JP5533629B2 - 高強度鋼板用の連続鋳造鋳片およびその連続鋳造方法、ならびに高強度鋼板 - Google Patents

高強度鋼板用の連続鋳造鋳片およびその連続鋳造方法、ならびに高強度鋼板 Download PDF

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Description

本発明は、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板等の高強度鋼板の素材である連続鋳造鋳片およびその鋳片の連続鋳造方法、ならびに高強度鋼板に関する。
自動車用素材として用いられる鋼板は、軽量化による環境負荷低減を目的として高強度化が図られており、特に590MPa以上の引張強度を有する鋼板のニーズが高まっている。自動車用の熱延鋼板は、使用される自動車の部位に応じて要求される特性が異なり、高強度および高靱性であるとともに、良好な深絞り性、張り出し性、穴拡げ性または曲げ性といった加工性も具備することが要求される。
成品加工の最終段階である成形プロセスにおいては、曲げ成形の頻度が最も高く、その組み合わせによって様々な形状の部品に加工されることから、曲げ成形性が良好である必要がある。さらに、部品として使用されることから曲げ加工後の表面性状も良好であることが必要である。
また、自動車用素材として用いられる鋼板は、めっき密着性に優れることも要求される。めっき密着性に優れることにより、優れた耐腐食性を有するめっき鋼板が得られる。
高強度鋼板の曲げ性の改善については、従来より鋼組織の制御の面からアプローチがなされている。例えば特許文献1では、鋼板を構成する組織のうち、低温変態生成相の硬さを低下させ、フェライト相との硬度差を小さくすることが良いとされている。
一方、特許文献2や特許文献3には、フェライトの結晶粒を微細化させると、曲げ性と同様に局部変形能が必要な伸びフランジ性と高強度化とを両立できることが開示されている。
しかしながら、高強度化を目的としてMnを多量に添加した高強度鋼板を製造する場合には、連続鋳造鋳片の凝固過程を考慮することが必要であり、これについては特許文献1〜3では検討されていない。
Mnを多量に添加した溶鋼の凝固過程においては、Mnの平衡分配係数が小さいことから、偏析により、凝固後の連続鋳造鋳片に見られるデンドライト組織の樹間ではMn含有率が上昇し、デンドライトの樹芯ではMn含有率が低下する。このため、連続鋳造鋳片は、デンドライトの樹間と樹芯という、Mn含有率が異なる領域が層状に形成されることになる。
このように、凝固過程における偏析により、凝固組織内で局所的に組成が変動し、特に、低温変態相の生成に大きく影響するMn含有率が周期的に変動すると、連続鋳造鋳片またはこれを熱間圧延した熱延鋼板において、拡散熱処理によるMn含有率の均一化が十分でない場合には、Mn含有率の変動に対応して組織も不均一になる。
したがって、特許文献1に開示された技術では、鋼板全体でフェライト相および低温変態相の硬さ自体を精緻に制御することが極めて困難であるだけでなく、局所的な組成の変動に対応した不均一組織により、加工部の表面に目視によっても観察されるような顕著な凹凸が出現する。そして、その凹凸が不均一変形をさらに助長して、割れを誘発し、曲げ性そのものを劣化させる。また、割れに至らない場合であっても、加工部に凹凸が存在すると、外観不良となるだけでなく、部品としての衝突性能も劣化する。部品としての衝突性能とは、鋼板をプレス成形して加工した部品が、衝突時に強度を確保しながら変形することでエネルギーを吸収する能力を意味する。
また、凝固過程における偏析によって、相変態現象も局所的に変化し、結晶粒径も不均一となるので、特許文献2や特許文献3に開示された技術を用いても、曲げ性を改善することができない。とりわけ、これらの文献に記載の技術では、鋼中に偏析し易いMnやNiを多量に添加するため、上述のように成形時の曲げ性はもちろん、部品としての衝突性能に劣ることが容易に予想される。
組織均一化の観点からは、単相組織化という究極的なアプローチがあり、例えば特許文献4には、究極の均一組織であるマルテンサイト単相組織にすることによって、伸びフランジ性および曲げ性を向上できることが記載されている。しかしながら、特許文献4に開示された技術のように、鋼組織をマルテンサイト単相としたのでは、相変態時に生じた起伏により鋼板の平坦性が損なわれ、寸法精度が必要な自動車部品への適用が困難となる。
以上のことから、連続鋳造鋳片を圧延した鋼板において、平坦性を維持しつつ、曲げ性と高強度化とを両立させるためには、高強度化のためにMnを多量に含有させながら、均一な組織を得るという、見かけ上、相反する特性を両立させなければならないことがわかる。
均一組織を得る方法として、不均一組織の起源である凝固時の成分偏析自体を拡散によって解消するというアプローチがなされている。例えば特許文献5には、鋼材を1250℃以上の高温で10時間以上の長時間保持する溶質化処理を行うことによって、成分偏析が低減され、鋼材が均質化されることが記載されている。しかしながら、特許文献5に記載されているような、高温で長時間保持するプロセスは、著しいコスト増大および生産性の低下を招くため、現実的ではない。
めっき密着性の向上については、例えば特許文献6に、鋼にSnを含有させる技術が開示されている。SiやAlを含む鋼板では、連続溶融亜鉛めっきラインでめっき鋼板を製造する場合、鋼板の表面にSiやAlの酸化物が形成され、これらの酸化物がめっきの密着性を低下させる。Snは、Feよりも酸化しにくい元素であると同時に、鋳片の表面に偏析しやすい元素であるので、鋼板の表層で濃化し、めっき密着性の低下を抑制する。
しかしながら、特許文献6に開示されている鋼にSnを含有させる技術は、鋼板の組織が均一であり、組成も均一であることを前提にしている。鋼板は、連続鋳造鋳片を素材として、熱延工程とそれに続く冷延工程を経て製造され、鋼板の組織には、連続鋳造鋳片の凝固組織が残存している。そのため、鋼板の組織および組成は、現実には均一ではなく、MnおよびSnを含有させた鋼板では、Mnと同様にSnも偏析している。このため、Snが存在している領域のめっき密着性は優れるものの、Snの存在しない領域、またはSn含有率が低い領域のめっき密着性が劣り、鋼板全体では所望のめっき密着性を満足することは困難である。
特開昭62−13533号公報 特開2004−211126号公報 特開2004−250774号公報 特開2002−161336号公報 特開平4−191322号公報 特開2002−206139号公報
W.Kurz and D.J.Fisher著、「Fundamentals of Solidification」、Trans Tech Publications Ltd., (Switzerland)、1998年、p.256
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、平坦性を有するとともに、高強度化に必要なMnを多量に含有しても均一な組織を有し、曲げ加工後の表面性状に優れ、かつSnを含有することによりめっき密着性に優れた高強度鋼板を得ることができる連続鋳造鋳片、およびその鋳造方法を提供することにある。また、本発明は、曲げ加工後の表面性状、およびめっき密着性に優れた高強度鋼板を提供することを目的とする。
連続鋳造鋳片の凝固組織は、通常はデンドライト形態を呈している。このデンドライトは、凝固過程における溶質元素の拡散に起因して形成され、溶質元素は、その平衡分配係数に依存して、デンドライトの樹間部において濃化する。高強度鋼板に含有されるMnは、平衡分配係数は1.0より小さいことから樹間部において濃化し、樹芯部での含有率は低下する。Snも、Mnと同様に平衡分配係数が1.0より小さいことから、樹間部において濃化し、樹芯部での含有率は低下する。
MnおよびSnを含有する連続鋳造鋳片を素材として高強度鋼板を製造する場合、連続鋳造後の鋳片を加熱炉内において1050〜1350℃程度で数時間保持して均質化処理を行った後、熱間圧延工程および冷間圧延工程において圧延する。
本発明者らは、詳細な実験および分析を行った結果、MnおよびSnを含有する連続鋳造鋳片のデンドライト組織に形成されるこれらの2元素の偏析は、通常の加熱炉操業における温度および時間の範囲内では、拡散により解消することができず、その後の熱間圧延工程および冷間圧延工程を経ても残存することを明らかにした。また、MnおよびSnは、いずれも同様の挙動を示し、Mnの偏析が低減されると、Snの偏析も低減されることを明らかにした。
特に、鋼板の曲げ加工時に表面に発生するすじ模様は、連続鋳造鋳片の表層部で形成されるデンドライトの1次アーム間隔と対応する。連続鋳造鋳片の表面から内部に向かって成長したデンドライト1次アームは、圧延とともに圧延方向に傾き延ばされて、最終的に鋼板の曲げ加工時に表面にしま状の模様を呈することになる。圧延方向と垂直な方向にはデンドライト1次アームは伸びないことから、初期のデンドライトの1次アーム間隔は、圧延後も維持されることとなる。
また、デンドライトの樹間のMn濃化部において硬質のパーライトまたはベイナイトが形成され、Mn含有率の低い樹芯部では軟質のフェライトが形成されることも明らかにした。このような、硬質のパーライトまたはベイナイトと、軟質のフェライトとが鋼板内において層状に形成されると、鋼板の曲げ加工時にすじ模様が発生することになる。
上記のすじ模様の原因であるMnの偏析を低減させる方法の一つとして、Mn含有率を低下させる方法が挙げられる。しかし、鋼板の強度を確保する観点から、偏析を解消する程度にまでMn含有率を低下させることはできない。
MnおよびSnの偏析を低減させる別の方法としてこれらの2元素の拡散を促進させる方法が挙げられる。
熱伝導に関して、フーリエの法則が知られており、半無限固体における熱伝導の理論解析結果から、フーリエ数Fr=α・t/x2が導かれている。ここで、α:熱拡散係数(m2/s)、t:時間(s)、x:熱移動距離(m)である。
このフーリエ数Frを、鋼の凝固過程における凝固組織と元素の拡散に適用することにより、拡散の効果を表す指標として一般に用いられる、フーリエ数Fr=D・t/λ2が得られる。ここで、D:溶質の拡散係数(cm2/s)、t:拡散時間(s)、λ:拡散距離(cm)である。
フーリエ数Frを用いて、実操業における操業因子の変更による効果について以下のような検討を行った。フーリエ数Frが大きいほど拡散の効果が大きいため、フーリエ数Frを増大させることにより溶質の拡散を促進することができる。
上記数式からわかるように、フーリエ数Frを増大させるには、拡散係数Dまたは拡散時間tを増大させるか、拡散距離λを低減させる必要がある。
第1に、拡散係数Dは温度Tの関数であり、温度Tを高めることにより増大させることができる。操業においては、加熱炉の温度を上昇させることになる。しかし、通常の操業温度は1050〜1350℃程度であるため、これ以上に温度を高めると、コストの大幅な上昇になるだけでなく、加熱時のスケールの発生量の増加をともなって、歩留まりを低下させ、鋳片の表面性状の劣化による圧延後の鋼板の表面性状を悪化させることになる。したがって、実際の操業において温度Tを高めること、すなわち拡散係数Dを増大させることは事実上困難である。
第2に、拡散時間tを大きくすることは、操業においては、加熱炉内への装入時間を延長することになる。通常の加熱時間を数時間とすると、MnおよびSnの偏析を解消するにはその数倍を要すると試算される。現状の操業でこのような装入時間の延長を行うと、生産効率が大幅に低下することになるため、時間tを大きくすることも事実上困難である。
第3に、拡散距離λは、連続鋳造鋳片で見られるデンドライトの1次アーム間隔に相当する。デンドライトの1次アーム間隔に関する研究は従来から行われており、非特許文献1によれば、下記(1)式で表すことができる。
λ∝(D×σ×ΔT)0.25 …(1)
ここで、λ:デンドライトの1次アーム間隔(μm)、D:拡散係数(m2/s)、σ:固液界面エネルギー(J/m2)、ΔT:凝固温度範囲(℃)である。
この(1)式から、デンドライトの1次アーム間隔λは、固液界面エネルギーσに依存し、このσを低減させることができればλが減少することがわかる。λを減少させることができれば、フーリエ数Frを増大させ、連続鋳造鋳片の加熱時のMnおよびSnの拡散を促進し、MnおよびSnの偏析を低減させることができる。
そこで、本発明者らは、溶鋼とデンドライトとの固液界面エネルギーσを低減させることを目的として、溶鋼中に界面活性元素を添加する方法を想到した。
本発明は、上記の検討結果に基づいてなされたものであり、その要旨は下記の(1)〜(5)に示す連続鋳造鋳片、(6)に示す鋼板、ならびに(7)および(8)に示す連続鋳造方法にある。
(1)質量%で、C:0.03%〜0.20%、Si:0.005%〜2.0%、Mn:0.2%〜3.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、Al:0.001%〜1.5%、Sn:0.01%を超え1.5%以下およびBi:0.0001%〜0.05%を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
(2)連続鋳造鋳片の表層から10mmの範囲内におけるデンドライトの1次アームの間隔が300μm以下であり、前記デンドライトの1次アームの樹間のMn含有率と鋳片の平均Mn含有率の比が2.5以下であることを特徴とする前記(1)に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
(3)前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下およびV:0.3%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
(4)前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1%以下、Mo:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
(5)前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.0003%〜0.01%、Sr:0.01%以下、Ba:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
(6)前記Feの一部に代えて、質量%で、B:0.01%以下を含有することを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の連続鋳造鋳片に対して、1050℃〜1350℃の温度域に20分間以上保持する均質化処理を施し、熱間圧延した後、冷間圧延することにより得られた高強度鋼板。
(8)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の連続鋳造鋳片を製造するための連続鋳造方法であって、タンディッシュ内の溶鋼または鋳型内の溶鋼中に浸漬させた浸漬ランス内に、Biを含有する金属ワイヤーもしくはロッド、またはBiならびにMg、Ca、SrおよびBaのうちの1種または2種以上を含有する金属ワイヤーもしくはロッドを挿入することにより、前記浸漬ランス内で少なくともBiの金属蒸気および/または金属粒子を発生させ、前記金属蒸気および/または金属粒子をキャリアガスとともに前記溶鋼中に供給することを特徴とする連続鋳造方法。
(9)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の連続鋳造鋳片を製造するための連続鋳造方法であって、タンディッシュ内の溶鋼または鋳型内の溶鋼中に、Biを含有する金属ワイヤーもしくはロッド、またはBiならびにMg、Ca、SrおよびBaのうちの1種または2種以上を含有する金属ワイヤーもしくはロッドを供給することを特徴とする連続鋳造方法。
本発明において、「金属蒸気」とは、完全に蒸発して気体として存在する金属を意味し、「金属粒子」とは、蒸発が不十分なために液体もしくは固体粒子として存在する金属粒子、または金属蒸気が凝縮して形成される金属粒子を意味する。また、「金属」とは、純金属および合金のいずれをも含む。
以下の説明では、鋼の成分組成についての「質量%」を、単に「%」と表記する。
本発明の連続鋳造鋳片は、引張強度590MPa以上の鋼板用の素材として好適であり、本鋳片を素材として用いることにより、鋼板の曲げ加工時における表面のすじ模様の発生を抑制することができるとともに、穴拡げ性、延性についても良好な性能を発揮することが期待でき、さらに安定した品質も期待できる。
本発明の鋼板は、曲げ加工時における表面のすじ模様の発生が抑制されるため、曲げ加工後の表面性状に優れており、また、めっき密着性にも優れている。
また、本発明の連続鋳造方法は、上記の鋼板用素材となる鋳片を製造するのに必要な、蒸気圧が高く融点が低い金属元素の適正量を溶鋼中に効率良く添加し、連続鋳造鋳片内に均一に分散させるための最適な連続鋳造方法である。
金属ワイヤーを浸漬ランスを通しておよび直接タンディッシュ内の溶鋼に供給しながら連続鋳造する方法を示す図である。
本発明の連続鋳造鋳片は、上述のとおり、質量%で、C:0.03%〜0.20%、Si:0.005%〜2.0%、Mn:0.2%〜3.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、Al:0.001%〜1.5%、Sn:0.01%を超え1.5%以下およびBi:0.0001%〜0.05%を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする高強度鋼板用の連続鋳造鋳片である。以下、本発明の内容についてさらに詳細に説明する。
1.鋼組成の範囲および限定理由
1−1.必須元素
C:0.03%〜0.20%
Cは、鋼の強度向上に寄与する元素である。鋼板の引張強度を590MPa以上にするには、C含有率を0.03%以上とする必要がある。しかし、C含有率が0.20%を超えると、鋼の溶接性が劣化する。これらのことから、本発明では、C含有率を0.03%〜0.20%とする。
C含有率の好ましい範囲は、0.05%〜0.20%である。C含有率をこの範囲とすることにより、鋼板の溶接性を劣化させることなく引張強度を590MPa以上とすることが容易となる。
Si:0.005%〜2.0%
Siは、鋼の曲げ性をさほど劣化させることなく強度の向上に寄与する元素である。しかし、Si含有率が2.0%を超えると、非めっき鋼板の場合には化成処理性が、溶融亜鉛めっき鋼板の場合にはめっきの濡れ性、合金化処理性およびめっき密着性が、それぞれ劣化する。これらのことから、本発明では、Si含有率を0.005%〜2.0%とする。
Si含有率の好ましい範囲は、0.4%〜1.5%である。これは、Si含有率が1.5%を超えると鋼板表面にSiを含む酸化物が形成され、表面性状が劣化する場合があるからである。また、冷延鋼板を製造する場合に比して製造プロセスの制約上、強度向上が容易ではない溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合において、Si含有率を0.4%以上とすると590MPa以上の引張強度を確保することが容易となるからである。
Mn:0.2%〜3.5%
Mnは、鋼の強度向上に寄与する元素である。鋼板の引張強度を590MPa以上にするには、Mn含有率を1.2%以上とする必要がある。しかし、Mn含有率が3.5%を超えると、転炉における鋼の溶解や精錬が困難になるだけでなく、溶接性が劣化する。これらのことから、本発明では、Mn含有率を0.2%〜3.5%とする。引張強度を590MPa以上とするには、Mn含有率を1.2%以上とすることが好ましい。
P:0.1%以下
Pは、一般には鋼に不可避的に含有される不純物であるものの、固溶強化元素でもあり鋼板の強化に有効であるため、積極的に含有させてもかまわない。しかしながら、P含有率が0.1%を超えると溶接性が劣化する。そのため、本発明では、P含有率を0.1%以下とする。より確実に鋼板を強化するには、P含有率を0.003%以上とすることが好ましい。
S:0.01%以下
Sは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、曲げ性および溶接性の観点からは、含有率は低いほど好ましい。そのため、本発明では、S含有率を0.01%以下とする。S含有率は、0.005%以下が好ましく、0.003%以下がさらに好ましい。
Al:0.001%〜1.5%
Alは、鋼を脱酸させるために添加される元素であり、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させるのに有効に作用する元素である。しかし、Al含有率が1.5%を超えると、溶接性が劣化するとともに、酸化物系介在物が増加するため、鋼板の表面性状も劣化する。これらのことから、本発明では、Al含有率を0.001%〜1.5%とする。Al含有率は、0.01%〜0.2%が好ましい。
Sn:0.01%を超え1.5%以下
Snは、Mnを含有する鋼板においてめっき密着性の向上に寄与する元素である。しかし、Sn含有率が0.01%以下では、十分なめっき密着性を得ることができない。一方、Sn含有率が1.5%を超えると、熱間圧延時に割れが発生することがあり、良好なめっき密着性を確保することができない。これらのことから、本発明では、Sn含有率を0.01%を超え1.5%以下とする。
N:0.01%以下
Nは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、鋼板の曲げ性の観点からは、含有率は低いほど好ましい。そのため、本発明では、N含有率を0.01%以下とする。N含有率は、0.006%以下が好ましい。
Bi:0.0001%〜0.05%
Biは、本発明において重要な元素である。Biを含有することによって、鋼の凝固組織が微細化し、Mnを多量に含有させても組織が均一となり、鋼板の曲げ性の劣化が抑制される。所望の曲げ性を確保するには、Bi含有率を0.0001%以上とする必要がある。しかし、Bi含有率が0.05%を超えると、鋼の熱間加工性が劣化し、熱間圧延が困難となる。これらのことから、本発明では、Bi含有率を0.0001%〜0.05%とする。曲げ性をさらに向上させるには、Bi含有率を0.0010%以上とすることが好ましい。
上述の成分以外の残部は、Feおよび不純物である。
1−2.任意元素
Feの一部に代えて、以下の第1〜第4の任意元素を含有させてもよい。
1−2−1.第1の任意元素
Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下およびV:0.3%以下のうちの1種または2種以上の含有
Ti、NbおよびVは、いずれも鋼の強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。590MPa以上の鋼板の引張強度を確保するには、Ti、NbおよびVのうちの1種または2種を含有させることが有効である。この引張強度を確保する効果をより確実に得るには、Ti、NbおよびVのうちの1種または2種以上の元素の含有率を0.003%以上とすることが好ましい。しかし、それぞれの元素の含有率が0.3%を超えると、Ti、NbやVを含む介在物が増加するため、鋼板の表面性状が劣化する。そのため、Ti、NbおよびVの含有率は、それぞれ0.3%以下とすることが好ましい。
1−2−2.第2の任意元素
Cr:1%以下、Mo:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%以下のうちの1種または2種以上の含有
Cr、Mo、CuおよびNiは、いずれも鋼の強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。連続焼鈍の冷却停止温度を300℃〜420℃にして冷延鋼板を製造する場合や、冷延鋼板を製造する場合に比して製造プロセスの制約上、強度向上が容易ではない溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合において、590MPa以上の引張強度を確保するには、Cr、Mo、CuおよびNiのうちの1種または2種以上を含有させることが有効である。この引張強度を確保する効果をより確実に得るには、Cr、Mo、CuおよびNiのうちの1種または2種以上の元素の含有率を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、それぞれの元素の含有率が1%を超えると、上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるだけでなく、熱延板が硬質となって冷間圧延が困難となる。そのため、Cr、Mo、CuおよびNiの含有率は、上記のようにそれぞれ1%以下とすることが好ましい。
1−2−3.第3の任意元素
Ca:0.01%以下、Mg:0.0003%〜0.01%、Sr:0.01%以下、Ba:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下のうちの1種または2種以上の含有
Ca、Mg、Sr、Ba、REM(希土類元素)およびZrは、いずれも介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、鋼板の曲げ性をさらに向上させる元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。また、Biを含有する溶鋼中にこれらの元素を含有させると、溶鋼中のBiが界面エネルギーの低減効果を有するため、介在物が晶出し易くなり、または晶出物上にこれらの元素が析出し易くなり、介在物および晶出物上の析出物が微細化する。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、鋼板の表面性状を劣化させるため、それぞれの元素の含有率は0.01%以下とすることが好ましい。上述の介在物および析出物を微細化する効果をより確実に得るには、これらの元素のうちの1種または2種以上の元素の含有率を0.0001%以上とすることが好ましい。Mgの効果をさらに確実に得るには、Mg含有率を、0.001%を超えて高くすることがより好ましい。
1−2−4.第4の任意元素
B:0.01%以下
Bは、鋼の曲げ性向上に寄与するだけでなく、冷延鋼板を製造する場合に比して製造プロセスの制約上、強度向上が容易ではない溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合において、590MPa以上の引張強度を確保するのに有効であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。しかし、B含有率が0.01%を超えると、熱延板が硬質となって冷間圧延が困難となる。そのため、B含有率は0.01%以下とすることが好ましい。上述の引張強度向上効果をより確実に得るには、B含有率を0.0003%以上とすることが好ましい。
1−3.鋼組成の限定の効果
連続鋳造鋳片の鋼組成を上述の範囲とすることにより、連続鋳造鋳片の表層から10mmの範囲内におけるデンドライトの1次アーム間隔を300μm以下かつMn偏析比およびSn偏析比をいずれも2.5以下とし、MnおよびSnの偏析を低減させることができる。また、この鋳片を用いて製造した鋼板について、引張強度を590MPa以上とし、かつ曲げ加工時におけるすじ模様の発生を抑制することができ、さらにめっき密着性に優れたものとすることができる。
2.連続鋳造方法
本発明の連続鋳造方法は、前述の通り、タンディッシュ内の溶鋼または鋳型内の溶鋼中に浸漬させた浸漬ランス内に、Biを含有する金属ワイヤーもしくはロッド、またはBiならびにMg、Ca、SrおよびBaのうちの1種または2種以上を含有する金属ワイヤーもしくはロッドを挿入することにより、浸漬ランス内で少なくともBiの金属蒸気および/または金属粒子を発生させ、前記金属蒸気および/または金属粒子をキャリアガスとともに溶鋼中に供給することを特徴とする。ビスマス(Bi)の沸点は、1564℃であり、溶鋼の温度はそれ以上であるため、本発明の方法ではビスマスの蒸気および/または粒子を発生させることができる。
このような方法でBiならびにMg、Ca、SrおよびBaを添加することにより、これらの元素の適正量を溶鋼中に効率良く添加し、連続鋳造鋳片内に均一に分散させることができる。
この連続鋳造方法を実施するための装置としては、例えば、後述する実施例にて説明する通り、タンディッシュと、タンディッシュ下部に設けられタンディッシュ内の溶鋼を鋳型に供給するための浸漬ノズルと、タンディッシュの下方に位置する鋳型と、タンディッシュ内の溶鋼に金属ワイヤーもしくはロッドを供給するための浸漬ランス、または鋳型内の溶鋼に金属ワイヤーもしくはロッドを供給するための浸漬ランスと、浸漬ランスの孔内にワイヤーまたはロッドを供給するためのワイヤーまたはロッド供給装置と、浸漬ランス内にキャリアガスを供給するガス供給装置とを有する連続鋳造装置が好適である。
また、前記金属ワイヤーまたはロッドは、タンディッシュ内の溶鋼または鋳型内の溶鋼に、ワイヤーまたはロッド供給装置から直接供給してもよい。
3.連続鋳造鋳片の圧延による本発明の鋼板の製造方法
この連続鋳造工程により得られた連続鋳造鋳片に、通常一般的に行われる熱間圧延を施して熱延鋼板とし、さらにこの熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする。
この熱間圧延および冷間圧延の好ましい条件は、上述の連続鋳造工程により得られた連続鋳造鋳片に、1050℃〜1350℃の温度域に20分間以上保持する均質化処理を施し、次いで、仕上温度は800℃〜950℃、巻取温度は400℃〜750℃の熱間圧延を施して熱延鋼板とし、この熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とし、熱間圧延および冷間圧延における総圧下率を99.0%以上とすることである。
3−1.均質化処理および熱間圧延条件
熱間圧延に供する連続鋳造鋳片には、1050℃〜1350℃の温度域に20分間以上保持する均質化処理を施すことが好ましい。熱間圧延に供する連続鋳造鋳片を1050℃以上の温度域に20分間以上保持することにより、Mnの偏析に起因する不均一組織がさらに解消され、さらに鋼板の曲げ性を向上させることができる。均質化処理温度は、スケールロスの抑制、加熱炉損傷の防止および生産性の向上といった観点から、1350℃以下とすることが好ましい。
均質化処理時間は、1.0時間〜3.0時間とすることがさらに好ましい。均質化処理時間を1.0時間以上とすることにより、鋼板の曲げ性をより一層向上させることができる。一方、均質化処理時間を3.0時間以下とすることにより、スケールロスが抑制され、生産性を向上させることができるため、製造コストの低減に繋がる。
これまでに、鋼板表層の性状に影響を及ぼす領域が、連続鋳造鋳片の表層から10mmの範囲であることがわかっている。この範囲のデンドライト1次アームの樹間におけるMnの偏析を均質化処理により低減するには、デンドライトの1次アーム間隔は小さいほど良い。一方、均質化処理時間は、短いほど操業コストや工程の面から有利である。そして、デンドライトの1次アーム間隔が300μmより大きいと、所望の均質化処理時間(上述の1.0時間〜3.0時間)では、Mnの偏析の拡散効果を十分に得ることができない。本発明の連続鋳造鋳片は、連続鋳造鋳片の表層から10mmの範囲内におけるデンドライトの1次アーム間隔が300μm以下であるため、Mnの偏析の拡散効果を十分に得ることができる。
仕上温度は800℃〜950℃とすることが好ましい。仕上温度を800℃以上とすることにより、熱間圧延時の変形抵抗が小さくなり、操業をより容易に行うことができる。また、仕上温度を950℃以下とすることにより、スケールによる疵の発生をより確実に抑制することができ、良好な鋼板の表面性状を確保することができる。
巻取温度は400℃〜750℃とすることが好ましい。巻取温度を400℃以上とすることにより、硬質なベイナイトやマルテンサイトの生成が抑制され、その後の冷間圧延が容易となる。また巻取温度を750℃以下とすることにより、鋼板表面の酸化が抑制され、良好な表面性状を確保することができる。
熱間圧延工程においては、鋼板の特性変動の抑制のため、粗圧延後仕上圧延前の鋳片に対して、誘導加熱等により鋳片全長の温度の均一化を図ることが好ましい。
3−2.冷間圧延条件
上述の熱間圧延工程により得られた熱延鋼板は、通常は酸洗等の常法により脱スケール処理が施され、その後に冷間圧延が施されて冷延鋼板とされる。
このときの熱間圧延および冷間圧延における連続鋳造鋳片の総圧下率は、99.0%以上とすることが好ましい。ここで、連続鋳造鋳片の総圧下率は、下記(2)式で算出することができる。
総圧下率(%)={1−(冷延鋼板の板厚)/(熱間圧延に供する連続鋳造鋳片の板厚)}×100 …(2)
鋼板の曲げ加工時に発生するすじ模様は、圧延方向に展伸したMn含有率の板幅方向の変動だけでなく、Mn濃化部(Mn濃化帯)の板厚方向の厚さにも影響される。そのため、Mn濃化帯の厚さを減ずることによって、鋼板の曲げ加工時の表面凹凸の発生をより確実に抑制することができ、その結果、曲げ性が改善される。このような曲げ性改善の効果を得るには、上記総圧下率を99.0%以上とすることが有効である。
このように連続鋳造鋳片に均質化処理、熱間圧延および冷間圧延を施して得られた鋼板は、590MPa以上の引張強度を有するとともに、曲げ加工後の表面性状に優れる。
本発明の連続鋳造鋳片およびその連続鋳造方法の効果を確認するため、以下に示す試験を実施して、その結果を評価した。
1.試験条件
1−1.鋳造条件
溶鋼成分:C、Si、Mn、P、S、N、Al、Sn、Ti、Nb、V、Cr、Mo、Cu、Ni、Mg、Ca、Sr、Ba、REM、ZrおよびBの各成分が後述する表1に記載された組成に調製された溶鋼を使用し、Biについては下記の添加方法により添加して表1に示される組成に調製
溶鋼温度:1570℃(タンディッシュ内溶鋼温度)
鋳型サイズ:幅1100mm×厚さ250mm
鋳造速度:1.0m/分
Bi添加方法:直径3mmの純Biからなる金属ワイヤーを浸漬ランス内に挿入
Bi添加位置:タンディッシュ内
キャリアガス:アルゴンガス10L/分
ランス前ガス圧力:0.05MPa
本試験では、溶鋼成分を変化させて連続鋳造を行い、連続鋳造鋳片を製造した。本発明例の試験において鋳込まれた溶鋼の成分組成を表1中の本発明例1〜10の欄に示し、Biを添加しない比較例の試験において鋳込まれた溶鋼の成分組成を表1中の比較例1および2の欄に示した。
本発明例1〜10は、いずれも上述の必須元素を全て規定範囲で含有する実施例である。本発明例1および2は上述の第1〜第4の任意元素のいずれも含まない実施例、本発明例3は第1の任意元素を規定範囲で含有する実施例、本発明例4は第1および第2の任意元素を規定範囲で含有する実施例、本発明例5および8は第1〜第3の任意元素を規定範囲で含有する実施例、本発明例6は第1〜第4の任意元素を規定範囲で含有する実施例、本発明例7および10は第3の任意元素を規定範囲で含有する実施例、本発明例9は第3および第4の任意元素を規定範囲で含有する実施例である。
Figure 0005533629
図1は、金属ワイヤーを浸漬ランスを通してタンディッシュ内の溶鋼に供給しながら連続鋳造する方法を示す図である。取鍋3からタンディッシュ2に供給された溶鋼1は、浸漬ノズル6を経由して鋳型8内に注入され、下方に引き抜かれながら凝固シェル7を形成して鋳片となる。添加金属元素を含有する金属ワイヤー50が、タンディッシュ2内の溶鋼1中に浸漬された浸漬ランス4の孔内に所定の速度で挿入される。
浸漬ランス4の上端部は金属ワイヤー供給機5に接続されている。金属ワイヤー供給機5にはワイヤーリール51が装填されており、金属ワイヤー50は、ワイヤー繰出し速度制御装置53によりその繰出し速度を制御されたワイヤー繰出しロール52により、浸漬ランス4内に挿入供給される。金属ワイヤー供給機5には、流量圧力制御装置57の指令により作動する流量制御弁56および圧力指示調節弁55により流量および圧力を制御されたキャリアガス54が導入され、金属ワイヤー50とともに浸漬ランス4内に供給される。
そして、連続鋳造試験により得られた連続鋳造鋳片を素材として、熱間圧延および冷間圧延を行い、鋼板の試作を行った。本試験では、EPMA分析用の試験片を採取するために、連続鋳造鋳片を一旦室温まで冷却した。その後、加熱炉に装入して所定の温度まで加熱して熱間圧延を行い、続いて冷間圧延を行った。圧延条件は以下に示す通りとした。得られた鋼板には、めっき組成Al:55質量%、Zn:44%、Si:1%、600℃、数秒浸漬の条件で連続溶融亜鉛めっきを施し、めっき鋼板とした。
1−2.圧延条件
鋼素材の圧延開始温度:1200℃
均質化処理温度および時間:表1に示す通り
仕上温度:850℃
巻取温度:600℃
熱間圧延と冷間圧延の総圧下率:99.4%
焼鈍温度:Ac3変態点〜950℃の温度域
焼鈍時間:50秒
750℃から600℃までの平均冷却速度:20℃/秒
1−3.偏析比の評価条件
1−3−1.Mn偏析比の評価条件
鋳片のデンドライト1次アームの樹芯と樹間のMn含有率の差が、この鋳片を用いて製造した鋼板の曲げ加工時におけるすじ模様の原因であることから、製造した連続鋳造鋳片についてデンドライト1次アームの樹芯と樹間の両方のMn含有率の分布を測定し、評価指標としてMn偏析比を求めた。
Mn含有率の分布の測定にはEPMAを使用した。EPMAによる分析には、製造した連続鋳造鋳片の表層から厚さ方向に採取した、幅50mm×長さ50mm×厚さ8mmの試験片を使用した。EPMAによる測定時のビーム径は1μmとし、鋳片表面から10mm離れた位置において表面と平行に50mmの範囲で線分析を行った。
EPMAによる線分析で測定されたMn含有率の最大値をデンドライト樹間のMn含有率とした。Mn偏析比は、線分析で測定されたデンドライト樹間のMn含有率を、あらかじめ測定した鋳片のMn平均含有率で除した値と定義した。
Mn偏析比が1.0の場合には、鋳片のデンドライト1次アームの樹芯と樹間でMn含有率に差がなく、Mnの偏析のない理想的な状態を示す。Mn偏析比が大きいほど、鋳片のデンドライト1次アームの樹芯と樹間のMn含有率の差が大きく、この鋳片を用いて製造した鋼板の曲げ加工時におけるすじ模様の発生が著しくなることを示す。
1−3−2.Sn偏析比の評価条件
鋳片のデンドライト1次アームの樹芯と樹間のSn含有率の差が、この鋳片を用いて製造した鋼板にめっきを施しためっき鋼板における腐食斑やめっき密着斑の原因であることから、上述のMnと同様に、製造した連続鋳造鋳片についてデンドライト1次アーム樹芯と樹間の両方のSn含有率の分布を測定し、評価指標としてSn偏析比を求めた。
試験片、ビーム径等の分析条件、およびSn含有率の定義は上述のMnの場合と同等とした。
Sn偏析比が1.0の場合には、鋳片のデンドライト1次アームの樹芯と樹間でSn含有率に差がなく、Snの偏析のない理想的な状態を示す。Sn偏析比が大きいほど、鋳片のデンドライト1次アームの樹芯と樹間のSn含有率の差が大きく、この鋳片を用いて製造した鋼板にめっきを施しためっき鋼板における耐腐食斑やめっき密着斑の発生が著しくなることを示す。
1−4.曲げ試験条件
連続鋳造鋳片を素材として作製しためっき鋼板について、先端角度が180°のU曲げ試験を実施し、曲げ部の表面でのすじ模様の発生の有無を目視で観察した。曲げ試験片は、長手方向が鋼板の圧延方向に直角な方向となるように採取し、寸法は幅40mm×長さ100mm×板厚1.5mmとした。U曲げ試験は、曲げ稜線が圧延方向となるよう実施した。
1−5.大気曝露試験条件
連続鋳造鋳片を素材として作製しためっき鋼板について、屋外での1年間の大気暴露試験を行った。試料の寸法は、幅1000mm×長さ1000mm×板厚1.5mmとした。
1−6.テープテスト条件
連続鋳造鋳片を素材として作製しためっき鋼板について、60°V型曲げ試験を実施した後、テープテスト(JIS H 8504に規定するテープ試験方法に準拠)を行った。
2.試験結果
上記条件で作製した連続鋳造鋳片およびめっき鋼板について、5種類の項目について評価を行った。試験結果を、表2に示した。評価項目は、連続鋳造鋳片について「Mn偏析比」および「Sn偏析比」、めっき鋼板について「すじ疵発生」、「耐腐食性」および「めっき密着性」とした。
Figure 0005533629
「Mn偏析比」および「Sn偏析比」は、上述のように、連続鋳造鋳片より採取した試験片をEPMAにより分析し、測定された各元素の含有率の最大値を、鋳片の各元素の平均含有率により除した値である。
「すじ疵発生」とは、めっき鋼板についてU曲げ試験を実施した際の、曲げ部の表面におけるすじ模様の発生の有無を目視観察により判別した結果である。
「耐腐食性」とは、大気曝露試験により評価される特性である。大気曝露試験を行っためっき鋼板について、目視観察により判別した腐食領域の面積率が10%未満を○(可)、10%以上を×(不可)で示した。
「めっき密着性」とは、テープテストにより評価される特性である。テープテストの結果、テープ黒化度が20%未満を○(可)、20%以上を×(不可)で示した。テープ黒化度とは、めっき鋼板から剥離したテープにおいて、めっき鋼板に貼り付けた部分の面積に占めるめっきの付着した部分の割合である。
表2からわかるように、MnとSnは同様の挙動を示すため、各実施例ともMn偏析比とSn偏析比は同様の値であった。比較例1および2では、Mn偏析比はそれぞれ3.4および2.9、Sn偏析比はそれぞれ3.5および2.7と、いずれも本発明の鋳片で得られる最大値である2.5よりも大きかった。
一方、本発明例1〜10では、Mn偏析比は1.4〜2.3、Sn偏析比は1.3〜2.1と、2.5以下であり、比較例1および2と比べて小さく良好な値となった。これは、本発明例1〜10ではデンドライトの1次アーム間隔が小さく、MnおよびSnの拡散が進行しやすかったためと考えられる。
そして、Mn偏析比の大きい比較例1および2では、いずれも「すじ疵発生」は「有」であり、すじ模様が発生した。一方、Mn偏析比の小さい本発明例1〜10では「すじ疵発生」は「無」であり、すじ模様は発生せず、曲げ試験後でも良好な表面性状であった。
Sn偏析比の大きい比較例1および2では、いずれも「耐腐食性」および「めっき密着性」は×であり、腐食斑およびめっき斑が発生した。一方、Sn偏析比の小さい本発明例1〜10では、「耐腐食性」および「めっき密着性」は○であり、腐食斑およびめっき斑は発生せず、めっき面の性状は良好であった。
このように、本発明によれば、連続鋳造鋳片のデンドライトの1次アーム間におけるMn偏析およびSn偏析を低減することができ、すじ模様の発生を抑制するとともに、腐食斑およびめっき斑の発生を抑制することができる。
本発明の連続鋳造鋳片は、連続鋳造鋳片の表層から10mmの範囲内におけるデンドライトの1次アーム間隔が300μm以下かつMn偏析比およびSn偏析比がいずれも2.5以下であり、MnおよびSnの偏析が小さい。そのため、この鋳片を素材として得られた本発明の鋼板は、曲げ加工時における表面でのすじ模様の発生を抑制することができ、かつめっき密着性に優れており、自動車用の高強度鋼板をはじめとする高強度高加工性鋼板として好適である。
また、本発明の連続鋳造方法は、上記鋳片を得るために必要な金属元素の適正量を溶鋼中に効率良く添加し、連続鋳造鋳片内に均一に分散させるための最適な連続鋳造方法である。
したがって、本発明の鋳片は、自動車用熱延鋼板をはじめとする強度、靱性および加工性に優れた構造用または加工用鋼材の素材として、本発明の鋼板は、これらの加工用鋼材として、また、本発明の鋳造方法は、上記鋼材製造用の鋳片を鋳造するための連続鋳造方法として、それぞれ広範に適用できる。
1:溶鋼、 2:タンディッシュ、 3:取鍋、 4:浸漬ランス、
5:金属ワイヤー供給機、 50:金属ワイヤー、 51:ワイヤーリール、
52:ワイヤー繰出しロール、 53:ワイヤー繰出し速度制御装置、
54:キャリアガス、 55:圧力指示調節弁、56:流量制御弁、
57:流量圧力制御装置、 6:浸漬ノズル、 7:凝固シェル、 8:鋳型

Claims (9)

  1. 質量%で、C:0.03%〜0.20%、Si:0.005%〜2.0%、Mn:0.2%〜3.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、Al:0.001%〜1.5%、Sn:0.01%を超え1.5%以下およびBi:0.0001%〜0.05%を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
  2. 連続鋳造鋳片の表層から10mmの範囲内におけるデンドライトの1次アームの間隔が300μm以下であり、前記デンドライトの1次アームの樹間のMn含有率と鋳片の平均Mn含有率の比が2.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
  3. 前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下およびV:0.3%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
  4. 前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1%以下、Mo:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
  5. 前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.0003%〜0.01%、Sr:0.01%以下、Ba:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
  6. 前記Feの一部に代えて、質量%で、B:0.01%以下を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度鋼板用の連続鋳造鋳片。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の連続鋳造鋳片に対して、1050℃〜1350℃の温度域に20分間以上保持する均質化処理を施し、熱間圧延した後、冷間圧延することにより得られた高強度鋼板。
  8. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の連続鋳造鋳片を製造するための連続鋳造方法であって、
    タンディッシュ内の溶鋼または鋳型内の溶鋼中に浸漬させた浸漬ランス内に、Biを含有する金属ワイヤーもしくはロッド、またはBiならびにMg、Ca、SrおよびBaのうちの1種または2種以上を含有する金属ワイヤーもしくはロッドを挿入することにより、
    前記浸漬ランス内で少なくともBiの金属蒸気および/または金属粒子を発生させ、前記金属蒸気および/または金属粒子をキャリアガスとともに前記溶鋼中に供給することを特徴とする連続鋳造方法。
  9. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の連続鋳造鋳片を製造するための連続鋳造方法であって、
    タンディッシュ内の溶鋼または鋳型内の溶鋼中に、Biを含有する金属ワイヤーもしくはロッド、またはBiならびにMg、Ca、SrおよびBaのうちの1種または2種以上を含有する金属ワイヤーもしくはロッドを供給することを特徴とする連続鋳造方法。
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