JP5517771B2 - シリコーン系軟質材料が裏装された義歯床の適合試験用分離材 - Google Patents

シリコーン系軟質材料が裏装された義歯床の適合試験用分離材 Download PDF

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Description

本発明は、シリコーン系軟質材料が裏装された義歯床において、これが患者の口腔内の適用箇所に適合するかどうかを適合試験材を用いて確認した後に、該適合試験材をシリコーン系軟質材料から剥離させ易くするために使用する分離材に関する。
クラウン、インレー、ブリッジ、義歯等の歯科用補綴物において、その患者口腔内への適用は、これが目的とする箇所に適合するかどうかを試験しながら、適合しない場合には適合するように補綴物を削る等して微調整しながら行われる。このうち義歯の適合試験は、義歯床面に適合試験材と呼ばれるシリコーン製等の硬化性ペーストを盛って患者の口腔内に適用し、該硬化性ペーストが硬化した後に取り出して義歯床面上における被覆状態を観察し、均一に薄く、全体的に下地が透けて見える状態で硬化層が形成されている場合には適合性が良好であると判定している。他方、適合試験材の硬化層において部分的に厚みムラがある場合、さらには下地が部分的に露出している場合等には適合不良と判定し、係る適合不良部分について微調整を行っている。
従来、義歯床の素材としては、レジン、金属等の比較的硬質な材料が用いられており、この様な硬質材料製の義歯床に対して上記の適合試験を行った場合には、適合試験材の硬化物は、試験後に義歯床から比較的容易に剥離させることができ、微調整作業等も円滑に行うことができる。ところで、近年、超高齢化社会の到来に伴い、上記硬質材料製のものだけでなく、歯科用補綴物としては軟質材料製のものも使用される機会が増加している。すなわち、義歯床においてもシリコーン製の軟質材料で裏装されたものが普及し始めている。ところが、この様に軟質なシリコーン製義歯床に対して、上記適合試験材を使用した場合には、試験後にその硬化物を適用箇所から剥離させようとしても、義歯床も適合試験材も同じ軟質物、しかも通常は同じシリコーン製同士になるため、一体化して強固に接着し、剥離し難くなる問題があった。
このため、予め、上記義歯床に裏装されたシリコーン製軟質材料の表面に、
1)ワセリンやココアバターの粘稠物質
2)シリコーンオイル、界面活性剤、グリセリンなどの低粘度液体
さらには、
3)最大粒子径が500μm以下の粉材
を分離材として塗布しておき、該適合試験材との剥離性を向上させることが試みられている(特許文献1参照)。
特開2001−17450号公報
しかしながら、分離材として1)粘稠物質を用いる方法は、その粘度の高さから、表面に細かい凹凸が多数存在する上記シリコーン製軟質材料の表面に薄く均一に塗布すること困難であり、厚く塗布されて適合試験の精度が低下する問題があった。特に、シリコーン製軟質材料の表面を研磨した場合等において平滑性が高い場合には、この塗布性は大きくて以下していた。また、義歯床に裏装されたシリコーン製軟質材料と適合試験材との界面に粘稠物質層が介在することになるため、偏った力がかかった場合に両部材にずれが生じ、正確な適合試験ができない危険性もあった。
また、2)低粘性液体を用いる方法は、これらはシリコーン製軟質材料に対して表面張力により弾かれ易くて均一に塗布できない結果、充分な剥離性が得られないものが多く、やはり高い精度での適合試験を困難にしていた。
他方で、3)粉材を用いる方法は、軟質材料の表面に薄くふりかけることが可能であり、適合試験の精度を低下させることなく、適合試験材に対する剥離性をかなりに向上させることができ良好であった。また、上記粉末をふりかける手法では作業環境を汚す虞があるが、有機溶媒に分散させて低粘度ペーストとしてから塗布する態様も示されており、この場合、こうした懸念も解消されるものであった。
斯様に分離材として3)粉材を用いる方法は前記問題解消にかなり有効であったが、それでも実用化を考慮すれば、剥離性の高さにおいて以下のように、さらに改善が望まれるものであった。すなわち、粉材は、ふりかける方法の場合は勿論のこと、前記有機溶媒に分散させて低粘度ペーストとして塗布する方法であっても、シリコーン製軟質材料からなる裏装材の適用箇所に薄く塗布しようとすると、どうしても粒子間に一定の間隙が形成されることが避けられなかった。したがって、形成される粉材層は厚めになり、しかも、斯様に厚めの状態で層形成させても、適合試験材のシリコーン製硬化性ペーストを盛り付けると、この粒子の間隙部分では、該硬化性ペーストは義歯床に裏装されるシリコーン製軟質材料と直接に接して硬化することが避けられなかった。その結果、両部材が、この部分で強固に接着し、その剥離性を今一歩十分には高められず、特に、高精度の適合試験の実施を困難にしていた。
以上から、シリコーン系軟質材料が裏装された義歯床の適合試験用分離材において、適用箇所に薄く、しかも該適用箇所の全面を均一に覆うように塗布可能で、優れた剥離性を発揮でき、且つ高精度の適合試験も実施できる同分離材を開発することが望まれていた。
かかる目的を達成するため、本発明者は鋭意研究した結果、有機重合体のアルコール溶液を分離材として使用すれば、このものは塗布後アルコールが乾燥することにより、シリコーン系軟質材料の裏装材面に該有機重合体層が薄く均一に形成されるものになり、正確な適合試験と、その後は確実な剥離ができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、エチルメタクリレートの単独重合体、ブチルメタクリレートの単独重合体、若しくはエチルメタクリレートとブチルメタクリレートとの共重合体から選択される常温固体状有機重合体常温固体状有機重合体のアルコール溶液からなる、シリコーン系軟質材料が裏装された義歯床の適合試験用分離材である。

本発明の分離材は、常温固体状有機重合体のアルコール溶液からなり、これをシリコーン系軟質材料の裏装材面に塗布して乾燥させると、該有機重合体の薄い均一な被膜を形成させることができる。特に、シリコーン製軟質材料の表面の平滑性が高い場合にも極めて優れた塗布性を発揮できる。その結果、高度に優れた剥離性を実現でき、且つ適合試験も高精度に実施できる。また、紛材をふりかけるのではないため、粉が散って作業環境を汚すこともなく、極めて有用である。
本発明の分離材は、常温固体状有機重合体のアルコール溶液からなる。液状であるため塗布の作業性が良く、しかも、前記有機重合体が溶解することにより粘度上昇しているため、シリコーン系軟質材料の裏装材面に塗布されても過度に弾かれることなく操作できる。したがって、塗布後、アルコールが乾燥すれば、上記裏装材の適用箇所全面を均一に覆って、有機重合体の薄い被膜を形成させることができる。
なお、義歯床の裏面は装着する口腔内形状に沿って成形されており、上記有機重合体の被膜、さらにはその上に盛り付けられて硬化される前記適合試験材も、該形状に沿って被膜形成されることになるため、その起伏に良好に係着され、適合試験中において、その作業を損なうような剥離やずれの発生は良好に抑制される。
かくして、本発明の分離材を使用すれば、義歯床の適合試験を高精度に実施でき、試験を終えた後は該適合試験材は優れた剥離性で剥がすことが可能になる。
上記分離材において、この塗布性の良さは、形態が液材であることによるが、その実現に用いる液成分としては、以下の理由からアルコール系有機溶媒が採択される。すなわち、シリコーン製軟質材料への塗布性を考慮すれば、該溶媒は有機溶媒であることが要求される。その上で、該有機溶媒には有機重合体を有意な量で溶解可能であることが求められる。しかし、この溶解性があまりにも強すぎると、塗布時に、誤って一部の液が、通常、メチルメタクリレート重合体等の(メタ)アクリレート重合体を素材に製造されている義歯床本体に付着した場合には、その表面を溶解させる虞(特に、シリコーン製軟質材料が裏装された界面に浸透すると、義歯床本体と該裏装材との接着力低下も引き起こす)も生じる。かくして、これら性状のバランスを考えれば上記アルコール系有機溶媒が適したものになる。
アルコール系有機溶媒は公知のものが特に制限なく使用することができ、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ベンジルアルコール等の有機溶媒が挙げられる。中でもシリコーン製軟質材料との相溶性の観点から、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等の炭素数が2〜5のものが好ましく、プロパノールおよびブタノールが最良である。これらの例示されるアルコールは、同一炭素数のものにおいて複数の異性体がある場合は、いずれであっても良く、例えば、プロパノールであれば、1−プロパノールやイソプロパノールであっても良く、ブタノールであれば、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノールであっても良い。これらのアルコール系有機溶媒は、2種以上を併用しても構わない。
上記アルコール系有機溶媒に溶解させる有機重合体としては、十分な被膜形成能を有する観点から、常温固体状である必要がある。ここで、常温固体状とは25℃において固体を意味し、より好適なのは15℃において固体のものである。常温で液体状の有機重合体では、シリコーン製軟質材料の塗布面に対して、被膜の形成能がなく、適合試験材の剥離効果を発揮できなくなる。
斯様な常温固体状の有機重合体は、前記アルコール系有機溶媒に有意な量で溶解可能であれば制限なく使用でき、例えば、20℃において0.2質量%以上の溶解度を有するものが好適に使用される。このような溶解性を有するかどうかは、使用するアルコール系有機溶媒の種類によっても変動し、個別に組合せて使用する必要があるが、具体的には、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、4−ブトキシカルボニルフェニルアクリレート、4−ブトキシカルボニルフェニルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、ネオペンチルアクリレート、ネオペンチルメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、N−ブチルアクリルアミドなどの(メタ)アクリレート系重合性単量体;ビニルアルコール、ビニルアセタール、ビニルアセテートなどのビニル系重合性単量体等の単独重合体、もしくはこれらの共重合体の中から採択される。
これらの有機重合体の重量平均分子量は、通常、1000〜500万であり、より好ましくは1万〜100万であるのが一般的である。
アルコール系有機溶媒に対して後述する分離材として作用させるのに好適な濃度の下限値(0.5質量%)以上の溶解度を有し、且つ剥離性能の高い均一で滑らかな被膜が形成され易い観点から、(メタ)アクリレート系重合体が好ましく、エチルメタクリレート、またはブチルメタクリレートの単独重合体、もしくはこれらの共重合体が最適である。なお、これらの有機重合体は、2種以上を併用しても構わない。
本発明において、アルコール溶液における有機重合体の濃度は特に制限されるものではないが、剥離性能を十分に発揮させ、且つ薄い厚みで被膜を形成させるのが適合試験の精度を高くする上で望まれるため、0.2〜30質量%が好ましく、更に好適には0.5〜20質量%である。このような有機重合体の濃度とした場合、シリコーン系軟質材料の裏装材面に、該有機重合体の被膜は、通常、0.1〜50μmの薄層として、より好適には 0.5〜20μmの薄層として形成される。
また、常温固体状有機重合体は、特に好ましくは、上記有機重合体の濃度の範囲において、23℃におけるCSレオメーターで測定した溶液の粘度が5〜10000cp、さらに好ましくは10〜2000cPを満足させるように含有させるのが、シリコーン製軟質材料に塗布した際に表面張力により大きく弾かれことなく、良好な塗布性のものにすることができ良好である。
本発明の分離材には、液中に、さらにアルコール不溶性微粒子を併用して含有させるのが好ましい。すなわち、斯様なアルコール不溶性微粒子を含有させることにより、上記アルコール溶液における有機重合体の濃度を好適な範囲に留めながら、その粘度を前記好適な範囲に調整することがさらに容易になり、適合試験の精度に特に優れ、且つシリコーン製軟質材料への塗布性にも特に優れたものにでき好適である。
ここで、アルコール不溶性微粒子はアルコール系有機溶媒に対して全く不溶なものだけでなく、若干量の溶解はするものも、分離材の使用時において、アルコール溶液中において粒子、好適には後述する好ましい平均粒子径のものとして残存するものであれば問題なく使用できる。
アルコール溶液中に分散するアルコール不溶性微粒子の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、塗布性や塗布層の均一性等の観点から、レーザー回折・散乱法を用いた粒度分布測定装置で測定した体積平均粒子径が1μm以下のものが好ましく、0.01〜0.1μmのものがより好ましい。
このようなアルコール不溶性微粒子の具体例は、架橋(メタ)アクリレート系重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン等の有機重合体からなる粉末;小麦粉、片栗粉等の直物性粉末;塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硅石粉末、ガラス粉末、珪藻土、シリカ、珪酸カルシウム、タルク、アルミナ、ベントナイト、ゼオライト、カオリンクレー、マイカ、石英ガラス等の無機粉末などが挙げられる。また、使用するアルコール系有機溶媒に不溶であれば、非架橋の(メタ)アクリレート系重合体であっても使用可能である。これらのうち、シリカ、特に、ヒュームドシリカを用いるのが効果的である。なお、これらのアルコール不溶性微粒子は、2種以上を併用しても構わない。
本発明において、アルコール溶液に対する、上記アルコール不溶性微粒子の含有量は、前記好適な粘度を満足する範囲内で適宜採択すれば良いが、通常は、0.1〜8質量%、好ましくは0.5〜5質量%の範囲である。
本発明の分離材には、上記各成分に加えて、必要に応じ、染料、顔料等の着色材料、香料、抗菌剤、防黴剤等を配合してもよい。また、(メタ)アクリレート系重合体の溶媒からの析出温度の低下を目的に適宜可塑剤を添加してもよい。
本発明の分離材の包装形態は、その保存安定性を考慮し、適宜決定することができ、例えば、有機重合体をアルコール系有機溶媒に溶解させないで分別包装にして、使用時に溶解させるものであっても良い。操作の簡便性を考えれば、通常は、保存時から、有機重合体のアルコール溶液に調整されているのが効率的である。
また、分離材の使用方法は、特に制限されない。本発明の分離材の流動性は良好であるため、ハケ、ヘラ、筆、あるいはローラー等で義歯床に裏装されているシリコーン製軟質材料の表面に塗布する方法を採用することができる。また、分離材は複数回塗っても良い。
分離材を塗布した後には、好ましくは、余剰な溶媒を蒸発させるために乾燥させる。乾燥の方法としては、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、あるいは、それらを組み合わせる乾燥方法があるが、自然乾燥かあるいは乾燥空気を出す気銃を用いて送風乾燥することが好ましい。
上記分離材の被膜の上に、シリコーン製硬化性ペーストからなる適合試験材を塗布し、適合試験を実施する。ここで、シリコーン製硬化性ペーストとしては、
a)末端に水酸基を持つポリジメチルシロキサン、
b)シリカ等の充填材
c)テトラエチルシリケート等のアルキルシリケート、d)スズ化合物系触媒、
を含んでなる縮合型シリコーンや、或いは
a’)ジメチルハイドロジェンポリシロキサン、
b’)シリカ等の充填材
c’)ビニルポリジメチルシロキサン、
d’)白金系触媒
を含んでなる付加型シリコーンが通常使用される。
適合試験を終えた後において、義歯床からの上記適合試験材の分離は、適合試験材の一部を手指で掴んで引き剥がすことにより実施すれば良い。また、適合試験材を分離した後において、義歯床に裏装されるシリコーン系軟質材料の表面には、分離材としての有機重合体の被膜が残留する。そうして、この有機重合体被膜は、親水性の高い重合体を使用した場合であれば水流で容易に除去でき、前記好適な有機重合体である(メタ)アクリレート重合体の場合、係る水流での除去性は多少劣るものになるが、それでも手やブラシ等で併せて軽く擦ることで簡単に除去できる。
なお、本発明において、義歯床に裏装されるシリコーン製軟質材料も前記した適合試験材と同様の縮合型シリコーンや付加型シリコーンに属するものが使用される。一般に、義歯床に裏装されるものは裏装時の厚み確保に適した高粘度、低流動性を有しており、またその硬化体は軟質裏装材の本来の目的である咬合時の痛みの緩和に適した軟性を有した硬化性シリコーンであり、前記適合試験材として使用されるものは、本来の目的である適合試験に適した高流動を有する硬化性シリコーンである。
以下、実施例および比較例を掲げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、各実施例、比較例における各種物性の評価方法は以下の通りである。
・適合試験用分離材の粘度
動的粘弾性測定装置CSレオメーター(ボーリン社製、商品名:CVO120HR)を用いて、適合試験用分離材の粘度を測定した。直径40mm、1°コーンを使用し、設定温度(プレート温度)23℃、ショアレート100(1/sec)の条件で測定した。
・適合試験用分離材の塗布性
滑沢なアクリル板上で硬化させた歯科用石膏(トクヤマデンタル製、商品名:トクソーストーン1)面上に、30×30×3mmの内空部を有する型枠を設置し、その内空部にシリコーン製硬化性ペースト(付加型シリコーン)からなる軟質裏装材(トクヤマデンタル製、商品名:ソフリライナータフ)を流し込み、その上からアクリル板で圧接し、室温にて20分で硬化させた。硬化後、上記石膏およびアクリル板から型枠を外し、型枠内の硬化体を脱型し、縦3cm横3cm(表面積9cm)で厚さ3mmのシリコーン系軟質裏装材硬化体を作製した。
次いで、ダッペンディッシュ(株式会社トクヤマデンタル社製マルチボンドII付属ダッペンディッシュを使用)の凹部に、適合試験用分離材1mlを採取し、平筆(トクヤマデンタル製、商品名:トクソー毛筆セットNo.5)の筆穂を浸して十分に吸液させた後、上記シリコーン系軟質裏装材硬化体の石膏側硬化面に1度塗りで塗布した。放置して余分な溶媒を蒸発させた後、塗布面への分離材の被覆面積を目視で観察して百分率で表し、「分離材の塗布性」として評価した。
更に、より安定した塗布性を調査する目的で、より滑沢な軟質裏装材面への分離材の塗布性を評価した。すなわち、シリコーン系軟質裏装材硬化体の石膏側硬化面に代えて、アクリル板側の滑沢な硬化面に分離材を塗布した以外は上記と同様に「分離材の塗布性」を評価した。
・分離材の塗布厚み
上記「適合試験用分離材の塗布性」試験と同様な方法により、滑沢なアクリル板上で硬化させたシリコーン系軟質裏装材の硬化体表面に分離材層を形成した後、レーザー顕微鏡(キーエンス製、商品名:カラー3Dレーザー顕微鏡)にて分離材層の塗布厚みを測定し、「分離材の塗布厚み」として評価した。尚、塗布厚みが500μmを越える場合は、目視で観察して塗布厚みを測定し、「分離材の塗布厚み」として評価した。
・適合試験材の剥離性
ポリメチルメタクリレートとメチルメタクリレートを主成分とする義歯床用レジン((株)ジーシー製、商品名:アクロン)を混和して石膏型枠中に盛り付け、80℃のお湯に3時間浸漬して重合し硬化体を作製した。その硬化体から縦4cm横4cm厚さ3mmの義歯床レジンの板を切り出した。その片面を600番の耐水研磨紙で平らに仕上げた。この義歯床レジンの硬化体における研磨面にシリコーン系軟質裏装材用の接着材(トクヤマデンタル製、商品名:ソフリライナータフプライマー)を塗布・乾燥させ、その処理面にシリコーン系軟質裏装材(トクヤマデンタル製、商品名:ソフリライナータフ)を縦1cm、横1cm、厚さ1mmの型枠を用いて流し込み、上から平滑なアクリル板で押さえながら、室温にて20分で硬化させて裏装試料片を作製した。
このようにして得られた裏装試験片のシリコーン系軟質裏装材面に、直径6mm、厚さ1mmの型枠を貼り付け適合試験用分離材の剥離試験面を規定した。その上で、ダッペンディッシュ(株式会社トクヤマデンタル社製マルチボンドII付属ダッペンディッシュを使用)の凹部に、適合試験用分離材0.1mlを採取し、少量塗布用ブラシ(トクヤマデンタル製、商品名:ミニブラシブルー)の筆穂を浸して十分に吸液させた後、上記の試験片のシリコーン系軟質裏装材面に規定した剥離試験面に1度塗りで塗布し、放置して余分な溶媒を蒸発させ分離材層を形成した。
次に、直径8mm、長さ2cmの接着試験用のアクリル棒の接着面に前記と同じシリコーン系軟質裏装材用の接着材を塗布・乾燥させた。
前記試験片に形成した分離材層面に、シリコーン製硬化性ペースト(付加型シリコーン)からなる適合試験材((株)トクヤマデンタル製、商品名:フィットテスター)を盛りつけ、その上にアクリル棒を圧接して5分間放置して接着試験体を作製した。次に万能試験機(島津製作所製、商品名:オートグラフ)にて引っ張り試験を行い、シリコーン系軟質裏装材面からの適合試験材料が剥離した面積を百分率で表し、「適合試験材の剥離性」として評価した。
・義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ
上記「適合試験材料の剥離性」試験と同様な方法により製作した裏装試験片の義歯床レジンとシリコーン系軟質裏装材の接合部位に、適合試験用分離材を筆で塗布し、分離材が乾燥する前に接合部位に先端が平坦で薄いへら(トクヤマデンタル社製スパチュラNo.001)の先端を軽く押し当て、以下の基準で「義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ」を評価した。
◎:へら先の挿入が目視では観察されない
○:へら先の挿入距離が1mm以下
×:へら先の挿入距離が1mm以上
・適合試験用分離材の除去性
上記「適合試験用分離材の塗布性」試験と同様な方法により、石膏面で硬化させたシリコーン系軟質裏装材の硬化体表面に義歯床適合試験用の分離材層を形成した後、ブラシで軽くこすりながら水洗を行い以下の基準で「適合試験用分離材の除去性」を評価した。
◎:簡単に全て除去できる
○:除去に時間がかかるが許容範囲である
×:時間をかけても全ては除去できない
実施例1
ポリブチルメタクリレート(重量平均分子量15万,25℃で固体状)を、1−プロパノールが50質量%、2−ブタノールが50質量%の混合溶媒に対して5質量%添加して溶解させ、義歯床の適合試験用分離材として使用した。この分離材のCSレオメーターで測定した23℃における粘度は100cPであった。
上記製造した分離材について、「適合試験用分離材の塗布性」、「分離材の塗布厚み」、「適合試験材の剥離性」、「義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ」および「適合試験用分離材の除去性」を各評価した。結果は、表2に示すように、「適合試験用分離材の塗布性」において、滑沢なアクリル板上で硬化させたシリコーン系軟質裏装材の面は分離材の被覆面積が65%とやや悪いものの、その他の試験の評価はいずれも優れたものであった。
実施例2〜5
実施例1において、表1に示す常温固体状有機重合体やアルコール系有機溶媒を使用するように変更した以外、該実施例1と同様にして、各適合試験用分離材を製造した。得られた各分離材について、「適合試験用分離材の塗布性」、「分離材の塗布厚み」、「適合試験材の剥離性」、「義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ」および「適合試験用分離材の除去性」を各評価した。結果は表2に示すように、「適合試験用分離材の塗布性」において、滑沢なアクリル板上で硬化させたシリコーン系軟質裏装材の面は分離材の被覆面積がそれぞれ40%、90%、95%、50%とやや悪いものの、その他の試験の評価はいずれも優れたものであった。
比較例1〜2
実施例1において、アルコール系有機溶媒である1−プロパノール(50質量%)と2−ブタノール(50質量%)との混合溶液に代えて、比較例1では酢酸エチルを、比較例2では塩化メチレンを使用するように変更した以外、該実施例1と同様にして、分離材を製造した。得られた各分離材について、「適合試験用分離材の塗布性」、「分離材の塗布厚み」、「適合試験材の剥離性」、「義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ」および「適合試験用分離材の除去性」を各評価した。結果は表2に示すように、「義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ」において、剥がれが観察され、使用に耐えないものであった。
Figure 0005517771
Figure 0005517771
比較例3
適合試験用分離材として、体積平均粒子径が20μmであり最大粒子径が500μm以下であるタルク(竹原化学工業製、ハイロトン、呼び寸法44μm)を使用した。
この粉末状の分離材を、前記「適合試験用分離材の塗布性」試験で用いたのと同じ、シリコーン系軟質裏装材の硬化体表面にふりかけた後、この硬化体を軽く叩いて余剰の粉末を除去する態様で塗布した。このふりかけ操作は粉が周囲に散って汚したものの、該シリコーン系軟質裏装材の硬化体表面には、外見上、薄くて均一な粉末層が形成されていた。
この表面に均一な粉末層が形成されたシリコーン系軟質裏装材の硬化体を用いる態様で、「適合試験用分離材の塗布性」、「分離材の塗布厚み」、「適合試験材の剥離性」、「義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ」および「適合試験用分離材の除去性」、を各評価し、結果を表3に示した。
比較例4
適合試験用分離材として、比較例3で使用したのと同じタルク1gを1−プロパノール4gに分散させたタルク分散液を使用した。このタルク分散液からなる分離材を、前記「適合試験用分離材の塗布性」試験と同様の操作で、シリコーン系軟質裏装材の硬化体表面に塗布して粉末層を形成させたところ、前記比較例3での粉が周囲に散る問題は良好に解消された。
この表面に均一な粉末層が形成されたシリコーン系軟質裏装材の硬化体を用いる態様で、「適合試験用分離材の塗布性」、「分離材の塗布厚み」、「適合試験材の剥離性」、「義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ」および「適合試験用分離材の除去性」、を各評価し、結果を表3に示した。
比較例5〜7
適合試験用分離材として、比較例5ではワセリン(和光純薬製)、比較例6では界面活性剤(日光ケミカルズ社製:商品名デカグリン)、および比較例7ではグリセリン(和光純薬製)を使用した。各分離材について、「適合試験用分離材の塗布性」、「分離材の塗布厚み」、「適合試験材の剥離性」、「義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ」および「適合試験用分離材の除去性」、を各評価し、結果を表3に示した。
Figure 0005517771
実施例6
実施例1において、ポリブチルメタクリレートの、1−プロパノール(50質量%)2−ブタノール(50質量%)混合溶液に、ヒュームドシリカ(トクヤマ製レオロシールQS102)を1質量%添加し混合し、CSレオメーターで測定した23℃における粘度が120cPの適合試験用分離材を製造した。
この分離材について、「適合試験用分離材の塗布性」、「分離材の塗布厚み」、「適合試験材の剥離性」、「義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ」および「適合試験用分離材の除去性」、を各評価し、結果を表5に示した。結果は、塗布性において、滑沢なアクリル板上で硬化させたシリコーン系軟質裏装材の面においても分離材の被覆面積が100%となり実施例1よりもさらに効果が向上し、その他の試験の評価も優れた評価が変わらず維持できていた。
実施例7〜8
実施例6において、ヒュームドシリカの添加量を表4に示した量に各変更した以外、該実施例1と同様にして、各適合試験用分離材を製造した。得られた各分離材について、「適合試験用分離材の塗布性」、「分離材の塗布厚み」、「適合試験材の剥離性」、「義歯床からのシリコーン裏装材の剥がれ」および「適合試験用分離材の除去性」、を各評価し、結果を表5に示した。結果は、各分離材ともにいずれの評価も優れたものであった。
Figure 0005517771
Figure 0005517771

Claims (4)

  1. エチルメタクリレートの単独重合体、ブチルメタクリレートの単独重合体、若しくはエチルメタクリレートとブチルメタクリレートとの共重合体から選択される常温固体状有機重合体のアルコール溶液からなる、シリコーン系軟質材料が裏装された義歯床の適合試験用分離材。
  2. アルコールが、炭素数2〜5のアルコールである請求項1に記載の義歯床の適合試験用分離材。
  3. 常温固体状有機重合体の溶解濃度が、0.2〜30質量%である請求項1または2に記載の義歯床の適合試験用分離材。
  4. アルコール不溶性微粒子が6質量%以下の濃度で分散されてなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の義歯床の適合試験用分離材。
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