以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態の圧縮機(10)は、本発明に係る回転式圧縮機である。この圧縮機(10)は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に設けられ、冷媒回路内を循環する冷媒を吸入して圧縮する。
〈圧縮機の全体構成〉
図1に示すように、圧縮機(10)は、密閉容器状のケーシング(11)を備えている。ケーシング(11)は、縦長の円筒状に形成された胴部(12)と、椀状に形成された一対の端板部(13)とを備えている。ケーシング(11)では、端板部(13)が胴部(12)の各端部に一つずつ配置され、胴部(12)の端部が端板部(13)によって閉塞される。ケーシング(11)の内部には、電動機(20)と、圧縮機部(50)とが収納されている。圧縮機部(50)は、電動機(20)の下方に配置されている。圧縮機部(50)は、低段側の第1圧縮機構(30)と、高段側の第2圧縮機構(40)とを備えている。
ケーシング(11)の胴部(12)には、第1圧縮機構(30)に接続される第1吸入管(14)及び第1吐出管(15)が、胴部(12)を厚み方向に貫通するように設けられている。また、胴部(12)には、第2圧縮機構(40)に接続される第2吸入管(16)が、胴部(12)を貫通するように設けられている。更に、上側の端板部(13)には、第2吐出管(17)が端板部(13)を貫通するように設けられている。この第2吐出管(17)は、ケーシング(11)の内部空間(S10)と連通している。
なお、図示を省略するが、第1吐出管(15)と第2吸入管(16)とは、配管を介して接続されている。また、第1吐出管(15)と第2吸入管(16)を接続する配管には、中間圧の冷媒を第2圧縮機構(40)へ供給するためのインジェクション用配管が接続されている。
本実施形態の圧縮機(10)は、高段側の第2圧縮機構(40)において圧縮された冷媒がケーシング(11)の内部空間(S10)に吐出され、第2吐出管(17)を介してケーシング(11)の外部へ排出されるように構成されている。つまり、この圧縮機(10)は、ケーシング(11)の内部空間(S10)が高圧圧力状態となる高圧ドーム型の圧縮機となっている。
ケーシング(11)の内部には、駆動軸(23)が胴部(12)の軸方向に沿って設けられている。この駆動軸(23)は、電動機(20)と圧縮機部(50)を連結している。なお、密閉容器状のケーシング(11)の底部には、圧縮機部(50)の各摺動部に供給するための潤滑油(冷凍機油)が貯留されている。
駆動軸(23)は、主軸部(24)と二つの偏心部(25,26)とを備えている。二つの偏心部(25,26)は、主軸部(24)の軸方向に並んで配置され、上側に位置するものが上側偏心部(25)となり、下側に位置するものが下側偏心部(26)となっている。また、これら二つの偏心部(25,26)は、それぞれが主軸部(24)よりも大径の円柱状に形成され、それぞれの軸心が主軸部(24)の軸心に対して偏心している。また、上側偏心部(25)の偏心方向と下側偏心部(26)の偏心方向は、主軸部(24)の軸心を中心として互いに180°ずれている。
駆動軸(23)の下端には、油吸込管(28)が突設されている。油吸込管(28)の下端は、ケーシング(11)の底部に貯留された潤滑油に浸かっている。また、図示しないが、駆動軸(23)の内部には、油吸込管(28)に接続する給油通路が形成されている。遠心ポンプ作用によって油吸込管(28)へ吸い込まれた潤滑油は、給油通路を通って各圧縮機構(30,40)の摺動箇所へ供給される。
電動機(20)は、ステータ(21)とロータ(22)とを備えている。ステータ(21)は、ケーシング(11)の胴部(12)に固定されている。一方、ロータ(22)は、ステータ(21)の内側に配置され、駆動軸(23)の主軸部(24)に連結されている。
〈圧縮機部の構成〉
上述したように、圧縮機部(50)は、第1圧縮機構(30)と、第2圧縮機構(40)とを備えている。また、圧縮機部(50)では、両圧縮機構(30,40)の間にミドルプレート(51)が挟み込まれている。
第1圧縮機構(30)の構造について説明する。
図2及び図3に示すように、第1圧縮機構(30)は、シリンダ部材である第1シリンダ(31)と、ピストン部材である第1ピストン(32)と、第1ブレード(33)とを備えている。第1シリンダ(31)は、固定部材として第1圧縮機構(30)に設けられている。第1ピストン(32)は、可動部材として第1圧縮機構(30)に設けられている。
第1シリンダ(31)は、環状の第1シリンダ室(S11,S12)を形成する。第1ピストン(32)は、ピストン本体(32b)を有している。このピストン本体(32b)は、第1シリンダ室(S11,S12)内に配置され、第1シリンダ室(S11,S12)を外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)とに区画する。第1ブレード(33)は、外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)のそれぞれを高圧室(S11H,S12H)と低圧室(S11L,S12L)とに区画する。第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)とは、相対的に偏心回転運動をするように構成されている。
第1シリンダ(31)は、中央に軸受部が形成された平板状のシリンダ側鏡板部(31a)と、シリンダ側鏡板部(31a)の前面(図2における上面)から上方に突出するように形成された外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)とを備えている。内側シリンダ部(31c)は、断面が矩形の円環状に形成され、その外周面が円筒面となっている。外側シリンダ部(31b)は、内側シリンダ部(31c)の周囲を囲むように形成され、その内周面が円筒面となっている。内側シリンダ部(31c)の外周面と、外側シリンダ部(31b)の内周面とは、それぞれの中心軸が一致している。外側シリンダ部(31b)と内側シリンダ部(31c)のそれぞれは、シリンダ側鏡板部(31a)と一体に形成され、壁部を構成している。また、外側シリンダ部(31b)は外側壁部を構成し、内側シリンダ部(31c)は内側壁部を構成している。
第1シリンダ(31)は、シリンダ側鏡板部(31a)及び外側シリンダ部(31b)がケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接されることにより固定されている。また、シリンダ側鏡板部(31a)の軸受部には、駆動軸(23)の主軸部(24)が挿通されている。このシリンダ側鏡板部(31a)の軸受部は、主軸部(24)を回転自在に支持する滑り軸受を構成している。
第1シリンダ(31)のシリンダ側鏡板部(31a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第1吸入通路(14a)が形成されている。第1吸入通路(14a)の一端は、シリンダ側鏡板部(31a)の前面に開口し、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に連通している。第1吸入通路(14a)の他端には、第1吸入管(14)が接続されている。
また、第1シリンダ(31)のシリンダ側鏡板部(31a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第1吐出通路(15a)が形成されている。シリンダ側鏡板部(31a)の外周面における第1吐出通路(15a)の開口端には、第1吐出管(15)が接続されている。第1吐出通路(15a)は、吐出口(35)を介して外側圧縮室(S11)に連通し、吐出口(36)を介して内側圧縮室(S12)に連通している(図3を参照)。各吐出口(35,36)は、シリンダ側鏡板部(31a)の前面に開口している。
図示しないが、シリンダ側鏡板部(31a)には、吐出口(35,36)を開閉するための吐出弁が設けられている。具体的には、図2における第1吐出空間(15a)の上壁面に吐出弁が取り付けられている。この吐出弁は、いわゆるリード弁であって、高圧室(S11H,S12H)内の冷媒圧力が第1吐出通路(15a)内の冷媒圧力よりも若干高くなると、開状態となる。
第1ピストン(32)は、平板状のピストン側鏡板部(32a)と、ピストン側鏡板部(32a)の前面(図2における下面)に突設されたピストン本体(32b)と、ピストン本体(32b)の内側に形成された筒状の軸受部(32c)とを備えている。ピストン本体(32b)は、一部分が分断された円環状あるいはC字状に形成されている(図3を参照)。軸受部(32c)には、駆動軸(23)の下側偏心部(26)が挿通されている。第1ピストン(32)において、ピストン本体(32b)及び軸受部(32c)は、ピストン側鏡板部(32a)と一体に形成されている。また、ピストン本体(32b)は、壁部を構成している。
上述したように、外側シリンダ部(31b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面とは、互いに同軸に配置された円筒面となっている。そして、第1ピストン(32)のピストン本体(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面との間には、外側圧縮室(S11)が形成される。また、第1ピストン(32)のピストン本体(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面との間には、内側圧縮室(S12)が形成される。
第1圧縮機構(30)において、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)は、シリンダ側鏡板部(31a)の前面とピストン側鏡板部(32a)の前面が互いに向かい合う姿勢で配置されている。また、第1圧縮機構(30)では、ピストン本体(32b)の突端面(図2における下面)がシリンダ側鏡板部(31a)の前面と摺接し、内側シリンダ部(31c)の突端面(同図における上面)がピストン側鏡板部(32a)の前面と摺接する。更に、第1圧縮機構(30)では、ピストン側鏡板部(32a)の前面のうちピストン本体(32b)の外側に位置する部分が、外周側摺動面(32d)となっている。この外周側摺動面(32d)は、第1シリンダ(31)の外側シリンダ部(31b)の突端面(図2における上面)と摺接する。
なお、第1圧縮機構(30)において、ピストン本体(32b)の突端面とシリンダ側鏡板部(31a)の前面のクリアランス、内側シリンダ部(31c)の突端面とピストン側鏡板部(32a)の前面のクリアランス、及び外側シリンダ部(31b)の突端面と外周側摺動面(32d)のクリアランスのそれぞれは、圧縮室(S11,S12)の気密性が保たれるように非常に小さくなっている。一方、第1ピストン(32)の軸受部(32c)の突端面とシリンダ側鏡板部(31a)の前面のクリアランスは、ピストン本体(32b)の突端面とシリンダ側鏡板部(31a)の前面のクリアランス、内側シリンダ部(31c)の突端面とピストン側鏡板部(32a)の前面のクリアランス、及び外側シリンダ部(31b)の突端面と外周側摺動面(32d)のクリアランスのそれぞれに比べて充分に大きくなっている。
第1圧縮機構(30)では、第1シリンダ(31)の外側シリンダ部(31b)と、ミドルプレート(51)と、第1ピストン(32)のピストン側鏡板部(32a)とによって囲まれた第1外周側空間(37)が形成される。また、第1圧縮機構(30)では、内側シリンダ部(31c)の内側に第1内周側空間(38)が形成される。
図3に示すように、第1ブレード(33)は、第1シリンダ室(S11,S12)の径方向に延びる平板状の部材であって、外側シリンダ部(31b)の内周面から内側シリンダ部(31c)の外周面に亘って形成されている。この第1ブレード(33)は、外側シリンダ部(31b)、内側シリンダ部(31c)、及びシリンダ側鏡板部(31a)と一体に形成されている。第1ブレード(33)は、ピストン本体(32b)の分断箇所に挿通されている。この第1ブレード(33)は、外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)のそれぞれを、第1吸入通路(14a)に連通する低圧室(S11L,S12L)と、吐出口(35,36)に連通する高圧室(S11H,S12H)とに区画している。
第1圧縮機構(30)は、一対の第1揺動ブッシュ(34)を備えている。第1揺動ブッシュ(34)は、図3における第1ブレード(33)の右側と左側に一つずつ設けられている。各第1揺動ブッシュ(34)には、第1ブレード(33)と摺接する平坦面と、平坦面の反対側に位置する円弧面とが形成されている。第1揺動ブッシュ(34)の円弧面は、ピストン本体(32b)の分断箇所の端面と摺接する。
第1圧縮機構(30)では、ピストン本体(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面が互いの周方向における一箇所で摺接し、ピストン本体(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面が互いの周方向における一箇所で摺接する。ピストン本体(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面の摺接箇所と、ピストン本体(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面の摺接箇所は、主軸部(24)の軸心を挟んで反対側に位置している。そして、第1圧縮機構(30)では、第1シリンダ(31)が固定される一方、第1ピストン(32)が偏心回転運動を行う。
第2圧縮機構(40)の構造について説明する。
図2及び図5に示すように、第2圧縮機構(40)は、シリンダ部材である第2シリンダ(41)と、ピストン部材である第2ピストン(42)と、第2ブレード(43)とを備えている。第2シリンダ(41)は、固定部材として第2圧縮機構(40)に設けられている。第2ピストン(42)は、可動部材として第2圧縮機構(40)に設けられている。
第2シリンダ(41)は、環状の第2シリンダ室(S21,S22)を形成する。第2ピストン(42)は、ピストン本体(42b)を有している。このピストン本体(42b)は、第2シリンダ室(S21,S22)内に配置され、第2シリンダ室(S21,S22)を外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)とに区画する。第2ブレード(43)は、外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)のそれぞれを高圧室(S21H,S22H)と低圧室(S21L,S22L)とに区画する。第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)とは、相対的に偏心回転運動をするように構成されている。
第2シリンダ(41)は、中央に軸受部が形成された平板状のシリンダ側鏡板部(41a)と、シリンダ側鏡板部(41a)の前面(図2における下面)から下方に突出するように形成されたの外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)とを備えている。内側シリンダ部(41c)は、断面が矩形の円環状に形成され、その外周面が円筒面となっている。外側シリンダ部(41b)は、内側シリンダ部(41c)の周囲を囲むように形成され、その内周面が円筒面となっている。内側シリンダ部(41c)の外周面と、外側シリンダ部(41b)の内周面とは、それぞれの中心軸が一致している。外側シリンダ部(41b)と内側シリンダ部(41c)のそれぞれは、シリンダ側鏡板部(41a)と一体に形成され、壁部を構成している。また、外側シリンダ部(41b)は外側壁部を構成し、内側シリンダ部(41c)は内側壁部を構成している。
第2シリンダ(41)は、シリンダ側鏡板部(41a)及び外側シリンダ部(41b)がケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接されることにより固定されている。また、シリンダ側鏡板部(41a)の軸受部には、駆動軸(23)の主軸部(24)が挿通されている。このシリンダ側鏡板部(41a)の軸受部は、主軸部(24)を回転自在に支持する滑り軸受を構成している。
第2シリンダ(41)のシリンダ側鏡板部(41a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第2吸入通路(16a)が形成されている。第2吸入通路(16a)の一端は、シリンダ側鏡板部(41a)の前面に開口し、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に連通している。第2吸入通路(16a)の他端には、第2吸入管(16)が接続されている。
また、第2シリンダ(41)のシリンダ側鏡板部(41a)には、その背面(図2における上面)に開口する吐出用凹部(17a)が形成されている。図示しないが、吐出用凹部(17a)の底部には、吐出口(45,46)が開口している。各吐出口(45,46)は、シリンダ側鏡板部(41a)の前面に開口している。そして、吐出用凹部(17a)は、吐出口(45)を介して外側圧縮室(S21)に連通し、吐出口(46)を介して内側圧縮室(S22)に連通している(図5を参照)。
図示しないが、シリンダ側鏡板部(41a)には、吐出口(45,46)を開閉するための吐出弁が設けられている。具体的には、吐出用凹部(17a)の底壁面に吐出弁が取り付けられている。この吐出弁は、いわゆるリード弁であって、高圧室(S21H,S22H)内の冷媒圧力が吐出用凹部(17a)内の冷媒圧力(即ち、ケーシング(11)内の冷媒圧力)よりも若干高くなると、開状態となる。
第2ピストン(42)は、平板状のピストン側鏡板部(42a)と、ピストン側鏡板部(42a)の前面(図2における上面)に突設されたピストン本体(42b)と、ピストン本体(42b)の内側に形成された筒状の軸受部(42c)とを備えている。ピストン本体(42b)は、一部分が分断された円環状あるいはC字状に形成されている(図5を参照)。軸受部(42c)には、駆動軸(23)の上側偏心部(25)が挿通されている。第2ピストン(42)において、ピストン本体(42b)及び軸受部(42c)は、ピストン側鏡板部(42a)と一体に形成されている。また、ピストン本体(42b)は、壁部を構成している。
上述したように、外側シリンダ部(41b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面とは、互いに同軸に配置された円筒面となっている。そして、第2ピストン(42)のピストン本体(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面との間には、第1圧縮室である外側圧縮室(S21)が形成される。また、第2ピストン(42)のピストン本体(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面との間には、第2圧縮室である内側圧縮室(S22)が形成される。
第2圧縮機構(40)において、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)は、シリンダ側鏡板部(41a)の前面とピストン側鏡板部(42a)の前面が互いに向かい合う姿勢で配置されている。また、第2圧縮機構(40)では、ピストン本体(42b)の突端面(図2における上面)がシリンダ側鏡板部(41a)の前面と摺接し、内側シリンダ部(41c)の突端面(同図における下面)がピストン側鏡板部(42a)の前面と摺接する。更に、第1圧縮機構(30)では、ピストン側鏡板部(42a)の前面のうちピストン本体(42b)の外側に位置する部分が、外周側摺動面(42d)となっている。この外周側摺動面(42d)は、第2シリンダ(41)の外側シリンダ部(41b)の突端面(図2における下面)と摺接する。
なお、第2圧縮機構(40)において、ピストン本体(42b)の突端面とシリンダ側鏡板部(41a)の前面のクリアランス、内側シリンダ部(41c)の突端面とピストン側鏡板部(42a)の前面のクリアランス、及び外側シリンダ部(41b)の突端面と外周側摺動面(42d)のクリアランスのそれぞれは、圧縮室(S21,S22)の気密性が保たれるように非常に小さくなっている。一方、第2ピストン(42)の軸受部(42c)の突端面とシリンダ側鏡板部(41a)の前面のクリアランスは、ピストン本体(42b)の突端面とシリンダ側鏡板部(41a)の前面のクリアランス、内側シリンダ部(41c)の突端面とピストン側鏡板部(42a)の前面のクリアランス、及び外側シリンダ部(41b)の突端面と外周側摺動面(42d)のクリアランスのそれぞれに比べて充分に大きくなっている。
第2圧縮機構(40)では、第2シリンダ(41)の外側シリンダ部(41b)と、ミドルプレート(51)と、第2ピストン(42)のピストン側鏡板部(42a)とによって囲まれた第2外周側空間(47)が形成される。また、第2圧縮機構(40)では、内側シリンダ部(41c)の内側に第2内周側空間(48)が形成される。
図5に示すように、第2ブレード(43)は、第2シリンダ室(S21,S22)の径方向に延びる平板状の部材であって、外側シリンダ部(41b)の内周面から内側シリンダ部(41c)の外周面に亘って形成されている。この第2ブレード(43)は、外側シリンダ部(41b)、内側シリンダ部(41c)、及びピストン側鏡板部(42a)と一体に形成されている。第2ブレード(43)は、ピストン本体(42b)の分断箇所に挿通されている。この第2ブレード(43)は、外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)のそれぞれを、第2吸入通路(16a)に連通する低圧室(S21L,S22L)と、吐出口(45,46)に連通する高圧室(S21H,S22H)とに区画している。
第2圧縮機構(40)は、一対の第2揺動ブッシュ(44)を備えている。第2揺動ブッシュ(44)は、図5における第2ブレード(43)の右側と左側に一つずつ設けられている。各第2揺動ブッシュ(44)には、第2ブレード(43)と摺接する平坦面と、平坦面の反対側に位置する円弧面とが形成されている。第2揺動ブッシュ(44)の円弧面は、ピストン本体(42b)の分断箇所の端面と摺接する。
第2圧縮機構(40)では、ピストン本体(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面が互いの周方向における一箇所で摺接し、ピストン本体(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面が互いの周方向における一箇所で摺接する。ピストン本体(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面の摺接箇所と、ピストン本体(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面の摺接箇所は、主軸部(24)の軸心を挟んで反対側に位置している。そして、第2圧縮機構(40)では、第2シリンダ(41)が固定される一方、第2ピストン(42)が偏心回転運動を行う。
上述したように、圧縮機部(50)には、ミドルプレート(51)が設けられている。図2に示すように、ミドルプレート(51)は、円板状の平板部(51b)と、平板部(51b)の周囲を囲むように形成された筒状の筒部(51a)とを備えている。ミドルプレート(51)は、第1シリンダ(31)や第1ピストン(32)などと共に第1圧縮機構(30)を構成している。また、ミドルプレート(51)は、第2シリンダ(41)や第2ピストン(42)などと共に第2圧縮機構(40)を構成している。つまり、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)は、ミドルプレート(51)を共有している。
ミドルプレート(51)の筒部(51a)は、第1シリンダ(31)と第2シリンダ(41)の間に挟み込まれている。一方、ミドルプレート(51)の平板部(51b)は、第1ピストン(32)のピストン側鏡板部(32a)と第2ピストン(42)のピストン側鏡板部(42a)の間に挟み込まれている。図2における平板部(51b)の下面は、第1ピストン(32)のピストン側鏡板部(32a)の背面と向かい合っており、同図における平板部(51b)の下面とピストン側鏡板部(32a)の背面との間には、微小な隙間が形成される。また、図2における平板部(51b)の上面は、第2ピストン(42)のピストン側鏡板部(42a)の背面と向かい合っており、同図における平板部(51b)の下面とピストン側鏡板部(42a)の背面との間には、微小な隙間が形成される。
ミドルプレート(51)の平板部(51b)には、内側シールリング(52)と外側シールリング(53)とが設けられている。内側シールリング(52)及び外側シールリング(53)は、第1圧縮機構(30)を構成する部材である。
図3にも示すように、内側シールリング(52)の直径は、外側シールリング(53)の直径よりも小さくなっている。内側シールリング(52)と外側シールリング(53)は、駆動軸(23)の周囲を囲うように配置され、図2における平板部(51b)の下面(即ち、第1ピストン(32)側の面)に形成された環状溝に嵌め込まれている。また、外側シールリング(53)は、内側シールリング(52)の周囲を囲むように配置されている。
図2における内側シールリング(52)の下面と外側シールリング(53)の下面とは、第1ピストン(32)のピストン側鏡板部(32a)の背面と摺接する。このため、ミドルプレート(51)の平板部(51b)と第1ピストン(32)のピストン側鏡板部(32a)の間に形成された隙間は、内側シールリング(52)及び外側シールリング(53)によって三つの空間に仕切られる。つまり、この平板部(51b)とピストン側鏡板部(32a)の間の隙間は、内側シールリング(52)の内側の第1内側背圧空間(S1)と、内側シールリング(52)と外側シールリング(53)の間の第1中間背圧空間(S2)と、外側シールリング(53)の外側の第1外側背圧空間(S3)とに仕切られる。
図3に示すように、内側シールリング(52)と外側シールリング(53)は、それぞれの中心が一致するように配置されている。また、内側シールリング(52)及び外側シールリング(53)の中心Or1は、第1シリンダ(31)の中心Oc(即ち、外側シリンダ部(31b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面の曲率中心)よりも吐出口(35,36)寄り(即ち、同図における左側)に位置している。なお、第1シリンダ(31)の中心Ocは、駆動軸(23)の主軸部(24)の軸心上の点である。また、図4に示すように、内側シールリング(52)の外径Dsrは、第1シリンダ(31)の内側シリンダ部(31c)の内径Diwi以上となり、この内側シリンダ部(31c)の外径Diwo以下となっている(Diwi≦Dsr≦Diwo)。
また、ミドルプレート(51)の平板部(51b)には、高段側シールリング(54)が設けられている。高段側シールリング(54)は、第2圧縮機構(40)を構成する部材である。
高段側シールリング(54)は、駆動軸(23)の周囲を囲うように配置され、図2における平板部(51b)の上面(即ち、第2ピストン(42)側の面)に形成された環状溝に嵌め込まれている。
図2における高段側シールリング(54)の上面は、第2ピストン(42)のピストン側鏡板部(42a)の背面と摺接する。このため、ミドルプレート(51)の平板部(51b)と第2ピストン(42)のピストン側鏡板部(42a)の間に形成された隙間は、高段側シールリング(54)によって二つの空間に仕切られる。つまり、この平板部(51b)とピストン側鏡板部(42a)の間の隙間は、高段側シールリング(54)の内側の第2内側背圧空間(S5)と、高段側シールリング(54)の外側の第2外側背圧空間(S7)とに仕切られる。
図5に示すように、高段側シールリング(54)の中心Or2は、第2シリンダ(41)の中心Oc(即ち、外側シリンダ部(41b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面の曲率中心)よりも吐出口(45,46)寄り(即ち、同図における左側)に位置している。なお、第2シリンダ(41)の中心Ocは、駆動軸(23)の主軸部(24)の軸心上の点である。
図2,図5に示すように、第2圧縮機構(40)には、第1圧力導入路(60)と第2圧力導入路(70)とが形成されている。第1圧力導入路(60)は、第1凹部(61)と第1連通孔(62)とによって構成されている。一方、第2圧力導入路(70)は、第2凹部(71)と第2連通孔(72)とによって構成されている。
第1凹部(61)及び第2凹部(71)は、第2シリンダ(41)のシリンダ側鏡板部(41a)に形成されている。図2に示すように、第1凹部(61)及び第2凹部(71)は、シリンダ側鏡板部(41a)の前面のうち内側シリンダ部(41c)と外側シリンダ部(41b)の間の部分に形成された窪みである。また、図5に示すように、第1凹部(61)及び第2凹部(71)は、外側シリンダ部(41b)の内周面および内側シリンダ部(41c)の外周面の直径(即ち、第2シリンダ(41)の中心Ocを通る直線)に沿って延びる凹溝状に形成されている。
第1凹部(61)は、外側シリンダ部(41b)寄りに形成されている。シリンダ側鏡板部(41a)の前面において、第1凹部(61)は、外側圧縮室(S21)には露出し得るが内側圧縮室(S22)には露出しない位置に形成されている。一方、第2凹部(71)は、内側シリンダ部(41c)寄りに形成されている。シリンダ側鏡板部(41a)の前面において、第2凹部(71)は、内側圧縮室(S22)には露出し得るが外側圧縮室(S21)には露出しない位置に形成されている。
第1連通孔(62)及び第2連通孔(72)は、第2ピストン(42)に形成されている。図2に示すように、第1連通孔(62)及び第2連通孔(72)は、それぞれの一端がピストン本体(42b)の突端面(即ち、シリンダ側鏡板部(41a)と摺動する面)に開口し、それぞれの他端がピストン側鏡板部(42a)の背面に開口している。また、第1連通孔(62)と第2連通孔(72)のそれぞれは、ピストン本体(42b)の突端面付近の部分が、残りの部分よりも細径となっている。
ピストン本体(42b)の突端面において、第1連通孔(62)の一端(図2における上端)は、第1凹部(61)には連通し得るが第2凹部(71)には連通しない位置に開口している。一方、ピストン本体(42b)の突端面において、第2連通孔(72)の一端(図2における上端)は、第2凹部(71)には連通し得るが第1凹部(61)には連通しない位置に開口している。また、第1連通孔(62)及び第2連通孔(72)のそれぞれの他端(図2における下端)は、何れも第2外側背圧空間(S7)に連通している。
ミドルプレート(51)の平板部(51b)には、圧力導入孔(55)が形成されている。この圧力導入孔(55)は、平板部(51b)をその厚さ方向に貫通する貫通孔である。圧力導入孔(55)の一端は、図2における平板部(51b)の上面のうち高段側シールリング(54)の外側の部分に開口している。一方、圧力導入孔(55)の他端は、図2における平板部(51b)の下面のうち内側シールリング(52)と外側シールリング(53)の間の部分に開口している。この圧力導入孔(55)は、第2圧縮機構(40)の第2外側背圧空間(S7)と、第1圧縮機構(30)の第1中間背圧空間(S2)とを連通させている。また、第2圧縮機構(40)では、第2外側背圧空間(S7)が第2外周側空間(47)と連通している。
第1シリンダ(31)には、低圧導入孔(39)が形成されている。この低圧導入孔(39)は、その一端が外側シリンダ部(31b)の突端面に開口し、第1外周側空間(37)と連通している。また、低圧導入孔(39)の他端は、第1吸入通路(14a)に連通している。また、第1圧縮機構(30)では、第1外側背圧空間(S3)が第1外周側空間(37)と連通している。
−運転動作−
圧縮機(10)の運転動作について説明する。
〈圧縮機全体の動作〉
圧縮機(10)全体の運転動作について、図1,図2を参照しながら説明する。電動機(20)に通電すると、駆動軸(23)が回転し、圧縮機構(30,40)のピストン(32,42)が駆動軸(23)によって駆動される。そして、圧縮機部(50)では、第1圧縮機構(30)へ吸入されて圧縮された冷媒が、第2圧縮機構(40)へ吸入されて更に圧縮される。
圧縮機(10)の第1吸入管(14)には、冷媒回路の蒸発器で蒸発した冷媒が吸入される。第1吸入管(14)へ流入した低圧冷媒は、第1圧縮機構(30)の外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)へ吸い込まれて圧縮される。各圧縮室(S11,S12)内で圧縮された冷媒は、吐出口(35,36)を通って第1吐出通路(15a)へ吐出される。第1圧縮機構(30)から吐出された冷媒は、第1吐出管(15)を通って一旦ケーシング(11)の外部へ流出し、図外のインジェクション用配管から供給された中間圧冷媒と混合された後に、第2吸入管(16)を通って第2吸入通路(16a)へ流入する。
第2吸入通路(16a)へ流入した冷媒は、第2圧縮機構(40)の外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)へ吸い込まれて更に圧縮される。各圧縮室(S21,S22)内で圧縮された冷媒は、吐出口(45,46)を通ってケーシング(11)の内部空間(S10)へ吐出され、その後に第2吐出管(17)を通っての外部へ流出してゆく。
駆動軸(23)が回転すると、ケーシング(11)の底部に貯留されている潤滑油が油吸込管(28)へ吸い込まれ、駆動軸(23)の内部に形成された給油通路を通って圧縮機部(50)の摺動箇所へ供給される。圧縮機部(50)へ供給された潤滑油は、主に、主軸部(24)と第1シリンダ(31)の摺動面、下側偏心部(26)と第1ピストン(32)の軸受部(32c)の摺動面、主軸部(24)と第2シリンダ(41)の摺動面、及び上側偏心部(25)と第2ピストン(42)の軸受部(42c)の摺動面へ供給される。また、圧縮機部(50)へ供給された潤滑油の一部は、第1圧縮機構(30)の圧縮室(S11,S12)や第2圧縮機構(40)の圧縮室(S21,S22)にも流入する。
圧縮機部(50)において、第1圧縮機構(30)の第1内周側空間(38)と、第2圧縮機構(40)の第2内周側空間(48)とは、何れも給油通路から圧縮機部(50)へ供給された潤滑油によって満たされている。また、圧縮機部(50)において、第1ピストン(32)とミドルプレート(51)の間に形成された第1内側背圧空間(S1)と、第2ピストン(42)とミドルプレート(51)の間に形成された第2内側背圧空間(S6)とは、何れも給油通路から圧縮機部(50)へ供給された潤滑油によって満たされている。
〈圧縮機部の動作〉
次に、圧縮機部(50)の運転動作について、図6を参照しながら説明する。ここでは、第2圧縮機構(40)の運転動作について説明する。第1圧縮機構(30)の運転動作は、基本的には第2圧縮機構(40)と同じである。なお、図6に示す回転角度は、第2圧縮機構(40)において第2揺動ブッシュ(44)が最も外側シリンダ部(41b)寄りに位置する時点を0°とし、その状態から駆動軸(23)が図6における時計方向へ回転した角度を示している。
第2圧縮機構(40)では、第2ピストン(42)のピストン本体(42b)が第2ブレード(43)に沿って往復動作(進退動作)を行うと共に揺動動作を行う。そして、第2圧縮機構(40)では、ピストン本体(42b)が外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)に対して揺動しながら公転し、圧縮室(S21,S22)へ冷媒が吸入されて圧縮される。
外側圧縮室(S21)での吸入行程、圧縮行程、及び吐出行程について説明する。
図6(A)の状態から駆動軸(23)が同図における時計方向へ回転し、ピストン本体(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面の接触位置が第2吸入通路(16a)を通過すると、第2吸入通路(16a)から外側圧縮室(S21)の低圧室(S21L)へ冷媒が吸入され始める。その後、駆動軸(23)が回転すると、低圧室(S21L)の容積が増大してゆき(図6(B),(C),…を参照)、図6(A)の状態に戻ると低圧室(S21L)の容積が最大になる。低圧室(S21L)の容積が増加している間は、第2吸入通路(16a)から低圧室(S21L)へ低圧冷媒が吸入され続ける。この行程が、外側圧縮室(S21)における吸入行程である。
一方、図6(A)の状態から駆動軸(23)が同図における時計方向へ回転し、ピストン本体(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面の接触位置が第2吸入通路(16a)を通過すると、外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)が第2吸入通路(16a)から遮断された閉空間となる。その後、駆動軸(23)が回転すると、高圧室(S21H)の容積が減少してゆき(図6(B),(C),…を参照)、高圧室(S21H)内の冷媒が圧縮され、高圧室(S21H)内の冷媒圧力が上昇してゆく。この行程が、外側圧縮室(S21)における圧縮行程である。
高圧室(S21H)内の冷媒圧力が吐出用凹部(17a)の圧力よりも幾分高くなると、リード弁である吐出弁が開き、高圧室(S21H)内の冷媒が吐出口(35)を通ってケーシング(11)の内部空間(S10)へ流出してゆく。例えば図6(F)の状態で吐出弁が開いたとすると、その後は高圧室(S21H)内の冷媒がピストン本体(42b)によって内部空間(S10)へ押し出されてゆく。そして、図6(A)の状態に戻ると、高圧室(S21H)からの冷媒の吐出が完了する。この行程が、外側圧縮室(S21)における吐出行程である。
また、図6(E)の状態から駆動軸(23)が同図における時計方向へ回転し、ピストン本体(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面の接触位置が第2吸入通路(16a)を通過すると、第2吸入通路(16a)から内側圧縮室(S22)の低圧室(S22L)へ冷媒が吸入され始める。その後、駆動軸(23)が回転すると、低圧室(S22L)の容積が増大してゆき(図6(F),(G),…を参照)、図6(E)の状態に戻ると低圧室(S22L)の容積が最大になる。低圧室(S22L)の容積が増加している間は、第2吸入通路(16a)から低圧室(S22L)へ低圧冷媒が吸入され続ける。この行程が、内側圧縮室(S22)における吸入行程である。
内側圧縮室(S22)での吸入行程、圧縮行程、及び吐出行程について説明する。
図6(E)の状態から駆動軸(23)が同図における時計方向へ回転し、ピストン本体(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面の接触位置が第2吸入通路(16a)を通過すると、内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)が第2吸入通路(16a)から遮断された閉空間となる。その後、駆動軸(23)が回転すると、高圧室(S22H)の容積が減少してゆき(図6(F),(G),…を参照)、高圧室(S22H)内の冷媒が圧縮され、高圧室(S22H)内の冷媒圧力が上昇してゆく。この行程が、内側圧縮室(S22)における圧縮行程である。
高圧室(S22H)内の冷媒圧力が吐出用凹部(17a)の圧力よりも幾分高くなると、リード弁からなる吐出弁が開き、高圧室(S22H)内の冷媒が吐出口(36)を通ってケーシング(11)の内部空間(S10)へ流出してゆく。例えば図6(B)の状態で吐出弁が開いたとすると、その後は高圧室(S22H)内の冷媒がピストン本体(42b)によって内部空間(S10)へ押し出されてゆく。そして、図6(E)の状態に戻ると、高圧室(S22H)からの冷媒の吐出が完了する。この行程が、内側圧縮室(S22)における吐出行程である。
上述したように、第1圧縮機構(30)の運転動作は、第2圧縮機構(40)と基本的に同じである。ただし、駆動軸(23)の上側偏心部(25)と下側偏心部(26)は、それぞれの偏心方向が互いに逆向きとなっている。そのため、第1圧縮機構(30)における第1ピストン(32)の回転運動と、第2圧縮機構(40)における第2ピストン(42)の回転運動とは、それぞれの位相が互いに180°ずれている。従って、第2圧縮機構(40)の第2ピストン(42)の位置が図6(A)に示す位置となる時点では、第1圧縮機構(30)の第1ピストン(32)の位置が図6(E)に示す位置となる。そして、第1圧縮機構(30)は、第1吸入通路(14a)へ流入した低圧冷媒を圧縮室(S11,S12)へ吸入して圧縮し、圧縮室(S11,S12)内で圧縮された冷媒を吐出口(35,36)から第1吐出通路(15a)へ吐出する。
−ピストンをシリンダ側に押し付ける作用−
ところで、圧縮機部(50)の各圧縮機構(30,40)では、外側圧縮室(S11,S21)内の冷媒圧力や、内側圧縮室(S12,S22)内の冷媒圧力が、シリンダ側鏡板部(31a,41a)とピストン側鏡板部(32a,42a)に作用する。このため、高圧室(S11H,S12H,S21H,S22H)内の冷媒圧力が上昇すると、ピストン(32,42)には、ピストン(32,42)をシリンダ(31,41)から引き離す方向の力が作用する。
また、圧縮機部(50)の各圧縮機構(30,40)では、内周側空間(38,48)が、ケーシング(11)の底部から駆動軸(23)の給油通路を通って流入した潤滑油で満たされている。ケーシング(11)内に貯留されている潤滑油の圧力は、第2圧縮機構(40)から吐出された高圧冷媒の圧力と実質的に等しくなっている。このため、第1内周側空間(38)の内圧と、第2内周側空間(48)の内圧とは、第2圧縮機構(40)から吐出された高圧冷媒の圧力と同程度となる。従って、各圧縮機構(30,40)のピストン(32,42)には、内周側空間(38,48)を満たす潤滑油の圧力が、ピストン(32,42)をシリンダ(31,41)から引き離す方向に作用する。
このように、各圧縮機構(30,40)のピストン(32,42)には、ピストン(32,42)をシリンダ(31,41)から遠ざける向きの力が作用する。このため、何の対策も講じなければ、ピストン(32,42)がシリンダ(31,41)から離れる方向へ移動する。その結果、ピストン本体(32b,42b)とシリンダ側鏡板部(31a,41a)の隙間や、外側シリンダ部(31b,41b)及び内側シリンダ部(31c,41c)とピストン側鏡板部(32a,42a)の隙間が拡大し、外側圧縮室(S11,S21)や内側圧縮室(S12,S22)の気密性が低下してしまう。
そこで、本実施形態の圧縮機部(50)では、第1圧縮機構(30)の背圧空間(S1,S2,S3)へ適当な圧力を導入し、第1ピストン(32)を第1シリンダ(31)側へ押し付けることによって圧縮室(S11,S12)の気密性を確保している。また、この圧縮機部(50)では、第2圧縮機構(40)の背圧空間(S6,S7)へ適当な圧力を導入し、第2ピストン(42)を第2シリンダ(41)へ押し付けることによって圧縮室(S21,S22)の気密性を確保している。
〈第2圧縮機構における押付け作用〉
先ず、第2圧縮機構(40)において第2ピストン(42)が第2シリンダ(41)側へ押し付けられる作用について、図2を参照しながら説明する。
詳しくは後述するが、第2圧縮機構(40)では、第1圧力導入路(60)が圧縮行程中の外側圧縮室(S21)を第2外側背圧空間(S7)に連通させ、第2圧力導入路(70)が圧縮行程中の内側圧縮室(S22)を第2外側背圧空間(S7)に連通させる。このため、第2圧縮機構(40)では、第1連通孔(62)と第2連通孔(72)に連通する第2外側背圧空間(S7)へ、圧縮途中の圧縮室(S21,S22)内の冷媒圧力が導入される。また、第2圧縮機構(40)では、第2外周側空間(47)が第2外側背圧空間(S7)と連通している。従って、第2圧縮機構(40)では、第2外側背圧空間(S7)及び第2外周側空間(47)の内圧が、第2圧縮機構(40)へ吸入される冷媒の圧力よりも高く、第2圧縮機構(40)から吐出される冷媒の圧力よりも低くなる。
一方、上述したように、第2圧縮機構(40)の第2内側背圧空間(S6)は、ケーシング(11)の底部から駆動軸(23)の給油通路を通って流入した潤滑油で満たされている。ケーシング(11)内に貯留されている潤滑油の圧力は、第2圧縮機構(40)から吐出された高圧冷媒の圧力と実質的に等しくなっている。このため、第2内側背圧空間(S6)の内圧は、第2圧縮機構(40)から吐出された高圧冷媒の圧力と同程度となっている。
第2圧縮機構(40)において、ピストン側鏡板部(42a)の背面のうち第2内側背圧空間(S6)に面する部分の面積は、ピストン側鏡板部(42a)のうち第2内周側空間(48)に面する部分(即ち、ピストン側鏡板部(42a)の前面のうち第2内周側空間(48)に面する部分と軸受部(42c)の突端面)の面積よりも大きくなっている。また、第2外側背圧空間(S7)の内圧は、第2圧縮機構(40)へ吸入される冷媒の圧力よりも高くなっている。従って、第2圧縮機構(40)では、“第2ピストン(42)を第2シリンダ(41)へ押し付ける力”が“第2ピストン(42)を第2シリンダ(41)から遠ざける力”よりも大きくなり、第2ピストン(42)が第2シリンダ(41)に押し付けられた状態となる。その結果、第2圧縮機構(40)では、圧縮室(S21,S22)の気密性が確保される。
また、図5に示すように、第2圧縮機構(40)では、高段側シールリング(54)の中心Or2が第2シリンダ(41)の中心Ocよりも吐出口(45,46)寄りとなっている。このため、第2圧縮機構(40)では、第2ピストン(42)の傾きが抑えられる。
この点について説明する。第2圧縮機構(40)では、吐出口(45,46)寄りに形成される高圧室(S21H,S22H)の内圧が、第2吸入通路(16a)寄りに形成される低圧室(S21L,S22L)の内圧よりも高くなる。このため、第2ピストン(42)には、第2ピストン(42)の軸心を上側偏心部(25)の軸心に対して傾ける向きのモーメントが作用する。
一方、この第2圧縮機構(40)では、高段側シールリング(54)が吐出口(45,46)寄りに配置されている。このため、第2内側背圧空間(S6)の内圧によって第2ピストン(42)に作用する力の作用点は、第2シリンダ(41)の中心Ocよりも吐出口(45,46)寄りとなる。このため、第2内側背圧空間(S6)の内圧によって生じるモーメントの向きは、圧縮室(S21,S22)の内圧によって生じるモーメントを打ち消す向きとなる。従って、第2圧縮機構(40)では、第2ピストン(42)の傾きが抑えられ、第2ピストン(42)の傾きに起因する圧縮室(S21,S22)の気密性の低下が抑制される。
〈第1圧縮機構における押付け作用〉
次に、第1圧縮機構(30)において第1ピストン(32)が第1シリンダ(31)側へ押し付けられる作用について、図2を参照しながら説明する。
第1圧縮機構(30)では、第1外周側空間(37)が低圧導入孔(39)を介して第1吸入通路(14a)と連通している。従って、第1圧縮機構(30)では、第1外周側空間(37)の内圧と、第1外周側空間(37)に連通する第1外側背圧空間(S3)の内圧とが、第1吸入通路(14a)を通って圧縮室(S11,S12)へ吸入される低圧冷媒の圧力と実質的に等しくなる。
また、第1圧縮機構(30)では、第1中間背圧空間(S2)がミドルプレート(51)の圧力導入孔(55)を介して第2圧縮機構(40)の第2外側背圧空間(S7)に連通している。上述したように、第2外側背圧空間(S7)は、第2外周側空間(47)に連通している。また、第2外周側空間(47)には、第2圧縮機構(40)の圧縮途中の圧縮室(S21,S22)内の冷媒圧力が導入されている。従って、第1中間背圧空間(S2)にも、第2圧縮機構(40)の圧縮途中の圧縮室(S21,S22)内の冷媒圧力が導入される。
一方、上述したように、第1圧縮機構(30)の第1内側背圧空間(S1)は、ケーシング(11)の底部から駆動軸(23)の給油通路を通って流入した潤滑油で満たされている。ケーシング(11)内に貯留されている潤滑油の圧力は、第2圧縮機構(40)から吐出された高圧冷媒の圧力と実質的に等しくなっている。このため、第1内側背圧空間(S1)の内圧は、第2圧縮機構(40)から吐出された高圧冷媒の圧力と同程度となっている。
第1圧縮機構(30)において、内側シールリング(52)の外径Dsrは、第1シリンダ(31)の内側シリンダ部(31c)の内径Diwi以上であり、この内側シリンダ部(31c)の外径Diwo以下である(図4を参照)。このため、ピストン側鏡板部(32a)の背面のうち第1内側背圧空間(S1)に面する部分の面積は、ピストン側鏡板部(32a)のうち第1内周側空間(38)に面する部分(即ち、ピストン側鏡板部(32a)の前面のうち第1内周側空間(38)に面する部分と軸受部(32c)の突端面)の面積と同じか、あるいはそれよりも僅かに大きい程度となっている。このため、第1圧縮機構(30)では、第1内周側空間(38)の内圧によって生じる第1ピストン(32)を第1シリンダ(31)から引き離す向きの力は、第1内側背圧空間(S1)の内圧によって生じる第1ピストン(32)を第1シリンダ(31)へ押し付ける力によって相殺される。
また、第1中間背圧空間(S2)には、第2圧縮機構(40)の圧縮途中の圧縮室(S21,S22)内の冷媒圧力が導入されている。このため、第1中間背圧空間(S2)の内圧は、第1圧縮機構(30)から吐出される冷媒の圧力よりも高くなっている。従って、第1圧縮機構(30)では、“第1ピストン(32)を第1シリンダ(31)へ押し付ける力”が“第1ピストン(32)を第1シリンダ(31)から遠ざける力”よりも大きくなり、第1ピストン(32)が第1シリンダ(31)に押し付けられた状態となる。その結果、第1圧縮機構(30)では、圧縮室(S11,S12)の気密性が確保される。
また、図3に示すように、第1圧縮機構(30)では、内側シールリング(52)及び外側シールリング(53)の中心Or1が第1シリンダ(31)の中心Ocよりも吐出口(35,36)寄りとなっている。このため、第1圧縮機構(30)では、第1ピストン(32)の傾きが抑えられる。
この点について説明する。第1圧縮機構(30)では、吐出口(35,36)寄りに形成される高圧室(S11H,S12H)の内圧が、第1吸入通路(14a)寄りに形成される低圧室(S11L,S12L)の内圧よりも高くなる。このため、第1ピストン(32)には、第1ピストン(32)の軸心を下側偏心部(26)の軸心に対して傾ける向きのモーメントが作用する。
一方、この第1圧縮機構(30)では、内側シールリング(52)及び外側シールリング(53)が吐出口(35,36)寄りに配置されている。このため、第1内側背圧空間(S1)及び第1中間背圧空間(S2)の内圧によって第1ピストン(32)に作用する力の作用点は、第1シリンダ(31)の中心Ocよりも吐出口(35,36)寄りとなる。このため、第1内側背圧空間(S1)及び第1中間背圧空間(S2)の内圧によって生じるモーメントの向きは、圧縮室(S11,S12)の内圧によって生じるモーメントを打ち消す向きとなる。従って、第1圧縮機構(30)では、第1ピストン(32)の傾きが抑えられ、第1ピストン(32)の傾きに起因する圧縮室(S11,S12)の気密性の低下が抑制される。
〈第1圧力導入路と第2圧力導入路の動作〉
上述したように、第2圧縮機構(40)では、第1圧力導入路(60)が圧縮行程中の外側圧縮室(S21)を第2外側背圧空間(S7)に連通させ、第2圧力導入路(70)が圧縮行程中の内側圧縮室(S22)を第2外側背圧空間(S7)に連通させる。ここでは、第1圧力導入路(60)及び第2圧力導入路(70)の動作について、図7〜10を参照しながら説明する。
図7は、駆動軸(23)の回転角度が0°のときの第2圧縮機構(40)を示している。この状態では、第1凹部(61)が外側圧縮室(S21)に連通し、第2凹部(71)の全体がピストン本体(42b)の突端面に覆われている。また、この状態では、ピストン本体(42b)の突端面における第1連通孔(62)の開口端が第1凹部(61)とオーバーラップせず、ピストン本体(42b)の突端面における第2連通孔(72)の開口端が第2凹部(71)とオーバーラップしない。つまり、この状態において、第2外側背圧空間(S7)は、外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)のどちらとも連通しない。
図7の状態から駆動軸(23)が僅かに回転すると、外側圧縮室(S21)での圧縮行程が開始され、高圧室(S21H)内の冷媒の圧力が次第に上昇してゆく。そして、駆動軸(23)の回転角度が70°になると、ピストン本体(42b)の突端面における第1連通孔(62)の開口端が第1凹部(61)とオーバーラップし始める。ただし、その時点において、ピストン本体(42b)の突端面における第2連通孔(72)の開口端は、依然として第2凹部(71)とオーバーラップしない。
このように、駆動軸(23)の回転角度が70°になると、第1連通孔(62)が第1凹部(61)と連通し始める。従って、この時点では、圧縮行程中の外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)が第2外側背圧空間(S7)と連通し始める。そして、駆動軸(23)の回転角度が110°になるまでの間は、第2外側背圧空間(S7)が第1凹部(61)及び第1連通孔(62)を介して外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)と連通し続ける。なお、図8は、駆動軸(23)の回転角度が90°に達した時点の第2圧縮機構(40)を示している。同図に示すように、駆動軸(23)の回転角度が70°から110°になるまでの間は、外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)だけが第2外側背圧空間(S7)に連通する。
駆動軸(23)の回転角度が110°になると、ピストン本体(42b)の突端面における第1連通孔(62)の開口端が第1凹部(61)とオーバーラップしない状態となる。そして、その後は、第2外側背圧空間(S7)が外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)のどちらとも連通しない状態が続く。
図9は、駆動軸(23)の回転角度が180°になった時点の第2圧縮機構(40)を示している。この時点においても、ピストン本体(42b)の突端面における第1連通孔(62)の開口端が第1凹部(61)とオーバーラップせず、ピストン本体(42b)の突端面における第2連通孔(72)の開口端が第2凹部(71)とオーバーラップしない。つまり、この時点においても、第2外側背圧空間(S7)が、外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)のどちらとも連通しない状態が続いている。
図9の状態から駆動軸(23)が僅かに回転すると、内側圧縮室(S22)での圧縮行程が開始され、高圧室(S22H)内の冷媒の圧力が次第に上昇してゆく。そして、駆動軸(23)の回転角度が250°になると、ピストン本体(42b)の突端面における第2連通孔(72)の開口端が第2凹部(71)とオーバーラップし始める。ただし、その時点において、ピストン本体(42b)の突端面における第1連通孔(62)の開口端は、依然として第1凹部(61)とオーバーラップしない。
このように、駆動軸(23)の回転角度が250°になると、第2連通孔(72)が第2凹部(71)と連通し始める。従って、この時点では、圧縮行程中の内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)が第2外側背圧空間(S7)と連通し始める。そして、駆動軸(23)の回転角度が290°になるまでの間は、第2外側背圧空間(S7)が第2凹部(71)及び第2連通孔(72)を介して内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)と連通し続ける。なお、図10は、駆動軸(23)の回転角度が270°になった時点の第2圧縮機構(40)を示している。同図に示すように、駆動軸(23)の回転角度が250°から290°になるまでの間は、内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)だけが第2外側背圧空間(S7)に連通する。
駆動軸(23)の回転角度が290°になると、ピストン本体(42b)の突端面における第2連通孔(72)の開口端が第2凹部(71)とオーバーラップしない状態となる。そして、その後は、第2外側背圧空間(S7)が外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)のどちらとも連通しない状態が続き、図7に示す状態に戻る。
このように、本実施形態の第2圧縮機構(40)において、外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)は、駆動軸(23)の回転角度θが70°から110°になるまでの場合に、第1凹部(61)及び第1連通孔(62)を介して第2外側背圧空間(S7)に連通する一方、内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)は、駆動軸(23)の回転角度θが250°から290°になるまでの場合に、第2凹部(71)及び第2連通孔(72)を介して第2外側背圧空間(S7)に連通する。ただし、これら圧縮室(S21,S22)が第2外側背圧空間(S7)と連通した状態になるときの駆動軸(23)の回転角度θの値は、何れも単なる一例である。
なお、図2に示すように、第2外側背圧空間(S7)と、そこに連通する第2外周側空間(47)、圧力導入孔(55)、及び第1中間背圧空間(S2)とは、一つの連続した空間となっており、この空間は実質的な閉空間となっている。このため、第2外側背圧空間(S7)が外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)のどちらとも連通しない状態において、第2外側背圧空間(S7)の圧力は、第2外側背圧空間(S7)が外側圧縮室(S21)又は内側圧縮室(S22)から遮断される直前の値とほぼ同じに保たれる。
−実施形態の効果−
本実施形態の第2圧縮機構(40)では、駆動軸(23)が一回転する間において、圧縮途中の外側圧縮室(S21)の内圧と、圧縮途中の内側圧縮室(S22)の内圧とが、第2外側背圧空間(S7)へ互いに異なる時期に導入される。このため、上述した従来の回転式圧縮機のように圧縮途中の圧縮室内圧と吐出圧力とを交互に背圧空間へ導入する場合に比べ、第2外側背圧空間(S7)へ導入される圧力の変動幅を抑えることができ、第2外側背圧空間(S7)の内圧の変動幅を縮小することができる。
従って、本実施形態によれば、駆動軸(23)が一回転する間における第2外側背圧空間(S7)の内圧の変動幅を従来よりも縮小でき、第2ピストン(42)を第2シリンダ(41)側に押し付ける力の大きさの変動幅を縮小することが可能となる。その結果、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)の気密性を高く保つことができ、これら圧縮室(S21,S22)から漏れ出す冷媒の量を低く抑えて第2圧縮機構(40)の運転効率を向上させることができる。
また、本実施形態の第2圧縮機構(40)では、第2ピストン(42)が偏心回転することによって、第1凹部(61)と第1連通孔(62)の間が断続され、第2凹部(71)と第2連通孔(72)の間が断続される。つまり、本実施形態によれば、流体を圧縮するのに必要不可欠な第2ピストン(42)の運動を利用して、圧縮途中の外側圧縮室(S21)又は内側圧縮室(S22)を間欠的に第2外側背圧空間(S7)に連通させることができる。従って、本実施形態によれば、第2圧縮機構(40)の構造の複雑化を抑えつつ、圧縮途中の外側圧縮室(S21)又は内側圧縮室(S22)の内圧を第2外側背圧空間(S7)へ導入することができる。
ここで、本実施形態の第2圧縮機構(40)では、理論上、駆動軸(23)の回転角度が0°の時点で外側圧縮室(S21)の圧縮行程が開始され、駆動軸の回転角度が180°の時点で内側圧縮室(S22)の圧縮行程が開始される。
図11に実線で示すように、圧力Psの状態で外側圧縮室(S21)へ吸入された冷媒の圧力は、駆動軸(23)が回転するにつれて次第に上昇し、駆動軸(23)の回転角度が150°前後となった時点で圧力Pdに達する。そして、この時点で吐出口(45)に設けられた吐出弁が開くと、その時点から駆動軸(23)の回転角度が360°になるまでの間は、外側圧縮室(S21)から圧力Pdの冷媒が吐出される吐出行程が行われる。
また、図11に破線で示すように、圧力Psの状態で内側圧縮室(S22)へ吸入された冷媒の圧力は、駆動軸(23)が回転するにつれて次第に上昇し、駆動軸(23)の回転角度が330°前後となった時点で圧力Pdに達する。そして、この時点で吐出口(46)に設けられた吐出弁が開くと、その時点から駆動軸(23)の回転角度が540°(180°)になるまでの間は、内側圧縮室(S22)から圧力Pdの冷媒が吐出される吐出行程が行われる。
一方、本実施形態の第2圧縮機構(40)において、駆動軸(23)の回転角度が70°から110°になるまでの期間は、第1凹部(61)及び第1連通孔(62)を介して外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)が第2外側背圧空間(S7)に連通し、圧縮されて圧力Pco1から圧力Pco2まで昇圧しつつある冷媒の圧力が第2外側背圧空間(S7)へ導入される。また、この第2圧縮機構(40)において、駆動軸(23)の回転角度が250°から290°になるまでの期間は、第2凹部(71)及び第2連通孔(72)を介して内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)が第2外側背圧空間(S7)に連通し、圧縮されて圧力Pci1から圧力Pci2まで昇圧しつつある冷媒の圧力が第2外側背圧空間(S7)へ導入される。
更に、本実施形態の第2圧縮機構(40)では、外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)が第2外側背圧空間(S7)に連通し始める時点における高圧室(S21H)の圧力Pco1が、内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)が第2外側背圧空間(S7)に連通し始める時点における高圧室(S22H)の圧力Pci1と実質的に等しく(Pco1=Pci1)、外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)が第2外側背圧空間(S7)から遮断される時点における高圧室(S21H)の圧力Pco2が、内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)が第2外側背圧空間(S7)から遮断される時点における高圧室(S22H)の圧力Pci2と実質的に等しくなっている(Pco2=Pci2)。
このように、本実施形態の第2圧縮機構(40)では、各圧縮室(S21,S22)での圧縮行程が開始された時点からの駆動軸(23)が70°に達した直後から圧縮室(S21,S22)が第2外側背圧空間(S7)に連通し始め、その時点からの駆動軸(23)の回転角度が40°になるまでの間に亘って圧縮室(S21,S22)が第2外側背圧空間(S7)に連通し続ける。このため、本実施形態によれば、Pco1(=Pci1)以上Pco2(=Pci2)以下という限られた範囲の冷媒圧力を、駆動軸(23)が一回転する間に二回も第2外側背圧空間(S7)へ導入することができる。その結果、第2外側背圧空間(S7)の内圧の変化を抑えることができ、第2ピストン(42)を第2シリンダ(41)側に押し付ける力の大きさの変動幅を、充分に縮小することができる。
更に、本実施形態の第2圧縮機構(40)では、駆動軸(23)が180°回転する毎に圧縮行程途中の圧縮室(S21,S22)内の冷媒圧力が第2外側背圧空間(S7)へ導入されることとなる。従って、本実施形態によれば、このことによっても第2外側背圧空間(S7)の内圧の変化を抑えることができ、第2ピストン(42)を第2シリンダ(41)側に押し付ける力の大きさの変動幅を、充分に縮小することができる。
−実施形態の変形例1−
上記実施形態の第2圧縮機構(40)では、外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)が第2外側背圧空間(S7)に連通し始める時点における高圧室(S21H)の圧力Pco1が、内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)が第2外側背圧空間(S7)に連通し始める時点における高圧室(S22H)の圧力Pci1と異なっていてもよい。また、この第2圧縮機構(40)では、外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)が第2外側背圧空間(S7)から遮断される時点における高圧室(S21H)の圧力Pco2が、内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)が第2外側背圧空間(S7)から遮断される時点における高圧室(S22H)の圧力Pci2と異なっていてもよい。
ただし、本変形例の第2圧縮機構(40)において、外側圧縮室(S21)が第1圧力導入路(60)を介して第2外側背圧空間(S7)と連通している期間における外側圧縮室(S21)内の流体圧Pcoの変動範囲(Pco1≦Pco≦Pco2)と、内側圧縮室(S22)が第2圧力導入路(70)を介して第2外側背圧空間(S7)と連通している期間における内側圧縮室(S22)内の流体圧Pciの変動範囲(Pci1≦Pci≦Pci2)とは、互いにオーバーラップしているのが望ましい。
具体的に、外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)が第2外側背圧空間(S7)に連通し始める時点における高圧室(S21H)の圧力Pco1は、内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)が第2外側背圧空間(S7)に連通し始める時点における高圧室(S22H)の圧力Pci1以上、内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)が第2外側背圧空間(S7)から遮断される時点における高圧室(S22H)の圧力Pci2以下に設定されるのが望ましい。
先ず、図12に示す一例では、圧力Pco1が圧力Pci1よりも高くて圧力Pci2よりも低い値に設定され、圧力Pco2が圧力Pci2よりも高い値に設定される。この一例において、ピストン本体(42b)の突端面における第1連通孔(62)の開口端は、駆動軸(23)の回転角度が90°から120°になるまでの間に亘って第1凹部(61)とオーバーラップし、ピストン本体(42b)の突端面における第2連通孔(72)の開口端は、駆動軸(23)の回転角度が250°から290°になるまでの間に亘って第2凹部(71)とオーバーラップする。つまり、この一例では、駆動軸(23)の回転角度が90°から120°になるまでの間に圧縮行程中の外側圧縮室(S21)が第2外側背圧空間(S7)と連通し、駆動軸(23)の回転角度が250°から290°になるまでの間に圧縮行程中の内側圧縮室(S22)が第2外側背圧空間(S7)と連通する。なお、この一例において、圧力Pco2は、圧力Pci2と等しくてもよいし、圧力Pci2未満であってもよい。ただし、この一例において、圧力Pco2は、必ず圧力Pco1よりも高い値となる。
次に、図13に示す一例では、圧力Pci1が圧力Pco1よりも高くて圧力Pco2よりも低い値に設定され、圧力Pci2が圧力Pco2よりも高い値に設定される。この一例において、ピストン本体(42b)の突端面における第1連通孔(62)の開口端は、駆動軸(23)の回転角度が70°から110°になるまでの間に亘って第1凹部(61)とオーバーラップし、ピストン本体(42b)の突端面における第2連通孔(72)の開口端は、駆動軸(23)の回転角度が270°から300°になるまでの間に亘って第2凹部(71)とオーバーラップする。つまり、この一例では、駆動軸(23)の回転角度が70°から110°になるまでの間に圧縮行程中の外側圧縮室(S21)が第2外側背圧空間(S7)と連通し、駆動軸(23)の回転角度が270°から300°になるまでの間に圧縮行程中の内側圧縮室(S22)が第2外側背圧空間(S7)と連通する。なお、この一例において、圧力Pci2は、圧力Pco2等しくてもよいし、圧力Pco2未満であってもよい。ただし、この一例において、圧力Pci2は、必ず圧力Pci1よりも高い値となる。
−実施形態の変形例2−
上記実施形態の圧縮機(10)は、二つの圧縮機構(30,40)を備えて二段圧縮を行うように構成されているが、圧縮機構(40)を一つだけ備えて単段圧縮を行うように構成されていてもよい。この場合、圧縮機(10)の圧縮機部(50)には、第2圧縮機構(40)だけが設けられることになる。
−実施形態の変形例3−
上記実施形態の圧縮機部(50)には、シリンダ(31,41)が固定部材として設けられてピストン(32,42)が可動部材として設けられているが、これとは逆に、ピストン(32,42)が固定部材として設けられてシリンダ(31,41)が可動部材として設けられていてもよい。この場合、圧縮機部(50)の各圧縮機構(30,40)では、ピストン(32,42)がケーシング(11)に固定される一方、シリンダ(31,41)が駆動軸(23)によって駆動されて偏心回転する。
−実施形態の変形例4−
上記実施形態の第2圧縮機構(40)は、圧縮行程中の圧縮室(S21,S22)が第2外周側空間(47)と直接に連通するように構成されていてもよい。この場合、第2ピストン(42)では、第1連通孔(62)及び第2連通孔(72)が、図2に示す形状とは異なる形状となる。つまり、本変形例の第2ピストン(42)において、第1連通孔(62)及び第2連通孔(72)は、それぞれの一端がピストン本体(42b)の突端面に開口し、それぞれの他端がピストン側鏡板部(42a)の外周側面に開口する。
−実施形態の変形例5−
上記実施形態の圧縮機(10)では、圧縮機部(50)がスクロール型流体機械によって構成されていてもよい。この場合、圧縮機部(50)には、固定スクロールが固定部材として設けられ、旋回スクロールが可動部材として設けられる。
本変形例の圧縮機部(50)では、第1凹部(61)と第2凹部(71)が固定スクロールに形成され、第1連通孔(62)と第2連通孔(72)が旋回スクロールに形成される。第1凹部(61)と第2凹部(71)のそれぞれは、固定スクロールの鏡板部の前面のうち旋回スクロールのラップの先端と摺動する部分に形成される。一方、第1連通孔(62)と第2連通孔(72)は、その一端が旋回スクロールのラップの先端面に開口し、その他端が旋回スクロールの鏡板部の背面に開口する。
本変形例の圧縮機部(50)において、旋回スクロールの鏡板部の背面側に形成された背圧空間は、旋回スクロールのラップの外側に形成された第1圧縮室と第1凹部(61)及び第1連通孔(62)を介して間欠的に連通し、旋回スクロールのラップの内側に形成された第2圧縮室と第2凹部(71)及び第2連通孔(72)を介して間欠的に連通する。
本変形例の圧縮機部(50)を構成するスクロール型流体機械としては、いわゆる非対称スクロール構造のものが適している。非対称スクロール構造のスクロール型流体機械からなる圧縮機部(50)では、固定スクロールのラップ内周側面の巻き終わりが旋回スクロールのラップの外周壁面の巻き終わり近傍にまで延長されており、対称な位置にある二つの圧縮室における圧縮行程が互いに異なる位相で進行する。従って、圧縮機部(50)を非対称スクロール構造のスクロール型流体機械で構成した場合は、圧縮行程中の二つの圧縮室内の冷媒圧力を異なる時期に背圧空間へ連通させる構造を、比較的容易に実現できる。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。