上記の特許文献1および特許文献2に記載されているようなダイナミックダンパにおいては、慣性質量体が転動面を転動しながら往復運動することにより回転部材の捩り振動を吸収もしくは減衰するようになっている。したがって、慣性質量体のウェイトバランスが悪いことにより慣性質量体が転動面を転動しなかったり、あるいは転動面が形成される回転部材および緩衝材ならびに蓋部材などの相対的な位置関係が設計した位置関係にならなかったり、回転部材に組み付けられたダイナミックダンパのウェイトバランスが悪かったりすると、設計したダイナミックダンパの制振性能を得られなかったり、慣性質量体が転動室の内壁面や蓋部材などに衝突して異音が発生したりする虞がある。また、慣性質量体のウェイトバランスが悪いと、ダイナミックダンパが組み付けられる回転部材の半径方向に不均一な遠心力が作用することになり、回転部材に対して荷重(すなわち、ラジアル荷重)が発生する。その結果、異音や振動が発生したり、回転部材やこれを回転自在に支持する部材(すなわち、ベアリングなどの軸受)の劣化が促進されてこれらの耐用年数が低下してしまう虞がある。
そこで、ダイナミックダンパを構成する各構成部材を回転部材に組み付けてダイナミックダンパを回転あるいは作動させた場合に、異音や振動が発生するか否かを確認し、異音や振動が発生している場合には、そのような異音や振動を発生するような状態、例えば上述したようなダイナミックダンパのウェイトバランスを改善するための調整を行う。その調整は、具体的には、例えば慣性質量体のウェイトバランスや転がり特性の調整であったり、各構成部材の組み付け位置の調整などであったりする。しかしながら、上記のような調整を行うとしても、ダイナミックダンパを回転部材に組み付けた状態では、異音や振動の発生原因が慣性質量体のウェイトバランスにあるのか、あるいはその他のダイナミックダンパの各構成部材のウェイトバランスにあるのか、あるいは回転部材および緩衝材ならびに蓋部材などの相対的な位置関係にあるのかなどの判断は一般的に特定し難い。
そのため、例えば転動室を慣性質量体に対して十分に大きく形成して慣性質量体を転動室に対して比較的容易に組み付けたり、取り外したりできるように構成することによって上記の判断や調整をし易くすることが考えられる。しかしながら、慣性質量体に対して転動室を十分に大きく構成すると、慣性質量体の慣性質量を確保しにくくなったり、慣性質量体と転動室の内壁面や転動面との距離が相対的に長くなって上記の異音や振動の発生を防止するための対策を施しにくくなったり、上記の異音や振動が相対的に発生し易くなったりする虞がある。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、収容室に対する慣性質量体の組み付け性を向上させるとともに、これらの部材が衝突することによる異音や振動の発生を防止もしくは抑制することと、各構成部材のウェイトバランスが不均一であることに起因して回転部材に対して荷重が発生することを抑制できるダイナミックダンパを提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、捩り振動する回転部材に形成された収容室に収容されるとともにその収容室の内壁面に形成された転動面を往復運動することにより前記回転部材の捩り振動を吸収もしくは減衰する慣性質量体を備えたダイナミックダンパにおいて、前記慣性質量体は、その軸線方向で中央あるいは中央付近の円周方向に形成された溝状の環状溝部と、その環状溝部の両側に相対的に凸となった突部とを備え、前記転動面は、前記収容室の内壁面における前記回転部材の半径方向で外側に形成され、前記収容室の内壁面における前記回転部材の半径方向で内側の前記転動面に対向する位置に、前記回転部材の半径方向で内側に向けて凹んだ溝状の切り欠き溝部とその切り欠き溝部の両側に相対的に凸となった切り欠き突部とが設けられ、前記転動面および前記環状溝部の底面が接触して前記慣性質量体が前記回転部材の捩り振動に応じて前記転動面を転動しながら往復運動するように構成されるとともに前記突部および前記切り欠き突部が対向するように配置されていることを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記切り欠き突部は、その外周縁部から前記切り欠き溝部の底面に向けて傾斜した傾斜面あるいは曲面を備えていることを特徴とするダイナミックダンパである。
さらにまた、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記収容室における前記回転部材の半径方向で内側に、前記慣性質量体が前記収容室の内壁面に衝突することによる異音の発生を防止するための緩衝部材が設けられ、その緩衝部材に前記切り欠き溝部と前記切り欠き突部とが設けられていることを特徴とするダイナミックダンパである。
そして、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記慣性質量体の軸線方向の長さは、前記回転部材の軸線方向の長さよりも長く形成され、前記突部の幅は、前記切り欠き溝部の溝幅よりも小さく形成されていることを特徴とするダイナミックダンパである。
そしてまた、請求項5の発明は、請求項3の発明において、前記緩衝部材は、変形した場合に元の形状に復元可能に構成されていることを特徴とするダイナミックダンパである。
さらに、請求項6の発明は、請求項3または5の発明において、前記緩衝部材は、相対的に低い剛性の部材あるいは弾性を有する部材によって形成されていることを特徴とするダイナミックダンパである。
請求項1の発明によれば、慣性質量体は、その回転軸線方向で中央あるいは中央付近の円周方向に環状溝部が形成され、その両側に相対的に凸となった突部が形成されているので、その回転軸線に平行な断面の形状がH型になっている。収容室の内壁面であって回転部材の半径方向で外側には、転動面が形成され、収容室の内壁面において転動面に対向する位置に切り欠き溝部が形成されている。そして、転動面が環状溝部の底面に接触することにより、慣性質量体は回転部材の捩り振動に応じて転動面を転動可能かつ往復運動可能になっている。また、各突部と各切り欠き突部とが収容室の内部で対向するようになっている。上記のような形状に収容室および慣性質量体が形成されているので、収容室に対する慣性質量体の組み付け性を向上させることができる。具体的に説明すると、先ず、慣性質量体の回転軸線と回転部材の回転軸線とを平行にするとともに、慣性質量体を収容室のいずれか一方の側面側に配置する。そして転動面側に位置している慣性質量体の環状溝部および突部が、収容室の切り欠き溝部側に位置している慣性質量体の環状溝部および突部よりも回転部材から離れるように回転部材の回転面に対して慣性質量体の回転面を傾ける。そのように慣性質量体を傾けた状態で相対的に回転部材側に位置している慣性質量体の突部を収容室の切り欠き溝部に挿入あるいは嵌め込むようにする。言い換えれば、相対的に慣性質量体側に位置している切り欠き突部を慣性質量体の環状溝部に挿入あるいは嵌め込むようにする。その後、その傾きを修正して回転部材の回転軸線と慣性質量体の回転軸線とが平行になるようにする。このような状態では、回転部材側に位置している慣性質量体の突部が切り欠き溝部に嵌め込まれ、かつ、慣性質量体側に位置している切り欠き突部が慣性質量体の環状溝部に嵌め込まれた状態になっている。次いで、転動面側に位置している慣性質量体の環状溝部が、収容室の切り欠き溝部側に位置している慣性質量体の環状溝部よりも回転部材の軸線方向で収容室の中央側に、すなわち、より転動面に近づくように回転部材の回転面に対して慣性質量体の回転面を傾け、そのように慣性質量体を傾けた状態で、転動面側に位置している慣性質量体の環状溝部に転動面を挿入あるいは嵌め込むようにする。そしてその後、慣性質量体の環状溝部に転動面を押し込むように、慣性質量体を回転部材の半径方向で外側に移動させながら、これらの傾きを修正して回転部材の回転軸線と慣性質量体の回転軸線とが平行になるようにする。したがって、上記のような形状に収容室および慣性質量体を形成することにより、慣性質量体を収容室に対して比較的容易に組み付けたり、取り外したりすることができ、収容室に対する慣性質量体の組み付け性を向上させることができる。組み付け性が向上することにより、慣性質量体やこれが組み付けられる回転部材などのウェイトバランスの調整を比較的容易に行うことができる。また、組み付けたダイナミックダンパから異音や振動が発生する場合に、その異音や振動の発生原因が慣性質量体にあるのか、あるいは回転部材および転動面ならびに収容室などの慣性質量体が組み付けられる側の部材にあるのか否かの判断を比較的容易に行うことができる。さらにまた、上記のような形状に収容室および慣性質量体を形成することにより慣性質量体の組み付け性が向上するので、慣性質量体と収容室の内壁面との距離を相対的に短くすることができる。そして、これらの間の距離が短くなることにより、収容室の内部における慣性質量体の移動が規制されることになり、慣性質量体と収容室の内壁面とが衝突することによる異音や振動の発生を防止もしくは抑制することができる。
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、切り欠き突部における切り欠き溝部に対向する側には、その切り欠き突部の外周縁部から切り欠き溝部の底面に向けて傾斜面あるいは曲面が形成されているので、上記のように慣性質量体を傾けた状態で収容室に組み付ける場合に、慣性質量体の突部を切り欠き溝部に挿入あるいは嵌め込み易くなり、あるいは切り欠き突部を慣性質量体の環状溝部に挿入あるいは嵌め込みやすくなり、収容室に対する慣性質量体の組み付け性を更に向上させることができる。
さらにまた、請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明による効果と同様の効果に加えて、収容室における回転部材の半径方向で内側に緩衝部材が設けられ、その緩衝部材に上記の切り欠き溝部および切り欠き突部が形成されているので、収容室に対する慣性質量体の組み付け性を向上できる。また、回転部材の回転変動や捩り振動によって組み付けた慣性質量体が収容室の内部で回転部材の半径方向で内側に移動あるいは変位して収容室の内壁面に衝突した場合に、その衝突による異音や振動の発生を防止もしくは抑制することができる。
さらにまた、請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、慣性質量体の軸線方向の長さが回転部材の軸線方向の長さよりも長く形成され、突部の幅が切り欠き溝部の溝幅よりも小さく形成されている。そのため、慣性質量体を収容室に組み付ける場合において、転動面に対向する側に位置している慣性質量体の環状溝部および突部を収容室の切り欠き溝部に対向する側に位置している慣性質量体の環状溝部および突部よりも回転部材から離れるように慣性質量体を回転部材に対して傾けた状態で、切り欠き溝部および切り欠き突部に対向する側に位置している突部を切り欠き溝部に挿入あるいは嵌め込むことにより、切り欠き突部を環状溝部に挿入あるいは嵌め込むことができる。そして、これらの回転軸線を平行にした後に、上記とは反対方向に慣性質量体を傾け、その後、これらの回転軸線を平行にするとともに環状溝部に転動面を押し込むことにより比較的容易に慣性質量体を収容室に組み付けることができる。
そして、請求項5の発明によれば、請求項3の発明による効果と同様の効果に加えて、緩衝部材は、変形させても元の形状に復元できるように構成されているので、切り欠き溝部に慣性質量体の突部を挿入あるいは嵌め込む場合に、緩衝部材の切り欠き突部を変形させることにより比較的容易に切り欠き溝部に突部を挿入あるいは嵌め込むことができる。そのため、慣性質量体の組み付け性を向上させることができる。
そしてまた、請求項6の発明によれば、請求項3または5の発明による効果と同様の効果に加えて、緩衝部材は低い剛性の部材あるいは弾性を有する部材によって形成されるので、切り欠き溝部に慣性質量体の突部を挿入あるいは嵌め込む場合に、緩衝部材の切り欠き突部を変形させることにより比較的容易に切り欠き溝部に突部を挿入あるいは嵌め込むことができる。また、慣性質量体と収容室とが衝突する場合に、緩衝部材の剛性あるいは弾性により慣性質量体と収容室とが衝突する際の衝撃を緩衝あるいは低減でき、衝突に伴って発生する異音や振動を防止もしくは抑制して緩衝部材の緩衝性能を向上させることができる。
つぎにこの発明をより具体的に説明する。図1に、この発明に係るダイナミックダンパを、そのダイナミックダンパが取り付けられる回転部材の回転面に対し、垂直な方向から見た状態を示してある。ダイナミックダンパ1は、制振対象となる例えば車両のエンジンのクランクシャフトや変速機のインプットシャフトあるいはドライブシャフトなど、あるいはこれらに取り付けられてこれらと一体回転する回転部材2と、その回転部材2の回転中心から離れた箇所に形成された収容室3と、収容室3の内壁面に形成された転動面4と、収容室3に収容されて回転部材2の回転変動あるいはこれに起因する捩り振動に応じて転動面4を転動しながら往復運動する慣性質量体(すなわち、ダンパマス)5とを主要な構成要素として備えている。
図2に、図1に示すII−II’線に沿うこの発明に係るダイナミックダンパの断面図であって、慣性質量体を回転部材に組み付ける場合における慣性質量体の状態を模式的に示してある。図1および図2に示したように、収容室3は、一例として、その少なくとも一部が回転部材2をくり貫いて形成されてたいわゆる貫孔となっている。収容室3の他の一部は、詳細は図示しないが、収容室3の開口部分を覆うように構成された蓋部材によって形成することができる。すなわち、収容室3は、回転部材2に貫孔形状に形成された部分とその開口部分を覆う蓋部材とによって形成することができ、それらによって形成される中空部分に慣性質量体5が収容されるようになっている。
収容室3の内壁面において、回転部材2の半径方向で外側の面を上記の転動面4とすることができる。また例えば、転動面4は、収容室3において、回転部材2の軸線方向の二つの回転面に対して垂直に、所定深さだけくり貫いた場合に、相対的に収容室3の半径方向で内側に凸となった凸部に形成してもよい。あるいは、転動面4を回転部材2とは異なる部材に形成してもよい。例えば、収容室3の内壁面に対して凸となるように転動面4が形成された部材を回転部材2に一体に設けてもよい。
慣性質量体5は、その軸線方向で中央あるいは中央付近の円周方向に、所定深さかつ溝形状の環状溝部6が形成されており、その環状溝部6を挟んでその両側が相対的に凸となった突部7,8となっている。したがって、慣性質量体5の軸線方向に平行な断面が図2に示すようにH型になっている。環状溝部6の溝幅6wは、転動面4の幅4wよりもやや幅広に形成されており、その環状溝部6に転動面4を挿入あるいは嵌め込むことができるようになっている。したがって、環状溝部6の底面9が、上記の転動面4に対応する慣性質量体5側の転動面となっている。
慣性質量体5は、その往復運動次数によって所定次数の回転部材2の捩り振動を吸収もしくは減衰するものであるから、慣性質量体5の往復運動次数は、吸収もしくは減衰したい回転部材2の捩り振動の次数、すなわち回転変動次数に等しくなるように、あるいはその回転変動次数に近似した値になるように設計されている。
収容室3の内壁面において、回転部材2の半径方向で内側(図2に示す例において下方)の転動面4に対向する位置に、回転部材2の半径方向で内側に向けて凹んだ溝形状の切り欠き溝部10が設けられている。その切り欠き溝部10を挟んでその両側が相対的に凸となった切り欠き突部11,12となっている。これらの切り欠き溝部10と切り欠き突部11,12とは、回転部材2の半径方向で内側に位置する収容室3の内壁面に、すなわち、収容室3側の回転部材2の壁面に一体に形成してもよい。あるいは、回転部材2とは異なる部材に形成し、これを収容室3側の回転部材2の壁面に一体に設けてもよい。
上記の切り欠き溝部10の溝深さ10hは、図1および図2に示す例においては、上記の環状溝部6の溝深さ6hよりも浅く形成されている。切り欠き溝部10の溝幅10wは、上記の各突部7,8の幅7w、8wよりもやや幅広に形成されている。したがって、収容室3に慣性質量体5を組み付ける場合において、切り欠き溝部10に突部7あるいは突部8を挿入あるいは嵌め込むことができるようになっている。
図2に示す例において、各切り欠き突部11,12における切り欠き溝部10側には、各切り欠き突部11,12における最外周側(図2において、切り欠き突部11,12の上側)でかつ回転部材2の回転面側の縁部から切り欠き溝部10の幅方向の端部に向けて円弧状の曲面13,14が形成されている。これらの曲面13,14に替えて、各切り欠き突部11,12における最外周側でかつ回転部材2の回転面側の縁部から切り欠き溝部10の幅方向の端部に向けて傾斜した傾斜面を形成してもよい。これらの曲面13,14あるいは傾斜面は、収容室3に慣性質量体5を組み付ける場合において慣性質量体5を収容室3に組み付け易くするためのものであり、したがって、これらの曲面13,14の曲率あるいは傾斜面の傾斜角度は、要は、収容室3に慣性質量体5を組み付ける場合において慣性質量体5を収容室3に組み付け易い曲率あるいは傾斜角度になっていればよい。
次いで、図1および図2に示すように構成した収容室3に慣性質量体5を組み付ける場合について説明する。先ず、慣性質量体5の回転軸線と回転部材2の回転軸線とを平行にするとともに、慣性質量体5を収容室3のいずれか一方の側面側に配置する。そして、転動面4側に位置する慣性質量体5の環状溝部6および突部7,8が、収容室3の切り欠き溝部10側に位置する慣性質量体5の環状溝部6および突部7,8よりも回転部材2から離れるように回転部材2の回転面に対して慣性質量体5の回転面を傾ける。上記のように慣性質量体5を傾けた状態で回転部材2の回転中心側に位置している慣性質量体5の突部8を収容室3の切り欠き溝部10に挿入あるいは嵌め込むようにする。言い換えれば、慣性質量体5側に位置している切り欠き突部11を慣性質量体5の環状溝部6に挿入あるいは嵌め込むようにする。図2に示す例において、慣性質量体5がかくれ線(破線)で示した状態になるようにする。
その後、その傾きを修正して回転部材2の回転軸線と慣性質量体5の回転軸線とが平行になるようにする。これらの回転軸線が平行になった状態では、相対的に回転部材2側に位置している慣性質量体5の突部8が切り欠き溝部10に嵌め込まれるとともに、相対的に慣性質量体5側に位置している切り欠き突部11が慣性質量体5の環状溝部6に嵌め込まれた状態になっている。図2に示す例において、慣性質量体5が実線で示した状態になっている。
次いで、上記の転動面4側に位置している慣性質量体5の環状溝部6が、転動面4に近づくように慣性質量体5の回転面を傾ける。上記のように慣性質量体5を傾けた状態を図3にかくれ線(破線)で示してある。そして、そのように慣性質量体5を傾けた状態で、転動面4側に位置している慣性質量体5の環状溝部6に転動面4を挿入あるいは嵌め込む。より具体的には、慣性質量体5の環状溝部6に転動面4を押し込むように、慣性質量体5を回転部材2の半径方向で外側に移動させながら(すなわち、図3に示す例において、上方に移動させながら)、これらの傾きを修正して回転部材2の回転軸線と慣性質量体5の回転軸線とが平行になるようにする。図3に示す例において、慣性質量体5が実線で示した状態になるようにする。
したがって、このような構成のダイナミックダンパにおいては、上記のように収容室3および慣性質量体5が形成されていることにより、慣性質量体5を収容室3に対して比較的容易に組み付けたり、あるいは取り外したりすることができ、いわゆる組み付け性を向上させることができる。組み付け性が向上することにより、異音や振動を発生させる原因が、例えば慣性質量体5のウェイトバランスにあるのか、あるいは、慣性質量体5が組み付けられる側の各構成部材、すなわち回転部材2および収容室3ならびに転動面4そして蓋部材(図示せず)などの相対的な組み付け位置やこれらの各構成部材のウェイトバランスにあるのかなどの判断を比較的容易に行うことができる。この発明において、ウェイトバランスとは、例えば慣性質量体5の回転軸線に対する慣性質量体5の重心位置のことであり、したがって、ウェイトバランスが不均一あるいは悪い、もしくはアンバランスとは、慣性質量体5の回転軸線に対してその重心が偏心していること言う。また、ウェイトバランスの調整とは、例えば、慣性質量体5の重心をその回転軸線上にしたり、回転部材2に組み付けられるダイナミックダンパ1の重心を回転部材2の回転軸線上にするための調整を言う。
慣性質量体5のウェイトバランス、製造誤差、寸法精度、転がり特性などに問題がないと判断された場合には、慣性質量体5が組み付けられる側の各構成部材のウェイトバランスや相対的な位置関係などの調整を行った後に、慣性質量体5を比較的容易に組み付けることができる。これとは反対に、慣性質量体5に上記のアンバランスがあると判断された場合には、これを改善するための調整を行った後に慣性質量体5を比較的容易に組み付けることができる。そのため、ダイナミックダンパ1の重心を回転部材2の回転軸線上にできるとともに、回転部材2に対してラジアル荷重が発生することを防止もしくは抑制できる。また、回転部材2に対するラジアル荷重の発生が防止もしくは抑制されるので、回転部材2の軸受にラジアル荷重が作用することによって軸受の劣化が促進されたり、耐用年数が低下したりすることを防止もしくは抑制できる。さらにまた、上記のように転動面4および収容室3の内壁面ならびに慣性質量体5を構成し、かつ上記のように組み付けることにより、収容室3の内壁面と慣性質量体5との距離を相対的に短くすることができ、収容室3の内部における慣性質量体5の移動を規制することができる。その結果、収容室3の内壁面と慣性質量体5とが衝突することによる異音や振動の発生を防止もしくは抑制することができる。
慣性質量体5の環状溝部6の底面9に転動面4が接触して慣性質量体5が転動するように構成されているので、慣性質量体5の慣性モーメントを相対的に小さくして慣性質量体5を転がり易くできるとともに、慣性質量体5に作用する遠心力が相対的に小さくなって慣性質量体5と転動面4あるいは収容室3の内壁面とが衝突した場合の衝撃を低減して異音や振動の発生を防止もしくは抑制することができる。慣性質量体5が回転部材2の半径方向で内側に変位して切り欠き突部11,12に衝突したとしても、その衝突箇所は二箇所になるから、その衝撃は分散されて異音や振動の発生をある程度低減することができる。そして、慣性質量体5の環状溝部6に転動面4を嵌め込むようにして構成されているから、慣性質量体5が収容室3から抜け落ちたり、飛び出したりすることを防止もしくは抑制することができる。したがって、慣性質量体5が収容室3から抜け落ちたり、飛び出したりすることを防止もしくは抑制するための部材を設ける必要がなく、ダイナミックダンパ1の部品点数を削減できるとともに重量を低減でき、材料コストや製造コストの低減を図ることができる。
図4に、この発明に係るダイナミックダンパの他の構成の断面図であって、慣性質量体を回転部材に組み付ける場合における慣性質量体の状態を模式的に示してある。ここに示す例は、回転部材2の半径方向で内側に位置している収容室3の内壁面(図4に示す例において下方)に緩衝部材15を設けた例である。
具体的に説明すると、緩衝部材15における回転部材2の軸線方向に平行な長さが回転部材2の軸線方向の長さ(すなわち、厚み)よりも長く形成されるとともに、慣性質量体5の軸線方向の長さよりも短くなっている。この緩衝部材15における回転部材2の半径方向で内側に向けて凹んだ溝形状の切り欠き溝部16が形成されており、その切り欠き溝部16を挟んでその両側が相対的に凸となった切り欠き突部17,18となっている。図4に示す例において、切り欠き溝部16の溝深さ16hは、上記の環状溝部6の溝深さ6hよりも深く形成されている。切り欠き溝部16の溝幅16wは、上記の各突部7,8の幅7w、8wよりもやや幅広に形成されている。
この緩衝部材15は、例えば、緩衝部材15に外部から力が作用した場合に変形し、その外部からの力がなくなると元の形状に復元可能に構成されている。一例として、緩衝部材15は、ある程度低い剛性を有する材料やゴムなどの弾性を有する天然樹脂材料あるいは合成樹脂材料によって構成することができる。したがって、収容室3に慣性質量体5を組み付ける場合において、切り欠き突部17あるいは切り欠き突部18を変形させることによって切り欠き溝部16に突部7あるいは突部8を挿入あるいは嵌め込むことができるようになっている。この緩衝部材15の剛性や弾性は、慣性質量体5を組み付ける場合に、切り欠き突部17,18を変形させて慣性質量体5を組み付けられる程度の剛性や弾性であればよい。また、上記の組み付けを更に容易にするために、各切り欠き突部17,18における切り欠き溝部16に対向している側に上記の傾斜面や曲面を形成してもよい。
次いで、上記の緩衝部材15が設けられた収容室3に慣性質量体5を組み付ける場合について説明する。先ず、慣性質量体5の回転軸線と回転部材2の回転軸線とを平行にするとともに、慣性質量体5を収容室3のいずれか一方の側面側に配置する。そして、転動面4側に位置している慣性質量体5の環状溝部6および突部7,8が、緩衝部材15に設けられた切り欠き溝部16側に位置している慣性質量体5の環状溝部6および突部7,8よりも回転部材2から離れるように回転部材2の回転面に対して慣性質量体5の回転面を傾ける。また、相対的に慣性質量体5側に位置している切り欠き突部17を切り欠き溝部16とは反対側に倒すように変形させる。そして、回転部材2の回転中心側に位置している慣性質量体5の突部8を緩衝部材15の切り欠き溝部16に挿入あるいは嵌め込むようにする。言い換えれば、慣性質量体5側に位置している切り欠き突部17を慣性質量体5の環状溝部6に挿入あるいは嵌め込むようにする。すなわち、図4に示した状態になるようにする。
その後、慣性質量体5を上記とは反対方向に傾けるとともに、転動面4側に位置している慣性質量体5の環状溝部6に、転動面4を挿入あるいは嵌め込むようにする。この状態を図5に模式的に示してあり、転動面4側に位置している慣性質量体5の環状溝部6に転動面4を押し込むように慣性質量体5を傾けるとともに、切り欠き突部18を切り欠き溝部16とは反対側に倒すように変形させる。図5に示すように慣性質量体5を傾けると、環状溝部6の底面9と切り欠き突部17の外周面との距離は長くなり、また切り欠き突部17にはその変形のための外力が作用しなくなるので、切り欠き突部17は元の形状に復元する。
そして、慣性質量体5を回転部材2の半径方向で外側(すなわち、図5に示す例において、上方)に移動させながら慣性質量体5の傾きを修正し、回転部材2の回転軸線と慣性質量体5の回転軸線とが平行になるようにして環状溝部6に転動面4を挿入あるいは嵌め込むようにする。この状態を図6に模式的に示してあり、図6に示したように、収容室3に慣性質量体5が組み付けられると、切り欠き突部18にはその変形のための外力が作用しなくなるので切り欠き突部18は元の形状に復元する。
したがって、このような構成のダイナミックダンパにおいては、慣性質量体5を収容室3に対して比較的容易に組み付けたり、あるいは取り外したりすることができ、いわゆる組み付け性を向上させることができる。また、組み付け性が向上することにより、異音や振動を発生させる原因が慣性質量体5にあるか、あるいは、収容室3および転動面4ならびに蓋部材(図示せず)そして緩衝部材15などにあるかの判断を比較的容易に行うことができる。そして、各構成部材のウェイトバランスの調整を行った後に、各構成部材を回転部材2に組み付けることができる。
上記のように低剛性あるいは弾性を有する緩衝部材15が設けられ、その切り欠き突部17,18を変形させながら慣性質量体5を組み付けるので、収容室3の内壁面と慣性質量体5との距離を十分に短くすることができる。そのため、収容室3の内部における慣性質量体5の移動を規制できる。緩衝部材15は、低剛性あるいは弾性を有する材料によって構成されているので、収容室3の内壁面と慣性質量体5との衝突による衝撃を緩衝することができ、これらが衝突することによる異音や振動の発生をより防止もしくは抑制することができる。そして、慣性質量体5は緩衝部材15を変形させながら組み付けられるとともに、慣性質量体5の環状溝部6に転動面4を嵌め込むようにして構成されているから、慣性質量体5が収容室3から抜け落ちたり、飛び出したりすることを防止もしくは抑制することができる。言い換えれば、慣性質量体5が収容室3から抜け落ちたり、飛び出したりすることを防止もしくは抑制するための部材を設ける必要がなく、ダイナミックダンパ1の部品点数を削減できるとともに重量を低減でき、材料コストや製造コストの低減を図ることができる。
慣性質量体5の環状溝部6の底面9に転動面4が接触して慣性質量体5が転動するように構成されているので、慣性質量体5の慣性モーメントを相対的に小さくして転がり易くできるとともに、慣性質量体5に作用する遠心力が相対的に小さくなって慣性質量体5と転動面4とが衝突した場合の衝撃を相対的に低減して異音や振動の発生を防止もしくは抑制することができる。また、慣性質量体5が回転部材2の半径方向で内側に移動(すなわち、変位)して切り欠き突部17,18に衝突したとしても、その衝突箇所は二箇所になるから、その衝撃は分散されて相対的に異音や振動の発生を低減することができる。