以下、本発明の分析チップについて、用途、分析チップの材料、製法などを説明した後、分析チップの構成要素である反応室ユニット、不溶性成分分離部、多段送液部、および必要に応じて設けられる試薬リザーバユニットならびに廃液槽をそれぞれ説明し、その上で、分析チップの全体構造、および分析チップを使用した免疫分析方法について説明する。
なお、各図は、発明が理解できる程度に、構成要素の形状、大きさおよび配置が概略的に示されているに過ぎない。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、図中、パターンを付した箇所は、液体(懸濁液、分離液、洗浄液等の試薬など)、不溶性成分等自体を、またはこれらが存在していることを意味している。以下の説明に用いる各図において、同様の構成要素については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。
以下の説明において、上方、下方(重力方向)、外周側、内周側などと称される配置関係の説明は、分析チップ使用時、すなわち分析チップが回転装置に設置された状態を基準として定義される。後述するように、回転時に分析チップを傾ける場合には、傾けた状態を基準とする。また、分析チップの主面を水平として回転させる場合には、この状態を基準として説明する場合がある。
以下の説明において、「外周側」とは回転軸を基準として、遠心力の働く方向、すなわち回転軸から遠ざかる方向を意味する。「内周側」とは外周側とは反対方向、すなわち回転軸に向かう方向を意味する。
また、「重力方向」とは、分析チップの回転時に重力が働く方向として定義され、下方とも表現される。ここで重力方向とは、必ずしも鉛直方向に限られず、鉛直方向の成分を含むベクトルが示す方向(略鉛直方向)も含まれる。また、重力方向は、重力の作用により分析チップ内の液体が流れる方向を意味するとも表現できる。なお、本発明において上方とは、重力方向とは反対の方向として定義される。以下の説明において上方、下方と表現する場合には、何らかの基準に対する相対的位置をいう場合がある。
さらに、以下の説明において、「送液」とは、液体(懸濁液、分離液および洗浄液)を分析チップ内部の複数の槽間で、例えば流路により流動的に移動させることを意味する。
以下の説明において、「主面」とは、分析チップを透過的に見た時に、分析チップのソリッドな厚み内に空間として設けられている槽および流路を観察できる側の面を意味する。例えば形状が多面体の、好ましくは立方体又は直方体の薄板状の、分析チップの場合、互いに対向する2つの面が主面となりうる。なお、以下の説明において分析チップが互いに対向する2つの主面を有する場合、便宜上、それぞれを第1主面、第2主面と称するものとする。
第1主面および第2主面から透過的に観察され得る流路および槽は、通常は表裏の関係であり対称をなすが、後述のように、前記不溶性成分分離部および前記多段送液部の少なくとも一部が、互いに対向する2つの主面寄りに互いに離間して設けられている場合には、まったく異なる流路および槽が観察される場合がある。例えば、図37の分析チップにおいて、第1主面4100aから見た流路は、第1主面4100aと対向する(第1主面4100aを表側の面とした場合に裏側の面に該当する)第2主面4100bとを、主面として有しており、この場合は第1主面4100aから観察される流路および槽が、第2主面4100bから観察するといわば裏側から観察することになる。一方、図51−1および図51−2の分析チップにおいて、第1主面4100a側から観察される槽や流路の配置と、第2主面4100bから観察される槽や流路の配置はまったく異なる。
なお、各図において、分析チップの厚み内の槽および流路は、原則として輪郭が実線で示されている。また、各図において、分析チップの一部を示す場合には、輪郭が一点鎖線で示されている。さらに、各図において、分析チップの第1主面寄りの槽または流路を第2主面側から見て(観察して)表す場合、或いは第2主面寄りの槽または流路を第1主面側から見て表す場合には、観察された主面とは対向する主面寄り(厚みの奥側)に配置される槽または流路の輪郭が破線で示される。
1.チップについて
〔免疫分析〕
本発明の分析チップは、免疫分析に用いる分析チップである。本発明において免疫分析とは、検体中の被検物質を、抗原抗体反応を利用して分析する手法を意味し、その代表的なものとしてELISA(Enzyme−Linked Immunosorbent Assay 固相酵素免疫検定法)、RIA(Radioimmunoassay 放射線免疫検定法)、FIA(Fluorescenceimmunoassay 蛍光免疫検定法)、FLISA(Fluorescence−Linked Immunosorbent Assay 固相蛍光免疫検定法)を挙げることができる。
分析の方法としては
1)標識した抗体により目的とする物質を直接認識し検出する直接法、
2)目的とする物質を抗体により認識し、目的物質と結合した抗体を、標識した抗体により認識し検出する間接法、
3)競合法、
4)目的とする物質を固相化した抗体(1次抗体)により捕捉し、さらに別の標識した抗体(2次抗体)により検出する二抗体サンドイッチ法、
5)目的とする物質を固相化した抗体により捕捉し、さらに別の抗体により目的とする物質を認識し、目的とする物質を、認識した抗体を標識した抗体により検出する三抗体サンドイッチ法、
等が挙げられる。
また、ABC法などの、アビジン、ストレプトアビジン等を用いて、被検物質を検出する手法を利用してもよい。
免疫分析における被検物質は、タンパク質、糖、脂質、核酸、糖タンパク質、糖脂質、細胞など、抗原や抗体と特異的に結合する物質であればいずれであってもよい。例えばサイトカイン、ケモカイン、インターロイキン、アレルゲン、DNA、RNA、抗体、脂質、酵素、その他化学物質等を挙げることができる。特に、IL−6、IL−8、TNFが好ましい。被検物質の由来生物は問わない。被検物質は1種類であってもよく、また2種類以上であってもよい。
また、免疫分析の目的は特に限定されず、検体中の被検物質の有無の検出、被検物質の定量など特に限定されない。本発明における免疫分析は、臨床検査、食品検査、環境検査などにおける分析に用いることができる。
〔チップの回転〕
本発明の分析チップでは、分析チップを回転させ、回転の繰り返しにより検体及び複数の試薬が順次反応室ユニットに送液され上記免疫分析が行われる。すなわち、分析チップを、分析チップの主面が回転軸を含む平面に沿う向きとなるように、回転装置に装着し、回転速度を変化させることにより、検体及び複数の試薬が順次反応室ユニットに送液され上記免疫分析が行われる。本発明の分析チップによれば、回転による遠心力と、回転停止による自由落下を繰り返すのみで、検体および複数の試薬を順次反応室ユニットに送液することができる。すなわち、本発明の分析チップは、回転軸を含む平面に沿って回転装置に装着し、回転速度を変化させることにより、各槽間における不溶性成分の分離、検体や試薬の送液、免疫反応を実現するものである。更に言い換えれば、第1の回転速度による回転、および第1の回転速度より低速の第2の回転速度による回転または回転停止を順次行うことにより、上記分離、送液、反応を一つの分析チップで実現するものである。前述したように本発明の分析チップによる送液等は、遠心力および重力を利用して行うものであるので、分析チップの回転速度の変化に代えて、回転軌道半径を変化させて免疫分析を行ってもよい。
本発明において回転とは、ある中心軸(回転軸)を基準にその周囲を回ることを意味し、自転に対する公転と呼ばれることがある。回転の軌道は略円形であればよく、軌道半径について特に限定はない。回転時の分析チップの方向は特に問わないが、通常は、分析チップ主面を回転周方向に向けた回転であることが好ましい。すなわち、分析チップの主面(透過的に見たときに、各槽および流路を観察できる側の面)を回転軸を含む平面に沿って回転装置に装着し、回転軌道の周方向に向けて回転させることが好ましい。
本発明における回転軸は、鉛直方向に延在する軸であることが好ましい。回転軸が鉛直方向に対して角度を有する場合、すなわち回転軸が鉛直方向に対して傾いている場合、幾つかの問題が生じうる。まず、1000rpmを超える高い回転速度での回転時には、回転軸やモーターへの負荷が大きくなることから、分析チップを回転させるための回転装置(例えば、遠心機などのローター)においてそれに耐えうるモーターを用いる必要があり、装置価格が高くなる。また、複数の分析チップをローターに同時に装着して測定する場合、回転停止時に、分析チップの向きに対する重力の方向が、複数の分析チップ間で異なるため、ローターに装着された複数の分析チップ間で重力により送液される方向が異なってしまう。そのため、複数の分析チップを同時にローターに装着し、測定することができない。この理由により、多検体の同時測定や、多項目の同時測定を行うことは不可能である。一方、回転軸が鉛直方向に延在する場合、複数の分析チップを回転軸の周りに、同一水平面上に位置するように設置することができることから、回転時に働く遠心力や、回転停止時に働く重力を、複数の分析チップ間で均一に働かせることができる。そのため、多検体の同時測定や、多項目の同時測定を行うことが可能である。
更に、一つの分析チップで測定を行う場合でも、遠心力が小さい条件、すなわち回転停止直前もしくは回転開始直後には、遠心力と重力の合力が内部の流体に働くため、望まぬ流体の移動を引き起こす可能性がある。一方、回転軸が鉛直方向に延在する場合、回転停止直前もしくは回転開始直後の重力の影響がほとんど無いため、安定な送液、測定が可能である。
分析チップの主面を回転軌道の周方向に向けて回転させる場合には、例えば図42−1に示される分析チップのように回転軸に対し主面を平行に立てて回転させることができる。すなわち、分析チップの回転側かつ上側の角隅部を、回転軸側かつ下側の角隅部を支点として回転軸側に傾けて回転させることもできる。分析チップの傾きは、主面の回転軸側の辺縁が、回転軸に対し10°から80°、好ましくは20°から50°をなすような位置とすることができる。
一方、図50−1、図50−2、図50−3および図50−4に示される分析チップ、並びに図51−1及び図51−2に示される分析チップの場合、複数の槽及び流路が略水平方向に並列的に配置されている。これらの分析チップは、回転装置装着時に傾ける必要はなく、主面の回転軸側の辺縁は、回転軸に対して平行とされ得る。
本発明における回転停止とは、完全に回転が停止し、分析チップに加わる遠心力が0Gとなる状態を意味する。しかしながら、ごく低速での回転であっても、重力が送液の動力源となる程度に低速であれば、回転停止(状態)と定義される。具体的には、分析チップに加わる遠心力が3G以下程度であれば、重力方向に延伸する流路や接続部を介して、重力の作用により重力方向の送液を行うことが可能である。したがって、この場合は回転停止(状態)である。
本発明における上方、下方(重力方向)、外周側、内周側などの位置の特定は、分析チップ使用時に主面を正面から見た場合の位置として定義される。上述したように分析チップの回転時に分析チップを傾斜させる場合には、傾斜させた状態で分析チップ主面を正面から見た場合の位置である。
本発明における重力方向とは、分析チップの回転時に重力が働く方向として定義され、下方とも表現される。ここで重力方向とは、必ずしも完全な鉛直方向である必要はなく、鉛直方向のベクトルを持つ方向(略鉛直方向)でありさえすればよい。重力方向は、重力の作用により液体が流れる方向を意味するとも表現できる。一方、本発明において上方とは、重力方向と反対の方向として定義される。なお、本発明において上方、下方と表現する場合には、何らかの基準に対する相対的位置をいう場合がある。
〔チップの形状〕
本発明の分析チップの形状は、通常は、立方体または直方体の薄板状である。本発明の分析チップのサイズは、回転装置(遠心機など)に装着可能な大きさであればよい。測定者への感染リスクを低減するために、本発明の分析チップは使い捨てとすることが好ましい。
本発明の分析チップは、ローターに装着されて用いられることが好ましい。更に好ましくは、アングルローターが用いられる。このとき、アングルローターに装着された状態の分析チップの傾きを考慮して、流路の延伸方向(延伸角度)、槽の形状を制御することが容易となる。ローターとしては、重力を利用した送液が可能な程度の厚みを持つ分析チップを回転できるものであればよく、例えば数センチメートル程度の厚みを持つ円柱状のローターを用いることもできる。ローターは、一度に複数の検体もしくは測定項目について測定できることから、複数の分析チップが装着可能であるローターが好ましい。
〔懸濁液、検体、試薬〕
本発明における懸濁液とは、1種または2種類以上の固体、液体が混合された液体を意味する。中でも、生体成分の混合液(生体試料)が好ましい。例えば、血液、尿、髄液、唾液、痰、細胞懸濁液などをはじめとする生体から採取される液体といった生体試料や細胞培養液、細胞懸濁液、細胞破砕液、核酸溶液、ウィルス懸濁液、食品抽出液、土壌抽出液もしくは水等の環境抽出液等を挙げることができる。本発明の分析チップに適用される懸濁液としては、これらのうち、血液、尿が好ましい。
本発明における不溶性成分(不溶成分)とは、懸濁液に遠心力および重力をかけることにより溶質(液状成分:分離液)から分離される成分を意味する。不溶性成分は通常比重が分離液よりも大きい。
不溶性成分としては例えば、血球などの細胞、血餅、微生物、変性したタンパク質などの澱状の固形物や凝集物、尿酸などの結晶などが挙げられる。
懸濁液が例えば血液であるとき、分離または除去される不溶性成分の具体例としては、血球などの細胞成分や血餅が挙げられ、分取される分離液として、血清や血漿が挙げられる。
懸濁液が例えば尿であるとき、分離または除去される不溶性成分の具体例として、細胞成分や尿酸が挙げられ、分取される分離液として、尿上清が挙げられる。
試薬とは、検体を検出するための試薬を意味し、具体的には、ブロッキング溶液、希釈液、変性剤、標識抗体、標識抗原、未標識抗体、未標識抗原、標識物質、発光基質、蛍光基質、発色基質、過酸化水素水、洗浄液、タンパク質変性剤、細胞溶解液、酵素溶液、標識核酸、未標識核酸、プライマー、プローブ、アビジン、ストレプトアビジン、緩衝液、pH調整溶液、ハイブリダイゼーション溶液、酵素反応停止液等を挙げることができる。
〔チップの材料〕
本発明の分析チップの材料は特に限定されず、例えば、樹脂、ガラスなどが挙げられる。特に反応室ユニットについては、反応室を外部から観察することが容易になる観点から、少なくとも反応室の一部が透明であることが好ましい。反応室の少なくとも一部が透明とすることにより、濃縮あるいは捕捉された被検物質を光学的に容易に検出することができると共に、送液状況を外部から容易に確認することができる。したがって、反応室の一部に透明材料を用いることが好ましく、特に全体を透明材料から形成することが好ましい。また、反応室の透明材料からなる部分の表面は、平面であってもよいし、レンズ状(凹面)であってもよい。
さらに、液体の種類にかかわらず安定に送液するための材料として、耐薬品性、耐水性に優れ、化学的に安定な材料が好ましい。
本発明における親水的な表面とは、接触角が90度以下の表面を意味する。接触角の測定は、20℃、50%RHの条件下で、水に対する接触角を接触角計を用いて測定することで調べることができる。
本発明における疎水的な表面とは、接触角が90度より大きい表面を意味し、撥水性とも表現される。疎水的な表面の形成には、フルオロカーボン系樹脂、シリコーン系樹脂などの撥水剤を表面に塗布すればよい。
反応室ユニットは、少なくともその一部が、光透過率(光線透過率)80%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは93%以上の特性を持つ樹脂から形成されていてもよい。これにより、反応室内で生じる蛍光、発光を減衰させることなく検出可能であることから、被検物質を感度良く検出できるので好ましい。光透過率の測定は、光透過率計、分光光度計により行うことができる。また、JIS規格JIS K7105に従って測定することもできる。
本発明の分析チップにおいて、反応室ユニットと、必要に応じて設けてもよい試薬リザーバユニットとは、チップ本体から着脱可能にすることによりチップ本体を構成する樹脂とは異なる樹脂により形成することができる。これにより、光学特性や吸水率など分析チップの機能に合った性質の樹脂を選択することができるので好ましい。反応室ユニットは、前述のように光透過性が高い樹脂により形成されることが望ましい。一方、試薬リザーバユニットは、液体試薬の長期安定保存を達成するため、吸水率が低い樹脂により形成されることが望ましい。さらに、光による劣化を避けるため、光透過率が低い樹脂を材料とすることが望ましい。また、一般に光透過率が高い樹脂は高価であるため、容積の小さい反応室ユニットの材料には高価で光透過性に優れる樹脂を用い、それ以外の部位、ユニットの材料には安価な樹脂を用いるのがよい。
このように、一つの分析チップの各部位、各ユニットに求められる機能に適した樹脂を材料としてそれぞれ選択すれば、分析チップ全体としてのコストを低く抑えることができるので好ましい。
また、試薬リザーバユニットは、少なくともその一部が、吸水率0.1%以下、中でも0.03%以下の特性を持つ樹脂から形成されていてもよい。これにより、試薬の濃度が変化することなく、試薬を長期間保存できるので好ましい。なお、吸水率の上限は通常0.2%である。吸水率の測定は、重量測定により行うことができる。JIS規格JIS K7209に従って測定することもできる。
さらに、試薬リザーバユニットは、少なくともその一部が、光透過率(光線透過率)10%以下、好ましくは1%以下の特性を持つ樹脂から形成されていてもよい。これにより、光分解性を持つ試薬を保存できるので好ましい。光透過率の測定は、分光光度計により行うことができる。光透過率は、例えばJIS規格JIS K7105に従って測定することもできる。光透過率を低下させる目的で、色素やカーボンなどを含有する樹脂が用いられることもある。
分析チップに用いられる材料(素材)としては、各種有機材料、無機材料を挙げることができ、例えば、ポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコン等の樹脂、それらの高分子化合物を含む共重合体あるいは複合体;石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダガラス、ホウ酸ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス類およびその複合体;表面を絶縁材料で被覆した金属及びその複合体、セラミックス及びその複合体等が好ましく用いられる。樹脂はガラスなどと比較し、量産性に優れ、コスト、加工性においても優れることから、このうち、ポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンが特に好ましく用いられる。
また、耐薬品性、耐水性に優れ化学的に安定な材料としては、各種有機材料、無機材料を挙げることができ、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコン等の樹脂、それらの高分子化合物を含む共重合体あるいは複合体;石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダガラス、ホウ酸ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス類およびその複合体;セラミックス及びその複合体等が好ましく用いられる。このうち、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレンが特に好ましく用いられる。
試薬リザーバユニットの材料としては、上記具体例のうち、ポリプロピレンまたはポリエチレンが好ましい。また、前記反応室ユニットの材料としては、アクリル樹脂が好ましい。
〔チップの製造方法〕
本発明の分析チップの製造方法は、特に限定されない。例えば、各槽および各流路の凹部を形成した板状の基板を別の基板またはフィルムと接合して作製することができる。あるいは、流路を形成するスリットを有する基板を両側から2枚の基板で挟み込むことによって作成する事が出来る。各槽や各流路の凹部の形成は、材料が樹脂の場合には金型を用いた一般的な成形方法、例えば、射出成形、プレス成形、ブロー成形、真空成形、ホットエンボッシングなどによることができる。
2.反応室ユニットについて
本発明において反応室ユニットは、検体の免疫分析を行うためのユニットである。反応室ユニットは、チップ本体からの脱着が可能であってもよい。反応室ユニットの分析チップ上の位置については特に制限はないが、分析チップの回転時に不溶性成分分離部および多段送液部よりも軌道から外側に位置することが好ましい。
〔反応室〕
反応室ユニットは反応室を有し、この反応室で検体の免疫分析が行われる。
反応室の形状およびサイズは、抗原および/または抗体が結合した担体を収容することができればよい。反応室の形状は管状であることが好ましく、管の横断面は円、多角形等特に限定されない。反応室のサイズは小さいほど、抗原および/または抗体が結合した担体の量を少なくしてコストダウンを図り、かつ反応室ユニットにおける試薬・検体受けとの容積比を大きくすることを容易にする。反応室の容積は、通常は1nLから100μL、好ましくは10nLから10μLである。
反応室について、図1、図2、図3、図4、図5、図6に示す実施例に基づいて説明する。図1に示される反応室ユニット1000Aは、反応室1011が後述の反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012に連結して設けられており、反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012の開口部1012Aと反対側に開口部1011Aを有する。反応室1011には、抗原および/または抗体を結合する担体1013が収納されている。また、図2、図3、図4、図5、図6にそれぞれ示される反応室ユニット1000B、1000C、1000D、1000Eの反応室1011は、反応室ユニットの管壁に隣接して設けられており、反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012の開口部1012Aと反対側に開口部1011Aを有する。さらに、開口部1011は、チップ本体の廃液槽4020に連通する(図37、図39、図41参照)。これにより、抗原抗体反応および検出に用いる検体、試薬を外部に漏らすことなく廃液槽に保持することが出来る。また、図2、図3、図4および図6に示される反応室ユニット1000B、1000C、1000Dにおける試薬・検体受けのように、開口部1012Aは、各反応室ユニットが後述の図39に示す分析チップのチップ本体に装着可能な構造の場合には、反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012の上部側面にあってもよい。これにより、図37、図38−1、図38−2、図38−3、図39、図40−1、図40−2、図40−3、図41に示す本発明の分析チップのチップ本体に反応室ユニットを装着した場合、後述の不溶性成分分離部に連通する流路および多段送液部に連通する流路との接続部を設ける位置を、反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012の上部方向または側面方向に設けることが出来、設計の自由度を増すことができる。開口部1012Aは、さらに好ましくは試薬・検体受け1012の内周側側面に設けられる。これにより、回転時に確実に検体および試薬を、漏らすことなく試薬・検体受けに送液することができる。
反応室は、開口部(第2の開口部)を備えることができる。開口部の位置は、後述の反応室ユニットにおける試薬・検体受けを設ける場合には該受けと反対側であることが望ましい。この開口部には、更に担体の堰き止め手段を設けることができ、これにより反応室ユニットから担体が漏れないよう保持することができる。堰き止め手段としては、例えば担体の粒径より開口径の小さい金網やフィルタまたは狭隘構造を用いることができる。金網の場合、適当なサイズの金網(例えば開口部分が20μm×20μmのもの)を開口部にプレスして堰き止め手段とすることができる。また、フィルタの場合はセルロース・アセテート製フィルタ等を開口部に圧入して得ることができる。なお、堰き止め手段は金網、フィルタには限定されず、キャップ等を用いることができる。また、狭隘構造の場合には反応室の下流部に担体の粒径より小さい間隙を有する狭隘部を設けた構造を用いることが出来る。
反応室の開口部を堰き止め手段としてのフィルタで塞いだ場合の構成につき、図2に示す実施例を例にとって説明する。図2は、反応室ユニット1000Bの縦断面を模式的に示す図である。反応室1011の開口部1011A´は、反応室1011よりも幅が広く取られており、この部分1011A´にフィルタが圧入される。なお、堰き止め手段を設けるにあたり開口部の幅が広く取られている必要はなく、図1に示す反応室ユニット1000A、図3に示す反応室ユニット1000Cなどの開口部1011Aにおいて金網を開口部にプレスして堰き止め手段(図示せず)を設けることができる。
また、反応室の開口部を狭隘構造とした場合を図4および図5に示す実施例を例にとり説明する。図4に示す反応室ユニット1000D、図5の反応室ユニットの1000Eにおいて、反応室1011の開口部1011A”の流路径は担体の径よりも狭いため、担体の流出を防ぐことができる。
〔担体〕
反応室には、抗原および/または抗体が結合した担体が収容される。担体の収容数は1つ以上であればよく、免疫分析の効率を上げる観点から、複数の担体を収容することが好ましい。また、複数の担体を反応室に収容することにより、液体に対して圧力損失が生じるため、反応室ユニットにおける試薬・検体受けに液体を注入しても重力による作用だけでは液体は反応室を通じて流出しないという効果もある。
担体の形状は、球状、楕円球状などのマイクロビーズのほか、円柱、多角柱などのいわゆるマイクロロッド、板状のマイクロプレートであってもよい。
担体のサイズは、反応室のサイズによるが、担体の形状にかかわらず、短径が1μmから1000μm、好ましくは10μmから200μmの範囲であることが好ましい。
担体の材料は特に限定されず、ガラス、セラミック(例えばイットリウム部分安定化ジルコニア)、金属(例えば金、白金、ステンレス)、樹脂(例えばナイロンやポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド)、アガロース等を用いることができるが、この中でも樹脂、特にポリスチレン、ポリメチルメタクリレートが好ましい。
反応室に複数の担体が収納される場合、各担体の形状、サイズ、材料は均一であってもよいし、多様であってもよい。また、反応室に格納する担体のすべてに抗原および/または抗体が結合されている必要はなく、何も結合しない担体が一部含まれていてもよい。
担体に結合させる抗原および/または抗体は、種々の抗体、FabフラグメントやF(ab')2フラグメントのような抗体の抗原結合性断片、並びに種々の抗原などの中から、免疫分析における検体中の被検物質に特異的に結合する抗原や抗体を適宜選択することができ、1種類であっても、また複数種類であってもよい。抗原や抗体の担体への結合密度、結合数、結合様式などに特に制限はない。
担体に抗原および/または抗体を結合させる方法は、例えば、担体と抗原や抗体とを緩衝液等の溶液中で混合し接触し結合させる方法によることができる。接触による結合は、通常1時間から24時間(1日)、低温、一般には4℃から37℃の条件で、必要に応じて攪拌しながら実施することができる。得られた担体は、使用前に緩衝液、洗浄液等で洗浄してもよい。なお、結合方法はこれに限定されず、例えば抗原や抗体と担体とを親水性ポリマー(ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリスルホン酸ナトリウム等)を含む架橋剤を使って化学的に結合させる方法などを利用することもできる。
反応室には、免疫分析のための検体や試薬が送り込まれる。検体についてはすでに説明したとおりである。試薬とは、免疫分析の際に用いられる検体以外の化学物質や薬剤を意味する。例えば、被検物質の検出等のための薬剤、物質、洗浄液などであり、更に具体的には、蛍光や酵素で標識された標識抗体(二次抗体)、抗原、洗浄液、蛍光もしくは発光基質等を挙げることができる。
〔反応室ユニットにおける試薬・検体受け〕
反応室ユニットは、試薬・検体受けを備えることができる。これにより、直接反応室に試薬や検体を送り込む場合に比べて操作が容易である。すなわち、反応室をより狭い管状として、担体の収納密度を向上させて免疫分析の効率を高めることができる。
図1に示される反応室ユニット1000Aは、反応室1011に連結して反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012が設けられており、反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012は外部に開口部1012Aを有する。また、図2、図3、図4、図5、図6に示される反応室ユニット1000B、1000C、1000D、1000Eでも、同様に、反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012が反応室1011に連結して設けられている。一部先に述べたが、図1に示される反応室ユニット1000A、図5に示される反応室ユニット1000Eにおいて開口部1012Aは上方に開口(すなわち、反応室の開口部1011の反対側)するのに対し、図2の反応室ユニット1000B,図3および図6に示される各反応室ユニット1000C、図4に示される反応室ユニット1000Dの開口部1012Aは、ユニット側面に開口する。
前記反応室ユニットにおける試薬・検体受けの容積(サイズ)は、前記反応室のそれよりも大きいことが好ましい。反応室が反応室ユニットにおける試薬・検体受けに比べて十分小さいことにより、被検物質の濃縮効果があるからであり、さらに反応室ユニットにおける試薬・検体受けに試薬や検体を保持させることが容易となるからである。具体的には例えば、反応室ユニットにおける試薬・検体受けの反応室に対する容積比が通常は100以上で、中でも100から5×108の範囲で、特に100から3000の範囲で、適宜定められることが好ましい。ディスク上に分析機構を集積化させた従来技術では約15倍程度が限界であることから、上述の範囲とすることにより、被検物質の濃縮効果が、従来技術と比較して非常に大きいものとなる。
なお、反応室ユニットにおける試薬・検体受けの容積は、一般には30μLから500mLであり、好ましくは30μLから1000μL(1mL)である。
一方、前記反応室ユニットにおける試薬・検体受けの送液方向の投影断面積(送液方向と垂直な面に投影したときの面積)と、前記反応室の送液方向の投影断面積の比は、通常は50以上であり、好ましくは100以上である。また、上限は、一般には10000以下とする。ディスク上に分析機構を集積化させた従来技術の場合、装置全体が2次元構造であるために該試薬・検体受けと反応室の送液方向の投影断面積比がせいぜい10数倍程度までしか差を着けられないが、本発明で用いる反応室ユニットは立体構造であるので、同面積比を拡大し、被検物質の濃縮効率を著しく向上させることができる。
さらに、前記反応室ユニットにおける試薬・検体受けの送液方向に対して平行方向の最大断面積と、前記反応室の送液方向に対して平行方向の最大断面積の比は、被検物質の濃縮効果を得る観点から、2から400であることが好ましい。なお、反応室ユニットにおける試薬・検体受けの送液方向に対して平行方向の最大断面積は、10mm2から200mm2とすることが好ましい。また、反応室の送液方向に対して平行方向の最大断面積は、0.5mm2から5mm2とすることが好ましい。
反応室ユニットにおける試薬・検体受けの形状は特に限定されず、円筒形、多角形などの各種形状から適宜選択することができるが、遠心力で試薬や検体を反応室へ円滑に送り込む観点から、横断面の面積が、反応室への接続側に向かって徐々に狭くなる形状であることが好ましい。例えば、図1に示す反応室ユニット1000Aにおける反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012の形状は、基本的には直方体であり、反応室1011側の4つの隅の角が丸みを帯びた形状となっている。一方、図2、図3、図4および図5のそれぞれに示す反応室ユニット1000B,1000C,1000D、1000Eにおける反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012の形状も、基本的には直方体であり、4つの側面が反応室側で反応室に向けて絞られている。
反応室ユニットにおける試薬・検体受けは反応室に直接接続しており、反応室と反対側に開口部(第1の開口部)を有する。外部への開口部の形状は特に問わないが、注入した試薬や検体が外に漏出しない程度の大きさで適宜定めることができる。例えば、短径が1mmから100mm、好ましくは1から20mmの範囲となるよう適宜定めることができる。
反応室ユニットは、チップ本体から着脱可能であることが好ましい。これにより、反応室ユニットを、チップ本体とは異なる材料を用いて形成することが容易となり、チップ本体が求められる性質とは切り離して、反応室ユニットとして求められる特性に応じた性質の材料を用いることができるので好ましい。また、反応室ユニットを取り外して測定することが出来るため、廃液槽からのノイズ源の影響を抑えることもできる。また、担体を予め反応室ユニットに充填することも容易となる。
〔反応室ユニットのサイズ・形状〕
反応室ユニットのサイズおよび形状は、チップ本体の大きさにより定めることができる。例えば、短径は通常1mmから20mm、好ましくは2mmから10mm、高さは通常2mmから100mm、好ましくは5mmから20mmの範囲で定めることが出来る。
また、反応室ユニットの本体の形状も、成形の容易さも考慮して定めることができ、立方体、多角柱形、円柱形、角錐形、円錐形などから適宜選択することができる。
3.不溶性成分分離部
本発明の分析チップは、遠心力の作用により、検体としての懸濁液中の不溶性成分を分離液から分離して沈降可能であり、また重力の作用により前記分離液を分取し、次いで遠心力の作用により反応室ユニットに移送可能である、不溶性成分分離部を有する。
不溶性成分分離部は、回転により懸濁液から不溶性成分を分離するための部分である。不溶性成分分離部の分析チップ上の位置については特に制限はないが、好ましくは分析チップの回転時に、反応室よりも内周側となる位置に設けられることが好ましい。さらに、分析チップの回転時に多段送液部よりも重力方向の上部に位置させることが好ましい。
不溶性成分分離部は、懸濁液保持槽、分離液保持槽、不溶性成分保持槽を備える。これらの槽は、本発明の分析チップの回転時、すなわち回転装置に設置された状態において内周側(回転軸寄りの側)から、懸濁液保持槽、分離液保持槽、不溶性成分保持槽の順に配置される。
〔懸濁液保持槽〕
懸濁液保持槽は、懸濁液を保持可能な槽である。懸濁液は、通常回転開始前(回転停止時)に、流路、開口部または通気穴により、懸濁液保持槽に予め貯液される。
〔分離液保持槽〕
分離液保持槽は、分析チップの回転時に懸濁液保持槽より送液された懸濁液のうち、分離された液状成分である分離液を分析チップの回転時に保持可能な槽である。分離液保持槽の形状は、分析チップの回転時に一時的に分離液を保持可能であればよいので必ずしも槽構造である必要はなく、流路の壁面の一部分(例えば流路の湾曲部の窪み部分など)であってもよい。
〔不溶性成分保持槽〕
不溶性成分保持槽は、分析チップの回転時に懸濁液保持槽より送液された懸濁液から分離された不溶性成分を保持可能な槽である。
懸濁液保持槽、分離液保持槽、不溶性成分保持槽のサイズは、それぞれ懸濁液、分離液、不溶性成分を保持するのに十分な容積があればよい。各槽の容積は、例えば、懸濁液保持槽は10マイクロリットル(μL)から6000マイクロリットル、分離液保持槽は3マイクロリットルから4000マイクロリットル、不溶性成分保持槽は3マイクロリットルから4000マイクロリットルの容量であることが好ましい。
懸濁液が血液である場合を例にとると、懸濁液保持槽は10マイクロリットルから6000マイクロリットルの血液が貯液できるサイズであることが好ましい。また、分離液保持槽は3マイクロリットルから2000マイクロリットルの血漿など血球以外の成分を回転時に貯液できるサイズであることが好ましい。さらに、不溶性成分保持槽は7マイクロリットルから4000マイクロリットルの血球を含む成分を回転時に保持できるサイズであることが好ましい。
血液の場合には、不溶性成分である血液中の血球成分の割合が、通常40%から60%であるため、分離液保持槽と不溶性成分保持槽の容積比は、血球成分が分離液保持槽に混入しないように4:6より不溶性成分保持槽の方が大きいことが好ましく、特に3:7より大きくすることが好ましい。
懸濁液が例えば尿である場合には、懸濁液保持槽は10マイクロリットルから6000マイクロリットルの尿が貯液できるサイズであることが好ましい。分離液保持槽は7マイクロリットルから4000マイクロリットルの尿上清を回転時に貯液できるサイズであることが好ましい。不溶性成分保持槽は3マイクロリットルから2000マイクロリットルの尿酸などの結晶や細胞などを含む成分を回転時に保持できるサイズであることが好ましい。
〔懸濁液保持槽、分離液保持槽および不溶性成分保持槽の位置〕
不溶性成分分離部において、懸濁液保持槽、分離液保持槽および不溶性成分保持槽の位置は、回転軸の内周側からこの順に配置されている。不溶性成分保持槽と分離液保持槽とは後述のように狭隘部で接続しているため、相互に隣接させることが望ましい。また、不溶性成分保持槽の方が分離液保持槽よりも外周側に位置させることが好ましい。さらに、懸濁液保持槽は、分離液保持槽よりも内周側に位置させることが好ましい。図10および図11に示す不溶性成分分離部を例にとって説明すると、懸濁液保持槽2001、分離液保持槽2002および不溶性成分保持槽2003は回転軸側(内周側)から回転軸から遠ざかる方向(外周側)に向かって、この順に並列的に配置されている。分離液保持槽2002と不溶性成分保持槽2003とは隣接し、これらの槽よりもくびれた(より細径の)狭隘部2010で接続(連通)されている。懸濁液保持槽2001は不溶性成分保持槽2003よりも上方かつ内周側に位置している。
不溶性成分分離部においては懸濁液保持槽と不溶性成分保持槽が接続されている。すなわちこれらの2つの槽は、分離液保持槽を介さずに連結されている。これにより、懸濁液保持槽が分離液保持槽を介して不溶性成分保持槽と連通している従来の不溶性成分分離部と比較して、分離液保持槽と不溶性成分保持槽間の狭隘部に、遠心力により懸濁液が流入することがなく、閉塞や不溶性成分保持槽内への気泡の混入といった問題を起こすことがない。
図8−1、図8−2、図9、図10及び図11を参照して、従来の不溶性成分分離部の問題点および本発明における不溶性成分分離部の特色につき説明する。図8−1は、従来の不溶性成分分離部の一例を模式的に示す斜視図である。図8−2は、図8−1に示された従来の不溶性成分分離部を模式的に示す厚み方向から見た図である。図9は、従来の不溶性成分分離部の別の一例を模式的に示す平面図である。図10は、本発明の分析チップの不溶性成分分離部の一例を模式的に示す正面図である。図11は、本発明の分析チップの不溶性成分分離部の別の一例を模式的に示す正面図である。
図8−1、図8−2および図9に示す従来の不溶性成分分離部においては、懸濁液保持槽2001、分離液保持槽2002および不溶性成分保持槽2003が、回転軸側からこの順番に並列的に接続されて配置されている。不溶性成分分離部を有するチップを回転させて懸濁液保持槽2001から分離液保持槽2002に送液された懸濁液のうち、不溶性成分は、不溶性成分保持槽2003にトラップされることになるが、その際、分離液保持槽2002と不溶性成分保持槽2003との間の狭隘部2010を通る必要があり、懸濁液がこの狭隘部2010の内周側(回転軸に向かう側)から外周側(回転軸から遠ざかる側)に向けて遠心力により通過する際、不溶性成分が狭隘部2010を閉塞してしまうという問題があった。また、狭隘部2010を通じて遠心力により懸濁液中の不溶性成分が流入するため、不溶性成分保持槽2003内の気体の逃げ場が無く、結果として不溶性成分保持槽2003中に気泡が入りやすいという問題があった。
一方、図10および図11に一例として示す本発明の分析チップの不溶性成分分離部においては、懸濁液保持槽2001、不溶性成分保持槽2003および分離液保持槽2002の順に送液できるように接続されており、かつ狭隘部2010の外周側の不溶性成分保持槽2003から内周側の分離液保持槽2002に分離液または懸濁液が送液される機構であるため、遠心力により分離された不溶性成分は直接的に不溶性成分保持槽2003にトラップ(保持)され狭隘部2010での不溶性成分による閉塞は起こらない。また、不溶性成分保持槽2003は、狭隘部2010と、懸濁液保持槽との不溶性成分保持槽2003側の接続部2011の少なくとも2カ所の接続部を有しているため、接続部2011から不溶性成分保持槽2003に流入した懸濁液量だけ、不溶性成分保持槽2003の内部の気体は狭隘部2010を通じて分離液保持槽2002側に安定して流出することとなり、不溶性成分保持槽2003内への気泡の残存は起こらない。よって、不溶性成分保持槽と分離液との分離を安定して行うことができる。
本発明の分析チップの不溶性成分分離部において、不溶性成分保持槽2003における懸濁液保持槽2001との接続部2011は、分離液保持槽2002と不溶性成分保持槽2003との間の狭隘部2010より外周側に位置する。「狭隘部2010より外周側」とは、狭隘部2010の不溶性成分保持槽2003側の開口部よりも外周側に位置することを意味する。
さらに、不溶性成分保持槽2003と懸濁液保持槽2001との接続部2011、すなわち懸濁液導入路2006の不溶性成分保持槽2003側の開口部は、不溶性成分保持槽2003の外周側壁面に位置させることが好ましい。これにより、懸濁液の分離液保持槽2002への混入をさらに効率的に防止することができるとともに、不溶性成分保持槽2003内部への気泡の残存をより効果的に抑制することができる。「不溶性成分保持槽2003の外周側壁面」とは、本発明の分析チップを回転させた際の不溶性成分保持槽の側壁2003のうち、より外周側に位置する側壁の壁面である。
〔懸濁液導入路〕
懸濁液保持槽2001と不溶性成分保持槽2003との間の接続は、開口部により相互に直接連結されていてもよいし、例えばトンネル状の流路である懸濁液導入路2006により連結されていてもよい。このうち懸濁液導入路2006により連結することが好ましい。懸濁液導入路2006を設けることにより、不溶性成分保持槽2003において懸濁液保持槽2001との接続部2011を不溶性成分保持槽2003の外周側壁面に設ける場合にも、懸濁液保持槽2001の位置や形状の自由度が高まるので好ましい。
懸濁液導入路2006は、懸濁液保持槽2001から外周方向に延伸し不溶性成分保持槽2003に接続されて開口する。懸濁液導入路2006の不溶性成分保持槽2003との接続部2011は、不溶性成分保持槽2003と懸濁液保持槽2001との接続部についてすでに説明した構成と同様であり、不溶性成分保持槽2003と分離液保持槽2002との間の狭隘部よりも外周側に位置することが好ましく、特に、不溶性成分保持槽2003の外周側壁面に位置することが好ましい。かかる接続部2011が狭隘部2010よりも外周側に位置することにより、閉塞や不溶性成分保持槽2003内での気泡の混入を引き起こすことなく、不溶性成分の分離を円滑に進めることができる。
図10および図11に示す本発明の分析チップにおける不溶性成分分離部の構成例では、いずれも懸濁液導入路2006が懸濁液保持槽2001と不溶性成分保持槽2003との間に設けられている。図10に示される不溶性成分分離部では、懸濁液導入路2006と不溶性成分保持槽2003との接続部2011、すなわち懸濁液導入路2006の不溶性成分保持槽2003側の開口部は、狭隘部2010よりも外周側に位置しており、かつ、不溶性成分保持槽2003の外周側上端の側面に位置している。図11に示される不溶性成分分離部では、懸濁液導入路2006は後述するオーバーフロー流路2007と合流した後に、不溶性成分保持槽2003に接続部2012として開口して接続している。かかる接続部2012は、狭隘部2010よりも外周側に位置しており、かつ、不溶性成分保持槽2003の外周側側面に位置している。
懸濁液導入路2006のサイズ(径、流路長など)には特に制限はなく、懸濁液が通液可能であればよい。短径は例えば通常10マイクロメートルから1000マイクロメートルであり、50マイクロメートルから500マイクロメートルであることが好ましい。長さは例えば通常1マイクロメートルから100ミリメートルであり、10マイクロメートルから50ミリメートルであることが好ましい。
本発明の分析チップにおける不溶性成分分離部には、懸濁液や分離液などの液体が通過せず、単に気体が懸濁液保持槽2001と分離液保持槽2002との間を通過するだけの通気用の流路が設けられていてもよい。
〔狭隘部〕
本発明の分析チップにおける不溶性成分分離部において、分離液保持槽2002と不溶性成分保持槽2003とは、上述のように狭隘部2010により接続されている。すなわちこれらの槽の接続部は狭隘なくびれ状の構造であればよく、狭隘な開口部で連結されていてもよいし、微細な流路で連結されていてもよい。図10および図11に示す不溶性成分分離部の構成例では、狭隘部2010は分離液保持槽2002と不溶性成分保持槽2003とを連通する開口部である。狭隘部のサイズは、横断面の短径が通常5マイクロメートルから5000マイクロメートルであり、中でも10マイクロメートルから1000マイクロメートルであることが好ましい。懸濁液中の不溶性成分が通りにくいサイズであることが好ましいので短径が10マイクロメートルから100マイクロメートルの範囲であることが好ましい。また、狭隘部が流路である場合、流路の長さは比較的短いことが好ましく、通常は10マイクロメートルから10000マイクロメートル、好ましくは100マイクロメートルから1000マイクロメートルである。
不溶性成分保持槽2003において、狭隘部2010への開口部はより上方に位置することが好ましい。これにより、回転停止時に不溶性成分保持槽2003内や懸濁液導入路2006内および後述するオーバーフロー流路内の不溶性成分が、分離液保持槽2002に混入することを効果的に防止することができる。「上方に位置する」とは、回転停止時に不溶性成分保持槽2003の上半分部分にあることを示す。特に、不溶性成分保持槽2003の上側のかつ内周側の壁面に位置すると、回転停止時に比重の大きな不溶性成分が流出し難くなるので好ましい。図10および図11に示される構成例で説明すると、くびれ状の狭隘部2010は、不溶性成分保持槽2003の壁面のうち、回転軸からみて上側のかつ内周側の壁面に位置している。
〔分離液送液路〕
本発明の分析チップにおける不溶性成分分離部においては、分離液保持槽2002に分離液送液路2004を設けることができる。本発明における分離液送液路2004は、回転中に分離され、分離液保持槽2002に蓄積された分離液(液状成分)を、回転停止時に重力の作用により重力方向に落下させることで分離液保持槽から排出し、次いで次の回転時に遠心力の作用により反応室ユニットへ送液する機能を有する。分離液送液路2004は、分離液保持槽2002から重力方向に延伸することが好ましく、さらに、重力方向且つ外周側に延伸することがより好ましい。すなわち、本発明における分離液送液路2004は、重力方向に伸びる流路の途中で、回転軸を基準として外周方向に屈曲している屈曲部を有することが好ましい。これにより、再度の回転時に、分離液を、遠心力を利用して送液することができることから、分離液の逆流や液残りを防ぎ、効率よく分離液を回収し分取することができるとともに、分取された分離液全量を確実に反応室に送液することができる。
本発明における分離液送液路は、重力での送液を素早く確実に行うため、少なくともその一部において重力方向に延伸することが好ましい。さらに、分離液送液路の少なくとも一部が、鉛直方向に対して45度以下の角度をなすことが好ましい。
また分離液送液路は、分離液送液路の少なくとも一部と回転軸とがなす角度が、45度以下であることが好ましい。さらに、分離液送液路の少なくとも一部は回転軸に対し略平行に配置することが好ましい。回転軸が鉛直方向である場合、分離液送液路も少なくともその一部において略鉛直方向に延伸することが好ましい。
図10に示される構成例では、分離液保持槽2002に分離液送液路2004が接続され、分離液送液路2004は、全体が重力方向に延伸した後、外周側に向かって延伸する。また、図11に示される構成例では、分離液送液路2004が試薬保持槽2005、分離液保持槽2002と共通の重力方向に延伸する流路を構成する。分離液送液路2004は、分離液保持槽2002側から順に、第1部分領域2004A、第2部分領域2004B及び第3部分領域2004Cを構成している。第1部分領域2004Aは、試薬保持槽2005、分離液保持槽2002と共通の流路を構成し、第1部分領域2004Aと第2部分領域2004Bとの接続部において分離液混合槽2021に接続している。分離液送液路2004は、第1部分領域2004Aと第2部分領域2004Bとの間において重力方向かつ外周側に向かって折り返されて(方向転換して)いる。第1部分領域2004Aと鉛直方向、すなわち回転軸のなす角度は約45度である。図10および図11には分離液送液路2004は分析チップの外周側へ延伸したところまでしか示さないが、分離液送液路2004は図37、図39、図41に示すように反応室ユニットに連通する。
本発明における分離液送液路2004は、分離液保持槽2002との接続部における流路断面積より小さな流路断面積となる部位を流路途中に有することが好ましい。より好ましくは、流路断面積が徐々に小さくなる部位を流路途中に有する。断面積が小さくなることにより、重力に加えて毛細管力を併せて利用できるため、重力による排出をより短時間で効率よく行うことができる。
本発明における分離液送液路2004は、少なくともその内壁面の一部において親水的な表面を有することが好ましい。これにより、毛細管力を有効に利用できることから、重力による排出をさらに短時間で、確実に行うことができる。分離液送液路2004が角柱もしくは角錐状の形状の場合、好ましくは、分離液送液路を形成する2以上の内壁面、最も好ましくは流路を形成する全ての内壁面が親水的であることが好ましい。
〔プレフィルター部〕
分離液送液路にはプレフィルター部が設けられていることが好ましい。プレフィルター部は、分離液送液路の管の一部に槽として或いは管の一部として設けることができる。例えば、図39、図50−1、図50−2、図50−3、図50−4、図51−1および図51−2に示される分析チップでは、分離液送液路の一部にプレフィルター部4022が設けられている。
プレフィルター部の形態としては、粒子(ビーズ)を充填したもの、紙、布等のフィルターを充填したものであってもよいが、粒子を充填したものが最も好ましい。粒子の形状は、球状、楕円球状などのマイクロビーズのほか、円柱、多角柱などのいわゆるマイクロロッド、板状のマイクロプレートであってもよい。粒子のサイズは、プレフィルター部のサイズにもよるが、粒子の形状にかかわらず、短径が1μmから1000μm、好ましくは10μmから200μmの範囲であることが好ましい。
粒子の材料は特に限定されず、ガラス、セラミック(例えばイットリウム部分安定化ジルコニア)、金属(例えば金、白金、ステンレス)、樹脂(例えばナイロンやポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド)、アガロース等を用いることができるが、この中でもポリスチレン、ポリメチルメタクリレートが好ましい。
プレフィルター部に複数の粒子が収納される場合、各粒子の形状、サイズ、材料は均一であってもよいし、多様であってもよい。
〔試薬保持槽〕
図11に示すように、本発明の分析チップにおける不溶性成分分離部は、試薬保持槽2005を有するものであってもよい。本発明における試薬保持槽2005は、回転中に試薬を保持し、回転停止時に重力の作用により分離液保持槽2002に試薬を排出(供給、送液)する機能を有する。よって試薬保持槽2005は、試薬を蓄積するのに十分な容積があればよく、例えば、試薬10マイクロリットルから1000マイクロリットルを蓄積できる程度であればよい。
試薬保持槽2005は、分離液保持槽2002の上方に設けられている。試薬保持槽2005と分離液保持槽2002とは流路により互いに接続することが好ましい。これにより、分析チップの停止時に、試薬を重力の作用により分離液保持槽2002に送液することができる。実際には、試薬保持槽2005は、回転時に試薬を一時的に保持することができればよいので、分離液保持槽2002と同様に槽の形になっていなくても、すなわち流路状であってもよく、試薬保持槽2005と分離液保持槽2002とを共通の流路のそれぞれ一部分として設けることも可能である。
本発明における試薬保持槽2005は、その内壁面の少なくとも一部が疎水的な表面を有することが好ましい。疎水的表面による撥水性を利用し、回転停止時に試薬保持槽2005から分離液保持槽2002に、試薬を効率よく、短時間で、また高い回収率で排出することが可能になる。試薬保持槽2005を形成する2以上の内壁面、最も好ましくは試薬保持槽を形成する全ての内壁面は、疎水的であることが好ましい。
図11に示される不溶性成分分離部の構成例では、試薬保持槽2005が分離液保持槽2002の上方に設けられ、試薬保持槽2005、分離液保持槽2002から分離液送液路2004が内周側下方に延伸し、分離液送液路2004の折り返し部2004Aで向きを変えて外周側に延伸する。一方、分離液送液路2004と接続し、分離液と試薬を混合するための分離液混合槽2021を設けることができる。これにより反応室ユニットに分離液を送液する前に試薬を充分に混合することができるため、測定が安定化する。例えば、図11では分離液送液路2004の第1部分領域2004Aと第2部分領域Bとの間から分離液混合槽2021が分岐し、上方に延伸し中途で行き止まって末端部を形成している。また例えば、図37、図39、図41に示される分析チップではこのような分離液混合槽2021が図11に示されるものよりも大きな容量の槽として設けられている。
本発明における試薬は先に定義したとおりであり、分離液保持槽を洗浄する機能や、分離液を希釈する機能を有していてもよい。また、分離液中の特定の成分と反応する試薬としての機能を有していてもよい。具体的には分離液中の特定の成分と反応する抗体や抗原、酵素、核酸などを含んでいてもよい。例えば標識抗体を試薬として用いることで、槽内の洗浄と抗原抗体反応とを同時に行うこともできる。試薬の具体例としては、界面活性剤を含む溶液や、グリセロールなどの安定化剤を含む溶液、標識抗体や標識抗原、酵素を含むタンパク質溶液、酵素反応の基質溶液などが挙げられる。従って、分離液混合槽2021では分離液と試薬が混合し、混合した溶液中で被検物質と試薬中の特定の成分とを反応させることもできる。
本発明における試薬は、重力での送液を迅速に行うため、界面活性剤を含んでいることが好ましい。界面活性剤を含むことにより、試薬保持槽2005から分離液保持槽2002に試薬が落下しやすくなり、試薬と分離液とが混合するまでの時間を早くすることが可能である。これにより、分析に必要な時間が短縮できると同時に、混合されている時間すなわち試薬と分離液との反応時間をより厳密に制御することができる。
〔試薬貯液槽〕
不溶性成分分離部においては、試薬保持槽2005に接続される試薬貯液槽2009を設けることができる。これにより、試薬保持槽2005に洗浄液を予め保持する必要がない。したがって、試薬貯液槽2009を設ければ、試薬保持槽2005は回転時に保持できる構造でありさえすればよいため、試薬保持槽2005のサイズや形状の自由度が高まる。試薬貯液槽2009のサイズは試薬を貯液できる範囲で適宜定めることができ、試薬10マイクロリットルから1000マイクロリットルを蓄積できればよく、通常は槽の容積が20マイクロリットルから1500マイクロリットルであり、中でも50マイクロリットルから500マイクロリットルであることが好ましい。試薬保持槽2005と試薬貯液槽2009とはそれぞれの槽に連通する開口部で接続されるものであってもよいし、試薬導入路2016で接続されるものであってもよい。なお、本発明における分析チップが後述の試薬リザーバユニットを有する場合には、試薬貯液槽2009は試薬リザーバユニットの試薬貯液槽の一つとして設けることが可能である。
図11に示される不溶性成分分離部の構成例では、試薬貯液槽2009が試薬保持槽2005の下部かつ内周側に設けられている。試薬保持槽2005と試薬貯液槽2009とは、試薬貯液槽2009から外周側上方に延伸する試薬導入路2016にて接続されている。試薬貯液槽2009、試薬保持槽2005にはそれぞれ通気穴2017、2023が設けられている。本発明の分析チップの不溶性成分分離部においては、試薬貯液槽2009が試薬保持槽2005の内周側に位置し、試薬導入路2016で連結された構造をとることにより、試薬貯液槽2009内に予め貯液された試薬が、回転による遠心力により試薬導入路2016を介して試薬保持槽2005に保持されることになる。また、試薬貯液槽2009に通気穴2017を設けることにより試薬貯液槽2009から試薬保持槽2005への遠心力による試薬の移動を効率的に行うことができる。回転の停止により試薬保持槽2005内に保持されていた試薬は分離液保持槽2002を洗浄し、重力方向に延びる分離液送液路2004に、分離液保持槽2002に蓄積された分離液を押し出すことができる。一方試薬保持槽2005に通気穴2023を設けることにより、回転の停止による試薬の重力方向への移動を効率的に行うことが可能となる。
さらに図11に示される不溶性成分分離部においては、試薬保持槽2005から分離液保持槽2002に試薬が移動する際、試薬の移動を効率的に行うため、分離液保持槽2002と試薬保持槽2005とをつなぐ、気体が移動するための流路(気体流路)2025が設けられている。
〔試薬導入路〕
試薬導入路は、試薬貯液槽と試薬保持槽とを連通する流路である。その例は、図11を例に挙げて説明したとおりである。
試薬導入路は、第1の回転速度による回転時に、遠心力の作用により、液体を第2の貯液槽から第2の保持槽や試薬保持槽に送液することが好ましい。従って、試薬導入路の好ましい態様は、後述の多段送液部の流路Eと同様である。
〔オーバーフロー流路(懸濁液導入路もしくは不溶性成分保持槽)〕
例えば図11に示されるように、本発明の分析チップにおける不溶性成分分離部は、懸濁液保持槽2001、懸濁液導入路2006もしくは不溶性成分保持槽2003に接続するオーバーフロー流路2018および2007を有していてもよい。本発明におけるオーバーフロー流路は、懸濁液保持槽2001中の懸濁液を回転により不溶性成分保持槽2003および分離液保持槽2002に送液する際、送液する懸濁液の量もしくは回転中に分離液保持槽2002で形成される液面を規定し、その結果として、回転停止時に分取、回収される分離液の液量を規定する機能を付与するための流路である。オーバーフロー流路2018および2007を、懸濁液保持槽2001、懸濁液導入路2006もしくは不溶性成分保持槽2003に接続して設けることにより、懸濁液保持槽2001の懸濁液の量にかかわらず分取、回収される分離液の量を一定にすることができ、定量性を確保することができる。
不溶性成分分離部には、オーバーフロー流路2018および2007に接続して、オーバーフローした懸濁液を保持するための槽2024もしくは2019を設けることができる。槽2024および2019の位置は特に限定されないが、通常はオーバーフロー流路2018および2007の外周側にそれぞれ設けることができる。
本発明におけるオーバーフロー流路2007は、懸濁液導入路2006もしくは不溶性成分保持槽2003との接続部2012から一度内周側に延伸した後、折り返し部2014で外周側に折り返した構造をとる。これにより分析チップの回転時に、分離液保持槽2002内で形成される液面とオーバーフロー流路2007の折り返し部2014とが同一円周面上に規定されることになり、分離液保持槽2002における液面の高さを一定に規定することが出来る。
本発明におけるオーバーフロー流路2007は、好ましくは懸濁液導入路2006または不溶性成分保持槽2003との接続部2012から一旦内周側に延伸した後、外周側かつ重力方向に折り返した構造をとる。こうした構造とすることにより折り返し部2014から先のオーバーフロー流路2007中およびその先の槽に移動した液が、回転停止時に懸濁液導入路2006もしくは不溶性成分保持槽2003に逆流することを、重力の作用により防止することができ、その結果として定量性を確保することおよび不溶性成分の分離液保持槽2002への混入を効果的に防止することができる。
図11の不溶性成分分離部の構成例のオーバーフロー流路について具体的に説明する。オーバーフロー流路2007は懸濁液導入路2006に接続部2012で接続されている。オーバーフロー流路2007は、その前半部分2013で接続部2012から上方側かつ内周側に延伸し、折り返し部(折り返し部位)2014を経て後半部分2015において下方かつ外周側に延伸している。後半部分2015は、接続部2012とほぼ平行な位置の末端部2015Aにおいてオーバーフローした懸濁液を貯液する槽2019と接続する。
図41に示される分析チップにおける不溶性成分分離部に示すように、オーバーフロー流路2007は懸濁液導入路2006の途中である分析チップの回転内周側に設けられていてもよい。
オーバーフロー流路2007は、オーバーフロー流路の折り返し部2014の内周側に、通気穴2008を設けることが好ましい。折り返し部2014に通気穴2008を設けることにより、回転時にオーバーフロー流路2007を満たした懸濁液によりサイフォン現象が起きることを完全に抑制することが可能となる。これにより、分離液や懸濁液が分離液保持槽2002や不溶性成分保持槽2003から流出することを防ぐことができる。
折り返し部2014に通気穴2008を設けた場合には、折り返し部2014までの内周側に延伸したオーバーフロー流路2007の前半部分2013内の液体が回転停止時に懸濁液導入路2006もしくは不溶性成分保持槽2003に逆流する危険性がある。これを防止するため、折り返し部2014までの内周側に延伸したオーバーフロー流路2007の容積を、不溶性成分保持槽2003の容積よりも小さくすることが望ましい。例えば不溶性成分保持槽2003の容積に対する内周側に延伸したオーバーフロー流路2007の容積は、通常は20%以下であり好ましくは10%以下の容積とすることができる。さらに、回転停止時にオーバーフロー流路2007の前半部分2013内の溶液が、表面張力により保持され続け、不溶性成分保持槽2003もしくは懸濁液導入路2006に逆流しない構造であることが望ましい。従ってオーバーフロー流路2007の前半部分2013の断面積は小さいことが好ましく、通常は0.3平方ミリメートル以下であり、好ましくは0.1平方ミリメートル以下である。
図11に示されるように、オーバーフロー流路2007の折り返し部(折り返し部位)2014の内周側に延伸する先端部には、通気穴2008が設けられている。オーバーフロー流路2007の前半部分2013の容積は、不溶性成分保持槽2003の容積の5%程度と小さいものとしてある。
〔オーバーフロー流路(懸濁液保持槽)〕
また本発明における不溶性成分分離部においては、懸濁液保持槽2001に接続されるオーバーフロー流路2018を設けることもできる。これにより、懸濁液保持槽2001内の懸濁液の量にかかわらず分取、回収される分離液の量を一定にすることができ、定量性を確保することができる。このオーバーフロー流路2018と、懸濁液導入路2006もしくは不溶性成分保持槽2003に接続されるオーバーフロー流路2007とを組み合わせることにより、懸濁液の量をより効率的に調節することができる。
懸濁液保持槽2001とオーバーフロー流路2018との接続部は、懸濁液保持槽2001と不溶性成分保持槽2003との接続部2012よりも上方に位置させる。懸濁液導入路2006を設ける場合には懸濁液導入路2006の懸濁液保持槽2001との接続部よりも上方に位置させる。懸濁液保持槽2001と接続するオーバーフロー流路2018は、懸濁液導入路2006および不溶性成分保持槽2003に接続されるオーバーフロー流路2007と異なり、懸濁液保持槽に懸濁液2001を大量に入れた際、遠心(回転)による分析チップからの懸濁液の流出を防止する機能を有する。
図11に示される不溶性成分分離部の例をとって説明すると、オーバーフロー流路2018は懸濁液保持槽2001に接続されている。接続部は、懸濁液導入路2006よりも上方に位置している。オーバーフロー流路2018の外周部の端部には、オーバーフローした懸濁液を貯液する槽2024が接続されている。槽2024には通気穴2020が設けられている。
また、懸濁液保持槽のオーバーフロー流路は、懸濁液保持槽と不溶性成分保持槽との接続部よりも上方に位置していればよいので、懸濁液導入路の途中に設けられていてもよい。
〔流路群の層構造について〕
本発明において、不溶性成分分離部の流路および槽は、分析チップの主面を基準にしてソリッドな厚み方向に(第1主面と第2主面の間に)2以上の流路群(流路および槽からなる群(グループ))を形成するものであってもよい。これにより、分析チップの空間を有効活用できるとともに、流路や槽のサイズ、及び形状の自由度を高めうる。2以上の流路群は、少なくともその一部が、例えば2つの主面(第1主面、第2主面)寄りに、好ましくは互いに対向する2つの主面寄りに、互いに離間して設けられて層状の構成をとるものとしてもよい。
2以上の流路群から構成される不溶性成分分離部の構成例を、図43−1、図43−2および図43−3を参照して説明する。
図43−1は、本発明の分析チップの別の構成例を透過的に示す平面図である。図43−2は、図43−1に示す不溶性成分分離部を第1主面2100a側から透過的に見た平面図である。図43−3は、図43−1に示す不溶性成分分離部を第2主面2100b側から透過的に見た平面図である。
図43−1、図43−2および図43−3に示されるように、この構成例の分析チップは、第1主面2100a寄りに設けられている第1流路群2070A(図43−2参照。)と、この第1流路群2070Aと分析チップの厚み方向に重なるように第2主面2100b寄りに設けられている、第2流路群2070B(図43−3参照。図43−1において破線で示されている。)とを有している。なお、本発明の図面において、第1流路群2070Aと第2流路群2070Bとを接続している、一体である流路の境界を白抜き○で示す場合がある。
第1流路群2070Aは、第1主面2100a寄りに配置されており、第2流路群2070Bと分析チップの厚み方向に重なるように設けられている。
第1流路群2070Aは、分離液保持槽2002と、分離液保持槽2002と狭隘部2010により接続されている不溶性成分保持槽2003と、分離液保持槽2002の下端部に接続されている分離液送出路2004と、懸濁液保持槽2001および不溶性成分保持槽2003を接続している懸濁液導入路2006と、一端がオーバーフローした液の保持槽2019と接続されている第1オーバーフロー流路部2007aとを有している。
分析チップは、懸濁液保持槽2001を最も下側に位置する構成として見たときに、基部2050Aから突出する長さの異なる2つの突出部を有する、全体としてF字状の形状を有している。この例では、基部2050Aから同一方向に延在する第1突出部2050B及びこの第1突出部2050Bよりも延在長が長い第2突出部2050Cを備えている。
分離液保持槽2002は、略逆C字状の形状を有している。不溶性成分保持槽2003は、分離液保持槽2002の逆C字の屈曲部分が狭隘部2010により接続されている。分離液送出路2004は、先端に向かうほど径が徐々に小さくなり、流路途中で外周側に屈曲した後、直線状に下方(重力方向)に延伸して不溶性成分分離部以外の部位の分析チップを構成する槽、流路、あるいは分析チップの外に開口している。
第2流路群2070Bは、第1オーバーフロー流路部2007aと接続されている第2オーバーフロー流路部2007bと、不溶性成分保持槽2003と接続されている不溶性成分排出路2030と、第2オーバーフロー流路部2007bと接続されており、上方に延伸して分析チップ外に開口している通気穴2008とを有している。この第2オーバーフロー流路部2007bは第1オーバーフロー流路部2007aと一体的にオーバーフロー流路7を構成している。
不溶性成分排出路2030は、不溶性成分保持槽2003の懸濁液導入路2006との接続部よりも下側の位置で外周側の壁面に開口するように接続されている。不溶性成分排出路2030は、内周側に延伸する前半部分2031と、折り返し部2032、外周側に延伸する後半部分2033からなっている。前半部分2031は、一旦上方に延伸し、さらに屈曲して不溶性成分保持槽2003に対して第2主面2100b側をくぐるように内周側に延伸して折り返し部2032に接続されている。折り返し部2032はU字状に屈曲しており、内周側に延伸している前半部分2031を外周側に延伸している後半部分2033と接続している。すなわち、不溶性成分保持槽2003の外周側の壁面から内周側に向かって延伸している不溶性成分排出路2030は、折り返し部2032により折り返されて方向転換し、外周側に延伸している。外周側に延伸する後半部分2033は、さらに下方(重力方向)に屈曲してオーバーフローした液の保持槽2019に接続されている。
第2オーバーフロー流路部2007bは、一端が不溶性成分保持槽2003の外周側の壁面に開口するように接続されている。このとき、第2オーバーフロー流路部2007bは、懸濁液導入路2006と一体的に不溶性成分保持槽2003の外周側の壁面に接続されている。第2オーバーフロー流路部2007bは、不溶性成分保持槽2003の外周側から一旦上方に延伸し、さらに屈曲して不溶性成分保持槽2003に対して第2主面2100b側をくぐるように内周側に延伸して折り返し部2014に接続されている。折り返し部2014は内周側に延伸している第2オーバーフロー流路部2007bを外周側に折り返して方向転換させる。外周側に折り返された第2オーバーフロー流路部2007bの他端は、さらに第1主面2100aに向かう方向に屈曲して第1オーバーフロー流路部2007aの他端に接続されている。すなわち、オーバーフロー流路2007は、不溶性成分保持槽2003とオーバーフローした液の保持槽2019とを接続している。
折り返し部2014の端部には通気穴2008が接続されている。通気穴2008はこの例では、第1主面2100aと第2主面2100bとに挟まれた上方の側面に開口している。
第2オーバーフロー流路2007bと不溶性成分排出路2030の前半部分2031とはほぼ平行に配置されている。また、不溶性成分排出路2030の折り返し部2032は、オーバーフロー流路2007の折り返し部2014よりも内周側に設けられている。
オーバーフローした液の保持槽2019が設けられている第2突出部2050Cには、通気穴2019aが設けられている。通気穴2019aは、オーバーフローした液の保持槽2019の上端部から内周側に向かって延伸して第2突出部2050Cの内周側端縁に開口する。この通気穴2019aは、オーバーフローした液の保持槽2019内の気体を分析チップ外に逃がす機能を有している。
また、分析チップが2つの主面(第1主面、第2主面)を有する場合に、不溶性成分分離部を、いずれかの主面寄りに、好ましくは後述する多段送液部が配置される主面寄りではなくもう一方の主面寄りに、多段送液部とは互いに離間して設けられるものであってもよい。この場合の構成例については、図50−1、図50−2、図50−3、図50−4、図51−1および図51−2に示すとおりである。
〔不溶性成分排出路〕
本発明における分析チップは、不溶性成分分離部において、不溶性成分排出路を有してもよい。
本発明における不溶性成分排出路は、不溶性成分保持槽内に保持された不溶性成分を含む成分(不溶性成分の比率が高まった懸濁液)を、不溶性成分保持槽から排出する機能を有する。これにより、分離液への不溶性成分の混入をより効果的に防止することが可能となる。
特に、重力により分離液を排出する際、懸濁液導入路やオーバーフロー流路内の懸濁液が重力の作用により不溶性成分保持槽に極微量流入し、その結果として分離液保持槽に不溶性成分を含む懸濁液が極微量混入する可能性が残る。この時、不溶性成分排出路を設けることで、分離液への不溶性成分の混入をより効果的に抑えることができる。
更に重力による分離液の排出後に、分離液の完全な排出などを目的として再度の回転操作を行う場合、懸濁液導入路もしくはオーバーフロー流路内の懸濁液の液面は最初の回転時よりも外周側に移動する。これにより懸濁液導入路、オーバーフロー流路もしくは不溶性成分保持槽内の分離液が、分離液保持槽に極微量流入する可能性が残る。その結果として、再度の回転停止の際に分離液が重力により更に排出されることになり、分離液の定量性や分析の正確性を損なう可能性があった。この時、不溶性成分排出路を設けることで、再度の回転による分離液保持槽への極微量の分離液の流入を効果的に抑えることができ、結果として分離液の定量性や分析の正確性を損なわないようにできる。
本発明における不溶性成分排出路2030は、不溶性成分保持槽2003内に保持された不溶性成分を、不溶性成分保持槽2003から排出する機能を有する流路である。不溶性成分排出路2030は、好ましくは毛細管現象を起こす流路である。
不溶性成分排出路2030の一方の端部(不溶性成分を流入させる側の端部)は、狭隘部よりも外周側において槽または流路に接続して入ればよい。好ましくは、該端部は、狭隘部より外周側において、懸濁液導入路2006、オーバーフロー流路2007、もしくは不溶性成分保持槽2003に接続させ得る。例えば図43に示すように、不溶性成分排出路2030は、最も好ましくは不溶性成分保持槽2003の外周側の壁に接続している。これにより、不溶性成分を完全に排出することが可能となる。
不溶性成分排出路2030のもう一方の端部は、通気穴、流路、槽などいずれに接続させてもよいが、好ましくは廃液槽に接続させ得る。廃液槽は、オーバーフローした液の保持槽と接続していてもよく、この場合はオーバーフローした液の保持槽が廃液槽の機能を兼ねることになり、必要な槽の数を減らし、分析チップを小型化することができる。
不溶性成分排出路2030の構造は、不溶性成分を流入させる側の端部から一旦内周側に延伸した後、内周側に延伸する前半部分2031、外周側に折り返した構造であることが好ましい。すなわち例えば図43−1に示されるように、不溶性成分排出路2030は、内周側に延伸する前半部分2031と、折り返し部2032、外周側に延伸する後半部分2033からなることが好ましい。これにより、最初の回転時には不溶性成分を不溶性成分保持槽2003内に留めておき、回転停止時の毛細管現象および再度の回転時のサイフォン効果により不溶性成分を排出することが可能となる。更に好ましくは、不溶性成分排出路2030の折り返し部2032は、オーバーフロー流路2007の折り返し部2014よりも内周側に設け得る。これにより、懸濁液の液量が過剰であっても、過剰な懸濁液は回転中にオーバーフロー流路2007を通じて棄てられることで液量を正確に規定することができ、また不溶性成分排出路2030内の液面を、内周側に延伸する流路中に確実に位置させることができる。その後、回転停止時に不溶性成分排出路2030で発生する毛細管現象により、不溶性成分を含む懸濁液が折り返し部を通過し、外周側に延伸する流路を満たす。その後の回転時に発生するサイフォン効果で、不溶性成分を排出することが可能となる。
例えば図43−1に示されるように、不溶性成分排出路2030の折り返し部2032、すなわち内周側への延伸から外周側への延伸の折り返し部2032は、不溶性成分保持槽2003と分離液保持槽2002との間の狭隘部2010より上方に位置することが好ましい。これにより、回転から回転停止までの間に、不溶性成分排出路2030内の懸濁液が、不溶性成分排出路2030の折り返し部2032を乗り越えて流出してしまうことを防止することが出来る。そのため、回転から回転停止までの工程でサイフォン効果が発揮されることを防止し、分取すべき分離液が不溶性成分と共に排出されてしまう可能性をなくすことができる。
不溶性成分排出路2030は、流路の途中において、流路断面積が大きくなるストップバルブを有することが好ましい。不溶性成分排出路2030におけるストップバルブは、好ましくは不溶性成分排出路2030の外周側への折り返し部2032よりも後半(下流)に配置され、かつ狭隘部2010よりも外周側に配置される。回転停止時における不溶性成分を多く含む懸濁液は、毛細管現象によりストップバルブまで進行後、ストップバルブ内に貯留されて停止する。これにより、不溶性成分排出路2030内を進行する懸濁液の量を少なくすることができ、分離液の回収率を損なうことを防ぐことができる。例えば、図43−1に示す不溶性成分分離部の懸濁液導入路2006には、不溶性成分排出路2030の外周側への折り返し部2032よりも後半(下流)に位置し、かつ狭隘部2010よりも外周側に、こぶ状のストップバルブ2031aを備えている。
図44−1、図44−2、図44−3及び図44−4を参照して、図43−1に示す不溶性成分分離部の動作の一例を説明する。図44−1は、不溶性成分分離部の動作(回転停止状態)を説明するための模式図である。図44−2は、不溶性成分分離部の動作(最初の回転時)を説明するための模式図である。図44−3は、不溶性成分分離部の動作(回転停止状態)を説明するための模式図である。図44−4は、不溶性成分分離部の動作(再度の回転時)を説明するための模式図である。
図44−1に示されるように、回転停止時に、懸濁液が懸濁液保持槽2001に導入される。このとき、懸濁液2080の不溶性成分保持槽2003への流入を、懸濁液導入路2006に設けられたストップバルブ2006aにより防止することができる。
図44−2に示されるように、分析チップの回転を開始すると、懸濁液2080は、懸濁液導入路2006を通じて不溶性成分保持槽2003に流動的に送液され、分離液2080A(主に懸濁液中の液状成分)が狭隘部2010を通じて外周側から分離液保持槽2002に満ちてくる。懸濁液中の不溶性成分2080Aは主に不溶性成分保持槽2003の外周側の側壁に付着する。過剰量の懸濁液2080はオーバーフロー流路2007を通じてオーバーフローした液の保持槽2019に排出される。この時、分離液保持槽2002内、懸濁液導入路2006内、不溶性成分排出路2030内の液面はすべてオーバーフロー流路の折り返し部2014における流路の横断面を基準としてほぼ垂直面に規定される。このように回転により生じる遠心力を利用して懸濁液中の不溶性成分が分離された後、分析チップの回転を停止させる。
図44−3に示されるように、分析チップの回転停止後、分離液保持槽2002に保持された分離液は、重力の作用により、分離液送出路2004を通じて排出される。この時、分離液送液路2004は分離液保持槽2002との接続部における流路断面積よりも小さな流路断面積となる部位を流路途中に有しており、徐々に断面積が小さくなっている。これにより、重力に加えて毛細管力が併せて利用でき、分離液をより短時間で落下、すなわち排出させることができる。また、分離液送液路2004は流路の途中で外周側に屈曲した構造をしており、重力方向かつ外周側に延伸する部位を有する。こうした構成とすることで、分離液を、分離液送液路のうち、重力方向かつ外周側に延伸する部位に留めることができる。
この時、不溶性成分2080Aを多く含む懸濁液2080が毛細管現象により不溶性成分排出路2030内を進行し、不溶性成分排出路の前半部分2031から折り返し部2032、後半部分2033を通過し流路を満たす。
図44−4に示されるように、再度の回転により、分離液送液路内の分離液は分析チップ外に完全に排出される。この時、不溶性成分保持槽内2003の不溶性成分2080Aを多く含む懸濁液2080は、不溶性成分排出路2030を通じて、サイフォン効果により廃液槽を兼ねたオーバーフローした液の保持槽2019に全て排出される。
図45を参照して、不溶性成分分離部のさらに別の構成例につき説明する。図8は、本発明の分析チップの別の構成例を透過的に示す平面図である。
図45に示されるように、この構成例の分析チップは、略矩形状(略正方形状)の主面2100、すなわち第1主面2100aおよびこの第1主面2100aと対向する第2主面2100bを有している。
図45に示す不溶性成分分離部の不溶性成分保持槽2003の外周側上方の壁面には、懸濁液導入路2006の一端と、オーバーフロー流路2007の一端と、不溶性成分排出路2030の一端とが合流して一体とされた流路が開口するように接続されている。不溶性成分排出路2030は、内周側に延伸する前半部分2031、U字状の折り返し部2032、外周側に延伸する後半部分2033からなっている。
また、図45に示される不溶性成分分離部におけるオーバーフロー流路2007は、オーバーフローした液の保持槽2019と接続している。オーバーフローした液の保持槽2019は分析チップの最も外周側かつ最も上方に設けられている。更に、不溶性成分排出路2030は、前述したオーバーフローした液の保持槽2019の機能を兼ねている廃液槽2040に開口するように接続されている。不溶性成分排出路の折り返し部2032は、オーバーフロー流路の折り返し部2014よりも内周側に設けられている。また、不溶性成分排出路の後半部分2033には、ストップバルブ2033aが設けられている。
懸濁液導入路2006の他端は、分析チップの最も内周側かつ最も上方に配置されている懸濁液保持槽2001の外周側に開口するように接続されている。懸濁液導入路2006は、懸濁液保持槽2001との接続部から一旦水平方向に延伸し、次いで屈曲して重力方向かつ外周方向に延伸し、さらに屈曲して水平方向に延伸しており、この部分領域にこぶ状のストップバルブ2006aが設けられている。懸濁液導入路2006は、ストップバルブ2006aの先方で、後述する試薬保持槽2005の上端側を回り込むようにさらに重力方向かつ外周方向に延伸してオーバーフロー流路2007および不溶性成分排出路30と合流して不溶性成分保持槽2003に接続されている。
図45に示される不溶性成分分離部においては、試薬貯液槽2009が、分析チップの最も内周側に、懸濁液保持槽2001の直下に並列的に設けられている。試薬貯液槽2009は、この例では懸濁液保持槽2001とほぼ同一形状、同一サイズとされている。試薬貯液槽2009の内周側には試薬導入路2016の一端が接続されている。試薬導入路2016は、一旦外周方向かつ重力方向に延伸し、次いで屈曲して水平方向に延伸して試薬保持槽2005の内周側上方に開口するように接続されている。
試薬保持槽2005は、この例では逆C字状に屈曲した形状を有している。試薬保持槽2005の内周側の上端部および内周側の下端部には、これらの部分を互いに連通するように、重力方向(鉛直方向)に延在している気体流路2025が接続されている。
試薬保持槽2005の内周側の下端部は、前述とほぼ同様の逆C字状の構成を有する分離液保持槽2002の上端に接続されている。
分離液保持槽2002の屈曲部分(外周側の頂点)は、くびれ状の狭隘部2010により不溶性成分保持槽2003の内周側の上端部に接続されている。分離液保持槽2002の下端部には、分離液送液路2004が一体的に接続されている。分離液送液路2004の屈曲部2060で、一旦内周側かつ重力方向に延伸している分離液送液路2004は、外周側かつ重力方向に方向を変える。さらに分離液送液路2004は延伸し、次いで外周方向かつ上方に屈曲して略C字状の形状を構成した後、さらに屈曲して水平方向に延伸し、図示しない反応室ユニットに連通する。
図46−1、図46−2、図46−3および図46−4を参照して、図45に示す不溶性成分分離部の動作の一例を説明する。図46−1は、不溶性成分分離部の動作(回転停止状態)を説明するための模式図である。図46−2は、不溶性成分分離部の動作(最初の回転時)を説明するための模式図である。図46−3は、不溶性成分分離部の動作(回転停止状態)を説明するための模式図である。図46−4(再度の回転時)は、不溶性成分分離部の動作を説明するための模式図である。
図46−1に示されるように、懸濁液2080が懸濁液保持槽2001に導入され、洗浄液2090が試薬貯液槽2009に導入された分析チップが回転装置(遠心機)に装着される。もしくは、回転装置に装着された分析チップの懸濁液保持槽2001および試薬保持槽2009に、それぞれ懸濁液2080および洗浄液2090が導入される。
図46−2に示されるように、分析チップの回転を開始すると、懸濁液2080は懸濁液導入路2006を通じて不溶性成分保持槽2003に導入され、狭隘部2010を通じて外周側から分離液保持槽2002に分離液2080B(主に懸濁液中の液状成分)が満ちてくる。懸濁液中の不溶性成分2080Aは主に不溶性成分保持槽2003の外周側の側壁に付着する。過剰量の懸濁液2080はオーバーフロー流路2007を通じてオーバーフローした液の保持槽2019に排出される。この時、分離液保持槽2002内、懸濁液導入路2006内、不溶性成分排出路2030内の液面はすべてオーバーフロー流路の折り返し部2014のほぼ垂直面に規定される。回転により生じる遠心力を利用して懸濁液中の不溶性成分2080Aが分離し、分離液保持槽2002に分離液2080Bが保持される。この間、試薬貯液槽2009内の洗浄液は、試薬保持槽2005に保持される。その後、回転を停止させる。
図46−3に示されるように、分析チップの回転停止後、分離液保持槽2002に保持された分離液は、重力の作用により、分離液送液路2004を落下し、分離液送液路における外周側への屈曲部2060よりも下方に移動する。この時、分離液保持槽2002の上方に位置する試薬保持槽2005から、洗浄液2090が落下し、分離液保持槽2002および分離液送液路2004を洗浄すると同時に、分離液2080Bの重力による落下を後押し、回収率を高め、安定化する。分離液送液路2004は分離液保持槽との接続部における流路断面積よりも小さな流路断面積となる部位を流路途中に有しており、徐々に断面積が小さくなっている。これにより、重力に加えて毛細管力が併せて利用でき、分離液をより短時間で落下させることができる。また、分離液送液路2004は流路の途中で外周側に屈曲した構造をしており、重力方向かつ外周側に延伸する部位を有する。こうした構成とすることで、分離液を、分離液送液路のうち、重力方向かつ外周側に延伸する部位に留めることができる。
この時、不溶性成分2080Aを多く含む懸濁液2080が毛細管現象により不溶性成分排出路2030内を進行し、不溶性成分排出路2030の前半部分2031から折り返し部2032、後半部分2033を通過し、ストップバルブ2033aまで進行し流路を満たす。
図46−4に示されるように、再度の回転により、分離液送液路内の分離液と洗浄液の混合液は、図示しない反応室ユニットに完全に送液される。この時、不溶性成分保持槽内3の不溶性成分2080Aを多く含む懸濁液2080は、不溶性成分排出路2030を通じて、サイフォン効果により廃液槽を兼ねたオーバーフローした液の保持槽2019に全て排出される。
不溶性成分分離部において必要に応じて設けてもよい通気穴のサイズは、通常0.1mmから5.0mm、好ましくは0.5mmから2.0mmの範囲とすることができる。また、通気穴は管形状の空気流路に代えることもできる。空気流路の場合の位置や角度については特に限定はないが、送液時に検体や試薬が流入することを防止するため、各貯液槽から回転軸方向(内周側)に延伸し開口していることが好ましい。
4.多段送液部
多段送液部は、分析チップ上に設けられ、分析チップを回転させることにより遠心力及び重力で、複数の試薬などの液体を順次送液するための部分である。すなわち、分析チップを回転させて送液する場合には、第1の回転速度による回転により生じる遠心力および、第1の回転速度より低速の第2の回転速度による回転または回転停止時に働く重力で、複数の試薬などの液体を順次送液するための部分である。さらに言い換えれば、2以上の槽および槽間を連結する流路を備え、遠心力および重力の作用により、試薬を前記流路を介して順次および/または同時に隣接する槽間を送液し、前記反応室ユニットまで送液可能である。
多段送液部の分析チップ上の位置については特に制限はないが、好ましくは分析チップの回転時に、反応室よりも内周側となる位置に設けられることが好ましい。さらに、分析チップの回転時に不溶性成分分離部よりも回転軸を基準として重力方向の下部に位置させることが好ましい。また、分析チップの回転時において、重力方向に最下段の送液ユニットの第2の保持槽に最も近い部位の角隅部が下部となるように、分析チップを傾けた状態で回転させることが好ましい。例えば図13に示される多段送液部のように、3段目の送液ユニットU−3の第2の保持槽3030−2が最も下に位置するように主面を傾かせた状態となることが好ましい。
以下、多段送液部を図面を参照しながら説明する。図12、図13、図14および図15は、多段送液部を分析チップを主面側から見たときに、透過的に内部の構成要素が明確となるように示した模式図であり、後述する。更に図19、図20、図21、図22、図33は、多段送液部の構成を模式的に説明する図である。各図には、回転軸を示したものと示さないものとあるが、いずれも分析チップの主面を、向かって左側に回転軸を有するものとして表した図である。すなわち、分析チップを回転させる際の、略鉛直方向に延在する回転軸を分析チップの左側に位置させた場合の、軌道の周方向から見た状態を示したものである。分析チップの左側が回転軸方向(内周側)であり、右側が外周側であり遠心力方向でもある。また、下方が重力方向である。
多段送液部は、第1の貯液槽と、第1の保持槽と、流路Aと、第2の保持槽と、流路Bと、流路Cとを有し、第1の保持槽、第2の保持槽、および流路Bは送液ユニットを構成し、該送液ユニットが流路Cにより2以上連結して構成される。すなわちまず、多段送液部は、第1の貯液槽と、前記第1の貯液槽の外周側に位置する第1の保持槽と、前記第1の保持槽の重力方向に位置する第2の保持槽と、前記第1の貯液槽と前記第1の保持槽間を連通する流路Aを構成要素として有する。
図19の左側の図に示すように、多段送液部は第1の貯液槽3001−1と第1の保持槽3010−1とが遠心力方向に並列的に配列され、それらの下段(回転軸を基準に重力方向に下段)において第2の保持槽3010−2と、次の送液ユニットの第1の保持槽3020−1とが遠心力方向に並列し、それらのさらに下段において第2の保持槽3020−2が配置される。第1の貯液槽3001−1と第1の保持槽3010−1とは流路3000A−1で接続され、第1の保持槽3010−1と第2の保持槽3010−2とは流路3000B−1で接続され、第2の保持槽3010−2と次の送液ユニットの第1の保持槽3020−1とは流路3000C−1で接続され、第1の保持槽3020−1と第2の保持槽3020−2とは流路3000B−2で接続される。
図19の右側の図に示すように、第1の保持槽3010−1、第2の保持槽3010−2、および流路3000B−1は送液ユニットU−1を構成し、第1の保持槽3020−1、第2の保持槽3020−2、および流路3000B−2は送液ユニットU−2を構成する。
第1の貯液槽と第2の保持槽の位置関係は、分析チップを回転装置に装着した状態で分析チップの主面を正面よりみた場合に、略直線上に並列的に配列されていることが好ましい。また、前記送液ユニット各段の第1の保持槽も略直線上に配列されていることが好ましい。さらに、前記送液ユニット各段の第2の保持槽も略直線上に配列されていることが好ましい。これにより各貯液槽および各保持槽を小さな空間に配置することが可能となり、分析チップおよび分析チップの多段送液部をより小型化することも可能となる。
本発明における下段の送液ユニットとは、分析チップの主面を正面からみた際に、ある送液ユニットの下に位置する送液ユニットを意味する。下段の送液ユニットは、上段の送液ユニットに対して、回転軸を基準に重力方向もしくは外周方向に位置する。最上段より下段の送液ユニットは、第2段目の送液ユニット、第3段目の送液ユニットと表記されることもある。
図47に示される本発明の分析チップにおける多段送液部の場合、第1段目の送液ユニットU−1、第2段目の送液ユニットU−2、第3段目の送液ユニットU−3の3つの送液ユニットが重力方向に向かって並列的に配列されている。
図48および図49に示される本発明の分析チップにおける多段送液部の場合、第1段目の送液ユニットU−1、第2段目の送液ユニットU−2、第3段目の送液ユニットU−3、第4段目の送液ユニットU−4は、回転軸に対して順番に外周方向に、すなわち略水平方向に向かって並列的に配置されている。
本発明における貯液槽および保持槽とは、回転停止時もしくは回転時に、液体を内部に貯液あるいは保持可能な槽を意味する。貯液槽は直接導入された液体を貯液する槽であり、保持槽は他の貯液槽または保持槽から送液されてきた液体を保持する槽である。貯液槽および保持槽は、予め液体を保持していてもよく、また他の槽より流入する液体により溶解する粉末状やゲル状の試薬を予め保持していてもよい。本発明における貯液槽や保持槽は、内部に収容する液体の1.1倍から10倍程度の容積を有することが好ましい。更に好ましくは内部に収容する液体の1.3倍から5倍程度の容積を有するものを用いることができる。
〔第1の貯液槽〕
本発明における第1の貯液槽は、分析チップの主面側から見た場合に、第1段目の第1の保持槽よりも多段送液部の回転軸側(内周側)に位置する槽である。第1の貯液槽は、通常回転前に試薬が予め格納されるので、試薬を注入するための開口部を有するものであってもよい。第1の貯液槽の容量については試薬を格納できるものであれば特に限定されないが、液体を0.001mlから10ml、中でも0.01mlから1mlを格納できるものが好ましい。また、第1の貯液槽の形状は特に限定されるものではなく、略球形、円柱、直方体、角錐、円錐等の任意好適な形状から適宜選択することができる。
〔第1の保持槽〕
多段送液部においては、送液ユニットを構成する槽の一つとして、第1の保持槽を有する。第1の保持槽は、分析チップの回転軸を基準として、前記第1の貯液槽および/または前段の送液ユニットの第2の保持槽の外周側に位置する液体保持槽である。第1の保持槽は、第1の回転速度における遠心力および重力の作用により、第1の貯液槽から流路Aを通過して送液された試薬および/または、前段の送液ユニットの第2の保持槽から流路Cを通過して送液された試薬を、第1の回転速度における回転時には、その内部に保持するものである。また、第1の回転速度での回転に次いで行われる、第1の回転速度よりも低速の第2の回転速度による回転時もしくは回転停止時には、その内部に保持されていた液体が流路Bを通じて第2の保持槽に排出されることとなる。
第1の保持槽には、送液される試薬等と反応させるための固形もしくは粉末状の試薬が第1の貯液槽からの送液前に予め格納されるものであってもよい。第1の保持槽の容量については第1の回転速度において試薬を保持できるものであれば特に限定されないが、液体0.001mlから10ml、中でも0.01mlから1mlを格納できるものが好ましい。
多段送液部においては、第1の保持槽は、2以上の第1の貯液槽と連結することがあるが、その場合は特に、第1の保持槽は、第1の貯液槽と比較して容量が大きいことが好ましい。また、第1の保持槽の形状は特に限定されるものではなく、第1の貯液槽と同様、球形、円柱、直方体、角柱、円錐等の任意好適な形状から適宜選択することができる。
本発明における第1の保持槽は、その内壁面の少なくとも一部が疎水的な表面を有することが好ましい。疎水的表面による撥水性を利用し、回転停止時に第1の保持槽から流路Bに、試薬を効率よく、短時間で、また高い回収率で排出することが可能になる。第1の保持槽を形成する2以上の内壁面、最も好ましくは第1の保持槽を形成するすべての内壁面が疎水的であることが好ましい。
〔流路A〕
本発明において、流路Aは、送液ユニットを構成する流路のひとつであり、第1の貯液槽と第1の保持槽間を連通する流路である。この流路Aは分析チップの第1の回転速度による回転時に遠心力及び重力の作用により(主として遠心力の作用により)液体を第1の貯液槽から第1の保持槽に送液するための流路である。例えば、図12に示すように、流路Aは、一端が第1の貯液槽の外周側の下方部分を開口させて接続され、かつ他端が第1の保持槽の回転軸側の上方部分を開口させて接続されている。
流路Aの形状やサイズは、流路全体が管形状であればよく、流路全体を通じて一定でなくともよい。また、流路Aは第1の貯液槽と第1の保持槽とを直接連通する開口であってもよい。流路Aの延在方向に直交する断面(横断面)の形状は円、多角形等特に限定されない。流路Aの横断面のサイズについても、およそ一定であればよく、検体、試薬が通過可能なサイズで適宜調整することができる。例えば、流路Aの短径(円の場合は直径、多角形の場合は中心を通る最も短い径を意味するものとする。)は通常10μmから5mm、好ましくは100μmから1mmの範囲とすることができる。流路Aの短径が小さい場合、第1の回転速度における第1の貯液槽から第1の保持槽への液体の送液に必要な時間は圧力損失により長くなり、短径が大きい場合、必要な時間は短くなる。
また、流路Aは第1の貯液槽と第1の保持槽とを連通していれば、必ずしも全部が直線でなくともよい。流路Aは、その一部または全部が曲線や凹凸を描いていてもよい。流路Aの延在形状は、直線と曲線とが混在していてもよいし、途中で屈曲していてもよい。
流路Aは、該流路Aと前記第1の貯液槽との接続部を通り、かつ第1の回転速度における遠心力と重力の合力に垂直な面より外周側に位置していることが好ましい。これにより、第1の貯液槽に導入した液体を、分析チップを第1の回転速度において回転させた際に、第1の貯液槽から最上段の送液ユニットの第1の保持槽に液体を送液することができる。
「流路Aと第1の貯液槽との接続部を通り、かつ第1の回転速度における遠心力と重力の合力に垂直な面」とは、分析チップを第1の回転速度で回転させた際に、分析チップの流路Aと第1の貯液槽との接続部に働く遠心力と重力の合力に対し垂直な角度をなし、かつ、前記接続部と交差する面を意味する。「流路Aと前記第1の貯液槽との接続部を通り、かつ第1の回転速度における遠心力と重力の合力に垂直な面より外周側に位置する」とは、前記垂直に位置する面で隔てられる2つの空間のうち、回転軸からみて外周側の空間に位置することを意味する。言い換えれば前記空間のうち、回転軸の位置しないほうの空間に位置することを意味する。
例えば、図20に示すように、分析チップに働く遠心力と、重力の方向及び大きさを矢印で示した場合に、遠心力と重力の合力は外周方向に伸びる太い矢印で示す方向及び大きさで表される。遠心力と重力の合力に垂直な面とは、この合力の矢印に垂直方向を示す太線の矢印を通る面である。「流路Aと前記第1の貯液槽との接続部を通り、かつ第1の回転速度における遠心力と重力の合力に垂直な面より外周側に位置する」とは、前記合力に垂直な面を示す太線の矢印を通る面を基準として、流路Aが回転軸の存在する空間(内周側)とは反対側の空間(外周側)に位置することを意味する。
流路Aは、少なくともその一部が、第1の回転速度における第1の貯液槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも、外周側に位置することが好ましい。これにより、第1の貯液槽に導入された液体を、分析チップを第1の回転速度において回転させた際に、液体(試薬)が第1の貯液槽から第1の保持槽に流れ続けるので、第1の保持槽により確実に送液することができる。流路Aの全てが第1の回転速度における第1の貯液槽内の「液体の液面を含む平面」よりも、外周側に位置する必要はなく、流路Aの外周側の壁が「液体の液面を含む平面」よりも、外周側に位置していればよい。
「第1の回転速度における第1の貯液槽内の試薬の液面を含む液体の平面」とは、液体が導入された第1の貯液槽を有する分析チップを、第1の回転速度で回転させたときの、第1の貯液槽内で液体が形成する液面を含む平面を意味する。
また、本発明において「液面を含む平面」とは、液面が平面の場合はそのまま液面を意味し、貯液槽が細い管状で壁面との表面張力によって形成される左右の壁面のメニスカスがつながり、液面が平面以外になる場合は、第1の貯液槽中央での液面の接線を意味する。
分析チップを第1の回転速度で回転させた場合の第1の貯液槽からの液体の移動プロセスは下記の通りである。まず、本発明の分析チップを回転させ始めた時点で第1の貯液槽内の「液体の液面を含む平面」が、水平面(水平方向)を基準としたときと比較して、傾く。第1の回転速度に達した時点、すなわち、流路Aが第1の貯液槽内の「液体の液面を含む平面」よりも外周側となる時点で、第1の貯液槽から第1の保持槽内に、遠心力および重力の作用により液体が流入し始め、以降、第1の貯液槽内の「液体の液面を含む平面」が流路Aの少なくとも一部よりも内周側に位置し続ける間は、第1の貯液槽から第1の保持槽に液体が流入し続ける。
従って、本発明の分析チップの流路3000A−1の少なくとも一部が、第1の回転速度における回転時の第1の貯液槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも外周側に位置する場合には、第1の貯液槽中の液体の全量を、流路3000A−1を介して第1の保持槽に移動させることができる。例えば図21に示すように、分析チップを第1の回転速度で回転させたとき、第1の貯液槽3001−1内の液体3000L1の液面を含む平面3000P1は、分析チップを主面から見ると右上がりの斜線を描くが、流路3000A−1が液面3000P1よりも外周側(3000P1で隔てられる2つの空間のうち回転軸のある空間とは反対側の空間)に位置する場合には、第1の貯液槽3001−1が空になるまで液体を流出させることができる。
このような流路3000A−1は、少なくともその一部が回転軸に対し外周方向かつ上方に角度をなす形状であることが好ましく、その角度は、通常は0°から80°、好ましくは1°から45°、更に好ましくは3°から15°の間で適宜設定することができる。第1の貯液層と第1の保持槽との距離を小さくし、無駄なスペースなく配置できることから、角度は小さい方が好ましい。流路Aの回転軸に対する角度とは、例えば図32に示すように、流路3000A−1の延長線(流路Aにおける液体の流れる方向の延長線)3000S3と回転軸とがなす角度3000s3を表す。流路3000A−1が屈曲している場合、回転軸と流路3000A−1がなす角度は次のように定義できる。第1の貯液槽と流路3000A−1との接続部と、流路3000A−1の途中で最も上方に位置する点とを結んだ線を延長し、回転軸と延長線とがなす角度と定義できる。
また、流路A全体が第1の回転速度における第1の貯液槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも、外周側に位置するものでなくとも、流路Aと第1の貯液槽との接続部が前記第1の回転速度における第1の貯液槽内の前記の「液面を含む平面」よりも回転軸を基準として外周方向に位置することが好ましい。これにより、第1の回転速度での回転において第1の貯液槽内の液体(試薬)を、第1の保持槽に確実に送液することができる。
また、流路Aは、その第1の保持槽との接続部のうち少なくとも一部が、第1の回転速度における第1の保持槽内での試薬の液面を含む平面よりも回転軸側(内周側)にあることが好ましい。第1の回転速度で分析チップを回転させた際には、第1の貯液槽から送液された液体(試薬)は、第1の保持槽において遠心力と重力の合力方向に略垂直な液面を形成する。この際に、流路Aと第1の保持槽との接続部のうちの少なくとも一部を、この液面を含む平面よりも回転軸側に位置させることにより、第1の回転速度における回転中、液体を第1の保持槽により確実に保持し、第1の貯液槽への逆流をより効果的に防止することができる。
分析チップを第1の回転速度で回転させた場合の第1の保持槽における液体の流入プロセスは下記の通りである。まず、本発明の分析チップを第1の回転速度で回転させると、第1の保持槽内に遠心力および重力の作用により液体が流入し始め、以降、第1の保持槽内の「液体の液面を含む平面」が流路Aと第1の保持槽との接続部よりも外周側に位置し続ける間は、第1の保持槽から液体が逆流することなく流入し続ける。
従って、本発明の分析チップの流路3000A−1と第1の保持槽との接続部のうち少なくとも一部が、第1の回転速度における第1の保持槽内での液体の液面を含む平面よりも内周側に位置する場合には、第1の保持槽から液体が逆流することなく、第1の保持槽に液体が貯液される。例えば図21に示すように、第1の回転速度で分析チップを回転させているときには、第1の保持槽3010−1中の液体3000L1の液面を含む平面3000P2は分析チップを主面から見ると右上がりの斜線を描くが、流路3000A−1の第1の保持槽との接続部3000Q1が前記平面3000P2よりも左側(3000P2で隔てられる2つの空間のうち回転軸のある空間)に位置することにより、第1の保持槽3010−1中に、液体を他の槽に流出させることなく保持することができる。第1の保持槽と流路3000A−1との接続部3000Q1は、第1の保持槽の上方に位置することが好ましい。これにより、第1の回転速度より低速の第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時に、第1の保持槽内で形成される液面を含む平面よりも上方に位置することとなり、第1の貯液槽への逆流を効果的に抑制することが可能となる。
〔第2の保持槽〕
多段送液部においては、送液ユニットを構成する槽の一つとして、第2の保持槽を有する。この第2の保持槽は、分析チップの回転軸を基準として、前記第1の保持槽の重力方向に位置する槽である。好ましくは、第1の保持槽より分析チップの回転軸側(内周側)に位置する。
本発明における重力方向とは、重力の作用によって液体が流れる方向を意味し、具体的には水平より下方を意味する。第1の保持槽の重力方向に第2の保持槽が位置するとは、第1の保持槽より下方に第2の保持槽があることを意味する。具体的には分析チップの回転時に分析チップ主面を正面から見た場合に、水平より下方に位置することを意味する。言い換えれば、重力方向とは重力の方向のベクトルを有する方向であればよく、重力の作用によって液体を流れやすくするためには、鉛直方向に近い方向が好ましいことは言うまでもない。
第2の保持槽は、本発明の分析チップの回転停止時もしくは第2回転速度における回転時に、液体を内部に貯液可能な槽である。この場合の液体、すなわち試薬は、第1の保持槽から送液されたものであってもよいし、第2の保持槽に直接格納されたものであってもよい。
第2の保持槽の容量については試薬を格納できるものであれば特に限定されないが、液体を0.001mlから10ml、中でも0.01mlから1mlを格納できるものが好ましい。また、第2の保持槽の形状も略球形、直方体、角錐、円錐等の任意好適な形状から適宜選択することができ、第1の回転速度において流路Cまたは流路Dを通じて該第2の保持槽に一時的に保持した液体を排出できる構造であればよい。
〔流路B〕
本発明においては、流路Bは、送液ユニットを構成する流路のひとつであり、前記第1の保持槽と該第2の保持槽間を連通する流路である。分析チップの第1の回転速度よりも低速の第2の回転速度による回転時もしくは回転停止時に重力の作用により流路Bを前記液体(試薬)が流れ、前記第1の保持槽から第2の保持槽に送液される。流路Bは、第1の保持槽との接続部から重力方向に延伸し、第2の保持槽に接続している。これにより、チップの前記第1回転速度よりも低速の第2回転速度による回転時または回転停止時に重力の作用により液体(試薬)を第1の保持槽から第2の保持槽に、重力の作用により、送液することが可能となる。
例えば、図12に示すように、流路Bは、一端側が第2の保持槽の外周側の上方部分を開口させて接続され、かつ他端側が同一段の第1の保持槽の回転軸側の下方部分を開口させて接続されている。
流路Bは、その第1の保持槽との接続部のうちの少なくとも一部が、第1回転速度における第1の保持槽内の試薬の液面を含む平面よりも回転軸側(内周側)にあることが好ましい。第1回転速度でチップを回転させた際には、第1の貯液槽から送液された液体(試薬)は、第1の保持槽において遠心力と重力の合力に略垂直な液面を形成する。この際に、流路Bと第1の保持槽との接続部の少なくとも一部がこの液面よりも回転軸側に位置させることにより、第1回転速度における回転中に液体を第1の保持槽により確実に保持することができる。例えば図22に示すように、分析チップを第1の回転速度で回転させたとき、第1の保持槽3010−1内の液体3000L1の液面を含む平面3000P2よりも、流路3000B−1の第1の保持槽3010−1との接続部3000Q2が内周(回転軸)側(3000P2で隔てられる2つの空間のうち回転軸のある空間)に位置することにより、第1の保持槽3010−1に液体を他の槽に流出させることなく保持することができる。また、例えば図23に示すように、接続部3000Q2が平面3000P2よりも内周側であれば、第1の回転速度における回転時には第1の保持槽3010−1内に液体を、他の槽に流出させることなく保持することができる。
第1の保持槽3010−1と流路B3000B−1との接続部3000Q2は、第1の保持槽3010−1の下方(重力方向)に位置することが好ましい。これにより、第1の回転速度より低速の第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時に、第1の保持槽3010−1内で形成される液面を含む平面よりも下方に位置することとなり、第1の保持槽3010−1から流路B3000B−1を介して液体を完全に第2の保持槽3010−2に排出することが可能となる。
本発明の流路Bは、第2の回転速度における第1の保持槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも下方に位置することが好ましい。この場合、第1の保持槽内の液体を、分析チップを第2の回転速度において回転もしくは停止させた際に、第1の保持槽から第2の保持槽に、より確実に送液することができる。
前記流路Bは、少なくともその一部が前記第1の回転速度における前記第1の保持槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも、回転の内周側(回転軸に向かう方向)に延伸することが好ましい。これにより、第1の回転速度での回転時に第1の保持槽中の液体が第2の保持槽へ流出することを効果的に防止することができる。例えば図22および図23に示すように、第1の回転速度で分析チップを回転させているときには、第1の保持槽3010−1の液体(試薬)3000L1の液面を含む平面3000P2よりも流路3000B−1が回転の内周側(平面3000P2で隔てられる2つの空間のうち回転軸のある空間)に位置することにより、第1の保持槽3010−1に液体を保持することができる。
流路Bは、第2の回転速度における第1の保持槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも下方に位置することが好ましい。これにより、第2の回転速度において、第1の保持槽から第2の保持槽への送液を、滞留なく効率よく行うことができる。「試薬の液面を含む平面よりも下方に位置する」とは、例えば図24に示すように、第2の回転速度で分析チップを回転させているときあるいは回転を停止させているときには、第1の保持槽3010−1中の液体3000L1の液面を含む平面3000P3よりも流路3000B−1が下方の空間(3000P3で隔てられる2つの空間のうち重力方向の空間)に位置することを意味する。
流路Bを回転軸に対し角度をなす形状とする場合、通常は回転軸に対して内周方向(回転軸に向かう方向)または外周方向でかつ下方に0°から80°、好ましくは0°から60°、さらに好ましくは0°から45°の間で適宜設定することができる。この場合、第2の回転速度による回転時もしくは回転停止時に、第1の保持槽内の液体(試薬)をより効果的に第2の保持槽に送液することができる。更に好ましくは、回転軸に対して内周方向でかつ下方に1°から80°の間で設定することができる。流路Bを内周方向に延伸させることで、第2の保持槽を分析チップの内周側に位置させることが可能となり、分析チップのスペースを有効に活用することが可能となる。例えば図33に示すように、流路Bの回転軸に対する角度とは、流路3000B−1の延長線(流路3000B−1における液体の流れる方向の延長線)3000S1と回転軸とがなす角度3000s1を表す。
また流路Bは、第1の保持槽から下方内周側に向けて延伸し、途中から下方外周側に向けて屈曲していてもよい。これにより、分析チップの第2の回転速度による回転時または回転停止時に液体(試薬)が流路Bを通過する際に、流路Bの下部に液残りが生じても、次の第1の回転速度による回転時に、より確実に液体を下段の送液ユニットの第1の保持槽に送液することが可能になる。例えば多段送液部の一例である図14に示すように、流路3000B−1、流路3000B−2及び流路3000B−3は、それぞれ第1の保持槽3010−1、3020−1、3030−1との接続部においては回転軸内周側へ延伸しているが、それぞれ3000R1、3000R2および3000R3の位置で重力方向かつ外周側方向に方向転換させた構造とする。
図47に示される多段送液部においては、流路Bすなわち流路3000B−1、3000B−2、3000B−3は、対応する第1の保持槽3010−1、3020−1、3030−1との接続部から重力方向かつ内周側に延伸し、それぞれ屈曲部Rすなわち3000R1、3000R2、3000R3の位置において重力方向かつ外周側に折り返され、対応する第2の保持槽3010−2、3020−2、3030−2と接続されている。図47に示される多段送液部は、第1の保持槽、流路Bおよび第2の保持槽が連続的かつ一体的に構成されている。各送液ユニット(U−1、U−2、U−3)の第1の保持槽、流路Bおよび第2の保持槽は連続的に、この例では先端側の一部分が幅広とされ、上述の位置Rで屈曲させた略くの字状の形状として構成されている。
第1の保持槽3010−1には、重力方向に並列的に配列された2つの第1の貯液槽(3001−1a、3001−1b)が接続(連通)されている。第2の保持槽(3010−2、3020−2、3030−2)には第2の貯液槽(3010−3、3020−3、3030−3)がそれぞれ接続されている。第1の貯液槽(3001−1a、3001−1b)からは、また、第2の貯液槽(3010−3、3020−3、3030−3)からは、槽の外周側の上端部を接続部として、多段送液部を非傾斜としてみたときの重力方向に、一旦延伸し、途中で外周方向かつ重力方向とは逆方向に折り返されて第2の保持槽(3010−2、3020−2、3030−2)の内周側の下端部に接続される流路E(3000E−1、3000E−2、3000E−3)が延伸している。第2の保持槽(3010−2、3020−2)からは、外周方向かつ重力方向とは逆方向に延伸して、第1の保持槽(3020−1、3030−1)の内周側の上端部に接続される流路C(3000C−1、3000C−2)が延伸している。最終段の第2の保持槽(3030−2)には、外周方向かつ重力方向とは逆方向に延伸する流路3000C−3が接続されている。流路3000C−3の外周側の上端部には、外周方向かつ重力方向に一旦延伸し、途中で外周方向かつ力方向とは逆方向に折り返されて、多段送液部の外周側の外側面に開口する流路3000Dが接続されている。
図48および図49に示される多段送液部においては、流路3000B−1、3000B−2、3000B−3、3000B−4は、対応する第1の保持槽3010−1、3020−1、3030−1、3040−1との接続部から重力方向かつ内周側に延伸し、それぞれ3000R1、3000R2、3000R3、3000R4の位置において重力方向かつ外周側に折り返され、対応する第2の保持槽3010−2、3020−2、3030−2、3040−2と接続されている。すなわち、図48および図49に示される多段送液部は、第1の保持槽、流路Bおよび第2の保持槽が連続的かつ一体的に構成されている。各送液ユニット(U−1、U−2、U−3、U−4)の第1の保持槽、流路Bおよび第2の保持槽は連続的に、この例では逆Σ字状の形状として構成されている。
流路Bの形状やサイズは、流路Aと同様、流路全体が管形状であればよく、流路全体を通じて一定でなくともよい。また、流路Bは第1の保持槽と第2の保持槽とを直接連通する開口であってもよい。流路Bの横断面の形状は円、多角形等特に限定されない。流路Bの横断面のサイズについても、およそ一定であればよく、試薬が通過可能なサイズで適宜調整することができる。流路Bの断面積が、流路Aよりも大きいサイズであることにより、第1の保持槽内の液体(試薬)を第2の保持槽に円滑に送液することができるので、好ましい。例えば、流路Bの短径(円の場合は直径、多角形の場合は中心を通る最も短い径を意味するものとする。)は通常10μmから5mm、好ましくは100μmから3mmの範囲とすることができる。
流路Bは、第1の保持槽との接続部における流路断面積より小さな流路断面積となる部位を流路途中に有することが好ましい。これにより、重力に加えて毛細管現象を利用して送液することができるため、重力による検体・試薬の送液に必要な時間を短縮することができる。更に好ましくは、第1の保持槽との接続部における流路断面積より小さな流路断面積となる部位を有し、その下流に更に小さな流路断面積となる部位を流路途中に1つまたは複数有する。また、流路Bは、その全体または一部の流路断面積が下流に向かって連続的に小さくなっていてもよい。
また、流路Bの断面積は第2の保持槽に近づくほど小さくなっていれば、さらに好ましい。これにより、第2の回転速度での回転時または回転停止時に、重力によって液体(試薬)が第1の保持槽から第2の保持槽に送液される際に表面張力が作用し、さらに円滑に液体が第2の保持槽に向かって送液される。
本発明の分析チップ内に設けられた多段送液部における流路Bは、少なくともその内壁面の一部において親水的な表面を有することが好ましい。これにより、毛細管力を有効に利用できることから、重力による排出をさらに短時間で、確実に行うことができる。流路Bが角柱もしくは角錐状の形状の場合、好ましくは、流路Bを形成する2以上の内壁面、最も好ましくは流路Bを形成する全ての内壁面が親水的であることが好ましい。
本発明の各段の送液ユニットの流路Bは、分析チップに含まれる複数の流路Bと回転軸とがなす角度を同一にすることが好ましい。この場合、同一の第2の回転速度もしくは回転停止で重力方向の槽に送液することが可能となり、送液の制御をより容易に行うことが可能となる。すなわち、流路Bを複数設けた分析チップの場合には、通常、第1の回転速度による回転および第2の回転速度による回転からなるサイクルを数回以上行って分析チップ内を送液させるが、その場合に第2の回転速度をサイクルごとに変更することなく同一速度とすることが可能となる。
本発明において第2の保持槽には、流路Cが接続されている。流路Cは、第2の保持槽と前記下段の送液ユニットの第1の保持槽とを連通する流路である。これにより上段の送液ユニットと下段の送液ユニットとが、流路Cにより接続され、液体を次のユニットに流下、送液させることができる。すなわち、後述するように、流路Cによれば第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時には第2の保持槽から下段の送液ユニットの第1の保持槽には液体が送液されず、第2の回転速度よりも高速の第1の回転速度による回転時には、液体を、遠心力及び重力の作用により、第2の保持槽から下段の送液ユニットの第1の保持槽に送液することができる。
本発明における第2の保持槽は、第1の保持槽から流入した液体(試薬)を保持するだけでなく、前記第1の貯液槽と同様に、回転前に試薬が予め格納されていてもよい。第2の保持槽は、試薬を注入するための開口部を有するものであってもよい。第2の保持槽に予め液体を格納しておくことにより、第2の回転速度での回転時または回転停止により第1の保持槽から液体が流入する前に、予め格納していた液体を後述する流路Cを介して下段の送液ユニットの第1の保持槽に送液することができる。
第2の保持槽の容量については試薬を格納できるものであれば特に限定されないが、液体を0.001mlから10ml、中でも0.01mlから1mlを格納できるものが好ましい。また、貯液槽の形状も略球形、直方体、角錐、円錐等の任意好適な形状から適宜選択することができ、第1の回転速度において流路Cまたは流路Dを通じて該第2の保持槽に一時的に保持した液体を排出できる構造であればよい。
〔流路C〕
本発明における下段の送液ユニットの第1の保持槽は、分析チップの回転軸を基準として、前記第2の保持槽の外周側に位置する保持槽である。かかる第1の保持槽は、第1の回転速度の回転における遠心力の作用により、第2の保持槽から流路Cを通過して送液された試薬を、その内部に保持させることができる槽である。また、第1の回転速度での回転に次いで行われる、第1の回転速度よりも低速の第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時には、その内部に保持していた液体を排出させることができる。したがって、流路Aに代えて流路Cから試薬が送液される点を除いては、最上段の送液ユニットの第1の保持槽と共通である。また、流路Cは、第1の回転速度による回転中に、後述する第2の貯液槽から流路Eを通じて流入した検体・試薬を保持できる槽として設けられてもよい。
図12に示すように、流路C(3000C−1,3000C−2)は、一端側が第2の保持槽(3010−2,3020−2)の外周側の下方部分を開口させて接続され、かつ他端側が一段下段の第1の保持槽(3020−1,3030−1)の回転軸側の上方部分を開口させて接続されている。
本発明における流路Cは、上段の送液ユニットと下段の送液ユニットとの間に位置する。流路Cは、分析チップの第1の回転速度での回転において、遠心力及び重力の作用により、上段の送液ユニットの第2の保持槽内の試薬を、下段の送液ユニットの第1の保持槽に送液するための流路である。これにより、第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時に、上段の送液ユニットの第2の保持槽に保持された液体(試薬)を、第1の回転速度での回転において下段の送液ユニットの第1の保持槽に送液することが可能となり、回転数制御により液体を順次送液する制御が可能となる。
流路Cは、少なくともその一部が、第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時における第2の保持槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも回転の内周側もしくは上方に位置することが好ましい。この場合、第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時に、第1の保持槽から第2の保持槽に流入した液体(試薬)を、下段の送液ユニットの第1の保持槽に流入させることなく、より確実に第2の保持槽に留めておくことが可能となる。
流路Cのうち少なくとも一部は、分析チップの第2の回転速度による回転時もしくは回転停止時に形成される第2の保持槽内の「試薬の液面を含む平面」より上方に位置する領域内に位置することが好ましい。第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時に、第1の保持槽から、第2の保持槽に試薬が流入するが、上記のようにすることで、第2の保持槽内に液体(検試薬)を確実に留めることができる。
例えば図25を例にとって説明する。第2の回転速度で分析チップを回転させているときまたは回転停止時には、第2の保持槽内3010−2の液体3000L1は、液面を含む平面3000P4を形成する。流路3000C−1は、その一部が、この平面3000P4よりも上方の空間(3000P4で隔てられる2つの空間のうち重力方向とは反対側の空間)に位置する領域を有し、加えて、該領域に次の送液ユニットの第1の保持槽3020−1との接続部3000Q3を有する。これにより、第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時に第2の保持槽3010−2に流入した液体は、流路3000C−1の途中まで流入することはあっても次の送液ユニットの第1の保持槽3020−1まで流入することはない。
流路Cは、少なくともその一部が、第1の回転速度における第2の保持槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも、外周側に位置することが好ましい。この場合、第1の回転速度において、第2の保持槽内の液体(試薬)を、下段の送液ユニットの第1の保持槽に、より効率的に送液することが可能となる。すなわち、「試薬の液面を含む平面」より外周側に位置し続ける間、第2の保持槽から下段の送液ユニットの第1の保持槽に液体が流入し続ける。なお、流路Cの全てが第1の回転速度における第2の保持槽内の「液体の液面を含む平面」よりも、外周側に位置する必要はなく、流路Cの外周側の壁が「液体の液面を含む平面」よりも、外周側に位置していればよい。
分析チップを第1の回転速度で回転させた場合の第2の保持槽からの液体の移動プロセスは下記の通りである。まず、本発明の分析チップを回転させ始めた時点で第2の保持槽内の「液体の液面を含む平面」が、水平面と比較して傾く。第1の回転速度に達した時点、すなわち、流路Cが第2の保持槽内の「液体の液面を含む平面」よりも外周側となる時点で、第2の保持槽から次の送液ユニットの第1の保持槽内に、遠心力および重力の作用により液体が流入し始め、以降、第2の保持槽内の「液体の液面を含む平面」が流路Cの少なくとも一部よりも内周側に位置し続ける間は、第2の保持槽から次段の送液ユニットの第1の保持槽に液体が流入し続ける。
従って、本発明の分析チップの流路Cの少なくとも一部が、第1の回転速度における第2の保持槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも外周側に位置する場合には、第2の保持槽中の液体の全量を、流路Cを介して下段の送液ユニットの第1の保持槽に移動させることができる。例えば図26に示すように、第1の回転速度で分析チップを回転させているときには、第2の保持槽3010−2の液体3000L1の液面を含む平面3000P4は分析チップを主面から見ると右上がりの斜線を描くが、流路3000C−1が平面3000P4よりも外周側(平面3000P4を隔てて回転軸のある側とは反対側の空間)に位置するので、第1の回転速度による回転時に第2の保持槽が空になるまで液体を流出させることができる。
本発明において、流路Cと分析チップの回転軸とがなす角度が、流路Bと分析チップの回転軸とがなす角度よりも小さいことが好ましい。これにより、第2の回転速度による回転時もしくは回転停止時に流路Bを液体が通過するときに、流路Bの先の第2の保持槽から先に、液体が流出してしまうことをより確実に防ぐことが可能となる。すなわち、流路Bよりも流路Cのほうが垂直に近い、つまり流路Bと回転軸とがなす角度よりも、流路Cと回転軸とがなす角度のほうを小さくすることで、第2の保持槽内に液体をより確実に留めることが可能となる。
なお、3段以上の送液ユニットを有する分析チップの場合、流路Cが複数存在することになるが、各流路Cと回転軸とがなす角度を同一にすることが好ましい。流路Cを複数設けた分析チップの場合には、通常、第1の回転速度による回転および第2の回転速度による回転からなるサイクルを数回以上行って分析チップ内を送液させるが、その場合に第1の回転速度をサイクルごとに変更することなく同一速度とすることが可能となる。
本発明における流路Cと回転軸とがなす角度は、少なくともその一部が回転軸に対し外周方向かつ上方に角度をなす形状であることが好ましい。流路Cと回転軸とがなす角度は、2つの送液ユニット間の距離を小さくし、無駄なスペースなく送液ユニットを配置できることから、小さいことが好ましい。その角度は、通常は0°から80°、好ましくは1°から45°さらに好ましくは3°から15°の間で適宜設定することができる。この時、流路Cと回転軸とがなす角度は、流路Bと回転軸とがなす角度よりも小さくすることが好ましい。上述したように第2回転速度での回転時もしくは回転停止時には流路Bを液体が通過する。この際、上記のように流路Cの方が流路Bよりも垂直に近い角度となるよう調整することにより、第2の保持槽からの試薬の流出を効果的に防ぐことができる。すなわち、このように調整することにより、本発明の分析チップを第1の回転速度による回転と第2の回転速度による回転を交互に繰り返すことにより、槽間を順次送液することができる。
「流路Bと分析チップの回転軸とがなす角度」、「流路Cと分析チップの回転軸とがなす角度」は、それぞれの流路の延長線と回転軸との交差部分の角度を意味する。例えば図27に示すように「流路Bと分析チップの回転軸とがなす角度」は流路3000B−1の延長線(流路Bにおける液体(試薬)の流れる方向の延長線)3000S1と回転軸とがなす角度3000s1、「流路Cと分析チップの回転軸とがなす角度」は流路3000C−1の延長線(流路Cにおける液体の流れる方向の延長線)3000S2と回転軸とがなす角度3000s2で示される。この例の場合角度3000s1が角度3000s2よりも大きい(3000s1>3000s2)ことを示す。なお、流路Cが屈曲している場合、回転軸と流路Cとがなす角度は次のように定義できる。第2の保持槽と流路Cとの接続部と、流路Cの途中で最も上方に位置する点とを結んだ線を延長し、回転軸と延長線とがなす角度と定義できる。
流路Bと分析チップの回転軸とがなす角度と流路Cと分析チップの回転軸とがなす角度との差は、通常は0.5°から45°、好ましくは1°から20°の間で適宜設定することができる。
多段送液部を3つ以上の送液ユニットから構成する場合には、流路Cも複数存在することとなる。この場合に複数設けた流路Cは、少なくとも各流路の一部が互いに平行であることが好ましい。この場合、複数設けた第2の保持槽から下段の送液ユニットの第1の保持槽に送液するための第1の回転速度を同じ回転速度とすることができる。
流路Cは、該流路Cと第2の保持槽との接続部を通り、かつ第1の回転速度における遠心力と重力の合力に垂直な面より外周側に位置していることが好ましい。これにより、第2の保持槽に導入した液体を、分析チップを第1の回転速度において回転させた際に、下段の送液ユニットの第1の保持槽に送液することができる。例えば図29に示すように、分析チップを第1の回転速度で回転させたとき、第2の保持槽3010−2内の液体3000L1の液面を含む平面3000P5は、分析チップを主面から見ると右上がりの斜線を描くが、流路3000C−1が液面3000P5よりも外周側(液面3000P5で隔てられる2つの空間のうち回転軸のある空間とは反対側の空間)に位置する場合には、第2の保持槽3010−2が空になるまで液体を流出させることができる。
「流路Cと第2の保持槽との接続部を通り、かつ第1の回転速度における遠心力と重力の合力に垂直な面」とは、本発明の分析チップを第1の回転速度で回転させた際に、分析チップの流路Cと第2の保持槽との接続部に働く遠心力と重力の合力に対し垂直な角度をなし、かつ、前記接続部と交差する面を意味する。例えば、図28に示すように、分析チップに働く遠心力と、重力の方向及び大きさを矢印で示した場合に、遠心力と重力の合力は外周側を向く太線の矢印で示す方向及び大きさで表される。「流路Cと第2の保持槽との接続部を通り、かつ第1の回転速度における遠心力と重力の合力に垂直な面」とは、前記合力を示す太線矢印に対し垂直な矢印(図28中の太線の矢印)を通る面を基準として、流路3000C−1が回転軸の存在する空間(内周側)とは反対側の空間(外周側)に位置することを意味する。
本発明における流路Cと下段の送液ユニットの第1の保持槽との接続部は、第1の回転速度における下段の送液ユニットの第1の保持槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも、分析チップの回転軸を基準として、内周側に位置することが好ましい。これにより、第1の回転速度での回転中に下段の送液ユニットの第1の保持槽から第2の保持槽など下流への流出をより効果的に防止することが可能となる。
流路Cの形状やサイズは、流路全体が管形状であればよく、流路全体を通じて一定でなくともよい。また、流路Cは第2の保持槽と下段の送液ユニットの第1の保持槽とを連通する開口であってもよい。流路Cの横断面の形状は円、多角形等特に限定されない。流路Cの横断面のサイズについても、およそ一定であればよく、試薬が通過可能なサイズで適宜調整することができる。例えば、流路Cの短径(円の場合は直径、多角形の場合は中心を通る最も短い径を意味するものとする。)は通常10μmから5mm、好ましくは500μmから3mmの範囲とすることができる。流路Cの短径が小さい場合、第1の回転速度における第2の保持槽から下段の送液ユニットの第1の保持槽への液体(試薬)の送液に必要な時間は長くなり、短径が大きい場合、必要な時間は短くなる。
また、流路Cは、第2の保持槽と下段の送液ユニットの第1の保持槽とを連通していれば、必ずしも全部が直線状でなくともよい。流路Cは、その一部または全部が曲線や凹凸を描いていてもよい。流路Cの延在形状は、直線と曲線とが混在していてもよいし、途中で屈曲していてもよい。
また、流路Cと第2の保持槽が、一体となっていてもよい。図14に示すように、第2の保持槽と下段の送液ユニットの第1の保持槽が直接連通していてもよく、この時、第2の保持槽3010−2、3020−2の外周側の内壁部位3000C−11、3000C−21を流路Cと見なすことができる。すなわち、第2の保持槽の外周側の壁3000C−11、3000C−21と回転軸とがなす角度は、通常は0°から80°、好ましくは1°から45°、より好ましくは3°から15°の間で適宜設定することができる。この時、第2の保持槽の外周側の内壁部3000C−11、3000C−21、3000D−11と分析チップの回転軸とがなす角度は、流路Bと分析チップの回転軸とがなす角度よりも小さくすることが好ましい。
〔流路D〕
多段送液部は、多段送液部から反応室ユニットに連通し、好ましくは最下段の送液ユニットの第2の保持槽から外周方向に延伸する流路Dを有する。これにより、多段送液部に導入された試薬が、回転により各槽を順次送液された結果物(通常は液体)を、この流路D(3000D)を介して、多段送液部における最終槽外に取り出し、前述の反応室ユニットに送液することが出来る。例えば図12に示すように、流路Dは一端側が最下段の第2の貯液槽の外周側の下方部分を開口させて接続させ、さらに他端側が外周方向かつ上方方向に延在している。
多段送液部において流路Dの構造は、第2の回転速度による回転時もしくは回転停止時には流路Dの接続する第2の保持槽に液体が保持されるような構造であることが好ましい。また、第2の回転速度よりも高速の第1の回転速度による回転時には遠心力の作用により前記第2の保持槽中の液体が流路Dを介して下流に送液される構造であることが好ましい。この場合、第2の回転速度による回転時もしくは回転停止時に、第2の保持槽に保持された液体を、回転数を上げることで下流に送液することが可能となり、液体を順次送液する制御が可能となる。
流路Dは、少なくともその一部に、第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時における第2の保持槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも内周側もしくは上方に位置する領域を含むことが好ましい。この場合、第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時に、第1の保持槽から第2の保持槽に流入した液体を、前記反応室ユニットに流入させることなく、より確実に第2の保持槽に留めておくことが可能となる。例えば図30に示すように、第2の回転速度での回転時もしくは回転停止時において、流路Dの後半領域は、第2の保持槽3030−2の液面P6よりも上方に位置する。
流路Dは、第1の回転速度における、流路Dが接続する第2の保持槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも、外周側に位置することが好ましい。この場合、第1の回転速度において、第2の保持槽内の液体(試薬)を、前記反応室ユニットに、より効率的に送液することが可能となる。流路Dの全てが第1の回転速度における第2の保持槽内の「液体の液面を含む平面」よりも、外周側に位置する必要はなく、少なくとも流路Dの外周側の壁が外周側に位置していればよい。なお、流路Cの全てが第1の回転速度における第2の保持槽内の「液体の液面を含む平面」よりも、外周側に位置する必要はなく、流路Cの外周側の壁が「液体の液面を含む平面」よりも、外周側に位置していればよい。
流路Dは、第1の回転速度における遠心力と重力の合力に垂直な面より外周側に位置していることが好ましい。これにより、第2の保持槽に導入した液体(試薬)を、分析チップを第1の回転速度で回転させた際に、前記反応室ユニットに、より効率的に送液することが可能となる。遠心力と重力の合力に垂直な面、該面より外周側の定義については、流路A、流路Cで説明した通りである。
本発明の流路Dは、その流路の少なくとも一部が、上段の送液ユニットの流路Aの少なくとも一部と、平行であることが好ましい。この場合、第1の貯液槽から第1の保持槽に送液するための第1の回転速度と、第2の保持槽から反応室ユニットの試薬・検体受けもしくは反応室に送液するための第1の回転速度とを同じ回転速度とすることができる。さらに、予め第1の貯液槽と、第2の保持槽とに液体(試薬)を導入した時、同じ第1の回転速度による回転を行うことにより、それらの液体を次の槽に同時に送液することが可能となる。
流路Dの第2の保持槽との接続端の反対側の端部は、例えば図15に示すように反応室ユニット1000Iと接続している。
本発明において、流路Bと分析チップの回転軸とがなす角度が、流路Dと分析チップの回転軸とがなす角度よりも大きいことが好ましい。これにより、第2回転速度での回転時もしくは回転停止時に流路Bを液体が通過するときに、流路Bの先の第2の保持槽からその先に、液体が流出してしまうことをより確実に防ぐことが可能となる。すなわち、流路Bよりも流路Dが垂直に近い、つまり流路Bと回転軸とがなす角度よりも、流路Dと回転軸とがなす角度のほうを小さくすることで、第2の保持槽内に液をより確実に留めることが可能となる。
本発明における流路Dは、少なくともその一部が回転軸に対し外周側上方に角度をなす形状であることが好ましく、中でも、0°から80°の角度をなすことが好ましい。さらに好ましい角度としては1°から45°、より好ましくは3°から15°の間で適宜設定することができる。流路Dの回転軸に対する角度については、他の流路について既に説明したのと同様であるので、説明を省略する。
流路Dの形状やサイズは、流路全体が管形状であればよく、流路全体を通じて一定でなくともよい。また、流路Dは第2の保持槽と反応室ユニットとを直接連通する開口であってもよい。横断面の形状は円、多角形等特に限定されない。流路Dの横断面のサイズについても、およそ一定であればよく、試薬が通過可能なサイズで適宜調整することができる。例えば、流路Dの短径(円の場合は直径、多角形の場合は中心を通る最も短い径を意味するものとする。)は通常10μmから5mm、好ましくは100μmから3mmの範囲とすることができる。流路Dの短径が小さい場合、第1の回転速度における第2の保持槽から前記反応室ユニットへの液体(試薬)の送液に必要な時間は長くなり、短径が大きい場合、必要な時間は短くなる。
また、流路Dは、第2の保持槽に接続されていれば、必ずしも全部が直線状でなくともよい。流路Dは、その一部または全部が曲線や凹凸を描いていてもよい。流路Dの延在形状は、直線と曲線とが混在していてもよいし、途中で屈曲していてもよい。
本発明における流路A、流路B、下段の送液ユニットの、流路B、流路C、流路Dは、貯液槽と保持槽、保持槽と保持槽との間を連通する管状構造であってもよいし、貯液槽と保持槽、保持槽と保持槽とを直接的に連通する開口構造であってもよい。
また、流路Dと最下段の送液ユニットの第2の保持槽が、一体となっていてもよい。また、この場合に最下段の送液ユニットの第2の保持槽と前記反応室ユニットとが直接連通していてもよい。この時、第2の保持槽の外周側の壁に沿った部位を流路Dと見なすことができる。具体的には例えば図14に示すように第2の保持槽3030−2の外周側の内壁部位3000D−11を流路Dと見なすことができる。第2の保持槽の外周側の壁と回転軸とがなす角度は、通常は0°から80°、好ましくは1°から45°、より好ましくは3°から15°の間で適宜設定することができる。この時、第2の保持槽の外周側の壁と分析チップの回転軸とがなす角度は、流路Bと分析チップの回転軸とがなす角度よりも小さくすることが好ましい。
多段送液部中に含まれる流路A、流路C、流路Dは、各流路と回転軸とがなす角度を同一にすることが好ましい。この場合、同一の第1の回転速度で下流の槽に送液することが可能となり、送液の制御をより容易に行うことが可能となる。すなわち、送液ユニットを複数設けた分析チップの場合には、通常、第1の回転速度による回転および第2の回転速度による回転からなるサイクルを数回以上行って分析チップ内を送液させるが、その場合に第1の回転速度をサイクルごとに変更することなく同一速度とすることが可能となる。
多段送液部においては、前記したような送液ユニットを2以上有していればよく、送液ユニットの数は特に限定されない。
送液ユニットの数を増やすほど、最終段に至るまでの送液ステップを遅らせることができる。加えて、順次送液できる試薬の種類を増やすことも可能となる。このように複数の送液ユニットを用いるとき、第1の回転速度での回転と第2の回転速度での回転(もしくは回転停止)を繰り返すことにより、複数種類の試薬を順次送液することが可能となる。
多段送液部は、複数の送液ユニットのうちの少なくとも1つの送液ユニットにおいて、第2の貯液槽と流路Eとを有するものであってもよい。これにより、第1の回転速度において前記送液ユニットの各段に液体(試薬)を注入し、第1の保持槽に保持させることができる。これにより、複数種の液体をシーケンシャルに送液することができる。
〔第2の貯液槽〕
第2の貯液槽を、回転軸を基準として、第1の貯液槽または第2の保持槽の内周側に配置して設けてもよい。例えば図15に示すように、第2の貯液槽3010−3、3020−3,3030−3は、それぞれ第2の保持槽3010−2,3020−2,3030−2の内周側(回転軸側)に配置される。第2の貯液槽は、通常予め試薬が格納されるので、試薬を注入するための開口部を有するものであってもよい。また、本発明における分析チップが、試薬リザーバユニットを有する場合には、第2の貯液槽は試薬リザーバユニットの試薬貯液槽の一つとして設けることができる。第2の貯液槽の容量については試薬を格納できるものであれば特に限定されないが、液体を0.001mlから10ml、中でも0.01mlから1mlを格納できるものが好ましい。また、第2の貯液槽の形状は特に限定するものではなく、略球形、円柱、直方体、角錐、円錐等の任意好適な形状から適宜選択することができる。
〔流路E〕
図15、図31、図37に示すように、流路Eは、第2の貯液槽と、第1の貯液槽、第2の保持槽もしくは第1の保持槽とを連通する流路である。流路Eは、一端側が第2の貯液槽の外周側と接続され、かつ他端側が第2の保持槽、第1の貯液槽または第1の保持槽の回転軸側と接続されている。この流路Eは、第1の回転速度による回転時に、遠心力及び重力の作用により、液体を第2の貯液槽から第2の保持槽、第1の貯液槽または第1の保持槽に送液する流路である。
図15に示すように、流路3000E−1は、第2の貯液槽3010−3と第2の保持槽3010−2とを連通している。流路3000E−2は、第2の貯液槽3020−3と第2の保持槽3020−2とを連通している。流路3000E−3は、第2の貯液槽3030−3と第2の保持槽3030−2との間を連通している。同様に、図31の左側の図に示すように、流路3000E−1は、第2の貯液槽3010−3と第2の保持槽3010−2とを連通している。流路3000E−2は、第2の貯液槽3020−3と第2の保持槽3020−2とを連通している。流路3000E−3は、第2の貯液槽3030−3と第2の保持槽3030−2との間を連通している。
図37に示すように、流路3000E−0は、試薬リザーバユニットをチップ本体に装着した状態において、試薬リザーバユニットの第2の貯液槽3001−2−1及び3001−2−2と、チップ本体の第1の貯液槽3001−1とを連通している。流路3000E−1は、試薬リザーバユニットの第2の貯液槽3010−3と、チップ本体の第2の保持槽3010−2とを連通している。流路3000E−2は、試薬リザーバユニットの第2の貯液槽3020−3と、チップ本体の第2の保持槽3020−2とを連通している。流路3000E−3は、試薬リザーバユニットの第2の貯液槽3030−3と、チップ本体の第2の保持槽3030−2との間を連通している。
本発明における流路Eは、少なくともその一部が回転軸に対して外周側上方に0°から90°、外周側下方(外周側方向かつ重力方向)に0°から90°の角度をなすことが好ましい。さらに好ましくは外周側上方(外周側方向かつ重力方向とは逆方向)に1°から90°、より好ましくは1°から45°、さらに好ましくは1°から15°の間で適宜設定することができる。
流路Eの形状やサイズは、流路全体が管形状であればよく、流路全体を通じて一定でなくともよい。また、流路Eは第2の貯液槽と第2の保持槽、第1の貯液槽または第1の保持槽とを直接連通する開口であってもよい。流路Eの横断面の形状は円、多角形等特に限定されない。流路Eの横断面のサイズについても、およそ一定であればよく、試薬が通過可能なサイズで適宜調整することができる。例えば、流路Eの短径(円の場合は直径、多角形の場合は中心を通る最も短い径を意味するものとする。)は通常10μmから5mm、好ましくは100μmから1mmの範囲とすることができる。流路Eの短径が小さい場合、第1の回転速度における第2の貯液槽から第2の保持槽、第1の貯液槽または第1の保持槽への液体の送液に必要な時間は圧力損失により長くなり、短径が大きい場合、必要な時間は短くなる。
また、流路Eは第2の貯液槽と第1の貯液槽または第2の保持槽、第1の貯液槽または第1の保持槽とを連通していれば、必ずしも全部が直線でなくともよい。流路Eは、その一部または全部が曲線や凹凸を描いていてもよい。流路Eの延在形状は、直線と曲線とが混在していてもよいし、途中で屈曲していてもよい。
流路Eは、該流路Eと前記第2の貯液槽との接続部を通り、第1の回転速度における遠心力と重力の合力に垂直な面より外周側に位置していることが好ましい。これにより、第2の貯液槽に導入した液体(試薬)を、分析チップを第1の回転速度において回転させた際に、第2の貯液槽から第1の貯液槽または第2の保持槽、第1の貯液槽または第1の保持槽に液体を送液することができ、その液体は遠心力又は重力により次の槽もしくは反応室に送液される。上記遠心力と重力の合力に垂直な面、該面より外周側の定義については、流路A、流路Cで説明した通りである。
流路Eは、少なくともその一部が、第1の回転速度における第1の貯液槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも、外周側に位置することが好ましい。これにより、第2の貯液槽に導入された液体(試薬)を、分析チップを第1の回転速度において回転させた際に、第2の保持槽、第1の貯液槽または第1の保持槽に、より確実に送液することができる。流路Eの全てが第1の回転速度における第2の貯液槽内の「液体の液面を含む平面」よりも、外周側に位置する必要はなく、流路Eの外周側の壁が「液体の液面を含む平面」よりも、外周側に位置していればよい。
「第1の回転速度における第2の貯液槽内の液体の液面」とは、流路Aに関連して第1の貯液槽に関し説明したのと同様であり、液体が導入された第2の貯液槽を有する分析チップを、第1の回転速度で回転させたときの、第2の貯液槽内で液体が形成する液面を含む液面を意味する。
分析チップを第1の回転速度で回転させた場合の第2の貯液槽からの液体の移動プロセスは下記の通りである。まず、本発明の分析チップを回転させ始めた時点で第2の貯液槽内の「液体の液面を含む平面」が水平面に比較して傾く。第1の回転速度に達した時点、すなわち、流路Eが第2の貯液槽内の「液体の液面を含む平面」よりも外周側となる時点で、第2の貯液槽から第1の貯液槽または第2の保持槽内、第1の貯液槽内または第1の保持槽内に、遠心力および重力の作用により液体が流入し始め、以降、第2の貯液槽内の「液体の液面を含む平面」が流路Eの少なくとも一部よりも内周側に位置し続ける間は、第2の貯液槽から第1の貯液槽または第2の保持槽、第1の貯液槽内または第1の保持槽内に液体が流入し続ける。
従って、本発明の分析チップの流路Eの少なくとも一部が、第1の回転速度における第2の貯液槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも外周側に位置する場合には、第2の貯液槽中の液体の全量を、流路Eを介して第2の保持槽、第1の貯液槽または第1の保持槽に移動させることができる。例えば図31に示すように、分析チップの回転速度が第1の回転速度に達したときには、第2の貯液槽3010−3、3020−3、3030−3の液体3000L1,3000L2,3000L3の液面を含む平面3000P7,3000P8,3000P9は分析チップを主面から見ると右上がりの斜線を描くが、流路Eが前記平面よりも外周側(3000P7,3000P8,3000P9を隔てて回転軸のある側とは反対側)に位置する場合には、第2の貯液槽が空になるまで液体を流出させることができる。
また、流路Eと第2の貯液槽との接続部は、前記第1の回転速度における第2の貯液槽内の「試薬の液面を含む平面」よりも、回転の外周側に位置することが好ましい。これにより、第1の回転速度での回転において第2の貯液槽内の液体を、第2の貯液槽への逆流をより効果的に防止しながら、第1の貯液槽または第2の保持槽、第1の貯液槽または第1の保持槽に確実に送液することができ、さらに流路Dへの送液や、流路Aまたは流路Cを介して第1の保持槽への送液が可能である。例えば図31に示すように、第2の貯液槽3010−3、3020−3の流路3000E−1,3000E−2との接続部3000Q4、3000Q5が平面3000P7、3000P8よりも回転の外周側(平面3000P7、3000P8を隔てて回転軸のある側とは反対側)に位置することにより、第2の貯液槽内の液体を滞留なく第2の保持槽および流路3000C−1、3000C−2を通過して、次の段の送液ユニットの第1の保持槽3020−1、3030−1へ送液することができる(図31の右側)。また、第2の貯液槽3030−3の流路3000E−3との接続部3000Q6が平面3000P9よりも回転の外周側(平面3000P9を隔てて回転軸のある側とは反対側)に位置することにより第2の貯液槽内の液体を滞留なく流路3000Dに送液することができる。なお、第1の貯液槽3020−1、3030−1へ送られた液は、第2の回転速度による回転時もしくは回転停止時に、流路3000B−2、3000B−3を通って重力方向にある第2の保持槽3020−2、3030−2へ移動する(図示せず)。
また、流路Eは、その第2の保持槽もしくは第1の保持槽との接続部が、第1の回転速度における第1の貯液槽または第2の保持槽内もしくは第1の保持槽内での液体の液面を含む平面よりも回転軸側(内周側)にあることが好ましい。第1の回転速度で分析チップを回転させた際には、第2の貯液槽から送液された液体は、第1の保持槽または第2の保持槽または第1の貯液槽において遠心力と重力の合力方向に略垂直な液面を形成するが、流路Eと第1の保持槽または第2の保持槽との接続部がこの液面を含む平面よりも回転軸側にあることにより、第1の回転速度における回転中液体を第2の保持槽、第1の貯液槽または第1の保持槽により確実に保持し、第2の貯液槽への逆流をより効果的に防止することができる。例えば図31に示すように、流路3000E−1,3000E−2,3000E−3と第2の保持槽3010−2、3020−2、3030−2の接続部3000Q7,3000Q8,3000Q9が平面3000P7,3000P8,3000P9よりも回転の内周側に位置するようにすればよい。
図48および図49に示される分析チップにおいては、第2の貯液槽3010−3が、流路3000E−2を介して第2段目の送液ユニットの第1の保持槽3020−1(U−2)に接続されている。また、第2の貯液槽3040−3が、流路3000E−4を介して第4段目の送液ユニットの第2の保持槽3040−2(U−4)に接続されている。
多段送液部においては、保持槽の少なくとも一つに、異なる試薬が流入し、該保持槽内部で混合する構造であってよい。この場合、複数の試薬を、保持槽内部で混合することが可能となり、混合後は不安定な試薬などを異なる保持槽に保持しておき、回転により保持槽内で混合することも可能となる。
多段送液部の各槽を複数、共通の流路や槽に連結して用いてもよい。この時、一つの槽が一つの試薬を予め貯液するもであったとしても、別の槽から異なる試薬を共通の流路や槽に順次流入させることも可能となる。当然、それぞれの分析チップが複数の試薬を収容している場合、共通の流路や槽に順次流入させることができる試薬の種類を増やすことも可能である。
〔流路群の層構造について〕
本発明において、多段送液部の流路および槽は、分析チップの主面を基準にしてソリッドな厚み方向に(第1主面と第2主面の間に)2以上の流路群(流路および槽からなる群(グループ))を形成するものであってもよい。これにより、分析チップの空間を有効活用できるとともに、流路や槽のサイズ、及び形状の自由度を高めうる。2以上の流路群は、少なくともその一部が、例えば2つの主面(第1主面、第2主面)寄りに、好ましくは互いに対向する2つの主面寄りに、互いに離間して設けられて層状の構成をとるものとしてもよい。
また、分析チップが2つの主面(第1主面、第2主面)を有する場合に、不溶性成分分離部を、いずれかの主面寄りに、好ましくは不溶性成分分離部が配置される主面寄りではなくもう一方の主面寄りに、不溶性成分分離部とは互いに離間して設けられるものであってもよい。この場合の構成例については、図50−1、図50−2、図50−3、図50−4、図51−1および図51−2に示すとおりである。
〔検体・試薬の格納〕
本発明の分析チップにおける多段送液部は、回転装置に装着する際に、貯液槽や保持槽に試薬が必ずしも格納されている必要はないが、通常、分析チップを回転させる前にはいずれかの槽に所定の試薬が格納される。所定の検体・試薬を、回転装置に装着する前に、分析チップに予め格納(貯液)しておくことで、分析チップを回転装置に装着した状態で、外部から試薬を注入する操作を省略することができる。
特に、貯液槽および第2の保持槽の少なくとも2つに、異なる試薬が予め貯液されていることが望ましい。この場合、異なる試薬を、回転により順次送液することが可能となる。更に好ましくは、第1の貯液槽、第2の貯液槽、複数配置された下段の送液ユニットの第2の保持槽から選ばれる少なくとも2つの槽に、異なる試薬が予め貯液されている。
また、多段送液部に含まれる保持槽の少なくとも一つは、当該保持槽よりも上段の貯液槽および/または保持槽と複数の流路を介して接続し、前記保持槽内部にそれぞれの槽より流入した異なる試薬を内部で混合可能な槽であることが好ましい。これにより、複数の試薬を同時に混合することができる。
ここで「当該保持槽よりも上段の」とは、分析チップの回転時に分析チップの主面を正面方向から見た場合に、当該保持槽と略水平または上方に位置することを意味する。よって、対象の貯液槽・保持槽は、当該保持槽と同じ送液ユニットを構成する槽であってもよいし、異なる槽を構成するものであってもよい。
「上段の貯液槽および/または保持槽と複数の流路を介して接続」の態様としては、下記のような態様が挙げられる。まず「当該保持槽」が第1の保持槽の場合には、上述のように少なくとも1つの第1の貯液槽と接続することが必要であるが、2以上の第1の貯液槽を設けてこれと複数の流路を介して接続する場合には、「上段の貯液槽および/または保持槽と複数の流路を介して接続」することになる。また、第1の貯液槽のほかに、上段の送液ユニットの貯液槽や保持槽、及び必要に応じて設けられる第2の貯液槽から選ばれる貯液槽、保持槽と流路を介して接続する場合にも、「上段の貯液槽および/または保持槽と複数の流路を介して接続」することになる。一例を挙げると、図34に示すように2つの第1の貯液槽3001−1a、3001−1bを流路3000A−1a、3000A−1bを介して第1の保持槽3010−1に接続させることができる。これにより2つの第1の貯液槽内の試薬を、第1の保持槽内で同時に混合することができる。
一方、「当該保持槽」が第2の保持層の場合には、上述のように少なくとも1つの第1の保持槽と接続することが必要であるが、2以上の第1の保持槽を設けてこれらと複数の流路を介して接続する場合には、「上段の貯液槽および/または保持槽と複数の流路を介して接続」することになる。また、第1の保持槽のほかに、第1の貯液槽、第2の貯液槽、および、同じ送液ユニット内の第1の保持槽、ならびに上段の送液ユニットの保持槽、及び必要に応じて設けられる第2の貯液槽の中から選ばれる2以上の貯液槽、保持槽と接続する場合には、「上段の貯液槽および/または保持槽と複数の流路を介して接続」することになる。一例を挙げると、図35に示すように2つの第1の保持槽3010−1c、3010−1dを流路3000B−1c、3000B−1dを介して第2の保持槽3010−2に接続させることができる。第1の保持槽3010−1c、3010−1dはそれぞれ第1の貯液槽3001−1c、3001−1dと流路3000A−1c、3000A−1dを介して接続されている。この例では、2つの第1の貯液槽内の試薬を、いったん第1の保持槽で別々に攪拌したものを、第2の保持槽で混合することができる。
本発明における試薬については先に述べたとおりであるが、標識抗体、洗浄液、基質、過酸化水素水、および希釈液から選ばれる少なくとも一つの試薬を含むことが望ましい。この場合、一般的に抗原抗体反応に用いられ、順次反応させる必要がある試薬を、本発明の分析チップを用いて、順次送液し、反応させることが可能となる。
また、本発明における試薬は、酵素、核酸などであってもよく、複数の試薬を連続的もしくは予め混合して、反応室に送液し、核酸の増幅や検出を行うこともできる。
また、第1の貯液槽、第2の貯液槽、第1の保持槽、第2の保持槽のうちの少なくとも一つは、圧抜き用の空気流路または通気穴を備えることが好ましい。貯液槽中の空気圧は、試薬を格納すると変動し、場合によっては分析チップの送液効率の低下、分析チップの破損につながるおそれがあるが、空気流路または通気穴を備えることにより貯液槽内の空気圧を一定に保ち、このような危険をなくすことができる。また、第1の貯液槽、第1の保持槽、第2の保持槽に、空気流路を介して試薬を導入することも可能となる。
空気流路の位置や角度については特に限定はないが、送液時に試薬が流入することを防止するため、各貯液槽から回転軸方向(内周側)に延伸し分析チップ外に開口していることが好ましい。
空気流路の形状やサイズは、流路全体が管形状であればよく、流路全体を通じて一定でなくともよい。空気流路の横断面の形状は円、多角形等特に限定されない。空気流路の横断面のサイズについても、およそ一定であればよく、試薬が通過可能なサイズで適宜調整することができる。例えば、空気流路の短径(円の場合は直径、多角形の場合は中心を通る最も短い径を意味するものとする。)は通常0.1mmから5.0mm、好ましくは0.5mmから2.0mmの範囲とすることができる。
〔多段送液部の構成例〕
以下、本発明における分析チップに設けられる多段送液部の具体例および使用例につき、図面を参照して説明する。
図12に示すように、多段送液部は、第1段目の送液ユニットU−1、下段の送液ユニット(第2段目の送液ユニット)U−2、および最下段の送液ユニット(第3段目の送液ユニット)U−3から構成される。図12に示した多段送液部においては、送液ユニットU−1の内周側(左側:回転軸側)に第1の貯液槽3001−1が設けられ、この第1の貯液槽3001−1は流路3000A−1を介して第1段目の送液ユニットU−1の第1の保持槽3010−1に接続する。第1段目の送液ユニットU−1は、第1の保持槽3010−1、流路3000B−1、および第2の保持槽3010−2からなり、第1の保持槽3010−1と第2の保持槽3010−2とは流路3000B−1で接続される。第2の保持槽3010−2は、流路3000C−1を介して、下段のユニット(第2段目のユニット)U−2の第1の保持槽3020−1に接続される。第2段目の送液ユニットU−2は、第1の保持槽3020−1、流路3000B−2、および第2の保持槽3020−2からなり、第1の保持槽3020−1と第2の保持槽3020−2とは、流路3000B−2で接続される。第2の保持槽3020−2は、流路3000C−2を介して、第3段目の送液ユニットU−3の第1の保持槽3030−1に接続される。第3段目の送液ユニットは第1の保持槽3030−1、流路3000B−3、第2の保持槽3030−2を備え、第1の保持槽3030−1と第2の保持槽3030−2とは、流路3000B−3で接続される。第3段目の送液ユニットには流路3000Dが設けられ、出口流路として第2の保持槽3030−2に連結されている。
図12に示すように、第1の貯液槽3001−1、上段の送液ユニットの第2の保持槽3010−2,第3段目の送液ユニットの第2の保持槽3020−2が、それぞれ、上段の送液ユニットの第1の保持槽3010−1、下段の送液ユニットの第1の保持槽3020−1,第3段目の送液ユニットの第1の保持槽3030−1の内周側すなわち分析チップの回転軸側にそれぞれ位置している。流路3000A−1は、第1の貯液槽3001−1の底部から斜め上方に延伸し、第1の保持槽3010−1の上部に接続される。
図12に示すように、送液ユニットU−1と送液ユニットU−2の間は流路3000C−1で接続され、送液ユニットU−2とU−3との間は、流路3000C−2で接続されている。すなわち、流路3000C−1は送液ユニットU−1の第2の保持槽3010−2の底部から、外周方向かつ上方に延伸し、送液ユニットU−2の第1の保持槽3020−1の上部に開口する。流路3000C−2は送液ユニットU−2の第2の保持槽3020−2の底部から、外周方向かつ上方に延伸し、送液ユニットU−3の第1の保持槽3030−1の上部に開口する。送液ユニットU−3の第2の保持槽3030−2の下部に流路3000Dが接続され、液体は送液ユニットの外部に放出され、後段の反応室に送液される。
一方、図13に示す例については、図12に示す例とほぼ同様であるが、第1段目の送液ユニットU−1において、2つの第1の貯液槽3001−1aおよび3001−1bが設けられている点で相違する。第1の貯液槽3001−1aおよび3001−1bは、それぞれ、第1の保持槽3010−1に対して流路3000A−1a、流路3000A−2bで接続されている。流路3000A−1aおよび流路3000A−2bの傾きはほぼ同一である。第1の貯液槽3001−1aおよび3001−1bは円筒形であるが、円錐、角錐、球形等、流路3000A−1aおよび流路3000A−2bから遠心力により液体が円滑に流出する構造であれば特に規定する必要はない。こうした構造により、第1の回転速度における回転により、予め2つの第1の貯液槽3001−1a、3001−1bに収容されていた試薬を、第1の保持槽3010−1内で混合することが可能となる。
図12および図13に示される多段送液部においては、第3段目の送液ユニットU−3の第2の保持槽3030−2は、送液ユニットU−3の第1の保持槽3030−1から重力方向かつ回転軸側(内周側)に延伸する流路3000B−3により接続されている。流路3000B−1、3000B−2、3000B−3は、流路3000A−1、3000C−1、3000C−2と比較して幅が広く、かつ、回転軸に対する傾きが比較的小さい。また、第3段目の送液ユニットU−3の第2の保持槽3030−2に接続する流路3000Dが、回転軸から離れた側(外周側)に延伸し、中途までは斜め上方に、中途で回転軸に対し垂直方向に延伸し、外部に開口している。流路3000Dの幅は流路3000A−1の幅とほぼ同等である。
図12に示す例では、第1の貯液槽3001−1や第2の保持槽3010−2、3020−2、3030−2に、それぞれ空気流路3011−1、3011−2、3011−3、3011−4が設けられている。また、図13に示す例でも、第1の貯液槽3001−1a、3001−1bに空気流路3011−1a、3011−1bが、第2の保持槽3010−2、3020−2、3030−2に、それぞれ空気流路3011−2、3011−3、3011−4が設けられている。それぞれの空気流路は、貯液槽の上部から回転軸側の上方に延伸し、外部に開口している。また、第1の保持槽3010−1、3020−1、3030−1には通気穴3011−5、3011−6、3011−7が設けられている。
図14に示す例は、槽及び流路の構成は図12と同じであるが、それらのサイズや形状が相違する。
すなわち、第1の貯液槽3001−1の主面側から見たときの輪郭形状は円形である。上段の送液ユニットU−1の第2の保持槽3010−2、下段の送液ユニットU−2の第2の保持槽3020−2および最下段の送液ユニットの第2の保持槽3030−2の主面側から見たときの輪郭形状は四辺形が外周方向に張り出した形状である。上段の送液ユニットU−1の第1の保持槽3010−1、下段の送液ユニットU−2の第1の保持槽3020−1および最下段の送液ユニットの第1の保持槽3030−1の主面側から見たときの輪郭形状は、四辺形の回転軸方向の両辺を膨らませたカプセル状の形状である。
また、図14に示す例では、流路3000A−1は第1の保持槽3010−1付近でやや重力方向に傾斜している。流路3000B−1、3000B−2および3000B−3は、それぞれの第1の保持槽3010−1、3020−1、および3030−1側の接続点(起点)では重力方向かつ回転軸方向に延伸しているが、それぞれが接続する第2の保持槽3010−2、3020−2、および3030−2付近で重力方向かつ外周方向に方向転換する。流路3000Dは回転軸の外周方向に直線状に延伸している。通気穴3011−1、3011−2、3011−3、3011−4は、分析チップの内周側開口部から回転外周側に延伸し途中で重力方向に方向転換してそれぞれが接続する第1の貯液槽3001−1、第2の保持槽3010−2、第2の保持槽3020−2、第2の貯液槽3030−2に開口する。
さらに、図14に示される流路3000A−1および流路3000Dのほか、通気穴3011−1、3011−2、3011−3、3011−4は、図12に示されるそれぞれと比較して口径が太い。また、この例では、前述のように第2の保持槽の外壁の一部3000C−11、3000C−21が流路3000C−1、3000C−2の役割をしている。また、第2の保持雄の内壁部3000D−11が、流路D(3000D)の一部を構成している。
図15に示す例は、図12に示される例において更に、各送液ユニットU−1、U−2、U−3に第2の貯液槽3010−3、3020−3、3030−3を有する点で相違する。第2の貯液槽3010−3、3020−3、3030−3は、それぞれ流路3000E−1、3000E−2、3000E−3で、第2の保持槽3010−2、3020−2、3030−2に接続する。また、図15に示す例では、流路3000Dの途中に反応室ユニット1000Iが設けられ、流路3000Dは最終的に廃液槽4020に接続されている。
(内壁の処理について)
本発明の分析チップは、反応室ユニット、不溶性成分分離部および多段送液部の槽や流路など試薬の溶液が接触する表面のうち少なくとも一部の内壁が吸着抑制処理されていることが好ましい。この場合、懸濁液、試薬の吸着による成分濃度の減少が原因となる測定、分析、反応の誤差を小さくすることができ、精度を向上させることが可能となる。また、槽に格納された懸濁液が内壁に吸着すると、送液が滞ることがあるが、吸着抑制処理を施すことによりこのような問題を解消することができる。吸着抑制処理の方法は、親水性高分子材料を静電的に表面に吸着させるコーティング処理、高エネルギー線を照射し、親水性高分子を樹脂表面に共有結合させて強固に固定化する方法などが用いられる。
5.試薬リザーバユニット
本発明の分析チップのうち、不溶性成分分離部の試薬貯液槽、および多段送液部の第1の貯液槽並びに第2の貯液槽のうちから選ばれる1または2以上の槽は、試薬リザーバユニットを構成していてもよい。試薬リザーバユニットは、分析チップのチップ本体から着脱可能なユニットである。
このように、試薬リザーバユニットをチップ本体(チップ本体の多段送液部G)から着脱可能にすることで、一つのチップの各部位、各ユニットに求められる機能に適した樹脂を選択でき、かつ、分析チップ全体としてのコストを低く抑えることもできるので好ましい。
例えば図49に示される多段送液部では、第1の貯液槽および第2の貯液槽が、チップ本体3000Gから着脱可能な試薬リザーバユニット3000Fとして設けられていている。図49に示す多段送液部の構成例は、多段送液部の第1の貯液槽および第2の貯液槽が別体の着脱可能な試薬リザーバユニット3000Fに設けられている以外は、既に説明した図48に示される構成例と同じ構成を有している。
別の例として、図38−1に示される試薬リザーバユニットは、不溶性成分分離部の試薬貯液槽、多段送液部の第1の貯液槽および第2の貯液槽がチップ本体とは別個に設けられており、図38−2に示されるチップ本体に着脱可能に装着され、図38−3に示される分析チップを構成する。
さらに別の例として、図40−1に示される試薬リザーバユニットは、不溶性成分分離部の試薬貯液槽、多段送液部の第1の貯液槽および第2の貯液槽がチップ本体とは別個に設けられており、図40−3に示される反応室ユニットともに図40−2に示されるチップ本体に着脱可能に装着され、図41に示される分析チップを構成する。
試薬リザーバユニットの分析チップにおける配置は、チップ本体より内周側であることが好ましい。これにより、分析チップの回転時に、分析チップの任意の槽へ試薬を送液することが可能となる。
本発明における試薬リザーバユニット3000Fは、内部に形成された槽に予め試薬が保存されていることが好ましい。また、試薬リザーバユニット3000Fは、長期、好ましくは10日以上に渡り試薬の安定性、性能を維持できるものが好ましい。
試薬リザーバユニットは、構成される槽ごとに注入口とチップ本体との連結のための開口部とを有していてもよい。注入口は試薬を注入するための開口部である。連結のための開口部は、分析チップの回転時に試薬を分析チップ側に流入させるための開口部である。より好ましくは、チップ本体との接続のための開口部から予め試薬を注入しておき、シールして保存する。使用時にシールを除去し、チップ本体と接続することにより用いられる。つまり、開口部は、注入口と兼ねていてもよい。即ち、開口部から試薬を注入することもできる。
試薬リザーバユニットを設ける場合には、チップ本体側にもチップ本体外に開口する開口部が設けられる。試薬リザーバユニットをチップ本体に装着した場合には、チップ本体側の開口部と試薬リザーバユニットの開口部とが連結する。試薬リザーバユニットが試薬貯液槽を有し、チップ本体側の試薬保持槽と接続する場合、試薬貯液槽の開口部は、チップ本体側の試薬導入路の開口部と、試薬リザーバユニットとチップ本体との装着時に連結する。試薬リザーバユニットが第2の貯液槽を有し、チップ本体側の第1の貯液槽もしくは第2の保持槽と接続する場合、第2の貯液槽の開口部は、流路Eの開口部と、試薬リザーバユニットとチップ本体との装着時に連結する。また、チップ本体側の開口部の口径は、リザーバユニットの開口部の口径より大きく、リザーバユニットの開口部の中心が本体側の開口部の中心付近に位置するように連結されることが好ましい。これにより、リザーバユニットの開口部から流出した試薬溶液は連結部から漏れることなく本体側開口部を通り、試薬導入路あるいは流路Eに流入することができる。
図49に例示される試薬リザーバユニット3000Fには、典型的には第1の貯液槽および/または第2の貯液槽が設けられており、この試薬リザーバユニット3000Fをチップ本体の多段送液部3000Gに接続したとき(使用時)に、第1の保持槽および/または第2の保持槽に連通する、流路A(3000A−1a、3000A−1b)や流路E(3000E−2、3000E−4)の一部もしくは開口部が設けられている。試薬リザーバユニット3000Fの第1の貯液槽(3001−1a、3001−1b)および/または第2の貯液槽(3010−3、3040−3)が、チップ本体の多段送液部3000Gの第1の保持槽(3010−1、3020−1)および/または第2の保持槽(3040−2)と嵌合して連通することにより、分析チップとして機能する。
図38−1に示される試薬リザーバユニットが着脱可能な、図38−2に示されるチップ本体を例にとって説明すると次のとおりである。図38−1と図38−2は、それぞれ取り外した状態の試薬リザーバユニットとチップ本体とを示す図であり、図37は、試薬リザーバユニットをチップ本体に装着した状態を示す図である。
図38−1に示す試薬リザーバユニットの試薬貯液槽2009は、注入用の開口部4001と、チップ本体と連結する開口部4002を有する。開口部4002は、チップ本体に試薬リザーバユニットを装着すると、図38−2に示すチップ本体の試薬導入路2016の開口部4003と連結し、試薬貯液槽2009と試薬導入路2016とが連通する。
試薬リザーバユニットの開口部4002は、予め試薬を注入する際に、注入口として用いることができる。注入された試薬は、開口部を塞ぐ手段によりシールされ、保存される。分析時にはシールを除去し、チップ本体と試薬リザーバユニットとを接続することによりチップ本体の開口部と接続し、連結される。
図38−1に示す試薬リザーバユニットの第2の貯液槽3001−2−1は、開口部4005を有する。開口部4005は、チップ本体に試薬リザーバユニットを装着すると、図38−2に示すチップ本体の流路E(3000E−0)の一方の開口部4006と連結し、第2の貯液槽3001−2−1と流路E(3000E−0)とが連通する。また、もう一つの第2の貯液槽3001−2−2は、開口部4008を有する。開口部4008は、チップ本体に試薬リザーバユニットを装着すると、図38−2に示すチップ本体の流路E(3000E−0)のもう一方の開口部4009と連結し、第2の貯液槽(3001−2−2)と流路E(3000E−0)とが連通する。
図38−1に示す試薬リザーバユニットの第2の貯液槽3010−3は、開口部4011を有する。開口部4011は、チップ本体に試薬リザーバユニットを装着すると、図38−2に示すチップ本体の流路E(3000E−1)の開口部4012と連結し、第2の貯液槽3010−3と流路E(3000E−1)とが連通する。また、図38−1に示す試薬リザーバユニットの第2の貯液槽3020−3は、開口部4014を有する。開口部4014は、チップ本体に試薬リザーバユニットを装着すると、図38−2に示すチップ本体の流路E(3000E−2)の開口部4015と連結し、第2の貯液槽3020−3と流路E(3000E−2)とが連通する。さらに、図38−1に示す試薬リザーバユニットの第2の貯液槽3030−3は、開口部4017を有する開口部4017は、チップ本体に試薬リザーバユニットを装着すると、図38−2に示すチップ本体の流路E(3000E−3)の開口部4018と連結し、第2の貯液槽3030−3と流路E(3000E−3)とが連通する。
試薬リザーバユニットの開口部4005、4008、4011、4014、4017は、予め試薬を注入する際に、注入口として用いることができる。注入された試薬は、開口部を塞ぐ手段によりシールされ、保存される。分析時にはシールを除去し、チップ本体と接続することによりチップ本体の開口部と接続し、連結される。
図38−1に示す試薬リザーバユニットと図38−2に示すチップ本体の装着は、チップ本体の突出部4023A、4023Bが試薬リザーバユニットの両端部の空間4024A、4024Bに挿入され嵌合し固定されることにより達成される。
図38−3に示す反応室ユニットと図38−2に示すチップ本体の装着は、チップ本体の突出部4026A、4026Bが反応室ユニットの両端部の空間4025A、4025Bに挿入され嵌合し固定されることにより達成される。
また、図40−1に示す試薬リザーバユニットと図40−2に示すチップ本体の場合(試薬リザーバユニットを装着した状態が図39である)も同様である。
試薬リザーバユニットの各槽に分析チップの回転前に貯液された試薬は、試薬リザーバユニットをチップ本体に装着してチップを一度回転させた際に全てチップ本体内の連結・接続する槽に送液されることが好ましい。順次送液されるために、順番に開口部のシールに穴を開けるなどの操作が必要なくなり、穿孔装置などが不要となるといった効果もある。
試薬リザーバユニットには、試薬の蒸発を抑制するため、開口部にフィルムが接着されていてもよい。この場合、使用時にフィルムを除去し、チップ本体に装着することで送液可能となる。
6.廃液槽
本発明における分析チップは、反応室ユニットに連通した廃液槽を有する構造であってよい。この場合、廃液を分析チップ内に保持することが可能となり、感染性が疑われる検体や、毒性、環境毒性などが疑われる検体、試薬を分析チップの外部に漏出させる危険性や、人体と接触する危険性を低減させることができる。廃液槽は、すべての貯液槽および反応室を通過した検体や試薬を貯液する液槽である。廃液槽の位置は、反応室ユニットの下流に配置される位置であることが好ましく、通常は分析チップの回転軸から遠い側の下方隅部である。廃液槽のサイズは、廃液を格納できるものであれば特に限定されないが、液体0.01mlから20ml、中でも0.2mlから5mlを格納できるものが好ましく、各貯液槽と比較して容量が大きいことが好ましい。また、貯液槽の形状は、球形、直方体、角柱、円柱等の任意好適な形状から適宜選択することができる。
なお、本発明における分析チップは、以上説明した反応室ユニット、不溶性成分分離部、多段送液部を構成する槽または流路以外に、任意の槽や流路を設けるものであってもよい。例えば、送液により生ずる混合液であって、反応室に送液される前の混合液を、分析チップの回転中もしくは回転停止中に保持する等の目的で設けられる槽(混合液保持槽)および流路などが挙げられる。
7.チップの全体構成
本発明の分析チップの全体構成を、図37、図38−1、図38−2、図38−3、図39、図40−1、図40−2、40−2、図41、図50−1、図50−2、図50−3、図50−4、図51−1及び図51−2を用いて説明する。いずれの図においても、特に説明する場合を除き、分析チップの左側に回転軸があるものとする。
図37は、試薬リザーバユニットと反応室ユニットを装着した状態の分析チップ4030を示す図である。チップ本体の上部に不溶性成分分離部を、下部に多段送液部を備える。また、分析チップ4030の回転外周側(図の右側)には反応室ユニット4030Cが、回転内周側には試薬リザーバユニット4030Aがそれぞれ位置している。図37に示すチップ4030において、各ユニットを取り外した状態を図38−1、図38−2、図38−3に示す。図38−1は試薬リザーバユニット4030A、図38−3は反応室ユニット4030C、図38−2はチップ本体4030Bをそれぞれ示す。
図39は試薬リザーバユニットと反応室ユニットを装着した状態の分析チップ4040を示す図である。分析チップ4040は、分離液送液路2004にプレフィルター部4022が設けられているほかは分析チップ4030の場合と同様に、チップ本体の上部に不溶性成分分離部を、下部に多段送液部を備える。また、分析チップ4040の回転外周側(図の右側)には反応室ユニット4040Cが存在し、回転内周側には試薬リザーバユニット4040Aがそれぞれ位置している。図39に示される分析チップ4040において、各ユニットを取り外した状態を図40−1、図40−2、図40−3に示す。図40−1は試薬リザーバユニット4040A、図40−3は反応室ユニット4040C、図40−2はチップ本体4040Bをそれぞれ示す。
図41は試薬リザーバユニットと反応室ユニットを装着した状態の分析チップを示す図である。チップ本体の上部に不溶性成分分離部を、下部に多段送液部を備える点では分析チップ4030の場合と同様である。また、分析チップ4050の回転外周側(図の右側)には反応室ユニット4050Cが存在し、回転内周側には試薬リザーバユニット4050Aがそれぞれ位置している点でも、分析チップ4030の場合と同様である。分析チップ4030と異なる点は、槽、流路の形状・サイズのほか、不溶性成分分離部のオーバーフロー流路2007が分析チップの内周側に設けられている点である。また、試薬リザーバユニット側に、試薬貯液槽2009、第2の貯液槽3010−3、3030−3の他、第1の貯液槽3001−1、3001−2が設けられている点である。
〔不溶性成分分離部と多段送液部の少なくとも一部が互いに対向する2つの主面寄りに設けられる場合〕
本発明の分析チップにおいては、不溶性成分分離部および多段送液部の少なくとも一部が、互いに対向する2つの主面寄りに、互いに離間して設けられていることが好ましい。すなわち、不溶性成分分離部を構成する槽および流路のうちの1または2以上、並びに多段送液部を構成する槽および流路のうちの1または2以上が、互いに対向する2つの主面寄りに、互いに離間して設けられていることが好ましい。中でも、不溶性成分分離部を構成する槽および流路の全部と、多段送液部を構成する槽および流路の全部とが、それぞれ、互いに対向する2つの主面寄りに、互いに離間して設けられていることが好ましい。これにより、分析チップの有限な体積を有効に活用でき、分析チップを小型化することが可能となる。そしてこれにより、回転に必要なモーターを小型化でき、装置の小型化、軽量化、省エネルギー化が可能になる。
さらに本発明の分析チップにおいては、不溶性成分分離部の少なくとも一部と、多段送液部の少なくとも一部とが、互いに対向する2つの主面寄りに、互いに離間して設けられる場合に、反応室ユニットの少なくとも一部が、上記の互いに対向する2つの主面以外の面寄りに設けられていることが好ましい。このうち、反応室ユニットの外面のうちの少なくとも一部が、上記の互いに対向する2つの主面以外の面に露出して設けられることがより好ましい。これにより、分析チップの小型化、回転に必要な装置の小型化、軽量化、省エネルギー化を容易に達成することができる。主面以外の面、とは、チップを構成する面のうち主面(第1主面、第2主面)以外の面、すなわち、分析チップを透過的に見たときに、槽および流路を観察できない面を意味する。薄板状の分析チップの場合、一般には、面積の小さい面、いわゆる側面を意味する。特に反応室ユニットの少なくとも一部は、上記2つの主面以外の面のうち、分析チップの回転時に分析チップの底面(下面、底側)となる面に配置させることが好ましい。反応室ユニットの少なくとも一部を、上記の互いに対向する2つの主面以外の面寄りに設ける場合には、反応室ユニットの他の一部が2つの主面のいずれか、あるいは両方の主面寄りに位置していてもよい。例えば、反応室ユニットの外面のうちの少なくとも一部が、上記の互いに対向する2つの主面以外の面に露出していればよく、他の一部が2つの、或いは片方の主面に露出していてもよい。
このような、不溶性成分分離部および多段送液部の少なくとも一部が互いに対向する2つの主面寄りに互いに離間して設けられている分析チップを、回転させる際の、回転軸に対する第1主面と第2主面の配置は、特に限定されない。例えば、第1主面が、分析チップの回転方向から観察したとき、おもて側(手前側)の側面(おもて面)となり、第2主面は裏側の側面(裏面)とすることができる。もちろんこれらは逆であっても、すなわち第1主面側が裏側の側面、第2主面側がおもて側の側面であってもよい。
図50−1、図50−2、図50−3および図50−4に、本発明における分析チップのチップ本体および反応室の一例を示す。図50−1は本発明の分析チップのチップ本体および反応室の構成例を第1主面4100aからみた平面図である。図50−2は図50−1に示される本発明の分析チップのチップ本体および反応室の構成例を第2主面4100bからみた平面図である。図50−3は本発明の分析チップのチップ本体および反応室の構成例を厚み方向(試薬リザーバユニット側)よりみた平面図である。図50−4は本発明の分析チップのチップ本体および反応室の構成例を厚み方向(反応室ユニット側)よりみた平面図である。なお、図50−1に示されるチップ本体は、チップ本体の左側に図示しない回転軸があるものとして示され、図50−2に示されるチップ本体は、チップ本体の右側に図示しない回転軸があるものとして示される。
図50−1、図50−2、図50−3及び図50−4に示されるように、この構成例のチップ本体4080Bは、不溶性成分分離部4080D、多段送液部4080Eなどを有する。反応室ユニット4080C、プレフィルター部4022は、ローター等に装着された状態を基準としたときのチップ本体4080Bの底面寄りに位置する。チップ本体4080Bと、反応室ユニット4080Cとは、接着等の手法により一体となっている。
図50−1、図50−2、図50−3及び図50−4に示される分析チップは、互いに対向する第1主面4100aと第2主面4100bとを有する。第1主面4100aと第2主面4100bとの間に槽及び流路が形成されている。多段送液部4080Eは第1主面4100a寄りに設けられている(図50−1参照)。不溶性成分分離部4080Dは、第2主面4100b寄りに設けられている(図50−2参照)。すなわち、不溶性成分分離部4080Dは、多段送液部4080Eからみてチップ本体の厚み方向に重なるようにして設けられている。また、反応室ユニット4080Cは、チップ本体4080Bの側面(回転時には回転軸に対し底面側となる面)に嵌合している(図50−2、図50−4参照)。
チップ本体4080Bの第1主面4100aには、2つの凹部4025A、4025Bが設けられ、試薬リザーバユニット(図示せず)と嵌合することにより、使用可能となる。
図50−1、図50−2、図50−3及び図50−4に示されるチップ本体および反応室ユニットの材料は、前述した材料から適宜選択され得る。例えば、チップ本体はポリプロピレンにより構成され得る。また、反応室ユニットはアクリル樹脂により構成され得る。
また、図50−1、図50−2、図50−3及び図50−4に示されるチップ本体の製法も特に限定されない。チップ本体4080Bには肉抜き4080Hが設けられている。これによりひけ、そりが防止されるので、チップ本体の製造を、樹脂を材料とする射出成型により行うこと可能とし、分析チップの製造コストを低下させることができる。
図51−1および図51−2に、本発明における分析チップの一例を示す。図51−1は本発明の分析チップの構成例を第1主面4100aからみた平面図である。図51−2は図51−1に示される本発明の分析チップの構成例を第1主面4100aからみた平面図である。図51−1および図51−2に示す分析チップ4070のチップ本体4070Bおよび反応室ユニット4080Cは、図51−1、図51−2、図51−3および図51−4に示したチップ本体4080Bにおいて図示された肉抜き4080H等を除去したほかはほぼ同様の構成からなるものである。なお、図51−1は第1主面4080a寄りに位置する槽及び流路の配置を、図51−2は第2主面4080b寄りに位置する槽及び流路の配置を、それぞれ示す。
分析チップ4070は、チップ本体4070Bと、試薬リザーバユニット4070A、反応室ユニット4070Cから構成されている。チップ本体4070Bは、不溶性成分分離部、多段送液部などを有する。チップ本体4070Bと、反応室ユニット4070Cとは、接着等の手法により一体となっている。チップ本体4070Bと、試薬リザーバユニット4070Aと嵌合することにより、使用可能となる。
図51−1及び図51−2に示される分析チップ4070のチップ本体4070Bは、互いに対向する第1主面4100aと第2主面4100bとを有する。第1主面4100aと第2主面4100bとの間に槽及び流路が形成されている。多段送液部は第1主面4100a寄りに設けられている(図51−1参照)。不溶性成分分離部は、第2主面4100b寄りに設けられている(図51−2参照)。すなわち、不溶性成分分離部は、多段送液部からみてチップ本体の厚み方向に重なるようにして設けられている。また、反応室ユニット4070Cとプレフィルター4022は、チップを回転させた際、回転軸を基準として底面側に設けられ、かつ、第2主面4100b寄りに配置されている(図51−2参照)。
図51−1、図51−2に示す例では、分析チップの多段送液部と不溶性成分分離部は、同一円周面上に位置している。また、多段送液部と不溶性成分分離部よりも外周側に、反応室ユニット4070Aの反応室1011が位置している。より詳細に説明すると、不溶性成分分離部における分離液保持槽2002と不溶性成分保持槽2003との間の狭隘部2010および多段送液部の最終段の送液ユニットの第2の保持槽3040−2よりも外周側に、反応室ユニット4070Cの反応室1011が位置している。反応室ユニット4070Cは、チップ本体4070Bの側面(回転時には回転軸に対し底面側となる面)側に嵌合している。
図52−1から図52−11を参照し用いて、図51−1および図51−2に示す分析チップ4070の構成および動作、およびこれを用いた分析方法について、一例を挙げて説明する。図52−1は、分析チップの動作(試薬リザーバの装着、検体の充填)を説明するための模式図である。図52−2は、分析チップの動作(最初の回転時)を説明するための模式図である。図52−3は、分析チップの動作(回転停止状態)を説明するための模式図である。図52−4は、分析チップの動作(再度の回転時)を説明するための模式図である。図52−5は、分析チップの動作(回転停止状態)を説明するための模式図である。図52−6は、分析チップの動作(再度の回転時)を説明するための模式図である。図52−7は、分析チップの動作(回転停止状態)を説明するための模式図である。図52−8は、分析チップの動作(再度の回転時)を説明するための模式図である。図52−9は、分析チップの動作(回転停止状態)を説明するための模式図である。図52−10は、分析チップの動作(再度の回転時)を説明するための模式図である。図52−11は、分析チップの動作(回転停止状態)を説明するための模式図である。なお、各図に示される分析チップは、分析チップ4070を第1主面4100a側から透過的に見た状態であり、上段は第1主面4100a寄りに位置する槽及び流路の配置を、下段は第2主面4100b寄りに位置する槽及び流路の配置を、それぞれ示す。
分析チップの反応室ユニット内の反応室1011には、抗体もしくは抗原が固相化された担体が収容されている。プレフィルター部4022には、血中の測定阻害物質を吸着およびろ過するための担体が収容されている。
試薬リザーバユニット4070Aには、分析に必要な複数の試薬があらかじめ充填されている。試薬貯液槽2009には、酵素などで標識された標識抗原もしくは標識抗体を含む試薬(標識抗体)が封入されている。第2の貯液槽3001−2−1、3001−2−2には、それぞれ、基質溶液A、基質溶液Bが封入されている。第2の貯液槽3020−3および3040−3には、洗浄液が封入されている。
使用時には、試薬リザーバユニット4070Aを、チップ本体4070Bに嵌合させて用いられる。試薬リザーバユニット4070Aをチップ本体4070Bに嵌合させることにより、試薬貯液槽2009は、チップ本体の試薬導入路2016と、開口部4003を介して連通する。第2の貯液槽3001−2−1、3001−2−2は、チップ本体の流路Eである3000E−0と、開口部4006、4009を通じて連通する。第2の貯液槽3020−3は、チップ本体の流路Eである3000E−2と、開口部4015を通じて連通する。第2の貯液槽3040−3は、チップ本体の流路Eである3000E−4と、開口部4018を通じて連通する。
試薬リザーバユニット4070Aをチップ本体4070Bに嵌合させた後、懸濁液保持槽2001に全血を注入し(図52−1)、遠心機のローターなどの装置に装着する。なお、懸濁液保持槽2001への全血の注入は、試薬リザーバユニット4070Aをチップ本体4070Bに嵌合させた後でもよい。
第1の回転速度による回転を開始し、例えば狭隘部2010における遠心力が2000Gになる回転速度で5分間、回転させる(図52−2)。このとき、以下の送液、反応が行われる。全血は懸濁液導入路2006を介して不溶性成分保持槽2003に移動後、狭隘部2010の外周側から内周側に向けて懸濁液が満ちてくる。余分な全血は、オーバーフロー流路2007を介して廃液槽2040に廃棄される。これにより、一定量の血液が不溶性成分保持槽2003に流入する全血の量をコントロールでき、定量性を向上させ得る。第1の回転速度による回転により生じる遠心力により、次第に全血中の血球が分離し、血球成分は不溶性成分保持槽2003内に蓄積し、血漿成分は分離液保持槽2002内に蓄積する。試薬貯液槽2009内の標識抗体は、試薬保持槽2005に回転中は保持される。第2の貯液槽3001−2−1および3001−2−2内の基質溶液は、第1段目の送液ユニットの第1の保持槽3010−1に移送され、保持される。第2の貯液槽3020−3内の洗浄液は、第2段目の送液ユニットの第1の保持槽3020−1に移送され、保持される。第2の貯液槽3040−3内の洗浄液は、第4段目の送液ユニットの第2の保持槽3040−2を通過、流路D(3000D―1、3000D−2、3000D−3)を通過し、反応室1011を通過して抗原もしくは抗体が結合した担体を洗浄し、廃液槽4020にまで送液される。
次に分析チップの回転を停止する(図52−3)。回転停止時の重力の作用により、以下の送液、反応が行われる。分離液保持槽2002内の血漿は、試薬保持槽2005内の標識抗体溶液とともに落下し、分離液混合槽2021に送液され、混合される。血球成分を多く含む溶液は、不溶性成分排出路2030内を毛細管現象によりストップバルブ2050まで進む。第1の保持槽3010−1内の基質および3020−1内の洗浄液は、重力の作用により、それぞれ同送液ユニットの第2の保持槽3010−2、3020−2に送液される。
次に、再度回転を行う(図52−4)。回転により生じる遠心力を利用して、以下の送液、反応が行われる。血漿と標識抗体の混合液はプレフィルター部を通過し、血漿中の測定阻害物質が吸着、ろ過により除去された後、第1の混合液保持槽5001に保持される。第2の保持槽3010−2内の基質,3020−2内の洗浄液は、それぞれ次段の送液ユニットの第1の保持槽3020−1、3030−1に送液、保持される。ストップバルブ2050まで進んだ不溶性成分を多く含む溶液は、サイフォン効果により不溶性成分保持槽2003内から不溶性成分排出路2030を通じて、廃液槽2040に廃棄される。
次に分析チップの回転を停止する(図52−5)。回転停止時の重力の作用により、以下の送液、反応が行われる。第1の混合液保持槽5001内の混合液は、第2の混合液保持槽5002に移送される。第1の保持槽3020−1内の基質および3030−1内の洗浄液は、それぞれ同送液ユニットの第2の保持槽3020−2、3030−2に送液される。
次に、再度回転を行う(図52−6)。回転により生じる遠心力を利用して、以下の送液、反応が行われる。第2の混合液保持槽5002内の混合液は、反応室1011を通過し、廃液槽4020まで送液される。この時、反応室内の担体表面で、抗原抗体反応が行われる。第2の保持槽3020−2内の基質、3030−2内の洗浄液は、それぞれ次段の送液ユニットの第1の保持槽3030―1、3040−1に送液され、保持される。
次に分析チップの回転を停止する(図52−7)。回転停止時の重力の作用により、以下の送液、反応が行われる。第1の保持槽3030−1内の基質および3040−1内の洗浄液は、それぞれ同送液ユニットの第2の保持槽3030−2、3040−2に送液される。
次に、再度回転を行う(図52−8)。回転により生じる遠心力を利用して、以下の送液、反応が行われる。第2の保持槽3030−2内の基質は、次段の送液ユニットの第1の保持槽3040−1に送液され、保持される。第2の保持槽3040−2内の洗浄液は、流路D(3000D−1、3000D−2、3000D−3)を通過し、反応室1011を通過して抗原抗体反応後の担体を洗浄し、廃液槽4020にまで送液される。
次に分析チップの回転を停止する(図52−9)。回転停止時の重力の作用により、以下の送液、反応が行われる。第1の保持槽3040−1内の基質は、同送液ユニットの第2の保持槽3040−2に送液される。
次に、再度回転を行う(図52−10)。回転により生じる遠心力を利用して、以下の送液、反応が行われる。第2の保持槽3040−2内の基質は、流路D(3000D―1、3000D−2、3000D−3)を通過し、反応室1011まで送液される。
基質全量が反応室1011を通過する以前に回転を停止(図52−11)し、酵素と基質との反応を行い、反応室内で、酵素反応により生じる蛍光や発光を測定する。
予め作成された検量線に測定結果をプロットし、検体(血液)中の目的物質の濃度を算出する。
このように、回転と停止を繰り返すだけで、外部にポンプや穿孔装置、分注装置などを必要とせず、1つの分析チップを用いて不溶性成分を分離し、分析チップ内に予め充填された試薬を使い、全ての免疫反応を進めることができる。
8.分析方法
本発明の分析方法は、前記の分析チップを用いて免疫分析反応を行うものである。すなわち本発明の分析方法は、分析チップを、分析チップ外の回転軸に対して回転させることにより、検体および試薬を分析チップの反応室に送液して、反応室内の被験物質量を測定することを特徴とする。
本発明の分析方法は、下記の(1)、(2)および(3)を同時にまたは順次、適宜繰り返して行うものである。
(1)分析チップに検体である懸濁液を導入し、分析チップを回転させる際に生じる遠心力を用いて不溶性成分を沈降させた後、回転停止による重力を用いて分離液を分取し、
(2)分析チップを回転させる際に生じる遠心力および重力を用いて、試薬を多段送液ユニットに移送し、
(3)分離液および試薬を、回転により生じる遠心力を用いて抗原または抗体が結合した担体に接触させる。
検体、懸濁液の定義、試薬の定義、回転の定義については、既に述べたとおりである。(1)において、懸濁液は分析チップの不溶性成分分離部の懸濁液保持槽に導入される。(2)において、試薬は不溶性成分分離部の試薬貯液槽、多段送液部の第1の貯液槽および第2の貯液槽、試薬リザーバユニットの試薬貯液槽のうちの1または2以上に導入される。導入する試薬の種類、量、導入先の槽は、適宜定めることができ、すべてに導入する必要はない。検体、試薬の導入はピペットなどを用いて常法に従って行うことができる。また、試薬リザーバユニットを使用する場合には、試薬リザーバユニットをチップ本体から外して、試薬を試薬リザーバユニットの各槽に導入してから、試薬リザーバユニットを再びチップ本体に装着することができる。もしくは、予め試薬が注入され、封止された試薬リザーバユニットの封止を外し、チップ本体に装着して用いることができる。
分析チップに懸濁液を導入した後、分析チップをローターなどで回転すると、懸濁液が懸濁液保持槽から不溶性成分保持槽に送液され、不溶性成分は不溶性成分保持槽に保持され、分離液は分離液保持槽に送液される。オーバーフローした懸濁液はオーバーフローした液の保持槽に送液される。回転を停止することにより、分離液および不溶性成分を得る。分離液は重力の作用により分離液送液路を通って分離液混合槽に移動し、次の回転による遠心力により、分離液送液路を通って反応室ユニットへ送液される。
不溶性成分分離部における分離を進めるに当り好ましい分析チップの第1回転速度、回転時間は、懸濁液の種類や量などによるが、回転速度が血液から血球を分離する場合、通常は10Gから6000G、回転時間が通常は1分から10分、好ましくは1000Gから4000G、回転時間は1分から5分である。
一方、分析チップの多段送液部の貯液槽もしくは試薬リザーバの試薬貯液槽に試薬を導入して、分析チップを第1回転速度で回転させ、その後第2回転速度で回転させ、これらの回転を交互に繰り返すと、試薬は流路を通って順次次の槽、次の送液ユニットへ移動する。図36−1、図36−2、図36−3、図36−4、図36−5、図36−6、図36−7、図36−8は、多段送液部における試薬の移動を模式的に示す説明図である。図16、図17、図18は多段送液部における試薬の移動をより具体的に示す説明図である。さらに各図には、回転軸を示したものと示さないものとあるが、いずれもチップの主面を、向かって左側に回転軸を有するものとして表した図である。すなわち、分析チップを回転させる際の、略鉛直方向に延在する回転軸を分析チップの左側に位置させた場合の、軌道の周方向から見た状態を示したものである。分析チップの左側が回転軸方向(内周側)であり、遠心力方向でもある。右側が外周側である。また、下方が重力方向(略鉛直方向)である。
本発明における分析方法は、多段送液部の貯液槽、保持槽のうち少なくとも一つに試薬を導入した後、分析チップを分析チップ外部の回転軸に対し、第1回転速度による回転、および、第1回転速度よりも低速の第2回転速度による回転もしくは回転停止する工程を少なくとも2回以上繰り返す工程を含む。
例えば、第1の貯液槽と第1の保持槽が流路Aによって連通され、第1の保持槽と第2の保持槽と、それらを連通する流路Bからなる送液ユニットを2つ有し、下段の送液ユニット第2の保持槽に流路Dが接続される分析チップにおいて、第1の貯液槽と下段の送液ユニットの第2の保持槽に2種類の試薬が導入、格納されている場合、第1回転速度による回転で、第1の貯液槽に格納されていた試薬が第1の保持槽に流入し、保持され、予め下段の送液ユニットの第2の保持槽に格納されていた試薬が流路Dから流出する。さらに第1回転速度よりも低速の第2回転速度による回転もしくは回転停止により、上段の送液ユニットの第1の保持槽に保持された試薬が第2の保持槽に移動する。さらに、第1の回転速度で回転させることにより、第2の保持槽に保持された試薬は下段の送液ユニットの第1の保持槽に移動するという工程を繰り返すことで、異なる複数の試薬を、順次送液することが可能となる。
本発明の分析方法について、図36−1、図36−2、図36−3、図36−4、図36−5、図36−7、図36−8に基づき説明する。図に示す例では回転前に、第1の貯液槽3001−1、第2の保持槽3010−2、3020−2、3030−2にそれぞれ液体3000L1、3000L3、3000L5、3000L7が予め格納されている(図36−1)。分析チップをまず第1の回転速度で回転すると、3000L1、3000L3、3000L5はそれぞれ第1の保持槽3010−1、3020−1、3030−1に送られ、3000L7は反応室ユニットの反応室で反応後排出される(図36−2)。分析チップを続いて第2の回転速度で回転するか、あるいは回転を停止すると、3000L1、3000L3、3000L5はそれぞれ第2の保持槽3010−2、3020−2、3030−2に送られる(図36−3)。分析チップを続いて再び第1の回転速度で回転すると、3000L1、3000L2、3000L3はそれぞれ第1の保持槽3020−1、3030−1に送られ、3000L5は反応室で反応後排出される(図36−4)。分析チップを続いて第2の回転速度で回転するか、あるいは回転を停止すると、3000L1、3000L3はそれぞれ第2の保持槽3020−2、3030−2に送られる(図36−5)。分析チップを続いて再び第1の回転速度で回転すると、3000L1は第1の保持槽3030−1に送られ、3000L3は反応室で反応後排出される(図36−6)。分析チップを続いて第2の回転速度で回転するか、あるいは回転を停止すると、3000L1は第2の保持槽3030−2に送られる(図36−7)。分析チップを続いて再び第1の回転速度で回転すると、3000L1は反応室で反応後排出される(図36−8)。本例では、4回の回転サイクルで、全ての液体が順次多段送液部から排出される。
多段送液部における送液の具体例を、図16、図17、図18を参照しつつ説明する。図16、図17、図18は、図13を例にとって多段送液部の送液原理を示すものであり、図16は試薬3000L1、3000L2、3000L3を充填した状態(分析チップ停止)、図17は分析チップを第1回転速度で回転させている状態、図18は分析チップを第2回転速度で回転もしくは回転停止させた状態を示す。
試薬3000L1、3000L2、3000L3が、それぞれ第1の貯液槽3001−1a、第1の貯液槽3001−1b、第2段目の送液ユニットU−2の第2の保持槽3020−2に導入される。その後、分析チップを第1回転速度にて回転させると、図16のように遠心力及び重力の作用により3000L1、3000L2、3000L3はそれぞれ流路3000A−1a、3000A−1b、3000C−2を上り、3000L1と3000L2とは第1段目の送液ユニットU−1の第1の保持槽3010−1に、3000L3は第3段目の送液ユニットU−3の第1の保持槽3030−1に到達する。すなわち、図17に示すように、3000L1,3000L2は、ともに第1段目の送液ユニットU−1の第1の保持槽3010−1に運ばれ、ここで混合される。また、3000L3は、第3段目の送液ユニットU−3の第1の保持槽3030−1に運ばれる。
この時、同一の第1の回転速度で3000L1、3000L2、3000L3をそれぞれ次の槽に送液するためには、流路3000A−1aと回転軸とがなす角度と、流路3000A−1bと回転軸とがなす角度と、流路3000C−2と回転軸とがなす角度とを同一にすればよい。もしくは、第1の回転速度を、流路3000A−1a、流路3000A−1b、および流路3000C−2を液が流れ始める回転速度よりも十分高速に設定しさえすればよい。回転時の分析チップにかかる遠心力は、回転軸と分析チップとの距離に反比例し、回転速度の二乗に比例する。一般的に、質量mの物体が、回転軸からrの位置で速度vにて回転しているときに働く遠心力は、F=mv2/rで表される。
第1の回転速度は、分析チップが受ける遠心力が、通常1Gから100000G、好ましくは10Gから10000Gとなるように適宜設定することができる。更に好ましくは、第1の回転速度は、遠心力が20Gから5000Gとなるように適宜設定することができる。
第1の回転速度による回転時間は、通常0.01分から10分、好ましくは0.05分から2分とすることができる。
続いて、第2の回転速度で分析チップを回転するか、或いは回転を停止すると、図18に示すように、3000L1+3000L2は第1段目の送液ユニットU−1の第1の保持槽3010−1から流路3000B−1に入り、第2の保持槽3010−2に貯液される。そして3000L3は、第3段目の送液ユニットU−3の第1の保持槽3030−1から流路3000B−3を通り、第2の保持槽3030−2に送液される。
この時、第2の回転速度で3000L1、3000L2、3000L3をそれぞれ次の槽に送液するためには、流路3000B−1と回転軸とがなす角度と、流路3000B−3と回転軸とがなす角度とを同一にすればよい。もしくは、第2の回転速度を、流路3000B−1、流路3000B−3を液が流れ始める回転速度よりも十分低速に設定しさえすればよい。
一方、第2回転速度は、第1回転速度よりも低速であることが必要である。具体的な第2回転速度の範囲は、通常は遠心力が0Gから50G、好ましくは0Gから10Gである。第2回転速度は、回転停止(遠心力0G)に代えることも可能である。
第1回転速度、第2回転速度はそれぞれ特定の回転数であってもよいし、ある特定の回転数の範囲内で連続して変化する回転数であってもよい。
また、第2回転速度による回転または回転停止時間は、通常0.01分から10分、好ましくは0.05分から2分とすることができる。
このような、第1の回転速度による回転、および第2の回転速度による回転または回転停止を繰り返し行うことにより、試薬を順次次の貯液槽や保持槽へ送液することができ、順次試薬を混合させたり、順次反応させたりすることができる。
上記(1)の懸濁液(検体)の送液と(2)試薬の送液とは、別々に行うこともできるし、回転前に懸濁液と試薬を導入しておいて同時に行うこともできる。このうち(1)の懸濁液(検体)の送液と(2)試薬の送液とは同時に行うことが好ましい。
次に、以下、反応室ユニット内における反応の順序を、ELISA法によりサイトカインを分析する場合を例にとって図7を参照しつつ説明する。反応室には、サイトカインの1次抗体吸着ビーズが収納されている。
反応室ユニットにおいては、(3)分離液および試薬を、反応室ユニットにおいて、回転により生じる遠心力を用いて抗原または抗体が結合した担体に接触させる。分離液と試薬の接触は、同時でもよいが、分離液の接触の後、試薬を接触させることが好ましい。
例として図1の反応室ユニット1000Aを利用して説明すると次の通りである。
まず、不溶性成分分離部から、反応室ユニットにおける試薬・検体受けに分離液(検体)と二次抗体(試薬)が、順次または混合液として同時に送液された(図7の(1))後、検体を遠心力により反応室に移送し(図7の(2))ビーズ担体上の1次抗体と抗原抗体反応させる(図7の(3))。なお、検体と二次抗体の移送は上記のように同時でなくともよく、検体を移送して遠心を行った後に二次抗体を移送して遠心するものであってもよい。
続いて、多段送液部から、蛍光基質(試薬)を反応室ユニットにおける試薬・検体受けに注入した後(図7の(1))、この基質を同様に遠心力により反応室に移送し(図7の(2))、ビーズ担体上の二次抗体と反応させる(図7の(3))。すなわち、上記検体の移送において、検体を蛍光基質に代えたほかは同様にして遠心処理を行う。
反応室ユニットにおいて(3)を実施するために適した分析チップを回転させる際の速度や時間は、被検物質の種類や、測定濃度範囲に応じて適宜調整することができる。回転の速度については、例えば、10Gから10000Gとすることが好ましく、100Gから5000Gとすることがより好ましい。また、時間については、5秒から20分とすることが好ましく、10秒から10分とすることがより好ましい。
本発明の分析方法の具体例を挙げると、次の通りである。まず、回転により懸濁液を不溶性分分離部にて分離液と不溶性成分に分離すると同時に、試薬貯液槽にて緩衝液に希釈された状態で保持されていた二次抗体を試薬保持槽に保持し、回転を停止する事により二次抗体が希釈された緩衝液が重力により試薬保持槽から流出し、分離液と混合して分離液中の抗原と緩衝液中の二次抗体が反応し、混合して150μLとしたものを再度回転により反応室ユニットにおける試薬・検体受けに送液し(分析方法の(1))、続けて回転させて(500Gで3分間回転させる)分離液と二次抗体を含む緩衝液を反応室に送液し、担体に固定化された一次抗体と抗原を反応させる。続いて、回転により多段送液部からPBS−Tを反応室ユニットにおける試薬・検体受けに注入し、反応室に送液する(分析方法の(3))。次に、多段送液部から必要に応じて回転により反応室ユニットに洗浄液を送液し、洗浄後、さらに回転により多段送液部から送液された基質100μLを反応室ユニットにおける試薬・検体受けに注入して反応室に送液し、(分析方法の(2))その後5分間静置して反応させる(分析方法の(3))。
反応後の反応室ユニットの反応室内の蛍光強度を蛍光検出装置(蛍光顕微鏡など)により測定する。反応室ユニットがチップ本体から着脱可能な場合には、取り出して測定できる。被検物質が検体中のサイトカインの有無検出の場合は、蛍光強度が測定可能な場合には、検体中にサイトカインが存在することが確認される。一方、検体中のサイトカインの定量を目的とした免疫分析の場合には、予めサイトカインの濃度を変えて同様に測定して作成しておいた検量線と比較して、サイトカインの濃度を特定する。
本発明の分析方法は、上記(1)、(2)および(3)の3工程を、分析チップの第1回転速度による回転、第2回転速度による回転の繰り返しにより進めることができる。なお、検体注入後には、反応室洗浄のため、必要に応じて洗浄液や緩衝液を反応室ユニットにおける試薬・検体受けに注入し、同様に遠心処理を行って反応室を洗浄してもよい。また、被検物質は複数であってもよい。
なお、同じ検体について分析チップを回転させる際の回転数を変化させて2回以上の分析を行うことにより、測定範囲の異なる2以上の測定結果を容易に得ることもできるので、検体中の被検物質の量に応じた正確な分析を容易に得ることができる。
実施例1
図42−1に記載の分析チップ4060を用いて、不溶性成分の分離、試薬の送液および免疫分析反応を行った。分析チップの材料は、チップ本体がポリプロピレン、試薬リザーバユニットがカーボンブラック含有ポリプロピレン(光透過率1%、吸水率0.1%)、反応室ユニットがポリメチルメタクリレート(光透過率90%)である。また、分析チップの大きさは、チップ本体が40×80×5mm、試薬リザーバユニットが12×63×5mm、反応室ユニットが6×12×5mmである。反応の手順は、図42−1、図42−2、図42−3、図42−4、図42−5、図42−6、図47−7、図42−8に記載するとおりである。
まず、懸濁液保持槽2001に懸濁液(検体)を、試薬リザーバユニットに試薬をそれぞれ注入し、分析チップと試薬リザーバユニットとを嵌合した(図42−1)。検体は全血であった。一方試薬リザーバユニットには、試薬貯液槽2009にホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗体(HRP Ab)を、第2の貯液槽3001−2−1および3001−2−2に基質を、第2の貯液槽3010−3および3030−3に洗浄液を、それぞれ注入した。
次に、分析チップを回転させた(図42−2)。速度2000Gとし、回転中心軸に対する分析チップの角度は20°、回転半径73ミリメートル、回転時間2分とした。不溶性成分分離部において全血は不溶性成分保持槽2003に移動し、ここで不溶性成分である血球細胞と血漿とが分離し、血漿が分離液保持槽2002に移動した。HRP Abは試薬貯液槽2009から試薬保持槽2005に移動した。多段送液部においては、第2の貯液槽3001−2−1および3001−2−2内の基質が、流路3000E−0および流路3000A−1を通って1段目の送液ユニットの第1の保持槽3010−1に移動した。1段目の送液ユニットの第2の貯液槽3010−3の洗浄液が流路3000E−1および流路3000C−1を通って2段目の送液ユニットの第1の保持槽3020−1に移動した。3段目の送液ユニットの第2の貯液槽3030−3の洗浄液は、流路3000Dを通って反応室ユニットに移動し、これにより反応室ユニット内が予備洗浄された。反応室ユニット内を洗浄した洗浄液は開口部1011Aから排出され、排出路4021を通って廃液槽4020に移動した。このように、試薬リザーバユニットの各槽に貯液された試薬が、一度の回転時に分析チップ本体の各槽に移動した。
続いて回転を停止し5分間静置させた(図42−3)。分離液送液路2004の下方の分離液混合槽2021で、HRP Abと血漿が混合し、血漿中の抗原とHRP Abが結合した。本実施例においては、抗原としてのインターロイキン8(IL−8)を検出するために、抗体はIL−8検出抗体を用いた。1段目の送液ユニットの第1の保持槽3010−1内の基質は、流路3000B−1を通って第2の保持槽3010−2に移動した。2段目の送液ユニットの第1の保持槽3020−1内の洗浄液は、流路3000B−2を通って第2の保持槽3020−2に移動した。
続いて分析チップを再び回転させた(図42−4)。回転条件は、速度500Gとし、回転中心軸に対する分析チップの角度は20°、回転半径73ミリメートル、回転時間2分とした。分離液送液路2004のHRP Abと血漿の混合液は、分離液混合槽2021から反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012を通じて、反応室1011に入った。これにより反応室において担体に結合した一次抗体と混合液中の抗原とHRP Abが結合した成分の免疫反応が行われた。反応室1011の開口部1011Aから排出された反応後の排出液は、排出路4021を通って廃液槽4020に流出した。1段目の送液ユニットの第2の保持槽3010−2内の基質は、流路3000C−1を通って2段目の送液ユニットの第1の保持槽3020−1に移動した。2段目の送液ユニットの第2の保持槽3020−2内の洗浄液は、流路3000C−2を通って3段目の送液ユニットの第1の保持槽3030−1に移動した。
再び分析チップの回転を停止し30秒間静置した(図42−5)。2段目の送液ユニットの第1の保持槽3020−1の洗浄液は、流路3000B−2を通って、第2の保持槽3020−2に移動した。3段目の送液ユニットの第1の保持槽3030−1の洗浄液は、流路3000B−3を通って第2の保持槽3030−2に移動した。
さらに再び分析チップを回転させた(図42−6)。回転条件は、先の回転の際の条件と同様とした。2段目の送液ユニットの第2の保持槽3020−2の基質は、流路3000C−2を通って3段目の送液ユニットの第1の保持槽3030−1に移動した。3段目の送液ユニットの第2の保持槽3030−2の洗浄液は、流路3000Dを通って、反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012から反応室1011に入った。これにより反応室内が次の基質の反応に備え洗浄された。反応室1011の開口部1011Aから排出された反応後の排出液は、排出路4021を通って廃液槽4020に流出した。
再び分析チップの回転を停止し30秒間静置した(図42−7)。第1の保持槽3030−1内の基質は、流路3000B−3を通って第2の保持槽3030−2に移動した。
再び分析チップを回転させた(図42−8)。回転条件は、速度100Gとし、回転中心軸に対する分析チップの角度は20°、回転半径73ミリメートル、回転時間15秒とした。第2の保持槽3030−2内の基質は、流路3000Dを通って、反応室ユニットにおける試薬・検体受け1012から反応室1011に入った。反応室1011の開口部1011Aから排出された一部の基質溶液は、排出路4021を通って廃液槽4020に流出した。回転停止後、5分間静置した。これにより反応室内の担体に抗原、抗体を介して結合したHRPと酵素基質とのの反応が行われ、反応室内に蛍光色素が生成された。次に遠心装置から分析チップを取り出し、蛍光検出装置に分析チップを装着し、生成された蛍光色素を検出した。
このように、回転/停止を4回繰り返すだけで、外部にポンプや穿孔装置などを必要とせず、1つの分析チップを用いて不溶性成分を分離し、全ての免疫反応を進めることができることが明らかとなった。