JP5461082B2 - ストレプトミセス属に属する新規微生物、その微生物が産生する新規化合物、及びその化合物を有効成分とする医薬 - Google Patents
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Description
一方で、癌細胞の増殖のメカニズムには、原発巣から周辺組織への浸潤と、原発巣で増殖した癌細胞の一部が血管壁をすり抜け、血流に乗って他の部位へ移動する転移とが知られている。
また、癌患者は免疫状態が低下しがちであり、日和見感染その他の感染症にも罹患しやすい。このため、抗菌性を有するものであれば、感染症への罹患率を低下させることができるため、さらに有用性が高い。
したがって、細胞毒性活性の他に、癌細胞の浸潤阻害活性及び抗菌性を有する化合物に対する、高い要請があった。
まず、生ゴミ処理物を滅菌シャーレ上で風乾後、乳鉢で細かく粉砕し、所定の培地に懸濁させる。ついで、室温にて静置し、順次10倍希釈を行って試料を調製する。生ゴミ処理物としては、例えば、事業所系の生ゴミ、動物残渣・牛糞・魚腸骨、家庭からの生ゴミ、野菜残渣・魚残渣その他の各種生ゴミ由来の堆肥を使用することができる。
次いで、平板培地上にこれらの試料を塗布し、恒温機中で培養し、平板上に出現したコロニーを採取することにより、菌を分離することができる。平板培地としては、例えば、Bn2培地、HMG培地等を使用することができる。恒温器での培養は、約30℃〜64℃の間の所望の温度で行うことができる。
さらに、どのような炭素原を利用することができるかの確認、菌体分析、及び16S rRNAの塩基配列を対照となる菌のそれと比較することによって、分類学的性質をより明らかにすることができる。
以上の性質より、単離された菌株の同定をすることができる。
まず、上記のような手段を用いて特徴付けられる菌を、種母培地に接種して、例えば、約15〜40℃の温度範囲で3〜5日間、振とう培養によって前培養を行う。次いで、前培養が終了した種母培地を所定量とり、本培養用の培地に接種し、例えば、数日間、上記の温度で振とう培養を行う。
種母培地を用いた前培養後、本培養を行うにあたっては、例えば、A−3M液体培地を用いて、150〜250rpmで、室温にて4〜8日間という条件で行うことができる。培養条件を、約200rpmで6日間として振とう培養を行うことが、本発明の微生物の生育の面から好ましい。
まず、上記のように培養が終了した培養液に、例えば、等量の有機溶媒を加え、0.5〜2時間、振盪を行い、その後、遠心して水相と有機相とに分離する。次いで、有機相を、例えば、ロータリーエバポレータを用いて減圧濃縮することにより、抽出物が得られる。
n−ブタノール等を使用することが、粗抽出の抽出効率が高いことから好ましく、複数回の終出を行うこともできる。
こうしたクロマトグラフィーに使用する溶離液としては、例えば、逆相系のカラムクロマトグラフィーの場合にはクロロホルム−メタノール、塩化メチレン−メタノール等を挙げることができ、順相系のカラムクロマトグラフィーの場合には、ヘキサン−酢酸エチル等を挙げることができる。
目的とする化合物性質に応じて、順相系又は逆相系の溶離液を選択する。本発明の化合物を単離・精製する場合には、順相系の溶離液を使用することが好ましく、こうした溶離液としては、例えば、酢酸エチル−ヘキサン、アセトン−ヘキサン等を挙げることができる。
例えば、酢酸エチル:n−ヘキサン(100:0〜1:1)を溶離液として用いたステップグラジエントを行うことにより、本発明の化合物を含有する画分を効率よく得ることができる。
こうした分取クロマトグラフィーとして、シリカゲルクロマトグラフィー、ODSカラムクロマトグラフィー等を挙げることができ、溶離液は上述したように、目的とする化合物の性質に応じて適宜選択すればよい。
生理学的に許容されるそれらの塩、それらの水和物は、上述した通りである。
上記抗菌剤は、前記式(I)で表される化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とするものであることが、グラム陽性菌に対して抗菌スペクトラムを有するからである。ここで、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物は、上述した通りである。
上記の化合物を有効成分する抗癌剤は、上記以外の粉剤その他の固形剤としてもよく、注射剤用の凍結乾燥製剤、リポソーム剤等、各種の剤形とすることもできる。
上記の化合物を有効成分する周辺組織浸潤阻害剤は、上記以外の粉剤その他の固形剤としてもよく、注射剤用の凍結乾燥製剤、リポソーム剤その他の各種の剤形とすることができる。
上記の抗菌剤は、経口投与、又は静脈内投与が可能な剤形であることが好ましい。経口投与の場合には、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、ドライシロップ等とすることが好ましく、静脈内投与の場合には、静脈内注射、点滴静注用の製剤とすることが好ましい。
(1−1)試薬等
以下の試薬を使用した。
塩化カルシウム、炭酸カルシウム、ブドウ糖、グリセロール、硫酸マグネシウム7水和物(MgSO4・7H2O)、硫酸鉄7水和物(FeSO4・7H2O)、塩化マンガン4水和物(MnCl2SO4・4H2O)、硫酸ニッケル4水和物(NiSO4・4H2O)、硫酸亜鉛4水和物(ZnSO4・4H2O)、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、NZケイス(NZ Case)、溶性でんぷん(Soluble Starch)、メタノール、アセトニトリル、リン酸水素2カリウム(K2HPO4)、リン酸水素2ナトリウム12水和物(Na2HPO4・12H2O)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ゲランガム(Gellan gum)、Cell Counting Kit及び寒天は、和光純薬工業(株)より購入した。
NMR用メタノールは関東化学(株)より、また、NMR用DMSOはセティ(株)より、それぞれ購入した。
探索源として、下記表1に示す堆肥を使用した。これらの堆肥を滅菌シャーレ上で風乾し、乾燥後の堆肥を乳鉢で細かく粉砕した。
下記の表3及び4に、Bn2培地及びHMG培地の組成を示す。
以上のようにして得られた菌株の1つをTP-A0875と命名し、その分類学的性質を「放線菌の分類と同定」(日本放線菌学会編、日本学会事務センター刊 2001年2月)に従って決定した。
菌の同定に使用したISP(International Streptomyces Project)培地 No. 2及び同No. 4は、日本ベクトン・ディッキンソン(株)より購入した。また、ISP培地 No. 3、同No. 5、及び同No. 7としては、日本放線菌学会規格放線菌培地ダイゴ No. 3、No. 5、及び同No. 7を日本製薬(株)より購入した。
色調は標準として、『新色名事典』(財団法人日本色彩研究所 1987年)を用いて決定し、色標名とともに括弧内にそのコードを併せて記した。観察は32℃、4週間目の各種培地における結果である。
(1)形態学的性質
走査型電子顕微鏡で観察したところ、気菌糸は緩やかなループを形成し、胞子は表面が平滑な球形の胞子が10〜20個連鎖していた。(図1参照)。
本菌株は、下記の培地上で中程度以上の生育を示した。また、気中菌糸は灰色がかった白色から灰色系を呈し、基底菌糸裏面は灰色がかった白色から濃い灰色系を呈した。
(a)ISP培地 No. 2(イースト・麦芽寒天培地、32℃培養)で良く増殖した。基底菌糸裏面は濃い灰色を呈し、中程度の灰色(ミディアム・グレー)の気中菌糸を厚く着生した。
(b)ISP培地 No. 4(スターチ・無機塩寒天培地、32℃培養)で良く増殖した。基底菌糸裏面は濃い灰色を呈し、赤みがかった灰色の気中菌糸を厚く着生した。
(d)ISP培地 No. 7(チロシン寒天培地、32℃培養)で良く増殖した。基底菌糸裏面は濃い灰色を呈し、明るい灰色の気中菌糸を厚く着生した。
(e)ISP培地 No. 3(オートミール寒天培地、32℃培養)で中程度に増殖した。基底菌糸裏面も灰色がかった白色を呈し、灰色がかった白色の気中菌糸をうっすらと着生した。
TP-A0875菌株の各種寒天培地上の培養性状を表7にまとめた。
(a)ベネット寒天培地(肉エキス0.1%、酵母エキス0.1%、NZアミン0.2%、ブドウ糖1.0%、及び寒天2.0%を含む)において15〜40℃の温度範囲で増殖し、約25℃付近で良好に増殖した。
(b)メラニン様色素生成は陰性であった。
利用可能な炭素源は、D−グルコース、D−キシロース、D−フラクトース、D−マンニトール、L−アラビノース、及びmyo−イノシトールであった。
一方、利用しない炭素源は、スクロース、L−ラムノース、ラフィノースであった。
全菌体加水分解物中のジアミノピメリン酸はLL型を含み、グリシンを含んでいた。全菌体糖としては、ガラクトースとグルコースとを含んでいた。
16S rRNAの塩基配列(1,468塩基対)を、Streptomyces sp. S096 (EF577242)の該当する塩基配列と比較したところ、100%の相同性を示した。
以上の分類学的性質を示したことから、本菌株をストレプトミセス属(Streptomyces)と同定した。
TP-A0875を、100mLの種母培地であるV-22液体培地(溶性デンプン1.0%、ブドウ糖0.5%、NZケイス0.3%、酵母エキス0.2%、トリプトン0.5%、K2HPO4 0.1%、MgSO4・7H2O 0.05%、CaCO3 0.3%を含む)が入った500mLのK型フラスコに接種し、200rpm、30℃にて4日間、振とう培養した(振とう機:サンキ精機(株)RGS-200R)。
各画分について、以下の条件でHPLC分析を行った。
装置:HEWLETTPACKARD 1090
溶離液:アセトニトリル:0.15%KH2PO4水溶液(pH3.5)=15:85〜85:15
流 速:1.2ml/min
検出波長:254nm
カラム:MICROSORB-MV 100×4.6mm
カラム温度:室温
得られた黄色油状物を少量のクロロホルムに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィー(関東化学社製、シリカゲル量:60g)に供し、溶離液として酢酸エチル:n−ヘキサン(100:0〜1:1)を用いて、ステップグラジエントにて溶出し、分画した。
得られた黄色油状物質のうち、500mgをゲルろ過クロマトグラフィー(セファデックス(登録商標)LH-20、GEヘルスケア ライフサイエンス(株)製、内径:20mm、カラム長:50cm)に供し、溶離液としてメタノール:塩化メチレン=1:1を用いて分取した。
次に、実施例1で得られた無色結晶の構造決定を行った。構造決定のために、核磁気共鳴吸収(NMR)、紫外吸光(UV)分析、赤外吸収(IR)分析、質量分析(MS)、旋光度測定を行った。以下の機器を使用して分析を行い、UV及びIRスペクトルの結果と合わせて、構造決定を行った。
1H−NMR:BRUKER ULTRASHIELDTM 500PAUS(500 MHz)
UV:HITACHI(登録商標)U-3210(日立ハイテク(株)製)
IR:PerkinElmer Spectrum 100((株)パーキンエルマージャパン製)
MS:BRUKER DALTONICOS micro TOF(ESI-TOF-MS)(ブルカー・ダルトニクス(株)製)
旋光度:JASCO P-1030
カラム:MICROSORB-MVTM (100×i.d. 4.6mm、バリアン テクノロジーズ ジャパン リミテッド製)
移動相:CH3CN:0.15% KH2PO4(pH3.5)=15:85〜85:15
流速:1.2mL/分
検出波長:254nm
TPU0114は、UV分析の結果、288nm及び236 nmに吸収極大を示し、IR分析では、1748cm‐1にC=O伸縮振動に由来する吸収帯が観測された。また、質量分析では、ESI-TOF-MSで[M−H]−がm/z 395.2237に検出されたため、分子式をC25H32O4と決定した。
TPU0114-AのNMRデータを下記表8に、構造式を図2及び3にそれぞれ示す。また、下記表9に、一般的な性状、分子量、紫外吸収、赤外吸収等のデータを示す。
下記表10に示す細菌6種及び酵母3種及び培地を用いて、TPU0114の抗菌活性を試験した。
次に、各寒天平板よりコロニーを白金耳でかき取り、それぞれ8mLの液体培地に懸濁した。次いで、30℃にて、20時間振とう培養(120rpm/分、振とう機:サンキ精機(株)RGS-200R)した。
培養終了後に、遠心分離により集菌し(遠心機:HITACHI himac CR20、ロータ:HITACHI R12A、3000rpm, 5分)、得られた菌を生理食塩水に懸濁して、OD660を測定した(Emax:日本モレキュラーデバイス(株)製)。
下記の菌を培養するために、96穴滅菌平底プレートに、同上の培地を、100μLずつ分注した。
その後、大腸菌は37℃にて、その他の菌は30℃にて、20時間、インキュベータ中で静置培養した。
コントロール(化合物非添加区)のODの値を100%としたときの化合物添加区のODの値から、化合物添加区における菌の増殖率を計算し、被検菌に対するMIC(μM)を求めた。結果を表11に示す。
TPU114のMICは、下記の大腸菌及び3種の酵母に対しては100μM以上となり、抗菌活性は示さなかった。一方、下記のグラム陽性細菌に対しては抗菌活性を示した。
WST-1細胞を使用するCell counting Kit((株)同仁化学研究所製)を用いて、細胞傷害活性の測定を行った。10%牛胎児血清を含有するRPMI1640培地に、マウス大腸癌由来Colon 26 L−5細胞を10×104 cells/mLになるように懸濁した。
DMSOで溶解したTPU0114を10〜1,000μg/mLとなるように上記の細胞懸濁液に添加し、96穴マイクロプレートに、100μLずつ加えた(化合物の終濃度は、0.1〜10μg/mL)。
その後、ウェルプレートリーダー(サンライズクラシック:テカンジャパン(株)製)を用いて、450nmの吸光強度を測定した。コントロールにはDMSOのみを添加し、コントロールを100%としたときの試料溶液の細胞傷害活性を測定した。
その結果、TPU-0114のIC50値は3μg/mLであり、0.3μg/mLでは、細胞傷害活性は見られなかった。
IC50濃度以下で、TPU0114の基底膜浸潤阻害活性の測定を、membrane invasion culture system (MICS, Hendrix et al (1985) Clin. Exp. Metastasis 3:221-223)(癌と化学療法 31(4):512−517 2004)を用いて行った。
マウス大腸癌由来Colon 26 L-5を4×104 cells/100μLとなるよう同培地に加え、DMSOで溶解したサンプルを、24穴プレートの各穴における最終濃度になるよう加えた。この細胞懸濁液を、フィブロネクチンとマトリゲルとを上記のようにしてコーティングしたトランスウェル・チャンバー内に、100μLずつ分注した。
次いで、ヘマトキシリンに3分間、エオシンに30秒間、それぞれ浸漬して、細胞を染色した。水洗後、綿棒でチャンバー内をふき取り、染色液が付着しなかった細胞を除去した。
コントロールとなるウェルにはDMSOのみを添加し、コントロールを100%としたときの各試料の各濃度における基底膜浸潤阻害活性を測定した。
以上より、TPU-0114は細胞増殖には影響を与えず、細胞傷害活性を示さない濃度範囲で、癌細胞の浸潤阻害活性を有することが示された。
Claims (5)
- 特許生物寄託センターに受託番号: NITE P-769として寄託されたストレプトミセス(Streptomyces)属に属する新規微生物。
- 請求項1に記載のストレプトミセス(Streptomyces)属に属する新規微生物が産生し、癌細胞の周辺組織浸潤阻害活性及び細胞障害活性を有する、下記式(I)で表される化合物。
- 請求項2に記載の化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする抗癌剤。
- 請求項2に記載の化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする、癌細胞の周辺組織浸潤阻害剤。
- 請求項2に記載の化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする抗菌剤。
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