以下、本発明の実施例を説明する。実施例の説明において、「高低」および「上下」は重力方向を基準にして述べる。「上面」、「底面」、「前」、「後」、「左」、「右」は、液体消費装置としてのインクジェットプリンターに液体容器としてのインクカートリッジを搭載した状態を基準にしている。その際、インクジェットプリンターは、定められた使用の際の正規の姿勢で置かれているものとする。
また、上記の状態を基準として、略直方体である液体容器としてのインクカートリッジの構成において、第1〜第6の面を以下のように定める。重力方向下側の面を「第1の面」とする。第1の面と対向する面(重力方向上側の面)を「第2の面」とする。第1および第2の面と交わり互いに対向する広い面を「第3の面」および「第4の面」とする。第1ないし第4の面と交わり、互いに対向し、第3および第4の面よりも狭い面を「第5の面」および「第6の面」とする。また、実施例においては、第1の面を「底面BS」、第2の面を「上面TS」、第3の面を「第1側面SS1」、第4の面を「第2側面SS2」、第5の面を「前面FS」、第6の面を「後面RS」と呼ぶことがある。
A.実施例:
A1.インクカートリッジの概略構成:
図1は、第1実施例のインクカートリッジ100を第2側面SS2、上面TSおよび後面RSの側から見たときの分解斜視図である。図2は、第1実施例のインクカートリッジ100を第1側面SS1、底面BSおよび前面FSの側から見たときの分解斜視図である。
図1、図2中に示すX軸、Y軸、Z軸は互いに直交している。X軸の正方向は、インクカートリッジ100の前面FSから後面RSに向かう方向である。Y軸の正方向は、インクカートリッジ100の第1側面SS1から第2側面SS2に向かう方向である。Z軸の正方向は、インクカートリッジ100の底面BSから上面TSに向かう方向である。Z軸の負方向は重力方向と一致する。本明細書において、X軸に平行な方向を「前後方向」、Y軸に平行な方向を「左右方向」、Z軸に平行な方向を「上下方向」と呼ぶことがある。
図1および図2に示すように、本実施例のインクカートリッジ100は、容器本体110と、容器本体110を左右方向から挟む第1側面フィルム101および第2側面フィルム102と、第2側面フィルム102の外側から容器本体110に装着される蓋部材20と、インクカートリッジ100の底面BS側に貼付される封止フィルム54、90、98とを有している。容器本体110は、たとえば、プロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等の合成樹脂で形成される。
図2に示すように、容器本体110の底面BSには、液体消費装置としてのインクジェットプリンターにインクを供給するための供給孔120aを有するインク供給部120が設けられている。また、容器本体110の底面BSには、インクカートリッジ100の内部に大気を導入するための大気解放孔130aが設けられている。さらに、容器本体110の底面BSには、減圧孔130bが設けられている。減圧孔130bは、インクカートリッジ100の製造工程において、インクカートリッジ100内から空気を吸い出すために用いられる穴である。減圧孔130bを介した空気の吸引により、インクカートリッジ100内部は減圧され、その後、インクカートリッジ100内にインクが注入される。これらインク供給部120、大気解放孔130a、および減圧孔130bは、封止フィルム54、90、98によって、それぞれ封止されている。
図2に示すように、容器本体110の前面FSには、係合レバー11が設けられている。係合レバー11には、突起11aが形成されている。インクカートリッジ100の前面FSであって係合レバー11の下方の位置には、回路基板13が設けられている。回路基板13上には、複数の電極端子が形成されている。これらの電極端子は、インクカートリッジ100がインクジェットプリンターに装着されたときに、装置側の電極端子を介して、インクジェットプリンターと電気的に接続される。
図1および図2に示すように、容器本体110の両側面には、様々な形状のリブ111が形成されている。側面フィルム101、102は、容器本体110の両側面の全体を覆うように、容器本体110に貼り付けられている。リブ111の端面と側面フィルム101、102との間に隙間が生じないように、側面フィルム101、102はリブ111の端面に緻密に貼り付けられている。これらのリブ111と側面フィルム101、102により、インクカートリッジ100の内部には、複数の小部屋、例えば、後述するインク収容室、バッファ室や、インク流路が形成される。
図2に示すように、容器本体110の第1側面SS1には、弁収容室600aが形成されている。弁収容室600aは、容器本体110の第1側面SS1において、第2の側面に向かう向きに凹んだ凹部である。弁収容室600aには、弁アセンブリ600bが、嵌め込まれる。弁アセンブリ600bは、バネ座部材300とコイルバネ400と膜弁500とを含む(図1および図2参照)。弁収容室600aと弁アセンブリ600bとは、後述するバルブ部180を構成する。
図3は、容器本体110を第2側面SS2側から見たときの側面図である。図4は、容器本体110を第1側面SS1側から見たときの側面図である。図4に示すように、弁収容室600aの底壁(Y軸正方向に位置する壁。以下「弁壁600aw」とも呼ぶ)の中央近辺には、開口452、453が設けられている。図3に示すように、これらの開口452、453は、容器本体110の第2側面SS2側に形成された流路450、460と、それぞれ連通している(図1も参照)。これら開口452、453、ならびに流路450、460については、後に詳しく説明する。
図5は、インクカートリッジ100がインクジェットプリンターのキャリッジ200に取り付けられた状態を示す図である。この状態において、大気解放孔130a(図2参照)は、インクジェットプリンターのキャリッジ200に形成された突起230を受け入れている。インクカートリッジ100の大気解放孔130aは、突起230を受け入れた状態で、突起230との間に所定の隙間が生じるような、深さと径で設けられている。
一方、係合レバー11の突起11a(図2参照)は、図5に示すように、キャリッジ200への装着時にキャリッジ200に形成された凹部210と係合する。その結果、インクカートリッジ100はキャリッジ200に対して固定される。
インクジェットプリンターの印刷時には、キャリッジ200は、印刷ヘッド(図示省略)と一体になって、印刷媒体の幅方向に往復移動する。この動作を「主走査」と呼ぶ。主走査の方向を、図5において矢印AR1で示す。インクカートリッジ100は、図5に示すように、Z軸の正方向が鉛直上方となるような姿勢で使用される。
A2.インクカートリッジの内部構造:
図6は、インクカートリッジ100内における大気解放孔130aから供給孔120a(いずれも図2参照)に至る経路を概念的に示す図である。上述した容器本体110およびバネ座部材300、フィルム101,102等によって区画形成されるインクの経路について説明する。インク経路は、図6に示すように、上流から順に、蛇行路130と、インク収容室140と、中間流路150と、バッファ室160と、バルブ上流路170と、バルブ部180と、バルブ下流路190と、インク供給部120とを含んでいる。
蛇行路130の上流端は、大気解放孔130a(図2参照)と連通している。蛇行路130の下流端は、図示しない気液分離膜を介してインク収容室140の上流側に連通している。気液分離膜は、気体の透過を許容すると共に、液体の透過を許容しない素材で構成されている。インク収容室140の下流側は、中間流路150の上流端に連通している。
中間流路150の下流端は、バッファ室160の上流側に連通している。バッファ室160の下流側は、バルブ上流路170の上流端に連通している。バルブ上流路170の下流端は、バルブ部180の上流側に連通している。バルブ部180の下流側は、バルブ下流路190の上流端に連通している。バルブ下流路190の下流端は、インク供給部120に連通している。
インク供給部120の供給孔120aには、インクカートリッジ100がインクジェットプリンターに装着されたときに(図5参照)、キャリッジ200に備えられたインク供給針240が挿入される。インクカートリッジ100内のインクは、インク供給針240を介してインクジェットプリンターによる印刷のために供給される。
中間流路150には、センサー部105が配置されている。このセンサー部105は、回路基板13の裏側の空間に配置されている(図2参照)。インクは、インクカートリッジ100の製造時には、インク収容室140まで充填されている。このときの液面を、図6において、破線ML1で概念的に示す。
インクカートリッジ100の内部のインクがインクジェットプリンターによって消費されると、液面は下流側に移動し、その代わりに大気解放孔130aを介して上流から大気がインクカートリッジ100の内部に流入する。そして、インクの消費が進むと、液面がセンサー部105にまで到達し、さらにインクの消費が進むとセンサー部105よりも下流側に到達する。このときの液面を、図6において、破線ML2で概念的に示す。
インクの液面がセンサー部105よりも下流側に到達すると、センサー部105のキャビティに大気が導入され、キャビティを含む系の固有振動数が変化する。センサー部105の圧電素子によって系の振動特性の変化が検知されることにより、インク切れが検出される。センサー部105によりインク切れが検出されると、センサー部105より下流側(バッファ室160等)に存在するインクが完全に消費されるよりも前の段階で、印刷が停止され、ユーザにインク切れが通知される。
図7は、弁アセンブリ600bに含まれる膜弁500(図2参照)の構成を示す斜視図である。膜弁500は、その本体を、弾性を有する樹脂性のエラストマーで形成されている。膜弁500に用いられているエラストマーは、容器本体110を形成する樹脂よりもヤング率が低い。
本実施例の膜弁500の本体を構成する素材は、ポリマーと軟化剤とを含む構成である。ポリマーとしては、熱可塑性エラストマーの成分として用いられるポリマーの中から任意のものを複数あるいは単独で用いることができる。具体的には、例えばスチレン系,オレフィン系,ウレタン系,エステル系等の熱可塑性エラストマーを用いることができる。なお、ポリマーとしては、たとえば、特開2000−978号公報にポリマーとして挙げられたものを使用することができる。
軟化剤としては、例えば、従来プラスチックやゴムの軟化剤として使用されている鉱物油系,植物油系,合成系などの各種軟化剤の中から、任意のものを複数あるいは単独で用いることができる。なお、軟化剤としては、たとえば、特開2000−978号公報に軟化剤として挙げられたものを使用することができる。
膜弁500は、図7に示すように、変位部550と、膜状部510と、シール部520と、第1の装着部560と、第2の装着部570と、を有している。膜弁500の表面のうち、図7(A)において主として示されている側の面を、膜弁500の「第1の面MS1」と呼ぶ。一方、膜弁500の表面のうち、図7(B)において主として示されている側の面を、膜弁500の「第2の面MS2」と呼ぶ。
膜弁500の中央には、異なる径を有する二つの円柱C1,C2が軸方向に組み合わされた略柱状の変位部550が設けられている。変位部550の第1の面MS1側の円柱C1は、第2の面MS2側の円柱C2よりも直径が大きい。変位部550の第2の面MS2側の円柱C2の上端面S17(図15参照)の角の部分には、テーパが設けられている。変位部550の第1の面MS1側の円柱C1の周りには、フランジ状に膜状部510が設けられている。そして、膜状部510の回りに、膜状部510より厚いシール部520が円形のつば状に設けられている。さらに、シール部520の両側に、一対の装着部である第1の装着部560および第2の装着部570が設けられている。
第1の装着部560には、第1の組み付け穴530が形成されている。第2の装着部570には、第2の組み付け穴540が形成されている。これらの組み付け穴530、540が、バネ座部材300の二つの軸330、340(図1参照)に嵌合することにより、膜弁500は、バネ座部材300に対する位置を固定される。
図8は、膜弁500の構成を示す平面図および断面図である。図8(A)は、膜弁500を第1の面MS1側(図7(A)参照)から見た正面図である。図8(B)は、図8(A)のA−A断面を示す図である。
略円柱形状を有する変位部550の第1の面MS1側の部分S1(以下、「上面S1」と呼ぶ)の中央は、周りの部分に比べて凹んでいる。すなわち、変位部550の上面S1は、中央に、膜状部510よりも第2の面MS2寄りの位置に設けられる円形の平面S11(以下「中央部S11」と呼ぶ)を有する。そして、変位部550の上面S1は、中央部S11の外周に、第1の面MS1から第2の面MS2に向かう方向(図8(B)の左右方向)について、膜状部510と同じ位置に設けられる平面である外縁部S13を有する。さらに、変位部550の上面S1は、第1の面MS1から第2の面MS2に向かう方向(図8(B)の左右方向)について、異なる高さの位置に設けられる中央部S11と外縁部S13とを結ぶスロープである傾斜部S12を有する。すなわち、第1の面MS1側を上にして膜弁500を置いたとき、膜状部510の上面と変位部550(外縁部S13と傾斜部S12)の上面S1の高さは、中央部S11に近づくにつれて単調減少する。
なお、「高さが中央部S11に近づくにつれて単調減少する」とは、中央部S11に近づくにつれて高さが低くなる部分と、中央部S11に近づいても高さが変わらない(高さが一定である)部分と、を含む概念を表す。すなわち、傾斜部S12の表面においては、第1の面MS1側を上にして膜弁500を置いた場合の高さが、中央部S11に近づくにつれて低くなる。一方、外縁部S13の表面においては、中央部S11からの距離が異なる地点においても、高さは同じである。一例として、これら傾斜部S12の表面と外縁部S13の表面の両方を含む形状について、本明細書では「高さが(中央部S11に近づくにつれて)単調減少する」と記述する。
膜状部510の厚みは、図8(B)に示すように、他の部分の厚みと比較して薄い。このため、膜状部510は容易に弾性変形する。膜状部510の第1の面MS1側の部分、すなわち、図8(A)において、シングルハッチングされた領域は、バルブ上流路170(図6参照)を流れるインクの液圧を受ける上流側圧受け領域である。膜状部510の、上流側圧受け領域の反対側の部分、すなわち、第2の面MS2側の部分は、バルブ下流路190(図6参照)を流れるインクの液圧を受ける下流側圧受け領域である。
膜弁500の各部の表面は、あらかじめ定められた範囲の表面粗さで設けられている。
膜弁500の各部の表面の表面粗さは、膜弁500を成形する際に使用する金型の内面の表面粗さと相関がある。このため、各部の表面粗さは、膜弁500を成形する際に使用する金型の内面にあらかじめ定められた表面粗さで凹凸を設けることによって、実現される。
変位部550の中央部S11の表面粗さを、第1の表面粗さSr11と呼ぶ。シール部520の第1の面MS1側のシール面S21の表面粗さを第2の表面粗さSr21と呼ぶ。シール部520の第2の面MS2側のシール面S22の表面粗さを第3の表面粗さSr22と呼ぶ。変位部550の円柱C2の側面S15の表面粗さを、第5の表面粗さSr15と呼ぶ。変位部550の円柱C1の第2の面MS2側の端面S16の表面粗さを、第4の表面粗さSr16と呼ぶ。
第1の装着部560および第2の装着部570の第1の面MS1側の面(これらの面を統一的に「固定接触面S31」と呼ぶ)の表面粗さは同じである。固定接触面S31の表面粗さを第6の表面粗さSr31と呼ぶ。第1の装着部560および第2の装着部570の第2の面MS2側の面(これらの面を統一的に「固定接触面S32」と呼ぶ)の表面粗さは同じである。固定接触面S32の表面粗さを第7の表面粗さSr32と呼ぶ。
第1の装着部560の第1の組み付け穴530および第2の装着部570の第2の組み付け穴540の内面(これらの面を統一的に「内面S33」と呼ぶ)の表面粗さは同じである。内面S33の表面粗さを第8の表面粗さSr33と呼ぶ。第1の装着部560の凸部560pおよび第2の装着部570の凸部570pの端面(これらの面を統一的に「端面S34」と呼ぶ)の表面粗さは同じである。端面S34の表面粗さを第9の表面粗さSr34と呼ぶ。
中央部S11の第1の表面粗さSr11は、シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21よりも小さい。
また、(a1)中央部S11の第1の表面粗さSr11、および(a2)シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21は、以下の各表面粗さよりも小さい。
(b1)円柱C1の端面S16の第4の表面粗さSr16。
(b2)シール部520のシール面S22の第3の表面粗さSr22。
(b3)装着部560,570の凸部560p,570pの端面S34の第9の表面粗さSr34。
(c1)円柱C2の側面S15の第5の表面粗さSr15。
(c2)装着部560,570の固定接触面S31の第6の表面粗さSr31。
(c3)装着部560,570の固定接触面S32の第7の表面粗さSr32。
(c4)組み付け穴530,540の内面S33の第8の表面粗さSr33。
また、(b1)円柱C1の端面S16の第4の表面粗さSr16と、(b2)シール部520のシール面S22の第3の表面粗さSr22と、(b3)装着部560,570の凸部560p,570pの端面S34の第9の表面粗さSr34とは、以下の各表面粗さよりも小さい。
(c1)円柱C2の側面S15の第5の表面粗さSr15。
(c2)装着部560,570の固定接触面S31の第6の表面粗さSr31。
(c3)装着部560,570の固定接触面S32の第7の表面粗さSr32。
(c4)組み付け穴530,540の内面S33の第8の表面粗さSr33。
なお、本明細書における「表面粗さ」は、株式会社キーエンスのレーザ顕微鏡VK−9500を使用して測定される、JIS B 0601−1994に定められた「算術平均粗さRa」であるものとする。
対象物の表面粗さと対象物を成形する際の金型の表面粗さとの間に一定の相関が見いだせる場合には、金型の表面粗さを測定することにより、対象物の表面粗さを決定することもできる。
また、表面粗さには、膜弁500の製造ばらつきに因る誤差や、測定箇所の違いなどに因る測定誤差が含まれる場合があり、表面粗さの比較はこれらの誤差を考慮して行われる。二つの面の「表面粗さが同じ」とは、二つの面についてそれぞれ表面粗さの測定を所定回数(20回以上)行った場合に、二つの面の表面粗さの測定値の分布が重複し、その重複範囲が、それぞれの表面粗さの測定値の分布範囲の70%以上であることをいう。そして、「表面粗さが異なる」とは、表面粗さの測定値の分布の重複範囲が、それぞれの表面粗さの測定値の分布範囲の30%以下であることをいう。
同様に、「面Aの表面粗さが面Bの表面粗さよりも小さい」とは、二つの面についてそれぞれ表面粗さの測定を所定回数(20回以上)行った場合に、面Aの表面粗さと面Bの表面粗さが上記の意味において異なり、さらに、面Aの表面粗さの測定値の平均値が面Bの表面粗さの測定値の平均値よりも小さいことをいう。そして、「面Aの表面粗さが面Bの表面粗さよりも大きい」とは、面Aの表面粗さと面Bの表面粗さが上記の意味において異なり、さらに、面Aの表面粗さの測定値の平均値が面Bの表面粗さの測定値の平均値よりも大きいことをいう。
膜弁500の第1の面MS1のうち、変位部550の中央部S11は、後述する中継流路185の上流端を構成する尖端形状部が当接する。シール部520、第1の装着部560、および第2の装着部570の第1の面MS1側の表面には、容器本体110の弁壁600awが当接する(図2および図4参照)。
変位部550の端面S16は、コイルバネ400が当接する(図1および図2参照)。シール部520、第1の装着部560、および第2の装着部570の第2の面MS2側の表面には、バネ座部材300が当接する(図1および図2参照)。
第1の組み付け穴530および第2の組み付け穴540には、後述するバネ座部材300の二つの軸330,340が、それぞれ挿入される(図1参照)。その結果、第1の組み付け穴530および第2の組み付け穴540の内面には、軸330,340の側面が当接する。
図9は、バネ座部材300を示す説明図である。図9(A)は、バネ座部材300を、膜弁500が組み付けられる側から見た状態を表す斜視図である(図1参照)。図9(B)は、バネ座部材300を、膜弁500が組み付けられる側とは逆の側から見た状態を表す斜視図である(図2参照)。図9(C)は、バネ座部材300を、膜弁500が組み付けられる側から見た正面図である。
バネ座部材300は、略ひし形の断面形状を有する略柱状の部材である。略柱状の形状の一端の面である第1面300uには、図9(A)に示すように、柱の軸方向(図9(C)において紙面に垂直かつ手前側の方向)に突出する軸330,340が設けられている。バネ座部材300の第1面300uには、膜弁500の第2の面MS2が第1面300uと向かい合うように、膜弁500が装着される(図1および図2参照)。膜弁500がバネ座部材300の第1面300uに装着される際に、膜弁500の第1の組み付け穴530および第2の組み付け穴540には、軸330,340が、それぞれ挿入される(図1および図8参照)。
図9(C)に示すバネ座部材300の第1面300uには、さらに、凹部である下流バルブ室182とバネ収容室184とが形成されている(図9(A)および図9(C)参照)。バネ収容室184は、バネ座部材300の中央に柱の軸方向に沿って設けられた略円柱状の凹部である。下流バルブ室182は、略円柱状のバネ収容室184と中心軸を同じくする略円錐台状の凹部である。下流バルブ室182は、バネ収容室184に対して第1面300u側に設けられている。下流バルブ室182の円錐台の側面は、円錐台の中心に近づくほど深くなるように傾斜しており、下端において略円柱状のバネ収容室184の側壁と接続している。第1面300uにおける下流バルブ室182の円形の開口は、円形に配された凸部であるリブ310に囲まれている。
図9(C)に示すように、バネ収容室184の底には、流入孔184iが形成されている。一方、バネ収容室184には、流出孔184oが形成されている。流出孔184oは、略円柱状のバネ収容室184の側壁に、円柱の軸方向に沿って設けられた溝部(図9(A)、図9(C)参照)の端に設けられた穴である。
略柱状のバネ座部材300の他方の端面である第2面300dには、図9(B)に示すように、流入路300iと流出路300oとが形成されている。流入路300iは、略柱状のバネ座部材300の側面および底面に開口しており、バネ収容室184の底面の流入孔184i(図9(C)参照)と接続している。流出路300oは、流入路300iとは逆の側のバネ座部材300の側面、およびバネ座部材300の底面に開口しており、バネ収容室184の流出孔184o(図9(C)参照)と接続している。このように、バネ座部材300の内部にインクの流路300i、300oが形成されているので、バルブ部180を小型化できる。
図10は、弁アセンブリ600b(図1および図2参照)の分解斜視図である。バネ座部材300のバネ収容室184には、コイルバネ400が挿入される。そして、コイルバネ400の上から、バネ座部材300の第1面300uに、膜弁500が装着される。その際、膜弁500の第2の面MS2側の円柱C2は、コイルバネ400内に挿入される(図2、図7(B)および図8(B)参照)。また、膜弁500の第1の組み付け穴530、第2の組み付け540には、バネ座部材300の軸330,340が、それぞれ、挿入される。
図8(B)を使用して説明したように、膜弁500の装着部560,570の固定接触面S32の第7の表面粗さSr32(上記(c3))は、以下の各表面粗さよりも大きい。
(a1)中央部S11の第1の表面粗さSr11。
(a2)シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21。
(b1)円柱C1の端面S16の第4の表面粗さSr16。
(b2)シール部520のシール面S22の第3の表面粗さSr22。
(b3)装着部560,570の凸部560p,570pの端面S34の第9の表面粗さSr34。
また、シール部520のシール面S22の第3の表面粗さSr22(上記(b2))は、
シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21(上記(a2))よりも大きい。
このため、バネ座部材300に膜弁500を装着する際に、バネ座部材300の第1面300uと膜弁500とが、膜弁500の第2の面MS2内の方向またはバネ座部材300の第1面300u内の方向について、意図しない相対位置で粘着してしまいにくい。このため、相対位置の微妙な調整をしつつ、膜弁500をバネ座部材300に装着することができる。よって、膜弁500をバネ座部材300上の正しい位置に正確に装着することができる。
また、図8(B)を使用して説明したように、組み付け穴530,540の内面S33の第8の表面粗さSr33(上記(c4))も、以下の各表面粗さよりも大きい。
(a1)中央部S11の第1の表面粗さSr11。
(a2)シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21。
(b1)円柱C1の端面S16の第4の表面粗さSr16。
(b2)シール部520のシール面S22の第3の表面粗さSr22。
(b3)装着部560,570の凸部560p,570pの端面S34の第9の表面粗さSr34。
このため、バネ座部材300に膜弁500を装着する際に、バネ座部材300の軸330,340の側面の意図しない位置に、第1の組み付け穴530および第2の組み付け穴540の内面が粘着してしまいにくい。よって、膜弁500をバネ座部材300上の正しい位置に容易に装着することができる。
さらに、図8(B)を使用して説明したように、円柱C2の側面S15の第5の表面粗さSr15(上記(c1))も、以下の各表面粗さよりも大きい。
(a1)中央部S11の第1の表面粗さSr11。
(a2)シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21。
(b1)円柱C1の端面S16の第4の表面粗さSr16。
(b2)シール部520のシール面S22の第3の表面粗さSr22。
(b3)装着部560,570の凸部560p,570pの端面S34の第9の表面粗さSr34。
このため、膜弁500にコイルバネ400を装着する際に、円柱C2の側面S15の意図しない位置に、コイルバネ400の内面が粘着してしまいにくい。よって、コイルバネ400を膜弁500に対して正しい位置に容易に装着することができる。
また、同様に、図8(B)を使用して説明したように、円柱C1の端面S16の第4の表面粗さSr16(上記(b1))は、以下の各表面粗さよりも大きい。
(a1)中央部S11の第1の表面粗さSr11。
(a2)シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21。
このため、円柱C1の端面S16が、中央部S11やシール部520のシール面S21と同程度の表面粗さで設けられている態様に比べて、バネ座部材300に膜弁500を装着する際に、コイルバネ400の上端と膜弁500とが、端面S16の面内の方向について、意図しない相対位置で粘着してしまいにくい。このため、コイルバネ400の上端部は、膜弁500に対して微妙に位置をずらしつつ、最も安定する位置および姿勢でバネ座部材300内に保持されることとなる。
一方、円柱C1の端面S16の第4の表面粗さSr16(上記(b1))は、以下の各表面粗さよりも小さい。
(c1)円柱C2の側面S15の第5の表面粗さSr15。
(c2)装着部560,570の固定接触面S31の第6の表面粗さSr31。
(c3)装着部560,570の固定接触面S32の第7の表面粗さSr32。
(c4)組み付け穴530,540の内面S33の第8の表面粗さSr33。
このため、円柱C1の端面S16が、円柱C2の側面S15、装着部560,570の固定接触面S31,S32、ならびに組み付け穴530,540の内面S33と同程度の表面粗さで設けられている態様に比べて、コイルバネ400の上端と膜弁500とをいったん正確に位置決めして接触させた後には、端面S16の面内の方向について、意図しない相対位置にずれにくい。このため、コイルバネ400の上端部は、最も安定する位置および姿勢でバネ座部材300内に保持されることとなる。
図2に示すように、弁アセンブリ600bは、弁収容室600aに嵌め込まれる。その際、弁アセンブリ600bは、バネ座部材300の第1面300uが、弁収容室600aの弁壁600awに向かい合う向きに配される。すなわち、バネ座部材300に装着された膜弁500の第1の面MS1が、弁収容室600aの弁壁600awに向かい合う向きに、弁アセンブリ600bは配される。その際、シール部520のシール面S21は、弁壁600awに密着する。シール面S21の第2の表面粗さSr21は、第3〜第9の表面粗さ(上記(b1)〜(b3)、(c1)〜(c4)参照)よりも小さい。このため、膜弁500と弁壁600aの間からインクが漏出しにくい。
また、図8(B)を使用して説明したように、装着部560,570の固定接触面S31の第6の表面粗さSr31(上記(c2))は、以下の各表面粗さよりも大きい。
(a1)中央部S11の第1の表面粗さSr11。
(a2)シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21。
(b1)円柱C1の端面S16の第4の表面粗さSr16。
(b2)シール部520のシール面S22の第3の表面粗さSr22。
(b3)装着部560,570の凸部560p,570pの端面S34の第9の表面粗さSr34。
このため、容器本体110の弁収容室600aに弁アセンブリ600bを装着する際に、固定接触面S31が粘着しない分だけ、容器本体110の弁壁600awと膜弁500とが意図しない相対位置で粘着してしまいにくい。よって、相対位置の微妙な調整をしつつ、膜弁500を容器本体110の弁壁600awに装着しやすい。その結果、膜弁500を弁壁600aw上の正しい位置に正確に装着することができる。
膜弁500の表面各部の表面粗さが意図的に設定および制御されていない態様においては、膜弁500と他の部材とを組み付ける際に、他の部材が膜弁500の意図しない位置に粘着してしまうことがある。そのような場合には、膜弁500と他の部材との組み付けが正確に行われず、その結果として、それらの部材で構成されたバルブ部180が正確に動作しなくなる。たとえば、正しい位置からずれた位置に膜弁500が組み込まれた場合には、正しい方向に変形および変位しなくなり、本来の圧力差のしきい値において弁が開閉しなくなるおそれがある。
また、他の部材が膜弁500の意図しない位置に粘着してしまった場合には、いったん粘着した膜弁を引きはがして再度、他の部材に対して膜弁の位置決めを行うこともできる。しかし、そのような場合にも、他の部材から膜弁を引きはがす際に加えた力により、膜弁に残留変形が生じてしまい、膜弁が正しく機能しなくなるおそれもある。
しかし、本実施例においては、膜弁500は、組み付けの際に他の部材と接触する部分((c1)円柱C2の側面S15、(c2)装着部560,570の固定接触面S31、(c3)装着部560,570の固定接触面S32、(c4)組み付け穴530,540の内面S33など)の表面粗さは、(a1)中央部S11や(a2)シール部520のシール面S21の表面粗さよりも大きく設定されている。よって、本実施例の膜弁500は、他の部材に対して正確に組み付けられることができ、かつ、他の部材を正確に組み付けることができる。また、引きはがしおよび再組み付けに起因する膜弁の動作不良も生じにくい。さらには、仮に正しい位置からずれた位置に膜弁500装着された場合にも、バネ400の付勢力によって、バネ座部材300および弁収容室600aの形状と、膜弁500の形状とがよりよく一致するように、位置ズレが矯正される可能性もある。また、それらの効果により、個々のインクカートリッジ100の製造の際のばらつきが少なくなる。
図4に示すように、弁壁600awには、2つの凹部630、640が設けられている。凹部630、640は、バネ座部材300の軸330,340(図10参照)の先端を挿入するための凹部である。弁アセンブリ600bが弁収容室600aに嵌め込まれた状態において、軸330の先端は凹部630内にあり、軸340の先端は凹部640内にある。このような態様とすることにより、弁アセンブリ600bを容器本体110に組み付ける際の、軸330,340の位置ずれの可能性、すなわちバネ座部材300の位置ずれの可能性を低減することができる。膜弁500は、そのように位置決めされたバネ座部材300の第1面300uと、弁収容室600aの弁壁600awとに、挟まれる。
図11は、バルブ部180の側面図である。図11(A)は、弁アセンブリ600bの装着前の状態における、バルブ部180の拡大図である(図2および図4参照)。図11(B)は、弁アセンブリ600bの装着後の状態のバルブ部180の拡大図である。図11(A)に示すように、容器本体110の弁壁600awの中央には、尖端形状部115によって囲まれた開口453が設けられている。また、開口453を挟んで対称の位置に、2つの凹部630、640が設けられている。前述のように、弁アセンブリ600bが弁収容室600aに嵌め込まれた状態において(図11(B)参照)、バネ座部材300の軸330の先端は凹部630内に挿入されており、軸340の先端は凹部640内に挿入されている。
図11(A),(B)の左側に示す第1流路462は、容器本体110の側面SS1,SS2と直交する向きの流路であり、容器本体110の第1側面SS1と第2側面SS2とを連通している(図2も参照)。図2に示すように、この第1流路462は、弁収容室600aの内壁に形成された溝を含んでいる。図11(B)に示すように、バネ座部材300の流入路300iは、第1流路462と、バネ収容室184の流入孔184iとを連通する(図9(B)も参照)。
一方、図11(A),(B)の右側に示す第2流路464は、弁収容室600aの内壁から、容器本体110の第1側面SS1と平行に延びる流路である(図2も参照)。第2流路464は、一端においてインク供給部120と連通している(図4参照)。また、第2流路464の他端は、図11(B)に示すように、バネ座部材300の流出路300oと連通する(図9(B)も参照)。
図12は、図11(B)に2点鎖線で示すバルブ部180のE1−E1断面の一部を示す断面図である。図11(A),(B)に示すように、E1−E1断面は、開口453の中心軸(図12中の軸AXEと同じ)を通り、開口452(図11(A)参照)と流出孔184o(図11(B)参照)とを通らない断面である。このため、たとえば、膜弁500のうち、第1の装着部560と第2の装着部570の断面は、図12に現れていない(図8(B)参照)。
図12は、バルブ上流路170と、バルブ下流路190との間が膜弁500によって遮断された状態(非連通状態、閉弁状態)を示している。バルブ部180には、上流バルブ室181と下流バルブ室182とバネ収容室184とが形成されている。上流バルブ室181は略円盤状の形状を有する。ただし、円盤形状の中央には、円形の尖端形状部115に囲まれた開口453が存在する。下流バルブ室182は、前述のように、略円錐台状の形状を有する(図9(A)、図10参照)。バネ収容室184は、略円柱状の形状を有する(同)。上流バルブ室181と下流バルブ室182とバネ収容室184とは、その順に並んで配される。上流バルブ室181と下流バルブ室182とバネ収容室184とは、中心軸AXEを共有する。
上流バルブ室181には、略円形の開口453を介して、後述する中継流路185の一端が接続される。バネ収容室184には、略円形の流入孔184iを介して、その中継流路185の他端が接続される。バネ収容室184は、上流バルブ室181から送出されたインクを、中継流路185および流入孔184iを介して受け取る。開口453、上流バルブ室181、下流バルブ室182、バネ収容室184、流入孔184iは、中心軸AXEを共有する。なお、中継流路185は、図2および図11(B)に示す第1流路462、ならびに図9(B)および図11(B)に示す流入路300iを一部に含む。
膜弁500のシール部520は、容器本体110のシール部分118とバネ座部材300との間に挟持され、流路内の位置を固定される。その際、シール部520の第1の面MS1側のシール面S21は、容器本体110のシール部分118と密着する。このため、前述のように、膜弁500のシール面S21と容器本体110のシール部分118との間から上流バルブ室181内のインクが外部に漏れ出す可能性は抑制される。
一方、シール部520の第2の面MS2側のシール面S22の第3の表面粗さSr22(上記(b2))は、シール面S21の第2の表面粗さSr21(上記(a2))より大きい。
しかし、シール面S22の第3の表面粗さSr22(上記(b2))は、
(c1)円柱C2の側面S15の第5の表面粗さSr15、
(c2)装着部560,570の固定接触面S31の第6の表面粗さSr31、
(c3)装着部560,570の固定接触面S32の第7の表面粗さSr32、
(c4)組み付け穴530,540の内面S33の第8の表面粗さSr33よりは小さい。
また、シール部520のシール面S22には、バネ座部材300の第1面300uに配されたリブ310(図9(A)参照)が押し付けられる。
このため、膜弁500のシール面S22と容器本体110のシール部分118との間から下流バルブ室182内のインクが外部に漏れ出す可能性は抑制される。
膜弁500のシール部520ならびに第1の装着部560および第2の装着部570が、容器本体110とバネ座部材300との間に挟持されることにより、膜状部510の流路内の位置が固定される。その結果、変位部550は、上流バルブ室181と下流バルブ室182との間において膜状部510に支持されることになる。
上流バルブ室181は、容器本体110の一部である弁壁600awと膜弁500(特に膜状部510と変位部550)の第1の面MS1とによって区画形成されている。下流バルブ室182は、バネ座部材300と、膜弁500(特に膜状部510と変位部550)の第2の面MS2とによって区画されている。前述のように、円錐台形状を有する下流バルブ室182の円錐台の側面は、円錐台の中心に近づくほど深くなるように傾斜しており、下端において略円柱状のバネ収容室184の側壁と接続している。
バネ座部材300には、コイルバネ400の他端を支持するバネ支持部320が形成されている。バネ支持部320が、バネ収容室184の下端である流入孔184iを定める。バネ収容室184には、付勢部材としてのコイルバネ400が収容されている(図10も参照)。なお、バネ支持部320が設けられたバネ座部材300が容器本体110に嵌合され固定されていることから、バネ支持部320は、バルブ上流路170、上流バルブ室181、下流バルブ室182、バネ収容室184、バルブ下流路190等からなる流路内において固定されている。
コイルバネ400は、膜弁500の変位部550を、矢印Amで示す方向に沿って、容器本体110の尖端形状部115に向かう向きに付勢している。変位部550は、円柱C1の端面S16を介してコイルバネ400と接触している。一方、変位部550の円柱C2の側面S15は、コイルバネ400と接触している場合もあり、コイルバネ400と接触していない場合もある。しかし、変位部550の円柱C2は、コイルバネ400内に挿入されることにより、コイルバネ400の伸縮方向Amに垂直な方向Psについて、コイルバネ400の位置を規制している。
図13は、閉弁状態にあるバルブ部180の概略断面図である。図14は、開弁状態にあるバルブ部180の別の概略断面図である。これらの断面図は、図11(A)におけるE2−E2断面と、図11(B)におけるE3−E3断面とを合成したものである。図13、図14において一点鎖線で区切った右下の領域が、E3−E3断面であり、残りの部分はE2−E2断面である。E2−E2断面は、図11(A)に示すように、第1流路462と、開口453の中心軸AXEと、開口452とを通る断面である。E3−E3断面は、図11(B)に示すように、図11の紙面に垂直な面の組み合わせである。E3−E3断面は、流入孔184iから流出孔184oに向かう平面と、流出孔184oから流出路300oを通って第2流路464へ至る平面とを含む。
なお、図13、図14の右側においては、上段でE2−E2断面における構造を示し、下段で、本来E2−E2断面における構造よりも寸法が長いはずのE3−E3断面における構造を示している。このため、図13、図14においては、E2−E2断面とE3−E3断面とで図の上下方向の構造を一致させるため、E3−E3断面については、中心軸AXEと垂直な方向の縮尺が調整されている。
図13および図14に示すように、バルブ部180の上流バルブ室181は、弁壁600awの開口452を介して、バルブ上流路170としての流路450と接続されている。流路450は、他端においてバッファ室160と連通している(図6参照)。上流バルブ室181は、この弁壁600awの開口452を介して、バルブ部180外部(ここでは、バルブ上流路170およびバッファ室160)からインクを受け入れる。
また、バルブ部180の上流バルブ室181は、弁壁600awの開口453を介して、中継流路185としての流路460、第1流路462および流入路300iと接続され得る。中継流路185は、他端においてバネ収容室184の流入孔184iと連通している。したがって、上流バルブ室181は、開口453および中継流路185を介して、バネ収容室184およびバネ収容室184と連通する下流バルブ室182にインクを送出し得る。ただし、図13において、弁壁600awの中心の開口453は、変位部550の当接領域S11によって塞がれている。すなわち、図13の状態において、バルブ部180は閉弁状態にある。図14に示す開弁状態にあるとき、上流バルブ室181は、開口453および中継流路185を介して、バネ収容室184および下流バルブ室182にインクを送出し得る。
バルブ部180のバネ収容室184は、底部の流出孔184oを介して、バルブ下流路190としての流出路300oおよび第2流路464と接続されている。下流路190は、他端において、インク供給部120と連通している(図6参照)。バネ収容室184およびバネ収容室184と連通する下流バルブ室182は、流入孔184iから流入したインクを、下流路190およびインク供給部120に送出する。
図13、図14に示すように、バルブ上流路170は、膜弁500の一方の側にある上流バルブ室181と連通している。そして、バルブ下流路190は、バネ収容室184を介して、膜弁500の他方の側にある下流バルブ室182と連通している。すなわち、バルブ部180の上流バルブ室181と下流バルブ室182は、インク収容室140からインク供給部120に至る流路の一部を構成する(図6参照)。そして、バルブ部180の一部である膜弁500は、バルブ上流路170とバルブ下流路190との間に介在している。
バルブ下流路190の液圧は、流出孔184o、バネ収容室184および下流バルブ室182を介して、膜弁500の第2の面MS2にかかる。このバルブ下流路190の液圧とバネ400による付勢力とが、膜弁500を閉弁状態に維持しようとする力(閉弁力)となる(図13参照)。一方、バルブ上流路170の液圧は、開口452および上流バルブ室181を介して、膜弁500の第1の面MS1にかかる。このバルブ上流路170の液圧が膜弁500を開弁状態にしようとする力(開弁力)となる(図14参照)。これらの力の大小関係に応じて、変位部550は、図13、図14において矢印Amで示す方向に沿って変位する。その結果、バルブ部180は開閉される。
尖端形状部115と接触し、尖端形状部115から離れる中央部S11の第1の表面粗さSr11(上記(a1))は、第2〜第9の表面粗さ(上記(a2)、(b1)〜(b3)、(c1)〜(c4)参照)よりも小さい。このため、バルブ部180が閉状態となるときには、変位部550の中央部S11は、尖端形状部115に密着する。よって、バルブ部180は、閉状態において、開口453を介したインクの流通を確実に止めることができる。
また、膜弁500は弾性変形しやすいエラストマーで形成されている。このため、膜弁がゴムで形成されている態様に比べて、バルブ部180は、開弁力と閉弁力の大きさの微妙な差を変位部550の位置に反映することができる。よって、バルブ部180は下流側の流路内の圧力を正確に制御することができる。また、膜弁がゴムで形成されている態様に比べて、膜弁500の大きさ(特に膜状部510の直径)に対して大きく変位することができる。よって、膜弁がゴムで形成されている態様に比べて、バルブ部180を小さく設けることができる。
A3.膜弁の動作:
図13に示す変位部550の位置は、閉弁力が開弁力よりも大きい場合における定常状態の変位部550の位置である。本明細書において、この位置を「基準位置P1」と呼ぶ。変位部550が基準位置P1にあるとき、バルブ部180は閉弁状態にある。なお、基準位置P1は、変位部550が矢印Amの方向に沿って移動しうる位置の範囲のうち、一端(図13において上端)の位置である。すなわち、基準位置P1は、容器本体110のうちバルブ上流路170の下流端部を規定する尖端形状部115に、変位部550が接して、コイルバネ400による変位を制限されている状態における、変位部550の位置である。
インクジェットプリンターによりインクが消費されると、インク供給部120からインクがインクジェットプリンターに供給される(図6参照)。すると、バルブ下流路190(流出路300o、第2流路464)内のインクの圧力が低下する。やがて、バネ収容室184と下流バルブ室182の負圧に起因する力と、バネ400による付勢力との和である膜弁500の閉弁力が、上流バルブ室181の圧力に起因する膜弁500の開弁力より小さくなる。すると、膜弁500の膜状部510が変形して、矢印Amの方向に沿って、変位部550が尖端形状部115から離れる向き(図12、図13において下方)に動く。その結果、図14に示すように、尖端形状部115と膜弁500の当接領域とが離れてそれらの間に隙間が形成され、上流バルブ室181、中継流路185、ならびに下流バルブ室182およびバネ収容室184とを介して、バルブ上流路170が、バルブ下流路190と連通した状態になる。すなわち、バルブ部180は、開弁状態となる。
開弁状態においては、バルブ上流路170から中継流路185および下流バルブ室182にインクが流入する(図14の矢印Fi参照)。その結果、下流バルブ室182の液圧が上昇する。下流バルブ室182の液圧とバネ400による閉弁力が、上流バルブ室181の液圧による開弁力を上回ると、膜状部510は再び変形し、変位部550が、矢印Amの方向に沿って尖端形状部115に近づく向きに変位する。そして、図13に示すように、変位部550が尖端形状部115に接触して押圧された状態となると、中継流路185の上流端部(開口453)は閉じられ、バルブ上流路170とバルブ下流路190との連通は遮断される(図13参照)。すなわち、膜弁500は閉弁状態となる。
尖端形状部115に近づく向きの閉弁力には、コイルバネ400の付勢力が加わっている。このため、下流バルブ室182およびバルブ下流路190の液圧は、大気圧を受けているバルブ上流路170の液圧より低く維持される。すなわち、バルブ下流路190内部のインクの圧力は、常に大気圧より低い負圧に維持される。その結果、インクカートリッジ100のインク供給部120(図2参照)からのインク漏れを抑制することができる。すなわち、バルブ部180は、バルブ上流路170とバルブ下流路190の圧力差に応じて動作し、差圧弁として機能する。なお、本明細書において「差圧弁」とは、一次側と二次側圧力の差を、ある範囲内に保持する調整弁である。
中央部S11と尖端形状部115とが密着して開口453を閉じる際には、エラストマーで設けられた中央部S11の表面に不可避的に存在する微小な凹凸がつぶれて、すなわち、弾性変形してより平坦に近い状態となり、中央部S11と尖端形状部115とが密着する。また、中央部S11と尖端形状部115とが離れて開口453を開く際には、中央部S11の微小な凹凸がつぶれた状態からもとの状態に弾性変形した後、中央部S11と尖端形状部115との間に十分な大きさの隙間が形成される。このような微小な凹凸の弾性変形が行われている時間は、弁の開閉の応答遅れとなり、正確かつ迅速な制御を阻害する。
しかし、本実施例においては、中央部S11の第1の表面粗さSr11(上記(a1))は、第2〜第9の表面粗さ(上記(a2)、(b1)〜(b3)、(c1)〜(c4)参照)よりも小さい。このため、中央部S11の表面粗さを他の第2〜第9の構成部分と同等に設定している態様に比べて、上記の弾性変形が行われる時間が短い。よって、バルブ部180が開状態から閉状態に移行する際の応答遅れ、および、バルブ部180が開状態から閉状態に移行する際の応答遅れを小さくすることができる。
A4.膜弁500の搬送:
図15は、膜弁500を搬送する際の搬送用トレイの表面STにおける膜弁500の状態を示す断面図である。膜弁500を搬送する際には、膜弁500は、搬送用トレイの表面STに第2の面MS2の側を下にして配される。その際、膜弁500は、変位部550の円柱C2の端面S17と、装着部560,570の凸部560p,570pの端面S34とによって、搬送用トレイの表面ST上に支持される(図7(B)も参照)。なお、搬送用トレイの表面STは平滑な面である。
装着部560,570の凸部560p,570pの端面S34の第9の表面粗さSr34(上記(b3))は、以下の各表面粗さよりも小さい。
(c1)円柱C2の側面S15の第5の表面粗さSr15。
(c2)装着部560,570の固定接触面S31の第6の表面粗さSr31。
(c3)装着部560,570の固定接触面S32の第7の表面粗さSr32。
(c4)組み付け穴530,540の内面S33の第8の表面粗さSr33。
このため、装着部560,570の凸部560p,570pの端面S34は、搬送用トレイの平滑な表面ST上に密着しやすい。よって、搬送用トレイに載せて膜弁500を搬送する際に、搬送用トレイ上で膜弁500が動かないように固定するための装備(ジグなど)を簡略なものとすることができる。
また、装着部560,570の凸部560p,570pの端面S34の第9の表面粗さSr34(上記(b3))は、(a1)中央部S11の第1の表面粗さSr11、および(a2)シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21よりも大きい。
このため、搬送後に、バネ座部材300に組み付けるために搬送用トレイから膜弁500をはずす際に大きな力が必要なく、その結果、搬送用トレイからはずす際に膜弁500に残留変形を生じさせる可能性が低い。
なお、本実施例において、膜弁500が、「課題を解決するための手段」における「可動膜」に相当する。中間流路150と、バッファ室160と、バルブ上流路170と、バルブ部180と、バルブ下流路190とが、「流路」に相当する。上流バルブ室181が「第1室」に相当する。下流バルブ室182とバネ収容室184とが、「第2室」に相当する。開口453が「流出口」に相当する。尖端形状部115が「流出口の外周部」に相当する。変位部550が「変位部」に相当する。膜状部510が「変形部」に相当する。容器本体110(たとえば弁壁600aw)およびバネ座部材300が、「流路構成部材」に相当する。シール部520が「外周シール部」に相当する。第1の装着部560と第2の装着部570とが、「装着部」に相当する。中央部S11が、「外周接触面」に相当する。固定接触面S31、固定接触面S32および内面S33が、「固定接触面」に相当する。
また、本実施例において、シール面S21,S22が、それぞれ「第1のシール面」、「第2のシール面」に相当する。コイルバネ400が「コイルバネ」に相当する。円柱C1の端面S16が「バネ支持部」に相当する。円柱C2の側面S15が「バネ規制部」に相当する。凸部560p,570pの端面S34が、「膜支持部」に相当する。
さらに、本実施例において、インク収容室140が、「課題を解決するための手段」における「流体収容部」に相当する。供給孔120aが「流体供給口」に相当する。バルブ部180が「差圧弁」に相当する。
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
B1.変形例1:
上記実施例においては、中央部S11の第1の表面粗さSr11は、シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21よりも小さい。しかし、中央部S11の第1の表面粗さSr11は、シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21と等しくてもよい。なお、中央部S11の第1の表面粗さSr11は、シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21以下であることが好ましい。
また、上記実施例においては、シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21は、シール部520のシール面S22の第3の表面粗さSr22よりも小さい。しかし、シール部520のシール面S21の第2の表面粗さSr21は、シール部520のシール面S22の第3の表面粗さSr22と等しくてもよい。なお、第2の表面粗さSr21は、第3の表面粗さSr22以下であることが好ましい。
なお、「ある面Aの表面粗さが他の面Bの表面粗さ以下である」とは、面Aの表面粗さが、本明細書における意味で、面Bの表面粗さと同じか、または、面Aの表面粗さが、本明細書における意味で、面Bの表面粗さよりも小さいことを意味する。
さらに、上記の各表面粗さの大小関係は、一部のみを抜粋して適用することもでき、抜粋した複数組の表面粗さの大小関係をして組み合わせて適用することもできる。
B2.変形例2:
上記実施例では、インクカートリッジ100が使用される状態において、鉛直方向(Z軸方向)に垂直なY軸方向に変位部550が変位するような姿勢に、弁アセンブリ600bは取り付けられる(図1および図2参照)。しかし、本発明の実施態様としての差圧弁や液体容器は、上記実施例とは異なる様々な姿勢で配することができ、そのような姿勢においても効果を奏し得る。
たとえば、インクカートリッジが使用される状態において、鉛直方向(Z軸方向)に変位部550が変位するような姿勢に、すなわち、図12〜図14の下方が鉛直下方と一致するように、弁アセンブリ600b(バルブ部180)が取り付けられる態様とすることができる。
そのような態様においては、図12および図14に示すように、閉弁状態において、膜状部510および外縁部S13の上面は、中央部S11の上面よりも高い位置にある。そして、傾斜部S12は、中央部S11に近づくにつれて低くなるスロープとなる。すなわち、膜状部510の上面と変位部550(外縁部S13と傾斜部S12)の上面S1の高さは、中央部S11に近づくにつれて単調減少する。図14に示す開弁状態においては、中央部S11に近づくにつれて膜状部510の上面と変位部550の上面の高さが低くなる度合いが、より増大する。そして、中央部S11の鉛直上方には、中継流路185との接続部分である開口453が位置する。
このような態様においては、開口452から上流バルブ室181に流入したインクは、重力に引かれて膜状部510、外縁部S13および傾斜部S12の上面を流れ、中央部S11に集まる。そして、中央部S11の鉛直上方に位置する開口453から、中継流路185に向けて吸引されることになる。このため、このような態様においては、インクの残量が少なくなったときにも、インクを効率的に印刷に使用することができる。よって、印刷に使用されずインクカートリッジ内に残るインクの量を少なくすることができる。
なお、上記の態様においては、膜状部510の上面と変位部550の上面S1(外縁部S13と傾斜部S12)の全体について、その高さが、中央部S11に近づくにつれて単調減少する(図12〜図14参照)。しかし、膜状部510の上面と変位部550の上面S1には、一部において、中央部S11に近づくにつれて高さが単調減少しない部分が存在してもよい。ただし、外周接触部としての中央部S11の周辺の所定の範囲においては、中央部S11に近づくにつれて高さが単調減少することが好ましい。また、そのような状態は、少なくとも開弁状態において実現されることが好ましく、開弁状態と閉弁状態の両方において実現されることがさらに好ましい。
B3.変形例3:
上記実施例においては、変位部を付勢するバネとして、コイルバネ400が採用されている。しかし、変位部を付勢する構成としては、板バネや、柔軟性を有する樹脂製の部材など、他の様々な態様を採用することができる。
B4.変形例4:
上記実施例では、流体としての液体のインクを収容するインクカートリッジ100について説明した。しかし、本発明は、液体に限らず、気体などの他の流体を収容する流体容器や、その流体容器において流体の制御のために使用される差圧弁その他の構造に適用することもできる。
また、上記実施例および変形例では、バルブ部180は、インク収容室140と供給孔120aとを結ぶ流路に設けられており、インクの流れを制御する(図6参照)。しかし、バルブ部180と同様の構成は、大気解放孔130aとインク収容室140とを結ぶ流路に設けることもできる。そのような態様においては、バルブ部は、流路において空気の流れを制御する。より具体的には、図12〜図14に示した上流バルブ室181、下流バルブ室182、バネ収容室184等を含む各流路には、インクに代わって空気が流入する。その結果、上流バルブ室181の空気の圧力と、下流バルブ室182およびバネ収容室184の空気の圧力との差に応じて、開口453が開閉される。すなわち、両者の圧力差に応じて、空気の流通が許容され、または止められる。このような態様においても、制御の対象が、流体としてのインクではなく空気である点を除いて、上記各実施例と同様の効果が奏される。
なお、上記の態様においては、大気解放孔130aが、「課題を解決するための手段」における「吸気口」に相当する。大気解放孔130aとインク収容室140とを結ぶ流路(上記実施例においては蛇行路130がこれに含まれる)が、「流路」に相当する。他の構成の対応関係は、上記実施例において説明した対応関係と同じである。