上述したように、特許文献1に開示された回転式流体機械において、シリンダ室を内外に仕切るピストンの環状部や、シリンダ室を高圧側と低圧側に仕切るブレードには、シリンダ室内の流体圧が作用するため、比較的大きな荷重が作用する。このため、ピストンの環状部とブレードは、その一方が他方に対して比較的大きな力で押し付けられた状態で互いに摺動することとなり、ピストンの環状部の摩耗が進行しやすくなるおそれがある。
このピストンの摩耗を抑える方策としては、ピストン全体を硬度の高い材料で構成することが考えられる。ところが、ピストンは、揺動ブッシュだけと摺接するとは限らず、特許文献1の図10に開示されているように、ピストンが揺動ブッシュとシリンダの両方と摺接する場合もある。この場合にピストン全体の硬度を高くすると、ピストンのうち揺動ブッシュと摺接する部分の摩耗は抑えられるが、ピストンと摺接するシリンダの摩耗量が増えるおそれがある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ピストンが揺動ブッシュとシリンダの両方と摺接する回転式流体機械において、シリンダの摩耗量の増加を回避しつつ、ピストンのうち揺動ブッシュと摺接する部分の摩耗を抑えることにある。
第1及び第2の各発明は、シリンダ側鏡板部(31a,41a)と、該シリンダ側鏡板部(31a,41a)の前面に突設される内側壁部(31c,41c)及び外側壁部(31b,41b)とを有し、該内側壁部(31c,41c)と該外側壁部(31b,41b)の間に環状のシリンダ室が形成されるシリンダ(31,41)と、ピストン側鏡板部(32a,42a)と、円環の一部分を分断したC字状に形成されて該ピストン側鏡板部(32a,42a)の前面に突設される環状部(32b,42b)とを有し、該環状部(32b,42b)が上記シリンダ室を外側の流体室(S11,S21)と内側の流体室(S12,S22)とに区画するピストン(32,42)と、上記シリンダ(31,41)に設けられ、上記環状部(32b,42b)の分断部分に挿通されて上記各流体室(S11,S12,S21,S22)を高圧側と低圧側に区画するブレード(33,43)と、上記ブレード(33,43)と上記環状部(32b,42b)の間に設けられて該ブレード(33,43)と該環状部(32b,42b)の両方と摺接する揺動ブッシュ(34,44)とを備え、上記シリンダ(31,41)と上記ピストン(32,42)とが相対的に偏心回転する回転式流体機械を対象とする。そして、上記ピストン側鏡板部(32a,42a)は、上記環状部(32b,42b)よりも外側の部分の前面が上記シリンダ(31,41)の外側壁部(31b,41b)の突端面と摺接する一方、上記ピストン(32,42)では、上記環状部(32b,42b)のうち上記揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)の硬度が、上記ピストン側鏡板部(32a,42a)のうち上記外側壁部(31b,41b)と摺接する部分(61,71)の硬度よりも高くなっているものである。
第1及び第2の各発明では、シリンダ(31,41)の内側壁部(31c,41c)と外側壁部(31b,41b)の間に形成された環状のシリンダ室に、ピストン(32,42)の環状部(32b,42b)が挿入される。このシリンダ室は、環状部(32b,42b)の外側の流体室(S11,S21)と、環状部(32b,42b)の内側の流体室(S12,S22)とに仕切られる。また、外側と内側の各流体室(S11,S12,S21,S22)は、ブレード(33,43)によって高圧側と低圧側に仕切られる。シリンダ(31,41)とピストン(32,42)とが相対的に偏心回転すると、外側と内側の各流体室(S11,S12,S21,S22)では、それぞれの高圧側と低圧側の容積が変化する。その際、揺動ブッシュ(34,44)は、ブレード(33,43)と環状部(32b,42b)の両方と摺接する。また、ピストン側鏡板部(32a,42a)がシリンダ(31,41)の外側壁部(31b,41b)と摺接することによって、外側の流体室(S11,S21)の気密が保たれる。そして、このピストン(32,42)では、環状部(32b,42b)のうち揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)の硬度が、ピストン側鏡板部(32a,42a)のうち外側壁部(31b,41b)と摺接する部分(61,71)の硬度よりも高くなっている。
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記揺動ブッシュ(34,44)の硬度が、上記環状部(32b,42b)のうち上記揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)の硬度よりも高くなっているものである。
第3の発明のピストン(32,42)において、環状部(32b,42b)のうち揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)の硬度は、ピストン側鏡板部(32a,42a)のうち外側壁部(31b,41b)と摺接する部分(61,71)の硬度よりも高いが、揺動ブッシュ(34,44)の硬度よりも低くなっている。
第1の発明は、上記の構成に加えて、上記シリンダ(31,41)の外側壁部(31b,41b)の硬度が、上記ピストン側鏡板部(32a,42a)のうち上記外側壁部(31b,41b)と摺接する部分(61,71)の硬度よりも低くなっているものである。
また、第4の発明は、上記第2の発明において、上記シリンダ(31,41)の外側壁部(31b,41b)の硬度が、上記ピストン側鏡板部(32a,42a)のうち上記外側壁部(31b,41b)と摺接する部分(61,71)の硬度よりも低くなっているものである。
第1及び第4の各発明のピストン(32,42)において、ピストン側鏡板部(32a,42a)のうち外側壁部(31b,41b)と摺接する部分(61,71)の硬度は、環状部(32b,42b)のうち揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)の硬度よりも低いが、シリンダ(31,41)の外側壁部(31b,41b)の硬度よりも高くなっている。
第5の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記環状部(32b,42b)と上記ピストン側鏡板部(32a,42a)は、同じ材質からなる一つの部材を構成しており、上記環状部(32b,42b)では、上記揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)に硬化処理が施されるものである。
第5の発明では、環状部(32b,42b)のうち揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)に硬化処理が施される。このため、環状部(32b,42b)とピストン側鏡板部(32a,42a)が同じ材質からなる一つの部材を構成していても、環状部(32b,42b)のうち揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)の硬度が、ピストン側鏡板部(32a,42a)のうち外側壁部(31b,41b)と摺接する部分(61,71)の硬度よりも高くなる。なお、硬化処理の例としては、焼き入れ、浸炭、窒化などが挙げられる。
第6の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記ピストン(32,42)の環状部(32b,42b)は、上記ピストン側鏡板部(32a,42a)と材質が等しくて該ピストン側鏡板部(32a,42a)と共に一つの部材を構成する環状部本体(63,73)と、上記環状部本体(63,73)よりも硬度の高い材質からなり、上記揺動ブッシュ(34,44)と摺接するように該環状部本体(63,73)に接合される摺動用部材(64,74)とを備えるものである。
第6の発明では、ピストン(32,42)の環状部(32b,42b)に環状部本体(63,73)と摺動用部材(64,74)とが設けられる。環状部本体(63,73)の材質は、ピストン側鏡板部(32a,42a)の材質と同じである。一方、摺動用部材(64,74)の材質は、環状部本体(63,73)よりも硬度の高い材質となっている。この摺動用部材(64,74)は、環状部本体(63,73)に接合されて揺動ブッシュ(34,44)と摺接する。つまり、この発明の環状部(32b,42b)では、摺動用部材(64,74)が揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)を構成する。
第2の発明は、上記の構成に加えて、それぞれが上記シリンダ(31,41)と上記ピストン(32,42)と上記ブレード(33,43)と上記揺動ブッシュ(34,44)とを備える二つの圧縮機構(30,40)が設けられ、第1の圧縮機構(30)が吸入した流体を圧縮し、第2の圧縮機構(40)が第1の圧縮機構(30)において圧縮された流体を吸入して更に圧縮する一方、上記二つの圧縮機構(30,40)のうち第2の圧縮機構(40)においてだけ、上記環状部(42b)のうち上記揺動ブッシュ(44)と摺接する部分(72)の硬度が、上記ピストン側鏡板部(42a)のうち上記外側壁部(41b)と摺接する部分(71)の硬度よりも高くなっているものである。
第2の発明では、回転式流体機械(10)によって二段圧縮機が構成される。この発明の回転式流体機械(10)では、第1の圧縮機構(30)が、回転式流体機械(10)へ流入した低圧流体を吸入して圧縮し、第2の圧縮機構(40)が、第1の圧縮機構(30)から吐出された中間圧流体を吸入して圧縮する。そして、回転式流体機械(10)からは、第2の圧縮機構(40)から吐出された高圧流体が流出してゆく。二段圧縮機を構成する回転式流体機械(10)において、流体室内の流体からブレード(33,43)が受ける荷重は、第1の圧縮機構(30)における値よりも第2の圧縮機構(40)における値の方が大きくなる場合が多い。そこで、この発明では、第2の圧縮機構(40)においてだけ、環状部(42b)のうち揺動ブッシュ(44)と摺接する部分(72)の硬度を、ピストン側鏡板部(42a)のうち外側壁部(41b)と摺接する部分(71)の硬度よりも高くしている。
本発明では、ピストン(32,42)の環状部(32b,42b)が揺動ブッシュ(34,44)と摺接し、ピストン(32,42)のピストン側鏡板部(32a,42a)がシリンダ(31,41)の外側壁部(31b,41b)と摺接する。また、本発明のピストン(32,42)では、環状部(32b,42b)のうち揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)の硬度が、ピストン側鏡板部(32a,42a)のうち外側壁部(31b,41b)と摺接する部分(61,71)の硬度よりも高くなっている。このため、環状部(32b,42b)のうち揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)の硬度を高めることで当該部分の摩耗量を削減できると共に、ピストン側鏡板部(32a,42a)のうち外側壁部(31b,41b)と摺接する部分(61,71)の硬度が不必要に高くなるのを回避することで外側壁部(31b,41b)の摩耗量の増加を抑制できる。
上記第5の発明では、環状部(32b,42b)のうち揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)に硬化処理が施される。また、上記第6の発明では、ピストン側鏡板部(32a,42a)よりも硬度の高い材質からなる摺動用部材(64,74)が、環状部本体(63,73)に取り付けられて揺動ブッシュ(34,44)と摺接する。従って、これらの発明によれば、環状部(32b,42b)のうち揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分(62,72)の硬度を局所的に高めることができる。
上記第2の発明では、流体室内の流体からブレード(33,43)が受ける荷重が比較的大きい第2の圧縮機構(40)においてだけ、環状部(42b)のうち揺動ブッシュ(44)と摺接する部分(72)の硬度を、ピストン側鏡板部(42a)のうち外側壁部(41b)と摺接する部分(71)の硬度よりも高くしている。従って、この発明によれば、二段圧縮機を構成する回転式流体機械の製造工程の複雑化を最小限に抑えることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態の圧縮機(10)は、本発明に係る回転式流体機械である。この圧縮機(10)は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に設けられ、冷媒回路内を循環する冷媒を吸入して圧縮する。
〈圧縮機の全体構成〉
図1に示すように、圧縮機(10)は、密閉容器状のケーシング(11)を備えている。ケーシング(11)は、縦長の円筒状に形成された胴部(12)と、椀状に形成された一対の端板部(13)とを備えている。ケーシング(11)では、端板部(13)が胴部(12)の各端部に一つずつ配置され、胴部(12)の端部が端板部(13)によって閉塞される。ケーシング(11)の内部には、電動機(20)と、圧縮機部(50)とが収納されている。圧縮機部(50)は、電動機(20)の下方に配置されている。圧縮機部(50)は、低段側の第1圧縮機構(30)と、高段側の第2圧縮機構(40)とを備えている。
ケーシング(11)の胴部(12)には、第1圧縮機構(30)に接続される第1吸入管(14)及び第1吐出管(15)が、胴部(12)を厚み方向に貫通するように設けられている。また、胴部(12)には、第2圧縮機構(40)に接続される第2吸入管(16)が、胴部(12)を貫通するように設けられている。更に、上側の端板部(13)には、第2吐出管(17)が端板部(13)を貫通するように設けられている。この第2吐出管(17)は、ケーシング(11)の内部空間(S10)と連通している。なお、図示を省略するが、第1吐出管(15)と第2吸入管(16)とは、配管を介して接続されている。また、第1吐出管(15)と第2吸入管(16)を接続する配管には、中間圧の冷媒を第2圧縮機構(40)へ供給するためのインジェクション用配管が接続されている。
本実施形態の圧縮機(10)は、高段側の第2圧縮機構(40)において圧縮された冷媒がケーシング(11)の内部空間(S10)に吐出され、第2吐出管(17)を介してケーシング(11)の外部へ排出されるように構成されている。つまり、この圧縮機(10)は、ケーシング(11)の内部空間(S10)が高圧圧力状態となる高圧ドーム型の圧縮機となっている。
ケーシング(11)の内部には、駆動軸(23)が胴部(12)の軸方向に沿って設けられている。この駆動軸(23)は、電動機(20)と圧縮機部(50)を連結している。なお、密閉容器状のケーシング(11)の底部には、圧縮機部(50)の各摺動部に供給するための潤滑油(冷凍機油)が貯留されている。
駆動軸(23)は、主軸部(24)と二つの偏心部(25,26)とを備えている。二つの偏心部(25,26)は、主軸部(24)の軸方向に並んで配置され、上側に位置するものが上側偏心部(25)となり、下側に位置するものが下側偏心部(26)となっている。また、これら二つの偏心部(25,26)は、それぞれが主軸部(24)よりも大径の円柱状に形成され、それぞれの軸心が主軸部(24)の軸心に対して偏心している。また、上側偏心部(25)の偏心方向と下側偏心部(26)の偏心方向は、主軸部(24)の軸心を中心として互いに180°ずれている。
駆動軸(23)の下端には、油吸込管(28)が突設されている。油吸込管(28)の下端は、ケーシング(11)の底部に貯留された潤滑油に浸かっている。また、図示しないが、駆動軸(23)の内部には、油吸込管(28)に接続する給油通路が形成されている。遠心ポンプ作用によって油吸込管(28)へ吸い込まれた潤滑油は、給油通路を通って各圧縮機構(30,40)の摺動箇所へ供給される。
電動機(20)は、ステータ(21)とロータ(22)とを備えている。ステータ(21)は、ケーシング(11)の胴部(12)に固定されている。一方、ロータ(22)は、ステータ(21)の内側に配置され、駆動軸(23)の主軸部(24)に連結されている。
〈圧縮機部の構成〉
上述したように、圧縮機部(50)は、第1圧縮機構(30)と、第2圧縮機構(40)とを備えている。また、圧縮機部(50)では、両圧縮機構(30,40)の間にミドルプレート(51)が挟み込まれている。
図2及び図3に示すように、第1圧縮機構(30)は、第1シリンダ(31)と、第1ピストン(32)と、第1ブレード(33)とを備えている。第1シリンダ(31)は、環状の第1シリンダ室(S11,S12)を形成する。第1ピストン(32)は、環状部(32b)を有している。この環状部(32b)は、第1シリンダ室(S11,S12)内に配置され、第1シリンダ室(S11,S12)を外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)とに区画する。第1ブレード(33)は、外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)のそれぞれを高圧室(S11H,S12H)と低圧室(S11L,S12L)とに区画する。第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)とは、相対的に偏心回転運動をするように構成されている。
第1シリンダ(31)は、中央に軸受部が形成された平板状のシリンダ側鏡板部(31a)と、シリンダ側鏡板部(31a)の前面(図2における上面)から上方に突出するように形成された筒状の外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)とを備えている。外側シリンダ部(31b)は外側壁部を構成し、内側シリンダ部(31c)は内側壁部を構成している。
第1シリンダ(31)は、シリンダ側鏡板部(31a)及び外側シリンダ部(31b)がケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接されることにより固定されている。また、シリンダ側鏡板部(31a)の軸受部には、駆動軸(23)の主軸部(24)が挿通されている。このシリンダ側鏡板部(31a)の軸受部は、主軸部(24)を回転自在に支持する滑り軸受を構成している。
第1シリンダ(31)のシリンダ側鏡板部(31a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第1吸入通路(14a)が形成されている。第1吸入通路(14a)の一端は、シリンダ側鏡板部(31a)の前面(図2における上面)に開口し、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に連通している。第1吸入通路(14a)の他端には、第1吸入管(14)が接続されている。
また、第1シリンダ(31)のシリンダ側鏡板部(31a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第1吐出通路(15a)が形成されている。シリンダ側鏡板部(31a)の外周面における第1吐出通路(15a)の開口端には、第1吐出管(15)が接続されている。第1吐出通路(15a)は、吐出口(35)を介して外側圧縮室(S11)に連通し、吐出口(36)を介して内側圧縮室(S12)に連通している。各吐出口(35,36)は、シリンダ側鏡板部(31a)の前面に開口している。シリンダ側鏡板部(31a)には、吐出口(35,36)を開閉するための吐出弁(37,38)が設けられている。各吐出弁(37,38)は、いわゆるリード弁であって、高圧室(S11H,S12H)内の冷媒圧力が第1吐出通路(15a)内の冷媒圧力よりもある程度高くなると、開状態となる。
外側シリンダ部(31b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面とは、互いに同軸に配置された円筒面となっている。第1ピストン(32)の環状部(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面との間には外側圧縮室(S11)が形成され、第1ピストン(32)の環状部(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面との間には内側圧縮室(S12)が形成されている。
第1ピストン(32)は、平板状のピストン側鏡板部(32a)と、ピストン側鏡板部(32a)の前面(図2における下面)に突設された環状部(32b)と、環状部(32b)の内側に形成された筒状の軸受部(32c)とを備えている。環状部(32b)は、円環の一部分を分断したC字状に形成されている。軸受部(32c)には、駆動軸(23)の下側偏心部(26)が挿通されている。
第1ピストン(32)のピストン側鏡板部(32a)では、その前面のうち環状部(32b)の外側に位置する部分がシリンダ用摺動面(61)となっている。このシリンダ用摺動面(61)は、第1シリンダ(31)の外側シリンダ部(31b)の突端面(図2における上面)と摺接する。
第1ブレード(33)は、第1シリンダ室(S11,S12)の径方向に延びる平板状の部材であって、外側シリンダ部(31b)の内周面から内側シリンダ部(31c)の外周面に亘って形成されている。この第1ブレード(33)は、外側シリンダ部(31b)、内側シリンダ部(31c)、及びシリンダ側鏡板部(31a)と一体に形成されている。第1ブレード(33)は、環状部(32b)の分断箇所に挿通されている。この第1ブレード(33)は、外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)のそれぞれを、第1吸入通路(14a)に連通する低圧室(S11L,S12L)と、吐出口(35,36)に連通する高圧室(S11H,S12H)とに区画している。
図3に示すように、第1圧縮機構(30)は、一対の第1揺動ブッシュ(34)を備えている。第1揺動ブッシュ(34)は、同図における第1ブレード(33)の右側と左側に一つずつ設けられている。各第1揺動ブッシュ(34)には、第1ブレード(33)と摺接する平坦面と、平坦面の反対側に位置する円弧面とが形成されている。第1揺動ブッシュ(34)の円弧面は、環状部(32b)の分断箇所の端面と摺接する。第1ピストン(32)の環状部(32b)では、第1揺動ブッシュ(34)と摺接する面がブッシュ用摺動面(62)となっている。ブッシュ用摺動面(62)は、第1揺動ブッシュ(34)の円弧面と曲率半径が実質的に等しい円弧面となっている。
第1圧縮機構(30)では、環状部(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面が互いの周方向における一箇所で摺接し、環状部(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面が互いの周方向における一箇所で摺接する。環状部(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面の摺接箇所と、環状部(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面の摺接箇所は、主軸部(24)の軸心を挟んで反対側に位置している。そして、第1圧縮機構(30)では、第1シリンダ(31)が固定される一方、第1ピストン(32)が偏心回転運動を行う。
第2圧縮機構(40)は、第1圧縮機構(30)と同様の機械要素によって構成されている。具体的に、第2圧縮機構(40)は、第2シリンダ(41)と、第2ピストン(42)と、第2ブレード(43)とを備えている。第2シリンダ(41)は、環状の第2シリンダ室(S21,S22)を形成する。第2ピストン(42)は、環状部(42b)を有している。この環状部(42b)は、第2シリンダ室(S21,S22)内に配置され、第2シリンダ室(S21,S22)を外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)とに区画する。第2ブレード(43)は、外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)のそれぞれを高圧室(S21H,S22H)と低圧室(S21L,S22L)とに区画する。第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)とは、相対的に偏心回転運動をするように構成されている。
第2シリンダ(41)は、中央に軸受部が形成された平板状のシリンダ側鏡板部(41a)と、シリンダ側鏡板部(41a)の前面(図2における下面)から下方に突出するように形成された筒状の外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)とを備えている。外側シリンダ部(41b)は外側壁部を構成し、内側シリンダ部(41c)は内側壁部を構成している。
第2シリンダ(41)は、シリンダ側鏡板部(41a)及び外側シリンダ部(41b)がケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接されることにより固定されている。また、シリンダ側鏡板部(41a)の軸受部には、駆動軸(23)の主軸部(24)が挿通されている。このシリンダ側鏡板部(41a)の軸受部は、主軸部(24)を回転自在に支持する滑り軸受を構成している。
第2シリンダ(41)のシリンダ側鏡板部(41a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第2吸入通路(16a)が形成されている。第2吸入通路(16a)の一端は、シリンダ側鏡板部(41a)の前面(図2における下面)に開口し、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に連通している。第2吸入通路(16a)の他端には、第2吸入管(16)が接続されている。
また、第2シリンダ(41)のシリンダ側鏡板部(41a)には、その背面(図2における上面)に開口する吐出用凹部(17a)が形成されている。吐出用凹部(17a)の底部には、吐出口(45,46)が開口している。各吐出口(45,46)は、シリンダ側鏡板部(41a)の前面に開口している。そして、吐出用凹部(17a)は、吐出口(45)を介して外側圧縮室(S21)に連通し、吐出口(46)を介して内側圧縮室(S22)に連通している。シリンダ側鏡板部(41a)には、吐出口(45,46)を開閉するための吐出弁(47,48)が設けられている。各吐出弁(47,48)は、いわゆるリード弁であって、高圧室(S21H,S22H)内の冷媒圧力が吐出用凹部(17a)内の冷媒圧力(即ち、ケーシング(11)内の冷媒圧力)よりもある程度高くなると、開状態となる。
外側シリンダ部(41b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面とは、互いに同軸に配置された円筒面となっている。第2ピストン(42)の環状部(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面との間には外側圧縮室(S21)が形成され、第2ピストン(42)の環状部(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面との間には内側圧縮室(S22)が形成されている。
第2ピストン(42)は、平板状のピストン側鏡板部(42a)と、ピストン側鏡板部(42a)の前面(図2における上面)に突設された環状部(42b)と、環状部(42b)の内側に形成された筒状の軸受部(42c)とを備えている。環状部(42b)は、円環の一部分を分断したC字状に形成されている。軸受部(42c)には、駆動軸(23)の上側偏心部(25)が挿通されている。
第2ピストン(42)のピストン側鏡板部(42a)では、その前面のうち環状部(42b)の外側に位置する部分がシリンダ用摺動面(71)となっている。このシリンダ用摺動面(71)は、第2シリンダ(41)の外側シリンダ部(41b)の突端面(図2における下面)と摺接する。
第2ブレード(43)は、第2シリンダ室(S21,S22)の径方向に延びる平板状の部材であって、外側シリンダ部(41b)の内周面から内側シリンダ部(41c)の外周面に亘って形成されている。この第2ブレード(43)は、外側シリンダ部(41b)、内側シリンダ部(41c)、及びピストン側鏡板部(42a)と一体に形成されている。第2ブレード(43)は、環状部(42b)の分断箇所に挿通されている。この第2ブレード(43)は、外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)のそれぞれを、第2吸入通路(16a)に連通する低圧室(S21L,S22L)と、吐出口(45,46)に連通する高圧室(S21H,S22H)とに区画している。
図3に示すように、第2圧縮機構(40)は、一対の第2揺動ブッシュ(44)を備えている。第2揺動ブッシュ(44)は、同図における第2ブレード(43)の右側と左側に一つずつ設けられている。各第2揺動ブッシュ(44)には、第2ブレード(43)と摺接する平坦面と、平坦面の反対側に位置する円弧面とが形成されている。第2揺動ブッシュ(44)の円弧面は、環状部(42b)の分断箇所の端面と摺接する。第2ピストン(42)の環状部(42b)では、第2揺動ブッシュ(44)と摺接する面がブッシュ用摺動面(72)となっている。ブッシュ用摺動面(72)は、第2揺動ブッシュ(44)の円弧面と曲率半径が実質的に等しい円弧面となっている。
第2圧縮機構(40)では、環状部(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面が互いの周方向における一箇所で摺接し、環状部(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面が互いの周方向における一箇所で摺接する。環状部(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面の摺接箇所と、環状部(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面の摺接箇所は、主軸部(24)の軸心を挟んで反対側に位置している。そして、第2圧縮機構(40)では、第2シリンダ(41)が固定される一方、第2ピストン(42)が偏心回転運動を行う。
図2に示すように、ミドルプレート(51)は、円板状の平板部(51b)と、平板部(51b)の周囲を囲むように形成された筒状の筒部(51a)とを備えている。筒部(51a)は、第1シリンダ(31)と第2シリンダ(41)の間に挟み込まれている。一方、平板部(51b)は、第1ピストン(32)のピストン側鏡板部(32a)と第2ピストン(42)のピストン側鏡板部(42a)の間に挟み込まれている。この平板部(51b)は、図2における下面が第1ピストン(32)のピストン側鏡板部(32a)の背面と摺接し、同図における上面が第2ピストン(42)のピストン側鏡板部(42a)の背面と摺接する。
ミドルプレート(51)の平板部(51b)では、第1圧縮機構(30)側の面と第2圧縮機構(40)側の面のそれぞれにシールリング(52,53)が一つずつ設けられている。これらシールリング(52,53)は、平板部(51b)に形成された環状溝に取り付けられている。第1圧縮機構(30)側に配置された第1シールリング(52)は、第1ピストン(32)のピストン側鏡板部(32a)の背面に接している。そして、このピストン側鏡板部(32a)と平板部(51b)の隙間のうち第1シールリング(52)の内側に位置する部分が、第1内側背圧空間(S3)となる。一方、第2圧縮機構(40)側に配置された第2シールリング(53)は、第2ピストン(42)のピストン側鏡板部(42a)の背面に接している。そして、このピストン側鏡板部(42a)と平板部(51b)の隙間のうち第2シールリング(53)の内側に位置する部分が、第2内側背圧空間(S5)となる。
〈圧縮機構の構成部材の材質と硬度〉
上述したように、各圧縮機構(30,40)は、シリンダ(31,41)と、ピストン(32,42)と、ブレード(33,43)と、揺動ブッシュ(34,44)とを備えている。これら圧縮機構(30,40)の構成部材は、それぞれ所定の材質で構成されている。
具体的に、シリンダ(31,41)の材質はねずみ鋳鉄であり、ピストン(32,42)の材質はダクタイル鋳鉄やクロムモリブデン鋼であり、揺動ブッシュ(34,44)の材質は工具鋼である。本実施形態では、ブレード(33,43)がシリンダ(31,41)と一体に形成されているため、ブレード(33,43)の材質はシリンダ(31,41)の材質と同じである。また、シリンダ(31,41)では、シリンダ側鏡板部(31a,41a)と外側シリンダ部(31b,41b)と内側シリンダ部(31c,41c)とブレード(33,43)とが、連続した一体の部材となっている。従って、シリンダ側鏡板部(31a,41a)と外側シリンダ部(31b,41b)と内側シリンダ部(31c,41c)とは、それぞれの材質が共通している。また、ピストン(32,42)では、ピストン側鏡板部(32a,42a)と環状部(32b,42b)と軸受部(32c,42c)とが、連続した一体の部材となっている。従って、ピストン側鏡板部(32a,42a)と環状部(32b,42b)と軸受部(32c,42c)とは、それぞれの材質が共通している。
各圧縮機構(30,40)のピストン(32,42)では、ブッシュ用摺動面(62,72)に硬化処理が施されている。この硬化処理の例としては、焼き入れ、浸炭、窒化、浸炭焼き入れ、窒化焼き入れ等の熱処理や、高硬度の物質をコーティングする処理が挙げられる。一方、ピストン(32,42)のシリンダ用摺動面(61,71)には、硬化処理は施されない。このため、各圧縮機構(30,40)のピストン(32,42)では、ブッシュ用摺動面(62,72)の硬度が、シリンダ用摺動面(61,71)の硬度よりも高くなっている。
また、シリンダ(31,41)の材質であるねずみ鋳鉄の硬度はビッカース硬度HV250〜300程度であり、ピストン(32,42)の材質であるダクタイル鋳鉄やクロムモリブデン鋼の硬度はHV300〜500程度であり、揺動ブッシュ(34,44)の材質である工具鋼の硬度はHV800程度である。また、硬化処理を施されたピストン(32,42)のブッシュ用摺動面(62,72)の硬度はHV500〜700程度である。従って、各圧縮機構(30,40)では、揺動ブッシュ(34,44)の硬度がピストン(32,42)のブッシュ用摺動面(62,72)の硬度よりも高くなり、シリンダ(31,41)の硬度がピストン(32,42)のシリンダ用摺動面(61,71)の硬度よりも低くなっている。
−運転動作−
圧縮機(10)の運転動作について説明する。
先ず、圧縮機(10)全体の運転動作について、図1を参照しながら説明する。電動機(20)に通電すると、駆動軸(23)が回転し、圧縮機構(30,40)のピストン(32,42)が駆動軸(23)によって駆動される。
圧縮機(10)の第1吸入管(14)には、冷媒回路の蒸発器で蒸発した冷媒が吸入される。第1吸入管(14)へ流入した低圧冷媒は、第1圧縮機構(30)の外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)へ吸い込まれて圧縮される。各圧縮室(S11,S12)内で圧縮された冷媒は、吐出口(35,36)を通って第1吐出通路(15a)へ吐出される。第1圧縮機構(30)から吐出された冷媒は、第1吐出管(15)を通って一旦ケーシング(11)の外部へ流出し、図外のインジェクション用配管から供給された中間圧冷媒と混合された後に、第2吸入管(16)を通って第2吸入通路(16a)へ流入する。
第2吸入通路(16a)へ流入した冷媒は、第2圧縮機構(40)の外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)へ吸い込まれて更に圧縮される。各圧縮室(S21,S22)内で圧縮された冷媒は、吐出口(45,46)を通ってケーシング(11)の内部空間(S10)へ吐出され、その後に第2吐出管(17)を通っての外部へ流出してゆく。
また、駆動軸(23)が回転すると、ケーシング(11)の底部に貯留されている潤滑油が油吸込管(28)へ吸い込まれ、駆動軸(23)の内部に形成された給油通路を通って圧縮機部(50)の摺動箇所へ供給される。給油通路から圧縮機部(50)へ供給された潤滑油は、第1ピストン(32)とミドルプレート(51)の間に形成された第1内側背圧空間(S3)や、第2ピストン(42)とミドルプレート(51)の間に形成された第2内側背圧空間(S5)にも流入する。
次に、圧縮機部(50)の運転動作について、図4を参照しながら説明する。ここでは、第1圧縮機構(30)の運転動作について説明するが、第2圧縮機構(40)の運転動作は第1圧縮機構(30)と基本的に同じである。
第1圧縮機構(30)では、第1ピストン(32)の環状部(32b)が第1ブレード(33)に沿って往復動作(進退動作)を行うと共に揺動動作を行う。そして、第1圧縮機構(30)では、環状部(32b)が外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)に対して揺動しながら公転し、圧縮室(S11,S12)へ冷媒が吸入されて圧縮される。
具体的に、図4(A)の状態から駆動軸(23)が同図における時計方向へ回転し、環状部(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面の接触位置が第1吸入通路(14a)を通過すると、第1吸入通路(14a)から外側圧縮室(S11)の低圧室(S11L)へ低圧冷媒が吸入され始める。その後、駆動軸(23)が回転すると、低圧室(S11L)の容積が増大してゆき(図4(B),(C),…を参照)、図4(A)の状態に戻ると低圧室(S11L)の容積が最大になる。低圧室(S11L)の容積が増加している間は、第1吸入通路(14a)から低圧室(S11L)へ低圧冷媒が吸入され続ける。
一方、図4(A)の状態から駆動軸(23)が同図における時計方向へ回転し、環状部(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面の接触位置が第1吸入通路(14a)を通過すると、外側圧縮室(S11)の高圧室(S11H)が第1吸入通路(14a)から遮断された閉空間となる。その後、駆動軸(23)が回転すると、高圧室(S11H)の容積が減少してゆき(図4(B),(C),…を参照)、高圧室(S11H)内の冷媒が圧縮され、高圧室(S11H)内の冷媒圧力が上昇してゆく。高圧室(S11H)内の冷媒圧力が第1吐出通路(15a)の圧力よりも幾分高くなると、吐出弁(37)が開き、高圧室(S11H)内の冷媒が吐出口(35)を通って第1吐出通路(15a)へ流出してゆく。例えば図4(F)の状態で吐出弁(37)が開いたとすると、その後は高圧室(S11H)内の冷媒が環状部(32b)によって第1吐出通路(15a)へ押し出されてゆく。そして、図4(A)の状態に戻ると、高圧室(S11H)からの冷媒の吐出が完了する。
また、図4(E)の状態から駆動軸(23)が同図における時計方向へ回転し、環状部(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面の接触位置が第1吸入通路(14a)を通過すると、第1吸入通路(14a)から内側圧縮室(S12)の低圧室(S12L)へ低圧冷媒が吸入され始める。その後、駆動軸(23)が回転すると、低圧室(S12L)の容積が増大してゆき(図4(F),(G),…を参照)、図4(E)の状態に戻ると低圧室(S12L)の容積が最大になる。低圧室(S12L)の容積が増加している間は、第1吸入通路(14a)から低圧室(S12L)へ低圧冷媒が吸入され続ける。
一方、図4(E)の状態から駆動軸(23)が同図における時計方向へ回転し、環状部(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面の接触位置が第1吸入通路(14a)を通過すると、内側圧縮室(S12)の高圧室(S12H)が第1吸入通路(14a)から遮断された閉空間となる。その後、駆動軸(23)が回転すると、高圧室(S12H)の容積が減少してゆき(図4(F),(G),…を参照)、高圧室(S12H)内の冷媒が圧縮され、高圧室(S12H)内の冷媒圧力が上昇してゆく。高圧室(S12H)内の冷媒圧力が第1吐出通路(15a)の圧力よりも幾分高くなると、吐出弁(38)が開き、高圧室(S12H)内の冷媒が吐出口(36)を通って第1吐出通路(15a)へ流出してゆく。例えば図4(B)の状態で吐出弁(38)が開いたとすると、その後は高圧室(S12H)内の冷媒が環状部(32b)によって第1吐出通路(15a)へ押し出されてゆく。そして、図4(E)の状態に戻ると、高圧室(S12H)からの冷媒の吐出が完了する。
上述したように、第2圧縮機構(40)の運転動作は第1圧縮機構(30)と基本的に同じである。ただし、駆動軸(23)の上側偏心部(25)と下側偏心部(26)は、それぞれの偏心方向が互いに逆向きとなっている。そのため、第2圧縮機構(40)における第2ピストン(42)の回転運動と、第1圧縮機構(30)における第1ピストン(32)の回転運動とは、それぞれの位相が互いに180°ずれている。従って、第1圧縮機構(30)の第1ピストン(32)の位置が図4(A)に示す位置となる時点では、第2圧縮機構(40)の第2ピストン(42)の位置が図4(E)に示す位置となる。
ところで、各圧縮機構(30,40)では、外側圧縮室(S11,S21)内の冷媒圧力や、内側圧縮室(S12,S22)内の冷媒圧力が、シリンダ側鏡板部(31a,41a)とピストン側鏡板部(32a,42a)に作用する。このため、高圧室(S11H,S12H,S21H,S22H)内の冷媒圧力が上昇すると、ピストン(32,42)には、ピストン(32,42)をシリンダ(31,41)から引き離す方向の力が作用する。そして、何の対策も講じなければ、ピストン(32,42)がシリンダ(31,41)から離れる方向へ僅かに移動し、環状部(32b,42b)とシリンダ側鏡板部(31a,41a)の隙間や、外側シリンダ部(31b,41b)及び内側シリンダ部(31c,41c)とピストン側鏡板部(32a,42a)の隙間が拡大することとなり、その結果、外側圧縮室(S11,S21)や内側圧縮室(S12,S22)の気密性が低下してしまう。
それに対し、本実施形態の圧縮機(10)では、上述したように、ケーシング(11)内に貯留されている潤滑油が第1内側背圧空間(S3)と第2内側背圧空間(S5)に導入される。ケーシング(11)内に貯留されている潤滑油の圧力は、第2圧縮機構(40)から吐出された高圧冷媒の圧力と実質的に等しくなっている。このため、第1内側背圧空間(S3)の内圧や第2内側背圧空間(S5)の内圧は、ケーシング(11)内に貯留されている潤滑油の圧力と同程度となる。その結果、各圧縮機構(30,40)では、ピストン(32,42)がシリンダ(31,41)へ押し付けられることとなり、外側圧縮室(S11,S21)や内側圧縮室(S12,S22)の気密性が確保される。
ピストン(32,42)をシリンダ(31,41)へ押し付ける方向の荷重(スラスト荷重)は、ピストン側鏡板部(32a,42a)のシリンダ用摺動面(61,71)がシリンダ(31,41)の外側シリンダ部(31b,41b)の突端面と摺接することによって支持される。ピストン側鏡板部(32a,42a)のシリンダ用摺動面(61,71)と、外側シリンダ部(31b,41b)の突端面との間には、極めて薄い油膜が形成され、この油膜によって両者の潤滑が行われる。また、環状部(32b,42b)とシリンダ側鏡板部(31a,41a)のクリアランスと、内側シリンダ部(31c,41c)とピストン側鏡板部(32a,42a)のクリアランスとは、ピストン側鏡板部(32a,42a)と外側シリンダ部(31b,41b)のクリアランスよりも僅かに大きくなっている。
−実施形態1の効果−
本実施形態の圧縮機(10)の各圧縮機構(30,40)では、ピストン(32,42)の環状部(32b,42b)が揺動ブッシュ(34,44)と摺接し、ピストン(32,42)のピストン側鏡板部(32a,42a)がシリンダ(31,41)の外側シリンダ部(31b,41b)と摺接する。また、本実施形態のピストン(32,42)では、環状部(32b,42b)のうち揺動ブッシュ(34,44)と摺接する部分であるブッシュ用摺動面(62,72)の硬度が、ピストン側鏡板部(32a,42a)のうち外側壁部(31b,41b)と摺接する部分であるシリンダ用摺動面(61,71)の硬度よりも高くなっている。このため、環状部(32b,42b)のブッシュ用摺動面(62,72)の硬度を高めることでブッシュ用摺動面(62,72)の摩耗量を削減できると共に、ピストン側鏡板部(32a,42a)のシリンダ用摺動面(61,71)の硬度が不必要に高くなるのを回避することで外側壁部(31b,41b)の摩耗量の増加を抑制できる。
特に、本実施形態の各圧縮機構(30,40)では、揺動ブッシュ(34,44)の硬度が環状部(32b,42b)のブッシュ用摺動面(62,72)の硬度よりも高く、外側壁部(31b,41b)の硬度がピストン側鏡板部(32a,42a)のシリンダ用摺動面(61,71)の硬度よりも低くなっている。このため、環状部(32b,42b)のブッシュ用摺動面(62,72)の硬度を、ピストン側鏡板部(32a,42a)のシリンダ用摺動面(61,71)の硬度よりも高くすることによって、環状部(32b,42b)のブッシュ用摺動面(62,72)の摩耗と、シリンダ用摺動面(61,71)と摺接する外側壁部(31b,41b)の摩耗を確実に抑えることができる。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態の圧縮機(10)は、上記実施形態1の各圧縮機構(30,40)において、ピストン(32,42)の構成を変更したものである。以下では、本実施形態のピストン(32,42)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
図5に示すように、本実施形態のピストン(32,42)では、環状部(32b,42b)が環状部本体(63,73)と摺動用部材(64,74)とによって構成されている。環状部本体(63,73)は、円環の一部分を分断したC字状に形成されている。この環状部本体(63,73)は、ピストン側鏡板部(32a,42a)と一体に形成されている。一方、摺動用部材(64,74)は、やや湾曲した板状に形成され、環状部本体(63,73)の分断部分に臨む端面に鋳込み溶接等によって接合されている。そして、本実施形態の環状部(32b,42b)では、摺動用部材(64,74)が揺動ブッシュ(34,44)と摺接する。つまり、この環状部(32b,42b)では、摺動用部材(64,74)の表面がブッシュ用摺動面(62,72)となっている。
本実施形態のピストン(32,42)では、ピストン側鏡板部(32a,42a)と環状部本体(63,73)と軸受部(32c,42c)とが、連続した一体の部材となっている。ピストン側鏡板部(32a,42a)と環状部本体(63,73)と軸受部(32c,42c)の材質は、何れもダクタイル鋳鉄やクロムモリブデン鋼である。一方、摺動用部材(64,74)の材質は高硬度鋼であり、その硬度はHV500〜700程度である。従って、本実施形態のピストン(32,42)では、高硬度鋼製の摺動用部材(64,74)によって構成されるブッシュ用摺動面(62,72)の硬度が、ダクタイル鋳鉄製あるいはクロムモリブデン鋼製のピストン側鏡板部(32a,42a)によって構成されるシリンダ用摺動面(61,71)の硬度よりも高くなっている。
《発明の実施形態3》
本発明の実施形態3について説明する。本実施形態の圧縮機(10)は、上記実施形態1の各圧縮機構(30,40)において、ピストン(32,42)の構成を変更したものである。以下では、本実施形態のピストン(32,42)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
図6に示すように、本実施形態のピストン(32,42)では、環状部(32b,42b)とピストン側鏡板部(32a,42a)が別体に形成されており、環状部(32b,42b)がボルト等によってピストン側鏡板部(32a,42a)に固定されている。なお、本実施形態のピストン(32,42)では、ピストン側鏡板部(32a,42a)と軸受部(32c,42c)とが、連続した一体の部材となっている。ピストン側鏡板部(32a,42a)と軸受部(32c,42c)の材質は、ねずみ鋳鉄であって、その硬度はHV250〜300程度である。一方、環状部(32b,42b)の材質はダクタイル鋳鉄やクロムモリブデン鋼であり、その硬度はHV300〜500程度である。従って、本実施形態のピストン(32,42)では、ダクタイル鋳鉄製あるいはクロムモリブデン鋼製の環状部(32b,42b)によって構成されるブッシュ用摺動面(62,72)の硬度が、ねずみ鋳鉄製のピストン側鏡板部(32a,42a)によって構成されるシリンダ用摺動面(61,71)の硬度よりも高くなっている。
《発明の実施形態4》
本発明の実施形態4について説明する。本実施形態の圧縮機(10)は、上記実施形態1の各圧縮機構(30,40)において、ピストン(32,42)の構成を変更したものである。以下では、本実施形態のピストン(32,42)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
図7に示すように、本実施形態のピストン(32,42)では、ピストン側鏡板部(32a,42a)に摺動用プレート(65,75)が取り付けられている。摺動用プレート(65,75)は、円環状に形成された平板であって、ピストン側鏡板部(32a,42a)の前面のうち環状部(32b,42b)の外側に位置する部分を覆っている。そして、本実施形態のピストン(32,42)では、摺動用プレート(65,75)が外側シリンダ部(31b,41b)の突端面と摺接する。つまり、このピストン(32,42)では、摺動用プレート(65,75)がシリンダ用摺動面(61,71)を構成している。
本実施形態のピストン(32,42)では、上記実施形態1と同様に、ピストン側鏡板部(32a,42a)と環状部(32b,42b)と軸受部(32c,42c)とが、連続した一体の部材となっている。このピストン(32,42)において、ピストン側鏡板部(32a,42a)と環状部(32b,42b)と軸受部(32c,42c)の材質はダクタイル鋳鉄やクロムモリブデン鋼であり、その硬度はHV300〜500程度である。一方、摺動用プレート(65,75)の材質はねずみ鋳鉄であり、その硬度はHV250〜300程度である。従って、本実施形態のピストン(32,42)では、ダクタイル鋳鉄製あるいはクロムモリブデン鋼製の環状部(32b,42b)によって構成されるブッシュ用摺動面(62,72)の硬度が、ねずみ鋳鉄製の摺動用プレート(65,75)によって構成されるシリンダ用摺動面(61,71)の硬度よりも高くなっている。
《その他の実施形態》
−第1変形例−
上記各実施形態の圧縮機(10)では、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)の両方においてブッシュ用摺動面(62,72)の硬度がシリンダ用摺動面(61,71)の硬度よりも高くなっているが、第2圧縮機構(40)だけにおいてブッシュ用摺動面(72)の硬度がシリンダ用摺動面(71)の硬度よりも高くなっていてもよい。
具体的に、本変形例を上記実施形態1の圧縮機(10)に適用した場合、第1圧縮機構(30)の環状部(32b)のブッシュ用摺動面(62)に焼き入れ等の硬化処理は施されず、第2圧縮機構(40)の環状部(42b)のブッシュ用摺動面(72)だけに焼き入れ等の硬化処理が施される。また、本変形例を上記実施形態2の圧縮機(10)に適用した場合、第1圧縮機構(30)では環状部(32b)から摺動用部材(64)が省略され、第2圧縮機構(40)の環状部(42b)だけに摺動用部材(74)が設けられる。また、本変形例を上記実施形態3の圧縮機(10)に適用した場合、第1圧縮機構(30)では環状部(32b)がピストン側鏡板部(32a)と一体に形成され、第2圧縮機構(40)だけにおいて環状部(42b)がピストン側鏡板部(42a)とは別体に形成される。また、本変形例を上記実施形態4の圧縮機(10)に適用した場合、第1圧縮機構(30)ではピストン側鏡板部(32a)から摺動用プレート(65)が省略され、第2圧縮機構(40)のピストン側鏡板部(42a)だけに摺動用プレート(75)が設けられる。
二段圧縮機である上記各実施形態の圧縮機(10)において、ブッシュ用摺動面(62,72)に作用する荷重は、高段側の第2圧縮機構(40)よりも低段側の第1圧縮機構(30)の方が小さくなる場合が多い。このため、低段側の第1圧縮機構(30)では、特に対策を講じなくても、ブッシュ用摺動面(62)の摩耗量を低く抑えることが可能な場合がある。そこで、このような場合は、高段側の第2圧縮機構(40)においてだけブッシュ用摺動面(72)の硬度がシリンダ用摺動面(71)の硬度よりも高くすることで、圧縮機(10)の製造工程の複雑化を抑えることができる。
−第2変形例−
上記各実施形態の圧縮機(10)において、各圧縮機構(30,40)では、図8に示すように、ブレード(33,43)が、シリンダ側鏡板部(31a,41a)、外側シリンダ部(31b,41b)、及び内側シリンダ部(31c,41c)とは別体に形成されていてもよい。その場合、ブレード(33,43)の材質は、シリンダ側鏡板部(31a,41a)、外側シリンダ部(31b,41b)、及び内側シリンダ部(31c,41c)の材質と同じでもよいし、それとは異なっていてもよい。
−第3変形例−
上記各実施形態の圧縮機(10)は、二つの圧縮機構(30,40)を備える二段圧縮機であるが、圧縮機構を一つだけ備える単段圧縮機を、本発明の回転式流体機械によって構成してもよい。
−第4変形例−
上記各実施形態では本発明の回転式流体機械によって圧縮機を構成しているが、この回転式流体機械の用途は圧縮機に限定されるものではない。つまり、流体の膨張によって動力を発生させる膨張機を、本発明の回転式流体機械によって構成してもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。