JP5513912B2 - 自動車用加飾樹脂成形品及びその製造方法 - Google Patents

自動車用加飾樹脂成形品及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車用加飾樹脂成形品とその製造方法とに係り、特に、樹脂成形品からなる基材の意匠面に、塗膜からなる加飾層が形成されて構成された自動車用加飾樹脂成形品と、そのような自動車用加飾樹脂成形品を有利に製造する方法とに関する。
一般に、自動車には、様々な種類の内装部品が装備されており、その中の一種に、樹脂成形品からなる基材の意匠面に対して、塗膜からなる加飾層が形成されて構成された自動車用加飾樹脂成形品がある。
そのような自動車用加飾樹脂成形品を製造する際に、加飾層を基材に対して有利に形成し得る加飾方法として、水圧転写やフィルムインサートによる方法が、知られている。水圧転写法は、例えば特開2006−224613号公報(特許文献1)等に開示される如く、所定の絵柄等を有する塗膜(インキ層)が形成された転写フィルムを水に浸し、塗膜を転写フィルムから遊離させて、水面に浮遊させた後、基材の意匠面を、水面に浮遊する塗膜に接触させた状態で、基材を水中に沈めることによって、基材の意匠面に対して、塗膜を水圧により密着させて、加飾層を形成するものである。また、フィルムインサート法(フィルムインモールド成形法)は、例えば特開平6−106562号公報(特許文献2)等に明らかにされるように、所定の絵柄等を有する塗膜が形成されたベースフィルムを成形キャビティ内にセットした後、かかる成形キャビティ内に溶融樹脂を射出、充填することにより、基材を成形すると同時に、基材に対してベースフィルムを固着させて、加飾層を形成するものである。これらの加飾方法によれば、意匠面の形状に拘わらず、意匠面の全面に対して、塗膜からなる加飾層を均一の厚さで、容易に形成することが出来る。
ところが、それらの方法にて加飾が施された加飾樹脂成形品には、共通した欠点が存していた。即ち、水圧転写法によって加飾された加飾樹脂成形品においては、基材の意匠面の全面に形成された加飾層(塗膜)の耐久性の向上を主な目的として、クリア塗膜からなる、保護層としてのトップコート層が、基材の意匠面の全面に形成される。それ故、そのような加飾樹脂成形品では、加飾層が形成された意匠面での光の反射状態が、その全面において均一となり、そのために、意匠面の全体の質感が単一のものとなってしまうことが避けられなかった。
また、フィルムインサート法によって加飾が施された加飾樹脂成形品にあっても、ベースフィルムの塗膜形成面の全面に、塗膜を保護するための透明な樹脂層からなるトップコート層が積層形成されている。そのため、水圧転写法にて加飾が施された加飾樹脂成形品と同様に、加飾層が形成された意匠面の全面において、光の反射状態が均一となって、意匠面の全体の質感が単一のものとなってしまうといった欠点が存していたのである。
なお、水圧転写法やフィルムインサート法により加飾が施された加飾樹脂成形品において、意匠面の質感を部分的に異ならせるために、意匠面の一部のみに加飾層を形成することが、考えられる。
しかしながら、水圧転写法は、水面に浮遊する塗膜を基材の意匠面に転写するものであるところから、基材の意匠面に対する塗膜の位置合せが極めて困難であった。そのため、水圧転写法にて、基材の意匠面の一部分のみに加飾層を形成する場合には、加飾層を所定の位置に正確に形成することが難しかった。それ故、水圧転写法にて加飾が施された加飾樹脂成形品にあっては、基材の意匠面の一部分のみへの加飾層の形成によって、所望の外観を安定的に確保しつつ、意匠面の質感を部分的に異ならせることが容易ではなかったのである。
また、フィルムインサート法により、基材の意匠面の一部分のみに加飾層を形成する際には、基材の意匠面の所定箇所に、意匠面よりも小さなベースフィルムが固着されることとなるが、そのような小さなベースフィルムを用いた場合、成形キャビティ内に配置されたベースフィルムとキャビティ面との間に、成形キャビティ内に射出された溶融樹脂が侵入し、それによって、加飾層上に余分な樹脂層が形成される恐れがある。それ故、フィルムインサート法にて加飾が施された加飾樹脂成形品にあっても、基材の意匠面の一部分のみへの加飾層の形成によって、美麗な外観を安定的に確保しつつ、意匠面の質感を部分的に異ならせることが難しかったのである。
特開2006−224613号公報 特開平6−106562号公報
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、良好な外観品質を安定的に確保しつつ、意匠面において部分的に異なる質感が有利に発揮され得るように改良された自動車用加飾樹脂成形品を提供することにある。また、本発明は、そのような自動車用加飾樹脂成形品を有利に製造する方法を提供することも、その解決課題とするものである。
そして、本発明者等は、上記の課題を解決するために種々検討を行った過程において、金属製品や陶磁器等の加飾に利用される焼付け塗装に着目した。特に、熱硬化性樹脂塗料を用いた焼付け塗装によって形成される、所謂焼付け塗膜は、焼付け工程中の加熱により、熱硬化性樹脂塗料中の樹脂に三次元的な架橋構造が導入されることで、硬度が極めて高くされており、そのため、そのような焼付け塗膜が形成された金属製品や陶磁器の意匠面には、焼付け塗膜を保護するためのトップコート層が、何等形成されていない。それに鑑みて、本発明者等は、従来の自動車用加飾樹脂成形品において、意匠面の質感を単一なものと為すトップコート層を省略するのに、加飾樹脂成形品の意匠面に形成される加飾層を、熱硬化性樹脂塗料の焼付け塗膜にて構成することを着想したのである。
本発明は、上記の着想に基づいて、本発明者等が更に鋭意研究を重ねた結果、完成に至ったものであり、その要旨とするところは、光を乱反射させるための微小な凹凸がシボ加工によって全面に設けられた意匠面を有する、樹脂成形品からなる基材を備え、且つ該意匠面の一部に対して、熱硬化性樹脂塗料を焼付け塗装してなる焼付け塗膜にて構成された加飾層が、該意匠面の一部に設けられた該微小な凹凸を埋める厚さで形成されていることを特徴とする自動車用加飾樹脂成形品にある。
なお、本発明に従う自動車用加飾樹脂成形品の好ましい態様の一つによれば、前記基材が、熱硬化性樹脂材料を用いて成形された樹脂成形品にて構成されることとなる。
また、本発明に従う自動車用加飾樹脂成形品の望ましい態様の一つによれば、前記熱硬化性樹脂塗料として、光透過性を有する塗料が用いられることとなる。
そして、本発明にあっては、前記した加飾樹脂成形品の製造方法に係る課題の解決のために、(a)光を乱反射させるための微小な凹凸が、シボ加工によって全面に設けられた意匠面を有する、樹脂成形品からなる基材を準備する工程と、(b)前記シボ加工が施された前記基材の意匠面の一部に、熱硬化性樹脂塗料を焼き付け塗装することにより、焼付け塗膜からなる加飾層を、該意匠面の一部に対して、そこに設けられた前記微小な凹凸を埋める厚さで形成する工程とを含むことを特徴とする自動車用加飾樹脂成形品の製造方法をも、また、その要旨とするものである。
すなわち、本発明に従う自動車用加飾樹脂成形品においては、基材の意匠面に形成される加飾層が、極めて硬度の高い焼付け塗膜にて構成されている。これによって、かかる加飾樹脂成形品では、加飾層の耐久性が効果的に高められており、以て、加飾層を保護するために従来品の意匠面に形成されていたトップコート層が、有利に省略可能となっている。そして、その結果として、トップコート層の形成に起因した意匠面での単一質感の発生の問題が、効果的に解消され得る。
また、本発明に係る自動車用加飾樹脂成形品にあっては、意匠面の一部分に、焼付け塗料を直接に塗布するか、或いは焼付け塗料からなる塗膜が部分的に形成された転写シートを意匠面に載置して、かかる塗膜を意匠面に転写した状態等において、焼付け工程を実施することにより、硬化した焼付け塗膜からなる加飾層を形成することが出来る。それ故、例えば、フィルムインサート法や水圧転写法にて加飾層が形成されてなる従来の加飾樹脂成形品とは異なって、加飾層が、意匠面に対して部分的に形成されているにも拘わらず、加飾層上に余分な樹脂層が形成されることもなく、加飾層が、意匠面の所定の位置に対して正確に形成され得、以て、所望の外観が、美麗な状態において安定的に確保され得る。
そして、本発明に係る自動車用加飾樹脂成形品においては、光を乱反射させるための微小な凹凸がシボ加工によって全面に設けられた意匠面の一部に対して、焼付け塗膜からなる加飾層が、微小な凹凸を埋める厚さをもって形成されている。それ故、かかる加飾樹脂成形品では、シボ加工によって微小な凹凸が全面に設けられた意匠面のうち、加飾層が形成されていない部分において、光が乱反射して、かかる加飾層の非形成部位が艶消し状態となる一方、加飾層の形成部位では、微小な凹凸が実質的に消失されて、照り(光沢)が生ずるようになる。そして、それにより、意匠面における加飾層の形成部位と非形成部位との間で、光の反射状態の違いに基づいて、互いに異なる質感が、有利に発揮され得る。
従って、かくの如き本発明に従う自動車用加飾樹脂成形品にあっては、良好な外観品質を安定的に確保しつつ、意匠面において部分的に異なる質感が有利に発揮され得るのである。そして、その結果として、従来品には見られない高級でインパクトのある印象を与え得る意匠性に富んだ外観が、簡略な構造において極めて効果的に実現され得ることとなったのである。
また、本発明に従う自動車用加飾樹脂成形品の製造方法にあっても、光を乱反射させる微小な凹凸がシボ加工により全面に形成された、基材の意匠面の一部に、熱硬化性樹脂塗料を焼き付け塗装してなる加飾層を形成するものであるところから、前記した本発明に従う自動車用加飾樹脂成形品において奏される優れた作用・効果と実質的に同一の作用・効果が、極めて有効に享受され得るのである。
本発明に従う構造を有する自動車用加飾樹脂成形品の一実施形態としての蓋体を備えた自動車用灰皿を示す正面説明図である。 図1におけるII矢視説明図である。 図2のIII−III断面における部分拡大説明図である。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
先ず、図1には、本発明に従う構造を有する自動車用加飾樹脂成形品の一実施形態としての蓋体を備えた自動車用灰皿が、その正面形態において示されている。かかる図1において、10は、樹脂製の灰皿本体であって、上方に向かって開口する片側有底筒状の全体形状を呈し、たばこの灰や吸い殻が収容可能とされている。そして、この灰皿本体10に対して、本実施形態の蓋体12が取り付けられて、自動車用灰皿が構成されているのである。
より詳細には、蓋体12は、熱硬化性樹脂材料を用いて、例えば射出成形により成形された樹脂成形品からなっている。そして、図1及び図2に示されるように、蓋体12は、基材としての覆蓋部14と2個の取付部16(図1には1個のみを示す)とを一体的に有している。覆蓋部14は、全体として、略矩形状の厚肉平板形態を呈し、灰皿本体10の開口部を覆蓋可能な大きさを有している。各取付部16は、矩形の小片形態を呈し、覆蓋部14の長さ方向(図1の左右方向)一端側の幅方向(図1の紙面に垂直な方向)両端部から、それぞれ、覆蓋部14の厚さ方向(図1の上下方向)一方側に突出するように、一体形成されている。また、各取付部16には、それらを貫通する軸孔18が、それぞれ1個ずつ形成されている。そして、そのような各取付部16の軸孔18に対して、灰皿本体10の上端部の外周面において軸直角方向外方に突設された2個の回動軸20(図1には1個のみを示す)が、それぞれ遊挿されている。これによって、蓋体12が、回動軸20回りの回動により、覆蓋部14において、灰皿本体10の上側開口部を開閉可能に覆蓋する状態で、各取付部16において、灰皿本体10に取り付けられているのである。
ところで、そのような蓋体12の覆蓋部14にあっては、灰皿本体10への取付状態下で上面となる板面が、上側意匠面22とされている。また、その外周面の全面が、側部意匠面24とされている。そして、図2に示されるように、かかる覆蓋部14の上側意匠面22には、覆蓋部14の長さ方向に真っ直ぐに延びるライン状の艶消し部26と、それと平行に延びるライン状を呈する、加飾層としての光沢部28とが、覆蓋部14の幅方向において交互に1個ずつ位置するようにして、それぞれ複数個ずつ形成されている。これにより、上側意匠面22に対して、光の反射状態が互いに異なる二種類のラインからなる縞状の模様が付与されている。また、図には明示されてはいないものの、側部意匠面24の全面には、単一の色を有する、加飾層としての塗膜が形成されている。
そして、ここでは、複数の艶消し部26と複数の光沢部28とが、上側意匠面22に対して、従来には見られない特別な構造において、形成されているのである。
すなわち、図3に示されるように、本実施形態の蓋体12の覆蓋部14における上側意匠面22には、その全面に対してシボ加工が施されて、かかる上側意匠面22の全面に、微小な凸部30が、無数に一体形成されており、また、それら無数の微小凸部30の隣り合うもの同士の間に、微小な凹部32が形成されている。これにより、上側意匠面22に照射される光が、上側意匠面22の全面において乱反射されるようになっている。換言すれば、上側意匠面22には、その全面に対して、光を乱反射させるための微小な凹凸が設けられているのである。上側意匠面22に設けられる微小凸部30は、上側意匠面22に照射される光を乱反射し得る形態を有するものであれば、その大きさや形状は、何等、限定されるものではない。上側意匠面22に設けられる微小凹部32も、微小凸部30の大きさや形状に応じて、適宜に変更され得る。なお、図3には、微小凸部30と微小凹部32とが、それぞれ誇張されて、実際よりも大きく示されていることが、理解されるべきである。
また、そのような微小凸部30と微小凹部32とが無数に形成された上側意匠面22には、焼付け塗料を焼付け塗装してなる焼付け塗膜34が、複数形成されている。それら複数の焼付け塗膜34を形成する焼付け塗料には、金属製品や陶磁器に対する焼付け塗装を実施する際に従来から一般的に用いられる焼付け塗料のうち、塗膜形成主要素が熱硬化性樹脂からなる、所謂熱硬化性樹脂塗料が用いられる。本実施形態では、そのような熱硬化性樹脂塗料からなる焼付け塗料として、光透過性を有する、無色透明なエポキシ樹脂塗料が用いられている。なお、かかる熱硬化性樹脂塗料からなる焼付け塗料としては、エポキシ樹脂塗料に限らず、公知の各種のものが用いられ、例えば、メラミン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料等が、使用可能である。また、それらの焼付け塗料は、必ずしも無色透明である必要はなく、有色透明なもの、或いは光透過性を有しない有色不透明なものであっても良い。
そして、図2に示されるように、複数の焼付け塗膜34は、上側意匠面22の幅方向(覆蓋部14の幅方向)中央部と、かかる中央部を間に挟んだ幅方向の両側部分において、幅方向に互いに間隔を開けた複数の部位とに対して、その長さ方向(覆蓋部14の長さ方向)に真っ直ぐに延びるライン形態をもって、それぞれ形成されている。また、図3から明らかなように、複数の焼付け塗膜34の全てのものの厚さ:Tが、上側意匠面22に形成された微小凸部30の高さ:H(微小凹部32の深さに相当する)と同じ寸法か、又はそれよりも大なる寸法とされている。更に、各焼付け塗膜34の表面は、十分な平滑性を有している。
すなわち、複数の焼付け塗膜34が、上側意匠面22の幅方向に間隔を開けた複数の部位に対して、それらの部位に設けられた微小凸部30と微小凹部32を埋める厚さと平滑な表面とを有して、上側意匠面22の長さ方向に延びるライン形態をもって、それぞれ形成されている。かくして、焼付け塗膜34が形成されていない上側意匠面22部分が、微小凸部30と微小凹部32を外部に露出させて、粗面化された状態となっているのに対して、焼付け塗膜34が形成された上側意匠面22部分が、微小凸部30と微小凹部32を埋没させて、平滑化された状態となっている。そして、それにより、上側意匠面22のうち、幅方向に間隔を開けて位置する複数の部位からなる焼付け塗膜34の非形成部位のそれぞれにて、光を乱反射する艶消し部26が構成されている一方、それらの焼付け塗膜34非形成部位同士の間に位置する複数の部位からなる焼付け塗膜34の形成部位のそれぞれにて、光沢を発する光沢部28が構成されているのである。
また、よく知られているように、熱硬化性樹脂塗料を焼付け塗装して形成された焼付け塗膜34は、焼付け塗装工程中の加熱乾燥により、塗膜形成主要素に対して三次元的な架橋構造が導入されて、硬化しており、それによって、焼付け塗装以外の塗装方法にて形成される塗膜よりも、基材(本実施形態では覆蓋部14)に対する密着性と硬度とが、十分に高くされている。そのため、図3から明らかなように、本実施形態の蓋体12(覆蓋部14)の上側意匠面22上には、焼付け塗膜24を保護するための透明な塗膜等からなるトップコート層が、何等形成されていない。
それ故、本実施形態の蓋体12の覆蓋部14にあっては、上側意匠面22における焼付け塗膜34の非形成部位、即ち、艶消し部26に形成される微小凸部30と微小凹部32とが、トップコート層に埋まってしまって、艶消し部26が平滑化されることが、全くない。そして、それにより、上側意匠面22に光が照射されたときに、複数の艶消し部26と複数の光沢部28との間で、光のコントラストが、より明確に生じ、その結果、全ての光沢部28が、上側意匠面22において浮き出て見えるようになっているのである。
ところで、かくの如き構造とされた自動車用灰皿の蓋体12を製造する際には、例えば、以下のようにして、その作業が進められる。
すなわち、先ず、上側意匠面22や側部意匠面24に対して、何等の加飾も施されていないものの、上側意匠面22の全面に、微小凸部30と微小凹部32とがそれぞれ無数に一体形成された覆蓋部14を有する蓋体12を成形して、準備する。このような蓋体12の成形に際しては、射出成形やトランスファー成形等の公知の金型成形手法が採用される。また、それらの金型成形手法の実施時には、目的とする蓋体12の外形形状に対応した形状を有する成形キャビティを備え、且つ覆蓋部14の上側意匠面22を与えるキャビティ面に、シボ加工が施されて、微小凸部30や微小凹部32に対応した微小な凹凸が形成された成形用金型が用いられる。なお、蓋体12の形成材料は、熱硬化性樹脂材料に、何等限定されるものではなく、熱可塑性樹脂材料であっても、後述の如き焼付け塗装工程における加熱乾燥時の加熱温度に耐え得る耐熱性を有するものであれば、使用可能である。
次に、上記のようにして準備された蓋体12の覆蓋部14において、上側意匠面22の幅方向に間隔を隔てた複数箇所に、焼付け塗料の塗膜を形成する。この塗膜は、上側意匠面22の長さ方向において、互いに平行に真っ直ぐに延びるライン形状とする。つまり、上側意匠面22に形成されるべき焼付け塗膜34(光沢部28)と同じ配置パターンにて、塗膜を、未硬化の状態(焼付け工程中の加熱により、三次元的な架橋構造が導入される前の状態)で形成する。このとき、上側意匠面22に形成される未硬化の塗膜は、上側意匠面22の全面に形成される微小凸部30の高さ(微小凹部32の深さ)と同じ厚さか、又はそれよりも大なる厚さ、つまり、微小凸部30と微小凹部32とを埋め得る厚さとされる。
なお、未硬化の塗膜は、上側意匠面22に対して、公知の各種の方法にて形成されることとなる。即ち、例えば、焼付け塗料を、上側意匠面22に対して、上側意匠面22に形成されるべき焼付け塗膜34(光沢部28)の配置パターンと同じパターンとなるように、直接に塗布して、塗膜を形成する方法や、未硬化の塗膜が印刷形成された転写シートを用いて、塗膜を、かかる転写シートから上側意匠面22に転写する方法等が、未硬化の塗膜の形成方法として、適宜に採用されるのである。
因みに、後者の方法を実施する際には、先ず、焼付け塗料が、所定の剥離紙の表面上に、上側意匠面22に形成されるべき焼付け塗膜34の配置パターンと同じパターンで、水溶性バインダーを介して印刷されると共に、かかる印刷層(インキ層)の剥離紙側とは反対側に、保護フィルムが、水溶性バインダーを介して積層された転写シートを準備する。そして、かかる転写シートを水中に浸漬して、水溶性バインダーを溶解させた後、転写シートを、蓋体12の覆蓋部14における上側意匠面22上に載置する。このとき、水圧転写を行う場合とは異なって、水面に浮遊する印刷層を覆蓋部14に接触させるものでないため、印刷層が、焼付け塗膜34の形成位置と同じ位置に、正確に且つ容易に配置される。その後、転写シートの剥離紙を、覆蓋部14の上側意匠面22と印刷層との間から引き抜くようにして、印刷層から剥離する。次いで、必要に応じて、印刷層と保護フィルムとの積層体とされた転写シートを乾燥した後、保護フィルムを剥離して、印刷層を、上側意匠面22に転写する。これにより、上側意匠面22の一部に対して、未硬化の塗膜を、焼付け塗膜34(光沢部28)の配置パターンと同じパターンにおいて形成するのである。
そして、覆蓋部14の上側意匠面22に未硬化の塗膜を形成したら、蓋体12を、公知の乾燥炉内に投入し、蓋体12に対して乾燥熱風を吹き付けることにより、未硬化の塗膜を加熱乾燥(焼付け乾燥)する焼付け工程を実施する。なお、このときの乾燥炉内の温度は、未硬化の塗膜を形成する焼付け塗料の種類(具体的には、塗膜形成主要素としての熱硬化性樹脂材料の種類)に応じて、適宜に決定される。例えば、焼付け塗料がエポキシ樹脂塗料である場合には、焼付け工程の実施時における乾燥炉内の雰囲気温度が、150℃程度とされる。
かくして、覆蓋部14の上側意匠面22の幅方向において互いに間隔を隔てた複数箇所に対して、焼付け塗膜34を、それら複数箇所に設けられた微小凸部30と微小凹部32とを埋める厚さで、それぞれ形成する。そして、それにより、図2に示されるように、上側意匠面22に対して、焼付け塗膜34からなる光沢部28の複数と、互いに隣り合う光沢部28同士の間に位置する、焼付け塗膜34が形成されていない上側意匠面22部分からなる艶消し部26の複数とが、それぞれ設けられてなる蓋体12を得るのである。なお、ここでは、意匠面に、水圧転写やフィルムインサートにより、所定の模様を形成する塗膜が設けられてなる従来品とは異なって、焼付け塗膜34上に、それを保護するための透明な塗膜等からなるトップコート層を形成する工程が、省略される。
その後、図示されてはいないものの、かかる蓋体12の側部意匠面24の全面に対して、所定の転写シートを用いた公知の転写手法等により、単一色を呈する塗膜を形成し、以て、目的とする蓋体12を得る。そして、その後、かかる蓋体12を、灰皿本体10に対して回動可能に取り付けることによって、自動車用灰皿を得るのである。
このように、本実施形態の蓋体12にあっては、上側意匠面22に形成された複数の艶消し部26と複数の光沢部28との間で生ずる明確な光のコントラストに基づいて、それらの艶消し部26と光沢部28とにおいて互いに異なる質感が発揮され、それにより、各光沢部28が浮き出て見えるような縞模様が、上側意匠面22に対して、確実に形成され得る。また、水圧転写やフィルムインサートにより、意匠面に、所定の模様を形成する塗膜が設けられてなる従来品とは異なって、浮き出て見えるような縞模様を形成する複数の光沢部28が、上側意匠面の所望の位置に正確に且つ美麗に形成され得る。しかも、上側意匠面22に、光沢部28(焼付け塗膜34)を保護するためのトップコート層が形成されていないにも拘わらず、光沢部28の上側意匠面22に対する優れた密着性と高い硬度とに基づいて、光沢部28の十分な耐候性や耐久性が安定的に確保され得る。
従って、本実施形態の蓋体12においては、良好な品質が安定的に確保され得るだけでなく、高級で且つインパクトのある印象を与え得る意匠性に富んだ、従来品には見られない外観が、簡便な工程により、極めて有利に実現され得るのである。
また、かかる蓋体12が、熱硬化性樹脂材料を用いて成形された樹脂成形品にて構成されているところから、熱硬化性樹脂塗料の焼付け工程における加熱により、蓋体12が軟化して、変形するようなことがなく、これによっても、良好な品質が安定的に確保され得る。
さらに、本実施形態では、光沢部28が、無色透明な熱硬化性樹脂塗料を焼付け塗装してなる焼付け塗膜34にて構成されている。これによって、光沢部28にて、より鮮やかな光沢が得られて、艶消し部26との間で、更に鮮明な光のコントラストが生じ、以て、上側意匠面22において、質感の違いが、更に明確に表現され得ることとなる。
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
例えば、前記実施形態では、自動車用加飾樹脂成形品としての蓋体12の一部の意匠面たる上側意匠面22のみに、その全面に対して微小凸部30と微小凹部32とがそれぞれ無数に設けられると共に、焼付け塗膜34からなる光沢部28(加飾層)が部分的に形成されていたが、かかる蓋体12の側部意匠面24を加えた全ての意匠面に対して、それらの全面に、微小凸部30と微小凹部32とを無数に設けると共に、各意匠面の一部に対して、焼付け塗膜34からなる光沢部28を形成することも、可能である。
また、焼付け塗膜34からなる光沢部28の形状や艶消し部26の形状は、微小凸部30と微小凹部32とが全面に設けられた意匠面(前記実施形態では、上側意匠面22のみ)に付与されるべき模様や図柄、記号等のデザインに応じて、適宜に決定されるものであることは、言うまでもないところである。
さらに、意匠面に対して微小な凹凸を形成するシボ加工の具体的な実施方法も、例示された方法以外の公知の方法が、適宜に採用され得る。
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車用灰皿の蓋体とその製造方法に対して適用した具体例が示されていたが、本発明は、自動車用灰皿の蓋体以外の各種の自動車用内装部品を始めとした様々な自動車用加飾樹脂成形品とその製造方法に対しても有利に適用され得ることは、勿論である。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
10 灰皿本体 12 蓋体
14 覆蓋部 22 上側意匠面
26 艶消し部 28 光沢部
30 微小凸部 32 微小凹部
34 焼付け塗膜

Claims (3)

  1. 光を乱反射させるための微小な凹凸がシボ加工によって全面に設けられた意匠面を有する、熱硬化性樹脂材料を用いて成形された樹脂成形品からなる基材を備え、且つ該意匠面の一部に対して、熱硬化性樹脂塗料を焼付け塗装してなる焼付け塗膜にて構成された加飾層のみが、該意匠面の一部に設けられた該微小な凹凸を埋める厚さで且つ平滑な表面を有するように、直接に形成されて、かかる加飾層が光沢を発する光沢部として構成されていることを特徴とする自動車用加飾樹脂成形品。
  2. 前記焼付け塗膜が、光透過性を有する、無色透明な熱硬化性樹脂材料を用いた焼付け塗装により、形成されている請求項1に記載の自動車用加飾樹脂成形品。
  3. 光を乱反射させるための微小な凹凸が、シボ加工によって全面に設けられた意匠面を有する、熱硬化性樹脂材料を用いて成形された樹脂成形品からなる基材を準備する工程と、
    前記シボ加工が施された前記基材の意匠面の一部に対して、熱硬化性樹脂塗料を焼き付け塗装することによって、焼付け塗膜からなる加飾層のみを、該意匠面の一部に設けられた前記微小な凹凸を埋める厚さで且つ平滑な表面を有するように、直接に形成して、かかる加飾層を光沢を発する光沢部として構成する工程と、
    を含むことを特徴とする自動車用加飾樹脂成形品の製造方法。
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