従来から公知の電子写真方式を利用した画像形成装置においては、感光体などの像担持体の表面に静電潜像を形成し、当該静電潜像を現像剤であるトナーによって現像することで可視像化し、さらに、この現像トナー像を記録紙などの記録媒体に転写して、当該記録媒体に画像(未定着トナー像)を担持させ、この記録媒体上の未定着トナー像に定着装置で熱と圧力とを加えることで定着させる構成が一般的に広く用いられている。この電子写真方式の画像形成装置における定着装置では、対向するローラ若しくはベルト、さらには、これらの組み合わせにより構成された定着ニップ部で、未定着トナー像を担持している記録媒体を挟持して加圧しながら加熱することにより未定着トナーを定着させている。
このような定着装置において、磁束乃至磁力線を発生させるコイル部を用いた電磁誘導加熱式の定着装置が知られていて、既に広く用いられている。この電磁誘導加熱式の定着装置は、例えば、発熱層を有する薄肉の定着スリーブが断熱弾性層の外周部に設けられた定着ローラなどの定着部材と、当該定着部材に圧接して定着ニップ部を形成する加圧ローラなどの加圧部材と、定着部材の外周面に近接・対向して定着部材を電磁誘導加熱させる電磁誘導加熱部材などで構成され、当該電磁誘導加熱部材は、(励磁)コイル部、当該コイル部を覆うためのコア、当該コイル部を保持すると共に定着部材に対向させるコイルガイドなどで構成される。そして、電磁誘導加熱部材のコイル部に高周波交番電流を通電させることにより、定着部材に設けられた定着スリーブなどが有する発熱層のまわりに双方向に交互に切り替わる磁束を、すなわち交番磁界を形成させて、当該交番磁界によって発熱層に渦電流を生じせしめ、この渦電流に対する発熱層の電気抵抗により発生するジュール熱で発熱層を、ひいては定着部材に設けられた定着スリーブを加熱する。このように加熱された定着スリーブが設けられた定着部材の熱により、定着ニップ部に搬送された記録媒体上のトナーを溶融させ、また、定着ニップ部で定着部材に圧接する加圧ローラからの加圧力により、溶融させたトナーを記録媒体上に半永久的な画像として定着させている。
この種の電磁誘導加熱方式における定着部材の定着スリーブは、定着ニップ部を形成するために、及び、効率的な発熱を確保するために、肉厚の薄い薄肉状に構成されていることから、部品不良などで当初から傷などが入っていた場合や、加熱暴走があった場合などでは、破損に至りやすいという問題がある。また、発熱層を有する定着スリーブよりも内周側に位置する断熱弾性層も、定着ニップ部を形成するために定着スリーブなどを介して長時間加圧ローラなどの加圧部材から圧力を受けているため、経時的に破損する恐れがある。
このような定着装置における構成部材の破損の問題に対して、例えば特許文献1では、定着ベルトの破損を検知する発明を開示している。この特許文献1では、定着ベルトであるエンドレスベルトを挟んで、電磁誘導加熱部材であるコイル部に対向する位置に配置される通電禁止手段であって、コイル部からの磁束で電圧若しくは電流を発生させるアンテナを持つ通電禁止手段を有し、エンドレスベルトの温度にかかわらずアンテナに発生する電圧若しくは電流が所定量を超えた場合に、この通電禁止手段が、コイル部への通電を禁止することを特徴とする発明を開示している。この通電禁止手段におけるアンテナは、エンドレスベルトが破損していなければ、当該エンドレスベルトによってコイル部に対して遮蔽されているので、電圧若しくは電流を検知せず、仮にエンドレスベルトが破損していると、破損箇所にはエンドレスベルトがないので、当該アンテナがコイル部と対向し、アンテナにコイルからの磁束による電圧若しくは電流が発生するので、これをもってエンドレスベルトの破損を検知するものである。
しかしながら、この特許文献1に開示される発明を用いれば、通電禁止手段のアンテナの作用によってエンドレスベルトの破断乃至破損は検知できるが、このエンドレスベルトが掛け回される定着ローラの破損及び破損箇所(破損位置)に対しては検知できないという問題があった。本願出願人の経験によれば、この種の定着ローラは、加圧ローラとの圧接などにより経時的に突然破損するものが存在し、したがって、従来のベルト破損検知では、この定着ローラ自身の破損の問題及び破損位置の特定の問題を解決できない。
また、特許文献1に開示される定着装置では、通電禁止手段がコイルへの通電を禁止してしまうので、定着工程を、ひいては画像形成動作自体を実行することができなくなってしまうが、定着ローラ自身が破損しても、その破損位置及び破損程度と、定着されるべき記録媒体のサイズや記録媒体種などとの関係によっては、未だ定着装置を用いることが可能である場合もあり、この場合、破損が発生している定着ローラの交換までの間、記録媒体のサイズや記録媒体種などの通紙条件に応じて画像形成装置を使用可能にしたほうが使用者に対しては親切乃至有効、すなわち使い勝手が良い場合が多い。
以下、本発明の実施の形態を添付図面に従って説明する。
まず、画像形成装置の一例としてのフルカラー複写機を概略断面図で示している図1を用いて、本願発明の定着装置が設けられる画像形成装置の一例を説明する。この図1に示される画像形成装置であるフルカラー複写機は、当業者にはよく知られているため、以下では詳細な説明は省略し、概略で説明する。
図1に示されるように、この複写機は、主として4つの感光体1(a,b,c,d)及び周辺作像機器等をそのそれぞれに備えた4つの画像形成部10(a,b,c,d)と、これら4つの感光体1(a,b,c,d)に対向する位置でその表面に当接して配置される中間転写体である無端ベルト状の中間転写ベルト5と、この中間転写ベルト5に一次転写されたトナー像が二次転写される記録紙などの記録媒体を積層して収納する記録媒体収納部としての給紙カセット50などを備えて成る。なお、各感光体1(a,b,c,d)上には、互いに異なる色のトナー像、例えばイエロートナー像、マゼンタトナー像、シアントナー像及びブラックトナー像がそれぞれ形成される。また、中間転写ベルト5は、一般に複数のローラに内接及び/又は外接されることで張架されて走行駆動させられる構成部材であり、図示した例では、支持ローラ15、16及び17に巻き掛けられ、この支持ローラ15、16、及び17のうちの一つが図示しない駆動源からの駆動力を受けて回転することで図中反時計回りに回転駆動させられる。なお、駆動する支持ローラ以外の残りの支持ローラは、中間転写体5の回転に伴って従動回転させられる。さらに、この画像形成部10(a,b,c,d)には、像担持体である感光体1(a,b,c,d)の周変に、当該感光体1(a,b,c,d)を所定の極性に一様に帯電させる帯電部材2(a,b,c,d)と、帯電させられた感光体1(a,b,c,d)の表面にスキャナ部60により読み込まれた画像に対応する静電潜像を書き込むための書込みユニットである露光部40と、当該静電潜像をトナーなどにより現像して可視像化する現像装置4(a,b,c,d)となどが配置されていて、当該感光体1(a,b,c,d)上で可視像化されたトナー像が中間転写ベルト5に一次転写される。
上記したように4つの感光体1(a,b,c,d)にはそれぞれ異なるトナー像が形成されるが、各感光体1(a,b,c,d)上に各色トナー像を形成し、その各トナー像を中間転写ベルト5上に転写(一次転写)する構成は実質的に同一であるため、以下では、符号a、b、c、dを適宜省略して画像形成装置の動作を概略で説明する。
この図示された複写機では、スキャナ部60にセットされた原稿が、当該スキャナ部60における光学系によって読み取られ、各色トナーに対応した電気信号に変換される。具体的には、コンタクトガラス65上に戴置された読み取られるべき原稿の画像に対して、光を照射させながら照明ランプを走査させる。そして、照明ランプからの光を受けた原稿から反射される反射光を、ミラーやレンズなどの適宜適切な光学部材を用いてカラーセンサーに結像させる。この結像された原稿のカラー画像情報は、カラーセンサーにてRGB(レッド、グリーン、ブルー)の色分解光ごとに読み取られ、電気的な画像信号に変換され、さらに、RGBの色分解画像信号に基づいて、画像処理部などで色変換処理、色補正処理、空間周波数補正処理などが実施され、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色トナーに応じた原稿カラー画像情報が得られるようになっている。
また、このスキャナ部60で原稿情報を処理している間に、画像形成部10では、先に述べた構成要素が駆動し、まずは感光体1が図中時計回りに回転する。この感光体1は、帯電部材2により一様に帯電させられ、その後、先に記述したスキャナ部60によって読み取られた原稿カラー画像情報の電気信号に対応した露光部40からの露光によって、感光体1上の電荷が部分的に消失させられることで静電潜像が形成される。次いで、現像装置4における現像ローラを介してこの静電潜像の電荷に応じた各色トナーが転移され、可視像化される。さらに、中間転写ベルト5の内側には、中間転写ベルト5を挟んで各感光体1に対向して位置する一次転写ローラ(図示せず)が配置されており、この一次転写ローラが中間転写ベルト5の裏面に当接することで、感光体1と中間転写ベルト5との適正な一次転写ニップ部が形成されるとともに、上記一次転写ローラには、感光体1上に形成されたトナー像のトナー帯電極性と逆極性の転写電圧が印加され、これにより、感光体1と中間転写ベルト5との間に転写電界が形成され、感光体1上のトナー像が、その感光体1と同期して回転駆動される中間転写ベルト5上に静電的に一次転写される。このように、各感光体1には、各色トナー像がそれぞれ形成され、その各色のトナー像は、中間転写ベルト5の搬送方向上流側から逐次タイミングを併せて中間転写ベルト5上に一次転写により重ね合わされ、フルカラートナー像が形成される。
一方で、画像形成装置本体内の下部に配置された記録媒体収容部である給紙カセット50から、記録媒体が適宜適切な搬送部材を用いて一枚ごとに搬送を開始させられ、未だ回転駆動を開始していないレジストローラ対(図示せず)まで搬送され、当該レジストローラ対において、所謂ループを形成することで記録媒体のレジストレーションが行われる。レジストレーションされた記録媒体は、中間転写ベルト5に逐次一次転写されることで形成されたフルカラートナー像とのタイミングを計って、レジストローラ対の回転駆動により搬送され、中間転写ベルト5の支持ローラの一つでもある二次転写バックアップローラ15とこれに対向する二次転写ローラ18とで構成される二次転写ニップ部で画像を二次転写される。二次転写された記録媒体は、記録媒体搬送方向下流側に配設された後述する定着装置19までさらに搬送され、定着装置19で熱と圧力とを受けることにより半永久画像として記録媒体に定着させられ、その後、さらに搬送されて排紙ローラ対69を介して、排出トレイなどの記録媒体排出部に排出されることで画像形成動作が完了する。なお、中間転写ベルト5上で記録媒体に二次転写されなかった二次転写残トナーは、中間転写クリーニング手段14により除去・回収され、次の画像形成動作に備えることになる。
次に、図2を用いて定着装置19の構成と作用についてさらに説明する。図2は、本発明が適用されるような電磁誘導加熱方式の定着装置の一例を概略断面図で示したものである。図2に示されるように、定着装置19は、主として、電磁誘導加熱部材25、当該電磁誘導加熱部材25に対向する定着部材としての定着ローラ20、当該定着ローラ20に圧接する加圧部材としての加圧ローラ30などで構成されていて、この他にも、図示はしないが、搬送されてきた記録媒体の定着ニップ部への搬送をガイドするガイド板や、定着ニップ部を脱した記録媒体を定着ローラ20から分離するための分離板などから構成されている。さらには、後述する定着ローラ20の定着スリーブ層23の表面温度を検知するサーミスタやサーモパイルなどの温度検知手段(温度センサ)が設けられている。なお、図示しないガイド板の一例を説明すると、このガイド板は、定着ローラ20と加圧ローラ30とが圧接することで形成される定着ニップ部から記録媒体の搬送方向で見て上流側で、且つ、未定着トナー像が担持されている記録媒体の面に対向するように設けらえており、例えば、当該画像定着面に当接する複数の拍車が、記録媒体の幅方向に並設されている拍車ガイド板として構成される。なお、当該複数の拍車は、記録媒体に接触しても未定着トナー像に擦れ跡を生じさせないように、拍車の周面がノコ歯状に形成されるとよい。また、図示しない分離板は、定着ニップ部の記録媒体搬送方向下流側に設けられ、定着ニップ部で定着完了後の記録媒体が定着ローラ20に吸着して巻きつく搬送ジャムを防止するために設けられる。すなわち、定着完了後の記録媒体の先端部に分離板の先端部を接触させることで、記録媒体を定着ローラ20から強制的に分離させている。
ここで、ここに図示する定着ローラ20は、アルミニウム(Al)やステンレス(SUS)あるいは鉄(Fe)の芯金21の表面に発泡ウレタンゴムなどの断熱性の高いスポンジ層である断熱弾性層22が2〜15mm程度の厚みで設けられており、さらに当該断熱弾性層22の外周側に定着スリーブ層23が積層され、これら3層で定着ローラ20の外径がφ30〜50mm程度になるように構成されている。また、この定着スリーブ層23は、例えば、内周面側から基材層、第一酸化防止層、発熱層、第二酸化防止層、弾性層、離型層が順次積層された多層構造体である。その構成の一例をさらに詳しく説明すると、基材層は40μm程度のステンレスで形成され、第一及び第二酸化防止層は層厚が1μm以下のニッケルをストライクめっき処理することで形成され、発熱層は10μm程度の銅で形成され、弾性層は層厚が150μm程度のシリコーンゴムで形成され、離型層は層厚が30μm程度のPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)で形成されている。
また、電磁誘導加熱部25は、コイル部26(励磁コイル)、コア部27(励磁コイルコア)、コイルガイド28などで構成され、当該コイル部26は、定着ローラ20の外周面の一部分を覆うように近接配置されたコイルガイド28上において、細線を束ねたリッツ線を巻き回して、図2の紙面垂直方向である幅方向に延設したものである。なお、コイルガイド28は、ガラス材料が45%程度含有されたPET(ポリエチレンテレフタレート)などの耐熱性の高い樹脂材料からなり、定着ローラ20の外周面に対して前記したコイル部26を保持していて、コイルガイド28と定着ローラ20との間のギャップが2±0.1mm程度に設定されている。また、コア部27は、比透磁率が2500程度であるフェライトなどの強磁性体から成り、定着ローラ20の発熱層に向けての効率のよい磁束を形成するために設けられ、アーチコア、センターコア、サイドコアなどで構成される。
さらに、加圧部材としての加圧ローラ30は、鉄鋼、アルミニウムなどからなる円筒部材32上に、肉厚が1〜5mm程度である、シリコーンゴムなどからなる弾性層31及び層厚が20〜200μm程度である、PFAなどからなる離型層を積層したものが用いられる。ここで、図においては、加圧ローラ30の当該離型層は省略して描かれていることに注意されたい。なお、図示はしないが、定着ニップ部における記録媒体への加熱効率を高めるために、加圧ローラ30の円筒材32内部にハロゲンヒータなどの加熱源を設け、当該加熱源の輻射熱で加圧ローラ30自体を加熱することもできる。
このように構成される図示した例の定着装置19では、図示しない駆動モータなどの駆動源によって定着ローラ20が図2における矢印の如く半時計まわり方向に回転駆動され、それに伴い、定着ローラに圧接している加圧ローラ30がやはり図示した矢印の如く時計回り方向に回転させられる。そして、定着ローラ20に設けられた定着スリーブ層23の発熱層が電磁誘導加熱部25との対向位置で、電磁誘導加熱部25から発生させられる磁束により加熱されることになる。ここで、この発熱層を磁束により加熱させるためには、まず、周波数可変の発振回路を有する電源部からコイル部26に10kHz〜1MHz、好ましくは、20kHz〜800kHzの高周波交番電圧を印加することで交番電流を通電し、この交番電流の作用により、コイル部26から定着スリーブ23に向けた磁力線が双方向に切り替わるように形成される。この交番磁界が形成されることで、定着スリーブ23の発熱層に渦電流が生じ、当該渦電流が流れることで、発熱層の電気抵抗との作用で発生するジュール熱によって発熱層が発熱し、定着スリーブ層23が加熱される。その後、電磁誘導加熱部25により加熱された定着スリーブ層23は、定着ローラ20の回転に伴って加圧ローラ30との定着ニップ部に達し、この定着ニップ部で挟持される、未定着トナー像を担持している記録媒体に熱を加えることで未定着トナーを溶融させ、加圧ローラ30が定着ローラ20に圧接している加圧力の作用と相俟って、溶融したトナーが記録媒体に定着させられる。
なお、当該定着ニップ部を形成するために、加圧ローラ30を定着ローラ20に圧接させ、さらにはこの圧接による加圧力を調整することのできる加圧調整手段の一例を側面図である図3を用いて説明する。ここに図示した加圧調整手段では、図3に示されるように、一端部33が定着装置19側に固定された付勢部材31(図示した例ではつるまきバネ)の他端部32を、リンク35のリンク端部36に接続する。この際、付勢部材31は、定常的にリンク35が加圧ローラ30から離れる方向(図3中では左方)に付勢力を付与している。また、当該リンク35の付勢部材31が接続されていない端部37は、リンク支点37として構成されており、当該リンク支点37を介してリンク35が定着装置19に回動可能に固定される。さらに、当該リンク35を、加圧ローラ30の軸が回転可能に嵌挿されている軸受けやあるいは加圧ローラ軸本体などに圧接させることで、加圧ローラ30を定着ローラ20に圧接させるように構成するが、この際、付勢部材31は、本来的にリンク35が図中左方に回動するように付勢力を付与して、加圧ローラ30からの圧接力が定着ローラ20に加わらないようにしているので、リンク35を付勢部材31の付勢力に抗して、定着ローラ20側へ押圧するためのカム機構80が設けられている。このカム機構80は、図示しない例えばステッピングモータなどの駆動源からの駆動力で回動可能なカム81と、このカム81にフィラー支点85を介して接続され、断面が半円形状にされたフィラー82とで構成されている。そして、カム81が図示した例では時計回りに回動させられることで、フィラー支点85を中心に共に時計回りに回動するフィラー82の先端部がリンク35に当接し、さらにリンク35を押圧することによって、リンク35が接触する加圧ローラ30の軸受けや軸が付勢部材31の付勢力に抗して定着ローラ20側に移動し、これによって、加圧ローラ30が定着ローラ20への所望の圧接力で圧接できるように構成されている。なお、図3は、図2などに示される定着装置の断面図とは逆側から眺めた図になっており、したがって、加圧ローラ30と定着ローラ20との図面における位置が図2とは入れ替わっていることに注意されたい。
さらにまた、この定着装置19では、図示しないサーミスタなどの接触型温度センサが、図2で見て紙面の鉛直方向に延在する定着ローラ20の定着スリーブ層23の両端部に接触して設けられていて、さらに、定着スリーブ23の中央部にはやはり図示しないサーモパイルなどの非接触型の温度センサが設けられている。これらの温度センサは、定着スリーブ層23の表面温度を検知するために設けられており、これら温度センサの検知温度に基づいて、電磁誘導加熱部25への供給電力量を制御する(例えば、交番電圧印加のタイミングや電圧量などを制御する)ことにより、電磁誘導加熱部25が定着スリーブ層23を加熱する加熱量を制御している。なお、本実施形態では、定着工程が実施される際の定着スリーブ層23の表面温度を160〜165℃になるように電磁誘導加熱部25への電力供給制御が実施されている。また、先に記述したように、加圧ローラ30の内部にハロゲンヒータなどの加熱源を設ける場合には、加圧ローラ側にも、同様にサーミスタやサーモパイルなどの温度センサが設けられ、当該加熱源の温度制御が実施される。
これまで本願発明が適用されるような電磁誘導過熱方式の定着装置の一例を説明してきたが、本願発明はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、ここに図示した定着ローラ20は、定着スリーブ層23と一体化され、図示しない駆動源により、定着ローラ20と定着スリーブ層23が共に回転する構成となっているが、この他に、例えば定着ローラ20とは別体で無端ベルト状の定着スリーブ23を構成し、位置固定式の定着ローラ20の外周面をこの定着スリーブ23が摺動するように構成することもできる。定着スリーブ23を定着ローラ20と別体で構成した場合には、加圧ローラ30側が回転駆動させられ、この加圧ローラ30の回転駆動に伴い、別体の定着スリーブ層23が位置固定式の定着ローラ20の外周面を摺動させられる。また、この場合には、定着スリーブ23の回転中に定着スリーブ23が定着ローラ20の長手方向乃至軸線方向に移動していってしまうのを防止するための定着スリーブ移動防止部材を設けておくほうが好ましい。
次いで、本願発明にかかる定着装置19の好適な実施例を、図4を用いて説明する。図4は、本発明にかかる定着装置19の電磁誘導加熱部材25を定着ローラ20から離間させた状態で示す断面を概略で示した概略展開断面図であり、定着部材である定着ローラ20における断熱弾性層22の全幅にわたり、複数の導電性の薄膜層73がそれぞれ互いとは接触しないように間隔を開けて設けられている一例を示す図である。また、図4における左方には、定着ローラ20と加圧ローラ30とを抽出して側面から眺めた側面図も併せて描いている。図4に示されるように、本発明では、定着ローラ20の断熱弾性層22の全幅にわたり複数の導電性の薄膜層73、73・・・を互いとは接触しないように設けていることに第一の特徴がある。ここに図示した例における薄膜層73は、銅などの導電性を有する薄肉状の金属材料(例えば、その肉厚が10μm程度)から成り、断熱弾性層22の全幅にわたり、そのそれぞれが断熱弾性層22の外周表面を円周方向にそれぞれ覆うように、当該断熱弾性層22と定着スリーブ層23との間に設けられている。また、当該複数の薄膜層73全ては、例えば、断熱弾性層22の外周面にシリコーン接着剤などにより接着されて断熱弾性層22に固定されている。なお、これら複数の薄膜層73が設けられる断熱弾性層22におけるそれぞれの配設位置は、隣接する薄膜層73が互いに接触しないように、断熱弾性層22の全幅にわたり設けられている。このように構成することで、後述する破損検知手段46により薄膜層73に電圧を印加したとしても、隣接する薄膜層73が互いに短絡することを防止しているが、なるべく多くの薄膜層73を近接して配置したほうが、後述する定着ローラ20の破損位置検知には有利である。
さらに、本願発明では、これら複数の薄膜層73それぞれに対して、複数の破損検出手段46を設けることに更なる特徴があり、これら複数の破損検出手段46は、薄膜層73に電極などを介して接触していて、対応する薄膜層73に一定電圧をそれぞれ印加することで、これら複数の薄膜層73それぞれに流れるそれぞれの電流値を監視している。図4においては、この破損検知手段46は、定着ローラ20一方の端部(図中右方)に設けられた薄膜層73にだけ設けられているが、実際には複数設けられた薄膜層73全てにその数に対応して設けられている。これら破損検出手段46では、当該電流値の変動を検知することで薄膜層73の電気抵抗の変動を検知することができるように構成されていて、破損検知手段46からの一定電圧を、破損していない状態の定着ローラ20に印加した場合の電流値、ひいてはオームの法則により求められる電気抵抗値を初期値として用いている。そして、仮に、定着ローラ20の断熱弾性層22が破損乃至欠損した場合には、断熱弾性層22を円周方向にわたって覆っている薄膜層73も破損乃至欠損することになるので、この薄膜層73の電気抵抗値が変動し、電気抵抗値が変動したことに伴って、一定電圧を印加している破損検知手段46に流れる電流値が初期値から変動するというものである。また、本発明では、複数の薄膜層73を断熱弾性層22の全幅にわたり設けているので、電気抵抗値が変動した薄膜層73の位置を特定することで、断熱弾性層22の、ひいては定着ローラ20の破損位置を特定するすることができる。なお、定着ローラ20は、加圧ローラ30からの圧接力を長時間受けていること、さらに電磁誘導加熱部材25などから経時的には長時間加熱されていることから、突然に破損することがあるので、定着ローラ20の全幅にわたって、その外周面を円周方向に覆う薄膜層73を複数設け、この薄膜層73それぞれの電気抵抗値をそれぞれ検出する破損検出手段46を用いることで、このような定着ローラ20における突然の破損乃至欠損及び破損位置を効果的に検出・特定することが可能となる。
ここで、この定着ローラ20が破損した破損程度は、薄膜層73の電気抵抗値の変動割合とほぼ比例状態にあり、電気抵抗値の変動程度を先に記述した初期値との割合に変換することで、定着ローラ20の破損程度を検出することができる。この定着ローラ20の破損程度と、初期電流値に対する検出電流値割合、ひいては電気抵抗値の変動割合の一例を以下の表1に示す。
なお、図4に示した実施例の場合には、複数の破損検知手段46及び複数の薄膜層73が、定着ローラ20の断熱弾性層22の全幅にわたり設けられているので、この場合におけるローラ破損率は、これら破損検知手段46がそれぞれ検出したローラ破損率の合算で求められる。すなわち、例えば一つの破損検知手段46だけが電気抵抗値変動を検出した場合には、その破損検知手段46が検知している薄膜層73の部分だけが破損しているので、定着ローラ20に対する一つの薄膜層73の破損割合だけがローラ破損率として検出されるが、例えば2つの破損検知手段46が電気抵抗値変動を検出した場合には、2つの薄膜層73の破損割合の合計が定着ローラ20の破損割合乃至破損程度として検出される。
ここで、既述のとおり本願出願人の経験からは、定着ローラ20の破損は、その殆どが端部から始まることがわかっている。したがって、表1に示されるように電気抵抗値が変動したことで、定着ローラ20の破損が検出された場合は、定着ローラ20はその端部から破損している場合が殆どである。この場合に、定着ローラ20が破損しているからといっても、未だ画像形成装置は、記録媒体のサイズや記録媒体種などの、定着ニップ部への記録媒体の搬送の条件(定着ニップ部への通紙条件)によっては定着工程を実施できる場合もあり、当該定着ニップ部への記録媒体の搬送の条件を変更・限定することで、記録媒体を定着処理可能に構成したほうが使用者に対して使い勝手が良い場合が多い。したがって、本願発明の発明者らは、定着ローラ20の破損が検知された際に、定着ニップ部への記録媒体の搬送の条件を変更して限定するように構成することを考え出した。なお、本発明では、電気抵抗値が変動した薄膜層73の位置を特定することで、定着ローラ20の破損位置を特定することができるが、これについては後述する。
ここで、この定着ニップ部への記録媒体の搬送の条件を変更するに際し、まずは、比較的に加圧ローラ30による定着ローラ20への加圧力が低減されても十分に画像定着が行える記録媒体種に関しては、破損検知手段46が検知している電気抵抗値に応じて、加圧ローラ30による定着ローラ20への圧接力を低減して、定着工程を、ひいては画像形成動作を実施できるように構成した。加圧ローラ30の定着ローラ20への加圧力を低減したとしても、画像定着に問題が生じない記録媒体種に関しては、例えば、厚紙や封筒などが挙げられ、この種の記録媒体は、定常的に記録媒体にシワなどが発生しないように加圧ローラ30の圧接力を低減させて定着工程が実施されているものである。
この加圧ローラ30による定着ローラ20への加圧力を低減させる構成を図3に戻って説明すると、先に説明したように、図3における加圧ローラ30は、フィラー82の回動作用によりリンク35を付勢部材31の付勢力に抗して定着ローラ20の方へ移動させることで、リンク35と接触する加圧ローラ30を定着ローラ20に圧接させて所望の加圧力を発揮できる構成を採用しているが、このフィラー82の回動範囲を低減することで、定常的な乃至通常の圧接力を低減することが可能となる。すなわち、定着ローラ20が破損した場合には、定着ローラ20が破損していない場合のフィラー82の回動範囲乃至距離に対して、当該フィラー82の回動距離を低減することで加圧ローラ30からの定着ローラ20への加圧力を低減することが可能となる。
なお、定着ローラ20の破損程度が一定以上になった場合には、定着装置へ与えるダメージが大きく乃至深刻になることが考えられるため、例え厚紙や封筒などの記録媒体種であっても定着工程を実施できないように構成したほうがよい。そのため、一定の破損率を破損検出手段46が検知した場合には、加圧ローラ30の定着ローラ20への加圧力を解除して、画像形成動作を停止させるのが好適である。この画像形成動作を停止させる破損率を、例えば10%に設定した場合の加圧ローラ30の定着ローラ20への加圧力程度の一例を表2に示す。
このように、定着ローラ20の破損程度に応じて、加圧ローラ30の定着ローラ20への加圧力を加圧調整手段を用いて低減させるように構成しておけば、定着ローラ20が破損していたとしても、記録媒体種やサイズなどの通紙条件次第では、画像形成動作が実施できるため、使用者には使い勝手の良い定着装置及び画像形成装置を提供することが可能となる。
ここで、定着ローラ20の破損がその端部から発生する場合がほとんどであったとしても、定着ローラ端部以外の位置で発生する場合もある。この場合には、例えば厚紙や封筒などの記録媒体種であることから加圧ローラ30の加圧力を低減することで定着工程を実施できる場合であっても、破損箇所が定着ニップ部における記録媒体通紙領域に存在してしまうと、形成されるべき画像に対する定着不良が発生してしまったり、当該破損箇所が記録媒体に擦れてしまうことによる画像不良の問題が発生してしまう。さらに、記録媒体に傷をつけてしまうなどの問題が発生してしまうことも考えられる。そこで、本発明では、複数設けられた破損検知手段46が特定した定着ローラ20の破損位置に応じて、定着ニップ部に導入できる記録媒体サイズを制限するようにも構成した。これをさらに説明すると、例えば、定着ローラ20の幅方向乃至長手方向における中心位置(図4の紙面水平方向における定着ローラ20の中心位置)に、画像定着されるべき記録媒体の幅方向における中心が一致するように、定着ニップ部に記録媒体が搬送されるように設定されている場合に、破損が検知された定着ローラ20の位置が、記録媒体の通紙領域(すなわち、定着ローラ20の長手方向における中心位置から両端部の方へ等距離に伸ばした幅方向の、記録媒体サイズに対応する距離)よりも少なくとも外側にある場合に、定着ニップ部に記録媒体を導入できるようにする。
このように、定着ローラ20の破損程度及び破損位置に応じて、加圧ローラ30の定着ローラ20への加圧力を加圧調整手段を用いて低減させると共に、定着ニップ部に導入することのできる記録媒体サイズを制限するように構成しておけば、定着ローラ20が破損していたとしても、記録媒体種やサイズなどの通紙条件次第では、画像形成動作が実施できるため、使用者には使い勝手の良い定着装置及び画像形成装置を提供することが可能となる。
さらにまた、破損が生じている定着ローラ20の延命措置を講じるために、定着ローラ20への加熱程度を低減すると好ましい。これは、電磁誘導加熱部材25への供給電力量を低減することで達成が可能である。しかしながら、この場合、定着ローラ20の所望温度に対する昇温が低減されてしまう、あるいは、定着されるべき記録媒体が通過することで奪われた熱が所望の定着温度まで復帰する時間が長くかかってしまうなどの不具合が結果として生じてしまうことが考えられるので、記録媒体の定着ニップ部への通紙速度、すなわち記録媒体の通過線速を低減させることで、通常の通紙条件と同等の熱量を記録媒体に付与できるように構成するのが好ましい。定着ローラ20の破損程度に対する、この電磁誘導加熱部25への電力量の変化と、通紙速度との関係の一例を表3に示す。
なお、例えばローラ破損率が10%を超えたような場合は、先に記述したように、定着装置へ与えるダメージが深刻になることが考えられるため、電磁誘導加熱部25への電力供給をやめて、定着工程及び画像形成装置における画像形成動作を停止するのが好ましい。
また、本発明では、定着ローラ20の破損が複数の破損検出手段46により検出された際に、当該破損検出手段46が検知している電気抵抗値、ひいては定着ローラ20の破損程度及び破損位置に応じて、記録媒体種や記録媒体サイズなどの通紙条件次第では定着工程を実施するように構成しているので、このローラ破損程度及び通紙可能な記録媒体サイズを使用者に知らせるように構成するのが好適である。例えば、上記した実施例のように、定着ローラ20の破損程度が10%以上のときに定着工程及び画像形成動作を停止するように構成した場合において、破損を検知したとしても破損程度が10%以下の場合には、画像形成装置本体に設けたディスプレイなどに所定の大きさの、例えば小画面で定着ローラ20が破損していること及びその破損位置を使用者に通知し、定着ニップ部への記録媒体の搬送の条件が変更されて限定されていることを知らせると共に、定着ローラ20の交換を促すようにする。その一方で、破損程度が10%以上の場合には、ディスプレイなどに所定の大きさの、例えば大画面で画像形成が実施できなくなっていることを使用者に通知する。この関係を表4に示す。
なお、使用者への通知は、このようなディスプレイ上に表示させるものに限られず、例えば警告ランプを点灯させることで表示してもよい。この場合、ローラ破損率やローラ破損位置に対応する別個の警告ランプを設けてもよいし、あるいは、警告ランプを共通にしてランプ色を異なるようにしてもよい。
さらに、複数の破損検出手段46は、定着ローラ20の破損を検出し、さらに、当該破損位置を特定するためだけに設けられているので、画像形成ジョブが入力されていない例えば待機時などには、動作させておく必要がない。そこで、画像形成ジョブが入力された場合にだけ、複数の破損検出手段全ての電源をONにして、定着ローラ20が現在破損しているか否か、及び、破損しているとしたらどの位置で破損が発生しているかを検出させ、画像形成ジョブが終了した場合には、当該破損検出手段46全ての電源をOFFにする。このように構成しておけば、画像形成装置が待機状態にある場合などの消費電力を抑えることができるので好適である。
最後に、本発明における定着ローラ破損時の制御の一例を示すフローチャートを示した図5を用いて、本願発明の定着装置19の制御を説明する。
まず、ステップ1(S1)として、画像形成装置に画像形成ジョブが入力されているか否かが判断される。この際、画像形成ジョブが入力されていなければ、複数の破損検出手段46の電源は全てOFFのままであり(ステップ2:S2)、入力されていれば、全ての破損検出手段46の電源をONにする(ステップ3:S3)。そして、当該破損検出手段46がそれぞれの薄膜層73に流れる電流を検知し、当該電流値からオームの法則を利用して電気抵抗値を検知する(ステップ4:S4)。さらに、当該検知された電気抵抗値が、定着ローラ20が破損していないときに破損検出手段46が検知した初期の電気抵抗値から変動しているか否かの判定が行われる(ステップ5:S5)。この際、全ての薄膜層73の電気抵抗値に変動がなければ、定着ローラ20は何れの位置においても破損していないので、そのまま画像形成動作が実施される(ステップ6:S6)。その一方で、いずれかの薄膜層73の電気抵抗値が変動している場合には、定着ローラ20に破損が発生していると判断される(ステップ7:S7)。ここで、定着ローラ20の破損が検出された場合には、電気抵抗値の変動割合から定着ローラ20の破損程度が判断され、当該破損程度が例えば10%以上であるか否かが判断される(ステップ8:S8)。この破損程度が10%以上であれば、加圧ローラ30が定着ローラ20へ圧接している加圧力を加圧調整手段を介して解除させて、画像形成動作を停止させるか、あるいは開始させない(ステップ9:S9)。この際、電磁誘導加熱部材25への電力供給も同時に停止させることもできる。また、画像形成装置に設けられた例えばディスプレイなどに、定着ローラ20が破損しているため画像形成の実行が不可能であることを表示させる。これに対して、定着ローラの破損程度が10%以下である場合には、次いで、定着ローラ20の破損位置の特定が行われる(ステップ10;S10)。この破損位置の特定は、複数設けられている薄膜層73のうち、電気抵抗値を変動させた薄膜層73が、定着ローラ20のいずれの位置に配置されているかを特定することで判断される。次いで、定着ニップ部への記録媒体の搬送の条件、すなわち通紙条件を変更して(ステップ11:S11)、画像形成動作が実行可能か否かを判断させる(ステップ12:S12)。この際、変更される通紙条件は、破損位置に対して通紙可能な記録媒体サイズ、加圧ローラ30が定着ローラ20に圧接する加圧力などであり、現在入力されている画像形成ジョブがこの通紙条件で画像形成不可能であれば、画像形成動作を中止してあるいは開始せずに(ステップ13:S13)、使用者に、例えば画像形成装置本体に設けられたディスプレイや点灯ランプなどを用いて、定着ローラ20が破損しているため所定の記録媒体でしか画像形成が実行できない旨を通知すると共に、定着ローラ20の交換を促す。現在入力されている画像形成ジョブが、変更された通紙条件で画像形成可能であれば、画像形成動作を変更された通紙条件で実行する(ステップ14:S14)。なお、この際には、画像形成動作を実行したとしても、使用者に、例えばディスプレイや点灯ランプなどを用いて、定着ローラ20が破損しているため、所定の記録媒体でしか今後の画像形成が実行できない旨を通知するようにする。