JP5525369B2 - 樹脂密着性に優れた電子機器用Cu−Fe−P系銅合金条材 - Google Patents
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Description
この様に銅及び銅合金板と樹脂とが接合している製品では、銅及び銅合金板の樹脂密着性がしばしば問題になり、樹脂密着性を良好にする方策として、アンカー効果を得る為に表面を粗化処理、或いは、黒化処理する方法が採用されているが、充分な信頼性を得るには至っておらず、これらの処理に変わる方策として、特許文献1、特許文献2、特許文献3に示す技術が開示されている。
Cube方位とは、結晶の<001> 方向が圧延方向、圧延面法線および幅方向と平行になる方位であり、圧延面には(100)面が配向する。Cube方位が発達するにつれて、そのCube方位を有する結晶粒の存在比率は大きくなり、Cube方位が過度に発達すると、当該銅合金の強度は低下する。
EBSD法でのCube方位の方位密度は、試料表面に電子線を入射させ、この時に発生する反射電子から菊池パターン(Cube方位マッピング)を得る。この菊池パターンを解析すれば、電子線入射位置の結晶方位を知ることができる。そして、該電子線を試料表面に2次元で走査させ、所定ピッチ毎に結晶方位を測定すれば、試料表面の方位分布が測定出来る。
EBSD法での平均結晶粒径は、菊池パターン(Cube方位マッピング)を解析し、結晶粒径と各面積比率のヒストグラムから求めた。
樹脂密着される表面の粗化は、通常、銅合金条材の表面より10μm以内の深さの範囲がなされれば良く、表面より10μmまでの深さの範囲のCube方位の方位密度、平均結晶粒径が上記の数値範囲内であれば充分であり、10μmを超えてまで上記の数値範囲内とするのは製造コスト的に無駄である。
最大高さRzが1.0μm未満では、樹脂密着性が不充分であり、最大高さRzが2.0μmを超えても、粗大析出物粒子が残って樹脂密着性が不充分となり、特に高湿度時での密着性が悪くなる。
二乗平均平方根粗さRqと最大高さRzの比Rq/Rzが0.10未満では、粗化が均質になり過ぎて樹脂密着性が悪化する傾向が見られ、0.25を超えると、粗化が不均質になり樹脂密着性が悪くなる。
これらの元素は、電子機器用銅合金の特性を向上させる効果を有しており、用途にあわせて選択的に含有させることで特性を向上させることが可能となる。
これらの元素は、電子機器用銅合金の特性を向上させる効果を有しており、用途にあわせて選択的に含有させることで特性を向上させることが可能となる。
半導体パッケージのベース板、放熱板等には、銅及び銅合金板が多用されているが、更なる軽量化、低熱膨張率化が要求されている。軽量、高強度、低熱膨張率を有する材料である炭素繊維強化熱可塑性プラスチック板の両面に、ベース板、放熱板等の使用に適している本発明の樹脂密着性に優れた電子機器用銅合金条材を密着することより、更なる軽量化、低熱膨張率化が図られ、本発明の積層構造体は、パワーモジュールのベース板、直管型LEDランプの放熱板等への使用に好都合である。
[銅合金条材の成分組成]
本発明では、表面が均質に粗化され、樹脂密着性に優れたCu−Fe−P−Zn系銅合金条材として、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%およびZn;0.01〜0.5質量%を含み、残部がCu及び不可避不純物からなる基本組成とする。この基本組成に対し、後述するSn、Ni等の元素を更に選択的に含有させても良い。
Feは銅の母相中に分散する析出物粒子を形成して強度及び耐熱性を向上させる効果があるが、その含有量が1.5質量%未満では析出物の個数が不足し、その効果を奏功せしめることができない。一方、2.4質量%を超えて含有すると、強度及び耐熱性の向上に寄与しない粗大な析出物粒子が存在してしまい、耐熱性に効果のある析出物粒子が不足してしまうことになる。このため、Feの含有量は1.5〜2.4質量%の範囲内とすることが好ましい。
PはFeと共に銅の母相中に分散する析出物粒子を形成して強度及び耐熱性を向上させる効果があるが、その含有量が0.008質量%未満では析出物粒子の個数が不足し、その効果を奏功せしめることができない。一方、0.08質量%を超えて含有すると、強度及び耐熱性の向上に寄与しない粗大な析出物が存在してしまい、耐熱性に効果のあるサイズ析出物粒子が不足してしまうことになると共に導電率及び加工性が低下してしまう。このため、Pの含有量は0.008〜0.08質量%の範囲内とすることが好ましい。
Znは銅の母相中に固溶して半田耐熱剥離性を向上させる効果を有しており、0.01質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有しても、更なる効果を得ることが出来なくなると共に母層中への固溶量が多くなって導電率の低下をきたす。このため、Znの含有量は0.01〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
Niは母相中に固溶して強度を向上させる効果を有しており、0.003質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Niを含有する場合には、0.003〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
Snは母相中に固溶して強度を向上させる効果を有しており、0.003質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Snを含有する場合には、0.003〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
なお、本発明の銅合金は、Al,Be,Ca,Cr,Mg及びSiのうちの少なくとも1種以上が0.0007〜0.5質量%含有されていても良い。これらの元素は、銅合金の様々な特性を向上させる役割を有しており、用途に応じて選択的に添加することが好ましい。
本発明の樹脂密着性に優れた電子機器用銅合金条材は、銅合金条材の表面より10μmまでの深さの範囲の結晶組織内のEBSD法にて測定したCube方位の方位密度が10%〜20%であり、EBSD法にて測定した平均結晶粒径が10μm〜20μmであり、このような結晶組織であることにより、銅合金条材の表面部分で析出物粒子(Fe−P系化合物)が非常に均質に分散され、表面処理剤或いは黒化処理により銅合金条材の表面が均質に粗化される。
EBSD法にて測定したCube方位の方位密度が10%未満であると、表面処理による表面の粗化が充分ではなく、方位密度が10%を超えると、表面の歪が大きくなり均質な粗化が出来難くなる。
Cube方位とは、結晶の<001> 方向が圧延方向、圧延面法線および幅方向と平行になる方位であり、圧延面には(100)面が配向する。Cube方位が発達するにつれて、そのCube方位を有する結晶粒の存在比率は大きくなり、Cube方位が過度に発達すると、当該銅合金の強度は低下する。
EBSD法でのCube方位の方位密度は、試料表面に電子線を入射させ、この時に発生する反射電子から菊池パターン(Cube方位マッピング)を得る。この菊池パターンを解析すれば、電子線入射位置の結晶方位を知ることができる。そして、該電子線を試料表面に2次元で走査させ、所定ピッチ毎に結晶方位を測定すれば、試料表面の方位分布を測定出来る。
EBSD法での平均結晶粒径は、菊池パターン(Cube方位マッピング)を解析し、結晶粒径と各面積比率のヒストグラムから求めた。
樹脂密着される表面の粗化は、通常、銅合金条材の表面より10μm以内の深さの範囲がなされれば良く、表面より10μmまでの深さの範囲のCube方位の方位密度、平均結晶粒径が上記の数値範囲内であれば充分であり、10μmを超えてまで上記の数値範囲内とするのは製造コスト的に無駄である。
最大高さRzが1.0μm未満では、樹脂密着性が不充分であり、最大高さRzが2.0μmを超えても、粗大析出物粒子が残って樹脂密着性が不充分となり、特に高湿度時での密着性が悪くなる。
二乗平均平方根粗さRqと最大高さRzの比Rq/Rzが0.10未満では、粗化が均質になり過ぎて樹脂密着性が不充分となり、0.25を超えると、粗化が不均質になり樹脂密着性が悪くなる。
次に、本発明の析出物粒子(Fe−P系化合物)を有するCu−Fe−P系銅合金条材の製造条件について以下に説明する。析出物粒子を銅合金条材の表面より10μmまでの深さの範囲の結晶組織内に均質に分散させる為の冷間圧延、低温焼鈍の各条件を除き、通常の製造工程自体を大きく変えることは不要である。
先ず、上記の好ましい成分範囲に調整された銅合金を溶解鋳造し、鋳塊を面削後、圧延率を60%以上にて熱間圧延を施し、次に、900〜950℃にて2〜4時間の溶体化処理を行う。
溶体化処理後の銅合金板を450〜575℃にて3〜12時間の時効処理を行い、広範な粒度分布を有する析出物粒子を析出させ、最終の目的とする構成の析出物粒子を得るための素地をつくる。450℃以下或いは3時間以下では析出物粒子が充分に析出せず、575℃以上或いは12時間以上では銅合金組織が軟化する。
時効処理後の銅合金板を加工率65〜75%で冷間圧延し、析出物の粒径を小さくすると共に更なる析出物粒子の析出を促進させる。析出相の優先核形成サイトが核生成の駆動力的に有利な転位セル境界となるため、核生成頻度が促進される。加工率が65%以下では析出物粒子の粒径を小さくするには不十分であり、75%以上では核生成頻度の促進効果に支障を来たす。
第1冷間圧延後の銅合金板を250〜350℃にて30〜150秒の低温焼鈍を行い、析出物粒子の直径を一定の範囲値内にシフトさせる。これにより、表面から10μmまでの深さの範囲の結晶組織内のEBSD法にて測定したCube方位の方位密度が10%〜20%であり、EBSD法にて測定した平均結晶粒径が10μm〜20μmとし、表面処理剤により、銅合金条材の表面が均質に粗化されるようにする。250℃或いは30秒未満では効果がなく、350℃或いは150秒を超えると、析出物粒子の粗大化に繋がりピン止め効果の発揮に支障をきたし、表面状態の均質性をなくす。
この1回の低温焼鈍のみでは、析出物粒子の直径を一定の範囲値内にシフトさせ、表面から10μmまでの深さの範囲の方位密度、平均結晶粒径を所定範囲値内に入れるのは無理であり、更なる冷間圧延及び低温焼鈍が必要となる。
第1低温焼鈍後の銅合金板を加工率15〜30%で冷間圧延し、析出物粒子を目的とする直径の範囲内にシフトさせる素地を作成する。加工率30%以上では全体としての圧延率が高くなり、再結晶化を促すことに繋がり、また、強度、導電率、ビッカース硬度にも悪影響を及ぼす。加工率15%以下では殆んど効果はない。
第2冷間圧延後の銅合金板を250〜350℃にて30〜150秒の低温焼鈍を行うことにより、1μm2あたりに存在する析出物粒子の直径を一定の範囲値内にシフトさせる。これにより、表面から10μmまでの深さの範囲の結晶組織内のEBSD法にて測定したCube方位の方位密度が10%〜20%であり、EBSD法にて測定した平均結晶粒径が10μm〜20μmとし、表面処理剤により、銅合金条材の表面が均質に粗化される。250℃以下或いは30秒未満では効果がなく、350℃或いは150秒を超えると析出物粒子の粗大化に繋がりピン止め効果の発揮に支障をきたし、表面状態の均質性をなくす。
この第2低温焼鈍にて、1μm2あたりに存在する析出物粒子の直径を一定の範囲値内にシフトさせ、表面から10μmまでの深さの範囲の結晶組織内のEBSD法にて測定したCube方位の方位密度が10%〜20%であり、EBSD法にて測定した平均結晶粒径が10μm〜20μmとならなければ、更に冷間圧延及び低温焼鈍を上記の加工率、熱処理条件にて繰返すことが必要となる。この場合、冷間圧延或いは低温焼鈍を単独で繰り返しても意味はなく、冷間圧延の後に低温焼鈍を行うことが重要である。
前述の様な構成とされた本実施形態の電子機器用銅合金は、通常の表面処理法により容易に均質な粗化処理がなされ、樹脂密着に優れたCu−Fe−P系の銅合金条材となる。
下記表1に示す組成の銅合金(添加元素以外の成分はCu及び不可避不純物)を、電気炉により還元性雰囲気下で溶解し、厚さが30mm、幅が100mm、長さが250mmの鋳塊を作製した。この鋳塊を730℃にて1時間加熱した後、圧延率67%にて熱間圧延を行って厚さ10mmに仕上げ、その表面をフライスで板厚8mmになるまで面削した後、920℃にて3時間の溶体化処理を行った後、板厚1.5mmまで冷間圧延を行った。次に、450〜575℃にて3〜12時間の時効処理を行った後、加工率65〜75%にて第1冷間圧延を行い、250〜350℃にて30秒〜150秒の第1低温焼鈍を行った。次に、第1低温焼鈍後の銅合金薄板に、加工率15〜30%にて第2冷間圧延を行った後、250〜350℃にて30秒〜150秒の第2低温焼鈍を行い、表1の実施例1〜16に示す0.3mmの銅合金薄板を得た。なお、比較例1〜16は、成分組成、冷間圧延条件、低温焼鈍条件を変えて作製した。
これら銅合金薄板のEBSD測定に基づき求められた、Cube方位の方位密度と平均結晶粒径を表2に示す。
粗さの測定は、レーザー顕微鏡(オリンパス社製OLS300)を用いた。
また、樹脂との密着性の評価(樹脂密着性)は、各銅合金薄板から作製した試験片の粗化面に、フィルムタイプのエポキシ系樹脂接着剤(東レ社製TSA−66)を用いて試験冶具を接着した後、室温にてせん断試験を実施し、樹脂の破壊モードを検査した。この時、破壊モードが樹脂内破壊のものを○ 、一部界面剥離を△ 、完全界面剥離のものを× とした。
これら最大高さRz及び表面粗さ比(最大高さRzと二乗平均平方根粗さRqの比)の測定結果、樹脂密着性の評価結果を表2に示す。
引張強さは、試験片を長手方向に圧延方向に平行としたJIS5号片を作製して測定した。
ビッカース硬さは、10mm×10mmの試験片を作製し、松沢精機社製のマイクロビッカース硬度計(商品名「微小硬度計」)を用いて0.5kgの荷重を加えて4箇所硬さ測定を行い、硬さはそれらの平均値とした。
導電率は、ミーリングにより10mm×30mmの短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定し、平均断面法により算出した。
この黒化処理済の試料を、三菱樹脂株式会社製の炭素繊維強化熱可塑性プラスチック板(縦20mm×横50mm×厚さ1.7mm)の両面に250℃にて熱プレスして積層構造体No.1を作製した。
実施例5、10、15の銅合金薄板も同様に試料を作製し、同様の方法にて黒化処理及び熱プレスを行い、積層構造体No.5、No.10、No.15を作製した。
これらの積層構造体の熱膨張率(線膨張係数)を測定した結果を表3に示す。
熱膨張率の測定は、TAM法(測定機:リガク製TAM8310)により、積層構造体のサンプルサイズを幅5mm×長さ50mmとして測定した。
参考として、実施例1の銅合金薄板の熱膨張率を同様な方法にて測定したところ、17〜18(×10−6/℃)であった。
また、これらのサンプルにつき、室温にてせん断試験を実施し、樹脂の破壊モードを検査したが、全て樹脂内破壊であり、接合面での界面剥離は見られなかった。
また、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック板の両面に本発明の樹脂電子機器用銅合金条材を密着することより、パワーモジュールのベース板、直管型LEDランプの放熱板等への使用に適した優れた性能を有する積層構造体を得られることもわかる。
2 炭素繊維強化熱可塑性プラスチック板
3 電子機器用銅合金条材
Claims (5)
- 表面処理剤或いは黒化処理により表面が均質に粗化され、樹脂密着性に優れた電子機器用銅合金条材であって、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有し、表面より10μmまでの深さの範囲の結晶組織内のEBSD法にて測定したCube方位の方位密度が10%〜20%であり、EBSD法にて測定した平均結晶粒径が10μm〜20μmであることを特徴とする樹脂密着性に優れた電子機器用銅合金条材。
- 前記表面処理剤或いは黒化処理により粗化された表面の最大高さRzが1.0μm〜2.0μmであり、二乗平均平方根粗さRqと最大高さRzの比Rq/Rzが0.10〜0.25であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂密着性に優れた電子機器用銅合金条材。
- Ni;0.003〜0.5質量%及びSn;0.003〜0.5質量%を含有することを特徴とする請求項1或いは請求項2に記載の樹脂密着性に優れた電子機器用銅合金条材。
- Al、Be、Ca、Cr、Mg及びSiのうちの少なくとも1種以上を含有し、その含有量が0.0007〜0.5質量%に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂密着性に優れた電子機器用銅合金条材。
- 請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の樹脂密着性に優れた電子機器用銅合金条材が炭素繊維強化熱可塑性プラスチック板の両面に密着されたことを特徴とする積層構造体。
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