以下に、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。はじめに、本実施の形態の概要を説明する。
〔スイッチング素子のスイッチング回数の低減〕
本実施の形態で説明する電力変換装置では、一定の周波数で変化する搬送波を使用したパルス幅変調方式であるPWM制御モードと、直流電力から変換される交流電力の波形の角度すなわち位相に基づいて、上記スイッチング素子で行う導通あるいは遮断のスイッチング動作を制御し、パルスに含まれる高調波で信号を変調する制御モード(以下に、PHM制御という)と、を適切に切り替えて回転電機を駆動する。
このような構成および作用により、上記スイッチング素子におけるスイッチング動作の単位時間当たりの回数、あるいは交流電力の1サイクル当たりのスイッチング回数を、一般のPWM方式に比べ低減できる。スイッチング回数を低減したことで回転電機の中性点電圧変動による漏えい電流(以下コモンモード電流)の発生する回数も低減でき、伝導ノイズ(以下コモンモードノイズ)の発生も抑えられる。工場設備においては、他の機器へのノイズの影響を抑えるために、電力変換器と共にノイズフィルタを設置する場合が多いが、本発明のPHM制御を採用することによりノイズフィルタの小型化を図ることが可能となる。また、回転電機の中性点電圧変動が発生すると、モータベアリングを介してコモンモード電流が流れ、放電によりベアリングの電食を引き起こす要因となるため、本方式を採用しスイッチング回数の低減を行うことにより、ベアリングの電食抑制の効果を得ることができる。
なお、スイッチング素子としては、動作速度が速く、また制御信号に基づき導通および遮断動作の両方を制御できる素子が望ましく、このような素子として例えばinsulated gate bipolar transistor(以下IGBTと記す)や電界効果トランジスタ(MOSトランジスタ)があり、これらの素子は応答性や制御性の点から望ましい。
上記電力変換装置から出力される交流電力は回転電機などで構成されるインダクタンス回路に供給され、インダクタンスの作用に基づいて交流電流が流れる。本実施の形態ではインダクタンス回路としてモータやジェネレータの作用を為す回転電機を例に挙げ説明している。回転電機を駆動する交流電力を発生するために本発明を使用することは、効果の点から、非常に有用であるが、回転電機以外のインダクタンス回路に交流電力を供給する電力変換装置としても使用できる。
本実施の形態では、回転電機の回転速度の速いまたは制御回路が出力しようとする交流電力周波数の速い第1の動作範囲では、出力しようとする交流波形の位相に基づいて、スイッチング素子のスイッチング動作を制御するPHM制御を用い、一方上記第1の動作範囲より回転電機の回転速度が遅いまたは制御回路が出力しようとする交流電圧周波数の遅い第2の動作領域では、一定周波数の搬送波に基づいてスイッチング素子の動作を制御するPWM方式で上記スイッチング素子を制御する。上記第2の動作領域には上記回転電機の回転子が停止状態を含めることができる。
〔基本的制御〕
本実施の形態では、基本的制御として、交流電力を供給する回転電機の低速運転状態あるいは供給しようとする交流電力の周波数が低い状態ではPWM制御で、上記交流電力を発生し、回転電機の回転速度が上昇した状態あるいは供給しようとする交流周波数の周波数が高い状態では、PHM制御による交流電力の発生制御に移行する。これにより歪の影響をできるだけ押さえ、スイッチング素子のスイッチング回数低減を実現できる。
また上記基本制御とは別の観点で、回転電機の高速運転状態または高出力運転では、PHM制御の内のスイッチング回数が最少となる、以下に説明の矩形波制御に移行する。
PHM制御では、出力する交流波形の位相に対応してスイッチングタイミングが制御され、変調度を高くするにつれて交流電力の半周期(電気角のゼロからπ、あるいはπから2π)におけるスイッチング回数が徐々に減少し、最後は、半周期に1回導通するだけとなる矩形波制御に移行する。
すなわちPHM制御では、モータ線間電圧から削除する削除対象高調波次数の数を減らしていくと、例えば(3次,5次,7次,11次,13次)→(3次,5次,7次,11次)→(3次,5次,7次)→(3次,5次)→無(矩形波)交流電力の半周期(電気角のゼロからπ、あるいはπから2π)におけるスイッチング回数が徐々に減少し、最後は、半周期に1回導通するだけとなる矩形波制御に移行する。
このように本実施の形態では、スイッチング素子のスイッチング回数が最少となる矩形波制御にスムーズに移行できるメリットもあり、このため制御性に優れている。
以下に、本発明の実施形態に係る電力変換装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の実施形態に係る電力変換装置は、産業用途として工場の設備を駆動する回転電機、特にファンやポンプに供給する交流電力を発生するための産業用の電力変換装置に適用した例である。代表例として、本発明の実施形態に係る電力変換装置をファンに適用した場合の制御構成と電力変換装置の回路構成について、図1と図2(a)を用いて説明する。図1はファンの制御ブロックを示すもの図である。
本発明の実施形態に係る電力変換装置では、ファンに交流電力を供給する電力変換装置について説明する。特に、工場内設備として室内の天井に設置され、清浄空気を室内に供給させ室内を清浄に保つために利用されるファン駆動用電力変換装置を例に挙げて説明する。前記ファンについては、工場の稼働に合わせ運転を継続するため、年間の稼働時間が長くランニングコストを重視するため、高効率化の要求が高い。また、ファン・ポンプ用途の運転範囲は、一般に定常時の運転域は(最低回転数):(最高回転数)の比率が、1:3から1:2であり、中高速域における運転が主たる運転範囲となる。
この電力変換装置は、単相もしくは三相の電源より得られた交流電力を整流回路、主にダイオード整流回路を用い、直流電力に変換し平滑用コンデンサに蓄え、直流電力を所定の交流電力に変換し、得られた交流電力を回転電機に供給し、ファンを駆動する。
なお、本実施形態の構成は、ファンやポンプなどを駆動するための交流電力を供給する電力変換装置として適している。しかし、これら以外の電力変換装置、例えば電車や船舶、航空機などの電力変換装置、さらに工場の設備を駆動する上記ファンやポンプ以外の回転電機、例えば圧縮機や運搬・搬送用コンベア等に供給する交流電力を発生する為の産業用の電力変換装置、或いは家庭の太陽光発電システムや家庭の電化製品を駆動する回転電機の制御装置に用いられたりする電力変換装置に対しても適用可能である。
また、回転電機を外力(エンジン・風水力など)により駆動することにより、発電機として使用し、交流電力を発生させて交流電力を直流電力に変換する電力変換装置に対しても適用可能である。
図1において、電源110は設置される工場設備の単相もしくは3相の商用電源である。電源110より供給される交流電力は、整流回路112により直流電力に変換され、平滑用コンデンサ500に一時的に蓄えられる。整流回路112については、一般にダイオードによる整流回路が適用される。平滑用コンデンサ500を介して供給される直流電力を電力変換装置200により、所定の交流電力へと変換し、回転電機192に供給することにより、回転軸116等により回転電機192に接続されたファン114の駆動を行う。
次に、図2(a)を用いて電力変換装置と回転電気の電気回路構成を説明する。尚、図2(a)に示す実施形態では、電源110とそれを整流し直流電力を供給する整流回路112部分を直流電源136として示している。
本実施形態に係る電力変換装置200は、パワースイッチング回路144と制御部170とを有している。また、パワースイッチング回路144は、上アームとして動作するスイッチング素子と下アームとして動作するスイッチング素子を有している。この実施の形態ではスイッチング素子としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を使用している。上アームとして動作するIGBT328はダイオード156と並列接続されており、下アームとして動作するIGBT330はダイオード166と並列接続されている。上下アームの直列回路150を複数有し(図2(a)の例では3つの上下アームの直列回路150)、それぞれの上下アームの直列回路150の中点部分(接続点169)から交流端子159を通して回転電機192への交流電力線(交流バスバー)186と接続する構成である。また、制御部170はパワースイッチング回路144を駆動制御するドライバ回路174と、ドライバ回路174へ信号線176を介して制御信号を供給する制御回路172と、を有している。
上アームと下アームのIGBT328や330は、スイッチング素子であり、制御部170から出力された駆動信号を受けて動作し、直流電源136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。この変換された電力は回転電機192の電機子巻線に供給される。
パワースイッチング回路144は3相のブリッジ回路により構成されている。直流電源136の正極側と負極側には、直流正極端子314と直流負極端子316が電気的に接続されている。直流正極端子314と直流負極端子316の間には、各相に対応する上下アームの直列回路150,150,150がそれぞれ電気的に並列に接続されている。ここで、上下アームの直列回路150をアームと記載する。各アームは、上アーム側のスイッチング素子328及びダイオード156と、下アーム側のスイッチング素子330及びダイオード166とを備えている。
本実施形態では、スイッチング素子としてIGBT328や330を用いることを例示している。IGBT328や330は、コレクタ電極153,163、エミッタ電極(信号用エミッタ電極端子155,165)、ゲート電極(ゲート電極端子154,164)を備えている。IGBT328,330のコレクタ電極153,163とエミッタ電極との間には、ダイオード156,166が図示するように電気的に並列に接続されている。ダイオード156,166は、カソード電極及びアノード電極の2つの電極を備えている。IGBT328,330のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極がIGBT328,330のコレクタ電極に、アノード電極がIGBT328,330のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。スイッチング素子としては、MOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよい。この場合は、ダイオード156やダイオード166は不要となる。
上下アームの直列回路150は、3相の回転電機192に供給する交流電力の各相に対応しており、各直列回路150,150,150は、IGBT328のエミッタ電極とIGBT330のコレクタ電極163を接続する接続点169はそれぞれU相、V相、W相の交流電力を出力するのに使用される。各相の上記接続点169がそれぞれ交流端子159とコネクタ188を介して、回転電機192のU相、V相、W相の電機子巻線(同期電動機では固定子巻線)と接続されることにより、上記電機子巻線にU相、V相、W相の電流が流れる。上記上下アームの直列回路同士は電気的に並列接続されている。上アームのIGBT328のコレクタ電極153は、正極端子(P端子)157を介してコンデンサ500の正極側コンデンサ電極に、下アームのIGBT330のエミッタ電極は、負極端子(N端子)158を介してコンデンサ500の負極側コンデンサ電極に、それぞれ直流バスバーなどを介して電気的に接続されている。
コンデンサ500は、IGBT328,330のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制する平滑回路を構成するためのものである。コンデンサ500の正極側コンデンサ電極506には直流電源136の正極側が、コンデンサ500の負極側コンデンサ電極504には直流電源136の負極側が、電気的に接続されている。これにより、コンデンサ500は、上アームIGBT328のコレクタ電極153と直流電源136の正極側との間と、下アームIGBT330のエミッタ電極と直流電源136の負極側との間で接続され、直流電源136と上下アームの直列回路150に対して電気的に並列接続される。
制御部170は、IGBT328,330を導通や遮断の作動を制御する働きをし、制御部170は、他の制御装置やセンサなどからの入力情報に基づいて、IGBT328,330のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する制御回路172と、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、IGBT328,330をスイッチング動作させるためのドライブ信号を生成するドライブ回路174とを備えている。
制御回路172は、IGBT328,330のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータを備えている。このマイクロコンピュータには、入力情報として、回転電機192に対して要求される目標速度値、上下アームの直列回路150から回転電機192の電機子巻線に供給される電流値、及び回転電機192の回転子の磁極位置が入力される。目標速度値は、不図示の上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ180から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、回転電機192に設けられた回転磁極センサ193から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても構わない。また、磁極位置については、回転磁極センサ193を用いた実測値ではなく、電流センサ180などの電流検出値を用い、位置・速度の推定演算により推定した磁極位置を利用しても実現可能である。よって、マイクロコンピュータにより位置・速度の推定演算を行えば、回転磁極センサ193を使用しなくてもよい。
制御回路172内のマイクロコンピュータは、入力された目標速度値に基づいて回転電機192のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、このd,q軸の電圧指令値からパルス状の駆動信号を生成する。制御回路172は後述するように2種類の方式の駆動信号を発生する機能を有する。この2種類の方式の駆動信号は、インダクタンス負荷である回転電機192の状態に基づいて、あるいは変換しようとする交流電力の周波数、などに基づいて、選択される。
上記2種類の方式の内の1つは、出力しようとする交流波形の位相に基づいて、スイッチング素子であるIGBT328、330のスイッチング動作を制御するPHM制御方式である。上記2種類の方式の内の他の1つは、一般にPWM(Pulse Width Modulation)と呼ばれる変調方式である。
ドライバ回路174は、下アームを駆動する場合、パルス状の変調波の信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する下アームのIGBT330のゲート電極に出力する。また、上アームを駆動する場合、パルス状の変調波の信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからパルス状の変調波の信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する上アームのIGBT328のゲート電極に出力する。これにより、各IGBT328,330は、入力されたドライブ信号に基づいてスイッチング動作する。こうして制御部170からの駆動信号(ドライブ信号)に応じて行われる各IGBT328,330のスイッチング動作により、電力変換装置200は、直流電源136から供給される電圧を、電気角で2π/3 rad毎にずらしたU相、V相、W相の各出力電圧に変換し、3相交流モータである回転電機192に供給する。なお、電気角とは、回転電機192の回転状態、具体的には回転子の位置に対応するものであって、0から2πの間で周期的に変化する。この電気角をパラメータとして用いることで、回転電機192の回転状態に応じて、各IGBT328,330のスイッチング状態、すなわちU相、V相、W相の各出力電圧を決定することができる。
また、制御部170は、異常検知(過電流、過電圧、過温度など)を行い、上下アームの直列回路150を保護している。このため、制御部170にはセンシング情報が入力されている。例えば各アームの信号用エミッタ電極端子155,165からは各IGBT328,330のエミッタ電極に流れる電流の情報が、対応する駆動部(IC)に入力されている。これにより、各駆動部(IC)は過電流検知を行い、過電流が検知された場合には対応するIGBT328,330のスイッチング動作を停止させ、対応するIGBT328,330を過電流から保護する。上下アームの直列回路150に設けられた温度センサ(不図示)からは上下アームの直列回路150の温度の情報がマイクロコンピュータに入力されている。また、マイクロコンピュータには上下アームの直列回路150の直流正極側の電圧の情報が入力されている。マイクロコンピュータは、それらの情報に基づいて過温度検知及び過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全てのIGBT328,330のスイッチング動作を停止させ、上下アームの直列回路150、引いては、この回路150を含む半導体モジュール、を過温度或いは過電圧から保護する。
図2(a)において、上下アームの直列回路150は、上アームのIGBT328及び上アームのダイオード156と、下アームのIGBT330及び下アームのダイオード166との直列回路である。IGBT328,330は、スイッチング用半導体素子である。パワースイッチング回路144の上下アームのIGBT328,330の導通および遮断動作が一定の順で切り替わる。この切り替わり時の回転電機192の固定子巻線の電流は、ダイオード156,166によって作られる回路を流れる。
上下アームの直列回路150は、図示するように、Positive端子(P端子、正極端子)157、Negative端子(N端子、負極端子)158、上下アームの接続点169からの交流端子159、上アームの信号用端子(信号用エミッタ電極端子)155、上アームのゲート電極端子154、下アームの信号用端子(信号用エミッタ電極端子)165、下アームのゲート端子電極164、を備えている。また、電力変換装置200は、入力側に直流コネクタ138を有し、出力側に交流コネクタ188を有して、それぞれのコネクタ138と188を通して直流電源136と回転電機192にそれぞれ接続される。また、回転電機へ出力する3相交流の各相の出力を発生する回路として、各相に2つの上下アームの直列回路を並列接続する回路構成の電力変換装置であってもよい。
図2(a)において回転電機のU相,V相,W相の3相コイルと中性点192nに間に生じる各相の相電圧をVu,Vv,Vwとすれば中性点電圧Vnは、
Vn=(Vu+Vv+Vw)/3・・・・(1)
と表すことが出来る。
中性点電圧Vnは、制御部170が、ドライブ回路174が制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、IGBT328,330をスイッチング動作させるためのドライブ信号を生成し、実際にIGBT328,330がスイッチング動作始めると、U,V,W相コイルに現れる相電圧Vu,Vv,Vwの変化に伴って(1)式に基づいて値が変動する。
制御部170の制御回路172は、2種類の方式の駆動信号を発生する機能を有しており、上記2種類の方式の内の1つは、出力しようとする交流波形の位相に基づいて、スイッチング素子であるIGBT328、330のスイッチング動作を制御するPHM制御方式である。上記2種類の方式の内の他の1つは、一般にPWM(Pulse Width Modulation)と呼ばれる変調方式である。中性点電圧Vnの変動はPHM方式とPWM方式とで変動パターンが異なる。
次に図3を用い、電力変換装置200において行われる制御モードの切り替えについて説明する。電力変換装置200は、回転電機192の回転速度または出力しようとする交流電力の周波数に応じて、PWM制御方式とPHM制御方式と、を切り替えて使用する。
図3は、電力変換装置200における制御モードの切り替えの様子を示しており、横軸は回転電機の回転数(r/min)、または出力しようとする交流電力の周波数(Hz)、縦軸は回転電機のトルク(Nm)を表している。
尚、出力しようとする交流電力の周波数と回転電機回転数は、式(2)のように表せる。
(出力しようとする交流電力周波数)
=(回転電機極対数)×(回転数)/60 (Hz)・・・・(2)
なお、制御モードを切り替える回転速度または周波数は任意に変更可能である。
以下に説明するPHM制御は、回転電機192の回転速度が停止状態を含む低速状態では、PWM制御に比べスイッチング素子のスイッチング回数が少ないために、出力する交流電力によって、回転電機192のインダクタンス回路に流れる電流波形の歪が大きくなるが、回転電機192のインダクタンス負荷が大きくなる中高速度域では、出力しようとする交流電力から特定の高調波成分を削除すれば、スイッチング回数を低減させても、インダクタンス回路に流れる電流波形歪みを低減させることができる。よってスイッチング素子の電力損失及びモータ浮遊容量への漏えい電流による伝導ノイズを低減できるといった効果がある。そこでPWM制御方式による制御と組み合わせることで、それぞれ制御方式の利点を活かした制御を行うことができる。
例えば、回転電機192に接続されるファン114などの回転翼の慣性(イナーシャ)が大きい場合において、供給される交流電力に高調波歪成分が多いと滑らかな起動が出来ず、過電流などが発生する。そのため制御部で異常が検知され、起動が停止される可能性がある。このような起動時の問題を解決するためには、前記回転電機192に供給する交流電力の歪を少なくすることが望ましく、PWM制御方式でパワースイッチング回路144が有するスイッチング素子のスイッチング動作を制御する。
PWM方式による制御とPHM制御との切り換えにおいて、回転電機192の回転速度は特に制限されるものではないが、回転電機192のインダクタンス負荷の大きい中高速領域ではPHM方式の制御に大変適する運転領域であり、この領域では、PWM方式による制御に対してPHM方式の制御の方がスイッチング素子のスイッチング回数が少なく、損失の低減効果及びコモンモード電流によるコモンモードノイズ低減の効果が大きい。上記の用途のファンにおいては、連続運転時間が長く、運転範囲が中高速域となるため、PHM制御を取り入れたことによるスイッチング損失の低減がランニングコストに大きな効果を生み出す。また、コモンモード電流によるコモンモードノイズ低減については、モータベアリングでコモンモード電流により、発生する放電によるベアリングの電食に対して大きな抑制効果が期待できる。
本実施例では、PWM制御モードは、回転電機192の回転速度が比較的低い領域で使用し、一方比較的回転速度が高い領域ではPHM制御モードを使用する。
PWM制御モードにおいて、電力変換装置200は前述したようなPWM信号を用いた制御を行う。すなわち、制御回路172内のマイクロコンピュータにより、入力された目標速度値に基づいて回転電機192のd,q軸の電圧指令値を演算し、これをU相、V相、W相の電圧指令値に変換する。そして、各相の電圧指令値に応じた正弦波を基本波として、これを搬送波である所定周期の三角波と比較し、その比較結果に基づいて決定したパルス幅を有するパルス状の変調波をドライバ回路174に出力する。この変調波に応じた駆動信号をドライバ回路174から各相の上下アームにそれぞれ対応するIGBT328,330へ出力することにより、直流電源136から出力された直流電圧が3相交流電圧に変換され、回転電機192へ供給される。
PHM制御モードにおいては、制御回路172により生成された変調波がドライバ回路174に出力される。これにより、当該変調波に応じた駆動信号がドライバ回路174から各相の対応するIGBT328,330へ出力される。その結果、直流電源136から出力された直流電圧が3相交流電圧に変換され、回転電機192へ供給される。
次にPHM制御方式について説明する。また、前述のPWM制御とPHM制御方式の一形態である矩形波制御について図4を参照して説明する。
本実施の形態で用いるPHM制御では、実際にインバータが制御する回転電機の線間電圧に着目し、出力しようとする回転電機の線間電圧から高調波成分をある程度削除することで、回転電機の交流電流が有する高調波成分を制御の状態に応じてある程度削減した交流電力を出力し、これにより、回転電機制御のトルク脈動の影響を小さくし、一方使用上問題が無い範囲で回転電機の交流電流に高調波成分が含まれている状態とすることで、スイッチング回数を低減し、スイッチング損失を低減するようにしている。このような制御方式がPHM制御方式である。
PHM制御方式ではスイッチング回数が最小となる回転電機の制御状態として、回転電機の電気角2πごとに各相のスイッチング素子を1回ずつオンオフする矩形波による制御状態がある。この矩形波による制御状態は、PHM制御方式においては、変換される交流電力波形における変調度の増大に従って減少する半周期あたりのスイッチング回数の最終的な状態として、PHM制御方式の一制御形態として捉えることができる。
前述のPWM制御の場合は一定周波数の搬送波と出力しようとする交流波形との大小比較に基づいて、スイッチング素子の導通や遮断のタイミングを定め、スイッチング素子を制御する方式であり、PWM制御を用いることで脈動の少ない交流電力をモータに供給でき、トルク脈動が少ない回転電機制御が可能となる。一方単位時間当たりあるいは交流波形の周期毎のスイッチング回数が多いためにスイッチング損失やコモンモード電流によるコモンモードノイズが大きくなる。
このPWM制御方式に対して、極端な例として、1パルスの矩形波を用いてスイッチング素子を制御する矩形波制御の場合は、スイッチング回数が少ないためにスイッチング損失を少なくでき、コモンモード電流によるコモンモードノイズも低減できる。ただし、変換される交流波形はインダンタンス負荷の影響を無視すると矩形波状となり、正弦波に対して5次、7次、11次、・・・等の高調波成分が含まれた状態と見ることができる。よって、矩形波をフーリエ展開すると基本正弦波に加え、5次、7次、11次、・・・等の高調波成分があらわれ、この高調波成分がトルク脈動の原因となる電流歪を生じることとなる。このように、PWM制御とPHM制御方式の一形態である矩形波制御は互いに対極的な関係にある。
矩形波状にスイッチング素子の導通および遮断を制御したと仮定した場合に、交流電力に生じる高調波成分の例を図5に示す。図5(a)は、矩形波状に変化する交流波形を基本波である正弦波と5次、7次、11次、・・・等の高調波成分に分解した例である。図5(a)に示す矩形波のフーリエ級数展開は、式(3)のように表される。
f(ωt)=4/π×{sinωt+(sin3ωt)/3+(sin5ωt)/5+(sin7ωt)/7+・・・} (3)
式(3)は、4/π・(sinωt)で表される基本波の正弦波と、これの高調波成分である3次、5次、7次・・・の各成分とにより、図5(a)に示す矩形波が形成されることを示している。このように、基本波に対してより高次の高調波を合成していくことで矩形波に近づくことが分かる。
図5(b)は、基本波、3次高調波、5次高調波の各振幅をそれぞれ比較した様子を示している。図5(a)の矩形波の振幅を1とすると、基本波の振幅は1.27、3次高調波の振幅は0.42、5次高調波の振幅は0.25とそれぞれ表される。このように、高調波の次数が上がるほどその振幅は小さくなるため、矩形波制御における影響が小さくなることが分かる。
矩形波形状にスイッチング素子を導通および遮断した場合に発生する可能性があるトルク脈動の観点から、影響の大きい高次の高調波成分を削除しつつ、一方影響が小さい高次の高調波成分に対してその影響を無視してこれら高調波成分を含めることで、スイッチング回数を低減し、スイッチング損失が少なくしかもトルク脈動の増大を低く抑えることができ電力変換装置を実現できる。
また、PHM制御方式における高調波の影響が大きいあるいは制御性が悪くなる回転電機低回転域、つまり低周波の交流電力を出力している状態で、PWM制御方式を使用するようにしている。
具体的には、PWM制御とPHM制御とをモータの回転速度に応じて切り替え、回転速度の低い領域でPWM方式を使用して制御することで、低速回転域と高速回転域のそれぞれにおいて望ましいモータ制御を行うようにしている。
または、PWM制御とPHM制御とを出力しようとしている交流電力の周波数に応じて切り替え、周波数の低い領域でPWM方式を使用して制御することで、低周波数域と高周波数域のそれぞれにおいて望ましいモータ制御を行うようにしている。
次に、本実施の形態に係る制御回路172による回転電機制御系を図6を用いて説明する。制御回路172には、上位の制御装置より、目標速度として、速度指令値ω*が入力される。速度制御器(ASR)410は、入力された速度指令値ω*と、回転磁極センサ193により検出された磁極位置信号θに基づく回転速度情報とに基づき、d軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*を求める。速度制御器(ASR)410において求められたd軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*は、電流制御器(ACR)420、421にそれぞれ出力される。前記の磁極位置信号θについては、回転磁極センサ193からの実測値ではなく、電流センサ180などの電流検出値より位置・速度の演算器(不図示)により推定した磁極位置信号を利用しても実現可能である。よって、位置・速度の演算器(不図示)を用いれば、回転磁極センサ193を使用しなくても本発明は実現可能である。
電流制御器(ACR)420、421は、速度制御器(ASR)410から出力されたd軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*と、電流センサ180により検出された回転電機192の相電流検出信号lu、lv、lwが制御回路172上の図示しない3相2相変換器において回転センサ−からの磁極位置信号によりd,q軸上に変換されたId,Iq電流信号とに基づいて、回転電機192を流れる電流がd軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*に追従するように、d軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*をそれぞれ演算する。電流制御器(ACR)420において求められたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、PHM制御用のパルス変調器430へ出力される。一方、電流制御器(ACR)421において求められたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、PWM制御用のパルス変調器440へ出力される。
PHM制御用のパルス変調器430は、電圧位相差演算器431、変調度演算器432、パルス生成器434により構成される。電流制御器420から出力されたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、パルス変調器430において電圧位相差演算器431と変調度演算器432に入力される。
電圧位相差演算器431は、回転電機192の磁極位置とd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*が表す電圧位相との位相差、すなわち電圧位相差を算出する。この電圧位相差をδとすると、電圧位相差δは式(4)で表される。
δ=arctan(-Vd*/Vq*) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
電圧位相差演算器431は、さらに上記の電圧位相差δに回転磁極センサ193からの磁極位置信号θが表す磁極位置を加算することで、電圧位相を算出する。そして、算出した電圧位相に応じた電圧位相信号θvをパルス生成器434へ出力する。この電圧位相信号θvは、磁極位置信号θが表す磁極位置をθeとすると式(5)で表される。
θv=δ+θe+π・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
変調度演算器432は、d軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*が表すベクトルの大きさを直流電源136の電圧で正規化することにより変調度を算出し、その変調度に応じた変調度信号aをパルス生成器434へ出力する。この実施の形態では、上記変調度信号aは、図2(a)に示すパワースイッチング回路144に供給される直流電圧に基づいて定められることになり、直流電圧が高くなると変調度aは小さくなる傾向となる。また指令値の振幅値が大きくなると変調度aは大きくなる傾向となる。具体的には直流電源の電圧をVdcとすると式(6)で表される。なお、式(6)において、Vdはd軸電圧指令信号Vd*の振幅値、Vqはq軸電圧指令信号Vq*の振幅値をそれぞれ表す。
a=(√(2/3))(√(Vd^2+Vq^2))/ (Vdc/2)・・・・・・・・・・・・・・・(6)
パルス生成器434は、電圧位相差演算器431からの電圧位相信号θvと、変調度演算器432からの変調度信号aとに基づいて、U相、V相、W相の各上下アームにそれぞれ対応する6種類のPHM制御に基づくパルス信号を生成する。そして、生成したパルス信号を切換器450へ出力し、切換器450からドライバ回路174へ出力し、各スイッチング素子に駆動信号が出力される。なお、PHM制御に基づくパルス信号(以下PHMパルス信号と記す)の発生方法については、後で詳しく説明する。
一方、PWM制御用のパルス変調器440は、電流制御器421から出力されたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*と、回転磁極センサ193からの磁極位置信号θが表す磁極位置をθeとに基づいて、周知のPWM方式により、U相、V相、W相の各上下アームにそれぞれ対応する6種類のPWM制御に基づくパルス信号(以下PWMパルス信号と記す)を生成する。そして、生成したPWMパルス信号を切換器450へ出力し、切換器450からドライブ回路174に供給され、ドライブ回路174から駆動信号が各スイッチング素子に供給される。
切換器450は、PHM制御用のパルス変調器430から出力されたPHMパルス信号またはPWM制御用のパルス変調器440から出力されたPWMパルス信号のいずれか一方を選択する。この切換器450によるパルス信号の選択は、前述のように回転電機192の回転速度に応じて行われる。すなわち、回転電機192の回転速度が切替ラインとして設定された所定のしきい値よりも低い場合は、PWMパルス信号を選択することにより、電力変換装置200においてPWM制御方式が適用されるようにする。また、回転電機192の回転速度がしきい値よりも高い場合は、PHMパルス信号を選択することにより、電力変換装置200においてPHM制御方式が適用されるようにする。こうして切換器450において選択されたPHMパルス信号またはPWMパルス信号は、ドライバ回路174(不図示)へ出力される。
または切換器450は、PHM制御用のパルス変調器430から出力されたPHMパルス信号またはPWM制御用のパルス変調器440から出力されたPWMパルス信号のいずれか一方を選択するにあたり、この切換器450によるパルス信号の選択は、式(2)で表される制御回路172の出力しようとする交流電力の周波数、に応じて行われる。すなわち、回転電機192へ制御回路172が出力しようとする周波数が切替ラインとして設定された所定のしきい値よりも低い場合は、PWMパルス信号を選択することにより、電力変換装置200においてPWM制御方式が適用されるようにする。また、回転電機192へ制御回路172が出力しようとする周波数がしきい値よりも高い場合は、PHMパルス信号を選択することにより、電力変換装置200においてPHM制御方式が適用されるようにする。こうして切換器450において選択されたPHMパルス信号またはPWMパルス信号は、ドライバ回路174(不図示)へ出力される。
以上説明したようにして、制御回路172からドライバ回路174に対して、PHMパルス信号またはPWMパルス信号が変調波として出力される。この変調波に応じて、ドライバ回路174よりパワースイッチング回路144の各IGBT328,330へ駆動信号が出力される。
次に、パルス信号の生成について図6から図12を用いて説明する。パルス生成器434の詳細について図6、図7を用いて説明する。図6に示しているパルス生成器434は、たとえば図7に示すように、位相検索器435とタイマカウンタまたは位相カウンタ比較器436によって実現される。位相検索器435は、電圧位相差演算器431からの電圧位相信号θv、変調度演算器432からの変調度信号aおよび磁極位置信号θに基づく回転速度ω情報に基づいて、予め記憶されたスイッチングパルスの位相情報のテーブルから、スイッチングパルスを出力すべき位相をU相、V相、W相の上下各アームについて検索し、その検索結果の情報をタイマカウンタまたは位相カウンタ比較器436へ出力する。タイマカウンタまたは位相カウンタ比較器436は、位相検索器435から出力された検索結果に基づいて、U相、V相、W相の上下各アームに対するスイッチング指令としてのPHMパルス信号をそれぞれ生成する。タイマカウンタ比較器436により生成された各相の上下各アームに対する6種類のPHMパルス信号は、前述のように切換器450へ出力される。
図7の位相検索器435およびタイマカウンタ比較器436によるパルス生成の手順を詳細に説明したフローチャートを図8に示す。位相検索器435は、ステップ801において変調度信号aを入力信号として取り込み、ステップ802において電圧位相信号θvを入力信号として取り込む。続くステップ803において、位相検索器435は、入力された現在の電圧位相信号θvに基づいて、制御遅れ時間と回転速度を考慮して、次の制御周期に対応する電圧位相の範囲を演算する。その後ステップ804において、位相検索器435はROM検索を行う。このROM検索では、入力された変調度信号aに基づいて、ステップ803で演算された電圧位相の範囲において、ROM(不図示)に予め記憶されたテーブルよりスイッチングのオンとオフの位相を検索する。
位相検索器435は、ステップ804のROM検索によって得られたスイッチングのオンとオフの位相の情報を、ステップ805においてタイマカウンタ比較器436へ出力する。タイマカウンタ比較器436は、この位相情報をステップ806において時間情報に変換し、タイマカウンタとのコンペアマッチ機能を用いてPHMパルス信号を生成する。なお、位相情報を時間情報に変換する過程は、回転速度信号の情報を利用する。
あるいはステップ804のROM検索によって得られたスイッチングのオンとオフの位相情報を、ステップ806において位相カウンタとのコンペアマッチ機能を用いてPHMパルスを生成しても良い。
タイマカウンタ比較器436は、ステップ806で生成したPHMパルス信号を、次のステップ807において切換器450へ出力する。以上説明したステップ801〜807の処理が位相検索器435およびタイマカウンタ比較器436において行われることにより、パルス生成器434においてPHMパルス信号が生成される。
あるいは、図8のフローチャートにかえて、図9のフローチャートに示す処理をパルス生成器434において実行することにより、パルス生成を行うようにしてもよい。この処理は、図8のフローチャートに示したように予め記憶しているテーブルを用いてスイッチング位相を検索するテーブル検索方式を使わず、電流制御器(ACR)の制御周期毎にスイッチング位相を生成する方式である。
パルス生成器434は、ステップ801において変調度信号aを入力し、ステップ802において電圧位相信号θvを入力する。続くステップ820において、パルス生成器434は、入力された変調度信号aおよび電圧位相信号θvに基づいて、制御遅れ時間と回転速度を考慮して、スイッチングのオンとオフの位相を電流制御器(ACR)の制御周期毎に決定する。
ここでステップ820におけるスイッチング位相の決定処理の詳細を図10のフローチャートに示す。パルス生成器434は、ステップ821において、回転速度に基づいて回転電機線間電圧から削除する高調波次数を指定する。こうして指定された高調波次数に従って、パルス生成器434は続くステップ822において行列演算などの処理を行い、ステップ823においてパルス基準角度を出力する。
ステップ821〜823までのパルス生成過程は、以下の式(7)〜(10)で示す行列式に則って演算される。
ここでは、一例として、3次、5次、7次成分を消去する場合を取り上げる。
パルス生成器434は、削除する高調波次数として3次、5次、7次の高調波成分をステップ821において指定すると、次のステップ822において行列演算を行う。
ここで3次、5次、7次の消去次数に対して式(7)のような行ベクトルを作る。
・・・(7)
式(7)の右辺括弧内の各要素はk1/3、k2/5、k3/7となっている。k1、k2、k3は任意の奇数を選択することができる。ただし、k1=3,9,15、k2=5,15,25、k3=7,21,35などを選択してはならない。この条件下で、3次、5次、7次成分は完全に消去される。
上記をより一般的に記すと、分母の値を削除する高調波次数とし、分子の値を分母の奇数倍を除く任意の奇数とすることで、式(7)の各要素の値を決定することができる。ここで式(7)の例では、消去次数が3種類(3次、5次、7次)であるため行ベクトルの要素数を3つとしている。同様に、N種類の消去次数に対して要素数Nの行ベクトルを設定し、各要素の値を決定することができる。
なお、式(7)において、各要素の分子と分母の値を上記のもの以外とすることで、高調波成分を削除するかわりに、そのスペクトルを整形することもできる。そのため、高調波成分の削除ではなくスペクトル整形を主な目的として、各要素の分子と分母の値を任意に選択してもよい。その場合、分子と分母の値は必ずしも整数である必要はないが、分子の値として分母の奇数倍を選択してはならない。また、分子と分母の値は定数である必要はなく、時間に応じて変化する値でもよい。
上記のように、分母と分子の組み合わせでその値が決定される要素が3つの場合は、式(7)のように3列のベクトルを設定することができる。同様に、分母と分子の組み合わせでその値が決定される要素数Nのベクトル、すなわちN列のベクトルを設定することができる。以下では、このN列のベクトルを高調波準拠位相ベクトルと呼ぶこととする。
高調波準拠位相ベクトルが式(7)のように3列のベクトルである場合は、その高調波準拠位相ベクトルを転置して式(8)の演算をする。その結果、S1〜S4までのパルス基準角度が得られる。
パルス基準角度S1〜S4は、電圧パルスの中心位置を表わすパラメータであり、後述する三角波キャリアと比較される。このようにパルス基準角度が4個(S1〜S4)である場合、一般的には、線間電圧一周期当たりのパルス数は16個となる。
また、式(7)のかわりに式(9)のように高調波準拠位相ベクトルが4列の場合は、行列演算式(10)を施す。
・・・(9)
・・・(10)
その結果、S1〜S8までのパルス基準角度出力が得られる。このとき線間電圧一周期当たりのパルス数は32個となる。
回転電機の線間電圧から削除する高調波成分の数とパルス数との関係は、一般的には次のとおりである。すなわち、削除する高調波成分が2つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は8パルスであり、削除する高調波成分が3つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は16パルスであり、削除する高調波成分が4つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は32パルスであり、削除する高調波成分が5つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は64パルスである。同様に、削除する高調波成分の数が1つ増すにつれて、線間電圧一周期当たりのパルス数が2倍になる。
ここで、通常回転電機線間電圧では3の倍数の高次高調波はお互いに打ち消し合うため削除する高調波成分に加えなくても良い。しかしながら本PHMパルス生成算出過程において便宜上3次高調波のみ削除対象高調波成分として含めている。
ただし、線間電圧で正のパルスと負のパルスが重畳するようなパルス配置の場合、パルス数は上記とは異なる場合がある。
上記のようにしてパルス生成器821〜823において生成されるパルス基準角度出力をステップ824の三角波比較を行うことによって、UV線間電圧、VW線間電圧、WU線間電圧の3種類の線間電圧においてパルス波形がそれぞれ形成され、ステップ825において出力される。これらの各線間電圧のパルス波形は、それぞれ2π/3の位相差を有する同一のパルス波形である。以下、ステップ824〜825までのパルス生成過程を式(11)および図11〜14を使って説明するが、この説明においては各線間電圧を代表して、UV線間電圧のみを示す。
ここで、UV線間電圧の基準位相θuvlと電圧位相信号θvおよび磁極位置θeとの間には、式(11)の関係がある。
θuvl=θv+π/6=θe+δ+7π/6 [rad] ・・・・・・・・・・・・・・・(11)
式(11)で表されるUV線間電圧の波形は、θuvl=π/2,3π/2の位置を中心に線対称であり、かつ、θuvl=0,πの位置を中心に点対称となる。したがって、UV線間電圧パルスの1周期(θuvlが0から2πまで)の波形は、θuvlが0からπ/2までの間のパルス波形を元に、これをπ/2毎に左右対称または上下対称に配置することによって表現できる。
これを実現するひとつの方法が、0≦θuvl≦π/2の範囲におけるUV線間電圧パルスの中心位相を4チャンネルの位相カウンタと比較し、その比較結果に基づいて、1周期すなわち0≦θuvl≦2πの範囲についてUV線間電圧パルスを生成するアルゴリズムである。その概念図を図11に示す。
図11は0≦θuvl≦π/2の範囲における線間電圧パルスが4つである場合の例を示している。図11において、パルス基準角度S1〜S4は、その4つのパルスの中心位相を表す。
carr1(θuvl),carr2(θuvl),carr3(θuvl),carr4(θuvl)は、4チャンネルの位相カウンタの各々を表している。これらの各位相カウンタは、いずれも基準位相θuvlに対して2π radの周期を持つ三角波である。また、carr1(θuvl) とcarr2(θuvl)は振幅方向にdθの偏差を持ち、carr3(θuvl)とcarr4(θuvl)の関係も同様である。
dθは線間電圧パルスの幅を表している。このパルス幅dθに対して基本波の振幅が線形に変化する。
線間電圧パルスは、各位相カウンタcarr1(θuvl),carr2(θuvl),carr3(θuvl),carr4(θuvl)と、0≦θuvl≦π/2の範囲におけるパルスの中心位相を表すパルス基準角度S1〜S4との各交点に形成される。これにより、90度毎に対称的なパターンのパルス信号が生成される。
より詳細には、carr1(θuvl),carr2(θuvl)とS1〜S4とがそれぞれ一致した点において、正の振幅を有する幅dθのパルスが生成される。一方、carr3(θuvl),carr4(θuvl) とS1〜S4とがそれぞれ一致した点において、負の振幅を有する幅dθのパルスが生成される。
以上説明したような方法を用いて生成した線間電圧の波形を変調度毎に描いた一例を図12に示す。図12では、式(7)のk1、k2、k3の値として、k1=1、k2=1、k3=3をそれぞれ選択し、変調度を0から1.0まで変化させたときの線間電圧パルス波形の例を示している。図12により、変調度の増加とほぼ比例してパルス幅が増加していることが分かる。こうしてパルス幅を増加させることで、電圧の実効値を増加させることができる。ただし、θuvl=0,π,2π付近のパルスは、変調度0.4以上において、変調度が変化してもパルス幅は変化していない。このような現象は、正の振幅を有するパルスと負の振幅を有するパルスが重なり合うことで生じるものである。
上述しましたように、上記実施の形態では、ドライバ回路174から駆動信号をパワースイッチング回路144の各スイッチング素子に送ることにより、各スイッチング素子は出力しようとする交流電力の位相に基づいてスイッチング動作を行う。交流電力の一周期におけるスイッチング素子のスイッチング回数は、除去しようとする高調波の種類が増えるほど、増える傾向となる。また別の観点で見ると、式供給される直流電力の電圧が低下すると変調度が増加し、導通している各スイッチング動作の導通期間が長くなる傾向となる。またモータなどの回転電機を駆動する場合に回転電機の発生トルクを大きくする場合には変調度が大きくなり、結果的に各スイッチング動作の導通期間が長くなり、回転電機の発生トルクを小さくする場合には、各スイッチング動作の導通期間が短くなる。導通期間が増大し、遮断時間が短くなった場合、つまりスイッチング間隔がある程度短くなった場合には、安全にスイッチング素子を遮断できない可能性が有り、その場合は遮断させないで導通状態のままそれに続く導通期間につながる制御が行われる。逆に、導通期間が短くなり通電期間が短くなった場合にも、安全にスイッチング素子を通電できない可能性があり、その場合は通電させないで遮断期間に繋がる制御がされる。
また別の観点で見ると、出力される交流電力の歪の影響が大きくなる周波数の低い状態、特に回転電機が停止状態あるいは回転速度が非常に低い状態では、PHM方式の制御ではなく、定周期の搬送波を利用するPWM方式でパワースイッチング回路144を制御し、回転速度が増加した状態でPHM方式に切り換えてパワースイッチング回路144を制御する。
本発明のPHM制御を、低速域にてファン駆動用の電力変換装置に適用した場合には、慣性の大きな羽根車を使用する場合などにおいて、トルク脈動により過電流などが発生し、起動に失敗する可能性がある。これを回避するためにトルク脈動の影響を少なくすることが望ましい。このため、起動から低速域においては、PWM方式でパワースイッチング回路144を制御し、安定した回転を得られた後にPHMの制御に切り替える。このようにすることで、トルク脈動による起動の失敗を避けることができ、実使用の運転範囲である中高速においては、スイッチング損失を抑え、機器のランニングコストを抑制することが出来る。
本発明において用いられるPHMパルス信号によると、上記のように変調度を固定したときに、例外を除き、パルス幅が等しいパルス列による線間電圧波形を形成することを特徴とする。なお、例外的に線間電圧のパルス幅が他のパルス列と不等である場合とは、上記のように正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスが重なった場合である。この場合、パルスが重なった部分を正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスに分解すると、パルスの幅は全域で必ず等しい。つまり、パルス幅の変化で変調度が変化する。
ここで、例外的に線間電圧のパルス幅が他のパルス列と不等である場合について、さらに図13を用いて詳細に説明する。図13の上部には、図12において変調度1.0のときの線間電圧パルス波形のうち、π/2≦θuvl≦3π/2の範囲を拡大したものを示している。この線間電圧パルス波形では、中心付近の2つのパルスが他のパルスとは異なるパルス幅を有している。
図13の下部には、こうしたパルス幅が他とは異なる部分を分解した様子を示している。この図から、当該部分では、他のパルスと同じパルス幅をそれぞれ有する正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスとが重なっており、これらのパルスが合成されることによって他とは異なるパルス幅のパルスが形成されていることが分かる。すなわち、こうしてパルスの重なりを分解することで、PHMパルス信号に応じて形成される線間電圧のパルス波形は、一定のパルス幅を有するパルスによって構成されていることが分かる。
本発明により生成されるPHMパルス信号による線間電圧パルス波形の他の一例を図14に示す。ここでは、式(7)のk1、k2、k3の値として、k1=1、k2=1、k3=5をそれぞれ選択し、変調度を0から1.27まで変化させたときの線間電圧パルス波形の例を示している。図14では、変調度が1.17以上になると、θuvl=π/2、3π/2の位置において、互いに隣接する左右対称の2つのパルス間の隙間がなくなっている。したがって、変調度が1.17未満の範囲では狙った高調波成分を削除できるが、変調度がこれ以上になると高調波成分を有効に削除できないことが分かる。さらに変調度を大きくしていくと、他の位置においても隣接するパルス間の隙間がなくなっていき、最終的に変調度1.27において矩形波の線間電圧パルス波形となる。
尚、本線間電圧パルス波形例でもパルス幅が一定でないところがあるが図13で説明した原理と同様に、同じパルス幅をそれぞれ有する正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスとが重なって、これらのパルスが合成されることによって他とは異なるパルス幅のパルスが形成されていることは同じである。
上記のステップ825においてUV線間電圧、VW線間電圧、WU線間電圧の3種類の線間電圧が出力される。これらの各線間電圧のパルス波形は、ステップ826にてゲートパルス、すなわち相電圧パルスに変換され、ステップ807で相電圧パルスが出力される。
ここで図14に示した線間電圧パルス波形を対応する相電圧パルス波形で表した例を図15に示す。図15でも図14と同様に、変調度が1.17以上になると隣接する2つのパルス間の隙間がなくなっていくことが分かる。なお、図15の相電圧パルス波形と図14の線間電圧パルス波形との間には、π/6の位相差がある。
以下、ステップ826および807において行われる線間電圧パルスを相電圧パルスに変換する方法について図16〜18を使って説明する。図16は、線間電圧パルスから相電圧パルスへの変換において用いられる変換表の例を示している。この表中で左端の列に記載されている1〜6の各モードは、取り得るスイッチング状態ごとに番号を割り当てたものである。モード1〜6では、線間電圧から出力電圧への関係が1対1に決まっている。これらの各モードは、直流側と3相交流側の間でエネルギー授受のあるアクティブな期間に対応している。なお、図16の表中に記載されている線間電圧は、異なる相の電位差として取りうるパターンを直流電圧Vdcで正規化して整理したものである。
図16において、たとえば、モード1ではVuv→1、Vvw→0、Vu→−1と示されているが、これはVu−Vv=Vdc、Vv−Vw=0、Vw−Vu=−Vdcとなる場合を正規化して示している。このときの相電圧すなわち相端子電圧(ゲート電圧に比例)は、図16の表によるとVu→1(U相の上アームをオン、下アームをオフ)、Vv→0(V相の上アームをオフ、下アームをオン)、Vw→0(W相の上アームをオフ、下アームをオン)となる。すなわち、図16の表では、Vu=Vdc、Vv=0、Vw=0となる場合を正規化して示している。モード2〜6も、モード1と同様の考え方で成り立っている。
図16の変換表を用いて矩形波の状態でパワースイッチング回路144を制御するモードにおける線間電圧パルスを相電圧パルスに変換した例を図17に示す。図17において、上段は線間電圧の代表例としてUV線間電圧Vuvを示しており、その下にU相端子電圧Vu、V相端子電圧Vv、W相端子電圧Vwを示している。図17に示すように、矩形波制御モードでは図16の変換表に示したモードが1から6まで順番に変化する。なお、矩形波制御モードでは後述する3相短絡期間は存在しない。
図18は、図12に例示した線間電圧パルス波形を図16の変換表に従って相電圧パルスに変換する様子を示している。図18において、上段はU相端子電圧Vu、V相端子電圧Vv、W相端子電圧Vwを示しており、その下に線間電圧の代表例としてUV線間電圧パルスを示している。
図18の上部には、モード(直流側と3相交流側の間でエネルギー授受のあるアクティブな期間)の番号、および3相短絡となっている期間を示している。3相短絡の期間では3相の上アームをすべてオンにするか3相の下アームをすべてオンにするかのいずれかであるが、スイッチング損失や導通損失の状況に応じて、どちらかのスイッチモードを選択すればよい。
たとえば、UV線間電圧Vuvが1のときは、U相端子電圧Vuが1、V相端子電圧Vvが0である(モード1,6)。UV線間電圧Vuvが0のときは、U相端子電圧VuとV相端子電圧Vvが同じ値、すなわちVuが1かつVvが1(モード2、3相短絡)、またはVuが0かつVvが0(モード5、3相短絡)のいずれかである。UV線間電圧Vuvが−1のときは、U相端子電圧Vuが0、V相端子電圧Vvが1である(モード3,4)。このような関係に基づいて、相電圧すなわち相端子電圧の各パルス(ゲート電圧パルス)が生成される。
図18において、線間電圧パルスと各相の相端子電圧パルスのパターンは、位相θuvlに対して、π/3を最小単位として準周期的に繰り返されるパターンとなっている。つまり、0≦θuvl≦π/3の期間のU相端子電圧の1と0を反転させたパターンは、π/3≦θuvl≦2π/3のW相端子電圧のパターンと同じである。また、0≦θuvl≦π/3の期間のV相端子電圧の1と0を反転させたパターンは、π/3≦θuvl≦2π/3のU相端子電圧のパターンと同じであり、0≦θuvl≦π/3の期間のW相端子電圧の1と0を反転させたパターンは、π/3≦θuvl≦2π/3のV相端子電圧のパターンと同じである。回転電機の回転速度と出力が一定である定常状態においては、こうした特徴が特に顕著に表れる。
ここで、上記のモード1〜6を、異なる相で上アーム用のIGBT328と下アーム用のIGBT330をそれぞれオンさせて直流電源である直流電源136から回転電機192に電流を供給する第1の期間として定義する。また、3相短絡期間を、全相で上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330のいずれか一方をオンさせて回転電機192に蓄積されたエネルギーでトルクを維持する第2の期間と定義する。図18に示す例では、これら第1の期間と第2の期間を電気角に応じて交互に形成していることが分かる。
さらに図18では、たとえば0≦θuvl≦π/3の期間において、第1の期間としてのモード6および5を、第2の期間としての3相短絡期間を間に挟んで交互に繰り返している。ここで図16から分かるように、モード6では、V相において下アーム用のIGBT330をオンする一方で、他のU相、W相では、V相と異なる側、すなわち上アーム用のIGBT328をオンしている。他方、モード5では、W相において上アーム用のIGBT328をオンする一方で、他のU相、V相では、W相と異なる側、すなわち下アーム用のIGBT330をオンしている。すなわち、第1の期間では、U相、V相、W相のうちいずれか1相(モード6ではV相、モード5ではW相)を選択し、この選択した1相について、上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330をオンさせると共に、他の2相(モード6ではU相およびW相、モード5ではU相およびV相)について、選択した1相とは異なる側のアーム用のIGBT328,330をオンさせる。また、第1の期間ごとに選択する1相(V相、W相)を交替している。
0≦θuvl≦π/3以外の期間でも上記と同様に、第1の期間としてのモード1〜6のいずれかを、第2の期間としての3相短絡期間を間に挟んで交互に繰り返す。すなわち、π/3≦θuvl≦2π/3の期間ではモード1および6を、2π/3≦θuvl≦πの期間ではモード2および1を、π≦θuvl≦4π/3の期間ではモード3および2を、4π/3≦θuvl≦5πの期間ではモード4および3を、5π/3≦θuvl≦2πの期間ではモード5および4を、それぞれ交互に繰り返す。これにより、上記と同様に、第1の期間では、U相、V相、W相のうちいずれか1相を選択し、選択した1相について、上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330をオンさせると共に、他の2相について、選択した1相とは異なる側のアーム用のIGBT328,330をオンさせる。また、第1の期間ごとに選択する1相を交替する。
ところで、上記の第1の期間すなわちモード1〜6の期間を形成する電気角位置と、この期間の長さとは、回転電機192に対するトルクや回転速度などの要求指令に応じて変化させることができる。すなわち前述のように、回転電機の回転速度やトルクの変化に伴って削除する高調波の次数を変化させるために、第1の期間を形成する特定の電気角位置を変化させる。あるいは、回転電機の回転速度やトルクの変化に応じて、第1の期間の長さすなわちパルス幅を変化させ、変調度を変化させる。これにより、回転電機を流れる交流電流の波形、より具体的には交流電流の高調波成分を所望の値に変化させ、この変化により、直流電源136から回転電機192に供給する電力を制御することができる。なお、特定の電気角位置と第1の期間の長さは、いずれか一方のみを変化させてもよいし、両方を同時に変化させてもよい。
ここで、パルスの形状と電圧には以下の関係がある。図示したパルスの幅は電圧の実効値を変化させる効果があり、線間電圧のパルス幅が広いときには電圧の実効値は大きく、狭いときには電圧の実効値が小さい。また、削除する高調波の個数が少ない場合は、電圧の実効値が高いため、変調度の上限が矩形波に近づく。この効果は、回転電機192の誘起電圧が高い回転域で有効であり、通常のPWMで制御した場合の線間電圧よりも高い電圧を回転電機に供給することができる。すなわち、直流電源136から回転電機192に電力を供給する第1の期間の長さと、この第1の期間を形成する特定の電気角位置とを変化させることで、回転電機192に印加する交流電圧の実効値を変化させ、回転電機192の回転状態に応じた出力を得ることができる。
一般に、回転電機の回転速度が増加するにつれて、内部誘起電圧が高くなり、トルク発生に必要な電流を供給するためには、それを越える電圧を電力変換器より供給する必要がある。しかしながら、電力変換器より供給する電圧には限界があるため、要求されるトルクを発生させられる回転電機の運転範囲、または最高回転数には限界がある。
本発明のPHM制御を採用することにより、通常のPWMで制御した場合の線間電圧よりも高い電圧を回転電機に供給できるため、回転電機の運転範囲、または最高回転数を上げることが可能となる。
本開発のPHM制御については、前述のように矩形波モードがありPWM方式に比べ、コントローラの出力電圧を上げることができるため、ファンの運転範囲を維持しつつ、回転電機側の誘起電圧を上げた(巻線回数を増やした)設計が可能となる。回転電機誘起電圧を増大した分、同一トルクを発生するために必要なコントローラの出力電流が低減でき、更なるスイッチング損失の低減も行うことが可能となる。
また、図18に示す駆動信号のパルス形状は、U相、V相およびW相の各相について、任意のθuvlすなわち電気角を中心に左右非対称となっている。さらに、パルスのオン期間またはオフ期間のうち少なくとも一方がθuvl(電気角)でπ/3以上にわたって連続する期間を含んでいる。たとえばU相では、θuvl=π/2付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオン期間と、θuvl=3π/2付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオフ期間とを有している。同様に、V相では、θuvl=π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオフ期間と、θuvl=7π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオン期間とを有しており、W相では、θuvl=5π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオフ期間と、θuvl=11π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオン期間とを有している。
上述したようにU相,V相,W相各相の電気角2π当りのパルス数は、線間電圧のパルス数に応じて順次決定されるが、電気角2π間の各パルス間隔は不均一である。このようなパルス形状の特徴を有している。
通常のPWM方式にて、ファンなどを運転した場合、搬送波周期でのスイッチングにより、高周波の回転電機電磁音が発生しスイッチング回数の低減を行うと一定周期騒音が問題となる。しかしながら、本発明の方式においては、前述のようにスイッチング回数の低減方法により、不規則なパターンでのスイッチングとなるため、高周波電磁音周期分散化により耳障りな騒音を抑制することができる。
以上説明したように、本実施形態の電力変換装置によれば、PHM制御モードが選択されているときに、直流電源からモータに電力を供給する第1の期間と、3相フルブリッジの全相上アームをオン或いは全相下アームをオンさせる第2の期間を、電気角に応じた特定のタイミングで交互に発生させる。これにより、PWM制御モードが選択されている場合に比べて、スイッチングの頻度が1/7から1/10以下で済む。したがって、スイッチング損失を低減することができる。
次に、変調度を変化させたときの線間電圧パルス波形における高調波成分の削除の様子について説明する。図19は、変調度を変化させたときの線間電圧パルスにおける基本波と削除対象の高調波成分の振幅の大きさを示した図である。
図19(a)では、3次および5次の高調波を削除対象とした線間電圧パルスにおける基本波と各高調波の振幅の例を示している。これは、後述する図20に記載の線間電圧パルスの例である。この図によると、変調度が1.2以上の範囲では5次高調波が削除しきれずに現れることが分かる。図19(b)では、3次、5次および7次の高調波を削除対象とした線間電圧パルスにおける基本波と各高調波の振幅の例を示している。これは、図14で示した線間電圧パルスの例である。この図によると、変調度が1.17以上の範囲では5次および7次の高調波が削除しきれずに現れることが分かる。
図19(a)に対応する線間電圧パルス波形と相電圧パルス波形の例を図20、21にそれぞれ示す。ここでは、要素数が2である行ベクトルを設定し、各要素(k1/3、k2/5)におけるk1、k2の値としてk1=1、k2=3をそれぞれ選択して、変調度を0から1.27まで変化させたときの線間電圧パルス波形と相電圧波形の例を示している。また、図19(b)は、図14、15にそれぞれ示した線間電圧パルス波形と相電圧パルス波形に対応している。
上記の説明から、変調度がある一定の値を超えると、削除対象とした高調波が削除しきれずに現れ始めることが分かる。また、削除対象とする高調波の種類(数)が多いほど、低い変調度で高調波を削除しきれなくなることが分かる。
次に、図6に示したPWM制御用のパルス変調器440におけるPWMパルス信号の生成方法について、図22を参照して説明する。図22のaは、U相、V相、W相の各相における電圧指令信号と、PWMパルスの生成に用いる三角波キャリアとの波形を示している。各相の電圧指令信号は、位相を互いに2π/3ずつずらした正弦波の指令信号であり、変調度に応じて振幅が変化する。この電圧指令信号と三角波キャリア信号とをU、V、Wの各相についてそれぞれ比較し、両者の交点をパルスのオンオフのタイミングとすることで、図22のb、c、dにそれぞれ示すようなU相、V相、W相の各相に対する電圧パルス波形が生成される。なお、これらのパルス波形におけるパルス数は、いずれも三角波キャリアにおける三角波パルス数に等しい。
図22のeは、UV線間電圧の波形を示している。このパルス数は、三角波キャリアにおける三角波パルス数の2倍、すなわち各相に対する上記の電圧パルス波形におけるパルス数の2倍に等しい。なお、他の線間電圧、すなわちVW線間電圧およびWU線間電圧についても同様である。
図23は、PWMパルス信号によって形成される線間電圧の波形を変調度毎に描いた一例を示している。ここでは、変調度を0から1.27まで変化させたときの線間電圧パルス波形の例を示している。図23では、変調度が1.17以上になると、互いに隣接する2つのパルス間の隙間がなくなり、合わせて1つのパルスとなっている。こうしたパルス信号は過変調PWMパルスと呼ばれる。最終的には変調度1.27において、矩形波の線間電圧パルス波形となる。
図23に示した線間電圧パルス波形を対応する相電圧パルス波形で表した例を図24に示す。図24でも図23と同様に、変調度が1.17以上になると隣接する2つのパルス間の隙間がなくなっていくことが分かる。なお、図24の相電圧パルス波形と図23の線間電圧パルス波形との間には、π/6の位相差がある。
ここで、PHMパルス信号による線間電圧パルス波形とPWMパルス信号による線間電圧パルス波形とを比較する。図25(a)は、PHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。これは、図12において変調度0.4の線間電圧パルス波形に相当する。一方、図25(b)は、PWMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。これは、図23において変調度0.4の線間電圧パルス波形に相当する。
図25(a)と図25(b)とをパルス数について比較すると、図25(a)に示すPHMパルス信号による線間電圧パルス波形の方が、図25(b)に示すPWMパルス信号による線間電圧パルス波形よりも大幅にパルス数が少ないことが分かる。したがって、PHMパルス信号を用いると、生成される線間電圧パルス数が少ないために制御応答性はPWM信号の場合よりも低下するが、PWM信号を用いた場合よりもスイッチング回数を大幅に減らすことができる。その結果、スイッチング損失も大幅に低減することができる。
次に、PWM制御とPHM制御とにおけるパルス形状の違いについて、図26を参照して説明する。図26(a)は、PWMパルス信号の生成に用いられる三角波キャリアと、このPWMパルス信号によって生成されるU相電圧、V相電圧およびUV線間電圧とを示している。図26(b)は、PHMパルス信号によって生成されるU相電圧、V相電圧およびUV線間電圧を示している。これらの図を比較すると、PWMパルス信号を用いた場合はUV線間電圧の各パルスのパルス幅が一定ではないのに対して、PHMパルス信号を用いた場合はUV線間電圧の各パルスのパルス幅が一定であることが分かる。なお、前述のようにパルス幅が一定とはならない場合もあるが、これは正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスとが重なることによるものであり、パルスの重なりを分解すれば全てのパルスで同じパルス幅となる。また、PWMパルス信号を用いた場合は三角波キャリアが回転電機回転速度の変動に関わらず一定であるため、UV線間電圧の各パルスの間隔も回転電機回転速度によらず一定であるのに対して、PHMパルス信号を用いた場合はUV線間電圧の各パルスの間隔が回転電機回転速度に応じて変化することが分かる。
図27は、回転電機回転速度とPHMパルス信号による線間電圧パルス波形との関係を示している。図27(a)は、所定の回転電機回転速度におけるPHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。これは、図12において変調度0.4の線間電圧パルス波形に相当するものであり、電気角(UV線間電圧の基準位相θuvl)2π当たり16パルスを有する。
図27(b)は、図27(a)の回転電機回転速度を2倍としたときのPHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。なお、図27(b)の横軸の長さは、時間軸に対して図27(a)と等価となるようにしている。図27(a)と図27(b)とを比較すると、電気角2π当たりのパルス数は16パルスで変わらないが、同一時間内のパルス数が図27(b)では2倍となっていることが分かる。
図27(c)は、図27(a)の回転電機回転速度を1/2倍としたときのPHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。なお、図27(c)の横軸の長さも、図27(b)と同様に時間軸に対して図27(a)と等価となるようにしている。図28(a)と図27(c)とを比較すると、図27(c)では電気角π当たりのパルス数が8パルスであるため、電気角2π当たりのパルス数では16パルスで変わらないが、同一時間内のパルス数が図27(c)では1/2倍となっていることが分かる。
以上説明したように、PHMパルス信号を用いた場合は、回転電機回転速度に比例して線間電圧パルスの単位時間当たりのパルス数が変化する。すなわち、電気角2π当たりのパルス数を考えると、これは回転電機回転速度によらず一定である。一方、PWMパルス信号を用いた場合は、図26で説明したように、回転電機回転速度によらず線間電圧パルスのパルス数は一定である。すなわち、電気角2π当たりのパルス数を考えると、これは回転電機回転速度が上昇するほど低減する。
図28では、8極回転電機(極対数4)を用いて、PHM制御において削除対象とする高調波成分を3,5,7次の3つとし、正弦波PWM制御で用いる三角波キャリアの周波数を10kHzとした場合の例を示している。図28(a)は、PHM制御とPWM制御においてそれぞれ生成される電気角2π当たり(すなわち線間電圧一周期当たり)の線間電圧パルス数と、回転電機回転速度との関係を示している。このように電気角2π当たりの線間電圧パルス数は、PWM制御の場合は回転電機回転速度が上昇するほど減少していくのに対して、PHM制御の場合は回転電機回転速度によらず一定であることが分かる。
なお、PWM制御における線間電圧パルス数は、式(10)で求めることができる。
(線間電圧パルス数)
=(三角波キャリアの周波数)/{(極対数)×(回転電機回転速度)/60}×2
・・・(12)
図28(b)は、PHM制御とPWM制御においてそれぞれ生成される電気角2π当たり(すなわち相電圧一周期当たり)の相電圧パルス数と、回転電機回転速度との関係を示している。
図28では、PHM制御において削除対象とする高調波成分を3つとした場合の線間電圧一周期当たりの(a)線間電圧パルス数が16、(b)相電圧パルス数が11であることを示したが、前記線間電圧パルス数は削除対象とする高調波成分の数に応じて前述のように変化する。すなわち、削除対象の高調波成分が2つである場合は8、削除対象の高調波成分が4つである場合は32、削除対象の高調波成分が5つである場合は64のように、削除対象とする高調波成分の数が1つ増すにつれて、線間電圧一周期当たりのパルス数が2倍になる。
以上説明した本実施の形態に係る制御回路172によって行われるモータ制御のフローチャートを図29に示す。ステップ901において、制御回路172は回転電機の回転速度情報を取得する。この回転速度情報は、回転磁極センサ193から出力される磁極位置信号θに基づいて求められる。
ステップ902において、制御回路172は、ステップ901で取得した回転速度情報に基づいて、モータ回転速度が所定の切替回転速度以上であるか否かを判定する。モータ回転速度が切替回転速度以上であればステップ904へ進み、切替回転速度未満であればステップ903へ進む。
ステップ904において、制御回路172は、PHM制御において削除対象とする高調波の次数を決定する。ここでは前述のように、3次、5次、7次などの高調波を削除対象として決定することができる。なお、回転電機回転速度に応じて削除対象とする高調波の数を変化させてもよい。たとえば、回転電機回転速度が比較的低い場合は3次、5次および7次の高調波を削除対象とし、回転電機回転速度が比較的高い場合は3次および5次の高調波を削除対象とする。このように、回転電機回転速度が高くなるほど削除対象とする高調波の数を少なくすることで、高調波によるトルク脈動の影響を受けにくい高速回転域ではPHMパルス信号のパルス数を減らして、スイッチング損失をより一層効果的に減少させることができる。
ステップ905において、制御回路172は、ステップ904で決定した次数の高調波を削除対象とするPHM制御を行う。このとき、削除対象の高調波の次数に応じたPHMパルス信号が前述のような生成方法に従ってパルス変調器430により生成されると共に、そのPHMパルス信号が切換器450によって選択され、制御回路172からドライバ回路174へ出力される。ステップ905を実行したら、制御回路172はステップ901へ戻り、上記のような処理を繰り返す。
ステップ906において、制御回路172は矩形波制御を行う。矩形波制御は、前述のようにPHM制御の一形態、すなわちPHM制御において変調度を最大としたもの、または削除対象の高調波次数無しと考えることができる。矩形波制御では高調波を削除することはできないが、スイッチング回数を最小とすることができる。なお、矩形波制御に用いられるパルス信号は、PHM制御の場合と同様にパルス変調器430によって生成することができる。このパルス信号が切換器450によって選択され、制御回路172からドライバ回路174へ出力される。ステップ906を実行したら、制御回路172はステップ901へ戻り、上記のような処理を繰り返す。
ステップ903において、制御回路172はPWM制御を行う。このとき、所定の三角波キャリアと電圧指令信号との比較結果に基づいて、前述のような生成方法によりPWMパルス信号がパルス変調器440において生成されると共に、そのPWMパルス信号が切換器450によって選択され、制御回路172からドライバ回路174へ出力される。ステップ903を実行したら、制御回路172はステップ901へ戻り、上記のような処理を繰り返す。
以上説明した本実施例の形態とPHM制御モードによれば、上述した作用効果を奏し、さらにPWM制御モードと比較しスイッチング素子のスイッチング回数を低減したPHM制御モードを用いることで次に記載の作用効果も奏する。
PWM制御モードとPHM制御モードを比較するために、各制御モードの条件を以下ののものとする。
まずPWM制御モードの条件を図30に示す。図30のaは図22のb「PWM制御 U相電圧パルス波形」を抜き出したものである。ここで図30のbのようにPWM相電圧の各パルス幅をDuty=50%と仮定して、図30のcのように各パルス形状を立上り,立下り時間を持つ台形波で近似すれば、
PWMキャリア周波数:Fc=10k(Hz)
立上がり立下り時間:τ=0.2(μS)
パルス周期:T=1/Fc(S)
Duty50%からα/T=0.5より α=0.5T(S)・・・・・・・・・・(13)
となる。
次にPHM制御モードの条件を図31に示す。図31のaは図18「PHM制御 U相電圧パルス波形(3,5,7次高調波削除)」を抜き出したものである。ここで図31のbのようにPHM相電圧の各パルス幅を電気角2πあたりDuty50%と仮定して、図31のcのように各パルス形状を立上り,立下り時間を持つ台形波で近似すれば、
立上がり立下り時間:τ=0.2(μS)
回転電機極対数:P=4
回転電機回転数:N=2000(r/min)
PHM相電圧パルス数:11(plus/2π)
パルス周期:T=1/(P×(N/60)×n) (s)
Duty50%からα/T=0.5より α=0.5T(S)・・・・・・・・・・(14)
となる。
図32は式(13)(14)からPWM制御の場合とPHM制御の場合で各パルス幅α(s)をグラフで示したものである。PWM制御の場合は、キャリア周波数Fcの値によってαの値は決まっておりキャリア周波数Fcが変わらない限り一定である。
一方、PHM制御の場合は、PWMよりも少ないパルス数で且つ図28より電気角2π当りのパルス数は回転電機の回転数によらず一定であるため、図27(c)に示す如く低回転域に行くほど単位時間当たりのパルス数が減りαの値が大きくなる。
図33は図30,31,32の前述の立上がり立下り時間τ(s)とα(s)から
(a)PWM制御
(b)PHM制御(2000r/min)
におけるU相電圧の電圧スペクトルを表したものである。
図33はU相電圧の電圧スペクトルを表示してあるが、V相,W相に関しても同一と考えても差し支えない。(b)の点線は(a)のPWM電圧スペクトルを比較のために記載している。このようにPHM制御では回転電機192のトルクリップルを抑えつつスイッチング素子のスイッチング回数を低減できるため、図33のように相電圧の電圧スペクトルを下げることが出来る。
尚、図33はPHM制御2000(r/min)に関して記載しているが、図32のグラフに表すようにα(s)の値がPWM制御より大きい範囲では同様に、PHM制御の電圧スペクトルが下がる傾向にある。
ここで、図2(a)において、回転電機192の中性点とGND間の浮遊容量192nc(以下ストレーキャパシター)に流れる、中性点とGND間を流れる漏えい電流192iは、中性点192nとGNDとの電位差によって生じる。コモンモード電流192iはGNDを経由して、回転電機192とGND間のストレーキャパシタ192gc、制御部170とGND間のストレーキャパシタ170gc、電力変換装置200とGND間のストレーキャパシタ200gcに流れ込み、図2(b)に示すようなコモンモードノイズ源とみなすことが出来る。
図33の結果と式(1)からU,V,W各相電圧の電圧スペクトルが下がると、同時に中性点電圧Vnの電圧スペクトルも全体的に下げることが出来る。
つまりPHM制御ではスイッチング素子のスイッチング回数がPWM制御に比べ低減しているために、中性点電圧スペクトルを低減できるだけでなく、さらに中性点電圧変動回数そのものも低減できるため図2(b)のコモンモードノイズを低減することが出来る。これにより、モータベアリングでコモンモード電流により、発生する放電によるベアリングの電食に対しても大きな抑制効果が期待できる。
以上説明した各実施の形態は、次のように変形することもできる。
上記各実施の形態では、回転電機回転速度が所定の切替回転速度以上であれば矩形波制御を含むPHM制御を行い、切替回転速度未満であればPWM制御を行うことで、電力変換装置200において制御モードの切替を行うこととした。しかし、こうした制御モードの切替は各実施形態において説明した形態に限らず、任意の回転電機回転速度で適用することができる。たとえば、回転電機回転速度が0〜10,000 r/minである場合に、0〜1,500 r/minの範囲ではPWM制御、1,500〜4,000 r/minの範囲ではPHM制御、4,000〜6,000 r/minの範囲ではPWM制御、6,000〜10,000 r/minの範囲ではPHM制御をそれぞれ行うことができる。このようにすれば、回転電機回転速度に応じて最適な制御モードを用いて、より一層きめ細かい回転電機制御を実現することができる。
以上の説明はあくまで一例であり、本発明は上記の各実施形態の構成に何ら限定されるものではない。