以下、添付の図面を参照しつつ、画像形成装置及び定着装置の様々な実施形態が説明される。尚、以下において用いられる「上」、「下」、「左」や「右」などの方向を表す用語は、単に、説明の明瞭化を目的とするものであり、画像形成装置及び定着装置の原理を何ら限定するものではない。
<定着原理>
図1A乃至図1Cは、液体現像剤を用いた画像の転写工程を概略的に説明する図である。図1A乃至図1Cの順に、転写工程が進行する。図1A乃至図1Cを参照しつつ、シートSへの画像の転写並びに転写後の画像が説明される。
図1Aは、像担持体100からシートSへ転写される画像を形成する液体現像剤の液層Lの概略的断面を示す。像担持体100は、例えば、液体現像剤を用いて画像を形成する画像形成装置(例えば、プリンター、コピー機、ファクシミリ装置やこれらの機能を備える複合機)が備える転写ベルトであってもよい。像担持体100は、画像を形成する液体現像剤の液層LをシートSへの転写位置まで搬送する。
転写位置において、シートSは、像担持体100上の液層Lに接触する。画像を形成する液体現像剤の液層Lは、キャリア液Cと、画像を発色させるための着色粒子Pと、キャリア液C中に溶解又は膨潤された高分子化合物Rとを含む。キャリア液C中に分散された着色粒子Pは、シートSに静電気的に引きつけられる。かくして、着色粒子Pは、シートS上に付着し、画像を形成する。尚、着色粒子PのシートSへの引きつけは、例えば、シートSを横切る電界によって達成される。着色粒子PのシートSへの引きつけに関する原理は、後述の画像形成装置に関連して詳述される。
図1Bは、シートSに浸透するキャリア液Cを概略的に示す。比較的低い動粘度を有するキャリア液Cは、シートSに浸透し、浸透層PLをシートSの表層に形成する。シートSへのキャリア液Cの浸透に伴って、液体現像剤の液層L中の高分子化合物Rの濃度は増大する。
図1Cに示される如く、キャリア液Cが更にシートSに浸透すると、液層L中の高分子化合物Rは析出する。上述の如く、着色粒子PのシートSへの静電気的付着は、高分子化合物Rの析出より先に生ずる。したがって、シートSの表面に析出した高分子化合物Rは、シートS上で画像を形成する着色粒子Pの層上に積層された被膜層を形成する。
図2A及び図2Bは、転写工程後に行われる定着工程を概略的に説明する図である。図2Aは、定着工程を概略的に示す。図2Bは、定着工程後のシートSの概略的な断面図である。図1A乃至図2Bを用いて、定着工程の原理が説明される。
転写工程後、キャリア液Cは、シートSに略浸透され、シートS上に高分子化合物Rと、着色粒子Pとを含む画像層Iが形成される。転写工程において、画像層Iには、像担持体100からシートSへ液層L(画像)を転写する際の圧力及び電界を除いて、物理的な力はほとんど加えられない。このため、定着工程前において、画像層IとシートSとの間の物理的な結合は、比較的弱く、後述されるテープを用いた剥離試験を行うと、画像層Iの顕著な剥離が生ずることとなる。
図2Aには、画像を摺擦するための摺擦板200が示される。摺擦板200は、例えば、略直方体形状の基板210と、基板210の表面を被覆する不織布220とを備える。本実施形態において、不織布220として、ポリプロピレン不織布が用いられる。代替的に、0.10の動摩擦係数を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylen)製の不織布(以下、PTFEフェルトAと称される)、0.13の動摩擦係数を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylen)製の不織布(以下、PTFEフェルトBと称される)、ポリエステルフェルト、ポリエチレンテレフタレート製のフェルト(以下、PETフェルトと称される)、ポリアミドフェルトや羊毛フェルトが不織布220として用いられてもよい。
シートS上に形成された画像層I上に載置された摺擦板200は、シートSの上面に沿って画像層I上を移動する。この結果、図2Bに示される如く、画像層Iの成分(着色粒子P及び/又は高分子化合物R)の一部がシートSの表層内に食い込む(アンカー効果)。かくして、画像層IとシートSとの物理的な結合が強められる。
上述の如く、画像層Iの上面は、高分子化合物Rに覆われる。したがって、画像を発色させる着色粒子Pは、形成された高分子化合物Rの皮膜層によって覆われているが、摺擦板200の摺擦動作によってさらに強固な樹脂皮膜が形成され、適切に保護される。かくして、摺擦板200の摺擦に起因する画像の損傷は適切に抑制される。
<試験例1>
図3は、摺擦板200が画像層Iに摺擦移動しているときの期間(擦り時間)と画像層Iの定着率との関係を概略的に示すグラフである。図2A乃至図3を用いて、擦り時間と定着率との関係が説明される。
図3のグラフの横軸に示される擦り時間は、画像層I中の所定の領域が、往復移動している摺擦板200に接触している間の時間長さを表す。
図3のグラフの縦軸に示される定着率FRは、以下に示される数式を用いて算出されている。ここで、D0は、画像層I上に帖着されたテープを剥離する前の画像の濃度を表し、D1は、画像層I上に帖着されたテープを剥離した後の画像の濃度を表す。
定着率FRの評価に用いられたテープは、3M社製のメンディングテープであった。メンディングテープは、専用の治具を用いて画像層I上に帖着された。したがって、図3のグラフに表されるデータ点間において、テストサンプル中の画像層Iとメンディングテープとの帖着強度は略一定に保たれている。また、テストサンプル中の画像層Iに打擲されたメンディングテープは、専用の治具を用いて、略一定の剥離角度及び略一定の剥離速度で、画像層Iから剥離された。
テストサンプルの画像の濃度は、サカタインクスエンジニアリング株式会社製の分光光度計スペクトロアイを用いて測定された。
図3に示される如く、1秒以上、画像層Iが摺擦されると、画像層Iは比較的高い定着率FRを達成することが分かる。また、1秒未満の擦り時間では、画像層Iの定着率FRは急激な増加を示すことが分かる。尚、摺擦板200の重量は、好ましくは、画像層Iの表面の傷の発生が抑制されるように適切に定められる。
図4は、様々な種類の不織布220と、定着率FRとの関係を概略的に示すグラフである。図2A乃至図4を用いて、不織布220の種類と定着率FRとの関係が説明される。
図4の横軸は、不織布220の種類を示す。本試験において、PTFEフェルトA、PTFEフェルトB、ポリプロピレン不織布、ポリエステルフェルト、PETフェルト、ポリアミドフェルト及び羊毛フェルトが示されている。
図4の左側の縦軸は、上述の定着率FRを示す。定着率FRは、図4の棒グラフによって表される。尚、本試験で用いられた上述の全ての種類の不織布220は、1秒を超える擦り時間において、比較的高い定着率FRを達成した。したがって、比較的有利な種類の不織布220のスクリーニングのために、図4に示される定着率FRは、0.625秒の擦り時間の下、算出されている。
図4の右側の縦軸は、図4中の点によって表される各種類の不織布220の動摩擦係数を示す。低い動摩擦係数は、シートSの搬送への影響の低減及び画像層Iへの損傷の低減の点から有利である。
図4に示される如く、PTFEフェルトAは、最も低い動摩擦係数を有するとともに最も高い定着率FRを達成している。したがって、テストされた種類の不織布220のうちPTFEフェルトAが最も有利であるということが分かる。尚、不織布220として、図4に示されていない不織布材料が用いられてもよい。好ましくは、0.50以下の動摩擦係数を有する不織布材料が不織布220として用いられる。0.50以下の動摩擦係数を有する不織布材料は、シートSの搬送への影響及び画像層Iへの損傷を好適に抑制することができる。
<試験例2>
図5A乃至図5Dは、摺擦方向の数が与える定着率FRへの影響を調べるための試験方法の概略図である。図5A乃至図5Dは、本実施形態に係る試験条件をそれぞれ例示する。
本試験において、画像層Iが形成されたシートSが用意された。試験例1と同様に、画像層Iは、摺擦板200によって摺擦される。画像層Iに対する摺擦は、図5A乃至図5Dに示される4つの条件でなされた。尚、他の試験条件は、試験例1に関連して説明された試験と同様である。
第1の試験条件(図5A)において、画像層Iは、第1試験方向(右から左)に摺擦された。摺擦期間は5秒間であった。摺擦回数は、80回であった。
第2の試験条件(図5B)において、画像層Iは、第1試験方向及び第1試験方向と反対の第2試験方向(左から右)に摺擦された。摺擦期間は合計で5秒間であった。第1試験方向の摺擦回数及び第2試験方向の摺擦回数はそれぞれ40回であった。
第3の試験条件(図5C)において、画像層Iは、第1試験方向、第2試験方向並びにこれらに直交する第3試験方向(下から上)に摺擦された。摺擦期間は合計で5秒間であった。第1試験方向の摺擦回数及び第2試験方向の摺擦回数はそれぞれ27回であった。第3試験方向の摺擦回数は26回であった。
第4の試験条件(図5D)において、画像層Iは、第1試験方向、第2試験方向、第3試験方向及び第3試験方向と反対の第4試験方向(上から下)に摺擦された。摺擦期間は合計で5秒間であった。第1試験方向乃至第4試験方向の摺擦回数はそれぞれ20回であった。
図6は、図5A乃至図5Dに関連して説明された試験条件下で得られた定着率FRを示すグラフである。図6のグラフの横軸は、図5A乃至図5Dに関連して説明された摺擦方向の数を示す。図6のグラフの縦軸は、シートS上の画像層Iの定着率FRを示す。図6に示される定着率FRの算出手法は、試験例1に関連して説明された算出手法に従う。図5A乃至図6を用いて、摺擦方向の数が与える定着率FRへの影響が説明される。
図6に示される如く、摺擦方向の増加に伴って、定着率FRは直線的に増加した。図5Aに関連して説明された第1試験条件の下において、定着率FRは56%であった。図5Bに関連して説明された第2試験条件の下において、定着率FRは73%であった。図5Cに関連して説明された第3試験条件の下において、定着率FRは84%であった。図5Dに関連して説明された第4試験条件の下において、定着率FRは94%であった。
図6に示されるグラフから、摺擦方向の増加は、比較的短期間の摺擦で高い定着率FRをもたらすことが分かる。
<画像形成装置の基本構造>
図7は、図1A乃至図6に関連して説明された定着技術の原理が適用された画像形成装置の概略構成図である。図8は、循環装置の部分を除いたカラープリンター1の概略断面図である。図9は、画像形成ユニットの一つを拡大して示す断面図である。図7乃至図9を用いて、画像を形成する画像形成装置が説明される。尚、図7乃至図9に示される画像形成装置はカラープリンター1である。代替的に、画像形成装置は、コピー機、ファクシミリ装置、これらの機能を含む複合機やシートS上に画像を形成することができる他の装置であってもよい。
図7に示される如く、カラープリンター1は、画像形成のための様々な装置や部品が収納される上側本体部1Aと、この上側本体部1Aの下部に配置され、各色用の循環装置LY、LM、LC、LB(混合液体供給システム)が収納される下側本体部1Bとを備える。ここでは、上側本体部1Aと下側本体部1Bとを結ぶ配管類は図示されていない。循環装置LY、LM、LC、LBは、上側本体部1Aにおいて実行される画像形成工程に用いられる液体現像剤を循環させる。循環装置LY、LM、LC、LBの構成・原理に対して、既知の画像形成装置で用いられる液体現像剤用の循環技術が適宜用いられてもよい。
図8に示される如く、上側本体部1Aは、画像データに基づいてトナー画像を形成するタンデム式の画像形成部2と、シートSを収容するシート収納部3と、画像形成部2で形成されたトナー画像をシートS上に転写する転写部4と、転写されたトナー画像をシートS上に定着させる定着部5と、定着の完了したシートSを排紙する排出部6と、シート収納部3から排出部6までシートSを搬送するシート搬送部7とを含む。本実施形態において、定着部5に対して、図1乃至図6に関連して説明された定着技術の原理が適用される。尚、図7及び図8において、定着部5は、概略的に示されている。以下に、様々な実施形態に係る定着部が後述される。図7乃至図9に関連して説明される画像形成装置には、これらの実施形態に係る定着部のうちいずれか1つが搭載される。
転写部4は、図1A乃至図1Cに関連して説明された像担持体100に相当する中間転写ベルト21と、中間転写ベルト21を駆動する駆動ローラー41と、駆動ローラー41と協働して中間転写ベルト21の走行経路を規定する従動ローラー49と、を備える。液体現像剤を用いて画像を形成する画像形成部2は、中間転写ベルト21を清掃するクリーニング部22と、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の各色にそれぞれ対応した画像形成ユニットFY、FM、FC及びFBとを備える。
導電性の中間転写ベルト21は、駆動ローラー41と従動ローラー49とに巻回される。中間転写ベルト21の幅は、カラープリンター1が許容する最大の幅のシートSよりも大きく設定される。以下の説明において、中間転写ベルト21の循環駆動において外側を向く面は、表面と称され、他方の面は裏面と称される。
中間転写ベルト21の近傍で連設された画像形成ユニットFY、FM、FC及びFBは、駆動ローラー41と従動ローラー49との間に配置される。画像形成ユニットFY、FM、FC及びFBは、感光体ドラム10と、帯電器11と、露光装置12と、現像装置14と、一次転写ローラー20と、クリーニング装置26と、除電装置13と、除去ローラー30とを備える。尚、画像形成ユニットFY、FM、FC及びFBのうち、最も駆動ローラー41に近い位置に位置する画像形成ユニットFBは、除去ローラー30を備えていない点を除いて、画像形成ユニットFY、FM及びFCと同様の構成である。
各画像形成ユニットFY、FM、FC、FBに対応して、それぞれ循環装置LY、LM、LC、LBが設けられる。循環装置LY、LM、LC、LBは、各色の液体現像剤の供給並びに回収を行う。
円柱状の感光体ドラム10の周面は、帯電(本実施形態ではプラス極性に帯電)されたトナーを含むトナー像を担持可能である。中間転写ベルト21に接触する感光体ドラム10は、中間転写ベルト21の走行方向に沿うように回転する。帯電器11は、感光体ドラム10の表面を一様に帯電させる。
露光装置12は、例えば、LED光源を有する。露光装置12の光源は、外部の機器から入力される画像データに応じて、一様に帯電された感光体ドラム10の表面に光を照射する。この結果、感光体ドラム10の表面には、静電潜像が形成される。
着色粒子P、キャリア液C及び高分子化合物Rを含む液体現像剤を、感光体ドラム10の表面の静電潜像に対向するように保持する現像装置14は、静電潜像に着色粒子P及び高分子化合物Rを付着させる。この結果、静電潜像は着色粒子Pによって発色された画像として現像される。
図9に示される如く、現像装置14は、現像容器140、現像ローラー141、供給ローラー142、支持ローラー143、供給ローラー142に圧接されたブレード144、現像ローラー141を清浄化するためのブレード145、液体現像剤を回収するための回収装置146及び現像ローラー141を帯電するための帯電器147を含む。
キャリア液C中の着色粒子P及び高分子化合物Rの濃度調整が予め行われた液体現像剤は、供給ノズル278から現像容器140へ供給される。尚、液体現像剤は、供給ローラー142と支持ローラー143との間のニップ部へ向けて供給される。余剰の液体現像剤は支持ローラー143の下方へ落下し、現像容器140の底部において貯留される。貯留された液体現像剤は、パイプ82を通して、循環装置LY、LM、LC、LBによって回収される。
現像容器140の略中央に配置された支持ローラー143は、上方の供給ローラー142に当接し、ニップ部を形成する。供給ローラー142の周面には液体現像剤を保持するための溝が形成される。
供給ノズル278から供給される液体現像剤は、支持ローラー143と供給ローラー142との間のニップ部で一時的に滞留される。ニップ部において、供給ローラー142の溝に保持された液体現像剤は、上方の現像ローラー141へ運ばれる。供給ローラー142の周面に圧接されたブレード144は、供給ローラー142に保持される液体現像剤の量を調整する。ブレード144により掻き落とされた余剰の液体現像剤は、現像容器140の底部で受け取られる。
現像容器140の上部開口部に配設された現像ローラー141は、供給ローラー142と接する。現像ローラー141と供給ローラー142との間のニップ部において、現像ローラー141の周面が、供給ローラー142と反対方向に移動するように、現像ローラー141及び供給ローラー142の回転方向が定められる。この結果、現像ローラー141の周面には、供給ローラー142の周面に保持された液体現像剤が受け渡される。供給ローラー142の液体現像剤の層厚が適切に調整されているので、現像ローラー141の表面に形成される液体現像剤層は画像の形成に適切な厚さとなる。
液体現像剤を受け取った現像ローラー141の表面は、帯電器147の上方を移動する。帯電器147は、着色粒子Pの帯電極性と同極性の帯電電位を与える。この結果、現像ローラー141に担持された液体現像剤中の着色粒子Pは、現像ローラー141の表面側に移動する。
帯電器147を通過した現像ローラー141の表面は、感光体ドラム10と接触する。感光体ドラム10の表面の静電潜像の電位と現像ローラー141に印加された現像バイアスとの間の電位差によって、画像データに応じたトナー像が感光体ドラム10表面に形成される。
感光体ドラム10と接触した後、現像ローラー141の周面は、ブレード145に接触する。ブレード145は、感光体ドラム10への現像動作を終えた現像ローラー141の表面の液体現像剤を除去する。
回収装置146は、ブレード145によって除去された液体現像剤を回収し、循環装置LY、LM、LC、LBのパイプ81へ液体現像剤を送り出す。液体現像剤はブレード145の表面に沿って流下する。液体現像剤の粘度が高いならば、回収装置146は、好ましくは、液体現像剤の送り出しを補助する送り出しローラーを備えてもよい。
一次転写ローラー20は、感光体ドラム10と協働して、中間転写ベルト21を挟む。一次転写ローラー20には、電源(図示せず)から感光体ドラム10上の着色粒子Pとは逆極性(本実施形態ではマイナス)の電圧が印加される。一次転写ローラー20は、中間転写ベルト21にトナーと逆極性の電圧を印加する。この結果、導電性の中間転写ベルト21の表面に着色粒子P及び高分子化合物Rが引き付けられる。かくして、感光体ドラム10に形成された画像は、中間転写ベルト21の表面に転写される。その後、中間転写ベルト21は、トナー像を担持して、シートSまで搬送する。
感光体ドラム10から中間転写ベルト21に転写されずに残留した液体現像剤を除去するクリーニング装置26は、搬送スクリュー261と、クリーニングブレード262とを備える。感光体ドラム10の回転軸方向に延びる板状のクリーニングブレード262の端部は、感光体ドラム10の表面に摺接する。クリーニングブレード262は、感光体ドラム10の回転に伴って感光体ドラム10上に残留した液体現像剤を掻き取る。掻き取られた液体現像剤は、クリーニング装置26内に一時的に収容される。クリーニング装置26内の搬送スクリュー261は、残留現像剤を外部へ搬送する。
除電用の光源を有する除電装置13は、次の周回による画像形成に備えて、クリーニングブレード262による液体現像剤の除去の後、感光体ドラム10の表面を光源からの光によって除電する。
略円柱状の除去ローラー30は、中間転写ベルト21に接触する。画像形成ユニットFYと画像形成ユニットFMとの間に配設された除去ローラー30は、画像形成ユニットFYから中間転写ベルト21に乗り移った液体現像剤からキャリア液Cを除去する。画像形成ユニットFMと画像形成ユニットFCとの間に配設された除去ローラー30は、画像形成ユニットFMから中間転写ベルト21に乗り移った液体現像剤からキャリア液Cを除去する。画像形成ユニットFCと画像形成ユニットFBとの間に配設された除去ローラー30は、画像形成ユニットFCから中間転写ベルト21に乗り移った液体現像剤からキャリア液Cを除去する。上述の如く、画像形成ユニットFBは、除去ローラー30を備えないので、中間転写ベルト21は、図1A乃至図1Cに示される像担持体100と同様に、キャリア液Cを含む液体現像剤を担持する。
図8に示されるように、シートSを収納するシート収納部3は、上側本体部1Aの下部に配置される。シート収納部3は、シートSを収納可能に形成された給紙カセットを含む。
中間転写ベルト21上に形成された画像をシートSに転写する転写部4は、中間転写ベルト21を駆動する駆動ローラー41に対向して配置された二次転写ローラー42を備える。二次転写ローラー42は、中間転写ベルト21との間で電界を発生させ、図1A乃至図1Cに関連して説明された如く、着色粒子PをシートSに引き寄せる。
転写部4の上側に配置される定着部5は、図1A乃至図6に関連して説明された定着技術の原理を利用して、シートSにトナー像を定着させる。定着部5の様々な構造は、後述される。
カラープリンター1の上部に配置される排出部6には、定着部5でトナー像が定着されたシートSが排出される。複数の搬送ローラーの組を備えるシート搬送部7は、シート収納部3から転写部4、定着部5及び排出部6の順にシートSを搬送する。
<定着装置>
(第1実施形態)
図10は、定着部5の周囲におけるカラープリンター1の概略図である。図10には、第1実施形態に係る定着装置500が概略的に示されている。定着装置500は、図7乃至図9に関連して説明されたカラープリンター1の定着部5として用いられる。図7乃至図10を用いて、第1実施形態に係る定着装置500が説明される。
定着装置500は、上述の転写部4の下流に配設される。上述の如く、転写部4は、液体現像剤を用いて形成された画像を担持する中間転写ベルト21と、中間転写ベルト21を駆動する駆動ローラー41と、駆動ローラー41に巻回された中間転写ベルト21に圧接される二次転写ローラー42と、を備える。シート搬送部7によって搬送されるシートSは、二次転写ローラー42と中間転写ベルト21との間に送り込まれる。二次転写ローラー42は、中間転写ベルト21及び駆動ローラー41と協働して、シートSを挟持する。この間、中間転写ベルト21が担持する画像は、シートSに転写される。中間転写ベルト21及び二次転写ローラー42は、その後、シートSを定着装置500へ送り出す。本実施形態において、中間転写ベルト21は、転写ベルトとして例示される。二次転写ローラー42は、転写ローラーとして例示される。
定着装置500は、中間転写ベルト21と二次転写ローラー42とによって送り出されたシートSを排出部6へ送り出す搬送装置510を備える。搬送装置510は、中間転写ベルト21と二次転写ローラー42とによって送り出されたシートSを支持する搬送ベルト511と、搬送ベルト511を駆動する駆動ローラー512と、駆動ローラー512と協働して搬送ベルト511の走行経路を規定する従動ローラー513と、を備える。駆動ローラー512が回転すると、搬送ベルト511は排出部6へシートSを搬送する。本実施形態において、排出部6へ向かうシートSの搬送方向は、第1方向と称される。搬送装置510は、搬送部として例示される。
搬送装置510は、駆動ローラー512よりも上流に配設された従動ローラー513と、二次転写ローラー42との間で、シートSを案内する案内板514を更に備える。案内板514によって搬送装置510に向けて案内されたシートSは、従動ローラー513の近くで搬送ベルト511に乗り移る。その後、シートSは、搬送ベルト511によって、駆動ローラー512に向けて搬送される。以下の説明において、従動ローラー513と駆動ローラー512との間でシートSを支持する搬送ベルト511の部分は、支持部515と称される。
搬送ベルト511には、多数の貫通穴(図示せず)が形成されてもよい。搬送装置510は、貫通穴を通じて、支持部515によって支持されるシートSを吸引するように配設された真空装置516を更に備える。真空装置516が作動すると、シートSは、支持部515に適切に吸着される。
搬送装置510は、駆動ローラー512に巻回された搬送ベルト511に圧接されるニップローラー517を更に備える。支持部515の移動により搬送されたシートSは、搬送ベルト511とニップローラー517とによって挟持される。その後、シートSは、排出部6へ送り出される。
中間転写ベルト21と二次転写ローラー42との間を通過するシートSに対して、転写部4が与える押圧力よりも、ニップローラー517及び搬送ベルト511がシートSに与える押圧力が小さくなるように、ニップローラー517は設計される。この結果、中間転写ベルト21及び二次転写ローラー42がシートSを挟持している間、転写部4より下流の工程(例えば、搬送装置510によるシートSの搬送工程)は、シートSの搬送に影響を与えにくくなる。
定着装置500は、転写部4とニップローラー517との間で、シートSを摺擦する摺擦機構520を更に備える。摺擦機構520は、搬送ベルト511の支持部515の近くに配設された摺擦ローラー521を含む。搬送装置510は、摺擦ローラー521の近くに配設されたバックアップローラー518を更に含む。摺擦ローラー521とバックアップローラー518との間を搬送ベルト511の支持部515は通過する。
摺擦ローラー521は、シートSを摺擦するために、搬送ベルト511の支持部515を若干押圧するように配置される。バックアップローラー518は、摺擦ローラー521の押圧に起因する搬送ベルト511の支持部515の変形を抑制する。したがって、シートSの搬送及びシートS上の画像の摺擦は安定的に行われることとなる。
図11は、摺擦ローラー521の概略的な断面図である。図4及び図11を用いて、摺擦ローラー521が説明される。
摺擦ローラー521は、金属製のシャフト522と、シャフト522の周面を覆う弾性層523と、弾性層523の周面を覆う不織布層524とを備える。不織布層524は、図4に示された様々な材料から選択されてもよい。代替的に、不織布層524は、シートSへの画像の定着を促すことができる他の材料から形成されてもよい。
図12は、搬送ベルト511の支持部515に圧接された摺擦ローラー521の概略的な断面図である。図1乃至図6並びに図10及び図12を用いて、摺擦ローラー521が更に説明される。
上述の如く、摺擦ローラー521は、搬送ベルト511の支持部515を押圧する。上述の如く、摺擦ローラー521は、シャフト522を除いて、比較的柔軟な材料(弾性層523及び不織布層524)を用いて形成される。一方、搬送ベルト511の支持部515は、バックアップローラー518によって補強されるので、支持部515は、摺擦ローラー521よりも高い剛性を有する。したがって、摺擦ローラー521が、搬送ベルト511の支持部515を押圧すると、摺擦ローラー521の周面に平坦な面が形成される。摺擦ローラー521の周面に形成された平坦な面は、シートS上の画像に主に接触し、シートS上の画像を摺擦する。以下の説明において、摺擦ローラー521の周面に形成された平坦な面は、接触面525と称される。本実施形態において、摺擦ローラー521は、摺擦部として例示される。
ニップローラー517及び搬送ベルト511がシートSに与える押圧力よりも、摺擦ローラー521がシートSを摺擦している間のシートSに対する押圧力が小さくなるように、摺擦ローラー521は設計される。この結果、摺擦ローラー521によるシートSへの摺擦動作は、シートSの搬送に影響しにくくなる。
摺擦ローラー521の接触面525によって摺擦されたシートSは、その後、ニップローラー517と搬送ベルト511との間を通過し、搬送装置510から排出される。定着装置500は、ニップローラー517の下流において、シートSを排出部6に向けて案内する案内部530を更に備える。案内部530は、搬送装置510から排出部6に向けて延びる案内経路531を規定する。
定着装置500は、ニップローラー517及び搬送ベルト511がシートSを挟持したか否かを検出するための接触式のスイッチセンサー540を備える。スイッチセンサー540は、ニップローラー517の下流において、シートSに接触する。本実施形態において、スイッチセンサー540は、検出部として例示される。
図13Aは、シートSに接触される直前のスイッチセンサー540の概略図である。図13Bは、シートSが案内部530を通過している間のスイッチセンサー540の概略図である。図10、図13A及び図13Bを用いて、スイッチセンサー540が説明される。
スイッチセンサー540は、案内部530が形成した案内経路531内に突出するレバー部541と、レバー部541を支持する筐体542と、を備える。レバー部541は、案内経路531内に突出する第1位置(図13A参照)と、案内経路531に沿って横たわる第2位置(図13B参照)との間で回動する。
シートSが案内経路531を通過している間、レバー部541はシートSに接触する。この結果、レバー部541は、第2位置に向けて倒れる。レバー部541は、第1位置に向けて付勢される。したがって、シートSが案内経路531に進入する前或いはシートSが案内経路531を通過した後、レバー部541は、第1位置に戻る。
図10に示される如く、スイッチセンサー540は、ニップローラー517の直後に配設される。したがって、レバー部541が第2位置に存することは、ニップローラー517及び搬送ベルト511がシートSを挟持していることを意味する。一方、レバー部541が第1位置に存することは、ニップローラー517及び搬送ベルト511がシートSを挟持していないことを意味する。
スイッチセンサー540は、レバー部541の位置(第1位置又は第2位置)に対応した検出信号を生成並びに出力する回路素子(図示せず)を備える。回路素子は、筐体542内に収容される。
図14は、図10に示される定着装置500を制御するための制御構造を概略的に示すブロック図である。図6、図10、図12及び図14を用いて、定着装置500に対する制御が説明される。
定着装置500は、スイッチセンサー540からの検出信号を受信する制御部550を更に備える。摺擦機構520は、摺擦ローラー521を回転させる駆動モーター526を更に備える。駆動モーター526は、摺擦ローラー521を双方向に回転させることができる。以下の説明において、接触面525を第1方向へ変位させる摺擦ローラー521の回転方向は、第1回転方向と称される。第1方向とは反対側の第2方向へ接触面525を変位させる摺擦ローラー521の回転方向(即ち、第1回転方向とは反対の回転方向)は、第2回転方向と称される。図6に関連して説明された如く、摺擦方向の増加は、定着率の向上を促す。したがって、駆動モーター526が摺擦ローラー521を双方向に回転させることは、シートSへの画像の向上を促すこととなる。
制御部550は、スイッチセンサー540のレバー部541の位置に応じて、駆動モーター526の動作を変更する。スイッチセンサー540が、レバー部541が第1位置に存することを表す検出信号を出力するならば、制御部550は、摺擦ローラー521が第1回転方向に回転するように駆動モーター526を制御するための制御信号を出力する。スイッチセンサー540が、レバー部541が第2位置に存することを表す検出信号を出力するならば、制御部550は、摺擦ローラー521が第2回転方向に回転するように駆動モーター526を制御するための制御信号を出力する。
図15A乃至図15Eは、定着装置500の概略図である。図15A乃至図15Eは、定着装置500の動作を順に表す。図12、図14乃至図15Eを用いて、定着装置500の動作が説明される。
図15Aに示されるシートSは、二次転写ローラー42と中間転写ベルト21とに挟持され、搬送装置510には到達していない。したがって、スイッチセンサー540のレバー部541は、第1位置に存し、摺擦ローラー521は、第1回転方向に回転している。
図15Bに示されるシートSの先頭部分は、バックアップローラー518と摺擦ローラー521との間に介在する。このとき、シートSは、ニップローラー517には至っていない。したがって、スイッチセンサー540のレバー部541は、第1位置に存する。この間、摺擦ローラー521は、第1回転方向に回転する。制御部550は、摺擦ローラー521の接触面525がシートSの搬送速度よりも3倍から6倍高い速度で第1方向へ移動するように、駆動モーター526を制御する。この結果、シートS上の画像は、適切に摺擦される。
摺擦ローラー521がシートSの先頭部分を摺擦している間、二次転写ローラー42及び中間転写ベルト21は、比較的強い力でシートSを挟持する。したがって、摺擦ローラー521の摺擦動作は、シートSの搬送にほとんど影響を与えない。
図15Cに示されるシートSの先頭部分は、ニップローラー517と搬送ベルト511とに挟持されている。このとき、シートSは、案内部530が規定する案内経路531内には進入していない。したがって、スイッチセンサー540のレバー部541は、第1位置に存する。この間、摺擦ローラー521は、第1回転方向に回転し、シートS上の画像を摺擦する。シートSは、ニップローラー517と搬送ベルト511とにだけでなく、二次転写ローラー42及び中間転写ベルト21にも挟持されている。したがって、摺擦ローラー521の摺擦動作に拘わらず、シートSは安定的に搬送される。
図15Dに示される如く、シートSは、その後、案内部530が規定する案内経路531内に進入し、案内経路531内に突出したスイッチセンサー540のレバー部541に接触する。更にその後、図15Eに示される如く、シートSは、下流に搬送され、レバー部541は、第1位置から第2位置へ回動する。この結果、摺擦ローラー521の回転方向は、第1回転方向から第2回転方向に切り換えられる。
図15Dは、摺擦ローラー521の回転方向が第1回転方向から第2回転方向に切り換えられる瞬間の定着装置500を示す。図15Dに示される如く、摺擦ローラー521の回転方向が第1回転方向から第2回転方向に切り換えられる瞬間並びにその直後において、好ましくは、二次転写ローラー42及び中間転写ベルト21は、シートSの後端部分を挟持している。摺擦ローラー521の第2回転方向への回転速度が略一定になったとき、シートSは、二次転写ローラー42及び中間転写ベルト21から解放されてもよい。摺擦ローラー521がシートSに与える力が大きく変動する間、シートSは、ニップローラー517と搬送ベルト511とにだけでなく、二次転写ローラー42及び中間転写ベルト21にも挟持されるので、摺擦ローラー521の回転方向の切替に拘わらず、シートSは安定的に搬送されることとなる。
シートSが搬送装置510によって搬送され、案内部530が規定する案内経路531を通り抜けると、スイッチセンサー540のレバー部541は、第1位置に戻る。この結果、摺擦ローラー521は、再度、第1回転方向に回転することとなる。
本実施形態において、検出部として、機械的なスイッチセンサー540が用いられている。代替的に、検出部は、シートSの位置を光学的に検出する光学センサーであってもよい。例えば、ニップローラー517の直後に光学センサーが配設されるならば、ニップローラー517と搬送ベルト511とによるシートSに対する挟持は適切に検出される。
本実施形態において、第1方向と反対の方向が第2方向として例示されている。代替的に、第2方向は、第1方向と異なる任意の方向であってもよい。例えば、摺擦ローラーがカム機構によってシートSの搬送方向に対して直交する方向に移動されるならば、ニップローラー517及び搬送ベルト511がシートSを挟持している間、摺擦ローラーは、シートSの搬送方向に対して直交する方向に往復移動してもよい。
本実施形態において、シートS上の画像を摺擦する部材として、摺擦ローラー521が例示されている。代替的に、シートS上の画像は、他の部材によって、摺擦されてもよい。例えば、不織布から形成された帯状部材によって、シートSが摺擦されてもよい。
(第2実施形態)
図16は、定着部5の周囲におけるカラープリンター1の概略図である。図16には、第2実施形態に係る定着装置500Aが概略的に示されている。定着装置500Aは、図7乃至図9に関連して説明されたカラープリンター1の定着部5として用いられる。図16において、第1実施形態に関連して説明された定着装置500と同様の要素に対して、同一の符号が付されている。これら同様の要素に対して、第1実施形態の説明が援用される。
第1実施形態に関連して説明された定着装置500と同様に、定着装置500Aは、転写部4の下流に配設される。定着装置500Aは、第1実施形態に関連して説明された定着装置500と同様に、搬送装置510と、案内部530とスイッチセンサー540とを備える。定着装置500Aは、シートS上に形成された画像を摺擦するための摺擦機構520Aを更に備える。
図17は、図16に示される定着装置500Aを制御するための制御構造を概略的に示すブロック図である。図3、図16及び図17を用いて、定着装置500Aに対する制御が説明される。
図16に示される如く、摺擦機構520Aは、転写部4から送り出されたシートS上の画像を摺擦する第1摺擦ローラー551と、第1摺擦ローラー551の後に画像を摺擦する第2摺擦ローラー552と、を備える。第2摺擦ローラー552は、搬送装置510のバックアップローラー518の近くに配設される。搬送装置510の搬送ベルト511は、バックアップローラー518と第2摺擦ローラー552との間を通過する。第1摺擦ローラー551は、搬送装置510の従動ローラー513の近くに配設される。従動ローラー513は、搬送ベルト511の走行経路を規定するだけでなく、第1摺擦ローラー551からの押圧力に対する搬送ベルト511の変形を抑制する。
第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552は、従動ローラー513及びバックアップローラー518によって安定的に保持された搬送ベルト511によって搬送されるシートS上の画像を摺擦する。本実施形態において、定着装置500Aは、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552を用いて、画像を摺擦する。したがって、定着装置500Aは、第1実施形態に関連して説明された定着装置500よりも長い期間、画像を摺擦することができる。図3に関連して説明されたように、長い摺擦期間は、定着率の向上を促す。したがって、定着装置500Aは、第1実施形態に関連して説明された定着装置500よりも高い定着率を達成することができる。
図17に示される如く、摺擦機構520Aは、第1摺擦ローラー551を駆動する第1駆動モーター553と、第2摺擦ローラー552を駆動する第2駆動モーター554と、を更に備える。第1駆動モーター553及び第2駆動モーター554は、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552を双方向に(即ち、第1回転方向及び第2回転方向に)、それぞれ回転させることができる。
図18Aは、搬送ベルト511の支持部515に圧接された第1摺擦ローラー551の概略的な断面図である。図18Bは、搬送ベルト511の支持部515に圧接された第2摺擦ローラー552の概略的な断面図である。図4、図17乃至図18Bを用いて、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552が説明される。
第1摺擦ローラー551は、金属製のシャフト582と、シャフト582の周面を覆う弾性層583と、弾性層583の周面を覆う不織布層584とを備える。不織布層584は、図4に示された様々な材料から選択されてもよい。代替的に、不織布層584は、シートSへの画像の定着を促すことができる他の材料から形成されてもよい。
第2摺擦ローラー552は、金属製のシャフト592と、シャフト592の周面を覆う弾性層593と、弾性層593の周面を覆う不織布層594とを備える。不織布層594は、図4に示された様々な材料から選択されてもよい。代替的に、不織布層594は、シートSへの画像の定着を促すことができる他の材料から形成されてもよい。
第1摺擦ローラー551の不織布層584は、第2摺擦ローラー552の不織布層594と同じ材料から形成されてもよい。代替的に、第1摺擦ローラー551の不織布層584は、第2摺擦ローラー552の不織布層594とは異なる材料から形成されてもよい。
上述の如く、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552は、搬送ベルト511の支持部515を押圧する。第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552は、シャフト582、592を除いて、比較的柔軟な材料(弾性層583、593及び不織布層584、594)を用いて形成される。一方、従動ローラー513は、搬送ベルト511の変形を抑制するので、支持部515は、第1摺擦ローラー551よりも高い剛性を有する。また、搬送ベルト511の支持部515は、バックアップローラー518によって補強されるので、支持部515は、第2摺擦ローラー552よりも高い剛性を有する。したがって、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552が、搬送ベルト511の支持部515を押圧すると、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552の周面に平坦な面が形成される。第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552の周面に形成された平坦な面は、シートS上の画像に主に接触し、シートS上の画像を摺擦する。以下の説明において、第1摺擦ローラー551の周面に形成された平坦な面は、接触面555と称される。また、第2摺擦ローラー552の周面に形成された平坦な面は、接触面556と称される。本実施形態において、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552は、摺擦部として例示される。
図17に示される如く、定着装置500Aは、スイッチセンサー540からの検出信号を受信する制御部550Aを更に備える。制御部550Aは、スイッチセンサー540からの検出信号が入力される入力部571と、第1駆動モーター553を制御するための第1制御信号及び第2駆動モーター554を制御するための第2制御信号を生成する制御信号生成部572と、を備える。入力部571は、スイッチセンサー540からの検出信号を制御信号生成部572へ出力する。制御信号生成部572は、検出信号に応じて、第1制御信号及び第2制御信号を生成並びに出力する。
制御部550Aは、第1駆動モーター553へ、第1制御信号を出力するための第1出力部573と、第2駆動モーター554へ、第2制御信号を出力するための第2出力部574と、第2出力部574からの第2制御信号の出力を遅延させるための遅延部575と、を更に備える。制御信号生成部572は、第1制御信号を、第1出力部573に直接的に出力する一方で、制御信号生成部572が生成した第2制御信号は、遅延部575を介して、第2出力部574へ出力される。したがって、スイッチセンサー540からの検出信号に対して、第2摺擦ローラー552は、第1摺擦ローラー551よりも遅れて反応する。
図18A及び図18Bに示される如く、制御部550Aの制御下において、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552が第1回転方向に回転している間、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552の接触面555、556は、シートSの搬送方向に一致する第1方向に移動する。制御部550Aの制御下において、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552が第2回転方向に回転している間、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552の接触面555、556は、第1方向とは反対の第2方向に移動する。
図19A乃至図19Eは、定着装置500Aの概略図である。図19A乃至図19Eは、定着装置500Aの動作を順に表す。図17乃至図19Eを用いて、定着装置500Aの動作が説明される。
図19Aに示されるシートSは、二次転写ローラー42と中間転写ベルト21とに挟持され、搬送装置510には到達していない。したがって、スイッチセンサー540のレバー部541は、第1位置に存し、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552は、第1回転方向に回転している。
図15Bに示されるシートSの先頭部分は、第2摺擦ローラー552と搬送ベルト511との間に介在する。このとき、シートSは、ニップローラー517には至っていない。したがって、スイッチセンサー540のレバー部541は、第1位置に存する。この間、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552は、第1回転方向に回転する。制御部550Aは、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552の接触面555,556がシートSの搬送速度よりも3倍から6倍高い速度で第1方向へ移動するように、第1駆動モーター553及び第2駆動モーター554を制御する。この結果、シートS上の画像は、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552によって適切に摺擦される。
第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552がシートSを摺擦している間、二次転写ローラー42及び中間転写ベルト21は、比較的強い力でシートSを挟持する。したがって、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552の摺擦動作は、シートSの搬送にほとんど影響を与えない。
図19Cに示されるシートSの先頭部分は、ニップローラー517と搬送ベルト511とに挟持されている。このとき、シートSは、案内部530が規定する案内経路531内には進入していない。したがって、スイッチセンサー540のレバー部541は、第1位置に存する。この間、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552は、第1回転方向に回転し、シートS上の画像を摺擦する。シートSは、ニップローラー517と搬送ベルト511とにだけでなく、二次転写ローラー42及び中間転写ベルト21にも挟持されている。したがって、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552の摺擦動作に拘わらず、シートSは安定的に搬送される。
図19Dに示される如く、シートSは、その後、案内部530が規定する案内経路531内に進入し、案内経路531内に突出したスイッチセンサー540のレバー部541に接触する。この結果、レバー部541は、第1位置から第2位置へ回動する。
スイッチセンサー540は、ニップローラー517の直後に配設されている。したがって、第1位置から第2位置へのレバー部541の回動は、ニップローラー517及び搬送ベルト511がシートSを挟持していることを意味する。
レバー部541が第1位置から第2位置へ回動すると、スイッチセンサー540は、ニップローラー517及び搬送ベルト511がシートSを挟持していることを通知するための検出信号を制御部550Aに出力する。
レバー部541が第1位置に存する間(図19A乃至図19Cに表される期間)、制御信号生成部572は、第1駆動モーター553及び第2駆動モーター554を第1回転方向に回転させるための制御信号を生成する。レバー部541が第2位置に回動すると、制御信号生成部572は、第1駆動モーター553及び第2駆動モーター554を第2回転方向に回転させるための制御信号を生成する。
図19Dに示される如く、レバー部541が第1位置から第2位置に回動すると、制御信号生成部572は、第1駆動モーター553を第2回転方向に回転させるための制御信号を第1制御信号として第1出力部573に直接的に出力する。したがって、レバー部541が第1位置から第2位置に回動した直後に、第1摺擦ローラー551は、第1回転方向から第2回転方向へ回転方向を切り換える。
図19Dに示される如く、レバー部541が第1位置から第2位置に回動すると、制御信号生成部572は、第1駆動モーター553及び第2駆動モーター554を第2回転方向に回転させるための制御信号を第2制御信号として遅延部575に直接的に出力する。遅延部575は、所定期間、第2回転方向への回転を指示する第2制御信号を保持する一方で、第1回転方向への回転を指示する第2制御信号を出力し続ける。したがって、レバー部541が第1位置から第2位置に回動した時点から遅延部575が第2回転方向への回転を指示する第2制御信号を出力するまでの期間、第2摺擦ローラー552は、第1回転方向への回転を継続する。
図19Dに示される如く、第1摺擦ローラー551の回転方向が第1回転方向から第2回転方向に切り換えられる瞬間並びにその直後において、好ましくは、二次転写ローラー42及び中間転写ベルト21は、シートSの後端部分を挟持している。第1摺擦ローラー551の回転方向が第1回転方向から第2回転方向に切り換えられるとき、第1摺擦ローラー551がシートSに与える力は大きく変動することもある。第1摺擦ローラー551がシートSに与える力が大きく変動する間、シートSは、ニップローラー517と搬送ベルト511とにだけでなく、二次転写ローラー42及び中間転写ベルト21にも挟持されるので、第1摺擦ローラー551の回転方向の切替に拘わらず、シートSは安定的に搬送されることとなる。
図19Eは、遅延部575に予め設定された遅延期間が経過した後の定着装置500Aを示す。遅延部575には、所定長さの遅延期間が設定されている。レバー部541が第1位置から第2位置に回動したときに遅延部575が受け取った第2回転方向への回転を指示する第2制御信号は、遅延部575に設定された遅延期間の間、保持される。遅延期間が経過すると、第2回転方向への回転を指示する第2制御信号は、第2出力部574に出力される。第2回転方向への回転を指示する第2制御信号は、その後、第2駆動モーター554に入力される。この結果、第2摺擦ローラー552は、第2回転方向へ回転し始める。
図19Dに関連して説明された第1回転方向から第2回転方向への第1摺擦ローラー551の回転方向の切替の結果、回転方向が切り換えられる瞬間に第1摺擦ローラー551に接触していたシートSの部分の光沢は、他のシートSの部分と相違することがある。上述の如く、第2摺擦ローラー552は、第1摺擦ローラー551よりも遅れて、第1回転方向から第2回転方向へ回転方向を切り換える。したがって、第1摺擦ローラー551の回転方向の変化に起因して光沢斑を生じたシートSの部分は、第1回転方向に回転する第2摺擦ローラー552によって摺擦される。この結果、シートS上の光沢斑は目立ちにくくなる。
第2摺擦ローラー552は、第1摺擦ローラー551によって摺擦された後の画像を摺擦する。したがって、第2摺擦ローラー552の回転方向の切替は、画像の光沢斑をほとんど生じさせない。
シートSが搬送装置510によって搬送され、案内部530が規定する案内経路531を通り抜けると、スイッチセンサー540のレバー部541は、第1位置に戻る。この結果、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552は、再度、第1回転方向に回転することとなる。
本実施形態において、遅延部575によって、第1摺擦ローラー551と第2摺擦ローラー552との間での回転方向の切替タイミングがずらされている。代替的に、回転方向の切替タイミングを生じさせるために、ニップローラー517の直後においてシートSの搬送方向に整列した2つの光学的センサーが用いられてもよい。上流に配設された光学的センサーがシートSを検出したとき、第1摺擦ローラー551の回転方向が切り換えられ、且つ、下流の光学的センサーがシートSを検出したとき、第2摺擦ローラー552の回転方向が切り換えられるならば、遅延部575なしで、第1摺擦ローラー551と第2摺擦ローラー552との間での回転方向の切替タイミングは適切にずらされることとなる。
(第3実施形態)
図20は、定着部5の周囲におけるカラープリンター1の概略図である。図20には、第3実施形態に係る定着装置500Bが概略的に示されている。定着装置500Bは、図7乃至図9に関連して説明されたカラープリンター1の定着部5として用いられる。図20において、第2実施形態に関連して説明された定着装置500Aと同様の要素に対して、同一の符号が付されている。これら同様の要素に対して、第2実施形態の説明が援用される。図16及び図20を用いて、定着装置500Bが説明される。
第2実施形態に関連して説明された定着装置500Aと同様に、定着装置500Bは、転写部4の下流に配設される。定着装置500Bは、シートSを搬送するための搬送装置510Bを備える。本実施形態において、搬送装置510Bは、搬送部として例示される。
搬送装置510Bは、第2実施形態に関連して説明された搬送装置510と同様に、搬送ベルト511、駆動ローラー512、従動ローラー513、案内板514、ニップローラー517及びバックアップローラー518を備える。搬送装置510Bは、第2実施形態に関連して説明された搬送装置510とは異なり、シートSを搬送ベルト511に吸着させるための真空装置を備えなくともよい。本実施形態において、搬送ベルト511の電気抵抗は、中間転写ベルト21の電気抵抗と同等であることが好ましい。
図21は、定着装置500Bの概略的なブロック図である。図20及び図21を用いて、定着装置500Bが更に説明される。
定着装置500Bは、第2実施形態に関連して説明された定着装置500Aと同様に、スイッチセンサー540と、制御部550Aを備える。定着装置500Bは、シートS上の画像を摺擦するための摺擦機構520Bを更に備える。
摺擦機構520Bは、第2実施形態に関連して説明された定着装置500Aと同様に、第1駆動モーター553と第2駆動モーター554とを備える。摺擦機構520Bは、第1駆動モーター553によって駆動される第1摺擦ローラー551Bと、第2駆動モーター554によって駆動される第2摺擦ローラー552Bと、を更に備える。
第1摺擦ローラー551B及び第2摺擦ローラー552Bは、第1駆動モーター553及び第2駆動モーター554によって回転されるシャフト部598と、シャフト部598に植設されたブラシ部599と、をそれぞれ備える。ブラシ部599は、摺擦によりシートSを帯電させるナイロンブラシを用いて形成される。搬送ベルト511上のシートSに接触したナイロンブラシは撓み、シートSに接触する接触面を形成する。ナイロンブラシによる摺擦によって帯電されたシートSは、搬送ベルト511に静電気的に吸着される。したがって、第1摺擦ローラー551B及び第2摺擦ローラー552Bによる摺擦動作下においても、シートSは安定的に搬送される。本実施形態において、第1摺擦ローラー551B及び第2摺擦ローラー552Bは、摺擦部として例示される。
定着装置500Bの動作は、第2実施形態に関連して説明された定着装置500Aの動作と同様である。したがって、定着装置500Bは、第2実施形態に関連して説明された有利な効果をもたらすことができる。
(第4実施形態)
図22は、定着部5の周囲におけるカラープリンター1の概略図である。図22には、第4実施形態に係る定着装置500Cが概略的に示されている。定着装置500Cは、図7乃至図9に関連して説明されたカラープリンター1の定着部5として用いられる。図22において、第2実施形態に関連して説明された定着装置500Aと同様の要素に対して、同一の符号が付されている。これら同様の要素に対して、第2実施形態の説明が援用される。図22を用いて、定着装置500Cが説明される。
定着装置500Cは、第2実施形態に関連して説明された定着装置500Aと同様に、転写部4の下流に配設される。また、定着装置500Cは、第2実施形態に関連して説明された定着装置500Aと同様に、摺擦機構520A、案内部530及びスイッチセンサー540を備える。定着装置500Cは、シートSを搬送するための搬送装置510Cを更に備える。本実施形態において、搬送装置510Cは、搬送部として例示される。
搬送装置510Cは、第2実施形態に関連して説明された搬送装置510と同様に、駆動ローラー512、ニップローラー517及びバックアップローラー518を備える。搬送装置510Cは、シートSを搬送するための搬送ベルト511Cを更に備える。搬送ベルト511Cは、第2実施形態に関連して説明された搬送装置510の搬送ベルト511とは異なり、駆動ローラー512と二次転写ローラー42とに巻き掛けられる。搬送装置510Cは、追加的なバックアップローラー519を更に備える。バックアップローラー519は、第1摺擦ローラー551の近くに配設される。搬送ベルト511Cは、バックアップローラー519と第1摺擦ローラー551との間並びにバックアップローラー518と第2摺擦ローラー552との間を通過する。バックアップローラー519,518は、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552からの押圧による搬送ベルト511Cの撓みを抑制する。したがって、第1摺擦ローラー551及び第2摺擦ローラー552は、シートS上の画像を安定的に摺擦することができる。
図23は、中間転写ベルト21の概略的な断面図である。図22及び図23を用いて、定着装置500Cが更に説明される。
図23に示される如く、中間転写ベルト21は、画像層Iが転写されるコート層211と、中間転写ベルト21に対する引張強度を担保するための基層212と、基層212とコート層211との間に形成された弾性層213と、を含む。基層212として、好ましくは、PIやPVDFといった材料が用いられる。弾性層213として、好ましくは、画像層Iを形成する液体現像剤が含有するパラフィンオイルに対して膨潤しにくい材料(例えば、ポリウレタンゴムやNBR)が用いられる。弾性層213の硬度(JIS−A)は、好ましくは、50°以下である。弾性層213の硬度(JIS−A)は、より好ましくは、30°である。弾性層213の厚さは、好ましくは、200μm以上500μm以下である。コート層211は、好ましくは、付着性が低い材料(例えば、表面自由エネルギが20mN/m以下)を用いて形成される。本実施形態において、コート層211の体積抵抗率は、107Ω・cm以上109Ω・cm以下に設定される。
図22に示される如く、二次転写ローラー42は、シャフト部421と、シャフト部421を覆う弾性層422と、を含む。弾性層422として、好ましくは、画像層Iを形成する液体現像剤が含有するパラフィンオイルに対して膨潤しにくい材料(例えば、ポリウレタンゴムやNBR)が用いられる。本実施形態において、弾性層422の体積抵抗率は、104Ω・cm以上107Ω・cm以下に設定される。
画像層Iは、中間転写ベルト21と二次転写ローラー42との間の電界と押圧とによって、シートSに転写される。二次転写ローラー42は、1.0N/m以上1.5N/m以下の面圧を中間転写ベルト21に生じさせるように配設される。この結果、図22に示されるように、二次転写ローラー42及び搬送ベルト511Cは、中間転写ベルト21に若干食い込むこととなる。この結果、シートSは、中間転写ベルト21に巻き付きにくくなる。
シートSへの画像層Iの転写のために用いられた中間転写ベルト21と二次転写ローラー42との間の電界は、シートSを帯電させる。この結果、シートSは、搬送ベルト511Cに安定的に吸着される。したがって、搬送ベルト511Cは、シートSを安定的に搬送することができる。
(第5実施形態)
図24は、定着部5の周囲におけるカラープリンター1の概略図である。図24には、第5実施形態に係る定着装置500Dが概略的に示されている。定着装置500Dは、図7乃至図9に関連して説明されたカラープリンター1の定着部5として用いられる。図24において、第2実施形態に関連して説明された定着装置500Aと同様の要素に対して、同一の符号が付されている。これら同様の要素に対して、第2実施形態の説明が援用される。図8及び図24を用いて、定着装置500Dが説明される。
定着装置500Dは、第2実施形態に関連して説明された定着装置500Aと同様に、搬送装置510と、摺擦機構520Aと、案内部530と、スイッチセンサー540と、を備える。定着装置500Dは、搬送装置510の上流に配設された搬送ローラー装置600を更に備える。搬送ローラー装置600は、駆動ローラー610と、駆動ローラー610に圧接される圧接ローラー620と、を含む。
図8に関連して説明された転写部4によって画像が転写されたシートSは、駆動ローラー610と圧接ローラー620との間に送り込まれる。駆動ローラー610及び圧接ローラー620は、液体現像剤を用いて形成された画像が転写されたシートSを挟持し、排出部6に向けて送り出す。搬送装置510のニップローラー517及び搬送ベルト511は、その後、搬送ローラー装置600の下流において、シートSを挟持し、排出部6に向けて送り出す。この間、摺擦機構520Aは、シートS上の画像を適切に摺擦することができる。本実施形態において、搬送ローラー装置600は、上流搬送部として例示される。搬送装置510は、下流搬送部として例示される。
上述の一連の実施形態において、1つ若しくは2つの摺擦ローラーによって、シートS上の画像が摺擦されている。代替的に、3以上の摺擦ローラーによって、画像が摺擦されてもよい。
<液体現像剤>
液体現像剤は、上述の如く、電気絶縁性のキャリア液Cとキャリア液C中に分散された着色粒子Pとを含む。また、液体現像剤は高分子化合物Rを含有する。好ましくは、液体現像剤は、測定温度25℃において、30〜400mPa・sの粘度を有する。より好ましくは、液体現像剤の粘度(測定温度25℃)は、40〜300mPa・sであり、さらに好ましくは50〜250mPa・sである。
<キャリア液>
液体キャリアの役割を果たす電気絶縁性のキャリア液Cは、液体現像剤の電気絶縁性を高める。電気絶縁性のキャリア液Cとしては、例えば、25℃における体積抵抗が1012Ω・cm以上(換言すれば導電率が1.0pS/cm以下)の電気絶縁性有機溶剤が好ましい。さらに前記物性に加えて、後述の高分子化合物Rを溶解させることができるもの(高分子化合物Rの溶解度が相対的に高いもの)が好ましく用いられる。
また、液体現像剤全体の粘度(測定温度25℃)が30〜400mPa・sとなるように、キャリア液Cの粘度・種類・配合量を適宜調整・選択される。液体現像剤の粘度は、キャリア液Cとして用いられる有機溶剤と後述される高分子化合物Rとの組み合わせによっても左右される。したがって、所望の液体現像剤の粘度及び選択される高分子化合物Rの種類に合わせて有機溶剤の種類及び配合量が適宜決定される。
このような電気絶縁性の有機溶剤としては、例えば、常温で液体の脂肪族炭化水素や植物油が挙げられる。
脂肪族炭化水素としては、例えば、液状のn−パラフィン系炭化水素、iso−パラフィン系炭化水素、ハロゲン化脂肪族炭化水素、分岐鎖を有する脂肪族炭化水素又はそれらの混合物が好ましい。例えば、脂肪族炭化水素として、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、シクロヘキサン、パークロロエチレン、トリクロロエタンが用いられる。環境対応(VOC対策)の観点から、不揮発性の有機溶剤及び揮発性が相対的に低い有機溶剤(例えば、沸点が200℃以上のもの)が好ましく、例えば、炭素数が16以上の脂肪族炭化水素を比較的多く含む流動パラフィンが好ましく用いられる。
また、植物油として、例えば、トール油脂肪酸(主成分:オレイン酸、リノール酸)、植物油由来の脂肪酸エステル、大豆油、サフラワー油、ヒマシ油、アマニ油、桐油が挙げられる。なかでもトール油脂肪酸が好ましく用いられる。
キャリア液Cとして、例えば、松村石油研究所社製の流動パラフィン「モレスコホワイトP−55」、「モレスコホワイトP−40」、「モレスコホワイトP−70」、「モレスコホワイトP−200」;ハリマ化成株式会社製のトール油脂肪酸「ハートール FA−1」、「ハートール FA−1P」、「ハートール FA−3」;カネダ株式会社製の植物油ベースソルベント「ベジソルMT」、「ベジソルCM」、「ベジソルMB」、「ベジソルPR」、植物油「桐油」;エクソンモービル社製の「アイソパーG」、「アイソパーH」、「アイソパーK」、「アイソパーL」、「アイソパーM」、「アイソパーV」;コスモ石油社製の流動パラフィン「コスモホワイトP−60」、「コスモホワイトP−70」、「コスモホワイトP−120」;日清オイリオ社製の植物油「大豆油白絞油 S」、「アマニ油」、「サフラワー油」;伊藤製油社製の植物油「ヒマシ油 LAV」、「ヒマシ油 工」が用いられてもよい。
高分子化合物Rがキャリア液Cに溶解する限り、キャリア液Cとして、高分子化合物Rの溶解度が相対的に高いもの(高分子化合物Rの良溶媒)のみを用いてもよく、又は、高分子化合物Rの溶解度が相対的に低いもの(高分子化合物Rの貧溶媒)を混合して用いてもよい。尚、キャリア液Cの種類に応じて、キャリア液C全体の導電率(液体現像剤の導電率)は、過度に高くならないように適切に調整される。例えば、トール油脂肪酸といった植物性の油は、流動パラフィンのような脂肪族炭化水素と比べると、一般に、導電率が高い。したがって、高分子化合物Rをキャリア液Cに良好に溶解させるために、キャリア液Cとして上述の植物油を含むときは、導電率の調整は、比較的慎重に行われることが好ましい。
上述の油類の含有量が多いキャリア液Cは、高分子化合物Rの溶解度の点で有利である一方で、導電率の点で不利となる。油類の含有量が少ないキャリア液Cは、導電率の点で有利である一方で、高分子化合物Rの溶解度の点で不利となる。
キャリア液C中の上述の油類の含有量は、液体現像剤中に含まれる高分子化合物Rの種類や含有量に依存する。好適な油類の含有量として、例えば、2〜80質量%、より好ましくは、5〜60質量%が挙げられる。2質量%未満では、高分子化合物Rをキャリア液Cに良好に溶解させることが困難となる。また、80質量%を超えると、キャリア液C全体の導電率ひいては液体現像剤の導電率が過度に高くなる。過度に高い液体現像剤の導電率は、例えば、画像濃度の低下を引き起こす。
液体現像剤の導電率は、例えば、200pS/cm以下であることが好ましい。したがって、トール油脂肪酸といった上述の油類に高分子化合物Rを溶解させることにより得られた溶液(以下、「樹脂溶液」と称される)に高電気抵抗の脂肪族炭化水素を混合することにより、キャリア液C全体の導電率(液体現像剤の導電率)を例えば200pS/cm以下に調整することが好ましい。
<着色粒子>
本実施形態では、着色粒子Pとして、顔料そのものが用いられる。顔料そのものを含む液体現像剤は、上述の非加熱方式の定着工程を可能にする。この結果、熱エネルギや光エネルギをほとんど消費することなく、着色粒子Pとしての顔料が記録媒体に定着される。
本実施形態における顔料としては、例えば、従来公知の有機顔料や無機顔料が特に限定することなく用いられる。
例えば、黒色顔料としては、カーボンブラック、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、アニリンブラックといったアジン系色素、金属塩アゾ色素、金属酸化物、複合金属酸化物が挙げられる。黄色顔料としては、カドミウムイエロー、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキが挙げられる。橙色顔料としては、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダンスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダンスレンブリリアントオレンジGKが挙げられる。赤色顔料としては、ベンガラ、カドミウムレッド、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウォッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3Bが挙げられる。紫色顔料としては、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキが挙げられる。青色顔料としては、C.I.Pigment Blue 15:3、コバルトブルー、アルカリブルー、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダンスレンブルーBCが挙げられる。緑色顔料としては、クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキが挙げられる。
液体現像剤中の顔料の含有量は、1〜30質量%が好ましい。より好ましくは、3質量%以上であり、さらに好ましくは、5質量%以上である。また、より好ましくは、20質量%以下であり、さらに好ましくは、10質量%以下である。
液体現像剤中の顔料の平均粒子径すなわち体積基準の中位径(D50)は、0.1〜1.0μmが好ましい。0.1μm未満の平均粒子径を有する顔料は、例えば、画像濃度の低下を引き起こす。1.0μmを超える平均粒子径を有する顔料は、例えば、定着性の低下を引き起こす。ここで、体積基準の中位径(D50)とは、一般に、粒度分布が求められている1群の粒子の全体積を100%として累積カーブを求めたときの累積カーブが50%となる点の粒子径をいう。
<分散安定剤>
本実施形態に係る液体現像剤は、液体現像剤中の粒子の分散を促進し安定化するための分散安定剤を含有していてもよい。本実施形態で使用し得る分散安定剤としては、例えば、ビックケミー社製の「BYK−116」が好適である。その他、ルーブリゾール社製の「ソルスパース9000」、「ソルスパース11200」、「ソルスパース13940」、「ソルスパース16000」、「ソルスパース17000」、「ソルスパース18000」や、ISP社製の「Antaron(登録商標)V−216」、「Antaron(登録商標)V−220」も好ましく用いられ得る。
液体現像剤中の分散安定剤の含有量は、1〜10質量%程度、好ましくは、2〜6質量%程度である。
<高分子化合物>
本実施形態に係る液体現像剤に含有される高分子化合物Rは、有機高分子化合物である。キャリア液Cに溶解性を有する有機高分子化合物として、液体現像剤の粘度を上げ、且つ、画像形成におけるにじみ発生を抑制できる材料が選択される。有機高分子化合物として、環状オレフィン共重合体、スチレン系エラストマー、セルロースエーテル、ポリビニルブチラールが例示される。好ましくは、有機高分子化合物として、スチレン系エラストマーが用いられる。高分子化合物Rとしては、単一種の有機高分子化合物が用いられてもよいし、或いは、複数種の有機高分子化合物が用いられてもよい。
なお、本実施形態に係る液体現像剤では、有機高分子化合物は、キャリア液Cに溶解される。キャリア液Cに溶解している有機高分子化合物は、ゲルの状態であってもよい。有機高分子化合物の種類や分子量によっては、キャリア液C中で相互に絡み合ったゲル状の有機高分子化合物が得られる。ゲル状の有機高分子化合物は、比較的低い流動性を有する。例えば、有機高分子化合物の濃度が高い場合、有機高分子化合物とキャリア液Cとの親和性が低い場合、或いは、気温が低い場合には、ゲル状の有機高分子化合物が得られやすい。一方、キャリア液C中での相互の絡み合いが少ない有機高分子化合物は、比較的流動性が高い溶液となる。
液体現像剤中の有機高分子化合物の含有量は、有機高分子化合物の種類応じて、適切に決定される。有機高分子化合物の含有量は、例えば、1〜10質量%であることが好ましい。
有機高分子化合物の含有量が1質量%未満であると、液体現像剤における十分な粘度が得られず、画像形成におけるにじみ発生が十分に抑制できない可能性がある。また、有機高分子化合物の含有量が10質量%を超えると、シートSの表面上に留まる有機高分子化合物による被膜の量が多くなり過ぎ、被膜の乾燥性が過度に低下し、被膜の粘着性(タック性)が過度に大きくなり、画像の耐擦過性が過度に低下する可能性がある。
以下、本実施形態において好適に使用できる有機高分子化合物が以下に例示される。
(環状オレフィン共重合体)
環状オレフィン共重合体は、環状オレフィン骨格を主鎖に有し、環境負荷物質を含まない、非晶性で熱可塑性のオレフィン系樹脂であり、透明性、軽量性、低吸水性等に優れる。本実施形態においては、環状オレフィン共重合体は、主鎖が炭素−炭素結合からなり、主鎖の少なくとも一部に環状炭化水素構造を有する有機高分子化合物である。この環状炭化水素構造は、ノルボルネンやテトラシクロドデセンに代表されるような、環状炭化水素構造中に少なくとも一つのオレフィン性二重結合を有する化合物(環状オレフィン)を単量体として用いることで導入される。
本実施形態で使用可能な環状オレフィン共重合体として、例えば、(1)環状オレフィンの付加(共)重合体又はその水素添加物、(2)環状オレフィンとα−オレフィンとの付加共重合体又はその水素添加物、(3)環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物が挙げられる。
上述の環状オレフィンとして、以下の物質が例示される。
(a)シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン;
(b)シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエンといった1環の環状オレフィン;
(c)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンといった2環の環状オレフィン;
(d)トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン。
(e)トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,7−ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,8−ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンとの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン;
(f)5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンといった3環の環状オレフィン。
(g)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(テトラシクロドデセン)、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンといった4環の環状オレフィン;
(h)8−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−フェニル−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン;
(i)テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ−4,9,11,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ−5,10,12,14−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−へキサヒドロアントラセン);
(j)ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]−4−ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]−5−エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]−14−エイコセン;
(k)シクロペンタジエンの4量体といった多環の環状オレフィン。これらの環状オレフィンは、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上述のα−オレフィンとしては、炭素数が2〜20、好ましくは2〜8のα−オレフィンが好ましい。α−オレフィンとして、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−へキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンが例示される。これらのα−オレフィンは、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
環状オレフィンの重合方法、環状オレフィンとα−オレフィンとの重合方法、及び得られた重合体の水素添加方法には、格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
環状オレフィン共重合体の構造には、格別な制限はない。環状オレフィン共重合体の構造は、鎖状でも、分岐状でも、架橋状でもよいが、好ましくは直鎖状である。
環状オレフィン共重合体としては、例えば、ノルボルネンとエチレンとの共重合体、又は、テトラシクロドデセンとエチレンとの共重合体が好ましく用いられる。環状オレフィン共重合体として、特に、ノルボルネンとエチレンとの共重合体がより好ましい。共重合体中のノルボルネンの含有率は、60〜82質量%が好ましく、60〜79質量%がより好ましく、60〜76質量%がさらに好ましく、60〜65質量%が一層好ましい。ノルボルネン含有率が60質量%未満であると、環状オレフィン共重合体の被膜のガラス転移温度が低くなり過ぎ、環状オレフィン共重合体被膜の造膜性が低下する可能性がある。ノルボルネン含有率が82質量%を超えると、環状オレフィン共重合体の被膜のガラス転移温度が高くなり過ぎ、環状オレフィン共重合体被膜による顔料つまり画像の定着性が低下する可能性がある。また、キャリア液Cへの環状オレフィン共重合体の溶解度が過度に低くなる可能性がある。
環状オレフィン共重合体として、市販されているものが使用されてもよい。例えば、ノルボルネンとエチレンとの共重合体として、トパス・アドヴァンスト・ポリマーズ・ゲーエムベーハー社製の「TOPAS(登録商標)TM」(ノルボルネン含有率:約60質量%)、「TOPAS(登録商標)TB」(ノルボルネン含有率:約60質量%)、「TOPAS(登録商標)8007」(ノルボルネン含有率:約65質量%)、「TOPAS(登録商標)5013」(ノルボルネン含有率:約76質量%)、「TOPAS(登録商標)6013」(ノルボルネン含有率:約76質量%)、「TOPAS(登録商標)6015」(ノルボルネン含有率:約79質量%)、「TOPAS(登録商標)6017」(ノルボルネン含有率:約82質量%)が挙げられる。これらは状況に応じて単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。
(スチレン系エラストマー)
本実施形態で高分子化合物Rとして使用できるスチレン系エラストマーとしては、従来公知のものを特に限定なく使用することができる。スチレン系エラストマーとして、例えば、芳香族ビニル化合物と、オレフィン系化合物又は共役ジエン化合物とからなるブロック共重合体が挙げられる。ブロック共重合体として、例えば、芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロックをAとし、オレフィン系化合物又は共役ジエン化合物からなる重合体ブロックをBとしたときに、化学式1で表される構造を有するブロック共重合体が挙げられる。
上述のブロック共重合体を構成する芳香族ビニル化合物として、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,3−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、p−ブロモスチレン、2,4,5−トリブロモスチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、o−tert−ブチルスチレン、m−tert−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンが挙げられる。
重合体ブロックAは、上述の芳香族ビニル化合物のうちの1種から構成されていてもよいし、2種以上から構成されていてもよい。これらのうちでも、スチレン及び/又はα−メチルスチレンから構成されたものが、本実施形態に係る液体現像剤に好ましい物性を与える。
上述のブロック共重合体を構成するオレフィン系化合物として、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、シクロペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、シクロヘプテン、1−オクテン、2−オクテン、シクロオクテン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプテン、ビニルシクロオクテンが挙げられる。
上述のブロック共重合体を構成する共役ジエン化合物として、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンが挙げられる。
重合体ブロックBは、上述のオレフィン系化合物及び上述の共役ジエン化合物のうちの1種から構成されていてもよいし、2種以上から構成されていてもよい。これらのうちでも、ブタジエン及び/又はイソプレンから構成されたものが、本実施形態に係る液体現像剤に好ましい物性を与える。
上述のブロック共重合体としては、例えば、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレントリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)トリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリイソプレン−ポリ(α−メチルスチレン)トリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリ(α−メチルスチレン)トリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリスチレン−ポリイソブテン−ポリスチレントリブロック共重合体、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリイソブテン−ポリ(α−メチルスチレン)トリブロック共重合体が挙げられる。
スチレン系エラストマーとして、重合体ブロックA及び重合体ブロックBが化学式2で表される構造を有するスチレン−ブタジエン系エラストマー(SBS)が好ましい。
スチレン−ブタジエン系エラストマーは、スチレンモノマーと、共役ジエン化合物であるブタジエンとを共重合させることにより得られる。好ましいスチレンモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレンが例示される。
上述のスチレン−ブタジエン系エラストマーは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による分子量分布において、数平均分子量Mnは、好ましくは、1,000〜100,000の範囲内であり(化学式1参照)、より好ましくは、2,000〜50,000の範囲内である。また、重量平均分子量Mwは、好ましくは、5,000〜1,000,000の範囲内であり、より好ましくは、10,000〜500,000の範囲内である。その場合に、重量平均分子量Mwが2,000〜200,000の範囲内、好ましくは3,000〜150,000の範囲内に、少なくとも1つのピークが存在することが好ましい。
上述のスチレン−ブタジエン系エラストマーは、(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)の比の値は、好ましくは、3.0以下であり、より好ましくは、2.0以下である。
上述のスチレン−ブタジエン系エラストマーにおけるスチレン含有量(重合体ブロックAの含有量)は、好ましくは、5〜75質量%の範囲内であり(化学式2参照)、より好ましくは、10〜65質量%の範囲内である。スチレン含有量が5質量%未満であると、スチレン系エラストマーの被膜のガラス転移温度が低くなりすぎ、スチレン系エラストマー被膜の造膜性が低下する傾向となる。スチレン含有量が75質量%を超えると、スチレン系エラストマーの被膜の軟化点が高くなりすぎ、スチレン系エラストマー被膜による顔料つまり画像の定着性が低下する傾向となる。
スチレン系エラストマーとして、市販されているものを使用することができる。例えば、スチレン−共役ジエンブロック共重合体として、クラレ社製の「セプトン」S1001、S2063、S4055、S8007や「ハイブラー」5127、7311、シェル社製の「クレイトン」、旭化成ケミカルズ社製の「アサプレン(登録商標)」T411、T413、T437や「タフプレン(登録商標)」A、315P 等、JSR社製の「JSR TR1086」、「JSR TR2000」、「JSR TR2250」、「JSR TR2827」;スチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素添加物として、JSR社製の「ダイナロン」6200P、4600P、1320P 等;スチレン−エチレン共重合体として、ダウ・ケミカル社製の「インデックス」等;他のスチレン系エラストマとして、アロン化成社製の「アロンAR」、三菱化学社製の「ラバロン」等が挙げられる。これらは状況に応じて単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、クラレ社製の「セプトン」S1001、S2063、S4055、S8007や「ハイブラー」5127、7311はスチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素添加物である。
(セルロースエーテル)
セルロースエーテルは、セルロース分子内の水酸基がアルコキシ基に置換された高分子である。置換率は、45〜49.5%が好ましい。また、アルコキシ基のアルキル部分が、例えば、ヒドロキシル基によって置換されていてもよい。セルロースエーテルの被膜は、強靭性並びに熱安定性に優れている。
本実施形態で使用可能なセルロースエーテルとして、例えば、メチルセルロース、エチルセルロースといったアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースといったヒドロキシアルキルセルロース;ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースといったヒドロキシアルキルアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロースといったカルボキシアルキルセルロース;カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースといったカルボキシアルキルヒドロキシアルキルセルロース;が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのうちでも、アルキルセルロースが好ましく、アルキルセルロースのうちでも、エチルセルロースが好ましい。
本実施形態においては、セルロースエーテルとして、市販されているものを使用することができる。例えば、エチルセルロースとして、日進化成社製の「エトセル(登録商標)STD4」、「エトセル(登録商標)STD7」、「エトセル(登録商標)STD10」等が挙げられる。これらは状況に応じて単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。
(ポリビニルブチラール)
ポリビニルブチラール(ブチラール樹脂:アルキルアセタール化ポリビニルアルコール)は、化学式3に示すように、水酸基を有し、親水性のビニルアルコール単位と、ブチラール基を有し、疎水性のビニルアセタール単位と、アセチル基を有し、ビニルアルコール単位とビニルアセタール単位との中間の性質の酢酸ビニル単位との共重合体である。本実施形態に係る液体現像剤においては、ブチラール化度(親水性部と疎水性部との割合を定めたもの)が60〜85mol%のポリビニルブチラールが被膜形成能(造膜性)に優れる点で好ましい。ポリビニルブチラールは、非極性溶剤に対して溶解性を示すビニルアセタール単位と、紙等の記録媒体に対して結着性を向上させるビニルアルコール単位とを有するため、キャリア液C及び記録媒体の両方に対して高い親和性を有する。
ポリビニルブチラールとしては、特に限定されない。ポリビニルブチラールとして、例えば、ヘキスト社製の「Mowital(登録商標)」B20H、B30B、B30H、B60T、B60H、B60HH、B70H;積水化学工業社製の「エスレック(登録商標)」BL−1(ブチラール化度:63±3mol%)、BL-2(同:63±3mol%)、BL−S(同:70mol%以上)、BL−L、BH−3(同:65±3mol%)、BM−1(同:65±3mol%)、BM-2(同:68±3mol%)、BM−5(同:63±3mol%)、BM−S;電気化学工業社製の「デンカブチラール」#2000−L、#3000−1、#3000−2、#3000−3、#3000−4、#3000−K、#4000−1、#5000−A、#6000−Cが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
(製造方法)
本実施形態に係る液体現像剤は、キャリア液C、顔料、有機高分子化合物、及び、必要に応じて分散安定剤を、例えば、ボールミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ロッキングミルを用いて(ジルコニアビーズ等を用いるメディア分散型機でもよい)、必要に応じて数分〜10数時間かけて、十分に溶解又は混合・分散させることにより、製造することができる。
上述の混合・分散により、顔料が微細に粉砕される。上述の如く、液体現像剤中の顔料の平均粒子径(D50)が、好ましくは、0.1〜1.0μmとなるように、混合・分散の時間や回転数を調整する。分散時間が過度に短いと、あるいは回転数が過度に少ないと、顔料の平均粒子径(D50)が1.0μmを超え、上述の如く、定着性が低下する可能性がある。分散時間が過度に長いと、あるいは回転数が過度に多いと、顔料の平均粒子径(D50)が0.1μm未満となり、上述の如く、不十分な現像性に起因する画像濃度の低下が引き起こされる。
キャリア液Cに有機高分子化合物を溶解させた後、顔料(必要に応じて分散安定剤と共に)を混合・分散させることにより、液体現像剤を製造してもよく、あるいは、キャリア液Cに有機高分子化合物を溶解させた溶液と、顔料分散体(キャリア液Cに顔料(状況に応じて分散安定剤と共に)を混合・分散させたものをいう)とをそれぞれ予め調製しておいて、これらを適宜の混合比(質量比)で混合することにより、液体現像剤を製造してもよい。
なお、顔料の平均粒子径(D50)を算出するために、顔料の粒度分布が測定される。顔料の粒度分布は、例えば、以下に示される手法により測定される。
製造された液体現像剤又は調製された顔料分散体を所定量サンプリングし、液体現像剤又は顔料分散体に用いられているキャリア液Cと同じキャリア液Cで10〜100倍(体積)に希釈し、マルバーン(MALVERN)社製のレーザー回折式粒度分布測定装置「マスターサイザー2000」を用いてフロー方式により、顔料の粒度分布が測定される。
また、製造された液体現像剤の粘度は、測定温度25℃において、CBC社製の振動式粘度計「VISCOMATE VM−10A−L」を用いて測定される。