次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る成形方法を実施できる射出成形機1の構成について、図5及び図6を参照して説明する。
図5において、Mは射出成形機であり、射出装置1iと型締装置1cを備える。射出装置1iは、前端に射出ノズル21nを、後部にホッパ21hをそれぞれ有する加熱筒21を備え、この加熱筒21の内部にはスクリュ22を挿入するとともに、加熱筒21の後端にはスクリュ駆動部23を配設する。スクリュ駆動部23は、片ロッドタイプの射出ラム24rを内蔵する射出シリンダ(油圧シリンダ)24を備え、射出シリンダ24の前方に突出するラムロッド24rsはスクリュ22の後端に結合する。また、射出ラム24rの後端には、射出シリンダ24に取付けた計量モータ(オイルモータ)25のシャフトがスプライン結合する。26は、射出装置1iを進退移動させて金型2に対するノズルタッチ又はその解除を行う射出装置移動シリンダを示す。これにより、射出装置1iは、射出ノズル21nを金型2にノズルタッチし、金型2のキャビティ内に溶融(可塑化)した樹脂Rを射出充填することができる。
一方、型締装置1cには、型締シリンダ(油圧シリンダ)27の駆動ラム27rにより可動型2mを変位させる直圧方式の油圧式型締装置を用いる。型締装置1cに、このような油圧式型締装置を用いれば、射出充填時に射出圧力により可動型2mを変位させ、必要な隙間量Lm(Lmp,Lmr)を生じさせることに最適である。型締装置1cは、位置が固定され、かつ離間して配した固定盤28と型締シリンダ27間に架設した複数のタイバー29…にスライド自在に装填した可動盤30を有し、この可動盤30には型締シリンダ27から前方に突出したラムロッド27rsの先端を固定する。また、固定盤28には固定型2cを取付けるとともに、可動盤30には可動型2mを取付ける。この固定型2cと可動型2mは金型2を構成する。これにより、型締シリンダ27は金型2に対する型開閉及び型締を行うことができる。なお、31は金型2を開いた際に、可動型2mに付着した成形品G(図9)の突き出しを行う突出しシリンダを示す。
他方、11は油圧回路であり、油圧駆動源となる可変吐出型油圧ポンプ36及びバルブ回路37を備える。油圧ポンプ36は、ポンプ部38とこのポンプ部38を回転駆動するサーボモータ39を備える。40はサーボモータ39の回転数を検出するロータリエンコーダを示す。また、ポンプ部38は、斜板型ピストンポンプにより構成するポンプ機体41を内蔵する。したがって、ポンプ部38は、斜板42を備え、斜板42の傾斜角(斜板角)を大きくすれば、ポンプ機体41におけるポンプピストンのストロークが大きくなり、吐出流量が増加するとともに、斜板角を小さくすれば、同ポンプピストンのストロークが小さくなり、吐出流量が減少する。よって、斜板角を所定の角度に設定することにより、吐出流量(最大容量)が所定の大きさに固定される固定吐出流量を設定することができる。斜板42には、コントロールシリンダ43及び戻しスプリング44を付設するとともに、コントロールシリンダ43は、切換バルブ(電磁バルブ)45を介してポンプ部38(ポンプ機体41)の吐出口に接続する。これにより、コントロールシリンダ43を制御することにより斜板42の角度(斜板角)を変更することができる。
さらに、ポンプ部38の吸入口は、オイルタンク46に接続するとともに、ポンプ部38の吐出口は、バルブ回路37の一次側に接続し、さらに、バルブ回路37の二次側は、射出成形機1における射出シリンダ24,計量モータ25,型締シリンダ27,突出しシリンダ31及び射出装置移動シリンダ32に接続する。したがって、バルブ回路37には、射出シリンダ24,計量モータ25,型締シリンダ27,突出しシリンダ31及び射出装置移動シリンダ32にそれぞれ接続する切換バルブ(電磁バルブ)を備えている。なお、各切換バルブは、それぞれ一又は二以上のバルブ部品をはじめ、必要な付属油圧部品等により構成され、少なくとも、射出シリンダ24,計量モータ25,型締シリンダ27,突出しシリンダ31及び射出装置移動シリンダ32に対する作動油の供給,停止,排出に係わる切換機能を有している。
これにより、サーボモータ39の回転数を可変制御すれば、可変吐出型油圧ポンプ36の吐出流量及び吐出圧力を可変でき、これに基づいて、上述した射出シリンダ24,計量モータ25,型締シリンダ27,突出しシリンダ31及び射出装置移動シリンダ32に対する駆動制御を行うことができるとともに、成形サイクルにおける各動作工程の制御を行うことができる。このように、斜板角の変更により固定吐出流量を設定可能な可変吐出型油圧ポンプ36を使用すれば、ポンプ容量を所定の大きさの固定吐出流量(最大容量)に設定できるとともに、固定吐出流量を基本として吐出流量及び吐出圧力を可変できるため、制御系による制御を容易かつ円滑に実施できる。
一方、51は成形機コントローラであり、ディスプレイ3が付属する。ディスプレイ3にはタッチパネルが付設され、このタッチパネルにより各種設定操作及び選択操作等を行うことができる。前述したサーボモータ39は、成形機コントローラ51に内蔵するサーボアンプ53(図6)に接続するとともに、バルブ回路37は成形機コントローラ51の制御信号出力ポートに接続する。また、ロータリエンコーダ40は成形機コントローラ51の入力ポートに接続する。他方、金型2の外側面には位置検出器(隙間センサ)4を付設する。この位置検出器4は、可動型2mと固定型2cの相対位置、即ち、隙間量Lmの大きさを検出する機能を有し、例えば、可動型2m又は固定型2cの一方に取付けた反射板4pと、他方に取付けることにより光又は電波を反射板4pに投謝して測距する反射型測距センサ4sの組合わせにより構成する位置検出器4を利用できる。さらに、油圧回路11におけるバルブ回路37の一次側には、油圧を検出する圧力センサ5を付設するとともに、油温を検出する温度センサ6を付設する。そして、位置検出器4,圧力センサ5及び温度センサ6は成形機コントローラ51のセンサポートに接続する。
成形機コントローラ51には、図6に示すように、要部として、コントローラ本体55と上述したサーボアンプ53が含まれる。コントローラ本体55は、CPU及び内部メモリ等のハードウェアを内蔵するコンピュータ機能を備えている。したがって、内部メモリには、各種演算処理及び各種制御処理(シーケンス制御)を実行するため制御プログラム(ソフトウェア)55pを格納するとともに、各種データ(データベース)類を記憶可能なデータメモリ55mが含まれる。制御プログラム55pには、本実施形態に係る成形方法を実現するための制御プログラムが含まれる。また、サーボアンプ53は、圧力補償部56、速度リミッタ57、回転速度補償部58、トルク補償部59、電流検出部60及び速度変換部61を備え、圧力補償部56にはコントローラ本体55から、成形射出圧力Pi(リミット圧力Ps)又は成形型締力Pcが付与されるとともに、速度リミッタ57には速度限界値VLが付与される。これにより、圧力補償部56からは圧力補償された速度指令値が出力し、速度リミッタ57に付与される。この速度指令値はリミット圧力Psにより制限されるとともに、速度リミッタ57から出力する速度指令値は、速度限界値VLにより制限される。さらに、速度リミッタ54から出力する速度指令値は、回転速度補償部58に付与されるとともに、この回転速度補償部58から出力するトルク指令値はトルク補償部59に付与される。そして、トルク補償部59から出力するモータ駆動電流がサーボモータ39に供給され、サーボモータ39が駆動される。なお、ロータリエンコーダ40から得るエンコーダパルスは、速度変換部61により速度検出値に変換され、回転速度補償部58に付与されることにより、回転速度に対するマイナループのフィードバック制御が行われる。
次に、本実施形態に係る射出成形機1の成形方法について、図1〜図11を参照して具体的に説明する。
本実施形態に係る成形方法の概要は、
(A) 予め、生産時に使用する成形型締力Pcと成形射出圧力Piを求めるとともに、成形条件として設定する。この際、
(x) 射出充填時に、固定型2cと可動型2m間に適切な隙間量(自然隙間)Lmが生じること、
(y) 成形品Gには、バリ,ヒケ及びソリ等の成形不良が発生しないこと、
を条件とする。
また、自然隙間Lmは、ガス抜き及び樹脂Rの圧縮(自然圧縮)を考慮して、最大時の隙間量(最大値)Lmpと、冷却時間Tcが経過した後の隙間量となる残留隙間(最小値)Lmrを考慮し、
(xa) 最大値となる隙間量Lmpは、0.03〜0.20〔mm〕、
(xb) 最小値となる残留隙間Lmrは、0.01〜0.04〔mm〕、
の各許容範囲を満たすことを条件とする。
さらに、金型2への樹脂充填開始to以降における時間tに対する隙間量Lmの変化データを検出し、かつ良品成形可能な変化データから複数のモニタ項目M1…に対応する基準データDs…を設定する。
金型2への樹脂充填開始to以降における時間tに対する隙間量Lmの変化データを図11に示す。Lmsは良品成形可能な変化データであり、Lmeは不良成形時の変化データである。表1に、一例として、四つのモニタ項目M1,M2,M3,M4を示す。
表1において、モニタ項目M1は、金型2が開く際の型開速度及び/又は加速度を示し、モニタ項目M2は、金型2が開く際の型開時間(型開開始時及び/又は型開停止時)を示し、モニタ項目M3は、隙間量Lm(最大値,最小値)を示し、モニタ項目M4は、金型2が開いた後に閉じる方向に戻る際の型戻り速度及び/又は加速度を示す。一方、図11において、ta,tb,tc,tdは、樹脂充填開始to以降の時刻(時間)をそれぞれ示すとともに、Lmpは隙間量Lmの最大値、Lmrは隙間量Lmの最小値をそれぞれ示す。したがって、これらの時間(時刻)ta,tb,tc,td,最大値Lmp及び最小値Lmrを、基準データDs…として設定できる。この場合、図11の良品成形可能な変化データLmsにおいて、型開速度は、型開開始時ta,型開停止時tb及び最大値Lmpの演算により求めることができる。この型開速度は、例えば、樹脂温度が高いと遅くなり、樹脂温度が低いと速くなる。型開時間は、型開開始時ta,型開停止時tb及び型戻り開始時tcを用いることができる。この型開開始時taは、例えば、樹脂温度に左右されるとともに、型開停止時tbは、基本的に射出圧力と型締力のバランスに左右される。隙間量Lmは、最大値Lmp及び最小値Lmrを用いることができる。この最大値Lmp及び最小値Lmrは、例えば、前述したように、基本的な設定要素となることから成形条件が適切か不適切かにより左右される。型戻り速度は、型戻り開始時tc,冷却工程の終了時td,最大値Lmp及び最小値Lmrの演算により求めることができる。この型戻り速度は、例えば、樹脂温度が低いと遅くなり、樹脂温度が高いと速くなる。なお、基準データDs…(ta,tb,tc,td,Lmp,Lmr)の数及び種類は任意であり、図10に示すように、一定時間間隔毎の時間(時刻)tm…とそのときの隙間量Lm…を用いてもよい。基準データDs…の数と種類を増やせば、例えば、型開速度等をより緻密に求めることができるとともに、型開速度や型戻り速度に加えて加速度を求めることもできる。また、基準データDs…には、ta,tb,tc,td,Lmp,Lmrから演算により求めた型開速度等の各モニタ項目M1…自体を用いてもよい。
なお、例示の場合、金型2への樹脂充填開始to以降における時間tに対する隙間量Lmの変化データに、樹脂Rが充填された金型2の冷却工程が時間tdで終了するまでの変化データが含まれるようにしたため、金型2から成形品Gを取出す直前までの隙間量Lmに係わる変化データを検出可能となり、高品質の成形品Gを確保する観点から最良のパフォーマンスを得ることができる。さらに、モニタ項目M1…には、金型2が開く際の型開速度及び/又は加速度,金型2が開く際の型開時間(型開開始時及び/又は型開停止時),隙間量Lm(最大値,最小値),金型2が開いた後に閉じる方向に戻る際の型戻り速度及び/又は加速度,の少なくとも二つ以上を含ませることが可能なため、本発明の目的を達成する観点から必要かつ十分なモニタ情報を得ることができる。
(B) 生産時には、設定した成形型締力Pcにより型締を行うこと、成形射出圧力Piをリミット圧力に設定すること、の成形条件により樹脂Rは単純に射出する。
また、金型2への樹脂充填開始to以降における時間tに対する隙間量Lmの変化データから基準データDs…に対応する検出データDd…を得、かつ各モニタ項目M1…に対応する基準データDs…と検出データDd…間の偏差データDe…を求め、この偏差データDe…を所定のデータ処理に用いて成形を行う。本実施形態では所定のデータ処理の具体例として良否判定処理を例示する。
したがって、このような成形方法によれば、射出充填時には、金型2において自然隙間Lm及び自然圧縮(Lm−Lr)が発生する。この結果、射出装置1iにより射出充填される樹脂Rの挙動が不安定であっても、型締装置1cが不安定な樹脂Rの挙動に適応し、高度の品質及び均質性を有する成形品Gが得られる。
次に、本実施形態に係る成形方法の具体的な処理手順について、図1〜図11を参照して説明する。最初に、生産を行う前の初期設定について説明する。
初期設定では、まず、成形条件となる成形射出圧力Piと成形型締力Pcを求め、成形条件として設定する。以下、初期設定の具体的な処理手順について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
射出装置1i側の射出条件となる射出圧力には、射出装置1iの能力(駆動力)に基づく射出圧力を設定できる(ステップS21)。この場合、射出圧力は、射出シリンダ24に接続した油圧回路11における圧力センサ5により検出した油圧Poにより求めることができる。射出圧力は、絶対値として正確に求める必要がないため、検出した油圧Poの大きさを用いてもよいし、演算により射出圧力に変換して用いてもよい。
また、型締装置1c側の型締条件となる型締力には、型締装置1cの能力(駆動力)に基づく型締力を設定できる(ステップS22)。この場合、型締力は、型締シリンダ27に接続した油圧回路11における圧力センサ5により検出した油圧Poにより求めることができる。型締力は、絶対値として正確に求める必要がないため、検出した油圧Poの大きさを用いてもよいし、演算により型締力に変換して用いてもよい。なお、油圧回路11はバルブ回路37により切換えられ、型締時には型締装置1c側の油圧回路として機能するとともに、射出時には射出装置1i側の油圧回路として機能する。射出圧力及び型締力として、このような油圧Poを用いれば、成形型締力Pc及び成形射出圧力Piに係わる設定を容易に行うことができる。しかも、絶対値としての正確な成形型締力Pc及び成形射出圧力Piの設定は不要となるため、より誤差要因の少ない高精度の動作制御を行うことができる。
次いで、初期設定した型締力に対する最適化処理を行うことにより生産時に用いる成形型締力Pcを求めるとともに、初期設定した射出圧力に対する最適化処理を行うことにより生産時に用いる成形射出圧力Piを求める(ステップS23,S24)。型締力及び射出圧力を最適化する方法の一例について、図7を参照して説明する。例示の場合、初期設定した型締力は40〔kN〕である。初期設定した型締力及び射出圧力を用いて試し成形を行った結果は、図7に示すように、隙間量(最大値)Lmp及び残留隙間Lmrはいずれも0となる。即ち、型締力が大きいため、バリは発生しない(◎)とともに、ヒケ,ソリ,ガス抜きに関してはいずれも不良(▲ ▲▲)となる。この場合、隙間量(最大値)Lmpと残留隙間Lmrは位置検出器4により検出する。
そこで、型締力の大きさ及び射出圧力の大きさを、図7に示すように、段階的に低下させ、それぞれの段階で試し成形を行うことにより、固定型2cと可動型2m間の隙間量Lm(Lmp,Lmr)を測定するとともに、成形品Gの良否状態を観察する(ステップS25,S26)。図7が、この結果を示している。
なお、図7に、射出圧力のデータがないが、射出圧力の最適化は、射出充填時に可動型2mと固定型2c間に隙間量(最大値)Lmpが生じ、かつ良品成形可能となることを条件に、設定し得る最小値又はその近傍の値を成形射出圧力Piとすることができる。したがって、具体的には、図7に示すように、型締力を変更(低下)した際に、適宜、射出圧力も変更(低下)し、樹脂Rが金型2に対して正常に充填しなくなる手前の大きさを選択することができる。成形射出圧力Piとして、このような最小値又はその近傍の値を選択すれば、これに伴って、成形型締力Pcも最小値又はその近傍の値に設定可能となるため、省エネルギ性を高める観点から最適なパフォーマンスを得ることができるとともに、機構部品等の保護及び長寿命化を図ることができる。そして、求めた成形射出圧力Piは、生産時の射出圧力に対するリミッタ圧力Psとして設定する(ステップS27)。
他方、図7における各段階において、仮想線枠Zuで囲まれる型締力が14,15,16〔kN〕のとき、隙間量(最大値)Lmp及び残留隙間Lmrは、いずれも許容範囲を満たしている。即ち、隙間量Lmpは、0.03〜0.20〔mm〕の許容範囲を満たすとともに、残留隙間Lmrは、0.01〜0.04〔mm〕の許容範囲を満たしている。また、バリ,ヒケ及びソリのいずれも発生しない(◎)とともに、ガス抜きも良好(◎)に行われ、良品成形品を得るという条件を満たしている。したがって、成形型締力Pcは、三つの型締力14,15,16〔kN〕から選択して設定できる。そして、選択した型締力は、生産時に型締を行う際の成形型締力Pcとして設定する(ステップS28)。
図7は、成形型締力Pcと成形射出圧力Piの設定手法を説明するための実験的なデータである。したがって、実際の設定に際しては、例えば、型締力を、40,30,20,10等のように、数回程度の変更実施により目的の成形型締力Pc及び成形射出圧力Piを求めることができる。また、型締力及び射出圧力の大きさは、オペレータが任意に設定してもよいし、射出成形機1に備えるオートチューニング機能等を併用しつつ自動又は半自動により求めてもよい。オートチューニング機能を利用した場合には、バリが発生する直前の型締力を容易に求めることができる。
一方、射出装置1iの射出速度Vdに対する速度限界値VLを設定する(ステップS29)。この速度限界値VLは、必ずしも設定する必要はないが、設定することにより、万が一、射出速度Vdが過度に速くなった場合でも、金型2やスクリュ22等に対して機械的な保護を図ることができる。したがって、速度限界値VLには、金型2やスクリュ22等に対して機械的な保護を図ることができる大きさを設定する。
さらに、他の必要事項の設定を行う(ステップS30)。例示の射出成形機1は、成形型締力Pcを、油圧回路11における温度センサ6により検出した油温Toの大きさにより補正する補正機能を備えている。この補正機能は、成形型締力Pcに対する温度ドリフト等による油温Toの影響を排除するための機能であり、成形型締力Pcを常に一定に維持できるため、動作制御の更なる高精度化及び安定化を図れるとともに、成形品Gの高度の品質及び均質性に寄与できる。したがって、他の必要事項の設定としては、補正機能により補正する際に使用する補正係数等を適用できる。
他方、初期設定では、金型2への樹脂充填開始to以降における時間tに対する隙間量Lmの変化データを検出し、かつ良品成形可能な変化データにおける複数のモニタ項目M1…に対応する基準データDs…を設定する。以下、基準データDs…の具体的な設定手順について、図1に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、上述した初期設定時の成形工程(ステップS1)において、射出工程の開始、即ち、金型2に対する樹脂Rの充填が開始したなら金型2への樹脂充填開始to以降における時間tに対する隙間量Lmの変化データを位置検出器4により検出する(ステップS2,S3)。この際、検出した隙間量Lmの変化データは、コントローラ本体55のデータメモリ55mに一次記憶される(ステップS4)。一方、このときに成形された成形品Gが不良品であれば、成形条件等の変更が行われ、次の成形工程(成形サイクル)が行われる(ステップS5,S6,S1…)。なお、図11に示すLmeが不良品成形時の変化データの一例となる。
以上の処理は良品が得られるまで繰り返し行われる。なお、この際の処理は、上記の初期設定時の処理に対応する。そして、良品が得られたなら、検出した隙間量Lm(変化データ)から複数のモニタ項目M1…に対応する時間及び隙間量Lmに係わるデータを取込み、このデータを基準データDs…として設定する(ステップS5,S7,S8)。この場合、不良品の隙間量Lm(変化データ)は、次の成形工程が開始する前にリセットされる。図11に示すLmsが前述した良品成形可能な変化データとなる。例示の場合、基準データDs…は、前述した図11に示すta,tb,tc,td,Lmp,Lmrとなる。本実施形態に係る成形方法は、この基準データDs…を所定のデータ処理(良否判定処理等)に利用することにより成形を行う(ステップSA)。
ところで、図11に示す良品成形可能な変化データLmsと不良品成形時の変化データLmeを比較した場合、両者における最大値Lmp…の大きさは同じであり、また、最小値Lmr…の大きさも同じであり、隙間量Lmのいわば静的なデータとなるモニタ項目M3においては、両者に偏差が生じないことになる。したがって、モニタ項目M3のみをもって良否判定しても適正な判定はできないことになる。これに対して、他のデータta,tb,tcにおいては偏差が生じているため、モニタ項目M1,M2,M4は有効に機能する。この現象は、本実施形態に係る成形方法における固有の現象となる。即ち、従来の成形方法では、樹脂Rの射出速度及び射出圧力等の成形条件は、射出装置1i側で詳細に設定されるため、金型2には、速度及び圧力が規制された樹脂Rが流入することになるが、本実施形態に係る成形方法では、このような規制がないため、樹脂Rの性質(特性)がそのまま金型2の隙間量Lmの大きさや発生タイミングに反映される。
本実施形態(本発明)に係る成形方法は、この現象に着目したものである。したがって、従来の成形方法では、射出装置1iから高精度に設定された速度条件(圧力条件)により樹脂Rが金型2に射出充填されても、射出装置1iから金型2に至る間のバラツキ要因が付加されるが、本実施形態(本発明)に係る成形方法では、最終段の金型2の内部で樹脂Rに最適な速度条件(圧力条件)を反映させることが可能となり、射出装置1iから金型2に至る間のバラツキ要因は付加されない。これにより、成形不良の低減による歩留まりの向上を実現できるとともに、成形品Gにおける高度の品質及び均質性を確保できる。以上により、生産を行う前の初期設定が終了する。
次に、生産時の処理手順、即ち、成形射出圧力Pi及び成形型締力Pcを用いた生産時の処理手順について、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、バルブ回路37の切換及びサーボモータ39の制御により、射出装置1iの計量モータ26を駆動し、樹脂Rを可塑化して射出準備を行う(ステップS31)。本実施形態に係る成形方法では、一般的な成形法のように、樹脂Rを正確に計量する計量工程は不要である。即ち、一般的な計量工程における計量動作は行うが、正確な計量値を得るための計量制御は行わない。いわば樹脂Rが不足する前に樹脂Rを追加する動作となる。また、バルブ回路37の切換及びサーボモータ39の制御により、型締装置1cの型締シリンダ27を駆動し、型締力が成形型締力Pcとなるように、金型2に対する型締を行う(ステップS32)。このときの金型2の状態を図9(a)に示す。
次いで、バルブ回路37の切換及びサーボモータ39の制御により、射出装置1iの射出シリンダ24を駆動し、図8に示す射出開始時点tsから樹脂Rの射出を行う(ステップS33)。この場合、スクリュ21は定格動作により前進させればよく、スクリュ21に対する速度制御及び圧力制御は不要である。これにより、加熱筒22内の可塑化溶融した樹脂Rは金型2のキャビティ内に充填される(ステップS34)。樹脂Rの充填に伴い、図8に示すように、射出圧力Pdが上昇する。そして、リミット圧力Psに近づき、リミット圧力Psに達すれば、リミット圧力Psに維持するための制御、即ち、オーバーシュートを防止する制御が行われ、射出圧力Pdはリミット圧力Ps(成形射出圧力Pi)に維持される(ステップS35,S36)。したがって、射出動作では実質的な一圧制御が行われる。なお、図8中、Vdは射出速度を示す。
また、金型2のキャビティ内に樹脂Rが満たされることにより、金型2は樹脂Rに加圧され、固定型2cと可動型2m間に隙間量Lmが生じるとともに、最大時には隙間量(最大値)Lmpが生じる(ステップS37)。この隙間量(最大値)Lmpは、予め設定した成形型締力Pc及び成形射出圧力Piにより、0.03〜0.20〔mm〕の許容範囲となり、良好なガス抜きが行われるとともに、不良の排除された良品成形が行われる。このときの金型2の状態を図9(b)に示す。一方、時間の経過に伴って金型2のキャビティ内における樹脂Rの固化が進行するとともに、この固化に伴って樹脂Rの圧縮(自然圧縮)が行われる(ステップS38)。
そして、設定した冷却時間Tcが経過すれば、バルブ回路37の切換及びサーボモータ39の制御により、型締シリンダ27を駆動し、可動型2mを後退させることにより型開きを行うとともに、バルブ回路37の切換及びサーボモータ39の制御により、突出しシリンダ31を駆動し、可動型2mに付着した成形品Gの突き出しを行う(ステップS39,S40)。これにより、成形品Gが取り出され、一成形サイクルが終了する。なお、冷却時間Tcは、射出開始時点tsからの経過時間として予め設定することができる。また、図8に示すように、冷却時間Tcの経過した時点teでは、樹脂Rの自然圧縮により、固定型2cと可動型2m間の残留隙間Lmrは、予め設定した成形型締力Pc及び成形射出圧力Piにより、0.01〜0.04〔mm〕の許容範囲となり、金型2のキャビティ内における樹脂Rに対する自然圧縮が確実に行われるとともに、成形品Gにおける高度の品質及び均質性が確保される。このときの金型2の状態を図9(c)に示す。
この後、次の成形が継続する場合には、同様に、樹脂Rを可塑化して射出準備を行うとともに、以降は、型締、射出、冷却等の処理を同様に行えばよい(ステップS41,S41,S42…)。
本実施形態に係る成形方法は、このような基本態様の成形処理を含み、予め、射出充填時に可動型2mと固定型2c間に所定の隙間量Lmが生じ、かつ良品成形可能な成形射出圧力Piと成形型締力Pcを求めて設定するとともに、生産時に、成形型締力Pcにより型締装置1cを型締し、かつ成形射出圧力Piをリミット圧力Psとして設定し、射出装置1iを駆動して金型2に対する樹脂Rの射出充填を行うようにしたため、金型2に充填された樹脂Rに対して、常に設定した成形射出圧力Piを付与できる。この結果、一定の成形型締力Pcと一定の成形射出圧力Piとの相対的な力関係により所定の隙間量Lmを生じさせることができるとともに、樹脂Rの射出充填が終了した後も成形型締力Pcによる自然圧縮を生じさせることができ、成形品Gに対応する基本的な高品質化及び均質化を図ることができる。したがって、温度や圧力等に敏感に影響を受けやすい特性を有する低粘性の樹脂Rの成形に最適となる。
また、成形射出圧力Piと成形型締力Pcを設定すれば足りるため、相互に影響し合う、射出速度,速度切換位置,速度圧力切換位置,射出圧力,保圧力等の正確性の要求される射出条件をはじめ、正確な計量が要求される計量値等の計量条件を含む各種成形条件の設定は不要となる。したがって、成形条件のシンプル化及び設定容易化、更には品質管理の容易化を図ることができるとともに、生産時における動作制御も容易に行うことができる。しかも、射出速度に対する多段の制御や保圧に対する制御などの一連の制御が不要となるなど、成形サイクル時間の短縮を図れるとともに、量産性及び経済性を高めることができる。
他方、生産時の各成形サイクルにおいては、本実施形態に係る成形方法に従って成形品Gに対する良否判定処理を行う。以下、良否判定処理の具体的な処理手順について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。
良否判定処理は、生産時の各成形サイクルにおいて、金型2への樹脂充填開始to以降における時間tに対する隙間量Lmの変化データから複数のモニタ項目M1…に対応する検出データDd…を検出し、かつ各モニタ項目M1…に対応する基準データDs…と検出データDd…間の偏差データDe…を求め、この偏差データDe…を利用して良否判定処理を行う。
まず、生産時の成形工程(ステップS11)において、射出工程の開始、即ち、金型2に対する樹脂Rの充填が開始したなら、金型2への樹脂充填開始to以降における時間tに対する隙間量Lmの変化データを位置検出器4により検出する(ステップS12,S13)。そして、検出した隙間量Lm(変化データ)から複数のモニタ項目M1…に対応する時間(時刻)及び隙間量Lmに係わるデータを検出データDd…として取込む(ステップS14)。例示の検出データDd…は、前述した基準データDs…の設定時に検出したta,tb,tc,td,Lmp,Lmrに対応する時間(時刻)及び隙間量Lmに係わるデータとなる。
また、得られた各検出データDd…と対応する基準データDs…を比較し、両者の偏差となる偏差データDe…を演算により求める(ステップS15)。そして、求めた各偏差データDe…は、予め設定した閾値データDx…と比較して良否判定を行う(ステップS16)。この場合、閾値データDx…は、各偏差データDe…に対応して複数(例示は四つ)設定されるため、複数のモニタ項目M1…に対応する複数の偏差データDe…が得られる。良否判定は、各偏差データDe…に対して行われるため、全ての偏差データDe…に対する良否判定が終了したなら、これらの良否判定結果に基づいて、最終的な判定、即ち、成形品Gに対する良否の判定を行う(ステップS17,S18)。
この際、全ての偏差データDe…に対する良否判定結果が良であれば、良品と判断できるため、次の成形サイクルに移行する(ステップS18,S20)。これに対して、予め設定した不良条件を満たした場合には、所定の不良処理を行う(ステップS18,S19)。不良処理としては、例えば、不良品回収ボックスへの成形品Gの投入,不良品が発生した旨の表示や記録,成形動作の停止,等の必要な一又は二以上の処理を行うことができる。また、不良条件としては、例えば、全ての偏差データDe…に対する良否判定の結果において、予め設定した一又は二以上の特定の不良が発生した場合を不良条件とすることができる。
図10には、良品成形可能な変化データをLmsにより、また、不良品成形時の変化データをLmea,Lmebによりそれぞれ示す。図10に例示する不良品成形時の変化データLmea,Lmebは、良品成形可能な変化データLmsに対して、各偏差データDe…が全て異なる場合を示しているが、偏差データDe…を、以上の良否判定処理(所定のデータ処理)に用いて成形を行うようにすれば、成形品Gの良否に係わる緻密かつ多くの情報を得ることができるため、より正確で確実な良否判定を行うことができる。特に、成形材料のロット等の違いによる品質バラツキに基づく成形不良を早期かつ確実に検出して必要な対応策を施すことができる。
他方、偏差データDe…を用いる他のデータ処理には、偏差データDe…を、単独で、又は基準データDs…,検出データDd…,変化データの一つ以上と一緒に、ディスプレイ3の画面に表示する表示処理を適用することができる。このような表示処理を行うことにより、オペレータは、ディスプレイ3の画面を見て時間tに対する隙間量Lmの変化の度合や傾向などを目視により詳細に把握できるため、不良原因等を容易に特定できるとともに、成形条件に対して的確にマニュアル変更できる。さらに、偏差データDe…を用いる他のデータ処理には、偏差データDe…に基づいて、予め偏差データDe…に対応して設定した補正データDa…により、対応する被補正要素を補正する補正処理を適用することができる。このような補正処理を行うことにより、時間tに対する隙間量Lmの変化データを自動で適正なパターンに修正できるため、オペレータが初心者などであっても容易かつ確実に良品成形を行うことができる。なお、被補正要素には、加熱筒21により樹脂Rを加熱する際の加熱温度等を含めることができる。
よって、このような本実施形態に係る射出成形機1の成形方法によれば、予め、金型2への樹脂充填開始to以降における時間tに対する隙間量Lmの変化データを検出し、かつ良品成形可能な変化データにおける複数のモニタ項目M1…に対応する基準データDs…を設定するとともに、生産時に、金型2への樹脂充填開始to以降における時間tに対する隙間量Lmの変化データから複数のモニタ項目M1…に対応する検出データDd…を検出し、かつ各モニタ項目M1…に対応する基準データDs…と検出データDd…間の偏差データDe…を求め、この偏差データDe…を所定のデータ処理に用いて成形するため、隙間量Lmのいわば静的なデータに加えて、時間tに対する変化データの良否結果を利用して成形可能となり、成形不良の低減による歩留まり向上を図れるとともに、成形品Gの更なる高品質化及び均質化を図ることができる。
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,数量,手法,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、冷却時間Tcの経過後における可動型2mと固定型2c間に所定の残留隙間Lmrを生じさせることが望ましいが、残留隙間Lmrを生じさせない場合を排除するものではない。また、隙間量(最大値)Lmpとして、0.03〜0.20〔mm〕の許容範囲を、残留隙間Lmrとして、0.01〜0.04〔mm〕の許容範囲を、それぞれ例示したが、これらの範囲に限定されるものではなく、新しい樹脂Rの種類等に応じて変更可能である。さらに、成形射出圧力Piは、良品成形可能な最小値又はその近傍の値に設定することが望ましいが、最小値又はその近傍の値以外となる場合を排除するものではない。一方、成形型締力Pcとして、型締シリンダ27に接続した油圧回路11における圧力センサ5により検出した油圧Poを用いる場合を示したが、型締シリンダ27内の油圧を用いてもよいし、可動盤(可動型)等の機構部分における圧力を用いてもよい。
また、例示の射出成形機1及び型締装置1cは、油圧式射出成形機及び油圧式型締装置を例示したが、駆動モータ(サーボモータ)により駆動する電動式射出成形機及び電動式型締装置であってもよい。さらに、モニタ項目M1…として、四つのモニタ項目M1,M2,M3,M4を例示したが、この中の一つのモニタ項目であってもよいし、二つ以上のモニタ項目であってもよいとともに、時刻tbと時刻tcの継続期間等の他のモニタ項目を加えた五つ以上であってもよい。なお、位置検出器4は、隙間量Lmを精度良く検出できるものであれば、公知の各種位置検出器を利用できる。また、時間に対する隙間量Lmの変化データには、樹脂Rが充填された金型2の冷却工程が終了するまでの変化データを含ませたが、必要に応じて冷却工程が終了する前、即ち、途中までの変化データであってもよい。