JP5471524B2 - 靱性に優れた高強度極厚h形鋼およびその製造方法 - Google Patents

靱性に優れた高強度極厚h形鋼およびその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP5471524B2
JP5471524B2 JP2010019376A JP2010019376A JP5471524B2 JP 5471524 B2 JP5471524 B2 JP 5471524B2 JP 2010019376 A JP2010019376 A JP 2010019376A JP 2010019376 A JP2010019376 A JP 2010019376A JP 5471524 B2 JP5471524 B2 JP 5471524B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
less
strength
toughness
section steel
flange
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2010019376A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2011157582A (ja
Inventor
泰士 長谷川
紀昭 小野寺
裕史 北
輝行 若月
広一 山本
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel Corp filed Critical Nippon Steel Corp
Priority to JP2010019376A priority Critical patent/JP5471524B2/ja
Publication of JP2011157582A publication Critical patent/JP2011157582A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5471524B2 publication Critical patent/JP5471524B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Heat Treatment Of Steel (AREA)

Description

本発明は、建築用途に好適な、靭性に優れた高強度極厚H形鋼およびその製造方法に関する。
都市の利便性が追求され、大都市の空間を効率よく活用するために、近年、建築物の大型化や高層化が進んでいる。大型の建築物では、特に構造上の主要な強度部材に、単位面積あたりの耐荷重が大きい鋼材を用いる傾向にある。このように、建築構造部材の高強度化に対する要求が高まりつつあり、一部では550MPa以上の強度を有する鋼材の使用が検討されている。
また、高層建築物の特に高層階部分では、梁、あるいは壁に高強度部材を適用し、断面積を減少すれば、建築物自体の重量を軽減することができる。一方、高層建築物を支える低層部分では、剛性の優れた高強度の大断面鋼材が必要とされる。したがって、建築構造部材には、汎用性が高く、部材としての強度発現に有効な断面構造を有しているH形鋼が好適である。
ところが、H形鋼は特殊な断面形状を有しているため、厚みを大きくする際には、各部位の機械的特性を均質にすることが難しくなる。特に高い強度を獲得するためには高度な組織制御が必要となる。さらに、構造部材では溶接による接合も考慮して設計する必要があることから、高強度と同時に優れた加工性や靱性が要求される。
そのため、異形断面鋼材の高強度化と高靱性化とを同時に達成するという課題が、製造工程の自由度の中で解決されなければならない。したがって、極厚の断面形状を有し、フランジの板厚中心の強度及び靭性を確保し、溶接性や加工性をも同時に具備するH形鋼を得るには、化学成分及び金属組織を高い精度で制御する技術が必要になる。
従来、鋼材の高強度化を実現するために、炭素濃度を低減し、合金元素によって焼入れ性を高める方法が提案されている(例えば、特許文献1、2、参照)。しかし、これらの合金設計の考え方は一般的な80mm未満の板厚の鋼材に関するものである。すなわち、特許文献1及び2には、80mm以上のフランジの板厚中心において、優れた強度及び靱性を同時に獲得する、H形鋼の製造技術は提案されていない。
一方、構造上、比較的厚肉の鋼材が要求される建築物においては、厚み方向での位置によらず均質な特性を得る、厚鋼板の製造技術が提案されている(例えば、特許文献3〜5、参照)。これらは、炭化物、窒化物などの析出制御や、酸化物などの介在物制御、制御圧延、加速冷却である。しかし、これらの合金設計指針は、通常の板厚を有する厚鋼板の製造には有効であるものの、80mm以上のH形鋼材を製造する技術は提案されていない。
H形鋼の強度と靱性を獲得する技術としては、Ni、Cuなどの合金元素を大量に添加する方法が提案されている(例えば、特許文献6、参照)。しかし、特許文献6にも80mm以上の板厚において、H形鋼の板厚中心での強度と靱性を両立させる技術への言及はない。また、特許文献6に提案されている方法は、Ni、Cuなどの高価な合金元素の添加量が非常に多く、極めてコストの高いH形鋼を提供する技術である。したがって、これまでには、安価かつ高性能なH形鋼を製造可能とする技術は提案されていない。
特開平10−72620号公報 特開2004−256894号公報 特開2004−339550号公報 特開平8−144019号公報 特開2002−030380号公報 特開平11−193440号公報
従来、特に、フランジの厚みが80mm以上になると、熱間圧延のみでは、厚み方向の機械特性が均質な高強度H形鋼を得ることが困難であった。そのため、建築物の構造上、フランジの厚みが80mm以上であるH形鋼が必要とされる場合は、鋼板を組み合わせて溶接する方法で製造されている。
しかし、全長にわたって、ウェブの両端に2つのフランジを溶接して製造されるH形鋼(溶接H形鋼)の生産性は、当然、圧延によって製造されるH形鋼(圧延H形鋼)に比べて低い。そのため、溶接H形鋼は製造コストが高く、結局、フランジの厚みが80mm以上で、安価な極厚H形鋼の供給は、現時点でほとんど実現していない。
すなわち、ユニバーサル圧延などによって製造される、安価、かつ80mm以上のフランジの厚みを有するH形鋼の強度と靱性を同時に満足する技術は、未だに実現を見ていない。土木、貯槽、建築機械分野においても、建材と同様な技術的課題があり、極厚H形鋼の安価な高性能化技術が望まれているものの、結局、提案されていない。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、圧延H形鋼の製造工程を前提として、主に、建築物に適用する、大断面で剛性に優れた極厚H形鋼、具体的には、フランジの厚みが80mm以上で、フランジの板厚中央部において、室温における引張強さが550MPa以上であり、かつ0℃におけるシャルピー吸収エネルギーが27J以上である高強度高靱性極厚H形鋼、および、安価かつ生産性高く、高強度高靱性極厚H形鋼を製造する方法の提供を課題とするものである。
本発明者らは、極厚H形鋼のフランジの厚み方向の中央部における強度、靱性および組織と成分組成との関係について検討を行った。まず、強度の向上に有効であり、一方では靭性を低下させるCの添加量を制限し、同時に焼入れ性を向上させるMnの添加量を制御した。その結果、(x)焼入れ性の指標であるCとMnの含有量の比(C/Mn)を適正な範囲とすることが重要であることがわかった。次に、Bの添加による焼入れ性の向上について検討を行った。その結果、効果を安定して獲得するためにはTiの添加が必要であること、さらには(y)靭性を確保するために、TiとNの含有量の積(Ti×N)という、新たな焼入れ性向上指標の制限が必要であることを見出した。更に、靭性と、残留オーステナイトおよび成分組成との関係について検討した。その結果、(z)高強度極厚H形鋼の靭性を向上させるためには、C、Si、Mn、Mo、W、Bによって求められる予測残留オーステナイト体積率γm[%]を制御することが好ましいという知見を得た。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1) 質量%で、C:0.005〜0.05%、Si:0.01〜0.50%、Mn:2.20%超、3.0%以下、Ti:0.007〜0.025%、Al:0.005〜0.1%、N:0.001〜0.005%、B:0.0003〜0.0025%を含有し、Ni:0.1%未満、Cu:0.1%未満、P:0.02%以下、S:0.008%以下、O:0.01%以下に制限し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、CとMnの含有量の比(C/Mn)が0.002〜0.015であり、TiとNの含有量の積(Ti×N)が1×10−4以下であり、フランジの厚み方向の中央部における、旧オーステナイト粒界を占めるフェライトの割合が20%以下であり、フランジの厚みが80mm以上であり、フランジの厚み方向の中央部における引張強度が550MPa以上であり、かつ、0℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーが27J以上であることを特徴とする靭性に優れた極厚高強度H形鋼。
(2) 更に、質量%で、Mo:0.2%以下、W:0.5%以下の一方または両方を含有することを特徴とする上記(1)に記載の靱性に優れた極厚高強度H形鋼。
(3) 下記(式1)によって求められる予測残留オーステナイト体積率γm[%]が2.5%以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の靭性に優れた極厚高強度H形鋼。
γm=C+2Si+0.5Mn+(Mo+W)+100B ・・・ (式1)
ここで、C、Si、Mn、Mo、W、Bは各元素の含有量[質量%]である。
(4) 更に、質量%で、Nb:0.025以下%、V:0.1%以下、Zr:0.02%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の靱性に優れた極厚高強度H形鋼。
(5) 更に、質量%で、Ca:0.004%以下、Mg:0.004%以下の一方または両方を含有することを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の靱性に優れた極厚高強度H形鋼。
(6) フランジの厚み方向の中央部における金属組織がベイナイトと、旧オーステナイト粒界を占める割合が20%以下のフェライトとからなることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の靱性に優れた極厚高強度H形鋼
なお、本発明においてシャルピー吸収エネルギーとは、鋼材の靱性値を代表する数値であって、JIS Z 2242に記載の試験方法に基づいて、JIS4号衝撃試験片により繰り返し数3の測定を実施し、その最低値をもって靭性を評価する。また、引張強さについてはJIS Z 2241に記載の試験方法に基づいて、JIS4号丸棒試験片を加工採取し、繰り返し数2として、その平均値をもって強度を評価する。
本発明によれば、80mm以上の厚みを有し、そのフランジの板厚中央において、室温強度が550MPa以上であり、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーの値で27J以上となる、強度および靱性に優れた極厚H形鋼を、熱間圧延によって、生産性高く製造することが可能になる。更に、本発明のH形鋼を建築用鋼材として高層建築物の低層または基盤部分に適用することにより、従来にない高剛性基礎構造を可能とし、大都市の空間の効率的利用、利便性の向上を著しく推進することが可能となる。更には、土木、建築、貯槽、建築用機械分野においても、本発明の靱性に優れた高強度極厚H形鋼の普及させることによって、社会基盤または工業の発展に大きく寄与することが可能になるなど、産業上の貢献が極めて顕著である。
極厚H形鋼の断面形状の模式図である。 (C/Mn)と鋼材の厚み方向の中央部における強度との関係を示す図である。 (Ti×N)と鋼材の厚み方向の中央部における靭性との関係を示す図である。 予測残留オーステナイト体積率と鋼材の厚み方向の中央部における靭性との関係を示す図である。 鋼材の厚み方向の中央部における、旧γ粒界に占めるフェライトの割合と強度との関係を示す図である。
図1に、極厚H形鋼の断面を模式的に示す。本発明の極厚H形鋼は、フランジの厚み3が80mm以上である。また、本発明の極厚H形鋼では、フランジの厚み方向の中央部2の強度と靱性に優れる。そのため、本発明の極厚H形鋼を使用して構成した建築部材または機械等は剛性が高く、また強度と靱性に優れる。本発明の極厚H形鋼は、フランジの厚みが80mm以上であり、フランジの厚み方向の中央部では冷却速度が低下する。そのため、特に、(x)CとMnの含有量の比(C/Mn)、(y)TiとNの含有量の積(Ti×N)、(z)残留オーステナイト体積率予測式γrが重要な指標となる。
以下、各指標について説明する。
(x)CとMnの含有量の比(C/Mn)
まず、CとMnの含有量の比(C/Mn)について説明する。CおよびMnは、鋼材の焼入れ性に及ぼす影響が大きく、本発明では最も重要な元素である。Cは僅かな添加量でも著しく鋼材の焼入れ性を高める元素であり、C量が比較的多く、かつMn量が比較的少ない場合は、Cが鋼材の焼入れ性を決定することがある。
この場合には、Cの拡散速度が非常に速いことから、冷却速度の影響を強く受け、H形鋼の表層が硬質になり、厚み方向の中心部が軟質になる可能性がある。すなわち、本発明の極厚H形鋼は、フランジの厚みが80mm以上であるため、強度が部位によって変動しやすい。したがって、本発明の極厚H形鋼では、焼入れ性がC添加量によって大きく変動しないように、換言すれば、拡散速度の遅いMnが焼入れ性を決定するように、Mn量をC量に対して制御することが必要である。
そこで、本発明らは、CとMnの含有量の比(C/Mn)が、極厚H形鋼のフランジの特性に影響を及ぼす重要な因子であると考え、検討を行った。その結果、C/Mnが大きすぎると、極厚H形鋼のフランジの強度を均質にすることが難しく、厚み方向の中心部の強度が低下することがわかった。一方、C/Mnが小さすぎると、焼入れ性が不足し、強度が低下することがわかった。
具体的には、C、Si、Mn、Al、Ti、N、B、Ni、Cu、P、S、Oの含有量、更に、必要に応じて添加するMo、W、Nb、V、Zr、Ca、Mgの含有量を上記(1)〜(4)の範囲内に調整し、CとMnの値を種々に変化させ、板厚80mm以上の鋼材を試作し、厚み方向の中心部の強度を測定した。
図2はその一例を示すもので、含有される成分が、0.15%Si、0.031%Al、0.012%Ti、0.003%N、0.0014%B、0.13%Moである、130mm厚みの鋼材の結果である。図2では、CとMnの含有比で、130mm厚みの鋼材の厚み方向の中央部の強度を整理している。
図中に示した曲線の概略の推定値から、C/Mnの最適値を0.002〜0.015と決定した。なお、C、Si、Mn、Al、Ti、N、B、Ni、Cu、P、S、Oの含有量、更に、必要に応じて添加するMo、W、Nb、V、Zr、Ca、Mgの含有量を上記(1)〜(4)の範囲内に調整した、図2以外の試作鋼材においても、ほぼと同様の数値が得られることを確認している。更に検討を進め、本発明者らは、C/Mnの値が0.002〜0.015であれば、厚みが80mm以上であるフランジの中央部の強度が550MPa以上という、高強度の極厚H形鋼が得られることを実験的に確認した。
(y)TiとNの含有量の積(Ti×N)
次に、TiとNの含有量の積(Ti×N)について説明する。Tiは、Nを固定して窒化物を形成する元素であり、本発明では、Bが窒化物として析出しないようにTiの添加量を制御する。すなわち、Tiは、Bによる焼入れ効果を確保して、強度を向上させる重要な元素である。また、微細なTiNの析出は、熱間圧延中の結晶粒の粗大化を抑制し、組織の細粒化を促すため、靱性の向上に寄与する。一方、TiNが粗大化すると、靭性が著しく低下する。
したがって、本発明では、Tiによって、効果的にNを固定し、かつ、粗大なTiNの生成を抑制するために、Tiの含有量をNの含有量に応じて制御することが必要である。Tiの窒化物の析出を制御するためには、溶解度積の観点から、TiとNの含有量の積(Ti×N)を制限することが合理的である。以上のことから、本発明では、TiNの粗大化抑制による靭性向上の効果の評価指標として重要である(Ti×N)の上限を制限する。特に、製鋼工程において、大気から溶鋼中へのNの侵入は避けられないため、(Ti×N)の制御は極めて有効である。
図3に、一例として、含有する成分が、0.020%C、0.31%Si、2.4%Mn、0.018%Nb、0.031%Al、0.0010%B、0.05%Mo、0.04%Vであり、厚みが140mmである鋼材のデータを示す。図3は、TiとNの含有量を種々に変化させて、実生産工程によって試作した、フランジの厚みが140mmであるH形鋼の、(Ti×N)とフランジの厚み中心部における靭性との関係を示す図である。図3より、(Ti×N)が1.0×10−4を超えると、靱性値が本発明の目標値である27Jに届かないことが判る。これは、粗大化したTiNが破壊発生の起点として作用し、靱性が低下する事に起因している。すなわち、(Ti×N)の上限値である1.0×10−4は、靱性の管理指標としても有効であり、本発明の効果を確認する重要なパラメータである。
同様の検討を、C、Si、Mn、Al、Ti、N、B、Ni、Cu、P、S、Oの含有量、更に、必要に応じて添加するMo、W、Nb、V、Zr、Ca、Mgの含有量を上記(1)〜(4)の範囲内に調整した、図3以外の試作鋼材において行い、パラメータ(Ti×N)の上限を1.0×10−4以下と決定した。更に検討を進め、本発明者らは、(Ti×N)の上限を1.0×10−4以下とすれば、厚みが80mm以上であるフランジの中央部の靱性値が、シャルピー吸収エネルギーで27J以上という、高靱性の極厚H形鋼が得られることを実験的に確認した。
本発明の鋼は、冷却速度が遅くなる厚み方向の中央部における強度低下を抑制するため炭素を低減し、焼入れ性を確保するため、MnとBを積極的に活用している。さらに、Nを固定するためにTiを添加する。また、Ni、Cuを制限しているものの、必要に応じて、焼入れ性を高めるMo、Wや、C、Nを固定するNb、V、Zrを添加する。
このような本発明の合金設計では、冷却速度が遅くなると残留オーステナイト(残留γ)が生成しやすくなる。本発明者らは実験を重ねた結果、残留γの存在によって、靱性のばらつきが生じ、低値が発生することがあるという知見を得た。したがって、安定して靱性を確保するためには、残留γの生成を抑制することが好ましい。残留γが、靭性のばらつきに及ぼす影響については、以下のように考えている。
組織中に存在する残留γが不安定である場合、衝撃が鋼材に加わった際、加工誘起変態によって、いわゆる加工誘起マルテンサイト組織を生成することがある。すなわち、不安定な残留γは、局部的な内部応力の上昇に起因して、硬質な加工誘起マルテンサイトに変態し、割れの起点となることがある。したがって、靭性のばらつきを抑制するには、残留γの生成を防止することが好ましい。
フランジの厚みが80mm以上になると、冷却速度を大きくすることが困難であり、残留γが生成しやすくなる。したがって、安定して極厚H形鋼の靭性を確保するには、冷却速度が低下しても残留γの生成が抑制されるように、成分組成を適正に制御することが好ましい。本発明者らは、C、Si、Mn、Mo、W、Bに着目して、これらの含有量と残留γ量との関係について検討を行った。残留γ量(体積率)は、広角X線回折による、鋼中のBCC鉄のピーク高さとFCC鉄のピーク高さを比較し、一般的に実用化されている検量線を用いて、定量化して測定した。
その結果、(式1)により、鋼中の残留γの体積率を推定できることがわかった。(式1)によって求められる予測残留オーステナイト体積率γm[%]は、本発明のH形鋼において、実際にX線回折のピーク高さ判定法に極めて近い値であることを、別途確認しており、その精度は残留γ測定値の絶対値で±0.1(%)以内であった。
γm[%]=C+2Si+0.5Mn+(Mo+W)+100B・・・(式1)
ここで、C、Si、Mn、Mo、W、Bは、各元素の含有量[質量%]である。
本発明者らは、C、Si、Mn、Al、Ti、N、B、Ni、Cu、P、S、Oの含有量、更に、必要に応じて添加するMo、W、Nb、V、Zr、Ca、Mgの含有量を上記(1)〜(4)の範囲内に調整した鋼材を、実験室で溶解、鋳造、熱間圧延して140mm厚みの鋼板を試作した。得られた鋼板の板厚の中央部から試験片を採取し、0℃でシャルピー吸収エネルギーを測定した。図4に、厚み方向の中心における、0℃のシャルピー吸収エネルギーと予測残留オーステナイト体積率γm[%]との関係を示す。なお、0℃でのシャルピー吸収エネルギーは、一般的な建築用鋼材に要求される27Jを評価基準とした。
図4に示したように、予測残留オーステナイト体積率γm[%]を2.5%以下にすれば、確実に、0℃のシャルピー吸収エネルギーが27Jを上回る。更に検討を進め、本発明者らは、予測残留オーステナイト体積率γr[%]を2.5%以下とすれば、厚みが80mm以上であるフランジの中央部の、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーが確実に27J以上となる、高靭性の極厚H形鋼が得られることを実験によって確認した。
すなわち、(式1)から求められる予測残留オーステナイト体積率γm[%]によって、フランジの厚みが80mm以上である極厚H形鋼の、フランジの厚み方向の中心部の靱性の安定性を評価することが可能であり、良好な靭性を確実に得るため、上限値を2.5%以下にすることが好ましい。
次に、化学成分を限定する理由について説明する。なお、%は、質量%を意味する。
C:Cは鋼材の焼入性の向上に寄与し、同時に、炭化物や炭窒化物を形成して鋼材の強度の向上に寄与する。この効果を得るには、0.005%以上のCを添加することが必要である。一方、0.05%を超えるCを添加すると、特に、フランジの厚み方向の中央部において、粗大な炭化物や炭窒化物が粒界に析出し、靱性が低下するため、上限を0.05%とする。加工性及び組織安定性を考慮すれば、C量は、0.01〜0.03%が好ましい。
Mn:Mnは、鋼の焼入れ性を向上させ、強度及び靭性の向上に寄与する元素である。厚みが80mm以上のフランジを有する本発明のH形鋼では、特に、Mnは重要な元素であり、焼入れ性の向上により厚み方向の中央部の強度の上昇に寄与する。本発明では、高価なCu、Ni、Mo、Wを多量に添加することなく、焼入れ性を確保するため、2.2%超のMnを添加する。なお、2.2%を超えてMnを添加すると、中心偏析部位においてMnSを多量に生成し、靱性を損なう場合があるため、連続鋳造の凝固時に軽圧下を加えることが好ましい。さらに、3.0%を超えてMnを添加すると、中心偏析の解消が困難になり、中心偏析部位において靱性を低下させる残留γを多量に生成し、靱性を損なう場合があるため、上限を3.0%とする。靱性を重視する場合、Mn量の上限は2.8%以下が好ましい。
Ti:Tiは窒化物を生成してNを固定する重要な元素であり、本発明では、Tiの添加によってBNの析出を抑制し、Bを粒界に偏析させて、焼入れ性向上の効果を有効に発現させる。0.007%以上のTiを添加することにより、鋼中のNを有効に固定できるようになる。また、TiはNと結合して微細なTiNを析出し、熱間圧延時の結晶粒成長を抑制し、結晶粒を微細化して靭性の向上にも寄与するため、0.010%以上の添加が好ましい。一方、0.025%を超えてTiを添加すると、粗大なTiCまたはTiNが析出して靱性を低下させる場合があることから、上限を0.025%以下に限定した。靱性を重視する場合、Ti量の上限は0.020%以下が好ましい。
N:Nは、不純物であり、BNを析出して粒界に偏析するB量を減少させ、Bによる焼入れ性向上効果を低減する場合がある。そのため、Nの含有量の上限を0.005%以下とする。また、粗大なTiNが生成すると靭性を損なうため、N量の上限は0.004%以下が好ましい。一方、微細なTiNが析出すると、熱間圧延中の粒成長が抑制され、靭性の向上に寄与するため、Nの含有量の下限を0.001%以上とする。
B:Bは、BNや炭硼化物の生成を防止して粒界に非平衡偏析させると、粒界からの変態に伴う粒成長を効果的に抑制する。このため僅かなBの添加で、鋼材の焼入れ性を著しく高めることが可能であり、本発明では、0.0003%以上のBを添加する。一方、0.0025%を超えてBを添加すると、M23(C,B)型炭硼化物を析出して靱性を低下させる場合があることから、上限を0.0025%以下に限定した。靱性のばらつきを抑制するためには、B量の上限を0.0020%以下に限定することが好ましい。
Si:Siは、製鋼工程で脱酸剤として添加するが、固溶強化によって鋼の強度向上にも寄与する元素である。Si量が少ない場合は、Tiの酸化物が生成し、Nの固定が不十分になって、Bの添加による焼入れ性の向上効果が不十分になることがあるため、本発明では、Si量の下限を0.01%以上とする。また、Siの添加によって強度を高める場合は、0.05%以上を添加することが好ましい。一方、0.50%を超えてSiを添加すると、酸化物クラスターを生成して靭性が低下するため、上限を0.50%以下とする。靱性への影響を重視する場合には、Si量の上限は0.10%以下が好ましい。
Al:Alは脱酸元素であり、本発明では、Nを固定するTiや、硫化物の形態を制御するCa、Mgが酸化物を生成しないように、Alを添加し、溶鋼の酸素濃度を低減する。Tiや、Ca、Mgなどの酸化物の生成を抑制するには、Al量を0.005%以上にすることが必要である。一方、0.1%を超えてAlを添加するとAl酸化物のクラスターが生成する場合があることから、上限を0.1%以下に制限した。クラスター生成による靱性低下を抑制するには、Al量の上限を0.08%以下とすることが好ましい。
Ni,Cu:NiおよびCuは何れもγ相安定化元素である。Ni、Cuを添加すると、鋼材のAr点が低下し、圧延後の冷却時における変態開始温度が低下し、焼入れ性が向上する。効果を得るために、Ni、Cuを添加してもよいが、本発明では、高価なNi、Cuの含有量を制限するためにMn量を高めていることから無添加でもよいが、原料から不可避的に混入する場合があり、それぞれの含有量を0.1%未満に制限する。
P、S、O:P及びS、さらにOは不可避的に鋼中に含有される不純物元素であり、靭性を低下させるため、含有量を制限する。本発明では、Pを0.02%以下、Sを0.01%以下、Oを0.01%以下とする。
以上の基本化学組成に加えて、本発明では、焼入れ性を高めるMo、W、析出強化に寄与するNb、Zr、V、硫化物の形態制御に有効なCa及びMgを、必要に応じて添加する。
Mo:Moは、鋼の焼入れ性を高める元素であり、特にBと同時に添加することでその効果がさらに高められる。Moの効果は、0.01%以上の添加で顕著となる。一方、0.2%を超えてMoを添加すると、残留γを生成して、靱性が劣化する場合があるため、Mo量の上限は0.2%以下が好ましい。また、Moは高価な元素でもあるため、より好ましい上限は0.15%以下である。
W:Wは、Moに比べると効果が小さいものの、鋼の焼入れ性を高める元素である。また、Wは、Bの析出を抑制する元素でもあり、Bと同時に添加することでその効果がさらに高められる。Wの効果は、0.1%以上の添加で顕著となる。一方、0.5%を超えてWを添加すると、残留γを生成して、靱性が劣化する場合があるため、W量の上限は0.5%以下が好ましい。また、Wは高価な元素でもあるため、より好ましい上限は0.4%以下である。
Nb:Nbは炭化物を生成する元素であり、析出強化に寄与する。さらに、Nbの添加によるCの固定は、炭硼化物の析出の抑制にも有効であり、Bを粒界に偏析させて焼入れ性向上の効果を有効に発現させる。効果を得るには、0.005%以上のNbの添加が好ましい。一方、0.025%を超えてNbを添加すると、粗大なNbCが析出し、靱性を低下させるため、上限は0.025%以下が好ましい。さらに好ましい上限は、0.02%以下である。
Zr:Zrは炭化物、窒化物を生成する元素であり、析出強化に寄与する。さらに、Zrは、NbよりもC、Nとの親和力が強く、炭硼化物やBNの析出の抑制にも有効であり、Bを粒界に偏析させて焼入れ性向上の効果を有効に発現させる。効果を得るには、0.002%以上のZrの添加が好ましい。一方、0.02%を超えてZrを添加すると、ZrNやZrCが粗大になり、靱性を低下させるため、上限は0.02%以下が好ましい。また、Zrは酸化物を生成しやすい元素でもあるため、酸化物に起因する靭性の低下を防止するため、さらに好ましい上限は0.015%以下である。
V:Vは、主に炭化物として析出し、強度向上に寄与する元素である。効果を得るには、0.01%以上のVの添加が好ましい。一方、0.1%を超えてVを添加すると、粗大なV炭化物が析出し、鋼材の靱性が劣化する場合があるため、V量の上限は0.1%以下が好ましい。靱性を重視する場合には、V量の上限を0.08%以下にすることがさらに好ましい。
CaおよびMg:CaおよびMgは、硫化物を生成する元素である。本発明では、粗大な硫化物、具体的には、MnSの偏析部への析出を防止するため、Ca、Mgの一方または両方を添加してもよい。効果を得るには、Ca、Mgの含有量は、それぞれ、0.0005%以上が好ましい。また、CaおよびMgの添加量が0.004%を超えると、酸化物がクラスターを生成して靱性が劣化することがある。そのため、CaおよびMgの添加量の上限は、0.004%以下が好ましい。O濃度を0.002%以下とした場合は、Ca、Mgの酸化を防止することができるため、それぞれ、0.003%以下を添加することにより、硫化物の形態を制御することができる。
次に、本発明のH形鋼の組織について説明する。
強度を高め、靭性を確保するには、組織をフェライト単相、またはフェライト−パーライト組織とせず、ベイナイトを生成させることが好ましい。本発明のH形鋼の組織は、ベイナイトを主体とするが、焼入れ性が低い成分組成であると、旧オーステナイトの粒界の一部にフェライトが生成することがある。これは、旧オーステイト粒界(旧γ粒界)への、フェライト安定化元素(Si、Mo、W、V、Nb、Ti等)の偏析に起因する。すなわち、フェライト安定化元素が偏析した旧γ粒界から、熱間圧延後の冷却中に、Cの拡散を駆動力とするフェライト変態が部分的に生じる。
このような旧γ粒界に生成したフェライトを、組織の形態による分類では、フェライトサイドプレートという。フェライトはベイナイトに比べて強度も低いので、フェライトが多く生成すれば鋼材の強度も低下する。また、オーステナイトの粒界に核生成したフェライトが粒内に向かって粒成長し、フェライト変態が進行する場合、フェライトからオーステナイトへ炭素が排出される。そのため、フェライトの成長界面のオーステナイト側には炭素が濃縮する。冷却が進み、オーステナイトがベイナイトに変態すると、フェライトとベイナイトとの境界に濃縮した炭素は、炭化物として析出するため、鋼材の靱性も低下することがある。
したがって、強度および靱性を低下させるフェライトサイドプレートの発達は少ないほど好ましい。そこで、本発明者らは、成分や製造条件が異なる26ヒートのH形鋼を試作し、フランジの厚み中央部の組織を観察し、引張強さを測定した。なお、試作材の成分は、C、Si、Mn、Al、Ti、N、B、Ni、Cu、P、S、Oの含有量、更に、必要に応じて添加するMo、W、Nb、V、Zr、Ca、Mgの含有量を上記(1)〜(4)の範囲内に調整した。
組織観察は、採取した試料を腐食(腐食液はナイタール、ピクリン酸、硝酸等)し、100倍の光学顕微鏡によって行った。光学顕微鏡による観察では、ベイナイトは内部にパケット、ブロック等の大角粒界構造を内包し、フェライトは内部に粒界構造などがなく、均質な結晶組織であるため、容易に見分けることができる。光学顕微鏡組織写真を撮影し、旧γ粒界の長さ(旧γ粒界長)と、旧γ粒界上のフェライトの長さ(フェライトプレート長)を画像解析によって測定した。なお、旧γ粒界長およびフェライトプレート長は、各試料について10視野以上観察して測定を行い、それぞれの総和を求めた。フェライトプレート長を旧γ粒界長で除し、得られた値に100を乗じて、旧オーステナイト粒界に占めるフェライトの割合(%)を算出した。
旧オーステナイト粒界に占めるフェライトの割合(%)に対して、引張強さをプロットすると、図5のようになる。図5に示したように、旧オーステナイト粒界に占めるフェライトの割合(%)が20%以下であれば、550MPa以上の強度を得ることできる。
本発明のH形鋼は、剛性が要求される構造部材に使用するため、フランジの厚みが80mm以上であることが好ましい。また、H形鋼のフランジの厚み方向の中心部において、550MPa以上の強度と、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーが27J以上という優れた靭性を具備することが好ましい。このような形状、機械特性を有することにより、構造材としての性能が優れ、また圧延H形鋼であるため、生産性にも優れ、価格競争力のあるH形鋼となる。
次に、本発明のH形鋼の製造方法について説明する。
本発明のH形鋼の製造には、一般的な熱間圧延法を採用する。本発明では、熱間圧延の条件を規定しないが、終了温度をAr以上とし、フェライト変態が開始する前に熱間圧延を終了することが好ましい。より好ましい熱間圧延の終了温度は950℃以上である。
また、熱間圧延の開始温度も規定はしないが、1200℃以上で熱間圧延を開始することが好ましい。これは、形状の異なる圧延ロールを連続的に通過して断面形状を成型するH形鋼の熱間圧延では、鋼板の熱間圧延に比較してロールスタンド数が多く、圧延ロールとの接触による抜熱で、温度が低下しやすいためである。また、熱間圧延の開始温度を1200℃以上にする場合は、加熱温度は抽出およびビレットのハンドリング時の温度低下を勘案すれば、1300℃以上にすることが好ましい。
さらに、圧延後、必要に応じて、Ar点以下の温度において、必要な時間の焼戻しを行ってもよい。焼戻しによって、本発明のH形鋼の強度と靱性のバランスをさらに改善し、最適化することができる。同様な熱処理を一回、または複数回適用しても、本発明のH形鋼の機械特性を劣化させることはない。
表1〜3に示す化学成分の鋼を溶製し、連続鋳造装置を用いて一片が300mmの角断面ビレットとした。得られたビレットを、所定の長さに切断した後、1350℃に再加熱し、その後、熱間圧延して、フランジ厚80mm以上のH形鋼を製造した。圧延終了温度は常に950℃以上とし、その後加速冷却することなく放冷した。一部のH形鋼にはさらに、表4〜6に示す条件で熱処理を施した。
得られたH形鋼のフランジの厚み方向の中央部から試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠して室温での引張強さを測定し、JIS Z 2242に準拠して0℃でのシャルピー吸収エネルギーを測定した。なお、引張試験片の長手方向は圧延方向と平行とし、シャルピー試験片(2Vノッチ)の長手方向は圧延方向および厚み方向に垂直な方向とした。なお、引張試験の繰り返し数は2として、その平均値を採用し、シャルピー試験の繰り返し数は3とし、最低値を採用した。また、フランジの厚み方向の中央部の組織を光学顕微鏡で観察し、ベイナイトの面積率を測定した。さらに、残留オーステナイトの体積率をX線回折法で測定し、予測残留γ体積率γm[%]と、ほぼ同等であることを確認した。ただし、Mn量が過剰であると、中心偏析部で測定した残留オーステナイトの体積率は、予測残留γ体積率γm[%]よりも多くなった。
結果を表4(表1のつづき)、表5(表2のつづき)および表6(表3のつづき)に示す。表1および2に示した鋼No.1〜17、19〜41は本発明例であり、化学成分、(C/Mn)、(Ti×N)、予測残留オーステナイト体積率γmが本発明の範囲内である。これらは、表4(表1のつづき)および表5(表2のつづき)に示したように、フランジの厚み中心部の引張強さおよび靱性(0℃におけるシャルピー吸収エネルギー)が、それぞれ、550MPa以上および27J以上となり、ともに必要とされる性能を具備していることがわかる。一方、表3および表6(表3のつづき)に示した鋼No.51〜78は比較例であり、比較例51〜78は、以下に説明するように、強度、靭性の一方または両方が不十分である。
比較例51は、C量が少なく、焼入れ性が不十分であり、旧γ粒界に占めるフェライトの割合が20%を超え、強度および靭性が低下した例である。一方、比較例52は、C量が多いため強度が高くなり、粒界に析出したセメンタイトに起因して、靱性が低下した例である。また、比較例53は、Si量が少なく、Tiが酸化物となり、BNが生成したため、焼入れ性が不十分になり、強度が不足し、析出物に起因して靱性が低下した例である。一方、比較例54は、Si量が多く、酸化物のクラスターを生成し、さらに残留γも増加し、靱性が低下した例である。
比較例55はMn量が少なく、強度が低下した例であり、比較例56はMnが過剰であるため、中心偏析部に生成した残留オーステナイトに起因して、靱性が低下した例である。比較例57および58は、それぞれ、不純物元素であるPおよびSの含有量が多く、靱性が低下した例である。比較例59は、Ti量が少なく、Bを有効に活用できず、強度が低下した例であり、一方、比較例60は、Ti量が過剰な例であり、粗大なTiNやTiCが析出し、靱性が低下している。
比較例61はAl量が少なく、Tiの酸化物が生成し、Bによる焼入れ性の向上効果が不十分になり、強度が不足した例である。一方、比較例62はAl量が多く、酸化物のクラスターが生成し、靱性が低下した例である。また、比較例63はN量が少なく、TiNによる粒成長の抑制が不十分であり、組織が粗大になり、靱性が不足した例である。一方、比較例64はN量が多く、粗大な窒化物が生成して靱性が低下し、BNの析出に起因して焼入れ性が不足し、強度も低下した例である。比較例65はB量が少なく、焼入れ性が不足して強度が低下した例である。一方、比較例66はB量が過剰であり、粗大なB化合物(BNおよびM23(CB))が粒界上に析出し、靱性が低下した例である。
比較例67〜73は、選択的に添加するMo、W、Nb、V、Zr、Ca、Mgを過剰に添加した例である。比較例67〜70は、それぞれ、Mo、W、Nb、V、Zrの含有量が多く、粗大な炭化物や窒化物が生成し、靱性が低下した例である。また、比較例72および73は、それぞれ、Ca量およびMg量が多く、酸化物のクラスターが生成して靱性が低下した例である。
比較例74はO量が多く、酸化物のクラスターによって靱性が低下し、TiによるNの固定が不十分になって、Bの焼入れ性向上効果を発揮できず、強度も低下した例である。比較例75〜78はいずれも本発明の組成の範囲内であるが、比較例75は、(C/Mn)が小さく、焼入れ性が不足し、旧γ粒界に占めるフェライトの割合が高くなり、強度が低下し、同時にフェライトが粗大に成長し、靱性も低下した例である。一方、比較例76は(C/Mn)が大きく、Cの拡散変態が焼入れ性を支配し、旧γ粒界に占めるフェライトの割合が高くなり、強度が低下した例である。比較例77は(Ti×N)が大きく、靭性が低下した例である。
表3および表6(表3のつづき)に示した鋼No.78は、(C/Mn)が大きく、旧γ粒界に占めるフェライトの割合が高くなり、強度が低下している。さら に、比較例78は、予測残留γ体積率が2.5%を超え、シャルピー試験の繰り返し数3のうち、1つのみが低値を示し、靭性のばらつきが大きい。このことか ら、靭性のばらつきを抑制するためには、予測残留γ体積率を2.5%以下にすることが好ましい。
Figure 0005471524
Figure 0005471524
Figure 0005471524
Figure 0005471524
Figure 0005471524
Figure 0005471524
1 フランジ
2 フランジの厚み
3 フランジの厚み方向の中心部

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.005〜0.05%、
    Si:0.01〜0.50%、
    Mn:2.20%超、3.0%以下、
    Ti:0.007〜0.025%、
    Al:0.005〜0.1%、
    N:0.001〜0.005%、
    B:0.0003〜0.0025%
    を含有し、
    Ni:0.1%未満、
    Cu:0.1%未満、
    P:0.02%以下、
    S:0.008%以下、
    O:0.01%以下
    に制限し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、CとMnの含有量の比(C/Mn)が0.002〜0.015であり、TiとNの含有量の積(Ti×N)が1×10−4以下であり、フランジの厚み方向の中央部における、旧オーステナイト粒界を占めるフェライトの割合が20%以下であり、フランジの厚みが80mm以上であり、フランジの厚み方向の中央部における引張強度が550MPa以上であり、かつ、0℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーが27J以上であることを特徴とする靭性に優れた極厚高強度H形鋼。
  2. 更に、質量%で、
    Mo:0.2%以下、
    W:0.5%以下
    の一方または両方を含有することを特徴とする請求項1に記載の靱性に優れた極厚高強度H形鋼。
  3. 下記(式1)によって求められる予測残留オーステナイト体積率γm[%]が2.5%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の靭性に優れた極厚高強度H形鋼。
    γm=C+2Si+0.5Mn+(Mo+W)+100B ・・・ (式1)
    ここで、C、Si、Mn、Mo、W、Bは各元素の含有量[質量%]である。
  4. 更に、質量%で、
    Nb:0.025%以下、
    V:0.1%以下、
    Zr:0.02%以下
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の靱性に優れた極厚高強度H形鋼。
  5. 更に、質量%で、
    Ca:0.004%以下、
    Mg:0.004%以下
    の一方または両方を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の靱性に優れた極厚高強度H形鋼。
  6. フランジの厚み方向の中央部における金属組織がベイナイトと、旧オーステナイト粒界を占める割合が20%以下のフェライトとからなることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の靱性に優れた極厚高強度H形鋼。
JP2010019376A 2010-01-29 2010-01-29 靱性に優れた高強度極厚h形鋼およびその製造方法 Active JP5471524B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2010019376A JP5471524B2 (ja) 2010-01-29 2010-01-29 靱性に優れた高強度極厚h形鋼およびその製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2010019376A JP5471524B2 (ja) 2010-01-29 2010-01-29 靱性に優れた高強度極厚h形鋼およびその製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2011157582A JP2011157582A (ja) 2011-08-18
JP5471524B2 true JP5471524B2 (ja) 2014-04-16

Family

ID=44589783

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2010019376A Active JP5471524B2 (ja) 2010-01-29 2010-01-29 靱性に優れた高強度極厚h形鋼およびその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5471524B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN111996445B (zh) * 2020-07-29 2021-09-07 河北津西钢铁集团股份有限公司 一种低碳热轧h型钢及其制备方法

Family Cites Families (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH1072620A (ja) * 1996-06-28 1998-03-17 Kawasaki Steel Corp 材質ばらつきが少なくかつ溶接性に優れるh形鋼の製造方法
JP4028815B2 (ja) * 2003-04-25 2007-12-26 新日本製鐵株式会社 高温強度に優れた780MPa級高張力鋼ならびにその製造方法
JP4264296B2 (ja) * 2003-05-14 2009-05-13 新日本製鐵株式会社 溶接部靭性、条切り特性に優れた低降伏比570MPa級高張力鋼及びその製造方法
JP4706477B2 (ja) * 2003-06-19 2011-06-22 住友金属工業株式会社 耐疲労亀裂進展特性に優れた鋼材とその製造方法
JP4506985B2 (ja) * 2006-04-06 2010-07-21 住友金属工業株式会社 極厚鋼材及びその製造方法
JP5079794B2 (ja) * 2007-04-11 2012-11-21 新日本製鐵株式会社 高温強度、靭性に優れた鋼材並びにその製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2011157582A (ja) 2011-08-18

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6677310B2 (ja) 鋼材及び油井用鋼管
JP6225997B2 (ja) H形鋼及びその製造方法
EP3135787B1 (en) Steel plate and method of producing same
US9932651B2 (en) Thick-walled high-strength seamless steel pipe with excellent sour resistance for pipe for pipeline, and process for producing same
JP5041084B2 (ja) 加工性に優れた高張力熱延鋼板およびその製造方法
JP6468408B2 (ja) H形鋼及びその製造方法
JP5037744B2 (ja) 高強度鋼板及びその製造方法
WO2013089156A1 (ja) 低温靭性に優れた高強度h形鋼及びその製造方法
CA2851325A1 (en) High-strength hot rolled steel sheet with excellent bendability and low-temperature toughness, and method for manufacturing the same
JP5884201B2 (ja) 引張強さ540MPa以上の高強度ラインパイプ用熱延鋼板
JP5834534B2 (ja) 高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼、その製造方法、および高強度低降伏比溶接鋼管
WO2014109401A1 (ja) 冷間加工性と加工後の表面硬さに優れる熱延鋼板
JP6344191B2 (ja) 靭性に優れた高強度極厚h形鋼及びその製造方法
WO2013089089A1 (ja) 高強度極厚h形鋼
JP2021507091A (ja) 少なくとも100mmの厚さを有する鋼セクション及びその製造方法
WO2014141919A1 (ja) 絞り加工性と加工後の表面硬さに優れる熱延鋼板
JP5471523B2 (ja) 靱性に優れた高強度極厚h形鋼およびその製造方法
JP2008088547A (ja) 高温強度、靭性及び耐再熱脆化特性に優れた耐火鋼材並びにその製造方法
JP6103160B1 (ja) 高強度薄鋼板およびその製造方法
JP6679935B2 (ja) 冷間加工部品用鋼
JP2021063253A (ja) 高強度熱延鋼板及びその製造方法
JP4506985B2 (ja) 極厚鋼材及びその製造方法
JP2006063442A (ja) 耐火性に優れたh形鋼およびその製造方法
JP5471524B2 (ja) 靱性に優れた高強度極厚h形鋼およびその製造方法
JP6295632B2 (ja) 靭性に優れた高強度h形鋼

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20120209

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20130816

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20130910

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20131028

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20140107

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20140120

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 5471524

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151

S533 Written request for registration of change of name

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350