JP5521188B2 - センシングチップ、その製造方法およびその利用 - Google Patents

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Description

本発明は、センシングチップに関するものであり、より詳しくは、分子インプリント微粒子が基板に固定化されたセンシングチップに関するものである。また、本発明は、当該センシングチップの製造方法、当該センシングチップを用いる標的分子の検出または定量方法、当該センシングチップ製造用キットに関するものである。
標的分子を特異的に認識できる人工レセプター合成法の1つとして、分子インプリント法(MI法)が知られている。分子インプリント法とは、認識対象である分子(標的分子)を鋳型として、その標的分子に選択性のある結合部位(標的分子認識部位)を人工的に材料中に構築する方法である。分子インプリント法を用いて合成されるポリマーは分子インプリントポリマー(MIP)と呼ばれる。MIPによって認識される標的分子としては、除草剤、薬物、殺虫剤、タンパク質やペプチド、コレステロール、染料、炭水化物などが報告されており、MIPは標的分子認識技術として有用であることが示されている。また、基板上にMIPを備えるセンシングチップを用いて、種々の検出手段で標的分子を検出する試みがなされている。
基板上にMIPを備えるセンシングチップとしては、例えば非特許文献1に記載のものが知られている。このセンシングチップは、シアル酸をインプリントした薄膜のポリマーを有し、ビニル化した金蒸着基板上にプレポリマー溶液を垂らしてインプリントポリマーを合成するという方法で作製され、SPRスペクトル測定に用いることができる。
Kugimiya Akimitsu, Takeuchi Toshihumi(2001),Surface Plasmon resonance sensor using molecularly for detection of Sialic acid, Biosensor & Bioelectronics, 1059-1062
MIPを用いるセンシング技術は未だ発展途上の分野であり、基板上にMIPを備えるセンシングチップを用いてより高感度、高精度に標的分子を測定するためには、基板上のMIP薄膜の均一性を高める工夫や比表面積を増加させる工夫など、更なる改良が必要である。また、このようなセンシングチップを、より簡便に低コストで製造する方法の開発も望まれている。
そこで、本発明は、従来の製造方法と比較して非常に簡単に製造することができ、しかも、MIP薄膜の厚みが均一で比表面積が大きく、低分子量の標的分子を高感度に測定可能な、基板上にMIPを備えるセンシングチップを提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するために、以下の発明を包含する。
[1]基板と、標的分子またはその誘導体の単分子層と、分子インプリント法により構築された標的分子認識部位を有する分子インプリント微粒子とを備える標的分子のセンシングチップであって、前記単分子層は前記基板上に形成され、前記分子インプリント微粒子は前記単分子層に固定化されていることを特徴とするセンシングチップ。
[2]前記基板は表面に金属領域を有し、前記単分子層は該金属領域に形成されていることを特徴とする前記[1]に記載のセンシングチップ。
[3]前記分子インプリント微粒子は、動的光散乱法により測定される平均粒子径が200nm以下であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載のセンシングチップ。
[4]SPRスペクトル測定用である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のセンシングチップ。
[5]前記基板は、複数の金属領域を有することを特徴とする前記[4]に記載のセンシングチップ。
[6]複数の金属領域が、それぞれ異なる種類の金属からなることを特徴とする前記[5]に記載のセンシングチップ。
[7]前記金属領域が、複数種類の金属からなることを特徴とする前記[4]に記載のセンシングチップ。
[8]基板上に標的分子またはその誘導体の単分子層を形成する単分子層形成工程と、前記単分子層と分子インプリント微粒子懸濁液とを接触させる微粒子接触工程とを包含することを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載のセンシングチップの製造方法。
[9]前記微粒子接触工程において、前記単分子層を形成した基板をSPR測定装置にセットし、分子インプリント微粒子懸濁液をSPR測定装置の試料送液用流路に送液することを特徴とする前記[8]に記載の製造方法。
[10]標的分子を含む試料を調製する試料調製工程と、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のセンシングチップと試料中の標的分子との相互作用を測定する測定工程とを包含することを特徴とする標的分子の検出または定量方法。
[11]前記試料調製工程において、標的分子を修飾することを特徴とする前記[10]に記載の標的分子の検出または定量方法。
[12]標的分子またはその誘導体の単分子層形成用試薬、および、標的分子認識部位を有する分子インプリント微粒子を含むことを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載のセンシングチップの製造用キット。
本発明によれば、基板表面の金属薄膜にインプリント微粒子を用いて薄膜を形成するので、インプリント微粒子薄膜の膜厚サイズのコントロールが容易であり、インプリント微粒子薄膜の均一性が高く、インプリント微粒子薄膜の比表面積が大きいセンシングチップを提供することができる。そのため、高感度かつ高精度に標的分子を測定することが可能となる。また、本発明のセンシングチップは、標的分子またはその誘導体の単分子層を形成させた基板を、分子インプリント微粒子懸濁液と接触させることにより、非常に簡便かつ低コストで製造することができる。
〔センシングチップ〕
本発明のセンシングチップは、基板と、標的分子またはその誘導体の単分子層と、分子インプリント法により構築された標的分子認識部位を有する分子インプリント微粒子とを備え、単分子層が基板上に形成され、分子インプリント微粒子が当該単分子層に固定化されているものであればよい。
本発明のセンシングチップを用いて、分子インプリント微粒子が有する標的分子認識部位と標的分子との相互作用を検出することにより、試料中の標的分子を検出または定量することができる。「相互作用」とは、分子インプリント微粒子が有する標的分子認識部位が試料中の標的分子を特異的に認識し、分子インプリント微粒子と標的分子とが物理的化学的に相互作用可能なほど近接する状態になることを意味する。
本発明のセンシングチップは、種々の検出手段に好適に適用することができる。具体的には、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)法、局在プラズモン共鳴(LSPR)法、水晶振動子センサー、電気化学的方法、発光法、発色法、光導波路分光法などが挙げられる。
基板は、その表面に標的分子またはその誘導体の単分子層が形成できるものであればよい。好適な基板としては、例えば、金属基板、ガラス基板、シリコン基板、光導波路基板などが挙げられる。また、用いる検出手段に応じて、適宜基板の材質を選択することが好ましい。例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)法に適用する場合はSPR用の金基板を用いることが好ましく、局在プラズモン共鳴(LSPR)法に適用する場合は光導波路基板を用いることが好ましく、水晶振動子センサーに適用する場合は水晶振動子をセンシングチップとすることが好ましく、電気化学的方法による検出に適用する場合は電極となる金属基板(例えば、金基板)を用いることが好ましい。また、発光や発色による検出に適用する場合はガラスや石英基板、光ファイバー、光導波路基板を用いることが好ましい。
本発明のセンシングチップの基板上には、標的分子またはその誘導体の単分子層が形成されている。「標的分子またはその誘導体の単分子層」とは、標的分子またはその誘導体が基板上に自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)やラングミュアーブロジェット膜のように単分子の層を作って固定化されていることを意味する。
基板は、その表面に金属領域を有し、当該金属領域に標的分子またはその誘導体の単分子層(以下、「標的分子の単分子層」という)が形成されていることが好ましい。基板が金属領域を有することにより、当該金属領域の表面に標的分子の単分子層を自己組織化単分子膜(SAM)として容易に形成することができる。また、本発明のセンシングチップをSPRスペクトル測定に好適に用いることができる。金属領域を有する基板の構成は限定されない。例えば、基板自体が金属製であってもよく、基板表面の一部領域に金属領域を有する構成でもよい。簡便には、基板表面に、公知の方法で金属薄膜を蒸着させることにより金属領域を形成させることができる。金属薄膜を蒸着させる方法を採用すれば、金属領域のパターニングを容易に行うことができ、金属領域の表面に形成される標的分子の単分子層に固定化される分子インプリント微粒子層のパターニングも容易に行うことができる。金属領域に使用可能な金属は特に限定されず、例えば、金、銀、白金、銅、ニッケル、アルミ、鉄などが挙げられる。中でも、金、銀が好適である。
本発明のセンシングチップに用いられる分子インプリント微粒子は、分子インプリント法により構築された標的分子認識部位を有し、基板上に形成された標的分子の単分子層に固定化されるものであればよい。「固定化」とは、個々の分子インプリント微粒子が標的分子の単分子層から移動しない状態で配置されていること意味する。標的分子の単分子層に最密配置され、分子インプリント微粒子層が形成されていることが好ましい。分子インプリント微粒子の素材は、分子インプリント法を適用して標的分子認識部位が構築できるものであればよく、具体的には、例えば、有機ポリマー、無機ポリマー、金属酸化物などが挙げられる。なお、「分子インプリント法」は、認識対象である分子(標的分子)を鋳型として、その標的分子に選択性のある結合部位(標的分子認識部位)を人工的に材料中に構築する方法を意味する。
有機ポリマーを素材としたものは、標的分子あるいはその誘導体や類似化合物を鋳型分子としてラジカル重合反応時に共存させることにより得ることができる。無機ポリマーを素材にしたものは、標的分子あるいはその誘導体や類似化合物を鋳型分子としてゾル-ゲル反応時に共存させることにより得ることができる。(Lee, S.W., Ichinose, I., Kunitake, T., Enantioselective binding of amino acid derivatives onto imprinted TiO2 ultrathin films. Chem. Lett. 2002, 678-679.)金属酸化物を素材としたものは、標的分子あるいはその誘導体や類似化合物を鋳型分子として、金属酸化物膜の製膜法の1種である液相析出法を用いることで得ることができる(Feng, L., Liu, Y., Hu, J., Langmuir 2004, 20, 1786.)。
分子インプリントポリマーは、重合反応時に鋳型分子に対して相補的に相互作用する分子認識部位を、ポリマー合成と同時に構築することにより合成することができる。より詳細には、まず、標的分子あるいはその誘導体や類似化合物と結合可能な官能基および重合可能な官能基を併せ持つ機能性モノマーを標的分子と結合させて、標的分子/機能性モノマー複合体を形成させる。なお、この複合体を形成するための結合は、切断可能であれば共有結合でも非共有結合でもかまわない。次に、この標的分子/機能性モノマー複合体に架橋剤および重合開始剤を加え、重合反応を行なう。これにより鋳型分子の形状ならびに相互作用点の配置を記憶した有機高分子が得られる。最後に、得られた高分子より鋳型分子を切断除去することにより、鋳型分子と基質特異的に相互作用する分子認識部位を有する高分子(分子インプリントポリマー)が得られる。なお、分子インプリントポリマーの合成方法については、例えば、参考文献「Komiyama, M., Takeuchi, T., Mukawa, T., Asanuma, H. "Molecular Imprinting", WILEY-VCH, Weinheim, 2002.」の記載を参照すればよい。
分子インプリント微粒子を得る方法としては、機械的に粉砕して微粒子を得る方法と、核を成長させて微粒子を得る方法の2つに大別される。機械的に粉砕する場合、ハンマー式粉砕機、衝撃式粉砕機、ロール式粉砕機、ジェット気流式粉砕機などの公知の粉砕機が使用できる。得られた粉砕物(微粒子)は、必要により篩別して粒度調製することができる。
分子インプリントポリマーの微粒子を得る方法としては、例えば、沈殿重合法、分散重合法、乳化重合法、シード乳化重合法などを挙げることができる(参考文献:蒲池幹治、遠藤剛監修者、『ラジカル重合ハンドブック』(1999)エヌティーエス、G. Schmid Ed. Nanoparticles, Wiley-VCH (2004) )。本発明者は、ポリスチレン粒子をシード(種)とするシード乳化重合法により、BPA認識分子インプリントポリマー微粒子を合成している(実施例1参照)。
本発明のセンシングチップに用いられる分子インプリント微粒子は、動的光散乱法により測定される平均粒子径が200nm以下であることが好ましい。平均粒子径が200nm以下であれば分子インプリント微粒子の比表面積が大きく、基板上の標的分子単分子層と分子インプリント微粒子の標的分子結合部位がとの結合箇所が増加するため、両者が強固に結合でき、分子インプリント微粒子が標的分子の単分子層に確実に固定化されるからである。逆に、平均粒子径が200nmを超えると、一旦標的分子の単分子層に結合した分子インプリント微粒子が、標的分子の単分子層から離れてしまう場合がある。また、平均粒子径が200nmを超えると、SPRスペクトル測定が困難になる場合がある。
「動的光散乱法」とは、粒子が分散している溶液にレーザー光を当て、その散乱光変化を測定したときに検出される粒子のブラウン運動に依存した散乱光度の揺らぎに基づいて、粒子の大きさ(粒子径)を導き出す方法である。動的光散乱法に基づく粒子径測定装置は各社から市販されており(大塚電子、シスメックス、ベックマン・コールターなど)、本発明に係る検出方法に用いられる分子インプリント微粒子の平均粒子径測定に好適に用いることができる。
本発明のセンシングチップは、上述のように種々の検出手段に好適に適用することができるが、なかでもSPRスペクトル測定用に用いることが好ましい。本発明のセンシングチップをSPRスペクトル測定用に用いる場合、複数の金属領域を有する基板を用いることが好ましい。複数の金属領域は、同じ種類の金属で構成されていてもよく、それぞれ異なる金属で構成されていてもよく、一部が異なる金属で構成されていてもよい。異なる種類の金属を使用する場合、その組み合わせは特に限定されないが、同一試料に対し複数のSPRシグナルを同時に測定できる利点があるため、同一の標的分子に対して異なるSPRスペクトルが得られる組み合わせが好ましい。好ましい組み合わせとしては、例えば、金と銀などが挙げられる。金属領域と分子インプリント微粒子の組み合わせは限定されず、例えば、複数の金属領域のすべてに同一の分子インプリント微粒子が固定化されていてもよく、複数の金属領域のそれぞれに異なる種類の(標的分子が異なる)分子インプリント微粒子が固定化されていてもよい。また、分子インプリント微粒子が固定化されていない金属領域を設けてもよい。金属領域は隣接していてもよく、離れていてもよい。
基板が複数の金属領域を有することにより、SPRスペクトル測定において、高感度かつ高精度の定量を行うことができる。例えば2箇所の金属領域を設けた場合、以下(i)〜(iii)のような測定が可能となる。
(i) 2箇所の金属領域のうち、一方には標的分子の単分子層を形成せず、分子インプリント微粒子が固定化されていない金属領域とし、他方には標的分子の単分子層を形成し標的分子の分子インプリント微粒子を固定化したセンシングチップとした場合、SPRスペクトルの変化量とその他のファクター(例えば、温度など)を同時に測定することができる。また、複数チャンネルの流路を使用すれば複数サンプルの同時測定が可能になる。なお、2箇所の金属領域は同じ金属でも異なる金属でもよい。
(ii) 2箇所の金属領域は同じ金属からなり、両方の金属領域に標的分子の単分子層を形成し、一方には標的分子Aの認識部位を有する分子インプリント微粒子を固定化し、他方には標的分子Bの認識部位を有する分子インプリント微粒子を固定化したセンシングチップとした場合、選択性などの測定を同時に行うことが可能になる。
(iii) 2箇所の金属領域は異なる金属からなり、両方に標的分子の単分子層を形成し標的分子の分子インプリント微粒子を固定化したセンシングチップとした場合、金属の特性の差により一方の金属領域の反応(SPRスペクトル変化量)を基準とし他方の金属領域のSPRスペクトル変化量を測定すると定量的な測定が可能となる。
なお、金属領域は2箇所に限定されるものではなく、3箇所以上の場合も同様に標的分子を高感度かつ高精度に定量することができる。
上記(iii)に記載の効果は、2種類の金属からなる金属領域を1箇所設け、これに標的分子の単分子層を形成し、標的分子Aの分子インプリント微粒子を固定化したセンシングチップによっても実現することが可能である。このような金属領域は、例えば、二層の金属薄膜を形成させることや、二種類の金属を混合してから金属薄膜を形成させることにより設けることができる。3種類上の金属を用いる場合も同様に設けることができる。
〔センシングチップの製造方法〕
本発明のセンシングチップの製造方法は、基板上に標的分子またはその誘導体の単分子層を形成する単分子層形成工程と、前記単分子層と分子インプリント微粒子懸濁液とを接触させる微粒子接触工程とを包含するものであればよい。これら以外の工程を含んでもよく、その内容は限定されない。
単分子層形成工程では、基板上に標的分子またはその誘導体の単分子層を形成する。基板は、上述のように、その表面に標的分子の単分子層を形成できる種々の材質のものが使用可能である。単分子層形成工程において、基板上に標的分子またはその誘導体の単分子層を形成する方法は特に限定されない。例えば、表面に金属領域を有する基板を用いる場合には、公知の方法により、チオール基を導入した標的分子の自己組織化単分子膜(SAM)を当該金属領域の表面に形成させることができる。また、公知の方法により、ラングミュアーブロジェット膜を基板表面に形成させることができる。一例としてSPR用の金基板にSAMを形成する場合について説明すると、標的分子のチオール誘導体のエタノール溶液を洗浄した金基板の表面に滴下し、溶液が蒸発しないようにカバーガラスをかぶせて2〜3時間程度、またはそれ以上静置することにより、標的分子の単分子層が形成できる。
微粒子接触工程では、単分子層形成工程で形成された標的分子の単分子層と分子インプリント微粒子懸濁液とを接触させる。これにより、分子インプリント微粒子が標的分子の単分子層に固定化される。接触させる方法は限定されず、分子インプリント微粒子懸濁液中に基板を浸漬する方法や、基板表面に分子インプリント微粒子懸濁液をマウントする方法などを適宜選択すればよい。微粒子接触工程の後に、固定化されていない分子インプリント微粒子を除去するための洗浄工程を設けてもよい。本発明の製造方法を用いれば、基板上に分子インプリントを備えるセンシングチップを非常に簡便に製造することができ、センシングチップの製造に必要なコストを大幅に低減することができる。
微粒子接触工程において、単分子層形成工程で標的分子の単分子層を形成した基板をSPR測定装置にセットし、分子インプリント微粒子懸濁液をSPR測定装置の試料送液用流路に送液すれば、流路の範囲の標的分子の単分子層に分子インプリント微粒子懸濁液を接触させることができる。これによって、流路の範囲に分子インプリント微粒子を固定化することができる。この方法は、本発明のセンシングチップをSPRスペクトル測定用に使用する場合には特に有利であり、例えば、上述のように表面に標的分子のSAMを形成した金基板を、試料を測定する場合と同様にSPR測定装置にセットし、まず分子インプリント微粒子懸濁液を流路に送液して、分子インプリント微粒子を固定化、洗浄した後、そのまま流路に試料を送液すれば、直ちにSPRスペクトルの測定を行うことができる。さらに、ターゲットが異なる分子インプリント微粒子を送液すれば一枚のチップで複数のターゲットを同時に測定することができる。
〔標的分子の検出または定量方法〕
本発明の標的分子の検出または定量方法は、標的分子を含む試料を調製する試料調製工程と、本発明のセンシングチップと試料中の標的分子との相互作用を測定する測定工程と
を包含するものであればよい。これら以外の工程を含んでもよく、その内容は限定されない。
本発明の標的分子の検出または定量方法の検出対象である標的分子は特に限定されず、薬剤等の低分子化合物からタンパク質などの高分子化合物まで広範囲の分子を標的分子とすることができる。好ましい標的分子としては、生体分子が挙げられる。生体分子は生物中に存在する分子であればよい。生体分子を標的とすることにより、病気の診断、臨床検査、生物学の基礎研究などに利用可能な標的分子の検出方法を提供することができる。
試料調製工程では、標的分子を含む試料を測定手段に適した形態や濃度に調製する。試料の形態としては、液体、個体、粒状体、粉状体、流動体、組織切片などの形態を挙げることができる。試料は、例えば生体や天然物から採取することができる。生体分子を標的とする場合は、動物および植物の生体構成成分を好適に用いることができる。ヒトを含む動物由来の試料としては、例えば血液、組織液、リンパ液、脳脊髄液、膿、粘液、鼻水、喀痰、尿、糞便、腹水等の体液類、皮膚、肺、腎、粘膜、各種臓器、骨等の組織、鼻腔、気管支、皮膚、各種臓器、骨等を洗浄した後の洗浄液、透析排液などを挙げることができる。なお、試料は標的分子を含み得るものであればよい。
また、試料調製工程において、標的分子を修飾することにより測定感度を向上させることができる。修飾する物質としては、エネルギーを吸収する物質が好ましく、例えば、蛍光物質や金属微粒子などが挙げられる。金属微粒子としては金微粒子が好ましい。金微粒子がSPR信号を増感することが報告されており(例えば、L. Andrew Lyon, David J. Pena, Michael J. Natan "Surface Plasmon Resonance of Au Colloid-Modified Au Films: Particle Size Dependence" J. Phys. Chem. B, 1999, 103: 5826. や、Lin He, Michael D. Musick, Sheila R. Nicewarner, Frank G. Salinas, Stephen J. Benkovic, Michael J. Natan, Christine D. Keating "Colloidal Au-Enhanced Surface Plasmon Resonance for Ultrasensitive Detection of DNA Hybridization" JACS,2000,122:9071)、本発明のセンシングチップにおいても、銀薄膜と金微粒子との組み合わせにおいて感度の向上が確認されたからである(実施例参照)。標的分子の修飾は、共有結合、非共有結合、配位結合などにより修飾する物質を標的分子に結合させることで行うことができる。
測定工程では、本発明のセンシングチップと試料中の標的分子の相互作用を測定する。センシングチップと試料中の標的分子の相互作用とは、上述のように、センシングチップの基板上に固定化された分子インプリント微粒子の標的分子認識部位が試料中の標的分子を特異的に認識し、分子インプリント微粒子と標的分子とが物理的化学的に相互作用可能なほど近接する状態になることを意味する。また、上述のように、種々の検出手段を用いて標的分子を測定することができる。また、標的分子の標準液を用いて検量線を作成することにより、試料中の標的分子を定量することが可能となる。
本発明の標的分子の検出または定量方法は、上記本発明のセンシングチップを用いるので、高感度かつ高精度の検出または定量が可能であり、特にバックグラウンドが高くなる要因となる夾雑物を多く含む生体由来の試料や天然物由来の試料等における標的分子の検出または定量に好適である。
〔センシングチップの製造用キット〕
本発明のセンシングチップの製造用キットは、標的分子またはその誘導体の単分子層形成用試薬、および、標的分子認識部位を有する分子インプリント微粒子を含むものであればよい。これら以外の具体的なキットの構成については特に限定されるものではなく、他に必要な試薬や器具等を適宜選択してキットの構成とすればよい。例えば、基板を含むキットとしてもよく、検量線作成用に標的分子の標準液を含むキットとしてもよい。標的分子またはその誘導体の単分子層形成用試薬としては、具体的には、例えば、SAM形成用の標的分子のチオール誘導体が挙げられる。本発明のキットを用いることにより、上記本発明のセンシングチップを簡便に製造することができる。
本明細書において「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは当該材料を使用するための使用説明書を備える。使用説明書は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD−ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。
なお、キットに含まれる標的分子またはその誘導体の単分子層形成用試薬、および、標的分子認識部位を有する分子インプリント微粒子を、それぞれ単独の試薬として販売することも可能である。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1:分子インプリント微粒子固定化基板の作製〕
ビスフェノールA(BPA)認識分子インプリント微粒子を合成し、得られた分子インプリント微粒子をガラス基板上の金薄膜蒸着部位に固定化した基板を作製した。本実施例に使用した試薬は、いずれも市販品を購入した。また、分析機器としては、以下のものを使用した。すなわち、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、GILSON製のオートサンプルインジェクター(SAMPLING INJECTOR 321XL)、ポンプ(306PUMP)、検出器(UV/VIS DETECTOR 119)からなる計器にパソコンをつなぎ、計測プログラムにはUnipoint V.3.00を使用した。遠心分離機はトミー精工株式会社のSRX-201、ローターはTA-1またはTA-20を用いた。遠心エバポレーターはEYELA CVE-2000、ローターはR-2000Dを用いた。サーモミキサーはeppendorf製thermomixer comfort、シリカゲルクロマトグラフィーはWAKO Wakogel C-300HGを使用した。NMRスペクトルはJEOL JNM-LA300 FT NMR SYSTEM 300MHz、紫外・可視分光光度計はJASCO V-560 UV/VIS Spectrophotometer、動的光散乱解析装置は大塚電子DLS 7000を使用した。質量分析はApplierd Biosystems MALDI-TOF-MS Voyager-2000、走査型分析電子顕微鏡(SEM)はキーエンス VE-9800、透過型電子顕微鏡(TEM)は日立 H-7500を用いた。UV/VIS表面・界面分光測定装置はシステムインスツルメンツ SIS-5000、IRスペクトルはBIO RAD FT-IR Spectrometer FTS 135、ITCは日本シイベルヘグナー VP-ITC Micro Calorimeterを用いた。シリカゲルクロマトグラフィーにはWAKO Wakogel C-300HGを用いた。UV/オゾンクリーニングにはメイワフォーシスBIOFORCE NANOSCIENCESを用いた。蒸留水はMILLIPORE MilliQを用いた。メカニカルスターラーはEYELA MINI D.C STIRRER MDC-RT、撹拌羽根は75×22×3t mmを用いた。
(1)BPA認識分子インプリント微粒子の合成
1−1.テンプレート(鋳型)の合成
以下のスキーム1に従って、テンプレートの合成を行った。すなわち、50mlナスフラスコに3-vinylbenzaldehyde 0.254ml(2mmol)を測り取り、DCM 12mlを加えた。4,4’-diaminodiphenylmethane(4,4’-DADPM) 99.13 mg(0.5mmol)(in DCM 4ml)を加えて室温で3時間撹拌した。薄層クロマトグラフィー(TLC)(DCM)で確認したところ4,4’-DADPMのスポットが見られた(原料Rf=0.9,生成物Rf=0.7)。そこで3-vinylbenzaldehydeをさらに63.5μl(0.5mmol)加えた。1時間撹拌したところでスポットが見られなくなった。エバポレーターで溶媒を留去した後、Hxを加えると沈殿物が生成した。吸引ろ過で溶液と分離し真空乾燥した。1H-NMR(CDCl3)およびMALDI-TOF-MSで目的物1を確認した(収量:131.93 mg、収率:61.9%)。
1−2.ポリスチレンシードの合成
シード(種粒子)として用いるためのポリスチレン粒子の合成を行った。スチレンモノマーはインヒビターリムーバーにより重合禁止剤を除去したものを使用した。表1に示したレシピにしたがって、バイアル瓶にスチレンモノマーおよびジビニルベンゼン(DVB)を測りとった後、溶媒(蒸留水/アセトン=8/2 (v/v))を加えた。10分間窒素置換を行った後、ホットプレートスターラーを用いて200rpmで撹拌しながら80℃に加熱した。1gの溶媒に溶解させた開始剤(V-50)溶液を加えて24時間熱重合を行った。重合終了後、ロータリーエバポレーターによりアセトンを留去した。重量乾燥法により重合率を算出したところ(3回平均)、シード(I):77%、シード(II):76%であった。DLS測定による平均粒子径(3回平均)は、シード(I):121nm(分散度1.14)、シード(II):150nm(分散度1.15)であった。
1−3.BPA認識分子インプリント微粒子の合成
上記1−1で合成したテンプレートと、上記1−2で合成したシード(I)を用いて分子インプリント微粒子の合成を行った。表2に示したレシピに従ってテンプレート、スチレンモノマーおよびジビニルベンゼン(DVB)、または、テンプレートおよびトリエチレングリコールジメタクリラート(TEGDMA)を測りとった。そこにシード(I)を加え、ホットプレートスターラーを用いて450rpm、室温でそれぞれ撹拌した。モノマー滴の消失を確認した後、200rpmに回転数を変え、80℃に加熱した。その後、表2に示した量の蒸留水で溶解させた開始剤(V-50)水溶液を滴下し24時間熱重合を行った。重合率(3回平均)はそれぞれ83.6%、95.3%であった。DLS測定による平均粒子径(3回平均)は、IPS5(S):130nm(分散度1.03)、IPS5(T):143nm(分散度1.14)であった。
続いてイミン部位の切断を行った。500mlナスフラスコにポリマーエマルション5gを加え、蒸留水で希釈し200mlにした。1M HClを200μl加え、スターラーを用いて250rpm、室温で24時間撹拌した。その後、遠心分離(19000rpm、1h、20℃)によりポリマーを洗浄した。次に、500mlナスフラスコにイミンを切断したポリマーエマルション10gを加え、蒸留水を加えて210mlにした。1M HCl 10mlと30%H2O2 30mlを滴下し、スターラーを用いて250rpm、室温で24時間撹拌した。その後、遠心分離(19000rpm、1h、20℃)と超音波照射30分を3回行い、溶媒を1M HCl、蒸留水、メタノールの順に置換することでポリマーを洗浄し2種類のBPA認識分子インプリント微粒子IPS5(S)およびIPS5(T)を得た。
10分間UV/オゾン処理したカバーガラスに、メタノールに分散させたIPS5(S)およびIPS5(T)をそれぞれ滴下して真空乾燥させ、SEM観察を行った。図1(a)および(b)に得られた分子インプリント微粒子のSEM画像を示した。(a)がIPS5(S)であり、(b)がIPS5(T)である。図1(a)および(b)からわかるように、IPS5(S)およびIPS5(T)はメタノール中において球状を維持していることが確認された。
(2)BPA認識分子インプリント微粒子固定化基板の作製
金薄膜を蒸着した高屈折ガラス基板上にBPA−SAM(Self-Assembled Monolayer、自己組織化単分子膜)を形成させ、このBPA−SAMにBPA認識分子インプリント微粒子を固定化することにより分子インプリント微粒子固定化基板を作製した。
2−1.BPA−チオール誘導体の合成
(i) ジフェノール酸のアセチル保護(下記スキーム2-1参照)
200mlの二口ナスフラスコにジフェノール酸(1.43g, 5mmol)、K2CO3(2.76g, 20mmol)、Ac2O(1.88ml, 20mmol)を測り入れ、窒素置換した。MeCN 40mlを加え、還流下60℃で6時間撹拌した。TLC(DCM/MeOH=100/2、原料Rf=0, 生成物Rf=0.3)で原料のスポットの消失を確認し、反応を止め溶媒を留去した。H2O/DCMで抽出を行いMgSO4で脱水させた。溶媒を留去し、白色粉末を得た。1H-NMRで目的化合物1を確認した(収量:1.03g(2.8mmol)、収率:56%)。
(ii) スクシンイミド活性エステル2の合成(下記スキーム2-2参照)
100mlの二口ナスフラスコに上記化合物1(370mg, 1mmol)、WSC(575mg, 3mmol)、NHS(345.3mg, 3mmol)を測り入れ、窒素置換した。DCM 30mlを加え、室温で6.5時間撹拌したが、TLC(DCM/MeOH=100/2, 原料Rf=0.3, 生成物Rf=0.6)で原料のスポットが見られたのでWSCとNHSを1mmol再添加し2.5時間撹拌した。TLCに変化がなく、原料のスポットが見られたので反応を止め、DCM/H2O、DCM/NaHCO3 aqで抽出を行った後、シリカゲルクロマトグラフィー(DCM/MeOH=100/2)で分離精製を行い、白色粉末を得た。1H-NMRで目的化合物2を確認した(収量:336.4mg(0.72mmol)、収率:72%)。
(iii) アルキルチオール誘導体3の合成(下記スキーム2-3参照)
50mlの二口ナスフラスコに上記化合物2(116.9mg, 0.25mmol)、11-amino-1-undecanethiol(72.0mg, 0.3mmol)を測り入れ、窒素置換した。DCM 25mlを加え溶解させた後、DIEA(83μl, 0.3mmol)を添加し室温で3時間撹拌した。TLC(DCM/MeOH=100/2, 原料Rf=0.6, 生成物Rf=0.5)で化合物2のスポットの消失を確認し、反応を止めた。DCM/H2O、DCM/10%クエン酸水溶液で抽出を行いMgSO4で脱水させた。溶媒を留去し、黄色の油状の液体を得た。1H-NMRで目的化合物3を確認した(収量:123mg(0.22mmol)、収率:86%)。
(iv) BPA−チオール誘導体4の合成(下記スキーム2-4参照)
50mlナスフラスコに上記化合物3(57.0mg, 0.1mmol)を測り入れ、THF 10mlを加え溶解させた。0.25M NaOH水溶液4mlを添加し室温で4.5時間撹拌した。TLC(DCM/MeOH=100/2原料Rf=0.5, 生成物Rf=0.1)で化合物3のスポットの消失を確認し、反応を止めた。AcOEt/10%クエン酸水溶液、AcOEt/H2Oで抽出を行いMgSO4で脱水させた。溶媒を留去し、白色粉末を得た。1H-NMRで目的化合物4を確認した(収量:26.2mg(0.06mmol)、収率:56%)。
2−2.BPA−SAMの形成
10分間UV/オゾンクリーニングした金蒸着高屈折ガラス基板に、上記化合物4の1mMエタノール溶液を滴下し、カバーガラスをかぶせて一夜静置した。その後、カバーガラスをはずし、メタノールで洗浄して乾燥させた。IR−RASスペクトルを測定した結果から、基板上の金薄膜の表面にBPA−SAMが形成されていることを確認した。
2−3.BPA認識分子インプリント微粒子の固定化
(i) IPS5(S)の固定化
固形分濃度0(対照)、0.45、0.91、1.37、2.73 wt%(トルエン/メタノール=20/1(v/v))のIPS5(S)エマルションを調製した。BPA−SAMを形成した上記基板にフローセルを取り付け、流速50μl/minで溶媒(トルエン/メタノール=20/1(v/v))を10分間、IPS5(S)エマルションを8分間流し、分子インプリント微粒子を基板に結合させた。余分な微粒子を除去するために溶媒(トルエン/メタノール=20/1(v/v))を10分間流した後、SPRスペクトルを測定した。その後、メタノールを15分間流し、再度SPRスペクトルを測定した。
図2(a)および(b)にIPS5(S)エマルション送流後(メタノール送流前)のSPRスペクトルの測定結果を示した。(a)はSPRスペクトルチャートであり、(b)は各濃度におけるピーク波長のシフト値(Δλnm)をプロットしたグラフである。図2(a)および(b)に示した結果から、分子インプリント微粒子濃度の増加に伴いSPRスペクトルの長波長シフトが観察され、飽和に達することが確認された。これは、分子インプリント微粒子が基板に結合したことによる屈折率の変化を捉えたものである。さらに、メタノール送流後に測定したSPRスペクトルはメタノール送流前のSPRスペクトルと同様であり、変化が見られなかった。すなわち、極性溶媒であるメタノールを送流しても、その前後でSPRスペクトルが変化しなかったことから、極性溶媒中でも分子インプリント微粒子は基板から解離せず、分子インプリント微粒子は多価相互作用によって強固に結合(固定化)したと考えられた。
(ii) IPS5(T)の固定化
固形分濃度0(対照)、0.22、0.55、1.10、2.81 wt%(トルエン/メタノール=20/1(v/v))のIPS5(T)エマルションを調製し、上記「(i) IPS5(S)の固定化」と同様にしてSPRスペクトルを測定した。図3に各濃度におけるピーク波長のシフト値(Δλnm)をプロットしたグラフを示した。図3から明らかなように、IPS5(T)の場合もIPS5(S)の結果と同様に、分子インプリント微粒子濃度の増加に伴いSPRスペクトルの長波長シフトが観察され、飽和に達することが確認された。さらに、メタノール送流の前後でSPRスペクトルは変化しなかったことから、分子インプリント微粒子が基板に強固に結合(固定化)したと考えられた。
以上のように、基板上の金属薄膜に標的分子またはその誘導体の単分子層を形成し、当該標的分子を認識する分子インプリント微粒子のエマルションを単分子層上に送流することによって、分子インプリント微粒子固定化基板を作製できることが明らかとなった。
〔実施例2:分子インプリント微粒子固定化基板を用いたセンシング〕
本実施例では、金および銀薄膜蒸着高屈折ガラス基板上に、上記実施例1で作製した分子インプリント微粒子(IPS5(S))を固定化した基板と、標的分子であるBPAに金ナノ微粒子を結合させたBPA修飾金ナノ微粒子(以下、「BPA−AuNP」と記す)を用いて、SPRシグナルの変化によるセンシングを試みた。BPA−AuNPを用いたのは、BPAは分子量が小さいため、分子インプリント微粒子に結合してもシグナルが弱く、検出が困難であることが予想されたこと、および、金微粒子をターゲットに修飾することで1000倍の感度向上が達成できていることが知られていること(参考文献:山田淳「プラズモンナノ材料の設計と応用技術」シーエムシー、2006)に基づく。BPA−AuNPは、上記BPA−チオール誘導体4を用いて合成した。
(1)BPA認識分子インプリント微粒子固定化基板の作製
10分間UV/オゾンクリーニングした金および銀蒸着高屈折ガラス基板上に、実施例1で合成したBPA−チオール誘導体の1mMエタノール溶液を滴下し、カバーガラスをかぶせて一夜静置してBPA−SAMを形成させた。その後、カバーガラスをはずし、メタノールで洗浄して乾燥させた。この基板にフローセルを取り付け、流速50μl/minでトルエンを10分間送流した。次に、2wt%に調製したIPS5(S)(トルエン)を10分間送流して基板に結合させ、その後トルエンを10分間送流して余分なIPS5(S)を除去した。以上の操作により、BPA認識分子インプリント微粒子固定化基板を作製した。
(2)標的分子のセンシング
2−1.BPA−AuNP溶液の送流
BPA−AuNPのTHF溶液(0.05, 0.1, 0.2, 0.5 mg/ml)を調製した。上記(1)により作製したBPA認識分子インプリント微粒子固定化基板にフローセルを取り付け、BPA−AuNPのTHF溶液を10分間送流(流速50μl/min)した後、溶媒をトルエンに置換した。各濃度におけるSPRスペクトルを測定しBPA−AuNPの結合特性を評価した。
図4に、各濃度におけるピーク波長のシフト値(Δλnm)をプロットしたグラフを示した。図4から明らかなように、BPA−AuNPの濃度増加に伴い、長波長シフトが観測され飽和に達した。また、シフトの大きさを比較すると、銀(Ag)のほうが金(Au)よりも大きかった。
2−2.BPA溶液の送流
BPA−AuNPが分子インプリント微粒子に結合した状態で、BPA溶液を送流した。予め、各濃度(0.1, 0.5, 1mM)のBPA溶液を、トルエン・メタノール混合溶媒(トルエン/メタノール=20/1(v/v))を用いて調製した。上記2−1におけるBPA−AuNPの送流およびトルエンの送流に続いてBPA溶液を10分間送流(流速50μl/min)した後、溶媒をトルエンに置換し、各濃度におけるSPRスペクトルを測定した。
図5に、各濃度におけるピーク波長のシフト値(Δλnm)をプロットしたグラフを示した。図5から明らかなように、金(Au)では波長のシフトが観察されなかったが、銀(Ag)では長波長シフトが観察された。遊離のBPAの存在によりBPA−AuNPが解離することが予想されたたが、BPA−AuNPの解離による短波長シフトは観察されず、銀(Ag)では逆に長波長シフトが観察されたことから、BPA−AuNPの存在下でBPAの結合によるシグナルが増強されて検出された可能性が示唆された。
2−3.BPA−AuNP非存在下でのBPA溶液の送流
上記(1)により作製したBPA認識分子インプリント微粒子固定化基板に、上記2−2と同様に調製したBPA溶液(0.05,0.1, 0.5, 1mM)を10分間送流(流速50μl/min)した後、溶媒をトルエンに置換し、各濃度におけるSPRスペクトルを測定した。
図6に、各濃度におけるピーク波長のシフト値(Δλnm)をプロットしたグラフを示した。図6から明らかなように、BPA−AuNP非存在下では、金(Au)および銀(Ag)ともに、長波長シフトは観察されなかった。この結果より、BPAの結合によるシグナルがBPA−AuNPの存在下で増強されることが裏付けられた。また、データを示していないが、高濃度のBPA溶液(5mM〜2M)を送流しても大きな短波長シフトが観察されなかったことから、基板上のBPA(BPA−SAM)と分子インプリント微粒子(IPS5(S))との相互作用は強力であり、遊離のBPAによる分子インプリント微粒子の剥離は起こらず、基板に安定に固定化されていることが示された。
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
本発明は、公衆衛生、環境衛生、医療などの分野に利用することができる。また、試薬産業に利用することができる。
メタノール中の分子インプリント微粒子のSEM画像であり、(a)がIPS5(S)、(b)がIPS5(T)である。 各濃度の分子インプリント微粒子(IPS5(S))エマルションを送流したときのSPRスペクトルの測定結果を示す図であり、(a)はSPRスペクトルチャート、(b)は各濃度におけるピーク波長のシフト値(Δλnm)をプロットしたグラフである。 各濃度の分子インプリント微粒子(IPS5(T))エマルションを送流してSPRスペクトルを測定し、ピーク波長のシフト値(Δλnm)をプロットしたグラフである。 BPA認識分子インプリント微粒子固定化基板に各濃度のBPA修飾金ナノ微粒子(BPA−AuNP)を送流してSPRスペクトル測定し、ピーク波長のシフト値(Δλnm)をプロットしたグラフである。 BPA修飾金ナノ微粒子(BPA−AuNP)がBPA認識分子インプリント微粒子固定化基板上の分子インプリント微粒子に結合した状態で、BPA溶液を送流してSPRスペクトルを測定し、ピーク波長のシフト値(Δλnm)をプロットしたグラフである。 BPA認識分子インプリント微粒子固定化基板(BPA修飾金ナノ微粒子(BPA−AuNP)が分子インプリント微粒子に結合していない)にBPA溶液を送流してSPRスペクトルを測定し、ピーク波長のシフト値(Δλnm)をプロットしたグラフである。

Claims (7)

  1. 基板と、標的分子またはその誘導体の単分子層と、分子インプリント法により構築された標的分子認識部位を有する分子インプリント微粒子とを備える標的分子のセンシングチップであって、
    前記基板は表面に金属領域を有し、前記単分子層は該金属領域に形成され、前記分子インプリント微粒子は動的光散乱法により測定される平均粒子径が200nm以下であり、かつ、遊離の標的分子が存在しても移動しない状態で前記単分子層に固定化されており、分子インプリント微粒子と試料中の標的分子との相互作用を検出することを特徴とするセンシングチップ。
  2. SPRスペクトル測定用である請求項1に記載のセンシングチップ。
  3. 前記基板は、複数の金属領域を有することを特徴とする請求項2に記載のセンシングチップ。
  4. 複数の金属領域が、それぞれ異なる種類の金属からなることを特徴とする請求項3に記載のセンシングチップ。
  5. 少なくとも金領域および銀領域を有することを特徴とする請求項4に記載のセンシングチップ。
  6. 前記金属領域が、複数種類の金属からなることを特徴とする請求項2に記載のセンシングチップ。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のセンシングチップを用いて標的分子を検出または定量する方法であって、
    金微粒子で修飾された標的分子を含む試料を調製する試料調製工程と、
    センシングチップの基板上に固定化された分子インプリント微粒子と試料中の金微粒子で修飾された標的分子との相互作用を測定する測定工程とを包含することを特徴とする標的分子の検出または定量方法。
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