本発明の化合物(A)
まず、一般式(1)で用いられている各記号について説明する。
R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、炭化水素基は、脂肪族であっても芳香族であってもよく、また飽和又は不飽和であってよく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールアルキル基、アルケニルアリール基等が挙げられる。
アルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘプタニル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロオクタニル基、n−ノニル基、シクロノナニル基、n−デシル基等が挙げられる。
アルケニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
アルキニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−エチル−2−プロピニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、4−ペンチニル基、1−メチル−3−ブチニル基、2−メチル−3−ブチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、1−エチル−2−ブチニル基、3−ヘキシニル基、1−メチル−2−ペンチニル基、1−メチル−3−ペンチニル基、4−メチル−1−ペンチニル基、3−メチル−1−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、1−エチル−3−ブチニル基等が挙げられる。
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
アルキルアリール基の例としては、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体的には、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジブチルフェニル基、メチルナフチル基等が挙げられる。
アリールアルキル基の例としては、アリール基で置換された低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)が挙げられ、具体的にはベンジル基等が挙げられる。
アルキルアリールアルキル基の例としては、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基を置換基として有する低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)が挙げられ、具体的には、メチルベンジル基等が挙げられる。
アルケニルアリール基の例としては、低級アルケニル基(特に、炭素数1〜6のアルケニル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体的には、スチリル基、アリルフェニル基等が挙げられる。
R1及びR2は、結合しているビニル基の重合性の観点から、水素原子であることが好ましい。R3は、結合しているビニル基の重合性の観点から水素原子又はメチル基であることが好ましく、加水分解等により化合物(A)の重合性部位が脱離した場合の生体に対する刺激性の観点から、メチル基がより好ましい。
Xは、−COO−、−CONH−、−OCO−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C6H4O−、−C6H4CONH−、−C6H4NHCO−、−C6H4COO−、−C6H4OCO−、及び−CONHCO−からなる群から選択される1種を表し、結合しているビニル基の重合性の観点から、−COO−又はCONH−であることが好ましく、化合物(A)の製造の容易さから、−COO−がより好ましい。
R4は置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表し、R5は水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。従って、化合物(A)は、重合性部位(一般式(1)においてXから左側の部位)に対しα位の炭素は2つの水素原子を有し、β位の炭素は少なくとも1つの有機基を有する。化合物(A)の加水分解は重合性部位のXにおいて起こる。重合性部位のXの近傍に置換基があった場合には、当該置換基は、Xへの水の接近の障害物となる。しかし当該置換基は、ラジカル重合の際の重合性基への遊離基の接近の障害物にもなり得る。本発明者らの検討により、当該置換基をXの近傍の適切な位置に配置すれば、重合性を低下させることなく、Xでの加水分解を抑制することができることを見出した。すなわち、重合性部位に対してα位の炭素が有機基を有する場合には、当該有機基は、Xへの水の接近を妨げるのみならず、重合性基への遊離基の接近も妨げ、化合物の重合性が低下する。一方、重合性部位に対してα位、β位の炭素が2つの水素原子を有し、γ位の炭素が有機基を有する場合には、Xへの水の接近を妨げることがあまりできず、Xでの加水分解をあまり抑制することができない。しかし、重合性部位に対しα位の炭素は2つの水素原子を有し、β位の炭素が有機基を有する場合には、重合性基への遊離基の接近をあまり妨げることなく、Xへの水の接近を妨げることができ、化合物は、高い重合性を保ちながら、耐加水分解性を有する。
R4及びR5で表される有機基は、脂肪族であっても芳香族であってもよく、また飽和又は不飽和であってよい。また、分岐していてもよい。有機基は、炭化水素基に限られず、炭化水素基に、カルボニル炭素、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挿入された基であってもよい。炭化水素基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールアルキル基、アルケニルアリール基等が挙げられる。
アルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘプタニル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロオクタニル基、n−ノニル基、シクロノナニル基、n−デシル基等が挙げられる。
アルケニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
アルキニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−エチル−2−プロピニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、4−ペンチニル基、1−メチル−3−ブチニル基、2−メチル−3−ブチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、1−エチル−2−ブチニル基、3−ヘキシニル基、1−メチル−2−ペンチニル基、1−メチル−3−ペンチニル基、4−メチル−1−ペンチニル基、3−メチル−1−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、1−エチル−3−ブチニル基等が挙げられる。
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
アルキルアリール基の例としては、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体的には、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジブチルフェニル基、メチルナフチル基等が挙げられる。
アリールアルキル基の例としては、アリール基で置換された低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)が挙げられ、具体的にはベンジル基等が挙げられる。
アルキルアリールアルキル基の例としては、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基を置換基として有する低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)が挙げられ、具体的には、メチルベンジル基等が挙げられる。
アルケニルアリール基の例としては、低級アルケニル基(特に、炭素数1〜6のアルケニル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体的には、スチリル基、アリルフェニル基等が挙げられる。
R4及びR5で表される有機基が有する置換基の数及び種類は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、置換基の例として、アミノ基、水酸基、アルコキシ基、アミド基、アシル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
R4で示される有機基は、重合性の観点から、その炭素数が1〜10であることが好ましく、1〜6であることがより好ましく、1〜3であることがさらに好ましい。また、R4は、耐加水分解性の観点から、炭化水素基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。
R5は、水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜10の有機基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜6の有機基であることがより好ましく、水素原子又は炭素数1〜3の有機基であることがさらに好ましい。またR5は、耐加水分解性の観点から、水素原子又は炭化水素基であることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることがより好ましい。
R6は、置換基を有してもよい炭素数2〜40の有機基を表す。R6は、重合性部位とリン酸エステル部位(−OP(=Y)(OR7)(OR8))との間のスペーサーとしての役割を有する。リン酸エステル部位は接着対象と相互作用するが、スペーサーとしてR6が存在することによって、重合性部位が接着対象より適切な距離離れ、重合性部位の重合が容易になる。また、R6があることによって、化合物(A)の単位重量あたりのリン酸エステル部位の濃度が低くなり、化合物(A)が加水分解しにくくなる。
R6で表される有機基は、脂肪族であっても芳香族であってもよく、また飽和又は不飽和であってよい。また、分岐していてもよい。有機基は、炭化水素に限られず、炭化水素の主鎖に、カルボニル炭素、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挿入されていてもよい。例としては、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、又は芳香族炭化水素から、水素原子を2個除いた基が挙げられる。
R6で表される有機基が有する置換基の数及び種類は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、置換基の例として、アミノ基、水酸基、アルコキシ基、アミド基、アシル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
R6として好ましくは、炭素数2〜31の脂肪族炭化水素基であり、接着性の観点からより好ましくは、炭素数3〜12の脂肪族炭化水素基である。炭素数が小さいと歯質と反応して生成したカルシウム塩の水への溶解性が高いことから接着性が低下し、炭素数が大きいと架橋密度が低下することにより、接着性が低下する。
化合物(A)は、R6とリン酸エステル部位との間にメチレン基を有する。R6とリン酸基エステル部位との間の炭素原子が置換基を有する場合には、当該置換基が、歯面等の接着対象と相互作用するリン酸エステル部位に対して立体障害として機能し、接着性が低くなる。従って、R6とリン酸エステル部位との間の炭素が2つの水素を有することにより、高い接着性が得られる。
R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基、又は金属原子を表す。R7及びR8で表される炭素数1〜20の炭化水素基の例としては、R1〜R3について挙げたものと同様である。R7及びR8で表される炭素数1〜20の炭化水素基が有してもよい置換基の数及び種類は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、置換基の例として、アミノ基、水酸基、アルコキシ基、アミド基、アシル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。金属原子としては、周期律表第1族又は第2族の金属原子であることが好ましく、具体的にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。
化合物(A)の酸性度の観点からは、R7及びR8は、水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜6の炭化水素基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。
Yは酸素原子又は硫黄原子を表し、化合物(A)の製造の容易さの観点から、酸素原子が好ましい。
化合物(A)の好ましい構造は、下記一般式(2)で示される構造である。
上記式において、R1、R2、R3、R4、R5、R7、R8、X及びYは前記と同義であり、R9は置換基を有してもよい炭素数1〜30の有機基を表し、R10及びR11は、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜28の有機基を表し、R9、R10及びR11の炭素数の合計は1〜39である。
R9で表される有機基については、炭素数を除きR6で表される有機基と同様である。R10及びR11で表される有機基については、炭素数を除きR4及びR5で表される有機基と同様である。R9は、好ましくは置換基を有してもよい炭素数1〜19の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基である。R10及びR11は、接着性の観点から、水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜10の有機基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜6の有機基であることがより好ましく、水素原子又は炭素数1〜3の有機基であることが最も好ましい。またR10及びR11は、耐加水分解性の観点から、水素原子又は炭化水素基であることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることがより好ましい。
化合物(A)の好ましい構造の1つは、一般式(2)において、R10及びR11が、水素原子である。化合物(A)は、リン酸エステル部位において歯面等の接着対象と相互作用する。R10及びR11が水素原子である場合、リン酸エステル部位近傍の分子骨格が占める容積が小さいことから、単位面積あたりに相互作用できる化合物(A)の分子数が高まり、歯面等の接着対象と緊密に相互作用できるため、接着強度が高まる。
化合物(A)の好ましい構造の別の1つは、一般式(2)において、R10が、置換基を有してもよい炭素数1〜28の有機基である。このとき、化合物(A)において、リン酸エステル部位に対しα位の炭素は2つの水素原子を有し、β位の炭素は少なくとも1つの有機基を有する。化合物(A)の加水分解はリン酸エステル部位においても起こり得る。また、リン酸エステル部位は、歯面等の接着対象と相互作用する。有機基が、リン酸エステル部位に対してα位にあった場合には、リン酸エステル部位の接着対象との相互作用の妨げとなり、接着性が損なわれる。一方、リン酸エステル部位に対してα位、β位の炭素が2つの水素原子を有し、γ位の炭素が有機基を有する場合には、有機基がリン酸エステル部位への水の接近を妨げることがあまりできず耐加水分解性向上効果が得られにくい。従って、化合物(A)において、リン酸エステル部位に対しα位の炭素が2つの水素原子を有し、β位の炭素が少なくとも1つの有機基を有する場合には、高い接着性を保ちつつ、耐加水分解性が向上する。
一般式(2)においてより好ましい構造としては、R1及びR2が水素原子であり、R3が水素原子又はメチル基であり、R4が置換基を有してもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、R5、R10及びR11が、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、R9が置換基を有してもよい炭素数1〜19の炭化水素基であり、R7及びR8が、それぞれ独立して水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜6の炭化水素基であり、R9、R10及びR11の炭素数の合計が1〜39であり、Xが−COO−又は−CONH−であり、Yが酸素原子である。
一般式(2)においてさらに好ましい構造としては、R1及びR2が水素原子であり、R3が水素原子又はメチル基であり、R4が炭素数1〜6のアルキル基であり、R5、R10及びR11が、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、R9が置換基を有してもよい炭素数1〜6の炭化水素基であり、R7及びR8が、それぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、Xが−COO−又は−CONH−であり、Yが酸素原子である。
本発明の化合物(A)は公知方法を組み合わせることにより、製造することができる。一例としては、まず、下記一般式(3)で表される化合物と、下記一般式(4)で表される化合物を反応させ、下記一般式(5)で表される化合物を得る。
式中、R1〜R6、及びXは前記と同義であり、Z1はZ2と反応可能な官能基であり、Z2はZ1と反応可能な官能基である。
官能基Z1及び官能基Z2は、これらの反応により−COO−、−CONH−、−OCO−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C6H4O−、−C6H4CONH−、−C6H4NHCO−、−C6H4COO−、−C6H4OCO−、及び−CONHCO−からなる群から選択される1種の結合が生成するように選ばれる。これらの結合を生成させる官能基Z1及びZ2ならびにその反応方法は、当業者に周知である。例えば、−COO−結合を形成させる場合には、Z1として、−COOH、−COOR’(R’は脂肪族炭化水素基を示す)、又は−COClを選択し、Z2として−OHを選択し、公知方法に従いエステル化反応させればよい。また、例えば、−CONH−結合を形成させる場合には、Z1として−COOHを選択し、Z2として−NH2を選択し、公知方法に従い脱水縮合反応させればよい。また、例えば、−O−結合を形成させる場合には、Z1及びZ2の一方を、ハロゲン原子とし、他方を−ONaとしてエーテル化反応(Williamson合成)を行えばよい。また、例えば、−S−結合を形成させる場合には、Z1及びZ2の一方をハロゲン原子とし、他方を−SHとしてアルカリ条件下でカップリング反応させればよい。一般式(4)で表される化合物の水酸基は、必要に応じて保護基で保護した後、一般式(3)で表される化合物と反応させ、脱保護して一般式(5)の化合物を得ることもできる。
続いて、一般式(5)で表される化合物をPOCl3又はPSCl3と反応させ、さらに加水分解、又は加アルコール分解することで、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。R7及びR8が、金属原子である場合には、R7及びR8が水素原子である一般式(1)で表される化合物を金属塩に変換すればよい。
以下、−COO−結合を生成させる反応について、詳細に説明する。−COO−結合を生成させる反応としては、必要に応じてエステル化触媒の存在下に一般式(3)でZ1が−COOHであるカルボン酸化合物と一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物とを脱水縮合させる方法(以下、エステル化方法(a)と称する)、触媒存在下に一般式(3)でZ1が−COOR’(式中、R’は前記と同義である)であるエステル化合物と一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物とをエステル交換反応させる方法(以下、エステル化方法(b)と称する)、及び必要に応じて塩基性化合物存在下に、一般式(3)でZ1が−COClである酸クロライド化合物と一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物とを反応させる方法(以下、エステル化方法(c)と称する)が挙げられる。
以下、エステル化方法(a)について、詳細に説明する。原料として使用する一般式(4)でZ2が−OHの化合物は、Z2の他方の水酸基が保護基で保護されていることが望ましい。保護基は、エステル化反応条件に耐えられる限り特に制限はなく、例えばアリル基、ベンジル基などが挙げられる。一般式(3)でZ1が−COOHであるカルボン酸化合物の原料としての使用量に特に制限はないが、一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物に含まれるZ2基に対して、通常、0.8〜30倍モルの範囲であることが好ましく、反応速度及び容積効率の観点からは、1〜20倍モルの範囲であることがより好ましい。ただし、一般式(3)でZ1が−COOHであるカルボン酸化合物を溶媒として用いる場合は、この限りではない。
エステル化方法(a)は溶媒の存在下又は不存在下に実施することができる。かかる溶媒としては反応に悪影響を及ぼさない限り特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、原料の一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物に対して、通常、0.5〜20倍重量の範囲であることが好ましく、容積効率の観点からは、1〜5倍重量の範囲であることがより好ましい。
エステル化方法(a)では、反応の進行に伴って水が副生し、反応が平衡状態となる。そのため、目的とするエステル化合物の収率向上の観点からは、かかる水を反応系外に除去しながら反応を行なうことが好ましい。水を反応系外に除去する方法には特に制限はないが、例えば、水と共沸する溶媒を共存させ、該溶媒と共沸させて反応系外に水を除去する方法が好ましく、かかる溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類などが挙げられる。また、モレキュラーシーブなどの反応に悪影響を及ぼさない脱水剤を反応系に共存させることにより、副生する水を除去してもよい。
エステル化方法(a)で使用する酸としては、例えば硫酸、塩酸などの鉱酸;p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸;アルミニウムトリイソプロポキシド、チタンアセチルアセトナート、バナジウムアセチルアセトナートなどのルイス酸;ケイモリブデン酸、リンタングステン酸などのヘテロポリ酸;シリカ、シリカ−アルミナ、活性白土、酸性イオン交換樹脂などの固体酸などが挙げられる。これらの中でも、反応を円滑に進行させる観点からは有機酸又は鉱酸を用いることが好ましい。酸の使用量には特に制限はないが、原料の一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物に対して、通常、0.0001〜40重量%の範囲であることが好ましく、反応速度及び副反応や生成物の着色抑制の観点からは、0.001〜20重量%の範囲であることがより好ましい。
エステル化方法(a)は、重合禁止剤の存在下に実施することが好ましい。かかる重合禁止剤としては、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノンなどのヒドロキノン類;p−ベンゾキノンなどのキノン類;α−ナフトール、β−ナフトールなどのナフトール類;カテコール、3,5−ジ−t−ブチルカテコールなどのカテコール類;ピロガロール、フェニルエチルピロガロールなどのピロガロール類;2,6−ジ−t−ブチルアニソールなどのアニソール類などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
エステル化方法(a)において、反応温度は、通常、20〜300℃の範囲であることが好ましく、60〜200℃の範囲であることがより好ましい。また、エステル化方法(a)は、空気雰囲気下でも、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下でも実施することができる。さらに、エステル化方法(a)は、大気圧下で行なってもよく、減圧下で行なってもよい。
反応終了後、使用した酸に応じ、適宜、反応混合液を水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などの塩基性物質の水溶液で洗浄して酸を除去するか、又はろ過、デカンテーションなどにより固体酸を除去した後、濃縮し、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィーなどの通常の精製手段で精製することによって、目的とする一般式(5)でXが−COO−であるエステル化合物を分離取得することができる。一般式(4)で表される化合物に保護基を導入してエステル化反応に供した場合には、公知の条件により脱保護した後、上記操作を行うことにより一般式(5)でXが−COO−であるエステル化合物を分離取得することができる。
次に、エステル化方法(b)について説明する。エステル化方法(b)で使用する一般式(3)でZ1が−COOR’(式中、R’は前記と同義である)であるエステル化合物において、R’の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。これらの中でも、メチル基又はエチル基が好ましい。
エステル化方法(b)で使用する一般式(4)でZ2が−OHの化合物は、Z2の他方の水酸基が保護基で保護されていることが望ましい。保護基は、エステル化反応条件に耐えられる限り特に制限はなく、例えばアリル基、ベンジル基などが挙げられる。
一般式(3)でZ1が−COOR’(式中、R’は前記と同義である)であるエステル化合物の使用量に特に制限はないが、一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物に含まれるZ2基に対して、通常、0.8〜40倍モルの範囲であることが好ましく、反応速度の観点から、1〜30倍モルの範囲であることがより好ましい。
エステル化方法(b)は、溶媒の存在下又は不存在下に実施することができる。使用できる溶媒は反応に悪影響を及ぼさない限り特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物に対して、通常、0.5〜20倍重量であることが好ましく、容積効率の観点からは1〜5倍重量であることがより好ましい。
エステル化方法(b)では、反応の進行に伴い、使用する一般式(3)でZ1が−COOR’(式中、R’は前記と同義である)であるエステル化合物の有するR’部分に対応したアルコール、例えばR’がメチル基である場合にはメタノールが副生し、反応が平衡状態となる。そのため、目的とするエステル化合物の収率向上の観点からは、かかるアルコールを反応系外に除去しながら反応を行なうことが好ましい。アルコールを反応系外に除去する方法としては、例えば副生するアルコールと共沸する溶媒を使用して、かかるアルコールを共沸により反応系外に留去させながら反応を行なう方法などが挙げられる。
エステル化方法(b)で使用する触媒としては、例えば硫酸、塩酸などの鉱酸;硫酸水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどの鉱酸の塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸;ピリジニウムp−トルエンスルホネートなどの有機酸の塩;ジブチルスズオキシド、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチレート、ジブチルスズジ(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズオキシドなどの有機スズ化合物;アルミニウムトリイソプロポキシド、チタンアセチルアセトナート、バナジウムアセチルアセトナートなどのルイス酸;ケイモリブデン酸、リンタングステン酸などのヘテロポリ酸;シリカ、シリカ−アルミナ、活性白土、酸性型イオン交換樹脂などの固体酸;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩又は炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩などが挙げられる。これらの中でも、反応速度及び副反応の抑制の観点からは、鉱酸、有機酸又は有機スズ化合物を用いることが好ましい。
触媒の使用量は、一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物に対して、通常、0.0001〜40重量%の範囲であることが好ましく、反応速度、副反応の抑制及び生成物の着色抑制の観点からは、0.001〜20重量%の範囲であることがより好ましい。
エステル化方法(b)は、重合禁止剤の存在下に実施することが好ましい。重合禁止剤としては、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノンなどのヒドロキノン類;p−ベンゾキノンなどのキノン類;α−ナフトール、β−ナフトールなどのナフトール類;カテコール、3,5−ジ−t−ブチルカテコールなどのカテコール類;ピロガロール、フェニルエチルピロガロールなどのピロガロール類;2,6−ジ−t−ブチルアニソールなどのアニソール類;p−ヒドロキシジフェニルアミン、フェノチアジン、ジエチルヒドロキシルアミンなどのアミン類;2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルなどのN−オキシル類などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。但し、触媒として酸を使用する場合には、アミン類及びN−オキシル類以外の重合禁止剤を使用することが好ましい。
エステル化方法(b)において、反応温度は、通常、20〜300℃の範囲であることが好ましく、60〜200℃の範囲であることがより好ましい。また、エステル化方法(b)は、空気雰囲気下でも、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下でも実施することができる。さらに、エステル化方法(b)は大気圧下で行なってもよく、減圧下で行なってもよい。
反応終了後、使用した触媒に応じ、適宜、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などの塩基性物質の水溶液もしくは硫酸、塩酸などの酸性物質の水溶液で洗浄するか、又はろ過、デカンテーションにより触媒成分を除去した後、濃縮し、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィーなどの通常の精製手段で精製することによって、目的とする一般式(5)でXが−COO−であるエステル化合物を分離取得することができる。一般式(4)で表される化合物に保護基を導入してエステル化反応に供した場合には、公知の条件により脱保護した後、上記操作を行うことにより一般式(5)でXが−COO−であるエステル化合物を分離取得することができる。
次に、エステル化方法(c)について説明する。エステル化方法(b)で使用する一般式(4)でZ2が−OHの化合物は、Z2の他方の水酸基が保護基で保護されていることが望ましい。保護基は、エステル化反応条件に耐えられる限り特に制限はなく、例えばアリル基、ベンジル基、メトキシメチル基、t−ブチルジメチルシリル基、テトラヒドロピラニル基などが挙げられる。
一般式(3)でZ1が−COClである酸クロライド化合物の使用量に特に制限はないが、一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物に含まれるZ2基に対して、通常、0.8〜20倍モルの範囲であることが好ましく、収率及び容積効率の観点から、1〜10倍モルの範囲であることがより好ましい。
エステル化方法(c)は、溶媒の存在下又は不存在下に実施することができる。使用できる溶媒は反応に悪影響を及ぼさない限り特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、キノリン、トリエチルアミン、トリメチルアミンなどの含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物に対して、通常、0.5〜200倍重量であることが好ましく、容積効率の観点からは1〜100倍重量であることがより好ましい。
エステル化方法(c)は塩基性化合物の存在下又は不存在下に行うことができる。塩基性化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、キノリン、イソキノリン、1,8−ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノネン−5、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−7、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等を使用することができ、これらのうち、トリエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンが好ましい。塩基性化合物の使用量に特に制限はないが、一般式(4)でZ2が−OHである水酸基含有化合物に含まれるZ2基に対して、0.8〜20倍モルであることが好ましく、1〜10倍モルであることがより好ましい。これらの塩基性化合物は単独で、又は2種以上を混合して使用してもよい。また、これらの塩基性化合物を溶媒として使用してもよい。
エステル化方法(c)は、重合禁止剤の存在下に実施することが好ましい。重合禁止剤としては、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノンなどのヒドロキノン類;p−ベンゾキノンなどのキノン類;α−ナフトール、β−ナフトールなどのナフトール類;カテコール、3,5−ジ−t−ブチルカテコールなどのカテコール類;ピロガロール、フェニルエチルピロガロールなどのピロガロール類;2,6−ジ−t−ブチルアニソールなどのアニソール類;p−ヒドロキシジフェニルアミン、フェノチアジン、ジエチルヒドロキシルアミンなどのアミン類;2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルなどのN−オキシル類などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
エステル化方法(c)において、反応温度は、通常、−40〜100℃の範囲であることが好ましく、−20〜60℃の範囲であることがより好ましい。
反応終了後、酸処理により一般式(5)でXが−COO−であるエステル化合物の塩基付加塩から目的とする一般式(5)でXが−COO−であるエステル化合物を遊離させ、有機溶媒で抽出し、得られた溶液を濃縮した後、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィーなどの通常の精製手段で精製することによって、目的とする一般式(5)でXが−COO−であるエステル化合物を分離取得することができる。一般式(4)で表される化合物に保護基を導入してエステル化反応に供した場合には、公知の条件により脱保護した後、上記操作を行うことにより一般式(5)でXが−COO−であるエステル化合物を分離取得することができる。
上記したエステル化方法(a)〜(c)において、原料として使用する一般式(4)でZ2が−OHの場合に、Z2の他方の水酸基を保護基で保護しない場合には、一般式(3)で表される化合物を過剰量反応させて、Z2及び他方の水酸基の両方をエステル化した後、酸又は塩基で、部分的に加水分解することで、一般式(5)で表される化合物を得ることもできる。加水分解方法に特に制限は無く、公知の方法を取ることができる。
次に、一般式(5)で表される化合物とPOCl3を反応させ、さらに加水分解させることにより、一般式(1)で表される化合物を得る方法について、説明する。
POCl3の使用量は、特に制限されないが、一般式(5)で表される化合物に対して、0.8〜3.0倍モルが好ましく、1.0〜1.5倍モルがより好ましい。
一般式(5)で表される化合物とPOCl3との反応においては、必要に応じて塩基性化合物を用いることができる。塩基性化合物としては、トリエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジンなどの含窒素化合物が挙げられる。塩基性化合物の使用量は特に制限されないが、POCl3に対して1.0〜5.0倍モルが好ましい。
一般式(5)で表される化合物とPOCl3との反応は、溶媒の存在下又は不存在下に実施することができる。使用できる溶媒は反応に悪影響を及ぼさない限り特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、キノリン、トリエチルアミン、トリメチルアミンなどの含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、一般式(5)で表される化合物に対して、通常、0.5〜200倍重量の範囲であることが好ましく、容積効率の観点からは0.5〜100倍重量の範囲であることがより好ましい。
一般式(5)で表される化合物とPOCl3との反応における反応温度は、通常、−50〜50℃の範囲であることが好ましく、−40〜20℃の範囲であることがより好ましい。
上記反応終了後、反応液に水を添加することにより加水分解し、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
水の使用量は特に制限されないが、通常、一般式(5)で表される化合物に対して1.8〜10倍モルの範囲であることが好ましい。
加水分解反応では、必要に応じて塩基性化合物を用いることができる。塩基性化合物は特に限定されないが、トリエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジンなどの含窒素化合物が挙げられる。塩基性化合物の使用量は、一般式(5)で表される化合物に対して2.0〜5倍モルの範囲であることが好ましい。
加水分解反応における反応温度は、通常、−40〜100℃の範囲であることが好ましく、−30〜50℃の範囲であることがより好ましい。
反応終了後、酸処理により一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物の塩基付加塩から、目的とする一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物を遊離させ、有機溶媒で抽出し、得られた溶液を濃縮することにより、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
化合物(A)を含む重合性組成物は、高い接着性を有し、かつ貯蔵中の安定性に優れ、特に、歯科用途において有用である。歯科用途において、化合物(A)はさらに、酸エッチング効果(脱灰作用)を有する。
そこで本発明はまた、化合物(A)を含む重合性組成物である。当該重合性組成物は、化合物(A)とは別の重合性単量体として、化合物(A)と共重合可能な重合性単量体(B)を含んでいてもよい。重合性組成物に好適なその他の成分としては、重合開始剤(C)、重合促進剤(D)、フィラー(E)、溶媒(F)などが挙げられる。
重合性単量体(B)
化合物(A)と共重合可能な重合性単量体(B)としては、酸性基を有さず、かつ1個の重合性基を有する重合性単量体(B−a)、及び、酸性基を有さず、かつ2個以上の重合性基を有する重合性単量体(B−b)が挙げられる。重合性単量体(B)としては、反応性及び生体に対する安全性の観点から、(メタ)アクリレート化合物及び(メタ)アクリルアミド化合物が好ましく、(メタ)アクリレート化合物がより好ましい。
酸性基を有さず、かつ1個の重合性基を有する重合性単量体(B−a)において、酸性基とは、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等のことをいう。重合性単量体(B−a)は、歯科用接着剤の成分の歯質への浸透を促進するとともに、自らも歯質に浸透して歯質中の有機成分(コラーゲン)に接着する。
酸性基を有さず、かつ1個の重合性基を有する重合性単量体(B−a)は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。重合性単量体(B−a)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン等が挙げられるが、これらの中でも、象牙質のコラーゲン層への浸透性の改善の観点からは、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−アクリロイルモルホリンが好ましく、特に好ましくは2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。
酸性基を有さず、かつ2個以上の重合性基を有する重合性単量体(B−b)は、重合性組成物の機械的強度、取り扱い性などを向上させる。なお、重合性単量体(B−b)において酸性基は、上記と同義である。
酸性基を有さず、かつ2個以上の重合性基を有する重合性単量体(B−b)は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。酸性基を有さず、かつ2個以上の重合性基を有する重合性単量体(B−b)としては、特に限定されないが、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体などが挙げられる。
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「BisGMA」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテートなどが挙げられる。
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン及び2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)等が挙げられる。
三官能性以上の重合性単量体の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、及び1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。
化合物(A)は、酸エッチング効果を有するが、化合物(A)以外の酸性基を有する重合性単量体(B−c)と併用してもよい。酸性基を有する重合性単量体(B−c)としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも一個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも一個有する重合性単量体が挙げられる。
化合物(A)の配合量は、重合性単量体成分の全量100重量部中、1〜80重量部が好ましく、3〜50重量部がより好ましい。化合物(A)の配合量が1重量部より少ないと、接着性及び接着耐久性向上効果が十分に得られないおそれがある。一方、化合物(A)の配合量が80重量部より多いと浸透性が低下し、接着性向上効果が十分に得られないおそれがある。
なお、本発明において重合性単量体成分の全量とは、化合物(A)、重合性単量体(B−a)、重合性単量体(B−b)、重合性単量体(B−c)及びこれらと共重合可能なその他の重合性単量体の合計量をいう。
重合開始剤(C)
本発明に用いられる重合開始剤(C)は、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。特に、光重合及び化学重合の重合開始剤が、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用される。
光重合開始剤としては、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、水溶性アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物などが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられる(ビス)アシルホスフィンオキサイド類のうち、アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルホスフィンオキサイド類としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられる水溶性アシルホスフィンオキサイド類は、アシルホスフィンオキサイド分子内にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ピリジニウムイオン又はアンモニウムイオンを有することが好ましい。例えば、水溶性アシルホスフィンオキサイド類は、欧州特許第0009348号明細書又は特開昭57−197289号公報に開示されている方法により合成することができる。
上記水溶性アシルホスフィンオキサイド類の具体例としては、モノメチルアセチルフォスフォネート・ナトリウム、モノメチル(1−オキソプロピル)フォスフォネート・ナトリウム、モノメチルベンゾイルフォスフォネート・ナトリウム、モノメチル(1−オキソブチル)フォスフォネート・ナトリウム、モノメチル(2−メチル−1−オキソプロピル)フォスフォネート・ナトリウム、アセチルフォスフォネート・ナトリウム、モノメチルアセチルフォスフォネート・ナトリウム、アセチルメチルフォスフォネート・ナトリウム、メチル4−(ヒドロキシメトキシフォスフィニル)−4−オキソブタノエート・ナトリウム塩、メチル−4−オキソフォスフォノブタノエート・モノナトリウ厶塩、アセチルフェニールフォスフィネート・ナトリウム塩、(1−オキソプロピル)ペンチルフォスフィネート・ナトリウム、メチル−4−(ヒドロキシペンチルフォスフィニル)−4−オキソブタノエート・ナトリウム塩、アセチルペンチルフォスフィネート・ナトリウム、アセチルエチルフォスフィネート・ナトリウム、メチル(1,1−ジメチル)メチルフォスフィネート・ナトリウム、(1,1−ジエトキシエチル)メチルフォスフィネート・ナトリウム、(1,1−ジエトキシエチル)メチルフォスフィネート・ナトリウム、メチル−4−(ヒドロキシメチルフォスフィニル)−4−オキソブタノエート・リチウム塩、4−(ヒドロキシメチルフォスフィニル)−4−オキソブタノイックアシッド・ジリチウム塩、メチル(2−メチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−チアゾリディン−2−イル)フォスフォナイト・ナトリウム塩、(2−メチルパーヒドロ−1,3−ディアジン−2−イル)フォスフォナイト・ナトリウム塩、アセチルフォスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジエトキシエチル)フォスフォナイト・ナトリウム塩、(1,1−ジエトキシエチル)メチルフォスフォナイト・ナトリウム塩、メチル(2−メチルオキサチオラン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2,4,5−トリメチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1,1−プロポキシエチル)フォスフィネート・ナトリウム塩、(1−メトキシビニル)メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、(1−エチルチオビニル)メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチルパーヒドロ−1,3−ジアジン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチルパーヒドロ−1,3−チアジン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−ジアゾリジン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−チアゾリジン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、(2,2−ジシアノ−1−メチルエチニル)フォスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルフォスフィネートオキシム・ナトリウ厶塩、アセチルメチルフォスフィネート−O−ベンジルオキシム・ナトリウム塩、1−[(N−エトキシイミノ)エチル]メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−フェニルイミノエチル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−フェニルヒドラゾンエチル)フォスフィネート・ナトリウム塩、[1−(2,4−ジニトロフェニルヒドラゾノ)エチル]メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルフォスフィネートセミカルバゾン・ナトリウム塩、(1−シアノ−1−ヒドロキシエチル)メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、(ジメトキシメチル)メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、フォーミルメチルフォスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−オキソプロピル)フォスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルフォスフィネート・ドデシルグアニジン塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルフォスフィネート・イソプロピルアミン塩、アセチルメチルフォスフィネートチオセミカルバゾン・ナトリウム塩、1,3,5−トリブチル−4−メチルアミノ−1,2,4−トリアゾリウム(1,1−ジメトキシエチル)−メチルフォスフィネート、1−ブチル−4−ブチルアミノメチルアミノ−3,5−ジプロピル−1,2,4−トリアゾリウム(1,1−ジメトキシエチル)−メチルフォスフィネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドカリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドのアンモニウム塩などが挙げられる。さらに、特開2000−159621号公報に記載されている化合物も挙げられる。
これら(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及び水溶性アシルホスフィンオキサイド類の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド及び2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩が特に好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩としては、例えば、チオキサントン、2−クロルチオキサンセン−9−オン、2−ヒドロキシ−3−(9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1−メチル−9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1,3,4−トリメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
これらチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩の中でも、特に好適なチオキサントン類は、2−クロルチオキサンセン−9−オンであり、特に好適なチオキサントン類の第4級アンモニウ厶塩は、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドである。
上記光重合開始剤として用いられるケタール類の例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるα−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが特に好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるクマリン化合物の例としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリン、3−ベンゾイル−5,7−ジメトキシクマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイルクマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3,5−カルボニルビス(7−メトキシクマリン)、3−ベンゾイル−6−ブロモクマリン、3,3’−カルボニルビスクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3−カルボキシクマリン、3−カルボキシ−7−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−6−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−8−メトキシクマリン、3−アセチルベンゾ[f]クマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−ニトロクマリン、3−ベンゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、7−ジメチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−ジエチルアミノ)クマリン、7−メトキシ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−(4−ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3−(4−エトキシシンナモイル)−7−メトキシクマリン、3−(4−ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3−(4−ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3−[(3−ジメチルベンゾチアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3−[(1−メチルナフト[1,2−d]チアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3,3’−カルボニルビス(6−メトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−アセトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−ジメチルアミノクマリン)、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジブチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾイミダゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジオクチルアミノ)クマリン、3−アセチル−7−(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)、3,3’−カルボニル−7−ジエチルアミノクマリン−7’−ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10−[3−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1−オキソ−2−プロペニル]−2,3,6,7−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン、10−(2−ベンゾチアゾイル)−2,3,6、7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン等の特開平9−3109号公報、特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
上述のクマリン化合物の中でも、特に、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)及び3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)が好適である。
上記光重合開始剤として用いられるアントラキノン類の例としては、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるベンゾインアルキルエーテル類の例としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるα−アミノケトン類の例としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等が挙げられる。
これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、α−ジケトン類、及びクマリン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す重合性組成物が得られる。
本発明に用いられる重合開始剤(C)のうち化学重合開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。上記の化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるケトンパーオキサイドとしては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド及びシクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるハイドロパーオキサイドとしては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及び1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるジアシルパーオキサイドとしては、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるジアルキルパーオキサイドとしては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシケタールとしては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン及び4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレリックアシッド−n−ブチルエステル等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシエステルとしては、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,2,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタラート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート及びt−ブチルパーオキシマレリックアシッド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシジカーボネートとしては、ジ−3−メトキシパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート及びジアリルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルパーオキサイドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルパーオキサイドが特に好ましく用いられる。
本発明に用いられる重合開始剤(C)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、重合開始剤(C)を0.001〜30重量部含有してなることが好ましい。重合開始剤(C)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、接着力の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上である。一方、重合開始剤(C)の配合量が30重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着強度が得られなくなるおそれがあり、さらには組成物からの析出を招くおそれがあるため、より好適には20重量部以下である。
重合促進剤(D)
本発明の組成物は、重合促進剤(D)を含むことが好ましい。本発明に用いられる重合促進剤(D)としては、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN−メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル及び4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるスルフィン酸及びその塩としては、例えば、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられ、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが特に好ましい。
重合促進剤(D)として用いられるボレート化合物は、好ましくはアリールボレート化合物である。好適に使用されるアリールボレート化合物を具体的に例示すると、1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物として、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、トリアルキル[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びトリアルキル(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基及びn−ドデシル基等からなる群から選択される少なくとも1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
また、1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物としては、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p−クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−フロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、ジアルキルジ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ(p−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びジアルキルジ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基及びn−ドデシル基等からなる群から選択される少なくとも1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩ブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
さらに、1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物としては、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−フロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ(p−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びモノアルキルトリ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基又はn−ドデシル基等から選択される1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
さらに1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フロロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素、(p−フロロフェニル)トリフェニルホウ素、(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルトリフェニルホウ素、(p−ニトロフェニル)トリフェニルホウ素、(m−ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p−ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(m−オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素及び(p−オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩ブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
これらアリールボレート化合物の中でも、保存安定性の観点から、1分子中に3個又は4個のアリール基を有するボレート化合物を用いることがより好ましい。また、これらアリールボレート化合物は1種又は2種以上を混合して用いることも可能である。
重合促進剤(D)として用いられるバルビツール酸誘導体としては、バルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジフェニルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5−エチルバルビツール酸、5−イソプロピルバルビツール酸、5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−n−ブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロペンチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−1−エチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、5−メチルバルビツール酸、5−プロピルバルビツール酸、1,5−ジエチルバルビツール酸、1−エチル−5−メチルバルビツール酸、1−エチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジエチル−5−ブチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−メチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−オクチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−ヘキシルバルビツール酸、5−ブチル−1−シクロヘキシルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸及びチオバルビツール酸類、ならびにこれらの塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属類が好ましい)が挙げられ、これらバルビツール酸類の塩としては、例えば、5−ブチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5−トリメチルバルビツール酸ナトリウム及び1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸ナトリウム等が例示される。
特に好適なバルビツール酸誘導体としては、5−ブチルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、及びこれらバルビツール酸類のナトリウム塩が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるトリアジン化合物としては、例えば、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(o−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−ブトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等が例示される。
上記で例示したトリアジン化合物の中で特に好ましいものは、重合活性の点で2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンであり、また保存安定性の点で、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、及び2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンである。上記トリアジン化合物は1種又は2種以上を混合して用いても構わない。
重合促進剤(D)として用いられる銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるスズ化合物としては、例えば、ジ−n−ブチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫ジラウレートなどが挙げられる。特に好適なスズ化合物は、ジ−n−オクチル錫ジラウレート及びジ−n−ブチル錫ジラウレートである。
重合促進剤(D)として用いられるバナジウム化合物は、好ましくはIV価及び/又はV価のバナジウム化合物類である。IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等の特開2003−96122号公報に記載されている化合物が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるハロゲン化合物としては、例えば、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド等が好適に用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるアルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒドやベンズアルデヒド誘導体などが挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−メチルオキシベンズアルデヒド、p−エチルオキシベンズアルデヒド、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒドが好ましく用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるチオール化合物としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、チオ安息香酸等が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられる亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム等が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられる亜硫酸水素塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるチオ尿素化合物としては、1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素、チオ尿素、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素、N,N’−ジ−n−プロピルチオ尿素、N,N’−ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリ−n−プロピルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラ−n−プロピルチオ尿素、テトラシクロヘキシルチオ尿素等が挙げられる。
本発明に用いられる重合促進剤(D)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、重合促進剤(D)を0.001〜30重量部含有してなることが好ましい。重合促進剤(D)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、接着力の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上である。一方、重合促進剤(D)の配合量が30重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着強度が得られなくなるおそれがあり、さらには組成物からの析出を招くおそれがあるため、より好適には20重量部以下である。
フィラー(E)
本発明の重合性組成物に、実施態様によっては、さらにフィラー(E)を配合することが好ましい。このようなフィラーは、通常、有機フィラー、無機フィラー及び有機−無機複合フィラーに大別される。有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
無機フィラーの素材としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。これらもまた、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。無機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記無機フィラーの平均粒子径は0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
無機フィラーの形状としては、不定形フィラー及び球状フィラーが挙げられる。組成物の機械強度を向上させる観点からは、前記無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。さらに、前記球状フィラーを用いた場合、本発明の重合性組成物を歯科用コンポジットレジンとして用いた場合に、表面滑沢性に優れたコンポジットレジンが得られるという利点もある。ここで球状フィラーとは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みをおびており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーである。前記球状フィラーの平均粒子径は好ましくは0.1〜5μmである。平均粒子径が0.1μm未満の場合、組成物中の球状フィラーの充填率が低下し、機械的強度が低くなるおそれがある。一方、平均粒子径が5μmを超える場合、前記球状フィラーの表面積が低下し、高い機械的強度を有する硬化体が得られないおそれがある。
前記無機フィラーは、組成物の流動性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
本発明で用いられる有機−無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーにモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。前記有機−無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機−無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記有機−無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
本発明に用いられるフィラー(E)の配合量は特に限定されず、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、フィラー(E)を1〜2000重量部が好ましい。フィラー(E)の好適な配合量は、用いられる実施態様によって大幅に異なるので、後述する本発明の重合性組成物の具体的な実施態様の説明と併せて、各実施態様に応じたフィラー(E)の好適な配合量を示すこととする。
溶媒(F)
本発明の重合性組成物は、その具体的な実施態様によっては、溶媒(F)を含むことが好ましい。溶媒としては、水、有機溶媒、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
本発明の重合性組成物が水を含む場合には、優れた接着強度を示すとともに優れた接着耐久性を示す。水の含有量としては、重合性単量体成分の全量100重量部に対して6〜2000重量部が好ましい。水の含有量が6重量部未満の場合、歯面の脱灰が不十分となり、接着強度が低下する。一方、水の含有量が2000重量部を超える場合、モノマーの重合性が低下し、接着強度が低下するとともに接着耐久性が低下する。水の含有量は、7重量部以上であることがより好ましく、10重量部以上であることがさらに好ましい。また、水の含有量は、1500重量部以下であることがより好ましい。水は、悪影響を及ぼすような不純物を含有していないことが好ましく、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、有機溶媒が水溶性有機溶媒であることが好ましく、具体的には、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランが好ましく用いられる。前記有機溶媒の含有量は特に限定されず、実施態様によっては前記有機溶媒の配合を必要としないものもある。前記有機溶媒を用いる実施態様においては、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、有機溶媒を1〜2000重量部含有してなることが好ましい。溶媒(F)の好適な配合量は、用いられる実施態様によって大幅に異なるので、後述する本発明の重合性組成物の具体的な実施態様の説明と併せて、各実施態様に応じた溶媒の好適な配合量を示すこととする。
この他、本発明の重合性組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲でpH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、抗菌剤、香料等を配合してもよい。
本発明の重合性組成物は、高い接着性及び貯蔵安定性を有し、例えば、生体硬組織、金属材料、有機高分子材料、セラミック等用の接着材料として用いることができる。本発明の重合性組成物は、耐加水分解性の高い化合物(A)を用いており、歯科用組成物として特に好適に用いられる。当該歯科用組成物は、例えば、プライマー、ボンディング材、コンポジットレジン、セメント(レジンセメント、レジン強化型グラスアイオノマーセメント)、小窩裂溝填塞材、義歯床用レジン等の歯科用材料に用いることができ、中でも、プライマー、ボンディング材、コンポジットレジン、又はセメントとして好適に用いられる。このとき、重合性組成物の成分を2つに分けた2剤型として用いてもよい。
歯科用プライマー
歯科用材料の接着システムは、象牙質表面を酸性成分で溶かす脱灰工程、モノマー成分が象牙質のコラーゲン層に浸透する浸透工程、浸透したモノマー成分が固まってコラーゲンとのハイブリッド層(樹脂含浸層)を形成する硬化工程を含む。基本的には、浸透工程に用いられる製品がプライマーである。プライマーとしては、近年前記脱灰工程と前記浸透工程とを併せて一段階で行うセルフエッチングプライマーもあり、化合物(A)が脱灰作用を有するため、本発明の重合性組成物と浸透作用を有する重合性単量体(B−a)を用いることによりセルフエッチングプライマーを構成することができる。
プライマーは、酸性基を含有する重合性単量体を含む公知のプライマーの、酸性基を含有する重合性単量体の一部又は全部を化合物(A)に置き換えることにより、構成することができる。プライマーの組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)1〜50重量部、重合性単量体(B−a)5〜99重量部、及び重合性単量体(B−b)0〜60重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)1〜40重量部、重合性単量体(B−a)10〜99重量部、及び重合性単量体(B−b)0〜50重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部含及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、溶媒(F)を6〜3500重量部含むことが好ましく、7〜2000重量部含むことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
歯科用ボンディング材
上記の硬化工程に用いられる製品がボンディング材である。ボンディング材は、酸性基を含有する重合性単量体を含む公知のボンディング材の、酸性基を含有する重合性単量体の一部又は全部を化合物(A)に置き換えることにより、構成することができる。ボンディング材の組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)1〜40重量部、重合性単量体(B−a)0〜60重量部、及び重合性単量体(B−b)5〜99重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)1〜30重量部、重合性単量体(B−a)0〜50重量部、及び重合性単量体(B−b)20〜99重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部含及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(E)を0〜30重量部含むことが好ましく、0〜15重量部含むことがより好ましい。また、溶媒(F)を使用しても良いが、実質的に含まないことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
近年では、浸透工程、脱灰工程、及び硬化工程を併せて一段階で行う1ステップ型のボンディング材も開発されている。また、ボンディング材は、2剤を使用直前に混和して用いる2液型と、1剤をそのまま使用可能な1液型とに分かれるが、現在は1液型が主流である。化合物(A)が、脱灰作用、及び硬化作用を有するため、本発明の重合性組成物により、1ステップ型の1液型ボンディング材を構成することができる。
1ステップ型の1液型ボンディング材の組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)1〜40重量部、重合性単量体(B−a)0〜80重量部、及び重合性単量体(B−b)5〜99重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)3〜30重量部、重合性単量体(B−a)10〜60重量部、及び重合性単量体(B−b)10〜60重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部含及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(E)を0〜30重量部含むことが好ましく、0〜15重量部含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、溶媒(F)を6〜2000重量部含むことが好ましく、7〜1000重量部含むことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
歯科用コンポジットレジン
コンポジットレジンは、通常、う蝕発生部位を切削し窩洞を形成した後に、前記窩洞に充填される形態で用いられる歯科用材料である。化合物(A)が、脱灰作用、及び硬化作用を有するため、本発明の重合性組成物により、自己接着性コンポジットレジンを構成することも可能である。
コンポジットレジンは、酸性基を含有する重合性単量体を含む公知のコンポジットレジンの、酸性基を含有する重合性単量体の一部又は全部を化合物(A)に置き換えることにより、構成することができる。コンポジットレジンの組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)1〜40重量部、重合性単量体(B−a)0〜80重量部、及び重合性単量体(B−b)10〜99重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)3〜30重量部、重合性単量体(B−a)10〜70重量部、及び重合性単量体(B−b)20〜87重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部含及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(E)を50〜3000重量部含むことが好ましく、80〜2000重量部含むことがより好ましい。また、溶媒(F)を使用しても良いが、実質的に含まないことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
歯科用セメント
歯科用セメントは、通常、インレーやクラウンと呼ばれる金属やセラミックス製の歯冠用修復材料を歯牙に固定する際の合着材として用いられる歯科用材料である。化合物(A)が、脱灰作用、及び硬化作用を有するため、本発明の重合性組成物により、自己接着性セメントを構成することも可能である。セメントとしては、レジンセメント及びレジン強化型グラスアイオノマーセメントがある。
セメントは、酸性基を含有する重合性単量体を含む公知のセメントの、酸性基を含有する重合性単量体の一部又は全部を化合物(A)に置き換えることにより、構成することができる。レジンセメントの組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)2〜50重量部、重合性単量体(B−a)0〜60重量部、及び重合性単量体(B−b)10〜98重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)2〜40重量部、重合性単量体(B−a)0〜50重量部、及び重合性単量体(B−b)20〜98重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部含及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(E)を50〜2000重量部含むことが好ましく、80〜1000重量部含むことがより好ましい。また、溶媒(F)を使用しても良いが、実質的に含まないことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
レジンセメントにおいては、重合開始剤(C)として化学重合開始剤を用いることが好ましく、重合促進剤(D)として、してアミン類及び/又はスルフィン酸及びその塩を用いることが好ましい。レジンセメントにおいては、保存安定性の観点から、化合物(A)及び重合開始剤(C)と、重合促進剤(D)とを、それぞれ別々の容器に保存する2剤型とすることが好ましい。
グラスアイオノマーセメントは、典型的にはフルオロアルミノシリケートガラスのような無機フィラーと、ポリアクリル酸のようなポリアルケン酸とが酸−塩基反応によって反応、硬化するものである。そして、前記ポリアルケン酸と歯質を構成するハイドロキシアパタイト中のカルシウムとが相互作用することにより、接着機能が発現すると考えられている。グラスアイオノマーセメントの組成の例としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、化合物(A)2〜50重量部、重合性単量体(B−a)0〜60重量部、及び重合性単量体(B−b)10〜98重量部が配合され、好ましくは、化合物(A)2〜40重量部、重合性単量体(B−a)0〜50重量部、及び重合性単量体(B−b)20〜98重量部が配合される。そして、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(C)0.001〜30重量部及び重合促進剤(D)0.001〜30重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(C)0.05〜20重量部含及び重合促進剤(D)0.05〜20重量部を含むことがより好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、ポリアルケン酸10〜200重量部、及びフルオロアルミノシリケートガラス50〜500重量部を含むことが好ましく、ポリアルケン酸10〜100重量部、及びフルオロアルミノシリケートガラス80〜400重量部を含むことがより好ましい。また、フルオロアルミノシリケートガラス以外のフィラー(E)を0〜2000重量部、好ましくは10〜1000重量部添加してもよい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、溶媒(F)を1〜500重量部含むことが好ましく、10〜50重量部含むことがより好ましい。なお、化合物(A)の一部を酸性基を有する重合性単量体(B−c)としてもよい。
グラスアイオノマーセメントにおいては、保存安定性の観点から、ポリアルケン酸と、フルオロアルミノシリケートガラスとを、それぞれ別々の容器に保存する2剤型とすることが好ましい。また、重合開始剤(C)と、重合促進剤(D)とを、別々の容器に保存することが好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。まず、実施例及び比較例で作製した重合性組成物の各成分について記載する。
[リン酸エステル化合物]
A−1:
A−2:
A−3:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
A−4:
A−5:
A−6:
[酸性基を有さず、かつ1個の重合性基を有する重合性単量体]
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
[酸性基を有さず、かつ2個以上の重合性基を有する重合性単量体]
BisGMA:2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン
[光重合開始剤]
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
[アミン類]
アミン1:トリエタノールアミン
[無機フィラー]
無機フィラー1:日本アエロジル製「R972」
[化合物(A)の合成]
<実施例1(A−1の合成)>
[8−メタクリロイルオキシ−7−メチルオクタン−1−オールの合成]
ナスフラスコに、2−メチル−1,8−オクタンジオール20.1g(125.7mmol)、トリエチルアミン50.9g(502.8mmol)、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン10mg、及びテトラヒドロフラン420mlをとり、窒素置換した。0℃で撹拌しながら、メタクリル酸クロリド40.6g(377.1mmol)を30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で6時間撹拌を続けた。撹拌終了後、ジエチルエーテル500mlを添加し、飽和重曹水100mlで3回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下に溶媒を留去し、1,8−ジメタクリロイルオキシ−2−メチルオクタンを主成分とする油状物質40.8gを取得した。得られた油状物質40.8gに蒸留水40ml、メタノール400ml、及び水酸化リチウム1水和物5.77g(137.5mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。1N塩酸で中和した後、減圧下で全量が250mlになるまで溶媒を留去した。得られた溶液をジエチルエーテル250mlで3回抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下に溶媒を留去し、油状物質を得た。得られた油状物質をシリカゲルクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン/酢酸エチル=3/1)にて精製し、油状物質として8−メタクリロイルオキシ−7−メチルオクタン−1−オール7.17g(31.4mmol、HPLC純度97.2%、収率25.0%)を得た。
[A−1の合成]
窒素置換した3つ口フラスコに、オキシ塩化リン3.70g(24.1mmol)、及びジエチルエーテル15mlをとった。−78℃で撹拌しながら、予め別容器で調製した8−メタクリロイルオキシ−7−メチルオクタン−1−オール1.10g(4.8mmol)、ジエチルエーテル24ml、及びトリエチルアミン4.89g(48.3mmol)の混合液を30分かけて滴下した。滴下終了後、−40℃で30分間、−20℃で1時間、0℃で4時間撹拌した後、蒸留水1.5gを3分かけて滴下し、次いで、撹拌終了後、予め別容器で調製したトリエチルアミン8.12g(80.2mmol)、ハイドロキノンモノメチルエーテル3mg、及びジエチルエーテル15mlの混合液を10分かけて滴下した。滴下終了後、0℃で12時間撹拌した。撹拌終了後、1N塩酸でpH1に調整し、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を蒸留水150mlで洗浄した後、減圧下に溶媒を留去し、油状物1.43gを取得した(HPLC純度95.0%、4.62mmol、収率76%)。以下に、得られた化合物A−1の1H−NMRデータを示す。
1H−NMR(400MHz、CDCl3、TMS)δ: 0.949(d,3H,J=7.2Hz)、1.171−1.384(m,8H)、1.684−1.836(m,3H)、3.1776(s,3H)、3.897−3.949(m,1H)、4.018−4.154(m,3H)、5.566(s,1H)、6.111(s,1H).
<実施例2(A−2の合成)>
[2,4−ジエチル−5−メタクリロイルオキシペンタン−1−オールの合成]
ナスフラスコに、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール5.10g(31.8mmol)、トリエチルアミン6.44g(63.6mmol)、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン3mg、及びテトラヒドロフラン159mlをとり、窒素置換した。0℃で撹拌しながら、メタクリル酸クロリド3.32g(31.8mmol)を10分かけて滴下した。滴下終了後、室温で4時間撹拌を続けた。撹拌終了後、1N塩酸31.8mlを加え、ジエチルエーテル150mlで3回抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下に溶媒を留去し、2,4−ジエチル−5−メタクリロイルオキシペンタン−1−オールを主成分とする油状物質を取得した。得られた油状物質をシリカゲルクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン/酢酸エチル=4/1)にて精製し、油状物質として2,4−ジエチル−5−メタクリロイルオキシペンタン−1−オール2.50g(10.9mmol、HPLC純度99.1%、収率34.2%)を得た。
[A−2の合成]
窒素置換した3つ口フラスコに、オキシ塩化リン3.49g(22.8mmol)、及びジエチルエーテル15mlをとった。−78℃で撹拌しながら、予め別容器で調製した2,4−ジエチル−5−メタクリロイルオキシペンタン−1−オール1.26g(4.56mmol)、ジエチルエーテル15ml、及びトリエチルアミン4.61g(45.6mmol)の混合液を30分かけて滴下した。滴下終了後、−40℃で30分間、−20℃で1時間、0℃で4時間撹拌した後、蒸留水0.8gを3分かけて滴下し、次いで、撹拌終了後、予め別容器で調製したトリエチルアミン7.68g(75.9mmol)、ハイドロキノンモノメチルエーテル1mg、及びジエチルエーテル15mlの混合液を10分かけて滴下した。滴下終了後、0℃で12時間撹拌した。撹拌終了後、1N塩酸でpH1に調整し、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を蒸留水で洗浄した後、有機層から減圧下に溶媒を留去し、油状物1.302gを取得した(HPLC純度95.1%、3.83mmol、収率84%)。以下に、得られた化合物A−2の1H−NMRデータを示す。
1H−NMR(400MHz、CDCl3、TMS)δ: 0.8615−0.9295(m、6H)、1.2105−1.4008(m、6H)、1.6325−1.8012(m、2H)、1.9344(s、3H)、3.9125−4.1127(m、4H)、5.5609(s、1H)、6.0955(s、1H).
[耐加水分解性評価用組成物の調製]
<試験例1>
下記の各成分を常温下で混合して組成物を調製した。
耐加水分解性評価用組成物:
A−1 2重量部
水 30重量部
エタノール 20重量部
[耐加水分解性の評価]
上記調製した組成物を、ガラス容器に採取して密栓後、50℃に保持した恒温器内に312時間静置した。高速液体クロマトグラフィーによる絶対検量線法により、調製直後に対するA−1の残存率を求めた。得られた結果を表1に示す。
<試験例2>
試験例1において、リン酸エステル化合物である「A−1」を2重量部用いる代わりに、A−2を2重量部用いた以外は試験例1と同様にして耐加水分解性を評価した。得られた結果を表1に示す。
<試験例3>
試験例1において、リン酸エステル化合物である「A−1」を2重量部用いる代わりに、A−3を2重量部用いた以外は試験例1と同様にして耐加水分解性を評価した。得られた結果を表1に示す。
<試験例4>
試験例1において、リン酸エステル化合物である「A−1」を2重量部用いる代わりに、A−4を2重量部用いた以外は試験例1と同様にして耐加水分解性を評価した。得られた結果を表1に示す。
<試験例5>
試験例1において、リン酸エステル化合物である「A−1」を2重量部用いる代わりに、A−5を2重量部用いた以外は試験例1と同様にして耐加水分解性を評価した。得られた結果を表1に示す。
<試験例6>
試験例1において、リン酸エステル化合物である「A−1」を2重量部用いる代わりに、A−6を2重量部用いた以外は試験例1と同様にして耐加水分解性を評価した。得られた結果を表1に示す。
[1液型歯科用組成物の調製]
<実施例3>
下記の各成分を常温下で混合して1液型歯科用組成物である1液型ボンディング材組成物を調製し、牛歯エナメル質及び牛歯象牙質との接着強度を測定した。
1液型ボンディング材組成物:
A−1 10重量部
BisGMA 30重量部
HEMA 30重量部
TMDPO 3重量部
無機フィラー1 5重量部
[牛歯エナメル質及び牛歯象牙質との接着性評価方法]
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、エナメル質の平坦面を露出させたサンプル及び象牙質の平坦面を露出させたサンプルを得た。得られたそれぞれのサンプルを流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)でさらに研磨した。研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規制した。
上記作製した1液型ボンディング材組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、20秒間放置した後、表面をエアブローすることで、塗布した1液型ボンディング材組成物の流動性が無くなるまで乾燥した。次いで、歯科用可視光線照射器「JETライト3000」(J.Morita USA製)にて20秒間光照射することにより、塗布した1液型ボンディング材組成物を硬化させた。
得られた1液型ボンディング材組成物の硬化物の表面に歯科充填用コンポジットレジン(クラレメディカル株式会社製、商品名「クリアフィルAP−X」(登録商標))を塗布し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記コンポジットレジンの塗布面を平滑にした。続いて、前記離型フィルムを介して、前記コンポジットレジンに対して前記照射器「JETライト3000」を用いて20秒間光照射を行い、前記コンポジットレジンを硬化させた。
得られた歯科充填用コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル株式会社製、商品名「パナビア21」)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。得られた蒸留水に浸漬したサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置することで、接着試験供試サンプルを作製した。
5個の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(株式会社島津製作所製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強度とした。得られた結果を表2にまとめて示す。
<実施例4>
実施例3において、リン酸エステル化合物である「A−1」を10重量部用いる代わりに、「A−2」を10重量部用いた以外は実施例3と同様にして1液型ボンディング材組成物を調製し、牛歯エナメル質との接着強度及び牛歯象牙質との接着強度を測定した。得られた結果を表2にまとめて示す。
<比較例1>
実施例3において、リン酸エステル化合物である「A−1」を10重量部用いる代わりに、「A−3」を10重量部用いた以外は実施例3と同様にして1液型ボンディング材組成物を調製し、牛歯エナメル質との接着強度及び牛歯象牙質との接着強度を測定した。得られた結果を表2にまとめて示す。
<比較例2>
実施例3において、リン酸エステル化合物である「A−1」を10重量部用いる代わりに、「A−4」を10重量部用いた以外は実施例3と同様にして1液型ボンディング材組成物を調製し、牛歯エナメル質との接着強度及び牛歯象牙質との接着強度を測定した。得られた結果を表2にまとめて示す。
<比較例3>
実施例3において、リン酸エステル化合物である「A−1」を10重量部用いる代わりに、「A−5」を10重量部用いた以外は実施例3と同様にして1液型ボンディング材組成物を調製し、牛歯エナメル質との接着強度及び牛歯象牙質との接着強度を測定した。得られた結果を表2にまとめて示す。
<比較例4>
実施例3において、リン酸エステル化合物である「A−1」を10重量部用いる代わりに、「A−6」を10重量部用いた以外は実施例3と同様にして1液型ボンディング材組成物を調製し、牛歯エナメル質との接着強度及び牛歯象牙質との接着強度を測定した。得られた結果を表2にまとめて示す。
表1の結果より、本発明の化合物(A)であるA−1及びA−2は、従来広く用いられている化合物A−3と比較して、耐加水分解性に優れていることがわかる。また、化合物A−3は、組成物に高い接着性を与えるものとして従来用いられているが、表2の結果より、実施例3及び4の重合性組成物は、化合物A−3を用いた比較例1の重合性組成物と同等の接着性を示した。さらに、実施例3及び4と、比較例2の比較により、本発明の化合物(A)を用いた重合性組成物は、公知のリン酸エステル化合物と比較して、接着性に優れていることがわかる。実施例3及び4と、比較例3及び4の比較より、本発明の化合物(A)を用いた重合性組成物は、公知の耐加水分解性が改善された化合物類と比較して、接着性に優れていることがわかる。