JP5553258B2 - 脂肪酸アルキルエステルの製造方法 - Google Patents

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本発明は、油脂と脂肪族アルコールをエステル交換反応させて脂肪酸アルキルエステルを得る脂肪酸アルキルエステルの製造方法に関する。
従来から、内燃機関などの燃料として、灯油、軽油、重油などの化石液体燃料が用いられているが、近年、これら化石液体燃料資源の枯渇が問題となっている。また、これら化石液体燃料から発生するSOやNO、CO等の生成物が大気汚染の原因ともなっている。
そこで、近年においては、植物油や動物油等の再生産可能な原料(バイオマス)を用いた燃料が開発されている。例えば、バイオマスを用いた燃料の代表的なものであるバイオディーゼル燃料は、硫黄分や芳香族分を含まず、従来の石油液体燃料を用いた内燃機関と同じ内燃機関に使用することができるとともに、カーボンニュートラルであることから温室効果ガスを大幅に低減させることができる。
このようなバイオディーゼル燃料としては、通常、合成油、植物油および動物油等に含まれるトリグリセリドより合成された脂肪酸アルキルエステルが用いられている。このような脂肪酸アルキルエステルを製造する方法としては、例えば、トリグリセリドとメタノールをアルカリ触媒の存在下でエステル交換反応させる方法などがある(特許文献1参照)。
この方法は、先ず、トリグリセリドとメタノールを例えば水酸化ナトリウムの存在下で反応させて、主として脂肪酸アルキルエステルとグリセリンの反応混合物を得る。次いで、その反応混合物から脂肪酸アルキルエステルを精製するため、先ず脂肪酸アルキルエステルとグリセリンを相分離させ、脂肪酸アルキルエステルが含まれた軽液を分離する。次に、分離された軽液から含有されるメタノールを留去して粗脂肪酸アルキルエステルを得た後、粗脂肪酸アルキルエステルに塩酸などの酸水溶液を加えることで第1回目の洗浄を行い、さらに水を加えることによって第2回目の洗浄を行い、最後に加熱によって水分を除去して、脂肪酸アルキルエステルを得る。
特開平7−310090号公報
しかしながら、上記のように相分離を行う場合、その後に2度の洗浄工程及び加熱工程を必要とするため、精製処理に多工程・長時間を要するという問題がある。
そこで、本発明は、多工程・長時間を要せずに脂肪酸アルキルエステルを精製することが可能な脂肪酸アルキルエステルの製造方法を提供することを目的とする。
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ナトリウム系触媒又はカリウム系触媒の存在下での油脂と脂肪族アルコールのエステル交換反応の後、反応混合物に水溶性の酸を添加することによって、多工程・長時間を要せずに脂肪酸アルキルエステルを製造できることを見出した。すなわち、本発明は、油脂と脂肪族アルコールをナトリウム系触媒又はカリウム系触媒の存在下でエステル交換反応させて脂肪酸アルキルエステルを得る脂肪酸アルキルエステルの製造方法であって、前記エステル交換反応の後の反応混合物に、その反応混合物を軽液と重液に相分離して両者を隔離する前に水溶性の酸を添加する工程を備えたことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
以上のように、本発明によれば、多工程・長時間を要せずに脂肪酸アルキルエステルを製造することができることが可能な脂肪酸アルキルエステルの製造方法を提供することができる。
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、先ず、油脂と脂肪族アルコールをナトリウム系触媒又はカリウム系触媒の存在下でエステル交換反応させて、脂肪酸アルキルエステル、グリセリン及びナトリウム化合物又はカリウム化合物を含む反応混合物を得る。このナトリウム化合物又はカリウム化合物には、残存するナトリウム系又はカリウム系触媒の他に脂肪酸ナトリウム又は脂肪酸カリウムなどナトリウム系又はカリウム系触媒由来の物質などが含まれている。このエステル交換反応は、種々の反応態様で実施できる。例えば、バッチ式で行っても良く、連続式で行っても良い。また、このエステル交換反応は、反応中、均一に混合していても良いし、反応できる状態にある限り、二層に分離していても良い。二層に分離している場合には、例えば、攪拌下反応を行うことにより二層の接触面積を大きくすることにより、反応をさらに効率良く進めることができる。
次いで、前記エステル交換反応終了後、得られた反応混合物に、その反応混合物を軽液と重液に相分離して両者を隔離する前に水溶性の酸を添加する。軽液と重液の隔離は、反応混合物から重液を除去しても良いし、軽液を抽出しても良い。水溶性の酸は、軽液と重液の隔離の前であれば、エステル交換反応の直後の軽液と重液の相分離前に添加しても良く、後述するように攪拌しながら添加する場合は、エステル交換反応後に反応混合物が軽液と重液に相分離した後であっても良い。水溶性の酸を添加する際に、反応容器から反応混合物を別の容器に抜き出し、その反応混合物に水溶性の酸を添加してもよい。また、水溶性の酸の添加の際に、反応混合物を攪拌することが好ましく、反応混合物を特に冷却する必要はなく、その温度は、例えば、脂肪族アルコールがメタノールであれば、50〜70℃の範囲であることが好ましい。水溶性の酸の添加後は、この温度範囲で5〜30分程度反応混合物を攪拌することが好ましい。反応混合物は、静置又は遠心分離することにより、主として脂肪酸アルキルエステルが含まれる軽液(上相)と主としてグリセリンが含まれる重液(下相)に相分離されるが、上記のような操作により、短時間で、脂肪酸アルキルエステルに含まれるナトリウム又はカリウム化合物をグリセリンが含まれた重液に移動させることができる。本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法によれば、軽液のナトリウム又はカリウム含有量は、5ppm以下(EU規格内)である。
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、水溶性の酸は、水溶液の状態であることが好ましく、常温であっても、添加される反応混合物の温度に予め加熱しておいても良い。水溶性の酸としては、キレート剤が好ましく、多価有機酸がさらに好ましい。水溶性の酸としては、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、及びフィチン酸などの多価有機酸、グルコン酸、及び酢酸などの一価有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、及びリン酸などの無機酸などが挙げられる。水溶性の酸の添加量は、ナトリウム又はカリウムに対して1〜2倍当量、好ましくは1〜1.5倍当量、さらに好ましくは1〜1.2倍当量であり、水溶液中の水溶性の酸の濃度は、30質量%以下、さらに20質量%以下、特に20質量%以下5質量%以上であることが好ましく、水溶液中の水の量としては、油脂1kgに対して25〜200g、さらに25〜150gの範囲であることが好ましい。水の使用量が少ないとナトリウム又はカリウム化合物を効率良く除去することができず、水の使用量が多くなると相分離後の重液の処理が煩雑になる。
得られた軽液は、特に冷却することなく、熱を有効利用して含有される脂肪族アルコールを留去することが好ましい。この含有される脂肪族アルコールの留去の際は、例えば、メタノールを減圧下で70℃程度に加熱しても良い。この操作により沈殿がさらに析出する場合、ろ過等により除去することができる。また、含有される脂肪族アルコール留去に引き続いて軽液中の水分を同様に留去することもでき、その場合、析出する沈殿は、含有される脂肪族アルコール及び水分の留去後に除去することが好ましい。なお、水分も減圧下で留去することが好ましい。以上のようにして、金属含有量が5ppm以下のEU規格に適合する脂肪酸メチルエステル(BDF)を得ることができる。
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、油脂と脂肪族アルコールは、油脂に対して脂肪族アルコールが4〜150倍モルの割合で反応させることが好ましく、5〜50倍モルの割合で反応させることがさらに好ましい。また、触媒使用量は、油脂1kgに対するNaOH又はKOH量として0.5〜30gに相当する量であることが好ましい。
油脂と脂肪族アルコールを反応させる際の反応温度は、30℃以上が好ましい。例えば、常圧下で30℃からアルコールの沸点付近、好ましくは50℃から反応液の環流温度の範囲であれば良く、脂肪族アルコールがメタノールであれば、30〜70℃、好ましくは50〜70℃の範囲とすることができる。油脂と脂肪族アルコールを反応させる際の反応圧力は、0.1〜8MPaであることが好ましく、反応時間は、30分以上であることが好ましく、30分〜3時間であることがさらに好ましい。反応温度、反応圧力、反応時間、触媒添加量など各反応条件は、必要に応じて上記範囲により適宜選択できる。
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、前記油脂は、化1で表されるトリグリセリドを主として含む物質であり、植物油脂や動物油脂等の天然油脂に含まれるものや化学的に合成されたものなど様々のものを用いることができる。植物油脂としては、米油、菜種油、胡麻油、大豆油、パーム油、ヤシ油、綿実油、落花生油、椿油、亜麻仁油、オリーブ油、サフラー油、ヤトロファ油などがあり、動物油脂としては、牛脂、馬脂、羊脂、豚脂、魚油、鯨油、サメ類肝油などがある。また、これらの油脂が複数混合したもの、ジグリセリドやモノグリセリドを含む油脂、一部、酸化、還元等の変性を起こした油脂でも良い。また、未精製の油脂で、遊離脂肪酸や水分などを含有するものでも良いし、レストラン、食品工場、一般家庭などから廃棄される廃食油でも良いが、必要に応じて適切な前処理を行うことが好ましい。
Figure 0005553258
化1で表されるトリグリセリドは、R、R及びRが6〜24個の炭素原子を含有するものであれば良く、R、R及びRは、飽和脂肪族であっても良いし、モノ、ジ、トリ不飽和脂肪族であっても良い。さらに、R、R及びRはヒドロキシ基を含むものであっても良い。
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、脂肪族アルコールは、炭素数1〜6、特に炭素数1〜4の脂肪族低級アルコールであり、メタノールやエタノールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、ナトリウム系触媒としては、油脂と脂肪族アルコールのエステル交換反応の触媒として用いられるものであれば良く、例えば水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド等のナトリウムアルコキシドなどがある。カリウム系触媒としては、油脂と脂肪族アルコールのエステル交換反応の触媒として用いられるものであれば良く、例えば水酸化カリウム、カリウムメトキシド等のカリウムアルコキシドなどがある。
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において得られる脂肪酸アルキルエステルとしては、吉草酸、カプロン酸、エナトン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプテデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ぺペン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、プロピオール酸、ステアロール酸、ネルボン酸、リシノール酸、(+)−ヒドノカルビン酸、(+)−チャウルム−グリン酸などのエステルがあり、エステルのアルコール残基は、使用した脂肪族アルコールにより決まる。例えば、脂肪族アルコールとしてメチルアルコールを使用した場合にはメチルエステル、エチルアルコールを使用した場合には、エチルエステルが得られる。
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、従来のように二段の洗浄工程や加熱工程を必要とせず、水の使用量と廃水の発生量を大幅に低減できるとともに、熱を有効利用してエネルギー消費も低減できる。また、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法においては、相分離の際の静置時間を大幅に短縮して脂肪酸アルキルエステル中のナトリウム又はカリウム量を低減させることができる。
〔実施例1〕
撹拌機、還流冷却器、温水ジャケット付きの1L容セパラブルフラスコに、菜種油(理研農産化工製)750g、メタノール134g、及びナトリウム系触媒を入れ、撹拌下、65〜70℃で3時間エステル交換反応を行った。但し、ナトリウム系触媒は、水酸化ナトリウム2.78gをメタノール30gに予め溶解させたものを使用した。
得られた反応混合物の一部を採取してガスクロマトグラフィーにより分析したところ、脂肪酸メチルエステル、モノグリセリド、及びトリグリセリドの合計に対する脂肪酸メチルエステルの割合は99%であった。
反応終了後、反応混合物(約70℃)に10質量%クエン酸水溶液60g(Na1モルに対してクエン酸0.37モル)を撹拌下で添加し、その温度で5分間撹拌を続けた。その後、反応混合物をそのまま90分間静置して軽液と重液に相分離し、得られた軽液からメタノールを減圧留去し、その軽液を室温まで冷却して脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステル中のNa濃度(金属換算値)をICP発光分析により測定したところ、1質量ppm以下であった。
〔比較例1〕
クエン酸水溶液を添加しなかったほかは、実施例1と同様にして脂肪酸メチルエステルを得た。その結果、脂肪酸メチルエステル中のNa濃度は113質量ppmであった。
〔比較例2〕
反応混合物を以下のように処理したほかは、実施例1と同様にして脂肪酸メチルエステルを得た。即ち、反応終了後、反応混合物を90分間静置して軽液と重液に相分離し、得られた軽液に10質量%クエン酸水溶液60gを撹拌下で添加し、そのまま5分間撹拌を続けた。その後、反応混合物を90分間静置して油相(軽液)と水相に相分離し、軽液からのメタノール留去とその後の冷却を同様に行って脂肪酸メチルエステルを得た。その結果、脂肪酸メチルエステル中のNa濃度は21質量ppmであった。
〔実施例2〕
クエン酸水溶液を、5.2質量%シュウ酸水溶液60g(Na1モルに対してシュウ酸0.50モル)に変えたほかは、実施例1と同様にして脂肪酸メチルエステルを得た。その結果、脂肪酸メチルエステル中のNa濃度は1質量ppmであった
〔実施例3〕
クエン酸水溶液を22.7質量%グルコン酸水溶液60g(Na1モルに対してグルコン酸1.0モル)に変えたほかは、実施例1と同様にして脂肪酸メチルエステルを得た。その結果、脂肪酸メチルエステル中のNa濃度は1質量ppmであった。
〔実施例4〕
クエン酸水溶液添加後の反応混合物の静置時間を20分間に変えたほかは、実施例1と同様にして脂肪酸メチルエステルを得た。その結果、脂肪酸メチルエステル中のNa濃度は1質量ppmであった。
〔実施例5〕
クエン酸水溶液を1N塩酸水溶液93.6mL(Na1モルに対して塩酸1.0モル)に変えたほかは、実施例1と同様にして脂肪酸メチルエステルを得た。その結果、脂肪酸メチルエステル中のNa濃度は2質量ppmであった。

Claims (3)

  1. 油脂と脂肪族アルコールをナトリウム系触媒又はカリウム系触媒の存在下でエステル交換反応させて脂肪酸アルキルエステルを得る脂肪酸アルキルエステルの製造方法であって、
    前記エステル交換反応の後の反応混合物に、その反応混合物を軽液と重液に相分離して両者を隔離する前に水溶性の酸を添加する工程を備え
    前記水溶性の酸が、キレート剤であることを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
  2. 前記水溶性の酸を添加後、反応混合物を軽液と重液に相分離し、その後、軽液を隔離し、その軽液を冷却することなく、含有される脂肪族アルコールを留去することにより、脂肪酸アルキルエステルを精製する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
  3. 前記水溶性の酸がクエン酸、シュウ酸及びグルコン酸から選択される有機酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
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