JP5541243B2 - 形状凍結性に優れた冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

形状凍結性に優れた冷延鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、電機、自動車、建材などの分野で形状精度の厳しい部品の部材用として好適な、成形性に優れた冷延鋼板およびその製造方法に係り、とくに、形状凍結性の向上に関する。
近年、地球環境の保全のため、排出CO2量の削減という観点から自動車燃費の低減が要求されている。このような燃費低減要求に対し、自動車車体の軽量化が指向され、さらに低コスト化の要求と相まって、使用する鋼材の薄肉化を図り、鋼材使用量削減という要望が大きくなっている。しかし、鋼材(鋼板)を薄肉化すると部品剛性が低下し、部品のたわみ、べこつき、反りなどの問題が顕在化してくる。さらに、AV、OA機器などの家電分野では、部品の寸法精度に対する要求も厳しくなってきており、形状凍結性に優れた鋼板に対する要求は益々大きくなってきている。
このような要望に対して、例えば特許文献1には、形状凍結性に優れたフェライト系薄鋼板が記載されている。特許文献1に記載された技術では、質量%で、C:0.0001〜0.05%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.15%以下、S:0.03%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.007%以下を含む成分組成の鋼を、950℃以下Ar変態点以上での圧下率の合計が25%以上、かつ950℃以下での熱間圧延における摩擦係数が0.2以下となるようにして、Ar変態点以上で熱間圧延を終了し、冷却後、所定の臨界温度以下の温度で巻き取り、これにより、板面に平行な{100}面と{111}面の比が1.0以上である薄鋼板が得られるとしている。このような薄鋼板では、曲げ加工時のすべり系が制御でき、曲げ加工を主体とする成形において、スプリングバックが抑制できるとしている。
また、特許文献2には、成形品の寸法精度に優れたプレス成形方法が記載されている。特許文献2に記載された技術では、板面に平行な{100}面と{111}面の比が1.0以上である鋼板を用いて、ハット型部材の縦壁部に材料引張強さの40〜100%の引張応力を付与しながら成形を行う、成形品の寸法精度に優れたプレス成形方法が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、ハット曲げ加工性が著しく向上し、スプリングバック量が少なく、形状凍結性に優れた部材が提供できるとしている。
国際公開WO 00/06791号 特開2002−66637号公報
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、曲げ加工以外のプレス成形を行った場合には、形状凍結性改善の程度が小さく、また、曲げ加工の場合においても、粒界すべり等の影響でスプリングバックが大きくなる場合があるなどの問題があった。また、特許文献2に記載された技術では、ハット成型以外のプレス成形を行った場合には、成型品の寸法精度を高める効果はなく、また、ハット成型を行う場合においても、縦壁部の応力を付与するためにはしわ押さえ圧を大きくする必要があり、そのためプレス機の能力を大きく増加する必要があり、コスト増に繋がるという問題があった。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、とくに成形後の部材平坦部に大きなゆがみが発生しない、形状凍結性に優れた冷延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、形状凍結性、とくに成形後の部材平坦部のゆがみに影響する要因について、鋭意研究した。その結果、成形後の部材平坦部のゆがみは、使用鋼板の比例限に大きく影響されることに想到した。とくに比例限が100MPa超えとなると、成形後の部材平坦部のゆがみが著しく増加するという知見を得た。そして、更なる研究を行った結果、比例限を100MPa以下とするためには、極低炭素系でTi、Bを必須含有する組成として、さらにB含有量とC含有量の比、B/C、が0.5以上を満足するように調整することが必要であることを見出した。
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
質量%で、0.0010〜0.0035%C−0.01〜0.03%Si−0.10〜0.45%Mn−0.03〜0.08%Al−0.022〜0.060%Ti−0.0003〜0.0048%B−0.0015〜0.0040%Nを含む組成の鋼素材(スラブ)を、熱間圧延と、冷間圧延と、さらに加熱均熱冷却条件を種々変更した焼鈍とを施し、冷延焼鈍板とした。
得られた冷延焼鈍板から、引張方向が圧延方向となるように、JIS 5号試験片を採取し、比例限を求めた。なお、引張試験片の平行部に長さ5mmの歪ゲージを貼付し、引張速度:1mm/minの引張速度で引張試験を実施し、応力−歪曲線の傾きが小さくなりはじめる応力を、比例限とした。
また、得られた冷延焼鈍板から、試験材(大きさ:120×120mm)を採取し、張出し成形を行った。張出し成形は、直径20mmの球頭ポンチで試験材中央部を8mm張り出すプレス成形とした。なお、張出し成形においては、図1に示すように、直径28〜54mmの領域(斜線部)を100kNの荷重で押えながら、成形した。ついで、図2に模式的に示すように、成形後の試験材を、定盤の上に置き、フランジ部の最大ゆがみ高さを測定した。なお、得られた冷延焼鈍板について組織を観察したが、いずれの冷延焼鈍板もフェライトを主体とする組織であった。
得られた結果を図3、図4に示す。図3は、フランジ部の最大ゆがみ高さと比例限との関係を、図4に、比例限とB/Cとの関係を、示す。
図3から、比例限が100MPaを超えて大きくなると、フランジ部の最大ゆがみ高さが急激に増加することがわかる。また、図4から、比例限を100MPa以下とするためには、B/Cを0.5以上とする必要があることがわかる。
このようなことから、Ti、Bを必須含有し、B/Cを0.5以上とする組成と、組織をフェライト主体の組織とを有し、比例限が100MPa以下である鋼板を素材とすることにより、プレス部品の形状凍結性が向上し、とくに成形後の部材平坦部のゆがみが顕著に低減することを知見した。そして、本発明者らの更なる検討によれば、Cが固溶状態となるように熱間圧延条件を適正化し、さらに冷間圧延を施し、さらに焼鈍時に、C、Feを含むBの粗大析出物を、粒界、さらには粒内に、析出させることが、形状凍結性向上に有効であることを知見した。このような組織であれば、分散析出したBの粗大析出物が、プレス加工時に、適度に転位を固着し、析出物まわりに歪を集中させて、粒界に転位が集中するのを妨げることで転位が絡みあうのを抑制し、これによりスプリングバックが大きく低減され、比例限が低くなって、形状凍結性が顕著に向上するものと考えた。
本発明は、かかる知見に基いて、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.0010〜0.0030%、Si:0.05%以下、Mn: 0.1〜0.5%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.10%以下、N:0.0050%以下、Ti:0.021〜0.060%、B:0.0005〜0.0050%を含み、かつBとCを、B/Cが0.5以上を満たすように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、平均粒径:10〜30μmのフェライトを主体とする組織とを有し、比例限が100MPa以下であることを特徴とする形状凍結性に優れた冷延鋼板。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.009%以下を含有することを特徴とする冷延鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.06%以下を含有することを特徴とする冷延鋼板。
(4)鋼素材に、熱間圧延工程と、酸洗工程と、冷間圧延工程と、焼鈍工程とを順次施す冷延鋼板の製造方法において、前記鋼素材を、質量%で、C:0.0010〜0.0030%、Si:0.05%以下、Mn: 0.1〜0.5%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.10%以下、N:0.0050%以下、Ti:0.021〜0.060%、B:0.0005〜0.0050%を含み、かつBとCを、B/Cが0.5以上を満たすように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、前記熱延工程を、前記鋼素材に、加熱し粗圧延と仕上圧延終了温度:870〜950℃とする仕上圧延とを施し、巻取温度:450〜630℃で巻き取る工程とし、前記冷延工程を、冷延圧下率:90%以下である冷間圧延を施す工程とし、前記焼鈍工程を、600℃以上の温度域を平均で、1〜30℃/sの加熱速度で、700〜850℃の範囲の均熱温度まで加熱し、該均熱温度で30〜200s間保持したのち、600℃までの温度域を平均で3℃/s以上の冷却速度で、冷却する工程とする、ことを特徴とする平均粒径:10〜30μmのフェライトを主体とする組織を有し、比例限が100MPa以下である形状凍結性に優れた冷延鋼板の製造方法。
(5)(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.009%以下を含有することを特徴とする冷延鋼板の製造方法。
(6)(4)または(5)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.06%以下を含有することを特徴とする冷延鋼板の製造方法。
本発明によれば、比例限が顕著に低下し、成形後の形状凍結性に優れた冷延鋼板を、容易にしかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、部材の薄肉化を促進できるという効果もある。
張出し成形用試験片と、成形試験時のフランジ押さえ領域(斜線部)を模式的に示す説明図である。 張出し成形試験後の最大ゆがみ高さの測定方法を模式的に示す説明図である。 最大ゆがみ高さと比例限との関係を示すグラフである。 比例限とB/Cの関係を示すグラフである。
まず、本発明冷延鋼板の組成限定理由について説明する。なお、以下、とくに断わらない限り質量%は、単に%で記す。
C:0.0010〜0.0030%
Cは、固溶してBの粗大析出物の形成を促進し、比例限の低下に寄与する元素である。このような効果は0.0010%以上の含有で顕著となる。一方、0.0030%を超える多量の含有は、固溶Cや炭化物が多くなり強度が高くなりすぎて、延性の低下を招く。このため、Cは0.0010〜0.0030%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0020%以下である。
Si:0.05%以下
Siは、多量に含有すると、硬質化により加工性が劣化したり、焼鈍時にSi酸化物を生成し、めっき性を阻害する。また、多量のSi含有は、オーステナイト(γ)→フェライト(α)変態点を高温とするため、熱間圧延時に、γ域で圧延を終了させることが困難になる。このため、Siは0.05%以下に限定した。
Mn: 0.1〜0.5%
Mnは、熱間での延性を著しく低下させる有害な鋼中Sと結合し、MnSを形成し、Sの無害化に寄与するとともに、鋼を硬質化する作用を有する。このような効果を得るためには0.1%以上の含有を必要とする。一方、0.5%を超える多量の含有は、硬質化による延性の低下や、焼鈍時のフェライトの再結晶を抑制する。このため、Mnは0.1〜0.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下である。
P:0.05%以下
Pは、粒界に偏析して、延性を低下させる作用を有するため、本発明ではできるだけ低減することが好ましいが、0.05%までは許容できる。このようなことから、Pは0.05%以下に限定した。なお、好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.02%以下である。
S:0.02%以下
Sは不純物元素としてできるだけ低減することが望ましい。Sは、熱間での延性を著しく低下させ、熱間割れを誘発し、表面性状を著しく劣化させる悪影響を有し、さらにSは、強度にほとんど寄与しないばかりか、粗大なMnSを形成し延性を低下させる。このようなことは、0.02%を超えると顕著となるため、本発明ではSは0.02%以下に限定した。なお、好ましくは0.01%以下である。
Al:0.10%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには0.02%以上含有することが望ましい。一方、Alは、鋼のγ→α変態点を上昇させる作用を有するため、0.10%を超える多量の含有は、熱間圧延時に、γ域で圧延を終了させるのが困難になる。このため、Alは0.10%以下に限定した。
N:0.0050%以下
Nは、窒化物形成元素と結合し窒化物を形成し、析出強化により鋼を硬質化させる作用を有する元素であり、0.0050%を超える多量の含有は、延性を低下させるだけでなく、熱間圧延中のスラブ割れを生じ、表面疵を多発させる恐れがある。このため、Nは0.0050%以下に限定した。なお、好ましくは0.0030%以下、より好ましくは0.0020%以下である。
Ti:0.021〜0.060%
Tiは、Nを窒化物として固定し、固溶Nによる硬質化や時効劣化を抑制する作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.021%以上の含有を必要とする。一方、0.060%を超える多量の含有は、炭化物の析出を促進し、固溶Cを低減するため、C、Feを含むBの粗大析出物の生成を抑制することになるため、所望の比例限の低下を達成できなくなる。このようなことから、Tiは0.021〜0.060%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.050%以下である。
B:0.0005〜0.0050%
Bは、本発明では重要な元素であり、粗大なB析出物を形成することで比例限の低減に寄与する。このような効果を得るためには0.0005%以上の含有を必要とする。一方、0.0050%を超える多量の含有は、スラブ割れを引き起こす。このため、Bは0.0005〜0.0050%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0010%以上、より好ましくは0.0020%以上、さらに好ましくは0.0030%以上である。
B/C:0.5以上
本発明では、上記した範囲のC,Bを含み、さらに、B含有量とC含有量の比、B/Cが0.5以上を満たすように、C,B含有量を調整する。B/Cが0.5未満では、Bの粗大な析出物を形成することが困難となる。このため、B/Cは0.5以上に限定した。なお、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上である。
上記した成分が基本の成分であるが、本発明では基本の組成に加えてさらに、必要に応じて選択元素として、Nb:0.009%以下、および/または、Cr:0.06%以下を含有することができる。
Nb:0.009%以下
Nbは、Tiと同様に、Nと結合して窒化物を形成し、Nを固定し、固溶Nによる硬質化や時効劣化を抑制し、形状凍結性向上に寄与する元素であり必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが望ましいが、0.009%を超える多量の含有は、結晶粒の細粒化を招く。このため、含有する場合には、Nbは0.009%以下に限定することが好ましい。
Cr:0.06%以下
Crは、固溶状態のCを不安定化し、Cを含むBの粗大析出物の生成を促進する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るには、0.001%以上含有することが望ましい。一方、0.06%を超える多量のCr含有は、Cを含むBの粗大析出の生成をかえって阻害する。このため、含有する場合には、Crは0.06%以下に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
つぎに、本発明冷延鋼板の組織限定理由について説明する。
本発明冷延鋼板は、平均粒径:10〜30μmのフェライトを主体とする組織を有する。フェライトを主体とする組織とすることにより、鋼板が軟質化し、加工性を向上させることができる。なお、ここでいう「フェライトを主体とする組織」は、フェライト(ポリゴナルフェライト)が面積率で95%以上、好ましくは100%を占める組織をいうものとする。フェライト以外の第二相は、セメンタイト、ベイナイトとすることが好ましい。また、フェライトの平均粒径を10μm以上とすることにより、成形時に、粒界への歪の集中を抑制し、析出物周りに歪を集中させ、比例限の低減が可能となる。一方、フェライトの平均粒径が30μmを超えて大きくなると、プレス加工時に肌荒れなどの表面模様が顕在化する。このため、フェライトの平均粒径は10〜30μmの範囲に限定した。なお、好ましくは15〜25μmである。
つぎに、本発明冷延鋼板の好ましい製造方法について説明する。
上記した組成の鋼素材(スラブ)を出発素材とする。
鋼素材の製造方法は、特に限定する必要はないが、上記した組成の溶鋼を、常用の転炉、電気炉等で溶製したのち、常用の連続鋳造法、造塊−分塊圧延法で、スラブ(鋼素材)とすることが好ましい。連続鋳造製スラブであれば、鋳造後、熱間圧延が可能な熱を保有している場合は、室温まで冷却することなく、そのまま、あるいは、一次的に加熱炉に装入し、保熱したのち、あるいは、室温まで冷却したのち加熱炉に装入して、好ましくは1100〜1250℃の範囲の温度に再加熱したのち、熱間圧延を施すことが好ましい。
加熱された鋼素材には、ついで、熱延工程が施される。
熱延工程では、粗圧延、仕上圧延からなる熱間圧延が施され、ついで巻取られる。
粗圧延では、所望の寸法形状のシートバーを確保できればよく、その条件はとくに限定されない。ついで、シートバーには、仕上圧延が施され、熱延板とされる。
仕上圧延は、仕上圧延終了温度が870〜950℃である圧延とする。
仕上圧延終了温度が、870℃未満と低くなると、圧延途中に組織がオーステナイトからフェライトと変化し、圧延機の荷重制御が困難になることで、通板中に破断などが起こる危険性が増大する。なお、仕上圧延の入側からフェライト域で圧延すれば、上記したような通板中の破断等は回避できるが、圧延温度の低下で、熱延板の組織が未再結晶フェライトとなり、冷間圧延時の荷重が増大するという問題がある。一方、仕上圧延終了温度が950℃を超えて高くなると、熱延板のフェライト粒径が大きくなる。そのため、冷延焼鈍板のフェライト粒径も大きくなりすぎる。このようなことから、仕上圧延終了温度は870〜950℃の範囲の温度に限定した。仕上圧延終了後、熱延板は巻き取られる。なお、仕上圧延後、巻取りまでの冷却は、特に限定しないが、空冷以上の冷却速度があれば十分であるが、必要に応じて、100℃/s以上の急冷をおこなってもとくに問題はない。
仕上圧延終了後の巻取温度は、450〜630℃の範囲の温度とする。
巻取温度が450℃未満では、アシキュラーフェライトが生成し、鋼板が硬質化し、その後の冷間圧延の荷重が高くなり、熱間圧延の操業上の困難を伴う。一方、巻取温度が630℃を超える高温では、炭化物の析出が促進され、固溶C量が低下し、熱延段階で所望の固溶C量を確保できなくなる。このため、巻取温度は450〜630℃の範囲の温度に限定した。
巻き取られた熱延板は、ついで、通常の酸洗工程を施された後、冷間圧延工程を施され、冷延板とされる。
冷間圧延工程では、冷延圧下率:90%以下の冷間圧延を施し、冷延板とする。
冷延圧下率が90%を超えて大きくすると、焼鈍後の再結晶フェライト粒が微細化するが、同時に冷間圧延荷重が増大し、冷間圧延の操業上の困難を伴う。このため、冷延圧下率は90%以下に限定した。なお、好ましくは80%以下である。一方、冷延圧下率の下限は特に規定しないが、冷延圧下率が小さい場合は、決まった製品厚に対して、熱延板の板厚を小さくする必要があり、熱延や酸洗での生産性が低下することから、冷延圧下率は50%以上とすることが好ましい。
冷延板には、ついで焼鈍工程が施され、冷延焼鈍板となる。
焼鈍工程は、600℃以上の温度域を平均で、1〜30℃/sの加熱速度で、700〜850℃の範囲の均熱温度まで加熱し、該均熱温度で30〜200s間保持したのち、3℃/s以上の冷却速度で、600℃以下まで冷却する工程とする。焼鈍工程では、冷間圧延された加工フェライトを再結晶させ、所望の平均粒径のフェライトとするとともに、粒界、粒内に粗大な、C,Feを含むB析出物を分散析出させる。
加熱速度:1〜30℃/s
600℃以上均熱温度までの温度域での平均の加熱速度が1℃/s未満では、フェライト粒の粒成長が著しく、所望の平均粒径のフェライトとすることができなくなる。一方、30℃/sを超えて加熱速度が大きくなると、加熱途中でのB析出物の生成に代えて、TiCが析出し、所望のBの粗大析出物の形成が困難となる。このため、600℃以上の温度域での加熱速度は平均で1〜30℃/sの範囲に限定した。なお、好ましくは5℃/s以上、より好ましくは10℃/s以上である。
均熱温度:700〜850℃
焼鈍工程では、冷間加工フェライトの再結晶を完了させる必要があることから、均熱温度は700℃以上とする。一方、均熱温度が850℃を超えて高くなると、フェライト粒が粗大化し、所望の平均粒径を有するフェライトとすることができなくなる。このため、均熱温度は700〜850℃に限定した。
均熱保持時間:30〜200s
冷間加工フェライトの再結晶を完了させるために、均熱保持時間を30s以上とする。
均熱保持時間が短いと、再結晶が完了しないか、あるいはフェライト粒が微細のままとなる。一方、均熱保持時間が200sを超えて長時間となると、フェライト粒が成長し過ぎる。このため、均熱保持時間は30〜200sに限定した。
冷却速度:3℃/s以上
均熱保持後の冷却速度が小さいと、フェライト粒の成長が促進される。このため、均熱温度から600℃までの温度域の平均の冷却速度は3℃/s以上に限定した。なお、冷却速度の上限はとくに限定する必要はなく、冷却設備の能力に依存して決定される。通常の冷却設備であれば、冷却速度の上限は、30℃/s程度である。
なお、600℃まで冷却すれば、フェライトの粒成長による組織の粗大化は抑制でき、所望の平均粒径を有するフェライトを主体とする組織を得ることが可能となる。また、600℃以下の冷却条件は、とくに限定する必要はなく、任意の冷却でとくに問題はない。
なお、冷却停止後、必要に応じて、480℃近傍での溶融亜鉛めっきを行ってもよい。また溶融亜鉛めっき後、500℃以上に再加熱して溶融亜鉛めっきを合金化してもよい。また、冷却途中に保持を行うなどの熱履歴を施してもよい。さらに、必要に応じて、0.5〜2%程度の調質圧延を施してもよい。また、めっきを施さなかった場合には、耐腐食性を向上させるために電気亜鉛めっきなどを行ってもよい。さらに、冷延鋼板やめっき鋼板の上に、化成処理などにより皮膜をつけてもよい。
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
表1に示す組成を有する鋼素材(スラブ)を出発素材とした。これらスラブを1200℃に加熱したのち、該スラブに、熱間圧延工程、酸洗工程、冷間圧延工程、さらに焼鈍工程を順次施し、冷延焼鈍板とした。熱間圧延工程では、鋼素材に粗圧延を施しシートバーとしたのち、シートバーに、仕上圧延終了温度が表2に示す温度(FT)となる仕上圧延を施し、表2に示す巻取温度(CT)で巻き取り、表2に示す板厚の熱延板とした。ついで、熱延板には、酸洗工程を施したのち、表2に示す冷延圧下率の冷間圧延を施し、表2に示す板厚の冷延板とした。
ついで、冷延板に、焼鈍工程を施し、冷延焼鈍板とした。焼鈍工程では、表2に示す加熱速度、均熱温度、均熱保持時間、冷却速度で焼鈍を施した。なお、600℃以下についても同様の冷却速度で室温まで冷却した。なお、焼鈍工程を施した後に、圧下率:1.0%の調質圧延を行った。
得られた冷延焼鈍板(冷延鋼板)について、組織観察、引張試験、張出し成形試験を実施した。試験方法は次のとおりとした。
(1)組織観察
得られた冷延焼鈍板から、組織観察用試験片を採取し、圧延方向断面(L断面)を研磨し腐食して、光学顕微鏡(倍率:100倍)および走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍)を用いて、組織を観察し、撮像して、画像解析により、フェライトの平均粒径、フェライトの分率、第二相の種類および分率を測定した。なお、フェライトについて、300×300μmの領域で、フェライト粒の圧延方向と板厚方向の平均切片長さを求め、それぞれをA、Bとし、2/(1/A+1/B)の値を平均粒径とした。また、フェライト分率の測定は、300×300μmの領域について行った。
(2)引張試験
得られた冷延焼鈍板から、引張方向が圧延方向となるように、JIS 5号試験片を採取し、比例限を求めた。なお、引張試験片の平行部に歪ゲージを貼付し、引張速度:1mm/minの引張速度で引張試験を実施し、引張特性(比例限、引張強さ、伸び)を求めた。なお、比例限は、応力−歪曲線の傾きが小さくなりはじめる応力とした。
(3)張出し成形試験
得られた冷延焼鈍板から、試験材(大きさ:120×120mm)を採取し、張出し成形を行った。張出し成形は、直径20mmの球頭ポンチで試験材中央部を8mm張り出すプレス成形とした。なお、張出し成形においては、図1に示すように、直径28〜54mmの領域(斜線部)を100kNの荷重で押えながら、成形した。成形後、図2に模式的に示すように、試験材を定盤の上に置き、フランジ部の最大ゆがみ高さを測定した。
得られた結果を表3に示す。
Figure 0005541243
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本発明例はいずれも、100MPa以下の低い比例限を有し、張出し成形部材の平坦部最大ゆがみ高さが0.8mm以下となっており、形状凍結性に優れた冷延鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、比例限が100MPaを超えているか、最大ゆがみ高さが0.8mmを超えて大きくなっており、形状凍結性が低下している。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.0010〜0.0030%、 Si:0.05%以下、
    Mn: 0.1〜0.5%、 P:0.05%以下、
    S:0.02%以下、 Al:0.10%以下、
    N:0.0050%以下、 Ti:0.021〜0.060%、
    B:0.0005〜0.0050%
    を含み、かつBとCを、B/Cが0.5以上を満たすように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、平均粒径:10〜30μmのフェライトを主体とする組織とを有し、比例限が100MPa以下であることを特徴とする形状凍結性に優れた冷延鋼板。
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.009%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の冷延鋼板。
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.06%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の冷延鋼板。
  4. 鋼素材に、熱間圧延工程と、酸洗工程と、冷間圧延工程と、焼鈍工程とを順次施す冷延鋼板の製造方法において、
    前記鋼素材を、質量%で、
    C:0.0010〜0.0030%、 Si:0.05%以下、
    Mn: 0.1〜0.5%、 P:0.05%以下、
    S:0.02%以下、 Al:0.10%以下、
    N:0.0050%以下、 Ti:0.021〜0.060%、
    B:0.0005〜0.0050%
    を含み、かつBとCを、B/Cが0.5以上を満たすように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、
    前記熱延工程を、前記鋼素材に、加熱し粗圧延と仕上圧延終了温度:870〜950℃とする仕上圧延とを施し、巻取温度:450〜630℃で巻き取る工程とし、
    前記冷延工程を、圧下率:90%以下である冷間圧延を施す工程とし、
    前記焼鈍工程を、600℃以上の温度域を平均で、1〜30℃/sの加熱速度で、700〜850℃の範囲の均熱温度まで加熱し、該均熱温度で30〜200s間保持したのち、600℃までの温度域を平均で、3℃/s以上の冷却速度で冷却する工程とする、
    ことを特徴とする平均粒径:10〜30μmのフェライトを主体とする組織を有し、比例限が100MPa以下である形状凍結性に優れた冷延鋼板の製造方法。
  5. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.009%以下を含有することを特徴とする請求項4に記載の冷延鋼板の製造方法。
  6. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.06%以下を含有することを特徴とする請求項4または5に記載の冷延鋼板の製造方法。
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