の穴35aが形成されている。穴35aの内径は、ノズル1の外径よりも若干大きく設定されている。また、穴35aの上端部には、気体供給管22が連通している。
溝30cに球33aが入ると、保護カバー35は上側の位置で固定され、ノズル1の先端が露出して修正インク2の吐出が可能となる。このとき、穴35aの内周面とインクジェットノズル1の外周面との間に、所定寸法の隙間ができる。加湿装置10から気体供給管22を介して穴35aに加湿された気体を供給すると、加湿された気体は穴35aとノズル1の間の隙間を通ってオープン欠陥部7aおよびその近傍に噴射される。この変更例でも、実施の形態2と同じ効果が得られる。
また図10は、実施の形態2の変更例を示す図であって、図8(b)と対比される図である。図10において、この変更例では、保護カバー30が保護カバー36で置換されている。保護カバー30と36の構成は、下端部以外は同じである。保護カバー36の下端部の外径は、他の部分の外径よりも小さくされている。保護カバー36の下端部には、リング状の液体吸収部材23が固定されている。液体吸収部材23については、図7で説明したので、その説明は繰り返さない。この変更例でも、実施の形態2と同じ効果が得られる。
[実施の形態3]
図11は、この発明の実施の形態3によるパターン修正装置の要部を示す図であって、図3と対比される図である。図11を参照して、このパターン修正装置が図3のパターン修正装置と異なる点は、円板状の捨て打ち板40と、捨て打ち板40を所定角度ずつ回転駆動させるモータ41とが追加されている点である。
図11では、インクジェットノズル1の先端と捨て打ち板40の上面が一定の隙間を持って対峙した状態が示されている。この状態で、ノズル1の先端から捨て打ち板40の表面に修正インク2を吐出することにより、基板5が修正インク2で汚染されるのを防止するとともに、ノズル1の先端が詰まらないようにしてインク塗布を安定化させる。通常、修正インク2の捨て打ちは、修正インク2を基板5の表面に吐出する直前に行なわれる。捨て打ち後に修正インク2を基板5の表面に吐出する場合、図11に示すように、捨て打ち前から予め加湿ノズル11から基板5の表面に加湿した気体を噴射して、基板5の表面湿度を局部的に高め、帯電した静電気を大気中に放電させておくとよい。
捨て打ち板40を金属で形成して接地すれば、捨て打ち板40に静電気は発生せず、吐出されたインク2の液滴2aが発散することはないので、捨て打ち板40の表面を加湿する必要はない。また、捨て打ち板40の表面がガラスのような絶縁体である場合には、その表面抵抗を下げるために静電気防止剤を塗布しておくことが好ましい。たとえばシロキサン系の静電気防止剤を捨て打ち板40の表面に塗布すると、ガラス様物質の薄膜が形成される。その薄膜は大気中の水分を吸着するので、捨て打ち板40の表面抵抗が低下して帯電が防止される。
修正インク2の捨て打ちを行なった後に、図12に示すように、捨て打ち板40を横方向に退避させるとともにインクジェットノズル1を下降させ、ノズル1の先端と基板5の表面との間の隙間を所定値に設定する。この状態で、ノズル1の先端から修正インク2の液滴2aを吐出するとともに、ノズル1と基板6とを相対移動しながら修正インク層2Aを形成する。
修正インク層2Aの終了点に到達した時点で加湿ノズル11からの加湿された気体の噴射を停止する。また、ノズル1と捨て打ち板40を、図11に示した状態に復帰させる。また、捨て打ち板40がノズル1の下方に戻る前に、モータ41によって捨て打ち板40を微小角度だけ回転させて捨て打ち位置を微小量だけ移動させる。これにより、捨て打ちされた修正インク2が同じ位置で高く積層されるのを防止することができ、ノズル1の先端と捨て打ちされた修正インク2との接触を回避できる。
次に、このパターン修正装置の塗布装置をより詳細に説明する。図13から図15はパターン修正装置の塗布装置の詳細な構成を示す図であり、特に、図13は塗布装置の正面図であり、図14は図13のXIV−XIV線断面図であり、図15は図14のA矢視図である。図13から図15では、修正インク2を塗布するインクジェットノズル1の直下に捨て打ち板40が隙間W1を開けて対峙しており、捨て打ち動作が可能な状態が示されている。
また、図16から図18では、捨て打ち板40が横に退避するとともに、インクジェットノズル1が下降して、ノズル1と基板5とが隙間W2を開けて対峙した状態が示されている。この状態で基板5に対して修正インク2の塗布が可能となる。図16はパターン修正装置の塗布装置の正面図であり、図17は図16のXVII−XVII線断面図であり、図18は図17のB矢視図である。
まず、図13から図15を用いて塗布装置の構成について説明する。塗布装置全体を支持するベース板42は垂直に設けられており、ベース板42の表面に直動案内軸受43のスライド部43aが固定され、ベース板42の裏面に直動案内軸受44のスライド部44aが固定されている。直動案内軸受43のスライド部43aは垂直に配置され、直動案内軸受44のスライド部44aは水平に配置されている。加湿ノズル11は、その噴射口11aがノズル1の下方側を向くようにした状態でベース板42に固定され、加湿ノズル11の他端は加湿装置10(図示せず)に接続される。
直動案内軸受43のレール部43bには、断面L字型のZテーブル45が固定される。したがって、Zテーブル45は、直動案内軸受43によってベース板42に対して上下方向に進退可能に支持される。また、Zテーブル45の突出した端部にはローラ46が固定され、その一側面には複数の磁石47が埋設されている。直動案内軸受44のレール部44bには、Xテーブル48が固定される。したがって、Xテーブル48は、直動案内軸受44によってベース板42に対して水平方向に進退可能に支持される。
インクジェットノズル1は、固定台31に保持される。固定台31の一端面には複数の磁石49が埋設されている。固定台31は、磁石47と磁石49の吸引力によりZテーブル45に装着される。磁石47と磁石49とは中心をずらして配置してあるため、固定台31をZテーブル45に装着する際には固定台31は下方に吸引されて、その端面31cがZテーブル45の上面45aに押し付けられて位置決めされる。
Xテーブル48の下端にはモータ41が固定され、モータ41の回転軸は円板状の捨て打ち板40の表面の中央に固定される。モータ41によって捨て打ち板40を所定角度ずつ回転させることにより、インク2の捨て打ち位置を少しずつ変えることが可能となる。ノズル1の直下に一定の隙間W1を開けて捨て打ち板40が対峙しており、捨て打ちの際には捨て打ち板40の表面に捨て打ちが行なわれる。捨て打ちされたインク2が積層されてノズル1と接触してノズル1の先端を損傷しないように、予め捨て打ち前に捨て打ち板40を所定角度だけ回転させておく。
Zテーブル45に固定されたローラ46は、Xテーブル48の上端部に当接している。Xテーブル48の上端部には、水平部48aと傾斜部48bを持つ倣い面(カム面)が形成されている。このため、ノズル1の垂直方向の高さ位置は、ローラ46とXテーブル48との当接位置で決定される。Xテーブル48を水平方向に移動させて、ローラ46とXテーブル48との当接位置を変えることで、捨て打ち板40の退避とノズル1の下降を同時に行なうことが可能となる。Xテーブル48を移動させる駆動装置50(たとえばエアシリンダや直動ソレノイドアクチュエータ)はベース板42に固定されており、その出力軸はXテーブル48に連結されている。駆動装置50の出力軸は水平方向に伸縮する。
図13の状態でノズル1がインク2の捨て打ちを行なうと、インク2が捨て打ち板40上に着弾する。捨て打ち終了後、モータ41の回転軸を所定角度だけ回転させて捨て打ち板40を所定角度だけ回転させて、次回の捨て打ちに備える。仮に捨て打ち板40を回転させず常に同じ位置に捨て打ちを実行すると、捨て打ちされたインク2の液滴2aが堆積してノズル1の先端に接触し、ノズル1の損傷が懸念される。しかし、捨て打ち板40を回転させる機能を備えたことでその懸念が払拭される。捨て打ちが完了し、捨て打ち板40の所定角度の回転が終了した時点で、捨て打ち板40の退避とノズル1の下降を駆動装置50の操作により実行する。
次にXテーブル48の移動に伴ってZテーブル45が下降する工程について説明する。駆動装置50の操作によりXテーブル48が水平移動すると、初期はローラ46とXテーブル48の水平部48aとが当接した状態にあるため、Zテーブル45は下降せず、Xテーブル48のみが水平方向に移動する。この状態はノズル1の直下から捨て打ち板40が外れるまで続く。その後、ローラ46がXテーブル48の傾斜部48bに当接し始めると、Zテーブル45は直動案内軸受43によってその自重で下降を始め、Zテーブル45の突出部がベース板42の上部に接触した時点で下降が停止する。図16から図18はZテーブル45が下降して停止した状態を示す。
このような構成にすることで、1つの駆動装置50であっても水平方向と垂直方向の2軸駆動が可能となり、装置の簡略化を実現することができる。また、それにより、捨て打ち板40の退避とノズル1の下降を短時間で行なうことができ、ノズル1内でインク2の粘度が高くなって吐出不能になることを防止することができる。また、捨て打ち板40の退避とノズル1の下降を一連動作で行うため、ノズル1と捨て打ち板40とが衝突する操作ミスを回避できる。
図13から図18では、加湿ノズル11をベース板42に固定したが、加湿ノズル11の代わりに、図8(a)(b)に示した保護カバー30を設け、保護カバー30内に加湿用のノズル30aを設ける構成であってもよい。このように、捨て打ち機能と局部加湿機能をパターン修正装置にコンパクトに装着すれば、装置の小型化が容易となる。
なお、固定台31の下端面からのノズル1の突出量を拡大鏡などの観察光学系を用いて基準値に設定してから固定台31を設置すれば、固定台31の下端面と捨て打ち板40の表面の隙間、すなわちノズル1の先端と捨て打ち板40の表面との隙間を所定値に設定することができ、ノズル1の先端が捨て打ち板40に接触して損傷されるのを防止することができる。
図19は、このパターン修正装置の動作を示すフローチャートである。基板5への描画指令を受け付けると、描画位置に塗布装置を移動させ(S1)、加湿された気体を基板5の描画位置を含む範囲に局所的に噴射し(S2)、修正インク2の捨て打ちを行なう(S3)。次に、捨て打ち板40を退避させるとともに、ノズル1を下降させ(S4)、修正インク2を吐出して修正インク層2Aを描画する(S5)。修正インク層2Aの描画が終了したら、加湿された気体の噴射を停止し(S6)、捨て打ち板40を微小角度だけ回転させ(S7)、捨て打ち板40をノズル1の下方に復帰させる(S8)。これにより、1回の塗布動作を終了する。
基板5に生成された修正インク層2Aには、塗布工程の終了後に硬化処理あるいは焼成処理が施される。その後、基板5の水洗浄を行なうような用途であれば、基板5に対する局部加湿の影響は無視できる程度となる。また、加湿された気体の噴射は基板5へのインク塗布(描画)時のみであり、待機時には基板5の表面への局部加湿は行なわないので、基板5への影響を最小限に留めることができる。
[実施の形態4]
図20(a)は、本実施の形態4によるパターン修正装置の修正対象であるTFTアレイ基板51の要部を示す平面図であり、図20(b)は図20(a)のXXB−XXB線断面図である。図20(a)(b)において、TFTアレイ基板51はガラス基板52を備える。ガラス基板52の表面に、図中の左右方向に延在するゲート線53が形成されるとともに、ゲート線53の所定位置に図中の下方向に突出するゲート電極53aが形成される。ゲート線53およびゲート電極53aの表面はゲート絶縁膜54で被覆され、ゲート絶縁膜54およびガラス基板52の表面はゲート絶縁膜55で被覆される。
ゲート絶縁膜55の表面に、複数の画素電極56が行列状に形成される。図中の上下方向に隣接する2つの画素電極56の間の領域にゲート線53が配置されている。ゲート電極53aの上方にゲート絶縁膜54,55を介して半導体膜57が形成される。図中の左右方向に隣接する2つの画素電極56の間の領域に図中の上下方向に延在するドレイン線(シグナル線)58が形成されるとともに、ドレイン線58の所定位置に図中の左方向に突出するドレイン電極58aが形成される。このドレイン電極58aの端部は、半導体膜57の一方端部の表面まで延びている。また、半導体膜57の他方端部の表面から画素電極56の一端部の表面にかけてソース電極59が形成される。
このようにして、ゲート電極53aとドレイン電極58aとソース電極59と半導体膜57とを含むTFT60が形成される。全体が保護膜61および配向膜(図示せず)で被覆されて、TFTアレイ基板51が完成する。TFTアレイ基板51と液晶とカラーフィルタとで液晶パネルが構成される。
ここで図20(a)に示すように、ドレイン線58にオープン欠陥部58bが存在するものとする。保護膜61まで形成した後にオープン欠陥部58bを修正する場合、保護膜61の一部をレーザ加工により除去してオープン欠陥部58bを露出させ、修正インク2(導電性インク)を塗布し、焼成してドレイン線58の導通を確保した後で、修正個所の上に保護膜61を再形成する必要がある。そのため、修正の手間を簡略化できるように、保護膜61を形成する前の工程でオープン欠陥部58bの修正を行なう方が好ましい。たとえば、ドレイン線58の形成が終了した時点では保護膜61は無く、この時点でオープン欠陥部58bを修正する。
このように、直線形(I形)のオープン欠陥部58bを修正する場合には、図21に示すように、欠陥部58bの両側にあるドレイン線58に重なるように修正インク2が塗布される。オープン欠陥部58bに修正インク2を塗布し、その後、焼成して導電性パターン2Bを得る。修正インク2としては、銀、金などの金属ナノ粒子を溶媒中に分散させた低温焼成が可能な導電性インクを使用する。また、ドレイン線58の幅は微細化する傾向にあり、最近では5μm以下のものが製作されている。導電性パターン2Bは画素電極56の領域にはみ出すことなく、ドレイン線58の配線幅と略同じ程度に形成されるが、はみ出しが大きい場合には、はみ出し部をレーザ(図示せず)で除去する処理を追加してもよい。
図22は、実施の形態4によるパターン修正装置70の全体構成を示す斜視図である。図22において、このパターン修正装置70では、定盤71の中央部にチャック72が設けられ、チャック72には修正対象のTFTアレイ基板51が固定される。
また、定盤71には、ガントリ型のXYステージ73が搭載されている。XYステージ73は、X軸ステージ73aと門型のY軸ステージ73bとを含む。Y軸ステージ73bは、チャック72を跨ぐように設けられ、図中のY軸方向に移動する。X軸ステージ73aは、Y軸ステージ73bに搭載され、図中のX方向に移動する。
X軸ステージ73aには、上下方向に移動可能なZ軸ステージ74が搭載される。Z軸ステージ74には、観察光学系75、対物レンズ76、レーザ77、塗布装置78、および焼成装置80が搭載されている。X軸ステージ73a、Y軸ステージ73b、およびZ軸ステージ74を制御することにより、観察光学系75、レーザ77、塗布装置78、焼成装置80の各々を基板51表面の所望の位置の上方に移動させることが可能となっている。
観察光学系75は、対物レンズ76を介して、基板51上の欠陥部58bなどを観察するために用いられる。レーザ77は、観察光学系75および対物レンズ76を介して基板51上の欠陥にレーザ光を照射し、レーザアブレーションによってその欠陥形状を整形したり、欠陥およびその周囲に余分に付着した修正インク2を除去するために用いられる。塗布装置78は、修正インク2を吐出するインクジェットノズル1と、基板51表面を局部的に加湿する加湿ノズル11とを含む。
また、必要に応じて塗布装置78内にノズル1によって捨て打ちされた修正インク2を受ける捨て打ち板40を設けてもよい。この例では、塗布装置78は上下方向に進退可能なZ軸ステージ79を介してZ軸ステージ74に固定されている。塗布装置78は、Z軸ステージ74に直接固定してあってもよいし、Z軸ステージ74以外のものに固定してもよい。また、加湿装置10をZ軸ステージ74に固定してもよい。また、焼成装置80は、基板51に塗布された修正インク2を焼成するために使用される。
次に、このパターン修正装置の動作について説明する。まずステージ73a,73b,74を制御して、観察光学系75および対物レンズ76の光軸をオープン欠陥部58bに位置決めし、オープン欠陥部58bを観察する。欠陥部58bの形状の整形が必要である場合は、レーザ77から欠陥部58bにレーザ光を照射して欠陥部58bを修正し易い形状に整形する。
次に、ステージ73a,73b,74を制御して、インクジェットノズル1の先端を欠陥部58bの上方に位置決めし、実施の形態1などで説明したように、欠陥部58bおよびその近傍に加湿された気体を噴射しながら修正インク2の液滴2aを欠陥部58bに吐出し、欠陥部58bに修正インク層2Aを形成する。
次いで、ステージ73a,73b,74を制御して、焼成装置80を修正インク層2Aの上方に位置決めし、修正インク層2Aを焼成して導電性の導電性パターン2Bを生成する。
この実施の形態4でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
図23は、実施の形態4の変更例を示す図である。この変更例では、Z軸ステージ79がXYZステージ81で置換される。XYZステージ81は、X軸ステージ82、Z軸ステージ83およびY軸ステージ84を含む。X軸ステージ82は、塗布装置78をX軸方向に移動させる。Z軸ステージ83は、X軸ステージ82をZ軸方向に移動させる。Y軸ステージ84は、Z軸ステージ83をY軸方向に移動させる。
この場合、観察光学系75を用いてオープン欠陥部58bを観察しながら、XYZステージ81を操作して、対物レンズ76と基板51との間に塗布装置78を挿入し、欠陥部58bに修正インク2を塗布することも可能であり、塗布時には大型のXYステージ73の相対移動が省略される。
なお、塗布装置78を対物レンズ76の直下に入れずに、観察光学系75で観察した欠陥部58bを相対移動させて塗布装置78の下方に位置決めしてから、XYZステージ81を制御して修正インク2を塗布する方式であってもよい。
図24は、実施の形態4の他の変更例を示す図である。この変更例では、対物レンズ76の倍率の切り換えを行なう対物レンズ切換器(XYステージ)85に塗布装置78が固定される。対物レンズ切換器85は、たとえば図22のZ軸ステージ74に搭載される。対物レンズ切換器85は、水平方向(XY方向)に移動可能な可動板86を含む。可動板86の下面には、互いに倍率の異なる複数の対物レンズ76が搭載されている。可動板86には、各対物レンズ76に対応して貫通孔86aが開口されている。各対物レンズ76の光軸は、孔86aの中心を垂直に貫通している。対物レンズ切換器85を制御して、所望の倍率の対物レンズ76の光軸を観察光学系75の光軸に一致させることにより、所望の倍率で欠陥部58bを観察することができる。
塗布装置78は、可動板86の下面に複数の対物レンズ76とともに搭載される。したがって、対物レンズ切換器85を制御することにより、塗布装置78を欠陥部58bの上方に移動させることができる。塗布装置78を用いた修正インク2の塗布方法は、実施の形態4と同じであるので、その説明は繰り返さない。この変更例では、図23の変更例にあったXYZステージ81を省略できるので、装置構成が簡素化される。また、対物レンズ76で欠陥部58bを観察している位置から近い位置に塗布装置78が配置されるため、塗布装置78の移動時間が短縮され、修正タクトタイムが短縮される。
さらに、対物レンズ切換器85と基板51との距離を測定する距離センサ(高さセンサ)87を対物レンズ切換器85に搭載してあってもよい。通常、観察光学系75で観察している画像が焦点(フォーカス)位置にあるZ軸ステージ74の位置を基準として、この状態(フォーカス状態)で捨て打ち板40の退避およびノズル1を下降した際に、ノズル1と基板51との隙間が一定値になるように塗布装置78の位置が固定される。
しかし、基板51が大型化するのに従って基板51を水平に維持するのが難しくなり、その表面の平坦度は悪くなるため、捨て打ち板40の移動に伴ってノズル1がストッパ位置まで下降する場合に、ノズル1の先端が基板51に接触する場合が想定される。また、互いに倍率が異なる複数の対物レンズ76のZ軸フォーカス位置には差があるため、フォーカス位置を基準にする場合でも塗布を開始する際に選択されている対物レンズ76の倍率によって、ノズル1の先端から基板51までの距離はわずかに異なる。このため、ノズル1の先端と基板51が接触する可能性が高まる。あるいは、人為的にデフォーカス状態で捨て打ち板40の移動とノズル1の下降を行なった場合にも、同様にノズル1と基板51が接触する可能性があって好ましくない。
そこで、基板51とノズル1との接触あるいは衝突を回避するため、対物レンズ切換器85に、基板51までの距離を非接触で測定する距離センサ87を設ける。ノズル1の下降を伴う操作を行なう前に、距離センサ87で測定した基板51までの距離に基づいてZ軸ステージ74を制御し、対物レンズ切換器85の上下方向の位置を微調整する。
このように、塗布装置78の近傍に精密機器、たとえば距離センサ87、対物レンズ76、対物レンズ切換器85などがあっても、欠陥修正の際に加湿された気体を噴霧する領域は欠陥部58bを含む微小範囲に限定されるため、精密機器への影響を最小限に留めることが可能となる。
[実施の形態5]
図25は、この発明の実施の形態5によるパターン修正装置の要部を示す図であって、図3と対比される図である。図25において、このパターン修正装置では、加湿ノズル11は、加湿装置10で生成された湿度の高い気体をオープン欠陥部7aに噴射し、オープン欠陥部7aおよびその近傍の上に水膜Fを生成し、オープン欠陥部7aおよびその近傍の静電気を除去する。
また、図4で示した加湿装置10では、ヒータ19によって液体14の温度が室温よりも高く維持される。これにより、露点温度が室温以上になるため、気体の流量を少なくしても水膜Fを生成することができ、水膜Fを容易に形成することができる。ただし、液体14の温度を上げ過ぎると、加湿過多になって、水膜Fを薄く維持することができなくなるので、液体14の温度は35℃以下に設定することが好ましい。
図26(a)〜(c)は、導電性パターン7のオープン欠陥部7aに修正インク層2Aを形成する工程を示す図である。まず、位置決め装置(図示せず)により、オープン欠陥部7aの上方の所定位置にインクジェットノズル1の先端を位置決めする。加湿ノズル11の先端部はインクジェットノズル1の先端部に対して斜めに配置されており、インクジェットノズルの先端をオープン欠陥部7aの上方の所定位置に位置決めすると、加湿ノズル11の先端がオープン欠陥部7aの斜め上方に位置決めされ、加湿ノズル11の先端がオープン欠陥部7aに対向する。
次に、図26(a)に示すように、加湿ノズル11の噴射口11aから湿った気体をオープン欠陥部7aに噴射して、オープン欠陥部7aおよびその近傍の湿度を局部的に高くする。たとえば、基板5の温度は室温と同じ20℃であり、加湿された空気の温度は23℃であり、加湿された空気の湿度は90%である場合、露点温度は約21℃と室温20℃よりも高くなる。このため、加湿された空気中の水は、室温と同じ温度の基板5表面に凝結(結露)し、基板5表面のうちのオープン欠陥部7aおよびその近傍の上に薄い水膜Fが形成される。
絶縁基板6の表面抵抗は、材質によっても異なるが1010〜1014(Ω・m)と高い。これに対して、水、たとえば蒸留水の抵抗は105(Ω・m)台と低い。したがって、水膜Fにより、オープン欠陥部7aおよびその近傍において絶縁基板6の表面抵抗が低下し、オープン欠陥部7aおよびその近傍において絶縁基板6の表面に帯電した静電気が大気に放電される。なお、水膜Fが、オープン欠陥部7aおよびその近傍を覆うように均一に形成された場合だけでなく、オープン欠陥部7aおよびその近傍の上にまだらに点在するように形成された場合でも、オープン欠陥部7aおよびその近傍の静電気は大気に放電される。
次いで、電極3,4間にパルス電圧を印加する。これにより、ノズル1の先端から修正インク2の液滴2aが吐出され、帯電した液滴2aが空間を飛翔して基板5の表面の目標位置に付着(着弾)する。このとき、オープン欠陥部7aおよびその近傍において絶縁基板6の表面に帯電した静電気は減少しているので、修正インク2の液滴2aは静電気の影響を受けず、目標位置に付着する。
また、修正インク2としては、非水溶性インクが使用される。たとえば、テルピネオール、デカリン、シクロドデセン、デカノールなどの非水溶性の溶媒を主成分とする修正インク2を用いれば、修正インク2が水膜Fに溶けるのを防止することができる。この場合、修正インク2の液滴2aは水膜Fに溶けることなく、水膜Fを弾いて基板5に付着する。ノズル1,11をオープン欠陥部7aに沿って移動させながら、修正インク2の液滴2aを吐出すると、図26(b)に示すように、図2(b)に示した正常な形状の修正インク層2Aが形成される。このとき、ノズル1,11をオープン欠陥部7aに沿って往復動させて、複数の修正インク層2Aを積層してもよい。
修正インク2の液滴2aの吐出が終了したら、湿った気体の噴射を終了する。湿った気体の噴出を停止すると、図26(c)に示すように、基板5上の水膜Fは直ぐに蒸発して無くなる。このように、局部的な加湿は修正インク2の吐出が終了した時点で停止するので、局部加湿は短時間となり、基板5に対する加湿の影響を最小限に留めることができる。
図27は、基板5の表面上に形成した修正インク層2Aを焼成して導電性パターン2Bを形成する工程を示す図である。図27において、図26(a)〜(c)で示した工程で形成した修正インク層2Aの上方に焼成装置80を位置決めし、たとえば、焼成用のレーザ光で修正インク層2Aを走査して修正インク層2Aを焼成する。これにより、修正インク層2Aは導電性パターン2Bとなる。
また図28に示すように、インクジェットノズル1から導電性パターン2Bの上に修正インク2を吐出し、導電性パターン2Bの上に修正インク層2Aを積層してもよい。このとき、導電性パターン2Bには静電気が発生しないので、導電性パターン2Bの上に水膜Fを形成する必要はない。修正インク層2Aを焼成すれば、2つの導電性パターン2Bを積層することができ、低抵抗の導電性パターンを形成することができる。
図29は、オープン欠陥部7aを修正する工程を示すフローチャートである。まず始めに、描画(塗布)位置情報を取得する(S11)。次に、観察光学系を描画位置に移動させ、基板5の表面を観察する(S12)。ここで、描画形状を決定し(S13)、インクジェットノズル1を描画位置上に移動する(S14)。この状態で加湿ノズル11から加湿された気体を基板5表面に噴射して、インクジェットノズル1と対峙する基板5表面に薄い水膜Fを形成する(S15)。
次いで、インクジェットノズル1を下降させて(S16)、基板5とノズル1との隙間を塗付可能な状態とする。次に、ノズル1から修正インク2の液滴2aを吐出し(S17)、ノズル1と基板5とを相対移動させて修正インク層2Aを描画する。修正インク層2Aの膜厚を厚くする必要があれば、積層するように繰り返し描画を行なう。描画が終了した時点で加湿ノズル11からの気体の噴射を停止し(S18)、基板5の表面にできた水膜Fを蒸発させる。次いで、ノズル1を上昇させ(S19)、焼成装置20を焼成位置に移動させ(S20)、修正インク層2Aを焼成して導電性パターン2Bを形成し(S21)、オープン欠陥部7aの修正が完了する。
導電性パターン2Bの膜厚を厚くしたい場合には、再度、インクジェットノズル1を描画位置上に移動させる(S22)。このとき、導電性パターン2Bに静電気は発生しないので、加湿された気体の噴射は不要である。次に、インクジェットノズル1を下降させて(S23)、基板5とノズル1との隙間を塗付可能な状態とする。次いで、ノズル1から修正インク2の液滴2aを吐出し(S24)、ノズル1と基板5とを相対移動させて導電性パターン2Bの上に修正インク層2Aを描画する。次に、ノズル1を上昇させ(S25)、焼成装置20を焼成位置に移動させ(S26)、修正インク層2Aを焼成させて(S27)、オープン欠陥部7aの修正が完了する。
図30は、この実施の形態5の変更例を示すフローチャートである。まず始めに、描画(塗布)位置情報を取得する(S31)。次に、観察光学系を描画位置に移動させ、基板5の表面を観察する(S32)。ここで、描画形状を決定し(S33)、インクジェットノズル1を描画位置上に移動する(S34)。この状態で加湿ノズル11から加湿された気体を基板5表面に噴射して、インクジェットノズル1と対峙する基板5表面に薄い水膜Fを形成し(S35)、修正インク2の捨て打ちを行なう(S36)。
次に、捨て打ち板40を退避させるとともに、ノズル1を下降させ(S37)、修正インク2を吐出して修正インク層2Aを描画する(S38)。修正インク層2Aの膜厚を厚くする必要があれば、積層するように繰り返し描画を行なう。描画が終了した時点で加湿ノズル11からの気体の噴射を停止し(S39)、基板5の表面にできた水膜Fを蒸発させる。
次いで、捨て打ち板40を微小角度だけ回転させ(S40)、ノズル1を上昇させるとともに捨て打ち板40をノズル1の下方に復帰させる(S41)。次に、焼成装置20を焼成位置に移動させ(S42)、修正インク層2Aを焼成して導電性パターン2Bを形成し(S43)、オープン欠陥部7aの修正が完了する。
導電性パターン2Bの膜厚を厚くしたい場合には、再度、インクジェットノズル1を描画位置上に移動させる(S44)。このとき、導電性パターン2Bに静電気は発生しないので、加湿された気体の噴射は不要である。修正インク2の捨て打ちを行なった(S45)後、捨て打ち板40を退避させるとともに、ノズル1を下降させ(S46)、修正インク2を吐出して修正インク層2Aを描画する(S37)。
次いで、捨て打ち板40を微小角度だけ回転させ(S48)、ノズル1を上昇させるとともに捨て打ち板40をノズル1の下方に復帰させる(S49)。次に、焼成装置20を焼成位置に移動させ(S50)、修正インク層2Aを焼成して導電性パターン2Bを形成し(S51)、オープン欠陥部7aの修正が完了する。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。