JP5494977B2 - 熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法 - Google Patents

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Description

本発明は、熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法に関する。
繊維強化プラスチック(FRP)は、軽量で強度の高い材料として、例えば、樹脂中に炭素繊維を加えた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維を加えたガラス繊維強化プラスチック(GFRP)が、広く知られている。
炭素繊維を用いたCFRPは、弾性率や強度が高く、密度が小さい材料となるため、軽量化には不可欠な材料である。CFRPの用途として、例えば、航空機や宇宙機器材料、スポーツ・レジャー用品などに広く用いられており、最近では自動車等に使用されている。
CFRP等の繊維強化プラスチックは、いわゆるマトリクス樹脂に熱硬化樹脂を用いていることから、使用後のリサイクルが難しく、粉砕してコンクリート等の充填材として利用する方法が検討されている。一方、炭素繊維は比較的高価な材料であるため、回収して再利用することに対する要望が高く、CFRP中から炭素繊維を回収するための方法が種々検討されている。その方法の1つとして、硝酸や熱によりマトリクス樹脂を分解して炭素繊維を回収する方法が知られている。ところが、酸化雰囲気が強くなることにより、炭素繊維の表面が劣化してしまうおそれがある。
熱硬化樹脂を分解する技術に関連しては、例えば、シロキサン結合による架橋構造を有するポリマーに高温のアルコールを接触させてポリマー原材としてリサイクルする方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、超臨界状態または亜臨界状態の低級アルコールにフェノール樹脂またはエポキシ樹脂を接触させて分解する方法が開示されており(例えば、特許文献2参照)、得られたモノマー類を利用することで樹脂成分のリサイクルが可能とされている。
さらに、炭素繊維強化プラスチックを水やメタノールなどの超臨界流体または亜臨界流体で高温処理し、新たな流体を加えながら樹脂を分解して炭素繊維を樹脂から分離し、炭素繊維を回収する方法に関する開示がある(例えば、特許文献3参照)。
特開2002−187976号公報 特開2001−55468号公報 特開2005−336331号公報
しかしながら、上記の従来の技術では、例えば熱硬化樹脂を分解除去しようとすると、熱硬化樹脂が分解され過ぎてしまうことにより樹脂としての再利用が難し難しくなる場合や、分解すべき樹脂が充分に除去されずに炭素繊維に付着して残存する場合などがあり、必ずしも樹脂の再利用率は高くない。加えて、樹脂が炭素繊維に付着物として残ると、炭素繊維の利用価値が損なわれる。また、熱硬化樹脂からの分解物をリサイクルのために再硬化し再硬化樹脂として利用しようとした場合、処理前の熱硬化樹脂と同等あるいはそれ以上の大きな強度の熱硬化樹脂が得られていないのが実状である。
本発明は、上記状況に鑑みなされたものである。すなわち、比較的低温で超臨界あるいは亜臨界アルコールを用いて熱硬化エポキシ樹脂を再硬化可能な成分へ分解し、無機繊維等と分離することが可能で、更に分解前の熱硬化エポキシ樹脂と同等あるいは同等以上の高硬度を有する再硬化樹脂が得られる熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法が必要とされている。
本発明は、超臨界又は亜臨界条件のアルコールにより熱硬化エポキシ樹脂を分解すると、反応場が高温にならずに、例えば炭素繊維等の劣化が抑えられ、しかもより低温で再硬化可能なエポキシ樹脂分解物としての回収が可能になるとの知見に基づくものである。
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> エステル結合を有する熱硬化エポキシ樹脂と無機繊維及び無機充填物の少なくとも一種とを含む樹脂構造物を、超臨界状態又は亜臨界状態のアルコールにより無触媒下で処理温度250℃〜350℃、処理圧力5〜20MPaの処理条件にて処理し、熱硬化エポキシ樹脂中のエステル結合を選択的に切断することにより前記熱硬化エポキシ樹脂を分解する工程と、分解生成物から液分と無機繊維及び/又は無機充填物とを分離する工程と、分離された前記液分から前記アルコールを除去してエポキシ樹脂分解物を回収する工程と、回収されたエポキシ樹脂分解物と、該エポキシ樹脂分解物との合計量に対して25〜55質量%の硬化剤とを反応させて再硬化樹脂を作製する工程と、を有する熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法である。
<2> 前記無機繊維及び無機充填物の少なくとも一種が、炭素繊維である前記<1>に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法である。
<3> 前記熱硬化エポキシ樹脂の分解は処理時間5分〜120分の処理条件にて処理することにより行なう前記<1>又は前記<2>に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法である。前記処理条件は、処理温度270℃〜320℃、処理圧力5〜15MPa、処理時間10分〜120分の条件であるのが好ましい。
<4> 前記熱硬化エポキシ樹脂の分解は、横軸を処理温度t[℃]、縦軸を処理時間s[分]として関係線を作成したときに、下記の条件(i)〜(iii)を満たす領域の処理条件にて行なう前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法である。
s≦ 4.80×1015・t−5.66 ・・・(i)
s≧ 2.26×1022・t−8.53 ・・・(ii)
250≦t≦350 ・・・(iii)
<5> 回収された前記無機繊維及び/又は無機充填物中の(分解が不十分な)熱硬化エポキシ樹脂の含有割合が5質量%以下である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法である。
<6> 回収された前記エポキシ樹脂分解物に対する前記硬化剤の添加の割合Aと、前記エステル結合を有する熱硬化エポキシ樹脂中で結合状態にある硬化剤の樹脂全体に占める割合Bとの比率(A/B;質量比)が0.9以下である前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法である。
<7> 前記アルコールが、メタノール及びエタノールの少なくとも一方である前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法である。
<8>前記熱硬化エポキシ樹脂の分解は、処理温度270℃〜320℃、処理圧力5〜15MPa、処理時間10分〜120分の処理条件にて処理することにより行なう前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法である。
<9> 前記エポキシ樹脂分解物と反応させる前記硬化剤の割合が、硬化剤及びエポキシ樹脂分解物の合計量に対して30〜40質量%である前記<1>〜前記<8>のいずれか1つに記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法である。
<10> 前記無機充填物は、無機フィラーである前記<1>〜前記<9>のいずれか1つに記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法である。
本発明によれば、比較的低温で超臨界あるいは亜臨界アルコールを用いて熱硬化エポキシ樹脂を再硬化可能な成分へ分解し、無機繊維等と分離することが可能で、更に分解前の熱硬化エポキシ樹脂と同等あるいは同等以上の高硬度の再硬化樹脂が得られる熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法を提供することができる。
エポキシ樹脂分解物と硬化剤の比率を変えて再生成した再硬化樹脂の外観写真である。 超臨界又は亜臨界状態のメタノール中で分解反応を行なうための実験装置を示す概略構成図である。 実施例の操作手順を示す図である。 MALDI−TOF/MSによる分子量測定結果を示す測定チャートである。 再硬化樹脂を割れ試験法により強度(硬度)を試験する強度試験装置の構成を示す概略断面図である。 図5Aの強度試験装置内に再硬化樹脂を配置した状態を示す正面図である。 図5Bの上面図である。 本発明の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法で再硬化された再硬化樹脂とバージンの熱硬化エポキシ樹脂との強度比率を示すグラフである。 CFRP中の全ての熱硬化エポキシ樹脂が超臨界メタノールにより可溶化していることを説明するためのグラフである。 再硬化可能な分解物の回収効率の良好な最大の処理時間と処理温度との関係を示す近似曲線である。 再硬化可能な分解物の回収効率の良い領域を示すグラフである。
以下、本発明の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法について詳細に説明すると共に、該説明を通じて、本発明の熱硬化樹脂再生成用組成物についても詳述する。
本発明の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法は、エステル結合を有する熱硬化エポキシ樹脂と無機繊維及び無機充填物の少なくとも一種とを含む樹脂構造物を、超臨界状態又は亜臨界状態のアルコールにより無触媒下で処理し、熱硬化エポキシ樹脂中のエステル結合を選択的に切断することにより前記熱硬化エポキシ樹脂を分解する工程(以下、「分解工程」という。)と、分解生成物から液分と無機繊維及び/又は無機充填物とを分離する工程(以下、「液分分離工程」という。)と、分離された前記液分から前記アルコールを除去してエポキシ樹脂分解物を回収する工程(以下、「エポキシ樹脂分解物回収工程」という。)と、回収されたエポキシ樹脂分解物と該エポキシ樹脂分解物との合計量に対して25〜55質量%の硬化剤とを反応させて再硬化樹脂を作製する工程(以下、「再硬化樹脂作製工程」という)とを設けて構成されたものである。また、本発明の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法は、必要に応じて、更に上記以外の他の工程を設けて構成されてもよい。
本発明においては、無触媒下で超臨界状態又は亜臨界状態のアルコールによりリサイクル対象物である樹脂構造物中の熱硬化エポキシ樹脂の分解処理を行なうことで、高温あるいは酸化雰囲気等に曝されることによる樹脂構造物中の無機繊維及び無機充填物の劣化の回避が可能である。更に、熱硬化エポキシ樹脂中のエステル結合の優先的切断作用により、熱硬化前のエポキシプレポリマーの主鎖部分(エポキシプレポリマーを構成するモノマーの骨格構造)が壊れずに保たれた状態での分解処理が可能である。これにより、劣化がほとんどない無機繊維及び無機充填物を回収できる。更に、エポキシ樹脂分解物を再硬化することにより、分解前の熱硬化エポキシ樹脂と同等あるいはそれ以上の強度を持つ再硬化樹脂を作製することができる。
以下、本発明の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法について各工程ごとに説明する。
−分解工程−
分解工程では、エステル結合を有する熱硬化エポキシ樹脂の少なくとも一種と、無機繊維及び無機充填物からなる群より選ばれる少なくとも一種とを含む樹脂構造物を、超臨界状態又は亜臨界状態のアルコールにより無触媒下で処理し、エポキシ樹脂中のエステル結合を選択的に切断することにより、前記熱硬化エポキシ樹脂をアルコールに可溶化する。
ここで、被処理物(リサイクル対象物)である「エステル結合を有する熱硬化エポキシ樹脂」とは、分子内にエポキシ基を有するエポキシプレポリマー(以下、「硬化前エポキシ樹脂」ともいう。)が硬化剤と反応することにより、エポキシプレポリマー中のエポキシ基の少なくとも一つが開環して硬化剤との間でエステル結合を形成して架橋した熱硬化エポキシ樹脂である。熱硬化エポキシ樹脂は、例えば下記の反応スキームで得られるものであり、この場合はnは通常0〜2である。

本工程では、超臨界状態又は亜臨界状態のアルコールを用いることにより、熱硬化エポキシ樹脂中のエステル結合を選択的に切断する。その結果、再度、熱硬化エポキシ樹脂に変換可能なエポキシ樹脂分解物が得られる。
例えば下記のように、超臨界または亜臨界アルコールを用いて熱硬化エポキシ樹脂のエステル結合のみを選択的に切断し、再硬化可能なエポキシ樹脂分解物を生成することができる。

超臨界状態のアルコールとは、臨界点(例えばメタノールでは239℃、8.1MPa、エタノールでは243.0℃、6.14MPa)以上の温度及び圧力の状態におかれたアルコールをいう。また、亜臨界状態のアルコールとは、臨界点より低い温度又は圧力の状態におかれたアルコールをいう。
分解工程で用いられるアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノールなどが好適な例として挙げられる。中でも、反応性とコストの観点からは、メタノール、エタノールが好ましい。
アルコールは、1種単独で用いるほか、2種以上の混合液として用いてもよい。また、アルコールに水を混合して用いてもよい。
超臨界状態又は亜臨界状態のアルコールにより熱硬化エポキシ樹脂を処理する場合の処理条件としては、処理温度250℃〜350℃、処理圧力5〜20MPa、処理時間5分〜120分が好ましい。
前記温度範囲は、250℃以上であると、分解後にエポキシ樹脂分解物がアルコールに可溶化して固形分として残存しにくく、例えばCFRP等のように繊維や充填材等との複合材料である場合に樹脂残りを防止することができる。また、温度範囲が350℃以下であると、熱硬化エポキシ樹脂中のエステル結合が選択的に切断され、その一方でエポキシ樹脂の骨格構造が分解されて分子量が小さくなるのを回避できる。エポキシ樹脂分解物の分子量が、硬化前エポキシ樹脂の分子量よりもかなり小さくなると、樹脂を再硬化し難くなる。
また、前記処理時間も上記同様に、5分以上であると、エポキシ樹脂分解物がアルコールに可溶化して分解処理後に固形分として残存しにくく、120分以下であると、熱硬化エポキシ樹脂中のエステル結合が選択的に切断され、エポキシ樹脂の骨格構造が分解されるのを回避できる。更に分解処理圧力も上記同様に、5MPa以上であるとエポキシ樹脂分解物がアルコールに可溶化して分解処理後に固形分として残存しにくい。一方、20MPa以下であると、反応器のコスト低減の面からは好ましい。
上記のうち、前記処理条件の好ましい範囲としては、前記同様の理由から、温度範囲250℃〜350℃、圧力範囲5〜20MPa(更には8〜12MPa)、処理時間5分〜120分であり、より好ましい範囲は、温度範囲が270℃〜320℃、圧力範囲5〜15MPa(更には8〜12MPa)、処理時間が10分〜120分である。
更に、本発明における前記処理条件の好ましい範囲は、横軸を処理温度t[℃]とし、縦軸を処理時間s[分]として関係線を作成したときに、処理温度250℃〜350℃(250≦t≦350)の温度領域において、下記の不等式(i)と不等式(ii)の間に挟まれた領域内の処理条件である。
s ≦ 4.80×1015・t−5.66 ・・・(i)
s ≧ 2.26×1022・t−8.53 ・・・(ii)
上記の不等式(250≦t≦350)で取り囲まれた領域の処理条件で熱硬化エポキシ樹脂を分解処理すると、再硬化が可能な成分としてのエポキシ樹脂分解物をより効率よく回収することができる。換言すれば、前記不等式(i)を満たす条件にすることで、エポキシ樹脂分解物の低分子化(骨格構造の分解による低分子量化)の促進が抑えられ、再硬化可能な成分として回収しやすく、また前記不等式(ii)を満たす条件にすることで、熱硬化エポキシ樹脂の分解処理を良好に進行させることができ、再硬化可能な成分としてエポキシ樹脂分解物を効率よく回収することが可能である。
本工程では、熱硬化エポキシ樹脂の分解を無触媒で行なう。触媒を用いて分解処理を行なった場合、エポキシ樹脂分解物を再硬化して得られた再硬化樹脂の強度が低下する。本発明においては、無触媒で熱硬化エポキシ樹脂を分解処理した後、分解生成物に再び硬化剤を加えて再硬化樹脂を作製すると、バージンの熱硬化エポキシ樹脂と同等以上の硬度を得ることができる。
ただし、エポキシ樹脂分解物を再硬化するときに阻害作用がなく、再硬化した樹脂の強度を損なわない範囲であれば少量の触媒を使用してもよい。
前記硬化前エポキシ樹脂としては、エポキシ基を有するエポキシプレポリマーであれば特に制限はなく、例えば、ビスフェノールAやビスフェノールFとエピクロルヒドリンとの共重合体などが代表的なものとして挙げられる。
前記硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物や、ジエチレントリアミン等のアミン類などが挙げられる。
前記無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維などが挙げられる。これらのうち、炭素繊維は他の繊維材料に比べて比較的高価で、再利用の要求が高い。本発明においては、例えばCFRP中の樹脂を炭素繊維に残存しないように除去し、その時、炭素繊維自体の劣化も抑えられる点で、炭素繊維を含む樹脂構造物であることが好ましい。炭素繊維を含む樹脂構造物としてはCFRPが好ましい。
前記無機充填物としては、例えば、グラファイト、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、タルク、硫酸バリウム等の無機フィラーが挙げられる。
−液分分離工程−
液分分離工程では、前記分解工程で得られた分解生成物から液分と無機繊維及び/又は無機充填物を分離する。このとき、分解工程で生成したエポキシ樹脂分解物はアルコール中に溶解しており、液分が分離されることにより、無機繊維や無機充填物等のアルコール非溶解物が固体残渣として回収される。
液分の分離は、分解生成物中の固体と液分を分離できればいずれの方法でもよく、例えば、吸引濾過、遠心分離などの常法により行なえる。
回収された無機繊維及び/又は無機充填材中に残存するエポキシ樹脂の割合としては、熱硬化エポキシ樹脂のリサイクル率の向上の観点から少ないことが望ましく、具体的には、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、特に好ましくは0(ゼロ)質量%である。
−エポキシ樹脂分解物回収工程−
エポキシ樹脂分解物回収工程では、前記液分分離工程で分離された液分から前記分解工程で用いたアルコールを除去し生成したエポキシ樹脂分解物を回収する。
アルコールの除去は、エポキシ樹脂分解物とアルコールとの分離が可能であればいずれの方法でもよく、例えば、減圧蒸留などの蒸留法などにより行なえる。このとき、エポキシ樹脂分解物の粘度や硬化反応時の溶媒揮発の観点から、エポキシ樹脂分解物中のアルコール残存量が3質量%以下になるまで除去操作を行なうことが好ましい。
回収されたエポキシ樹脂分解物について、熱硬化エポキシ樹脂がより分子量の小さいエポキシ樹脂分解物に分解されていること、及び前記分解工程で熱硬化エポキシ樹脂中のエステル結合が選択的に切断され、硬化前エポキシ樹脂の骨格構造が残っていることの確認は、MALDI−TOF/MSやNMRにより行なうことが可能である。
−再硬化樹脂作製工程−
再硬化樹脂作製工程では、前記エポキシ樹脂分解物回収工程で回収されたエポキシ樹脂分解物と、該分解物との合計量(エポキシ樹脂分解物と硬化剤の合計の質量)に対して25〜55質量%の硬化剤とを反応させてエポキシ樹脂分解物を再硬化し、再硬化樹脂を作製する。
回収されたエポキシ樹脂分解物は、例えば下記のように切断された架橋点に水酸基(OH基)やアルコキシ基等が付加されている。これに硬化剤を加えて、硬化反応させることによりエポキシ樹脂分解物を再硬化できる。
再硬化樹脂作製工程で用いられる硬化剤については、既述した硬化剤と同様のものを使用することができる。
硬化剤は、エポキシ樹脂分解物と硬化剤との合計質量に対して、25〜55質量%の範囲で用いられる。硬化剤の割合は、25質量%未満であると、硬化剤が足りず、図1に示すように粘り気のある軟性を示し、十分な硬度が得られず、55質量%を超えると、樹脂はもろくなり、硬度が低下してしまう。
硬化剤の割合としては、エポキシ樹脂分解物が再硬化可能な官能基(OH基等)を有し、硬化前エポキシ樹脂の硬化反応に通常用いられる量より少ない量でも、バージンの熱硬化エポキシ樹脂と同等以上の強度が得られる点で、30〜40質量%が好ましい。
また、硬化剤の割合については、エポキシ樹脂分解物に対する再硬化に必要な硬化剤の添加の割合Aと、バージンの熱硬化エポキシ樹脂中で結合状態にある硬化剤の樹脂全体に占める割合Bとの比率(A/B;質量比)が0.9以下となる範囲が好ましい。下限値としては、強度の点から0.3が望ましい。
樹脂を再硬化する際には、前記硬化剤と共に、硬化促進剤を用いることができる。硬化促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン化合物、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物などを用いることができる。
硬化促進剤を用いる場合の使用量としては、エポキシ樹脂分解物に対して、0.1〜3質量%の範囲が好ましい。硬化促進剤の使用量が前記範囲内であると、再硬化樹脂の硬度をより向上させるのに有効である。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
(実施例1)
図2に示すように、熱硬化エポキシ樹脂の分解反応を行なうための反応管1とソルトバス2から構成される実験装置10を用意した。ソルトバス2には、ソルトバス2の温度を計測するための温度計Tが取り付けられている。
次いで、図3に示す操作手順にしたがって、CFRP中の炭素繊維を回収するとともに、CFRP中の熱硬化エポキシ樹脂を可溶化した後、再硬化した。
まず、この実験装置に用いる反応管1に、CFRP(40質量%の炭素繊維と60質量%の熱硬化エポキシ樹脂)1部と、メタノール5部とを仕込み、密閉した。
次に、この反応管1を270℃に加熱されたソルトバス2中に浸漬し、CFRPをメタノールと共に加熱した。この時、反応管内の圧力は10MPaになるよう調整されている。なお、触媒は加えなかった。60分間加熱を行ない、CFRP中の熱硬化エポキシ樹脂を分解した。メタノールの臨界温度は239℃、臨界圧力は8.1MPaであるから、このときのメタノールは超臨界状態である。
分解処理終了後、反応管1をソルトバス2から取り出し、水槽中に浸漬して急冷(降温速度200℃/min)し、反応を停止した。その後、反応管1内のエポキシ樹脂分解物をメタノールで回収し、吸引濾過を行なった。このとき、固体残渣として炭素繊維、濾液として、メタノールに溶解したエポキシ樹脂分解物を回収した。
続いて、濾液に含まれているメタノールを減圧蒸留により除去し、エポキシ樹脂分解物を回収した。
回収したエポキシ樹脂分解物の一部を採取し、MALDI−TOF/MSにより分析した。図4に分析結果を示す。得られた分子量から、エポキシ樹脂分解物中には下記の化合物(1)〜(8)が含まれていることを確認した。


次に、回収したエポキシ樹脂分解物に、下記表1に示す比率のヘキサヒドロ無水フタル酸(硬化剤)と、トリエチルアミン(硬化促進剤)を加えて150℃で30時間、再硬化させて再硬化樹脂を作製した。
なお、再硬化条件を上記の分解処理条件とともに下記表1に示す。

−評価−
(1)外観観察
再硬化したエポキシ樹脂(分解物:硬化剤=9:1,8:2,6:4)の外観を撮影した写真を図1に示す。分解物:硬化剤=9:1の場合、エポキシ樹脂は十分に硬化せず、ディスク状に成形するのが困難だった。
(2)硬度測定
再硬化したエポキシ樹脂に対し、図5Aに示すプレス機を用意し、図5Bに示すように間隙を開けて配置された2つの試料台の上に両方の試料台に跨るように再硬化した樹脂を置き、この樹脂の上方からステンレス製のブレードを押し当てて樹脂が破断するまでのプレス機の回転角を計測し、樹脂の硬度を評価する指標とした。測定結果は、前記表1及び以下の図6に示す。
表1に示すように、分解物:硬化剤=9:1,8:2の場合、硬化剤の量が不足している。分解物:硬化剤=9:1では、図1に示すように見た目上も柔らかい樹脂で、ディスク状に成形するのが困難だった。また、分解物:硬化剤=8:2では、見た目はある程度の成形が可能であったものの軟性(粘り気感)が残っていた。分解物:硬化剤=6:4では、見た目にも硬い樹脂が得られた。なお、いずれの再硬化樹脂の色も黒色であるが、リサイクルの際に再び黒色の炭素繊維を入れてCFRPとして利用すると黒色のCFRPになることから、再硬化樹脂の外観の黒色は問題にはならない。
また、再硬化したエポキシ樹脂(分解物:硬化剤=7:3,6:4,5:5)とバージンの熱硬化エポキシ樹脂の強度比と、硬化剤の添加量との関係を図6に示す。なお、図6では、硬化剤添加率が44.4質量%の時のバージンの熱硬化エポキシ樹脂の強度を1とした場合の相対強度を示す。実施例1で再硬化した樹脂(分解物:硬化剤=7:3,6:4,5:5)では、バージンの熱硬化エポキシ樹脂と同等あるいは同等以上の高強度が得られた。なお、図示しないが、分解物:硬化剤=8:2,9:1では、上記のように樹脂が柔らかく、適切な硬度測定が不可能だった。また、硬化剤の添加率が50質量%を超えて例えば分解物:硬化剤=4:6である場合、再硬化樹脂がもろくなり、更にバージン樹脂に比べて硬化物の添加量低減が図れないため望ましくない。
なお、上記実施例では、処理温度270℃、処理時間60分、圧力10MPa、無触媒で超臨界メタノールによる熱硬化エポキシ樹脂の分解処理を行なった場合を中心に説明したが、この処理条件に限らず、超臨界状態又は亜臨界状態のアルコールによる既述の他の処理条件(例えば処理温度250℃〜350℃かつ処理時間5分〜120分)でも同様の結果を得ることができる。
(比較例1)
前記表1中の比較例1に示すように、処理温度を250℃に変更すると共に、超臨界メタノールによる分解工程で触媒としてジメチルアミノピリジン(DMAPと略記する)を熱硬化エポキシ樹脂に対して5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様の分解処理条件で、図3に示す操作手順にしたがって各工程を行ない、熱硬化エポキシ樹脂を超臨界メタノールで分解し、その後、再硬化した。また、得られた再硬化樹脂を用いて実施例1と同様の強度の評価を行なった。評価結果は、前記表1及び図6に示す。
前記表1と図6に示すように、分解物:硬化剤=9:1、8:2では樹脂の硬度が不十分で、柔らかいものしか得られなかった。一方、7:3,6:4の場合では、硬さのある再硬化樹脂が得られたものの、その硬度は低く、バージンの熱硬化エポキシ樹脂と同等の強度を得ることはできなかった。この理由として、分解処理で触媒を用いたことにより、触媒が再硬化反応を阻害し、再硬化樹脂の強度がバージンの熱硬化樹脂に比べて大幅に低下した。
(実施例2)
実施例1において、分解工程での処理温度を270℃から250℃、300℃、320℃、350℃にそれぞれ変更すると共に、処理時間を120分までとしたこと以外は、実施例1と同様に、図3に示す操作手順にしたがって各工程を行ない、再硬化樹脂を作製した。得られた再硬化樹脂を用いて実施例1と同様の評価を行なったところ、実施例1における場合と同様に、バージンの熱硬化エポキシ樹脂と同等以上の強度を持つ再硬化樹脂が得られた。
また40質量%の炭素繊維と60質量%の熱硬化エポキシ樹脂から構成されるCFRPを超臨界メタノールで分解処理し、炭素繊維が存在する対象物でエポキシ樹脂の分解・可溶化が可能かどうかを検討した。この場合、CFRP中には40質量%の炭素繊維が含まれているために、固形分の残存率が40質量%の時、CFRP中のエポキシ樹脂の全てがアルコール中に溶解したことになる。図7に示すように、250℃〜350℃の全ての温度において、120分以下の処理時間で残存率がほぼ40質量%になった。なお、350℃の場合は、図7に示していないが、320℃の場合よりも更に短時間で40質量%に達した。このことから、CFRP中の熱硬化エポキシ樹脂の全てが分解されて、超臨界メタノール中に溶解し、その後の液分と無機物の分離工程で液分中に回収されることが分かる。
また、反応温度250℃〜350℃、処理時間を120分までとしたときの、再硬化可能な分解物の回収について検討した。具体的には、250℃〜350℃中の5点について、再硬化が可能な分解物の回収効率、すなわちバージンの熱硬化エポキシ樹脂と同等以上の強度を持つ再硬化樹脂が効率よく得られる処理時間をプロットし、近似曲線をとって関係線を引いた。図8は、再硬化可能な分解物の回収効率の良好な最大の処理時間をプロットして引いた近似曲線を示す。同様にして、再硬化可能な分解物の回収効率の良好な最小の処理時間をプロットして引いた近似曲線を作成し、これらより図9を作成した。図9に示されるように、着色領域で囲まれた処理条件を選択することにより、再硬化可能な分解物をより高効率に回収することが可能である。
日本出願2008−276166の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。

Claims (10)

  1. エステル結合を有する熱硬化エポキシ樹脂と無機繊維及び無機充填物の少なくとも一種とを含む樹脂構造物を、超臨界状態又は亜臨界状態のアルコールにより無触媒下で処理温度250℃〜350℃、処理圧力5〜20MPaの処理条件にて処理し、熱硬化エポキシ樹脂中のエステル結合を選択的に切断することにより前記熱硬化エポキシ樹脂を分解する工程と、
    分解生成物から液分と無機繊維及び/又は無機充填物とを分離する工程と、
    分離された前記液分から前記アルコールを除去してエポキシ樹脂分解物を回収する工程と、
    回収されたエポキシ樹脂分解物と、該エポキシ樹脂分解物との合計量に対して25〜55質量%の硬化剤とを反応させて再硬化樹脂を作製する工程と、
    を有する熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法。
  2. 前記無機繊維及び無機充填物の少なくとも一種が、炭素繊維である請求項1に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法。
  3. 前記熱硬化エポキシ樹脂の分解は処理時間5分〜120分の処理条件にて処理することにより行なう請求項1又は請求項2に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法。
  4. 前記熱硬化エポキシ樹脂の分解は、横軸を処理温度t[℃]、縦軸を処理時間s[分]として関係線を作成したときに、下記の条件(i)〜(iii)を満たす領域の処理条件にて行なう請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法。
    s ≦ 4.80×1015・t−5.66 ・・・(i)
    s ≧ 2.26×1022・t−8.53 ・・・(ii)
    250≦t≦350 ・・・(iii)
  5. 回収された前記無機繊維及び/又は無機充填物中の熱硬化エポキシ樹脂の含有割合が5質量%以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法。
  6. 回収された前記エポキシ樹脂分解物に対する前記硬化剤の添加の割合Aと、前記エステル結合を有する熱硬化エポキシ樹脂中で結合状態にある硬化剤の樹脂全体に占める割合Bとの比率(A/B;質量比)が0.9以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法。
  7. 前記アルコールが、メタノール及びエタノールの少なくとも一方である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法。
  8. 前記熱硬化エポキシ樹脂の分解は、処理温度270℃〜320℃、処理圧力5〜15MPa、処理時間10分〜120分の処理条件にて処理することにより行なう請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法。
  9. 前記エポキシ樹脂分解物と反応させる前記硬化剤の割合が、硬化剤及びエポキシ樹脂分解物の合計量に対して30〜40質量%である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法。
  10. 前記無機充填物は、無機フィラーである請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の熱硬化エポキシ樹脂の再生成方法。
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