JP5516489B2 - 無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法 - Google Patents

無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法 Download PDF

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Description

本発明は、無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法に関する。
道路用路盤材等として土木工事用に用いられるスラグ等の無機酸化物材料には、一定の強度が必要とされている。この強度は、無機酸化物系材料の水硬性、すなわち無機酸化物系材料と水との水和反応により確保される場合がある。エトリンガイトは、3CaO・Al23・3CaSO4・32H2Oの組成で表される水和物であり、路盤材やセメントの初期硬化に関与する化合物である。しかしながら、エトリンガイトが前記無機酸化物材料中に過剰に生成された場合、前記無機酸化物材料の水和膨張を引き起こし、施工後に変形や割れ等が生じる虞がある。
ポルトランドセメントを初めとしたセメントの初期水和反応においても、3CaO・Al23のカルシウムアルミネートが石膏由来のSO4 2-イオンと反応することにより、エトリンガイトが生成される。コンクリート中においても、水和反応エトリンガイトが遅延生成(Delayed Ettringite Formation; DEF)され、この水和反応エトリンガイトがコンクリートの膨張破壊の原因となることが広く知られている(非特許文献1を参照)。これらの水和膨張が起こる原因は、エトリンガイトの針状結晶が成長する際に、結晶の成長圧によってセメント粒子間あるいは水和物間が押し広げられ、無機酸化物材料の嵩密度が部分的に減少するためであると理解されている(非特許文献2を参照)。以上のようなエトリンガイトの生成に伴う無機酸化物材料の膨張破壊を低減することは、利用時の安全性の確保や拡販時の顧客の信頼を得るために非常に重要な取り組みであり、それに先立ってエトリンガイト自身を精度良く定量評価することが不可欠である。よって、エトリンガイドの高精度の分析法の開発が望まれている。
セメント等の無機酸化物系材料中に含まれるエトリンガイトを定量する方法として、いくつかの方法が提案されている。
まず、従来技術ではないが、先願の技術として特願2010−128149号明細書に記載の技術がある。特願2010−128149号明細書には、無機酸化物材料を、5mmよりも小さい粒度まで粗粉砕した後、150μm以下の粒度のものを篩いとり、全体に対する150μm以下の粒度の質量割合を測定した上で、前記の150μm以下の粒度の材料中に含まれるエトリンガイトの量をX線回折(X−Ray Diffraction;XRD)により定量し、それを質量割合で割り戻すことによって無機酸化物材料中のエトリンガイトを定量する方法が記載されている。
また、特許文献1には、エトリンガイトの(100)面に起因する2θ=9.1°付近のピークのXRD強度と、セメント試料100質量%に対して外数で10質量%添加した内標準物質である酸化マグネシウムの2θ=42.9°付近のピークのXRD強度と、の比を基準とした相対強度から、エトリンガイトの遅延生成を判定する方法が開示されている。
また、非特許文献3には、セメント水和物の示差熱分析(Differential Thermal Analysis;DTA)を行い、100℃を超えたあたりの温度で観測される「エトリンガイトに起因する吸熱ピーク」の強度から、セメント中のエトリンガイトを定量する方法が開示されている。また、非特許文献3には、XRD測定で観測される「エトリンガイトに起因するd=9.73Å(0.97nm)あるいは5.61Å(0.561nm)の回折ピーク」の強度から、セメント中のエトリンガイトを定量する方法が開示されている。さらに、非特許文献3には、セメントをエチレングリコール/メタノール=1/3(質量比)の混合溶媒で抽出し、抽出液中に存在するAl23の量からエトリンガイトの濃度を算出する方法が示されている。
また、非特許文献4では、以下の報告がなされている。すなわち、まず、内標準試料としてAlO(OH)を外数で10質量%添加したコンクリート試料に対して、エトリンガイト試薬の添加量を0.5〜20.0%の範囲で変化させた数水準の混合物のXRDを測定する。そして、AlO(OH)の2θ=14.48°付近のピークのXRD強度に対する「エトリンガイトの2θ=9.08°あるいは15.78°の相対的な回折強度」と、エトリンガイト試薬の添加量と、の関係を示す検量線を作成する。この検量線を用いることでエトリンガイトの濃度が未知のコンクリート中のエトリンガイトを定量する。
また、非特許文献5では、以下の報告がなされている。すなわち、まず、内標準試料としてMgOを添加した未水和の石炭灰に対して、合成エトリンガイトの添加量を5.0〜30.0%の範囲で変化させた数水準の混合物のXRDを測定する。そして、MgOの(200)面の回折強度に対する「エトリンガイトの(114)面の相対的なXRD強度」と、エトリンガイト試薬の添加量と、の関係を示す検量線を作成する。この検量線を用いることでエトリンガイトの濃度が未知の石炭灰中のエトリンガイトを定量する。
また、非特許文献6には、セメントペーストの経時変化に伴うエトリンガイトの(100)面のXRDピークの積分強度の変化から、エトリンガイトの生成量を半定量的に評価した報告がなされている。
また、非特許文献7には、合成エトリンガイトとジルコン(ZrSiO4)の混合物に内標準試料を添加してXRD測定を行うと、XRDから得られたエトリンガイトの濃度と、仕込みのエトリンガイト濃度との間に良好な直線関係が得られたという報告がなされている。
また、非特許文献8には、XRD及び熱重量分析(Thermal Gravimetry;TG)/DTAを用いて、ごみ焼却灰中のエトリンガイトの定量を行うと、両手法から得られた定量値がほぼ傾き1で比例関係となったという報告がなされている。
また、非特許文献9には、ダイナミックTGと呼ばれる通常のTGでは識別できない「隣接した温度の重量減少」を分離して検出することが可能な分析手法を用いて、エトリンガイト/モノサルフェート混合物中のエトリンガイトの比率と、エトリンガイトからの水分子の脱離に由来する65℃における重量の減少率と、の関係を示す検量線を作成すると、非常に良い直線性が得られたという報告がなされている。
しかしながら、前述の評価方法は、いくつかの問題点を有している。まず、特願2010−128149号明細書に記載の方法は、事前に測定試料を150μm以下とそれ以上の粒度に分離する必要があるため、分析作業が煩雑となる。また、この方法は、試料中のエトリンガイトは全て150μm以下の粒子の中に濃縮されているという前提の評価方法であるが、150μmより大きい粒子の中にエトリンガイトが残存している場合、エトリンガイトの定量の精度が大きく低下する懸念がある。
特許文献1に記載の方法は、高温養生を受ける前後のセメント中のエトリンガイトの相対的な濃度変化を知ることはできるが、エトリンガイトの絶対量を定量することは不可能である。
非特許文献3に記載されたDTAによる定量方法は、XRDとは異なり、エトリンガイトのわずかな組成の違いや結晶性の違いに対して、エトリンガイトの定量値が影響を受けにくいという実験結果が報告されている。しかしながら、セメントの水和反応が進行し、生成されるCSH相の比率が多くなるに従い、CSHに由来する広幅な吸熱ピークがエトリンガイトの吸熱ピークと同じような温度域に観測されることから、両者のピークが重なってしまう。このため、エトリンガイトを精度良く定量することが困難となる。また、非特許文献3に記載された混合溶媒による抽出法では、エトリンガイト試薬の抽出率が93.6〜98.4%となるため、エトリンガイトがほぼ全量抽出されるものの、モノサルフェートも同時に5.1〜8.1%抽出されてしまう。このため、精度良くエトリンガイトを定量する方法としては理想的ではない。また、この方法では、溶媒抽出という前処理が必要なため、簡便な方法とは言い難く、分析者によって測定値がばらつく可能性もある。
非特許文献4及び非特許文献5に記載の方法では、内標準試料に対するエトリンガイトの回折ピークの強度とエトリンガイト濃度との間に良好な直線関係が見られているものの、XRD法はX線が照射される試料表面の断面積によって回折強度が変化する。このため、評価したい無機酸化物材料のマトリックスの嵩密度が変化した場合、ある特定の嵩密度において作成した検量線を用いた定量方法では、大幅な測定誤差を生み出す懸念がある。
非特許文献6に記載の方法は、セメント硬化過程におけるエトリンガイトのXRD強度の変化を示しているだけであり、測定に絶対的な定量性はない。
非特許文献7に記載のXRDによる定量方法では、XRDから得られたエトリンガイトの濃度と、仕込みのエトリンガイトの濃度との間にほぼ1:1の関係が見出されている。しかしながら、エトリンガイトの濃度が20mass%以下である場合のような微量のエトリンガイトの定量値の信頼性は未知であり、先に述べたように、エトリンガイトの定量値がマトリックスの影響を受けてしまう懸念が残る。
非特許文献8に記載の方法では、XRDによるエトリンガイトの定量値と、TG/DTAによるそれとが比例関係にあることを示しているものの、両手法の絶対的な定量精度に関する実証は示されていない。
非特許文献9の方法は、純物質に対しては有効であると思われるが、スラグ中に生成された微量のエトリンガイトを定量したい場合、測定誤差が大きくなる懸念がある。また、スラグを始めとする無機酸化物材料中には様々な形態の水和物が存在していると予想されるため、非特許文献9の方法では、同じような温度域において他の水和物に起因する重量減少が観測される可能性が高い。
以上のように、特願2010−128149号明細書、特許文献1、及び非特許文献3〜8に記載されたXRDによるエトリンガイトの定量方法は汎用的に用いられている方法であるが、定量値がエトリンガイトの生成プロセスやマトリックスの種類、配向性、結晶性等の影響を受けやすいという問題がある。
特開2010−223634号公報
H.F.W.Taylor, C.Famy, K.L.Scrivener, Cem.Concr.Res., 31(2001)683. 後藤誠史, 大門正機, セメント・コンクリート, 408(1981)36. I.Odler, S.Abdul−Maula, Cem.Concr.Res., 14(1984)133. N.J.Crammond, Cem.Concr.Res., 15(1985)431. W.Schmitz, B.Heide, P.Schreiter, Mat.Sci.Forum, 79−82(1991)739. P.Yan, X.Qin, W.Yang, J.Peng, Cem.Concr.Res., 31(2001)1285. F.Goetz−Neunhoeffer, J.Neubauer, Powder Diff.,21(2006)4. 今井敏夫, 市村高央, 山田正人, 遠藤和人, 井上雄三, 第17回廃棄物学会研究発表会講演論文集,(2006)968. 白神達也, 三好良介, 菊池健也, 西部好弘, Cem.Sci.Conc.Technol., 62(2008)62.
以上のように、前述した文献で提案された技術では、精度の良いエトリンガイトの定量が不可能であった。
このような事情に鑑みて、本発明は、固体核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)法を用いることで、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの含有量を、迅速に且つ精度良く定量する方法を提供することを目的とする。更に詳しくは、エトリンガイト以外のアルミニウムを含有する化合物と無機酸化物材料との混合物の固体NMRスペクトルを測定し、エトリンガイト以外のアルミニウム含有化合物と無機酸化物材料中のエトリンガイトの固体NMRスペクトルのピークの積分強度の比率から、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの含有量を、事前処理を行うことなく迅速に且つ精度良く測定する方法を提供することを目的とする。
即ち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法であって、前記無機酸化物材料と、無機酸化物材料中には存在しないアルミニウム含有化合物である添加化合物とを固体NMR試料管の中に導入する試料導入工程と、前記固体NMR試料管の中にある、前記無機酸化物材料と前記添加化合物との混合物に対して、固体NMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルの測定を行って、前記混合物の固体NMRスペクトルを得る固体NMRスペクトル測定工程と、前記固体NMRスペクトルの前記エトリンガイトに起因するピークの波形と、前記固体NMRスペクトルの前記添加化合物に起因するピークの波形とを比較した結果に基づいて、前記無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの含有量を求めるエトリンガイト含有量導出工程と、を有することを特徴とする無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
(2)前記固体NMRスペクトルの測定は、27Alの固体NMRスペクトルの測定であり、前記エトリンガイト含有量導出工程において、前記27Alの固体NMRスペクトル測定によって得られた固体NMRスペクトルのピークの化学シフト値から、エトリンガイトに起因するピークを同定し、前記無機酸化物材料中のエトリンガイトに起因するピークと、前記添加化合物に起因するピークとの積分強度比から、前記無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの含有量を求めることを特徴とする(1)に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
(3)前記固体NMRスペクトル測定工程は、前記固体NMRスペクトルを、27Al MAS(Magic Angle Spinning)法を用いて測定することを特徴とする(1)又は(2)に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
(4)前記固体NMRスペクトル測定工程は、前記固体NMRスペクトルを、11.7 T以上の静磁場強度下で測定することを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
(5)前記固体NMRスペクトル測定工程は、前記固体NMRスペクトルを、10kHz以上の試料回転速度で測定することを特徴とする(1)〜(4)の何れかに記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
(6)前記添加化合物は、アルミニウムを含有するエトリンガイト以外の化合物であり、且つ対称性の良い結晶格子を有する化合物であることを特徴とする(1)〜(5)の何れかに記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
(7)前記添加化合物は、前記無機酸化物材料に対して1mass%以上、50mass%以下の比率で混合されることを特徴とする(1)〜(6)の何れかに記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
(8)前記添加化合物は、AlK(SO42・12H2Oであることを特徴とする(6)又は(7)に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
(9)前記固体NMRスペクトルの前記エトリンガイトに起因するピークの波形と、前記固体NMRスペクトルの前記添加化合物に起因するピークの波形とが分離していることを特徴とする(1)〜(8)の何れかに記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
(10)前記無機酸化物材料は、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、無機酸化物材料、フライアッシュ、ボトムアッシュ、コンクリート、セメントまたはそれらの2種以上の混合物であることを特徴とする(1)〜(9)の何れかに記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
本発明によれば、無機酸化物材料の初期強度発現や水和膨張の原因となるエトリンガイトの含有量を、煩雑な事前処理を行うことなく迅速に且つ精度良く測定することが可能となり、鉄鋼業やセメント製造業における利用価値は極めて高いものである。
高炉徐冷スラグaとエトリンガイトの27Al MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 高炉徐冷スラグbとAlK(SO42・12H2Oの混合物の27Al MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 高炉徐冷スラグcとAlK(SO42・12H2Oの混合物の27Al MAS NMRスペクトルの静磁場強度の依存性の一例を示す図である。 高炉徐冷スラグbとAlK(SO42・12H2Oの混合物の27Al MAS NMRスペクトルで観測されたスピニングサイドバンドの積分強度の一例を、主ピークの積分強度に加算して示す図である。 CaCO3あるいはCaO−MgO−Al23−SiO2ガラスあるいはポリエチレン/エトリンガイト混合物中の仕込みのエトリンガイト濃度(横軸)と固体27Al NMRから求めたエトリンガイト濃度(縦軸)との関係の一例を示す図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
以下に説明する本発明の実施形態では、無機酸化物材料に、当該無機酸化物材料中には存在しないアルミニウム含有化合物(添加化合物)を一定の割合で混合して固体NMR試料管に導入し、当該混合物の固体27Al NMRスペクトルの測定を行い、当該無機酸化物材料中のエトリンガイトに相当する「NMRスペクトルのピーク」と、添加化合物の「NMRスペクトルのピーク」との積分強度を比較することによって、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの定量を迅速に且つ精度良く評価でき、無機酸化物材料の管理及び利用指針とするようにしている。なお、前記の「混合物」は、無機酸化物材料とアルミニウム含有化合物とが均一に混合されているものである必要はなく、NMR試料管に共に入っていればよいことを意味する。また、無機酸化物材料としては、例えば、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、無機酸化物材料、フライアッシュ、ボトムアッシュ、コンクリート、セメント、又はそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
本発明者らは、無機酸化物材料中のエトリンガイトを定量する際には、定量誤差の原因となる測定試料の前処理等を必要とせず、得られた定量結果が属人的とならないためには、NMR測定が有効であることを見出した。
NMRでは、試料内部を含めた試料全体の構造を明らかにすることができる。NMRは、結合相手の元素や結合角といった局所構造のわずかな差異に対しても、得られる化学シフト値(周波数)が敏感である。さらに、NMRには、元素の選択性があるため、無機酸化物材料のような多成分且つ複雑な構造を持つ材料に対して、エトリンガイトのみのピークを検出できる。
本発明の実施形態の一例として、無機酸化物材料の固体27Al NMRスペクトルを測定し、当該無機酸化物材料中のエトリンガイトを定量するための方法について説明する。
本実施形態において、無機酸化物材料中のエトリンガイトの定量は、固体27Al NMRスペクトルの測定により行うことができる。Al原子の結合状態により特定の化学シフト値を与えるので、測定した無機酸化物材料の固体27Al NMRスペクトルの化学シフト値から、当該無機酸化物材料に存在するエトリンガイトの有無を特定する。
固体NMRスペクトルの測定においては、化学シフト異方性や双極子相互作用によるピークの広幅化を防ぐために、27Alマジック角回転(Magic Angle Spinning;MAS)法を適用するのが好ましい。MAS法は、回転軸が静磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜した角度で測定試料を回転させることによって、化学シフト異方性や双極子相互作用を低減するための手法である。
また、27Al核は核スピンが5/2であり、四極子核であるという特徴を持つ。四極子核の固体NMRスペクトルの測定においては、一般的に2次の核四極子相互作用の影響によって、得られるAl含有化合物のピークが非対称化・広幅化するため、ピークの検出が困難になるばかりでなく、定量精度も低下するという問題点を有する。しかしながら、本発明者らは、本実施形態で観測するエトリンガイトの結晶構造の対称性が非常に良いため、2次の核四極子相互作用の大きさの指標となる核四極子結合定数がほぼゼロとなり、固体NMRスペクトルでも、溶液NMRスペクトルで得られるような左右対称な先鋭化したピークを得ることができることに着目した。
図1の上側に、高炉徐冷スラグaの27Al MAS NMRスペクトルの一例を示す。なお、図1の横軸の単位はppmである。また、図1に示す※の下に示されているピークは、エトリンガイトのスピニングサイドバンド(Spinning Side Band;SBB)を表し、★の下に示されているピークは、スラグ骨格のスピニングサイドバンドを表す。
高炉徐冷スラグaにおいては、2つのピークが観測された。一つは60〜70ppm付近にピークトップを示す広幅且つ非対称なピーク101であり、もう一つは13.2ppmに現れる非常に先鋭化したピーク102である。
27Alの化学シフトはAl原子周りの配位数に大きく依存することが知られており、6配位Al、5配位Al、4配位Alは、それぞれ0ppm付近、30〜40ppm、50〜90ppmにピークを示す。高炉徐冷スラグaの組成においては、[AlO4-四面体のマイナス電荷を補償するカチオン種(Ca2+やMg2+)が十分に存在している(スラグ中のAl23の濃度が(CaO+MgO)の濃度よりも低い)。このことから、高炉徐冷スラグa中のAlは全て四面体(4配位)の中心に位置し、network formerとして作用していると考えられる。よって、図1の上側で観測された4配位領域の広幅なピーク101は、高炉徐冷スラグaのスラグ骨格内のAlO4四面体に帰属されるピークである。一方、13.2ppmに現れるピーク102は、図1の下側に示したエトリンガイト試薬のピーク103と完全に一致している。このことから、高炉徐冷スラグa内に生成されたエトリンガイトに由来する6配位Alのピークであることが判った。
エトリンガイトに由来するピーク102とマトリックス(高炉徐冷スラグ)に由来するピーク101とは相互に重なり合っておらず、エトリンガイトに由来するピーク102が非常に先鋭である。このことから、固体27Al NMRを用いることでエトリンガイトを定量できる可能性が十分にあることを確認した。
固体27Al NMRスペクトルの測定の結果から、無機酸化物材料中のエトリンガイトを定量する方法として、主に2つの方法が考えられる。一つ目の方法(第1の方法)として、以下の方法が考えられる。
まず、固体NMR試料管の中に封入するエトリンガイトの質量を変えて27Al MAS NMRスペクトルを複数測定し、当該複数の27Al MAS NMRスペクトルから得られるエトリンガイトのピークの積分強度と、固体NMR試料管に封入したエトリンガイトの質量とを相互に関係づける検量線を予め作成する。
次に、測定すべき無機酸化物材料の27Al MAS NMRスペクトルを測定し、得られたエトリンガイトに由来するピークの積分強度を、作成した検量線に適用して用いて固体NMR試料管内に存在するエトリンガイトの質量を決定する。
最後に、以上の方法で決定したエトリンガイトの質量を固体NMR試料管の中に封入した無機酸化物材料の全質量で割ることによって、無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量をmass%単位で求めることができる。
しかしながら、以上の処理によるエトリンガイトの定量方法では、NMRプローブ(検出器)や分光計の性能に変化があった場合、得られる定量値にかなりの誤差を生じる。NMRプローブや分光計に設置されたラジオ波を出力するためのパワーアンプは、長期間の連続的な使用により徐々に劣化していくため、同じ測定条件にてNMRスペクトルを測定した場合でも、得られるNMRスペクトルのピークの積分強度が変化する場合がある。
二つ目の方法(第2の方法)は、Alを含有するエトリンガイト以外の化合物である標準試料を、測定すべき無機酸化物材料と一定の比率で固体NMR試料管内に導入し、27Al MAS NMRスペクトルを測定する方法である。得られた27Al MAS NMRスペクトルの「『無機酸化物材料中のMgOに由来するピーク』と、『Al含有標準試料に由来するピーク』」の積分強度比をとることによって、無機酸化物材料中に含まれるエトリンガイトの含有量を決定することができる。第2の方法では、無機酸化物材料を測定する度にAl含有標準試料を当該無機酸化物材料に添加する。したがって、何らかの原因でNMR装置の状態に変化が生じた場合でも、得られる定量値は、そのことによって影響を受けないという利点がある。このため、第2の方法は、無機酸化物材料中のエトリンガイトの定量を行うのに好適である。
前記の第2の方法で無機酸化物材料中のエトリンガイトを定量する場合、予め無機酸化物材料と共に固体NMR試料管内に導入するAlを含有した標準試料としては、(1)対称性の良い結晶格子を有し、核四極子結合定数がゼロあるいはゼロに近い試料、(2)27Al MAS NMRスペクトル測定で得られるピークの化学シフト値が、エトリンガイトのピークと十分に分離している試料、の両方の条件を満たすものであるのが望ましい。前記(1)については、2次の核四極子相互作用が大きい試料の場合、前述のようにピークが極端に広幅化してピーク強度が低下するため、積分強度を求める際に測定誤差が生じやすい。定量の対象がエトリンガイトであるため、エトリンガイトと同様に対称性の良い結晶格子を有する標準試料を用いることで、測定誤差を最小限に抑えることが可能となる。また、前記(2)については、無機酸化物材料中のエトリンガイトを定量する過程において、無機酸化物材料中のエトリンガイトのピークと標準試料のピークとの積分強度比を求めることが必要であることから、両者のピークが完全に分離しており、他のいかなるピークの妨害も受けていないことが望ましい。一部でもピークの重なりがあると、波形分離処理を行う必要があるため、手順が煩雑になるばかりでなく、定量誤差の原因となりやすい。
前記の(1)及び(2)の条件を満たすAl含有標準試料としては、例えばAlK(SO42・12H2Oが挙げられる。図2に、高炉徐冷スラグbとAlK(SO42・12H2Oの混合物の27Al MAS NMRスペクトルの一例を示す。なお、図2の横軸の単位はppmである。また、図2の※の下に示されているピークは、エトリンガイトのスピニングサイドバンドを表し、★の下に示されているピークは、スラグ骨格のスピニングサイドバンドを表し、●の下に示されているピークは、AlK(SO42・12H2Oのスピニングサイドバンドを表す。
図2に示すように、AlK(SO42・12H2O中のAlは−0.2 ppmに非常に先鋭なピーク201を示す。さらに、AlK(SO42・12H2Oの27Al MAS NMRスペクトルのピークは、エトリンガイトの27Al MAS NMRスペクトルのピーク202と重なり合っていないため、標準試料として好適である。
また、測定する無機酸化物材料と共に固体NMR試料管に導入するAl含有標準試料の濃度も重要である。前記無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの濃度に対して、添加するAl含有標準試料の濃度が極端に少な過ぎたり多過ぎたりすると、27Al MAS NMRスペクトルにおける両者の積分強度比が大きく異なってしまうため、定量誤差を招く要因となる。したがって、前記Al含有標準試料は、前記無機酸化物材料に対して1mass%以上、50mass%以下の比率でNMR試料管に導入することが好ましい。なお、前記無機酸化物材料と前記Al含有標準試料は、固体27Al NMRスペクトルの測定が可能なように固体NMR試料管に導入されていれば、必ずしも充填する必要はない。
さらに、精度の高いエトリンガイトの定量値を得るためには、27Al MAS NMRスペクトルを測定する際の静磁場強度や試料回転周波数も重要である。
図3に、静磁場強度を変化させたときの高炉徐冷スラグcとAlK(SO42・12H2Oの混合物の27Al MAS NMRスペクトルの一例を示す。なお、図3の横軸の単位はppmである。また、図3の※の下に示されているピークは、エトリンガイトのスピニングサイドバンドを表し、★の下に示されているピークは、スラグ骨格のスピニングサイドバンドを表し、●の下に示されているピークは、AlK(SO42・12H2Oのスピニングサイドバンドを表す。
静磁場強度が16.4T(1H共鳴周波数換算で700MHz)のときには、図3の一番上のスペクトルに示すように、スラグ骨格(60〜70ppm付近)/エトリンガイト(13.2 ppm)/AlK(SO42・12H2O(−0.2ppm)のピーク301、302、303がそれぞれ完全に分離しており、エトリンガイトの定量を高い精度で行うことが可能となる。これに対し、静磁場強度の減少に伴い、スラグ骨格中のピーク304、305が広幅化していく様子が観測された。ここで、2次の核四極子相互作用によるピークの線幅の広がりは、静磁場強度に反比例するという事実があることから、スラグ骨格中のAlは構造の対称性が低く、2次の核四極子相互作用の影響を多分に受けており、四極子結合定数が大きいことが判る。
図3の一番下のスペクトルに示すように、静磁場強度が7.0T(1H共鳴周波数換算で300MHz)のときには、スラグ骨格のピーク305がエトリンガイトやAlK(SO42・12H2Oのピーク306、307と完全に重なり合ってしまうことが確認された。このように、エトリンガイトに由来するピーク306がマトリックスのピーク305と重なり合うと、精度の良いエトリンガイトの定量は困難となる。さらに、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの濃度が微量の場合には、エトリンガイトのピークがマトリックスのピークに埋もれてしまい、エトリンガイトのピークを見かけ上検出できない可能性も高くなる。以上の結果から、高精度にエトリンガイトを定量するためには、11.7 T(1H共鳴周波数換算で500MHz)以上の静磁場強度が必要である。
続いて、試料回転周波数の検討を行った。MAS NMRスペクトル測定においては、化学シフト異方性や双極子相互作用等の異方的相互作用の大きさに対して、試料回転周波数(試料回転速度)が十分に高くない場合、スピニングサイドバンド(SSB)と呼ばれるピークが検出される。SSBは主ピークに対して、回転周波数の整数倍離れた場所に周期的に観測されることから、試料回転周波数(試料回転速度)を高くするほど、SSBの位置(化学シフト)は主ピークから離れていく。試料回転周波数(試料回転速度)が10kHzを下回る場合、AlK(SO42・12H2Oの高周波数側の第一(主ピークに最も近い)SSBがスラグ骨格中の4配位の主ピークに重なり合ってしまうため、精度の良い定量は困難となる。したがって、試料回転周波数(試料回転速度)を10kHz以上に設定することが好ましい。
無機酸化物材料とAlK(SO42・12H2Oの混合物の27Al MAS NMRスペクトルの測定結果から、以下の(1)式によって無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量(mass%)を決定することができる。
エトリンガイト(mass %)=(Wref/Woxide)(Mett/Mref)(Sett/Sref)×50 ・・・(1)
ここで、(1)式の変数は以下の通りである。
oxide:NMR測定に供した無機酸化物材料の質量(mg)
ref:前記無機酸化物材料と共にNMR試料管に導入したAlK(SO42・12H2Oの質量(mg)
ref:AlK(SO42・12H2Oの分子量(=474.39)
ett:エトリンガイトの分子量(=1255.11)
ref27Al MAS NMRスペクトルから得られたAlK(SO42・12H2Oに由来するピークの積分強度
ett27Al MAS NMRスペクトルから得られた無機酸化物材料中のエトリンガイトに由来するピークの積分強度
ここで注意すべき点として、無機酸化物材料中のエトリンガイトの定量を精度良く行うためには、エトリンガイト及びAlK(SO42・12H2Oのピークの積分強度を求める際に、13.2ppm、−0.2ppmに観測されるそれぞれの主ピークだけでなく、それらのSSBの積分強度を全て加算する必要がある。
以上の前記第2の方法を用いることによって、溶媒抽出等の前処理を必要とせずに、測定誤差を生じる原因となる因子を低減でき、無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量を迅速に且つ精度良く決定することができる。
また、不均一な構造を有する無機酸化物材料を測定対象とする場合には、エトリンガイトの含有量の代表性を向上させるために、別の部分からサンプリングした試料中のエトリンガイトを複数回測定し、得られた定量値の平均をとることが望ましい。
なお、以上の処理は、NMR装置と、情報処理装置(例えばパーソナルコンピュータ)とを用いることにより実現することができる。
以下に、本発明の内容を具体的に説明するための実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1では、64.24mgの高炉徐冷スラグbと、2.90mgのAlK(SO42・12H2Oとを直径4.0mmの固体NMR測定用試料管に均一になるように導入した後、固体NMRプローブに挿入し、700MHz固体NMR装置(測定磁場強度=16.4T)にセットした。固体NMR測定用試料管を外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、18kHzの速度で回転させた。このときの27Al核の共鳴周波数は、182.30MHzであった。27Al NMRの化学シフト基準として、AlCl3水溶液のピークを−0.1ppmとした。27Al MAS NMRスペクトルの測定にはシングルパルス法を用い、パルスのフリップ角を18°に設定した。また、励起された核スピンを完全に緩和させるため、パルス繰り返し時間を0.5sに設定した。スペクトルの観測幅を1MHzに設定して測定した。積算回数を1280回に設定した。一つの27Al MAS NMRスペクトルを得るのに要した時間は約10分であった。表1に、蛍光X線分光法により求めた高炉徐冷スラグbの元素分析値を示す。
Figure 0005516489
以上の条件下で、高炉徐冷スラグb/AlK(SO42・12H2Oの27Al MAS NMRスペクトルを測定した。前記混合物の27Al MAS NMRスペクトルは、図2に示したものとなる。
図2において、60〜70ppm付近に高炉徐冷スラグbのスラグ骨格内に存在しているAlの主ピーク203が、13.2ppmに高炉徐冷スラグb中に存在しているエトリンガイトの主ピーク202が、−0.2ppmにAlK(SO42・12H2Oの主ピーク201がそれぞれ観測された。また、スラグ骨格/エトリンガイト/AlK(SO42・12H2Oの各主ピーク203、202、201の位置から、試料回転周波数(試料回転速度)である18kHz(=98.7 ppm)離れるごとに、SSB(随伴線)が観測された。
高炉徐冷スラグ中のエトリンガイトの定量を精度良く行うためには、これらのSSBの強度を主ピークの強度に加算して積分強度比をとる必要がある。エトリンガイト及びAlK(SO42・12H2Oの主ピークの積分強度に、それぞれの全てのSSBの積分強度を加算することで、定量性の高い結果を得た。
図4に、高炉徐冷スラグb/AlK(SO42・12H2Oの27Al MAS NMRスペクトルで観測されたエトリンガイト及びAlK(SO42・12H2Oの全てのSSBの積分強度を、ぞれぞれの主ピークの積分強度に加算したスペクトルを示す。なお、図4の横軸の単位はkHzである。
図4より、高炉徐冷スラグb中のエトリンガイトのピーク401の積分強度と、標準試料であるAlK(SO42・12H2Oのピーク402の積分強度とを求めたところ、それぞれ40.52及び60.83(単位は任意)であった。
次に、Woxide=64.24 mg、Wref=2.90 mg、Mett=1255.11、Mref=474.39、Sref=60.83、Sett=40.52のそれぞれの値を(1)式に代入したところ、高炉徐冷スラグb中のエトリンガイトの含有量は3.98 mass%と算出された。
一方、表1より、高炉徐冷スラグbに存在する全硫黄濃度は0.57mass%であることから、高炉徐冷スラグb中の硫黄全てがエトリンガイト(3CaO・Al23・3CaSO4・32H2O)として存在していると仮定した場合のエトリンガイト濃度は、7.44mass%と算出される。したがって、高炉徐冷スラグbに存在する硫黄の3.98/7.44=53.5%がエトリンガイトとして存在することが判った。
(実施例2)
実施例2では、嵩密度の異なる3種類(CaCO3あるいは50.9CaO−5.5MgO−12.5Al23−31.1SiO2ガラス(質量比)あるいはポリエチレン)のマトリックスと、エトリンガイト試薬と、AlK(SO42・12H2Oとを、直径4.0mmの固体NMR測定用試料管に均一になるように導入した後、固体NMRプローブに挿入し、700MHz固体NMR装置(測定磁場強度=16.4T)にセットした。固体NMR測定用試料管を外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、18 kHzの速度で回転させた。このときの27Al核の共鳴周波数は、182.30MHzであった。27Al NMRの化学シフト基準として、AlCl3水溶液のピークを−0.1ppmとした。27Al MAS NMRスペクトルの測定にはシングルパルス法を用い、パルスのフリップ角を18°に設定した。また、励起された核スピンを完全に緩和させるため、パルス繰り返し時間を0.5sに設定した。スペクトルの観測幅を1MHzに設定して測定した。積算回数を1280回に設定した。一つの27Al MAS NMRスペクトルを得るのに要した時間は約10分であった。表2に、固体NMR測定用試料管に導入したマトリックスの質量(Wmatrix)と、エトリンガイトの質量(Wett)と、AlK(SO42・12H2Oの質量(Wref)と、AlK(SO42・12H2OのNMRピークの積分強度(Sref)と、エトリンガイトのNMRピークの積分強度(Sett)とを示す。
Figure 0005516489
以上の条件下で、CaCO3あるいはCaO−MgO−Al23−SiO2ガラスあるいはポリエチレン/エトリンガイト/AlK(SO42・12H2Oの27Al MAS NMRスペクトルを測定した。
エトリンガイト及びAlK(SO42・12H2Oの主ピークの積分強度に、それぞれの全てのSSBの積分強度を加算することで、定量性の高い結果を得た。仕込みのエトリンガイトの濃度と27Al MAS NMRスペクトル測定から得られたエトリンガイトの濃度を表2に示した。
図5に、CaCO3あるいはCaO−MgO−Al23−SiO2ガラスあるいはポリエチレン/エトリンガイト混合物中の仕込みのエトリンガイトの濃度(横軸)と、固体27Al NMRから求めたエトリンガイトの濃度(縦軸)との関係を示す。
得られたデータはほぼ傾き1の直線上に乗っていることから、少なくともエトリンガイトの濃度が0.3〜10mass%程度の範囲内では、信頼性の高い定量値が得られることが確認できた。また、固体NMR測定用試料管への導入密度は、およそCaCO3/CaO−MgO−Al23−SiO2ガラス/ポリエチレン=2.5/2.9/1.0(ポリエチレンの密度を1.0としたときの相対値)であった。図5を見ると、ポリエチレンのような嵩密度が(相対的に)小さいマトリックスでもCaO−MgO−Al23−SiO2ガラスのような嵩密度が(相対的に)大きいマトリックスでも、得られるデータは1:1の関係を示す直線状にあることから、マトリックスの種類に依存しない一義的な定量値が得られた。以上の結果から、今回発明した固体27Al NMRによる方法を用いれば、マトリックスの種類に寄らず、精度の高いエトリンガイトの定量値を得ることが可能となることが確かめられた。
以上説明した本実施形態によれば、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの含有量を、事前処理を行うことなく迅速に且つ精度良く測定することが可能となることから、鉄鋼業やセメント製造業における利用価値は極めて高いものである。
なお、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
201、303、307 AlK(SO42・12H2Oの主ピーク
102、103、202、302、306 エトリンガイトの主ピーク
101、203、301、304、305 スラグ骨格の主ピーク
401 SSBを加算したエトリンガイトの主ピーク
402 SSBを加算したAlK(SO42・12H2Oのピーク

Claims (10)

  1. 無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法であって、
    前記無機酸化物材料と、無機酸化物材料中には存在しないアルミニウム含有化合物である添加化合物とを固体NMR試料管の中に導入する試料導入工程と、
    前記固体NMR試料管の中にある、前記無機酸化物材料と前記添加化合物との混合物に対して、固体NMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルの測定を行って、前記混合物の固体NMRスペクトルを得る固体NMRスペクトル測定工程と、
    前記固体NMRスペクトルの前記エトリンガイトに起因するピークの波形と、前記固体NMRスペクトルの前記添加化合物に起因するピークの波形とを比較した結果に基づいて、前記無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの含有量を求めるエトリンガイト含有量導出工程と、
    を有することを特徴とする無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
  2. 前記固体NMRスペクトルの測定は、27Alの固体NMRスペクトルの測定であり、
    前記エトリンガイト含有量導出工程において、前記27Alの固体NMRスペクトル測定によって得られた固体NMRスペクトルのピークの化学シフト値から、エトリンガイトに起因するピークを同定し、前記無機酸化物材料中のエトリンガイトに起因するピークと、前記添加化合物に起因するピークとの積分強度比から、前記無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの含有量を求めることを特徴とする請求項1に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
  3. 前記固体NMRスペクトル測定工程は、前記固体NMRスペクトルを、27Al MAS(Magic Angle Spinning)法を用いて測定することを特徴とする請求項1又は2に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
  4. 前記固体NMRスペクトル測定工程は、前記固体NMRスペクトルを、11.7 T以上の静磁場強度下で測定することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
  5. 前記固体NMRスペクトル測定工程は、前記固体NMRスペクトルを、10kHz以上の試料回転速度で測定することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
  6. 前記添加化合物は、アルミニウムを含有するエトリンガイト以外の化合物であり、且つ対称性の良い結晶格子を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
  7. 前記添加化合物は、前記無機酸化物材料に対して1mass%以上、50mass%以下の比率で混合されることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
  8. 前記添加化合物は、AlK(SO42・12H2Oであることを特徴とする請求項6又は7に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
  9. 前記固体NMRスペクトルの前記エトリンガイトに起因するピークの波形と、前記固体NMRスペクトルの前記添加化合物に起因するピークの波形とが分離していることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
  10. 前記無機酸化物材料は、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、無機酸化物材料、フライアッシュ、ボトムアッシュ、コンクリート、セメントまたはそれらの2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量の定量方法。
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