始めに、実施例1の車両用シートの切換機構10(以下、切換機構10とする。)の構成について、図1〜図12を用いて説明する。本実施例の切換機構10は、図1に示すように、車両用シート1を同図の実線に示すウォークインの姿勢に切り換えたり、同図の仮想線に示すチルトダウンの姿勢に切り換えたりする際に、車両用シート1のフロアFに対するスライドロック状態を切り換えるものとして、車両用シート1に設けられているものである。
ここで、車両用シート1は、背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、これらシートバック2とシートクッション3とをフロアFに対して支持する支持ベース4と、を有し、支持ベース4の下面部に設けられた左右一対のスライダ機構8を介して、フロアFに対して車両前後方向にスライド可能な状態に連結された構成となっている。上記シートバック2は、その左右両側の下端部が、回転止め可能な回転軸装置として機能するリクライニング装置5を介して、その両外側に配された支持ベース4の起立面に対してそれぞれ回転可能に連結された構成となっている。なお、上記リクライニング装置5の構成は、特開2007−130237号公報等の文献に開示された公知のものとなっているため、これについての詳細な説明については省略することとする。
上記図示しないリクライニング装置5は、常時は回転止めの状態となって保持されており、シートバック2の背凭れ角度を固定した状態となっている。このリクライニング装置5の回転止め状態は、車両用シート1に設けられた図示しないウォークイン操作用、或いはチルトダウン操作用のレバーの操作が行われることにより解除されるようになっている。上記シートバック2は、支持ベース4との間に掛着された図示しないバネ部材のバネ附勢力によって、常時は、支持ベース4に対して前倒れ回転する方向に附勢された状態とされている。これにより、シートバック2は、上記リクライニング装置5の回転止め状態が解除操作されることによって、附勢によって回転中心2Rまわりに支持ベース4に対して前倒れ回転するようになっている。
なお、上記シートバック2の前倒れ回転は、ウォークイン操作用のレバーが操作されて行われる時には、支持ベース4との間に構成された図示しないストッパ構造によって、その回転が図7に示す前傾位置までに留められるようになっている。また、シートバック2の前倒れ回転は、チルトダウン操作用のレバーが操作されて行われる時には、上記ストッパ構造が機能せずに、その回転が図8に示す大倒し位置まで行われるようになっている。
図1に戻って、シートクッション3は、その左右両側の前下部が、それぞれフロントリンク4Rによって支持ベース4の左右両側の前端部に回転可能にリンク連結されており、左右両側の後端部が、これらに一体的に結合された図示しないリアリンクによって、それぞれシートバック2の骨格を成すバックフレーム2Fの左右両側部に回転可能にリンク連結されている。これにより、シートクッション3は、シートバック2の背凭れ角度が固定された状態では、上記フロントリンク4R及び図示しないリアリンクを介して、支持ベース4やシートバック2に対して移動しないように固定された状態に保持されるようになっている。また、シートクッション3は、上記図示しないウォークイン操作用、或いはチルトダウン操作用のレバーの操作が行われて、シートバック2が前倒れ回転することにより、この動きに押される格好で、フロントリンク4Rを前倒れ回転させながらシート前方側へと沈み込んでいくようになっている。
したがって、図7で前述したように、シートバック2をウォークイン操作用のレバーの操作によって前傾位置まで倒し込む時には、この動きに連動して、シートクッション3が前方側へ沈み込むため、シートバック2をシートクッション3と干渉させることなく前傾位置まで倒し込むことができる。また、図8で前述したように、シートバック2をチルトダウン操作用のレバーの操作によって大倒し位置まで倒し込む時には、この動きに連動して、同じくシートクッション3が前方側へ沈み込むため、シートバック2を、下方側に沈み込んだシートクッション3の上部に重ね合わせるように、より低い位置まで倒し込むことができる。
ところで、図7に示すように、前述したウォークイン操作用のレバーの操作によってシートバック2を前傾位置まで倒し込むことにより、各支持ベース4に設けられた切換機構10がシートバック2の骨格(バックフレーム2F)に設けられた操作プレート6により押されて回転し、各切換機構10の出力アーム13に繋がれたケーブル7が牽引されて、前述した車両用シート1のフロアFに対するスライドロック状態が解除操作されるようになっている。ここで、バックフレーム2Fが本発明の回転部材に相当し、操作プレート6が本発明の突出部に相当する。詳しくは、上記ウォークインの操作時には、シートバック2の前倒れ回転が前傾位置までに留められるようになっていることにより、切換機構10が操作プレート6によって回転操作されたままの状態に保持されるようになっており、車両用シート1のスライドロック状態が解除された状態に保持されるようになっている。これにより、図1に示すように、上記ウォークイン操作用のレバーの操作を行った後に、車両用シート1を、シートバック2を前傾姿勢に切り換えた状態で、車両前方側へスライドさせて退避させて、その図示しない後列側のシートへの乗降スペースを広げられるようになっている。
一方、図8に示すように、前述したチルトダウン操作用のレバーの操作によってシートバック2を大倒し位置まで倒し込むことにより、切換機構10は、一旦は、上記と同じように、シートバック2に設けられた操作プレート6により押されて回転し、車両用シート1のスライドロック状態を解除した状態となるが、その後に、シートバック2の前倒れ回転が大倒し位置に向かって更に進行することにより、上記操作プレート6との係合から外されて、ケーブル7が牽引操作される前の初期位置の状態に戻される。これにより、車両用シート1が再びスライドロックされた状態に戻されるため、車両用シート1は、そのスライドロック状態が保たれたままで、フロアF上に大きく畳み込まれるようになっている。
以下、上記切換機構10の具体的な構成について詳しく説明する。切換機構10は、図2〜図5に示すように、ベース体11と、入力アーム12と、出力アーム13と、によって構成されている。ベース体11は、一枚の鋼板部材から成り、支持ベース4に一体的に固定されて設けられている。ベース体11には、後述するケーブル7の配索経路をガイドする管ケーブルの端部と、引張バネ11Cの端部と、を引掛けるための掛部11Aと、後述する出力アーム13(第1の分割出力アーム13A)の図示反時計回り方向の附勢による回転移動を規制するためのストッパ11Bとが、それぞれ曲げ起こされた形に形成されている。
入力アーム12は、一枚の鋼板部材が横向きのV字状に湾曲した形に形成されたものであり、その図示下端部が、第1の連結軸12Aによって、後述する出力アーム13(第1の分割出力アーム13A)の図示下端部に回転可能に軸連結されて設けられている。ここで、第1の連結軸12Aは、入力アーム12に対して回転可能に軸連結されており、出力アーム13(第1の分割出力アーム13A)に対して一体的に結合されて設けられている。上記入力アーム12は、上記出力アーム13(第1の分割出力アーム13A)に一体的に結合された第1の連結軸12Aとの間に掛着された第1のバネ部材12Dの附勢力によって、常時は、出力アーム13(第1の分割出力アーム13A)に対して第1の連結軸12Aを中心に図示時計回り方向に回転附勢された状態とされている。
ここで、第1のバネ部材12Dは、巻きバネにより構成されており、その内周側の端部が、第1の連結軸12Aの頭部12A1に形成されたスリット状の溝内に嵌め込まれて頭部12A1に固定されており、外周側の端部が、入力アーム12の側面に対し、その附勢方向となる図示時計回り方向に掛着されて固定されている。これにより、入力アーム12は、常時は、上記第1のバネ部材12Dの附勢力によって、そのV字の中央の屈曲した屈曲部12Bの図示右方側面となる内周側面が、ベース体11に連結された第2の連結軸13Cに押し当てられた状態となって保持されている。上記入力アーム12の図示上端部には、シートバック2の前倒れ回転時に、シートバック2に設けられた操作プレート6と係合して押し回される係合ピン12Cが取り付けられている。
出力アーム13は、第1の分割出力アーム13Aと第2の分割出力アーム13Bとに分割されて構成されている。これら両分割出力アーム13A,13Bは、それぞれ、一枚の鋼板部材によって形成されている。第1の分割出力アーム13Aは、その図示下端部が、前述した第1の連結軸12Aによって入力アーム12の図示下端部に回転可能に軸連結されており、図示上端部が、第2の連結軸13Cによって、第2の分割出力アーム13Bの図示右端部とベース体11とにそれぞれ回転可能に軸連結されている。
第2の分割出力アーム13Bは、その図示左方側に延出する端部に形成された長孔13B1内に、ケーブル7の上端部に取り付けられた掛着ピン7Aが、長孔13B1内をスライドすることができる状態に掛着されている。上記第2の分割出力アーム13Bは、上記第2の連結軸13Cとの間に掛着された第2のバネ部材13Dによって、常時、第2の連結軸13Cに対して図示時計回り方向に回転附勢された状態とされている。換言すると、第2の連結軸13Cは、第2のバネ部材13Dによって、常時、第2の分割出力アーム13Bに対して図示反時計回り方向に回転附勢された状態とされている。
ここで、第2のバネ部材13Dは、巻きバネにより構成されており、その内周側の端部が、第2の連結軸13Cの頭部13C1に形成されたスリット状の溝内に嵌め込まれて頭部13C1に固定されており、外周側の端部が、第2の分割出力アーム13Bに曲げ起こされて形成された掛部13B2に対し、その附勢方向となる図示時計回り方向に掛着されて固定されている。ここで、図5に示すように、第2の連結軸13Cは、その第2の分割出力アーム13Bに貫通形成された係合孔13B3内に差し込まれる軸部位が、断面矩形状に形成された係合軸部13C2として形成されている。この断面矩形状の係合軸部13C2は、ベース体11及び第1の分割出力アーム13Aにも貫通して差し込まれており、ベース体11に対しては軸回転可能であるが、第1の分割出力アーム13Aに対しては一体的に結合された状態となって組み付けられている。
上記第2の分割出力アーム13Bに形成された係合孔13B3は、その内周面上の軸対称となる円周方向の2箇所の位置に、係合孔13B3の孔内に向かって突出する突起13B4が形成されている。これら突起13B4は、上記第2の連結軸13Cの係合軸部13C2の第2の分割出力アーム13Bに対する図示反時計回り方向の回転を、係合軸部13C2の側面との当接によって規制するストッパとして機能するものとなっている。これにより、上記第2の連結軸13Cと一体的に結合されている第1の分割出力アーム13Aと、第2の連結軸13Cに対して回転可能に軸連結されている第2の分割出力アーム13Bとは、常時は、上記第2のバネ部材13Dのバネ附勢力によって、第2の連結軸13Cの係合軸部13C2が第2の分割出力アーム13Bの係合孔13B3の突起13B4と図示反時計回り方向に当接する回転位置にて、互いに回転方向に一体的な状態とされて保持されている。
上記第2の連結軸13Cの係合軸部13C2は、係合孔13B3内において、上記各突起13B4との当接位置から、それぞれもう一方側の突起13B4と当接する位置まで、図示時計回り方向に回転することができるようになっている。これにより、第1の分割出力アーム13Aと第2の分割出力アーム13Bとは、上記第2の連結軸13Cの係合軸部13C2が係合孔13B3内で回転することができる範囲内において、第2のバネ部材13Dのバネ保持力に抗して、互いに相対回転することができる構成とされている。
上記第2の分割出力アーム13Bの図示左方側の端部に繋がれたケーブル7は、その図示しない他方側の端部が、図1において前述したスライダ機構8のスライドロック装置8Cのロック解除の操作を行う操作レバー8Dと繋がれている。ここで、スライダ機構8は、車両のフロアF上に一体に固定されるスライドレール8Aと、スライドレール8Aに対して車両前後方向にスライド可能に組み付けられて支持ベース4に一体的に固定されたスライダ8Bと、スライダ8Bのスライドレール8Aに対するスライドをロック可能なスライドロック装置8Cと、を有する。
上記スライドロック装置8Cは、常時は附勢によってスライダ8Bのスライド移動をロックした状態として保持されているが、シートクッション3の前下部に設けられた引き上げ操作式の操作レバー8Dを引き上げることによって、スライドロック状態を解除する構成となっている。上記操作レバー8Dは、前述したように切換機構10(図7参照)の出力アーム13とケーブル7と繋がれていることにより、前述した図示しないウォークイン操作用のレバーが操作されてシートバック2が前傾してケーブル7が引かれることによっても引き上げ操作されて、スライドロック装置8Cのスライドロック状態を解除するようになっている。
上記構成の切換機構10は、図2に示すように、シートバック2が前傾する前の初期状態時には、第2の分割出力アーム13Bとベース体11の掛部11Aとの間に掛着された引張バネ11Cのバネ附勢力によって、第2の分割出力アーム13Bが第2の連結軸13Cを中心に図示反時計回り方向に回転附勢され、この第2の分割出力アーム13Bと一体的な第1の分割出力アーム13Aがベース体11のストッパ11Bと当接する回転位置状態にて保持されている。この初期状態では、入力アーム12は、第1の分割出力アーム13Aに対して第1のバネ部材12Dの附勢力によって第1の連結軸12Aを中心に図示時計回り方向に回転附勢された状態とされており、その屈曲部12Bの内周側面が第2の連結軸13Cに押し当てられて、係合ピン12Cの取り付けられている上端部が図示上方側に張り出した姿勢状態とされて保持されている。
次に、図2、図6及び図7を参照しながら、シートバック2が前傾する移動に伴って、切換機構10を介してケーブル7が牽引操作される構成について説明する。図2に示すように、車両用シート1がシートバック2が起立した通常の着座可能な姿勢となっている状態から、前述した図示しないウォークイン操作用のレバーが操作されてシートバック2が前傾すると、バックフレーム2Fに取り付けられた操作プレート6が、切換機構10の係合ピン12Cを前方側から押圧して、入力アーム12をシート後方側(図示右方側)に押し回す。
これにより、入力アーム12は、その屈曲部12Bと第2の連結軸13Cとの当接点を支点に図示時計回り方向(本発明の正回転方向に相当する。)に回転し、図6に示すように、第1の連結軸12Aを介して第1の分割出力アーム13Aと第2の分割出力アーム13Bとを一体に同方向に押し回す。これにより、第2の分割出力アーム13Bに繋がれたケーブル7が図示上方側へと引張られて、車両用シート1のスライドロック状態が解除される。
上記入力アーム12は、図7に示すように、シートバック2が前傾位置まで倒れ込んだ状態では、係合ピン12Cが操作プレート6の外周面上に乗り上がった状態として、操作プレート6によって押し回された状態に保たれることにより、ケーブル7を牽引操作した状態となって保持される。これにより、車両用シート1のスライドロック状態が解除されたままの状態に保たれる。また、入力アーム12は、上記前傾位置に倒し込まれたシートバック2を元の起立した状態に戻すことにより、図2に示すように、係合ピン12Cが操作プレート6との係合から外されて、引張バネ11Cの附勢力によって、初期状態に戻される。これにより、ケーブル7の牽引操作状態が解かれて、車両用シート1がスライドロックされた状態に戻される。
一方、入力アーム12は、図8に示すように、図示しないチルトダウン操作用のレバーが操作されてシートバック2が大倒し位置まで倒し込まれることにより、係合ピン12Cが、一旦は図6〜図7に示したように操作プレート6の外周面上に乗り上がるものの、その後のシートバック2の倒れ込み回転の進行により、操作プレート6との係合から外れて、引張バネ11Cの附勢力によって、初期状態に戻される。これにより、ケーブル7の牽引操作状態が解かれて、車両用シート1がスライドロックされた状態に戻される。
また、上記大倒し位置に倒し込まれたシートバック2を元の起立した状態に戻すことにより、図9に示すように、係合ピン12Cが操作プレート6によって後方側から押圧されて、入力アーム12が、第1の連結軸12Aを中心に、第2の連結軸13Cとの当接から離れる図示反時計回り方向(本発明の逆回転方向に相当する。)に単独で回される。このように、入力アーム12が上記逆回転方向の操作入力を受けた時に、出力アーム13に対して単独で逆回転方向に空回りする構成となっていることにより、係合ピン12Cが上記操作プレート6によって押し回される操作移動量が入力アーム12単体の空回り運動によって逃がされるため、かかる操作入力によって出力アーム13が図示反時計回り方向に回転してケーブル7に無理な負荷をかけることがないようになっている。
具体的には、出力アーム13の第1の分割出力アーム13Aと第2の分割出力アーム13Bとが、引張バネ11Cの附勢力によって第1の分割出力アーム13Aがベース体11のストッパ11Bと当接する位置にて図示反時計回り方向の回転が規制された状態となっていることにより、入力アーム12が上記図示反時計回り方向の回転入力を受けた際に、出力アーム13に対して単独で空回り回転するようになっている。そして、図2に示すように、シートバック2が起こし上げられて、係合ピン12Cが操作プレート6との係合から外されることにより、上記単独で空回りしていた入力アーム12が、第1のバネ部材12Dの附勢力によって、屈曲部12Bの内周側面が第2の連結軸13Cに当接した初期状態に戻される。
ところで、上記切換機構10は、図6に示すように、シートバック2が前方側に倒れ込んでいく途中、係合ピン12Cが操作プレート6の外周面上に乗り上がる前の、操作プレート6の角部6Aに当接する位置まで押し回された状態となることにより、かかる操作移動量によって、ケーブル7が限界位置(本発明の所定の限界位置に相当する。)まで牽引操作された状態となり、第2の分割出力アーム13Bが、それ以上、ケーブル7を牽引操作する方向(図示時計回り方向)に回転することができない状態となる構成となっている。しかし、切換機構10は、上記第2の分割出力アーム13Bの図示時計回り方向の回転が規制された状態から、係合ピン12Cが図7に示すように操作プレート6の外周面上に乗り上がる位置まで押し回されて、入力アーム12に同方向への強制的な回転変位を伴う操作入力がかけられても、この回転移動量を、第1の分割出力アーム13Aと第2の分割出力アーム13Bとの間の相対回転によって吸収することができるようになっている。
具体的には、同図と同図の拡大図とによって示されるように、入力アーム12に入力された図示時計回り方向の操作入力によって、第1の分割出力アーム13Aがこれに連動して同方向に回転しようとすると、第2の分割出力アーム13Bが図示時計回り方向に回転規制された状態となっていることで、第1の分割出力アーム13Aと第2の分割出力アーム13Bとの間には、これらを相対的に回転させようとする力が発生する。この力は、第2のバネ部材13Dのバネ保持力によって第2の分割出力アーム13Bの係合孔13B3の突起13B4に押し付けられている第2の連結軸13Cの係合軸部13C2を、上記バネ保持力に抗して、突起13B4との当接状態から離す図示時計回り方向に回転させる力として作用し、第1の分割出力アーム13Aが第2の分割出力アーム13Bに対して図示時計回り方向に回転する。
これにより、上記入力アーム12に入力された操作入力が、第2の分割出力アーム13Bに伝達されることなく、第2の分割出力アーム13Bに繋がれたケーブル7に無理な牽引操作方向の負荷がかからないようにすることができる。したがって、上記シートバック2の前倒れ回転によって、ケーブル7を確実にスライドロックの解除操作が行える位置まで引張り込むことができるように、ケーブル7をあそびの少ない状態で取り付けても、ケーブル7の取付位置の誤差によってケーブル7をその限界位置以上に引張るような操作入力がかけられた際に、その余計となる操作移動量を上記第1の分割出力アーム13Aと第2の分割出力アーム13Bとの間の相対回転によって逃がして、ケーブル7に無理な負荷がかからないようにすることができる。
上記第2の連結軸13Cの係合軸部13C2が係合孔13B3内で突起13B4との当接状態から離れる図示時計回り方向に回転することができる可動範囲は、図12に示すように、前述したスライドロック装置8C(図1参照)のロック解除の操作を行う操作レバー8Dが、何らかの障害物に引掛かるなどして引き上げ操作が全く行えず、ケーブル7が全く牽引操作されていないにもかかわらず、ケーブル7をそれ以上牽引操作することができない限界位置(本発明の所定の限界位置に相当する。)の状態となっている状況から、シートバック2の前倒れ回転によって係合ピン12Cが操作プレート6の外周面上に乗り上がる位置まで入力アーム12が押し回されても、この動きを上記相対回転によって逃がすことができる広い範囲に設定されている。
ところで、図2に示すように、上記切換機構10は、上記係合ピン12Cと第1の連結軸12Aと第2の連結軸13Cとが互いに一直線上に並ばないように配置されている。これにより、例えば、シートバック2を前述したチルトダウン操作された大倒し位置(図8参照)から起こし上げていく途中で、図10〜図11に示すように、係合ピン12Cが操作プレート6との係合から外れる際の角部6Aに突き当たった状態となる位置から、シートバック2の動きを前倒れ回転させる方向に転換させるような変則的な操作が行われて、係合ピン12Cに、第1の連結軸12A或いは第2の連結軸13Cに向かって押圧されるような負荷がかけられても、この負荷を逃がすように入力アーム12が回転するようになっている。
具体的には、図10に示すように、操作プレート6の角部6Aから、係合ピン12Cに対し、第1の連結軸12Aに向かって押圧される負荷がかけられた場合には、この角部6Aから係合ピン12Cに押圧力がかけられる入力点と第1の連結軸12Aとを結ぶ線分L1に対して、第2の連結軸13Cが図示左方側に外れた位置に設定されていることにより、入力アーム12を介して上記押圧力を受けた第1の連結軸12A(第1の分割出力アーム13A)が第2の連結軸13Cを中心に図示時計回り方向に回転することで、上記押圧力が逃がされるようになっている。
また、図11に示すように、操作プレート6の角部6Aから、係合ピン12Cに対し、第2の連結軸13Cに向かって押圧される負荷がかけられた場合には、この角部6Aから係合ピン12Cに押圧力がかけられる入力点と第2の連結軸13Cとを結ぶ線分L2に対して、第1の連結軸12Aが図示右方側に外れた位置に設定されていることにより、入力アーム12が上記第1の連結軸12Aを中心に図示反時計回り方向に回転することで、上記押圧力が逃がされるようになっている。
このように、本実施例の切換機構10によれば、入力アーム12は、正回転方向(図2における時計回り方向)の操作入力を受けて回転する時には、第2の連結軸13Cとの当接点を支点に回転し、第1の連結軸12Aを介して出力アーム13を同方向に回転させてケーブル7を牽引操作する。また、入力アーム12は、逆回転方向の操作入力を受けて回転する時には、第1の連結軸12Aを中心に出力アーム13に対して単独で逆回転方向(図2における反時計回り方向)に空回りして、出力アーム13に繋がれたケーブル7に無理な負荷がかからないようにする。
上記出力アーム13は、第1の分割出力アーム13Aと第2の分割出力アーム13Bとに分割されて構成され、これら両分割出力アーム13A,13Bが第2のバネ部材13Dのバネ保持力によって互いに保持された構成となっていることにより、ケーブル7が所定の限界位置まで牽引されるまでは両分割出力アーム13A,13Bが互いに一体的となって回転するが、ケーブル7が所定の限界位置(図6又は図12に示す状態)まで牽引された後には、第1の分割出力アーム13Aが上記バネ保持力に抗して第2の分割出力アーム13Bに対して単独で回転することで、入力アーム12から伝達される操作入力を逃がして、ケーブル7にそれ以上の負荷がかからないようにする。これにより、切換機構10に対し、ケーブル7が所定の限界位置まで引かれた状態から、更にケーブル7を引く方向に力を受ける操作入力がかけられても、ケーブル7に無理な負荷がかからないようにすることができる。
また、入力アーム12や出力アーム13は、車両用シート1がチルトダウン操作されてシートバック2が大倒し位置まで倒し込まれる時には、入力アーム12が操作プレート6との係合から外されるために、附勢によってそれぞれ回転操作される前の初期位置に戻された状態となって保持される。したがって、スライドロック装置8Cが、スライドロック状態に戻されて保持される。しかし、スライドロック装置8Cは、車両用シート1がウォークイン操作されてシートバック2が前傾位置までしか倒し込まれない時には、入力アーム12が操作プレート6によって正回転方向(図2における時計回り方向)に回転操作された状態に留められるために、ケーブル7が牽引操作された状態に留められるため、スライドロックの作動が不能な解除状態に保持される。このように、操作プレート6の移動位置によって、スライドロック装置8Cを解除した状態に保持したり、スライドロックの作動が可能な状態に戻したりする使い分けを行えるようにすることができる。
また、操作プレート6から入力アーム12の係合ピン12Cにかけられる押圧力の入力点と第1の連結軸12Aと第2の連結軸13Cとが互いに一直線上に並ばないように配置されていることにより、上記押圧力が入力アーム12にかけられても、入力アーム12は、常に、第1の連結軸12Aを中心に回転するか、或いは第2の連結軸13Cを中心に回転するかできる状態となるため、第1の連結軸12Aや第2の連結軸13Cに過大な負荷がかからないようにすることができる。
以上、本発明の実施形態を一つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施ができるものである。例えば、上記実施例では、車両用シート1のシートバック2を大倒し位置まで倒し込んだり倒し込んだ位置から起こし上げたりする動きによって、切換機構10に正回転方向或いは逆回転方向の操作入力をかける構成としたものを例示したが、このようなシートバック2の回転する動きによるものに限らず、車両用シートの他の機構部位の動作を拾って、切換機構に正逆双方向の操作入力をかける構成としたものであってもよい。その際、切換機構に操作入力をかける移動体の移動形態は、往復直線運動等の回転運動以外のものであってもよい。
また、上記実施例では、切換機構10に繋がれたケーブル7によって操作される操作対象として、スライドロック装置8Cを例示したが、特開2008−114690号公報等の文献に開示されているような、シートクッションをフロアに対して係合させた状態にロックするクッションロック装置を操作対象としたものであってもよい。また、クッションロック装置以外にも、ロック解除の作動構造を備えた種々のロック装置を操作対象とすることができる。この際、ロック装置として用いられるロック構造として、ケーブルの牽引操作状態が解かれていることで、直ちにロック状態に復帰する構造となっているものの他、ケーブルによる操作状態が解かれてロック作動することができる状態とはなるが、何らかの外部抵抗力の作用によって、直ちにロック状態とはならない構造となっているものであっても構わない。また、上記実施例では、第1のバネ部材12D及び第2のバネ部材13Dとして、巻きバネを例示したが、これらバネ部材は引張バネ等の他のバネであってもよい。また、上記実施例では、切換機構を初期位置状態にバネ保持するものとして、第2の分割出力アーム13Bとベース体11との間に掛着された引張バネ11Cを例示したが、引張バネをベース体と第1の分割出力アームとの間に掛着させてもよい。また、引張バネに代えて、トーションバネ等の他のバネを用いてもよい。