しかしながら、特許文献1のランバーサポート装置では、背凭れの中央に配置されるランバーサポート本体を両端の支持ベルトで背フレームの左右の縦枠部に取り付ける構造であるため、着座者が背凭れ面に凭れた時のランバーサポート部材の奥行き方向への撓み量が支持ベルト長さに制限を受けるため、着座者の腰椎部分を支える力が背凭れ中央ほど相対的に強くなる傾向がある。特に、メッシュのような張地のみで構成された背凭れ面の場合には、ランバーサポート本体による腰椎部分の支持が際立ち、ランバーサポート本体に硬質な材料を用いる場合には背骨に強い圧迫を受けることで着座者に不愉快を与える場合もある。
また、特許文献2のような片持ち支持構造では、部品点数が多く複雑な構造となるため、コスト高となるばかりかコンパクトにできずに場所をとる問題を伴う。しかも、背フレームに張ったメッシュのような張地のみで背凭れ面を構成する場合には、複雑な構造のランバーサポート装置が背凭れの背面側に露出するため、椅子の背凭れの外観を醜悪なものとし兼ねない問題がある。加えて、特許文献2の構成のランバーサポート装置においては、ランバープレートを上下に移動可能とさせるためには、支持シャフトの両端を同期させて昇降させるスライド機構を更に必要とするため、昇降機構が複雑で大がかりなものとなってしまうことから、更にコスト高と大型化を招いてしまう問題を有する。しかも、1本の支持シャフトだけで支持されたランバーサポート装置を溝を使ったスライド機構で昇降させる場合には、動きが滑らかにはならず位置をきちんと固定しながらスムーズに移動させることは難しい。しかも、スライド機構を介した支持では十分な剛性を得ることができず、強度面において不安が生じる。
本発明は、着座者の腰椎部分を弾力的に優しく支持できる椅子のランバーサポート装置を提供することを目的とする。さらに本発明は、簡単な構造で高さ調整が可能な椅子のランバーサポート装置を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明にかかる椅子のランバーサポート装置は、左右に分離された2つのランバーサポート部材で構成され、かつ各々のランバーサポート部材が腰椎部分を支えるランバーサポート部と該ランバーサポート部を支持するステー部及び椅子の前後方向に配置された回転軸とを有すると共に、ランバーサポート部材はステー部の端部を回転軸で背フレームの左右の縦辺に回転可能に連結して背フレームの左右の縦辺から内側に向けて突出するようにそれぞれ取り付けられ、回転軸を中心に先端側のランバーサポート部を円弧運動を描きながら移動させることで位置調整が可能とされると共に、左右のランバーサポート部材を独立させて椅子の奥行き方向に撓む構造とされている。
ここで、ランバーサポート部とランバーサポートステー部とは別部材で構成され、ランバーサポート部あるいはランバーサポートステー部のいずれか一方に設けられた鞘部に嵌合させて連結されていることが好ましく、さらにはランバーサポート部とランバーサポートステー部とはランバーサポートステー部の長手方向に摺動可能に連結されていることが好ましい。もちろん、ランバーサポート部とランバーサポートステー部とは一体成形品で構成するようにしても良い。
また、本発明のランバーサポート装置は、背フレームとランバーサポート部材との間には位置決め機構が取り付けられていることが好ましい。例えば、ランバーサポートステー部と背フレームとのいずれか一方に凹凸を形成すると共に他方に凹凸と嵌合する弾性部材を備え、ランバーサポートステー部の回転に節度抵抗を与えることが好ましい。もっとも、凹凸と弾性部材はランバーサポートステー部あるいはこれと対向する背フレームの面や縁に設けることができるが、より好ましくはランバーサポートステー部の締め付け力に変化を生ずることが少ないランバーサポートステー部の周縁部とそれに対向する面に設けることである。
また、本発明のランバーサポート装置は、左右に配置されたランバーサポート部の少なくとも対向する面が、円弧面または楕円面を成しているものであることが好ましい。
また、本発明のランバーサポート装置は、ランバーサポート部が前面側に突出する凸部を設けていることが好ましい。
また、本発明のランバーサポート装置は、ランバーサポートステー部が背フレームに対して背凭れの前後方向に配置された回転軸と直交する方向に配置されると共に、該ランバーサポートステー部に対しランバーサポート部が傾斜して配置され、該ランバーサポート部と対向する部分の張地と平行に配置されることが好ましい。
また、本発明のランバーサポート装置は、左右のランバーサポート部を連係させてランバーサポートステー部を回転軸周りに同期回転させることが好ましい。例えば、左右のランバーサポート部の一方に長孔を形成すると共に他方に長孔を貫通する連結ピンを備え、互いに回転軸を中心とする回転方向には連係されると共に背凭れの幅方向には摺動可能でかつ背凭れの前後方向には遊びを以て連結されていることが好ましい。また、左右のランバーサポート部同士をリンクを介して回転自在に連結すると共にランバーサポート部とランバーサポートステー部とを別部材で構成し、かつランバーサポート部あるいはランバーサポートステー部のいずれか一方に設けられた鞘部に他方の部材を摺動可能に嵌合させて連結されていることが好ましい。さらには、左右に配置されたランバーサポート部同士が互いに対向するランバーサポート部の内側の円弧面にギアを形成し、これらギアを噛み合わせることにより、背凭れの前後方向には互いに独立して変位するように非連係関係にあり、揺動方向にはギアが噛み合って同期回転させるものであることが好ましい。
また、本発明のランバーサポート装置は、2つに分離されたランバーサポート部が、背凭れの中心を超えてランバーサポート部の先端側が他方のランバーサポート部材側へはみ出るようにしても良い。
さらに、本発明のランバーサポート装置は、ランバーサポート部の着座者の身体を支える面が、着座者の身体に対し異なる当たり強さが得られる複数のサポート領域を有するものであることが好ましい。ここで、複数のサポート領域は、例えば、着座者の身体に向けての突出量が大きく着座者の身体に対し相対的に強く当たる主当接面と突出量が主当接面よりも小さく着座者の身体に対し弱く当たる副当接面とを形成することによって構成されることが好ましい。この場合において、副当接面は張地に対して離反若しくは沿う傾きを有する逃げ面であることが好ましい。また、複数のサポート領域は、表面の硬さが異なることによって形成され、硬く着座者の身体に対し相対的に強く当たる主当接面と主当接面よりも軟らかく着座者の身体に対し弱く当たる副当接面とを硬さの違いにより形成しても良い。さらには、ランバーサポート部は、複数のサポート領域を有するパッドと該パッドと分離可能な別体で形成されてランバーサポートステー部に支えられるベースとで構成され、パッドを交換可能とすることにより着座者の身体に対し異なる当たり強さが得られる複数のサポート領域を様々な態様に変更可能とすることも、パッドとこれを支えるベースとの組み付け位置を変更可能としてパッドの組み付け角度を変更することで主当接面の位置を変更可能としても良い。
また、ランバーサポート部は複数のサポート領域の間にランバーサポートステー部に対しランバーサポート部が回転可能に設けられる回転軸を配置し、複数のサポート領域間の回転軸を中心に当該ランバーサポート部が回転することによって複数のサポート領域の身体に当接する位置を変化させるものであることが好ましい。
例えば、ランバーサポート部の複数のサポート領域間の回転軸は背凭れの前後方向に向けて配置され、ランバーサポート部の回転で複数のサポート領域の位置を変更可能とすることが好ましい。さらには、ランバーサポート部は、複数のサポート領域を有するパッドと該パッドと分離可能な別体で形成されパッドを支えると共にランバーサポートステー部に支えられるベースとで構成され、パッドとベースとを中心で連結する連結軸を複数のサポート領域間の背凭れの前後方向の回転軸としてパッドを回転可能とし、パッドの回転で複数のサポート領域の位置を変更可能とすることが好ましい。
また、ランバーサポート部の複数のサポート領域間の回転軸は、ランバーサポートステー部に対し背凭れの上下方向または幅方向若しくはこれらの間の斜め方向のいずれかの方向に向けて配置されることも可能であり、さらにこの場合において、複数のサポート領域間の回転軸を中心にランバーサポート部の着座者の身体側の面の表側とその反対側の面の裏側とでランバーサポート部の表面形状を異ならせ、回転軸を中心に回転させて裏側と表側とを入れ替えることでランバーサポート部が身体に当たる強さあるいは身体に強く当たる位置を調整可能とすることが好ましい。また、複数のサポート領域間の回転軸を中心にランバーサポート部の着座者の身体側の面の表側とその反対側の面の裏側との間で背凭れに向かう突出量あるいは硬さを相互に異ならせ、回転軸を中心とする当該ランバーサポート部の回転により裏側と表側とを入れ替えることでランバーサポート部が身体に当たる強さを調整可能とすることも好ましい。
また、ランバーサポート部の身体に当接する位置を変化させる構造は、ランバーサポート部そのものの回転によって着座者の身体側の面の表側とその反対側の面の裏側とを入れ替えることに限られない。例えば、ランバーサポート部は、着座者の身体を支えるパッドをランバーサポートステー部に支えられるベースの表面に沿って直線移動可能に備え、パッドのベース上での直線移動により突出位置または突出量を変更するようにしても良い。
本発明にかかる椅子のランバーサポート装置によると、左右に分離した2つのランバーサポート部材によって着座者の腰部を片持ち支持することにより、左右のランバーサポート部を独立させて椅子の奥行き方向に撓め得る構造とすることで撓み量を確保することができるので、着座者の腰部を柔らかく受け止め弾力的に支えることができる。しかも、この構成によると、独立した左右のランバーサポート部材による着座者の腰椎の弾性的な支持によって、ランバープレートからの腰椎支持力が、左右方向への荷重の移動に追従するため、体を捻ったりしたときにも腰椎部分の支持が安定的に十分に図られる。
また、本発明のランバーサポート装置によると、ランバーサポート部とランバーサポートステー部とを有するランバーサポート部材を背フレームに回転可能に取り付けるだけの簡単な構造であって、尚かつ回転運動で上下方向の位置調整を行うことができるので、部品点数が少なくて済み、コンパクトな構造にできると共にコストも下げることができる。
また、本発明のランバーサポート装置によると、ランバーサポート部材の回転運動でランバーサポート部の高さ調整が行われるので、ランバーサポート部の昇降動作が滑らかなものとできる。
しかも、左右に分離している2部材のランバーサポート部によって着座者の背骨を回避して腰部を支えることができるので、背骨に直接ランバーサポート部が当たることによる不愉快感を与えることが少ない。また、仮に背骨がランバーサポート部に当たったとしても、ランバーサポート部材自体が撓むことで背骨に与える力を弱めることができることから、不愉快感を与えることが少ない。また、本発明のランバーサポート装置によると、分離したランバーサポート部なので、左右を別の動きにすることが可能であり、着座者の要望に応じた腰部支持が可能となる。
また、本発明のランバーサポート装置によると、左右のランバーサポート部を互いに独立して動かせることができるので、左右でランバーサポート部の動く方向を逆にしたり、高さをずらすことができ、左右で異なる高さとなるように腰椎部分を支えることができる。これにより、着座者の姿勢が傾いていたり、あるいは傾いて着座する癖のある人の場合にでも、左右のランバーサポート部材が独立して適切な高さ位置を確保でき、着座者の腰椎部分が適切に支えられる。
また、本発明のランバーサポート装置は、ランバーサポート部とランバーサポートステー部とを別部材で構成し、ランバーサポート部あるいはランバーサポートステー部のいずれか一方に設けられた鞘部に嵌合させて連結するようにしているので、ランバーサポート部とランバーサポートステー部を別の素材から作ることが可能となり、剛性が必要なランバーサポートステー部は剛性の高い素材から、柔軟性が必要なランバーサポート部は柔軟性のある素材で作成することができ、柔軟性と剛性とを両立できランバーサポート部材の強度面の不安を解消することができる。更に、本発明において、ランバーサポートステー部に対してランバーサポート部が長手方向に摺動可能に連結する場合には、ランバーサポート部で腰椎部分を支える位置を必要に応じて横方向にも移動させることができる。このことは、左右のランバーサポート部の間隔を調整可能であると共に間隔を維持したまま左右に移動させ得ることを意味する。したがって、着座者固有の感覚や身体的特徴に応じたより細かい調整が可能となる。
また、本発明のランバーサポート装置において、背フレームとランバーサポート部材との間には位置決め機構が取り付けられている場合には、予め決められた位置あるいは任意の位置でランバーサポート部材を確実に固定することができる。中でも、ランバーサポートステー部と背フレームとのいずれか一方に凹凸を形成すると共に他方に凹凸と嵌合する弾性部材を備え、ランバーサポートステー部の回転に節度抵抗を与える場合には、ランバーサポート部材が固定位置に収まったことを容易にクリック感で確認することができる。勿論、位置決め機構は、凹凸とこれに嵌合する弾性部材との組み合わせに限られず、ランバーサポートステー部と背フレームとの間の摩擦を増すことにより、ランバーサポート部材の位置決めを行うものであってもランバーサポート部材の自重によるずり落ちを阻止するという点では同様の効果が得られることは言うまでもない。
また、本発明のランバーサポート装置において、左右に配置されたランバーサポート部の少なくとも対向する面を円弧面または楕円面に形成している場合には、左右のランバーサポート部の円弧運動によって互いに干渉することがない。したがって、左右に配置されたランバーサポート部の間隔を狭くする必要がある場合には、最小限まで狭くすることができる。
また、本発明のランバーサポート装置において、ランバーサポート部に前面側に突出する凸部が設けられている場合には、背凭れの中心線から確実に左右に離された位置で着座者の腰椎部分を支えることができるので、着座者の座り方が背凭れの中心線からずれていても背骨を直接押すことが少ない。
また、本発明のランバーサポート装置において、ランバーサポートステー部に対しランバーサポート部を傾斜させて対向する部分の張地と平行に配置する場合には、張地に対してランバーサポート部がほぼ平行に回転するため、ランバーサポートステー部を回転させて高さ方向の位置を調整しても、張地との間の距離が変わらないので、腰椎部分を支える力に変動が少ない。ここで、ランバーサポートステー部あるいはランバーサポート部とこれに対向する部分の張地との配置関係を平行にするとは、厳密な意味で平行である必要はなく、概ね平行である場合も含まれるものであることは言うまでもない。
また、本発明のランバーサポート装置において、左右のランバーサポート部を連係させてランバーサポートステー部を同期回転させる場合には、一方のランバーサポート部材を掴んで昇降させることで左右のランバーサポート部並びにステー部が同時に同量だけ移動させることができるので、ランバーサポート部の高さ調整が容易である。しかも、左右のランバーサポート部材は回転方向にのみ連係されるが、椅子の奥行き方向には独立して撓むことができるので、着座者の腰部を柔らかく受け止め弾力的に支えることができる。
さらに、左右のランバーサポート部材を長孔と該長孔を貫通する連結ピンとで、互いに揺動方向には連係されると共に水平方向には摺動可能でかつ椅子の前後方向には遊びを以て連結されている場合には、ランバーサポート部の高さ方向の位置を変更しても左右のランバーサポート部の間隔は変動しないため、着座者の腰椎部分の高さに関係なく同じ位置を支えることができる。
また、ランバーサポートステー部に対してランバーサポート部を長手方向に摺動可能に連結する一方、左右のランバーサポート部同士をリンクを介して回転自在に連結する場合には、ランバーサポート部の高さ方向の位置を変更しても左右のランバーサポート部の間隔は変動しないため、ランバーサポート部の高さを変更してもそれと関係なく同じ腰椎部分の幅方向位置を支えることができる。
また、左右のランバーサポート部材同士が互いのギアを噛み合わせることにより同期回転させる場合には、一方のランバーサポート部の回転動作を他方のランバーサポート部に滑らかに伝達できるため、左右のランバーサポート部の昇降動作が簡単にできる。
また、本発明のランバーサポート装置において、2つに分離されたランバーサポート部は、背凭れの中心を超えてランバーサポート部の先端側がはみ出る構造としても、背中の背骨付近を中心に腰椎部分を支えることとなるが、いずれにしても互いに分離されて片持ち支持されているランバーサポート部材に支持されているため、着座者の腰椎部分への当たりを優しくすることができる。
また、本発明のランバーサポート装置において、ランバーサポート部の着座者の身体を支える面が、着座者の身体に対し異なる当たり強さが得られる複数のサポート領域を有する場合には、積極的に強いランバーサポート部の当たりを与える部分と、積極的に強い当たりを与える当たり面としては機能しないものの張地に対してなじむようにして張地並びに着座者の腰部をソフトに支える部分とを身体を支える面に作りだすことができるので、主当接面と副当接面とが同じ当たり面に存在する場合には、着座者の腰椎部分は、強く当てられる部分と比較的優しく支えられる部分とでサポートされるため、明確に身体を押されている感覚を感じながらも局所的な押圧に伴う不快を感じることが少なくなる。しかも、ランバーサポート部の位置で複数のサポート領域の配置を変更することで、着座者の身体に対し相対的に強く当たる位置を移動させること、換言すれば着座者の身体のある点における当たりの強さを変化させることができる。したがって、ランバーサポート部材全体の回転軸を中心とする揺動と相俟って、ランバーサポート部が身体に強く当たる位置をより広範囲に亘ってかつ微妙に変化させることができる。
特に、副当接面を張地に対して離反若しくは沿う傾きを有する逃げ面で形成する場合には、背フレームの回転軸と直交する方向に取り付けられるランバーサポートステー部に対してランバーサポート部に傾きθを与えずとも、背凭れの中心側に副当接面を配置し、その反対側の背フレームの回転軸寄りに主当接面を配置することにより、張地の形状に沿ったなじみ易い角度で当たり面が形成されるため、角度調整の手間が省ける。しかも、ランバーサポート部材が回転軸を中心に回転しても、ランバーサポート部が対向する張地に沿って平行移動するため、張地に対する距離が変わらないので、着座者の腰椎部分を支える力が変動することがない。また、背フレームの中心側に副当接面を配置する場合、背凭れの中心寄りの部分では張地が副当接面になじむように沈み込むので、背骨部分を強く押すことが無く、背骨を避けた部分でより強く当たることとなる。また、着座者の好みによっては、副当接面を背フレームの回転軸側寄りに配置すると共に背フレームの中心側に主当接面を配置することで、より背骨に近い部分を強く押すことができる。
さらに、複数のサポート領域を表面の硬さを異ならせることによって当たり面を形成するランバーサポート部は、硬く着座者の身体に対し相対的に強く当たる主当接面と主当接面よりも軟らかく着座者の身体に対し弱く当たる副当接面とを硬さの違いにより容易に形成できるので、背凭れ奥側へ沈み込む張地に対してランバーサポート部の表面が密着するように接するので、ランバーサポート部の角などで張地を傷めることが少ない。しかも、単なる当たりの強さの変化だけでなく、材質等に伴う硬さの変化に感触的な当たり感の変更も可能となる。
さらに、分離可能なパッドとベースとで構成されるランバーサポート部は、パッドを交換することにより、着座者の身体に対し異なる当たり強さが得られる複数のサポート領域を様々な態様に容易に変更可能とすることができる。例えば、主当接面と副当接面の分布の態様や、主当接面や副当接面の数、形状、突出量の大小などが異なる数種類のパッドを揃えれば、着座者の好みに応じてあるいは着座者のその日の体調や腰部の痛み状況などに合わせて適宜取り替えて使用することができる。
さらに、分離可能なパッドとベースとでランバーサポート部を構成し、ベースに対するパッドの組み付け位置を変更可能とする場合には、パッドの組み付け角度を変更することで主当接面の位置を簡単に変更できる。このため、使用中にはパッドそのものを固定する場合にも、予め着座者の好みに応じた位置にランバーサポート部を設定することができるので、ランバーサポート部材全体の回転軸を中心とする揺動と相俟って、より好みの位置にランバーサポート部を強く当てることができる。
また、ランバーサポート部は複数のサポート領域の間にランバーサポートステー部に対しランバーサポート部が回転可能に設けられる回転軸を配置し、複数のサポート領域間の回転軸を中心に当該ランバーサポート部が回転することによって複数のサポート領域の身体に当接する位置を変化させる場合には、ランバーサポート部を回転軸を中心に回転させるだけで、ランバーサポートステー部を回転軸周りに回転させなくとも、着座者の身体に対し相対的に強く当たる位置を移動させること、換言すれば着座者の身体のある点における当たりの強さを変化させることができる。勿論、ランバーサポート部材の回転軸を中心とする回転と組み合わせることにより、より細かに当たり位置の移動並びに当たりの強さの調整を可能とすることができる。
また、本発明におけるランバーサポート部は、異なる当たり強さが得られる複数のサポート領域の間に配置した回転軸を中心にランバーサポートステー部に対し回転可能に設けられているので、ランバーサポート部の回転だけで着座者の身体の或る点における当たりの強さを容易に変化させ得るし、当たりの強い領域も変化させ得る。しかも、ランバーサポート部材全体の回転軸を中心とする揺動と相俟って、広範囲に亘って変化させ得る。
また、ランバーサポート部を、複数のサポート領域を有するパッドとランバーサポートステー部に支えられるベースとに分離可能に構成して、パッドとベースとを中心で背凭れの前後方向に連結する連結軸を複数のサポート領域間の背凭れの前後方向の回転軸としてパッドを回転可能とする場合には、パッドの回転だけで複数のサポート領域の位置を背凭れの高さ方向並びに幅方向に変更可能とするので、ランバーサポート部材全体の回転軸を中心とする揺動と相俟って、ランバーサポート部が身体に強く当たる位置を広範囲に亘って微妙に変化させ得る。
また、本発明において、複数のサポート領域間の回転軸は背凭れの上下方向または幅方向若しくはこれらの間の斜め方向のいずれかの方向に向けて配置され、該軸を中心に、ランバーサポートステー部に対しランバーサポート部を回転可能に設ける場合には、ランバーサポート部を回転させるだけで、張地に面して着座者の身体を支える面が切り替わり、異なる形状あるいは硬さなどの任意の表面として、ランバーサポート部が身体に当たる強さあるいは身体に強く当たる位置を容易に変化させ得る。
例えば、ランバーサポート部の着座者の身体側の面の表側とその反対側の面の裏側とで異なる表面形状としておけば、ランバーサポート部を複数のサポート領域間の回転軸を中心に回転させて裏側と表側とを入れ替えるだけでランバーサポート部が身体に当たる強さあるいは身体に強く当たる位置を変化させることができる。しかも、ランバーサポート部材全体の回転軸を中心とする揺動と相俟って、ランバーサポート部の表側と裏側とで各々異なる移動軌跡をそれぞれのサポート領域が描くため、身体に当たる位置や強さを広範囲に亘って変化させることができる。
また、ランバーサポート部の着座者の身体側の面の表側とその反対側の面の裏側との間で背凭れに向かう突出量あるいは硬さを相互に異ならせた表面を備える場合には、ランバーサポート部を複数のサポート領域間の回転軸を中心に回転させて裏側と表側とを入れ替えるだけで、ランバーサポート部が身体に当たる強さを変化させたり、あるいは身体に強く当たる位置を移動することができる。
さらに、本発明のランバーサポート装置において、ベースの表面に沿ってパッドを直線移動可能に備え、パッドのベース上での直線移動により突出位置または突出量を変更する場合には、背凭れの高さ方向あるいは幅方向若しくはそれらの双方へのランバーサポート部の当たり位置を連続的に移動させることができるので、より細かく身体に強く当たる位置を調整できる。しかも、パッドの直線移動は、ランバーサポート部材の回転に伴う背凭れの高さ方向あるいは幅方向へのランバーサポート部の移動量を減殺あるいは増幅させるので、減殺範囲ではランバーサポート部の高さ方向あるいは幅方向の移動量を低減させあるいはランバーサポート部の移動を高さ方向あるいは幅方向のみの移動とし、増幅範囲ではランバーサポート部材の回転量の割に幅方向あるいは高さ方向への移動量を増やして急激な変化とすることができる。このことは、ベース上におけるパッドの移動ストロークの範囲内では、左右のランバーサポート部の間の間隔を一定に保つ機構を備えなくとも、左右のランバーサポート部の間隔を一定に保つことを可能とすることを意味している。また、ランバーサポート部材の回転範囲を変更せずとも、ランバーサポート部上でのパッドの位置即ち当たり位置を背凭れの高さ方向あるいは幅方向若しくは斜め方向へ移動させることで、当たり位置の移動軌跡並びに移動範囲を広げることができる。
以下、本発明に係る椅子の背凭れの構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、本明細書において「前後」、「左右」及び「上下」の各方向は、椅子に座った着座者を基準にしたものであって、椅子あるいは背凭れの奥行き方向を前後、幅方向を左右、高さ方向を上下と言うものとする。さらに、本明細書において使用する「背フレーム」という用語は、背凭れ面を形成する張地の少なくとも相対向する縁を支持する縦辺を有し、張地との間で背凭れを構成する部材を言う。
図1から図5に本発明のランバーサポート装置を適用した椅子の一実施形態を示す。この実施形態の椅子は、キャスターを有する脚7と、脚7の脚支柱の上端に取り付けられるメインフレーム6と、このメインフレーム6に支持される背凭れ1及び座を備える。そして、ランバーサポート装置は張地3の背後に配置されるように、背フレーム2の腰部付近の縦辺2aに取り付けられ、張地3越しに着座する者の腰部部分を支えるように設けられている。ここで、ランバーサポート装置の背フレーム2に対する取り付け位置は、椅子の使用者として想定される標準的体格の着座者の腰部部分の高さとすることが好ましい。
ここで、背フレーム2は、本実施形態の場合、張地3を張り付ける張地支持枠4と、該張地支持枠4を支持してメインフレーム6に取り付ける背支持部材5との2部材で構成されている。そして、張地支持枠4は、例えばガラス繊維強化ナイロンで成形され、その周縁に設けられた溝9に張地3の周縁が嵌め込まれることによって前面側に張地3が張り詰められている。他方、背支持部材5はアルミダイカストで形成され、張地支持枠4の下半分をビスまたはピン等の固着具で連結することによって、張地支持枠4と一体となって背フレーム2を構成している。この背支持部材5はメインフレーム6に揺動可能に取り付けられると共に図示していない反力機構によって背凭れ1を前方に向けて常時付勢する力が付与されている。
張地支持枠4は、本実施形態の場合、左右両側に対をなす縦辺2aと両縦辺2aを連結する横辺2bとが連結されたほぼ矩形状を成し、平面視では枠の上下の横辺2bがそれぞれ中央部分が後方へ向けて凹むように湾曲し、側面視では枠の両側の縦辺2aが着座者の腰椎部分の高さ位置を境に上縁側と下縁側とが後方へ傾斜するように屈曲して、全体として前後方向に湾曲し高さ方向に腰椎部分が最も前方に突き出るように屈曲するような三次元曲面を形成するように設けられている。
なお、張地3としては、張地支持枠4に張り渡された状態で背凭れ1として適度な弾力性と強さとを発揮し得る材質、言い換えると伸縮自在の素材であれば採用可能であり、特定のものに限定されるものではない。具体的には、張地3は、伸縮性に富む素材を主体とし、例えば合成繊維のダブルラッセルメッシュにさらにエラストマ糸等の弾性糸を編み込んだもの、詳細にはそれぞれ伸縮変形可能なメッシュ地の表布と裏布とをダブルラッセル編みで立体的に縫い合わせてなるもので、強度とクッション性との双方を備えているものの使用が好ましい。例えばポリエステル製メッシュシート,各種の樹脂フィルム,布地,不織布などが用いられている。この張地3の縁には、硬質樹脂製コードから成る係止プレート8が縫い付けられ、係止プレート8ともども張地支持枠4の溝9に嵌め込むように張地3の縁を折り入れることにより、張地3が張地支持枠4に張り付けられて固定される。硬質樹脂製コードから成る係止プレート8は、張地3に張力が付与されて張地3が張地支持枠4に被せられた状態で外周面の溝9に嵌め込まれたときに、張地3の張力によって溝9に引っかかって抜け止めとして機能することにより、張地3を張地支持枠4に固定するものである。そこで、係止プレート8は、溝9に嵌め込まれた状態から抜けないように簡単には折り曲がらない程度の硬さを有する素材で形成される。具体的には、係止プレート8は、所定の硬さを有する合成樹脂、例えばポリプロピレンによって形成されている。
ランバーサポート装置は、左右に分離された2つのランバーサポート部材10で構成され、かつ各々のランバーサポート部材10が腰椎部分を支えるランバーサポート部11と該ランバーサポート部11を支持するステー部12とを有すると共に、ランバーサポートステー部12の端部を回転軸14で背フレーム2に回転可能に連結して取り付け、回転軸14を中心に先端側のランバーサポート部11を円弧運動を描きながら移動させることで高さ方向への位置調整が可能に構成されている。
ここで、ランバーサポート部11とランバーサポートステー部12とは、図5に示すように、ランバーサポートステー部12に対してランバーサポート部11が僅かな傾きθを持って傾斜するように形成することが好ましい。傾きθは、好ましくはランバーサポート部11が対向する部分の張地3と平行になるような角度、例えば本実施形態では5〜8°程度である。他方、ランバーサポートステー部12は背フレーム2に対して椅子の前後方向換言すれば背凭れの前後方向に配置された回転軸14と直交する方向に配置されている。したがって、ランバーサポート部材10が回転軸14を中心に回転しても、ランバーサポートステー部12に対し後ろ側に傾いているランバーサポート部11は対向する張地3に沿って平行移動するため、張地3に対する距離が変わらないので、着座者の腰椎部分を支える力が変動することがない。尚、図中の符号20は、ランバーサポートステー部12に対してランバーサポート部11が屈曲する位置を示している。本実施形態では、ランバーサポート部11をランバーサポートステー部12に対して僅かに傾ける(角度θ)ことで、背凭れの張地3に対してしっくりと当たるように工夫しているが、これに特に限られるものではなく、ランバーサポートステー部12そのものを背フレーム2に対して傾斜させるように取り付けることも可能である。
ランバーサポート部11は、前面側に突出する凸部を設けていることが好ましい。凸部は、例えば、図5に示すように、中央部が椅子の前方即ち張地3へ向けて突出した緩やかな球面状を成すと共にその周縁部に補強のための環状のフランジを備えることによって形成されている。したがって、着座者の腰椎部分は、球面によって優しく押さえられかつ弾力的に支えられる。しかも、背凭れの中心線から確実に左右に離された位置に存在する球面状の凸部の中心付近で着座者の腰椎部分が支えられるので、着座者の座り方が背凭れの中心線からずれていても背骨を直接押すことが少ない。尚、円形のランバーサポート部11の前面側の凸部形状は、図示のようなランバーサポート部11の輪郭と同心状の球面形に特に限定されるものではなく、頂部が輪郭の中心からずれて配置されていたり、複数存在するものでも良いし、非球面の凸部でも良い。また、ランバーサポート部11の形状は円形に特に限定されるものではなく、楕円形や矩形あるいは多角形状などの適宜形状が必要に応じて採用し得ることは言うまでもない。
ランバーサポート部11とランバーサポートステー部12とは別部材で構成され、ランバーサポート部11あるいはランバーサポートステー部12のいずれか一方に設けられた鞘部37に嵌合させて連結されることが好ましい。本実施形態では、ランバーサポート部11と一体に形成された鞘部37の穴13に対してランバーサポートステー部12の先端側が圧入されることにより一体化されている。この場合、ランバーサポート部11とランバーサポートステー部12とで好適な素材を選択することが可能となる。例えば、ランバー部11は柔軟性のあるポリプロピレンで形成され、より強度の必要となるランバーサポートステー部12はガラス繊維強化ナイロンで形成することができる。そして、ランバーサポートステー部12は、その基端側が回転軸14を介して背フレーム2に回転可能に取り付けられている。本実施形態では回転軸14としてはねじが利用されている。ねじ14はランバーサポートステー部12の基端部に貫通されるフランジ付きスリーブ33を介して背支持部材5にねじ込まれ、フランジ付きスリーブ33を背フレーム2の背支持部材5に取り付けている。したがって、ランバーサポートステー部12はフランジ付きスリーブ33によって回転自在に支持される。図中の符号19は張地支持枠4をねじ14を貫通させる孔、38はスリーブ33のフランジとランバーサポートステー部12との間に介在されるワッシャである。
ここで、背フレーム2とランバーサポート部材10との間には、ランバーサポート部材10の自重によるずり落ちを阻止するため、位置決め機構を設けることが好ましい。位置決め機構は、ランバーサポート部材10を背フレーム2に対して弾性部材による摩擦力や係合によって固定力を増加させるものであり、本実施形態の場合、ランバーサポートステー部12と背フレーム2とのいずれか一方に凹凸17を形成すると共に他方に凹凸17と嵌合する弾性部材16を備え、ランバーサポートステー部12の回転に節度抵抗を与えるようにしている。具体的には、図4および図5に示すように、ランバーサポート部材10の背フレーム2への固定力に影響を与えることが少ない箇所、例えばランバーサポートステー部12の周縁に凹凸17を形成すると共に背フレーム2側に凹凸17と嵌合する弾性部材たる凸部あるいは凹部を有する板ばね部材16を備え、ランバーサポートステー部12の回転に節度抵抗(クリック感)を与えるようにしている。弾性部材16は、図示の板ばね部材に特に限られず、例えば凹凸17と嵌合するボールプランジャーや、リテーナーに沿って凹凸17に向けて前後動するローラをエラストマーで背後から支持するようにしたばね機構のようなものを利用しても良い。勿論、位置決め機構は回転軸14と平行なランバーサポートステー部12の周縁部とそれに対向する背フレーム2の面との間に設けるばかりではなく、場合によっては、ねじ14によって締め付けられるランバーサポートステー部12と背支持部材5との対向する面の間に形成するようにしても良い。また、位置決め機構は、凹凸17とこれに嵌合する弾性部材16との組み合わせに限られず、ランバーサポートステー部12と背フレーム2との間の摩擦を増すことにより、ランバーサポート部材の無段階に位置決めを行うものであってもランバーサポート部材の自重によるずり落ちを阻止することはできるものである。尚、図中の符号18は板ばね16の両端を受け止める爪である。
また、図示していないが、ランバーサポート部11の鞘部37とランバーサポートステー部12との間に、位置決め機構を備えて左右のランバーサポート部11の間隔を変更可能とすることが好ましい。位置決め機構は、例えば図4に示すような凹凸をランバーサポートステー部12に形成する一方、これに嵌合するばね部材を鞘部37に組みこむことにより簡単に構成でき、ランバーサポートステー部からランバーサポート部を引き出したり、引き込んだりする際の位置決めを行うことができる。
また、ランバーサポート部材10は、ランバーサポート部11とランバーサポートステー部12とを例えば図6及び図7に示すように予め一体に成形することも可能である。この場合には、ランバーサポートステー部12の強度を補強するため、回転軸14が貫通する部分にボス部21を形成すると共にこのボス部21とランバーサポート部11との間に図示の如くリブ41を形成することが好ましい。本実施形態では、張地支持枠4に円筒状の軸部40を形成してランバーサポートステー部12のボス部21に嵌め込むことにより、別部材としてのフランジ付きスリーブ33やワッシャ38を不要としている。回転軸14は首下部を円筒状軸部40の孔15に収めると共に、先端のネジ部を背支持部材5にねじ込むことにより、ランバーサポートステー部12のボス部21を回転自在に背支持部材5に固定するようにしている。したがって、そして、位置決め機構としては、Oリング39を張地支持枠4とランバーサポートステー部12のボス部21との間に配置することにより、摩擦力で無段階に固定可能な構造とされている。
また、上述の実施形態では、回転軸14が背フレーム2の縦辺に配置され、ランバーサポート部材10が背凭れ1の側方から内側に向けて突出するように取り付けられているものであるが、回転軸14の位置、即ちランバーサポート部材10の取り付け箇所は、これに限られず、背フレーム2の内方でも、背フレーム2の外方でも良い。例えば、図8及び9に示すように、背フレーム2で囲まれた内側の空間に突出するようにブラケット22を背支持部材5にビス23で取り付け、このブラケット22の先端側に回転軸14を配置してランバーサポートステー部12を自在に取り付けるようにしても良い。この場合、ランバーサポート部材10の長さが短くなるので材質を変更せずに支持剛性を高めることができる。また、図10及び11に示すように、背支持部材5の回転軸14を取り付ける部分を外方に突出するようにブラケット部24を形成して、背フレーム2の外の空間にランバーサポートステー部12を取り付けるようにしても良い。この場合、ランバーサポート部材10の長さが長くなるのでランバーサポート部11の回転半径が大きくなり、高さ位置の調整時における左右のランバーサポート部11の間隔をほとんど変化させずに済む。尚、図10及び11の実施形態において、ランバーサポートステー部12に対するランバーサポート部11の傾きθは、直線的なランバーサポートステー部12に対してランバーサポート部11を傾けて搭載することにより実現されている。
また、上述の実施形態では、回転軸14を中心に上及び下の双方向にランバーサポート部材10が回転するようにしているが、これに特に限られず、場合によっては図12及び図13に示すように左右のランバーサポート部材10の背フレームへの取り付け箇所即ち回転軸14を通過する線分よりも上あるいは下側へのみ揺動可能に取り付けられ、ランバーサポート部材の揺動により高さを調整可能とすることも可能である。図12及び図13の実施形態に限らず、左右に分離された2つのランバーサポート部材10が最も接近したときに対向する実施形態の場合、2つに分離されたランバーサポート部11は、互いに最も接近したときに、背凭れの鉛直方向中心Cから最も狭い箇所でも背骨の幅以上の隙間が発生するように間隔があけられていることが好ましい。これにより、着座者が背凭れに寄りかかったときに背骨がランバーサポート部材に直接当たることが少なくなる。もっとも、仮に背骨がランバーサポート部11に当たったとしても、片持ち支持のランバーサポート部材10が撓むことにより着座者の腰椎部分への当たりを優しくすることができる。
また、左右に分離された2つのランバーサポート部材10は、左右を別々に動かす必要はなく、回転方向にのみ連係させることで同期させて動かせるようにしても良い。例えば、図14及び15に示すように、左右に配置されたランバーサポート部材10の互いに対向するランバーサポート部11の内側の円弧面にギア26を形成し、これらギア26を噛み合わせることにより、椅子の前後方向には互いに独立して変位するように非連係関係にあり、回転方向にはギア26の噛み合いによって同時に回転させるものであることが好ましい。この場合、一方のランバーサポート部材10を動かせば他方のランバーサポート部材10も同量動くこととなるので、ランバーサポート部材10の高さ調整が容易となる。尚、ランバーサポート部11の内側の円弧面及びギア26は、回転軸14を曲率中心とする基礎円のギアの一部である。
また、図16及び17に示すように、左右のランバーサポート部11の一方に長孔29を形成すると共に他方に長孔29を貫通する連結ピン30を備え、互いに回転方向には連係されると共に水平方向(ランバーサポート部11同士が接近離反する方向)には摺動可能でかつ椅子の前後方向には遊びを以て連結するようにしても良い。各ランバーサポート部11からはそれぞれ連結リンク27が突出し、その一方に長孔29が、他方に連結ピン30が設けられている。連結ピン30の先端には長孔29を跨ぐフランジ31が形成され、連結ピン30が長孔29から抜け外れないように設けられている。また、連結リンク27の先端は円弧状に形成され、対向する相手側ランバーサポート部11には対応する凹部28が形成され、左右のランバーサポート部11の間の間隔を狭めるように工夫されている。ランバーサポート部11はランバーサポートステー部12に対してピン32で回転可能に連結され、ランバーサポートステー部12の回転に伴ってランバーサポート部11が逆方向に回転して、長孔29を貫通する連結ピン30を介して互いに連結されている左右のランバーサポート部11の向きが同じであるように設けられている。したがって、いずれか一方あるいは双方のランバーサポートステー部12を把持して回転させると、連結ピン30が長孔29内を摺動しながら左右のランバーサポート部11の間隔を変化させながら上下方向に同時に同量だけ移動することができる。尚、本実施形態におけるランバーサポートステー部12はランバーサポート部11の回動を許容するため、回転軸14の付近に屈曲する位置20を設定している。
さらに、図18及び19に示すように、左右のランバーサポート部11の間に別体のリンク34を掛け渡して一体に動くように構成しても良い。例えば、ランバーサポート部11とランバーサポートステー部12とを別部材で構成し、ランバーサポートステー部12に対してランバーサポート部11を長手方向に摺動可能に連結する一方、左右のランバーサポート部11をリンク34を介して互いに回転可能に連結することにより構成される。ランバーサポート部11とリンク34とは、例えばリンク34側に球面の突起35を設ける一方、ランバーサポート部11の中心に球面座36を設け、両者で球面軸受けを構成することにより回転自在に連結することが好ましい。また、ランバーサポート部の鞘部37とこれに嵌合するランバーサポートステー部12との間に、位置決め機構例えば図4に示すような凹凸とこれに嵌合するばね部材とを設けることによって、ランバーサポートステー部12からランバーサポート部11を引き出したり、引き込んだりする際の位置決めを行うことができる。
また、図14及び15の実施形態に限らず、左右に配置されたランバーサポート部11の間で少なくとも対向する面は、円弧面または楕円面を成しているものであることが好ましい。この場合には、左右のランバーサポート部材10が接近した配置であっても、円弧運動によって対向する面が干渉することが少なくなる。他方、2つに分離されたランバーサポート部材10は、背凭れの中心Cから一定距離離れることが好ましく、より好ましくは最も狭い箇所でも背骨の幅以上の隙間が発生するように設けられることである。これにより、背骨がランバーサポート部材10に当たることが少ない。しかも、仮に当たったとしても、ランバーサポート部材10は互いに分離されて片持ち支持されているランバーサポートステー部に支持されているため、着座者の腰椎部分への当たりを優しくすることができる。
勿論、2つに分離されるランバーサポート部材10の形態は、上述のものに特に限定されるものではなく、例えば図20,21に示すように、背凭れの中心を超えてランバーサポート部材10の自由端側がはみ出るような形態を採ることも可能である。この場合においては、背凭れの中心から離れた位置、即ち背骨の位置から離れた位置で張地3を支えるようにランバーサポート部11が前方へ向けて突出した形状とされている。そして、背凭れの中心付近ではランバーサポート部11の面積を小さくすると共に、張地3との間の間隔が広がるように形成されることにより、背骨付近で腰椎部分を支える力を比較的小さくして着座者の背骨への当たりが優しくなるようにしている。
このように構成された本実施形態のランバーサポート装置の場合、張地3の背後に位置し、背凭れ1の背面側に露出する。そこで、ランバーサポート部材10の高さ調節を行う場合には、ランバーサポート部材10を把持して回転軸14を中心に任意の方向、つまり上か下に向けて揺動操作すれば良い。このとき、ランバーサポートステー部12が背フレーム2に対して段階的に固定可能な構造とされているときには、予め定められた固定位置の1つを選定することとなり、無段階に固定可能な構造とされているときには任意の位置で手を離すことで位置決めされる。また、左右のランバーサポート部11が連係して動作する構造である場合には、一方のランバーサポート部11を操作するだけで他方のランバーサポート部11も同じ高さに調整される。他方、左右のランバーサポート部11が互いに独立して動作する構造である場合には、左右のランバーサポート部11をそれぞれ任意の量あるいは方向へ操作することで、ランバーサポート部材の高さ位置をそれぞれ好みの位置に独立に調整でき、微妙な姿勢・体幹の傾きやずれなどに対応させることが可能である。即ち、着座者の姿勢が傾いていたり、あるいは傾いて着座する癖のある人の場合にでも、左右のランバーサポート部材が独立して適切な高さ位置を確保できるので、着座者の腰椎の位置とランバープレートの支持方向との間にずれが生じることがなく、着座姿勢の安定感が十分に得られるようになる場合がある。
また、左右に分離され回転軸14周りに回転するランバーサポート部材10の場合、高さが左右の回転軸14を結ぶ線分よりも上下方向に離れるに従って、両ランバーサポート部11の間の距離は広がるが、図18及び19に例示するランバーサポート部11とランバーサポートステー部12との関係のように、ランバーサポート部材10を伸縮可能な構造とすれば、左右のランバーサポート部11の間の間隔の変動を回避することができる。また、ランバーサポート部材10が伸縮可能な構造とすれば、たわみ量の調整も可能となる。
上述の各実施形態においてはランバーサポート部11の前面側の凸部形状は、図示のような球面形の対称形状としてどの向き、どの位置でも同様の当たり強さが得られるようにしているが、図22〜図44に示すような非球面となる非対称形状あるいは部分的に弾力性の異なる領域を形成することにより、ランバーサポート部11の着座者の身体を支える面(当たり面と呼ぶ)57を異なる当たり強さが得られる複数のサポート領域を備えるものとして異なる当たり強さが得られるようにすることも可能である。尚、図1〜図21に示す実施形態と同じ部品、同じ構成については詳細な説明を割愛する。
例えば、図22〜図29に身体への当たり面57が非球面のランバーサポート部の一実施形態を示す。この実施形態のランバーサポート部11は、身体側に配置されるパッド42と該パッド42を支えるベース43とで形成され、ねじ44によって中心で接合され一体化されている。ベース43は、パッド42よりも硬めの材質に調整されたウレタンエラストマーなどの合成樹脂で成形され、パッド42は身体に当てられたときに適度な弾力性を発揮する硬さに調整さたれウレタンエラストマーなどの合成樹脂で成形されている。本実施形態の場合、ベース43とパッド42とは、互いに嵌合する環状の溝45,46をその周縁部に有し、中央部に連結のためのねじ44をねじ込むためのねじ穴54を有する軸部51と該軸部51と嵌合するボス部53とをそれぞれ備える。そして、軸部51とボス部53とを嵌合した状態でねじ44を軸部51のねじ穴54にねじ込むことで、ベース43とパッド42とを連結するようにしている。パッド42とベース43とは、弾力性を得るために内部を空洞にした殻構造とされているが、周縁部に二重に形成された環状溝45,46と環状突条47,48とを嵌合すると共に中央に備えられたボス部53の孔52と軸部51とを嵌合させてねじ44で連結されることで、ある程度の弾力性を有するものの全体としては或る程度強固な構造物として一体化されている。尚、ねじ44をボス部53に挿入するための凹部は、当たり面57側に角部が形成されないように大きな曲面で深く凹み、ねじ44の頭が当たり面57に突出しないように設けられている。また、パッド42並びにベース43の周縁部も大きな曲面に形成されており、鋭角な角ができないように配慮されている。
ここで、ランバーサポート部の着座者の身体を支える面、即ちパッド42の表側の当たり面57には、着座者の身体に対し異なる当たり強さが得られる複数のサポート領域が形成されている。複数のサポート領域は、例えば、着座者の身体に向けての突出量が大きく着座者の身体に対し相対的に強く当たる主当接面55と、突出量が主当接面55よりも小さく着座者の身体に対し弱く当たる副当接面56とによって構成されている。主当接面とは主に強く当たる面であり、副当接面とは積極的に当たり面とはしていないが副次的には当たる面という意味で用いている。本実施形態の場合、主当接面55は平坦面によって構成され、副当接面56は着座者の身体に向けての突出量が主当接面55よりも漸次減少する斜面によって構成している。そして、この場合において、副当接面56は張地に対して離反若しくは沿う傾きを有する逃げ面を構成することが好ましい。このように、主当接面55と副当接面56とで構成された非球面の当たり面57によると、図5に示すように、背フレーム2の回転軸14と直交する方向に取り付けられるランバーサポートステー部12に対してランバーサポート部11に傾きθを与えずとも、例えば図37に示すように、背凭れの中心側に副当接面56を配置し、回転軸14側に主当接面55を配置することにより、張地3の形状に沿ったなじみ易い角度で当たり面57が形成されるため、角度調整の手間が省ける。しかも、ランバーサポート部材10が回転軸14を中心に回転しても、ランバーサポート部11が対向する張地3に沿って平行移動するため、張地3に対する距離が変わらないので、着座者の腰椎部分を支える力が変動することがない。
また、ベース43とパッド42との間には、パッド42の向きを特定するための位置決め手段として、軸部51と孔部52との双方が矩形ないし多角形の相似形状で構成され、輪郭が一致する角度でのみ嵌合・固定されるように設けられると共に、いずれか一方の環状溝例えば環状溝46にリブ50が設けられると共に該溝46と嵌合する他方の部材の環状突条48にはリブ50と嵌合する切り欠き49が設けられている。本実施形態の場合、ベース43にリブ50が、パッド42に切り欠き49が形成され、それらを嵌合させる際の目印がパッド42の外周面とベース43の鞘部37に形成されている。目印としては、例えばパッド側には線59が、ベース側には三角の記号58が刻印されている。したがって、パッド42の線59がベースの三角記号58に合致するようにパッド42を回転させて互いの環状溝45,46と環状突条47,48を嵌合させれば、リブ50と切り欠き49とが一致して嵌合し、ベース43とパッド42とを回転不能に嵌合させることができる。この状態でねじ44を締め付けると、パッド42とベース43とは一体化されてランバーサポートステー部12を介して背フレーム2に回転軸14を中心に揺動可能に取り付けられる。本実施形態においては、軽量でかつ身体に当たる側とこれを支える側とで望ましい弾力性や剛性を得るために、パッド42とベース43との2部材で構成し、それらを組み合わせることによってランバーサポート部11を構成するようにしているが、場合によっては一体成形による殻構造物や中実な構造物でランバーサポート部11を構成するようにしても良い。
ランバーサポートステー部12は、ガラス繊維入り強化プラスチック例えばガラス繊維強化ナイロンで形成されており、ベース43を射出成形する際にインサート成型される。そのため、ランバーサポートステー部12はベースと嵌合する部分には抜け防止のためのリブ60が2重に形成されると共に、ベース43の樹脂が貫通するための孔61が形成されている。このランバーサポートステー部12は、その基端側に形成された孔15を利用して回転軸14としてのねじを用いて背フレーム2に回転可能に取り付けられる。
背フレーム2とランバーサポート部材10との間には、ランバーサポート部材10の自重によるずり落ちを阻止するため、位置決め機構を設けることが好ましい。位置決め機構としては、ランバーサポート部材10を背フレーム2に対して弾性部材による摩擦力や係合によって固定力を増加させるものであることが好ましく、例えば図4および図5などに関連する実施形態において詳述しているので、ここでは説明を省略する。
以上のように構成されたランバーサポート装置によると、着座者の腰椎部分は、パッド42の当たり面57の平坦面から成る主当接面55を中心に優しく押さえられかつ弾力的に支えられる。例えば図37に示すように、背凭れの中心側に副当接面56を配置し、回転軸14側に主当接面55を配置すれば、背凭れの中心側には沈み込む張地3の形状に沿った当たり面57を形成することができると共に、背凭れの中心線Cから確実に左右に離された位置に存在する主当接面55で着座者の腰椎部分が支えられるので、着座者の座り方が背凭れの中心線Cからずれていても背骨を直接押すことが少ない。背凭れの中心寄りの部位には、傾斜面から成る副当接面56が配置されるため、張地3が後方に膨らむように撓んでも傾斜した副当接面56が張地3に沿って存在するため、背中に強く当たることがない。その反面、主当接面55が存在する付近では、張地3へ向けての突出量即ち背凭れへの突出量が大きく、身体に対して強く当たることとなる。
上述の実施形態においては、ベース43に対してパッド42が一定の位置関係でのみ嵌合することにより、ランバーサポート部11の主当接面55と副当接面56とが所定の位置関係で背フレーム2に取り付けられるように構成されている。即ち、図37に示されるように、背凭れの中心線寄りには斜面となった副当接面56が配置されると共に、背凭れの中心線から離れた位置には平坦面から成る主当接面55が配置されて、着座者の腰部を背骨から確実に離れた箇所で押さえるように設けられている。しかし、ユーザーのなかには、図36に示すように、背凭れの中心線寄りの方、即ち背骨寄りの部位の方で強く腰部を押されることを好む場合もある。そこで、パッド42の位置を完全固定とはせずに、予め決められた任意の角度若しくは位置で切替られるように設けることが好ましい場合もある。
また、ランバーサポート部11の複数のサポート領域は、それらの間に配置される回転軸を中心にランバーサポートステー部12に対しランバーサポート部11が回転可能に設けられることにより、複数のサポート領域の身体に当接する位置を変化させることを可能とする場合もある。例えば、図30〜図32に回転させることにより複数のサポート領域の身体に当接する位置を変化させるランバーサポート部の実施形態の一例を示す。この実施形態のランバーサポート部11は、複数のサポート領域を有するパッド42とランバーサポートステー部12に支えられるベース43とを、分離可能な別体で形成し、組み付け位置を変更可能としたものである。パッド42のベース43に対する組み付け位置を変更可能とすることで、ランバーサポート部11における主当接面55の回転方向の位置を変更して、ユーザーの好みの位置を強く押すことを可能としたものである。具体的には、図22〜図29に示す実施形態のランバーサポート部からパッド42の位置決めのための切り欠き49とリブ50とを省いたものである。即ち、殻構造のベース43とパッド42との中央に、横断面輪郭形状が四角形の軸部51と孔52を有するボス部53を備えることにより、90°置きにパッド42を回転させて固定することができるようにしたものである。勿論、軸部51並びにボス部53の孔52の断面輪郭形状は四角形に限られず、三角形でも、五角形でも、あるいは六角形以上の多角形でも実施可能であり、その角数に応じて位置変更できる角度が決められる。
本実施形態のランバーサポート部材10においては、ベース43に対してパッド42を取り付ける際に、ランバーサポート部11の主当接面55と副当接面56との位置関係が決定される。つまり、多角形の軸部51とボス部53の孔52とを嵌め合わせる際に、パッド42の主当接面55が好みの角度ないし位置(背凭れの高さ方向若しくは幅方向)となるように回転させてからその近傍で合致する軸部の面に嵌合させ、その状態でねじ止めすれば、選定された角度ないし位置でランバーサポート部材10が背フレーム2に取り付けられる。さらに、ランバーサポート部材10の位置は、椅子に座っている間にもその位置を微妙に変化させることを好むユーザーもいる。この場合にも、回転軸14を中心とするランバーサポート部材10の回転だけでは対応できないときには、パッド42をベース43から一旦取り外してから任意の主当接面55の位置・角度に変更してから組み付けることにより、好みの位置に主当接面の位置を変更可能とする。そして、着座者の腰椎部分は、非球面形状のパッド42の表面・当たり面57の主当接面55を中心に優しく押さえられかつ弾力的に支えられる。しかも、着座者の背中の湾曲度合いに合わせて当接面の向きを変えることにより、支持する面積を増やすことでパッド全体を使って腰部を支持することも可能である。
尚、図示していないが、表面の当たり面57の形状や硬さが異なる複数種のパッド42を用意すれば、ユーザの好みに応じて任意の形状あるいは硬さのパッドを選択して組み付けることができる。このように、パッド42を交換可能とすることにより着座者の身体に対し異なる当たり強さが得られる複数のサポート領域を様々な態様に変更可能とすれば、よりユーザーの好みに応じたランバーサポート装置を提供することができるものである。
また、図30〜図32に示す実施形態では、軸部51と孔部52との双方が矩形ないし多角形の相似形状で構成され、輪郭が一致する角度でのみ嵌合・固定されるように設けられているが、場合によっては軸部51あるいは孔部52のいずれか一方の横断面輪郭形状を円形あるいは部分的に円形輪郭面を設けることにより、パッド42を意図的に回転させる外力を加えたときには、パッド42の回転を許容し、意図的に加える回転力よりも弱い外力や重心の偏心に伴う回転モーメントなどでは回転を許容しない摩擦力を付与する構造とすることも可能である。この場合、パッド42を回転させる間に任意の位置で開放すれば、その位置でパッド42が固定されることを意味する。この構造は、椅子に座っている間にもその位置を微妙に変化させることを好むユーザーにとっては好ましいものである。
さらに、図30〜図32に示す実施形態において、軸部51と孔部52との形状を円形にしてパッド42を自由に回転可能にすることにより、パッド42の回転で主当接面55の位置を変更可能としても良い。例えば、図33〜図35に示すように、ベース43とパッド42とは、互いに嵌合する環状の溝45,46並びに環状突条47,48をその周縁部に有し、中央部に連結のためのねじ44をねじ込むためのねじ穴54を有する円形の軸部51’と該軸部51’と嵌合する円形の孔52’を有するボス部53とをそれぞれ備える。そして、軸部51’とボス部53の孔52’とを嵌合した状態でねじ44を軸部51’のねじ穴54にねじ込むことで、ベース43とパッド42とを連結するようにしている。ここで、パッド42の回転を滑らかなものとするためには、ベース43に対するパッド42の固定を鍔付きカラー62を介在させて行うことが好ましい。この場合、軸部51’の端面と鍔付きカラー62とが当接された状態でねじ44が軸部51’にねじ込まれるため、鍔付きカラー62はベース43側の軸部51’に固定されるものの、パッド42のボス部53は締め付けられることはなく回転自在に保持される。したがって、パッド42は鍔付きカラー62の周りを360°自由に回転できる。しかも、鍔付きカラー62の長さを調整することにより、鍔付きカラー62の鍔と軸部51’の端面との間でボス部53を締め付ける力を調整することができるので、任意の大きさの摩擦をボス部53に掛けることができる。これによって、回転させるパッド42を離した位置で摩擦力により固定できるように構成することができる。また、円形断面の軸部51’と孔52’との間の摩擦を利用することによって、任意の位置で固定されるようにしても良い。尚、本実施形態のように360°の範囲で自由に回転させる場合には、ベース43とパッド42の環状溝45,46並びに環状突条47,48は真円若しくはほぼ真円であることが望まれるが、一定の角度範囲でのみ自由に揺動可能とする場合にはこれに限られない。
この実施形態においても、パッド42の表側の当たり面57には、着座者の身体に向けての突出量が大きく着座者の身体に対し相対的に強く当たる主当接面55と、突出量が主当接面55よりも小さく着座者の身体に対し弱く当たる副当接面56とによって構成される複数のサポート領域が形成されている。そして、ランバーサポート部11は、パッド42を回転させるだけでランバーサポート部11の主当接面55と副当接面56との位置関係を任意の位置に自由に変更できる。例えば、図37に示されるように、背凭れの中心線寄りには斜面となった副当接面56を配置し、背凭れの中心線から離れた位置には主当接面55を配置して、着座者の腰部を背骨から確実に離れた箇所で押さえるようにして使用することもできる。また、図37に示す配置から180°回転させて、図36に示すように、背凭れの中心線寄りには主当接面55を配置し、背凭れの中心線から離れた位置には斜面となった副当接面56を配置して、背凭れの中心線寄りの方、即ち背骨寄りの部位の方で強く着座者の腰部を押さえるようにして使用することもできる。勿論、図36と図37の位置の間の任意の位置でパッド42の回転を止めて使用することも可能である。いずれにしても、着座者の腰椎部分は、パッド42の主当接面55を中心に優しく押さえられかつ弾力的に支えられる。
また、ランバーサポート部11は、図38〜図41に示すように、背フレーム2の回転軸14と直交する面内に配置される回転軸、例えば背凭れの上下方向に配置される縦の回転軸あるいは背凭れの幅方向に配置される横の回転軸若しくはこれらの間の斜めに配置される回転軸を利用して、張地3に対してランバーサポート部11の表側の当たり面(サポート領域)と裏側の当たり面(サポート領域)とを前後に入れ替わるように回転させるようしても良い。この場合には、回転軸70を中心にランバーサポート部11の着座者の身体側の面の表側とその反対側の面の裏側とは、双方とも当たり面57を構成するものであり、回転軸70を中心に回転させて裏側当たり面57と表側当たり面57とを入れ替えることによって、ランバーサポート部が身体に当たる強さあるいは身体に強く当たる位置を調整可能とするものである。尚、図38〜図41の各実施形態においては、ねじ44は単にパッド42とベース43とを連結する手段としてのみ機能し、サポート領域を切り替えるための回転軸としては機能していない。
図38及び図39に示す横の回転軸の実施形態では、回転軸70は、例えば背フレーム2に回転自在に支持されるランバーサポートステー部12を利用している。この実施形態の場合、ランバーサポートステー部12の少なくともベース43の鞘部37に嵌合される部分を断面円形の軸とし、鞘部37ひいてはベース43並びにこれと一体化されたパッド42を含むランバーサポート部11を回転自在に支持するようにしている。抜け止めとして機能するフランジ60も円形に形成されている。鞘部37を二つ割りに成形して、フランジ60とランバーサポートステー部12の断面円形の先端の軸部とを挟むように嵌め合わせて締着することで、ベース43の鞘部37とランバーサポートステー部12とを回転自在に連結している。また、図40及び図41に示す縦の回転軸の実施形態では、回転軸70は、例えばパッド42とベース43とを組み合わせてねじ44で連結されることによりドラム形の殻構造物に一体化されたランバーサポート部11の周縁の一部分と、背フレーム2に回転自在に支持されるランバーサポートステー部12とを回転自在に連結する鉛直方向のねじあるいはピンなどを利用している。この実施形態の場合、回転中心となる軸部付近には、ガラス繊維入り強化プラスチック例えばガラス繊維強化ナイロンで形成されており、ベース43を射出成形する際にインサート成型される。勿論、回転軸70とこれに支持されるランバーサポート部11の形態は図示のものに限られるものではない。
ここで、ランバーサポート部11としては、説明の便宜上、前述のパッド42とベース43とを組み合わせてドラム形の殻構造物を構成した図22〜図37に例示するものを示しているが、この構造に特に限られるものでないことは言うまでもない。本実施形態のランバーサポート部11は、回転軸70を中心に回転させることにより、ランバーサポート部11の着座者の身体側の面の表側とその反対側の面の裏側とを入れ替えることによって、身体に当たる強さあるいは身体に強く当たる位置を調整可能とするものである。したがって、ランバーサポート部11の着座者の身体側の面の表側とその反対側の面の裏側との当たり面57で、その形状を異ならせ、また背凭れに向かう突出量あるいは硬さを相互に異ならせるものである。例えば、図38及び図40の実施形態のものでは、ベース43側の当たり面57は突出量を少なくした低くなだらかな球面状を成し、パッド42側の当たり面57は突出量を大きくした平坦な平面状を成し、ランバーサポート部11の回転により当たりの強さを切り替えるようにしている。また、図39及び図41の実施形態のものでは、ベース43側とパッド42側の当たり面57は、双方とも斜面からなる副当接面56と平坦面から成る主当接面55を有し、かつ表側と裏側との間で逆の配置関係となるように形成されている。したがって、ランバーサポート部11の回転により強く当たる位置が背凭れの幅方向において背凭れの中心側と中心から離れた背フレーム2側寄りの間で切り替えるようにしている。尚、本実施形態の場合、ランバーサポート部11は、表側のパッド42も裏側のベース43も共に身体を支えるため、共に身体に当てられたときに適度な弾力性を発揮する硬さに調整さたれウレタンエラストマーなどの合成樹脂で成形されことが望ましい。
また、ランバーサポート部11の身体に当接する位置を変化させる構造は、ランバーサポート部11そのものの回転によって着座者の身体側の面の表側とその反対側の面の裏側とを入れ替えることに限られない。例えば、図42及び図43に示すように、着座者の身体を支えるパッド42’をランバーサポートステー部12に支えられるベース43’の表面に沿って直線移動可能に備えることにより、着座者への当たり位置・当たり量(当たり感)を変更させるようにしても良い。本実施形態では、平坦なベース43’を横切る溝に沿って板状のパッド42’をスライドさせるようにしている。具体的には、ベース43’の中央を通過する固定用溝65とその左右に平行に配置される2本のガイド溝66とを縦に並べて形成し、これら3本の溝65,66に沿ってパッド42’が移動するように設けられている。パッド42’は左右のガイド溝66を貫通するガイドピン68と、中央の固定用溝65を貫通する固定用ねじ67とを有し、固定用溝65を貫通する固定用ねじ67に摘み69をねじ込むことでパッド42’を任意の位置に固定するように設けられている。この実施形態におけるパッド42’は、中央部が盛り上がった長円形状の枕状を成しているが、この形状に特に限られるものではなく、球面状としても良い。球面状のパッドの場合にはガイド溝を兼用する1本の固定用溝を設けるだけで良いことは言うまでもない。ここで、ベース43’上の溝65,66は縦方向の溝としているが、これに特に限られるものではなく、図示していないが横若しくは斜めの溝を設けてその方向にパッド42’を直線移動可能としても良い。これによって、パッド42’のベース43’上での移動と共にランバーサポート部材10全体の回転軸14周りの揺動を行うことによって、これらが相俟ってパッド42’の位置即ち着座者へのランバーサポート部11の当たる位置が自在に設定できる。尚、図示していないが、外観を良くするためにパッド42’を含めてベース43’全体がカバーによって覆われ、パッド42’の移動と固定のための摘み69やレバーなどの固定手段のみが背面側に露出するように設けられることが好ましい。
尚、図23〜図44に示す実施形態のランバーサポート装置においては、主に椅子の正面から見て円形のパッドを用いたランバーサポート部の例を挙げて説明しているが、この形状に特に限られるものではなく、例えばパッド42とベース43とが一体化されてランバーサポートステー部12に対して回転可能な支持構造を採る場合には、楕円形や長方形などの長辺と短辺を有するようなランバーサポート部11の形状とすることも可能である。この場合には、着座者の身体を支える面が任意の方向に長い範囲を以て設定できるので、より長い範囲に亘っての支えを必要とするユーザーの好みに応じることもできるし、サポート位置を大きく変更することも可能である。また、ランバーサポート部11の正面(前方)から見た形状を正方形やその他の多角形にすることも可能である。この場合には、パッド42のみを回転させてもベース43の支持を失うことがないので、所定角度でパッド42を回転させることができる。
さらに、図23〜図44において説明したランバーサポート部の着座者の身体を支える面を異なる当たり強さが得られる複数のサポート領域を備えるものとする実施形態のランバーサポート装置においても、図4及び図5に例示するような位置決め機構を背フレーム2とランバーサポート部材10との間、例えばランバーサポートステー部12と背フレーム2との間、あるいはベース43の鞘部37とランバーサポートステー部12との間に設けることにより、ランバーサポート部11とランバーサポートステー部12との間の伸縮動作や、あるいはランバーサポートステー部12の回転に節度抵抗を与えるようにしても良い。また、図8〜図11に例示するように、背フレーム2から突出したブラケット22,24にランバーサポートステー部12を回転軸14で取り付けることにより、支持剛性の調整やランバーサポート部11の回転半径、高さ位置などの調整の幅をさらに余裕あるものとすることも可能である。また、左右のランバーサポート部材10は、回転軸14を中心に上下に回転させる場合に限られず、図12及び図13に例示するように、左右の回転軸14を通過する線分よりも上あるいは下側へのみ揺動可能に取り付けることにより、左右のランバーサポート部材10の一方の回動端において最も接近して横並びに配置されるようにして、最も狭い箇所でも背骨の幅以上の隙間が発生するようにしても良い。また、図14〜図19に例示するように、左右のランバーサポート部材10を連係可能な構造とすることにより、いずれか一方のランバーサポート部材10を回動させることによって他方のランバーサポート部材10も逆方向に回動させることも可能である。例えば、図14及び図15に例示するように左右のランバーサポート部材10のベースの周面の隣り合う面にギア25,26を設けたり、図16及び図17に例示するように長孔29と連結ピン30などで連係させたり、図18及び図19に例示するようにベースの背面側にリンク34を設けて連係させるようにしても良い。
また、上述の実施形態では、ランバーサポート部11の当たりの強さ、即ち着座者の背中に向けてのランバーサポート部11の相対的な突出量は、ランバーサポート部11の前方への突出量に依存し、当たりの強さの変更はランバーサポート部11の前方への突出量に変化を与えることで実現しているが、これに特に限られるものではなく、ランバーサポート部11の当たり面57の硬度の変化即ち当たり面57の柔らかさに部分的に違いを与えることによっても、当たりの強さ換言すれば当たり感の変更は可能である。例えば、図44に示すように、パッド42の当たり面57の一部を二色成形などで異なる硬さの層71例えば主当接面55を構成する部分よりも弾力性のある層あるいは軟らかく潰れやすい層を形成することにより、パッド42の肉厚や突出量が同じであっても、当たりの強さの変更は可能である。この場合、単なる当たりの強さの変化だけでなく、材質等に伴う硬さの変化に感触的な当たり感の変更も可能となる。また、パッドの当たり面57の硬さを局部的に異ならせる方法としては、図示していないが、例えば局部的に肉厚を厚くしたり、補強リブを硬くしたい部分の内部に設けることによっても達成される。
また、支持面積即ち当たり面57の面積を増減することで、ランバーサポート部材の当たりの強さや支持の安定感などを変化させるようにしても良い。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えばランバーサポート部11の形状は、隣合う縁同士の干渉を回避するために主に円形や楕円形の形態を採る例を挙げて説明したが、これに特に限られるものではない。片持ちで弾力的に支持するのであれば、どのような形態でも採りうる。そして、どのようなランバーサポート部11の形状であっても、両端支持よりも弾力的な支持ができるので、仮に背骨が当たっても当たりが柔らかいので痛さを感じることが少ない。加えて、背凭れ1の中心Cから一定間隔を開けて左右対称に配置される場合には、背凭れ中心Cにランバーサポート部11が存在しない箇所が形成されるので、背凭れの中心に凭れかかる場合には、背骨から外れたところでランバーサポートによって腰部が支持されるため、やせ気味の人でも背骨に直接ランバーサポートのプレートが当たることがないので、痛みを感じることがない。
また、左右対称形状のランバーサポート部材10を採用する方が同じ部品を使えるので製造コストを安価にできるが、左右のランバーサポート部材10が非対称形状でも本発明は実施可能である。例えば一方のランバーサポート部11が他方のランバーサポート部11よりも面積や幅が大きいものであったり、あるいは一方のランバーサポート部材10が背骨を横切る長さで、他方のランバーサポート部材10が背骨の手前側までの長さであっても同様の効果が得られる。
さらに、本実施形態では、環状の樹脂製張地支持枠4の周縁に溝9を設けて張地3を張り込むことによって背凭れ面を形成する張地の固定構造を採用した例を挙げて主に説明したが、これに特に限られるものではなく、金属製の2本の平行なサイドフレームの間に張地を張り渡すことによって背凭れ面を形成するような非環状フレームへの張地の固定構造を採用する椅子に対しても本発明のランバーサポート装置は適用できることは言うまでもない。
また、本実施形態では伸縮性のある張地3の背後にランバーサポート部材10を配置し、背凭れの背面側に露出するランバーサポート装置を例に挙げて主に説明しているが、背凭れとして張地3よりも剛性のあるもの、例えば前後に貫通する多数の孔によって網目状に形成された金属あるいは合成樹脂製の基板のような撓み難い素材を採用する場合には、基板状の背凭れの前面にランバーサポート部材を露出させたり、基板状の背凭れの前面に被せられるクッションと基板状の背凭れとの間にランバーサポート部材を配置させるようにしても良い。したがって、本明細書において用いる「着座者の身体に向けての突出量」との用語は、背凭れの背面側あるいは前面側の双方において着座者の有無にかかわらず椅子の前方へ向けて突出する量を意味するものである。
また、図22〜図44に示す実施形態において、主当接面55は平坦面、副当接面56は斜面で構成したものを例に挙げて主に説明しているが、主当接面55並びに副当接面56がこれら平坦面や斜面に限られるものではなく、様々な形状、形態を必要に応じて採用できることは言うまでもない。