JP5547235B2 - 試料破砕器具および試料破砕回収器具 - Google Patents

試料破砕器具および試料破砕回収器具 Download PDF

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Description

本発明は、棒状の杵部材と前記杵部材を挿入しうる臼部材とからなる試料破砕器具、前記試料破砕器具と試料回収容器とを備える試料破砕回収器具、および試料破砕方法に関する。
動物組織や植物組織に含まれる成分を分析するため、試料を均一に破砕し、含まれる成分を抽出することは一般的に行われる実験操作である。試料の粉砕には、従来から乳鉢や乳棒が使用されているが、容量が大きく、極く少量の試料や多種の試料を効率的に取り扱うには適しない。少量かつ多種の試料を効率的に破砕するものとして、破砕容器に特定の形状の破砕媒体を挿入し、前記破砕容器を8の字状に振動させて破砕容器内の試料を破砕する装置がある(特許文献1)。上記破砕機は、細長い破砕容器内に試料と共に、所定形状の破砕媒体を収納し8の字状の振動を加えるものであり、これによって破砕媒体が相対回転しながら破砕容器の底面に衝突し、この繰り返しによって破砕容器が乳鉢、破砕媒体が乳棒のように作用して試料が効果的に破砕される、という。
また、フィルタ部材を底部に装着した筒状体に試料と押圧部材とを挿入し、押圧部材を回転させることで試料を擦り潰し、前記押圧部材を押圧し、次いで前記筒状体と押圧部材とに遠心力を付加して試料をフィルタ部材を通過させて破砕する試料破砕器具もある(特許文献2)。上記発明によれば、押圧部材によって試料を押圧する工程を含むため、単に遠心力を付加して試料をフィルタ内に強制的に通過させて破砕するよりも破砕試料の回収率に優れ、かつ安全性に優れ複数の試料を同時に破砕できるため作業効率を向上させることがきる、という。
特許第3834554号公報 特許第3853794号公報
しかしながら、上記特許文献1記載の試料破砕機は、試料を破砕するために試料が収納された破砕容器を8の字状に振動させる必要があり、このような振動を与えうる特殊な破砕装置が必要となる。このことは、従来の装置で破砕できず、設備導入に費用と時間とが必要となることを意味する。更に、破砕媒体は、SUS430などの磁性ステンレス、SUS304などの硬質ステンレス、チタン、タングステン、ガラスなどからなり、再使用のための洗浄操作などが必要であり、混交が生じたり操作性が低下する場合がある。更に、破砕は、破砕容器内で破砕媒体が自重で落下する際の衝突による破砕に限定されるため、試料によっては十分な破砕が困難な場合がある。
一方、特許文献2記載の破砕方法は、底部に半径方向に伸びる突部が形成された押圧部材を回転させてフィルタ部材との間にある試料を擦り潰し、その後に遠心して擦り潰した試料をフィルタ部材で濾過して破砕するものであり、破砕対象の試料として、脳組織や肝臓組織などの比較的柔軟な組織の破砕に適する。しかも、プラスチック製であるから、使い捨てが可能で試料の混交を回避することができる。しかしながら、筋肉組織などの繊維の多い組織は、上記押圧部材の底部に形成された突部のみでは擦り潰しが十分でなく、たとえその後に遠心力を付加しても、フィルタ部材を通過して破砕することが困難で、破砕試料の回収率が低下する場合がある。
上記現状に鑑み、本発明は、混交を防止すべく使い捨てが可能であり、繊維などが多く含まれる組織試料であっても効率的に破砕しうる試料破砕器具、試料破砕回収器具、および前記器具を使用した試料破砕方法を提供することを目的とする。
本発明者は、従来の試料破砕器具について詳細に検討した結果、合成樹脂製であっても、臼部材と杵部材との接触面に粗面加工を行うことで試料を擂潰および破砕しうること、臼部材として底部を有する筒状体を使用すれば底部に破砕試料を回収できること、一方、臼部材として底部が開口し、前記開口部にフィルタ部材が装着されたものを使用すれば、擂潰試料に遠心力を付加してフィルタ部材を通過させることで試料を破砕でき、かつ未破砕の試料はフィルタ部材上に残るため両者の分離も容易に行えること、前記臼部材を試料回収容器に収納して遠心すれば、前記試料回収容器の底部に破砕試料が集積するため破砕試料の回収も容易であることを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、棒状の杵部材と、前記杵部材を挿入しうる臼部材とからなる試料破砕器具であって、前記杵部材は、杵部材本体の少なくとも一の端部に粗面加工されたテーパー部が形成され、前記臼部材は、底部が逆載頭円錐状に形成された筒状であり、前記逆載頭円錐状の載頭端部が開口し、前記開口した開口部に係止部材を介してフィルタ部材が配設され、前記杵部材を挿入した際に前記杵部材のテーパー部と載頭円錐状の接触面に粗面加工がなされ、前記杵部材の長手方向の中心線に対するテーパー角と、臼部材の長手方向の中心線に対する前記逆載頭円錐状の内壁の角度とが略同一であり、前記杵部材および臼部材に形成された粗面加工は、Rzが1〜300μmであることを特徴とする、試料破砕器具を提供するものである。
また本発明は、前記杵部材が、前記テーパー部に螺旋状の溝、および/または杵部材本体に螺旋状の突出部が形成されるものである、上記試料破砕器具を提供するものである。
また、本発明は、前記杵部材が、前記臼部材の内周より小径の跳ね返り防止部材が貫通している、上記試料破砕器具を提供するものである。
また、本発明は、上記試料破砕器具と、前記試料破砕器具を内部に収納しうる、筒状の試料回収容器とを備える試料破砕回収器具を提供するものである。
また、本発明は、更に、前記試料回収容器内で臼部材の回転が防止される機構を配設する、上記試料破砕回収器具を提供するものである。
本発明によれば、粗面加工がなされた杵部材と臼部材とによって試料を擂潰して破砕するため、繊維の多い組織でも破砕することができる。更に、臼部材が底部を有する筒状であり、前記底部に係止部材を介してフィルタ部材が配設されているものである場合には、擂潰した試料を更に前記フィルタ部材を通過させることで破砕し、かつ破砕が十分でない試料はフィルタ部材上に残存するため、十分に破砕された試料を簡便に分取することができる。
本発明の試料破砕回収器具は、筒状の試料回収容器が底部が逆載頭円錐状である場合には、少量の試料を効率的に破砕しおよび回収することが出来る。
本発明の試料破砕器具は、合成樹脂で製造することができるため従来の乳鉢や乳棒と比較して軽量であり、操作性に優れる。しかも、安価に製造できるため単回使用が可能であり、試料の混交を効率的に回避することができる。
臼部材本体の底部が逆載頭円錐状に形成された筒状の臼部材と、破砕端部がテーパーに成形された棒状の杵部材とからなる本発明の試料破砕器具を説明する図である。 底部の逆載頭円錐状の載頭端部が開口し、前記開口部に係止部材が配設され、かつ前記係止部材を介してフィルタ部材が固定される臼部材と、破砕端部がテーパーに成形された棒状の杵部材とからなる本発明の試料破砕器具を説明する図である。なお、図2Cは、臼部材の底面図である。 図2に示す臼部材と杵部材とからなる試料破砕器具と、筒状の試料回収容器と組み合わせてなる、本発明の試料破砕回収器具を説明する図である。 本発明の試料破砕器具を構成する杵部材の他の態様を説明する図である。 本発明で使用する杵部材の他の態様を説明する図である。 本発明で使用する杵部材の回転を補助しうる破砕補助具を説明する図である。 本発明の試料破砕回収器具の他の態様を説明する図であり、図7Aはスクリューキャップが配設された試料回収容器を、図7Bは図7Aの試料回収容器に本発明の試料破砕器具を挿入する態様を示す側面図である。また、図7Cは、挿入後の試料破砕回収器具の状態を説明する図であり、図7Dは更に、スクリューキャップを装着した後の状態を説明する図であり、左側に断面図を右側に側面図を示す。 本発明の試料破砕回収器具における、試料回収容器と本発明の試料破砕器具との組み合わせを説明する図である。
本発明の第一は、棒状の杵部材と、前記杵部材を挿入しうる臼部材とからなる試料破砕器具であって、前記杵部材は、杵部材本体の少なくとも一端の表面が粗面加工された擂潰部を有し、前記臼部材は、底部を有する筒状であり、前記底部は、前記杵部材を挿入した際に前記擂潰部と略同形であり、前記臼部材の内壁は、前記擂潰部との接触面に粗面加工がなされたことを特徴とする、試料破砕器具である。前記擂潰部は、テーパー状であってもよい。擂潰部がテーパー状である場合、前記臼部材は、底部が逆載頭円錐状に形成された筒状であり、前記杵部材を挿入した際に前記杵部材のテーパー部と載頭円錐状の接触面に粗面加工がなされ、前記杵部材の長手方向の中心線に対するテーパー角と、臼部材の長手方向の中心線に対する前記逆載頭円錐状の内壁の角度とが略同一であることが好ましい。前記粗面によって、杵部材の擂潰部と臼部材の粗面加工部とを押圧および擂潰することで臼部材に収納した試料を破砕することができる。更に、前記臼部材は、前記逆載頭円錐状の載頭端部が開口し、前記開口部に係止部材を介してフィルタ部材が配設された筒状体であってもよい。
また、本発明の第二は、逆載頭端部の載頭端部が開口し、前記開口部に係止部材を介してフィルタ部材が配設された上記試料破砕器具と、前記試料破砕器具を内部に収納しうる、筒状の試料回収容器とを備える試料破砕回収器具である。
また、本発明の第三は、臼部材と杵部材とからなる試料破砕器具を用いて試料を破砕する方法であって、
前記杵部材が、杵部材本体の少なくとも一の端部に粗面加工されたテーパー部が形成された棒状の杵部材であり、前記臼部材が、底部が逆載頭円錐状であって、前記逆載頭円錐状の載頭端部が開口し、前記開口した開口部に係止部材を介してフィルタ部材が配設され、前記杵部材を挿入した際に前記杵部材のテーパー部と前記逆載頭円錐状と接触する面に粗面加工がなされている筒状の臼部材であって、前記臼部材に、試料と前記杵部材とを挿入し、前記杵部材を押圧および回転させて前記杵部材の粗面加工と前記臼部材の粗面加工との間で試料を擂潰し、前記擂潰した試料に遠心力を付加して前記フィルタ部材を通過させて破砕する、試料破砕方法である。
以下、図面を参照して本発明を説明する。
(1)試料破砕器具および試料破砕回収器具
(i)試料破砕器具
本発明の試料破砕器具は、棒状の杵部材と、前記杵部材を挿入しうる臼部材とからなる試料破砕器具である。
前記杵部材は、棒状であり、杵部材本体の少なくとも一端の表面が粗面加工された擂潰部を有する。また、前記臼部材は、底部を有する筒状であり、前記底部は、前記杵部材を挿入した際に前記擂潰部と略同形であり、前記臼部材の内壁は、前記擂潰部との接触面に粗面加工がなされている。
以下、便宜のため、特に断らない限り、杵部材の擂潰部がテーパー状に形成された試料破砕器具で本発明を説明する。図1は、本発明の試料破砕器具の好適な態様の一例である。図1Aは杵部材(P)、図1Bは臼部材(M)の正面図である。図1に示すように、杵部材(P)は、棒状の杵部材本体(10)の少なくとも一の端部に擂潰部がテーパー(11)に形成されたものである。一方、前記臼部材(M)は、臼部材本体(20)の底部が逆載頭円錐状に形成された筒状体である。本発明では、図1Bの臼部材(M)に代えて、上端フランジ(27)にヒンジ(28)を介して蓋部(29)が連設されるものを臼部材(M)として使用することができる。この態様を図1Cに示す。
本発明では、前記杵部材(P)の長手方向の中心線(Ca)に対するテーパー角(θa)と前記臼部材(M)の長手方向の中心線(Cb)に対する前記逆載頭円錐状の内壁の角度(θb)とは略等しく構成されており、前記杵部材(P)を臼部材(M)に挿入すると、臼部材(M)の内周と前記杵部材(P)の前記テーパー(11)の外周とが接触し、杵部材(P)を回転すると両者が摺接することができる。この際、本発明では、杵部材(P)の前記テーパー部(11)の外周に粗面加工(Ra)がなされ、かつ臼部材(M)の内壁であって、前記杵部材(P)を収納した際にテーパー部(11)と接触する部分にも粗面加工(Rb)がなされているため、臼部材(M)に試料を投入し、その上部から杵部材(P)を挿入して押圧および回転すると、前記杵部材(P)の粗面(Ra)と臼部材(M)の粗面(Rb)との間で試料を擂潰し、破砕することができる。
更に、本発明の試料破砕器具は、前記擂潰部のテーパーに対応して、臼部材(M)の底部が逆載頭円錐状であるため、少量の試料でも底部から容易に回収することができる。なお、破砕された試料を回収するには、杵部材(P)を臼部材(M)に挿入したまま破砕した試料と共に遠心し、臼部材(M)の底部に破砕試料を集積した後に回収してもよい。遠心力によって破砕試料が底部に積層するため、目減りなく試料を回収することができる。
本発明の試料破砕器具で使用する臼部材(M)は、図2Bの断面図、図2Cの底面図に示すように、底部の前記逆載頭円錐状の載頭端部が開口し、前記開口部に係止部材(23)が配設され、かつ前記係止部材(23)を介してフィルタ部材(25)が固定されるものであってもよい。図1と同様に、臼部材(M)に投入した試料を杵部材(P)で押圧および回転して破砕することができるからである。なお、フィルタ部材(25)の上部にある破砕試料は、薬匙などで掻き取って回収できるが、臼部材(M)に杵部材(P)を挿入したまま両者を試験管などに収納し、遠心力を付加すれば、試料を遠心力によってフィルタ部材(25)を通過させて破砕させることができる。未破砕の試料はフィルタ部材(25)上に残るため、破砕試料の分離も容易であり、かつ破砕試料がフィルタ部材(25)を通過して試験管の底部に集積するため、破砕試料の回収も容易に行うことができる。しかも、臼部材(M)として、載頭端部にフィルタ部材(25)が固定されたものを使用する場合は、フィルタ部材(25)の孔径を適宜選択することで、試料の破砕の程度を調整することができる。なお、図2Aは、杵部材(P)の縦断面図であり、図2Bは臼部材(M)の縦断面図である。
(ii)試料破砕回収器具
本発明の試料破砕器具は、図3Aに示すように、杵部材(P)と、底部に係止部材(23)を介してフィルタ部材(25)が固定された臼部材(M)と共に、筒状の試料回収容器(R)と組み合わせて、図3Bに示す試料破砕回収器具としたものである。図3Bは、試料回収容器(R)に底部に係止部材(23)を介してフィルタ部材(25)が固定された臼部材(M)を装着し、前記臼部材(M)に杵部材(P)を挿入した試料破砕回収器具の断面図である。前記臼部材(M)の底部に試料通過性のフィルタ部材が配設されるため、遠心力によって試料を臼部材から試料回収容器(R)に移行させることができる。杵部材(P)を押圧、回転して試料を擂潰して破砕した場合には、破砕試料を臼部材(M)のフィルタ部材(25)の上から回収することができるが、破砕後に臼部材(M)を試料回収容器(R)に挿入して遠心すれば、試料回収容器(R)の底部に破砕試料を集積させることができる。専用の試料回収容器(R)を使用するため、予め試料回収容器に臼部材(M)を装着して杵部材(P)によって擂潰操作を行うことができ、擂潰後に試料破砕回収器具を遠心することで、試料をフィルタ部材を通過させて破砕することができる。
本発明の試料破砕器具や試料破砕回収器具において、これらのサイズに特に限定はないが、例えば臼部材(M)の容量は、0.1〜100mlであることが好ましく、より好ましくは0.5〜80ml、特に好ましくは1〜50mlである。口径や長さなどは、上記範囲で適宜選択することができる。本発明によれば、少量の試料を効率的に破砕し、かつ破砕試料を簡便に回収することができる。
本発明の試料破砕器具や試料破砕回収器具で破砕しうる試料としては、脳組織や肝臓組織などの比較的柔軟な組織から、筋繊維を含む動物組織、植物の葉、茎、根、種、昆虫、魚、貝類、細菌、酵母などを例示することができる。
(2)杵部材
本発明で使用する杵部材(P)は、棒状であって、両端部をそれぞれ破砕端部、把持端部と称すれば、破砕端部が擂潰部となる。
杵部材は、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアセタール、ポリフッ化エチレン、ポリカーボネートなどの合成樹脂で構成することができる。また、円柱状の破砕補助具は、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリフッ化エチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などの合成樹脂を例示することができる。
従来から、試料の破砕には粗面加工がなされた乳鉢や乳棒が使用されてきたが、重量が重くかつ高価であった。しかしながら合成樹脂製の乳鉢や乳棒は存在しない。本発明では、合成樹脂製の杵部材(P)や臼部材(M)であっても、粗面加工(R)を行うことで筋肉組織などの繊維を多く含む組織を破砕しうることを見いだしたものである。
また、従来の破砕器具である乳棒は、端部が略球体形に加工され、乳鉢への押圧や摩擦移動によって試料を擂潰し破砕するものであった。しかも、乳棒は、略球体部を中心として握り棒の先端が円を描くように動かすため、大量の試料を破砕するには好適であるが、少量の試料を破砕すると広い略球体形の端面に破砕試料が広がるため回収が容易でない。しかしながら、本発明で使用する杵部材(P)は、擂潰部が破砕端部がテーパー状に加工されている場合には、杵部材(P)を長手方向の中心軸を基点に回転させることで試料を簡便に破砕することができる。
杵部材(P)の長手方向の中心線に対する前記テーパーの角度(θa)は、5〜85°であり、より好ましくは5〜60°、特に好ましくは5〜30°である。特に、このテーパー角(θa)と前記した臼部材(M)の逆載頭円錐状の内壁の角度(θb)とは、同一であるか、θb>θaであることが好ましい。なお、θb>θaの場合に、θbとθaとの差は0〜20°、より好ましくは0〜5°、特に好ましくは1〜3°である。θbとθaとの差が20°を超えると、杵部材を回転させても、臼部材の内壁との接触面積が少ないため、破砕効果が低減する場合がある。一方、θb<θaの場合は、杵部材が臼部材の逆載頭円錐状に挿入できず、十分な破砕操作を行うことができない場合がある。
本発明では、上記した合成樹脂製の杵部材のテーパーに粗面加工がなされる。粗面加工の程度は、JIS B0601(2001)の最大高さ(Rz)が、1〜300μm、好ましくは5〜200μm、特には10〜100μmである。粗面加工における最大高さ(Rz)は、臼部材と同一であっても異なっていてもよい。このような粗面加工は、プラズマ処理、エッチングやサンドブラスト等の一般的なディンプル加工、シボ加工技術によって行うことができる。
なお、粗面加工は、載頭円錐状の破砕端部のテーパー部(11)に限定されず、載頭端部やテーパー部(11)より上部にも形成されるものであってもよい。破砕操作は、杵部材(P)の押圧、回転によって行われるため、載頭端部に粗面加工がなされていれば破砕効率をさらに向上させることができる。
本発明において、杵部材(P)のテーパー部(11)は、臼部材(M)の内壁の粗面加工と相まって試料を破砕するものであり、そのサイズは、臼部材(M)のサイズに対応して適宜選択することができる。
本発明で使用する杵部材(P)は、図4Aに示すように、破砕端部に、杵部材の端部に向かって短径となるテーパー(11)が形成される態様であってもよく、図4Bに示すように、細い杵部材本体(10)の破砕端部が膨大し、前記膨大部がテーパー(11)を形成するものであってもよい。図4Cに示すように、前記臼部材(M)の内周より小径であって、杵部材(P)の中心線(Ca)と同心円の跳ね返り防止部材(13)が貫通するものであってもよい。更に、前記跳ね返り防止部材(13)は、複数の梁(13a)によって杵部材本体(10)に固定されるものであってもよい。このような跳ね返り防止部材(13)が装着されると、破砕操作時の試料のはね返りを効率的に防止することができる。特に、病原性の試料を扱う場合など、破砕試料の逆流を防止することで、実施者の安全を確保でき、周辺環境への汚染を回避することができる。前記跳ね返り防止部材(13)のサイズは、杵部材(P)を臼部材(M)に収納した際に、臼部材(M)の内部に収納されるものであることが好ましい。臼部材(M)の内壁と跳ね返り防止部材(13)の外周とによって、臼部材(M)に挿入した杵部材(P)を略中央に維持することができる。
前記したように、杵部材は、棒状であり、杵部材本体の少なくとも一端の表面が粗面加工された擂潰部を有すれば、その形状に制限はない。たとえば図5Aに示すように、杵部材の端部を円弧に形成したものや、図5Bに示すように、杵部材の端部に杵部材の直径よりも大径の球形部を配設したものなどであってもよい。粗面加工部をドットのハッチングで示す。更に、本発明で使用する杵部材(P)は、前記擂潰部の表面に螺旋状の溝(15)が形成されるものであってもよい。図5Cにテーパーの細端から太端に向かって右上がりに回転する螺旋状の溝(15)が形成される場合、この杵部材(P)を矢印のように回転させると杵部材(P)の回転に従って試料がテーパー細端部に向かうため、試料を臼部材(M)の底部側に移行させ、効率的に破砕を行うことができる。また、前記螺旋状の溝(15)に代えて、または螺旋状の溝(15)に加えて、杵部材本体(10)に螺旋状の突出部(16)が形成されるものであってもよい。図5Dに、杵部材(P)に跳ね返り防止部材(13)が配設される場合であって、テーパー部に螺旋状の溝(15)を、テーパー部を超えて跳ね返り防止部材(13)の下端までに螺旋状の突出部(16)が形成される態様を示す。螺旋状の突出部(16)も、杵部材(P)の回転に従って試料がテーパー細端部に向かうように、突出部(16)がテーパー部の細端部側に傾斜するものであってもよい。
なお、杵部材(P)は、図2Aに示す円柱状に限定されず、図5Eに示すように、中空で形成されるものであってもよい。
杵部材(P)の把持端部は、使用者が杵部材(P)を回転させやすいように周方向に等分割されたローレットが形成され、または多角柱状に成形されるものであってもよい。持端部は、杵部材(P)の回転を補助する別体の破砕補助具が装着されるものであってもよい。このような破砕補助具としては、例えば、図6Aに示すように中空かつ太径の円柱状物(D)を例示することができる。この円柱状物(D)の中空部(Dc)を杵部材本体(10)に貫通させ、前記円柱状物を把持して破砕すれば、把持が容易で回転操作を容易に行えるため、多数の試料の破砕を円滑に行うことができる。このような円柱状の破砕補助具は、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリフッ化エチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などの合成樹脂を例示することができる。また、図6Bに示すように、円柱状物(D)と直交する把持部(H)が形成されたものであってもよい。更に、杵部材を回転させる電動式の装置などであってもよい。
(3)臼部材
本発明で使用する臼部材(M)は、底部を有する筒状であり、前記底部は、前記杵部材を挿入した際に前記擂潰部と略同形であり、前記臼部材の内壁は、前記擂潰部との接触面に粗面加工がなされたものである。杵部材(P)がテーパー状である場合には、臼部材は、底部が逆載頭円錐状に形成された筒状の臼部材本体(20)を有し、かつ前記杵部材を挿入した際に前記杵部材(P)のテーパー部(11)が載頭円錐状と接触する部分に粗面加工(Rb)がなされたものとなる。
(i)材質および表面加工
臼部材(M)は、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフッ化エチレン、ポリカーボネートなどの合成樹脂で構成することができる。材質は、杵部材(P)と同一であっても異なっていても良い。合成樹脂製の臼部材(M)に粗面加工(Rb)を行うことで、筋肉組織などの繊維を多く含む組織を破砕しうることが判明した。
前記臼部材本体(20)の底部は、杵部材(P)の擂潰部がテーパー状である場合は、逆載頭円錐状である。杵部材(P)を挿入すると、その先端のテーパー部(11)が臼部材本体(20)の逆載頭円錐状の部分まで嵌入され、投入された試料が破砕される箇所となる。効率的な破砕を可能とするため、臼部材(M)の長手方向の中心線(Cb)に対する前記逆載頭円錐状の内壁の角度(θb)は、5〜85°であり、より好ましくは5〜60°、特に好ましくは5〜30°である。従来の乳鉢と乳棒による試料破砕では、乳棒の粗面部を乳鉢の底部に当接し、この状態で乳鉢の底部を擦りながら乳棒を移動させるため、乳鉢の底部は略円球形のものが一般的であった。しかしながら、本発明の試料破砕器具は少量の試料を効率的に破砕することを目的とするものであり、杵部材をその長手方向の中心軸に対して回転させることで効率的に破砕しうるものである。このため、底部を逆載頭円錐状とし、前記角度(θb)を5〜85°とした。5°を下回ると、臼部材の内容量を大きくすることが困難で多量の試料を破砕することができず、一方、85°を超えると杵部材(P)の押圧や回転による破砕が困難となる場合がある。
本発明では、前記逆載頭円錐部状の内壁に粗面加工がなされることを特徴とする。粗面加工の程度は、JIS B0601(2001)の最大高さ(Rz)が、1〜300μm、好ましくは5〜200μm、特には10〜100μmである。1μmを下回ると試料の擂潰が容易でなく、一方、300μmを超えると破砕操作中に研磨された突部が試料に混入する場合があり好ましくない。このような粗面加工は、プラズマ処理、エッチングやサンドブラスト等の一般的なディンプル加工、シボ加工技術によって行うことができる。
臼部材(M)の粗面加工は、杵部材(P)を摺動させ試料を擂潰により破砕する目的でなされる。従って、臼部材(M)の内壁における粗面加工(Rb)の範囲は、少なくとも杵部材(P)との摺動部に形成されるものである。本発明において「摺動部」とは、杵部材(P)を臼部材(M)に挿入し、試料破砕のために杵部材(P)を押圧または回転した際に杵部材(P)の擂潰部の外周と臼部材(M)とが接触する部分を意味する。たとえば、擂潰部がテーパー状である場合、杵部材(P)を臼部材(M)に挿入した際に杵部材(P)のテーパー部(11)とが接触する部分に限定されない。ただし、十分に破砕できれば杵部材(P)との摺動部よりも面積を少なくして、前記摺動部の一部にのみ限定して粗面加工を行ってもよい。粗面加工により臼部材における内容物の視認性が低下するため、粗面加工の面積を低減することで破砕状態の確認を容易に行うことができる。
臼部材(M)の底部は、杵部材(P)を挿入した際に前記擂潰部と略同形となるように成形される。従って、杵部材(P)が図5A、図5Bに示すように、円弧や球形である場合には、これに対応して臼部材(M)の底部も円弧状となる。このような態様においても、杵部材(P)を臼部材(M)に挿入し、試料破砕のために杵部材(P)を押圧または回転した際に杵部材(P)の擂潰部の外周と臼部材(M)とが接触する部分が「摺動部」となり、粗面加工が形成される。
なお、本発明で使用する臼部材(M)の形状は、図1B、図1Cに示すように、底部が閉鎖するもの(以下、閉鎖底臼部材(M1)とも称する。)の他、図2Bに示すように、底部の載頭端部が開口し、係止部材(23)が配設され、前記係止部材(23)を介してフィルタ部材(25)が固定されるもの(以下、フィルタ底臼部材(M2)とも称する。)であってもよい。
(ii)フィルタ部材
フィルタ部材(25)は、フィルタ底臼部材(M2)の内径より僅かに大きい外径を有し、臼部材(M2)の内周面の係止部材(23)の上に嵌着される。フィルタ部材(25)は、軸直交断面の直径が1〜300μmの貫通孔が設けられた厚み1〜3mmのポリプロピレン製又はガラス製の硬質フィルタである。貫通孔のサイズを適宜選択することで、試料の破砕の程度を調整することができる。また、破砕目的に応じてポアサイズの異なる複数枚のフィルタを重層してもよい。なお、フィルタ部材(25)は市販品を使用することもできる。例えば、ポリプロピレン製フィルタとしては、ドイツのポーレックス(POREX)社製フィルタを使用することができ、ガラス製フィルタとしては、柴田科学社製フィルタなどを使用することができる。
(iii)他の構成
臼部材(M)は、底部にフィルタ部材(25)が配設されるか否かに対応して異なる破砕方法を選択することができる。このため、図1Bに例示されるフィルタ部材のない閉鎖底臼部材(M1)と、図2Bに例示されるフィルタ部材が固定されたフィルタ底臼部材(M2)とに分けて臼部材(M)の他の構成を説明する。
閉鎖底臼部材(M1)は、試料を投入して杵部材(P)により破砕すると、破砕試料が臼部材(M1)の底部に集積する。臼部材(M1)は、杵部材(P)を取り出せば、そのまま試料保存容器として使用することが出来る。従って、例えば図1Cに示すように、臼部材(M1)の上部フランジ(27)にヒンジ(28)を介して蓋部(29)を連設することが好ましい。これにより、破砕後の試料に含まれる水分の蒸発を防止でき、夾雑物の混入を回避することができる。また、臼部材(M1)には、内容量を示すメモリを設けることもできる。
一方、フィルタ底臼部材(M2)は、底部の載頭端部が開口し、かつ係止部材(23)が配設されることを特徴とする。前記図2Cに示す底面図では、フィルタ底臼部材(M2)の底面に十文字の係止部材(23)が配設される態様を示すが、フィルタ部材(25)を固定できれば十文字に限定されるものではない。載頭端部が開口しかつフィルタ部材(25)が固定できればよく、例えば、係止部材(23)が編目状に形成されるものでも、開口部が複数の水玉状に形成されるように、係止部材(23)が配設されるものなどであってもよい。更に、前記係止部材(23)は、装着するフィルタ部材(25)を固定できれば、臼部材本体(20)と一体成形されるものでも、別体からなる係止部材(23)を固設するものでもよい。
本発明で使用する臼部材(M2)は、予め試料回収容器(R)に挿入して破砕操作を行うことができる。前記試料回収容器への位置決め固定や使用後の試料回収容器からの取り出しを容易に行えるように、臼部材(M2)の上端にはフランジ(27)が一体成形されることが好ましい。フランジ(27)の底面を試料回収容器(R)のフランジ(37)に係止して破砕操作を行うことができ、破砕操作終了後に試料回収容器から容易に取り出すことができる。
本発明の試料破砕回収器具は、前記試料回収容器内で臼部材(M2)の回転が防止される機構を配設することが好ましい。たとえば、試料回収容器(R)が、図3Aに示すように、フランジ(37)にヒンジ(38)を介して蓋部(39)が連設される場合には、臼部材(M2)に前記ヒンジ(38)に係合しうる爪状固定部(27a)を配設し、これを回転防止機構とすることができる。図3Cに、臼部材(M2)のフランジ(27)に、フランジ(27)の周上に所定距離だけ隔離して下端方向へ伸びる1対の爪状固定部(27a)を示す。爪状固定部(27a)を試料回収容器(R)のヒンジ部(38)の両端に係止すれば臼部材(M2)を試料回収容器に位置決め固定することができ、破砕操作の際に臼部材(M2)が試料回収容器内で回転することを回避し、安定した破砕操作を行うことができる。このような回転防止機構は、試料回収容器(R)に応じて適宜選択することができる。たとえば、図7Aに示すようなねじ式蓋部(33)を装着するスクリュー容器(30)を試料回収容器(R)として使用する場合には、ねじ式蓋部(33)の中央に杵部材(P)の貫通孔(33a)を形成することで臼部材(M2)の回転を防止することができる。図7Bに示すように、スクリュー容器(30)に試料を収納した臼部材(M2)と杵部材(P)とを挿入し、図7Cに示すように杵部材(P)の端部から、ねじ式蓋部(33)の貫通孔(33a)を貫通させ、次いで、図7Dに示すように、ねじ式蓋部(33)をスクリュー容器(30)に羅着する。ねじ式蓋部(33)の羅着により、臼部材(M2)がスクリュー容器(30)の上端に押圧され、臼部材(M2)の回転を防止することができる。
更に、図8Aに示すように、スクリュー容器(30)の上端に楔型の溝部(30b)を形成し、臼部材(M2)のフランジ(27)下端に前記楔型の溝部(30b)と嵌合しうる楔状の突起部(27b)とを形成してもよい。図8Bに示すようにスクリュー容器(30)に、臼部材(M2)を挿入すると、図8Cに示すように、楔型の溝部(30b)と突起部(27b)とが嵌合し、更に効率的に臼部材(M2)の回転を防止することができる。なお、スクリュー容器(30)の内部で臼部材(M2)の回転が防止できればよく、突起や溝の形状は、楔状に代えて方形や円弧であってもよく、これらの数も一箇所に限定されず、複数が配設されるものであってもよい。
更に、回転防止機構としては上記に限定されず、たとえば、前記蓋部に形成された螺旋部と同じ螺旋部を臼部材(M2)の上端フランジ(27)の外周に一体に形成し、試料回収容器(R)に蓋部を装着すると同様にして前記筒状体を装着させ、このような螺旋部を回転防止機構とすることもできる。
(4)試料回収容器
試料破砕回収器具には、前記試料破砕器具に、前記試料破砕器具を内部に収納することができ、かつ筒状の試料回収容器(R)が配設される。前記試料破砕器具と試料回収容器(R)とを一組とすることで、破砕試料を試料回収容器(R)に直接回収することが可能となり、破砕操作および試料の回収を容易かつ安全に行うことができる。
試料回収容器(R)は、前記杵部材(P)と臼部材(M)とからなる前記試料破砕器具を収納できる筒状であればよい。蓋部は無くてもよいが、内容物の遺漏防止などのため、配設されることが好ましい。底部は、好ましくは、逆載頭円錐状、半円状などの底部の中央が凹状に窪んでいるものである。破砕試料を中央部に集積することができる。なお、試料回収容器(R)の底部が逆載頭円錐状の場合は、試料破砕器具が収納できるように、試料回収容器の前記逆載頭円錐状の内壁の角度を選択する。
試料回収容器の内容量は、前記した臼部材(M)の内容量に対応して適宜選択することができる。なお、試料回収容器(R)には、内容量を示す目盛りが筒状体(30)に配設されるものであってもよい。更に、試料破砕後に試料保存容器として使用できるため、図3に示すように筒状体(30)の上端にヒンジ(38)を介して蓋部(39)が連設されることが好ましい。なお、図3とは異なるが、ねじ式の蓋部を装着するものであってもよい。なお、試料回収容器(R)としては、市販のマイクロチューブや、ねじ式蓋部が装着される試験管やスクリュー容器などを使用することもできる。
(5)試料破砕方法
本発明の試料破砕器具を使用すれば、筋繊維などの組織からなる試料を、少量であっても効率的に破砕することができる。前記したように、フィルタ部材(25)の有無に対応して破砕試料の回収方法も異なるため、閉鎖底臼部材(M1)と、フィルタ底臼部材(M2)とに分けて説明する。
(i)閉鎖底臼部材(M1)を使用する場合
臼部材(M)として閉鎖底臼部材(M1)を使用する場合は、臼部材(M1)のフランジ(27)側から試料を挿入し、さらに杵部材(P)を挿入し、杵部材(P)を押圧回転して試料を破砕する。破砕操作は、試料に緩衝液や生理食塩水を添加して行ってもよい。破砕試料は、臼部材(M1)の内壁や杵部材(P)のテーパー部(11)に付着しているため、付着する破砕試料を杵部材(P)で掻き取り回収することができる。また、破砕試料に緩衝液を添加して懸濁液として回収してもよい。更に、破砕後に臼部材(M1)に杵部材(P)を挿入した状態で遠心装置などで遠心力を付加し、破砕試料を閉鎖底臼部材(M1)の底部に集積させてもよい。杵部材(P)を抜き取れば、臼部材(M1)に直接に、破砕試料を回収することができる。この際、臼部材(M1)の上部に蓋部(29)が配設される場合には、蓋部で臼部材(M1)の開口部を密封し、破砕試料に夾雑物が混入することを防止したり内容物の乾燥を回避することができる。
(ii)フィルタ底臼部材(M2)を使用する場合
臼部材(M)としてフィルタ底臼部材(M2)を使用する場合は、予め、係止部材(23)を介してフィルタ部材(25)が固定された臼部材(M2)を試料回収容器(R)に装着し、臼部材(M2)に試料と杵部材(P)とを挿入して破砕を行うことができる。臼部材(M2)が上端にフランジ(27)を有するものであれば、試料回収容器(R)のフランジ(37)の上部に前記フランジ(27)の下面を載置することで、試料回収容器(R)の底部と臼部材(M2)の底部とを密着させることなく試料回収容器(R)内にフィルタ底臼部材(M2)を装着させることができる。また、臼部材(M2)のフランジ(27)に一対の爪状固定部(27a)が配設される場合には、試料回収容器(R)のヒンジ(38)の両端に前記一対の爪状固定部(27a)を係止することで、臼部材(M2)を試料回収容器(R)内に位置決め固定することができる。この位置決め固定により臼部材(M2)の試料回収容器(R)内での回転が回避されるため、効率的に破砕操作を行うことができる。
破砕操作は、臼部材(M1)を使用する場合と同様であり、試料に緩衝液や生理食塩水を添加して行ってもよい。破砕試料は、臼部材(M2)の内壁や杵部材(P)のテーパー部(11)に付着しているため、付着する破砕試料を杵部材で掻き取り回収することができる。また、破砕試料に緩衝液を添加して懸濁液として回収してもよい。更に、破砕後に臼部材(M2)に杵部材(P)を挿入した状態で遠心装置などで遠心力を付加し、破砕試料をフィルタ部材(25)を通過させ、試料回収容器(R)の底部に集積させれば、臼部材(M2)と共に杵部材(P)を取り出すことで、試料回収容器(R)に直接、破砕試料を回収することができる。この際、試料回収容器(R)の上部に蓋部(39)が配設される場合には、蓋部で試料回収容器(R)の開口部を密封し、破砕試料に夾雑物が混入することを防止し、および内容物の乾燥を回避することができる。フィルタ部材(25)を介するため、フィルタ部材の通過によって破砕試料を更に破砕することができ、同時にフィルタ部材(25)によって破砕試料と未破砕の試料とを容易に分離することができる。
なお、臼部材(M2)を用いる場合も前記臼部材(M1)と同様に、試料回収容器(R)を使用する事なく杵部材(P)を押圧回転することで試料を破砕し、杵部材(P)やその他の器具で破砕試料をかき出して回収しうるが、遠心力を付加しない場合には、フィルタ部材(25)による未破砕試料との分離機能や破砕試料がフィルタ部材(25)を通過する際の試料の破砕効果は期待することができない。
本発明によれば、破砕試料に遠心力を付加することで、試料を「破砕」することができるため、試料の破砕作業を全て手作業で行う場合と比較して、作業内容を簡便化することができる。また遠心分離機は、複数の試料回収容器(R)の装着が可能であるから、複数の試料を同時に処理して破砕試料の回収を行うことができ、作業効率を向上させることができる。
破砕操作や遠心分離は、冷却雰囲気中で行うことが好ましい。「破砕」中に発生する摩擦熱等により試料が熱変成することを防ぎ、内因性の酵素等による分解を防ぎ、「均一化された」試料から目的物質を破損することなく抽出することができる。
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
比較例1
長さ68mm、テーパー角(θa)が9°、粗面がJIS B0601(2001)の最大高さ(Rz)68〜73μmのポリアセタール製の棒状の杵部材と、蓋部装着時の全長が40mm、底部が逆載頭円錐状でテーパー角(θb)が10°、粗面がJIS B0601(2001)の最大高さ(Rz)68〜73μmのポリプロピレン製の臼部材とからなる図1に示す形状の試料破砕器具を使用してマウスの肝臓からタンパク質の抽出を行った。
マウスの肝臓約80mgを切り出し前記臼部材に入れ、1mlのトリゾル試薬(Life technologies社製)を加えた。杵部材を前記臼部材に挿入して押圧、回転して肝臓組織を擂潰し破砕した。
破砕後の破砕物を杵部材を臼部材に挿入したまま遠心分離操作し、杵部材を取り出し、遠心した試料から非破砕試料と脂質とを除去した後、ブラッドフォード法に従いタンパク質量の定量を行った。タンパク質量は21.27mgであった。
比較例2
粗面加工がないこと以外は比較例1と同様の装置を使用し、比較例1と同様にしてタンパク質量を測定した。その結果、タンパク質量は、17.28mgであった。
比較例3
比較例1で使用した粗面を有する試料破砕器具を使用し、マウスの肝臓および腎臓約50mgを破砕試料とし、破砕物からRNAの抽出を行った。
マウスの肝臓および腎臓の各々50mgをそれぞれ臼部材に投入し、破砕試料に1mlのトリゾル試薬(Life technologies社製)を加え、杵部材を臼部材に挿入して押圧、回転して擂潰し破砕した。
破砕後の破砕物を遠心分離操作し、非破砕試料を除去し、破砕物からRNAの抽出を行った。抽出したRNAの濃度は分光光度計を用いて定量した。結果を表1に示す。
実施例1
図3Aに示す蓋部装着時の全長が40mmのポリプロピレン製試料回収容器と、図2に示す全長が30mm、底部に直径3mm、厚さ1.5mm、軸直交断面の直径が70〜130μmの孔径を有するポリプロピレン製のフィルタ部材が装着された逆載頭円錐状でテーパー角(θb)が12°、粗面がJIS B0601(2001)の最大高さ(Rz)68〜73μmのポリプロピレン製の臼部材、および長さ65mm、テーパー角(θa)が11°、粗面がJIS B0601(2001)の最大高さ(Rz)68〜73μmのポリアセタール製の棒状の杵部材とからなる試料破砕回収器具を使用してマウスの肝臓および腎臓からRNAの抽出を行った。
前記試料回収容器に臼部材を挿入し、マウスの各臓器約50mgを切り出しておのおの前記臼部材に入れ、200μlのトリゾル試薬(Life technologies社製)を加えた。次いで、杵部材を臼部材に挿入して押圧、回転して擂潰し破砕した。
杵部材を臼部材に挿入したまま試料破砕回収器具を遠心分離操作し、臼部材と杵部材とを取り出し800μlのトリゾル試薬を加え、試料回収容器の底部から破砕試料を回収し、回収した破砕物からRNAの抽出を行った。抽出したRNAの濃度は分光光度計を用いて定量した。結果を表1に示す。
比較例4
特許文献2の図4に示す形状の試料破砕器具として、バイオマッシャーI(株式会社ニッピ製)を使用して肝臓および腎臓組織50mgを破砕した。この試料破砕器具に使用するフィルタ部材は、直径6mm、厚さ1mm、軸直交断面の直径が70〜130μmの孔径を有するポリプロピレン製であった。
予めフィルタ部材を破砕用チューブ11に装着し、前記フィルタ12上に組織と200μlのトリゾル試薬を投入し、開口部側から破砕棒20を滑動自在に密封して挿入した。その後、試料回収用チューブ40に前記破砕用チューブ11を破砕棒20と共に挿入し遠心した。遠心後に破砕用チューブ11と破砕棒20とを除去し800μlのトリゾル試薬を加え、試料回収用チューブ40の底部から、破砕試料を回収し、回収した破砕物からRNAの抽出を行った。抽出したRNAの濃度は分光光度計を用いて定量した。結果を表1に示す。
実施例2
破砕試料を心臓組織50mgに変更した以外は、実施例1と同様に操作して、RNA抽出量を測定した。結果を表2に示す。
(比較例5)
破砕試料を心臓組織50mgに変更した以外は、比較例4と同様に操作して、RNA抽出量を測定した。結果を表2に示す。
Figure 0005547235
Figure 0005547235
(結果)
(1)比較例1比較例2の結果から、肝臓などの軟組織であっても、杵部材と臼部材に粗面加工を形成した比較例1のタンパク質量は、粗面加工のない比較例2より1.2倍も収量が高く、粗面加工によって破砕効率を向上しうることが判明した。
(2)比較例3実施例1比較例4の結果から、フィルタ部材を配置し、かつ粗面加工を有する杵部材、臼部材からなる本発明の試料破砕器具は、肝臓などの軟組織からRNAを効率的に抽出しうることが判明した。特に、粗面加工を有する杵部材、臼部材を有するがフィルター部材は有しない比較例3の試料破砕器具のデーターと比較すると、試料がフィルター部材を通過することでより微細に粉砕され、この結果、RNA抽出量が上昇したと推定される。なお、比較例3のRNA抽出量は、比較例4のRNA抽出量と近似した。これにより、粗面加工が形成された杵部材や臼部材によって、フィルター部材を通過すると同程度の破砕がなされることが判明した。
(3)実施例2比較例5の結果から、心臓などの繊維含有量が多い組織では、粗面加工を有する杵部材、臼部材からなる本発明の試料破砕器具を使用すると、フィルター部材を通過させただけの比較例5より、6倍のRNAを抽出することができた。
本願発明によれば、筋組織などの筋繊維を含む、少量の試料を効率的に破砕および回収することができ、有用である。
10・・・杵部材本体、
11・・・テーパー、
13・・・跳ね返り防止部材、
15・・・螺旋状の溝、
16・・・螺旋状の突出部、
20・・・臼部材本体、
23・・・係止部材、
25・・・フィルタ部材、
27・・・上端フランジ、
27b・・・上端フランジの突出部、
28・・・ヒンジ、
29・・・蓋部、
30・・・スクリュー容器および試料回収容の筒状体、
33・・・試料回収容の蓋部、
33a・・・試料回収容の蓋部の貫通孔、
P・・・杵部材、
M・・・臼部材、
R・・・試料回収容器、
Ra、Rb・・・粗面加工

Claims (5)

  1. 棒状の杵部材と、前記杵部材を挿入しうる臼部材とからなる試料破砕器具であって、
    前記杵部材は、杵部材本体の少なくとも一の端部に粗面加工されたテーパー部が形成され、
    前記臼部材は、底部が逆載頭円錐状に形成された筒状であり、前記逆載頭円錐状の載頭端部が開口し、前記開口した開口部に係止部材を介してフィルタ部材が配設され、前記杵部材を挿入した際に前記杵部材のテーパー部と載頭円錐状の接触面に粗面加工がなされ、
    前記杵部材の長手方向の中心線に対するテーパー角と、臼部材の長手方向の中心線に対する前記逆載頭円錐状の内壁の角度とが略同一であり、
    前記杵部材および臼部材に形成された粗面加工は、Rzが1〜300μmであることを特徴とする、試料破砕器具。
  2. 前記杵部材は、前記テーパー部に螺旋状の溝、および/または杵部材本体に螺旋状の突出部が形成されるものである、請求項1記載の試料破砕器具。
  3. 前記杵部材は、前記臼部材の内周より小径の跳ね返り防止部材が貫通している、請求項1または2記載の試料破砕器具。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の試料破砕器具と、前記試料破砕器具を内部に収納しうる、筒状の試料回収容器とを備える試料破砕回収器具。
  5. 更に、前記試料回収容器内で前記臼部材の回転が防止される機構を配設する、請求項4記載の試料破砕回収器具。
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