1.第一の実施形態
本発明に係る制御装置の第一の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態に係る制御装置3は、駆動装置1を制御対象とする駆動装置用制御装置とされている。ここで、本実施形態に係る駆動装置1は、駆動力源として内燃機関11及び回転電機12の双方を備えた車両(ハイブリッド車両)6を駆動するための車両用駆動装置(ハイブリッド車両用駆動装置)である。以下、本実施形態に係る制御装置3について、詳細に説明する。
1−1.駆動装置の構成
まず、本実施形態に係る制御装置3による制御対象となる駆動装置1の構成について説明する。本実施形態に係る駆動装置1は、いわゆる1モータパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている。この駆動装置1は、図1に示すように、内燃機関11に駆動連結される入力軸Iと車輪15に駆動連結される出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路上に、入力軸Iの側から、発進クラッチCS、回転電機12、及び変速機構13、の順に備えている。これらは、同軸上に配置されている。なお、変速機構13には後述するように変速用の第一クラッチC1が備えられており、これにより、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路上に、入力軸Iの側から、発進クラッチCS、回転電機12、及び第一クラッチC1、の順に設けられている。これらの各構成は、駆動装置ケース(図示せず)内に収容されている。本実施形態においては、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。
内燃機関11は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。内燃機関11は入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。本例では、内燃機関11のクランクシャフト等の出力軸が入力軸Iに駆動連結されている。なお、内燃機関11が、ダンパ等の他の装置を介して入力軸Iに駆動連結された構成としても好適である。内燃機関11は、発進クラッチCSを介して回転電機12に駆動連結されている。
発進クラッチCSは、内燃機関11と回転電機12との間に設けられており、入力軸Iと中間軸Mとを選択的に駆動連結する摩擦係合装置である。本実施形態では、発進クラッチCSは、湿式多板クラッチとして構成されている。また、本実施形態においては、発進クラッチCSは、その周囲を覆うハウジング(クラッチハウジング)内に油密状態で配置されており、基本的には当該ハウジング内において常時油に浸っている。本実施形態では、その全体が常時油に浸った構成を採用することで、発進クラッチCSの冷却性能を良好に維持することが可能となっている。本実施形態においては、発進クラッチCSが本発明における「第一係合装置」に相当する。
回転電機12は、不図示の駆動装置ケースに固定されたステータ12aと、このステータ12aの径方向内側に回転自在に支持されたロータ12bと、を有する。回転電機12は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。ロータ12bは、中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。また、回転電機12は、蓄電装置(図示せず)に電気的に接続されている。本例では、蓄電装置としてバッテリを用いている。なお、蓄電装置としてキャパシタ等を用いても好適である。回転電機12は、バッテリから電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関11が出力するトルクや車両6の慣性力により発電した電力をバッテリに供給して蓄電させる。また、ロータ12bと一体回転する中間軸Mは、変速機構13に駆動連結されている。すなわち、中間軸Mは、変速機構13の入力軸(変速入力軸)となっている。本実施形態においては、中間軸Mが本発明における「変速入力部材」に相当する。
変速機構13は、本実施形態では、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に有する自動有段変速機構である。変速機構13は、これら複数の変速段を形成するために、一又は二以上の遊星歯車機構等の歯車機構と、この歯車機構の回転要素の係合又は解放を行い、変速段を切り替えるためのクラッチやブレーキ等の複数の摩擦係合装置と、を備えている。ここでは、変速機構13は変速用の複数の摩擦係合装置のうちの1つとして、第一クラッチC1を備えている。本実施形態では、第一クラッチC1は、湿式多板クラッチとして構成されている。第一クラッチC1は、中間軸Mと変速機構13内に設けられた変速中間軸Sとを選択的に駆動連結するように設けられている。本実施形態においては、第一クラッチC1が本発明における「第二係合装置」に相当する。変速中間軸Sは、変速機構13内の他の摩擦係合装置や軸部材を介して出力軸Oに駆動連結されている。
変速機構13は、複数の摩擦係合装置の係合状態に応じて形成される各変速段についてそれぞれ設定された所定の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速するとともにトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速機構13から出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置14を介して左右二つの車輪15に分配されて伝達される。これにより、駆動装置1は、内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方のトルクを車輪15に伝達させて車両6を走行させることができる。
また、本実施形態においては、駆動装置1は、中間軸Mに駆動連結されるオイルポンプ(図示せず)を備えている。オイルポンプは、オイルパン(図示せず)に蓄えられた油を吸引し、駆動装置1の各部に油を供給するための油圧源として機能する。オイルポンプは、中間軸Mを介して伝達される回転電機12及び内燃機関11の一方又は双方の駆動力により駆動されて作動し、油を吐出して油圧を発生させる。オイルポンプからの圧油は、油圧制御装置25により所定油圧に調整されてから、発進クラッチCSや変速機構13内に備えられる第一クラッチC1等に供給される。なお、このオイルポンプとは別に、電動オイルポンプを備えた構成としても良い。
また、図1に示すように、この駆動装置1が搭載された車両6の各部には、複数のセンサ、具体的には、入力軸回転速度センサSe1、ロータ位置センサSe2、出力軸回転速度センサSe3、及びアクセル開度検出センサSe4が備えられている。入力軸回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するセンサである。入力軸回転速度センサSe1により検出される入力軸Iの回転速度は、内燃機関11の回転速度に等しい。
ロータ位置センサSe2は、回転電機12のステータ12aに対するロータ12bの回転位置を検出するセンサである。本実施形態では、ロータ位置センサSe2としてレゾルバを用いている。レゾルバは、回転電機12のロータ12bと一体回転する励磁コイルと、駆動装置ケースに固定された2組の検出コイルと、を備えており、励磁コイルの回転角に対して非常に高い分解能で正弦波状に振幅が変化する2相の信号(各相の信号は、互いにπ/2だけ位相が異なる)に基づいてロータ12bの回転位置を検出する。このようにして検出されるロータ12bの回転位置は、非常に高精度なものである。また、本実施形態では、検出されたロータ12bの回転位置の情報に基づいて、ロータ12bの回転速度や回転加速度を導出して取得することもできる。そして、このようなレゾルバによれば、ロータ12bの回転速度の大きさによることなく、常に高精度にロータ12bの回転位置、回転速度、及び回転加速度の情報を取得することが可能である。本実施形態においては、ロータ位置センサSe2が本発明における「回転センサ」に相当する。なお、本実施形態ではロータ12bと中間軸Mとが一体回転するので、ロータ12bの回転速度及び回転加速度は、中間軸Mの回転速度及び回転加速度に一致する。
出力軸回転速度センサSe3は、出力軸Oの回転速度を検出するセンサである。本実施形態では、出力軸回転速度センサSe3として、パルス型検出器の一種である電磁ピックアップセンサを用いている。電磁ピックアップセンサは、出力軸Oと一体回転するように設けられたパルス発生用の突起物(本例では、パーキングロック機構の一部を構成するパーキングギヤ19)に対向配置されたピックアップコイルを備えており、突起物の回転に伴ってピックアップコイルに発生するパルス状電圧に基づいて出力軸Oの回転速度を検出する。本実施形態では、電磁ピックアップセンサを用いて、安価にかつ比較的単純な処理により、出力軸Oの回転速度を検出することができる。なお、このような電磁ピックアップセンサを用いた検出方式は、特に高速回転の検出に適したものである。なお、本例では、出力軸回転速度センサSe3により検出される出力軸Oの回転速度に基づいて車速を導出して取得することもできる。
アクセル開度検出センサSe4は、アクセルペダル17の操作量を検出することによりアクセル開度を検出するセンサである。これらの各センサSe1〜Se4による検出結果を示す情報は、次に説明する内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40へ出力される。
1−2.制御装置の構成
次に、本実施形態に係る制御装置3の構成について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る制御装置3は、主に内燃機関11を制御するための内燃機関制御ユニット30と、主に回転電機12、発進クラッチCS、及び変速機構13を制御するための駆動装置制御ユニット40と、を備えている。内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40は、駆動装置1の各部の動作制御を行う中核部材としての機能を果たしている。
この内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40は、それぞれCPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、RAMやROM等の記憶装置等を有して構成されている(図示せず)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40の各機能部が構成されている。これらの各機能部は、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。更に、内燃機関制御ユニット30と駆動装置制御ユニット40との間でも、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。また、内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40は、上述した各センサSe1〜Se4による検出結果の情報を取得可能に構成されている。
内燃機関制御ユニット30は、内燃機関制御部31を備えている。
内燃機関制御部31は、内燃機関11の動作制御を行う機能部である。内燃機関制御部31は、内燃機関11の出力トルク(内燃機関トルクTe)及び回転速度の制御目標を決定し、この制御目標に応じて内燃機関11を動作させることにより、内燃機関11の動作制御を行う。本実施形態では、内燃機関制御部31は、車両6の通常走行時には、後述する要求トルク決定部42により決定される車両要求トルクTdのうち、内燃機関11による負担分である内燃機関要求トルクを決定する。そして、内燃機関制御部31は、決定された内燃機関要求トルクに基づいて内燃機関トルクTeを制御する。
駆動装置制御ユニット40は、走行モード決定部41、要求トルク決定部42、回転電機制御部43、発進クラッチ動作制御部44、変速機構動作制御部45、内燃機関始動制御部46、及びスリップ判定部47を備えている。
走行モード決定部41は、車両6の走行モードを決定する機能部である。走行モード決定部41は、例えば出力軸回転速度センサSe3により検出される車速と、アクセル開度検出センサSe4により検出されるアクセル開度と、バッテリ状態検出センサ(図示せず)により検出されるバッテリ充電量等に基づいて、駆動装置1が実現すべき走行モードを決定する。その際、走行モード決定部41は、メモリ等の記録装置に記憶して備えられた、車速、アクセル開度及びバッテリ充電量と走行モードとの関係を規定したモード選択マップを参照する。
例えば、車両6の発進時には、電動走行モードが選択される。この電動走行モードでは、発進クラッチCSが解放状態とされ、回転電機12の出力トルク(回転電機トルクTm)のみにより車両6を走行させる。本例では、例えば電動走行モードでの走行中に、車両要求トルクTdに対して回転電機トルクTmが不足する場合やバッテリ充電量が所定値以下にまで減少した場合には、内燃機関始動条件が成立したと判定される。内燃機関始動条件が成立すると、後述する内燃機関始動制御を実行して、電動走行モードからパラレルモードに移行することができる。このパラレルモードでは、発進クラッチCSが完全係合状態とされ、少なくとも内燃機関トルクTeが出力軸Oを介して車輪15に伝達された状態となって車両6を走行させる。その際、回転電機12は、必要に応じてトルクを出力して内燃機関トルクTeによる駆動力を補助する。なお、ここで説明したモードは一例であり、これら以外の各種モードを備える構成を採用することも可能である。
要求トルク決定部42は、車両6を走行させるために必要とされる車両要求トルクTdを決定する機能部である。要求トルク決定部42は、出力軸回転速度センサSe3により検出される車速と、アクセル開度検出センサSe4により検出されるアクセル開度とに基づいて、所定のマップ(図示せず)を参照する等して車両要求トルクTdを決定する。要求トルク決定部42により決定された車両要求トルクTdは、内燃機関制御部31及び回転電機制御部43に出力される。
回転電機制御部43は、回転電機12の動作制御を行う機能部である。回転電機制御部43は、回転電機トルクTm及び回転速度の制御目標を決定し、この制御目標に応じて回転電機12を動作させることにより、回転電機12の動作制御を行う。本実施形態では、回転電機制御部43は、車両6の通常走行時には、要求トルク決定部42により決定される車両要求トルクTdのうち、回転電機12による負担分である回転電機要求トルクを決定する。そして、回転電機制御部43は、決定された回転電機要求トルクに基づいて回転電機トルクTmを制御する。なお、内燃機関制御部31と回転電機制御部43とが協働することにより、内燃機関トルクTeと回転電機トルクTmとの合計が車両要求トルクTdに等しくなるように、内燃機関11及び回転電機12の動作が制御される。
発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSの動作を制御する機能部である。ここで、発進クラッチ動作制御部44は、油圧制御装置25を介して発進クラッチCSに供給される油圧を制御することにより、発進クラッチCSの動作を制御する。例えば、発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSに対する油圧指令値Pcsを出力し、油圧制御装置25を介して発進クラッチCSへの供給油圧をストロークエンド圧以下の圧とすることにより、発進クラッチCSを解放状態とする。また、発進クラッチ動作制御部44は、油圧制御装置25を介して発進クラッチCSへの供給油圧を完全係合圧とすることにより、発進クラッチCSを完全係合状態とする。ここで、「完全係合状態」は、発進クラッチCSの入力側回転部材と出力側回転部材とが一体回転する状態で係合されている状態(直結係合状態)である。また、「ストロークエンド圧」は、発進クラッチCSがスリップ係合を開始する直前の係合直前状態となる圧であり、「完全係合圧」は、発進クラッチCSが、当該発進クラッチCSに伝達されるトルクの変動に関わらずに定常的に完全係合状態となる圧である(以下、他の係合装置についても同様)。
また、発進クラッチ動作制御部44は、油圧制御装置25を介して発進クラッチCSへの供給油圧をストロークエンド圧より大きく、かつ完全係合圧未満のスリップ境界圧より小さい圧(スリップ係合圧)とすることにより、発進クラッチCSをスリップ状態とする。ここで、「スリップ状態」は、解放状態と完全係合状態との間の、係合開始後であってかつ完全係合前のスリップ係合状態(滑り係合状態)である。また、「スリップ境界圧」は、発進クラッチCSが完全係合状態とスリップ状態との境界のスリップ境界状態となる圧である(以下、他の係合装置についても同様)。発進クラッチCSのスリップ状態では、入力軸Iと中間軸Mとが相対回転する状態で、これらの間で駆動力が伝達される。すなわち、発進クラッチCSのスリップ状態では、当該発進クラッチCSのスリップ状態で、入力軸Iと中間軸Mとの間でトルクの伝達を行うことができる。なお、発進クラッチCSの完全係合状態又はスリップ状態で伝達可能なトルクの大きさは、発進クラッチCSのその時点での係合圧に応じて決まる。このときのトルクの大きさを、発進クラッチCSの「伝達トルク容量Tcs」とする。本実施形態では、発進クラッチCSに対する油圧指令値Pcsに応じて、比例ソレノイド等で発進クラッチCSへの供給油量及び供給油圧の大きさを連続的に制御することにより、伝達トルク容量Tcsの増減が連続的に制御可能となっている。なお、発進クラッチCSのスリップ状態で伝達されるトルクの向きは、入力軸Iと中間軸Mとの間の相対回転の向きに応じて決まる。
変速機構動作制御部45は、変速機構13の動作を制御する機能部である。変速機構動作制御部45は、アクセル開度及び車速に基づいて目標変速段を決定すると共に、変速機構13に対して決定された目標変速段を形成させる制御を行う。その際、変速機構動作制御部45は、メモリ等の記録装置に記憶して備えられた、車速及びアクセル開度と目標変速段との関係を規定した変速マップ(図示せず)を参照する。変速マップは、アクセル開度及び車速に基づくシフトスケジュールを設定したマップである。変速機構動作制御部45は、決定された目標変速段に基づいて、変速機構13内に備えられる所定の摩擦係合装置への供給油圧を制御して目標変速段を形成する。
上記のとおり、変速機構13には変速用の第一クラッチC1が備えられている。この第一クラッチC1は、例えば係合状態でワンウェイクラッチと協働して第1速段を形成する。この第一クラッチC1も、当然に変速機構動作制御部45の制御対象に含まれる。ここでは、第一クラッチC1の動作を制御する機能部を、特に第一クラッチ動作制御部45aとする。第一クラッチ動作制御部45aは、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1に供給される油圧を制御することにより、第一クラッチC1の動作を制御する。例えば、第一クラッチ動作制御部45aは、第一クラッチC1に対する油圧指令値Pc1を出力し、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1への供給油圧をストロークエンド圧以下の圧とすることにより、第一クラッチC1を解放状態とする。また、第一クラッチ動作制御部45aは、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1への供給油圧を完全係合圧とすることにより、第一クラッチC1を完全係合状態とする。
また、第一クラッチ動作制御部45aは、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1への供給油圧をストロークエンド圧より大きくかつスリップ境界圧より小さい圧(スリップ係合圧)とすることにより、第一クラッチC1をスリップ状態とする。第一クラッチC1のスリップ状態では、中間軸Mと変速中間軸Sとが相対回転する状態で、これらの間で駆動力が伝達される。すなわち、第一クラッチC1のスリップ状態では、当該第一クラッチC1のスリップ状態で、中間軸Mと変速中間軸Sとの間でトルクの伝達を行うことができる。なお、第一クラッチC1の完全係合状態又はスリップ状態で伝達可能なトルクの大きさは、第一クラッチC1のその時点での係合圧に応じて決まる。このときのトルクの大きさを、第一クラッチC1の「伝達トルク容量Tc1」とする。本実施形態では、第一クラッチC1に対する油圧指令値Pc1に応じて、比例ソレノイド等で第一クラッチC1への供給油量及び供給油圧の大きさを連続的に制御することにより、伝達トルク容量Tc1の増減が連続的に制御可能となっている。なお、第一クラッチC1のスリップ状態で伝達されるトルクの向きは、中間軸Mと変速中間軸Sとの間の相対回転の向きに応じて決まる。
内燃機関始動制御部46は、内燃機関11の停止状態で回転電機12のトルク(回転電機トルクTm)により内燃機関11を始動させる内燃機関始動制御を行う機能部である。例えば電動走行モードでの走行中に内燃機関始動条件が成立した場合、この内燃機関始動制御部46を中核として、回転電機トルクTmの一部を車輪15に伝達しながら、回転電機トルクTmの他の一部により内燃機関11を始動させる制御が実行される。以下、本実施形態に係る内燃機関始動制御の内容について、詳細に説明する。
1−3.内燃機関始動制御の内容
本実施形態に係る内燃機関始動制御の具体的内容について、図2及び図3を参照して説明する。例えば時刻T01(図3においては時刻T11、以下同様)において内燃機関始動条件が成立すると、内燃機関始動制御が開始される。本実施形態においては、内燃機関始動制御の開始時には、第一クラッチ動作制御部45aは、時刻T02から時刻T03にかけて(時刻T12から時刻T13にかけて)第一クラッチC1に対する油圧指令値Pc1を完全係合圧から徐々に低下させる。第一クラッチ動作制御部45aからの油圧指令値Pc1に応じて、油圧制御装置25を介した第一クラッチC1への供給油圧は徐々に低下し、やがて時刻T03(時刻T13)において車両要求トルクTdと第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1とが釣り合ったときに第一クラッチC1はスリップ状態となる。すなわち、第一クラッチC1に対する油圧指令値Pc1を完全係合圧から徐々に低下させることにより、第一クラッチC1を完全係合状態からスリップ状態へ移行させる。このとき、第一クラッチC1のスリップ状態の開始の判定処理(スリップ判定処理)は、スリップ判定部47により行われる。スリップ開始判定がなされた時刻T03(時刻T13)以降、実質的な内燃機関始動制御が開始されることになる。
1−3−1.スリップ判定処理
そこで、ここではまず、スリップ判定処理の内容について説明する。本実施形態では、スリップ判定部47は、出力軸Oの回転速度の大きさに応じて異なる方式で第一クラッチC1のスリップ開始判定を行う構成を採用している。なお、図2は車速が比較的高い場合のタイムチャートを示しており、図3は車速が比較的低い場合のタイムチャートを示している。
本例では、出力軸Oの回転速度が予め設定された基準回転速度Vsよりも大きい状態である高車速状態の場合(図2を参照)には、スリップ判定部47は、少なくとも出力軸回転速度センサSe3により検出される出力軸Oの回転速度に基づいてスリップ開始判定を行う。より具体的には、スリップ判定部47は、出力軸回転速度センサSe3により検出される出力軸Oの回転速度と中間軸Mから出力軸Oまでの動力伝達経路における変速比(本例では、変速機構13において形成された変速段の変速比)とに基づいて、これらの乗算値として中間軸M(ロータ12b)の目標回転速度Ntを取得すると共に、ロータ位置センサSe2の出力に基づいて中間軸M(ロータ12b)の実回転速度Nmを取得し、実回転速度Nmと目標回転速度Ntとの間の差回転速度ΔNに基づいてスリップ開始判定を行う。なお、中間軸Mの目標回転速度Ntは、第一クラッチC1の完全係合状態における変速中間軸Sの推定回転速度Npに一致する。スリップ判定部47は、差回転速度ΔNが予め設定された所定のスリップ判定速度Na以上となったことの検出を条件として、第一クラッチC1がスリップを開始したと判定する。このようなスリップ判定速度Naとしては、例えば10〜50rpm等の値を設定することができる。なお、このようなスリップ開始判定は、従来から行われているものと同様の判定手法である。
ところで、本実施形態においては、上記のとおり出力軸回転速度センサSe3として電磁ピックアップセンサを用いている。この電磁ピックアップセンサのようなパルス型検出器では、その検出方式に起因して、検出対象部材(ここでは、出力軸O)が高速で回転する場合にはその回転速度を比較的高精度に検出することができるが、検出対象部材(同じく、出力軸O)が低速で回転する場合にはその回転速度の検出精度が低下するという課題がある。出力軸Oの回転速度の検出精度が低下した場合、中間軸Mの目標回転速度Ntの精度も低下するため、スリップ判定部47が上記のように実回転速度Nmと目標回転速度Ntとの間の差回転速度ΔNに基づいてスリップ開始判定を行う構成とすると、当該スリップ開始判定を正確に行うことができない可能性がある。
そこで本例では、出力軸Oの回転速度が予め設定された基準回転速度Vs以下の状態である低車速状態の場合(図3を参照)には、スリップ判定部47は、出力軸回転速度センサSe3の出力に基づくことなく、ロータ位置センサSe2の出力のみに基づいてスリップ開始判定を行う。より具体的には、スリップ判定部47は、ロータ位置センサSe2の出力に基づいて中間軸M(ロータ12b)の回転加速度Aを取得し、この回転加速度Aに基づいてスリップ開始判定を行う。すなわち、スリップ判定部47は、中間軸Mの回転加速度Aの急変、より具体的には当該回転加速度Aの変化量ΔAが予め設定された所定のスリップ判定量Aa以上となったこと、の検出を条件として、第一クラッチC1がスリップを開始したと判定する。このようなスリップ判定量Aaとしては、例えば700〜1000rpm/min等の値を設定することができる。
低車速状態における上記のようなスリップ開始判定が可能なのは、以下のような原理による。つまり、本実施形態においてロータ位置センサSe2を構成するレゾルバは、回転電機12のロータ12bの回転位置を検出するものであるため、出力軸回転速度センサSe3を構成する電磁ピックアップセンサとは異なり、出力軸Oの回転速度の大きさによらずに常に高精度にロータ12bの回転位置、回転速度、及び回転加速度を検出することが可能である。よって、ロータ12bと一体回転する中間軸Mの回転速度及び回転加速度も、常に高精度に検出することが可能である。そして、第一クラッチC1の入力側回転部材である中間軸Mと出力側回転部材である変速中間軸Sとが一体回転する状態からスリップを開始する瞬間には、車輪15側に駆動連結された変速中間軸Sの推定回転速度Npがほぼ一定に保たれたままでロータ12b及び中間軸Mの回転速度が大きく上昇する。言い換えれば、第一クラッチC1がスリップを開始する瞬間には、ロータ12b及び中間軸Mの回転加速度Aは急変して大きく上昇する。そこで、スリップ判定部47は、ロータ12b及び中間軸Mの回転加速度Aを常に監視しておき、当該回転加速度Aが上記スリップ判定量Aa以上となった時点を判定することで、低車速状態でも高精度にスリップ開始判定を行うことができる。
ここで、ロータ位置センサSe2に期待できる中間軸Mの回転加速度Aの検出精度は、出力軸Oの回転速度によらずに一定であるのに対して、出力軸回転速度センサSe3に期待できる出力軸Oの回転速度の検出精度は、出力軸Oの回転速度が小さいほど低く出力軸Oの回転速度が大きいほど高い。そして、出力軸Oの回転速度が所定値以上の状態では、ロータ位置センサSe2による回転加速度Aの検出精度に対して出力軸回転速度センサSe3による出力軸Oの回転速度の検出精度が相対的に高くなる。そのため、本実施形態では、出力軸Oの回転速度との関係でロータ位置センサSe2及び出力軸回転速度センサSe3のそれぞれに期待できる検出精度を考慮して、高車速状態と低車速状態とを判別するための基準回転速度Vsが設定されている。このような基準回転速度Vsは、予め実験的に求めて或いは理論に基づいて取得され、例えば20〜300rpm等の値とすることができる。本実施形態においては、基準回転速度Vsが、本発明における低車速状態と高車速状態とを判別するための「所定値」に相当する。
また、本実施形態では、スリップ開始判定を行うに際して、スリップ判定部47は中間軸Mの回転加速度Aを所定周期で逐次繰り返して取得する。そして、スリップ判定部47は、中間軸Mの回転加速度Aの変化量ΔAが上記スリップ判定量Aa以上となった後、変化前の回転加速度Aに対してスリップ判定量Aa以上の差を有する状態が所定期間以上継続した場合に初めて、第一クラッチC1がスリップを開始したと判定する。より具体的には、スリップ判定部47は、ある検出周期において中間軸Mの回転加速度Aの変化量ΔAがスリップ判定量Aa以上となったことを判定すると、その直前の検出周期における中間軸Mの回転加速度Aを判定用回転加速度Abとしてメモリ等に一時的に記憶し、カウンタ値を「1」とする。スリップ判定部47は、その後の各検出周期において、中間軸Mの回転加速度Aと判定用回転加速度Abとの間の差(=A−Ab)がスリップ判定量Aa以上であると判定すると、カウンタ値に「1」を加算する。スリップ判定部47は、やがてカウンタ値が予め定められた判定基準数(例えば、2〜10等)に達したとき、その時点において第一クラッチC1がスリップを開始したと判定する。なお、判定基準数に達する前に中間軸Mの回転加速度Aと判定用回転加速度Abとの間の差(=A−Ab)がスリップ判定量Aa未満となった場合には、スリップ判定部47はカウンタ値を「0」に設定し直して、再度上記のスリップ判定処理を行う。
1−3−2.実質的な内燃機関始動制御
時刻T03(時刻T13)において第一クラッチC1のスリップ開始が判定されると、第一クラッチ動作制御部45aは、第一クラッチC1への油圧指令値Pc1をスリップ開始判定時における値に固定する。第一クラッチ動作制御部45aからの油圧指令値Pc1に応じて、油圧制御装置25を介した第一クラッチC1への供給油圧はその時点の値に固定される。第一クラッチC1への供給油圧は、その後内燃機関11が始動することになる時刻T06(時刻T16)まで一定値に維持される。従って、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1も、時刻T06(時刻T16)までスリップ開始判定時における値に維持される。これにより、内燃機関11及び回転電機12側から第一クラッチC1を介して出力軸Oに伝達されるトルクの大きさが一定に維持される。
また、回転電機12の制御を回転速度制御とする。なお、「回転速度制御」は、回転電機12に目標回転速度を指令し、回転電機12の回転速度をその目標回転速度に追従させるように目標トルクを決定する制御である。本実施形態では、回転電機12の目標回転速度を、第一クラッチC1の出力側回転部材である変速中間軸Sの推定回転速度Npに所定の目標差回転速度(例えば、50〜300rpm)を加算した値に設定する。なお、変速中間軸Sの推定回転速度Npは、出力軸回転速度センサSe3により検出される出力軸Oの回転速度と中間軸Mから出力軸Oまでの動力伝達経路における変速比(本例では、変速機構13において形成された変速段の変速比)とに基づいて、これらの乗算値として導出可能である。このとき、低車速状態では上記のとおり出力軸回転速度センサSe3の検出精度が低下するため変速中間軸Sの推定回転速度Npの精度も比較的低くなるが、ここでは変速中間軸Sの推定回転速度Npは回転電機12の目標回転速度を設定するための基準速度を規定するだけであるので、特に問題はない。これにより、第一クラッチC1が適切にスリップ状態に制御される。なお、回転電機12の目標トルクは、上記の目標回転速度を達成するように自動的に設定される。
その後、時刻T04(時刻T14)から発進クラッチCSの係合制御が実行される。ここでは、発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを内燃機関11の被駆動トルクに応じた大きさとするように、発進クラッチCSへの油圧指令値Pcsを上昇させる。発進クラッチ動作制御部44からの油圧指令値Pcsに追従して、油圧制御装置25を介した発進クラッチCSへの供給油圧も上昇し、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsは時刻T05(時刻T15)において内燃機関11の被駆動トルク相当値となる。なお、内燃機関11の「被駆動トルク」は、当該内燃機関11の出力軸であるクランクシャフトを回転駆動(クランキング)するために外部から供給する必要があるトルクである。
その後、内燃機関始動制御部46は、発進クラッチCSを介して伝達される回転電機トルクTmの一部により、内燃機関11を回転駆動(クランキング)して内燃機関11の回転速度を上昇させる。内燃機関11の回転速度が上昇して、やがて点火可能回転速度に達すると、内燃機関始動制御部46は、内燃機関11の燃焼室への燃料噴射を開始すると共にその燃焼室内に噴射された燃料に対して点火して、内燃機関11を始動させる。その後、時刻T06(時刻T16)から内燃機関11は自立運転することになる。本実施形態では、第一クラッチC1のスリップ状態で内燃機関始動制御を実行することで、内燃機関11の始動時における中間軸Mの回転速度変化の影響を受けることなく、第一クラッチC1を介したトルク伝達の向きを一定の向き(ここでは、中間軸M側から出力軸O側へ向かう向き)に維持させることができる。また、第一クラッチC1を介して出力軸O側に伝達されるトルクの大きさを、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1に応じた大きさに維持させることができる。これにより、内燃機関11を始動させる際のショックの発生を抑制することができる。
内燃機関11が自立運転を開始した後は、第一クラッチ動作制御部45aは、時刻T06〜時刻T07(時刻T16〜時刻T17)の所定のタイミングで第一クラッチC1への油圧指令値Pc1を適宜上昇させる。第一クラッチC1への供給油圧は、油圧指令値Pc1に追従して上昇する。また、発進クラッチ動作制御部44は、時刻T07〜時刻T08(時刻T17〜時刻T18)の所定のタイミングで発進クラッチCSへの油圧指令値Pcsを適宜上昇させる。発進クラッチCSへの供給油圧は、油圧指令値Pcsに追従して上昇する。
なお、内燃機関11の自立運転開始後、内燃機関11と回転電機12とが同期回転する状態となり、更に内燃機関11の出力トルク(内燃機関トルクTe)により内燃機関11及び回転電機12の回転速度は一時的に急上昇しているが、その後回転電機12の回転速度制御において目標回転速度を変速中間軸Sの推定回転速度Npに一致させる(上記目標差回転速度をゼロに設定する)ことにより、第一クラッチC1のスリップ状態は解消する方向に向かう。なお、その際回転電機12の目標トルクは、回転電機12の回転速度を変速中間軸Sの推定回転速度Npに一致させるように自動的に設定される。回転電機12の回転速度が推定回転速度Npに一致した後は、時刻T08(時刻T18)において、第一クラッチ動作制御部45aは、第一クラッチC1への油圧指令値Pc1を完全係合圧相当値まで上昇させ、それに追従して第一クラッチC1への供給油圧が完全係合圧まで上昇する。また、回転電機12の制御を、回転速度制御からトルク制御に切り替える。なお、「トルク制御」は、回転電機12に目標トルクを指令し、回転電機トルクTmをその目標トルクに追従させる制御である。
1−4.内燃機関始動処理の処理手順
次に、本実施形態に係る内燃機関始動処理の内容について、図4及び図5のフローチャートを参照して説明する。図4は内燃機関始動処理の全体の処理手順を示すフローチャートであり、図5は図4のステップ#03におけるスリップ判定処理の処理手順を示すフローチャートである。以下に説明する内燃機関始動処理の各手順は、制御装置3の各機能部により実行される。各機能部がプログラムにより構成される場合には、制御装置3が備える演算処理装置は、上記の各機能部を構成するプログラムを実行するコンピュータとして動作する。
図4に示すように、内燃機関始動条件が成立すると(ステップ#01:Yes)、第一クラッチ動作制御部45aは、第一クラッチC1への油圧指令値Pc1を一定の時間変化率で低下(スイープダウン)させる(ステップ#02)。そして、その状態で、第一クラッチC1のスリップ状態の開始を判定するスリップ判定処理が実行される(ステップ#03)。
スリップ判定処理では、図5に示すように、スリップ判定部47は、出力軸回転速度センサSe3の出力に基づいて出力軸Oの回転速度を取得し(ステップ#21)、得られた出力軸Oの回転速度の情報に基づいて低車速状態であるか否かを判定する(ステップ#22)。この判定は、出力軸Oの回転速度が予め設定された基準回転速度Vs以下であるか否かにより行われる。低車速状態であると判定された場合には(ステップ#22:Yes)、スリップ判定部47は、ロータ位置センサSe2の出力に基づいて中間軸Mの回転加速度Aを所定周期で取得し(ステップ#23)、この回転加速度Aの1周期当たりの変化量ΔAが予め設定されたスリップ判定量Aa以上となったか否かを判定する(ステップ#24)。
いったん回転加速度Aの変化量ΔAがスリップ判定量Aa以上となると(ステップ#24:Yes)、スリップ判定部47は、その後、変化前の回転加速度A(判定用回転加速度Ab)に対してスリップ判定量Aa以上の差を有する状態が所定期間以上継続したか否かを判定する(ステップ#25)。そして、判定用回転加速度Abに対してスリップ判定量Aa以上の差を有する状態が所定期間以上継続すると(ステップ#25:Yes)、スリップ判定部47は、その時点において第一クラッチC1がスリップを開始したと判定する(ステップ#26)。
一方、ステップ#22において高車速状態であると判定された場合には(ステップ#22:No)、スリップ判定部47は、ロータ位置センサSe2の出力に基づいて中間軸Mの実回転速度Nmを取得する(ステップ#27)と共に、ステップ#21で取得された出力軸Oの回転速度に基づいて、中間軸Mの目標回転速度Ntを取得する(ステップ#28)。ここでは、中間軸Mの目標回転速度Ntは、出力軸Oの回転速度と変速機構13において形成された変速段の変速比との乗算値として取得される。スリップ判定部47は、実回転速度Nmと目標回転速度Ntとの間の差回転速度ΔNを取得し(ステップ#29)、この差回転速度ΔNが予め設定されたスリップ判定速度Na以上となったか否かを判定する(ステップ#30)。ステップ#27〜ステップ#30の処理を逐次繰り返して実行し、やがて差回転速度ΔNがスリップ判定速度Na以上となると(ステップ#30:Yes)、スリップ判定部47は、その時点において第一クラッチC1がスリップを開始したと判定する(ステップ#26)。以上で、スリップ判定処理を終了してステップ#03に戻る。
図4に戻って、スリップ判定処理により第一クラッチC1のスリップ開始判定がなされると(ステップ#04:Yes)、第一クラッチ動作制御部45aは、第一クラッチC1への油圧指令値Pc1をその時点における値に固定する(ステップ#05)。また、回転電機12の制御が回転速度制御とされ、変速中間軸Sの推定回転速度Npに所定の目標差回転速度を加算した値とするように回転電機12の目標回転速度が設定される(ステップ#06)。
また、発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSへの油圧指令値Pcsを、当該発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを内燃機関11の被駆動トルクに応じた大きさとするような値に設定する(ステップ#07)。発進クラッチCSを介して伝達される回転電機トルクTmの一部により、内燃機関11が始動し始めると(ステップ#08:Yes)、第一クラッチ動作制御部45aは、第一クラッチC1への油圧指令値Pc1を所定値まで上昇させる(ステップ#09)。また、発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSへの油圧指令値Pcsを所定値まで上昇させる(ステップ#10)。以上で、内燃機関始動処理を終了する。
以上、図2及び図3のタイムチャート並びに図5のフローチャートを参照して説明したようなスリップ判定処理によれば、低車速状態の場合には、スリップ判定部47は、ロータ位置センサSe2の出力に基づいて中間軸Mの回転加速度Aを取得し、この回転加速度Aの変化量ΔAがスリップ判定量Aa以上となったことの検出を条件としてスリップ開始判定を行う。よって、低車速状態で出力軸回転速度センサSe3の検出精度が低下した場合であっても、第一クラッチC1のスリップ開始判定を高精度に行うことができる。このとき、本実施形態では、スリップ判定部47は、中間軸Mの回転加速度Aの変化量ΔAがスリップ判定量Aa以上となった状態が所定期間以上継続した場合に初めて、第一クラッチC1がスリップを開始したと判定する。このような判定手法を採用することで、中間軸M及びロータ12bの回転加速度Aの突発的な変動に起因する誤判定を抑制して、より高い精度で第一クラッチC1のスリップ開始判定を行うことが可能となっている。
なお、低車速状態においても出力軸Oの回転速度を高精度に検出することを可能とするべく、出力軸回転速度センサSe3としてロータ位置センサSe2と同様のレゾルバを用いる構成を採用することも考えられる。しかし、低車速状態という特定の条件下における検出精度の向上のみを目的として高価なレゾルバを導入することは、コスト低減の観点からは現実的とは言えない。この点、本実施形態では、回転電機12のトルク及び回転速度を精密に制御するために当初から設置が予定されているロータ位置センサSe2としてのレゾルバの出力のみを利用して、低車速状態でもスリップ開始判定を高精度に行うことができる点に特に大きな利点がある。
また、本実施形態では、高車速状態の場合には、スリップ判定部47は、従来法と同様の判定手法により、出力軸回転速度センサSe3により検出される出力軸Oの回転速度の情報を利用してスリップ開始判定を行う。高車速状態で出力軸Oの回転速度が比較的高い場合には、電磁ピックアップセンサとして構成される出力軸回転速度センサSe3によってでも出力軸Oの回転速度を精度良く検出することが可能である。そこで、上記の構成を採用することで、高車速状態の場合には比較的単純な処理で第一クラッチC1のスリップ開始判定を高精度に行うことができる。
このように、本実施形態では、出力軸Oの回転速度に応じて判定手法を適宜切り替えることで、出力軸Oの回転速度によらずに第一クラッチC1のスリップ開始判定を高精度に行うことができる。よって、その第一クラッチC1のスリップ開始判定後に実行される実質的な内燃機関始動制御において、最適なタイミングで発進クラッチCSに対する油圧指令値Pcsを上昇させることができる。従って、内燃機関始動条件の成立後、迅速にかつショックの発生を有効に抑制した状態で内燃機関11を適切に始動させることが可能である。
2.第二の実施形態
本発明に係る制御装置の第二の実施形態について、図面を参照して説明する。図6は、本実施形態に係る制御装置3による制御対象となる駆動装置1の概略構成を示す模式図である。本実施形態に係る駆動装置1は、回転電機12と変速機構13との間に、トルクコンバータ21を介挿して備えている点で、上記第一の実施形態とは相違している。また、それに伴い、駆動装置制御ユニット40が備える各機能部の構成、内燃機関始動処理、及びスリップ判定処理の内容も、上記第一の実施形態と一部相違している。それ以外の構成に関しては、基本的には上記第一の実施形態と同様である。以下では、本実施形態に係る制御装置3について、上記第一の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、特に明記しない点については、上記第一の実施形態と同様とする。
トルクコンバータ21は、内部に充填された油を介して、第一中間軸M1に伝達されるトルクを第二中間軸M2及びこれに駆動連結される変速機構13に伝達する流体伝動装置である。このトルクコンバータ21は、第一中間軸M1に駆動連結されたポンプインペラ21aと、第二中間軸M2に駆動連結されたタービンランナ21bと、これらの間に設けられたステータと、を備えている。そして、トルクコンバータ21は、内部に充填された油を介して、駆動側のポンプインペラ21aと従動側のタービンランナ21bとの間のトルクの伝達を行う。この際、ポンプインペラ21aとタービンランナ21bとの回転速度比に応じたトルク比でトルクが変換される。
また、このトルクコンバータ21は、ロックアップ用の摩擦係合装置として、ロックアップクラッチCLを備えている。本実施形態では、ロックアップクラッチCLは、湿式多板クラッチとして構成されている。このロックアップクラッチCLは、ポンプインペラ21a(第一中間軸M1)とタービンランナ21b(第二中間軸M2)とを選択的に駆動連結するように設けられている。このロックアップクラッチCLの完全係合状態では、トルクコンバータ21は、その内部の油を介さずに第一中間軸M1のトルクを直接第二中間軸M2に伝達する。第二中間軸M2は、変速機構13の入力軸(変速入力軸)となっており、当該第二中間軸M2に伝達されたトルクは、変速機構13を介して出力軸O及び車輪15に伝達される。このように本実施形態では、動力伝達経路上におけるロックアップクラッチCLと出力軸Oとの間に変速機構13が設けられている。本実施形態においては、ロックアップクラッチCLが本発明における「第二係合装置」に相当し、第二中間軸M2が本発明における「変速入力部材」に相当する。
本実施形態に係る駆動装置制御ユニット40は、ロックアップクラッチ動作制御部48を備えている。ロックアップクラッチ動作制御部48は、ロックアップクラッチCLの動作を制御する機能部である。ここで、ロックアップクラッチ動作制御部48は、油圧制御装置25を介してロックアップクラッチCLに供給される油圧を制御することにより、ロックアップクラッチCLの動作を制御する。例えば、ロックアップクラッチ動作制御部48は、ロックアップクラッチCLに対する油圧指令値PcLを出力し、油圧制御装置25を介してロックアップクラッチCLへの供給油圧をストロークエンド圧以下の圧とすることにより、ロックアップクラッチCLを解放状態とする。また、ロックアップクラッチ動作制御部48は、油圧制御装置25を介してロックアップクラッチCLへの供給油圧を完全係合圧とすることにより、ロックアップクラッチCLを完全係合状態とする。
また、ロックアップクラッチ動作制御部48は、油圧制御装置25を介してロックアップクラッチCLへの供給油圧をストロークエンド圧より大きくかつスリップ境界圧より小さい圧(スリップ係合圧)とすることにより、ロックアップクラッチCLをスリップ状態とする。ロックアップクラッチCLのスリップ状態では、第一中間軸M1と第二中間軸M2とが相対回転する状態で、これらの間で駆動力が伝達される。すなわち、ロックアップクラッチCLのスリップ状態では、当該ロックアップクラッチCLのスリップ状態で、第一中間軸M1と第二中間軸M2との間でトルクの伝達を行うことができる。なお、ロックアップクラッチCLの完全係合状態又はスリップ状態で伝達可能なトルクの大きさは、ロックアップクラッチCLのその時点での係合圧に応じて決まる。このときのトルクの大きさを、ロックアップクラッチCLの「伝達トルク容量TcL」とする。本実施形態では、ロックアップクラッチCLに対する油圧指令値PcLに応じて、比例ソレノイド等でロックアップクラッチCLへの供給油量及び供給油圧の大きさを連続的に制御することにより、伝達トルク容量TcLの増減が連続的に制御可能となっている。なお、ロックアップクラッチCLのスリップ状態で伝達されるトルクの向きは、第一中間軸M1と第二中間軸M2との間の相対回転の向きに応じて決まる。
本実施形態においては、内燃機関始動処理及びスリップ判定処理において、ロックアップクラッチ動作制御部48が有する機能は、その制御対象とする摩擦係合装置が第一クラッチC1ではなくロックアップクラッチCLとなっているだけで、基本的には上記第一の実施形態における第一クラッチ動作制御部45aが有する機能と同様である。ロックアップクラッチ動作制御部48の機能については、概略的には、上記第一の実施形態の第一クラッチ動作制御部45aの説明における「第一クラッチC1」を「ロックアップクラッチCL」に、「油圧指令値Pc1」を「油圧指令値PcL」に、「伝達トルク容量Tc1」を「伝達トルク容量TcL」に、「中間軸M」を「第一中間軸M1」に、「変速中間軸S」を「第二中間軸M2」に置き換えたものと同様に考えることができる。従って、ここでは、低車速状態において内燃機関始動処理を行う際の各部の動作状態を示すタイムチャート(図7)、及びスリップ判定処理の処理手順を示すフローチャート(図8)のみを図示することで、説明に代える。本実施形態の構成によれば、低車速状態で出力軸回転速度センサSe3の検出精度が低下した場合であっても、ロータ位置センサSe2による第一中間軸M1の回転加速度Aの情報を利用して、ロックアップクラッチCLのスリップ開始判定を高精度に行うことができる。また、その他上記第一の実施形態で説明した各種の作用効果を得ることが可能である。
3.第三の実施形態
本発明に係る制御装置の第三の実施形態について、図面を参照して説明する。図9は、本実施形態に係る制御装置3による制御対象となる駆動装置1の概略構成を示す模式図である。本実施形態に係る駆動装置1は、回転電機12と変速機構13との間に、トルクコンバータ21に代えて伝達クラッチCTを備えている点で、上記第二の実施形態とは相違している。また、それに伴い、駆動装置制御ユニット40が備える各機能部の構成、内燃機関始動処理、及びスリップ判定処理の内容も、上記第二の実施形態と一部相違している。それ以外の構成に関しては、基本的には上記第二の実施形態と同様である。以下では、本実施形態に係る制御装置3について、上記第二の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、特に明記しない点については、上記第二の実施形態と同様とする。
伝達クラッチCTは、回転電機12と変速機構13との間に設けられており、第一中間軸M1と第二中間軸M2とを選択的に駆動連結する摩擦係合装置である。本実施形態では、伝達クラッチCTは、湿式多板クラッチとして構成されている。第二中間軸M2は、変速機構13の入力軸(変速入力軸)となっており、当該第二中間軸M2に伝達されたトルクは、変速機構13を介して出力軸O及び車輪15に伝達される。このように本実施形態では、動力伝達経路上における伝達クラッチCTと出力軸Oとの間に変速機構13が設けられている。本実施形態においては、伝達クラッチCTが本発明における「第二係合装置」に相当し、第二中間軸M2が本発明における「変速入力部材」に相当する。
本実施形態に係る駆動装置制御ユニット40は、ロックアップクラッチ動作制御部48に代えて、伝達クラッチ動作制御部49を備えている。伝達クラッチ動作制御部49は、伝達クラッチCTの動作を制御する機能部である。ここで、伝達クラッチ動作制御部49は、油圧制御装置25を介して伝達クラッチCTに供給される油圧を制御することにより、伝達クラッチCTの動作を制御する。例えば、伝達クラッチ動作制御部49は、伝達クラッチCTに対する油圧指令値Pctを出力し、油圧制御装置25を介して伝達クラッチCTへの供給油圧をストロークエンド圧以下の圧とすることにより、伝達クラッチCTを解放状態とする。また、伝達クラッチ動作制御部49は、油圧制御装置25を介して伝達クラッチCTへの供給油圧を完全係合圧とすることにより、伝達クラッチCTを完全係合状態とする。
また、伝達クラッチ動作制御部49は、油圧制御装置25を介して伝達クラッチCTへの供給油圧をストロークエンド圧より大きくかつスリップ境界圧より小さい圧(スリップ係合圧)とすることにより、伝達クラッチCTをスリップ状態とする。伝達クラッチCTのスリップ状態では、第一中間軸M1と第二中間軸M2とが相対回転する状態で、これらの間で駆動力が伝達される。すなわち、伝達クラッチCTのスリップ状態では、当該伝達クラッチCTのスリップ状態で、第一中間軸M1と第二中間軸M2との間でトルクの伝達を行うことができる。なお、伝達クラッチCTの完全係合状態又はスリップ状態で伝達可能なトルクの大きさは、伝達クラッチCTのその時点での係合圧に応じて決まる。このときのトルクの大きさを、伝達クラッチCTの「伝達トルク容量Tct」とする。本実施形態では、伝達クラッチCTに対する油圧指令値Pctに応じて、比例ソレノイド等で伝達クラッチCTへの供給油量及び供給油圧の大きさを連続的に制御することにより、伝達トルク容量Tctの増減が連続的に制御可能となっている。なお、伝達クラッチCTのスリップ状態で伝達されるトルクの向きは、第一中間軸M1と第二中間軸M2との間の相対回転の向きに応じて決まる。
本実施形態においては、内燃機関始動処理及びスリップ判定処理において、伝達クラッチ動作制御部49が有する機能は、その制御対象とする摩擦係合装置がロックアップクラッチCLではなく伝達クラッチCTとなっているだけで、基本的には上記第二の実施形態におけるロックアップクラッチ動作制御部48が有する機能と同様である。伝達クラッチ動作制御部49の機能については、概略的には、上記第二の実施形態のロックアップクラッチ動作制御部48の説明における「ロックアップクラッチCL」を「伝達クラッチCT」に、「油圧指令値PcL」を「油圧指令値Pct」に、「伝達トルク容量TcL」を「伝達トルク容量Tct」に置き換えたものと同様に考えることができる。従って、ここでは詳細な説明は省略するが、本実施形態の構成によれば、低車速状態で出力軸回転速度センサSe3の検出精度が低下した場合であっても、ロータ位置センサSe2による第一中間軸M1の回転加速度Aの情報を利用して、伝達クラッチCTのスリップ開始判定を高精度に行うことができる。また、その他上記第一の実施形態や上記第二の実施形態で説明した各種の作用効果を得ることが可能である。
4.第四の実施形態
本発明に係る制御装置の第四の実施形態について、図面を参照して説明する。図10は、本実施形態に係る制御装置3による制御対象となる駆動装置1の概略構成を示す模式図である。本実施形態に係る駆動装置1は、ハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている。また、本実施形態に係る駆動装置1は、回転電機12に駆動連結されるオイルポンプ24を備えている。そして、本実施形態に係る制御装置3は、例えば電動走行モードでの走行時等に、少なくとも出力軸Oの回転速度が予め設定された基準回転速度Vs以下の低車速状態で、所定の回転速度でオイルポンプを駆動するポンプ駆動制御を実行するように構成されている点で、上記第一の実施形態と相違している。また、それに付随して、本実施形態に係る制御装置3は、目標回転速度設定部51を備えている点でも、上記第一の実施形態と相違している。以下では、本実施形態に係る制御装置3について、上記第一の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、特に明記しない点については、上記第一の実施形態と同様とする。
4−1.駆動装置及び制御装置の構成
本実施形態においては、駆動装置1は、動力伝達系路上で回転電機12と変速機構13との間に、中間軸Mに駆動連結される機械式のオイルポンプ24を備えている。オイルポンプ24は、中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。オイルポンプ24は、オイルパン(図示せず)に蓄えられた油を吸引し、駆動装置1の各部に油を供給するための油圧源として機能する。オイルポンプ24は、中間軸Mを介して伝達される回転電機12及び内燃機関11の一方又は双方の駆動力により駆動されて作動し、油を吐出して油圧を発生させる。本例では、オイルポンプ24として、インナロータとアウタロータとを有する内接型のギヤポンプを用いている。オイルポンプ24からの圧油は、油圧制御装置25により所定油圧に調整されてから、発進クラッチCSや変速機構13内に備えられる第一クラッチC1等に供給される。なお、このオイルポンプ24とは別に、電動モータ等により駆動される電動オイルポンプを備えた構成としても良い。
制御装置3(本例では、駆動装置制御ユニット40)に備えられる目標回転速度設定部51は、オイルポンプ24の必要回転速度に応じた回転電機12のポンプ駆動目標回転速度Vtを設定する機能部である。上記のとおり、本実施形態では、機械式のオイルポンプ24が中間軸Mと一体回転するように駆動連結されており、変速機構13に備えられるそれぞれの摩擦係合装置に油圧制御装置25を介して十分な油圧を供給するためには、中間軸Mを所定値以上の回転速度で回転させる必要がある。そこで、本実施形態では、目標回転速度設定部51は、変速機構13の各摩擦係合装置に十分な油圧を供給するために必要となる中間軸Mの下限回転速度に基づいて、当該中間軸Mと一体回転するように駆動連結された回転電機12の目標回転速度(以下、「ポンプ駆動目標回転速度Vt」という。)を設定する。本例では、目標回転速度設定部51は、そのような中間軸Mの下限回転速度に所定の余裕分を加算した値として、ポンプ駆動目標回転速度Vtを設定する。このようなポンプ駆動目標回転速度Vtは、予め実験的に求めて或いは理論に基づいて取得され、例えば300〜600rpm等の値とすることができる。本実施形態においては、ポンプ駆動目標回転速度Vtが、本発明における「オイルポンプの必要回転速度に応じた回転電機の目標回転速度」に相当する。
4−2.ポンプ駆動制御の内容及び処理手順
本実施形態に係るポンプ駆動制御の具体的内容及び処理手順について、図11及び図12を参照して説明する。本例では、車両6が電動走行モードで走行中、車速が所定値未満にまで低下した際にポンプ駆動制御が実行される場合を例として説明する。ここで、ポンプ駆動制御では、回転電機トルクTmの一部を車輪15に伝達しながら、回転電機トルクTmの他の一部によりオイルポンプ24を駆動させる。なお、本例では、ポンプ駆動制御の実行中は、常時、発進クラッチCSは解放状態とされ、内燃機関11は停止している。
本例では、時刻T31から時刻T32にかけて、車両6は電動走行モードで略一定の速度にて走行しており、このとき変速機構13に備えられる第一クラッチC1は完全係合状態にある。この状態で、時刻T32においてアクセル開度が所定値(例えば、10〜30%)以下まで低下すると、車速は徐々に低下する。なお、車速の低下に伴い、第一クラッチC1の完全係合状態で変速中間軸Sと一体回転する中間軸Mの回転速度も徐々に低下する。このとき、本実施形態では、目標回転速度設定部51は、オイルポンプ24の必要回転速度に応じた回転電機12の目標回転速度であるポンプ駆動目標回転速度Vtを設定している(ステップ#61)。なお、このポンプ駆動目標回転速度Vtは、上記のとおり変速機構13の各摩擦係合装置に十分な油圧を供給するために必要となる中間軸Mの下限回転速度に基づいて設定される。そして、中間軸Mの回転速度がポンプ駆動目標回転速度Vt未満であるか否かが判定される(ステップ#62)。中間軸Mの回転速度が低下して、やがて時刻T33においてポンプ駆動目標回転速度Vt未満となると(ステップ#62:Yes)、ポンプ駆動制御が開始される。
本実施形態においては、ポンプ駆動制御では、第一クラッチ動作制御部45aは、時刻T33において第一クラッチC1に対する油圧指令値Pc1を完全係合圧から、スリップ境界圧以上の所定圧までステップ的に瞬時に低下させる。その後、第一クラッチ動作制御部45aは、時刻T33から時刻T34にかけて第一クラッチC1に対する油圧指令値Pc1を徐々に低下させるスイープダウンを行う(ステップ#63)。第一クラッチ動作制御部45aからの油圧指令値Pc1に応じて、油圧制御装置25を介した第一クラッチC1への供給油圧は徐々に低下し、やがて時刻T34において車両要求トルクTdと第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1とが釣り合ったときに第一クラッチC1はスリップ状態となる。すなわち、第一クラッチC1に対する油圧指令値Pc1を完全係合圧から上記の態様で低下させることにより、第一クラッチC1を完全係合状態からスリップ状態へ移行させる。このとき、スリップ判定部47により、第一クラッチC1のスリップ状態の開始判定処理(スリップ判定処理)が行われる(ステップ#64)。なお、本実施形態においては、第一クラッチC1が本発明における「係合装置」に相当する。
スリップ判定処理の具体的内容及び処理手順に関しては、上記第一の実施形態と同様である。つまり、概略的には、スリップ判定部47は、高車速状態では、出力軸Oの回転速度と、中間軸Mから出力軸Oまでの動力伝達経路における変速比(本例では、変速機構13において形成された変速段の変速比)と、予め設定された所定のスリップ判定速度Na(図2を参照)と、に基づいてスリップ開始判定を行う。一方、スリップ判定部47は、低車速状態では、中間軸M(ロータ12b)の回転加速度Aの変化量ΔAと、予め設定された所定のスリップ判定量Aaと、に基づいてスリップ開始判定を行う。この際、スリップ判定部47は、中間軸Mの回転加速度Aの変化量ΔAがスリップ判定量Aa以上となった状態が所定期間以上継続した場合に初めて、第一クラッチC1がスリップを開始したと判定する。なお、図11には、低車速状態でのスリップ判定処理の一例を示しており、更に図示の例では、基準回転速度Vsとポンプ駆動目標回転速度Vtとが等しい値に設定されている。
時刻T34において第一クラッチC1のスリップ開始が判定されると(ステップ#65:Yes)、第一クラッチ動作制御部45aは、第一クラッチC1への油圧指令値Pc1をスリップ開始判定時における値に固定する(ステップ#66)。第一クラッチ動作制御部45aからの油圧指令値Pc1に応じて、油圧制御装置25を介した第一クラッチC1への供給油圧はその時点の値に固定される。なお、第一クラッチC1への供給油圧は、その後も一定値に維持される。従って、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1も、スリップ開始判定時における値に維持される。そして、回転電機12の制御を回転速度制御とする(ステップ#67)。本実施形態では、回転電機12の目標回転速度を、目標回転速度設定部51により設定されたポンプ駆動目標回転速度Vtに設定する。これにより、回転電機12は、当該回転電機12の回転速度がポンプ駆動目標回転速度Vtとなるように制御される。すなわち、時刻T34から時刻T35にかけて回転電機12の回転速度はポンプ駆動目標回転速度Vtに一致するまで一定の割合で上昇し、ポンプ駆動目標回転速度Vtに一致した時刻T35以降は、回転電機12の回転速度はポンプ駆動目標回転速度Vtに維持される。なお、その際、回転電機12の目標トルクは、ポンプ駆動目標回転速度Vtを達成するように自動的に設定される。なお、本例では、時刻T36以降、車速は略一定となっている。
以上、図11のタイムチャート及び図12のフローチャートを参照して説明したようなスリップ判定処理によれば、低車速状態の場合には、スリップ判定部47は、ロータ位置センサSe2の出力に基づいて中間軸Mの回転加速度Aを取得し、この回転加速度Aの変化量ΔAがスリップ判定量Aa以上となったことの検出を条件としてスリップ開始判定を行う。よって、低車速状態で出力軸回転速度センサSe3の検出精度が低下した場合であっても、第一クラッチC1のスリップ開始判定を高精度に行うことができる。なお、高車速状態の場合には出力軸回転速度センサSe3により検出される出力軸Oの回転速度の情報を利用してスリップ開始判定を行う構成を採用することで、高車速状態の場合には比較的単純な処理で第一クラッチC1のスリップ開始判定を高精度に行うことができる。
このように、本実施形態においても、出力軸Oの回転速度に応じて判定手法を適宜切り替えることで、出力軸Oの回転速度によらずに第一クラッチC1のスリップ開始判定を高精度に行うことができる。よって、その第一クラッチC1のスリップ開始判定後に実行されるポンプ駆動制御において、回転電機12の回転速度を、ポンプ駆動目標回転速度Vtとするように最適なタイミングで上昇させ始めることができる。従って、電動走行モードでの走行時に、第一クラッチC1のスリップ状態でショックの発生を有効に抑制しつつ、必要に応じて迅速に中間軸Mをポンプ駆動目標回転速度Vtで回転させ、迅速に変速機構13の各摩擦係合装置に十分な油圧を供給することが可能である。
なお、上記第二又は第三の実施形態のように、ロックアップクラッチCL又は伝達クラッチCTを本発明における「係合装置」として備えた駆動装置1において、本実施形態で説明したようなポンプ駆動制御及びスリップ判定処理を実行する構成としても良い。これらの場合でも、本実施形態で説明した各種の作用効果を得ることが可能である。また、図10には表示していないが、制御装置3が上記第一の実施形態のように内燃機関始動制御部46を備え、ポンプ駆動制御及び内燃機関始動制御の双方を実行可能な構成としても好適である。
4.その他の実施形態
最後に、本発明に係る制御装置の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、その実施形態でのみ適用されるものではなく、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記の各実施形態においては、スリップ判定部47が、出力軸Oの回転速度の大きさに応じて異なる方式で「第二係合装置」(上記第四の実施形態においては「係合装置」であり、特に明記して区別しない場合、第一クラッチC1,ロックアップクラッチCL,伝達クラッチCTのいずれかを表す;以下同様)のスリップ開始判定を行う場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、スリップ判定部47は、少なくとも出力軸Oの回転速度の検出精度が低下する低車速状態でロータ位置センサSe2による回転加速度Aの情報を利用して第二係合装置のスリップ開始判定を行う構成とされていれば良く、例えば出力軸Oの回転速度の大きさによらずに、常にロータ位置センサSe2による回転加速度Aの情報を利用して第二係合装置のスリップ開始判定を行う構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(2)上記の各実施形態においては、スリップ判定部47が、回転加速度Aの変化量ΔAがスリップ判定量Aa以上となった後、変化前の回転加速度Aに対してスリップ判定量Aa以上の差を有する状態が所定期間以上継続した場合に初めて、第二係合装置がスリップを開始したと判定する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えばスリップ判定部47が、回転加速度Aの変化量ΔAがスリップ判定量Aa以上となった時点で直ちに第二係合装置がスリップを開始したと判定する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(3)上記の各実施形態においては、スリップ判定部47が、回転加速度Aと判定用回転加速度Abとの間の差(=A−Ab)がスリップ判定量Aa以上である場合に「1」が加算されるカウンタ値が予め定められた判定基準数に達したときに、第二係合装置がスリップを開始したと判定する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えばスリップ判定部47が、回転加速度Aの変化量ΔAがスリップ判定量Aa以上となった後、タイマーによる計時を開始し、所定時間が経過するまで継続して回転加速度Aと判定用回転加速度Abとの間の差(=A−Ab)がスリップ判定量Aa以上に維持されていた場合に、当該所定時間の経過したときに第二係合装置がスリップを開始したと判定する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(4)上記の各実施形態においては、スリップ判定部47が、回転加速度Aの変化量ΔAがスリップ判定量Aa以上となった後、変化前の回転加速度Aに対してスリップ判定量Aa以上の差を有する状態が所定期間以上継続した場合に初めて、第二係合装置がスリップを開始したと判定する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、スリップ判定部47が、回転電機12のロータ12bの回転加速度Aを所定周期で取得すると共に、取得された複数周期分の回転加速度Aを代表する代表値Bを取得し、この代表値Bに基づいて第二係合装置のスリップ開始判定を行う構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。より具体的には、スリップ判定部47が、回転加速度Aの検出周期毎に代表値Bを更新する構成とし、更新前後の代表値Bの変化量ΔBがスリップ判定量Aa以上となった場合に、第二係合装置がスリップを開始したと判定する構成とすることができる。この場合、上記の代表値Bは、例えば複数周期分の回転加速度Aの平均値や中間値等とすることができる。ここで、平均値とする場合には、複数周期分の回転加速度Aのうち最大値と最小値とをカットしたものについての平均値等としても良い。このような判定手法によっても、回転加速度Aの突発的な変動に起因する誤判定を抑制して、より高い精度で第二係合装置のスリップ開始判定を行うことが可能である。
(5)上記第一及び第四の実施形態においては、制御装置3による制御対象となる駆動装置1において、変速機構13に備えられる変速用の第一クラッチC1が第二係合装置とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば変速機構13に備えられる他のクラッチ、ブレーキ等の摩擦係合装置が第二係合装置とされた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(6)上記第二及び第三の実施形態においては、ロックアップクラッチCL又は伝達クラッチCTを第二係合装置として、本実施形態に係る内燃機関始動処理及びスリップ判定処理が実行される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、上記第二及び第三の実施形態のようにロックアップクラッチCLを含むトルクコンバータ21又は伝達クラッチCTを備える構成においても、変速機構13に備えられる変速用の第一クラッチC1等を第二係合装置として、本実施形態に係る内燃機関始動処理及びスリップ判定処理を実行する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。なお、上記第四の実施形態においてロックアップクラッチCL又は伝達クラッチCTを更に備える構成でも同様である。
(7)上記第二及び第三の実施形態においては、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路上における第二係合装置と出力軸Oとの間に、自動有段変速機構からなる変速機構13が設けられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、このような変速機構13が、例えば変速比を無段階に変更可能な自動無段変速機構や、変速比の異なる複数の変速段を手動で切替可能に備えた手動有段変速機構等として構成されることも、本発明の好適な実施形態の一つである。或いは変速機構13が、固定変速比の変速段を1つだけ有する固定変速機構として構成されることも、本発明の好適な実施形態の一つである。更に、そのような変速機構13が一切設けられていない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つであり、この場合、固定変速比が「1」の上記固定変速機構を備えた構成と捉えることができる。なお、上記第四の実施形態においてロックアップクラッチCL又は伝達クラッチCTを更に備える構成において、当該ロックアップクラッチCL又は伝達クラッチCTが「係合装置」とされる構成でも同様である。
(8)上記第二及び第三の実施形態においては、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路上に、入力軸Iの側から、発進クラッチCS、回転電機12、第二係合装置、及び変速機構13の順に設けられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、少なくとも発進クラッチCS、回転電機12、第二係合装置、及び出力軸Oの順に設けられていれば、変速機構13の位置は任意に設定することが可能である。なお、上記第四の実施形態においてロックアップクラッチCL又は伝達クラッチCTを更に備える構成において、当該ロックアップクラッチCL又は伝達クラッチCTが「係合装置」とされる構成では、少なくとも回転電機12、係合装置、及び出力軸Oの順に設けられていれば、変速機構13の位置は任意に設定することが可能である。
(9)上記第四の実施形態においては、制御装置3による制御対象となる駆動装置1が、ハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制御装置3が、電気自動車用の駆動装置を制御対象として、上記第四の実施形態において説明したポンプ駆動制御及びスリップ判定処理を実行する構成としても好適である。すなわち、上記第四の実施形態における制御装置3が対象とする駆動装置は、少なくとも回転電機12と、車輪15に駆動連結される出力軸Oと、回転電機12に駆動連結されるオイルポンプ24と、回転電機12と出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路上に設けられる係合装置(第一クラッチC1,ロックアップクラッチCL,伝達クラッチCT等)と、を備えた構成とされていれば良い。
(9)上記の各実施形態においては、ロータ位置センサSe2としてレゾルバを用いている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、ロータ12bの回転速度の大きさによることなく、常に高精度にロータ12bの回転位置、回転速度、及び回転加速度の情報を取得することが可能なものであれば、ロータ位置センサSe2としてレゾルバ以外の各種センサを用いることも可能である。また、出力軸回転速度センサSe3に関しても、電磁ピックアップセンサを用いる構成に限定されない。すなわち、安価にかつ比較的単純な処理により出力軸Oの回転速度を検出することが可能なものであれば、出力軸回転速度センサSe3として電磁ピックアップセンサ以外の各種センサ(パルス型検出器等)を用いることも可能である。
(10)上記の各実施形態においては、制御装置3が、主に内燃機関11を制御するための内燃機関制御ユニット30と、主に回転電機12、発進クラッチCS、及び変速機構13を制御するための駆動装置制御ユニット40と、を備えている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば単一の制御装置3が内燃機関11、回転電機12、発進クラッチCS、及び変速機構13等の全てを制御する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。或いは、制御装置3が、内燃機関11、回転電機12、及びそれ以外の各種構成、を制御するためのそれぞれ個別の制御ユニットを備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(11)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載された構成及びこれと均等な構成を備えている限り、特許請求の範囲に記載されていない構成の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。