JP5553880B2 - フィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法 - Google Patents

フィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法 Download PDF

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本発明は、水素と一酸化炭素を主成分とする混合ガス(以下「合成ガス」という)から炭化水素類を製造するための、フィッシャー・トロプシュ合成用触媒、及び該触媒を用いた炭化水素類の製造方法に関する。さらに詳しくは、主として炭酸マンガンからなる担体に、フィッシャー・トロプシュ反応に対する活性を有する金属(以下「FT活性金属」という)を含有させてなる触媒、及び該触媒に合成ガスを接触させ、ナフサ、灯油、軽油、ワックスといった炭化水素類を製造する方法に関する。
合成ガスから炭化水素類を合成する方法として、フィッシャー・トロプシュ反応(Fischer−Tropsch反応)、メタノール合成反応、C2含酸素(エタノール、アセトアルデヒド等)合成反応などが良く知られている。そして、フィッシャー・トロプシュ反応は鉄、コバルト、ニッケルの鉄族元素やルテニウム等の白金族元素を活性金属とする触媒で、メタノール合成反応は銅系触媒で、C2含酸素合成反応はロジウム系触媒で進行することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
ところで、近年、大気環境保全の観点から、低硫黄分の軽油が望まれており、今後その傾向はますます強くなるものと考えられる。また、原油資源は有限であるとの観点やエネルギーセキュリティーの面から、石油代替燃料の開発が望まれており、今後ますます強く望まれるようになるものと考えられる。これらの要望に応える技術として、エネルギー換算で原油に匹敵する可採埋蔵量があるといわれる天然ガス(主成分メタン)から灯軽油等の液体燃料を合成する技術であるGTL(gas to liquids)がある。
天然ガスは、硫黄分を含まないか、含んでいても脱硫が容易な硫化水素(HS)等であるため、得られる灯軽油等の液体燃料には、その中に殆ど硫黄分が無く、またセタン価の高い高性能ディーゼル燃料に利用できるなどの利点があるため、このGTLは近年ますます注目されるようになってきている。
上記GTLの一環として、合成ガスからフィッシャー・トロプシュ反応(以下「FT反応」という)によって炭化水素類を製造する方法(以下「FT法」という)が盛んに研究されている。このFT法において炭化水素類の収率を高めるためには、炭化水素類の製造能力、すなわち活性が高く、ガス成分の生成が少なく、長時間安定した活性を示すといった優れた性能を有する触媒を用いることが有効と考えられる。
そして、従来から、種々のFT反応用の触媒が提案されており、例えば、コバルトや鉄といったFT活性金属種をアルミナや、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニアなどの金属酸化物担体に担持した触媒が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。また、オレフィン類への高選択性を目的とした触媒として、マンガン酸化物担体にルテニウムを担持させた触媒、このルテニウム担持触媒にさらに第三成分を加えた触媒などのルテニウム系触媒が提案されている(例えば、特許文献4、特許文献5参照)。
これらの従来提案されている触媒は、それを用いたFT法において、相応に優れたオレフィン類の選択性や、相応の触媒活性を示すが、更なる触媒活性の向上が望まれる。一般に、触媒の活性が高いほど、触媒重量当たりの目的物の生産性が高く、同じ量の目的物を得るための触媒使用重量は少なくて済み、それに伴い反応器を小型化できるなど、触媒費用や装置費用の軽減が期待できる。また、FT反応用の触媒には、生成物中のメタン等のガス成分の生成が少なく、灯油や軽油といった有用な液状の炭化水素類の得率が高いことが望まれる。
米国特許第5733839号明細書 米国特許第5545674号明細書 欧州特許第0167215号明細書 特公平3−70691号公報 特公平3−70692号公報
「C1ケミストリー」、触媒学会編、講談社、1984年4月1日、第25頁
本発明は、上記従来の状況に鑑み、FT法において、CO転化率が高く、ガス成分の生成が少なく、かつ安定してFT合成反応を行うことができ、炭化水素類の生産性を向上させることができるFT合成用触媒、及びその触媒を用いる炭化水素類の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究をしたところ、FT活性金属を、炭酸マンガンを主成分とする担体に含有させた触媒が、従来提案されている金属酸化物系の担体を用いる触媒に比較して、活性が大幅に高く、かつ、ガス成分の生成が少ないことを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の触媒の活性向上やガスの生成の低下の詳細なメカニズムについては解明されておらず、現在、鋭意検討中ではあるが、FT反応に対しては不活性である担体主成分の炭酸マンガンが何らかの形でFT活性金属種に作用し、活性を向上させるとともに、ガスの生成を抑制する作用を有するものと推察している。
すなわち、本発明は、上記目的を達成するために、下記構成のFT合成用触媒の製造方法を提供する。
1.炭酸マンガンを主成分とする担体とフィッシャー・トロプシュ反応に活性を有する金属の少なくとも1種以上と溶媒とを共存させる工程、前記工程から溶媒を蒸散させる工程、および焼成する工程を含む、フィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法。
2.焼成温度が150〜300℃であることを特徴とする上記1に記載のフィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法。
3.フィッシャー・トロプシュ反応に対する活性を有する金属が、ルテニウム及びコバルトから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする上記1または2に記載のフィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法。
4.ルテニウムの含有量が触媒基準、金属換算で0.5〜5質量%であることを特徴とする上記3に記載のフィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法。
5.コバルトの含有量が触媒基準、金属換算で5〜40質量%であることを特徴とする上記3に記載のフィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法。
本発明の炭酸マンガンを担体とする触媒は、従来のアルミナやシリカを担体とする触媒に比較してCO転化率が高く、また、ガス成分であるCHなどの生成割合を低下させることができる。また、本発明によれば、触媒の活性が高く、炭化水素類の生産性が高い触媒が提供され、触媒コストや反応器のサイズダウン等の効果が見込まれる。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のフィッシャー・トロプシュ合成用触媒(以下「本発明の触媒」とも言う。)は、炭酸マンガンを主成分とする担体(以下「炭酸マンガン担体」とも言う。)に、FT活性金属種を含有させてなるものである。以下、本発明の触媒、及びその調製からそれを用いた炭化水素類の製造方法までを順次詳しく説明する。
<触媒及びその調製>
本発明の触媒における炭酸マンガン担体の主成分である炭酸マンガンとしては、工業的に生産販売されているものを用いることもできるし、また、従来公知の方法で製造することもできる。炭酸マンガンを公知方法で得る場合、可溶性マンガン塩溶液と炭酸アンモニアあるいはアルカリの炭酸塩(たとえば炭酸ナトリウム)を反応させることで得られる。また、二価のマンガンイオンと炭酸イオンあるいは重炭酸イオンとの反応によっても得ることができる。また、炭酸マンガン担体は、炭酸マンガンのみからなるものでも、本発明における所期の炭酸マンガンの効果を阻害しない限りにおいて、炭酸マンガン以外の他の成分を含んでいても良い。この他の成分としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナなど、通常担体として用いられる無機酸化物が挙げられる。また、この他の成分の含有量は、本発明における所期の炭酸マンガンの効果を阻害しない限りにおいて適宜設定できるが、一般に、担体基準で5〜50質量%が適当である。
本発明の触媒におけるFT活性金属種としては、ニッケル、コバルト、鉄、ルテニウムが挙げられるが、中でも高活性な金属種としてルテニウムやコバルトが好ましく選択される。また、これらの金属種は単独で用いることもできるし、2種以上を複合させて用いることも可能である。
本発明の触媒を調製するための、炭酸マンガン担体にFT活性金属種を含有させる方法の一つに、FT活性金属種を炭酸マンガン担体に含浸担持させる方法がある。以下、この含浸担持について、FT活性金属種が好ましく用いられるルテニウムやコバルトである場合について説明する。この含浸担持は、通常の含浸担持方法で行うことができる。例えば、炭酸マンガン担体にルテニウム塩やコバルト塩の水溶液を含浸させ、その後、乾燥、焼成することによって行うことができる。このとき、FT活性金属種として2種以上の金属を担持する場合、例えばルテニウム塩とコバルト塩の両方含む水溶液を調製し、ルテニウム塩とコバルト塩を同時に含浸させ、その後、乾燥、焼成することもできるし、各々を別途に順次含浸させ、その後、乾燥、焼成しても良い。炭酸マンガン担体へのFT活性金属種の含浸担持方法は、特に限定されない。
上記含浸担持に用いるルテニウム塩としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウム、塩化六アンモニアルテニウムなどの水溶性ルテニウム塩が挙げられる。また、コバルト塩としては、塩化コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、硫酸コバルト、ギ酸コバルトが好ましく用いられる。また、含浸担持に用いるルテニウム塩やコバルト塩の溶液の溶媒に、水ではなく、アルコール、エーテル、ケトンなどの有機溶媒を用いることも可能であり、この場合は、ルテニウム塩やコバルト塩として各種有機溶媒に可溶な塩を選択する。
本発明の触媒におけるルテニウムの含有量は、触媒基準、金属量換算で好ましくは0.5〜5質量%、より好ましくは0.8〜4.5質量%、特に好ましくは1〜4質量%である。ルテニウムの担持量は活性点数と関連する。ルテニウムの担持量を0.5質量%以上とすることにより、活性点数が保たれ十分な触媒活性を得ることができる。また、ルテニウムの担持量を5質量%以下とすることにより、ルテニウムの分散性の低下や、担体成分と相互作用を持たないルテニウム種が発現するのを抑制できる。
また、コバルトの含有量は、触媒基準、金属量換算で好ましくは5〜40質量%、より好ましくは5〜35質量%、特に好ましくは5〜30質量%である。コバルトの含有量を5質量%以上とすることにより、活性金属としての顕著な活性向上の効果が認められる。また、40質量%以下とすることにより、触媒調製の際の乾燥工程、焼成処理工程や、FT反応に供した際の反応条件下において、コバルトの凝集を抑制することができ、また、触媒の比表面積や細孔容積の低下を抑制することができ、さらにまた、FT反応における生成物中のガス生成量を抑制することができる。
FT活性金属種を炭酸マンガン担体に含浸した後は、乾燥、焼成を行う。このときの乾燥は、原則、水を蒸散させるために行い、その温度は80〜200℃が好ましく、100〜150℃がより好ましい。乾燥温度を80℃以上とすることで、水の蒸散を十分に促進することが可能であり、200℃以下であれば急激な水の蒸散による活性金属成分の不均一化を抑制することができるため好ましい。
また、焼成温度は150〜300℃が好ましく、150〜250℃がより好ましい。焼成温度を300℃以内とすることにより、担体成分の炭酸マンガンがマンガン酸化物と炭酸ガスに分解することを抑制することができる。本発明においては、担体成分の炭酸マンガンは、炭酸塩の形態で存在することが必須であり、後記比較例に具体的に示すように、酸化マンガンでは本発明の所期の効果は得られない。また、FT活性金属種の活性化を図るためには相応の温度が必要であるので、焼成温度は上記範囲が好ましい。また、乾燥や焼成の処理時間は、処理量によって一概には決まらないが、通常1〜10時間である。処理時間を1時間以上とすることにより、水分の蒸散を確実に行い、FT活性金属種の活性化が希薄となることを抑制できる。また、処理時間が10時間を超えても、触媒活性は、10時間以下の場合とほとんど変わらないため、作業性や生産性を考慮すると10時間以下が好ましい。なお、この乾燥や焼成処理は空気中で行うことも、あるいは窒素やヘリウムといった不活性ガス雰囲気でも、水素などの還元ガス雰囲気でもよく、特に限定はされない。
上述の含浸担持法以外の、本発明の炭酸マンガン担体にFT活性金属種を含有させてなる触媒の製造方法としては、炭酸マンガンとFT活性金属種を含む水系のスラリーを調製し、それをスプレードライする方法が挙げられる。このスプレードライ法におけるスラリーの濃度は特に限定はされないが、スラリー濃度が低すぎると炭酸マンガンの沈殿が発生し、触媒成分が不均一となり好ましくなく、また、スラリー濃度が高すぎるとスラリーの送液が困難となるため、適度なスラリー濃度を選択する。さらにこのとき、スラリーの濃度調整や触媒の成形性の向上、球状化を目的にシリカゾル等をバインダー成分として添加することも可能である。このときのバインダーの添加量としては、触媒活性を低下させない程度が好ましく、一般には5〜20質量%の範囲で選択される。
また、スプレードライ法で触媒を製造する場合、スラリー中に炭酸マンガン、FT活性金属種、バインダー成分を同時に含有させて、スプレーする方法や、炭酸マンガンとバインダーを含むスラリーをスプレーし、その後、上述の含浸担持方法に則って、FT活性金属種を添加する方法がある。また、スプレードライ法における送風温度は上述の含浸担持法における乾燥及び焼成温度内で実施することが好ましい。
さらに他の、本発明の炭酸マンガン担体にFT活性金属を含有させた触媒の製造方法としては、炭酸マンガン担体あるいはスプレードライによって調製された炭酸マンガンとバインダーを含む担体を、FT活性金属種の水溶液に浸漬し担体上へ活性金属を吸着させる方法(平衡吸着法)や、担体をFT活性金属種の水溶液に浸漬させた後、アンモニア水等のアルカリ性の沈殿剤溶液を加えて担体上に活性金属を沈殿させる方法(沈着法)等がある。
<炭化水素類の製造方法>
本発明の炭化水素類の製造方法は、上記の如くして調製された本発明の触媒をFT反応に供して、すなわち該触媒に水素及び一酸化炭素を主成分とする合成ガスを接触させて行われる。本発明の炭化水素類の製造方法においては、FT反応の反応器の形式に関しては、固定床、流動床、懸濁床、スラリー床などが挙げられ、特に限定はしないが、その一例として、以下に、スラリー床による本発明の炭化水素類の製造方法を説明する。
スラリー床にて本発明の炭化水素類の製造方法を行う場合は、触媒の形状としては、球状が好ましく、また、触媒粒子分布として好ましい範囲は1μm以上150μm以下、さらに好ましくは5μm以上120μm以下、最も好ましくは10μm以上110μm以下である。スラリー床反応形式の場合は、液状の炭化水素中などに触媒を分散させて使用するため、触媒粒子径を1μm以上とすることにより、粒子が細かすぎることによる下流側への触媒粒子の流出を抑制し、反応容器内の触媒濃度の低下を抑制し、下流側機器が触媒微粒子によって障害を受けるなどを抑制することができる。また、触媒粒子径を150μm以内とすることにより、反応容器内全体に触媒粒子が分散せずに、スラリーが不均一となることによる反応活性の低下を抑制することができる。また、触媒形状が凹凸がなく球状であることは、スラリー床の反応形式において、触媒同士の接触や触媒と反応器内壁等との接触による触媒の割れや粉化による微粉の発生が低減されるため好ましい。
本発明の炭化水素類の製造方法においては、上記の如くして調製された本発明の触媒は、FT反応に供する前に予め還元処理(活性化処理)される。この還元処理により、触媒がFT反応において所望の触媒活性を示すように活性化される。この還元処理を行わなかった場合には、FT活性金属種が十分に還元されず、FT反応において所望の触媒活性を示さない。
この還元処理は、触媒を液状炭化水素類に分散させたスラリー状態で還元性ガスと接触させる方法でも、炭化水素類を用いず単に触媒に還元性ガスを通気、接触させる方法でも好ましく行うことができる。前者の方法における触媒を分散させる液状炭化水素類としては、処理条件下において液状のものであれば、オレフィン類、アルカン類、脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類を始めとする種々の炭化水素類を使用できる。また、含酸素、含窒素等のヘテロ元素を含む炭化水素であっても良い。これらの炭化水素類の炭素数は、処理条件下において液状のものであれば特に制限する必要はないが、一般にC6〜C40のものが好ましく、C9〜C40のものがより好ましく、C9〜C35のものが最も好ましい。C6の炭化水素類より重質なものであれば、溶媒の蒸気圧が高くなり過ぎず、処理条件幅が制限されないため好ましい。また、C40の炭化水素類より軽質なものであれば、還元性ガスの溶解度が低下せず、十分な還元処理ができるため好ましい。
また、この還元処理に当たり炭化水素類中に分散させる触媒量は、1〜50質量%の濃度が適当あり、好ましくは2〜40質量%、より好ましくは3〜30質量%の濃度である。触媒量が1質量%以上であれば、触媒の還元効率が低下し過ぎることを防ぐことができる。したがって、触媒の還元効率の低下を防ぐ方法として、還元性ガスの通気量を減少させる方法が挙げられる。これにより、気(還元性ガス)−液(溶媒)−固(触媒)の分散が損なわれることを回避することができる。また、触媒量が50質量%以下であれば、炭化水素類に触媒を分散させたスラリーの粘性が高くなり過ぎず、気泡分散が良好で、触媒の還元が十分なされるため好ましい。
また、この還元処理の処理温度は、140〜250℃が好ましく、150〜200℃がより好ましく、160〜200℃が最も好適である。140℃以上であれば、FT活性金属種が十分に還元され、十分な反応活性が得られる。また、250℃以下であれば、担体成分の炭酸マンガンの酸化マンガンへの分解が進行して活性低下を招く危険を回避できる。
この還元処理には、水素を主成分とする還元性ガスが好ましく用いられる。用いる還元性ガスには、水素以外の成分、例えば水蒸気、窒素、希ガスなどを、還元を妨げない範囲である程度の量を含んでいても良い。
また、この還元処理は、上記処理温度と共に、水素分圧及び処理時間にも影響されるが、水素分圧は、0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜6MPaがより好ましく、1〜5MPaが最も好ましい。還元処理時間は、触媒量、水素通気量等によっても異なるが、一般に、0.1〜72時間が好ましく、1〜48時間がより好ましく、4〜48時間が最も好ましい。処理時間が0.1時間以上であれば、触媒の活性化が不十分となることを回避できる。また、72時間以下であれば、触媒性能の向上に十分である。
本発明の炭化水素類の製造方法においては、上記の如く還元処理した本発明の触媒がFT反応、すなわち炭化水素類の合成反応に供せられる。
本発明の炭化水素類の製造方法におけるFT反応は、触媒を液状炭化水素類中に分散せしめた分散状態となし、この分散状態の触媒に水素と一酸化炭素からなる合成ガスを接触させる。この際、触媒を分散させる炭化水素類としては、上記の予め行う還元処理で用いられる炭化水素類と同様のものを用いることができる。すなわち、反応条件下において液状のものであれば、オレフィン類、アルカン類、脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類を始めとする種々の炭化水素類を使用でき、含酸素、含窒素等のヘテロ元素を含む炭化水素であっても良く、その炭素数は特に制限する必要はないが、一般にC6〜C40のものが好ましく、C9〜C40のものがより好ましく、C9〜C35のものが最も好ましい。C6の炭化水素類より重質なものであれば、溶媒の蒸気圧が高くなり過ぎず、反応条件幅が制限されないため好ましい。また、C40の炭化水素類より軽質なものであれば、原料の合成ガスの溶解度が低下せず、反応活性の低下を回避することができる。上記の予め行う還元処理において、触媒を液状炭化水素類に分散させて行う方法が採用されている場合は、該還元処理で用いられた液状炭化水素類をそのままこのFT反応において用いることができる。
FT反応に当たって炭化水素類中に分散させる触媒量は、好ましくは1〜50質量%の濃度であり、より好ましくは2〜40質量%、最も好ましくは3〜30質量%の濃度である。触媒量が1質量%以上であれば、触媒の活性が不足することを回避できる。なお、活性が不足するとその活性の不足を補うために、合成ガスの通気量を減少させ、その合成ガスの通気量の低下により気(合成ガス)−液(溶媒)−固(触媒)の分散が損なわれる。また、触媒量が50質量%以下であれば、炭化水素類に触媒を分散させたスラリーの粘性が高くなりすぎ、気泡分散が悪くなり、反応活性が十分得られなくなることを回避することができる。
FT反応に用いる合成ガスは、水素及び一酸化炭素を主成分としていれば良く、FT反応を妨げない他の成分が混入されていても差し支えない。また、FT反応の速度(k)は、水素分圧に約一次で依存するので、水素及び一酸化炭素の分圧比(H/COモル比)が0.6以上であることが望まれる。この反応は、体積減少を伴う反応であるため、水素及び一酸化炭素の分圧の合計値が高いほど好ましい。水素及び一酸化炭素の分圧比は、その上限は特に制限されないが、現実的なこの分圧比の範囲としては0.6〜2.7が好ましく、より好ましくは0.8〜2.5、特に好ましくは1〜2.3である。この分圧比が0.6以上であれば、生成する炭化水素類の収量が低下することを防ぐことができ、また、この分圧比が2.7以下であれば、生成する炭化水素類においてガス成分や軽質分が増える傾向を抑止することができる。
上記合成ガス中に混入していても差し支えないFT反応を妨げない他の成分としては、二酸化炭素が挙げられる。本発明の炭化水素類の製造方法では、天然ガスや石油製品などの改質反応により得られる二酸化炭素の混入している合成ガスも何ら問題なく用いることができる。また、二酸化炭素以外のFT反応を妨げない他の成分が混入されていても差し支えなく、例えば、天然ガスや石油製品等の水蒸気改質反応あるいは自己熱改質反応から得られるようなメタンや水蒸気や部分酸化された窒素等が含有された合成ガスでも良い。また、この二酸化炭素は、二酸化炭素の含有されてない合成ガスに積極的に添加することもできる。本発明の炭化水素類の製造方法の実施に当たって、天然ガスや石油製品を自己熱改質法あるいは水蒸気改質法等で改質して得られた二酸化炭素を含有する合成ガスを、その中の二酸化炭素を除去するための脱炭酸処理をすることなくそのままFT反応に供すれば、脱炭酸処理に要する設備建設コスト及び運転コストを削減することができ、FT反応で得られる炭化水素類の製造コストを低減することができる。
本発明の炭化水素類の製造方法において、FT反応に供する合成ガス(混合ガス)の全圧(全成分の分圧の合計値)は、0.5〜10MPaが好ましく、0.7〜7MPaがさらに好ましく、0.8〜5MPaがなおさらに好ましい。この全圧が0.5MPa以上であれば、連鎖成長が十分となり、ガソリン分、灯軽油分、ワックス分などの収率が低下することを防ぐことができる。平衡上は、水素及び一酸化炭素の分圧が高いほど有利になるが、上記全圧が10MPa以下であれば、プラント建設コスト等が高まったり、圧縮に必要な圧縮機などの大型化により運転コストが上昇するなどの産業上の観点からの不利益を相応に抑止することができる。
このFT反応においては、一般に、合成ガスのH/COモル比が同一であれば、反応温度が低いほど連鎖成長確率やC5+選択性(FT反応性生物中の炭素数5以上の生成物の割合)が高くなるが、CO転化率は低くなる。逆に、反応温度が高くなれば、連鎖成長確率、C5+選択性は低くなるが、CO転化率は高くなる。また、H/CO比が高くなれば、CO転化率が高くなり、連鎖成長確率、C5+選択性は低下し、H/CO比が低くなれば、その逆となる。これらのファクターが反応に及ぼす効果は、用いる触媒の種類等によってその大小が異なるが、本発明の触媒を用いる方法においては、反応温度は、200〜350℃が適当であり、210〜310℃が好ましく、220〜290℃がさらに好ましい。なお、CO転化率は下記式で定義されるものである。
〔CO転化率〕
CO転化率=[(単位時間当たりの原料ガス中のCOモル数)−(単位時間当たりの出口ガス中のCOモル数)]/単位時間当たりの原料ガス中のCOモル数×100
以下、実施例及び比較例によりさらに具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、CO分析は、Active Carbon(60/80mesh)を分離カラムに用いた熱伝導度型ガスクロマトグラフ(TCD−GC)で行った。なお、原料ガスには、Arを内部標準として25vol%添加した合成ガス(HとCOの混合ガス)を用いた。COのピーク位置、ピーク面積をArと比較することで定性及び定量分析した。触媒の化学成分の同定はICP(CQM−10000P、島津製作所製)により求めた。
また、CH選択率は下記式により算出した。
CH選択率(%)=(単位時間当たりの出口ガス中のCHモル数)/{(単位時間当たりの原料ガス中のCOモル数)−(単位時間当たりの出口ガス中のCOモル数)}×100
実施例1
炭酸マンガンとして和光純薬工業製の炭酸マンガン(II)n水和物を使用した。
予め150℃で5時間乾燥した後、炭酸マンガン4.925gを秤量し、それに、水3.0gに塩化ルテニウム(小島化学製Ru Assay 40.79質量%)0.184gを溶解した水溶液を含浸させ、1時間放置した後、空気中、80℃で3時間乾燥し、その後150℃で3時間焼成し触媒Aを得た。
触媒AについてX線回折にて構造分析を行った結果、マンガンは炭酸マンガンを維持していた。また、ICPにて触媒Aの化学組成分析を行った結果、ルテニウムは金属換算で1.5質量%であった。
触媒A、2.4gを分散媒のノルマルヘキサデカン40ml(スラリー濃度7.2重量%)と共に内容積100mlの反応器に充填し、水素分圧0.9MPa・G、温度170℃、流量100(STP)ml/min(STP:standard temperature and pressure)で水素を触媒Aに接触させて3時間還元した。還元後、H/CO比約2の合成ガス(Ar約25vol.%含む)に切り換え、温度260℃、H+CO圧力0.9MPa・GにしてFT反応を行った。
W/F(weight/flow)[g・hr/mol]は約11g・hr/molであった。FT反応開始20時間後のCO転化率は約51.5%、CH選択率は約10.5%、100時間後のCO転化率は約50.2%であった。
実施例2
ルテニウムの含有量が3.0質量%となるように炭酸マンガン及び塩化ルテニウムの量を調節した以外は実施例1と同様にして触媒Bを得た。
ICPにて触媒Bの化学組成分析を行った結果、ルテニウムは金属換算で2.9質量%であった。この触媒Bを実施例1と同様の方法でFT反応に供した。FT反応開始20時間後のCO転化率は約70.9%、CH選択率は11.5%、100時間後のCO転化率は約70.3%であった。
実施例3
炭酸マンガンとして、実施例1と同様の和光純薬工業製の炭酸マンガン(II)n水和物を使用した。
予め150℃で5時間乾燥した後、炭酸マンガン4.5gを秤量し、それに、水3.0gに硝酸コバルト(和光純薬工業製Co(NO・6HO)2.463gを溶解した水溶液を含浸させ、1時間放置した後、空気中、80℃で3時間乾燥し、その後200℃で3時間焼成し触媒Cを得た。
触媒CについてX線回折にて構造分析を行った結果、マンガンは炭酸マンガンを維持していた。また、ICPにて触媒Cの化学組成分析を行った結果、コバルトは金属換算で10.1質量%であった。この触媒Cを実施例1と同様の方法でFT反応に供した。FT反応開始20時間後のCO転化率は約62.4%、CH選択率は約11.8%、100時間後のCO転化率は約60.1%であった。
実施例4
コバルトの含有量が30質量%となるように炭酸マンガン及び硝酸コバルトの量を調節した以外は実施例3と同様にして触媒Dを得た。
ICPにて触媒Dの化学組成分析を行った結果、コバルトは金属換算で30.2質量%であった。この触媒Dを実施例1と同様の方法でFT反応に供した。FT反応開始20時間後のCO転化率は約68.2%、CH選択率は約20.8%、100時間後のCO転化率は約67.1%であった。
実施例5
炭酸マンガンとして、実施例1と同様の和光純薬工業製の炭酸マンガン(II)n水和物を使用した。
予め150℃で5時間乾燥した後、炭酸マンガン4.425gを秤量し、それに、水3.0gに塩化ルテニウム(小島化学製Ru Assay 40.79質量%)0.184g及び硝酸コバルト(和光純薬工業製Co(NO・6HO)2.463gを溶解した水溶液を含浸させ、1時間放置した後、空気中、80℃で3時間乾燥し、その後200℃で3時間焼成し触媒Eを得た。
触媒EについてX線回折にて構造分析を行った結果、マンガンは炭酸マンガンを維持していた。また、ICPにて触媒Eの化学組成分析を行った結果、ルテニウムは金属換算で1.5質量%、コバルトは金属換算で10.1質量%であった。この触媒Eを実施例1と同様の方法でFT反応に供した。FT反応開始20時間後のCO転化率は約76.7%、CH選択率は約35.4%、100時間後のCO転化率は約76.2%であった。
比較例1
炭酸マンガンに代えて和光純薬工業製の酸化マンガン(III)(Mn)を使用した以外は実施例1と同様にして触媒Fを得た。
触媒FについてX線回折にて構造分析を行った結果、マンガンはMnであった。ICPにて触媒Fの化学組成分析を行った結果、ルテニウムは金属換算で1.6質量%であった。この触媒Fを実施例1と同様の方法でFT反応に供した。FT反応開始20時間後のCO転化率は約31.0%、CH選択率は約8.5%、100時間後のCO転化率は約23.1%であった。
比較例2
炭酸マンガンに代えて和光純薬工業製の酸化マンガン(II)(MnO)を使用した以外は実施例1と同様にして触媒Gを得た。
触媒GについてX線回折にて構造分析を行った結果、マンガンはMnOであった。ICPにて触媒Gの化学組成分析を行った結果、ルテニウムは金属換算で1.5質量%であった。この触媒Gを実施例1と同様の方法でFT反応に供した。FT反応開始20時間後のCO転化率は約11.2%、CH選択率は約7.2%、100時間後のCO転化率は約9.3%であった。
比較例3
炭酸マンガンに代えて富士シリシア化学製の球状シリカ(Q−30)を予め充分乾燥した後、4.925gを秤量し、それに、水6.06gに塩化ルテニウム(小島化学製Ru Assay 40.79質量%)0.184gを溶解した水溶液を含浸させ、1時間放置した後、空気中、80℃で3時間乾燥し、その後200℃で3時間焼成し触媒Hを得た。
ICPにて触媒Hの化学組成分析を行った結果、ルテニウムは金属換算で1.6質量%であった。この触媒Hを実施例1と同様の方法でFT反応に供した。FT反応開始20時間後のCO転化率は約15.7%、CH選択率は約16.6%、100時間後のCO転化率は約14.8%であった。
比較例4
炭酸マンガンに代えて酸化アルミニウム粉末(Pural SB, Condea製)を予め充分乾燥した後、4.925gを秤量し、それに、水4.43gに塩化ルテニウム(小島化学製Ru Assay 40.79質量%)0.184gを溶解した水溶液を含浸させ、1時間放置した後、空気中、80℃で3時間乾燥し、その後200℃で3時間焼成し触媒Iを得た。
ICPにて触媒Iの化学組成分析を行った結果、ルテニウムは金属換算で1.5質量%であった。この触媒Iを実施例1と同様の方法でFT反応に供した。FT反応開始20時間後のCO転化率は約30.2%、CH選択率は約21.0%、100時間後のCO転化率は約18.9%であった。
比較例5
炭酸マンガンに代えて富士シリシア化学製の球状シリカ(Q−30)を予め充分乾燥した後、4.5gを秤量し、それに、水5.54gに硝酸コバルト(和光純薬工業製Co(NO・6HO)2.463gを溶解した水溶液を含浸させ、1時間放置した後、空気中、80℃で3時間乾燥し、その後200℃で3時間焼成し触媒Jを得た。
ICPにて触媒Jの化学組成分析を行った結果、コバルトは金属換算で10.2質量%であった。この触媒Jを実施例1と同様の方法でFT反応に供した。FT反応開始20時間後のCO転化率は約36.2%、CH選択率は約43.5%、100時間後のCO転化率は約30.7%であった。
比較例6
コバルトの含有量が30質量%となるように球状シリカ、水及び硝酸コバルトの量を調節した以外は比較例5と同様にして触媒Kを得た。
ICPにて触媒Kの化学組成分析を行った結果、コバルトは金属換算で30.1質量%であった。この触媒Kを実施例1と同様の方法でFT反応に供した。FT反応開始20時間後のCO転化率は約61.6%、CH選択率は約50.7%、100時間後のCO転化率は約57.5%であった。
上記実施例1〜5及び比較例1〜6の実験結果を表1及び表2に示す。表1及び表2から、本発明の炭酸マンガン担体を用いた触媒は、従来のアルミナやシリカを担体とする触媒に比較してCO転化率が高く、また、ガス成分であるCHの生成割合が低いことが明らかである。さらに、本発明の触媒の性能は長時間安定的に発揮されることが分かる。また、本発明のこのような効果は、酸化マンガンの担体を用いたのでは認められず、炭酸マンガンの担体を用いることで発現していることが分かる。
Figure 0005553880
Figure 0005553880

Claims (5)

  1. 炭酸マンガンを主成分とする担体とフィッシャー・トロプシュ反応に活性を有する金属の少なくとも1種以上と溶媒とを共存させる工程、前記工程から溶媒を蒸散させる工程、および焼成する工程を含む、フィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法。
  2. 焼成温度が150〜300℃であることを特徴とする請求項1に記載のフィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法。
  3. フィッシャー・トロプシュ反応に対する活性を有する金属が、ルテニウム及びコバルトから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のフィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法。
  4. ルテニウムの含有量が触媒基準、金属換算で0.5〜5質量%であることを特徴とする請求項3に記載のフィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法。
  5. コバルトの含有量が触媒基準、金属換算で5〜40質量%であることを特徴とする請求項3に記載のフィッシャー・トロプシュ合成用触媒の製造方法。
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