JP5471918B2 - 塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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さらに、本発明者等は、マグネタイト分率に及ぼす製造条件の影響について調査した。その結果、仕上げ圧延開始時のスケール厚さの他に、仕上げ圧延温度、巻取り温度、および650〜300℃間の冷却速度が影響因子であることを見出した。
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[2] 質量%で、C:0.2%以下、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:2.0%以下、Cr:3.0%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする上記[1]に記載の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板。
[3] 曲げ疲労限度比が0.45以上であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板。
[4] 上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板を製造する方法であって、仕上げ圧延開始時の平均スケール厚が3〜30μmとなるようにデスケーリングを行った後、鋼板表面温度:800〜980℃の範囲内での累積圧下率が30%以上であり、さらに仕上げ圧延終了温度:800℃以上となる仕上げ圧延を行い、その後、300〜650℃で巻き取ることを特徴とする塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法。
[5] 上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板を製造する方法であって、仕上げ圧延開始時の平均スケール厚が3〜30μmとなるようにデスケーリングを行った後、鋼板表面温度:800〜980℃の範囲内での累積圧下率が30%以上であり、さらに仕上げ圧延終了温度:800℃以上となる仕上げ圧延を行い、その後、300〜650℃間を平均冷却速度5℃/分以下で冷却することを特徴とする塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法。
また、本発明の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法によれば、上記手順並びに条件を採用することにより、優れた塗装耐食性並びに疲労特性を備える熱延鋼板を製造することが可能となる。
本実施形態の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板は、スケール層中のマグネタイトの体積分率が60%以上、かつ、前記マグネタイトの平均結晶粒径が3μm以下であり、スケール/地鉄界面の粗さが平均粗さRaで1.5μm以下として概略構成されている。
本発明の熱延鋼板において、スケール層中のマグネタイトの体積分率は、塗装後の耐食性を確保する上で極めて重要な因子である。スケール層中のマグネタイト分率が60%未満だと、良好な化成処理皮膜が形成されにくくなり、その結果、化成皮膜上に行う電着塗装との密着性が低下して耐食性が劣化する。このため、本発明においては、スケール層中のマグネタイトの体積分率を60%未満に規定した。また、本発明においては、耐食性をさらに向上させる観点から、スケール層中のマグネタイトの体積分率を85%以上とすることがより好適である。
本発明の熱延鋼板において、マグネタイトの平均結晶粒径は、塗装後耐食性を確保する上で極めて重要な因子である。マグネタイトの結晶粒径が3μmを超えると、良好な下地化成皮膜が形成されにくくなり、電着塗装後の耐食性が劣化するので、その適正範囲を3μm以下とした。また、本発明におけるマグネタイトの平均結晶粒径は、2μm以下がより好適な範囲である。
スケール/地鉄間の界面粗さは、疲労特性を判断する指標の一つであり、本発明において重要な因子である。スケール/地鉄間の界面の平均粗さRaが1.5μmを超えると、疲労特性が顕著に低下するため、その適正範囲を1.5μmとした。また、本発明におけるスケール/地鉄間の界面の平均粗さRaは、1.3μm以下がより好適な範囲である。
本発明の熱延鋼板においては、スケール層中のマグネタイトの体積分率、マグネタイトの平均結晶粒径、並びに、スケール/地鉄間の界面の平均粗さを上記範囲とするにあたり、鋼成分を、以下のように制御することがより好ましい。即ち、本発明の熱延鋼板は、質量%で、C:0.2%以下、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:2.0%以下、Cr:3.0%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成とすることがより好ましい。
以下、鋼成分を構成する各成分について説明する。
本発明においては、C量が0.2%を超えると、パーライト組織の割合やセメンタイトの体積分率が増加し、スケール/地鉄界面粗さを平滑にしても、良好な疲労特性が得られないため、Cの適正範囲を0.2%以下に限定した。また、C量の下限は特に限定しないが、0.0003%未満であると製造コストが増大するため、0.0003%が実質的な下限である。
本発明においては、Si量が2.0%を超えると、デスケーリング性が低下し、その結果、仕上げ圧延前のスケール厚さが大きくなり、熱延後のスケール/地鉄界面の粗さが大きくなることから疲労特性が低下するため、その適正範囲を2.0%以下とした。また、Siはマグネタイト分率への影響を通じて、塗装耐食性にも影響するため、この塗装耐食性の観点から、0.5%以下とすることがより好ましい。また、Si量の下限は特に限定しないが、0.001%未満であると製造コストが増大するため、0.001%が実質的な下限である。
Mnは、鋼の強度確保のために用いられる元素であるが、3.0%を超えて含有すると、スケールの密着性が低下するとともにマグネタイトの体積分率が低下し、その結果、塗装後耐食性も低下することから、その適正範囲は3.0%以下とする。また、Mn量の下限は特に限定しないが、0.001%未満であると製造コストが増大するため、0.001%が実質的な下限である。
Pは、鋼の強度確保のために用いられる。しかしながら、0.1%を超えてPを含有すると塗装耐食性が低下するので、その適正範囲を0.1%以下とする。また、P量の下限は特に限定しないが、0.001%未満であると製造コストが増大するため、0.001%が実質的な下限である。
Sは、母材の疲労特性に影響する元素である。しかしながら、0.02%を超えてSを含有すると、スケール/地鉄界面粗さを平滑にしても良好な疲労特性が得られないため、その適正範囲を0.02%以下とする。また、S量の下限は特に限定しないが、0.0003%未満であると製造コストが増大するため、0.0003%が実質的な下限である。
Alは、脱酸および鋼板の組織制御のために用いられる。しかしながら、2.0%を超えてAlを含有すると、マグネタイト結晶粒が粗大になって塗装耐食性が低下するので、その適正範囲を2.0%以下とする。また、Al量の下限は特に限定しないが、0.001%未満であると製造コストが増大するため、0.001%が実質的な下限である。
Crは、鋼板の組織制御のために用いられる。しかしながら、3.0%を超えてCrを含有すると、マグネタイト分率が低下するとともにスケールの密着性が低下し、その結果、塗装後耐食性も低下するため、Cr量の適正範囲を3.0%以下とする。また、Cr量の下限は特に限定しないが、0.001%未満であると製造コストが増大するため、0.001%が実質的な下限である。
本発明の熱延鋼板においては、スケール層中のマグネタイトの体積分率、マグネタイトの平均結晶粒径、スケール/地鉄間の界面の平均粗さ、並びに、鋼成分を上記範囲に規定したうえで、さらに、曲げ疲労限度比を0.45以上とすることがより好ましい。
ここで、本発明において説明する曲げ疲労限度比とは、疲労限をTSで除した値であり、熱延鋼板の有する疲労特性を示す値である。この曲げ疲労限度比が0.45以上であれば、実用上、疲労破壊が起きないことから、疲労限度比の範囲を0.45以上に限定した。
次に、上記構成を備えた本発明の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板を製造する方法について説明する。
本発明の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法は、仕上げ圧延開始時の平均スケール厚が3〜30μmとなるようにデスケーリングを行った後、鋼板表面温度:800〜980℃の範囲内での累積圧下率が30%以上であり、さらに仕上げ圧延終了温度:800℃以上となる仕上げ圧延を行い、その後、300〜650℃で巻き取る方法である。
また、本発明においては、上記構成を備えた熱延鋼板を製造するにあたり、仕上げ圧延までを上記同様の手順及び条件で行った後、300〜650℃間を平均冷却速度5℃/分以下で冷却する方法とすることができる。
以下、本発明の熱延鋼板の製造方法で規定する各手順並びに条件について説明する。
なお、本発明で説明する累積圧下率とは、上記温度範囲内で行った圧延に関して、初期板厚をt0、圧延後の板厚をtfとした場合に、次式{(t0−tf)/t0×100}によって求められる量である。
なお、仕上げ圧延においては、通常は複数回のロール圧延を行うので、上記温度範囲内での累積圧下率30%以上の圧延を含む条件であれば、それ以外の条件の圧延処理を行っても構わない。
また、本発明の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法によれば、上記手順並びに条件を採用することにより、優れた塗装耐食性並びに疲労特性を備える熱延鋼板を製造することが可能となる。
次いで、デスケーリング装置を用いて、スケールの残存厚さを変化させた上で、下記表2に示す条件で仕上げ圧延を行なった。その後、所定の温度で巻き取り処理を行うか、あるいは、連続冷却で650℃〜300℃間の冷却速度を変化させる処理を行った。
まず、スケール層中のマグネタイトの体積分率については、X線回折法により定量し、スケール層中に存在するマグネタイトの結晶粒径はEBSD法にてマグネタイト相の分離を行ったうえで、その粒径を測定した。
また、スケール/地鉄界面の粗さは、酸洗によってスケールを除去した後、その表面について、JIS 0601Bに記載の方法で測定し、算術平均粗さRaによって評価した。
また、鋼板の引張特性は、各々の鋼板からJIS5号試験片を採取し、引張方向が圧延方向垂直方向(C方向)になるような条件で行った。
また、鋼板の疲労特性は、JIS Z2275に記載の方法に従い、応力比=−1の条件下で平面曲げ疲労試験を行い、1000万回疲労限で評価した後、次式{疲労限/TS(引張強度)}から疲労限度比を算出した。
tscale :仕上げ圧延開始時のスケール厚さ(mm)
Red :800〜980℃間の累積圧下率(%)
FT :最終仕上げ圧延温度(℃)
CT :巻き取り温度(℃)
CR :300〜650℃間の平均冷却速度(℃/分)
fvmag :スケール層中のマグネタイトの体積分率(%)
dmag :マグネタイトの平均粒径(μm)
Ra :スケール/地鉄界面の算術平均粗さ(μm)
また、試験番号A−2、H−2は、仕上げ圧延前のスケール厚が本発明の規定範囲に比べて過大であったため、スケール/地鉄界面粗さが大きくなって疲労特性が低下するとともに、マグネタイト分率が少ないために塗装耐食性もNGの評価となった例である。
また、試験番号A−4、F−2、J−2は、仕上げ圧延前のスケール厚は適正だったものの、圧延中にスケールに歪が付与されなかったため、マグネタイト結晶粒が微細化せず、塗装耐食性がNGとなった例である。
また、試験番号A−5は、巻き取り温度が適正範囲以下であったことから、ウスタイトからマグネタイトへの変態が十分に起こらなかったため、耐食性がNGとなった例である。
また、試験番号F−3は、巻き取り温度が適正範囲以上であったため、マグネタイト結晶粒が粗大化して、塗装耐食性がNGとなった例である。
また、試験番号K−1、L−1、M−1、N−1、O−1、P−1は、鋼成分が適正でなかったため、これに伴ってマグネタイト分率やマグネタイト粒径が適正範囲外となり、塗装耐食性がNGとなった例である。
Claims (5)
- スケール層中のマグネタイトの体積分率が60%以上、かつ、前記マグネタイトの平均結晶粒径が3μm以下であり、スケール/地鉄界面の粗さが平均粗さRaで1.5μm以下であることを特徴とする塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板。
- 質量%で、
C :0.2%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:3.0%以下、
P :0.1%以下、
S :0.02%以下、
Al:2.0%以下、
Cr:3.0%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする請求項1に記載の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板。 - 曲げ疲労限度比が0.45以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板。
- 請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板を製造する方法であって、
仕上げ圧延開始時の平均スケール厚が3〜30μmとなるようにデスケーリングを行った後、
鋼板表面温度:800〜980℃の範囲内での累積圧下率が30%以上であり、さらに仕上げ圧延終了温度:800℃以上となる仕上げ圧延を行い、
その後、300〜650℃で巻き取ることを特徴とする塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法。 - 請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板を製造する方法であって、
仕上げ圧延開始時の平均スケール厚が3〜30μmとなるようにデスケーリングを行った後、
鋼板表面温度:800〜980℃の範囲内での累積圧下率が30%以上であり、さらに仕上げ圧延終了温度:800℃以上となる仕上げ圧延を行い、
その後、300〜650℃間を平均冷却速度5℃/分以下で冷却することを特徴とする塗装耐食性と疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法。
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