以下に、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。また、以下に開示する構成は、適宜組み合わせることができる。なお、以下の説明において、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心軸とする周方向をいい、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいう。また、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤの回転軸と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸側、タイヤ径方向外側とは、タイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る空気入りタイヤのトレッド部の一例の要部を示す平面図である。同図に示す例においては、トレッド部1に、略タイヤ周方向に延びる複数本の周方向溝2と、隣接する2本の周方向溝2を連通する複数本の横溝3が配設されている。これにより、トレッド部1には多数個のブロック陸部4が区画形成されている。
このように形成されたブロック陸部4には、複数の穴群が形成されている。本実施形態では、タイヤ周方向において3つの穴群5が形成されているとともに、タイヤ幅方向においても3つの穴群5が形成され、1つのブロック陸部4には、合計で9つの穴群5が形成されている。各穴群5は、平面視で円形の3つの穴5a、5b、5cから構成されており、穴5a〜5cの中心を結ぶと正三角形になる配置形状となっている。
図2は、図1に示す穴群の拡大斜視図である。図2に示すように、穴群5を構成する各穴5a、5b、5cは、全て、タイヤ径方向外側が円筒形状であり、タイヤ径方向内側が先細り形状となっている。また、各穴5a、5b、5cは、トレッド表面に開口しているとともに、タイヤ径方向内側で底付きとなっている。なお、各穴5a、5b、5cは、底の部分で、穴径が徐々に小さくなる先細り形状となっているため、底部の剛性を向上するのに適している。
穴5a、5b、5cは、そのタイヤ径方向深さが異なり、穴5aが最も深く、穴5bが次いで深く、穴5cが最も浅い。各穴5a〜5cの深さは、十分な除水効果を得るため2mm以上であって、周方向溝より深いと穴底がベルト層に近づき、耐久性上好ましくないため周方向主溝の深さ以下である。
図1に示す例では、穴5a、5b、5cの配置態様は、平面視で正三角形とした態様であるが、実施形態1は、このような形態に限られない。図3−1から図3−3は、実施形態1に係る空気入りタイヤのトレッド部に形成される穴群を構成する穴の配置態様についてのバリエーションを示す平面図である。同図に示すように、穴の配置態様は、図3−1に示すように、各穴5a〜5cの中心点を結んだ図形が三角形となる態様とすることができる一方、図3−2に示すように、各穴5a〜5cの中心点を結んだ図形が直線となる態様とすることもできる。また、図3−3に示すように、穴群5を4つの穴5a、5b、5c、5dから構成し、各穴5a〜5dの中心点を結んだ図形が台形となる態様とすることもできる。なお、図3−3に示す例においては、各穴のタイヤ径方向深さは、例えば、穴5aを最も深く、穴5bを2番目に深く、穴5cを3番目に深く、穴5dを最も浅くすることができる。
図1に示す例では、穴5a、5b、5cは、平面視でいずれも円形であるが、実施形態1は、このような形態に限られない。図4−1から図4−4は、実施形態1に係る空気入りタイヤのトレッド部に形成される穴群5を構成する穴のバリエーションを示す平面図であり、点線は実線図形の外接円を示す。これらの図に示すように、穴群5を構成する穴の形状は、図4−1に示すように円形であることは勿論、図4−2に示す四角形、図4−3に示す五角形、及び図4−4に示す六角形を含むn角形(n≧3)とすることができる。また、穴群を構成する穴の形状は、雫形や星型などとすることもできる。また、図1に示す例では、穴5a、5b、5cの寸法(外接円の半径)は、全て等しいが、実施形態1はこのような形態に限られず、各穴の寸法は少なくとも一部において異ならせることができる。ここで、外接円とは、各穴5a〜5cの開口部の外接円をいう。
このような穴の配置態様、形状、及び寸法を前提に、穴群5はさらに、以下の要件を満たす。即ち、穴群5内の任意の2つの穴i及び穴jについて、平面視で、穴iの外接円Ciの半径をri、穴jの外接円Cjの半径をrj、及び両外接円Ci、Cjの中心間距離をdijとした場合に、全ての穴iについて、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴jが少なくとも1つ存在する(以下、必要に応じて「第1要件」という)とともに、少なくとも1つの穴iについて、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴jが少なくとも2つ存在する(以下、必要に応じて「第2要件」という)。ここで、符号i、jは、穴群5を構成する任意の穴を識別するための識別子であり、特定の穴を示すものではない。
上記第1要件は、全ての穴iが、穴群5内の比較的近接した位置に深さの異なる穴jを少なくとも1つ有することを意味し、上記第2要件は、少なくとも1つの穴iが、穴群5内の比較的近接した位置に深さの異なる穴jを少なくとも2つ有することを意味する。ここで、上記第1要件及び第2要件における、比較的近接した位置とは、穴iの外接円と穴jの外接円との中心間距離dijが、穴iの半径riと穴jの半径rjとの和の2倍以下であることを満たす場合の、穴iに対する穴jの位置をいう。
図5は、図1に示す穴群5の拡大平面図である。図5に示すように、穴5a、5b、5cは、平面視でいずれも円形であるため、これらの外接円は、穴5a、5b、5cの外形と一致する。ここで、穴5aの外接円Caの半径をra、穴5bの外接円Cbの半径をrb、及び穴5cの外接円Ccの半径をrc、並びに外接円Ca、Cbの中心間距離をdab、外接円Cb、Ccの中心間距離をdbc、及び外接円Cc、Caの中心間距離をdcaとする。
上記の穴iを穴5aとし、穴jを穴5b、穴5cとした場合、図5に示すように、穴5aについては、穴5b及び穴5cとの関係において、dab≦(ra+rb)×2を満たし、かつ深さの異なる穴5bが存在するとともに、dca≦(rc+ra)×2を満たし、かつ深さの異なる穴5cが存在する。また、上記の穴iを穴5bとし、穴jを穴5c、穴5aとした場合、同様に、穴5bについては、穴5c及び穴5aとの関係において、dbc≦(rb+rc)×2を満たし、かつ深さの異なる穴5cが存在するとともに、dab≦(ra+rb)×2を満たし、かつ深さの異なる穴5aが存在する。さらに、上記の穴iを穴5cとし、穴jを穴5a、穴5bとした場合、穴5cについては、穴5a及び穴5bとの関係において、dca≦(rc+ra)×2を満たし、かつ深さの異なる穴5aが存在するとともに、dbc≦(rb+rc)×2を満たし、かつ深さの異なる穴5bが存在する。
このような穴群5が形成されたトレッド表面を有する空気入りタイヤにおいては、全ての穴、図1に示す例においては、穴5a、5b、5cが、穴群5内の比較的近接した位置に深さの異なる穴を少なくとも1つ有し、上記第1要件を具備する。
即ち、穴5aについてみれば、穴5b、5cが穴群5内の比較的近接した位置にある深さの異なる穴である。この場合、穴5aと穴5bとの関係でみれば、図2に示すように、穴5aが深穴であって穴5bが浅穴であるため、穴5bのタイヤ径方向内側の土台部の存在により、穴5aの倒れこみが緩和され、穴5aが変形して潰れることが抑制される。また、穴5aと穴5cとの関係でみれば、図2に示すように、穴5aが深穴であって穴5cが浅穴であるため、穴5cのタイヤ径方向内側の土台部の存在により、穴5aの倒れこみが緩和され、穴5aが変形して潰れることが抑制される。
同様に、穴5bについてみれば、穴5c、5aが穴群5内の比較的近接した位置にある深さの異なる穴である。この場合、穴5bと穴5cとの関係でみれば、図2に示すように、穴5bが深穴であって穴5cが浅穴であるため、穴5cのタイヤ径方向内側の土台部の存在により、穴5bの倒れこみが緩和され、穴5bが変形して潰れることが抑制される。また、穴5bと穴5aとの関係でみれば、図2に示すように、穴5aが深穴であって穴5bが浅穴であるため、穴5bのタイヤ径方向内側の土台部の存在により、穴5aの倒れこみが緩和され、穴5aが変形して潰れることが抑制される。
同様に、穴5cについてみれば、穴5a、5bが穴群5内の比較的近接した位置にある深さの異なる穴である。この場合、穴5cと穴5aとの関係でみれば、図2に示すように、穴5aが深穴であって穴5cが浅穴であるため、穴5cのタイヤ径方向内側の土台部の存在により、穴5aの倒れこみが緩和され、穴5aが変形して潰れることが抑制される。また、穴5cと穴5bとの関係でみれば、図2に示すように、穴5bが深穴であって穴5cが浅穴であるため、穴5cのタイヤ径方向内側の土台部の存在により、穴5bの倒れこみが緩和され、穴5bが変形して潰れることが抑制される。
なお、同じ深さの穴が隣接している場合、ある穴が倒れ込もうとした場合、隣の穴の空間があるので倒れ込みを緩和できない。これに対し、本実施形態の空気入りタイヤによれば、上述のとおり、隣接する穴の深さが異なるため、ある穴が倒れ込もうとしたとき、浅穴のタイヤ径方向内側の土台部の存在により、深穴の倒れこみが緩和され、深穴が変形して潰れることが抑制される。
このように、穴5aと穴5bとの関係では穴aが深穴であって穴5bが浅穴となり、穴5bと穴5cとの関係では穴5bが深穴であって穴5cが浅穴となり、穴5cと穴5aとの関係では穴5aが深穴であって穴5cが浅穴となる。このため、深穴と浅穴とが密集してなる倒れこみ抑制ユニットが、各穴5a、5b、5cを基準とした場合、各穴の周辺の狭い領域に少なくとも1つ存在する。即ち、図1に示す例では、倒れこみ抑制ユニットが、各穴の周辺にそれぞれ2つずつ存在する。その結果、各穴群5内の、各倒れこみ抑制ユニットでは、自身よりも浅い穴が存在する穴5a、5bが変形して潰れることが抑制される。
次に、このような穴群5が形成されたトレッド表面を有する空気入りタイヤにおいては、少なくとも1つの穴が、穴群5内の比較的近接した位置に深さの異なる穴を少なくとも2つ有し、上記第2要件を具備する。図1に示す例においては、穴5a、5b、5cが、穴群5内の比較的近接した位置に深さの異なる穴を少なくとも2つ有し、上記第2要件を具備する。
各穴5a、5b、5cについてみれば、上述したとおり、他の2つの穴が穴群5内の比較的近接した位置にある深さの異なる、少なくとも2つの穴である。この場合、図5に示すとおり、穴5aと、5bと、5cとは、平面視で、いずれを入れ換えても等しい配置態様であるため、穴5aを代表穴とすれば穴5b、5cが近接穴となり、穴5bを代表穴とすれば穴5c、5aが近接穴となり、穴5cを代表穴とすれば穴5a、5bが近接穴となる。
このような穴5a、5b、5cの平面視での配置関係により、穴5a、5b、5cをそれぞれ代表穴とした場合、代表穴と近接穴とが密集してなる倒れこみ抑制ユニットが、各穴5a、5b、5cを基準とした場合、少なくとも1つの穴の周辺の狭い領域にそれぞれ2つずつ存在する。図1に示す例では、倒れこみ抑制ユニットが、各穴の周辺の狭い領域にそれぞれ2つずつ存在する。その結果、各穴群5内の、各倒れこみ抑制ユニットでは、当該代表穴又は近接穴のうちのより深い穴が変形して潰れることが顕著に抑制される。
例えば、最も深い穴5aを代表穴とみた場合は、穴5aよりも浅い近接穴である5b、5cのタイヤ径方向内側の土台部の存在により、穴5aの倒れこみが緩和され、穴5aが変形して潰れることが顕著に抑制される。また、2番目に深い穴5bを代表穴とみた場合は、穴5bよりも浅い近接穴である穴5cのタイヤ径方向内側の土台部の存在により、穴5bの倒れこみが緩和され、穴5bが変形して潰れることが抑制されるとともに、穴5bのタイヤ径方向内側の土台部の存在により、穴5bよりも深い近接穴である穴5aの倒れこみが緩和され、穴5aが変形して潰れることが抑制される。さらに、最も浅い穴5cを代表穴とみた場合は、穴5cのタイヤ径方向内側の土台部の存在により、穴5a、5bの倒れこみがともに緩和され、穴5a、5bが変形して潰れることがともに抑制される。
以上のように、実施形態1の空気入りタイヤは、全ての穴5a、5b、5cについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも1つ存在すること(第1要件)を満たすとともに、少なくとも1つの穴、図1に示す例においては穴5a、5b、5cについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも2つ存在すること(第2要件)を満たす。このため、これらの要件が相まって、特に、自身よりも浅い穴が存在する穴5a、5bが変形して潰れることを十分に抑制することができる。特に、実施形態1においては、3つ以上の穴を対称配置とするとともに、上記第1要件及び第2条件における浅穴と深穴との関係をdij≦(ri+rj)×2とすることで、深穴の倒れこみを十分に緩和することができる。従って、実施形態1の空気入りタイヤにおいては、高い除水効果と、トレッド陸部の高い剛性とを得ることができ、その結果、氷上性能とドライ性能とを十分に両立することができる。
ここで、氷上性能とは、氷上でのタイヤの各種性能をいい、特に、磨かれたアイスバーン上での駆動性能及び制動性能を意味する。また、ドライ性能とは、乾燥路面上でのタイヤの各種性能をいい、特に、乾燥路面上での駆動性能及び制動性能を意味する。
なお、図5に示す例は、各穴5a、5b、5cの中心線を結んだ図形が正三角形となる穴の配置態様であるが、本実施形態はこれに限られない。即ち、図3−1から図3−3に示す穴の配置態様についても、上記の第1要件及び第2要件を満たす。まず、図3−1に示す例では、穴のタイヤ径方向深さが穴5a、5b、5cの順に深いとした場合、上記両方の要件が満たされる。即ち、全ての穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴が少なくとも1つ(穴5aについては穴5c、穴5bについて穴5c、穴5cについては穴5a、5b)存在する(第1要件具備)とともに、少なくとも1つの穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる少なくとも2つの穴(穴5cについて穴5a、5b)が存在する(第2要件具備)。
また、図3−2に示す例では、穴のタイヤ径方向深さが穴5a、5b、5cの順に深いとした場合、上記両方の要件が満たされる。即ち、全ての穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴が少なくとも1つ(穴5aについては穴5b、穴5bについて穴5a、5c、穴5cについては穴5b)存在する(第1要件具備)とともに、少なくとも1つの穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる少なくとも2つの穴(穴5bについて穴5a、5c)が存在する(第2要件具備)。
さらに、図3−3に示す例では、穴のタイヤ径方向深さが穴5a、5b、5c、5dの順に深いとした場合、上記両方の要件が満たされる。即ち、全ての穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴が少なくとも1つ(穴5aについては穴5b、穴5bについて穴5a、5c、穴5cについては穴5b、5d、穴5dについて穴5c)存在する(第1要件具備)とともに、少なくとも1つの穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる少なくとも2つの穴(穴5bについては穴5a、5c、穴5cについては穴5b、5d)が存在する(第2要件具備)。このため、図3−1から図3−3に示す例についても、高い除水効果と、トレッド陸部の高い剛性とを得ることができ、その結果、氷上性能とドライ性能とを十分に両立することができる。
実施形態1の空気入りタイヤにおいては、上述のとおり、穴群5を構成する穴の形状を、図4−1から図4−4に実線で示す円形やn角形(n≧3)、或いは雫形や星型とすることができるが、これらの中で、円形又は略円形とすることが好ましい。各穴の形状を円形又は略円形とすることで、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向の両方に対して、除水効果とトレッド陸部の剛性とをより均等に発揮することができるため、氷上性能とドライ性能とをさらに高めることができる。
また、実施形態1の空気入りタイヤにおいては、上述のとおり、穴群5を構成する穴の寸法や形状を、図3−1から図3−3に示すように全ての穴について等しくすることも、或いは少なくとも一部において異ならせることもできるが、全ての穴の寸法や形状を等しくすることが好ましい。全ての穴の寸法や形状を等しくすることで、穴群5全体としてみた場合、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向の両方に対して、除水効果とトレッド陸部の剛性とをより均等に発揮することができるため、氷上性能とドライ性能とをさらに高めることができる。
また、実施形態1の空気入りタイヤにおいては、穴群5を構成する穴の中心間距離を、全ての穴同士について等しくすることも、或いは図3−1、図3−2及び図3−3に示すように少なくとも一部の穴同士において異ならせることもできるが、全ての穴同士の中心間距離を等しくすることが好ましい。全ての穴同士の中心間距離を等しくすることで、穴群5全体としてみた場合、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向の両方に対して、除水効果とトレッド陸部の剛性とをより均等に発揮することができ、氷上性能とドライ性能とをさらに高めることができる。
また、実施形態1の空気入りタイヤにおいては、上記第1要件及び第2要件の少なくともいずれかにおいて、(ri+rj)×1.1≦dij≦(ri+rj)×1.9とすることが好ましい。(ri+rj)×1.1≦dijとすることで、深さの異なる穴iと穴jとの間隔を十分に確保し、これら穴間に存在する陸部の剛性を十分に確保することができる。また、dij≦(ri+rj)×1.9とすることで、浅穴のタイヤ径方向内側の土台部の存在により、深穴の倒れこみがより緩和され、深穴が変形して潰れることがさらに抑制される。さらに、これらの効果は、(ri+rj)×1.2≦dij、dij≦(ri+rj)×1.5とすることで、それぞれ一層顕著に発揮される。なお、深穴と浅穴との外接円の中心間距離が0となる場合は、実質的に両穴が一致することとなり、実施形態1の技術的思想に反することとなるため、いかなる場合においても、0<dijとする。このように、上記第1要件及び第2要件をさらに限定した場合には、除水効果とトレッド陸部の剛性とをさらに高めることができ、ひいては氷上性能とドライ性能とをさらに高めることができる。
また、実施形態1の空気入りタイヤにおいては、dij≦(ri+rj)×2を満たす穴iと穴jとは、深さが1.0mm以上異なることが好ましい。浅穴と深穴との深さの差が1.0mm以上であると、浅穴のタイヤ径方向内側の土台部が比較的大きく設定されることで、深穴の倒れこみを十分に緩和し、当該深穴が変形して潰れることを十分に抑制することができる。また、浅穴と深穴との深さの差が1.0mm以上であると、浅穴の深さを小さくすることができ、浅穴が変形して潰れることも十分に抑制することができる。これにより、除水効果とトレッド陸部の剛性とをさらに向上させ、ひいては氷上性能とドライ性能とをさらに高めることができる。
また、実施形態1の空気入りタイヤにおいては、穴群5内の全ての穴5a、5b、5cの外接円の半径は、1.0mm以下であることが好ましい。全ての穴5a、5b、5cの外接円の半径を1.0mm以下とすることで、各穴5a、5b、5cが変形して潰れることを十分に抑制することができるため、除水効果とトレッド陸部の剛性とをさらに向上させ、ひいては氷上性能とドライ性能とをさらに高めることができる。
また、実施形態1の空気入りタイヤにおいては、穴群5内の穴5a、5b、5cの全容積は、10mm3以下であることが好ましい。穴5a、5b、5cの全容積を10mm3以下とする結果、容積の小さい穴を多数配設することができる。このため、各穴5a、5b、5cが変形して潰れることをさらに抑制することができ、除水効果とトレッド陸部の剛性とをさらに向上させ、ひいては氷上性能とドライ性能とをさらに高めることができる。
[実施形態2]
次に、上記実施形態1に対して、好適な実施形態2を詳述する。実施形態2は、穴群内の全ての穴iについて、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴jが少なくとも2つ存在する点が実施形態1と異なる。
図6は、実施形態2に係る空気入りタイヤのトレッド部の一例の要部を示す平面図である。以下では、図6に示す例について、図1に示す例との違いのみを詳述する。なお、図6において符号を付した要素中、図1において同一符号を付した要素は、図1に示す要素と同一の要素を示す。
図6に示す例においては、ブロック陸部4に、複数の穴群が形成されている。本実施形態では、タイヤ周方向において3つの穴群6が形成されているとともに、タイヤ幅方向においても3つの穴群6が形成され、1つのブロック陸部4には、合計で9つの穴群6が形成されている。各穴群6は、平面視で円形の4つの穴6a、6b、6c、6dから構成されており、穴6a〜6dの中心を結ぶと菱形になる配置形状となっている。
図7は、図6に示す穴群の拡大斜視図である。図7に示すように、穴群6を構成する各穴6a、6b、6c、6dは、全て、タイヤ径方向外側が円筒形状であり、タイヤ径方向内側が先細り形状となっている。また、各穴6a、6b、6c、6dは、トレッド表面に開口しているとともに、タイヤ径方向内側で底付きとなっている。なお、各穴6a、6b、6c、6dは、底の部分で、穴径が徐々に小さくなる先細り形状となっているため、底部の剛性を向上するのに適している。
穴6a、6b、6c、6dは、その深さが異なり、穴6aが最も深く、穴6bが2番目に深く、穴6cが3番目に深く、穴6dが最も浅い。各穴6a〜6dの深さは、十分な除水効果を得るため2mm以上であって、周方向溝より深いと穴底がベルト層に近づき、耐久性上好ましくないため周方向主溝の深さ以下である。
図6に示す例では、穴6a、6b、6c、6dの配置態様は、平面視でタイヤ周方向を長手方向とする菱形であるが、実施形態2は、このような形態に限られない。図8−1から図8−3は、実施形態2に係る空気入りタイヤのトレッド部に形成される穴群のバリエーションを示す平面図である。これらの図に示すように、穴の配置態様は、図8−1に示すように、各穴6a〜6dの中心点を結んだ図形が正方形となる態様とすることができる。また、図8−2に示すように、穴群6を穴6a、6b、6c、6d、6eの5つの穴から構成し、各穴6a〜6eの中心点を結んだ図形が星型となる態様とすることもでき、又図8−3に示すように、5つの穴6a〜6eから構成し、各穴6a〜6eの中心点を結んだ図形がM字型配置とすることもできる。なお、図8−2、図8−3に示す例においては、各穴のタイヤ径方向深さは、例えば、穴6aを最も深く、穴6bを2番目に深く、穴6cを3番目に深く、穴6dを4番目に深く、穴6eを最も浅くすることができる。
このような穴の配置態様等を前提に、穴群6はさらに、上述した第1要件及び第2要件を満たす。図9は、図6に示す穴群6の拡大平面図である。図9に示すように、穴6a、6b、6c、6dは、平面視でいずれも円形であるため、これらの外接円は、穴6a、6b、6c、6dの外形と一致する。ここで、穴6aの外接円Caの半径をra、穴6bの外接円Cbの半径をrb、穴6cの外接円Ccの半径をrc、及び穴6dの外接円Cdの半径をrd、並びに外接円Ca、Ccの中心間距離をdac、外接円Ca、Cdの中心間距離をdad、外接円Cb、Ccの中心間距離をdbc、及び外接円Cb、Cdの中心間距離をdbdとする。
図9に示す例では、全ての穴6a、6b、6c、6dについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも1つ存在する(第1要件具備)。即ち、上記第1要件における穴iを穴6aとし、穴jを穴6b、穴6c、穴6dとした場合、穴6aについては比較的近接した位置に深さの異なる3つの穴6b、6c、6dが存在する。上記第1要件における穴iを穴6bとし、穴jを穴6a、穴6c、穴6dとした場合、穴6bについては比較的近接した位置に深さの異なる3つの穴6a、6c、6dが存在する。上記第1要件における穴iを穴6cとし、穴jを穴6a、穴6b、穴6dとした場合、穴6cについては比較的近接した位置に深さの異なる2つの穴6a、6bが存在する。上記第1要件における穴iを穴6dとし、穴jを穴6a、穴6b、穴6cとした場合、穴6dについては比較的近接した位置に深さの異なる2つの穴6a、6bが存在する。
また、図9に示す例では、少なくとも1つの穴、図9に示す例においては4つの穴6a、6b、6c、6dについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも2つ存在する(第2要件具備)。即ち、上記第2要件における穴iを穴6aとし、穴jを穴6b、穴6c、穴6dとした場合、穴6aについては比較的近接した位置に深さの異なる3つの穴6b、6c、6dが存在する。上記第2要件における穴iを穴6bとし、穴jを穴6a、穴6c、穴6dとした場合、穴6bについては比較的近接した位置に深さの異なる3つの穴6a、6c、6dが存在する。上記第2要件における穴iを穴6cとし、穴jを穴6a、穴6bとした場合、穴6cについては比較的近接した位置に深さの異なる2つの穴6a、6bが存在する。上記第2要件における穴iを穴6dとし、穴jを穴6a、穴6bとした場合、穴6dについては比較的近接した位置に深さの異なる2つの穴6a、6bが存在する。
さらに、図9に示す例は、上記の第1要件及び第2要件を満たすとともに、全ての穴6a、6b、6c、6dについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも2つ存在する(以下、必要に応じて「第3要件」という。)。即ち、上記第3要件における穴iを穴6aとし、穴jを穴6b、穴6c、穴6dとした場合、穴6aについては比較的近接した位置に深さの異なる3つの穴6b、6c、6dが存在する。上記第3要件における穴iを穴6bとし、穴jを穴6a、穴6c、穴6dとした場合、穴6bについては比較的近接した位置に深さの異なる3つの穴6a、6c、6dが存在する。上記第3要件における穴iを穴6cとし、穴jを穴6a、穴6bとした場合、穴6cについては比較的近接した位置に深さの異なる2つの穴6a、6bが存在する。上記第3要件における穴iを穴6dとし、穴jを穴6a、穴6bとした場合、穴6dについては比較的近接した位置に深さの異なる2つの穴6a、6bが存在する。
以上のように、実施形態2の空気入りタイヤは、全ての穴6a、6b、6c、6dについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも1つ存在すること(第1要件)と、少なくとも1つの穴、図6に示す例においては穴6a、6b、6c、6dについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも2つ存在すること(第2要件)と、全ての穴6a、6b、6c、6dについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも2つ存在すること(第3要件)とが相まって、特に、自身よりも浅い穴が存在する穴6a、6b、6cが変形して潰れることを効果的に抑制することができる。従って、実施形態2の空気入りタイヤによれば、高い除水効果と、トレッド陸部の高い剛性とが得られるため、氷上性能とドライ性能とを十分に両立することができる。
なお、図9に示す例は、各穴6a、6b、6c、6dの中心線を結んだ図形が菱形となる穴の配置態様であるが、本実施形態はこれに限られない。即ち、図8−1から図8−3に示す穴の配置態様についても、上記の第1要件、第2要件、及び第3要件を満たす。まず、図8−1に示す例では、穴のタイヤ径方向深さが穴6a、6b、6c、6dの順に深いとした場合、上記3つの要件が満たされる。即ち、全ての穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴が少なくとも1つ(例えば、穴6aについては穴6b、6c、6d)存在し(第1要件具備)、少なくとも1つの穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴が少なくとも2つ(例えば、穴6aについては穴6b、6c、6d)存在し(第2要件具備)、全ての穴について比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも2つ(例えば、穴6aについては穴6b、6c、6d)存在する(第3要件具備)。
また、図8−2に示す例では、穴のタイヤ径方向深さが穴6a、6b、6c、6d、6eの順に深いとした場合、上記3つの要件が満たされる。即ち、全ての穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴が少なくとも1つ(例えば、穴6aについては穴6c、穴6d)存在し(第1要件具備)、少なくとも1つの穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴が少なくとも2つ(例えば、穴6aについては穴6c、6d)存在し(第2要件具備)、全ての穴について比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも2つ(例えば、穴6aについては穴6c、6d)存在する(第3要件具備)。
さらに、図8−3に示す例では、穴のタイヤ径方向深さが穴6a、6b、6c、6d、6eの順に深いとした場合、上記3つの要件が満たされる。即ち、全ての穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴が少なくとも1つ(例えば、穴6aについては穴6c、穴6d)存在し(第1要件具備)、少なくとも1つの穴について、自身の属する穴群の中に、dij≦(ri+rj)×2を満たし、かつ深さの異なる穴が少なくとも2つ(例えば、穴6aについては穴6c、6d)存在し(第2要件具備)、全ての穴について比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも2つ(例えば、穴6aについては穴6c、6d)存在する(第3要件具備)。
このため、図8−1、図8−2、及び図8−3に示す例についても、高い除水効果と、トレッド陸部の高い剛性とを得ることができるため、氷上性能とドライ性能とを十分に両立することができる。
[実施形態3]
続いて、上記実施形態1に対して、好適な実施形態3について詳述する。実施形態3は、トレッド部に設けられた陸部に複数本のサイプが形成され、このサイプによって分割された小ブロック内に、穴群が形成された点が実施形態1と異なる。
図10は、実施形態3に係る空気入りタイヤのトレッド部1の一例の要部を示す平面図である。以下では、図10に示す例について、図1に示す例との違いのみを詳述する。なお、図10において符号を付した要素中、図1において同一符号を付した要素は、図1に示す要素と同一の要素を示す。
図10に示す例においては、ブロック陸部4に、タイヤ周方向と交差して延びる複数本のサイプが配設されており、これによりブロック陸部4は複数の小ブロックに分割されている。同図においては、ブロック陸部4に、2本のサイプ7が配設されており、これによりブロック陸部4は3つの小ブロック8に分割されている。
このように分割形成された小ブロック8のそれぞれには、タイヤ幅方向において3つの穴群5が形成されており、1つのブロック陸部4には、合計で9つの穴群5が形成されている。各穴群5は、平面視で円形の3つの穴5a、5b、5cから構成されている。
このような構成のトレッド表面が形成された空気入りタイヤにおいては、実施形態1の空気入りタイヤと同様に、全ての穴5a、5b、5cについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも1つ存在し(第1要件具備)、また、少なくとも1つの穴、図10に示す例においては穴5a、5b、5cについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも2つ存在する(第2要件具備)。このため、自身よりも浅い穴が存在する穴5a、5bが変形して潰れることを効果的に抑制することができることから、高い除水効果と、トレッド陸部の高い剛性とが得られ、ひいては氷上性能とドライ性能とを十分に両立することができる。
さらに、図10に示す例においては、ブロック陸部4に、タイヤ周方向と交差して延びる2本のサイプ7が配設されている(以下、必要に応じて「第4要件」という。)。このため、穴群5による除水効果(第1要件及び第2要件)と、トレッド部1に設けられたサイプ7による除水効果(第4要件)とが相まって、特に、高い除水効果が得られる。従って、実施形態3の空気入りタイヤによれば、極めて高い氷上性能を発揮することができる。なお、図10に示す例は、陸部がブロック状である例であるが、実施形態3はこのような形態に限られず、陸部がリブ状の陸部の場合、即ち、隣接する2本の周方向溝2を連通する横溝3が配設されていない場合も含む。
[実施形態4]
加えて、上記実施形態1、実施形態3に対して、さらに好適な実施形態4について詳述する。実施形態4は、トレッド部に設けられたブロック陸部に複数本のサイプが形成され、この穴群の配設領域が、ブロック陸部のタイヤ回転時の踏み込み側の領域、及び蹴り出し側の領域の少なくとも一方である点が実施形態1、実施形態3と異なる。
図11は、実施形態4に係る空気入りタイヤのトレッド部1の一例の要部を示す平面図である。以下では、図11に示す例について、図1、図10に示す例との違いのみを詳述する。なお、図11において符号を付した要素中、図1、図10において同一符号を付した要素は、図1、図10に示す要素と同一の要素を示す。
図11に示す例においては、ブロック陸部4に、タイヤ周方向と交差して延びる複数本のサイプが配設されており、これによりブロック陸部4は複数の小ブロックに分割されている。同図においては、ブロック陸部4に、タイヤ周方向と交差して延びる3本のサイプ7が配設されており、これによりブロック陸部4は4つの小ブロック8に分割されている。
さらに、図11に示す例においては、穴群5が、分割形成された小ブロック8のうち、タイヤ回転時の踏み込み側の領域、及び蹴り出し側の領域の少なくとも一方に形成されている。ここで、タイヤ回転時の踏み込み側の領域とは、タイヤが順方向回転している場合に最初に接地する領域であって、同図においてブロック陸部4のタイヤ周方向の一端領域(紙面の上端領域又は下端領域)を意味する。これに対し、タイヤ回転時の蹴り出し側の領域とは、タイヤが順方向回転している場合に最後に接地する領域であって、同図においてブロック陸部4のタイヤ周方向他端領域(紙面の下端領域又は上端領域)を意味する。また、タイヤの順方向回転とは、タイヤを装着した車体が前進する場合のタイヤ回転を意味する。
このような構成のトレッド表面が形成された空気入りタイヤにおいては、実施形態1、実施形態3の空気入りタイヤ同様に、全ての穴5a、5b、5cについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも1つ存在する(第1要件具備)とともに、少なくとも1つの穴、図11に示す例においては穴5a、5b、5cについて比較的近接した位置に深さの異なる穴が少なくとも2つ存在している(第2要件具備)。さらに、この空気入りタイヤにおいては、実施形態3の空気入りタイヤと同様に、ブロック陸部4に、タイヤ周方向と交差して延びる3本のサイプ7が配設されている(第4要件具備)。このため、自身よりも浅い穴が存在する穴5a、5bが変形して潰れることを抑制することができるのみならず、サイプ7による優れた除水効果が得られる。従って、高い除水水効果と、トレッド陸部の高い剛性とを得ることができ、ひいては氷上性能とドライ性能とを十分に両立することができる。
さらに、図11に示す実施形態4の空気入りタイヤにおいては、穴群5が、分割形成された小ブロック8のうち、タイヤ回転時の踏み込み側の領域及び蹴り出し側の領域の少なくとも一方に形成されている。同図に示す例では、穴群5は、タイヤ回転時の踏み込み側の領域に形成されている(第5要件)。これにより、タイヤ回転時の吸水効果が増大し、その結果氷上性能をさらに高めることができる。特に同図に示す例では、タイヤが順方向回転する場合に、最初に接地する領域に穴群5が形成されているため、タイヤ順方向回転時において吸水効果を効果的に発揮する。
なお、図11に示す例は、穴群5がタイヤ回転時の踏み込み側又は蹴り出し側の一方のみの領域に形成されている例であるが、実施形態4はこのような形態に限られず、穴群5がタイヤ回転時の踏み込み側の領域及び蹴り出し側の領域の両方に形成されている形態も含む。なお、穴群5がタイヤ回転時の踏み込み側の領域に形成されている場合には、上述のとおり、タイヤの順方向回転時の吸水効果が増大し、その結果氷上性能がさらに向上する。これに対し、穴群5がタイヤ回転時の蹴りだし側の領域に形成されている場合には、タイヤ逆方向回転時の吸水効果が増大し、その結果氷上性能がさらに向上する。ここで、タイヤの逆方向回転とは、タイヤを装着した車体が後進する場合のタイヤ回転を意味する。
ブロック陸部4のタイヤ回転時の踏み込み側の領域及び蹴り出し側の領域は、図11に示すように、ブロック陸部4の一端(紙面の上端)又は他端(紙面の下端)から、ブロック陸部4のタイヤ周方向長さWの30%以下の長さまでの領域とすることが好ましい。このような範囲の領域に穴群5を配設することで、タイヤ回転時の吸水効果が十分に増大し、その結果氷上性能が顕著に向上する。
本実施形態、従来例、及び比較例に係る空気入りタイヤを製造し、評価した。なお、本実施形態によるものが実施例である。比較例は、従来例を示すものではない。
タイヤサイズを195/65R15で共通にし、図1に示す構成の空気入りタイヤにおいて、表1に示す諸事項(穴群の穴数、各穴の半径、深さ、体積、及び合計体積、並びに穴同士の中心間距離)を満たす各穴群をタイヤ全周に備える、実施例1〜3、及び比較例1の空気入りタイヤをそれぞれ製造した。また、実施例等と同様にして、従来例1として図1のブロック陸部4に1つの穴を9箇所に設けた従来例1の空気入りタイヤ(その他の構造については、図1の構造を採用)をそれぞれ製造した。なお、表1中の穴番号と穴同士の中心間距離については、その詳細を図12に示す。図12−1から図12−5は、評価において用いた各空気入りタイヤのそれぞれについての、穴番号と穴同士の中心間距離とを示す平面図であり、図12−1は従来例1を、図12−2は比較例1を、図12−3は実施例1を、図12−4は実施例2を、そして図12−5は実施例3をそれぞれ示す。なお、これらの図中、符号5aから5eは、表1中の符号5aから5eに対応し、又、同図中の符号x、yは、同表中の符号x、yに対応する。
これら各試験タイヤをリムサイズ15×6JJのリムに装着し、空気圧を230kPaにして、以下に示す測定条件により、氷上性能、及びドライ性能について評価試験を行った。また、車両は、1500ccクラス(カローラアクシオ)の一般乗用車を用いた。
氷上性能については、磨かれたアイスバーン(氷上路面)において、初速度40km/hからの制動停止距離を測定した。また、ドライ性能については、乾燥路面上において、初速度100km/hからの制動停止距離を測定した。
これらの性能については、いずれも、従来例1に係る空気入りタイヤを100とした相対指数として算出した。これらの指数については、大きいほど各性能が優れていることを意味する。以上の各評価結果を表1に併記する。
表1から明らかなように、本発明の範囲内にある実施例1〜3の空気入りタイヤについては、氷上性能及びドライ性能の少なくともいずれかの評価項目について、100を超える優れた結果が得られている。実施例1〜3を個別的にみると、実施例2に係る空気入りタイヤは実施例1に係る空気入りタイヤに比べて、氷上性能及びドライ性能の両方について優れた結果が得られている。これは、実施例2においては、穴同士の中心間距離が、いずれも1.0mmで等しく、換言すれば穴5a、5b、5cが平面視で全て対称に配設されているために、穴群5全体としてみた場合、タイヤのタイヤ周方向及びタイヤ幅方向の両方に対して、除水効果とトレッド陸部の高い剛性とがより均等に発揮されるためであると考えられる。また、実施例3に係る空気入りタイヤは実施例1に係る空気入りタイヤに比べて、氷上性能は向上したものの、ドライ性能については優れた結果が得られていない。これは、実施例3においては、穴の数を過度に増加しているので、除水効果は高まったものの、トレッド陸部の剛性が低下したためであると考えられる。
これに対し、比較例1に係る空気入りタイヤについては、氷上性能及びドライ性能のいずれも、従来例1に係る空気入りタイヤを超える結果が得られていない。これは、穴5a、5b、5cの深さをいずれも5mmとして等しくしていることから、各穴の倒れこみが緩和されず、各穴が変形して潰れることが抑制されなかったためであると考えられる。