JP5508889B2 - 薄膜蛍光体、ディスプレイ、ブラウン管および薄膜蛍光体の製造方法 - Google Patents

薄膜蛍光体、ディスプレイ、ブラウン管および薄膜蛍光体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、蛍光体に関し、特に、薄膜ディスプレイ等に使用される薄膜蛍光体に関する。
従来より、遷移金属イオンや希土類イオンがドープされたチオガレート(thiogallate)化合物は、外部から電気エネルギーを供給すると広い色域で発光する特性を有することから、ディスプレイ用蛍光体として使用できることが知られている。例えば、CaGa:Ce蛍光体は、青緑域で発光することが知られている。
このようなチオガレート化合物を蛍光体として使用する場合、粉末状および薄膜状の2つの形態が考えられる。このうち、通常10μm以上の厚さからなる粉末状の蛍光体とは異なり、薄膜状の蛍光体は、膜厚が薄い(例えば1μm)ため、厚み方向の光散乱が少なく、高精細な画像表示に適するという特徴を有する。このため、チオガレート化合物からなる薄膜蛍光体に関しては、現在も様々な化合物系について、活発な研究開発が行われている(例えば特許文献1)。
特開2003−301171号公報
一般に、粉末状の蛍光体は、各粒子がランダムに配列されているため、特定の結晶配向性を有さない。これに対して、薄膜蛍光体は、膜厚が薄く(例えば1μm)、多結晶体であるため、特定の方向に結晶方位の配向性を有する傾向にある。しかしながら、このような特定の方向における結晶の配向性は、屈折率の面内不均一性を生じさせる一因となり、この屈折率の面内不均一性によって、薄膜蛍光体による発光が面内で不均一になる可能性がある。
特に、薄膜蛍光体を大面積ディスプレイおよび/または高精細ディスプレイに適用した場合、このような発光の不均一性により、ディスプレイに無視できないほどの発光むらが生じるという問題が生じ得る。
なお、実験室レベル等では、単結晶状の蛍光体、または単結晶に類似した単一配向性の薄膜蛍光体を製作することも可能ではあるが、このような蛍光体は、実際に大面積のディスプレイ等に適用することは難しいため、実験室レベルで作製した蛍光体では、根本的な解決にはならない。
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、従来の薄膜蛍光体に比べて、面内での発光むらが生じ難い薄膜蛍光体を提供することを目的とする。また、本発明では、そのような薄膜蛍光体を有するディスプレイ、およびそのような薄膜蛍光体を製作する成膜装置を提供することを目的とする。
本発明では、チオガレート化合物を含む薄膜蛍光体であって、
当該薄膜蛍光体のX線回折において、
最も大きなピークが得られる結晶面を(h)とし、2番目に大きなピークが得られる結晶面を(h)としたとき、2つの結晶面(h)および(h)のなす角度αが85゜〜95゜の範囲にあることを特徴とする薄膜蛍光体が提供される。
ここで、本発明による薄膜蛍光体において、前記チオガレート化合物は、発光中心元素Xがドープされた、一般式がMGa:Xで表される化合物であり、
Mは、Sr、Ba、Ca、およびMgからなる群から選定された少なくとも一つの元素であり、
Xは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Cr、Mn、Fe、Tl、Pb、およびBiからなる群から選定された少なくとも一つの元素であっても良い。特に発光中心元素Xは、元素単体のみならず、化合物やイオンの形態であっても良く、ここで規定した発光中心元素Xを含む化合物やイオンであれば、発光中心として機能する。
また、本発明による薄膜蛍光体において、前記2つの結晶面は、(400)および(062)であっても良い。
また、本発明では、電子を放出する電子源と、前記電子が衝突した際に発光が生じる蛍光体層が設置された基板とを有するフィールドエミッション式ディスプレイであって、
前記蛍光体層は、前述の特徴を有する薄膜蛍光体を有すること特徴とするフィールドエミッション式ディスプレイが提供される。
さらに、本発明では、電子を放出する電子源と、前記電子が衝突した際に発光が生じる蛍光体層が設置された基板とを有するブラウン管(CRT)であって、
前記蛍光体層は、前述の特徴を有する薄膜蛍光体を有すること特徴とするブラウン管(CRT)が提供される。
さらに、本発明では、2つの電極間に電圧を印加する電圧源と、前記電極間に設置され、前記電圧印加の際に発光が生じる蛍光体層とを有するエレクトロルミネッセンス式ディスプレイであって、
前記蛍光体層は、前述の特徴を有する薄膜蛍光体を有すること特徴とするエレクトロルミネッセンス式ディスプレイが提供される。
さらに、本発明では
板上に薄膜蛍光体を成膜するための成膜室と、
成膜の際に、前記成膜室の真空度を1×10−9Pa〜1×10−6Paの範囲に調節する手段と、
を有する成膜装置を使用する、前述の特徴を有する薄膜蛍光体の製造方法が提供される。
ここで、本発明による薄膜蛍光体の製造方法において、前記成膜室の真空度を調節する手段は、
前記成膜室を真空排気するための真空排気管に設置されたバタフライバルブを有し、該バタフライバルブが前記真空排気管の開度を調節するか、または
内部に液体窒素が流れるシュラウドを有し、該シュラウドが前記液体窒素の流量を調節して前記基板に到達しなかった物質の少なくとも一部をトラップしても良い。
また、本発明では、
真空チャンバ内の成膜室に配置された基板上に物質を供給することにより、前記基板上に前述の特徴を有する薄膜蛍光体を形成する方法であって、
前記成膜室を真空排気するための真空排気管に設置され、該真空排気管の開度を調節するバタフライバルブと、
前記成膜室内に、前記基板に到達しなかった物質の少なくとも一部をトラップするように設けられた、内部に液体窒素が流れるシュラウドと、
を有する成膜装置を使用し、
成膜の際に、前記成膜室の真空度は、1×10−9Pa〜1×10−6Paの範囲に維持されることを特徴とする薄膜蛍光体の製造方法が提供される。
本発明では、従来の薄膜蛍光体に比べて、面内での発光むらが生じ難い薄膜蛍光体を提供することができる。また、本発明では、そのような薄膜蛍光体を有するディスプレイ、およびそのような薄膜蛍光体を製作する成膜装置を提供することが可能となる。
従来の薄膜蛍光体に紫外線を照射した際の面内発光状態を示した図である。 本発明による薄膜蛍光体に紫外線を照射した際の面内発光状態を示した図である。 本発明による成膜装置の一例を概略的に示した図である。 本発明の薄膜蛍光体を有するFED装置の構成例を概略的に示した図である。 本発明の薄膜蛍光体を有するELD装置の構成例を概略的に示した図である。 実施例1に係る薄膜のX線回折結果を示した図である。 比較例1に係る薄膜のX線回折結果を示した図である。
以下、図面を参照して本発明について詳しく説明する。
本願発明者らは、これまで、チオガレート化合物、チオアルミネート(thioaluminate)化合物、およびチオインデート(thioindates)化合物等のチオガレート系化合物の薄膜蛍光体を対象として、様々な研究開発を行ってきた。そして、このような多元系の薄膜蛍光体を物理的蒸着法(例えばPVD法)により形成した場合、成膜後に得られる薄膜蛍光体の組成は、蒸着速度、熱処理温度など、薄膜製作プロセスの各条件に敏感であること、およびこのため、薄膜蛍光体中には、時折、非所望の異相が形成される場合があることを把握してきた。例えばストロンチウム系のチオガレート薄膜(SrGa)中には、Ga、Sr等の異相が含まれる場合がある。
薄膜蛍光体中にこのような異相が含まれると、異相が発光を担うキャリアの捕獲中心となり、薄膜蛍光体の発光効率が低下したり、発光色に色むらが生じて、発光の色純度が低下したりするという問題がある。そのため、本願発明者等は、このような異相の形成を抑制すべく、薄膜蛍光体の成膜プロセスの改良研究を進めてきた。その結果、現在では、異相の形成、さらには色むらの発生を抑制することが可能な成膜プロセスについては、ある程度把握することができるレベルに達している。
しかしながら、本願発明者らは、成膜プロセスの改良により、薄膜蛍光体中に含まれる異相を抑制した場合であっても、すなわち発光色の色むらを抑制することができた場合でも、薄膜蛍光体を励起し発光させた際に、薄膜の面内で、発光のむら(「発光むら」と称する)が生じる場合があることに気づいた。
図1には、SrGa:Eu系の薄膜蛍光体において認められた、そのような発光むらの一例を示す。
図1は、SrGa:Eu系の薄膜蛍光体に波長が365nmの紫外線を照射した際に生じた発光の様子を、偏光板を通して撮影した写真である。両写真(a)および(b)において、偏光板の配置方向は、90゜ずれている。
図1において、いずれの写真においても、白っぽい部分と黒っぽい部分の両方が認められることから、面内における薄膜蛍光体の発光に、発光むらが発生していることがわかる。
このような発光むらの発生原因として、例えば以下のことが推定される。
一般に、粉末状の蛍光体は、各粒子がランダムに配列されているため、特定の結晶配向性を有さない。これに対して、薄膜蛍光体は、膜厚が薄く(例えば1μm)、多結晶体であるため、特定の方向に結晶方位の配向性を有する傾向にある。このような特定の方向における結晶の配向性は、屈折率の面内不均一性を生じさせる一因となり、このため、薄膜蛍光体による発光が面内で不均一になると考えられる。特に、結晶質チオガレート化合物は、通常、c軸方向に一軸異方性を有することが知られており、このような性質に起因して、発光に方向依存性が現れ、これにより面内での発光が不均一になることが考えられる。
例えば、前述の図1の2枚の写真を比較すると、一方の写真において、白っぽい部分は、別の写真において黒っぽく見えており、黒っぽい部分は、白っぽく見えていることがわかる。この事実からも、薄膜蛍光体が有する特定の結晶方位に起因して、屈折率が面内で不均一になっており、これにより特定の方向に偏光が生じることが推定される。
このような発光むらは、特に、薄膜蛍光体を大面積ディスプレイおよび/または高精細ディスプレイに適用した場合に顕著になるおそれがある。このような発光の不均一性により、ディスプレイに無視できないほどの発光むらが生じる可能性があるからである。
このような考察の下、本願発明者らは、鋭意研究開発を推進した結果、多結晶薄膜蛍光体の結晶配向性(結晶方位依存性)と発光の面内均一性の間に、密接な関係があることを見出した。すなわち、多結晶薄膜蛍光体が結晶配向性を有していても、その配向性がある特定の条件を満たす場合には、面内での発光むらが抑制され、発光の面内均一性が向上することを見出し、本願発明に至った。
すなわち、本願発明では、
チオガレート化合物を含む薄膜蛍光体であって、
当該薄膜蛍光体のX線回折において、最も大きなピークが得られる結晶面を(h)とし、2番目に大きなピークが得られる結晶面を(h)としたとき、2つの結晶面(h)および(h)のなす角度αが85゜〜95゜の範囲にあることを特徴とする薄膜蛍光体が提供される。
なお本願では、最も大きなピークが得られる結晶面(h)と、2番目に大きなピークが得られる結晶面(h)とは、「(2つの)主要結晶面」とも称される。
また、2つの主要結晶面(h)および(h)のなす角度αは、以下の方法により求めることができる。ここで、なす角度αは、0〜180゜の範囲である。
結晶の基本並進ベクトルを
とする(これらをそれぞれ、(ベクトルa)、(ベクトルb)、(ベクトルc)とも表す)と、結晶面(h)の法線方向のベクトルは、これらを用いて
で表すことができる。
同様に、結晶面(h)の法線方向のベクトルは、
となる。
また、結晶面(h)と結晶面(h)とのなす角度αは、
で与えられる。
次に、
を、それぞれ、a軸、b軸およびc軸の各方位の単位ベクトルとし(これらをそれぞれ、(ベクトルx)、(ベクトルy)、(ベクトルz)とも表す)、ベクトルa、ベクトルb、ベクトルcを
と置き換える。ここで、a、bおよびcは、チオガレート化合物の種類によって一義的に定まる定数(格子定数)である。例えばSrGa化合物の場合、a=20.93Å、b=20.55Å、c=12.23Åである。また、CaGa化合物の場合、a=20.12Å、b=20.09Å、c=12.13Åである。
正方晶系を持つチオガレート化合物などの正方晶系においては、(ベクトルx)、(ベクトルy)および(ベクトルz)は、互いに直交しているため、
となる。
従って、(9)式〜(11)式と(3)式から、結晶面(h)と結晶面(h)とのなす角度αを求めることができる。
図2には、本発明によるSrGa:Eu系の薄膜蛍光体に、波長が365nmの紫外線を照射した際に生じた面内での発光の様子を、偏光板を通して撮影した写真を示す。両写真(a)および(b)において、偏光板の配置方向は、90゜ずれている。使用した薄膜蛍光体の2つの主要結晶面(h)および(h)は、それぞれ、(400)および(062)であり、この場合、両結晶面のなす角度αは、約90゜である。
この写真から明らかなように、本発明によるSrGa:Eu系の薄膜蛍光体の場合、前述の図1の薄膜蛍光体の場合とは異なり、発光の際に、発光むらがほとんど生じていないことがわかる。また、この効果は、偏光板の配置方向に依存していない。
このように、薄膜蛍光体において、2つの主要結晶面(h)および(h)のなす角度αを85゜〜95゜の範囲にすることによって、面内の発光むらが抑制できることがわかる。
ここで、上記角度αの範囲を満たしたときに、薄膜蛍光体の面内の発光むらが抑制できる理由については、今のところ十分に把握されていないが、おおよそ以下のことが考えられる。
2つの主要結晶面のなす角度αが90゜前後になると、これらの結晶面の間で、原子の配列や周期性(面間隔)が大きく異なるようになり、結晶を構成する個々の原子が互いに影響されずに、より無相関に成長するようになる。このため、仮に主要結晶面がc軸に平行な成分を有していたとしても、得られた薄膜蛍光体をマクロ的に見たとき、各原子の成長は、よりランダム化され、結果的に薄膜蛍光体の面内均一性が向上すると考えられる。
前述のように、本発明による薄膜蛍光体は、2つの主要結晶面(h)および(h)のなす角度αが85゜〜95゜の範囲にある。特に、なす角度αは、90゜または90゜に極めて近いことが望ましく、87゜〜93゜の範囲、さらには89゜〜91゜の範囲にあることがより好ましい。
なお、2つの主要結晶面(h)および(h)のなす角度αが85゜〜95゜の範囲にある薄膜蛍光体は、後述するように、成膜の際の真空度を制御することにより、比較的容易に形成することができる。特に、成膜の際の雰囲気の真空度を、1×10−9Pa〜1×10−6Paの範囲に調節することにより、そのような薄膜蛍光体を形成することができる。
また、本発明におけるチオガレート化合物としては、一般式がMGa:Xで表される化合物が挙げられる。ここで、Mは、Sr、Ba、CaおよびMgからなる群から選定された少なくとも一つの元素であり、Xは、ドープされた発光中心元素である。Xには、希土類元素、および遷移金属等が含まれる。Xは、例えば、Ce(Ce3+)、Pr(Pr3+)、Nd(Nd3+、Nd4+)、Sm(Sm3+)、Eu(Eu3+、Eu2+)、Gd(Gd3+)、Tb(Tb3+)、Dy(Dy4+、Dy3+、Dy2+)、Ho(Ho3+、Ho2+)、Er(Er3+)、Tm(Tm3+)、Yb(Yb3+、Yb2+)、Cr(Cr3+)、Mn(Mn4+、Mn2+)、Fe(Fe3+)、Tl(Tl)、Pb(Pb2+)、またはBi(Bi3+)等であっても良い。(例えば、Shigeo Shinoyama and William M.Yen,“Phosphor handbook”,CRC−Press(1998))。
一般式がMGa:Xで表されるチオガレート化合物には、いくつかの結晶構造が報告されているが、本発明では、特に結晶格子がある方向に歪んだ結晶構造をもつものについて適用でき、特に空間群がFdddを有する結晶構造をもつチオガレート化合物が好適である。(例えば、小林洋志監修、中西洋一郎・波多腰玄一編著「発光と受光の物理と応用」培風館(2008)p.77〜p.83)。
なお、本発明の適用は、空間群がFdddを有する結晶構造をもつチオガレート化合物に限られるものではなく、一軸異方性を有する結晶構造を有する限り、他の化合物においても同様に適用できることは明らかであろう。そのような化合物としては、例えば、一般式がMIIAl:XIIで表されるチオアルミネート化合物、MIIIn:XIIIで表されるチオインデート化合物、および一般式がMIIIIV:XIVで表されるカルコパイライト化合物等が挙げられる。ここで、MIIは、Sr、Ba、CaおよびMgからなる群から選定された少なくとも一つの元素であり、XIIは、ドープされた発光中心元素である。XIIには、前述のXと同様の元素が含まれる。また、MIIIは、CuおよびAgからなる群から選定された少なくとも一つの元素であり、MIVは、AlおよびGaからなる群から選定された少なくとも一つの元素であり、XIIIおよびXIVは、ドープされた発光中心元素である。XIIIおよびXIVには、前述のXまたはXIIと同様の元素が含まれる。これらの化合物の多くは、結晶構造に一軸異方性を有しており、それらの性質は、格子定数(a、b、c)にも反映されている。例えば、SrAl化合物の場合、a=20.82Å、b=20.36Å、c=12.12Åであり、CaAl化合物の場合、a=20.16Å、b=20.05Å、c=12.03Åであり、BaIn化合物の場合、a=21.82Å、b=21.67Å、c=13.13Åであり、SrIn化合物の場合、a=20.89Å、b=21.12Å、c=13.02Åであって、c軸方向に大きく歪んでいる。
(本発明による薄膜蛍光体の製造方法)
次に、前述のような特徴を有する本発明による薄膜蛍光体の製造方法の一例について説明する。なお、ここでは、チオガレート化合物として、SrGa:EuをPVD(物理的気相成膜)法により製造する場合を例に説明する。
まず、各原料粉末がクヌーセンセルに充填される。原料粉末としては、例えば、Sr、Ga、ZnS、およびEuが使用される。また、薄膜蛍光体を表面に成膜するための基板が準備される。基板は、特に限られないが、例えば、ガラス基板等であっても良い。
次に、成膜装置(詳細は、以下参照)の成膜室内に、それぞれの原料が充填された合計4つのクヌーセンセル、および基板が配置される。
成膜の際には、基板の温度は、400〜550℃の範囲に維持される。また加熱器を用いてクヌーセンセルが加熱され、各原料粉末が蒸発する。この蒸気が基板の方に供給されると、基板上では、以下の反応が生じる

Sr+2Ga→SrGa+2GaS (12)式

なお、GaSは、基板上で再蒸発してしまうため、SrGa膜中には残留しない。また、Euは、生成したSrGa膜中に取り込まれる。
ここで、成膜の際の成膜室内の真空度は、1×10−9Pa〜1×10−6Paの範囲に調節される。これにより、最終的に得られる薄膜蛍光体において、2つの主要結晶面(h)および(h)のなす角度αを、85゜〜95゜の範囲に制御することができる。
(成膜装置)
次に、図3を参照して、前述のような特徴を有する薄膜蛍光体を製作するための、本発明による成膜装置の一例について説明する。
本発明による成膜装置100は、内部に成膜室110が形成された真空チャンバ120を有し、成膜室110内には、基板ホルダ130と、基板ヒータ140と、各原料が充填されたKセル150とが配置される。例えば、SrGa:Eu蛍光体薄膜を成膜する場合、それぞれSr、Ga、ZnS、およびEuが充填された、合計4つのクヌーセンセル150が使用されても良い。
基板ホルダ130には、一つの表面(図の例では下面)に蛍光体薄膜が成膜される基板132が保持される。基板ヒータ140は、基板ホルダ130の近傍または内部に配置され、基板132を昇温する役割を有する。基板温度は、例えば、400℃〜600℃の範囲である。
真空チャンバ120は、ターボ分子ポンプ等の真空排気手段(図示されていない)が設置された真空配管180と接続されている。従って、真空排気手段を作動させることにより、成膜室110を高真空状態にすることができる。
さらに、本発明による成膜装置100は、成膜室110の真空度を所定の範囲に制御するための真空度調節手段を備えるという特徴を有する。図3の例では、真空度調節手段は、バタフライバルブ170およびシュラウド190を有する。ただし、バタフライバルブ170とシュラウド190のうちのいずれか一方は、省略されても良い。また、バタフライバルブ170およびシュラウド190以外の真空度調節手段を設けても良い。
なお、本発明において、成膜室110の真空度は、前述のように、1×10−9Pa〜1×10−6Paの範囲に調節される。
図3において、バタフライバルブ170は、真空チャンバ120に接続された真空配管180の途中に配置される。バタフライバルブ170は、例えば電動式にバルブ位置を制御することにより、真空配管180の開度を調節する機能を有する。バタフライバルブ170は、制御コントローラ172と接続されている。制御コントローラ172は、成膜室110内に取り付けられた真空ゲージ175からの入力を受け取り、その入力に基づいて、バタフライバルブ170のバルブ位置を制御することができる。従って、制御コントローラ172により、バタフライバルブ170のバルブ位置が制御され、これにより成膜室110の真空度を高精度に(例えば1×10−9Pa単位で)制御することができる。
シュラウド190は、成膜室110内に、真空チャンバ120の内壁を取り囲むようにして配置される。シュラウド190は、金属のような熱伝導性材料(例えばステンレス鋼)で構成され、その内部には、液体窒素の流通路が形成されている。シュラウド190を流れる液体窒素の流量は、流量制御系(図示されていない)により制御することができる。
シュラウド190は、表面に接触した蒸気をトラップすることができる。従って、Kセル150から発生した蒸気のうち、基板132(あるいは基板ホルダ130)に到達しなかった蒸気は、シュラウド190によりトラップされ、これにより、成膜室110内の真空度を、高精度で一定の値に維持することができる。
また、シュラウド190には、制御コントローラ173が設置されている。制御コントローラ173は、前述の真空ゲージ175からの入力を受け取ることができる。また、制御コントローラ173は、シュラウド190の温度を計測することが可能な温度モニター(図示されていない)からの入力を受け取り、その入力に基づいて、流量制御系を制御することができる。従って、真空ゲージ175の入力が所定の値になっていない場合、制御コントローラ173により、シュラウド190内を流れる液体窒素の流量が制御され、シュラウド190の温度が調節される。また、これにより、成膜室110内の真空度を(例えば1×10−9Pa単位で)微調節することができる。
特に、バタフライバルブ170とシュラウド190の両方を設置した場合、成膜室110の真空度を極めて高い精度で制御することができる。
なお、図の例では、成膜装置110は、制御コントローラ172と173の、独立した2つの制御コントローラを備える。しかしながら、これらの制御コントローラ172、173は、一体化されても良いことは明らかであろう。
(本発明によるディスプレイ)
前述のような特徴を有する本発明による薄膜蛍光体は、電子線励起によるFED(フィールドエミッション式ディスプレイ)、またはCRT(ブラウン管)、および電界励起によるELD(エレクトロルミネッセンス式ディスプレイ)等のようなディスプレイに適用することができる。
以下、一例として、FEDおよびCRTディスプレイについて、簡単に説明する。
図4には、本発明の薄膜蛍光体を有するFED装置の構成例を概略的に示す。
このFED装置200(単位素子)は、ガラス基板220と、該ガラス基板220上に形成された、ITO(インジウムスズ酸化物)のような透明導電体で形成された透明電極230と、該透明電極上に設置された蛍光体層240とを有する。また、FED装置200は、さらに、蛍光体層240から離して、蛍光体層240と対向するように配置された電子放出源250を有する。ここで、蛍光体層240は、本発明による薄膜蛍光体で構成される。
なお、図4には示していないが、ガラス基板220と電子放出源250の間は、封止材によって密閉されており、この密閉空間は、真空になっている。
なお、実際には、図4に示す構成の単位素子が複数、2次元的(縦横)に配列されることにより、平面状のFED装置が構成される。
このように構成されたFED装置200において、電圧源270により、透明電極230と電子放出源250の間に電圧が印加されると、電子放出源250から、蛍光体層240に向かって電子290が放射される。この電子290が、蛍光体層240に衝突すると、薄膜蛍光体から発光が生じる。
ここで、蛍光体層240は、本発明による薄膜蛍光体で構成されている。従って、発光の際には、従来のような面内での発光むらが有意に抑制され、均一な発光を得ることができる。
図5は、本発明の薄膜蛍光体を有するELD装置の構成例を概略的に示した図である。
このELD装置300(単位素子)は、ガラス基板320を有し、該ガラス基板320上には、透明電極330と、第1の絶縁層335と、蛍光体層340と、第2の絶縁層350と、背面電極360とが、この順に積層される。透明電極330および背面電極360は、例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)のような透明導電体で形成される。蛍光体層340は、本発明による薄膜蛍光体で構成される。
また、ELD装置300は、さらに、交流電圧源370を有し、この交流電圧源370は、透明電極330と背面電極360の間に、交流電圧を印加することができる。
なお、実際には、図5に示す構成の単位素子が複数、2次元的(縦横)に配列されることにより、平面状のELD装置が構成される。
このように構成されたELD装置300において、交流電圧源370により、透明電極330と背面電極360の間に電圧が印加されると、蛍光体層340内に電界が生じる。これにより、蛍光体層340に含まれる蛍光体から、発光が生じる。
ここで、蛍光体層340は、本発明による薄膜蛍光体で構成されている。従って、発光の際には、従来のような面内での発光むらが有意に抑制され、均一な発光を得ることができる。
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
前述の図3に示したような本発明による成膜装置を用いて、実際に基板上にSrGa:Euの薄膜を成膜し、薄膜の発光特性を評価した。
この成膜装置は、成膜室110の真空度調節手段として、バタフライバルブ170とシュラウド190の両方を備えるタイプのものである。
成膜用の基板には、縦20mm、横40mm、厚さ0.5mmの無アルカリガラス基板(株式会社日本電気硝子製OA−2)を使用した。
蒸着原料には、Sr、Ga、ZnS、およびEuを使用した。これらの原料がそれぞれ別個に充填された4つのクヌーセンセルを電子ビームで加熱し、これにより生じた蒸気を基板上に蒸着させた。
基板温度は、550℃とした。
成膜中のシュラウド170の温度は、内部に液体窒素を流通させることにより、約−135℃に制御した。
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、基板上にSrGa:Euの薄膜を成膜した。ただし、この実施例2では、シュラウドの温度を約−140℃として、成膜を行った。
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、基板上にSrGa:Euの薄膜を成膜した。ただし、この比較例1では、シュラウドの温度を約−150℃として、成膜を行った。
(比較例2)
実施例1と同様の方法により、基板上にSrGa:Euの薄膜を成膜した。ただし、この比較例2では、シュラウドの温度を約−115℃として、成膜を行った。
(比較例3)
実施例1と同様の方法により、基板上にSrGa:Euの薄膜を成膜した。ただし、この比較例3では、シュラウドの温度を約−80℃として、成膜を行った。
(薄膜の評価)
前述の実施例1、2および比較例1〜3に係る薄膜を用いて、X線回折測定を行った。
図6には、実施例1に係る薄膜のX線回折結果を示す。また、図7には、比較例1に係る薄膜のX線回折結果を示す。
図6から、実施例1に係る薄膜の場合、最も大きなピークが得られる結晶面は、(062)であり、2番目に大きなピークが得られる結晶面は、(400)であった。また、前述の方法により、両者の間のなす角度αを求めると、α=90.04゜であった。
同様に、図7から、比較例1に係る薄膜の場合、最も大きなピークが得られる結晶面は、(480)であり、2番目に大きなピークが得られる結晶面は、(440)であった。また、前述の方法により、両者の間のなす角度αを求めると、α=18.34゜であった。
各薄膜において得られた結果をまとめて、表1に示す。
この表1には、各薄膜を製作するときのシュラウド温度、X線回折によって得られた2つの主要結晶面(h)および(h)、ならびに角度αを示した。
この結果から、実施例1、2に係る薄膜では、2つの主要結晶面がなす角度は、いずれも90.04゜であるのに対して、比較例1〜3に係る薄膜では、2つの主要結晶面がなす角度は、90゜から大きくかけ離れていることがわかる。
次に、各薄膜に紫外線を照射させて薄膜を発光させた際の、面内発光むらの発生有無について評価した。紫外線の照射量は、350μW/cmとした。結果を前述の表1の右端欄に示す。
表1に示すように、比較例1〜3に係る薄膜では、発光むらが生じた。一方、実施例1、2に係る薄膜では、発光むらが生じないことが確認された。
本発明は、例えば、FED(フィールドエミッション式ディスプレイ)、CRT(ブラウン管)、およびELD(エレクトロルミネッセンス式ディスプレイ)などの薄膜ディスプレイ用の薄膜蛍光体として適用することができる。
100 本発明による成膜装置
110 成膜室
120 真空チャンバ
130 基板ホルダ
132 基板
140 基板ヒータ
150 クヌーセンセル
170 バタフライバルブ
172、173 制御コントローラ
175 真空ゲージ
180 真空配管
190 シュラウド
200 FED装置
220 ガラス基板
230 透明電極
240 蛍光体層
250 電子放出源
270 電圧源
290 電子
300 ELD装置
320 ガラス基板
330 透明電極
335 第1の絶縁層
340 蛍光体層
350 第2の絶縁層
360 背面電極
370 交流電圧源

Claims (9)

  1. チオガレート化合物を含む薄膜蛍光体であって、
    当該薄膜蛍光体のX線回折において、
    最も大きなピークが得られる結晶面を(h)とし、2番目に大きなピークが得られる結晶面を(h)としたとき、2つの結晶面(h)および(h)のなす角度αが85゜〜95゜の範囲にあることを特徴とする薄膜蛍光体。
  2. 前記チオガレート化合物は、発光中心元素Xがドープされた、一般式がMGa:Xで表される化合物であり、
    Mは、Sr、BaおよびCaからなる群から選定された少なくとも一つであり、
    Xは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Cr、Mn、Fe、Tl、Pb、およびBiからなる群から選定された少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜蛍光体。
  3. 前記2つの結晶面は、(400)および(062)であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜蛍光体。
  4. 電子を放出する電子源と、前記電子が衝突した際に発光が生じる蛍光体層が設置された基板とを有するフィールドエミッション式ディスプレイであって、
    前記蛍光体層は、前記請求項1乃至3のいずれか一つに記載の薄膜蛍光体を有すること特徴とするフィールドエミッション式ディスプレイ。
  5. 電子を放出する電子源と、前記電子が衝突した際に発光が生じる蛍光体層が設置された基板とを有するブラウン管であって、
    前記蛍光体層は、前記請求項1乃至3のいずれか一つに記載の薄膜蛍光体を有すること特徴とするブラウン管。
  6. 2つの電極間に電圧を印加する電圧源と、前記電極間に設置され、前記電圧印加の際に発光が生じる蛍光体層とを有するエレクトロルミネッセンス式ディスプレイであって、
    前記蛍光体層は、前記請求項1乃至3のいずれか一つに記載の薄膜蛍光体を有すること特徴とするエレクトロルミネッセンス式ディスプレイ。
  7. 板上に薄膜蛍光体を成膜するための成膜室と、
    成膜の際に、前記成膜室の真空度を1×10−9Pa〜1×10−6Paの範囲に調節する手段と、
    を有する成膜装置を使用する、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の薄膜蛍光体の製造方法
  8. 前記成膜室の真空度を調節する手段は、
    前記成膜室を真空排気するための真空排気管に設置されたバタフライバルブを有し、該バタフライバルブが前記真空排気管の開度を調節するか、または
    内部に液体窒素が流れるシュラウドを有し、該シュラウドが前記液体窒素の流量を調節して前記基板に到達しなかった物質の少なくとも一部をトラップする、
    ことを特徴とする請求項7に記載の薄膜蛍光体の製造方法
  9. 真空チャンバ内の成膜室に配置された基板上に物質を供給することにより、前記基板上に請求項1乃至3のいずれか一つに記載の薄膜蛍光体を形成する方法であって、
    前記成膜室を真空排気するための真空排気管に設置され、該真空排気管の開度を調節するバタフライバルブと、
    前記成膜室内に、前記基板に到達しなかった物質の少なくとも一部をトラップするように設けられた、内部に液体窒素が流れるシュラウドと、
    を有する成膜装置を使用し、
    成膜の際に、前記成膜室の真空度は、1×10−9Pa〜1×10−6Paの範囲に維持されることを特徴とする薄膜蛍光体の製造方法
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