JP5469881B2 - 糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法、並びにこれらに用いられる酵素糖化用原料の製造方法 - Google Patents

糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法、並びにこれらに用いられる酵素糖化用原料の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、バイオマス原料を利用した、糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法、並びに、前記糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法に用いられる、酵素糖化用原料の製造方法に関する。
近年、地球温暖化対策の一環として、木質バイオマスや草本バイオマス等のセルロースを含む原料からエタノールを製造し、各種燃料や化学原料として利用しようとする試みが広く行われている。バイオマス原料からのエタノールの製造は、例えば、収集したバイオマス原料を、糖化工程において糖に分解した後、発酵工程において酵母等の微生物を用いてエタノールに変換することにより行うことができる。
一方、環境負荷低減の観点から、生分解性ポリマーの利用が増加しており、その原料のひとつとして乳酸が使用されている。この乳酸も、前記のバイオマス原料を糖化し、さらにこれを発酵することにより得ることができる。
前記糖化は、従来より、濃硫酸を用いて行われることが多かったが、環境負荷低減の観点から、硫酸の使用量を少なくすることが望まれている。そこで、近年は、濃硫酸による糖化に代わる手段として、酵素を用いたバイオマス原料の糖化が広く研究されている。酵素による糖化は、環境に対する影響の観点から望ましい手段であるが、この酵素糖化のためには、酵素を作用させ易くする目的から、予めバイオマス原料に対して前処理を行うことが必要となる。このバイオマス原料の前処理方法として様々な方法が知られているが、中でも、希硫酸、加圧熱水等による蒸煮処理などが一般的である(例えば、下記特許文献1〜4参照。)。しかしながら、前記したように硫酸の使用が好ましくないこと、及びバイオマス原料にこれらの前処理を行い、得られた処理物を酵素糖化に供する場合では、所望の程度の酵素糖化効率を得るためには該前処理を多段で行う必要があったり、200℃以上の高温にしなければならない等の問題がある。
また、バイオマス原料を物理的手段により微細に粉砕することにより、化学的、生物化学的反応性が向上することが知られているが、粉砕のみにより充分な酵素糖化効率を得ようとすると、粉砕工程に多大なエネルギーを要し、経済合理性を失うおそれがある。
さらに、バイオマス原料をアンモニアあるいは有機アミンを用いて前処理することにより、その化学的、生物化学的反応性が向上することが知られている(例えば、下記特許文献5参照。)。しかし、前記前処理されたバイオマスであっても、その酵素糖化効率は未だ充分とはいえない。したがって、より酵素糖化効率を高めることのできる酵素糖化技術の開発、及び、前記酵素糖化に適したバイオマス原料の前処理技術の開発が、未だ望まれているのが現状である。
特開2006−075007号公報 特開2004−121055号公報 特表2002−541355号公報 特開2002−159954号公報 欧州特許公開第77287号公報
本発明は、前記従来技術における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、酵素糖化を効率的に行うことができ、そのため、糖の生産効率、エタノールの生産効率、及び乳酸の生産効率を向上させることが可能な、糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法、並びに、前記糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法に用いられる、有用な酵素糖化用原料の製造方法を提供することを目的とする。
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、天然型セルロースであるセルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理することにより得られる改質バイオマス原料を、更に粉砕した後に、酵素糖化に供することにより、酵素糖化を効率的に行うことができ、したがって、糖の生産効率、エタノールの生産効率、及び乳酸の生産効率を格段に向上させることができるという知見である。
なお、本発明者らは以前に、天然型セルロースであるセルロースI型よりも低い結晶密度を有するセルロース(例えばセルロースIII型)を酵素糖化の対象物として用いることにより、酵素糖化を効率的に行うことができること、及び、セルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア、特に超臨界アンモニアで処理することにより、セルロースIII型を含む酵素糖化用セルロースを効率的に得ることができることを特許出願している(特開2008−161125号公報参照。)。
バイオマス原料を、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理した後に、更に粉砕して酵素糖化に供することにより、バイオマス原料の酵素糖化効率を格段に向上させることができることは、従来知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> (a)セルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理することにより、改質バイオマス原料を得る工程、
(b)前記改質バイオマス原料を粉砕することにより、酵素糖化用原料を得る工程、及び、
(c)前記酵素糖化用原料を、酵素糖化せしめ、糖を得る工程、
を含むことを特徴とする糖の製造方法である。
<2> 工程(a)において用いる処理剤が、アンモニアであることを特徴とする前記<1>に記載の糖の製造方法である。
<3> セルロースI型を含むバイオマス原料が、木質バイオマスであることを特徴とする前記<1>又は<2>に記載の糖の製造方法である。
<4> 工程(b)において得られる酵素糖化用原料のメジアン径で表される平均粒径が、5〜80μmであることを特徴とする、前記<1>〜<3>のいずれか一項に記載の糖の製造方法である。
<5> 前記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、エタノールを得ることを特徴とするエタノールの製造方法である。
<6> 前記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、乳酸を得ることを特徴とする乳酸の製造方法である。
<7> (a)セルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理することにより、改質バイオマス原料を得る工程、及び、
(b)前記改質バイオマス原料を、粉砕することにより、酵素糖化用原料を得る工程、
を含むことを特徴とする酵素糖化用原料の製造方法である。
本発明によると、前記目的を達成し、従来における諸問題を解決することができ、酵素糖化を効率的に行うことができ、そのため、糖の生産効率、エタノールの生産効率、及び乳酸の生産効率を向上させることが可能な、糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法、並びに、前記糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法に用いられる、有用な酵素糖化用原料の製造方法を提供することができる。
図1は、粗粉砕したユーカリのX線回折図である。 図2は、粗粉砕したユーカリを粉砕した試料のX線回折図である。 図3は、粗粉砕したユーカリをアンモニア処理した試料のX線回折図である。 図4は、粗粉砕したユーカリを粉砕し、さらにアンモニア処理した試料のX線回折図である。 図5は、粗粉砕したユーカリをアンモニア処理し、さらに粉砕処理した試料のX線回折図である。 図6は、粗粉砕したエゾノキヌヤナギのX線回折図である。 図7は、粗粉砕したエゾノキヌヤナギを粉砕した試料のX線回折図である。 図8は、粗粉砕したエゾノキヌヤナギをアンモニア処理した試料のX線回折図である。 図9は、粗粉砕したエゾノキヌヤナギを粉砕し、さらにアンモニア処理した試料のX線回折図である。 図10は、粗粉砕したエゾノキヌヤナギをアンモニア処理し、さらに粉砕処理した試料のX線回折図である。 図11は、粗粉砕したスギのX線回折図である。 図12は、粗粉砕したスギを粉砕した試料のX線回折図である。 図13は、粗粉砕したスギをアンモニア処理した試料のX線回折図である。 図14は、粗粉砕したスギを粉砕し、さらにアンモニア処理した試料のX線回折図である。 図15は、粗粉砕したスギをアンモニア処理し、さらに粉砕処理した試料のX線回折図である。
(糖の製造方法)
本発明の糖の製造方法は、(a)セルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理することにより、改質バイオマス原料を得る工程、(b)前記改質バイオマス原料を粉砕することにより、酵素糖化用原料を得る工程、及び、(c)前記酵素糖化用原料を、酵素糖化せしめ、糖を得る工程、を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
<工程(a)>
前記工程(a)では、セルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理することにより、改質バイオマス原料を得る。
−セルロースI型を含むバイオマス原料−
前記セルロースI型を含むバイオマス原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、農業や林業等の生産活動に伴う残渣として得られる「廃棄物系バイオマス」や、エネルギー等を得る目的で意図的に栽培して得られる「資源作物系バイオマス」などを使用することができる。前記「廃棄物系バイオマス」としては、例えば、廃建材、間伐材、稲わら、麦わら、もみ殻、バガスなどが挙げられ、また、前記「資源作物系バイオマス」としては、例えば、サトウキビ、トウモロコシ等の食物としても栽培される糖質・デンプン系作物及びセルロース類の利用を目的として栽培されるユーカリ、ポプラ、アカシア、ヤナギ、スギ、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、ミスカンサス、ススキなどが挙げられる。また、前記セルロースI型を含むバイオマス原料は、木を原料とした「木質バイオマス」、草を原料とした「草本バイオマス」などにも分類される。本発明においては、木質バイオマス及び草本バイオマス共に使用することができるが、本発明の効果がより顕著に得られるとの観点から、木質バイオマスが好ましく使用される。また、前記セルロースI型を含むバイオマス原料としては、前記したような各種バイオマスから精製等することにより得られたセルロースI型そのものであってもよい。前記セルロースI型を含むバイオマス原料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、天然型セルロースであるセルロースI型は、セルロースIα型とセルロースIβ型とに分類されるが、前記バイオマス原料に含まれるセルロースI型としては、これらのいずれであってもよく、また、これらの両者であってもよい。
前記アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤による処理において、前記セルロースI型を含むバイオマス原料としては、収集されたものをそのまま使用してもよいが、裁断、粉砕等によりある程度以下の大きさにしてから使用することが望ましい。前記バイオマス原料の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、通過するメッシュの目開きとして5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mm以下が更に好ましい。前記メッシュの目開きの大きさが5mmを超えると、前記処理剤による処理が不十分となることがある。一方、前記大きさが、前記更に好ましい範囲内であると、処理時間が短縮できる、使用する処理剤の量を少なくできる等の点で、有利である。なお、以下、前記の収集したバイオマス原料を裁断、粉砕する工程を「粗粉砕」ということがある。
前記粗粉砕を予め行うことにより、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤による処理が効率的に進行し、また改質バイオマス原料を粉砕する際に、より微細な、酵素糖化効率に優れる微粉末状の酵素糖化用原料を効率的に得ることができる。前記粗粉砕に用いる粉砕機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウィレーミル、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル等を用いることができる。
−アンモニア及び/又は有機アミンによる処理−
前記セルロースI型を含むバイオマス原料を、処理剤としてアンモニアを用いた処理を行う場合、その方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記セルロースI型を含むバイオマス原料と、アンモニアとを、圧力容器内に導入し、前記圧力容器内を所望の圧力及び温度に設定して、所望の時間処理することにより行うことができる。前記アンモニアは液相であっても、気相であっても、また超臨界状態であってもよい。アンモニアによる処理により、バイオマス原料中のセルロースI型の少なくとも一部がより酵素糖化効率の高いセルロースIII型へと変態するが、その変態効率を向上する観点からは、液体アンモニア又は超臨界状態のアンモニアが適する。しかし、目標とする糖化率、消費エネルギー等を勘案し、それぞれに適した条件での処理を選択することができる。アンモニアによる処理の条件も限定されるものではないが、一般的に好ましい条件としては、温度が−35〜140℃、圧力が0〜12.5MPaである。
前記セルロースI型を含むバイオマスを、処理剤として有機アミンを用いた処理を行う場合、使用する有機アミンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、エチレンジアン、モノメチルアミン、モノエチルアミンなどが好ましく用いられ、エチレンジアミンが好ましい。これらの有機アミンにより前記セルロースI型を含むバイオマスを処理する場合は、特に限定されないが、処理温度、圧力は上記アンモニアによる処理と同様の条件とすることができる。
本発明においては、セルロースI型からセルロースIII型への変態の効率、処理後の処理剤の除去の容易さ等の観点から、処理剤としてはアンモニアを用いることが好ましい。
前記アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤による処理の時間としては、特に制限はなく、用いる前記セルロースI型を含むバイオマス原料の量や、前記した処理圧力、処理温度等に応じ、所望の程度のセルロースI型からセルロースIII型への変態が進行する範囲内で適宜選択することができるが、10分〜10時間が好ましく、30分〜8時間が更に好ましく、30分〜5時間が特に好ましい。前記処理時間が、10分未満であると、所望の程度のセルロースI型からセルロースIII型への変態が進行しないことがあり、10時間を超えると、それ以上セルロースI型からセルロースIII型への変態は進行せず、全体として非効率となることがある。一方、前記処理時間が、前記更に好ましい範囲内であると、効率よく、セルロースI型からセルロースIII型への変態を進行させることができる点で、有利である。
前記アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤による処理時の、前記アンモニア及び/又は有機アミンの使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記セルロースI型を含むバイオマス原料1gに対して、10mg〜300gが好ましく、100mg〜150gがより好ましく、1g〜50gが特に好ましい。前記アンモニア及び/又は有機アミンの使用量が、前記セルロースI型を含むバイオマス原料1gに対して、10mg未満であると、処理が不十分となることがあり、300gを超えると、処理の効率が悪くなることがある。一方、その使用量が、前記特に好ましい範囲内であると、処理時間が短縮できる、使用する処理剤の量を少なくできる等の点で、有利である。
なお、前記アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤による処理時には、少なくとも前記処理剤がアンモニア及び/又は有機アミンを含んでいれば、更にその他の化合物を組み合わせて使用してもよく、前記その他の化合物としては、例えば、二酸化炭素、窒素、エチレン、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、フェノール、ジオキサン、キシレン、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。なお、前記その他の化合物としては、水は使用しないことが好ましい。前記水を使用すると、得られたセルロースIII型が、セルロースI型に戻ってしまう場合がある。
−改質バイオマス原料−
前記アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤による処理により、改質バイオマス原料が得られる。前記処理により、前記バイオマス原料に含まれるセルロースI型の少なくとも一部を、より結晶密度の低いセルロースIII型へと変態させることができる。セルロースIII型は、その結晶密度の低さから、酵素が作用し易い点で、有利である。更に、前記処理により、前記バイオマス原料に含まれるヘミセルロースの大部分は、オリゴ糖程度にまで分解され、水に可溶となる。したがって、前記バイオマス原料を、前記処理することにより、前記バイオマス原料に含まれるセルロースI型やヘミセルロースを、それぞれセルロースIII型やヘミセルロース由来のオリゴ糖といった、より酵素が作用し易い状態へと変化させることができ、そのため、酵素糖化効率を向上させることが可能となる。なお、前記処理により、セルロースI型の少なくとも一部がセルロースIII型へと変換されたことは、例えば、X線回折、FT−IR、固体NMR等により確認することができる。なお、本願における「改質バイオマス原料」とは、セルロースI型を含むバイオマス原料をアンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤により処理したものを意味するが、バイオマス原料中に含まれるセルロースI型の少なくとも一部がセルロースIII型へと変態したものであることが好ましい。
なお、前記改質バイオマス原料において、セルロースは、その分子構造の間に、他の化合物を有していてもよい。例えば、改質バイオマス原料は、前記したように、天然型セルロースであるセルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理することにより得ることができるが、その処理工程で生成する、セルロースとアンモニア及び/又は有機アミンとの複合体(以下、「セルロース・アンモニア等複合体」と称することがある。)の状態であってもよい。しかしながら、前記セルロース・アンモニア等複合体は、酵素糖化時におけるpHの調整が困難であり、また、水の作用を受けることによりセルロースI型に戻ってしまう性質を有すること等から、酵素糖化時には、前記セルロース・アンモニア等複合体からアンモニア及び/又は有機アミンを除去した状態の、改質バイオマス原料を使用することが好ましい。
したがって、前記アンモニア及び/又は有機アミンによる処理の後には、前記セルロース・アンモニア等複合体から、アンモニア及び/又は有機アミンを除去する除去工程を設けることが好ましい。前記アンモニア及び/又は有機アミンの除去方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記アンモニア及び/又は有機アミンによる処理後、得られた前記セルロース・アンモニア等複合体を含む改質バイオマス原料を、メタノール、エタノール、アセトン等で洗浄する方法、減圧乾燥する方法、処理剤の沸点以上の温度で乾燥させる方法などが挙げられる。前記処理剤としてアンモニアを用いる場合には、その除去方法としては、有機溶媒を使用せず、安全性に優れる点で、アンモニアの沸点以上の温度(例えば、常温〜50℃)で、常圧又は減圧下に乾燥させる方法が好ましい。
なお、前記改質バイオマス原料は、セルロースIII型を含むことが好ましく、その割合に制限はないが、これが多い程、優れた酵素糖化効率が得られる点で、好ましい。また、前記改質バイオマス原料は、前記セルロースIII型以外にも、例えば、セルロースI型(セルロースIα型、セルロースIβ型)や、その他の成分、例えば、ヘミセルロース、リグニン等が含まれていてもよい。ただし、酵素糖化の効率向上の観点から、リグニンは含まれない、あるいはその含有量が小さいことが好ましい。
<工程(b)>
前記工程(b)では、前記工程(a)により得られた改質バイオマス原料を、粉砕することにより、酵素糖化用原料を得る。
−粉砕−
工程(b)において、前記工程(a)により得られた改質バイオマス原料を粉砕する。
前記改質バイオマス原料の粉砕を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平臼、遊星型ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の粉砕機を用いて行うことができる。これらの中でも、前記粉砕機としては、微細な、酵素糖化効率に優れる微粉末状の酵素糖化用原料を、比較的低エネルギーにて得ることができる点で、平臼が好ましい。前記粉砕により、前記改質バイオマス原料を、本発明の酵素糖化用原料とすることができる。前記改質バイオマス原料を、粉砕することにより、より酵素糖化効率を向上させることが可能となる。
前記粉砕を行う条件としては、特に限定されず、粉砕機の種類、バイオマス原料の種類、得ようとする粉砕物の平均粒径等によって適宜選択することができる。なお、粉砕機として平臼を用いる場合は、粉砕されたバイオマス原料が臼から排出されるため、粉砕を更に行う場合には、排出された粉砕物を回収し、再度臼に供給することとなり、さらにこれを複数回繰り返してもよい。その場合、粉砕を行う回数としては、特に制限はなく、用いる粉砕機の種類や、粉砕1回あたりの時間、負荷されるエネルギー等に応じて適宜選択することができるが、2回以上繰り返して行うことにより、より微細な、酵素糖化効率に優れる微粉末状の酵素糖化用原料を得ることができる点で、有利である。前記粉砕は、回数を重ねるごとに、より微細な、酵素糖化効率に優れる微粉末状の酵素糖化用原料を得ることができる点で有利であるが、回数を重ねすぎても、それ以上の微粉化や酵素糖化効率の向上は望めず、全体として非効率となる点で、4回以下が好ましい。
−酵素糖化用原料−
本発明の方法に係る「酵素糖化用原料」とは、前記改質バイオマス原料を、粉砕処理したものをいう。前記改質バイオマス原料を、粉砕することにより、より酵素糖化効率を向上させることが可能となる。前記粉砕により得られる前記酵素糖化用原料の粒子の大きさとしては、特に制限はなく、また使用するバイオマス原料の種類によって好ましい大きさが変化することから、一概に限定することはできないが、その平均粒径として、5〜80μmが好ましく、5〜50μmがより好ましく、5〜30μmが更に好ましい。前記酵素糖化用原料の平均粒径を、5μm未満にしようとする場合、粉砕に多大なエネルギー及び時間を要して、経済合理性を失することとなり、一方、80μmを超えると、酵素糖化効率が充分に向上しないことがある。一方、前記酵素糖化用原料の平均粒径が、前記更に好ましい範囲内であると、粉砕に要するエネルギー及び時間と酵素糖化効率のバランスの点で、有利である。なお、本願における前記酵素糖化用原料の平均粒径としては、レーザー回折錯乱法により測定して得られるメジアン径を採用する。ここでメジアン径とは、その粒径以上の粒径を有する粒子と、その粒径以下の粒径を有する粒子との累計体積が同一となる粒径をいう。
前記改質バイオマスの粉砕により得られた酵素糖化用原料は、例えば、そのまま、後述する工程(c)の酵素糖化に供してもよいし、適宜その他の工程を経た後、後述する工程(c)の酵素糖化に供してもよい。前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記粉砕により得られた微粉末状の酵素糖化用原料を、後述する酵素糖化に適切となるようなpHに調整する、pH調整工程などが挙げられる。
<工程(c)>
前記工程(c)では、前記工程(b)により得られた酵素糖化用原料を、酵素糖化させて、糖を得る。
−酵素糖化−
前記酵素糖化を行う方法としては、特に制限はなく、例えば、下記に示すような条件下で行うことができる。
前記酵素糖化に使用する酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、セルラーゼ、セロビアーゼ(β−グルコシダーゼ)などが挙げられる。
前記酵素糖化の際の前記酵素の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記酵素糖化用原料1gに対して、0.001〜100mgが好ましく、0.01〜10mgがより好ましく、0.1〜1mgが更に好ましい。前記酵素の使用量が、前記酵素糖化用原料1gに対して、0.001mg未満であると、酵素糖化が不十分となることがあり、100mgを超えると、糖化阻害が起こることがある。一方、前記酵素の使用量が、前記更に好ましい範囲内であると、酵素添加量に対して得られる糖の量が多い点で、有利である。
前記酵素糖化の際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、10〜70℃が好ましく、20〜60℃がより好ましく、30〜50℃が更に好ましい。前記温度が、10℃未満であると、酵素糖化が十分に進行しないことがあり、70℃を超えると、酵素が失活することがある。一方、前記温度が、前記更に好ましい範囲内であると、酵素添加量に対して得られる糖の量が多い点で、有利である。
前記酵素糖化の際のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、3.0〜8.0が好ましく、3.5〜7.0がより好ましく、4.0〜6.0が更に好ましい。前記pHが、3.0未満、又は8.0を超えると、酵素が失活することがある。一方、前記pHが、前記更に好ましい範囲内であると、酵素添加量に対して得られる糖の量が多い点で、有利である。
−糖−
前記酵素糖化により、例えば、前記工程(b)で得られた酵素糖化用原料に含まれるセルロースIII型由来の糖である、グルコースを含む糖液を得ることができる。また、その他にも、前記酵素糖化により得られた糖液は、例えば、前記セルロースI型由来のグルコースを含んでいてもよいし、ヘミセルロース由来の糖を含んでいてもよい。へミセルロース由来の糖としては、例えば、キシロース、アラビノースといった五炭糖や、グルコース、ガラクトース、マンノースといった六炭糖が挙げられる。
前記糖液は、例えば、そのまま後述する本発明のエタノールの製造方法や乳酸の製造方法に供してもよいし、以下のようなその他の工程を経て、後述する本発明のエタノールの製造方法や乳酸の製造方法に供してもよい。
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記糖液を、後述する各発酵工程に適切となるようなpHに調整する、pH調整工程などが挙げられる。
(エタノールの製造方法)
本発明のエタノールの製造方法は、前記した本発明の糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、エタノールを得る工程(発酵工程)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
<発酵工程(アルコール発酵工程)>
前記エタノールの製造方法において、前記糖を発酵させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記糖を含む溶液に酵母等のアルコール発酵微生物を添加して、アルコール発酵を行わせる方法が、特に好ましい。前記酵母としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サッカロマイセス属酵母などが挙げられる。なお、前記酵母は、天然酵母であってもよいし、遺伝子組み換え酵母であってもよい。前記エタノール発酵微生物の具体的な例としては、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クルイベロマイセス・フラジリス(Kluyveromyces fragilis)、クルイベロマイセス・ラクティス(K.lactis)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(K.marxianus)、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)、ピキア・パストリス(P.pastoris)、パチソレン・タンノフィルス(Pachysolen tannophilus)、カンジダ・グラビラータ(Candida Glabrata)等の酵母又はこれらの遺伝子組換え体、ザイモモナズ・モビリス(Zymomonas mobilis)、サイモバクター・パルメ(Zymobacter palmae)、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・ルジュングダーリ(C.ljungdahlii)等の細菌又はこれらの遺伝子組換え体を用いることが出来る。
前記発酵の際の、前記酵母の使用量、発酵温度、pH、発酵時間等については、特に制限はなく、例えば、アルコール発酵に供する糖の量、使用する酵母の種類等に応じて、適宜選択することができる。
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記発酵工程により得られたエタノールを分離精製する工程などが挙げられる。前記分離精製の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸留などが挙げられる。
前記エタノールの製造方法により得られたエタノールは、例えば、燃料用エタノール、工業用エタノールなどとして好適に利用可能である。前記エタノールはバイオマス原料から得ることができるので、前記バイオマス原料となる植物を生産できる限りは再生産が可能であり、また、前記植物は栽培時に大気中の二酸化炭素を吸収するため、前記エタノールを燃焼させて二酸化炭素が発生したとしても、大気中の二酸化炭素濃度を増加させることにはならない。したがって、前記エタノールは、地球温暖化防止に望ましいエネルギー源ということができる。また、このようなエタノールは、近年特に、ガソリンに混合し、環境に優しい自動車燃料として使用することが期待されている。
本発明の糖の製造方法により得られる糖を、前記エタノールを産生する酵母等に代えて、それぞれ目的とするアルコール類を産生する微生物を使用して発酵せしめることにより、エタノール以外のアルコール類を製造することもできる。例えば、アセトン・ブタノール菌を使用した発酵を行うことにより、ブタノールを製造することができる。
(乳酸の製造方法)
本発明の乳酸の製造方法は、前記した本発明の糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、乳酸を得る工程(発酵工程)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
<発酵工程(乳酸発酵工程)>
前記乳酸の製造方法において、前記糖を発酵させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記糖を含む溶液に乳酸菌等の乳酸発酵微生物を添加して、乳酸発酵を行わせる方法が、特に好ましい。前記乳酸菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラクトバチルス・マニホティヴォランス(Lactobacillus manihotivorans)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)などが挙げられる。なお、前記乳酸菌は、天然の乳酸菌であってもよいし、遺伝子組み換え乳酸菌であってもよい。
前記発酵の際の、前記乳酸菌の使用量、発酵温度、pH、発酵時間等については、特に制限はなく、例えば、乳酸発酵に供する糖の量、使用する乳酸菌の種類等に応じて、適宜選択することができる。
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記発酵工程により得られた乳酸を分離精製する工程などが挙げられる。前記分離精製の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記乳酸の製造方法により得られた乳酸は、例えば、化学的に重合させて、ポリ乳酸を製造することに好適に利用可能である。現在は、トウモロコシ等のデンプンから製造されることが多い乳酸を、食料には供し得ないセルロースを含むバイオマス原料から生産可能になることが望ましく、前記乳酸の製造方法によれば、このようなセルロースを含むバイオマス原料からの効率的なポリ乳酸の製造を可能とすることができる。
本発明の糖の製造方法により得られる糖を、前記乳酸菌に代えて、それぞれ目的とする有機酸を産生する微生物を使用して発酵せしめることにより、乳酸以外の有機酸、例えば、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、シュウ酸等を製造することもできる。
(酵素糖化用原料の製造方法)
本発明の酵素糖化用原料の製造方法は、(a)セルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理することにより、改質バイオマス原料を得る工程、及び、(b)前記改質バイオマス原料を、粉砕することにより、酵素糖化用原料を得る工程、を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
前記酵素糖化用原料の製造方法における、前記(a)工程、及び、前記(b)工程としては、前記した本発明の糖の製造方法の項目に記載した通りである。
セルロースを含むバイオマス原料を粉砕することにより、化学的及び生物学的反応性が向上することは一般的に知られている。また、セルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア等により処理することで、セルロースI型がセルロースIII型に変態し、酵素糖化効率が向上することも本発明者らが既に開示している。
本発明の糖の製造方法においては、バイオマス原料をアンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤による処理のみを行った後酵素糖化を行う場合、バイオマス原料を粉砕処理のみ行った後酵素糖化を行う場合、さらには、バイオマス原料をまず粉砕し、その後アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理し、酵素糖化を行う場合に比較して、格段に優れた効率にて酵素糖化行うことが可能である。この作用機構は定かではないが、本発明者らは以下のように推定している。
本発明に係る糖の製造方法にあっては、工程(b)において得られる本発明の酵素糖化用原料は、工程(a)において得られる改質バイオマス原料との対比において、そのX線回折パターンが顕著に変化することが明らかになっている。即ち、改質バイオマス原料を粉砕することにより、セルロースの構造に何らかの変化が生じている可能性が考えられる。一方、まずバイオマス原料を本発明の方法に係る工程(b)と同様の操作により粉砕を行い、その後アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤により処理を行った場合には、粉砕を行わずにアンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤により処理を行った場合との対比において、X線回折パターンに顕著な差異は見られない。このことから、改質バイオマス原料を粉砕した場合に生じるこのX線回折パターンの変化に反映される構造の変化が、本発明に係る酵素糖化用原料が高い酵素糖化効率を有することと関係している可能性も考えられる。
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
−バイオマス原料−
セルロースI型を含むバイオマス原料として、ユーカリを使用した。
−粗粉砕処理−
用意したユーカリを、ウィレーミルを用い、目標平均粒径を200μmとして、粗粉砕した。
−アンモニア処理−
上記粗粉砕したユーカリを、以下の操作により、超臨界状態のアンモニアによる処理に供した。
60℃のオーブンで24時間乾燥させた粗粉砕ユーカリの試料4gを、内容積120mlのポータブルリアクターTVS−N2型(TAIATSU社製:以後、「容器」という。)に入れて密閉し、冷却装置にて容器を−13℃に冷却しながら、30分間、圧力0.5MPaにてアンモニアを流入せしめた。その後、PC−V型のヒーター(TAIATSU社製)を容器に取り付け、140℃にて1時間の加熱・加圧処理を行った。この時容器内の圧力が、アンモニアが超臨界状態となる11MPa以上になっていることを確認した。処理後、容器内を大気圧とすることで、アンモニアを除去し、温度を室温まで冷却して容器内の固形物試料を回収した。該試料を密封せずに一晩おいてアンモニアを十分蒸散させた。
−粉砕処理−
セラミック製平臼、家庭用臼式お茶粉末器「まるごと緑茶 EU6820」(商品名、パナソニック社製)を使用し、上記アンモニア処理した試料2gを、目盛り「細かい」の設定にて1回当り10分間、3回繰り返して粉砕した。
−X線回折分析−
上記粉砕された試料100mgを200kg/cmの圧力にて加圧成型し、X線回折分析に供した。X線回折は管球型X線発生装置 RINT2200(商品名、リガク社製)を用い、ディフラクトメトリー法によって行った。電圧38kV、電流50mA、モノクロメーターで単色化したCuKα線(波長0.15418nm)を用い、操作範囲2θ=5〜30°、ステップ幅0.1°、積算時間20秒の条件にてステップスキャン法で測定した。また、粗粉砕後の試料、アンモニア処理後の試料についても、同様の操作により、X線回折分析を行った。粗粉砕後の試料の回折パターンを図1に、アンモニア処理後の試料の回折パターンを図3に、アンモニア処理、粉砕処理後の試料の回折パターンを図5にそれぞれ示す。
−酵素糖化反応−
上記によりアンモニア処理及び粉砕処理を行った試料について、以下の操作により、酵素糖化反応を行った。
内容積1.5mlのマイクロチューブに、精秤した試料10mgを取り、試料濃度1%(wt/vol)、酵素としてCelluclast@1.5L及びNovozyme@188(共に商品名、Novozyme社製)を各酵素濃度0.01%(wt/vol)、計0.02%(wt/vol)の酵素濃度、pH4.5(酢酸緩衝液)となるように酵素糖化反応液を調製した。これを37℃の恒温室にて回転振とう機(15回転/分)を用い24時間転倒振とうして酵素糖化反応を行った。反応後遠心分離によって得られた上澄み液中のグルコース濃度をグルコースCIIテストワコー(商品名、和光純薬社製)を用いて測定し、グルコース収率を算出し、結果を表1に示した。
なお、グルコース収率は次式で定義される。

グルコース収率(%)=[酵素糖化反応液中のグルコース量/(酵素糖化原料の量×全グルコース化率/100)]×100

全グルコース化率(%):(バイオマス原料を別途化学的に完全に加水分解したときに得られるグルコースの量/バイオマス原料の量)×100(バイオマス原料基準の理論収率に相当)

なお、使用したユーカリの全グルコース化率は43.3%であった。
(比較例1−1:未処理の試料の酵素糖化)
実施例1で用いた粗粉砕したユーカリについて、アンモニア処理及び粉砕処理を行うことなく、そのまま実施例1における酵素糖化反応と同様の操作にて酵素糖化反応を行った。結果を表1に示す。
(比較例1−2:アンモニア処理なし、粉砕処理試料の酵素糖化)
−粉砕処理−
実施例1で用いた粗粉砕したユーカリを、アンモニア処理することなく、実施例1におけるアンモニア処理後の試料を粉砕した操作と同一の操作にて粉砕を行った。
−X線回折分析−
上記粉砕された試料のX線回折分析を、実施例1と同様の操作にて行った。回折パターンを図2に示す。
−酵素糖化反応−
上記粉砕された試料について、実施例1における酵素糖化反応操作と同様の操作により、酵素糖化反応を行った。実施例1と同様にグルコース収率を算出し、結果を表1に示す。
(比較例1−3:アンモニア処理試料の酵素糖化)
実施例1にて得た、粗粉砕したユーカリをアンモニア処理した試料について、その後粉砕処理することなく、実施例1における酵素糖化反応操作と同様の操作により、酵素糖化反応を行った。実施例1と同様にグルコース収率を算出し、結果を表1に示す。
(比較例1−4:粉砕処理後にアンモニア処理した試料の酵素糖化)
−粉砕処理−
実施例1にて用いた粗粉砕したユーカリを、実施例1におけるアンモニア処理後の試料を粉砕した操作と同一の操作にて粉砕を行った。
上記粉砕処理した試料を、実施例1におけるアンモニア処理と同様の操作にて、アンモニア処理した。
−X線回折分析−
上記粉砕後にアンモニア処理された試料のX線回折分析を、実施例1と同様の操作にて行った。回折パターンを図4に示す。
−酵素糖化反応−
上記、粉砕処理後にアンモニア処理された試料について、実施例1における酵素糖化反応操作と同様の操作により、酵素糖化反応を行った。実施例1と同様にグルコース収率を算出し、結果を表1に示す。
(実施例2)
実施例1において用いたユーカリに代えて、エゾノキヌヤナギを用いた以外は、実施例1と同様の操作にて、粗粉砕、アンモニア処理、粉砕、酵素糖化反応をこの順に行った。結果を表1に示す。また、各段階の試料について、実施例1と同様の操作により、X線回折分析を行った。それぞれの試料のX線回折パターンは、実施例1における相当する各ユーカリ試料と類似したものであった。粗粉砕後の回折パターンを図6に、アンモニア処理後の試料の回折パターンを図8に、アンモニア処理、粉砕処理後の試料の回折パターンを図10にそれぞれ示す。
なお、使用したエゾノキヌヤナギの全グルコース化率は45.1%、粗粉砕したエゾノキヌヤナギの平均粒径は252μmであった。
(比較例2−1〜2−4)
比較例1−1〜1−4のそれぞれにおいて、出発原料として用いた粗粉砕されたユーカリに代えて、実施例2において用いた粗粉砕されたエゾノキヌヤナギを用いた以外は、それぞれ相当する比較例1−1〜1−4と同様の操作にて前処理を行い、それぞれにおいて得た試料について、実施例2と同様の操作にて、酵素糖化反応を行った。各比較例について、グルコース収率を算出し、結果を表1に示す。また、比較例2−2〜2−4について、それぞれの前処理後の試料について、X線回折分析を行った。それぞれの試料のX線回折パターンは、それぞれに相当する比較例1−2〜1−4における各ユーカリ試料と類似したものであった。粉砕処理後の回折パターンを図7に、粉砕処理後にアンモニア処理した試料の回折パターンを図9にそれぞれ示す。
(実施例3)
実施例1において用いたユーカリに代えて、スギを用いた以外は、実施例1と同様の操作にて、粗粉砕、アンモニア処理、粉砕、酵素糖化反応をこの順に行った。結果を表1に示す。また、各段階の試料について、実施例1と同様の操作により、X線回折分析を行った。それぞれの試料のX線回折パターンは、実施例1における相当する各ユーカリ試料と類似したものであった。粗粉砕後の回折パターンを図11に、アンモニア処理後の試料の回折パターンを図13に、アンモニア処理、粉砕処理後の試料の回折パターンを図15にそれぞれ示す。
なお、使用したスギの全グルコース化率は42.7%、粗粉砕したスギの平均粒径は207μmであった。
(比較例3−1〜3−4)
比較例1−1〜1−4のそれぞれにおいて、出発原料として用いた粗粉砕されたユーカリに代えて、実施例3において用いた粗粉砕されたスギを用いた以外は、それぞれ相当する比較例1−1〜1−4と同様の操作にて前処理を行い、それぞれにおいて得た試料について、実施例3と同様の操作にて、酵素糖化反応を行った。各比較例について、グルコース収率を算出し、結果を表1に示す。また、比較例3−2〜3−4について、それぞれの前処理後の試料について、X線回折分析を行った。それぞれの試料のX線回折パターンは、それぞれに相当する比較例1−2〜1−4における各ユーカリ試料と類似したものであった。粉砕処理後の回折パターンを図12に、粉砕処理後にアンモニア処理した試料の回折パターンを図14にそれぞれ示す。
表1の結果から、バイオマス原料を、アンモニア処理した後に、更に粉砕して酵素糖化に供することにより、未処理のバイオマス原料、アンモニア処理又は粉砕処理を行ったバイオマス原料に対して酵素糖化効率が向上するのみならず、粉砕処理の後にアンモニア処理を行った場合に比較しても、酵素糖化効率を向上させることができることが示された。また、図1〜図15の結果から、バイオマス原料をアンモニア処理することにより、2θ=12°、17°、21°のセルロースIII型に帰属されるX線回折ピークが現れること、これを粉砕することにより回折パターンが顕著に変化すること、さらに、前記アンモニア処理後に粉砕した場合の回折パターンは、バイオマス原料を粉砕後にアンモニア処理した場合のそれとは異なることが明らかとなった。これにより、バイオマス原料をアンモニア処理した後に粉砕することにより、特有の構造をもつことが示唆される。
本発明の糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法によれば、糖の生産効率、エタノールの生産効率、及び乳酸の生産効率を格段に向上させることができる。また、本発明の酵素糖化用原料の製造方法によれば、前記した本発明の糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法に好適な酵素糖化用原料を効率的に得ることができる。したがって、本発明の糖の製造方法、エタノールの製造方法、及び乳酸の製造方法、並びに、酵素糖化用原料の製造方法は、例えば、近年注目されている、環境に優しい燃料を産出することを目的としたバイオマス原料からのエタノール製造、また、環境に優しい生分解性プラスチックの製造等に、好適に利用可能である。

Claims (6)

  1. (a)セルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理することにより、改質バイオマス原料を得る工程、
    (b)前記改質バイオマス原料を粉砕することにより、酵素糖化用原料を得る工程、及び、
    (c)前記酵素糖化用原料を、酵素糖化せしめ、糖を得る工程、
    を含み、前記セルロースI型を含むバイオマス原料が、木質バイオマスであることを特徴とする糖の製造方法。
  2. 工程(a)において用いる処理剤が、アンモニアであることを特徴とする請求項1に記載の糖の製造方法。
  3. 工程(b)において得られる酵素糖化用原料のメジアン径で表される平均粒径が、5〜80μmであることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の糖の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、エタノールを得ることを特徴とするエタノールの製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、乳酸を得ることを特徴とする乳酸の製造方法。
  6. (a)セルロースI型を含むバイオマス原料を、アンモニア及び/又は有機アミンを含む処理剤で処理することにより、改質バイオマス原料を得る工程、及び、
    (b)前記改質バイオマス原料を粉砕することにより、酵素糖化用原料を得る工程、
    を含み、前記セルロースI型を含むバイオマス原料が、木質バイオマスであることを特徴とする酵素糖化用原料の製造方法。
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