JP5483180B2 - フェライト系球状黒鉛鋳鉄及びその製造方法、並びにこれを用いた自動車の排気系部品 - Google Patents

フェライト系球状黒鉛鋳鉄及びその製造方法、並びにこれを用いた自動車の排気系部品 Download PDF

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Description

本発明は、フェライト系球状黒鉛鋳鉄及びその製造方法、並びにこれを用いた自動車の排気系部品に関する。
最近、自動車用エンジンのダウンサイジングが進み、より少ない排気量でより高いパフォーマンスを導き出すエンジンの開発が主流となっている。例えば、直噴ターボ仕様の小型車用エンジンなどで、1.4リッターの排気量で2.0リッタークラスの出力を得ているものもある。エンジンの小型化及び高出力化に伴い、排気ガス温度が上昇しており、900℃を超えるのが通常となっている。このような高温の排気ガスに晒される自動車の排気系部品、例えばエキゾーストマニホールド(通称:エキマニ)においては、従来材より更に耐熱性が優れた材料開発が求められている。
高温の排気ガスに耐える材料としては、オーステナイト系球状黒鉛鋳鉄(ニレジスト)や耐熱鋳鋼が知られている。しかし、これらは高価なニッケルやクロム、ニオブ等を多量に含むために部品価格が極めて高価となり、消費者が求める低価格な軽四輪自動車などへは、適用が難しいという問題があった。
一方、ターボ仕様の小型車では、耐熱鋼板や耐熱鋼管をプレス加工した後、溶接によって成形する板金エキマニが一部採用されている。しかし、排気ガス浄化性能を高めるため、触媒を内蔵した重量物であるキャタリストケースをエキゾーストマニホールドの極力近くに配置させる必要があることや、エキゾーストマニホールドとキャタリストケースの間に重量物であるターボユニットを締結させなければならないなど、レイアウト上の制約がある。よって、形状自由度が高く、剛性設計が容易な鋳造製のエキゾーストマニホールドが未だ多く使用されている。
排気ガス温度域での高温物性の向上を図った鋳鉄の例としては、例えば特許文献1がある。特許文献1が示す球状黒鉛鋳鉄は、400℃付近の中温脆化域での延性に優れていることが記載されている。しかし、特許文献1の球状黒鉛鋳鉄は、共析変態温度が低く、かつ人体や環境に対して極めて有害なAsを含有していた。
耐熱疲労性に優れ、800℃を超える温度で使用可能な黒鉛含有耐熱鋳鉄も知られている(特許文献2)。しかし、該黒鉛含有耐熱鋳鉄は、高価なレアメタルであるMoを最大で5.5重量%含むため素材コストが高く、共晶凝固完了までに粗大なMo炭化物を晶出させるので機械加工性も劣化するという問題があった。また、基地のパーライト率が高くなって硬さが増し、延性が著しく低下してしまっていた。また、該黒鉛含有耐熱鋳鉄はAc1変態温度が840℃と低いため、900℃レベルの排気ガス温度域では熱変形量が大きくなることが予測された。
特許文献3に示されるフェライト系球状黒鉛鋳鉄(以下、従来材という)は、価格的に安価であり、排気ガス温度が比較的高いターボ仕様の軽四輪車用のエキゾーストマニホールドに広く使用されてきた。しかし、かかるフェライト系球状黒鉛鋳鉄を用いた場合でも、新しく開発されたエンジンによる900℃を超える過酷な排気ガス温度領域では、エキゾーストマニホールドの熱変形(塑性変形)による排気ガスの吹き抜けが起こる可能性があった。ここで、図1に示されるように、通常、エキゾーストマニホールド11の一方にはターボフランジ12が形成されており、ターボガスケット15を介してターボチャージャ締結ボルト13によりターボユニットへ連結される。また、エキゾーストマニホールド11の他方には、シリンダヘッドフランジ14が形成されており、シリンダヘッドガスケット17を介してシリンダヘッド側に組み込まれているスタッドボルト18と締結ナット19の他、締結ボルト22によりシリンダヘッドと連結される。
従来材を用いたエキゾーストマニホールド11で排気ガスの吹き抜けを防止するためには、ターボユニットと締結するためのエキゾーストマニホールド11のターボフランジ12部の肉厚を厚くする必要があった。しかし、該ターボフランジ12部の肉厚を厚くすると、エキゾーストマニホールド11とターボチャージャ締結ボルト13との間に「リラクゼーション現象」が起こる場合があるという問題があった。この「リラクゼーション現象」では、鋳鉄製のエキゾーストマニホールド11と、耐熱鋳鋼製のターボチャージャ締結ボルト13との線膨張係数の差により、エキゾーストマニホールド11側のボルト座面圧が上昇し、高温域で座面が塑性変形域まで圧縮されるとその後の冷却によってボルト軸力が低下する。このような現象が起こると、締結ボルトの疲労破壊や、ガスケット界面から高温排気ガスの吹き抜けが起こりやすくなり、軸力やボルト材質など締結条件の最適化と管理が難しくなるという問題があった。なお、図1において、19はシリンダヘッドガスケット17を介してエキゾーストマニホールド11をシリンダヘッドに組み付けるため、予めシリンダヘッド側に組み込まれたスタッドボルト18に締結される締結ナットである。また、20は、エキゾーストマニホールドの振動による共振を防ぐためエキゾーストマニホールド11と車体または排気系後流部品の一部とを締結するためのスティフナーである。さらに、22はエキゾーストマニホールド11をシリンダヘッドガスケット17を介してシリンダヘッドへ取り付けるための締結ボルトである。
以上の実情から、低コストで、かつ従来の簡便な生産手法によって製造しうる高温耐力(=圧縮耐力を含む0.2%耐力)と高温クリープ特性(ここでは、最小クリープ速度、クリープ破断寿命)により優れた耐熱鋳鉄材料の開発が望まれていた。
特開平10−195587号公報 国際公開第05/085488号 特許第3936849号公報
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高温強度と耐熱疲労性がさらに向上し、かつ切削性も改善されたフェライト系球状黒鉛鋳鉄及びその製造方法、並びにこれを用いた自動車の排気系部品を提供することを目的とする。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、一面によれば、フェライト系球状黒鉛鋳鉄であって、質量%で、C:3.0〜3.6%、Si:4.0〜4.4%、Mo:0.3〜0.7%、V:0.2〜0.5%、及びW:0.09〜1.1%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる。
上記発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、その一形態において、前記Wの含有量が、0.09〜0.6%であることが好適である。
上記発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、その一形態において、前記Si及びWの含有量の合計が、4.7%以下であることが好適である。
上記発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、その一形態において、基地パーライト面積が30%以下であり、かつ黒鉛球状化率が80%以上であることが好適である。
上記発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、別の形態において、上記フェライト系球状黒鉛鋳鉄を熱処理して得られるフェライト系球状黒鉛鋳鉄であって、前記熱処理が、前記フェライト系球状黒鉛鋳鉄の鋳造後に、Ac1変態開始温度−70℃からAc1変態開始温度の間の温度に0.2〜2時間保持した後、空冷または5℃/分以下の冷却速度でAr1変態終了温度以下まで徐冷することを含むことが好適である。
上記発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、その一形態において、前記Si及びWの含有量の合計が、5.45質量%以下であることが好適である。
上記発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、その一形態において、Mo及びWを固溶したV粒子によって分散・析出強化されたフェライト系球状黒鉛鋳鉄であって、前記V粒子が、フェライト内部に面積率2〜10%で析出しており、50〜230nmの粒子径を有することが好適である。
本発明は、別の側面で、上記フェライト系球状黒鉛鋳鉄を用いて製造される自動車の排気系部品である。前記排気系部品は、エキゾーストマニホールド、タービンハウジング、ターボハウジング、ターボハウジングアウトレットパイプ、又はターボハウジング一体型エキゾーストマニホールドであることが好適である。
本発明は、別の側面で、フェライト系球状黒鉛鋳鉄の製造方法であり、質量%で、C:3.0〜3.6%、Si:4.0〜4.4%、Mo:0.3〜0.7%、V:0.2〜0.5%、及びW:0.09〜1.1%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる溶湯を鋳造する工程と、鋳造後に熱処理を行う工程とを含み、前記熱処理が、前記フェライト系球状黒鉛鋳鉄の鋳造後に、Ac1変態開始温度−70℃からAc1変態開始温度の間の温度に0.2〜2時間保持した後、空冷または5℃/分以下の冷却速度でAr1変態終了温度以下まで徐冷することを含む。
本発明によれば、高温強度と耐熱疲労性がさらに向上し、かつ切削性も確保されたフェライト系球状黒鉛鋳鉄とその製造方法、並びにこれを用いた自動車の排気系部品が提供される。該フェライト系球状黒鉛鋳鉄を自動車の排気系部品、特にエキゾーストマニホールドに用いることにより、エキゾーストマニホールドの耐久性及び信頼性をさらに高めることができる。よって、該フェライト系球状黒鉛鋳鉄は、熱負荷の高いガソリンエンジン用エキゾーストマニホールドはもとより長距離走行に使用されるディーゼルエンジン(トラック、バスなどのエンジンを含む)用のエキゾーストマニホールド等にも採用することが可能となる。排気系部品の中ではエキゾーストマニホールドが最も熱負荷が高く、エキゾーストマニホールドの後方部品ではより熱負荷は小さくなるためタービンハウジングやターボアウトレットパイプ、またはタービンハウジングとエキゾーストマニホールドが一体となったマニターボにも採用することができる。
エキゾーストマニホールドの形状の一例と、その周辺部品との連結を説明する図である。 c1変態温度を説明する図である。 供試材作製用のYブロックを示す図である。 引張特性の評価に用いた試験片の形状を示す図である。 800℃での引張特性(0.2%耐力、引張強さ、破断伸び)を示す図である。 Wの含有量と室温での破断伸びとの関係を示す図である。 Wを含む鋳鉄のSiの含有量と室温での破断伸びとの関係を示す図である。 SiとWの含有量の合計と、室温での破断伸びとの関係を示す図である。 実施材のWの含有量と800℃での高温引張特性との関係を示す図である。 実施材のW含有量と硬さとの関係を示す図である。 クリープ試験に用いた試験片の形状を示す図である。 800℃におけるクリープ破断時間を示す図である。 TMAによる熱分析結果を示す図である。 熱処理パターン1を示す図である。 熱処理前後の各実施材の金属組織の変化を示す図である。 熱処理パターン2を示す図である。 830℃で熱処理した実施材6の金属組織の変化を示す図である。 実施材3で発見された析出物のTEM観察結果を示す図である。 実施材3で発見された析出物のEDX分析結果を示す図である。
以下に、本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄について、さらに詳細に説明する。従来材は、Mn、Moなどの固溶強化とVの添加による硬質なVC系炭化物の析出強化を併用することにより優れた耐熱性を有する低合金鋳鉄である。本発明者は、上記課題を解決するために、基地フェライトを固溶強化するか、又は高温暴露後もVC系炭化物より安定な析出物を基地内へ均一に分散・析出させることができる第2の元素を添加した新たな組成とすることが重要であると考えた。第2の元素としては、フェライトからオーステナイトに相変態する際の共析変態温度を大きく低下させないものであることも重要である。
本発明者らは、鋭意検討した結果、Wを第2の元素として添加することにより、本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄を開発するに至った。すなわち、本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、質量%で、C:3.0〜3.6%、Si:4.0〜4.4%、Mo:0.3〜0.7%、V:0.2〜0.5%、及びW:0.09〜1.1%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる。不可避不純物としては、好ましくは、Mnが0.35%以下、Cuが0.3%以下、Snが0.03%以下、Sが0.01%以下、Crが0.02%以下とする。Pは、0.1%以下とするが、好ましくは0.03〜0.06%である。Wを添加し、上記組成とすることにより、高温強度が改善し、耐熱疲労性が向上したフェライト系球状黒鉛鋳鉄が得られる。具体的には、上記組成とすることにより、以下の性質を有するフェライト系球状黒鉛鋳鉄が得られる。
[1]800〜900℃域での高温強度(引張強さ、0.2%耐力)が向上している。
[2]ボルトのリラクゼーションに対処可能なように、高温負荷時の最小クリープ速度が低減し、耐クリープ性が改善されている。
[3]Ac1変態開始温度が、排気ガス温度の高温域である900℃以上である。
ここで、本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄の上記組成について、高温強度の向上と延性の確保、クリープ特性の改善、Ac1変態開始温度の確保の観点から、さらに詳細に説明する。
[高温強度の向上と延性の確保]
本発明者は、800℃〜900℃域における高温強度(引張強さ、0.2%耐力)を高めるためには、従来材の組成に、さらにWを添加することが有効であることを見出した。従って、本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、Wを含有し、その含有量は、0.09〜1.1質量%である。
排気系部品、特にエキゾーストマニホールドでは、加熱及び冷却が繰り返され、自由膨張と収縮が拘束される。従って、耐熱疲労性を考慮すると、破断伸びが3%以上であることが好ましい。Siは、含有量が高まると延性(破断伸び)が低下するという性質が知られている(例えば、特許文献3)。一方、Siは、フェライト系球状黒鉛鋳鉄の共析変態温度を高め、耐酸化性を高める上では不可欠な元素である。従って、Siの含有量は、4.0〜4.4質量%とする。Siの含有量をこの範囲とすることにより、共析変態温度を高めつつ、延性の低下を抑えることができる。
ここで、Wも同様に、含有量が高まると、破断伸びを減少させる性質を有することが分かった(図6)。3%以上の破断伸びを得るためには、Siの含有量が4.0質量%の場合、Wの含有量を0.6質量%以下に抑えることが好適である。従って、フェライト系球状黒鉛鋳鉄を熱処理を施さずに鋳放しで使用する場合は、破断伸びの低下を抑えるために、Wの含有量が0.09〜0.6質量%であることが好ましい。Wの含有量は、より好ましくは、0.09〜0.5質量%である。800℃での高温強度は、Wの含有量が0.09質量%から0.5質量%までは漸次増加するが、0.5質量%を超えると強度改善効果が少ないためである(図9)。
上述したように、Siの含有量が増加すると破断伸びが低下することが知られている。しかし、Wの含有量も多くなると破断伸びが低下するため、Si含有量の低いフェライト系球状黒鉛鋳鉄でも含有するWが高いと延性は低下する(図7)。よって、Siの含有量のみを調節することにより破断伸びを一定値以上に確保するのは困難である。これに対し、本発明者は、SiとWとの含有量の合計が、室温での破断伸びに極めて強く関与することを見出した(図8)。図8に示されるように、SiとWとの含有量の合計が増加すると破断伸びが低下する。従って、室温での破断伸びを3%以上確保するためには、SiとWとの含有量の合計が4.7質量%以下であることが好適である。より好ましくは、SiとWとの含有量の合計は、4.1〜4.7質量%である。延性が確保されることにより、加熱及び冷却の繰り返しによって起こる熱疲労に強くなり、排気系部品、例えばエキゾーストマニホールド等の信頼性が向上する。
Cの含有量は、3.0〜3.6質量%とする。Siの含有量が4.0〜4.4質量%の範囲であるため、Cの含有量が3.0質量%未満であると、炭素当量が共晶組成(4.23)近くまで低下してしまうため、最終凝固部に共晶凝固特有の粗大な空隙(引け巣)を発生させたり、過冷によるチルが生じやすい。さらに、黒鉛球状化率が低下しやすいため部品性能が著しく損なわれる。また、Cの含有量が3.6%を超えると、炭素当量が5.0を超える場合があり、カーボンドロスやチャンキー黒鉛、爆発状黒鉛などを晶出させて機械的性質を劣化させる場合がある。ここで、炭素当量とは、全C含有量+(Si含有量+P含有量)/3で表される。炭素当量を4.3〜5.0の範囲にすることにより、鋳鉄の凝固において安定した形状・サイズの初晶黒鉛を液相から排出できる効果がある。
Vは、室温から900℃程度の高温までにおける強度を向上させる作用がある。Vは、高融点の微細なVC系炭化物をフェライト内に析出させ、高温時でも発生応力に対して転位の移動を阻害するため、高温強度(特に耐力)の改善に大きく寄与する。本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、Vを含有しており、その含有量は0.2〜0.5質量%である。Vの含有量が0.2〜0.5質量%の範囲であれば、延性を損なうことなく、高温強度を改善できる。Vの含有量が0.5質量%を超えると、高温強度の改善効果は少なくなり粗大なバナジウム炭化物が共昌セル間に偏析を起こすため、逆に硬度の増加や脆化を促進させる場合がある。
Moは、Vと同様に高温での機械的性質、特に耐力を向上させる作用がある。本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、Moを0.3〜0.7質量%含有する。Moは、フェライトを固溶強化する元素であるが、その含有量が0.3質量%未満であると、その添加効果が小さい場合があり、0.7質量%を超えると、室温時の硬度が上昇し、伸びを低下させる。特に、Moの含有量が1.0質量%を超えると、球状黒鉛鋳鉄のパーライト率が増大し、硬度の上昇と著しい伸びの低下が引き起こされる場合がある。球状黒鉛鋳鉄における基地パーライトは、高温に加熱されると分解し黒鉛成長の要因となるため、パーライト面積率の高い球状黒鉛鋳鉄を、自動車の排気系部品に用いた場合、エンジン稼働時の高温加熱によって排気系部品の永久膨張(成長現象)を招くおそれがある。また、パーライトの粗大析出物は、耐衝撃性を低下させる場合がある。
不可避不純物としては、好ましくは、Mnが0.35%以下、Cuが0.3%以下、Snが0.03%以下、Crが0.02%以下とする。これらの元素は、基地パーライトの面積率を高めて延性を低下させる。黒鉛成長を抑制する上でも上記の範囲内で抑制した方がよい。また、好ましくは、Sは0.01%以下とする。Sは典型的な黒鉛球状化の阻害化元素であるためである。Pは、0.1%以下とするが、好ましくは0.03〜0.06%である。Pが0.1%を超えると低融点(=955℃)で硬質のFePが粒界に多く晶出するようになり、室温での著しい脆化や高温強度の劣化を招く場合がある。なお、Pは鋳造性を考慮すると含有量は0.03〜0.06質量%含有した方が好ましい。
本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、上記組成を有することにより、該フェライト系球状黒鉛鋳鉄が、基地パーライト面積率が40%以下、好ましくは30%以下であり、かつ黒鉛球状化率が80%以上である。よって、本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、延性を確保しつつ、高温強度が改善しているという効果を奏する。また、本発明における低合金鋳鉄の強度向上のメカニズムは、従来材が持つMoの固溶強化とVの添加によるVC炭化物粒子の析出強化であるのに対し、本発明では、例えば析出物面積率が2〜10%であって、MoとWを固溶した粒子径50〜230nmサイズのV粒子による析出強化である。
[クリープ特性の改善]
鋳鉄製のエキゾーストマニホールドとそれを締結する耐熱鋼製ボルトは、線膨張係数や圧縮耐力が異なるため締結後のリラクゼーション(=ボルトの軸力低下)に対処する必要がある。例えば、図1のスタッドボルト18は冷却機構を有するアルミシリンダヘッドに予め組み込まれたボルトであって900℃を超える排気ガスがエキゾーストマニホールド11内に排出されても昇温度合いは低く膨張量も少ない。一方、これと締結ナット19によって締結されるエキゾーストマニホールド11は上記シリンダヘッドとはシリンダヘッドガスケット17を介して締結されるため熱負荷が高く膨張量も大きい。よって、高温時においてエキゾーストマニホールド11のシリンダヘッドフランジ14には締結ナット19によって締結座面に強い圧縮応力が作用し続ける。ここで、エキゾーストマニホールド材のクリープ速度が大きいと長時間の運転によってシリンダヘッドフランジ14の締結座面が塑性変形して座屈し、その後の運転停止などで冷却が進むとエキゾーストマニホールド11側も収縮するために座面圧の低下(=軸力低下)が発現してしまう。こうした状況下では、シリンダヘッドフランジ14面からの高温排気ガスの吹き抜けが生じやすくなり、ターボ加給性能や触媒浄化性能を低下させてしまう。よって、エキゾーストマニホールド材料にも高温時の最小クリープ速度が小さく、クリープ破断時間の長い性質が求められる。
ここで、最小クリープ速度とは、クリープ曲線上において、遷移域から定常域にかけて現出する最小のクリープ速度のことである。最小クリープ速度とクリープ破断時間の積は常に一定となる(=モンクマングラントの法則)ため、最小クリープ速度は耐クリープ性評価の重要因子である。
フェライト系球状黒鉛鋳鉄におけるSiは、その含有量が多くなるにつれ高温時の引張強度は向上する傾向を示すがクリープ特性にはあまり寄与しない。しかし、本発明者は、このようなSiを多く含むフェライト系球状黒鉛鋳鉄において、Wの添加が最小クリープ速度を低減し、実用上、最も多く使用される800℃域の高温クリープ特性を改善するために極めて有効であることを見出した。従って、本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、Wを0.09〜1.1質量%含有することにより、高温における耐クリープ性に優れ、特に、エキゾーストマニホールドと締結用ボルトとの間に生じるリラクゼーション現象を低減することができるという効果を奏する。
[Ac1変態開始温度の確保]
図2(b)に示されるように、フェライト系球状黒鉛鋳鉄は、昇温によりAc1変態温度を超えるとオーステナイトへ変態する。この共析変態の過程では、共析変態域でのTMA曲線の接線nの傾きがマイナスに転じ、フェライト系球状黒鉛鋳鉄の体積は一旦収縮する。共析変態が完了した後はオーステナイト特有の線膨張係数により大きく膨張・変形する。オーステナイト域ではフェライト域と比較して線膨張率が大きいことは、図2(b)のフェライト域でのTMA曲線の接線lとオーステナイト域でのTMA曲線の接線mとを比較すれば明らかである。高温加熱と冷却が繰り返される環境下で、相変態が繰り返されると、大きな変態ひずみが発生し、熱疲労破壊が問題となる。従って、このAc1変態温度をエキゾーストマニホールドの実使用温度域外へと高めることは、エキゾーストマニホールド自体の変形抑制や耐熱疲労性向上にも寄与する。ここで、図2(b)に示されるフェライト域からオーステナイト域へのAc1変態は、図2(a)に示される熱機械分析(TMA)の分析結果のP部分に相当する。
c1変態開始温度は、Siの含有量を増加させるに従って上昇する。本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、Siを4.0〜4.4質量%含有する。Siを4.6質量%より多く添加すると、延性が著しく低下する場合があるためである。Si含有量を上記範囲とすることにより、本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は900℃以上のAc1変態開始温度が確保できる。よって、相変態に伴う大きな変態ひずみの発生が抑制され、熱疲労寿命を改善することができる。
本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、組成の観点で以上のような向上が図られており、800〜900℃域での高温強度に優れているため、自動車の排気系部品の材料として非常に有用である。自動車の排気系部品としては、エキゾーストマニホールド、タービンハウジング、ターボハウジング、ターボハウジングアウトレットパイプ、又はターボハウジング一体型エキゾーストマニホールドが挙げられる。特に、エキゾーストマニホールドに用いることにより、該エキゾーストマニホールドの熱変形による吹き抜けを防止することができる。
さらに、本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、Ac1変態開始温度が900℃以上であるため、排気ガス温度の高い小型車の直噴ターボ仕様のエキゾーストマニホールドへも適用可能となり、エンジンのダウンサイジングによる軽量化と高出力化、低燃費化に貢献できる。また、クリープ特性に優れるため、長時間の過酷な高温連続運転をしても信頼性が高いという効果がある。
本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、鋳造性が従来のフェライト系球状黒鉛鋳鉄とほぼ同等であるため、既存の鋳鉄生産ラインで生産対応可能であり、設備投資が不要である。また、従来の鋳造方案及び鋳造条件等を適用できるため、量産の立上げに時間とコストがかからないという利点がある。本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、鋳造材であるため、パイプエキマニや板金エキマニに比べて形状の自由度が大きく、設計が容易であるという利点もある。さらに、原材料や加工にかかるコストが安いため、高価なニッケルを多量に含むオーステナイト系鋳鉄やフェライト系耐熱鋳鋼と比較して、極めて低価格な部品製品を提供することができる。
本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、熱処理を行うことにより、さらなる特性が確保される。その内容を以下に説明する。
[熱処理]
本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、鋳造したまま熱処理を行わずに鋳放しで用いることができるが、任意に熱処理を施すこともできる。熱処理を行うことにより、フェライト系球状黒鉛鋳鉄の延性を改善し、機械加工性を高めることができる。
フェライト系球状黒鉛鋳鉄は、Wの含有量が0.6質量%を超えると、延性が低下し、脆化する場合がある。この脆化の原因は、30%を超える面積率を占めるパーライトの過剰析出である。パーライトを分解し、消失させるためには、通常、鋳鉄をオーステナイト域まで昇温し、保持した後、炉冷などによりゆっくり冷却する。しかし、鋳鉄をオーステナイト域に保持した場合、パーライトのような炭化物は分解するが、同時に黒鉛表面から基地内への著しい炭素の拡散が起こる。これは、保持温度が高いほどオーステナイトの炭素固溶度が高くなるためであり、黒鉛表面からの炭素の拡散速度が増し、粒径の小さな黒鉛は消失して黒鉛粒数が激減する。その後、冷却によって過飽和となったオーステナイト中の炭素は、残存している球状化が崩れた黒鉛の表面に向かって逆に拡散を起こすため、熱履歴前と比べて黒鉛は粗大化し、球状化率も低下する。その結果、硬さは低下するものの強度を大きく劣化させてしまう。本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄では、オーステナイト化温度(Ac1変態終了温度)が930℃以上と極めて高いため(表8、図13)、黒鉛形態の変化はいっそう顕著となる。そこで、本発明者は、新しい熱処理条件を考案した。
本発明で採用することができる熱処理は、好適には、上記組成を有するフェライト系球状黒鉛鋳鉄の鋳造後に、Ac1変態開始温度直下の温度に一定時間保持した後、空冷または5℃/分以下の冷却速度でAr1変態終了温度以下まで徐冷することにより行う。フェライト系球状黒鉛鋳鉄の鋳造は、従来の方法に従って行うことができる。熱処理は、鋳造の直後から機械加工までの任意の期間に行ってよい。
c1変態開始温度直下の温度に一定時間保持する工程では、鋳造後のフェライト系球状黒鉛鋳鉄をAc1変態開始温度−70℃からAc1変態開始温度の間の温度に0.2〜2時間保持する。本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄のAc1変態開始温度は、およそ900〜915℃の範囲にある。保持温度は、Si含有量の他、製品の重量や肉厚により決まり、重量や肉厚が大きい場合は、保持温度を長めとすることが好ましい。保持時間は、基地パーライト面積率や黒鉛サイズ、黒鉛粒数などが目安となる。Ac1変態開始温度直下の温度に保持することにより、基地パーライトを急速に分解させることができる。
c1変態開始温度直下の温度に0.2〜2時間保持した後は、Ar1変態終了温度以下まで、好ましくは徐冷する。本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄のAr1変態終了温度は、Siの組成範囲よりおよそ825〜805℃の範囲にある。冷却速度は、0.1〜5℃/分とすることが好ましく、0.5〜2℃/分とすることがより好ましい。ゆっくりと冷却することにより、黒鉛成長や黒鉛球場化率の低下を最低限に抑制しつつ、基地組織の完全フェライト化を実現することができる。Ar1変態終了温度以下に冷却された後は、室温まで空冷などにより任意の速度で冷却してよい。
以上の熱処理には、大気焼鈍炉、雰囲気調整焼鈍炉等を用いることができる。熱処理は、大気雰囲気で行うこともできるが、製品外観と表面からの脱炭を抑制する目的で、窒素やアルゴンなど大気圧以上の不活性ガス中で行ってもよい。また、熱処理の保持温度がAr1変態終了温度に対し30℃以内であれば空冷してもよい。ここで言う空冷とは、鋳鉄を熱処理用の焼鈍炉等から取り出し、そのまま放冷することであり、Ar1変態終了温度までの空冷の冷却速度はおよそ40〜170℃/分である。
上記熱処理を施すことにより、黒鉛成長を伴わずにパーライトのみを分解させることができる。よって、基地パーライト面積率をほぼ0%まで低下させることができ、かつ80%以上の黒鉛球状化率を実現することができる。このため、フェライト系球状黒鉛鋳鉄の強度低下を最小限に抑え、延性を改善することができる。熱処理後のフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、硬さも最大100〜101HRB程度に抑えられており、機械加工性(切削性)に優れている。上述したように、Wの含有量が0.6質量%を超えるフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、パーライト析出が促進されて硬さが高まり、延性が低下し、脆化する場合があるが、熱処理を行うことによりこれらの問題を解決することができる。しかし、Wの含有量が1.1質量%を超えると、共晶凝固までの過程で粗大なWC炭化物が基地内に偏析するため、熱処理を施しても延性の改善は難しくなる場合がある。従って、上記熱処理が適用されるフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、Wの含有量が1.1質量%以下であることが好ましい。同様に、上記熱処理が適用されるフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、Si及びWの含有量の合計が5.45質量%以下であることが好ましい。Wの含有量を1.1質量%まで許容し、SiとWの含有量の合計を5.45質量%まで許容できることにより、高温強度の更なる向上効果がある。
以下、実施例及び比較例によって、本発明をさらに具体的に説明する。
本実施例では、従来材(特許文献3のフェライト系球状黒鉛鋳鉄)へのW添加の優位性について検討を行った。表1に従来材、実施材、比較材のそれぞれの成分組成を示す。各供試材は、量産用の500kgの高周波溶解炉を使用して製造したものである。元湯におけるSiの含有量は目標値より低く設定し、接種剤、黒鉛球状化剤の添加によって所定のSi組成になるよう調整した。ここで、接種剤はSiを75質量%含有し、球状化剤は50質量%のSiと質量5%のMg、2質量%のCaを含有する。球状化処理は置き注ぎ法を用い、球状化剤としてLCS(東洋電化)、カバー剤としてシリベスト(ニューアロイ)も使用した。注湯温度は、全て1400℃±20℃の範囲で統一し、Mo、V、Wの添加及び濃度調整は、炉中にて行った。また、使用した鋳型は生型であり、各供試材共、サンドメタル比を同一とした。供試材はJIS G5502に準拠したYブロックB号片の指定部位1より採取したものである(図3)。
表1において、「−」は分析未実施であることを示し、「0.00」は分析値が0.01未満であることを表す(以下の表においても同様)。
得られた供試材について、以下の観点に基づいて各種実験を行った。
[1]高温強度の向上と延性の確保
[2]クリープ特性の向上
[3]高温焼鈍処理
[4]共析変態温度の確保
[5]基地フェライト内部の析出物同定
[1]高温強度の向上と延性の確保
供試材について高温引張試験を行った。高温引張試験は、供試材の優劣判断を容易にするため、全ての供試材の共析変態温度以下の800℃で実施した。また、フェライト系鋳鉄特有の中温脆性の有無を確認するために400℃でも実施した。高温引張試験では、供試材を30分かけて各試験温度まで昇温し、室温(20℃)、400℃、又は800℃の各試験温度に30分保持した後、引張を開始した。ここで、800℃以上に加熱すると、パーライト分解が起こるため、試験温度への保持時間を30分間に厳守した。各供試材は、図4に示す形状のものを採用した。引張速度は、室温では1mm/min、400℃以上では5mm/minに設定した。引張試験には、引張試験機(AG−E型 250KNオートグラフ、(株)島津製作所製)、及び変位計(DT−10S型、(株)島津製作所製)を用いた。
室温、400℃、及び800℃における高温引張特性の測定結果を、それぞれ表2、表3、及び表4に示す。図5には、800℃における従来材、実施材1〜3、5、及び6、比較材1、2、及び6〜11の測定データのグラフを示している。表3及び表4で実施材4について引張特性の試験結果を図示していないのは、W添加の効能を評価する上で実施材3とW含有量がほぼ同等だったためである。また、表2では、実施材1について破断位置が標点間外であったため伸び及び絞りの記載を省いた。
表5には、各供試材のSi及びWの含有量と室温での破断伸びを示す。破断伸びは、原標点間長さに対する変位量をパーセンテージで示した。実施材1について破断位置が標点間外であったため伸びは記載しなかった。
図5から、800℃域では、実施材1〜3、5、及び6が、Wの含有量の増加に伴い0.2%耐力と引張強さが増加する傾向があることが示された。また、比較材11は、800℃域において、0.2%耐力と引張強さの値が低かった。このことから、Vの含有量が0.2質量%未満であると、Wを添加しても800℃域における強度改善効果は得られないことが分かった。さらに、実施材2及び3は、Nb、Ta、又はReを添加した比較材6〜10と比較して800℃域での引張強さと0.2%耐力が高かった。従って、高温強度(引張強さ、0.2%耐力)を改善するためには、Wの添加が極めて有効であることが分かった。
表5のデータをもとに、室温での破断伸びとW含有量との関係を図6に示し、室温での破断伸びとSi含有量との関係を図7に示す。さらに、室温での破断伸びと、SiとWの含有量の合計との関係を図8に示す。図6を参照すると、3%以上の破断伸びを確保するためには、Siの含有量が4.21〜4.38質量%の場合はWの含有量を約0.4質量%以下とし、Siの含有量が4.0質量%の場合はWの含有量を約0.6質量%以下とすることが好適であることが分かった。図7からは、W等の他の金属含有量が一定でない場合、Siの含有量の破断伸びとの間に必ずしも相関関係は存在しないことが分かった。一方、図8に示されるように、SiとWの含有量の合計が増加するほど、破断伸びが低下することが分かった。図8によれば、3%以上の破断伸びを確保するためには、SiとWの含有量の合計を約4.7質量%以下とすることが好適であることが分かった。また、400℃域では、実施材1〜3について3%以上の破断伸びが確保されていた(表3)。よって、Wの含有量が0.6質量%以下、又はSiとWの含有量の合計が4.7質量%以下であれば、400℃でも3%以上の破断伸びを確保できることが示された。
図9には、表4のデータをもとに、800℃における0.2%耐力及び引張強さと、W含有量との関係を示す。図9に示されるように、800℃での0.2%耐力及び引張強さは、Wの含有量が約0.5質量%まで漸次増加し、0.5質量%を超えると増加率が小さくなった。
また、室温における硬さを、ロックウェル試験機を用いて測定した。また、パーライト面積率及び黒鉛球状化率は、デジタル画像計測ソフト(Quick Grain Pro 株式会社イノテック製)により測定した。表6にその結果を示す。表6のデータをもとに、平均硬さ(HRB)とW含有量との関係を、図10に示す。
表6及び図10に示されるように、Wの含有量が増加するほど硬さが増加していた。硬さを101HRB以下にするためには、Wの含有量を約0.5質量%以下にすることが好適であることが分かった。なお、実施材1のみ硬さ計測をビッカース硬さで実施したため、HRBへの換算値とした。
[2]クリープ特性の向上
高温クリープ試験は、初期応力15MPa、試験温度800℃の一定荷重方式で行い、時間とともに増大するクリープひずみを測定した。クリープ試験は、神港科学器械(株)SK−3(容量30kN)の試験機にて実施した。各供試材は、図11に示す形状とした。クリープ試験の測定結果を表7及び図12に示す。比較には、従来よりエキゾーストマニホールド材料として既知の従来材及び比較材1、2と、W添加の効能を検証するため、Wを除き他の元素の成分組成がほぼ同一なベース合金にそれぞれNb、Ta、Reを添加した比較材6、9、10とを用いた。
表7及び図12に示されるように、実施材2及び3は、従来材や比較材と比べて最小クリープ速度が小さく、クリープ破断時間が長いことが分かった。具体的には、実施材2を従来材と比べると、最小クリープ速度が約半分であり、クリープ破断時間は約80%向上していた。実施材3を従来材と比べると、クリープ破断時間は約2.4倍に向上していた。実施材2を、比較材1又は2と比べると、最小クリープ速度が6〜85/1000とさらに小さく、クリープ破断時間はそれぞれ約18倍又は約5倍長かった。従って、Siを多く含むフェライト系球状黒鉛鋳鉄へ0.42質量%のWを添加するだけでも高温クリープ特性の改善に極めて有効であることが分かった。
[3]共析変態温度の確保
実施材3と従来材についてTMAによる熱分析を行い、変態温度を測定した。実施材3と従来材とを比較したのは、W添加による共析変態温度への影響を調査するためである。TMA熱分析では、窒素雰囲気下で、10gの圧縮荷重を負荷しつつφ5×h15mmの試験片の線膨張量の変化を測定した。加熱範囲は室温〜1000℃とし、加熱⇔冷却の速度は5℃/分とした。TMA熱分析には、TMA8140C((株)リガク製)を用いた。実施材3と従来材のそれぞれについて2つのサンプルを用いた。TMA熱分析の測定結果を表8及び図13に示す。ここで、図13の(a)は従来材のサンプル1、(b)は従来材のサンプル2、(c)は実施材3のサンプル1、(d)は実施材3のサンプル2の測定結果を示している。図13(a)〜(d)において、実線はTMA(線膨張変位)、破線は加熱温度を表している。
表8及び図13に示されるように、Wを0.42質量%含有する実施材3は従来材と比べてAc1変態開始温度が若干低下するものの、目標値である900℃以上の温度を確保していることが分かった。
[4]熱処理
次いで、熱処理の前後における硬さと金属組織の変化を観察するため、実施材1、3、5、及び6、比較材1及び2に熱処理を行った。実施材1、3、5、及び6、比較材1及び2を比較に用いたのは、基地パーライト面積率の異なる供試材にて熱処理の効能を定量比較するためである。図14に、熱処理パターン1を示す。各供試材を、約1.5時間かけて、Ac1開始温度直下である900℃に昇温し、そのままの温度で約0.4、1、2、又は7時間保持した。その後、600℃以下になるまで約1時間かけて、5℃/分以下の冷却速度で徐冷した。900℃に0.4時間保持した実施材1、3、5、及び6については、熱処理前後の金属組織を光学顕微鏡(オリンパス製)を用いて観察し(図15)、黒鉛球状化率とパーライト率をデジタル画像計測ソフト(Quick Grain Pro 株式会社イノテック製)を用いて求めた(表9)。さらに、各供試材の硬さをロックウェル試験機を用いて測定した(表10)。
さらに、熱処理温度の下限値を設定するため、Wの含有量が最も高く、かつパーライト面積率が大きい実施材6について、Ac1変態開始温度−70℃に相当する830℃で熱処理を行った。図16に熱処理パターン2を示す。実施材6を約1時間かけてAc1変態開始温度−70℃に相当する830℃に昇温し、そのままの温度で0.25、0.5、1.0、又は1.5時間それぞれ保持した後、空冷した。熱処理後の実施材6の硬さを表11に示す。また、実施材6の熱処理前後の金属組織を光学顕微鏡(オリンパス製)を用いて観察した(図17)。
図15及び表9によると、熱処理後のパーライト面積率は0%であり、熱処理によって基地パーライトが完全分解したことが示された。さらに、熱処理後の黒鉛球状化率はいずれの実施材も80%以上という高い値であった。また、熱処理前のWの添加率が0.6質量%以下である実施材1及び実施材3はいずれも、パーライト面積率が30%以下であり、かつ黒鉛球状化率が80%以上であった。表10からは、いずれの供試材も熱処理により硬さが低下しており、特にWの含有量が0.6質量%を超える実施材5及び6は、硬さが熱処理前と比べて7.4〜8.1ポイントも低下することが分かった。
また、図17及び表11によると、Wの含有量が1.07%と多い実施材であっても、Ac1変態開始温度−70℃に相当する830℃に0.25時間保持するだけで、その後空冷をしても基地パーライトは完全分解することが示された。黒鉛成長は起きておらず、硬さが5.6ポイントも低下して99.6HRBとなり、延性を改善すると共に切削性も支障のないレベルまで改善できることが分かった。従って、強度低下を最小限に抑え、延性を改善する新しい熱処理システムを採用すれば、Wの含有量を最大1.1質量%まで、Si+Wの含有量も5.45質量%まで許容可能になることが明らかになった。
[5]基地フェライト内部の析出物同定
実施材で認められた高温での著しい性能向上のメカニズムを探るため、透過電子顕微鏡により実施材3の基地フェライト内部を観察した。分析には鋳放し材の他、析出物の安定性を調査するため800℃×50時間保持の熱履歴を与えた試料を用いた。分析方法は、抽出レプリカ法を採用した。鋳込みYブロック全長さの1/4位置で横断面試料を採取し、中央より析出物を選択捕捉した抽出レプリカを採取した。機械研磨最終仕上げはダイヤモンド粉1μmでの研磨後、OP−AN(0.03μmのアルミナ懸濁液)で仕上げ研磨し、その後、電解エッチングを行った。電解エッチング条件は10%アセチルアセトン−90%メタノール溶液を使用し、3Vの定電圧とした。次に、抽出レプリカに捕捉された析出物を透過型電子顕微鏡(日立製作所製HF−2000、電解放射型透過電子顕微鏡(FE−TEM)、加速電圧200kV)を用い、径50nm以下の大きさの析出物につき成分分析で組成を確認の後にナノディフラクション(Kevex社製Sigma、エネルギー分散型X線検出器、カメラ長0.8m)により析出物の格子定数を測定し、JCPDSデータを参照して構造解析を行った。具体的には、TEMによる明視野像(図18A)にて観察した粒子状の析出物の中から、分析点1、2、3、及び4(図18A、矢印で示す)を選択し、それぞれの分析点についてナノディフラクション及びEDX成分分析を行った。図18Aにおいて、(a)は熱履歴材、(b)は鋳放し材を表す。それぞれの分析点から得たナノディフラクションパターン(電子線回折像)を図18B及び図18Cに示し、EDX分析結果を図19に示す。図18B及び図18Cにおいて、矢印は電子線の回折方位を表し、矢印の先に記載された数値は結晶方位の座標を表す。回折斑点の座標から計算した格子定数を、JCPDデータと共に表12に示す。次に、TEMによって得られた明視野像から、無作為に選択した視野で観察される析出物の平均析出物径、数密度、析出物面積率を、画像解析ソフト(Planetron(株)製Image−Pro Plus)を用いて求めた(表13、表14)。鋳放し材については1視野(視野No.1)を用いて計算し、熱履歴材では7視野(視野No.1〜7)を用いて計算した。ここで、平均析出物径は円相当直径((1)式)を用いて求めた。
図18Aによると、まず、実施材3のフェライト内部からは微細な粒子の析出が発見された。EDXによる成分分析(図19)、及び格子定数(図18B、C、及び表12)の実測データを、JCPDSデータと比較すると、この粒子はMo、Wを固溶したVであることが分かった。また、既述析出物について、各視野毎の析出物径を見ると鋳放し材はMin.53.6nm(略50nm)、熱履歴材ではMax.227nm(略230nm)であり(表13、表14)、既述のMo、Wを固溶したV粒子は長時間の連続高温保持により僅かに粗大化はしているものの、その数密度から判断して十分な分散・析出強化が期待できることが分かった。以上のように、実施材3は析出物面積率が2〜10%であって、かつMoとWを固溶した粒子径50〜230nmサイズ(平均粒子物径が約65〜155nm)のV粒子により析出強化されていることで著しく高温特性が改善されることを発見した。
本発明は、高温強度と耐熱疲労性がさらに向上し、かつ切削性も改善されたフェライト系球状黒鉛鋳鉄及びこれを用いた排気系部品を提供することができる。
1 指定部位
11 エキゾーストマニホールド
12 ターボフランジ
13 ターボチャージャ締結ボルト
14 シリンダヘッドフランジ
15 ターボガスケット
17 シリンダヘッドガスケット
18 スタッドボルト
19 締結ナット
20 スティフナー
21 ボルト
22 締結ボルト

Claims (10)

  1. 質量%で、C:3.0〜3.6%、Si:4.0〜4.4%、Mo:0.3〜0.7%、V:0.2〜0.5%、及びW:0.09〜1.1%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなるフェライト系球状黒鉛鋳鉄。
  2. 前記Wの含有量が、0.09〜0.6%である、請求項1に記載のフェライト系球状黒鉛鋳鉄。
  3. 前記Si及びWの含有量の合計が、4.7質量%以下である、請求項1または2に記載のフェライト系球状黒鉛鋳鉄。
  4. 基地パーライト面積が30%以下であり、かつ黒鉛球状化率が80%以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のフェライト系球状黒鉛鋳鉄。
  5. 請求項1に記載のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を熱処理して得られるフェライト系球状黒鉛鋳鉄であって、
    前記熱処理が、前記フェライト系球状黒鉛鋳鉄の鋳造後に、Ac1変態開始温度−70℃からAc1変態開始温度の間の温度に0.2〜2時間保持した後、空冷または5℃/分以下の冷却速度でAr1変態終了温度以下まで徐冷することを含むフェライト系球状黒鉛鋳鉄。
  6. 前記Si及びWの含有量の合計が、5.45質量%以下である、請求項5に記載のフェライト系球状黒鉛鋳鉄。
  7. Mo及びWを固溶したV粒子によって分散・析出強化されたフェライト系球状黒鉛鋳鉄であって、前記V粒子が、フェライト内部に面積率2〜10%で析出しており、50〜230nmの粒子径を有する、請求項1〜6のいずれかに記載のフェライト系球状黒鉛鋳鉄。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を用いて製造される自動車の排気系部品。
  9. 前記排気系部品が、エキゾーストマニホールド、タービンハウジング、ターボハウジング、ターボハウジングアウトレットパイプ、又はターボハウジング一体型エキゾーストマニホールドである請求項8に記載の排気系部品。
  10. 質量%で、C:3.0〜3.6%、Si:4.0〜4.4%、Mo:0.3〜0.7%、V:0.2〜0.5%、及びW:0.09〜1.1%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる溶湯を鋳造する工程と、
    鋳造後に熱処理を行う工程と
    を含み、前記熱処理が、前記フェライト系球状黒鉛鋳鉄の鋳造後に、Ac1変態開始温度−70℃からAc1変態開始温度の間の温度に0.2〜2時間保持した後、空冷または5℃/分以下の冷却速度でAr1変態終了温度以下まで徐冷することを含む、フェライト系球状黒鉛鋳鉄の製造方法。
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