JP5451360B2 - 質量分析装置及び質量分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、質量分析装置及び質量分析方法に関し、特に金属イオンが付着した中性分子の質量を分析するためのイオン付着質量分析技術に関する。
イオン付着質量分析法(IAMS;Ion Attachment Mass Spectrometry)は、中性気相分子(ガス)を解離(フラグメント)させずに本来の分子のままでイオン化させ(分子イオン)、この分子イオンの質量分析を行う質量分析法であり、イオン化の際に分解(解離・開裂・フラグメント)しやすい有機物の分析に有効である。
ここで、非特許文献1〜5にはイオン付着質量分析装置に関する記載がある。また、非特許文献6、7にはイオン付着質量分析装置に対する温度の影響について記述されている。
図7は、固体・液体試料用のイオン付着質量分析装置(以下、質量分析装置と略称する)の構成を例示する図である。図7において、イオン発生源100、試料気化室140は第1容器180、質量分析計160は第2容器190に配設され、第1容器180及び第2容器190は真空ポンプ170により減圧される。よって、イオン発生源100、試料気化室140、及び質量分析計160はすべて大気圧より低い減圧雰囲気に存在している。
イオン発生源100は、チャンバー110内にイオン放出部となるエミッタ120を備えている。エミッタ120はアルミナシリケード(アルミ酸化物とシリコン酸化物の共晶体)にアルカリ金属など(Liなど)の酸化物、炭酸化物、塩などを含有した焼結体であり、減圧雰囲気中で600℃〜800℃程度に加熱されると、その表面からLiなどの正電荷のアルカリ金属イオン(金属イオン)が発生する。中性分子の導入手段となる試料気化室140にて加熱された固体又は液体試料150は、気化された中性分子となる中性気相分子(ガス)となる。その後、中性気相分子は自身の拡散、ガスの流れ、浮力などによりイオン発生源100に移動して、チャンバー110内に導入される。
次に、中性気相分子はイオン発生源100にてイオン化されて分子イオンが生成される。金属イオンは中性気相分子の電荷の片寄りがある場所に付着し、金属イオンが付着した分子(イオン付着分子)は全体として正電荷を持つイオンとなる。
しかし、中性気相分子へ金属イオンが付着した後、イオン付着分子をそのまま(余剰エネルギーを保持したまま)にしておくと、この余剰エネルギーが金属イオンと中性気相分子の間の結合を切って、金属イオンが中性気相分子から離れて元の中性気相分子に戻ってしまう。そこで、イオン発生源100にN2などのガスを50〜100Pa程度の圧力(流量では5〜10sccm)で導入し、イオン付着分子とガス分子が頻繁に衝突するようにする。そうすると、イオン付着分子が保持している余剰エネルギーが他のガス分子に移動してイオン付着分子は安定となる。この他のガスは第三体ガスと呼ばれ、第三体ガスの導入手段となる第三体ガスボンベ200がイオン発生源100に配管を介して連結されてチャンバー110内に導入される。
ここで図9を参照して、第三体ガスの効用について説明する。図9はイオン付着分子近傍のポテンシャルエネルギーを示しており、801は分子近傍のポテンシャル、802は分子に付着する例えばLi等のイオンである。ポテンシャル801は図9に示すようなポテンシャル井戸を持つため、イオン802はポテンシャルの最下点803を中心に振動する。しかし、窒素等の第三体ガスがイオン付着分子と衝突すると、振動ネルギーが第三体ガスに移動し、分子がイオンを付着した状態で安定して存在し続けられるようになる。その結果、分子はフラグメントせずにイオン化する。すなわち、本来の分子のままでイオンとなった分子イオンとなる。
中性気相分子に金属イオンが付着するイオン付着領域210は、エミッタ120から放出された金属イオンと試料成分である中性気相分子と外部から導入された第三体ガスの三者が同時に存在する領域と限定することができる。
最終的には、イオン付着質分子は電場による力を受けてイオン発生源100(チャンバー110の連通孔110a)から質量分析計160まで輸送され、質量分析計160によりイオンの質量ごと分別・測定される。電場の発生方法としては、不図示ではあるが、イオン発生源100全体の電位をプラス(例えば10V)として、質量分析計160全体の電位を0Vとするのが最も一般的である。
本来の分子のままイオン化させることができるイオン付着質量分析法では、以下に説明するように、迅速かつ簡便な測定を高精度で行えるという利点を有する。
イオン付着質量分析法以外では、質量スペクトルに雑多な分解ピークが出現するため、質量分析の前にガスクロマトグラフ(GC)や液体クロマトグラフ(LC)によって成分分離を行う必要がある。また、多くの試料でGC/LCでの成分分離が正常に行えるように試料ごとに異なる複雑で手間のかかる前処理が必要となる。通常、成分分離には数十分、前処理には数時間から数十時間も必要となる。
一方、イオン付着質量分析法では測定される質量スペクトルには分解ピークは存在せず、本来の分子ピークのみが出現する。簡単に言えば、n種の成分を含む試料ではn本のピークが出現し、その質量数から各成分の同定・定量を行うことができる。そのため、複数の成分が存在する混合試料であっても、成分分離せずにそのまま測定することができるので、イオン付着質量分析法以外で必要であった前処理も成分分離も不要で、わずか数分で測定が完了し、迅速かつ簡便な測定を高精度で行える。
図8はガス試料用の従来のイオン付着質量分析装置の他の構成を例示しており、図7と同一の構成には同一の符号を付して示している。試料はガス状なので試料気化室140は存在せず、試料ガスボンベ220からイオン発生源100に直接導入される。その他の構造、動作および測定の際の利点は図7と同様である。
特開平6−11485号公報 特開2001−174437号公報 特開2001−351567号公報 特開2001−351568号公報 特開2002−124208号公報 特開2002−170518号公報 特開2002−298776号公報
Hodge(Analytcal Chemistry vol.48 No.6 P825 (1976)) Bombick(Analytcal Chemistry vol.56 No.3 P396 (1984)) 藤井(Analytcal Chemistry vol.61 No.9 P1026 (1989)) Chemical Physics Letters vol.191 No.1.2 P162 (1992) Rapid Communication in Mass Spectrometry vol.14 P1066 (2000) 分析化学、vol.53 P475 (2004) 真空、vol.50 P234 (2007)
上述したイオン付着方式によるイオン化方法において、イオン発生源での凝縮・吸着の影響を低減するためイオン発生源を一般的な150℃〜200℃に加温すると、一部の物質ではイオン化効率(感度)が大幅に低下する一方、別の物質では凝縮・吸着の影響が残ってしまう。
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、イオン化効率(感度)の低下と凝縮・吸着の両問題を全般的に改善する技術を実現する。
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明の質量分析装置は、連通孔を有し金属イオンを放出するエミッタを有するチャンバーと、前記チャンバー内に中性分子を導入する分子導入部と、前記チャンバー内に他のガスを導入するガス導入部と、前記チャンバー内における前記中性分子に前記金属イオンを付着させる領域の温度を制御する制御部と、前記連通孔から放出される前記金属イオンが付着した中性分子の質量を分析する質量分析計と、を有し、前記制御部は、前記チャンバー内において前記中性分子に前記金属イオンが付着したときの付着エネルギーを横軸、前記中性分子に前記金属イオンを付着させる領域の温度[℃]を縦軸とすると、前記領域の温度[℃]=150×付着エネルギー[eV]及び100×付着エネルギー[eV]−50、20℃並びに、付着エネルギー[eV]=2.1及び0.5で囲まれる範囲から、前記領域の温度150℃以上かつ200℃以下の範囲を除いた範囲にあるように前記領域の温度を調整する。
また、本発明の質量分析方法は、連通孔を有し金属イオンを放出するエミッタを有するチャンバーと、前記チャンバー内に中性分子を導入する分子導入部と、前記チャンバー内に他のガスを導入するガス導入部と、前記連通孔から放出される前記金属イオンが付着した中性分子の質量を分析する質量分析計と、を有する質量分析装置における質量分析方法であって、前記チャンバー内における前記中性分子に前記金属イオンを付着させる領域の温度を制御する制御工程を有し、前記制御工程では、前記チャンバー内において前記中性分子に前記金属イオンが付着したときの付着エネルギーを横軸、前記中性分子に前記金属イオンが付着する領域の温度[℃]を縦軸とすると、前記領域の温度[℃]=150×付着エネルギー[eV]及び100×付着エネルギー[eV]−50、20℃並びに、付着エネルギー[eV]=2.1及び0.5で囲まれる範囲から、前記領域の温度150℃以上かつ200℃以下の範囲を除いた範囲にあるように前記領域の温度を調整する。
本発明によれば、イオン発生源でのイオン化効率(感度)の低下と凝縮・吸着の両問題を改善することができる。その結果、イオン付着方式による迅速かつ簡便な測定を幅広く多くの物質に対して適用することができる。
本発明に係るイオン付着領域の温度範囲を示す図である。 本発明に係る実施形態1の固体・液体試料用の質量分析装置の構成を示す図である。 本発明に係る実施形態2のガス試料用の質量分析装置の構成を示す図である。 本発明に係る実施形態3の固体・液体試料用の質量分析装置の構成を示す図である。 本発明に係る実施形態4のガス試料用の質量分析装置の構成を示す図である。 特許文献6,7による付着エネルギーとイオン化効率(感度)の関係を示す図である。 従来技術による固体・液体試料用の質量分析装置の構成を示す図である。 従来技術によるガス試料用の質量分析装置の構成を示す図である。 第三体ガスの効果を説明する図である。
以下に、添付図面を参照して本発明を実施するための形態について詳細に説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、本発明を実現するための一例であり、本発明が適用される装置の構成や各種条件によって適宜修正又は変更されるべきものであり、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
まず、本発明の実施形態の説明に先立って、本発明に至る経緯について説明する。
<一般の質量分析装置でのイオン発生源の温度について>
一般的に、固体・液体試料を測定する質量分析装置のイオン発生源(チャンバー)は常に加温されている。これは、代表的な電子衝撃イオン化に限らずエレクトロンスプレー、大気圧イオン化など多くのイオン化方式に共通となっており、チャンバーの汚染を防ぐこと、メモリー効果を低減すること、高沸点成分に対しても測定感度を確保するのが目的である。凝縮や吸着の大きさは成分自身の沸点特性に強く依存するので、高温にして高沸点物質をチャンバーにて凝縮・吸着させないようにしている。汚染は成分中の高沸点成分が原因となり、メモリーは凝縮・吸着後の再脱離が原因となっているので、いずれの目的は同じメカニズムに基づいている。
そして、これは重要なポイントであるが、電子衝撃イオン化、エレクトロンスプレー、大気圧イオン化などイオン化方式では原理的にイオン化効率はチャンバー温度に依存しない。そこで、凝縮・吸着の観点、および設計・製造の都合など総合的な判断から、チャンバーの温度は150℃〜200℃とするのが質量分析装置の常識ともなっている。そして、試料の種類応じてチャンバーの温度を大幅に変更することはほとんどない。これらのことから、イオン付着方式による図7、図8でのチャンバーも、質量分析装置の常識的な温度である150℃〜200℃としていた。
<イオン化効率(感度)の温度依存について>
付着エネルギーは中性気相分子への金属イオンの付着しやすさを決定するが、この付着エネルギーは中性気相分子の電荷の分布に大きく依存する。付着エネルギーは実験や理論計算によって求められ、例えば、Liの付着エネルギーは、N2では0.5eV、C26では0.8eV、ヘキサンでは1.0eV、クロロベンゼンでは1.4eV、トルエンでは1.8eV、アセトンでは2.0eVとなっている。しかし、分析にとって重要なイオン化効率、すなわち感度は付着エネルギーに直接比例する訳ではない。本発明者による非特許文献6、7に付着エネルギーと感度の関係について詳しく記述されているが、その最終的な結果を図6に示す。縦軸は対数となっており、付着エネルギーが1eV以下ではイオン化効率(感度)は大幅に低下するが、1eV以上ではほぼ一定となっている。
このメカニズムを簡単に説明すると、第三体ガスとの衝突によって安定化したイオン付着分子であっても金属イオンが離れて元の中性気相分子に戻ってしまうことがある。これは付着エネルギーが弱いほど発生しやすいので、1eV以下ではこの過程が律速・支配的となって大幅なイオン化効率(感度)の低下が発生している。しかし、1eV以上では別の過程である金属イオン104と中性気相分子112の衝突頻度が律速・支配的となるが、衝突頻度は付着エネルギーとは無関係なのでイオン化効率(感度)はほぼ一定となっているのである。なお、図6の結果はガス試料による結果であり、チャンバーの温度は室温としている。また、金属イオンとしてはLiを使用している。
さて、固体・液体試料を測定するためにチャンバーの温度を従来の常識的な150℃〜200℃として多数試料の測定を行ったところ、一部の物質でイオン化効率(感度)は図6で示された値よりも低減していることが明らかとなった。概要として、付着エネルギーが2eV程度の物質では、チャンバーが200℃あたりまではイオン化効率(感度)は図6とほぼ同じであったが、それ以上では減少し、付着エネルギーが1eV程度では100℃あたりまでは同じであるがそれ以上では減少し、また付着エネルギーが0.5eV程度では50℃あたり以上で減少していた。これらの現象は、イオン付着分子から金属イオンが離れるためのエネルギーはイオン付着分子自身の温度が持つ熱エネルギーによって生み出されるので、温度が高いと金属イオンが離れやすくなると考えられる。そこで、理論的にもまた実験結果からも、このイオン化効率(感度)低下の程度は付着エネルギーに概ね反比例することと判断される。すなわち、付着エネルギーの小さな物質ではイオン化効率(感度)の温度依存性が強い(低下が顕著)が、付着エネルギーの大きな物質では温度依存性は弱く(低下は少ない)なっている。
<イオン付着方式でのイオン発生源の温度について>
一般的にイオン発生源のチャンバーは高沸点成分の測定感度確保などのために加温されており、この状況はイオン付着方式でも基本的に同じである。しかしながら、イオン付着方式ではイオン発生源の構造が複雑であって、この影響がより強く出るので沸点の高い物質に対しては一般的な150℃〜200℃では不十分となっている。しかし、一方で上述のように付着エネルギーの低い物質では温度を高くするとイオン化効率(感度)は低減する。すなわち、物質毎に最適なイオン発生源の温度が存在することになり、イオン発生源の温度を選択することが大変重要となっている。
さて、ここで重要となって来たもう一つの要素である沸点に関しても、付着エネルギーと沸点との関係が知られている。付着エネルギーとイオンが付着する物質の沸点には、理論的にもまた実験結果からも、一部に例外があるものの全体的には緩やかな比例関係があると判断された。すなわち、付着エネルギーの小さな物質では概ね沸点は低い(凝縮・吸着は少ない)が、付着エネルギーの大きな物質では概ね沸点は高く(凝縮・吸着が顕著)なっている。この付着エネルギーと沸点の関係は沸点が高い物質はそれに付着したイオンは離れ難いという関係となっている。
本発明は、付着エネルギーに対してイオン化効率(感度)の低下は概ね反比例するが、逆に(付着エネルギーに対して)沸点は緩やかな比例となっていると言う事実によりなされたものである。なお、この事実は本発明者のみが得ている知見であり、公知とはなっていない。
本発明に関連する技術としては、PTR(Proton Transfer Reaction、以降PTRと略記する)があり、これは水素イオンをプロトン親和力の差を利用して被測定分子に移動させるものである。PTRでは被測定分子に付着するイオンが水素イオンで、金属イオンでなく、本発明に関係するイオン化効率(感度)に関する特性が異なる。そして、PTRについては、例えば、加藤俊吾、他1名、「陽子移動反応室質量分析法による揮発性有機物の測定、真空、日本真空協会、Vol.47、第8号、P.600−605に記載されている。この文献の式(3)には温度のパラメータが入っておらず、イオン化効率と温度の関係については開示されていない。従って、RTPにおいてはイオン付着領域の温度等の雰囲気温度は感度に影響しない。
<イオン付着領域の温度制御>
次に、図1及び図2を参照して、本実施形態のイオン付着領域の温度制御について説明する。
本実施形態では、イオン化効率(感度)の低下と凝縮・吸着の両問題を解決するため、付着エネルギーの大きさに応じてイオン発生源100のイオン付着領域210の温度を、図1に示す範囲(A,B,C,D,E)に設定する。詳しくは、制御部300がヒータ130及び流量制御部310を制御することで、イオン付着領域210の温度を調整する。即ち、イオン付着領域210を、図1において、イオン付着領域の温度[℃]=150×付着エネルギー[eV](直線AE)及び温度[℃]=100×付着エネルギー[eV]−50(直線CD)、温度20℃(直線BC)並びに、付着エネルギー[eV]=2.1(直線DE)及び0.5(直線AB)で囲まれる範囲(A,B,C,D,E)にあるように調整する。即ち、範囲(A,B,C,D,E)は、温度[℃]が150×付着エネルギー[eV]で定まる値以下、付着エネルギーが0.5〜2.1eV、100×付着エネルギー[eV] − 50で定まる値以上、温度20℃以上となる。図1において、A点は付着エネルギー0.5eV、温度75℃となり、B点は付着エネルギー0.5eV、温度20℃となり、C点は付着エネルギー0.7eV、温度20℃となり、D点は付着エネルギー2.1eV、温度160℃となり、E点は付着エネルギー2.1eV、温度315℃となる。また、F点は付着エネルギーが約1.3eV、温度200℃となり、G点は付着エネルギーが2.1eV、温度200℃となり、I点は付着エネルギーが2.0eV、温度150℃となり、H点は付着エネルギーが1.0eV、温度150℃となる。
なお、図1の点線で囲まれた範囲J、K、L、Mは、凝縮・吸着の影響を考慮して、従来使用されていた温度範囲であり、J点は付着エネルギー0.2eV、温度200℃となり、K点は付着エネルギー2.25eV、温度200℃となり、L点は付着エネルギー2.25eV、温度150℃となり、M点は付着エネルギー0.2eV、温度150℃である。よって、本発明では、イオン発生源のイオン付着領域の温度を、図1の温度範囲(A,B,C,D,E)から従来使用されていた温度範囲(F,G,I,H)を除いた、図1に示す範囲(A,B,C,I,H)と範囲(E,F,G)の少なくともいずれかに設定するよう特定している。
横軸の付着エネルギーの大きさは金属イオンの種類と成分(中性気相分子)に依存し、その値は厳密にはデータベースあるいは理論計算から求められるが、通常は既知の類似物質から推測することができる。縦軸右の温度はチャンバー110ではなくイオン付着領域210の温度としているが、これは温度が直接関与するのは実際に付着過程が進むイオン付着領域210であるためである。イオン付着領域の温度は、熱容量が小さく熱伝導率が小さい熱電対等の測温器等の温度測定手段をイオン付着領域に直接挿入して、予め、イオン発生源を加熱するヒータの加熱量、イオン付着領域210の温度を低減する第三体ガスの流量と、イオン付着領域の温度との関係を示すテーブルを準備し、このテーブルにしたがって制御部300により、マスフローコントローラなどの流量制御部310とヒータ130とを制御することで調整することができる。制御部300、ヒータ130、流量制御部310は温度制御手段を構成する。なお、ヒータ130だけで、イオン付着領域201の温度制御が可能ならば、温度制御手段はヒータ130と制御部300のみで構成してもよい。
本実施形態では、チャンバー110の内壁温度を高温に維持したままイオン付着領域210の温度を低下させることにより、吸着・凝縮の影響を少なくしつつイオン化効率(感度)を低下させないようにしている。これは、イオン化効率(感度)はイオン付着領域210に依存し、一方凝縮・吸着はチャンバー110の内壁温度に依存していることを利用している。
チャンバー110の内壁温度を高温に維持したままイオン付着領域210の温度を低下させる方法の1つは、チャンバー110に直接取り付けられたヒータ130でチャンバー110の壁部を加熱し、第三体ガスをチャンバー110の内壁温度よりも低い温度で導入することで実現できる。もっとも簡単には第三体ガスを室温のままチャンバー110に導入する。これにより、イオン付着領域210の温度をチャンバー110の内壁温度よりも低くすることができる。また、流量制御部310で、第三体ガスの流量を制御することでイオン付着領域210の温度をチャンバー110の内壁温度よりも低くすることができる。
つまり、チャンバー110に直接取り付けられたヒータ130でイオン付着領域210が加熱されても、チャンバー110内では50〜100Paの第三体ガスが例えば5〜10sccmの流量で入れ替わるので、第三体ガスを室温のまま導入すれば、イオン付着領域210の温度をチャンバー110の内壁温度より低くすることができる。なお、試料がガス試料の場合には、試料も同じようにチャンバー110の内壁温度よりも低い温度、例えば室温で導入することが望ましい。
室温よりも、第三体ガスの温度を低下させるには、チャンバー110の外部で冷却して室温よりも低い温度でチャンバー110へ導入する。これにより、室温の第三体ガスをチャンバー110へ導入するよりも、さらにイオン付着領域210の温度を低下させることができる。なお、試料がガス試料の場合には、試料も同じように外部で冷却して室温よりも低い温度で導入することが望ましい。
以上説明した例では、第三体ガス、又は第三体ガスとガス試料を室温又はそれ未満に冷却してチャンバー110に導入しているが、ガス試料のみを室温又は冷却してチャンバー110に導入することも可能である。
本発明により、チャンバー110の汚染が少なく、メモリー効果が小さく且つ更に測定対象である中性分子の分解を抑えて、高感度という相乗効果を得ることができる。その結果、分解しやすい試料であっても迅速、簡便且つ高精度で質量分析を行うことができる。
以下に、本実施形態の質量分析装置の構成について説明する。
[実施形態1]
図2は本発明に係る実施形態1の固体・液体試料用の質量分析装置の構成を示す図である。なお、図2において、図7と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、イオン付着領域210の温度を金属イオンと中性気相分子によって決定される付着エネルギーの大きさに応じて設定している。チャンバー110の温度は不図示のイオン付着領域210に設けられた熱電対等で測定したり、イオン発生源100を加熱するヒータ130の加熱量と第三体ガスの流量と、イオン付着領域の温度との関係を示すテーブルを用いて換算することで得ることができる。
制御部300は、付着エネルギーの大きさに応じてヒータ130と流量制御部230,240によりチャンバー110の加熱と第三体ガスの流量を制御することで、イオン付着領域210の温度を調整する。第三体ガスは室温のまま導入している。こうして、イオン付着領域210の温度をチャンバー110の内壁温度より低くしている。
上記構成により、イオン発生源100のイオン付着領域210の温度を、図1に示す範囲(A,B,C,D,E)に設定する。
[実施形態2]
図3は本発明に係る実施形態2のガス試料用の質量分析装置の構成を示す図である。なお、図3において、図8と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態では試料がガス状なので試料気化室140は不用であり、試料ガス用のボンベ220からガス試料がチャンバー110内に導入される。
イオン付着領域210の温度は、イオン付着領域210に配設された不図示の熱電対等で測定したり、イオン発生源100を加熱するヒータ130の加熱量と第三体ガスの流量とイオン付着領域の温度との関係を示すテーブルを予め作成することにより求めることができる。
制御部300は、付着エネルギーの大きさに応じてヒータ130と流量制御部310によりチャンバー110の加熱と第三体ガスの流量を制御することで、イオン付着領域210の温度を調整する。第三体ガスは室温のまま導入している。こうして、イオン付着領域210の温度をチャンバー110の内壁温度より低くしている。 上記構成により、イオン発生源100のイオン付着領域210の温度を、図1に示す範囲(A,B,C,D,E)に設定する。
[実施形態3]
図4は本発明に係る実施形態3の固体・液体試料用の質量分析装置の構成を示す図である。なお、図4において、図2と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態では、流量制御部310の代えて冷却装置230が設けられ、第三体ガスを冷却装置230により冷却し、室温よりも低い温度でチャンバー110へ導入する。制御部300によりヒータ130の加熱状態を制御するだけでイオン付着領域210の温度を変化させることができれば、流量制御部310は不用となる。第三体ガスを冷却装置230により冷却し、室温よりも低い温度で導入すれば、イオン付着領域210の温度範囲を拡大することができる。
なお、流量制御部310を追加して第三体ガスの流量を制御すれば、よりイオン付着領域の温度の制御性(応答性や収束性)を向上できることは勿論である。
[実施形態4]
図5は本発明に係る実施形態4のガス試料用の質量分析装置の構成を示す図である。なお、図5において、図3と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態では、流量制御部310に代えて冷却装置230が設けられ、更に試料ガス冷却用の冷却装置240が設けられており、第三体ガスと試料ガスを冷却装置230,240により冷却し、室温よりも低い温度で導入する。
制御部300によりヒータ130の加熱状態を制御するだけでイオン付着領域210の温度を変化させることができれば、流量制御部310は不用となる。第三体ガスを冷却装置230により冷却し、且つ試料ガスを冷却装置240により冷却し、室温よりも低い温度で導入すれば、イオン付着領域210の温度範囲を拡大することができる。ここでは、冷却装置230,240により第三体ガスと試料ガスを冷却しているが、第三体ガスと試料ガスのいずれか一方を冷却してもよい。なお、流量制御部310を追加して第三体ガスの流量を制御すれば、よりイオン付着領域の温度の制御性(応答性や収束性)を向上できることは勿論である。
以上説明した実施形態及び各実施形態では、金属イオンとしてイオン種を特定しなかったが、具体的にはアルカリ金属イオンであるLiやNa、あるいはK、Rb、Cs、さらに、Al、Ga、Inなども使用できる。また、質量分析計160としてはQポール型質量分析計(QMS: Quadrupole Mass Spectrometer)、イオントラップ型質量分析計(IT: Ion Trap)、磁場セクター型質量分析計(MS: Mass Spectrometer (Spectrometry))、飛行時間型質量分析計(TOF: Time of Flight)、イオンサイクロトロンレゾナンス型質量分析計(ICR :Ion Cyclotron Resonance)などあらゆる種類の質量分析計を使用することができる。
さらに全体構造としては、イオン発生源100が設けられた第1容器180と、質量分析計160が設けられた第2容器190とによる二室構造を例示したが、これに限らない。イオン発生源100の外側の空間の圧力は0.01〜0.1Paとなるが、この圧力で動作できる質量分析計では一室構造が可能であり、一方、桁違いに低い圧力を必要とする質量分析計では三室あるいは四室構造となる。一般的に、超小型QMSやITでは一室構造、通常のQMSやMSでは二室構造、TOFは三室構造、ICRは四室構造が適当と考えられる。
イオン付着方式による迅速かつ簡便な測定を多くの物質に対して適用することができるので、幅広く材料開発・製品検査・環境調査・バイオ研究など幅広い分野に好適に用いることができる。

Claims (8)

  1. 連通孔を有し金属イオンを放出するエミッタを有するチャンバーと、
    前記チャンバー内に中性分子を導入する分子導入部と、
    前記チャンバー内に他のガスを導入するガス導入部と、
    前記チャンバー内における前記中性分子に前記金属イオンを付着させる領域の温度を制御する制御部と、
    前記連通孔から放出される前記金属イオンが付着した中性分子の質量を分析する質量分析計と、を有し、
    前記制御部は、前記チャンバー内において前記中性分子に前記金属イオンが付着したときの付着エネルギーを横軸、前記中性分子に前記金属イオンを付着させる領域の温度[℃]を縦軸とすると、前記領域の温度[℃]=150×付着エネルギー[eV]及び100×付着エネルギー[eV]−50、20℃並びに、付着エネルギー[eV]=2.1及び0.5で囲まれる範囲から、前記領域の温度150℃以上かつ200℃以下の範囲を除いた範囲にあるように前記領域の温度を調整することを特徴とする質量分析装置。
  2. 前記制御部は、前記領域の温度[℃]=150×付着エネルギー[eV]、200℃及び付着エネルギー[eV]=2.1で囲まれる範囲と、前記領域の温度[℃]=150×付着エネルギー[eV]、150℃、100×付着エネルギー[eV]−50、20℃及び付着エネルギー[eV]=0.5で囲まれる範囲の少なくともいずれかにあるように前記領域の温度を調整することを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
  3. 前記制御部は、前記領域の温度を前記チャンバーの壁部の温度より低くすることを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
  4. 前記分子導入部は、固体又は液体試料を加熱して気化させたガス状の中性分子を導入することを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
  5. 前記チャンバーを加熱するヒータを更に有し、
    前記制御部は、前記ヒータを加熱して前記領域を昇温させ、かつ前記チャンバーへの前記他のガスの導入量を増加させることで前記領域の温度を低下させることを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
  6. 前記他のガスを冷却する冷却装置を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
  7. 前記中性分子を冷却する冷却装置を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
  8. 連通孔を有し金属イオンを放出するエミッタを有するチャンバーと、
    前記チャンバー内に中性分子を導入する分子導入部と、
    前記チャンバー内に他のガスを導入するガス導入部と、
    前記連通孔から放出される前記金属イオンが付着した中性分子の質量を分析する質量分析計と、を有する質量分析装置における質量分析方法であって、
    前記チャンバー内における前記中性分子に前記金属イオンを付着させる領域の温度を制御する制御工程を有し、
    前記制御工程では、前記チャンバー内において前記中性分子に前記金属イオンが付着したときの付着エネルギーを横軸、前記中性分子に前記金属イオンが付着する領域の温度[℃]を縦軸とすると、前記領域の温度[℃]=150×付着エネルギー[eV]及び100×付着エネルギー[eV]−50、20℃並びに、付着エネルギー[eV]=2.1及び0.5で囲まれる範囲から、前記領域の温度150℃以上かつ200℃以下の範囲を除いた範囲にあるように前記領域の温度を調整することを特徴とする質量分析方法。
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