JP5486827B2 - 白金−鉄合金微粉末の製造方法 - Google Patents

白金−鉄合金微粉末の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、白金−鉄合金微粉末の製造方法に関し、特に、燃料電池の電極触媒などに使用する白金−鉄合金微粉末の製造方法に関する。
燃料電池は、水素または炭化水素などの燃料と、酸素などの酸化剤との間の酸化還元反応によって得られる化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する発電装置である。一般に、燃料電池は、供給される燃料ガスを酸化するための燃料極としてのアノードと、供給される酸化剤ガスを還元するための酸化剤極としてのカソードとからなる一対の多孔質電極の間に、電解質を挟持させた単電池を複数個積層して構成されている。
燃料電池には、様々な種類の燃料電池があり、主に使用される電解質の形態により、固体高分子形燃料電池(PEFC)、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、アルカリ形燃料電池(AFC)、直接形メタノール燃料電池(DMFC)に分類される。これらの燃料電池の中で、DMFC以外は、酸素と水素の反応を直接利用し、AFC以外は、空気中の酸素を反応に利用している。また、PEFCとPAFCは、比較的低温で動作するので、低温型燃料電池と呼ばれ、MCFCとSOFCは、600℃〜1000℃の高温で動作するので、高温型燃料電池と呼ばれている。高温型燃料電池では、電極触媒を必要としないが、低温型燃料電池では、電極触媒を用いて反応の活性化エネルギーを低下させ、電池反応を促進させる必要がある。
固体高分子形燃料電池(PEFC)のような低温型燃料電池では、一般に電極触媒として白金(Pt)触媒が使用されている。しかし、白金触媒は、一酸化炭素(CO)によって被毒され易いので、燃料ガスとしてCOを含む炭化水素ガスを使用すると、白金触媒の表面にCOが吸着して触媒活性が低下するという問題がある。
このようなCOの吸着による触媒活性の低下を防止するため、白金触媒の代わりに、COの吸着による触媒被毒耐性に優れた白金−ルテニウム(Ru)合金触媒を使用することが提案されている。しかし、ルテニウムは希少金属の一種であり、白金よりも埋蔵量が少ないため、白金−ルテニウム合金触媒の代わりに、白金−鉄(Fe)合金触媒を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、触媒活性を向上させるために、白金または白金合金を導電性カーボン粉末担体上に分散担持させた担持触媒粒子からなる燃料電池用アノード電極触媒が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような白金合金などが担持された触媒では、白金合金などの粒子径を小さくし、均一に分散させて、反応表面積を増大させることによって、触媒活性をさらに高くすることが望まれている。
特開平9−206597号公報(段落番号0008−0015) 特開平10−74523号公報(段落番号0012)
しかし、固体高分子形燃料電池(PEFC)のような低温型燃料電池の電極触媒として、白金−鉄合金触媒や、白金−鉄合金微粉末を炭素粉末上に担持させた触媒を使用すると、電解質である酸によってFeイオンが溶出し、触媒性能が阻害されて水素酸化反応活性が低下するという問題がある。
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、酸によるFeの溶出を抑制することができ、燃料電池の電極触媒として使用するのに適した白金−鉄合金微粉末の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、白金−鉄合金微粉末を合成した後、不活性雰囲気中において600℃以上の温度で熱処理するとともに、酸性溶液で洗浄することにより、酸によるFeの溶出を抑制することができ、燃料電池の電極触媒として使用するのに適した白金−鉄合金微粉末を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明による白金−鉄合金微粉末の製造方法は、白金−鉄合金微粉末を合成した後、不活性雰囲気中において600℃以上の温度で熱処理するとともに、酸性溶液で洗浄することを特徴とする。この白金−鉄合金微粉末の製造方法において、白金−鉄合金微粉末の合成は、ポリオール中に白金塩と鉄塩を分散させた溶液を加熱して還流することによって行うのが好ましい。また、炭素粉末に担持された白金−鉄合金微粉末を合成する場合には、白金−鉄合金微粉末の合成は、ポリオール中に白金塩と鉄塩と炭素粉末を分散させた溶液を加熱して還流することによって行うのが好ましい。また、ポリオールがエチレングリコールであるのが好ましく、白金塩が白金(II)ビスアセチルアセトナートであり、鉄塩が鉄(III)トリスアセチルアセトナートであるのが好ましい。なお、白金−鉄合金微粉末の合成を無水ポリオール中で行ってもよい。また、酸性溶液が硫酸水溶液であるのが好ましい。また、熱処理により、白金−鉄合金微粉末をfcc構造からfct構造に転移させるのが好ましい。
また、本発明による白金−鉄合金微粉末は、上記の白金−鉄合金微粉末の製造方法によって製造されたことを特徴とする。この白金−鉄合金微粉末は、平均粒子径が2〜4nmであるのが好ましく、fct構造を有するのが好ましい。
本発明によれば、酸によるFeの溶出を抑制することができ、燃料電池の電極触媒として使用するのに適した白金−鉄合金微粉末を製造することができる。
実施例5および比較例1〜3の炭素担持白金−鉄合金微粉末のサイクリックボルタモグラムである。
本発明による白金−鉄合金微粉末の製造方法の実施の形態では、白金−鉄合金微粉末を合成した後、不活性雰囲気中において600℃以上の温度で熱処理するとともに、酸性溶液で洗浄する酸処理を行う。
粒径が数nm程度の白金−鉄合金微粉末(白金−鉄ナノ微粒子)の合成方法として、スパッタ法、ホットソープ法、ポリオールプロセスなどの方法があるが、炭素粉末に担持された白金−鉄合金微粉末を合成する場合には、ポリオールプロセスを利用するのが好ましい。ポリオールプロセスは、還元剤であるポリオール(多価アルコール)がアルデヒドになる酸化反応を利用して金属イオンを還元し、金属ナノ微粒子を合成する方法である。このポリオールプロセスでは、エチレングリコールなどのポリオールが還元剤、溶媒および酸化防止剤として働くため、酸化されやすい遷移金属と貴金属とのナノ微粒子合金の合成に適している。
本発明による白金−鉄合金微粉末の製造方法の実施の形態では、白金−鉄合金微粉末の合成が、ポリオール中に白金塩と鉄塩を分散させた溶液を加熱して還流することによって行われるのが好ましい。炭素粉末に担持された白金−鉄合金微粉末を合成する場合には、白金−鉄合金微粉末の合成が、ポリオール中に白金塩と鉄塩と炭素粉末を分散させた溶液を加熱して還流することによって行われるのが好ましい。ポリオールとしてエチレングリコールを使用するのが好ましく、白金塩として白金(II)ビスアセチルアセトナート、鉄塩として鉄(III)トリスアセチルアセトナートを使用するのが好ましい。なお、白金−鉄合金微粉末の合成に使用する白金塩の量は、炭素粉末に対して10〜60質量%であるのが好ましく、30〜50質量%であるのがさらに好ましく、40質量%であるのが最も好ましい。また、白金−鉄合金微粉末の合成に使用する鉄塩の量は、白金塩に対する鉄塩のモル比が、1〜3になるのが好ましく、1,5〜2.5になるのがさらに好ましい。
本発明による白金−鉄合金微粉末の製造方法の実施の形態では、白金−鉄合金微粉末の合成後の熱処理は、不活性雰囲気中において600℃以上の温度で行われるのが好ましく、700℃程度の温度で行われるのがさらに好ましい。白金−鉄合金微粉末を600℃以上で焼成すると、不規則構造のfcc構造から規則構造のfct構造に転移し、白金−鉄合金微粉末の酸溶液中におけるFeの溶出を抑制することができる。
本発明による白金−鉄合金微粉末の製造方法の実施の形態では、白金−鉄合金微粉末の合成後の酸処理は、酸性溶液で洗浄することによって行われる。酸性溶液として硫酸水溶液を使用するのが好ましい。この酸処理により、白金−鉄合金微粉末の酸溶液中におけるFeの溶出を抑制することができる。
本発明による白金−鉄合金微粉末の製造方法の実施の形態によって製造された白金−鉄合金微粉末中の鉄の含有量は、酸溶液中におけるFeの溶出を抑制するために、25〜75質量%であるのが好ましく、25〜55質量%であるのがさらに好ましく、30質量%程度であるのが特に好ましい。また、この白金−鉄合金微粉末中の平均粒子径は2〜4nmであるのが好ましい。平均粒子径が2nm未満の白金−鉄合金微粉末は、生産性を考慮すると実現性に乏しく、平均粒子径が4nmより大きい白金−鉄合金微粉末は、所望の触媒効果を得るのが困難になる。
以下、本発明による白金−鉄合金微粉末の製造方法の実施例について詳細に説明する。
[実施例1〜4]
まず、エチレングリコール(和光純薬株式会社製の試薬特級、99.5%以上)200mL、担持触媒としてケッチェンブラック100mg、金属塩として白金(II)ビスアセチルアセトナート(Pt(acac))および鉄(III)トリスアセチルアセトナート(Fe(acac))をセパラブルフラスコに投入し、30分間超音波処理を行って、ケッチェンブラックと金属塩をエチレングリコールに分散させた。なお、組成の異なる白金−鉄合金微粉末を合成するために、白金塩(白金(II)ビスアセチルアセトナート)の投入量を、ケッチェンブラックに対して40質量%とし、白金塩に対する鉄塩(鉄(III)トリスアセチルアセトナート)の投入比(モル比)をそれぞれ1(実施例1)、1.5(実施例2)、2(実施例3)および3(実施例4)として、4つの分散液を用意した。
次に、これらの分散液の各々について、セパラブルフラスコ内の溶液を攪拌器によって160rpmの速度で攪拌し、0.4L/分で窒素を吹き込みながら、マントルヒータによりエチレングリコールの沸点である197℃まで加熱し、その温度を1時間保持して、還流を行った。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液をろ過し、水で洗浄し、乾燥して、炭素粉末に担持された白金−鉄合金微粉末(炭素担持白金−鉄合金微粉末)を合成した。
このようにして得られた炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料について、X線回折(XRD)パターンの測定、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散X線(TEM−EDX)による測定、蛍光X線(XRF)による測定、サイクリックボルタモグラム(CV)の測定を行った。
X線回折パターンの測定は、X線回折装置(Rigaku社製のX線回折装置MULTI FLEX)を使用し、対陰極CuKα(λ=1.54Å)、管電圧20kV、管電流20V、発散スリット1/2°、散乱スリット1/2°、受光スリット0.15mm、測定範囲20°〜90°、測定方法FT(固定時間)5秒、ステップ0.1°で行った。
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察は、透過型電子顕微鏡(日立製作所製のHF−200)を使用して、加速電圧200kVで行った。
透過型電子顕微鏡−エネルギー分散X線(TEM−EDX)による測定は、エネルギー分散X線分析装置(NORAN Instruments社製のVANTAGE)を使用して、対象元素をFe−K LineおよびPt−L Lineとして行った。
蛍光X線(XRF)による測定は、蛍光X線分析装置(堀場製作所製のMESA−500W)を使用して、対陰極をRh、管電圧を50kV、管電流を自動にして行った。
サイクリックボルタモグラム(CV)の測定は、サイクリックボルタモグラム測定装置(東陽テクニカ製のポテンショスタット/ガルバノスタット&ファンクションジェネレータ−)を使用し、三電極系サイクリックボルタンメトリー法により、作用極として炭素担持白金−鉄合金、参照極として銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極、対向極として白金コイル、電解質溶液としてアルゴンガスにより脱気した0.1M硫酸水溶液を使用し、測定範囲をAg/AgClに対して−0.2V〜1.0V、電位掃引速度10mV/sとして行った。なお、作用極は、鏡面処理したグラッシーカーボンの上にOリング(Φ6mm)を載せた内側に、エタノールと5質量%のNafion(デュポン社の登録商標)溶液(Aldrich社の5質量%Nafion)を10:1で混合した溶液70μL滴下し、80℃オーブンで2分間乾燥させた後、炭素担持白金−鉄合金微粉末5.0mgとエタノール5.0mLを混合して30分間超音波分散させて得られたスラリー100μL滴下し、再び80℃オーブンで乾燥させて作製した。
X線回折(XRD)パターンでは、実施例1〜4のすべての試料にマグネタイトおよびFeのピークが見られず、PtまたはPt−Feのピークのみが観測された。なお、25°付近にピーク(担持触媒として用いたケッチェンブラックのピーク)が見られた。エチレングリコールを用いたポリオールプロセスにより合成した白金−鉄合金微粉末は、不規則構造のfcc構造を有する。白金−鉄合金では、Ptがより原子イオン半径の小さいFeに置換されるため(Fe=0.124nm、Pt=0.139nm)、格子定数が小さくなり、XRDパターンのピークが高角側にシフトし、82.5°付近の(311)面のピークが強く観測される。しかし、実施例1〜4の試料のX線回折(XRD)パターンでは、粒子が小さいためピークがブロードになり、シフトの確認ができなかった。そのため、実施例1〜4で作製した微粉末の磁性を調べたところ、磁性を有することが確認された。Ptは磁性がなく、また、XRDパターンからFeおよびマグネタイトのピークが観測されなかったので、実施例1〜4で作製した微粉末は白金−鉄合金微粉末であると考えられる。
また、実施例1〜4で作製した白金−鉄合金微粉末について、X線回折(XRD)の結果から得られた平均粒子径は、それぞれ約8nm(実施例1)、約10nm(実施例2)、約11nm(実施例3)、約13nm(実施例4)であった。一方、透過型電子顕微鏡(TEM)によるTEM画像から得られた平均粒子径は、それぞれ約2.5nm(実施例1)、約2.9nm(実施例2)、約2.9nm(実施例3)、約3.3nm(実施例4)であった。
また、実施例1〜4で作製した白金−鉄合金微粉末中のFe含有量は、蛍光X線(XRF)による測定では、それぞれ41質量%(実施例1)、46質量%(実施例2)、57質量%(実施例3)、65質量%(実施例4)であり、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散X線(TEM−EDX)による測定では、それぞれ42質量%(実施例1)、48質量%(実施例2)、58質量%(実施例3)、72質量%(実施例4)であった。
また、実施例1〜4で作製した炭素担持白金−鉄合金微粉末のサイクリックボルタモグラム(CV)では、炭素担持白金微粉末と同様に、アノードにおける触媒活性である水素酸化反応が観測されたが、鉄塩の割合が大きくなるにつれて、正電位掃引時の0.5V付近と負電位掃引時の0.4V付近に新たなピークが確認された。これらのピークは、炭素担持白金−鉄合金微粉末から溶出したFeイオンの酸化還元反応に起因するピークであると考えられる。
[実施例5]
白金塩(白金(II)ビスアセチルアセトナート)の投入量を、ケッチェンブラックに対して40質量%とし、白金塩に対する鉄塩(鉄(III)トリスアセチルアセトナート)の投入比(モル比)を1.75とした以外は、実施例1〜4と同様の方法により、炭素粉末に担持された白金−鉄合金微粉末(炭素担持白金−鉄合金微粉末)を合成した。
次に、得られた炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料を不活性雰囲気中において700℃で熱処理した後、その試料5mgを0.1M硫酸水溶液10mL中に投入し、80℃のオーブンで8時間反応させて、酸処理を行った。
また、比較例1〜3として、熱処理および酸処理の一方または両方を行わなかった以外は実施例5と同様の方法によって、炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料を得た。
このようにして得られた実施例5および比較例1〜3の試料について、実施例1〜4と同様の方法により、X線回折(XRD)パターンの測定、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散X線(TEM−EDX)による測定、蛍光X線(XRF)による測定、サイクリックボルタモグラム(CV)の測定を行うとともに、酸溶液中に溶出したFeイオンのICP(誘導結合プラズマ)による定量分析を行った。
なお、酸溶液中に溶出したFeイオンの定量分析は、得られた炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料5mgを0.1M硫酸水溶液10mL中に投入し、80℃のオーブンで8時間反応させて、酸処理を行った後、誘導結合プラズマ分析装置(Thermo Electro社製のIRIS−2000)を使用し、対象元素をFe(2382nm)、測定時間30秒×30回として、平均値を求めることによって行った。
熱処理および酸処理のいずれも行わなかった比較例1と、熱処理を行わずに酸処理を行った比較例2の炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料の透過型電子顕微鏡(TEM)によるTEM画像の比較から、酸処理によって炭素担持白金−鉄合金微粉末の粒子同士の凝集体が少なくなることが確認された。これは、酸処理によりアモルファス状のFeが溶解して、白金−鉄合金のみが炭素触媒の表面に存在しているからであると考えられる。なお、TEM画像により得られた比較例2の炭素担持白金−鉄合金微粉末の平均粒子径は約3.0nmであった。
また、熱処理および酸処理のいずれも行わなかった比較例1と、熱処理を行わずに酸処理を行った比較例2の炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料のサイクリックボルタモグラムの結果から、酸処理前後のいずれも水素酸化反応活性が確認されたが、酸処理後にはFeに起因するピークが観測されなかった。この結果から、酸処理によってアモルファス状のFeが溶解して、サイクリックボルタモグラム(CV)で使用した電解溶液中にFeが溶出しないことがわかった。
また、熱処理および酸処理のいずれも行わなかった比較例1と、熱処理を行わずに酸処理を行った比較例2の炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料の蛍光X線(XRF)および透過型電子顕微鏡−エネルギー分散X線(TEM−EDX)による組成分析では、酸処理前にはFe含有量が55質量%、Pt含有量が45質量%であったが、酸処理後にはFe含有量が18質量%、Pt含有量が82質量%になった。これらの結果から、酸処理によってアモルファス状のFeだけではなく、合金化された白金−鉄合金からもFeが溶出して、Feの組成比が減少することがわかった。なお、白金−鉄合金のすべてのFeが溶出するのではなく、20%程度存在しているのは、ある一定時間が経過すると、白金−鉄合金の表面に白金皮膜が形成されて安定化し、腐食が起こらなくなったためと考えられる。
また、熱処理および酸処理のいずれも行わなかった比較例1と、熱処理を行って酸処理を行わなかった比較例3の炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料のX線回折(XRD)パターンでは、熱処理前と比べて熱処理後にピークがシャープになった。平均粒子径を算出したところ、熱処理前後の変化が確認されなかったので、熱処理によって結晶性が向上したためにピークがシャープになったと考えられる。なお、一般に、アモルファス状の物質が存在すると、XRDパターンのピークがブロードになることが知られているが、熱処理後のXRDパターンのピークがシャープになったのは、熱処理前に存在したアモルファス状の未反応物が熱処理によって合金になったためであると考えられる。また、2θ=33°および53°付近に新たなピークが現れた。これらのピークは、それぞれ(110)面および(201)面に起因するfct構造に特有のピークであることから、熱処理によって不規則構造のfcc構造から規則構造のfct構造に転移したと考えられる。このように規則化された白金−鉄合金では、白金皮膜が形成され易くなり、Feが容易に溶出しなくなると考えられる。
また、熱処理および酸処理のいずれも行わなかった比較例1と、熱処理を行って酸処理を行わなかった比較例3の炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料の透過型電子顕微鏡(TEM)によるTEM画像の比較から、熱処理による白金−鉄合金微粉末の粒子同士の凝集がほとんど確認されず、白金−鉄合金微粉末の粒子が分散して炭素触媒の表面に合成されているのが確認された。なお、TEM画像により得られた比較例3の炭素担持白金−鉄合金微粉末の平均粒子径は約3.5nmであった。
また、熱処理および酸処理の一方または両方を行わなかった比較例1〜3と、熱処理および酸処理を行った実施例5の炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料の透過型電子顕微鏡−エネルギー分散X線(TEM−EDX)による組成分析では、熱処理および酸処理のいずれも行わなかった比較例1の場合は、Fe含有量が55質量%、Pt含有量が45質量%、熱処理を行わずに酸処理を行った比較例2の場合は、Fe含有量が18質量%、Pt含有量が82質量%、熱処理を行って酸処理を行わなかった比較例3の場合は、Fe含有量が58質量%、Pt含有量が42質量%、熱処理および酸処理のいずれも行った実施例5の場合は、Fe含有量が28質量%、Pt含有量が72質量%であった。これらの結果から、酸処理によってFeの組成比は大幅に減少するが、熱処理および酸処理を行うと、白金−鉄合金から溶出するFeの量を抑制することができることがわかった。
また、熱処理および酸処理の一方または両方を行わなかった比較例1〜3と、熱処理および酸処理を行った実施例5の炭素担持白金−鉄合金微粉末の試料のサイクリックボルタモグラム(CV)を図1に示す。図1に示すように、いずれの試料も水素酸化反応ピークが観測された。また、熱処理および酸処理のいずれも行わなかった比較例1と、熱処理を行って酸処理を行わなかった比較例3を比較すると、熱処理を行って酸処理を行わなかった比較例3では、Feに起因するピークが減少している。これは、熱処理により白金−鉄合金が規則的に配列し、白金皮膜が形成され易くなり、Feの溶出が抑制されたためであると考えられる。また、熱処理および酸処理を行った実施例5では、Feに起因するピークがほとんど確認されず、白金のボルタモグラム波形と同じ形状になることがわかった。
なお、TEM画像により得られた実施例5の炭素担持白金−鉄合金微粉末の平均粒子径は約3.0nmであった。

Claims (7)

  1. ポリオール中に白金塩と鉄塩を分散させた溶液を加熱して還流することによって白金−鉄合金微粉末を合成した後、不活性雰囲気中において600℃以上の温度で熱処理するとともに、酸性溶液で洗浄することを特徴とする、白金−鉄合金微粉末の製造方法。
  2. ポリオール中に白金塩と鉄塩と炭素粉末を分散させた溶液を加熱して還流することによって、炭素粉末に担持された白金−鉄合金微粉末を合成した後、不活性雰囲気中において600℃以上の温度で熱処理するとともに、酸性溶液で洗浄することを特徴とする、白金−鉄合金微粉末の製造方法。
  3. 前記ポリオールがエチレングリコールであることを特徴とする、請求項1または2に記載の白金−鉄合金微粉末の製造方法。
  4. 前記白金塩が白金(II)ビスアセチルアセトナートであり、前記鉄塩が鉄(III)トリスアセチルアセトナートであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の白金−鉄合金微粉末の製造方法。
  5. 前記白金−鉄合金微粉末の合成が、無水ポリオール中で行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の白金−鉄合金微粉末の製造方法。
  6. 前記酸性溶液が硫酸水溶液であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の白金−鉄合金微粉末の製造方法。
  7. 前記熱処理により、前記白金−鉄合金微粉末をfcc構造からfct構造に転移させることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の白金−鉄合金微粉末の製造方法。
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