以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1、図2は一実施形態の蒸気調理器を示す正面図及び側面図である。蒸気調理器1は過熱蒸気によって被加熱物を調理する。蒸気調理器1は直方体形状のキャビネット10を備えている。キャビネット10の正面には扉11が設けられる。
扉11は下端を中心に垂直面内で回動可能に枢支され、上部には扉11を開閉するためのハンドル12が設けられている。扉11の中央部11Cには耐熱ガラスをはめ込んで内部を視認できる透過部11a(図3参照)が設けられる。中央部11Cの左右には金属製装飾板を表面に設けた左側部11L及び右側部11Rが対称的に配置されている。扉11の右側部11Rには操作パネル13が設けられている。
図3は扉11を開いた状態の蒸気調理器1の正面図を示している。扉11はハンドル12を把持して手前に引くと回動し、垂直な閉鎖状態から水平な開放状態へと90゜姿勢を変えることができる。扉11を開くとキャビネット10の正面が露出する。
扉11の中央部11Cに対応する箇所には加熱室20が設けられる。扉11の左側部11Lに対応する箇所には水タンク室70が設けられ、蒸気発生用の水を貯溜する水タンク71が収納される。扉11の右側部11Rに対応する箇所には特に開口部は設けられていないが、内部に制御基板(不図示)が配置されている。
加熱室20は略直方体に形成され、扉11に面した正面側の全面が被加熱物F(図5参照)を出し入れするための開口部20dになっている。扉11の回動により開口部20dが開閉される。加熱室20の壁面はステンレス鋼板で形成され、加熱室20の外周面には断熱対策が施されている。
図4は加熱室20内の詳細を示す正面図である。加熱室20の側壁には複数の受皿支持部20b、20cが異なる高さに設けられる。上段の受皿支持部20bは反射部68よりも下方に設けられる。受皿支持部20b、20cの一方または両方にはステンレス鋼板製の受皿21が係止される。受皿21上には被加熱物F(図5参照)を載置するステンレス鋼線製のラック22が設置される。
過熱蒸気により調理を行う場合は、上段の受皿支持部20bに受皿21が設置される。これにより、後述するように反射部68の反射によって被加熱物Fの下面に過熱蒸気を導くことができる。上段及び下段の受皿支持部20b、20cに受皿21を設置してもよい。これにより、一度に多くの被加熱物Fを調理することができる。
この時、受皿支持部20bに配される受皿21は通気性を有するように形成され、下段の受皿21上の被加熱部の上面に過熱蒸気が供給される。また、下段の受皿21上の被加熱部の下面は加熱室20の底面に配された加熱ヒータ101(図5参照)により加熱される。
加熱室20の奥側の背壁には左右方向の略中央部に吸気口28が設けられ、左方下部に排気口32aが設けられる。反射部68は加熱室20の両側壁に凹設され、表面が曲面により形成されている。後述する噴出カバー61から反射部68に向けて側方に噴き出された過熱蒸気は反射部68で反射して被加熱物Fの下方に導かれるようになっている。
加熱室20の天面には、過熱蒸気を噴き出すステンレス鋼板から成る噴出カバー61が取り付けられる。噴出カバー61の右側部の手前側には加熱室20内を照明する照明装置69が設けられる。
噴出カバー61は平面視が矩形に対して前部の両コーナーが面取りされた略六角形に形成されている。噴出カバー61は上下両面とも塗装等の表面処理によって暗色に仕上げられている。これにより、蒸気加熱ヒータ41(図5参照)の輻射熱を吸収して噴出カバー61の下面から加熱室20に輻射される。
噴出カバー61の底面及び周面には複数の噴気口65、66(図5参照)が設けられる。各噴気口65、66の周縁は筒状に形成され、噴気口65、66の軸方向に気流を案内することができる。
図5は蒸気調理器1の内部の概略構造を示している。同図において、加熱室20は側面から見た図になっている。水タンク71は前述の図3に示すように加熱室20の左方に配され、ジョイント部58を介してタンク水位検出容器91と連通する。これにより、キャビネット10(図2参照)に対して水タンク71が着脱自在になっている。
タンク水位検出容器91には水位センサ56が設けられる。水位センサ56は複数の電極を有し、電極間の導通により水位を検知する。本実施形態ではGND電極と3本の検知電極によって水位を3段階に検知している。水位センサ56の検知によって水タンク71の水位が所定水位よりも低下すると、給水を促すように報知される。
タンク水位検出容器91には給水路55が底部まで延びて浸漬される。給水路55は経路途中に給水ポンプ57が設けられ、蒸気発生装置50に接続される。蒸気発生装置50は軸方向が垂直な筒型のポット51を有し、給水ポンプ57の駆動によって水タンク71からポット51に給水される。
ポット51は金属、合成樹脂、セラミック或いはこれらの異種材料の組み合わせ等により筒型に形成され、耐熱性を有している。ポット51内には螺旋状のシーズヒータから成る蒸気発生ヒータ52が浸漬される。蒸気発生ヒータ52の通電によってポット51内の水が昇温され、蒸気が発生する。
ポット51内には上面から螺旋状の蒸気発生ヒータ52内に延びた筒状の隔離壁51aが設けられる。隔離壁51aにより蒸気発生ヒータ52と隔離される水位検知室51bが形成される。隔離壁51aはポット51の底面に対して隙間を有するように形成され、水位検知室51bの内部と外部とが連通して同じ水位に維持される。
水位検知室51b内にはポット51内の水位を検知するポット水位検知部81が設けられる。ポット水位検知部81は複数の電極を有し、電極間の導通によりポット51内の水位を検知する。蒸気発生ヒータ52と水位検知室51bとが隔離壁51aで隔離されるため、蒸気発生ヒータ52に接した水の沸騰による発泡がポット水位検知部81に伝えられにい。これにより、発泡による電極の導通を回避し、ポット水位検知部81の検知精度を向上することができる。
尚、ポット51の外周面にヒータ等を密着してポット51内の水を昇温してもよい。この時、ポット51の周壁はポット51内の水を加熱する加熱手段を構成し、水位検知室51bはポット51の周壁に対して隔離して設けられる。また、蒸気発生ヒータ52をIHヒータにより形成してもよい。
ポット51の上面には後述する循環ダクト35に接続した蒸気供給ダクト34が導出される。ポット51の周面の上部にはタンク水位検出容器91に連結される溢水パイプ98が設けられる。これにより、ポット51の溢水が水タンク71に導かれる。溢水パイプ98の溢水レベルはポット51内の通常の水位レベルよりも高く、蒸気供給ダクト34よりも低い高さに設定されている。
ポット51の下端には排水パイプ53が導出される。排水パイプ53の経路途中には排水バルブ54が設けられている。排水パイプ53は水タンク71内に設けた排水貯溜部71aに向かって所定角度の勾配を有している。これにより、排水バルブ54を開いてポット51内の水を排水貯溜部71aに排水して貯溜し、水タンク71を取り外して廃棄することができる。
加熱室20の外壁には背面から上面に亙って循環ダクト35が設けられる。循環ダクト35は加熱室20の背壁に形成された吸気口28を開口し、加熱室20の上方に配された蒸気昇温装置40に接続される。蒸気昇温装置40の下面は噴出カバー61で覆われ、上面は上カバー47で覆われる。
循環ダクト35内には遠心ファンから成る送風ファン26が設置され、蒸気供給ダクト34は送風ファン26の上流側に接続される。送風ファン26の駆動によって蒸気発生装置50により発生した蒸気は蒸気供給ダクト34を介して循環ダクト35に流入する。また、加熱室20内の蒸気は吸気口28から吸引され、循環ダクト35を通って噴出カバー61の噴気口65、66から噴き出されて循環する。蒸気の噴出しと吸引とを共通の送風ファン26により行うので、蒸気調理器1のコスト増加を抑制することができる。
尚、通常の場合加熱室20内の気体は空気であるが、蒸気調理を始めると空気が蒸気で置き換えられる。以下の説明において、加熱室20内の気体が蒸気に置き換わっているものとする。
循環ダクト35の上部には電動式のダンパ48を介して分岐する排気ダクト33が設けられる。排気ダクト33は外部に臨む開放端を有し、ダンパ48を開いて送風ファン26を駆動することにより加熱室20内の蒸気を強制排気する。また、加熱室20の下部には排気口32aを介して連通する排気ダクト32が導出される。排気ダクト32はステンレス鋼等の金属から成り、外部に臨む開放端を有して加熱室20内の蒸気を自然排気する。
蒸気昇温装置40はシーズヒータから成る蒸気加熱ヒータ41を備え、蒸気発生装置50で発生した蒸気を更に加熱して過熱蒸気を生成する。蒸気昇温装置40は平面的に見て加熱室20の天井部の中央部に配置される。また、加熱室20の天面に対して面積が狭く、小さい容積に形成して高い加熱効率が得られるようになっている。
加熱室20の側方の下部には加熱室20の底面20aに溜まる結露水を排水する排水部110が設けられる。排水部110は排水トレイ114、配管111、113及びチューブポンプ120を備えている。排水トレイ114は扉11の下方に着脱自在に配され、排水部110で搬送された結露水を貯溜する。また、扉11の内面に付着した結露水が扉11を開いた際に流下して排水トレイ114に貯留されるようになっている。
配管111は加熱室20の側壁に突設して屈曲した樹脂製のパイプから成る(解りやすくするため図5では背壁に描いている)。配管111の先端は加熱室20の底面20aと隙間を介して離れ、下向きに開口した排水孔111aを形成する。排水孔111aには網状のフィルター(不図示)が設けられている。配管113は樹脂製のパイプから成り、排水トレイ114に対向して開口する。配管111、113の間はシリコンゴム等から成る可撓性のチューブ112により連結される。
チューブポンプ120は有底筒状のハウジング123内に回転板124が設けられ、回転板124の周部に複数のローラー125が突設される。チューブ112はハウジング123の内周壁に沿って環状に配される。ハウジング123とローラー125との間はチューブ112の外径よりも狭く形成され、チューブ112がローラー125により押圧される。
チューブポンプ120の駆動によって回転板124が矢印Aの方向に回転すると、チューブ112の長手方向に沿ってローラー125が回転しながらチューブ112を順次押圧する。これにより、チューブ112内の流体が一方向に順次押し出されて搬送され、逆方向の流体の流通が阻止される。
加熱室20の底面20aに溜まる結露水は排水孔111aから吸引され、排水トレイ114に搬送される。排水トレイ114に溜まった水は排水トレイ114を脱着して廃棄される。これにより、加熱室20内の気密性を保持して排水を行うことができる。尚、チューブポンプ120により結露水を水タンク71の排水貯溜部71aに搬送してもよい。
図6は蒸気調理器1の制御構成を示すブロック図である。蒸気調理器1はマイクロプロセッサ、メモリおよびタイマを有した制御装置80を備えている。制御装置80には送風ファン26、蒸気加熱ヒータ41、ダンパ48、蒸気発生ヒータ52、排水バルブ54、給水ポンプ57、操作パネル13、ポット水位検知部81、タンク水位検知部56、温度センサ82、湿度センサ83、チューブポンプ120が接続される。制御装置80によって所定のプログラムに従って各部を制御して、蒸気調理器1が駆動される。
操作パネル13は表示部(不図示)を有し、制御状況を表示部に表示する。また、操作パネル13に配置した各種操作キーを通じて動作指令の入力を行う。操作パネル13には各種の音を出す音発生装置(不図示)も設けられている。温度センサ82は加熱室20内の温度を検知する。湿度センサ83は加熱室20内の湿度を検知する。
上記構成の蒸気調理器1において、扉11を開けて水タンク71を水タンク室70から引き出して、水タンク71内に水が入れられる。満水状態にした水タンク71は水タンク室70に押し込まれ、ジョイント部58によりタンク水位検出容器91に連結される。被加熱物Fをラック22上に載置して扉11を閉じ、操作パネル13を操作して調理メニューが選択される。そして、スタートキー(不図示)を押下することにより調理メニューに対応した調理シーケンスが開始する。これにより、給水ポンプ57が運転を開始し、蒸気発生装置50に給水される。この時、排水バルブ54は閉じられている。
給水ポンプ57の駆動により給水路55を介してポット51内に給水され、ポット51が所定の水位になるとポット水位検知部81の検知によって給水が停止される。この時、タンク水位検知部56により水タンク71の水位が監視され、水タンク71に調理に必要十分な水がない場合は警告が報知される。
所定量の水がポット51に入れられると蒸気発生ヒータ52に通電され、蒸気発生ヒータ52はポット51内の水を直接加熱する。蒸気発生ヒータ52の通電と同じ時期、またはポット51内の水が所定温度に到達する時期に、送風ファン26及び蒸気加熱ヒータ41が通電される。この時、蒸気発生ヒータ52の供給電力(例えば、1000W)が蒸気加熱ヒータ41の供給電力(例えば、300W)よりも大きくなっている。
送風ファン26の駆動により吸気口28から加熱室20内の蒸気が循環ダクト35に吸い込まれる。また、ポット51内の水が沸騰すると100℃且つ1気圧の飽和蒸気が発生し、飽和蒸気が蒸気供給ダクト34を介して循環ダクト35に流入する。この時、ダンパ48は閉じられている。送風ファン26から圧送された蒸気は循環ダクト35を流通して蒸気昇温装置40に流入する。
蒸気昇温装置40に流入した蒸気は蒸気加熱ヒータ41により熱せられて100℃以上の過熱蒸気となる。通常、150℃から300℃にまで昇温した過熱蒸気が使用される。また、蒸気発生ヒータ52の供給電力が蒸気加熱ヒータ41の供給電力よりも大きいため、大量の過熱蒸気が加熱室20に供給されて第1調理工程が行われる。
過熱蒸気の一部は噴気孔65から真下方向(矢印B)に噴き出される。これにより、被加熱物Fの上面が過熱蒸気と接触する。また、過熱蒸気の一部は噴気口66から側方の斜め下方向に向けて噴き出される。側方に噴き出された過熱蒸気は反射部68で反射し、被加熱物Fの下方に導かれる。これにより、被加熱物Fの下面が過熱蒸気と接触する。
被加熱物Fの表面が100℃以下の場合は、過熱蒸気が被加熱物Fの表面で凝縮する。この凝縮熱(潜熱)は、539cal/gと大きいため、対流伝熱に加えて被加熱物Fに大量の熱を与えることができる。これにより、被加熱物Fは内部温度が急激に上昇する。
また、噴出カバー61の前部に形成される噴気口66から扉11に向けて斜め下方向に過熱蒸気の一部が噴き出される。加熱室20内の蒸気は送風ファン26によって吸気口28から吸引される。この吸引力によって前方に向けて噴き出された過熱蒸気の気流が曲げられて後方に導かれる。これにより、過熱蒸気は一部が被加熱物Fの上面の前部に衝突するとともに、一部が前方から被加熱物Fの下方に導かれる。その結果、過熱蒸気が加熱室20の前部に行き渡って被加熱物Fの前部の加熱不足を防止し、被加熱物Fを均一に調理することができる。
また、加熱室20内の過熱蒸気が吸気口28から吸引されるため、扉11に直接当たる高温の過熱蒸気を減らすことができる。従って、扉11の加熱を抑制して耐熱性の高い扉11を使用する必要がなく、蒸気調理器1のコスト増加を防止することができる。
送風ファン26の吸引力を小さくすると、前方に噴き出された過熱蒸気の気流が加熱室20の下部で曲げられる。これにより、被加熱物Fの下面により多くの過熱蒸気を導くことができる。送風ファン26の吸引力を大きくすると、前方に噴き出された過熱蒸気の気流が加熱室20の上部で曲げられる。これにより、被加熱物Fの上面により多くの過熱蒸気を導くことができる。
時間の経過に伴って加熱室20内の蒸気量が増加すると、余剰となった蒸気は排気ダクト32を通じて外部に放出される。
噴気口65、66から噴き出された過熱蒸気は被加熱物Fに熱を与えた後、吸気口28から循環ダクト35内に吸引され、蒸気昇温装置40に流入する。これにより、加熱室20内の蒸気は循環を繰り返して調理が行われる。
図7は過熱蒸気の加熱による被加熱物Fの内部温度の変化を示している。縦軸は被加熱物Fの内部温度(単位:℃)を示し、横軸は時間を示している。図中、実線Cで示すように、被加熱物Fは過熱蒸気が供給されると第1昇温期間で内部温度が略直線的に急激に上昇する。即ち、第1昇温期間では内部温度の温度変化率が略一定となる。
被加熱物Fは水分を含むため、内部温度が100℃に近づくと水分が徐々に蒸発する。水分の蒸発には大きな熱量を必要とするため、被加熱物Fの内部温度の温度変化率が小さくなる。これにより、第1昇温期間よりも温度上昇が緩やかな安定期間になる。そして、被加熱物Fの水分が全て蒸発すると、再度内部温度が急激に上昇する第2昇温期間に移行する。
制御装置80のメモリには調理シーケンスデータが記憶される。調理シーケンスデータは被加熱物Fの種類に応じた油脂溶融温度特性に基づく第1調理工程から第2調理工程に切り替える時期のデータを保有する。肉類等の被加熱物Fは約30〜60℃の油脂溶融温度帯を超えると、内部に含まれる油脂が溶融して滲み出しが開始される。
各食品によって油脂溶融温度特性が異なり、例えば、豚肉の油脂溶融温度帯は約33〜46℃、牛肉の油脂溶融温度帯は約40〜50℃である。即ち、調理シーケンスデータは被加熱物Fの種類に応じ、油脂溶融温度帯を超えて100℃以下の所定の内部温度になる時期のデータを保有する。
また、被加熱物Fの量や第1調理工程の調理条件等に応じて被加熱物の内部温度の変化が異なる。このため、調理シーケンスデータは被加熱物Fの量や第1調理工程の調理条件によって切り替え時期を可変する可変データを保有する。第1、第2調理工程の切り替え時期は被加熱物Fの量が多いと遅れるように可変され、被加熱物Fの量が少ないと早めるように可変される。
被加熱物の量は調理開始時に操作パネル13(被加熱物量入力手段)により入力される。調理開始からの調理時間は制御装置80(図6参照)内のタイマにより計時される。タイマーの計時が調理シーケンスデータから取得された切り替え時期になると、被加熱物Fの内部温度が油脂溶融温度帯を超えたと判断する。これにより、図中、一点鎖線Dで示すように第2調理工程に移行する。
この時、被加熱物Fの内部温度が100℃以下の範囲で過熱蒸気によって上昇する第1昇温期間から安定期間に移行する時期に第1調理工程から第2調理工程に切り替えられる。即ち、被加熱物Fの内部温度の温度変化率が略一定の状態から小さくなる時期に第1調理工程から第2調理工程に切り替えられる。これにより、被加熱物の内部温度を100℃以下の適正な温度に維持することができる。
尚、制御装置80のメモリに被加熱物Fの種類、量、第1調理工程の調理条件等に応じた被加熱物Fの内部温度の変化を予めデータベースとして記憶してもよい。調理シーケンスはデータベースを監視し、タイマーの計時による調理開始からの調理時間が所定の内部温度に到達する時期になると第2調理工程に移行する。
このときの所定の内部温度とは、被加熱物の油脂溶融温度帯に対して20℃〜30℃程度を上乗せした値、すなわち、約60℃〜80℃程度に設定される。これにより、食材の温度バラツキを抑えることができるため、安定した制御が可能になるので好ましい。
また、被加熱物Fの内部温度に対応する被加熱物Fの表面温度、加熱室20の内部や壁面の温度等をデータベースとして記憶し、これらの検知によって第1調理工程から第2調理工程に切り替える時期を判断してもよい。
更に、第1調理工程から第2調理工程に切り替える時期を加熱室20への蒸気の供給量によって判断してもよい。即ち、蒸気の供給によって被加熱物Fは内部温度が第1昇温期間で急激に上昇した後、安定期間で内部温度の温度変化率が小さくなって温度上昇が緩やかになる。
温度変化率が小さくなる時の被加熱物Fの内部温度は第1調理工程の蒸気供給量を増加するとより高温になり、ある蒸気供給量よりも増加してもそれ以上温度が上がらずに飽和する。この時の蒸気量以下の所定量の蒸気が第1調理工程で供給されると、第2調理工程に切り替える。これにより、脱油効果に寄与しない過剰な蒸気による電力浪費を抑制することができる。また、必要以上に蒸気を供給することによる調理時間の増加を防止することができる。
第2調理工程では蒸気発生ヒータ52が停止され、蒸気加熱ヒータ41に最大電力(例えば、1300W)が供給される。これにより、被加熱物Fは主に表面が加熱され、油脂溶融温度帯を超えた所望の内部温度(例えば、70〜80℃)に維持されるとともに表面に焼き色が付けられる。この時、蒸気発生ヒータ52に蒸気加熱ヒータ41よりも小さい電力を供給してもよい。
図8に示すように、被加熱物Fは油脂溶融温度帯よりも高温に維持されると油脂Lが溶融し、被加熱物Fの収縮によって油脂Lが表面に溶け出す。蒸気Sが被加熱物Fの表面で凝縮した凝縮水Wは油脂Lを取り込んで流下する。これにより、被加熱物Fが脱油される。
第2調理工程が所定時間行われると被加熱物Fが所望の表面状態になり、調理が終了する。そして、制御装置80によって操作パネル13の表示部に調理の終了を表示するとともに合図音が報知される。調理終了を知らされた使用者によって扉11が開かれると、ダンパ48が開いて加熱室20内の蒸気が排気ダクト33から急速に強制排気される。これにより、使用者は高温の蒸気に触れずに、安全に加熱室20内から被加熱物Fを取り出すことができる。
図9は本実施形態の調理による被加熱物Fの内部温度及び残存油脂量の変化を示している。縦軸の左側のスケールは内部温度、右側のスケールは残存油脂量であり、横軸は調理時間である。また、図中、一点鎖線D、dは本実施形態の調理による被加熱物Fの内部温度及び残存油脂量である。第1調理工程では蒸気発生ヒータ52の供給電力が1000W、蒸気加熱ヒータ41の供給電力が300Wである。第2調理工程は蒸気発生ヒータ52が停止されて蒸気加熱ヒータ41の供給電力が1300Wであり、被加熱物Fの内部温度が70℃の時に切り替えられる。尚、一点鎖線Dは前述の図7の一点鎖線Dと同一である。
図中、破線E、eは第1比較例を示し、蒸気発生ヒータ52の供給電力を260W、蒸気加熱ヒータ41の供給電力を1040Wで一定にした時の内部温度及び残存油脂量である。また、図中、実線G、gは第2比較例を示し、蒸気加熱ヒータ41を停止して蒸気発生ヒータ52の供給電力を1300Wで一定にした時の内部温度及び残存油脂量である。また、表1は上記の各条件の調理による調理時間、蒸気量及び脱油量を示している。
図9及び表1によると、本実施形態では大量の過熱蒸気が加熱室20に供給されるため、一点鎖線Dに示すように被加熱物Fの内部温度の上昇が早くなる。これに対して、第1比較例では過熱蒸気の量が少ないため破線Eに示すように内部温度の上昇が遅い。また、第2比較例では過熱蒸気がなく、実線Gに示すように内部温度の上昇が更に遅くなる。
このため、本実施形態では早期に油脂溶融温度帯を越え、油脂溶融温度帯よりも高温の期間を長くすることができる。これにより、被加熱物Fの脱油量が多くなる。また、被加熱物Fの内部温度が早期に高温になるため、調理時間が短縮される。更に、蒸気の使用量が低減され、水タンク71への給水頻度を少なくして蒸気調理器1の利便性を向上できる。
本実施形態によると、蒸気発生ヒータ52の供給電力を蒸気加熱ヒータ41の供給電力よりも大きく過熱蒸気により被加熱物Fを調理する第1調理工程を有するので、大量の過熱蒸気の潜熱によって肉類等の被加熱物Fの内部温度を急速に上昇させることができる。これにより、早期に被加熱物Fの内部温度を油脂溶融温度帯よりも高温にすることができる。
また、被加熱物Fの内部温度を油脂溶融温度帯を超えて油脂の滲み出しが始まった後に、蒸気発生ヒータ52を停止して蒸気加熱ヒータ41に最大電力を供給した第2調理工程に切り替えるので、被加熱物Fを所望の内部温度に維持するとともに表面に焼き色を付けて調理を完了させることができる。
従って、被加熱物F内部に適正な水分量を確保して美味しさを保持するとともに、調理時間を長くすることなく油脂溶融温度帯よりも高温の期間を長くすることができる。これにより、蒸気調理器1の利便性を低下させずに被加熱物Fの脱油量を増加させて健康的な調理を行うことができる。また、被加熱物Fの内部温度が早期に高温になるため、調理時間を短縮することができる。被加熱物の脱油量を従来と同程度にすると、更に調理時間を短縮できる。
また、調理シーケンスデータが被加熱物Fの種類に応じた油脂溶融温度特性に基づいて、各被加熱物Fの第1調理工程から第2調理工程に切り替える時期のデータを保有するので、豚肉や牛肉等の被加熱物の種類に応じて最適な時期に第1、第2調理工程を切り替えることができる。従って、良好な調理を行うことができる。
また、被加熱物Fの量を入力する操作パネル13(被加熱物量入力手段)の入力情報に基づいて第1調理工程から第2調理工程に切り替える時期を可変したので、被加熱物Fの量に応じて最適なタイミングで第1調理工程から第2調理工程に切り替えることができる。従って、より良好な調理を行うことができる。
第1調理工程において、蒸気加熱ヒータ41を停止して蒸気発生ヒータ52に最大電力を供給してもよい。これにより、飽和蒸気を加熱室20に供給して調理が行われ、第2調理工程で蒸気加熱ヒータ41の加熱によって過熱蒸気による調理が行われる。飽和蒸気であっても過熱蒸気と同じ潜熱を有し、最大電力の蒸気発生ヒータ52によってより多くの蒸気が供給される。このため、被加熱物Fの内部温度を更に迅速に上昇させ、脱油量を増加するとともに調理時間を短縮することができる。
尚、第2調理工程において蒸気発生ヒータ52の供給電力を蒸気加熱ヒータ41の供給電力よりも小さくしていれば同様の効果を得ることができる。しかし、第2調理工程で蒸気発生ヒータ52を停止すると、蒸気加熱ヒータ41に大きな電力を供給してより早期に調理を完了することができる。
また、蒸気加熱ヒータ41及び蒸気発生ヒータ52には電力を切り替え制御して供給されるため、一方を停止することにより他方を連続運転することができる。これにより、停止されたヒータの降温による電力ロスを防止して省電力化を図ることができる。
また、被加熱物Fの内部温度の温度変化率が略一定の状態の第1昇温期間から小さくなる安定期間に移行する時期に第1調理工程から第2調理工程に切り替えるので、被加熱物Fの内部温度を100℃以下の適正な温度に維持することができる。従って、被加熱物Fの水分の減少を抑制して美味しさを維持した調理を簡単に実現することができる。尚、第1昇温期間内に第1調理工程から第2調理工程に切り替えてもよい。
また、被加熱物Fの内部温度が60〜80℃の時に第1調理工程から第2調理工程に切り替えるとより望ましい。これにより、被加熱物Fの水分の減少をより低減して美味しさを更に向上することができる。
また、被加熱物Fの内部温度が油脂溶融温度よりも約10℃高温になる前に第2調理工程に切り替えると、内部温度が上昇しにくい第2調理工程の初期に油脂の溶解量が少なくなる。このため、被加熱物Fの内部温度が油脂溶融温度よりも10℃以上高温になってから第1調理工程から第2調理工程に切り替えるとより望ましい。これにより、過熱蒸気によって切替え時期に早く到達し、第2調理工程の初期から油脂を大量に溶融させて調理時間を長くすることなく脱油効果を向上することができる。
本実施形態において、蒸気加熱ヒータ41を加熱室20の天井面に配しているが、加熱室20に連結されるダクト内に配してもよい。即ち、第2調理工程で熱風により被加熱物Fを加熱するコンベクション型にしてもよい。しかしながら、本実施形態のように蒸気加熱ヒータ41を加熱室20の天井面に配置すると、輻射熱によって被加熱物Fが加熱される。このため、被加熱物Fに容易に焼き色を付けることができ、調理時間をより短縮することができる。この時、送風ファン26を停止して蒸気の循環を停止してもよい。これにより、省電力化を図ることができる。
また、第1、第2調理工程の間に中間調理工程を設けてもよい。中間調理工程は蒸気発生ヒータ52の供給電力が第1調理工程よりも小さくて第2調理工程よりも大きく、蒸気加熱ヒータ41の供給電力が第1調理工程よりも大きくて第2調理工程よりも小さく設定される。
ローストビーフ等の体積の大きな被加熱物は被加熱物の体積が大きくなると所望の内部温度に到達するまでに時間がかかる。このため、第1調理工程が長くなって第2調理工程終了までの調理時間が長くなる。また、第2調理工程で被加熱物Fの周部が煮えすぎて水分量が減少し、美味しさが低下する。
このため、中間調理工程を設けると、蒸気の潜熱によって効率よく内部温度を上昇させながら被加熱物の表面の焼き時間を長くとることができる。従って、被加熱物の体積が大きくても調理時間を短縮し、内部に適正な水分量を確保して美味しさを保持することができる。