JP5772749B2 - 無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法 - Google Patents

無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法 Download PDF

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Description

本発明は、無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法に関する。
道路用路盤材等土木工事用に用いられるスラグ等の無機酸化物材料には、一定の強度が必要とされており、この様な強度は無機酸化物系材料の水硬性、すなわち無機酸化物系材料と水との水和反応により確保される場合がある。エトリンガイトは、3CaO・Al23・3CaSO4・32H2Oの組成で表される水和物であり、路盤材やセメントの初期硬化に関与する化合物である。しかしながら、エトリンガイトが上記無機酸化物材料中に過剰に生成した場合、水和膨張を引き起こし、施工後に変形や割れなどが生じる恐れがある。
ポルトランドセメントを初めとしたセメントの初期水和反応においても、カルシウムアルミネート3CaO・Al23が石膏由来のSO4 2-イオンと反応し、エトリンガイトを生成される。コンクリート中においても、水和反応エトリンガイトが遅延生成(Delayed Ettringite Formation; DEF)され、この水和反応エトリンガイトがコンクリートの膨張破壊の原因となることが広く知られている(非特許文献1を参照)。
これらの水和膨張が起こる原因としては、エトリンガイトの針状結晶が成長する際に、結晶の成長圧によってセメント粒子間あるいは水和物間を押し広げ、無機酸化物材料の嵩密度が部分的に減少するためであると理解されている(非特許文献2を参照)。以上のようなエトリンガイトの生成に伴う無機酸化物材料の膨張破壊を低減することは、利用時の安全性の確保や拡販時の顧客の信頼を得るために非常に重要な取り組みである。そして、エトリンガイトの生成に伴う無機酸化物材料の膨張破壊を低減することを実現するのに先立って、エトリンガイト自身を精度良く定量評価することが不可欠であり、エトリンガイトの高精度の分析法の開発が望まれている。
セメント等の無機酸化物系材料中に含まれるエトリンガイトを定量する方法として、いくつかの方法が提案されている。
特許文献1には、エトリンガイトの(100)面に起因する2θ=9.1°付近のピークのXRD強度と、セメント試料100質量%に対して外数で10質量%添加した内標準物質である酸化マグネシウムの2θ=42.9°付近のピークのXRD強度と、の比を基準とした相対強度から、エトリンガイトの遅延生成を判定する方法が開示されている。
非特許文献3には、セメント水和物の示差熱分析(Differential Thermal Analysis;DTA)を行い、100℃を超えたあたりの温度で観測される「エトリンガイトに起因する吸熱ピーク」の強度から、セメント中のエトリンガイトを定量する方法が開示されている。また、非特許文献3には、XRD測定で観測される「エトリンガイトに起因するd=9.73Å(0.97nm)あるいは5.61Å(0.561nm)の回折ピーク」の強度から、セメント中のエトリンガイトを定量する方法が開示されている。さらに、非特許文献3には、セメントをエチレングリコール/メタノール=1/3(質量比)の混合溶媒で抽出し、抽出液中に存在するAl23の量からエトリンガイトの濃度を算出する方法が示されている。
非特許文献4には、以下の報告がなされている。すなわち、まず、内標準試料としてAlO(OH)を外数で10質量%添加したコンクリート試料に対して、エトリンガイト試薬の添加量を0.5〜20.0%の範囲で変化させた数水準の混合物のXRDを測定する。そして、AlO(OH)の2θ=14.48°付近のピークのXRD強度に対する「エトリンガイトの2θ=9.08°あるいは15.78°の相対的な回折強度」と、エトリンガイト試薬の添加量と、の関係を示す検量線を作成する。この検量線を用いることでエトリンガイトの濃度が未知のコンクリート中のエトリンガイトを定量する。
非特許文献5には、以下の報告がなされている。すなわち、まず、内標準試料としてMgOを添加した未水和の石炭灰に対して、合成エトリンガイトの添加量を5.0〜30.0%の範囲で変化させた数水準の混合物のXRDを測定する。そして、MgOの(200)面の回折強度に対する「エトリンガイトの(114)面の相対的なXRD強度」と、エトリンガイト試薬の添加量と、の関係を示す検量線を作成する。この検量線を用いることでエトリンガイトの濃度が未知の石炭灰中のエトリンガイトを定量する。
また、非特許文献6には、セメントペーストの経時変化に伴うエトリンガイトの(100)面のXRDピークの積分強度の変化から、エトリンガイトの生成量を半定量的に評価した報告がなされている。
非特許文献7には、合成エトリンガイトとジルコン(ZrSiO4)の混合物に内標準試料を添加してXRD測定を行うと、XRDから得られたエトリンガイトの濃度と、仕込みのエトリンガイト濃度との間に良好な直線関係が得られたという報告がなされている。
非特許文献8には、XRD及び熱重量分析(Thermal Gravimetry;TG)/DTAを用いて、ごみ焼却灰中のエトリンガイトの定量を行うと、両手法から得られた定量値がほぼ傾き1で比例関係となったという報告がなされている。
非特許文献9には、ダイナミックTGと呼ばれる通常のTGでは識別できない「隣接した温度の質量減少」を分離して検出することが可能な分析手法を用いて、エトリンガイト/モノサルフェート混合物中のエトリンガイトの比率と、エトリンガイトからの水分子の脱離に由来する65℃における質量の減少率と、の関係を示す検量線を作成すると、非常に良い直線性が得られたという報告がなされている。
しかしながら、前述の評価方法は、いくつかの問題点を有している。
特許文献1に記載の方法は、高温養生を受ける前後のセメント中のエトリンガイトの相対的な濃度変化を知ることはできるが、エトリンガイトの絶対量を定量することは不可能である。
非特許文献3に記載されたDTAによる定量方法では、XRDとは異なり、エトリンガイトのわずかな組成の違いや結晶性の違いに対して、エトリンガイトの定量値が影響を受けにくいという実験結果が報告されている。しかしながら、セメントの水和反応が進行し、生成されるCSH(Calcium Silicate Hydrate;ケイ酸カルシウム水和物)相の比率が多くなるに従い、CSHに由来する広幅な吸熱ピークがエトリンガイトの吸熱ピークと同じような温度域に観測されることから、両者のピークが重なってしまう。このため、エトリンガイトを精度良く定量することが困難となる。また、非特許文献3に記載された混合溶媒による抽出法では、エトリンガイト試薬の抽出率が93.6〜98.4%となるため、エトリンガイトがほぼ全量抽出されるものの、モノサルフェートも同時に5.1〜8.1%抽出されてしまう。このため、精度良くエトリンガイトを定量する方法としては理想的ではない。また、この方法では、溶媒抽出という前処理が必要なため、簡便な方法とは言い難く、分析者によって測定値がばらつく可能性もある。
非特許文献4及び非特許文献5に記載の方法では、内標準試料に対するエトリンガイトの回折ピークの強度とエトリンガイト濃度との間に良好な直線関係が見られているものの、XRD法はX線が照射される試料表面の断面積によって回折強度が変化する。このため、評価したい無機酸化物材料のマトリックスの嵩密度が変化した場合、ある特定の嵩密度において作成した検量線を用いた定量方法では、大幅な測定誤差を生み出す懸念がある。
非特許文献6に記載の方法は、セメント硬化過程におけるエトリンガイトのXRD強度の変化を示しているだけであり、測定に絶対的な定量性はない。
非特許文献7に記載のXRDによる定量方法では、XRDから得られたエトリンガイトの濃度と、仕込みのエトリンガイトの濃度との間にほぼ1:1の関係が見出されている。しかしながら、エトリンガイトの濃度が20mass%以下である場合のような微量のエトリンガイトの定量値の信頼性は未知であり、先に述べたように、エトリンガイトの定量値がマトリックスの影響を受けてしまう懸念が残る。
非特許文献8に記載の方法では、XRDによるエトリンガイトの定量値と、TG/DTAによるそれとが比例関係にあることを示しているものの、両手法の絶対的な定量精度に関する実証は示されていない。
非特許文献9の方法は、純物質に対しては有効であると思われるが、スラグ中に生成された微量のエトリンガイトを定量したい場合、測定誤差が大きくなる懸念がある。また、スラグを始めとする無機酸化物材料中には様々な形態の水和物が存在していると予想されるため、非特許文献9の方法では、同じような温度域において他の水和物に起因する質量減少が観測される可能性が高い。
以上のように、特許文献1、及び非特許文献3〜8に記載されたXRDによるエトリンガイトの定量方法は汎用的に用いられている方法は、定量値がエトリンガイトの生成プロセスやマトリックスの種類、配向性、結晶性等の影響を受けやすいという問題があった。
無機酸化物系材料中に含まれるエトリンガイトの定量に加えて、生成したエトリンガイト分子中に取り込まれた水分量を決定することも重要である。非特許文献2に記載されているように、セメントの水和反応によってエトリンガイトの針状結晶が成長する際に、結晶の成長圧によってセメント粒子間あるいは水和物間を押し広げ、無機酸化物材料の嵩密度が部分的に減少し、水和膨張を引き起こすと理解されている。このように、エトリンガイトの結晶中に多量の水を取り込むことで膨張が起こることから、無機酸化物材料中に生成したエトリンガイト分子中に存在する水分量によって、水和膨張する程度が変化することは容易に想像できる。例えば、製鉄プロセスで産出した高炉徐冷スラグを路盤材として敷設した場合、その施工方法や経年変化等によってスラグ中に生成したエトリンガイトの一部が脱水することは十分に考えられる。
エトリンガイトの化学式は3CaO・Al23・3CaSO4・32H2Oで表わされ、エトリンガイト1分子中に32分子の水が存在している。また、エトリンガイトの構造は[Ca6{Al(OH)62・24H2O]6+からなるコラム部分と3SO4 2-と残りの2分子の水からなるチャンネル部分とで構成されているため(非特許文献10を参照)、示性式で表すと[Ca6{Al(OH)62・24H2O](SO43・2H2Oとなる。32分子中の26分子の水はH2Oの形で結晶水として存在しており、この26分子中のいくつかの水分子は真空または100℃以下の弱い加熱によって脱水し、結晶性が低下することが報告されている(非特許文献2を参照)。
エトリンガイト分子中の水分量を決定するためには、いくつかの方法が考えられる。非特許文献8および9で示されたTG測定において、加熱前および加熱後のエトリンガイト中の水分に由来する質量減少率を比較することによって、各加熱温度で32分子中の何分子の水が脱水したかを判定することができる。また、特許文献1、及び非特許文献3〜8に記載されたXRDを用いた方法も考えられる。
しかしながら、前述の評価方法はいくつかの問題点を有している。まず、TGを用いた方法は、評価対象がエトリンガイト純物質(化合物)である場合には有効であるが、無機酸化物材料中に一部濃度が未知のエトリンガイトが存在している場合、TGの測定で得られた質量減少率が、全て32分子の水を持つエトリンガイトからの脱水に起因するのか、あるいは一部既に脱水していたエトリンガイト分子からの更なる脱水に起因するのかを区別することができない。また、XRDを用いた方法は、非特許文献2に記載されているように、脱水したエトリンガイトは非晶質となり、X線の回折ピーク自体が得られなくなるため、一部脱水したエトリンガイト分子中の水分量を決定することは不可能である。
特開2010−223634号公報
H.F.W.Taylor,C.Famy,K.L.Scrivener,Cem.Concr.Res.,31(2001)683. 後藤誠史, 大門正機, セメント・コンクリート, 408(1981)36. I.Odler,S.Abdul−Maula,Cem.Concr.Res.,14(1984)133. N.J.Crammond,Cem.Concr.Res.,15(1985)431. W.Schmitz,B.Heide,P.Schreiter,Mat.Sci.Forum,79−82(1991)739. P.Yan,X.Qin,W.Yang,J.Peng,Cem.Concr.Res.,31(2001)1285. F.Goetz−Neunhoeffer,J.Neubauer,Powder Diff.,21(2006)4. 今井敏夫, 市村高央, 山田正人, 遠藤和人, 井上雄三, 第17回廃棄物学会研究発表会講演論文集,(2006)968. 白神達也, 三好良介, 菊池健也, 西部好弘, Cem.Sci.Conc.Technol.,62(2008)62. A.E.Moore,H.F.W.Taylor,ActaCryst.,B26(1970)386. K.D.J.Mackenzie,M.E.Smith,Multinuclear Solid−State NMR of Inorganic Materials,Pergamon(2002).
本発明者らは、無機酸化物材料を、5mmよりも小さい粒度まで粗粉砕した後、150μm以下の粒度のものを篩いとり、全体に対する150μm以下の粒度の質量割合を測定した上で、前記の150μm以下の粒度の材料中に含まれるエトリンガイトの量をX線回折(X−Ray Diffraction;XRD)により定量し、それを質量割合で割り戻すことによって無機酸化物材料中のエトリンガイトを定量することを提案している(特願2010−128149号明細書)。
また、本発明者らの方法(特願2010−128149号明細書)では、事前に測定試料を150μm以下とそれ以上の粒度に分離する必要があるため、分析作業が煩雑となる。また、この方法は、試料中のエトリンガイトは全て150μm以下の粒子の中に濃縮されているという前提の評価方法であるが、150μmより大きい粒子の中にエトリンガイトが残存している場合、エトリンガイトの定量の精度が大きく低下する懸念がある。
また、本発明者らの方法(特願2010−128149号明細書)は、定量値がエトリンガイトの生成プロセスやマトリックスの種類、配向性、結晶性等の影響を受けやすいという問題があった。
上記の問題点を解決するため、本発明者らは固体核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)法を用いることで、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの含有量を、迅速かつ精度良く定量できることを見出した(特願2011−92798号明細書)。すなわち、エトリンガイト以外のアルミニウムを含有する化合物と無機酸化物材料との混合物の27Alの固体NMRスペクトルを測定し、エトリンガイト以外のアルミニウム含有化合物と無機酸化物材料中のエトリンガイトのピークの積分強度の比率から、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの含有量を、事前処理を行うことなく迅速かつ精度良く測定することができた。
また、エトリンガイト分子中の水分量を決定することができないという上記の問題点を解決するため、本発明者らは、固体核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)法を用いることで、無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量を、簡便かつ精度良く定量できることを見出した(特願2012−3314号明細書を参照)。すなわち、エトリンガイトを含有する無機酸化物材料の固体27Al NMRスペクトルを測定し、無機酸化物材料中のエトリンガイトのピークの化学シフト値から無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量を、煩雑な事前処理を行うことなく迅速かつ精度良く決定する方法を提供することができた。
しかしながら、この方法(特願2012−3314号明細書)を用いると、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイト1分子中の水分子数が13分子以下の場合には、エトリンガイトの水分量(水分子数)を精度良く決定することができるものの、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイト1分子中の水分子数が13分子より多い場合、エトリンガイトの水分量(水分子数)を精度良く決定することが困難であるという課題が残されていた。
このような従来技術の現状に鑑みて、本発明は、固体核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)法を用いることで、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイト分子中の水分量を、迅速かつ精度良く定量する方法を提供することを目的とする。更に詳しくは、エトリンガイトを含有する無機酸化物材料の固体27Al NMRスペクトルを測定し、無機酸化物材料中のエトリンガイトのピークの半値幅から無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量を、煩雑な事前処理を行うことなく迅速かつ精度良く決定する方法を提供することを目的とする。
本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)無機酸化物材料の固体NMR(核磁気共鳴)スペクトルから、該無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量を決定する方法であって、複数の加熱温度を設定する工程と、水和量が既知のエトリンガイトを前記複数の加熱温度に加熱し、加熱前後のエトリンガイトの質量を測定する工程と、前記複数の加熱温度における前記エトリンガイトの27Al 固体NMRスペクトルを測定する工程と、前記27Al 固体NMRスペクトルから前記複数の加熱温度におけるエトリンガイトのピークの半値幅を求める工程と、前記加熱前のエトリンガイトに対する加熱後のエトリンガイトの質量減少率に基づいて、前記複数の加熱温度における前記エトリンガイト分子中の水分量を決定する工程と、前記半値幅と前記エトリンガイト分子中の水分量との関係を示す情報を作成する工程と、評価対象である無機酸化物材料について27Al 固体NMRスペクトルを測定する工程と、前記無機酸化物材料の27Al 固体NMRスペクトルからエトリンガイトに帰属するピークの半値幅を求める工程と、前記無機酸化物材料の該半値幅から、前記半値幅と前記エトリンガイト分子中の水分量との関係を示す情報に基づいて、前記無機酸化物材料中に存在するエトリンガイト分子中の水分量を決定する工程と、を含むことを特徴とする無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
(2)前記無機酸化物材料は、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、無機酸化物材料、フライアッシュ、ボトムアッシュ、コンクリート、セメントまたはそれらの2種以上の混合物であることを特徴とする(1)に記載の無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
(3)前記27Al 固体NMRスペクトルを、27Al MAS(マジック角回転)法を用いて測定することを特徴とする(1)又は(2)に記載の無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
(4)前記27Al 固体NMRスペクトルを、11.7T以上の静磁場強度下で測定することを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載の無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
(5)前記27Al 固体NMRスペクトルを、1kHz以上の試料回転速度で測定することを特徴とする(1)〜(4)の何れかに記載の無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
(6)前記半値幅と前記エトリンガイト分子中の水分量との関係を示す情報は、前記半値幅と前記エトリンガイト分子中の水分量との関係を示す相関図であり、複数の加熱温度における前記半値幅および前記エトリンガイト分子中の水分量を2次元グラフにプロットして前記相関図を作成することを特徴とする(1)〜(5)の何れかに記載の無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
本発明によれば、無機酸化物材料の初期強度発現や水和膨張の程度に影響するエトリンガイト分子中の水分量を、煩雑な事前処理を行うことなく迅速かつ精度良く測定することが可能となり、鉄鋼業やセメント製造業における利用価値は極めて高いものである。
エトリンガイトの27Al MAS NMRスペクトルの温度依存性の一例を示す図である。 高炉徐冷スラグとAlK(SO42・12H2Oの混合物の27Al MAS NMRスペクトルの静磁場強度の依存性の一例を示す図である。 エトリンガイトのTG曲線を示す図である。 エトリンガイトの27Al MAS NMRスペクトルのピークの半値幅とエトリンガイト分子中の水分量との相関を示す図である。 54℃で等温保持したエトリンガイトの27Al MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 エージング処理した高炉徐冷スラグの27Al MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
まず、エトリンガイトを加熱し各加熱温度における質量を測定するとともに、エトリンガイトの固体27Al NMRスペクトルの測定を行った。エトリンガイトの固体27Al NMRスペクトルから、エトリンガイトの固体27Al NMRスペクトルのピークの半値幅を求め、加熱前のエトリンガイトに対する加熱後のエトリンガイトの質量減少率から、各加熱温度におけるエトリンガイト分子中の水分量を決定した。そして、エトリンガイト固体27Al NMRスペクトルの半値幅とエトリンガイト分子中の水分量との関係を示す相関図を作成した。
次いで、評価対象である無機酸化物材料について固体27Al NMRスペクトルを測定した。評価対象である無機酸化物材料の固体27Al NMRスペクトルから、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイト由来のピークを特定し、その半値幅から、半値幅と水分量の相関図を用いて、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイト分子中の水分量を簡便かつ精度よく決定することができる。エトリンガイト分子中の水分量を把握することにより、無機酸化物材料の管理及び利用指針とすることができる。
本発明者らは、無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量を決定する際には、NMRの測定が有効であることを見出した。NMRは、試料内部を含めた試料全体の構造を明らかにでき、結合相手元素や結合角といった局所構造のわずかな差異に対しても、得られるピークの化学シフト値(周波数)や半値幅が敏感に変化する。さらに、元素選択性があるため、無機酸化物材料のような多成分かつ複雑な構造を持つ材料に対して、エトリンガイトのみのピークを検出できる。また、エトリンガイト分子からの水分子の脱離量によって、エトリンガイトのNMRスペクトルのピークの半値幅が変化していくことを見出した。
本発明の実施形態の一例として、無機酸化物材料の固体27Al NMRスペクトルを測定し、当該無無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量を決定するための方法について説明する。
本実施形態において、無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定は、固体27Al NMRスペクトルの測定により行うことができる。Al原子の結合状態によりエトリンガイトのスペクトルのピークの半値幅が変化するので、測定した無機酸化物材料の固体27Al NMRスペクトルのピークの半値幅から、当該無機酸化物材料に存在するエトリンガイトの有無を特定することができる。
エトリンガイトの固体NMRスペクトルのピークを検出するためには、エトリンガイトの構成核種である43Ca、27Al、33S、1H、17O核のいずれかの核種の固体NMRスペクトルを測定することが考えられる。このうち43Ca、33S、17O核はいずれも天然存在比が低く、低感度であるため、ピークを検出するのが非常に困難である。また、1H核は、天然存在比も高く感度は良好であるが、1H核間の強い双極子相互作用によってピークの分解能が低下するため、測定対象となる無機酸化物中の他の水素含有化合物と区別することが困難となる。以上のような知見から、本実施形態では、固体27Al NMRスペクトルの測定を行うこととした。
固体27AlNMRスペクトルの測定においては、化学シフト異方性や双極子相互作用によるピークの広幅化を防ぐために、27Alマジック角回転(Magic Angle Spinning;MAS)法を適用するのが好ましい。MAS法は、回転軸が静磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜した角度で測定試料を回転させることによって、化学シフト異方性や双極子相互作用を低減するための手法である。
また、27Al核は核スピンが5/2であり、四極子核であるという特徴を持つ。四極子核の固体NMRスペクトルの測定においては、一般的に2次の核四極子相互作用の影響によって、得られるAl含有化合物のピークが非対称化・広幅化するため、ピークの検出が困難になるという問題点を有する。しかしながら、本発明者らは、本実施形態で観測するエトリンガイトの結晶構造の対称性が非常に良いため、2次の核四極子相互作用の影響をほとんど受けずに、固体NMRスペクトルでも先鋭化したピークを得ることができることに着目した。
図1は、エトリンガイト試薬の加熱温度を変化させたときのエトリンガイト試薬の27Al MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。
図1の一番下のスペクトルは、37℃に加熱したエトリンガイト試薬の27Al MAS NMRスペクトルである。図1のスペクトルの横軸は化学シフト値であり、その単位はppmである。化学シフト値が13.3ppmの位置に、ほぼ左右対称な先鋭化したピークが観測された。27Alの化学シフト値はAl原子周りの配位数に大きく依存することが知られており、6配位Al、5配位Al、4配位Alはそれぞれ0〜15ppm付近、30〜40ppm、50〜90ppmにピークを示す。このことから、13.3ppmの位置に化学シフト値を有することは、エトリンガイト中のAlが6配位構造をとっていることを意味しており、非特許文献10に記載されたエトリンガイトの結晶構造モデルと矛盾しない。
エトリンガイト試薬をさらに197℃まで加熱していくと、温度の上昇に伴い、図1に示されるように、エトリンガイトの27Al MAS NMRスペクトルのピークが13.3ppmから低周波数(高磁場)側へシフトしていく様子とともに、当該ピークの半値幅が広幅になっていく様子が観測された。以上の結果から、エトリンガイトの加熱温度の上昇、すなわちエトリンガイト分子からの脱水量が増加するにしたがって、エトリンガイト中のAlの周囲の局所構造がわずかに変化し、その局所構造の違いを27Al MAS NMRスペクトルで区別できることが確認された。
表1に、各温度における27Al MAS NMRスペクトルから得られたエトリンガイトのピークの半値幅の一例を示す。
Figure 0005772749
ここで、各温度までエトリンガイト試薬を加熱する工程において、1g程度の少量のエトリンガイト試薬を2時間以上所定の温度で等温保持し、十分脱水を進行させることによって残存水分量のばらつきを排除した。
さらに、各加熱温度における精度の高いエトリンガイトのピークの半値幅を得るためには、27Al MAS NMRスペクトルを測定する際の静磁場強度や試料回転周波数も重要である。
図2に、静磁場強度を変化させたときの高炉徐冷スラグとAlK(SO42・12H2Oとの混合物の27Al MAS NMRスペクトルの一例を示す。図2の横軸の単位はppmである。また、※、★、●の下に示されているピークは、それぞれ、エトリンガイトのスピニングサイドバンド、スラグ骨格のスピニングサイドバンド、AlK(SO42・12H2Oのスピニングサイドバンドを表す。
なお、ここで−0.2ppmにスペクトルが観測されるAlK(SO42・12H2Oを、高炉徐冷スラグに添加した理由は、内部標準として高炉徐冷スラグ中に存在するエトリンガイトの濃度を定量するためであり、本発明には無関係であるため無視してよい。静磁場強度が16.4T(1H共鳴周波数換算で700MHz)のときには、図2の一番上のスペクトルに示されるように、スラグ骨格に由来する6配位Alのピーク(60〜70ppm付近)と、エトリンガイトのピーク(13.3ppm)とが完全に分離しており、精度の高い定量が可能となるが、静磁場強度の減少に伴い、スラグ骨格中のピークが広幅化していく様子が観測された。ここで、例えば非特許文献11に記載されているように、2次の核四極子相互作用によるピークの線幅の広がりは、静磁場強度に反比例するという事実がある。このことから、スラグ骨格中のAlは、構造の対称性が低く、2次の核四極子相互作用の影響を多分に受けており、2次の核四極子相互作用の大きさの指標となる核四極子結合定数が大きいことが判る。
図2の一番下のスペクトルに示すように、静磁場強度が7.0T(1H共鳴周波数換算で300MHz)のときには、スラグ骨格中のピークがエトリンガイトのピークと完全に重なり合ってしまうことが確認された。
ここで、無機酸化物材料とAlK(SO42・12H2Oの混合物の27Al MAS NMRスペクトルの測定結果から、以下の(1)式によって無機酸化物材料中のエトリンガイトの含有量(mass%)を決定することができる。
エトリンガイト(mass%)=(Wref/Woxide)(Mett/Mref)(Sett/Sref)×50 ・・・(1)
ここで、(1)式の変数は以下の通りである。
oxide:NMR測定に供した無機酸化物材料の質量(mg)
ref:前記無機酸化物材料と共にNMR試料管に充填したAlK(SO42・12H2Oの質量(mg)
ref:AlK(SO42・12H2Oの分子量(=474.39)
ett:エトリンガイトの分子量(=1255.11)
ref27Al MAS NMRスペクトルから得られたAlK(SO42・12H2Oに由来するピークの積分強度
ett27Al MAS NMRスペクトルから得られた無機酸化物材料中のエトリンガイトに由来するピークの積分強度
(1)式を用いて、当該高炉徐冷スラグ中のエトリンガイトの含有量を定量すると、3.02mass%と算出された。評価対象となる無機酸化物材料中に存在するエトリンガイトの濃度がさらに微量である場合には、エトリンガイトのピークがスラグ骨格のピークに埋もれてしまい、見かけ上検出できない可能性が高くなり、精度の良いエトリンガイトのピークの半値幅の特定は困難となる。以上の結果から、各温度におけるエトリンガイトのピークの半値幅を高精度に特定するためには、11.7T(1H共鳴周波数換算で500MHz)以上の静磁場強度が必要である。静磁場強度が増加するに従い、スラグ骨格のピークはエトリンガイトのピークよりも高周波数側に離れていき、その線幅も先鋭化していくことから、いかなる妨害も受けずにエトリンガイトのピークが検出できるようになる。このため、静磁場強度は高いほど好ましいが、現状で最大静磁場強度を有するNMR用超伝導磁石は21.8T(1H共鳴周波数換算で930MHz)程度である。
続いて、試料回転周波数の検討を行った。27Al核を始めとした四極子核のMAS NMRスペクトルの測定においては、化学シフト異方性や、双極子相互作用、四極子相互作用等の異方的相互作用の大きさに対して、試料回転周波数が十分でない場合、観測されるピークの線幅が増加し、ピーク分解能が低下する。試料回転周波数が1kHzを下回る場合、27Al MAS NMRスペクトルの測定で得られるエトリンガイトのピークの半値幅の温度依存性が観測しづらくなり、精度の良い水分量の決定は困難となる。したがって、試料回転周波数は1kHz以上に設定することが必要である。試料回転周波数は高いほど好ましいが、現状で販売されている固体NMRプローブの最高試料回転周波数は80kHz程度である。
次に、各加熱温度におけるエトリンガイト分子中に残存する水分量(水分子数)を算出する。図3に、加熱前のエトリンガイト試薬のTGの測定により得られた質量に対する、ある加熱温度におけるエトリンガイト試薬のTGの測定により得られた質量の減少率(質量減少率)の結果を示す。図3の横軸の単位は℃であり、縦軸の単位は%である。尚、図3に示す曲線を必要に応じてTG曲線と称することにする。ここで、質量減少率xは、以下の(2)式によって求められる。
質量減少率x=(ある加熱温度におけるエトリンガイト試薬の質量(g)−加熱前のエトリンガイト試薬の質量(g))/加熱前のエトリンガイト試薬の質量(g)×100 ・・・(2)
TGの測定で得られた質量減少率x(%)から、以下の(3)式によって、各温度でのエトリンガイト分子中に残存する水分量(水分子数)を決定することができる。
エトリンガイト分子中の水分量(水分子数)=32+x×(MEtt/MH2O)/100・・・(3)
ここで、MEtt:エトリンガイトの分子量(=1255.11)、MH2O:水の分子量(=18.0153)、である。
表2に、各温度におけるエトリンガイトの質量減少率xと前記(2)式から算出したエトリンガイト分子中の残存する水分量(水分子数)の一例を示す。
Figure 0005772749
本実施形態では、各温度でのエトリンガイトに対して、27Al MAS NMRスペクトルから得られたエトリンガイトのピークの半値幅と(表1を参照)、TGの測定により得られたエトリンガイト分子中の水分量(水分子数)と(表2を参照)、の関係を示す相関図を作成する。
図4に、27Al MAS NMRスペクトルから得られたエトリンガイトのピークの27Al半値幅を縦軸に、エトリンガイト分子中の水分量(エトリンガイト1分子中の水分子数)を横軸にとった相関図の一例を示す。図4の横軸の単位は個であり、縦軸の単位はHzである。図4に示す相関図は、例えば、エトリンガイトのピークの半値幅と、エトリンガイト分子中の水分量(エトリンガイト1分子中の水分子数)とを2次元グラフにプロットし、各プロットの間を補間することにより作成される。図4に示すように、エトリンガイト分子中に残存している水分量に依存して、27Al MAS NMRスペクトルで得られたエトリンガイトのピークの27Al半値幅が変化することが判った。
無機酸化物材料に存在するエトリンガイト中の水分量が未知であるような評価すべき無機酸化物材料について、27Al MAS NMRスペクトルを測定し、27Al MAS NMRスペクトルから得られたエトリンガイト由来のピークの半値幅から、図4に示す相関図を基に、当該無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量を簡便かつ精度よく決定することが可能となる。
本発明者らの方法(特願2011−3314号明細書)では、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイト1分子中の水分子数が13分子より多い場合、エトリンガイト由来の27Al MAS NMRスペクトルの化学シフト値は13.3〜13.2ppmでほぼ一定値をとっていることから、エトリンガイト由来のピークの化学シフト値だけからエトリンガイトの水分量(水分子数)を精度良く決定することは不可能であった。
一方、本実施形態のように、エトリンガイトのピークの半値幅から、無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量を決定する方法では、無機酸化物材料中に存在するエトリンガイト1分子中の水分子数が13分子より多い場合でも、エトリンガイト分子中の水分量の変化に対してピークの半値幅が変化する。よって、エトリンガイト由来のピークの半値幅を測定することにより、エトリンガイトの水分量(水分子数)を精度良く決定することができる。
また、不均一な構造を有する無機酸化物材料を測定対象とする場合には、エトリンガイト分子中の水分量の代表性を向上させるために、別の部分からサンプリングした無機酸化物材料中のエトリンガイト分子中の水分量を複数回測定し、得られた水分量の平均をとることが望ましい。
以上説明した本実施形態によれば、無機酸化物材料の初期強度発現や水和膨張の程度に影響するエトリンガイト分子中の水分量を、煩雑な事前処理を行うことなく簡便かつ精度良く測定することが可能となり、鉄鋼業やセメント製造業における利用価値は極めて高いものである。
尚、半値幅は、NMRの測定分野における一般的な半価幅(27Al MAS NMRスペクトルのピークの半分の高さにおける、27Al MAS NMRスペクトルの幅(27Al MAS NMRスペクトルの微分波形のピークからピークまでの長さ))を指すが、ここでは、この値を所定倍(例えば1/2倍)したものも半値幅に含まれるものとする。
また、本実施形態では、測定対象の無機酸化物材料が、高炉徐冷スラグである場合を例に挙げて説明したが、無機酸化物材料は、高炉徐冷スラグに限定されない。例えば、高炉水砕スラグ、無機酸化物材料、フライアッシュ、ボトムアッシュ、コンクリート、セメントまたはそれらの2種以上の混合物を、測定対象の無機酸化物材料とすることができる。
また、本実施形態では、27Al MAS NMRスペクトルのピークの半値幅と、TGの測定により得られたエトリンガイト分子中の水分量(水分子数)と、の関係を示す相関図を作成するようにした。しかしながら、これらの関係を示す情報を作成していれば、必ずしも相関図(そのもの)を作成する必要はない。例えば、これらの関係を表す近似式を作成してもよい。
また、本実施形態のように、加熱脱水前後のエトリンガイト試薬の質量を、TGにより測定するようにすれば、数mg〜数10mg程度の微量の試薬でも精度良く質量が求まることと、加熱前後で試料の取り出し等の作業が不必要であり、測定誤差の要因が低減すること等のメリットがある。しかしながら、加熱脱水前後のエトリンガイト試薬の質量を測定する方法は、このような方法に限定されない。例えば、電子天秤等を用いて、加熱脱水前後のエトリンガイト試薬の質量を測定することができる。
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
以下に本発明の内容を具体的に説明するための実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
54℃で3時間等温保持したエトリンガイト試薬を直径4.0mmの固体NMR試料管に均一になるように充填した後、当該固体NMR測定用試料管を固体NMRプローブに挿入し、700MHz固体NMR装置(測定磁場強度=16.4T)にセットした。固体NMR測定用試料管を外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、18kHzの回転速度で回転させた。このときの27Al核の共鳴周波数は、182.30MHzであった。27Al NMRの化学シフト基準として、AlCl3水溶液のピークを−18Hzとした。27Al MAS NMRスペクトルの測定にはシングルパルス法を用い、パルスのフリップ角を18°に設定した。また、パルス繰り返し時間は、励起された核スピンを完全に緩和させるため、0.5sに設定した。スペクトルの観測幅は1MHzに設定して測定した。積算回数は1280回に設定し、一つの27Al MAS NMRスペクトルを得るのに要した時間は約10分であった。
以上の条件下で、54℃のエトリンガイトの27Al MAS NMRスペクトルを測定した結果を図5に示す。図5の横軸は化学シフト値であり、その単位はkHzである。図5では、54℃のエトリンガイトの27Al MAS NMRスペクトルのうち、ピークが観測された5kHz〜−2kHzの化学シフト領域のみを表示している。
図5において、エトリンガイト由来の先鋭化したピークが観測され、その化学シフト値は2.41kHzであり、その半値幅は287Hzであった。図4に示したエトリンガイトのピークの半値幅とエトリンガイト分子中の水分量(水分子数)との相関図を用いて、エトリンガイトのピークの半値幅が282Hzの場合のエトリンガイト分子中の水分量(水分子数)を求めた結果、21.5という値が得られた。
一方、図3に示したエトリンガイトのTG曲線において、54℃におけるエトリンガイトの質量減少率xは−14.0mass%であった。さらに、(3)式を用いて、54℃においてエトリンガイト分子中に残存する水分量(水分子数)を計算したところ、22.2という値が得られた。この値は、図4に示した相関図から決定した値とほぼ一致しており、(本発明者らの方法(特願2011−3314号明細書)では決定することが不可能であった無機酸化物材料中に存在するエトリンガイト1分子中の水分子数が13分子より多い場合でも、)本実施形態によるエトリンガイト中の水分量の決定方法の妥当性が実証された。
(実施例2)
実施例2では、エージング処理した高炉徐冷スラグを直径4.0mmの固体NMR試料管に均一になるように充填した後、当該固体NMR測定用試料管を固体NMRプローブに挿入し、700MHz固体NMR装置(測定磁場強度=16.4T)にセットした。固体NMR測定用試料管を外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、18kHzの速度で回転させた。このときの27Al核の共鳴周波数は、182.30MHzであった。27Al NMRの化学シフト基準として、AlCl3水溶液のピークを−18Hzとした。27Al MAS NMRスペクトルの測定にはシングルパルス法を用い、パルスのフリップ角を18°に設定した。また、パルス繰り返し時間は、励起された核スピンを完全に緩和させるため、0.5sに設定した。スペクトルの観測幅は1MHzに設定して測定した。積算回数は1280回に設定し、一つの27Al MAS NMRスペクトルを得るのに要した時間は約10分であった。
以上の条件下で、前記混合物の27Al MAS NMRスペクトルを測定した結果を図6に示す。図6の横軸は化学シフト値であり、その単位はkHzである。図6では、前記混合物の27Al MAS NMRスペクトルのうち、ピークが観測された5kHz〜−2kHzの化学シフト領域のみを表示している。
図6において、エージング処理した高炉徐冷スラグ中に存在しているエトリンガイト由来のピークが化学シフト値は、2.39kHzであり、その半値幅は320Hzであった。なお、ここで−24Hzに観測されるAlK(SO42・12H2Oを添加した理由は、当該高炉徐冷スラグ中に存在するエトリンガイト濃度を定量するためであり、本発明には無関係であるため無視して良い。
図4で示したエトリンガイトのピークの半値幅とエトリンガイト分子中の水分量(水分子数)との相関図を用いて、エトリンガイトのピークの半値幅が320Hzの場合のエトリンガイト分子中の水分量(水分子数)を求めた結果、11.8という値が得られた。このように、エージング処理によって生成したエトリンガイト中には、化学式で示されるような32分子の水分子は存在しておらず、一部の水分子が脱離していることが明らかとなった。
本発明は、無機酸化物材料の初期強度発現や水和膨張の程度に影響するエトリンガイト分子中の水分量を、煩雑な事前処理を行うことなく簡便かつ精度良く測定することが可能となり、鉄鋼業やセメント製造業等で利用することが可能である。

Claims (6)

  1. 無機酸化物材料の固体NMR(核磁気共鳴)スペクトルから、該無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量を決定する方法であって、
    複数の加熱温度を設定する工程と、
    水和量が既知のエトリンガイトを前記複数の加熱温度に加熱し、加熱前後のエトリンガイトの質量を測定する工程と、
    前記複数の加熱温度における前記エトリンガイトの27Al 固体NMRスペクトルを測定する工程と、
    前記27Al 固体NMRスペクトルから前記複数の加熱温度におけるエトリンガイトのピークの半値幅を求める工程と、
    前記加熱前のエトリンガイトに対する加熱後のエトリンガイトの質量減少率に基づいて、前記複数の加熱温度における前記エトリンガイト分子中の水分量を決定する工程と、
    前記半値幅と前記エトリンガイト分子中の水分量との関係を示す情報を作成する工程と、
    評価対象である無機酸化物材料について27Al 固体NMRスペクトルを測定する工程と、
    前記無機酸化物材料の27Al 固体NMRスペクトルからエトリンガイトに帰属するピークの半値幅を求める工程と、
    前記無機酸化物材料の該半値幅から、前記半値幅と前記エトリンガイト分子中の水分量との関係を示す情報に基づいて、前記無機酸化物材料中に存在するエトリンガイト分子中の水分量を決定する工程と、を含むことを特徴とする無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
  2. 前記無機酸化物材料は、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、無機酸化物材料、フライアッシュ、ボトムアッシュ、コンクリート、セメントまたはそれらの2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
  3. 前記27Al 固体NMRスペクトルを、27Al MAS(マジック角回転)法を用いて測定することを特徴とする請求項1又は2に記載の無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
  4. 前記27Al 固体NMRスペクトルを、11.7T以上の静磁場強度下で測定することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
  5. 前記27Al 固体NMRスペクトルを、1kHz以上の試料回転速度で測定することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
  6. 前記半値幅と前記エトリンガイト分子中の水分量との関係を示す情報は、前記半値幅と前記エトリンガイト分子中の水分量との関係を示す相関図であり、
    複数の加熱温度における前記半値幅および前記エトリンガイト分子中の水分量を2次元グラフにプロットして前記相関図を作成することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の無機酸化物材料に含まれるエトリンガイト分子中の水分量の決定方法。
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