JP5462617B2 - 細胞培養基材およびその使用方法 - Google Patents
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Description
そこで、このような剥離剤を用いる必要のない技術として、所定の温度より高い温度では非水溶性、低い温度では水溶性の性質を示す温度感応性高分子化合物を利用した培養基材が提案されている(特許文献1参照)。すなわち、前記温度感応性高分子化合物と細胞の接着・増殖因子からなる培養基材上に複数の細胞種を播種して培養し、温度を低下させて温度感応性高分子化合物を水溶化することによって、細胞集合体を培養基材から脱離し、前記細胞集合体を細胞非接着性基材上で浮遊培養して細胞塊状体あるいは細胞シートにする方法が提案されている。この技術によれば、上記の如き剥離剤を使わずに細胞塊状体あるいは細胞シートを得ることができるとされる。しかしながら、この場合には、細胞シートのみが剥離されるため、しばしば、細胞シートの取り扱いが難しく、シートが形状を保てず、丸まってしまったり、裏表が分からなくなったりすることが問題となっていた。
上記の提案とは別に、ゼラチンにN−イソプロピルアクリルアミドポリマーがグラフト重合されてなる感温性高分子化合物を含む培養基材も提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、上記の細胞シートのサポート基材の必要性に対しては、解決法は与えられていない。
その過程において、細胞接着性に優れ、細胞の増殖・分化を良好に促進・制御することのできる培養基材として、ゼラチンを必須の原料とし、さらに、細胞を損傷したり、細胞本来の機能を損なったりすることなく、細胞集合体の有用な形状を維持させたまま細胞集合体を回収するために、簡易な化学反応により解離可能な共有結合に基づくゲル化可能な培養基材とすればよいことを着想し、さらに、前記ゼラチンと、分子内にホウ素に直接結合する2以上の水酸基をもつホウ素化合物を必須の原料とし、分子内に2以上の水酸基を持つ他の水酸基含有化合物を任意の原料とし、これらを反応させることで得られる、前記ゼラチンまたは前記ゼラチンと他の水酸基含有化合物が分子内に有する2以上の水酸基と、前記ホウ素化合物が分子内に有する前記2以上の水酸基との共有結合が、簡易な化学反応により解離可能な共有結合として有効であることを見出した。このように、簡易な化学反応により容易に解離させることができる共有結合を利用することで、細胞を損傷したり、細胞本来の機能を損なったりすることなく培養基材のゲル化の状態を化学的に変化させる。その結果、細胞の損傷や細胞本来の機能低下を招くことなく細胞を回収することや、細胞集合体内部に空隙を生じさせて栄養や酸素の供給、老廃物の排出を促したり、培養基材に所望の添加物質を含有させておくことで培養基材の溶解とともに培養液に添加物質を放出させたりして長期培養を図ることや、培養基材の硬さを調整することが可能となることも見出した。
すなわち、本発明にかかる培養基材は、ゼラチンおよびホウ素化合物を必須の原料とし、他の水酸基含有化合物を任意の原料とするゲル化可能な培養基材であって、前記ゼラチンおよび/または前記他の水酸基含有化合物が分子内に2以上の水酸基を有するとともに、前記ホウ素化合物が分子内にホウ素に直接結合する2以上の水酸基を有するものであり、前記ゲル化が、前記ゼラチンまたは前記ゼラチンと他の水酸基含有化合物が分子内に有する2以上の水酸基と、前記ホウ素化合物が分子内に有する2以上の水酸基との共有結合に基づき起きる、ことを特徴とする。
なお、本発明において、「ゼラチン」、「ホウ素化合物」、「他の水酸基含有化合物」が有する「水酸基」は、中和塩の状態で存在している場合を含むこととする。
細胞−細胞間の相互作用を破壊することなく、細胞集合体の有用な形状を維持させたまま、かつ、細胞の損傷や細胞本来の機能低下を招くことなく細胞集合体を回収することができる。また、細胞−細胞間の相互作用をもつ細胞集合体では、従来、培養が長期になると、内部にまで栄養や酸素が供給されなくなったり、老廃物の排出が困難となったりする問題があったが、本発明の培養基材を用いる場合、細胞集合体の内部に培養基材が含有された状態とすることで、必要時に、この培養基材を溶解させることにより、細胞集合体内部に空隙を生ぜしめ、該空隙を利用することで、細胞への滋養、酸素供給、老廃物排出を容易に行うことができ、長期培養が可能となる。さらに、培養基材に所望の添加物質を含有させておくことで、培養基材の溶解とともに添加物質を放出させることができ、これにより、必要時に細胞の増殖や分化の促進、細胞死の抑制のための添加物質を培養系に添加することができる。必要な添加物質を直接培養液に加えるという従来法では、培養中に添加物質の活性がなくなることが問題であったが、本発明の培養基材中に添加物質を入れることで、この活性低下の問題が解決され、また、添加物質を、必要時に、細胞に作用させることが可能となる。本発明の培養基材は、結合解離剤の作用によりゲル化の状態を変化させることができ、可溶化や、可溶化の程度の変化に応じた硬さの調整が可能である。
〔培養基材〕
本発明にかかる培養基材は、ゼラチンおよびホウ素化合物を必須の原料とし、他の水酸基含有化合物を任意の原料とするゲル化可能な培養基材であって、特定の共有結合により前記ゲル化が起きるものである。以下、ゼラチン、ホウ素化合物、他の水酸基含有化合物、ゲル状をもたらす共有結合について詳述する。
本発明における培養基材はゼラチンを必須の原料とする。ゼラチンを必須の原料とすることで、細胞接着性に優れた培養基材となる。ゼラチンは、細胞に害がなく、安全性の高い原料である。
前記ゼラチンは、特に限定されず、従来公知のゼラチンを用いることができる。例えば、ゼラチンの原料としては、牛骨、牛皮、豚皮、豚腱、魚鱗、魚皮などが知られており、また、製造方法の違いによって、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチン、酵素処理ゼラチンなどが知られている。このような公知の原料、製造方法を、培養基材の用途や要求性能に応じて適宜選択すればよい。
本発明におけるホウ素化合物は、分子内にホウ素に直接結合する2以上の水酸基を有するものである。ホウ素に直接結合する2以上の水酸基は、高い反応性を有し、本発明の培養基材では、これら2以上の水酸基が、上記ゼラチンおよび/または下記他の水酸基含有化合物が有する2以上の水酸基と結合している。そして、後述する結合解離剤により、この結合を解離させることで、可溶化することが可能となる。
前記ホウ素化合物としては、例えば、フェニルボロン酸誘導体、ホウ酸、ホウ酸塩(ホウ砂など)などが挙げられ、フェニルボロン酸誘導体としては、ゼラチンに導入できるもの、特に、ゼラチンのカルボキシル基と反応しうるアミノ基を有するm−アミノフェニルボロン酸が好ましい。
本発明にかかる培養基材は、ゼラチンやホウ素化合物以外の他の水酸基含有化合物を任意の原料とすることができる。後述のとおり、他の水酸基含有化合物は、ホウ素化合物と共有結合を形成することが可能であり、ゲル化力や、結合解離剤による可溶化の程度などの求める性能に応じて様々な原料を選択することができ、ゼラチンとホウ素化合物のみを原料とする場合と比較して、培養基材の設計の幅が広がる。
前記他の水酸基含有化合物としては、分子内に2以上の水酸基を有するものであればよく、例えば、デキストラン、プルラン、多価アルコール、ポリビニルアルコール、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、テネイシン、トロンボスポンジン、エンタクチン、オステオポンチン、ファンビルブラント因子、フィブリノーゲン、コラーゲン、エラスチンなどが挙げられる。これらは、いずれも、細胞に害のない化合物である点でも好ましいものである。なお、本発明の培養基材は、細胞接着性を持つゼラチンを必須の原料とするものであるので、他の水酸基含有化合物は細胞接着性を持つものに制限されない。
本発明にかかる培養基材は、前記ゼラチンまたは前記ゼラチンと他の水酸基含有化合物が分子内に有する2以上の水酸基と、前記ホウ素化合物が分子内に有する前記2以上の水酸基との共有結合に基づき、ゲル化可能となっている。前記のごとき共有結合は、後述する結合解離剤の作用により解離させることができるので、これによりゲル化の状態を変化させることが可能となる。例えば、培養基材を可溶化することができ、これにより形状を失うとともに、通常、細胞に吸収されて完全に消失する。
本発明の培養基材は、結合解離剤の添加によりゲル化の状態を変化させることができれば、ゼラチン、ホウ素化合物、他の水酸基含有化合物が、上記水酸基同士の共有結合以外の化学結合を介して結合していても良い。
本発明の培養基材の具体的な例を挙げれば、以下のとおりである。
第1の例:ゼラチンに、ホウ素化合物としてm−アミノフェニルボロン酸を作用させ、ゼラチンのカルボキシル基とm−アミノフェニルボロン酸のアミノ基とに基づくアミド結合を形成させるとともに、ゼラチンが持つ2以上の水酸基とm−アミノフェニルボロン酸が持つ2以上の水酸基とに基づく共有結合を形成させることでゲル化したもの。
第3の例:ゼラチンに、ホウ素化合物としてホウ砂を作用させ、ゼラチンが持つ2以上の水酸基とホウ砂が持つ2以上の水酸基とに基づく共有結合を形成させることでゲル化したもの。
このように段階的に架橋構造を形成する場合には、他の水酸基含有化合物を用いる分、組み合わせが多様となるので、目的に応じた培養基材の構造設計が容易であるという利点がある。
本発明の培養基材は、分子内に2以上の水酸基を有する結合解離剤を作用させることで、この2以上の水酸基が、前記ゼラチンおよび/または前記他の水酸基含有化合物が分子内に有する2以上の水酸基と前記ホウ素化合物が分子内に有する2以上の水酸基との共有結合を解離させ、代わりに、ホウ素化合物の水酸基と結合解離剤の水酸基との化学結合を形成させ、これによりゲル化の状態を変化させることができる。例えば、可溶化により、細胞を回収したり、培養中に細胞集合体内部に空隙を生じさせたり、培養基材に含ませておいた添加物質を放出させたり、といったことを容易に行うことができる。可溶化した培養基材は、通常、細胞に吸収されて、完全に消失する。
前記結合解離剤としては、例えば、ゼラチン、単糖類、二糖類、オリゴ糖、多糖類、多価アルコール、糖アルコール、ポリフェノール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらは、いずれも、細胞に害のない化合物である点でも好ましいものである。
結合解離剤としての機能を発揮させるためには、前記ゼラチンおよび/または前記他の水酸基含有化合物が分子内に有する2以上の水酸基と前記ホウ素化合物が分子内に有する2以上の水酸基との共有結合を解離させ、代わりに、ホウ素化合物の2以上の水酸基と結合解離剤の2以上の水酸基との化学結合を形成させること、具体的には、結合解離剤の水酸基のほうが、ゼラチンおよび/または他の水酸基含有化合物の水酸基よりもホウ素化合物の水酸基との結合性が強いことが必要である。また、該化学結合により培養基材のゲル化の状態が変化することが必要である。したがって、結合性の観点から、結合解離剤における分子内の2以上の水酸基は、立体障害の少ないシス形であることが好ましく、また、結合性、ゲル化の状態の変化の双方の観点から、結合解離剤は、立体障害が小さく、かつ、ゲル化の状態を変化させるため、通常、上記ゼラチンや他の水酸基含有化合物よりも低分子量のものを選択する。例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、グルクロン酸などの単糖、異なる単糖の結合したトレハロース、マルトースなどの2糖、3糖、オリゴ糖など、グリセリン、キシリトール、ソルビトールなどが挙げられるが、低分子でかつ1分子中に水酸基を多く持つものが好ましく、特に1分子に6つの水酸基を持つソルビトール、マンニトールが好ましい。
細胞培養時の温度は、細胞の至適温度に応じて決定されるので、培養基材に求められるゲル特性は、対象とする細胞種の種類に応じて様々である。例えば、一般に、細胞の至適温度は、哺乳類、鳥類由来の場合は37〜38.5℃、魚類、両生類由来の場合は20〜25℃、昆虫類由来の場合は25〜30℃であるが、これら細胞種に応じて、至適温度の範囲でゲル化の状態を変化させるようにすることで、細胞が死滅したりその機能を損なったりするという問題が回避される。
〔培養基材の使用〕
本発明にかかる培養基材は、一般的な細胞培養に用いることができるものであり、あらゆる細胞(例えば、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、脂肪細胞、免疫細胞、筋細胞、軟骨細胞、骨髄細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、血球系細胞、神経細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞などの細胞種もしくはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞、癌細胞など)、または、それらの細胞が存在するあらゆる組織・器官(例えば、皮膚、筋肉、骨、関節、骨格筋、血管、脊髄、心臓、胸腺、脾臓、肺、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、消化管など)の培養に使用することができる。
培養基材の形状は、目的とする細胞集合体の形状に応じて、適宜決定すればよい。具体的には、例えば、粒子状の培養基材を用いて、細胞−細胞間の相互作用をもつ細胞の培養を行うことにより、培養基材と細胞との接着、細胞同士の接着により、得られる細胞集合体は粒子状の培養基材を内包する三次元的な細胞集合体となる。このように細胞集合体内に内包されている粒子状の培養基材は、従来までの粒子状培養基材上で細胞を増殖させる有用物質の産生のための培養技術とは異なる。このように、粒子状の培養基材を細胞集合体内に内包させる場合、該粒子状の培養基材の適当なサイズは、5〜100μm直径であり、より好ましくは、10〜70μm直径である。また、前記のごとく、比較的小径の粒子状培養基材を用いる場合、細胞集合体内に多数の粒子状培養基材が内包された状態となるが、粒子状の培養基材として、より大きいサイズのものを用いて、一つの粒子状培養基材の表面に、多数の細胞を層状に付着・伸展させながら増殖させることもできる。この場合、粒子状培養基材を可溶化させることで、風船の如き中空かつ球状の細胞集合体を得ることができる。また、シート状やチューブ状などの培養基材を用いれば、培養基材の表面に層状に細胞が付着・伸展しながら増殖し、シート状やチューブ状などの細胞集合体となる。このように、培養基材の形状を工夫すれば、様々な形状の細胞集合体を得ることができる。また、これらを組み合わせることも可能であり、例えば、シート状やチューブ状などの培養基材上で、粒子状の培養基材の共存下に細胞培養を行うようにすれば、シート状やチューブ状で、かつ、粒子状の培養基材を内包する形で三次元的に成長した細胞集合体(積層状、塊状など)が得られる。
シート状やチューブ状などの培養基材を得る場合、例えば、ゼラチン水溶液とホウ素化合物の水溶液を混合し、この混合液をガラス板などの平らな面やチューブ状の基材にコーティングしたのちにゲル化させることで、シート状やチューブ状の培養基材を得ることができる。また、ゲル化する際の形状を調整すれば、シート状やチューブ状以外の様々な形状の培養基材を得ることが可能であり、したがって、上述のとおり、様々な形状の細胞集合体を得ることも可能となるのである。
すなわち、
(a)細胞培養時に前記培養基材を細胞集合体内部に導入し、所望の培養時間が経過した後、培養液への前記結合解離剤の添加により培養基材を可溶化することにより、細胞集合体内部に空隙を生じさせるようにする、という使用方法や、
(b)培養基材に所望の添加物質を含有させておいて、前記培養基材の可溶化に伴い該添加物質を放出させるようにする、という使用方法や、
(c)培養基材上で細胞を培養し、所望の培養期間が経過した後、培養液に前記結合解離剤を添加し、培養基材が完全に溶解しない限度で架橋度を低下させることで、培養基材の軟らかさを変化させるようにする、という使用方法、
などとして利用でき、従来にない利点を得ることができる。
また、上記(b)の使用方法によれば、培養基材に添加物質を含有させておくことで、所望のタイミングで可溶化し、添加物質を溶出させ、培養系に添加物質を供給することができる。特に、上記(a)の使用方法と組み合わせれば、栄養不足となりやすい細胞集合体内部に、空隙を生じさせると同時に、速やかに栄養を補給したり、あるいは、増殖、分化因子を補給し、細胞の増殖と分化を制御したりすることができるなど、様々な相乗効果が期待できる。
上記(b)の方法における添加物質の例としては、bFGFなどの細胞増殖因子や細胞分化因子、細胞のアポトーシスを抑制するタンパク質あるいはそれらの活性断片ペプチドや、それらのタンパク質の分泌を促す低分子あるいは高分子物質、DNA、RNA、siRNAなどの核酸物質などが挙げられる。これらの添加物質を、培養液中、特に、細胞集合体内部に溶出させることにより、細胞の増殖、分化の促進や、細胞死の抑制が可能となる。
〔実施例1〕
重量平均分子量100,000の酸処理豚皮ゼラチン(等イオン点=9)1gに、19gのジメチルスルフォキシド(WAKO社製)を添加し、40℃で一晩かけて溶解させた。このゼラチン溶液1mlに、ゼラチンが有するカルボキシル基に対して3倍モル量の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(ナカライテスク社製)(以下、「EDC」と略記する)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(ナカライテスク社製)(以下、「NHS」と略記する)、EDCに対して30倍モル量のm−アミノフェニルボロン酸(WAKO社製)(以下、「m−APBA」と略記する)を添加し、室温で2時間反応させた。反応後、アセトンによる洗浄および遠心分離操作を3回行うことにより、未反応のm−APBA、EDC、NHSを除去し、乾燥させた。このようにして、ゼラチンのカルボキシル基とm−APBAのアミノ基がアミド結合してなる化学修飾ゼラチン(以下、「ゼラチン−PBA」と略記する)を得た。
上記培養基材2mgに対して、pH7.5、37℃という細胞に害のない温和な条件下、結合解離剤として、10重量%ソルビトール水溶液500μlを添加し、ゲルの溶解性を目視により判定した結果、徐々に溶解傾向を示し、20分で完全に溶解・消失した。
なお、以下の実施例においても、ゼラチン−PBAに他の水酸基含有化合物(PVAなど)を作用させてゲル化させる場合に、ゼラチン−PBAの水溶性が低いときは、ゼラチン−PBAを一旦60℃で1時間加熱溶解させてから他の水酸基含有化合物を作用させるようにした。
ゼラチン−PBAとPVAの混合溶液が、ゼラチン−PBAが1重量%、PVAが0.12mmol/Lの500ml混合溶液となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、ゲル状の培養基材を得た。
上記培養基材2mgに対して、pH7.5、37℃という細胞に害のない温和な条件下、結合解離剤として、10重量%グルコース水溶液800μlを添加し、ゲルの溶解性を目視により判定した結果、徐々に溶解傾向を示し、最終的には完全に溶解・消失した。
〔実施例3〜5〕
ゼラチン−PBAが1重量%、PVAが0.12mmol/Lの500ml混合溶液を調製し、これをゲル化して培養基材を得たこと以外は実施例1と同様にしてゲル状の培養基材を得た。
〔実施例6〕
重量平均分子量20,000の酸処理豚皮ゼラチン(等イオン点=9)を用いる以外は、実施例1と同様にして、ゼラチン−PBAを調製した。本ゼラチン−PBAは40℃で30分の加熱で容易に溶解するものであった。
〔実施例7〕
PVAに代えて、グルコマンナンを用いた以外は、実施例6と同様にして、粒子状の培養基材を作製した。該粒子状の培養基材のサイズは、30μm直径であった。
〔実施例8〕
PVAに代えて、重量平均分子量100,000のアルカリ処理牛骨ゼラチン(等イオン点=5)を用いた以外は、実施例6と同様にして、粒子状の培養基材を作製した。該粒子状の培養基材のサイズは、30μm直径であった。
上記粒子状の培養基材を用いて、上記実施例6と同様にして、結合解離剤による溶解性を評価した。結果を後述の表2に示す。
PVAに代えて、重量平均分子量10,000のアルカリ処理牛骨ゼラチン(等イオン点=5)を用いた以外は、実施例6と同様にして、粒子状の培養基材を作製した。該粒子状の培養基材のサイズは、30μm直径であった。
上記粒子状の培養基材を用いて、上記実施例6と同様にして、結合解離剤による溶解性を評価した。結果を後述の表2に示す。
〔実施例10〕
EDCに対して10倍モル量のm−APBAを添加した以外は、実施例1と同様にして、ゼラチン−PBAを調製した。
上記粒子状の培養基材を用いて、上記実施例6と同様にして、結合解離剤による溶解性を評価した。結果を下記表2に示す。
重量平均分子量100,000の酸処理豚皮ゼラチン(等イオン点=9)の5重量%水溶液500μlに7.5mlのオリーブオイル(WAKO社製)を添加し、40℃で加温した。また、ホウ砂の0.25重量%水溶液500μlに7.5mlのオリーブオイルを添加し、40℃で加温した。実施例6と同様にして、両溶液を混合し、ボルテックスで激しく撹拌した後、アセトンによる洗浄を行い精製し、粒子状の培養基材を得た。該粒子状の培養基材のサイズは、30μm直径であった。
上記粒子状の培養基材を用いて、上記実施例6と同様にして、結合解離剤による溶解性を評価した。その結果、1時間後に溶解した。
実施例11において、ホウ砂に代え、EDCに対して30倍モル量のm−APBAを用いたこと以外は、同様にして、実施例12にかかる粒子状の培養基材を得た。該粒子状の培養基材のサイズは、30μm直径であった。
ゼラチンへのホウ素導入率を、原子吸光分析により測定した結果、40.9%であった。このようにして得られた粒子状の培養基材は、37℃において、水へは溶解しなかったが、10重量%濃度のソルビトールを添加することにより溶解した。なお、EDCに対して10倍モル量のm−APBAを用いた場合のゼラチンへのホウ素導入率は11.7%であり、37℃において、1時間で溶解した。
実施例11において、ホウ砂に代え、EDCに対して20倍モル量のm−APBAを用いたこと以外は、同様にして、実施例13にかかる粒子状の培養基材を得た。該粒子状の培養基材のサイズは、30μm直径であった。
ゼラチンへのホウ素導入率を、原子吸光分析により測定した結果、30.1%であった。このようにして得られた粒子状の培養基材は、37℃において、水へは溶解しなかったが、10重量%濃度のソルビトールを添加することにより溶解した。
なお、本実施例13の培養基材は、上記実施例12の培養基材に比べて、ソルビトール添加後、速く溶解消失することが分かった。これは、本実施例13の培養基材のほうが、ゼラチンのm−APBA導入率が低く、架橋程度の低いことが原因であると考えられる。
実施例1において、重量平均分子量100,000のアルカリ処理牛骨ゼラチン(等イオン点=5)を用いたこと以外は、同様にして、ゼラチン−PBAを調製した。このゼラチン−PBAを用い、かつ、PVAの代わりに、重量平均分子量10,000のアルカリ処理牛骨ゼラチン(等イオン点=5)を用いる以外は、実施例6と同様にして、粒子状の培養基材を調製した。該粒子状の培養基材のサイズは、30μm直径であった。
上記粒子状培養基材2mgを導入した「Non−treated microplate96ウェル」(IWAKI社製)に、マウス繊維芽細胞L929を9×104cell/wellで播種し、DMEM液体培地で、5%CO2/95%空気、相対湿度100%、37℃の条件で培養を行った。
また、上記において、粒子状培養基材に、bFGFを含浸させておくことで、可溶化と同時にbFGFを溶出させることができた。
〔実施例15〕
PVAの2.5重量%水溶液を50℃で5分加温し、これを「Non−treated microplate96ウェル」(IWAKI社製)に50μl添加した。次に、実施例1で調製したゼラチン−PBAを60℃で1時間加熱溶解して10重量%水溶液を調製し、これをウェルに50μl添加した。シェーカーで室温下に1時間撹拌し、ゼラチン−PBAとPVAを混合した。次に、殺菌のため、70%エタノールをウェルに添加した。15分後、上清を廃棄し、再度70%エタノールを添加して、1時間室温で反応させた。このエタノールによる殺菌操作を3回行った。次に、フィルターによるろ過滅菌を行った蒸留水をウェルに添加し、脱エタノール処理を行った。このようにして、各ウェル上に、シート状の培養基材を形成した。
次に、DMEM液体培地で10重量%濃度に調製したソルビトールを添加し、37℃で90分間加温した。15分後には、培養基材は完全に溶解し、シート状の細胞集合体の回収が可能となった。可溶化により、細胞が死滅しないことも確認された。
また、上記において、シート状の培養基材に、bFGFを含浸させておくことで、可溶化と同時にbFGFを溶出させることができた。
実施例15と同様にして、重量平均分子量100,000のアルカリ処理牛骨ゼラチン(等イオン点=9)とPBA(m−APBA/EDC=10)と重量平均分子量10,000のゼラチン(等イオン点=9)を原料とするシート状培養基材を調製し、この培養基材上で、L929細胞を3日間培養した。3日後、DMEM液体培地で10重量%濃度に調製したソルビトールを添加し、15分後および90分後に細胞を回収した。培養基材は、ソルビトール添加後、15分後には完全に溶解した。培養基材溶解後、得られた細胞集合体をトリプシンEDTA溶液で処理し、細胞間の結合を分解し、シングルセルにした後、生死判定を行った。また、ソルビトール非添加試験区では、培養基材をトリプシンEDTA溶液で37℃、15分間の処理を2回行い、シングルセルを回収した後、生死判定を行った。その結果、ゲルを水可溶化しても、細胞は死なないことが確認された。結果を表3に示す。
実施例1で調製したゼラチン−PBAを用い、かつ、PVAの代わりに、重量平均分子量10,000の酸処理豚皮ゼラチン(等イオン点=9)を用いる以外は、実施例6と同様にして、粒子状の培養基材を調製した。該粒子状の培養基材のサイズは、30μm直径であった。
「Non−treated microplate96ウェル」(IWAKI社製)に細胞を播種した。Non−treated microplateでは細胞親和性が低いため、シャーレに細胞は接着しない。そのため、細胞は細胞同士の凝集体を形成しやすくなる。そこで、マウス繊維芽細胞L929を各ウェルに9×104cell/wellで播種したのち、上記粒子状の培養基材を各ウェルに2mg添加し、1週間細胞培養を行った。なお、DMEM液体培地は1日に1回交換した。
さらに、培養基材溶解後、細胞凝集塊をピペッティングで砕き、一部を、別のシャーレに移し、DMEM液体培地で培養を開始し、細胞が増殖することを確認した。
重量平均分子量10,000の酸処理豚皮ゼラチン(等イオン点=9)の10重量%水溶液を50℃で5分加温し、「Non−treated microplate96ウェル」(IWAKI社製)に、50μl添加した。次に、実施例17と同様にして、ゼラチン(重量平均分子量100,000、等イオン点=5)−PBA(30倍)を60℃で1時間加熱溶解して10重量%水溶液を調製し、これを、ゼラチンの添加された前記ウェルに50μl添加した。シェーカーで室温1時間撹拌することにより、前記ゼラチンと前記ゼラチン−PBAとを混合した。次に、殺菌のため、70%エタノールをウェルに添加した。15分後、上清を廃棄し、再度70%エタノールを添加し、1時間室温で反応させた。このエタノールによる殺菌操作は、少なくとも3回行った。次に、フィルターによる濾過滅菌を行った蒸留水をウェルに添加し、脱エタノール処理を行った。さらに、DMEM液体培地で培養基材内部の溶媒を置換した。
すなわち、マウス繊維芽細胞L929を各ウェルに5×104細胞を播種した後、bFGFを含浸させた培養基材を添加し、細胞培養を行った。DMEM液体培地は1日1回交換した。L929細胞は、培養基材上で良好な増殖を示した。1週間培養後、ソルビトールを添加し、37℃で90分間培養を行った。15分後には、培養基材は完全に溶解し、細胞集合体の回収が可能となった。
実施例10と同様にして、重量平均分子量100,000のアルカリ処理牛骨ゼラチンのCOOH基に対して50モル%のフェニルボロン酸を導入したゼラチンの10重量%水溶液を作製した。一方、0.5重量%のPVA(重合度1,700、ケン化度98%)の水溶液を作製した。両水溶液を0.5mlずつ混合した。この混合水溶液を100mlのオリーブ油中に投入し、室温下、300rpmで2時間撹拌した。得られたゼラチン−PBAとPVAからなるゲル粒子をアセトンにより遠心洗浄(1,000rpm、5時間、4℃)し、回収した。得られた粒子をEagle MEM培養液で膨潤させた。
実施例11,13の粒子状培養基材を用いること以外は実施例19と同様にして細胞集合体の培養を行った。
その結果、いずれにおいても、実施例19と同様の結果が得られた。
すなわち、粒子状の培養基材の存在の有無に関わらず、MSCの細胞集合体が得られた。しかしながら、粒子状の培養基材がない場合には、細胞集合体は、直径が150μmとなり、内部の細胞が死んでいることが観察された。これに対して、粒子状の培養基材を含む細胞集合体では、直径が200μmと大きくなっているにも関わらず、集合体内部の細胞は、死んでいなかった。次に、細胞集合体の培養液中に、10重量%ソルビトールを加え、さらに、1日間培養を続けた。その後、細胞集合体を凍結して凍結切片を作製し、集合体内部を顕微鏡で観察した。その結果、細胞集合体内部にスペース(空洞)が見られた。この空洞は、粒子状の培養基材がない状態で培養したときの細胞集合体には認められず、細胞集合体内の粒子状の培養基材が溶解、消失することで得られたと考えられる。
Claims (8)
- ゼラチンおよびホウ素化合物を必須の原料とし、他の水酸基含有化合物を任意の原料とするゲル化可能な培養基材であって、
前記他の水酸基含有化合物が分子内に2以上の水酸基を有するとともに、前記ホウ素化合物が分子内にホウ素に直接結合する2以上の水酸基を有するものであり、
前記ゲル化が、前記ゼラチンまたは前記ゼラチンと他の水酸基含有化合物が分子内に有する2以上の水酸基と、前記ホウ素化合物が分子内に有する2以上の水酸基との共有結合に基づき起き、
ゼラチン、単糖類、二糖類、オリゴ糖、多糖類、多価アルコール、糖アルコール、ポリフェノールおよびポリビニルアルコールから選択され、前記共有結合を解離させることのできる結合解離剤を、細胞培養基材に作用させることにより、前記ゲル化の状態を変化させることができる、細胞培養基材。 - 前記ホウ素化合物がフェニルボロン酸誘導体、ホウ酸およびホウ酸塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の細胞培養基材。
- ゲル化させた状態となっている、請求項1または2に記載の細胞培養基材。
- 請求項1から3までのいずれかに記載の細胞培養基材をゲル化させた状態で用いて細胞培養を行い、所望の培養時間が経過した後、前記結合解離剤を培養液に添加して前記細胞培養基材のゲル化の状態を変化させる、細胞培養基材の使用方法。
- ゲル化の状態の変化がゲル溶解性の変化である、請求項4に記載の細胞培養基材の使用方法。
- ゲル溶解性の変化がゲルの硬さの変化となって現れる、請求項5に記載の細胞培養基材の使用方法。
- ゲル化した細胞培養基材を細胞集合体内部に導入して細胞培養を行い、所望の培養時間が経過した後、前記結合解離剤を培養液に添加して細胞培養基材を溶解することにより、細胞集合体内部に空隙を生じさせるようにする、請求項5に記載の細胞培養基材の使用方法。
- 培養に必要な添加物質を予め前記細胞培養基材に含有させておいて、前記細胞培養基材の溶解に伴い前記添加物質を放出させるようにする、請求項5から7までのいずれかに記載の細胞培養基材の使用方法。
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