以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(ロール状セルロースエステルフィルム)
本発明のロール状セルロースエステルフィルムは、幅が1500〜4000mmのものである。従来は、偏光子の有効幅として60インチ型(フィルム幅1328mm×流れ方向784mm)の液晶表示装置までに制限されていたが、本発明により有効幅68インチ型(フィルム幅1505mm×流れ方向889mm)が可能となった。
本発明のセルロースエステルフィルムは、連続的な溶液流延、溶融方法によってロール状に製造される。その後、同じくロール状に製造された偏光子とロールトゥロールで貼り合わせられ、裁断されて所望の偏光板が製造されることとなる。
〈セルロースエステル〉
本発明のセルロースエステルとしては、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース(DAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、硝酸セルロース等のセルロースエステル類が挙げられる。
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることが出来る。また、これらから得られたセルロースエステルは、それぞれを単独あるいは任意の割合で混合使用することが出来るが、綿花リンターを50質量%以上使用することが好ましい。
セルロースエステルフィルムの分子量が大きいと弾性率が大きくなるが、分子量を上げすぎるとセルロースエステルの溶解液の粘度が高くなりすぎるため生産性が低下する。セルロースエステルの分子量は数平均分子量(Mn)で30000〜200000のものが好ましく、500000〜200000のものが更に好ましい。
本発明で用いられるセルロースエステルはMw/Mn比が1〜5であることが好ましく、更に好ましくは1〜3であり、特に好ましくは1.4〜2.3である。
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定できるので、これを用いて数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1,000,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
特に好ましいセルロースエステルは、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXacとし、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYpbとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルである。
式(I) 2.2≦(Xac+Ypb)≦2.55
式(II) 0≦Xac≦2.1
中でも1.0≦Xac≦2.1、0.1≦Ypb≦1.55のセルロースアセテートプロピオネート(総アシル基置換度=Xac+Ypb)が好ましい。これらアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することができる。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらのセルロースエステルは公知の方法で合成することが出来る。
(負の複屈折性を有する化合物)
本発明の負の複屈折性を有する化合物とは、セルロースエステルフィルムの中で、フィルムの延伸方向に対して負の複屈折性を示す材料を意味し、針状微粒子、アクリルポリマー、ポリエステル、フラノース構造もしくはピラノース構造を有する化合物等が挙げられる。負の複屈折性は、複屈折率が負の性質をいう。
<針状微粒子>
本発明のセルロースフィルムは、延伸方向に対して負の複屈折性を示す少なくとも1種の針状微粒子を含有することが特徴である。
延伸方向に対して負の複屈折性を示す針状微粒子(以降、複屈折性微粒子ともいう)としては、特開2004−109355号公報に記載の複屈折性微粒子を用いることが出来る。例えば、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン、炭酸コバルト、炭酸亜鉛、炭酸バリウムなどの種々の炭酸塩が挙げられる。
例えば、正方晶系、六方晶系および菱面体晶系は一軸性複屈折性結晶、斜方晶系、単斜晶系および三斜晶系の結晶が好ましく用いられる。またこれらは、単結晶であっても良いし、多結晶であっても良い。
又、ポリスチレンあるいはアクリル樹脂の棒状粒子なども好ましく用いられる。例えばポリスチレン樹脂あるいはアクリル樹脂を有し、極細繊維を細かく切断して製造した短繊維状の針状微粒子であってもよい。これらの繊維は製造過程で延伸されていることが複屈折性を発現しやすくなるため好ましい。又、これらの樹脂は架橋されていることが好ましい。
これらの複屈折性微粒子は10〜500nmの長径とそれに垂直な短径のアスペクト比が1:1.1以上であることが好ましく、特にアスペクト比が1:2〜1:100であることが好ましく、1:3〜1:30であることが好ましい。
しかし、これらに限られるわけではなく、前述の大きさ、形状、アスペクト比などの要件を満たせば、種々のものが利用可能である。
複屈折性微粒子は、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、などにより表面処理されていることが好ましい。
複屈折性微粒子の複屈折性については、次のように定義する。複屈折性微粒子の長径方向に偏光した光に対する屈折率をnpr、長径方向に直交する方向に偏光した光に対する平均屈折率をnvtとする。複屈折性微粒子の複屈折Δnは、下記の式で定義される。
Δn=npr−nvt
すなわち、複屈折性微粒子の長径方向の屈折率が、それに直交する方向の平均屈折率よりも大きければ正の複屈折、その逆であれば負の複屈折となる。
本発明で使用される複屈折性微粒子の持つ負の複屈折性の絶対値には特に制限はないが、0.01〜0.3であることが好ましく、0.05〜0.3であることが更に好ましい。針状結晶の場合は結晶の長い方向の屈折率がそれとは直交する方向の屈折率よりも小さい材料を意味する。
上記炭酸塩微粒子は、均一沈殿法あるいは炭酸ガス化合法などによって製造することができる。
例えば、特開平3−88714、特公昭55−51852、特開昭59−223225等の方法で製造することができる。
炭酸ストロンチウム結晶は、水に溶解したストロンチウムイオンと炭酸イオンとを接触させて得ることが出来る。炭酸イオンは、ストロンチウム化合物を含有する溶液中に炭酸ガスをバブリングする方法などによって添加したり、もしくは炭酸イオンを発生する物質を添加し、反応もしくは分解させて得ることが出来る。
例えば、特開2004−35347記載の方法で炭酸ストロンチウム結晶微粒子を製造することができ、この方法で得られた炭酸ストロンチウム微粒子が複屈折性微粒子として好ましく用いることが出来る。炭酸ガスを発生させる物質としては尿素があげられ、尿素の加水分解酵素を併用して発生した炭酸ガスイオンとストロンチウムイオンとを反応させて炭酸ストロンチウム微粒子を得ることが出来る。微細な結晶を得るためには、できるだけ温度を下げて反応させることが好ましい。氷点下以下に冷却することが微細な結晶粒子を得ることが出来るため好ましい。
例えば、凝固点降下物質としてエチレングリコール類などの有機溶媒を添加することも好ましく、凝固点が氷点下5℃を下回るように添加することが好ましい。これによって、長径方向の平均粒径が500nm以下の炭酸ストロンチウムの微粒子を得ることが出来る。
炭酸ストロンチウムは二軸性の複屈折結晶であり、特開2004−35347によれば、それぞれの光学軸方向の屈折率は、n(na,nb,nc)=(1.520,1.666,1.669)であり、針状結晶の長軸方向は、屈折率1.520の光学軸方向とほぼ一致することが報告されている。
そのため、針状結晶の配向方向に対して負の複屈折効果を持つ。この炭酸ストロンチウム結晶微粒子は、針状(棒状)の形態であるため、粘性のある媒体内に分散させた状態で応力を作用させることにより、統計的に所定の方向に配向させることができる。
針状微粒子とセルロースエステル溶液を混合する場合、針状微粒子を針状微粒子分散用樹脂と有機溶媒に分散した針状微粒子分散液を用いて作製したドープを用いてセルロースエステルフィルムを製造することが好ましい。
針状微粒子分散用樹脂は3000〜200000の重量平均分子量であることが好ましく、3000〜90000の重量平均分子量であることが好ましい。
針状微粒子分散用樹脂は具体的には、エチレン性不飽和単量体単位を有する単独重合体または共重合体、アクリル酸またはメタクリル酸エステル単独重合体または共重合体、メタクリル酸メチルエステル単独重合体または共重合体、セルロースエステル、セルロースエーテルポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂及びケトン樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
これらの樹脂は、溶液流延に使用される高濃度のセルロースエステル溶液であるドープ(セルロース濃度10〜30質量%)に含有させても、ヘイズの上昇が少なく、均一なフィルムを形成することができる樹脂である。これらの針状微粒子分散用樹脂の針状微粒子分散液に含まれている濃度は0.1〜10質量%未満であることが好ましく、微粒子分散液中の濃度は添加する樹脂によって異なるが、0.2〜5質量%含まれていることが好ましい。
本発明においては、微粒子分散液の粘度を100〜500mPa・sの範囲にコントロールすることが好ましい。
<アクリルポリマー、ポリエステル、フラノース構造もしくはピラノース構造を有する化合物>
次に本発明に係るアクリルポリマー、ポリエステルおよびフラノース構造もしくはピラノース構造を有する化合物ついて説明する。
〈アクリルポリマー〉
本発明のセルロースエステルフィルムは、延伸方向に対して負の複屈折性を示す重量平均分子量が500以上30000以下であるアクリルポリマーを含有することが好ましく、該アクリルポリマーは芳香環を側鎖に有するアクリルポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリルポリマーであることが好ましい。
該ポリマーの重量平均分子量が500以上30000以下のもので該ポリマーの組成を制御することで、セルロースエステルと該ポリマーとの相溶性を良好にすることができる。
特に、アクリルポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリルポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリルポリマーについて、好ましくは重量平均分子量が500以上10000以下のものであれば、上記に加え、製膜後のセルロースエステルフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
該ポリマーは重量平均分子量が500以上30000以下であるから、オリゴマーから低分子量ポリマーの間にあると考えられるものである。このようなポリマーを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法で出来るだけ分子量を揃えることの出来る方法を用いることが望ましい。
かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、更に特開2000−128911号または同2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、或いは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いられるが、特に、該公報に記載の方法が好ましい。
本発明に有用なポリマーを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマーを構成するエチレン性不飽和モノマー単位としては:ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等;アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル等;メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたもの;不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることが出来る。上記モノマーで構成されるポリマーはコポリマーでもホモポリマーでもよく、ビニルエステルのホモポリマー、ビニルエステルのコポリマー、ビニルエステルとアクリル酸またはメタクリル酸エステルとのコポリマーが好ましい。
本発明において、アクリルポリマーという(単にアクリルポリマーという)のは、芳香環或いはシクロヘキシル基を有するモノマー単位を有しないアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステルのホモポリマーまたはコポリマーを指す。芳香環を側鎖に有するアクリルポリマーというのは、必ず芳香環を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位を含有するアクリルポリマーである。
また、シクロヘキシル基を側鎖に有するアクリルポリマーというのは、シクロヘキシル基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位を含有するアクリルポリマーである。
芳香環及びシクロヘキシル基を有さないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることが出来る。
アクリルポリマーは上記モノマーのホモポリマーまたはコポリマーであるが、アクリル酸メチルエステルモノマー単位が30質量%以上を有していることが好ましく、また、メタクリル酸メチルエステルモノマー単位が40質量%以上有することが好ましい。特にアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルのホモポリマーが好ましい。
芳香環を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸(2または4−クロロフェニル)、メタクリル酸(2または4−クロロフェニル)、アクリル酸(2または3または4−エトキシカルボニルフェニル)、メタクリル酸(2または3または4−エトキシカルボニルフェニル)、アクリル酸(oまたはmまたはp−トリル)、メタクリル酸(oまたはmまたはp−トリル)、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、メタクリル酸フェネチル、アクリル酸(2−ナフチル)等を挙げることが出来るが、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニチル、メタクリル酸フェネチルを好ましく用いることが出来る。
芳香環を側鎖に有するアクリルポリマーの中で、芳香環を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位が20〜40質量%を有し、且つアクリル酸またはメタクリル酸メチルエステルモノマー単位を50〜80質量%有することが好ましい。該ポリマー中、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位を2〜20質量%有することが好ましい。
シクロヘキシル基を有するアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(4−メチルシクロヘキシル)、メタクリル酸(4−メチルシクロヘキシル)、アクリル酸(4−エチルシクロヘキシル)、メタクリル酸(4−エチルシクロヘキシル)等を挙げることが出来るが、アクリル酸シクロヘキシル及びメタクリル酸シクロヘキシルを好ましく用いることが出来る。
シクロヘキシル基を側鎖に有するアクリルポリマー中、シクロヘキシル基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位を20〜40質量%を有し且つ50〜80質量%有することが好ましい。また、該ポリマー中、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位を2〜20質量%有することが好ましい。
上述のエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリルポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリルポリマー及びシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリルポリマーは何れもセルロース樹脂との相溶性に優れる。
これらの水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーの場合はホモポリマーではなく、コポリマーの構成単位である。この場合、好ましくは、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位がアクリルポリマー中2〜20質量%含有することが好ましい。
本発明において、側鎖に水酸基を有するポリマーも好ましく用いることが出来る。水酸基を有するモノマー単位としては、前記したモノマーと同様であるが、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることが出来、好ましくは、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルである。ポリマー中に水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルモノマー単位はポリマー中2〜20質量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜10質量%である。
前記のようなポリマーが上記の水酸基を有するモノマー単位を2〜20質量%含有したものは、勿論セルロースエステルとの相溶性、保留性、寸法安定性が優れ、透湿度が小さいばかりでなく、偏光板保護フィルムとしての偏光子との接着性に特に優れ、偏光板の耐久性が向上する効果を有している。
アクリルポリマーの主鎖の少なくとも一方の末端に水酸基を有するようにする方法は、特に主鎖の末端に水酸基を有するようにする方法であれば限定ないが、アゾビス(2−ヒドロキシエチルブチレート)のような水酸基を有するラジカル重合開始剤を使用する方法、2−メルカプトエタノールのような水酸基を有する連鎖移動剤を使用する方法、水酸基を有する重合停止剤を使用する方法、リビングイオン重合により水酸基を末端に有するようにする方法、特開2000−128911号または2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、或いは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等により得ることが出来、特に該公報に記載の方法が好ましい。
この公報記載に関連する方法で作られたポリマーは、綜研化学社製のアクトフロー・シリーズとして市販されており、好ましく用いることが出来る。上記の末端に水酸基を有するポリマー及び/または側鎖に水酸基を有するポリマーは、本発明において、ポリマーの相溶性、透明性を著しく向上する効果を有する。
更に、延伸方向に対して負の複屈折性を示すエチレン性不飽和モノマーとして、スチレン類を用いたポリマーであることが負の屈折性を発現させるために好ましい。スチレン類としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ビニル安息香酸メチルエステルなどが挙げられるが、これらに限定される物ではない。
前記不飽和エチレン性モノマーとして挙げた例示モノマーと共重合してもよく、また複屈折性を制御する目的で、2種以上の上記ポリマーをもちいてセルロースエステルに相溶させて用いても良い。
更に、本発明に係るセルロースエステルフィルムは、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーXと、より好ましくは芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下のポリマーYとを含有することが好ましい。
〈ポリマーX、ポリマーY〉
本発明のポリマーXは分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーである。好ましくは、Xaは分子内に芳香環と親水性基を有しないアクリルまたはメタクリルモノマー、Xbは分子内に芳香環を有せず親水性基を有するアクリルまたはメタクリルモノマーである。
本発明のポリマーXは、下記一般式(1)で表される。
一般式(1)
−(Xa)m−(Xb)n−(Xc)p−
さらに好ましくは、下記一般式(1−1)で表されるポリマーである。
一般式(1−1)
−[CH2−C(−R1)(−CO2R2)]m−[CH2−C(−R3)(−CO2R4−OH)−]n−[Xc]p−
(式中、R1、R3、R5は、HまたはCH3を表す。R2は炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基を表す。R4、R6は−CH2−、−C2H4−または−C3H6−を表す。Xcは、Xa、Xbに重合可能なモノマー単位を表す。m、nおよびpは、モル組成比を表す。ただしm≠0、n≠0、k≠0、m+n+p=100である。)
本発明のポリマーXを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
Xにおいて、親水性基とは、水酸基、エチレンオキシド連鎖を有する基をいう。
分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることが出来る。中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル(i−、n−)であることが好ましい。
分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbは、水酸基を有するモノマー単位として、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることが出来、好ましくは、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)及びメタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)である。
Xcとしては、Xa、Xb以外のものでかつ共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば、特に制限はないが、芳香環を有していないものが好ましい。
Xa、XbおよびXcのモル組成比m:nは99:1〜65:35の範囲が好ましく、更に好ましくは95:5〜75:25の範囲である。Xcのpは0〜10である。Xcは複数のモノマー単位であってもよい。
Xaのモル組成比が多いとセルロースエステルとの相溶性が良化するがフィルム厚み方向のリターデーション値Rtが大きくなる。Xbのモル組成比が多いと上記相溶性が悪くなるが、Rtを低減させる効果が高い。また、Xbのモル組成比が上記範囲を超えると製膜時にヘイズが出る傾向があり、これらの最適化を図りXa、Xbのモル組成比を決めることが好ましい。
ポリマーXの分子量は重量平均分子量が5000以上30000以下であり、更に好ましくは8000以上25000以下である。
重量平均分子量を5000以上とすることにより、セルロースエステルフィルムの、高温高湿下における寸法変化が少ない、偏光板保護フィルムとしてカールが少ない等の利点が得られ好ましい。重量平均分子量が30000を以内とした場合は、セルロースエステルとの相溶性がより向上し、高温高湿下においてのブリードアウト、さらには製膜直後でのヘイズの発生が抑制される。
本発明のポリマーXの重量平均分子量は、公知の分子量調節方法で調整することが出来る。そのような分子量調節方法としては、例えば四塩化炭素、ラウリルメルカプタン、チオグリコール酸オクチル等の連鎖移動剤を添加する方法等が挙げられる。また、重合温度は通常室温から130℃、好ましくは50℃から100℃で行われるが、この温度または重合反応時間を調整することで可能である。
重量平均分子量の測定方法は下記方法によることが出来る。
(重量平均分子量測定方法)
重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。
測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
本発明のポリマーYは芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下のポリマーである。
重量平均分子量500以上ではポリマーの残存モノマーが減少し好ましい。また、3000以下とすることは、リターデーション値Rt低下性能を維持するために好ましい。
Yaは、好ましくは芳香環を有さないアクリルまたはメタクリルモノマーである。
本発明のポリマーYは、下記一般式(2)で表される。
一般式(2)
−(Ya)k−(Yb)q−
さらに好ましくは、下記一般式(2−1)で表されるポリマーである。
一般式(2−1)
−[CH2−C(−R5)(−CO2R6)]k−[Yb]q−
(式中、R5は、HまたはCH3を表す。R6は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。Ybは、Yaと共重合可能なモノマー単位を表す。kおよびqは、モル組成比を表す。ただしk≠0、k+q=100である。)
Ybは、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はない。Ybは複数であってもよい。k+q=100、qは好ましくは0〜30である。
芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマーYを構成するエチレン性不飽和モノマーYaはアクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたもの;不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることが出来る。
Ybは、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はないが、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル等が好ましい。Ybは複数であってもよい。
ポリマーX、Yを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法で出来るだけ分子量を揃えることの出来る方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、更に特開2000−128911号または同2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いられるが、特に、分子中にチオール基と2級の水酸基とを有する化合物を連鎖移動剤として使用する重合方法が好ましい。
この場合、ポリマーXおよびポリマーYの末端には、重合触媒および連鎖移動剤に起因する水酸基、チオエーテルを有することとなる。この末端残基により、ポリマーX、Yとセルロースエステルとの相溶性を調整することができる。
ポリマーXおよびYの水酸基価は30〜150[mgKOH/g]であることが好ましい。
(水酸基価の測定方法)
この測定は、JIS K 0070(1992)に準ずる。この水酸基価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。具体的には試料Xg(約1g)をフラスコに精秤し、これにアセチル化試薬(無水酢酸20mlにピリジンを加えて400mlにしたもの)20mlを正確に加える。フラスコの口に空気冷却管を装着し、95〜100℃のグリセリン浴にて加熱する。
1時間30分後、冷却し、空気冷却管から精製水1mlを加え、無水酢酸を酢酸に分解する。次に電位差滴定装置を用いて0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。更に空試験として、試料を入れないで滴定し、滴定曲線の変曲点を求める。
水酸基価は、次の式によって算出する。
水酸基価={(B−C)×f×28.05/X}+D
(式中、Bは空試験に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、Cは滴定に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、fは0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Dは酸価、また、28.05は水酸化カリウムの1mol量56.11の1/2を表す)
上述のXポリマーポリマーYは何れもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
ポリマーXとポリマーYのセルロースエステルフィルム中での含有量は、下記式(i)、式(ii)を満足する範囲であることが好ましい。ポリマーXの含有量をXg(質量%=ポリマーXの質量/セルロースエステルの質量 ×100)、ポリマーYの含有量をYg(質量%)とすると、
式(i) 5≦Xg+Yg≦35(質量%)
式(ii) 0.05≦Yg/(Xg+Yg)≦0.4
式(i)の好ましい範囲は、10〜25質量%である。
ポリマーXとポリマーYは総量として5質量%以上であれば、リターデーション値Rtの低減に十分な作用をする。また、総量として35質量%以下であれば、偏光子PVAとの接着性が良好である。
ポリマーXとポリマーYは後述するドープ液を構成する素材として直接添加、溶解するか、もしくはセルロースエステルを溶解する有機溶媒に予め溶解した後ドープ液に添加することが出来る。
〈ポリエステル〉
本発明のセルロースエステルフィルムは下記ポリエステルを含有することも好ましい。
(一般式(3)または(4)で表されるポリエステル)
本発明のセルロースエステルフィルムは下記一般式(3)または(4)で表されるポリエステルを含有することが好ましい。
一般式(3) B1−(G−A−)mG−B1
(式中、B1はモノカルボン酸を表し、Gは2価のアルコールを表し、Aは2塩基酸を表す。B1、G、Aはいずれも芳香環を含まない。mは繰り返し数を表す。)
一般式(4) B2−(A−G−)nA−B2
(式中、B2はモノアルコールを表し、Gは2価のアルコールを表し、Aは2塩基酸を表す。B2、G、Aはいずれも芳香環を含まない。nは繰り返し数を表す。)
一般式(3)、(4)において、B1はモノカルボン酸成分を表し、B2はモノアルコール成分を表し、Gは2価のアルコール成分を表し、Aは2塩基酸成分を表し、これらによって合成されたことを表す。B1、B2、G、Aはいずれも芳香環を含まないことが特徴である。m、nは繰り返し数を表す。
B1で表されるモノカルボン酸としては、特に制限はなく公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
B2で表されるモノアルコール成分としては、特に制限はなく公知のアルコール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。
Gで表される2価のアルコール成分としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうちエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、さらに、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールを好ましく用いられる。
Aで表される2塩基酸(ジカルボン酸)成分としては、脂肪族2塩基酸、脂環式2塩基酸が好ましく、例えば、脂肪族2塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、特に、脂肪族ジカルボン酸としては炭素原子数4〜12もの、これらから選ばれる少なくとも一つのものを使用する。つまり、2種以上の2塩基酸を組み合わせて使用してよい。
m、nは繰り返し数を表し、1以上で170以下が好ましい。
(一般式(5)または(6)で表されるポリエステル)
本発明のセルロースエステルフィルムは下記一般式(5)または(6)で表されるポリエステルを含有することが好ましい。
一般式(5) B1−(G−A−)mG−B1
(式中、B1は炭素数1〜12のモノカルボン酸を表し、Gは炭素数2〜12の2価のアルコールを表し、Aは炭素数2〜12の2塩基酸を表す。B1、G、Aはいずれも芳香環を含まない。mは繰り返し数を表す。)
一般式(6) B2−(A−G−)nA−B2
(式中、B2は炭素数1〜12のモノアルコールを表し、Gは炭素数2〜12の2価のアルコールを表し、Aは炭素数2〜12の2塩基酸を表す。B2、G、Aはいずれも芳香環を含まない。nは繰り返し数を表す。)
一般式(5)、(6)において、B1はモノカルボン酸成分を表し、B2はモノアルコール成分を表し、Gは炭素数2〜12の2価のアルコール成分を表し、Aは炭素数2〜12の2塩基酸成分を表し、これらによって合成されたことを表す。B1、G、Aはいずれも芳香環を含まない。m、nは繰り返し数を表す。
B1、B2は、前述の一般式(3)または(4)におけるB1、B2と同義である。
G、Aは前述の一般式(3)または(4)におけるG、Aの中で炭素数2〜12のアルコール成分または2塩基酸成分である。
ポリエステルの重量平均分子量は20000以下が好ましく、10000以下であることがさらに好ましい。特に重量平均分子量が500〜10000のポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が良好であり、好ましく用いられる。
ポリエステルの重縮合は常法によって行われる。例えば、上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により容易に合成し得るが、重量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが好ましい。
低分子量側に分布が高くあるポリエステルはセルロースエステルとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースエステルフィルムを得ることができる。分子量の調節方法は、特に制限なく従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価のものの添加する量によりコントロールできる。
この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して反応系外にこのような1価の酸を系外に除去するときに溜去し易いものが選ばれるが、これらを混合使用してもよい。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることによっても重量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることによってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
本発明に係るポリエステルは、セルロースエステルに対し1〜40質量%含有することが好ましく、一般式(5)または(6)で表されるポリエステルは2〜30質量%含有することが好ましい。特に5〜15質量%含有することが好ましい。
〈フラノース構造もしくはピラノース構造を有する化合物〉
本発明のセルロースエステルフィルムはフラノース構造もしくはピラノース構造を少なくとも1個有し、該フラノース構造もしくはピラノース構造が1〜12個結合した化合物中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化した化合物とを含むことを特徴とする。
好ましい「フラノース構造もしくはピラノース構造を少なくとも1個有し、該フラノース構造もしくはピラノース構造が1〜12個結合した化合物」の例としては、例えば以下のようなものをあげることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、アラビノース、ラクトース、スクロース、セロビオース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースなどが挙げられるが、特にフラノース構造とピラノース構造を両方有するものが好ましい。例としてはスクロースが挙げられる。
本発明の「フラノース構造もしくはピラノース構造を少なくとも1個有し、該フラノース構造もしくはピラノース構造が1〜12個結合した化合物中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化した化合物」に用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入したもの、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
これらの化合物の製造方法の詳細は、特開昭62−42996号公報及び特開平10−237084号公報に記載されている。
以下に、具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
<その他の添加剤>
本発明のセルロースエステルフィルムには、前記負の複屈折性を有する化合物以外に、通常のセルロースエステルフィルムに添加することのできる添加剤を含有させることができる。
これらの添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、微粒子等を挙げることができる。
本発明に使用することができる可塑剤としては特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
本発明に使用することができる紫外線吸収剤は、400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。高分子型の紫外線吸収剤としてもよい。
本発明に使用される微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることが出来る。微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましいのは7〜20nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されることが好ましい。セルロースエステルフィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.05〜1質量%であることが好ましく、特に0.1〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成のセルロースエステルフィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することが出来る。
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することが出来る。
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることが出来る。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することが出来る。
これらの中でもでアエロジル200V、アエロジルR972Vがセルロースエステルフィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。
(Rt、Ro)
本発明において、Rt、Roは、23℃55%RH下で波長590nmでの式(i)および式(ii)で表される。
式(i)Ro=(nx−ny)×d
式(ii)Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(ここで、フィルム面内遅相軸方向の屈折率をnx、遅相軸に直交する方向の屈折率をny、フィルム厚さ方向の屈折率をnz、dはフィルムの膜厚(nm)をそれぞれ表す。)
尚、リターデーション値、複屈折率は自動複屈折率測定装置(王子計測機器(株)製の商品名KOBRA−21ADH)を用いて測定出来るが、これに限定されるものではない。
本発明において、Rtは15〜70nmであり、好ましくは、15〜50nmである。Roは、0〜15nmである。
本発明の、Rt、Roは、前記負の複屈折性を有する化合物の種類、量を適宜選択することによって、随意調整することができる。
(ロール状セルロースエステルフィルムの製造方法)
次に、本発明のロール状セルロースエステルフィルムの製造方法について説明する。
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、溶液流延法もしくは溶融流延で製造されたセルロースエステルフィルムが好ましい。
本発明のロール状セルロースエステルフィルムの製造は、セルロースエステル及び添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減出来て好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。
良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。
そのため、セルロースエステルの平均酢化度(アセチル基置換度)によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えばアセトンを溶剤として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶剤になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶剤となる。
本発明に用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
また、本発明に用いられる貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることが好ましい。また、セルロースエステルの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。
上記記載のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることが出来る。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱出来る。溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
若しくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることが出来る。
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することが出来るが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間にロール状セルロースエステルを置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。より好ましくは100個/cm2以下であり、更に好ましくは50個/m2以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm2以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
ドープの濾過は通常の方法で行うことが出来るが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
ここで、ドープの流延について説明する。
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mとすることが出来る。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速く出来るので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。好ましい支持体温度は0〜40℃であり、5〜30℃が更に好ましい。
或いは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
ロール状セルロースエステルが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
尚、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
また、ロール状セルロースエステルの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールをウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
本発明のロール状セルロースエステルフィルムを作製するためには、金属支持体より剥離した直後のウェブの残留溶剤量の多いところで搬送方向(=長尺方向)に延伸し、更にウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で幅方向に延伸を行うことが特に好ましい。
<幅方向の延伸>
幅方向の好ましい延伸倍率は1.15〜1.50倍(15〜50%)であり、1.20〜1.50(20〜50%)倍が好ましい。
長尺方向の延伸倍率は、幅方向の延伸倍率よりも小さいことが好ましく、1.05〜1.30倍である。長尺方向及び幅方向延伸により面積が1.12倍〜1.44倍となっていることが好ましく、1.15倍〜1.32倍となっていることが好ましい。これは長尺方向の延伸倍率×幅方向の延伸倍率で求めることが出来る。
ここでいう延伸倍率とは、単に延伸工程だけにとどまらず、搬送工程等、製造工程全体としてフィルムに張力がかかり延伸される場合の総延伸倍率をいう。この総延伸倍率は、ドープの流延量、仕上がりフィルムの膜厚、巻き長、巻き幅から理想的に製造した場合の理想フィルムからの差で求めることができる。
剥離直後に長尺方向に延伸するために、剥離張力を210N/m以上で剥離することが好ましく、特に好ましくは220〜300N/mである。
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことが出来るが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は40〜200℃で段階的に高くしていくことが好ましく、50〜140℃の範囲で行うことが寸法安定性を良くするため更に好ましい。
ロール状セルロースエステルの膜厚は、特に限定はされないが10〜200μmが用いられる。特に膜厚は20〜100μmであることが特に好ましい。更に好ましくは25〜90μmである。
本発明のロール状セルロースエステルフィルムは、幅1500〜4000mmのものである。そして、このロール状セルロースエステルフィルムは、そのまま裁断されてシート状のセルロースエステルフィルムとして使用される場合、ロール状の偏光子とロールトゥロールで貼合後、偏光板として裁断されて使用される場合がある。なお、4000mmを超えるものは、実用上極めて製造が困難である。
(幅方向、長尺方向の弾性率)
本発明ではロール状セルロースエステルフィルムの幅方向の弾性率が、長尺方向の弾性率よりも大きいことを特徴とする。この特徴は、搬送工程、延伸工程を含めた幅方向の総延伸倍率が、長尺方向の総延伸倍率よりも大きいことによって達成することができる。
本発明における幅方向の弾性率は、3.5〜5.5Gpaであり、長尺方向の弾性率は、3.0〜4.5Gpaである。
なお、本発明の弾性率は、長さ150mm、幅10mmに切り出した試料を、ISO1184−1983の規格に準じ、初期試料長100mm、引っ張り速度10mm/minにて測定した。
(偏光板)
本発明の偏光板においては、一軸延伸フィルムである偏光子に対して、本発明のセルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして少なくとも偏光子の一つの面に貼合する。
<偏光子>
偏光子は、二色性物質を含む一軸延伸フィルムが用いられる。偏光子としては、たとえば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したものがあげられる。
またポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等で一軸延伸したものがあげられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素、二色性染料などの二色性物質からなる偏光子が好適である。
ポリビニルアルコール系フィルムとしては、ポリビニルアルコール系樹脂を、水または有機溶媒に溶解した原液を流延成膜する流延法、キャスト法、押出法等の任意の方法で成膜されたものを適宜使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は100〜5000程度が好ましく、1400〜4000がより好ましい。
ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素等で染色し一軸延伸した偏光子は、たとえば、以下の方法により作成できる。
染色工程においては、ポリビニルアルコール系フィルムを、ヨウ素が添加された20〜70℃程度の染色浴に1〜20分間程度浸漬し、ヨウ素を吸着させる。染色浴中のヨウ素濃度は、通常水100質量部あたり0.001〜1質量部程度である。染色浴中には、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等のヨウ化物等の助剤を0.02〜20質量部程度添加してもよい。これら添加物は、染色効率を高める上で特に好ましい。また水溶媒以外に、水と相溶性のある有機溶媒が少量含有されていてもよい。
またポリビニルアルコール系フィルムは、ヨウ素または二色性染料含有水溶液中で染色させる前に、水浴等で20〜60℃程度で0.1〜10分間程度膨潤処理されていてもよい。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。
染色処理したポリビニルアルコール系フィルムは、必要に応じて架橋することができる。架橋処理を行う架橋水溶液の組成は、通常水100質量部あたりホウ酸、ホウ砂、グリオキザール、グルタルアルデヒド等の架橋剤を単独又は混合して1〜10質量部程度である。架橋剤の濃度は、光学特性とポリビニルアルコール系フィルムに発生する延伸力により生じる偏光板収縮のバランスを考慮して決定される。
架橋浴中には、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等のヨウ化物等の助剤を0.05〜15質量%程度添加してもよい。これら添加剤は、偏光子の面内の均一な特性を得る点で特に好ましい。水溶液の温度は通常20〜70℃程度、好ましくは40〜60℃の範囲である。浸漬時間は、特に限定されないが、通常1秒〜15分間程度、好ましくは5秒〜10分間である。水溶媒以外に、水と相溶性のある有機溶媒が少量含有されていてもよい。
ポリビニルアルコール系フィルムの総延伸倍率は元長の3〜7倍程度、好ましくは5〜7倍である。総延伸倍率が7倍を超える場合はフィルムが破断しやすくなる。延伸は、膨湿工程、ヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色または架橋しながら延伸してもよし、また延伸してからヨウ素で染色してもよい。延伸方法や延伸回数等は、特に制限されるものではなく、いずれか一工程でのみ行ってもよい。また、同一工程で複数回行ってもよい。延伸方式は、湿式、乾式のいずれでもよい。
またヨウ素吸着配向処理を施したポリビニルアルコール系フィルムには、さらに水温10〜60℃程度、好ましくは30〜40℃程度、濃度0.1〜10質量%のヨウ化カリウム等のヨウ化物水溶液に1秒〜1分間浸漬する工程を設けることができる。ヨウ化物水溶液中には、硫酸亜鉛、塩化亜鉛物等の助剤を添加してもよい。また、ヨウ素吸着配向処理を施したポリビニルアルコール系フィルムには、水洗工程、20〜80℃程度で1分〜10分間程度の乾燥工程を設けることができる。
これら偏光子の厚さは特に制限されないが、一般的に、5〜80μm程度である。偏光子の厚みが薄くなると、偏光板の製造工程中において、偏光板保護フィルムと貼り合せる際の乾燥工程等において、偏光子中の水分が揮発しやすくなる。
<偏光板の製造>
前記偏光子と本発明の偏光板保護フィルムとの貼り合わせには、通常、接着剤が用いられる。接着剤としては、イソシアネート系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステル等を例示できる。前記接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤として用いられ、通常、0.5〜60質量%の固形分を含有してなる。接着剤には、架橋剤、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などのカップリング剤、各種粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐加水分解安定剤などの安定剤等を配合することもできる。
また、偏光板保護フィルムと偏光子とを接着する面には、易接着処理を施すことができる。易接着処理としては、プラズマ処理、コロナ処理等のドライ処理、アルカリ処理等の化学処理、易接着剤層を形成するコーティング処理等があげられる。これらのなかでも、易接着剤層を形成するコーティング処理が好適である。易接着剤層の形成には、ポリオール樹脂、ポリカルボン酸樹脂、ポリエステル樹脂等の各種の易接着材料を使用することができる。なお、易接着剤層の厚みは、通常、10μm以下、好ましくは0.01〜10μm程度とするのが好ましい。
接着剤の塗布は、偏光板明保護フィルム、偏光子のいずれに行ってもよく、両者に行ってもよい。塗布操作は特に制限されず、ロール法、噴霧法、浸漬法等の各種手段を採用できる。貼り合わせ後には、乾燥工程を施し、塗布乾燥層からなる接着層を形成する。偏光子と保護フィルムの貼り合わせは、ロールラミネーター等により行うことができる。接着層の厚さは、特に制限されないが、通常、5μm以下、好ましくは0.1〜5μm程度である。
本発明においては、偏光板保護フィルムの、偏光子の吸収軸方向と直交する方向の弾性率が、該偏光子の吸収軸方向と同じ方向の弾性率よりも大きいことを特徴とする。つまり、偏光子の一軸延伸の方向と本発明の長尺方向が一致するように偏光板が製造される。
本発明のロール状セルロースエステルフィルムは幅方向の延伸倍率を長尺方向の延伸倍率よりも大きくなるように製造していることから、一軸延伸された偏光子の延伸方向は、吸収軸と一致し、ロール状偏光子とロール状セルロースエステルフィルムをロールトゥロールで貼合すると、吸収軸の方向を心配することなく、本発明の偏光板を得ることができる。
<その他の偏光板保護フィルム>
偏光板に貼合する本発明のセルロースエステルフィルム以外の偏光板保護フィルムとしては、適宜な透明材料を用いうるが、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮断性などに優れるものが好ましく用いられる。
例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、二酢酸セルロースや三酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどがあげられる。
また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、あるいは前記ポリマーのブレンド物なども前記透明保護フィルムを形成するポリマーの例としてあげられる。
透明保護フィルムは、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型、紫外線硬化型の樹脂の硬化層として形成することもできる。
本発明のセルロースエステルフィルムを両面の偏光板保護フィルムに用いてもよい。
本発明の偏光板保護フィルムには、他の位相差板、輝度向上フィルム等液晶表示装置に使用される他の機能を有するフィルムをさらに貼り合わせて使用してもよい。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<処方1:試料1〜4の製造>
(ドープ組成物A処方)
・トリアセチルセルロース(酢化度61.0%) 85質量部
・2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)ベゾトリアゾール 1.5質量部
・メチルメタクリレート−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体 8質量部
(80/20(質量比)) Mw;8000
・メチルアクリレート重合体(*) Mw;1000 5質量部
・メチレンクロライド 475質量部
・エタノール 50質量部
(*)特開2000−128911公報の実施例3記載の重合方法でメチルアクリレートモノマーを重合し、Mw1000、Mn700のポリマーを得た。この反応物の水酸基価(OHV;mg/g KOH)は、50であった。
(マット剤溶液組成)
・平均粒径16nmのシリカ粒子分散液 11.0質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 76.1質量部
・エタノール(第2溶媒) 3.5質量部
・アセチルプロピオニルセルロース(アセチル置換度2.06、プロピオニル置換度0.79) 1.9質量部
(マット剤溶液の調製)
平均粒径16nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)を20質量部、メタノール80質量部を30分間よく攪拌混合してシリカ粒子分散液とした。この分散液を下記の組成物とともに分散機に投入し、さらに30分以上攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液を調製した。
上記処方のドープ組成物Aを密封容器に投入し、70℃まで加熱し、撹拌しながら、セルローストリアセテート(TAC)を完全に溶解しドープを得た。溶解に要した時間は4時間であった。ドープ組成物Aを濾過した後、マット剤溶液6.5質量部を混合し、その混合液をベルト流延装置を用い、ドープ温度35℃で22℃のステンレスバンド支持体上に均一に流延した。ステンレスバンド支持体の温度は20℃であった。
その後、剥離可能な範囲まで乾燥させた後、ステンレスバンド支持体上からドープを剥離した。このときのドープの残留溶媒量は25質量%であった。ドープ流延から剥離までに要した時間は3分であった。ステンレスバンド支持体から10kg/mの張力で剥離させ、140℃下にてテンターで幅方向に20%延伸させた後、多数のロールで搬送させながら120℃、135℃の乾燥ゾーンで乾燥を終了させ、フィルム両端に幅10mm、高さ5μmのナーリング加工を施して、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルム試料1を製造した。
フィルム幅は1500mm、巻き取り長は4000mとした。ヘイズ((株)村上色彩技術研究所製ヘイズメーターHM150により測定)は3%で、単体透過率((株)日立製作所製積分球付き分光光度計U−4100により測定)は97%であった。巻き取り張力は、初期張力10kg/m、最終巻張力8kg/mとした。
試料2は、試料1と同様にして膜厚が80μmとなるように製造した。試料3は、試料1と同様にして幅方向の延伸率を50%とした。試料4は、試料1と同様にしてフィルム製造工程における幅延伸工程では延伸を行わず幅保持し、フィルムとして仕上げた後、幅方向に延伸した(オフライン工程)。この工程では、トリアセチルセルロースフィルム等を長尺方向に走行させながら、延伸機(ヒラノ技研工業(株)製)により165℃にて幅方向に所望の延伸をして、所望のフィルムとした。
<処方2:試料5の製造>
(添加剤溶液組成)
・シクロヘキシルスルホンアニリド 44.3質量部
・2−ヒドロキシ−4−オクタノキシベンゾフェノン 7.9質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 58.8質量部
・メタノール(第2溶媒) 8.4質量部
・トリアセチルセルロース(酢化度61.0%) 2.2質量部
上記ドープ組成物Aを95.6質量部、マット剤溶液を1.8質量部、添加剤溶液6.7質量部をそれぞれ濾過後に混合し、試料1と同様にして試料5を製造した。
<処方3:試料6の製造>
上記ドープ組成物Aのメチルメタクリレート−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体(80/20(質量比))の共重合体質量比を(70/30(質量比)Mw;8000)、添加量を5質量部としメチルアクリレート重合体を添加しないドープ組成物によって、試料1と同様にして試料6を製造した。
<処方4:試料7の製造>
上記ドープ組成物Aのメチルメタクリレート−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体およびメチルアクリレート重合体の代わりに、オクタアセチルスクロースを13質量部用い、試料1と同様にして試料7を製造した。
<処方5:試料8の製造>
上記ドープ組成物Aのトリアセチルセルロースの代わりに、アセチル置換度2.06、プロピオニル置換度0.79のアセチルプロピオニルセルロースを同量使用し、さらにリン酸トリフェニル4質量部、リン酸ビフェニルジフェニル1質量部を添加し、試料1と同様にして試料8を製造した。
<処方6:試料10〜13の製造>
上記ドープ組成物Aのメチルメタクリレート−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体およびメチルアクリレート重合体の代わりにリン酸トリフェニル4質量部、リン酸ビフェニルジフェニル1質量部を使用し、トリアセチルセルロースは、98質量部とし試料1と同様にして試料10を製造した。試料11は、試料10において試料4と同様にオフライン工程で製造した。試料12は、試料11において膜厚を80μmとした。試料13は、幅方向の延伸倍率を10%とし、試料1と同様にして製造した。
<処方7:試料14の製造>
上記ドープ組成物Aのトリアセチルセルロースの代わりに、アセチル置換度1.6、プロピオニル置換度0.8のアセチルプロピオニルセルロースを100質量部使用し、さらにトリメチロールプロパントリベンゾエート5.5質量部、下記構造の化合物A5.5質量部を添加し、試料1と同様にして試料14を製造した。
(化合物A)
(偏光子の作製)
厚み80μm、幅3100mmのポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製,平均重合度2400,ケン化度99.9モル%,長さ800m)を、30℃の純水中に60秒間浸漬して膨潤させるとともに、長さ方向(流れ方向)に延伸倍率2.5倍まで一軸延伸した。次いで、30℃のヨウ素/ヨウ化カリウム(質量比=1/10)の濃度0.05%の水溶液に60秒間浸漬するとともに総延伸倍率が2.8倍となるように延伸した後、40℃のホウ酸濃度3質量%、ヨウ化カリウム濃度2質量%の水溶液中で総延伸倍率が3倍となるまで延伸した。
さらに60℃のホウ酸濃度4質量%、ヨウ化カリウム濃度3質量%の水溶液中で総延伸倍率が6倍となるまで延伸した。その後、25℃のヨウ化カリウム濃度5質量%の水溶液中に30秒間無延伸で浸漬した。次いで、張力を保持したままた40℃で1分間乾燥を行い、厚さ20μm、幅1550mmの偏光子を得た。偏光子は連続的に製造した。
(偏光板の作製)
上記偏光子および試料フィルムを長尺方向に走行させながら、ポリビニルアルコール系接着剤にて、偏光子の両面にロールトゥロールで連続して貼り合わせて偏光板を作製した。得られた試料1〜14からの偏光板(試料番号と同じ番号)について、引き裂き強度を評価した。なお、試料9では、試料をシート状に裁断したのち、偏光板保護フィルムと偏光子の貼合方向をクロス方向とした。
なお、クロス方向とは、偏光子の搬送方向(長尺方向)と本発明のフィルムの搬送方向(長尺方向)が垂直になるように貼りあわせることをいい、パラレル方向とは、偏光子の搬送方向(長尺方向)と本発明のフィルムの搬送方向(長尺方向)が平行になるように貼りあわせることをいう。ロールトゥロールで偏光子と偏光板保護フィルムを貼合することができる場合は、パラレル方向となり生産性が極めて高い貼合が可能となる。
<引き裂き強度の測定方法>
エレメンドルフ法の引き裂き荷重をJIS K 7128−1991に従い東洋精機(株)製の軽荷重引き裂き装置で引き裂き強度を測定した。このとき偏光子の吸収軸に対し平行方向へ引き裂いた結果である。
<液晶表示装置としての特性評価>
68インチを超える液晶表示装置に代えて、32型TFT型カラー液晶ディスプレーベガ(ソニー社製)によって偏光板の光学性能は代用評価した。
32型TFT型カラー液晶ディスプレーベガ(ソニー社製)の偏光板を剥がし、上記作製した各々の偏光板を液晶セルのサイズに合わせて断裁した。液晶セルを挟むようにして、前記作製した偏光板2枚を偏光板の偏光軸が元と変わらないように互いに直交するように貼り付け、32型TFT型カラー液晶ディスプレイを作製し、偏光板としての特性として正面コントラストを評価した。
<正面コントラスト>
23℃、55%RHの環境で、この液晶ディスプレイのバックライトを点灯して、30分そのまま放置してから、測定を行った。測定にはELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて、液晶TVで白表示と黒表示の正面輝度を測定し、その比を正面コントラストとした。値が高いほど、コントラストに優れている。
正面コントラスト=白表示の正面輝度/黒表示の正面輝度
表1から明らかなように、本発明は、偏光板としての光学性能を有しながらも、リワークに適した引き裂き強度を有することがわかる。