上記の駆動装置においては、位相制御により基本波電圧振幅を制御しており、点弧角を位相制御角だけ遅らせることにより制御を行っている。これにより、駆動装置に入力する電源電圧に対して駆動電圧は位相が遅れる。
図1は基本波電圧V1,基本波力率PF1,基本波電圧位相θ1の位相制御角への依存性を示すグラフである。左側縦軸の記号「/」は除算を示すのではなく、基本波電圧V1,力率PF1の二つについて左側縦軸が適用されることを示す。
図1に示されるように、基本波電圧位相θ1(これは電源電圧に対する駆動電圧の基本波位相の遅れを示す)が発生する。
リニア振動アクチュエータのように、電力を機械的仕事に変換する装置(以下「電気機械変換部」とも称す)は通常は誘導性負荷であるので、駆動電圧Vと電流iの位相を一致させて力率を改善するために、共振コンデンサCが採用される。
しかし制御される対象となる変位xが大きい場合、上記共振コンデンサCを採用しても、基本波電圧位相θ1に依存して力率PF1が大きく低下するという問題がある。
例えば電源に接続されるべき負荷の力率は85%以上であることが要求される場合、図1を参照して、位相制御角は90°程度が上限となる。よってかかる位相制御によって制御可能な駆動電圧の範囲は0〜60%程度となる。
また、式(1)の運動方程式から、機械系の共振周波数fmは式(3)で表される。
ここで、Km:共振ばね定数、Kg:ガスばね定数、を採用した。共振ばねはリニア振動アクチュエータに設けられるばねであり、ガスばねはリニアコンプレッサの圧縮対象となるガスの弾性を示す。
図2にはガスばね定数の変位に対する依存性も示している。駆動電圧Vの振幅を下げることによりリニアコンプレッサの変位xを小さくした場合には、図2に示すように、ガスばね定数Kgが増加し、式(3)において共振周波数fmが上昇することになる。
図3は、式(1)(2)から得られる、駆動電圧Vに対する電流iの伝達特性を示すボード線図である。ここでは機械系の共振周波数fmと、式(2)から得られる電気系の共振周波数feとのいずれもが60Hzである場合を示している(二つの共振周波数fm,feを一致させる利点については後述する)。機械系の共振周波数fmが上昇すれば伝達特性の振幅の谷や、周波数上昇に対して伝達特性の位相が上昇する区間も周波数の高い側にずれる。
駆動電圧Vの周波数を60Hzとして駆動装置が動作していれば、駆動電圧Vと電流iとは同相となり、力率は最大となる。かかる状況からガスばね定数Kgが増加すると、60Hz近傍での伝達特性の位相は低下し、駆動電圧Vに対する電流iの位相が遅れる。
したがって、従来の駆動装置においては、位相制御による駆動電圧の位相遅れのみならず、ガスばねによる電流位相の遅れが加わり、力率が大きく低下するものと考えられる。
図4は電源側から見た力率の、入力電力に対する依存性を示すグラフである。当該駆動装置の負荷としてリニアコンプレッサを採用した場合と、抵抗を採用した場合とを併記した。負荷として抵抗が採用される場合には、機械系の運動方程式は成立せず、ガスばね定数の影響もない。よって負荷としてリニアコンプレッサが採用される場合には、負荷として抵抗が採用される場合と比較して、入力電力の低下に伴う力率の低下が顕著となることが分かる。
最大定格において、位相制御角0°で共振動作が可能となるよう、各定数を設定することが望ましい。しかし電源電圧が変動した場合、特に電源電圧が低下した場合、変位xが小さくなり、リニアコンプレッサの能力が低下する。
かかる事態に対応するためには、制御位相に余裕を持つ必要がある。このため、実際に製品に搭載される駆動装置では、さらに力率を低下させて動作させる必要がある。通常、製品に要求される85%程度の力率を確保するためには、リニアコンプレッサの能力を可変にできる範囲が著しく狭くなってしまうという問題がある。
以上から分かるように、力率の悪化は、位相制御による、駆動電圧Vの位相遅れ、及びガスばね定数Kgの変動による機械系共振周波数fmの変動に起因している。
上述のようなガスばね定数Kgの変動による機械系の共振周波数fmの変化に対応するためには、単なる位相制御のみならず、周波数制御及び振幅制御をも採用することができる。
図5は特許文献3で紹介された単相コンバータと公知のインバータとで構成される駆動装置1を用いて、リニアモータ2を制御する場合を示す回路図である。ここで共振用コンデンサCは省略されている。リニアモータ2は、その抵抗r、インダクタンスL、及び逆起電力eaを発生する交流電圧源の直列接続として、電気的な等価回路で示されている。
このような単相インバータとインバータとを用いることにより、微小な周波数制御及び振幅制御を行うことによって対応することが可能である。しかし図5においてトランジスタとして示されたスイッチ素子が6個必要であり、回路構成が複雑になるという新たな問題がある。
他方、パルス幅制御にて駆動電圧を制御し、負荷力率が100%よりも小さい負荷に駆動電圧を供給する技術が特許文献4に開示されている。しかし当該技術においては電源への回生動作を行うので、トランジスタとして示されたスイッチ素子が6個必要となっている。
また、駆動電圧の振幅制御のみを行う装置として、交流チョッパ回路が公知である。図6は交流チョッパ回路が採用された駆動装置1と、駆動装置1と、リニアモータ2及び共振コンデンサCとを接続する態様を示す回路図である。ここでもリニアモータ2は、電気的な等価回路で示されている。
当該交流チョッパ回路では双方向スイッチが用いられて、強制転流により降圧動作が行われる。双方向スイッチとしては、位相制御を前提とするトライアック等の自然転流素子が一般的である。しかし自然転流素子は消弧動作が不能であるので、上記交流チョッパ回路で採用することはできない。
よって、双方向スイッチとしては、インバータの強制転流に利用される単方向素子であるIGBT等にて構成することが望まれる。図6ではスイッチ部を単方向素子で置き換えた場合を例示している。但し、これらの単方向素子の駆動電位が互いに相違する他、ディスクリートな構成を採らざるを得ないので、回路構成が複雑化するという問題が生じる。
しかもリニアモータ2及び共振コンデンサCに供給される電圧(上述の駆動電圧Vに相当する)は降圧動作の結果として得られるのであるから、上述のように電圧低下に伴うガスばね定数Kgの上昇、引いては機械系共振周波数fmの上昇が問題となる。
スイッチ素子の数を4個にしてパルス幅制御にて駆動電圧を制御する技術が、特許文献5に紹介されている。しかし当該技術では駆動電圧と負荷に流れる電流との符号が異なる期間が長く、力率の改善が不足であった。
この発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、高効率運転を実現して運転可変範囲を拡大し、しかも構成の簡単化を実現することができる電力変換回路の制御装置を提供することを目的としている。
この発明にかかる電力変換回路の制御装置(9a,9b)は電力変換回路(1b)を制御する装置である。当該電力変換回路は、入力点(J1)、前記入力点との間から交流電力を入力する入出力共通点(J2)、前記入出力共通点との間から電力変換後の交流電力を出力する出力点(J3)、第1接続点(K1)、第2接続点(K2)、前記入力点に接続されたアノードと前記第1接続点に接続されたカソードとを有する第1入力ダイオード(D10)、前記第2接続点に接続されたアノードと前記入力点に接続されたカソードとを有する第2入力ダイオード(D20)、前記第1接続点から前記入出力共通点への電流の阻止/流入を制御する第1スイッチング素子(Q11)、前記入出力共通点から前記第2接続点への電流の阻止/流入を制御する第2スイッチング素子(Q21)、前記第1接続点から前記出力点への電流の阻止/流入を制御する第3スイッチング素子(Q12)、前記出力点から前記第2接続点への電流の阻止/流入を制御する第4スイッチング素子(Q22)、前記入出力共通点に接続されたアノードと前記第1接続点に接続されたカソードとを有する第1ダイオード(D11)、前記入出力共通点に接続されたカソードと前記第2接続点に接続されたアノードとを有する第2ダイオード(D21)、前記出力点に接続されたアノードと前記第1接続点に接続されたカソードとを有する第3ダイオード(D12)、及び前記出力点に接続されたカソードと前記第2接続点に接続されたアノードとを有する第4ダイオード(D22)を備える。
当該制御装置の第1の態様は、電圧極性判定部(71)と、電流極性判定部(72)と、スイッチング信号生成部(5)とを備える。
前記電圧極性判定部(71)は、前記入力点の前記入出力共通点に対する入力電圧(Vin)の電圧極性(F1)を判定する。
前記電流極性判定部(72)は、前記出力点から前記入出力共通点へと流れる出力電流(Iout)の電流極性(F2)を判定する。
スイッチング信号生成部(5)は、前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子の導通/非導通パターンを決定するパルス幅変調信号(M)並びに前記電圧極性及び前記電流極性を入力し、第1乃至第4のスイッチング素子の導通デューティに基づいて、と前記第1乃至第4のスイッチング素子の動作を制御するスイッチング信号(G11,G21,G12,G22)を生成する。
前記電圧極性が正であって前記電流極性が負である第1区間(I)には前記第1、第2,第3、第4スイッチング素子の前記導通デューティをそれぞれ0,0,0,1とする。
前記電圧極性が正であって前記電流極性が正である第2区間(II)には前記第3スイッチング素子の前記導通デューティに前記パルス幅変調信号の前記導通デューティを採用しつつ前記第1,第2、第4スイッチング素子の前記導通デューティをそれぞれ0,1,0とする。
前記電圧極性が負であって前記電流極性が正である第3区間(III)には前記第1、第2,第3、第4スイッチング素子の前記導通デューティをそれぞれ0,0,1,0とする。
前記電圧極性が負であって前記電流極性が負である第4区間(IV)には前記第4スイッチング素子の前記導通ディユーティに前記パルス幅変調信号の前記導通デューティを採用しつつ前記第1,第2、第3スイッチング素子の前記導通デューティをそれぞれ1,0,0とする。
この発明にかかる電力変換回路の制御装置の第2の態様(9a,9b)は、その第1の態様であって、前記電力変換回路(1b)は負荷(2)に対して前記出力電流(Iout)を供給する。前記負荷は、電力を機械的仕事に変換する電気機械変換部(2c)と、共振コンデンサ(C)とを有し、前記電気機械変換部と前記共振コンデンサとは、前記負荷において前記電力変換回路の出力側に直列に接続される。
この発明にかかる電力変換回路の制御装置の第3の態様(9a,9b)は、その第2の態様であって、前記負荷の機械系の共振周波数と電気系の共振周波数とが等しい。
この発明にかかる電力変換回路の制御装置の第4の態様(9a,9b)は、その第2の態様又は第3の態様であって、前記電気機械変換部(2c)の状態を示す状態情報(W)と前記状態情報の指令値(W*)とから、前記PWM信号(M)を生成するPWMパターン決定部(4)を更に備える。
この発明にかかる電力変換回路の制御装置の第5の態様(9b)は、その第4の態様であって、状態情報生成部(83)と、乗算器(81)と、位相マスク(82)とを更に備える。
前記状態情報生成部(83)は、前記電気機械変換部(2c)に固有の機器定数(L,r,Ke)及び前記共振コンデンサの静電容量値(C)、並びに前記出力点(J3)と前記入出力共通点(J2)との間に印加される出力電圧(Vout)及び前記出力電流(Iout)から前記状態情報(W)を生成する。
前記乗算器(81)は、前記PWM信号(M)と前記入力電圧(Vin)との積を求める。
前記位相マスク(82)は、前記電圧極性(F1)及び前記電流極性(F2)及び前記積を入力し、前記第1区間(I)及び前記第3区間(III)において前記積を零値でマスキングして前記出力電圧を求める。
この発明にかかる電力変換回路の制御装置の第1の態様によれば、出力点と入出力共通点との間から得られる出力電圧を小さくするに際して、パルス幅変調を採用するので、位相制御を採用した場合と比較して力率が改善される。また電源から入力する電圧における変動にも対応できる。しかも環流動作を行って、電源への回生を行わないので、電源側への無効電力の発生を回避し、力率が改善される。
この発明にかかる電力変換回路の制御装置の第2の態様によれば、電気機械変換部は通常は誘導性負荷であるので、共振コンデンサを採用することにより、負荷に供給される電圧と電流の位相差が小さくなり、負荷の力率が改善される。
この発明にかかる電力変換回路の制御装置の第3の態様によれば、第1区間及び第3区間の長さを短くし、以て出力電圧の振幅を実質的にPWM変調で制御することに近つけることができる。
この発明にかかる電力変換回路の制御装置の第5の態様によれば、電気機械変換部についての状態信号を推定した制御を採用することができる。
第1の実施の形態.
図7は本実施の形態における技術を説明する回路図である。ここでは、スナバ等の付加回路は省略している。
リニアコンプレッサ2cはリニア振動アクチュエータ(不図示)を含んでいる。リニア振動アクチュエータ及びこれと電気的に直列に接続された共振コンデンサCとは、駆動装置1の負荷2となっている。
駆動装置1は、LCフィルタ回路1aと電力変換回路1bとを備えている。LCフィルタ回路1aを介して交流電源10から電力が供給されることにより、電力変換回路1bには入力電圧Vinと、入力電流Iinが入力される。電力変換回路1bは負荷2に対して出力電流Iout及び駆動電圧(以下、出力電圧とも称す)Voutを出力する。
電力変換回路1bは、入力点J1、入出力共通点J2、出力点J3を備える。入力点J1と入出力共通点J2との間にはLCフィルタ回路1aを介して交流電力が入力される。具体的には入力点J1の入出力共通点J2に対する電位差が入力電圧Vinであり、LCフィルタ回路1aから入力点J1へ流れ込む電流が入力電流Iinである。
入出力共通点J2と出力点J32との間から、電力変換回路1bによって電力変換された後の交流電力が負荷2へ出力される。具体的には出力点J3の入出力共通点J2に対する電位差が出力電圧Voutであり、出力点J3から負荷2へ流れ込む電流が出力電流Ioutである。
電力変換回路1bはまた接続点K1,K2を備えている。接続点K1,K2は下記諸要素の接続点として把握される。電力変換回路1bは入力ダイオードD10,D20と、スイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22と、ダイオードD11,D21,D12,D22とを備える。スイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22は例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタが採用され、それぞれダイオードD11,D21,D12,D22と共にモジュール化された素子を採用することができる。
入力ダイオードD10は、入力点J1に接続されたアノードと接続点K1に接続されたカソードとを有する。入力ダイオードD20は、接続点K2に接続されたアノードと入力点J1に接続されたカソードとを有する。
スイッチング素子Q11は、接続点K1から入出力共通点K2への電流の阻止/流入を制御する。スイッチング素子Q21は、入出力共通点K2から接続点K2への電流の阻止/流入を制御する。スイッチング素子Q12は、接続点K1から出力点J3への電流の阻止/流入を制御する。スイッチング素子Q22は、出力点J3から接続点K2への電流の阻止/流入を制御する。
ダイオードD11は、入出力共通点J2に接続されたアノードと接続点K1に接続されたカソードとを有する。ダイオードD21は、入出力共通点J2に接続されたカソードと接続点K2に接続されたアノードとを有する。ダイオードD12は、出力点J3に接続されたアノードと接続点K1に接続されたカソードとを有する。ダイオードD22は、出力点J3に接続されたカソードと接続点K2に接続されたアノードとを有する。
駆動装置1は、通常のインバータを構成する汎用部品にて構成できる。
なお、図7で例示された回路図では、出力電流Ioutを測定するためのシャント抵抗6が、共振コンデンサCと入出力共通点J2との間に接続されている。シャント抵抗6の両端には出力電流Ioutに比例した電圧Vrが発生する。但し、シャント抵抗6を設けることなく、カレントトランスを用いて出力電流Ioutを測定してもよい。
制御装置9aは、電力変換回路1bの動作を制御すべく、電圧極性判定部71、電流極性判定部72、及びスイッチング信号生成部5を備える。
電圧極性判定部71は、入力電圧Vinを入力してその電圧極性F1を判定する。電流極性判定部72は、出力電流Ioutの電流極性F2を判定する。スイッチング信号生成部5はパルス幅変調信号M並びに、電圧極性F1及び電流極性F2を入力し、スイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22の動作を制御するスイッチング信号G11,G21,G12,G22を生成する。
ここでパルス幅変調信号Mはスイッチング素子Q12,Q22の導通/非導通パターンを決定する信号であって、変位W(式(1)(2)の変位xに相当する)とその指令値W*との偏差に基づいて生成される。パルス幅変調信号MはPWM信号生成部4によって生成され、例えばPWM信号生成部4を制御装置9aに含めてもよい。パルス幅変調信号Mの生成自体は周知の技術を採用できるので、ここではその説明を省略する。
なお、変位Wはリニアコンプレッサ2cに付加された位置センサ3によって検出することができる(但し後述するように位置センサ3を用いずに変位Wを推定することもできる)。位置センサ3は例えばリニアスケールで構成される。また指令値W*は例えば、制御装置9aへとその外部から供給される。
図8は、電力変換回路1bの入力電流Iin、入力電圧Vin、出力電流Iout及び出力電圧Voutの波形を示すグラフである。入力電流Iin、入力電圧Vin、出力電流Iout及び出力電圧Voutの極性に依存して、4つの区間I,II,III,IVが規定される。
図9は4つの区間I,II,III,IVと電圧極性F1、電流極性F2及びスイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22の動作との関係を示す図である。
区間Iは、電圧極性F1が正であって、電流極性F2が負である。このとき、スイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22の動作はそれぞれOFF,OFF,OFF,ONである。換言すればスイッチング信号生成部5はパルス幅変調信号Mに依存せずに、スイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22の導通デューティをそれぞれ0,0,0,1とする。
区間IIは、電圧極性F1が正であって、電流極性F2が正である。このとき、スイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22の動作はそれぞれOFF,ON,PWM,OFFである。換言すればスイッチング信号生成部5は、スイッチング素子Q12の導通デューティにパルス幅変調信号Mの導通デューティを採用しつつ、パルス幅変調信号Mに依存せずにスイッチング素子Q11,Q21,Q22の導通デューティをそれぞれ0,1,0とする。
区間IIIは、電圧極性F1が負であって、電流極性F2が正である。このとき、スイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22の動作はそれぞれOFF,OFF,ON,OFFである。換言すればスイッチング信号生成部5はパルス幅変調信号Mに依存せずに、スイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22の導通デューティをそれぞれ0,0,1,0とする。
区間IVは、電圧極性F1が負であって、電流極性F2が負である。このとき、スイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22の動作はそれぞれON,OFF,OFF,PWMである。換言すればスイッチング信号生成部5は、スイッチング素子Q22の導通デューティにパルス幅変調信号Mの導通デューティを採用しつつ、パルス幅変調信号Mに依存せずにスイッチング素子Q11,Q21,Q12の導通デューティをそれぞれ1,0,0とする。
図10はスイッチング信号生成部5の構成を例示する回路図である。上述のスイッチング素子Q11,Q21,Q12,Q22の導通デューティを得るため、スイッチング信号生成部5は通電パターン決定部51、52及び通電モード決定部53を備えている。ここでは電圧極性F1及び電流極性F2の極性が正の場合に論理値“H”が、負の場合に論理値“L”が、それぞれ割り当てられている場合を示している。またパルス幅変調信号Mの活性/非活性に応じてそれぞれ論理値“H”/“L”が割り当てられる場合が示されている。
通電モード決定部53は二入力のEX-ORゲートB1と反転ゲートB2とを有している。EX-ORゲートB1には電圧極性F1及び電流極性F2の論理値が入力する。
ゲートB1の出力は、電圧極性F1と電流極性F2とが相違する場合(これは区間I,IIIに対応する)に“H”となり、電圧極性F1と電流極性F2とが一致する場合(これは区間II,IVに対応する)に“L”となる。ゲートB2の出力は、ゲートB1の出力と相補的な論理値を採る。
通電パターン決定部52はスイッチング信号G11,G21に対応する論理を出力するブロックであり、反転ゲートB3及び二入力のANDゲートB4,B5を有している。ANDゲートB4,B5の出力の“H”/“L”に応じて、それぞれスイッチング信号G11、G21は活性/非活性となる。
反転ゲートB3は電圧極性F1の論理値を入力する。ANDゲートB4の一方側入力としてゲートB3の出力が、ANDゲートB5の一方側入力として電圧極性F1の論理値が、それぞれ与えられる。ANDゲートB4,B5にはいずれもゲートB2の出力が入力されている。
ANDゲートB4の出力は、電圧極性F1及び電流極性F2の論理値がいずれも“L”であるときに“H”となり、電圧極性F1及び電流極性F2の論理値の少なくともいずれか一方が“H”であるときに“L”となる。これにより、図9に示されるように、スイッチング素子Q11は区間IVにおいてのみ導通し、それ以外で非導通となる。
ANDゲートB5の出力は、電圧極性F1及び電流極性F2の論理がいずれも“H”であるときに“H”となり、電圧極性F1及び電流極性F2の論理の少なくともいずれか一方が“L”であるときに“L”となる。これにより、図9に示されるように、スイッチング素子Q21は区間IIにおいてのみ導通し、それ以外で非導通となる。
通電パターン決定部51はスイッチング信号G12,G22に対応する論理を出力するブロックであり、三入力ANDゲートB6,B7,B9,B10と、反転ゲートB8と、二入力ORゲートB11,B12とを有する。ORゲートB11,B12の出力の“H”/“L”に応じて、それぞれスイッチング信号G12、G22は活性/非活性となる。
ANDゲートB6にはANDゲートB5と同様にゲートB2の出力及び電圧極性F1の論理値が与えられ、かつパルス幅変調信号Mの論理値も与えられる。よってANDゲートB6は区間IIにおいてのみパルス幅変調信号Mの論理値を出力する。同様にして、ANDゲートB7は区間IVにおいてのみパルス幅変調信号Mの論理値を出力する。
反転ゲートB8は電流極性F2の論理値を入力する。ANDゲートB10の一方側入力としてゲートB8の出力が、ANDゲートB9の一方側入力として電流極性F2の論理値が、それぞれ与えられる。ANDゲートB9,B10にはいずれもゲートB1の出力が入力されている。
ANDゲートB9の出力は、電圧極性F1及び電流極性F2の論理値がそれぞれ“L”,“H”であるとき(これは区間IIIに対応する)に“H”となり、それ以外では“L”となる。ORゲートB11にはANDゲートB9の出力及びANDゲートB6の出力が入力するので、区間I,IVにおいて“L”、区間IIにおいてパルス幅変調信号Mの論理、区間IIIにおいて“H”を出力する。よって図9に示されるようにスイッチング素子Q12が制御される。
ANDゲートB10の出力は、電圧極性F1及び電流極性F2の論理値がそれぞれ“H”,“L”であるとき(これは区間Iに対応する)に“H”となり、それ以外では“L”となる。ORゲートB12にはANDゲートB10の出力及びANDゲートB7の出力が入力するので、区間II,IIIにおいて“L”、区間IVにおいてパルス幅変調信号Mの論理、区間IIにおいて“H”を出力する。よって図9に示されるようにスイッチング素子Q22が制御される。
図7を参照して電力変換回路1bは降圧形チョッパである。よってPWM制御が行われることによって、図8の波形に示すように入力電流Iin、入力電圧Vin、出力電流Iout及び出力電圧Voutはそれぞれ不連続、連続、連続、不連続となる。以下、図8の波形について、区間I,II,III,IV毎に説明する。
図11は区間Iにおける駆動装置1、負荷2及び交流電源10の等価回路を示す。スイッチング素子Q12,22がそれぞれオフ、オンしているので、入出力共通点J2と出力点J3とはほぼ短絡し、出力電圧Voutは0となる。このとき逆起電力ea(>0)に基づいて電流が出力点J3、スイッチング素子Q22、接続点K2、ダイオードD21、入出力共通点J2を通って流れる(Iout<0)。かかる現象は回生ではなく、環流である(スイッチング素子Q11がオフしており、入力点J1はフローティングとなっているため)。
図12は区間IIにおける駆動装置1、負荷2及び交流電源10の等価回路を示す。スイッチング素子Q21がオンしているので、スイッチング素子Q12のPWM動作に依存して出力電流Ioutの経路は異なる。実線で示された経路はスイッチング素子Q12がそのPWM動作においてオンしている場合に出力電流Ioutが流れる経路である。当該経路において出力電流Ioutは、入力電圧Vinが正であることから入力点J1、ダイオードD10、接続点K1、スイッチング素子Q12、出力点J3をこの順に流れる(Iout>0、Vout>0)。このときの出力電流Ioutは入力電圧Vinに基づいて流れているので、当該現象は力行である。
破線で示された経路はスイッチング素子Q12がそのPWM動作においてオフしている場合に出力電流Ioutが流れる経路である。当該経路において出力電流Ioutは、入出力共通点J2、スイッチング素子Q21、接続点K2、ダイオードD22、出力点J3をこの順に流れる(Iout>0、Vout=0)。このときの出力電流Ioutは逆起電力ea(<0)に基づいて流れているので、当該現象は環流である(通常、Vin>eaであるので、入力ダイオードD20は導通しないため)。
図13は区間IIIにおける駆動装置1、負荷2及び交流電源10の等価回路を示す。スイッチング素子Q12,Q22がそれぞれオン、オフしているので、入出力共通点J2と出力点J3とはほぼ短絡し、出力電圧Voutは0となる。このとき逆起電力ea(<0)に基づいて電流が入出力共通点J2、ダイオードD11、接続点K1、スイッチング素子Q12、出力点J3を通って流れる(Iout>0)。かかる現象は回生ではなく、環流である(スイッチング素子Q21がオフしており、入力点J1はフローティングとなっているため)。
図14は区間IVにおける駆動装置1、負荷2及び交流電源10の等価回路を示す。スイッチング素子Q11がオンしているので、スイッチング素子Q22のPWM動作に依存して出力電流Ioutの経路は異なる。実線で示された経路はスイッチング素子Q22がそのPWM動作においてオンしている場合に出力電流Ioutが流れる経路である。当該経路において出力電流Ioutは、入力電圧Vinが負であることから出力点J3、スイッチング素子Q22、接続点K2、ダイオードD11、入力点J1をこの順に流れる(Iout<0、Vout<0)。このときの出力電流Ioutは入力電圧Vinに基づいて流れているので、当該現象は力行である。
破線で示された経路はスイッチング素子Q22がそのPWM動作においてオフしている場合に出力電流Ioutが流れる経路である。当該経路において出力電流Ioutは、出力点J3、ダイオードD12、接続点K1、スイッチング素子Q11、入出力共通点J2をこの順に流れる(Iout<0、Vout=0)。このときの出力電流Ioutは逆起電力ea(>0)に基づいて流れているので、当該現象は環流である(Vin<0<eaであるので、入力ダイオードD10は導通しないため)。
以上のように、出力電圧VoutをPWM制御によってチョッピングして出力電流Ioutを正弦波状にする。しかもこの際に環流動作を採用することにより、出力電圧Voutが出力電流Ioutの極性と異なる極性を有する期間が除去される。これにより、電源側への無効電力の発生を回避し、もって力率が改善される。特許文献4に開示された技術とは異なり、電源への回生動作を行わないので、スイッチング素子は特許文献4よりも二個少なくすることができる。
図15は力率特性の入力電力依存性を示す図である。図15では特許文献1で開示された装置(以下「従来装置」と称す)技術によりリニアコンプレッサを駆動した場合と、図7で示された装置によりリニアコンプレッサを駆動した場合との両方を併記した。但し二つの場合においてばね定数は(変位が小さくなってガスばね定数が上昇することも含めて)互いに等しく設定されている。
上述のように機械系の共振周波数fmはガスばね定数Kgに依存し、従って変位x,Wに依存して変動する。図15では、最大定格(ここでは入力電力700W程度)において採用される変位に対応するガスばね定数を用いて、機械系の共振周波数fmを電源周波数(ここでは60Hz)と一致させ、かつ電気系の共振周波数feもこれと一致するように設定した場合が示されている(二つの共振周波数fm,feを一致させる利点については後述する)。
前述のように電源に接続されるべき負荷の力率は85%以上であることが要求される場合、図15を参照して従来装置では運転可変範囲は80〜100%程度となる。他方、図7の装置においては、出力電圧Voutの振幅調整はPWM変調によって行われ、出力電圧Voutの位相と電源電圧Vinの位相とが一致し、点弧位相の遅れに伴った入力力率の低下が回避されている。これにより負荷の力率は85%以上であることが要求される場合であっても、運転可変範囲が50〜100%となり、運転可変範囲が約30%で拡大される。
しかも、パルス幅変調信号Mのデューティを制御することによって電源電圧の変動に対応することが可能であるので、電源電圧が変動した場合においても、ガスばね定数Kgに依存した力率特性を維持することが可能である。
なお区間I,IIIが短いほど環流動作の時間が短く、出力電圧Voutの振幅を実質的にPWM変調で制御することに近づき、力率が改善される。よって区間I,IIIを短縮することが望ましい。なお、図8では制御の説明を分かり易くするため区間I,IIIを長く採った場合について記載しており、図20、図21、図22では区間I,IIIを短く採った場合について記載している。
区間I,IIIを短縮することは、出力電圧Voutと出力電流Ioutの位相差を小さくすることに相当する。当該位相差は典型的には、式(1),(2)から求められる機械系共振の共振周波数fmと電気系の共振周波数feとが等しい場合において、零となる。具体的には式(2)において電気的共振時には位相が90°進相することを示す記号jを用いて、式(4)が成立する。但し式(2)から電気系の共振周波数を式(5)で求めた。
他方、式(1)においては電流iは変位xについて定数倍項、一階微分項、二回微分項を用いて表される。よって式(4)において電流iと電圧Vとが同位相であると言えるためには、式(1)が成立しつつも、電流iが変位xについての一階微分項と、定数とで表されなければならない。これは即ち式(3)が成立することに他ならず、機械的共振という条件下においてのみ、式(4)において電流iと電圧Vとが同位相であると言えることになる。つまり、電流iと電圧Vとが同位相となるのは機械系の共振周波数fmと電気系の共振周波数feとが等しい場合である。
よって既知の各定数に対して、共振コンデンサCの容量を下記のように設定することにより、区間I,IIIの長さを顕著に短く(理想的には零に)することができる。
つまり、本実施の形態で示された電力変換回路1bを制御する場合、当該電力変換回路1bがその出力電流Ioutを供給する負荷2は、電気機械変換部(ここではリニアコンプレッサ2c)と、共振コンデンサCとを有することが望ましい。そして負荷2において電気機械変換部と共振コンデンサとは電力変換回路1bの出力側に直列に接続され、機械系の共振周波数と電気系の共振周波数とは等しいことが望ましい。これにより区間I,IIIの長さを短くし、以て出力電圧Voutの振幅を実質的にPWM変調で制御することに近つけることができる。
なお、変位x,Wは電気機械変換部の状態を示す状態情報と把握することができる。
もちろん、共振コンデンサCの値が式(6)の値よりも少し増減しても、区間I,IIIの長さを短くすることができる効果はある。
区間II,IVではPWM制御による力行/環流が実行されるので、位相制御のような位相制御角は採用されない。よって位相制御を採用したときに問題となる、制御変位が小さい場合に位相制御角が増大することに起因した力率低下の影響を小さくすることができる。
第2の実施の形態.
本実施の形態では変位Wを位置センサ3等で実測するのではなく、共振コンデンサCの電圧に基づいて推定する技術を採用する。
図16は本実施の形態における技術を説明する回路図である。ここで示される構成は、第1の実施の形態において図7を用いて説明された構成に対して、制御装置9aを制御装置9bに置換し、位置センサ3を削除した構成を有している。
制御装置9bは制御装置9aに対して、乗算器81、環流位相マスク82、変位推定部83が追加された構成を有する。
式(2)を変形すると式(7)が得られる。
式(7)において、右辺の第1項である駆動電圧Vは電源電圧およびデューティより得られる値であり、右辺の第2項はリニアアクチュエータの機器定数、リニア振動アクチュエータに流れる電流、および共振コンデンサの電圧から求められる値である。また、左辺の速度起電力Keについても既知である。よって変位xは右辺を速度起電力Keで除して得られる値を積分することによって推定される。
本実施の形態に即していえば、リニアアクチュエータのインダクタンスL及び抵抗r及び共振コンデンサCの値並びに速度起電力Keが予め既知値として得られている。変位推定部83は、出力電流Ioutを反映した電圧Vrと、駆動電圧Vたる出力電圧Voutと、共振コンデンサCの電圧Vcと、上記既知値とに基づいて、変位Wを推定する。上述のように変位Wは電気機械変換部の状態を示す状態情報として把握できるので、変位推定部83は、状態情報生成部と把握することができる。
還流位相マスク82は出力電圧Voutを変位推定部83に供給する。区間II,IVでは入力電圧VinにPWM変調を掛けて出力電圧Voutが得られるが、区間I,IIIでは入力電圧Vinによらずに出力電圧Voutは0となる。よってまず、乗算器81によって入力電圧Vinとパルス幅変調信号Mとの乗算結果(積)が得られ、当該積が還流位相マスク82に与えられる。
他方、還流位相マスク82には電圧極性F1、電流極性F2も与えられ、これにより変位推定部83は区間I,II,III,IVを区別して認識することができる。よって変位推定部83は区間I.IIIにおいて当該積を零値でマスキングして出力電圧Voutを求める。
次いで、従来装置による電源高調波発生量と図7または図16に示された装置(以下「実施形態の装置」と称す)による電源高調波発生量とを対比する。
図17、図18、図19は、いずれも従来装置によって得られた結果を示すグラフであり、図20、図21、図22は、いずれも実施形態の装置によって得られた結果を示すグラフである(但し、図20、図21、図22では区間I,IIIの長さをほぼ零とした場合、即ち共振コンデンサCの容量を適切に設定した場合について示している)。
図17及び図20は位相制御時の入力電圧Vinの波形を、図18及び図21は入力電流Iinの波形を、図19及び図22は入力電流Iinのスペクトラムを、それぞれ示す。なお電源電圧は60Hzかつ173V、入力電力を600Wとした。また従来装置の点弧角を40°、実施の形態の装置のデューティを0.94とした。
従来装置による位相制御時においては、入力電流が点弧角により遮断されるため、図19に示すように高調波電流発生量が大きくなり、3、5、7次(それぞれ180Hz、300Hz、420Hz)において顕著に表れている。
他方、実施形態の装置の制御においては、図8に示されるように入力電流Iinは不連続であるものの、電力変換回路1bによるチョッピングで電流振幅が制御されるので、高調波電流発生量は著しく低減される。しかも、入力電流Iinの波形はLCフィルタ回路1aにより十分平滑化されているので、電流リプルは少なく正弦波状である。
なお、ここで採用したリニアコンプレッサのシリンダ数は1であるので、推力が非対称となる。よって図19及び図22共に、偶数次(2次:120Hz)の高調波が現れているが、その発生量は僅かである。
なお、電力変換回路1bは交流降圧形チョッパであるので、平滑用の大容量電解コンデンサを不要にでき、長寿命、低コストを実現できる。