JP5515044B2 - 磁気記録装置 - Google Patents

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本発明は、磁気記録装置に関し、特に、マイクロ波アシスト磁気記録方式において、20GHz以上の高周波磁界を発振可能なスピントルク注入型高周波発振素子を有する磁気記録ヘッドを備える磁気記録装置に関する。
現在の磁気記録技術を用いた磁気記録装置は、情報を記録する保磁力の大きな硬質磁性材料からなる磁気記録媒体と、それに対向して位置し、強い磁界を発生させる透磁率の高い軟質磁性材料からなる磁気記録ヘッドとを備えている。情報の記録においては、磁気記録ヘッドから磁気記録媒体の局所領域に対して強い磁界を発生させる。磁気記録媒体の磁化の向きはヘッド磁界を受けて局所領域においてスイッチングを起こし、ビットの記録が行われる。
記録方式としては、従来、磁気記録媒体の磁化の向きを磁気媒体の長手方向に記録する長手記録方式、または面内記録方式が採用されていたが、高記録密度化に伴うビットサイズの微細化により熱揺らぎが顕在化してきた。これを解決する磁気記録方式として、垂直磁気記録方式が2005年に実用化されるに至った。
この方式では、記録磁化の方向を記録媒体面に対して垂直方向とする。このように磁化を配置することにより、隣接ビットの磁化方向が逆向きになってもお互いの磁化が隣接ビットの磁化を安定化させるため、ビットサイズが微細化しても熱揺らぎの影響を受けにくくなり、面記録密度100Gbits/inch以上の記録を可能とするようになった。しかし、垂直磁気記録方式においても、1Tbits/inchを越す面記録密度においては熱揺らぎの影響が顕在化することが予想されている。
これを回避する方法としては、磁気記録媒体に高磁気異方性特性を持つ材料を用いることが有効である。しかし、大きな磁気異方性を持つ材料を使用すると、記録媒体の保磁力が大きくなり、記録媒体の磁化をスイッチングさせるのに必要な磁界、すなわち記録ヘッドが記録媒体領域において発生すべき磁界をそれに応じて大きくする必要が生じる。そのためには、磁気記録ヘッドに大きな飽和磁束密度(Bs)を持つ材料を使用する必要がある。現状実用に供せられる高飽和磁束密度材料としてはFeとCoの合金が知られているが、その飽和磁束密度は最大2.4Tであり、1Tbits/inchを越す記録能力をもつ記録媒体のスイッチングを起こさせるには不足している。このように、現在の磁気記録方式をそのまま延長しただけでは、1Tbits/inch以上の高記録密度を達成することは困難であると考えられている。
このような問題を解決する一つの方法として、2003年にJing−Gang.Zhuによって、高周波アシスト磁気記録(Microwave-assisted Magnetic Recording: MAMR)が提案された(非特許文献1)。この方式は、磁気記録ヘッドから発生する磁界に対して直交する面内に、20GHz以上の高周波磁界を重畳させることによって、記録媒体に強磁性共鳴を起こさせ、その記録媒体材料が持つ固有の保磁力より低い値で磁化のスイッチングを起こさせるものである。なお、この20GHzという値は、MAMRに用いられる記録媒体の異方性磁界(Hk)には概ね2×106A/m以上が必要になると予想されており、このような高い異方性磁界をもつ媒体の磁化をスイッチングさせるのに必要な周波数の目安である。これにより、記録媒体に使用可能な高磁気異方性材料の磁気異方性定数の上限値がひろがり、その結果、3Tbits/inchもの高記録密度化が可能であることが計算機シミュレーションにより示された(非特許文献2)。
このとき、Zhu達が提案した磁気記録ヘッド30に使用される高周波磁界発振素子31は、バイアスフリー発振素子と呼ばれ、図9に示すように、高周波磁界を発振する高周波磁界発振層18と偏極したスピンを高周波磁界発振層に供給するレファレンス層14と高周波磁界発振層の磁化方向を高周波磁界発振層の膜面に垂直方向に保持する垂直磁化膜26とを備えている。ただし高周波磁界発振層18とレファレンス層14との間には厚さ5nm以下の非磁性層16が設けられている。この4層から構成された高周波磁界発振素子31は、垂直磁気記録用の磁気記録ヘッド30の主磁極12とトレーリングシールド22の主磁極側との間隙13に設けられ、主磁極12から発生する垂直磁界43に対して高周波磁界発振層18の直下において概略直交する面に20GHz以上の高周波磁界44を重畳させることができる。
しかし、この素子構造では、次のような問題点がある。1番目にはレファレンス層14の磁化方向32と垂直磁化膜26の磁化方向37を反平行に設定する必要があることである。一般的に5nm程度の非磁性膜を挟んで相対する位置にある2枚の強磁性膜の磁化をお互いに反平行にするのは難しい。特に、Zhu提案のバイアスフリー発振素子では、垂直磁化膜26は、K=1.0×10J/m以上の非常に大きな高磁気異方性が必要とされており、このような大きな磁気異方性を持つ材料を一方向に磁化させること、すなわち着磁させるには少なくとも2T以上の外部磁界を必要とする。このような磁界を印加させるとレファレンス層14の磁化も垂直磁化膜26と同じ方向に向いてしまい反平行な磁化状態を実現することは難しい。2番目には、安定した20GHz以上の発振周波数を得るには、垂直磁化膜の磁気異方性定数としてはK=1.0×10J/m以上が必要であるとされている。しかしこのような巨大な磁気異方性定数を持つ材料はまだ開発されておらず現実性が乏しいアイデアであると思われる。
さらに上記した問題点を解決する構造として、J−G.Zhu達により垂直磁化膜とレファレンスの磁化方向を反平行にする必要のない発振素子が提案された(非特許文献3)。この構造では、図6に示すように、磁気記録ヘッド20の主磁極12とトレーリングシールド22の間隙13に高周波磁界発振素子21を配置させることは前出の素子構造と同じであるが、主磁極12とトレーリングシールド22、間隙13を回る磁気回路46を形成させ、この間隙13に強い磁界36を発生させ、この磁界によって垂直磁化膜とレファレンス層の磁化を同じ方向に向けて平行状態とするようにしたものである。この構造ではレファレンス層14の磁化方向32も強い磁界36によって磁界36の方向を向くことになるため、高周波磁界発振層18とレファレンス層14の磁化方向32はおのずと平行となる。このような配置では、レファレンス層14から偏極電子を注入した場合は、高周波磁界発振層18の磁化34の歳差運動がおこらず発振しない。
そのため、電流方向38を逆にして高周波磁界発振層18からレファレンス層14に向かって電子を移動させる。そのとき電子がレファレンス層14と非磁性層16の界面で反射されると、実効的にレファレンス層14から高周波磁界発振層18に電子が注入されたようになり、高周波磁界発振層18の磁化34にスピントルクを働かせることができるようになる。これは、電子がレファレンス層14と非磁性層16の界面で反射されるときに、逆方向のトルクを持ち、電子のスピンがレファレンス層14とは逆方向に偏極される現象を利用したものである。しかし、この方式では、反射電子を利用するため偏極電子の注入効率が下がることや、20GHz以上の高い周波数を発振させるには、高周波磁界発振層18に強い磁界を印加する必要があり、そのため、間隙13において1T以上の磁界が必要となり、本来必要な主磁極12から生じる磁気回路42による記録用磁界43の強度を低下させてしまう。
Jian-Gang Zhu et. Al., IEEE Transactions on Magnetics, Vol.44, No. 1, (2008) PP125-131 Yuhui Tang et al., IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 44, No. 11, (2008) pp3376-3379. The digests of Intermag 2009, EC-08.
本発明は、巨大な垂直磁気異方性定数を持つ材料を用いた垂直磁化膜を利用することなく、かつレファレンス層と高周波磁気発振層の磁化方向を反平行にする必要がなく、さらに高周波磁気発振層に注入する偏極電子として反射電子を用いる必要がなく、高周波磁界発振層に非常に強い磁界を印加する必要もない構造を持つ高周波磁気発振素子を有する磁気記録ヘッドを備える磁気記録装置を提供することを主な目的としている。
本発明によれば、
主磁極と、
絶対値が1.0×10 J/m 以上の負の磁気異方性定数を持つ磁性材料を主成分とする第1の部材と、スピンが偏極した電子を供給する第2の部材と、前記第1の部材と前記第2の部材間に配置された非磁性部材と、を有する高周波磁界発振素子と、
前記第1の部材から前記第2の部材に向かって電流を流す電源と、
を備え
前記第2の部材から前記第1の部材に供給された前記偏極電子により、前記第1の部材の磁化が歳差運動を起こすことによって前記高周波磁界発振素子が高周波磁界を発振する磁気記録装置が提供される。
好ましくは、前記負の磁気異方性定数が、−2×10 6 〜−8×10 6 J/m 3 の範囲である
また、好ましくは、前記高周波磁界が、前記主磁極が発生する磁界と直交する成分を有する。
好ましくは、前記第1の部材の磁化困難軸が第1の方向を向いており、前記第1の部材の磁化容易軸が前記第1の方向と交差する第1の面内に存在する。さらに好ましくは、前記第1の方向と前記第1の面が直交する。
好ましくは、前記第1の面と交差する第2の方向に前記第2の部材の磁化が向いている。さらに好ましくは、前記第2の方向と前記第1の面が直交する。
好ましくは、前記第2の方向にスピンが偏極した前記偏極電子が前記第2の部材から前記第1の部材に供給される。
好ましくは、前記第1の面と交差する第3の方向の磁界を前記高周波磁界発振素子に印加する磁界供給手段をさらに備える。さらに好ましくは、前記第3の方向と前記第1の面が直交する。
好ましくは、前記磁界に平行な方向にスピンが偏極した前記偏極電子が前記第2の部材から前記第1の部材に供給される。または、好ましくは、前記磁界に反平行な方向にスピンが偏極した前記偏極電子が前記第2の部材から前記第1の部材に供給される。
好ましくは、トレーリングシールドをさらに備え、前記高周波磁界発振素子が前記主磁極と前記トレーリングシールドとの間に位置している。
好ましくは、前記負の磁気異方性定数を持つ磁性材料は、FeとCoを主成分とする合金であり、そのCo組成がFeとCoの合計に対して0.5から2.0at%である。
好ましくは、前記負の磁気異方性定数を持つ磁性材料は、Fe膜とCo膜からなる多層膜であり、それぞれの厚さが0.2nmから0.5nmであり、Fe膜一層とCo膜一層からなる一周期の長さが0.5nmから1.0nmである。
好ましくは、前記第2の部材が膜状であり、前記膜の主面に対して垂直な方向に前記第2の部材の磁化容易軸が向いており、前記第2の部材の磁気異方性定数Kを2倍した値と真空の透磁率μを乗した値を前記第2の部材の飽和磁化Msの二乗値で除したときの値、Q値(=2μK/Ms)が0.5以上である。
好ましくは、前記第2の部材に、強磁性体を用いる。
また、好ましくは、前記第2の部材に、MnSiからなるハーフメタル、FeCrSiからなるハーフメタル、Co(Cr1−xFe)Alからなるハーフメタル、CoFeAlからなるハーフメタル、CoMnAlからなるハーフメタル、CoMnSiからなるハーフメタル、MnSiを主成分とするハーフメタル、FeCrSiを主成分とするハーフメタル、Co(Cr1−xFe)Alを主成分とするハーフメタル、CoFeAlを主成分とするハーフメタル、CoMnAlを主成分とするハーフメタルおよびCoMnSiを主成分とするハーフメタルからなる群より選ばれる少なくとも一種以上のハーフメタルからなる材料を用いる。
本発明によれば、巨大な垂直磁気異方性定数を持つ材料を用いた垂直磁化膜を利用することなく、かつレファレンス層と高周波磁気発振層の磁化方向を反平行にする必要がなく、さらに高周波磁気発振層に注入する偏極電子として反射電子を用いる必要がなく、高周波磁界発振層に非常に強い磁界を印加する必要もない構造を持つ高周波磁気発振素子を有する磁気記録ヘッドを備える磁気記録装置が提供される。
本発明の好ましい一実施の形態の磁気記録ヘッドを説明するための概略縦断面図である。 本発明の好ましい一実施の形態の磁気記録ヘッドおよび比較例に好適に使用される高周波磁界発振素子の計算モデルを説明するための概略斜視図である。 本発明の好ましい一実施の形態の磁気記録ヘッドに好適に使用される高周波磁界発振素子の計算モデルにおける磁界強度の経時変化を示す図である。 本発明の好ましい一実施の形態の磁気記録ヘッドに好適に使用される高周波磁界発振素子の計算モデルにおいて使用する磁性体の磁気異方性定数と発振周波数との関係を示す図である。 本発明の好ましい一実施の形態の磁気記録ヘッドに好適に使用される高周波磁界発振素子の計算モデルにおける印加磁界とスピントルク実効磁界との関係を示す図である。 従来の磁気記録ヘッドを説明するための概略縦断面図である。 比較例の磁気記録ヘッドに使用される高周波磁界発振素子の計算モデルにおける磁界強度の経時変化を示す図である。 比較例の磁気記録ヘッドに使用される高周波磁界発振素子の計算モデルにおける印加磁界とスピントルク実効磁界との関係を示す図である。 従来の磁気記録ヘッドを説明するための概略縦断面図である。
以下、本発明の好ましい一実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1を参照すれば、本発明の好ましい一実施の形態の磁気記録ヘッド10は、主磁極12と、主磁極12の周囲に巻回して設けられたコイル24と、主磁極12のトレーリング側に配置されたトレーリングシールド22と、主磁極12とトレーリングシールド22との間の間隙13に配置された高周波磁界発振素子11とを備えている。
高周波磁界発振素子11は、高周波磁界44を発振する高周波磁界発振層18と、スピンが偏極した電子を高周波磁界発振層18に供給するレファレンス層14と、高周波磁界発振層18とレファレンス層14との間に配置された非磁性層16と、高周波磁界発振層18に対して非磁性層16と反対側に配置された非磁性層19とを備え、主磁極12からトレーリングシールド22に向かって、レファレンス層14、非磁性層16、高周波磁界発振層18、および非磁性層19の順に配置されている。
非磁性層19とレファレンス層14との間に電流を流すための電源40が磁気記録ヘッド10の外部に設けられている。電源40の一端子はトレーリングシールド22を電極とし、もう一方の端子は主磁極12を電極とするように接続する。本実施の形態の磁気記録装置は、磁気記録ヘッド10と電源40とを備えている。
非磁性層19、高周波磁界発振層18、非磁性層16およびレファレンス層14は、好ましくは、スパッタリング法により膜状に形成される。非磁性層16および非磁性層19の厚さは、好ましくは、2〜5nmであり、高周波磁界発振層18の厚さは、好ましくは、10〜20nmであり、レファレンス層14の厚さは、好ましくは、5〜20nmである。主磁極12とトレーリングシールド22との間の間隙13の距離は、好ましくは、20〜40nmである。非磁性層16および非磁性層19は、好ましくは、Cuで構成される。
本実施の形態の磁気記録ヘッド10では、主磁極12によって、磁気回路42が形成され、磁気記録媒体50において、垂直磁界43が形成される。また、主磁極12とトレーリングシールド22とによって、磁気回路46が形成され、高周波磁界発振層18やレファレンス層14の膜面に垂直な方向の外部磁界36が形成される。
本実施の形態の磁気記録ヘッド10では、電源40によって、電流を高周波磁界発振層18からレファレンス層14に向かって流すことによって、スピンが偏極した偏極電子が、レファレンス層14から高周波磁界発振層18に注入され、高周波磁界発振層18の磁化34にスピントルクを働かせて、磁化34の歳差運動を起こし、空間に高周波磁界を発生する。発生した高周波磁界は、磁気記録媒体50において、主磁極12から発生する垂直磁界43に対して概ね直交する高周波磁界44成分を有するので、垂直磁界43に高周波磁界44が重畳されて、磁気記録媒体50に強磁性共鳴を起こさせ、磁気記録媒体50が持っている固有の保磁力よりも低い値で磁化のスイッチングを起こさせることができる。
本実施の形態の磁気記録ヘッド10では、高周波磁界発振層18に負の磁気異方性定数を持つ磁性材料を主成分とする部材を用いる。負の磁気異方性定数を持つ材料においては、一軸性磁化困難軸に対して直交する面が磁化容易面となる。本実施の形態においては、高周波磁界発振層18の膜面の法線方向を磁化困難軸としており、高周波磁界発振層18の膜面内では磁気異方性は存在せず、磁化は均等に回転し易い状態となっている。
高周波磁界発振層18の発振周波数は高周波磁界発振層18の実効磁界に比例しており、高周波磁界発振素子11においては、実効磁界の値は高周波磁界発振層18の膜面から磁化34を立ち上げた時に生じる反磁界と外部磁界との和に等しくなる。したがって発振周波数はおおむね高周波磁界発振層18の飽和磁化Msで制限される。ここで、負の1軸異方性を用いて、その磁化困難軸を膜面垂直方向に向ければ、前記した実効磁界には負の異方性から発生する、大きな異方性磁界が加わり、実効的に大きな実効磁界を持たせることが可能になる。また、膜面内が磁化容易面となるため、回転を阻害されることもない。
本実施の形態においては、負の磁気異方性定数を持つ材料を使用し、高周波磁界発振層18の膜面の法線方向を磁化困難軸とし、磁化容易軸が高周波磁界発振層18の膜面内に存在するようにしているので、レファレンス層14から高周波磁界発振層18に注入される偏極電子が、磁化34にスピントルクを働かせて、高周波磁界発振層18の膜面から磁化34を立ち上げて歳差運動を起こす。この場合、磁化34は高周波磁界発振層18の膜面の上側に立ち上がってもよく、下側に立ち上がってもよい。従って、レファレンス層14から高周波磁界発振層18に注入される偏極電子のスピンの方向は、上向きであってもよく、下向きであってもよい。その結果、レファレンス層14の磁化方向は、高周波磁界発振層18からレファレンス層14に向かう磁化方向32であっても、逆にレファレンス層14から高周波磁界発振層18に向かう磁化方向32’であってもよい。また、後述するように、外部磁界36がなくてもよい。
本実施の形態において使用する負の磁気異方性定数を持つ磁性材料としては、絶対値が1.0×10J/m以上の負の磁気異方性定数を持っている磁性材料を用いることが好ましい。
また、この負の磁気異方性定数を持つ磁性材料としては、FeとCoを主成分とする合金であり、そのCo組成がFeとCoの合計に対して0.5から2.0at%である合金が、大きい負の磁気異方性定数を持つ磁性材料として好ましく使用される。
また、この負の磁気異方性定数を持つ磁性材料は、Fe膜とCo膜からなる多層膜であり、それぞれの厚さが0.2nmから0.5nmであり、Fe膜とCo膜の1周期の長さが0.5nmから1.0nmである。
レファレンス層14には、レファレンス層14の膜面に対して垂直な方向に磁化容易軸が向いており、その磁気異方性定数Kを2倍した値と真空の透磁率μを乗した値を前記第2の部材の飽和磁化Msの二乗値で除したときの値、Q値(=2μK/Ms)が0.5以上である。このような部材を用いることによって、レファレンス層14の磁化32(32’)がレファレンス層14の膜面に垂直方向に向きやすくなる。
レファレンス層14には、強磁性体が好適に用いられる。レファレンス層14には、MnSiからなるハーフメタル、FeCrSiからなるハーフメタル、Co(Cr1−xFe)Alからなるハーフメタル、CoFeAlからなるハーフメタル、CoMnAlからなるハーフメタル、CoMnSiからなるハーフメタル、MnSiを主成分とするハーフメタル、FeCrSiを主成分とするハーフメタル、Co(Cr1−xFe)Alを主成分とするハーフメタル、CoFeAlを主成分とするハーフメタル、CoMnAlを主成分とするハーフメタル、あるいはCoMnSiを主成分とするハーフメタル、またはこれらのハーフメタルのうち2以上のハーフメタルを組み合わせものからなる材料を用いることも好ましい。
次に、図2を参照して、本発明の好ましい一実施の形態の磁気記録ヘッドに好適に使用される高周波磁界発振素子11の計算モデルを説明する。
高周波磁界発振層18にレファレンス層14からスピンが偏極した電子62を注入することにより、高周波磁界発振層18の磁化34が歳差運動64を起こし、空間に高周波磁界44が発生する。本計算モデルでは、高周波磁界発振層18の層の厚さをl0nm、断面を40×40nmの正方形(縦bが40nm、横cが40nm)とし、ファレンス層14は省略して計算を行った.計算領域を1辺2nmの立方体に離散化し、式(1)に示すスピントルク項を含めたLandau−Lifshitz−Gilbert(LLG)方程式を用いて高周波磁界発振層18の磁化挙動を計算した。高周波磁界発振層18から直下(=11nm)離れた平面(40×10nm)を発振磁界44の観察面60とし、その面平均をとることによって発振磁界強度とした。
Figure 0005515044

式(1)のベクトルHstは、式(2)に示すように、偏極スピンによる実効磁界を表すベクトルで、その大きさはスピントルク実効磁界ajで示され、その方向は単位べクトルであるMp(|ベクトルMp|=1)で表される。Jは注入電流密度であり、ηはスピン分極率である。ダンピング定数αは0.02、スピン分極率ηは0.5として計算した。γはジャイロ磁気定数、Heffは外部磁界と反磁界、異方性磁界と交換磁界の和から作られる実効磁界、dは高周波磁界発振層18の膜厚、eは電子の電荷、hはプランク定数である。
高周波磁界発振層18の飽和磁化Msを2.0T、交換定数Aを2.0×10−11J/mと固定し、磁気異方性定数Kを−2×10〜−8×10J/m、スピントルク実効磁界ajを−6×10〜6×10A/mと変化させ、発振特性を検討した。また高周波磁界発振層18に垂直に外部磁界36を0〜8×10A/mの範囲で変化させて印加し、外部磁界36に対する影響も検討した。電流の方向38は、高周波磁界発振層18からレファレンス14に流れる方向であり、電子62は、レファレンス層14から高周波磁界発振層18に注入される。
また比較のために、高周波磁界発振層18に磁気異方性定数Kが5.0×10J/m、 飽和磁化Msが2.0Tの、正の磁気異方性定数を持つ磁性膜を用いた場合についても計算を行った。
まず、比較のための、飽和磁化Ms=2.0T、磁気異方性定数K=5.0×10J/mの軟磁性膜を用いた高周波磁界発振層18であって、厚さが10nm、断面が40×40nmの正方形(縦bが40nm、横cが40nm)の高周波磁界発振層18の構造で発生する磁界の挙動を説明する。
発振磁界を図2で示した磁界観察面60で平均化した結果を図7に示す。図7では、磁界のx成分とy成分のみを示している。これは磁気記録ヘッドの磁界に対して、直交する成分(x,y成分)のみが磁気記録媒体の磁気共鳴に関連するためである。図7に示すように、磁界はその振幅値(ピーク対ピーク値の半分)が62kA/mであり、安定して発振している。
次にスピントルク実効磁界ajと外部磁界Haplが発振状態にどのような影響を与えるかについて説明する。図8に、その結果を示した。図中の(○)は安定した発振、(△)はやや安定した発振、(×)は発振しない状態を示す。また、挿入図は外部磁界Haplの向きとレファレンス層の磁化32の向き、すなわちスピントルク実効磁界ajの向き、および高周波磁界発振層の磁化34の向きの関係を示す。図8から、スピントルク実効磁界ajが正の場合、すなわち外部磁界とレファレンス層の磁化の向きが同じ場合はまったく発振が起こらない。スピントルク実効磁界ajが負の場合は、発振する条件が現われる。しかし外部磁界が400kA/m以下の場合は、発振するajの値は20kA/m付近に制限され、発振周波数も8GHzと低い。さらに外部磁界を800kA/mと強めると、高周波磁界発振層の磁化は反転して外部磁界の方に向き、発振周波数も27GHzまで増加するが、安定に発振するajの値は20kA/m付近に制限される。
このように軟磁性膜を用いた場合の磁界強度は、60kA/mと高い強度が得られるが、図8に示すように発振起こさせるためには、外部磁界とレファレンス層の磁化を反平行にすることが必要となる。また発振周波数に着目すると、20GHz以上するためには外部磁界強度を800kA/mにまで強くすることが必要となる。このような条件で、レファレンス層の磁化の向きを外部磁界と反平行に保つことは、技術的に大きな困難をもたらす。したがって20GHzの周波数が必要となる高周波アシスト磁気記録(MAMR)に適用させるのは困難である。
図3に、飽和磁化Ms=2.0T、磁気異方性定数K=−2×10J/mとした場合の平均磁界強度の経時変化を示す。図3から、高周波磁界の発振周波数が14GHzと10GHzを容易に超える高周波磁界が得られた。この計算結果は、負の磁気異方性材料は高い発振周波数を得る材料として有効であることを示している。
次に高周波磁界発振層18に用いる磁性体の磁気異方性定数Kを変化させ、発振周波数との関係を調べた。結果を図4に示す。磁気異方性定数Kの絶対値が大きくなるにともない、発振周波数も高くなることがわかる。そこで発振周波数20GHzが得られるK=−6×10J/mにおいてさらに詳細な計算を行った。印加外部磁界Haplとスピントルク実効磁界の関係を調べ、その結果を図5に示す。この時スピントルク実効磁界ajの極性が正の場合、スピントルク実効磁界ajの方向は印加外部磁界Haplと同じ正の方向である。また、スピントルク実効磁界ajの極性が負の場合,印加外部磁界Haplと逆の負の方向である。
図5を見れば、図8に示した軟磁性膜を用いた場合と比較して、安定して発振する範囲がきわめて広くなることがわかる。しかもスピントルク実効磁界ajは正と負の両方の極性で発振することがわかった。さらにスピントルク実効磁界ajの絶対値を大きくすることで、発振周波数も高くなることが分かる。発振周波数に着目すると、外部磁界Haplを800kA/mまで増加させてもあまり影響がないので、外部磁界Haplの依存性は少ないことがわかる。また、外部磁界Haplが0kA/mでも発振させることが可能であることもわかった。
なお、スピントルク実効磁界ajは、レファレンス層14から高周波磁界発振層18に注入する電子の量と考えることができ、それは電流密度となるので、電流密度と高くすれば発振周波数を高くすることができる。
以上のことから、本発明の好ましい一実施の形態の磁気記録ヘッドは、巨大な垂直磁気異方性定数を持つ材料を用いた垂直磁化膜を利用することなく、かつレファレンス層と高周波磁界発振層の磁化方向を反平行にする必要がなく、さらに高周波磁界発振層に注入する偏極電子として反射電子を用いる必要がない構造であることがわかる。また、高周波磁気発振層に非常に強い磁界を印加しなくてもよい。また、外部磁界の影響が少ないことから,記録ヘッドに装着する際に作製マージンを広げることができる。
以上、本発明の種々の典型的な実施の形態を説明してきたが、本発明はそれらの実施の形態に限定されない。従って、本発明の範囲は、次の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
10、20、30 磁気記録ヘッド
11、21、31 高周波磁界発振素子
12 主磁極
13 間隙
14 レファレンス層
16、19 非磁性層
18 高周波磁界発振層
22 トレーリングシールド
24 コイル
26 垂直磁化膜
32、32’ 磁化方向
34 磁化
36 外部磁界
37 磁界方向
38 電流方向
40 電源
42 磁気回路
43 垂直磁界
44 高周波磁界
46 磁気回路
50 磁気記録媒体
60 磁界観測面
62 電子
64 歳差運動

Claims (18)

  1. 主磁極と、
    絶対値が1.0×10 J/m 以上の負の磁気異方性定数を持つ磁性材料を主成分とする第1の部材と、スピンが偏極した電子を供給する第2の部材と、前記第1の部材と前記第2の部材間に配置された非磁性部材と、を有する高周波磁界発振素子と、
    前記第1の部材から前記第2の部材に向かって電流を流す電源と、
    を備え
    前記第2の部材から前記第1の部材に供給された前記偏極電子により、前記第1の部材の磁化が歳差運動を起こすことによって前記高周波磁界発振素子が高周波磁界を発振する磁気記録装置
  2. 前記負の磁気異方性定数が、−2×10 6 〜−8×10 6 J/m 3 の範囲である請求項1記載の磁気記録装置
  3. 前記高周波磁界が、前記主磁極が発生する磁界と直交する成分を有する請求項1または2記載の磁気記録装置
  4. 前記第1の部材の磁化困難軸が第1の方向を向いており、前記第1の部材の磁化容易軸が前記第1の方向と交差する第1の面内に存在する請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気記録装置
  5. 前記第1の方向と前記第1の面が直交する請求項4記載の磁気記録装置
  6. 前記第1の面と交差する第2の方向に前記第2の部材の磁化が向いている請求項4または5記載の磁気記録装置
  7. 前記第2の方向と前記第1の面が直交する請求項6記載の磁気記録装置
  8. 前記第2の方向にスピンが偏極した前記偏極電子が前記第2の部材から前記第1の部材に供給される請求項6または7記載の磁気記録装置
  9. 前記第1の面と交差する第3の方向の磁界を前記高周波磁界発振素子に印加する磁界供給手段をさらに備える請求項4乃至8のいずれかに記載の磁気記録装置
  10. 前記第3の方向と前記第1の面が直交する請求項9記載の磁気記録装置
  11. 前記磁界に平行な方向にスピンが偏極した前記偏極電子が前記第2の部材から前記第1の部材に供給される請求項9または10記載の磁気記録装置
  12. 前記磁界に反平行な方向にスピンが偏極した前記偏極電子が前記第2の部材から前記第1の部材に供給される請求項9または10記載の磁気記録装置
  13. トレーリングシールドをさらに備え、前記高周波磁界発振素子が前記主磁極と前記トレーリングシールドとの間に位置している請求項1乃至12のいずれかに記載の磁気記録装置
  14. 前記負の磁気異方性定数を持つ磁性材料は、FeとCoを主成分とする合金であり、そのCo組成がFeとCoの合計に対して0.5から2.0at%である請求項1乃至13のいずれかに記載の磁気記録装置
  15. 前記負の磁気異方性定数を持つ磁性材料は、Fe膜とCo膜からなる多層膜であり、それぞれの厚さが0.2nmから0.5nmであり、Fe膜一層とCo膜一層からなる一周期の長さが0.5nmから1.0nmである請求項1乃至13のいずれかに記載の磁気記録装置
  16. 前記第2の部材が膜状であり、前記膜の主面に対して垂直な方向に前記第2の部材の磁化容易軸が向いており、前記第2の部材の磁気異方性定数Kを2倍した値と真空の透磁率μを乗した値を前記第2の部材の飽和磁化Msの二乗値で除したときの値、Q値(=2μK/Ms)が0.5以上である請求項1乃至15のいずれかに記載の磁気記録装置
  17. 前記第2の部材に、強磁性体を用いた請求項1乃至15のいずれかに記載の磁気記録装置
  18. 前記第2の部材に、MnSiからなるハーフメタル、FeCrSiからなるハーフメタル、Co(Cr1−xFe)Alからなるハーフメタル、CoFeAlからなるハーフメタル、CoMnAlからなるハーフメタル、CoMnSiからなるハーフメタル、MnSiを主成分とするハーフメタル、FeCrSiを主成分とするハーフメタル、Co(Cr1−xFe)Alを主成分とするハーフメタル、CoFeAlを主成分とするハーフメタル、CoMnAlを主成分とするハーフメタルおよびCoMnSiを主成分とするハーフメタルからなる群より選ばれる少なくとも一種以上のハーフメタルからなる材料を用いた請求項1乃至15のいずれかに記載の磁気記録装置
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