JP5533629B2 - 高強度鋼板用の連続鋳造鋳片およびその連続鋳造方法、ならびに高強度鋼板 - Google Patents
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λ∝(D×σ×ΔT)0.25 …(1)
ここで、λ:デンドライトの1次アーム間隔(μm)、D:拡散係数(m2/s)、σ:固液界面エネルギー(J/m2)、ΔT:凝固温度範囲(℃)である。
1−1.必須元素
C:0.03%〜0.20%
Cは、鋼の強度向上に寄与する元素である。鋼板の引張強度を590MPa以上にするには、C含有率を0.03%以上とする必要がある。しかし、C含有率が0.20%を超えると、鋼の溶接性が劣化する。これらのことから、本発明では、C含有率を0.03%〜0.20%とする。
Siは、鋼の曲げ性をさほど劣化させることなく強度の向上に寄与する元素である。しかし、Si含有率が2.0%を超えると、非めっき鋼板の場合には化成処理性が、溶融亜鉛めっき鋼板の場合にはめっきの濡れ性、合金化処理性およびめっき密着性が、それぞれ劣化する。これらのことから、本発明では、Si含有率を0.005%〜2.0%とする。
Mnは、鋼の強度向上に寄与する元素である。鋼板の引張強度を590MPa以上にするには、Mn含有率を1.2%以上とする必要がある。しかし、Mn含有率が3.5%を超えると、転炉における鋼の溶解や精錬が困難になるだけでなく、溶接性が劣化する。これらのことから、本発明では、Mn含有率を0.2%〜3.5%とする。引張強度を590MPa以上とするには、Mn含有率を1.2%以上とすることが好ましい。
Pは、一般には鋼に不可避的に含有される不純物であるものの、固溶強化元素でもあり鋼板の強化に有効であるため、積極的に含有させてもかまわない。しかしながら、P含有率が0.1%を超えると溶接性が劣化する。そのため、本発明では、P含有率を0.1%以下とする。より確実に鋼板を強化するには、P含有率を0.003%以上とすることが好ましい。
Sは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、曲げ性および溶接性の観点からは、含有率は低いほど好ましい。そのため、本発明では、S含有率を0.01%以下とする。S含有率は、0.005%以下が好ましく、0.003%以下がさらに好ましい。
Alは、鋼を脱酸させるために添加される元素であり、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させるのに有効に作用する元素である。しかし、Al含有率が1.5%を超えると、溶接性が劣化するとともに、酸化物系介在物が増加するため、鋼板の表面性状も劣化する。これらのことから、本発明では、Al含有率を0.001%〜1.5%とする。Al含有率は、0.01%〜0.2%が好ましい。
Snは、Mnを含有する鋼板においてめっき密着性の向上に寄与する元素である。しかし、Sn含有率が0.01%以下では、十分なめっき密着性を得ることができない。一方、Sn含有率が1.5%を超えると、熱間圧延時に割れが発生することがあり、良好なめっき密着性を確保することができない。これらのことから、本発明では、Sn含有率を0.01%を超え1.5%以下とする。
Nは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、鋼板の曲げ性の観点からは、含有率は低いほど好ましい。そのため、本発明では、N含有率を0.01%以下とする。N含有率は、0.006%以下が好ましい。
Biは、本発明において重要な元素である。Biを含有することによって、鋼の凝固組織が微細化し、Mnを多量に含有させても組織が均一となり、鋼板の曲げ性の劣化が抑制される。所望の曲げ性を確保するには、Bi含有率を0.0001%以上とする必要がある。しかし、Bi含有率が0.05%を超えると、鋼の熱間加工性が劣化し、熱間圧延が困難となる。これらのことから、本発明では、Bi含有率を0.0001%〜0.05%とする。曲げ性をさらに向上させるには、Bi含有率を0.0010%以上とすることが好ましい。
Feの一部に代えて、以下の第1〜第4の任意元素を含有させてもよい。
Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下およびV:0.3%以下のうちの1種または2種以上の含有
Ti、NbおよびVは、いずれも鋼の強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。590MPa以上の鋼板の引張強度を確保するには、Ti、NbおよびVのうちの1種または2種を含有させることが有効である。この引張強度を確保する効果をより確実に得るには、Ti、NbおよびVのうちの1種または2種以上の元素の含有率を0.003%以上とすることが好ましい。しかし、それぞれの元素の含有率が0.3%を超えると、Ti、NbやVを含む介在物が増加するため、鋼板の表面性状が劣化する。そのため、Ti、NbおよびVの含有率は、それぞれ0.3%以下とすることが好ましい。
Cr:1%以下、Mo:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%以下のうちの1種または2種以上の含有
Cr、Mo、CuおよびNiは、いずれも鋼の強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。連続焼鈍の冷却停止温度を300℃〜420℃にして冷延鋼板を製造する場合や、冷延鋼板を製造する場合に比して製造プロセスの制約上、強度向上が容易ではない溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合において、590MPa以上の引張強度を確保するには、Cr、Mo、CuおよびNiのうちの1種または2種以上を含有させることが有効である。この引張強度を確保する効果をより確実に得るには、Cr、Mo、CuおよびNiのうちの1種または2種以上の元素の含有率を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、それぞれの元素の含有率が1%を超えると、上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるだけでなく、熱延板が硬質となって冷間圧延が困難となる。そのため、Cr、Mo、CuおよびNiの含有率は、上記のようにそれぞれ1%以下とすることが好ましい。
Ca:0.01%以下、Mg:0.0003%〜0.01%、Sr:0.01%以下、Ba:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下のうちの1種または2種以上の含有
Ca、Mg、Sr、Ba、REM(希土類元素)およびZrは、いずれも介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、鋼板の曲げ性をさらに向上させる元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。また、Biを含有する溶鋼中にこれらの元素を含有させると、溶鋼中のBiが界面エネルギーの低減効果を有するため、介在物が晶出し易くなり、または晶出物上にこれらの元素が析出し易くなり、介在物および晶出物上の析出物が微細化する。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、鋼板の表面性状を劣化させるため、それぞれの元素の含有率は0.01%以下とすることが好ましい。上述の介在物および析出物を微細化する効果をより確実に得るには、これらの元素のうちの1種または2種以上の元素の含有率を0.0001%以上とすることが好ましい。Mgの効果をさらに確実に得るには、Mg含有率を、0.001%を超えて高くすることがより好ましい。
B:0.01%以下
Bは、鋼の曲げ性向上に寄与するだけでなく、冷延鋼板を製造する場合に比して製造プロセスの制約上、強度向上が容易ではない溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合において、590MPa以上の引張強度を確保するのに有効であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。しかし、B含有率が0.01%を超えると、熱延板が硬質となって冷間圧延が困難となる。そのため、B含有率は0.01%以下とすることが好ましい。上述の引張強度向上効果をより確実に得るには、B含有率を0.0003%以上とすることが好ましい。
連続鋳造鋳片の鋼組成を上述の範囲とすることにより、連続鋳造鋳片の表層から10mmの範囲内におけるデンドライトの1次アーム間隔を300μm以下かつMn偏析比およびSn偏析比をいずれも2.5以下とし、MnおよびSnの偏析を低減させることができる。また、この鋳片を用いて製造した鋼板について、引張強度を590MPa以上とし、かつ曲げ加工時におけるすじ模様の発生を抑制することができ、さらにめっき密着性に優れたものとすることができる。
本発明の連続鋳造方法は、前述の通り、タンディッシュ内の溶鋼または鋳型内の溶鋼中に浸漬させた浸漬ランス内に、Biを含有する金属ワイヤーもしくはロッド、またはBiならびにMg、Ca、SrおよびBaのうちの1種または2種以上を含有する金属ワイヤーもしくはロッドを挿入することにより、浸漬ランス内で少なくともBiの金属蒸気および/または金属粒子を発生させ、前記金属蒸気および/または金属粒子をキャリアガスとともに溶鋼中に供給することを特徴とする。ビスマス(Bi)の沸点は、1564℃であり、溶鋼の温度はそれ以上であるため、本発明の方法ではビスマスの蒸気および/または粒子を発生させることができる。
この連続鋳造工程により得られた連続鋳造鋳片に、通常一般的に行われる熱間圧延を施して熱延鋼板とし、さらにこの熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする。
熱間圧延に供する連続鋳造鋳片には、1050℃〜1350℃の温度域に20分間以上保持する均質化処理を施すことが好ましい。熱間圧延に供する連続鋳造鋳片を1050℃以上の温度域に20分間以上保持することにより、Mnの偏析に起因する不均一組織がさらに解消され、さらに鋼板の曲げ性を向上させることができる。均質化処理温度は、スケールロスの抑制、加熱炉損傷の防止および生産性の向上といった観点から、1350℃以下とすることが好ましい。
上述の熱間圧延工程により得られた熱延鋼板は、通常は酸洗等の常法により脱スケール処理が施され、その後に冷間圧延が施されて冷延鋼板とされる。
総圧下率(%)={1−(冷延鋼板の板厚)/(熱間圧延に供する連続鋳造鋳片の板厚)}×100 …(2)
1−1.鋳造条件
溶鋼成分:C、Si、Mn、P、S、N、Al、Sn、Ti、Nb、V、Cr、Mo、Cu、Ni、Mg、Ca、Sr、Ba、REM、ZrおよびBの各成分が後述する表1に記載された組成に調製された溶鋼を使用し、Biについては下記の添加方法により添加して表1に示される組成に調製
溶鋼温度:1570℃(タンディッシュ内溶鋼温度)
鋳型サイズ:幅1100mm×厚さ250mm
鋳造速度:1.0m/分
Bi添加方法:直径3mmの純Biからなる金属ワイヤーを浸漬ランス内に挿入
Bi添加位置:タンディッシュ内
キャリアガス:アルゴンガス10L/分
ランス前ガス圧力:0.05MPa
鋼素材の圧延開始温度:1200℃
均質化処理温度および時間:表1に示す通り
仕上温度:850℃
巻取温度:600℃
熱間圧延と冷間圧延の総圧下率:99.4%
焼鈍温度:Ac3変態点〜950℃の温度域
焼鈍時間:50秒
750℃から600℃までの平均冷却速度:20℃/秒
1−3−1.Mn偏析比の評価条件
鋳片のデンドライト1次アームの樹芯と樹間のMn含有率の差が、この鋳片を用いて製造した鋼板の曲げ加工時におけるすじ模様の原因であることから、製造した連続鋳造鋳片についてデンドライト1次アームの樹芯と樹間の両方のMn含有率の分布を測定し、評価指標としてMn偏析比を求めた。
鋳片のデンドライト1次アームの樹芯と樹間のSn含有率の差が、この鋳片を用いて製造した鋼板にめっきを施しためっき鋼板における腐食斑やめっき密着斑の原因であることから、上述のMnと同様に、製造した連続鋳造鋳片についてデンドライト1次アーム樹芯と樹間の両方のSn含有率の分布を測定し、評価指標としてSn偏析比を求めた。
連続鋳造鋳片を素材として作製しためっき鋼板について、先端角度が180°のU曲げ試験を実施し、曲げ部の表面でのすじ模様の発生の有無を目視で観察した。曲げ試験片は、長手方向が鋼板の圧延方向に直角な方向となるように採取し、寸法は幅40mm×長さ100mm×板厚1.5mmとした。U曲げ試験は、曲げ稜線が圧延方向となるよう実施した。
連続鋳造鋳片を素材として作製しためっき鋼板について、屋外での1年間の大気暴露試験を行った。試料の寸法は、幅1000mm×長さ1000mm×板厚1.5mmとした。
連続鋳造鋳片を素材として作製しためっき鋼板について、60°V型曲げ試験を実施した後、テープテスト(JIS H 8504に規定するテープ試験方法に準拠)を行った。
上記条件で作製した連続鋳造鋳片およびめっき鋼板について、5種類の項目について評価を行った。試験結果を、表2に示した。評価項目は、連続鋳造鋳片について「Mn偏析比」および「Sn偏析比」、めっき鋼板について「すじ疵発生」、「耐腐食性」および「めっき密着性」とした。
5:金属ワイヤー供給機、 50:金属ワイヤー、 51:ワイヤーリール、
52:ワイヤー繰出しロール、 53:ワイヤー繰出し速度制御装置、
54:キャリアガス、 55:圧力指示調節弁、56:流量制御弁、
57:流量圧力制御装置、 6:浸漬ノズル、 7:凝固シェル、 8:鋳型
Claims (9)
- 質量%で、C:0.03%〜0.20%、Si:0.005%〜2.0%、Mn:0.2%〜3.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、Al:0.001%〜1.5%、Sn:0.01%を超え1.5%以下およびBi:0.0001%〜0.05%を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
- 連続鋳造鋳片の表層から10mmの範囲内におけるデンドライトの1次アームの間隔が300μm以下であり、前記デンドライトの1次アームの樹間のMn含有率と鋳片の平均Mn含有率の比が2.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
- 前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下およびV:0.3%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
- 前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1%以下、Mo:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
- 前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.0003%〜0.01%、Sr:0.01%以下、Ba:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
- 前記Feの一部に代えて、質量%で、B:0.01%以下を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
- 請求項1〜6のいずれか一項に記載の連続鋳造鋳片に対して、1050℃〜1350℃の温度域に20分間以上保持する均質化処理を施し、熱間圧延した後、冷間圧延することにより得られた高強度鋼板。
- 請求項1〜6のいずれか一項に記載の連続鋳造鋳片を製造するための連続鋳造方法であって、
タンディッシュ内の溶鋼または鋳型内の溶鋼中に浸漬させた浸漬ランス内に、Biを含有する金属ワイヤーもしくはロッド、またはBiならびにMg、Ca、SrおよびBaのうちの1種または2種以上を含有する金属ワイヤーもしくはロッドを挿入することにより、
前記浸漬ランス内で少なくともBiの金属蒸気および/または金属粒子を発生させ、前記金属蒸気および/または金属粒子をキャリアガスとともに前記溶鋼中に供給することを特徴とする連続鋳造方法。 - 請求項1〜6のいずれか一項に記載の連続鋳造鋳片を製造するための連続鋳造方法であって、
タンディッシュ内の溶鋼または鋳型内の溶鋼中に、Biを含有する金属ワイヤーもしくはロッド、またはBiならびにMg、Ca、SrおよびBaのうちの1種または2種以上を含有する金属ワイヤーもしくはロッドを供給することを特徴とする連続鋳造方法。
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