本発明は、球状弾性表面波素子に関する。
従来、圧電材料で形成されている平坦な表面を有する基材の上記表面上の相互に離れた2つの位置に電気音響変換素子を設けた弾性表面波素子が知られている。電気音響変換素子は通常、例えばすだれ状電極の如き高周波励起/高周波受信・手段である。
この従来の弾性表面波素子においては、一方の電気音響変換素子に高周波電流を供給するとこの一方の電気音響変換素子が弾性表面波(SAW: Surface Acoustic Wave)を基材の表面に発生させ所定の方向に伝搬させることが出来る。そして、他方の電気音響変換素子は上記表面上で一方の電気音響変換素子からの弾性表面波を受信し受信した弾性表面波に対応した高周波電流を生じさせることが出来る。電気音響変換素子がすだれ状電極の場合には、すだれ状電極の複数の電極枝が並んでいる方向がすだれ状電極により発生された弾性表面波が伝搬する方向となり、また上記弾性表面波を効率よく受信する方向となる。
なお、弾性表面波とは、通常のバルク波と呼ばれる縦波や横波と異なり、物質表面にそのエネルギーの多くを集中して伝搬する弾性波である。弾性表面波としては、レーリー波,セザワ波,擬セザワ波,ラブ波等を例示することが出来、異方性材料の表面にも存在しえる。
このような従来の弾性表面波素子は、遅延線,発信機の為の発振素子及び共振素子,周波数を選択する為のフィルター,化学センサー,バイオセンサー,またはリモートタグ等に使用されている。
すだれ状電極が励起させた直後の弾性表面波の幅(弾性表面波の伝搬方向に対し直交する方向の寸法)は、すだれ状電極の複数の電極枝において隣接する2つの電極枝が相互に対面している長さ(重なり幅という)に等しい。
しかしながら、弾性表面波が伝搬する基板の表面が平坦である上述した如き従来の弾性表面波素子では、一方の電気音響変換素子により励起され一方の電気音響変換素子から伝搬された弾性表面波は、一方の電気音響変換素子から遠ざかるにつれてその幅方向に拡散し続けそれが有しているエネルギーを弱めている。従って、弾性表面波励起用の電気音響変換素子と弾性表面波受信用の電気音響変換素子とを離して配置することが出来る距離には限界があり、この結果として、上述した如き従来の弾性表面波素子を利用した上述した如き種々の装置の動作精度の向上には限界があった。
このような従来の弾性表面波素子に対し、非特許文献1では、弾性表面波を励起させ伝搬させることが可能な球状表面を有した基材の上記球状表面において所定の条件で弾性表面波を励起させ伝搬させることで、励起された弾性表面波を伝搬方向と交差する方向に拡散させ続けることなく上記球状表面の最大径の外周線に沿い多数回周回させることが出来ることを開示している。
また、特許文献1は、実用可能な球状弾性表面波素子を開示している。この実用可能な球状弾性表面波素子では、弾性表面波を励起させ伝搬方向と交差する方向に無限に拡散することなく伝搬させ周回させることが可能な最大径の外周線を含む球状表面の一部で構成された円環形状の表面領域を外表面に備えた球形状又は円盤形状の基材の上記表面領域に、電気音響変換素子としてすだれ状電極が設置され、また上記基材の外表面において上記表面領域以外(即ち、弾性表面波が全く伝搬されない領域)が支持部材により支持されている。そして、このような球状弾性表面波素子をボールSAWデバイスとも称している。
球状弾性表面波素子では、基材の外表面において最大径の外周線を含む球状表面の一部で構成された円環形状の表面領域を弾性表面波がその伝搬方向と交差する方向に拡散し続けることなく(即ち、エネルギーを損失させ続けることなく)多数回周回可能である。そしてそのような条件は、W=√(2aλ)であって、aは上記表面領域の上記球の一部の半径であり、λは上記弾性表面波の波長であり、そしてWは上記弾性表面波の幅である。
従って、上述した如き従来の弾性表面波素子を利用した上述した如き種々の装置に比べ、上述した如き従来の弾性表面波素子に代わり球状弾性表面波素子を利用した上述した如き種々の装置は、さらに飛躍的に動作精度を向上させることが可能である。
図1を参照しながら本発明の一実施の形態に従った球状弾性表面波素子の全体の構成を概略的に説明する。
球状弾性表面波素子10は、例えば水晶又はランガサイトのような三方晶系圧電性単結晶の基材12を備えている。この実施例では、右旋性の水晶を使用した。左旋性の水晶やランガサイトでは、SAWの蛇行の位相がZ軸周りに60度ずれて、蛇行が南北(Z方向)に反転することから、Z軸方向(以後方向の回転方向)に電気音響変換素子22(すだれ状電極)をずらす(回転させる)向きが逆になることが異なる。基材12は、Y結晶軸を含みZ結晶軸と直交する平面(Z軸周りの結晶面)が+Z結晶軸と交差する点を中心Cとした球面の一部で形成され上記直交する平面が上記球面の一部と交差している最大径の外周線14を含み円環状に延出している表面領域16を含んでいる。基材12は、円環状の表面領域16を除いた領域に固定された支柱18を介して図示しない台座に支持されている。この実施の形態では基材12は球形状であるが、円環状の表面領域16を除いた部分を削除した円盤形状とすることも出来る。
なお、三方晶系圧電性単結晶はその結晶面の3回対称性の故に+・−合わせて6本のY結晶軸を有するが図面の煩雑を避ける為のその中の1本の−Y結晶軸のみが図示されていて、これら6本のY結晶軸は最大径の外周線14と中心Cの周りの60度毎に交差している。
表面領域16には最大径の外周線14に沿い弾性表面波20を励起させ伝搬させることが可能である。この明細書の「背景技術」の項目において前述した如く、表面領域16の上記球面の一部の半径に基づいて弾性表面波20の波長及び幅を前述した条件に合致するよう設定することにより、表面領域16において最大径の外周線14に沿い励起され伝搬された弾性表面波20をその伝搬方向と交差する方向に拡散し続けることなく(即ち、エネルギーを損失させ続けることなく)多数回周回させることが可能である。
球状弾性表面波素子10はさらに、基材12の円環状の表面領域16に円環状の表面領域16の延出方向(最大径の外周線14)に沿い弾性表面波20を励起させ伝搬させる為の電気音響変換素子22を備えている。この実施の形態において電気音響変換素子22は、高周波励起/高周波受信・手段の一種であるすだれ状電極といわれているオルターニット・フェーズアレイを含んでおり、複数の電極枝22aを最大径の外周線14に対し直交する方向に延出させた状態で表面領域16上の所定の範囲に後述する如く設けられている。
すだれ状電極は基材12の円環状の表面領域16の所望の位置に公知のフォトエッチング技術により容易に形成することが出来、この実施の形態では金とクロムの2層構造である。
この実施の形態では、基材12の円環状の表面領域16の外周線14の直径が3.3mmであり、円環状の表面領域16に円環状の表面領域16の延出方向に沿い150MHzの弾性表面波20を励起させるために、すだれ状電極の寸法は:基材12がランガサイトの場合には、複数の電極枝の配列周期は約15.88ミクロンに、複数の電極枝の夫々において相互に対向している長さ(重なり幅)は約228.9ミクロンに、そして複数の電極枝において上記延出方向に沿った両側間の長さは約167ミクロンに設定されていて;基材12が水晶の場合には、複数の電極枝の配列周期は約21.38ミクロンに、複数の電極枝の夫々において相互に対向している長さ(重なり幅)は約265.6ミクロンに、そして複数の電極枝において上記延出方向に沿った両側間の長さは約225ミクロンに設定されている。
電気音響変換素子22には、切り替え部24を介して、高周波信号発生部26、そしてアンプ28及び検出・出力部30の組み合わせが電気的に接続されている。高周波信号発生部26は、切り替え部24を介して電気音響変換素子22に高周波信号を極短時間投入することにより、三方晶系圧電性単結晶の基材12の円環状の表面領域16に円環状の表面領域16の延出方向に沿い弾性表面波20を励起して伝搬させることが出来る。その後、切り替え部24は、電気音響変換素子22が円環状の表面領域16の延出方向に沿い伝搬し周回してきた弾性表面波20を受信するよりも早く、アンプ28及び検出・出力部30の組み合わせの側に切り替えられ、電気音響変換素子22が円環状の表面領域16に沿い伝搬し周回してきて受信した弾性表面波20に対応する高周波信号が切り替え部24を介してアンプ28及び検出・出力部30の組み合わせに送られる。
なお、基材12に用いることのできる圧電性結晶として水晶やランガサイトのほかにニオブ酸リチウム(LiNbO3)やタンタル酸リチウム(LiTa O3)等を例示することができる。水晶やランガサイト以外の圧電性結晶により基材12を形成した場合でも、基材12の外表面において弾性表面波20を周回させることが出来る所定の円環形状の表面領域16は、基材12の結晶面が基材12の球形状の外表面と交差する円環形状の最大径の外周線に沿った基材12の外表面の表面領域となる。
なお、切り替え部24に代わり、高周波信号発生部26から電気音響変換素子22へのみ一方向に高周波信号を送信する、及び電気音響変換素子22において受信した弾性表面波20から変換された高周波信号をアンプ28及び検出・出力部30の組み合わせへのみ送信する、公知の方向性結合回路等を使用することも出来る。
球状弾性表面波素子10を、ガスセンサとして用いる場合、特定のガスに感応する感応膜32を円環状の表面領域16に設ける。感応膜32は、例えば、特定のガスをその表面に吸着させることにより増加したその質量の量に応じて、円環状の表面領域16に沿い伝搬する弾性表面波20の伝搬速度を遅くさせても良いし、或いは、特定のガスを感応膜32内に吸蔵し、その吸蔵量に応じてその感応膜32の機械的堅さを変化させることにより、円環状の表面領域16を伝搬する弾性表面波20の伝搬速度や減衰率を変化させても良い。更には、特定のガスと反応することにより反応した特定のガスの量に応じて吸熱或いは発熱反応を起こし、吸熱或いは発熱反応の量に応じて、円環状の表面領域16を伝搬する弾性表面波20の伝搬速度を変化させても良い。そして感応膜32は、可逆反応を起こす材料であることが望ましい。
例えば、この様な感応膜32として、水素(H2)を吸蔵し水素化物を形成して機械的性質が変化するパラジウム(Pd)、アンモニア(NH3)に対する吸着性が高いプラチナ(Pt)、水素化物を吸着する酸化タングステン(WO3)、一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO2),二酸化硫黄(SO2),二酸化窒素(NO2)等を選択的に吸着するフタロシアニン(Phthalocyanine)等が知られている。
基材12に用いる圧電性結晶の多くは異方性をもち、それを原因として円環状の表面領域16内の位置によって電気機械結合定数が異なる。従って、円環状の表面領域16内において電気音響変換素子22により円環状の表面領域16の延出方向(最大径の外周線14)に沿い弾性表面波20を励起させた場合、弾性表面波20は上記延出方向に沿い伝搬する間にその音速やパワーフローアングルを異ならせる。そして、弾性表面波20が最も良好に伝搬する(即ち、電気音響変換素子22により弾性表面波20が励起されてから多数回周回して感知できなくなるまでの間にその強度をきれいな等比級数的に減衰させる)周回経路CTは最大径の外周線14の両側に所定の周期で波を打つように蛇行することがわかっている。
逆にいうと、基材12の円環状の表面領域16内に電気音響変換素子22により円環状の表面領域16の延出方向(最大径の外周線14)に沿い弾性表面波20を励起させる場合には、弾性表面波20の中心をそのような周回経路CT上に位置させるとともに弾性表面波20を伝搬させる方向を周回経路CTの向かう方向に一致させるようにすれば弾性表面波20を最も良好に伝搬させることが出来ることになる。
この実施の形態のように基材12が例えば水晶やランガサイトの如き三方晶系圧電性単結晶の場合には、円環状の表面領域16の延出方向(最大径の外周線14)に沿い弾性表面波20が最も良好に伝搬する周回経路CTは、球形状の基材12を地球に見立て、Z結晶軸を地軸と仮想した場合に赤道と仮想できる最大径の外周線14に沿い120度周期で最大径の外周線14の両側に正弦波の如く波をうち蛇行している。そして周回経路CTの6つの最大振幅位置は、最大径の外周線14に沿った方向において最大径の外周線14上で前述した+・−合わせて6つのY結晶軸(図1に1つだけ図示されている)が交差する位置に対し最大径の外周線14と直交する方向に対応している。
なお、圧電性結晶の結晶軸は、例えばX線回折法により知ることが出来る。また、前述した周回経路CTは基材12の円環状の表面領域16の予め設定した多数の位置の夫々に外部の独立した電気音響変換素子22を接近させて円環状の表面領域16の延出方向に沿い実際に所定の強さの弾性表面波を励起させ伝搬させ周回させ、さらに所定の回数周回した後の弾性表面波の減衰状況を観測することにより実験的に知ることが出来る。
図2は、円環状の表面領域16の最大径の外周線14上における1つの+Y結晶軸(図1参照)との交点Pを0度とした場合の、弾性表面波20が最も良好に伝搬する周回経路CTを図示しており、周回経路CTの波が最大径の外周線14から最も離れた位置(最大振幅位置)におけるパワーフローアングルはゼロになる。なお、当業者であれば、パワーフローアングルは基材12を構成する材料の弾性定数を用いて公知の弾性理論により容易に求めることが出来る。そのような弾性理論の一例は、B. A. Auld. “Acoustic Fields and Waves in solids” vol. 1 and 2, 2nd edition, Krieger Publishing Company (1990)Page 135−161に詳細に記載されている。
図3の(A)には、この実施の形態において複数の電極枝22aを円環状の表面領域16の最大径の外周線14に対し直交する方向に向けられている電気音響変換素子22の中心が図2において最大径の外周線14上のP点から最大径の外周線14上で+30度ずれたK点に配置されていて1マイクロ秒だけ150MHzの高周波信号を投入した後に円環状の表面領域16上を表面領域16の延出方向(最大径の外周線14)に沿い励起され伝搬し周回する弾性表面波20が周回数の増加に従い強度(デシベル)を変化させる様子が示されている。ここで上記強度は対数表示されている。
上記K点は弾性表面波20が最も良好に伝搬する周回経路CT上ではあるが、K点に配置されている電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの配列方向(即ち、電気音響変換素子22で発生された弾性表面波20が電気音響変換素子22から最初に離れる方向)は、K点における周回経路CTの方向とは一致していない。
図3の(A)からは、弾性表面波20の強度は38周で1/10になり,その後60周まではきれいに等比級数的に減衰しているが、60周を超えると強度の減衰には波が生じることが判る。このことは、図2のK点に電気音響変換素子22の中心が配置された場合には、60周を超えた弾性表面波20は弾性表面波20を基にした種々の計測結果の精度を低下させることが分かる。
図3の(B)には、この実施の形態において複数の電極枝22aを円環状の表面領域16の最大径の外周線14に対し直交する方向に向けられている電気音響変換素子22の中心が図2において最大径の外周線14上のP点に配置されていて1マイクロ秒だけ150MHzの高周波信号を投入した後に円環状の表面領域16上を表面領域16の延出方向(最大径の外周線14)に沿い励起され伝搬し周回する弾性表面波20が周回数の増加に従い強度(デシベル)を変化させる様子が示されている。ここで上記強度は対数表示されている。
上記P点は円環状の表面領域16の最大径の外周線14上ではあるが、球形状の基材12を地球に見立て最大径の外周線14を赤道に見立てた時に、弾性表面波20が最も良好に伝搬する周回経路CTは上記P点と同じ経度では上記P点から緯度にして略−2度離れている。したがって、P点に配置されている電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aは、弾性表面波20が最も良好に伝搬する周回経路CT上から外れている。
図3の(B)からは、円環状の表面領域16において弾性表面波20が最も良好に伝搬する周回経路CT上から外れているP点に配置されている電気音響変換素子22により円環状の表面領域16の延出方向に沿い励起された弾性表面波20は、図3の(A)中に図示されている如く弾性表面波20が最も良好に伝搬する周回経路CT上のK点に配置されている電気音響変換素子22により円環状の表面領域16の延出方向に沿い励起された弾性表面波20に比べると強度が小さく、しかも周回数の全体に亘り波を生じながら減衰していることがわかる。このことは、図2のP点に電気音響変換素子22の中心が配置された場合には、周回数の全体に亘り弾性表面波20を基にした種々の計測結果の精度を低下させることが分かる。
図3の(C)には、この実施の形態において複数の電極枝22aを円環状の表面領域16の最大径の外周線14に対し直交する方向に向けられている電気音響変換素子22の中心が図2において最大径の外周線14上のP点と同じ経度ではあるが上記P点から緯度にして略−2度離れH点に配置されていて1マイクロ秒だけ150MHzの高周波信号を投入した後に円環状の表面領域16上を表面領域16の延出方向(最大径の外周線14)に沿い励起され伝搬し周回する弾性表面波20が周回数の増加に従い強度(デシベル)を変化させる様子が示されている。ここで上記強度は対数表示されている。
上記H点には弾性表面波20が最も良好に伝搬する周回経路CTの最大振幅位置が交差しており、しかも上記H点において周回経路CTのパワーフローアングルはゼロであり周回経路CTの接線は円環状の表面領域16の最大径の外周線14と同じ方向を向いている。即ち、上記H点における周回経路CTの接線の延出方向は、上記H点に中心が配置された電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの配列方向と同じ方向であり、ひいては複数の電極枝22aにより励起され複数の電極枝22aから離れる時の弾性表面波20の伝搬方向と同じである。
図3の(C)からは、円環状の表面領域16において弾性表面波20が最も良好に伝搬する周回経路CT上のH点に配置されているとともに上記H点における周回経路CTの接線の延出方向と同じ方向にすだれ状電極の複数の電極枝22aの配列方向を一致させている電気音響変換素子22により励起され円環状の表面領域16の延出方向に沿い励起された弾性表面波20は、図3の(A)中に図示されている如く弾性表面波20が最も良好に伝搬する周回経路CT上のK点に配置されている電気音響変換素子22により円環状の表面領域16の延出方向に沿い励起された弾性表面波20に比べると最初の強度は同じであるがより長い周回数の全体に亘り波を生じることなくきれいに等比級数的に減衰していることが判る。このことは、図2のH点に電気音響変換素子22の中心が配置された場合には、弾性表面波20は弾性表面波20を基にした種々の計測結果の精度を向上させることが分かる。
図3の(A)乃至(C)からは、複数の電極枝22aを円環状の表面領域16の最大径の外周線14に対し直交する方向に向けられているすだれ状電極の電気音響変換素子22の中心が、例えば水晶やランガサイトの如き三方晶系圧電性単結晶の球形状の基材12の円環状の表面領域16において最大径の外周線14上のY結晶軸との交点Pから最大径の外周線14の延出方向に15度以内の範囲内にあれば、電気音響変換素子22により円環状の表面領域16の延出方向に沿い励起され伝搬され周回される弾性表面波20は周回数の全体に亘り全体として大きな波を生じることなく等比級数的に減衰することがわかる。この結果として、このような弾性表面波20を基にして種々の動作を行なう種々の装置の動作精度をより向上させることが出来る。
さらに、電気音響変換素子22の中心が、基材12の円環状の表面領域16において最大径の外周線14上の−Y結晶軸との交点Pから最大径の外周線14に対し直交する方向の−Z方向に1度以上3度以内の位置にあれば、また1.5度以上3度以内であればさらに確実に、電気音響変換素子22により円環状の表面領域16の延出方向に沿い励起され伝搬され周回される弾性表面波20は周回数の全体亘り全体として大きな波を生じることなく等比級数的に減衰することがわかる。この結果として、このような弾性表面波20を基にして種々の動作を行なう種々の装置の動作精度をより向上させることが出来る。図示はしないが、このような減衰が小さくなる現象は、+Y方位に電気音響変換素子がある場合には、+Z方向に一度以上3度以内であればよく、1.5以上3度以内であればさらに確実に効果が期待できる。水晶やランガサイト結晶の結晶系は、その対象性から、−Y方位について電気音響変換素子の位置を定義すれば+Y方位について電気音響変換素子の位置を特定する事に等しく、逆に、+Y方位について電気音響変換素子の位置を定義すれば−Y方位について電気音響変換素子の位置を特定する事に等しいことが結晶学上公知であるために、本発明ではそのいずれかの説明を行い両方の場合の説明をおこなったものとし、その説明の記載を省くものとする。
また、電気音響変換素子22の中心が、基材12の円環状の表面領域16において最大径の外周線14上のY結晶軸との交点Pから最大径の外周線14に対し直交する方向に+2度(Y結晶軸に対応した周回経路CTの最大振幅位置が緯度方向の+側にある場合:図2の経度方向の+・−60度位置及び+・−180度位置)、または−2度(Y結晶軸に対応した周回経路CTの最大振幅位置が緯度方向の−側にある場合:図2の経度方向の0度位置及び+・−120度位置)にあれば、図3の(C)に示されたのと同じになり、電気音響変換素子22により円環状の表面領域16の延出方向に沿い励起され伝搬され周回される弾性表面波20は周回数の全体に亘りきれいに等比級数的に減衰することがわかる。この結果として、このような弾性表面波20を基にして種々の動作を行なう種々の装置の動作精度を最も向上させることが出来る。
図4の(A)乃至(E)には、円環状の表面領域16において弾性表面波20が最も良好に伝搬する図2中に図示されている蛇行した周回経路CTのパワーフローアングルがゼロになり接線の延出方向を電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの配列方向と一致させている位置(即ち、円環状の表面領域16の最大径の外周線14から最大径の外周線14に対し直交する方向に最も離れている最大振幅位置)の1つが、最大径の外周線14に沿った経度0度の位置から緯度−1.5度離れた位置を通過している場合に、経度0度の経線上で、緯度+3度,+1.5度,0度,−1.5度,そして−3度離れた位置に電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの中心を配置し相互に同じ条件で弾性表面波20を励起させ伝搬させ周回させた時に得られる、経過時間に対する弾性表面波20の強度の減衰の様子を概略的に示している。
図4の(D)中では、電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの中心が、円環状の表面領域16において弾性表面波20が最も良好に伝搬する図2中に図示されている蛇行した周回経路CTの最大振幅位置上にあり、そしてその位置の周回経路CT上のパワーフローアングルがゼロであり接線の延出方向が円環状の表面領域16の最大径の外周線14の延出方向と、即ち電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの配列方向と、一致している。
ここにおいては、電気音響変換素子22のすだれ状電極により円環状の表面領域16において円環状の表面領域16の延出方向に沿い所定の条件で励起された弾性表面波20は、円環状の表面領域16において弾性表面波20が最も良好に伝搬する図2中に図示されている蛇行した周回経路CTに沿い伝播され周回するので、周回を開始してからの経過時間(周回数)の増加に伴いその強度をきれいに等比級数的に減少させていることがわかる。
図4の(C)及び(E)中では、電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの中心が、円環状の表面領域16において弾性表面波20が最も良好に伝搬する図2中に図示されている蛇行した周回経路CT上のパワーフローアングルがゼロであり接線の延出方向が円環状の表面領域16の最大径の外周線14の延出方向と、即ち電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの配列方向と、一致している経度0度の経線上で緯度−1.5度の最大振幅位置から、同じ経度の経線上で夫々+1.5度及び−1.5度の緯度だけ離れて配置(即ち、緯度0度及び緯度−3度に配置)されている。
ここにおいては、電気音響変換素子22のすだれ状電極により円環状の表面領域16において円環状の表面領域16の延出方向に沿い所定の条件で励起された弾性表面波20は、円環状の表面領域16において円環状の表面領域16の延出方向に伝播され周回する間に、周回を開始してからの経過時間(周回数)の増加に伴いその強度を多少の波を伴ってはいるが全体の傾向としては等比級数的に減少させていることがわかる。
図4の(A)及び(B)中では、電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの中心が、円環状の表面領域16において弾性表面波20が最も良好に伝搬する図2中に図示されている蛇行した周回経路CT上のパワーフローアングルがゼロであり接線の延出方向が円環状の表面領域16の最大径の外周線14の延出方向と、即ち電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの配列方向と、一致している経度0度の経線上で緯度−1.5度の最大振幅位置から、同じ経度の経線上で夫々+3.0度及び+4.5度の緯度だけ離れて配置(即ち、緯度+1.5度及び緯度+3.0度に配置)されている。
ここにおいては、電気音響変換素子22のすだれ状電極により円環状の表面領域16において円環状の表面領域16の延出方向に沿い所定の条件で励起された弾性表面波20は、円環状の表面領域16において円環状の表面領域16の延出方向に伝播され周回する間に、周回を開始してからの経過時間(周回数)の増加に伴いその強度を大きな波を伴って全体の傾向としては等比級数的に減少させていることがわかる。
図4の(A)乃至(E)からは、電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの中心が、円環状の表面領域16において弾性表面波20が最も良好に伝搬する図2中に図示されている蛇行した周回経路CT上のパワーフローアングルがゼロであり接線の延出方向が円環状の表面領域16の最大径の外周線14の延出方向と、即ち電気音響変換素子22のすだれ状電極の複数の電極枝22aの配列方向と、一致している経度0度の経線上で緯度−1.5度のと−3.0度との範囲内にあれば電気音響変換素子22のすだれ状電極により円環状の表面領域16において円環状の表面領域16の延出方向に沿い所定の条件で励起された弾性表面波20は、円環状の表面領域16において円環状の表面領域16の延出方向に伝播され周回する間に、周回を開始してからの経過時間(周回数)の増加に伴いその強度を多少の波を伴ってはいるが全体の傾向としては等比級数的に減少させていることがわかる。
図本信号をさらに周波数解析して150MHz成分を取り出し、150MHz成分の弾性表面波の周回に伴う減衰率からQ値(減衰の小ささを表す値で、振動デバイスの評価パラメータとして公知であり説明を要しない)を求めたところ、(A),(B),(C)の場合について、約32,000程度であったのに比較し、(D),(E)では約36,000あり、より減衰が小さい事を確認した。