1.第一の実施形態
本発明に係る制御装置の第一の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態に係る制御装置3は、駆動装置1を制御対象とする駆動装置用制御装置とされている。ここで、本実施形態に係る駆動装置1は、駆動力源として内燃機関11及び回転電機12の双方を備えた車両(ハイブリッド車両)6を駆動するための車両用駆動装置(ハイブリッド車両用駆動装置)である。以下、本実施形態に係る制御装置3について、詳細に説明する。
1−1.駆動装置の構成
まず、本実施形態に係る制御装置3による制御対象となる駆動装置1の構成について説明する。本実施形態に係る駆動装置1は、いわゆる1モータパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている。この駆動装置1は、図1に示すように、内燃機関11に駆動連結される入力軸Iと車輪15に駆動連結される出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路に、入力軸Iの側から、発進クラッチCS、回転電機12、及び変速機構13、の順に備えている。これらは、同軸上に配置されている。なお、変速機構13には後述するように変速用の第一クラッチC1が備えられており、これにより、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路に、入力軸Iの側から、発進クラッチCS、回転電機12、及び第一クラッチC1、の順に設けられている。これらの各構成は、駆動装置ケース(図示せず)内に収容されている。本実施形態においては、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。
内燃機関11は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の各種エンジンを用いることができる。内燃機関11は入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。本例では、内燃機関11のクランクシャフト等の出力軸が入力軸Iに駆動連結されている。なお、内燃機関11が、ダンパ等の他の装置を介して入力軸Iに駆動連結された構成としても好適である。内燃機関11は、発進クラッチCSを介して回転電機12に駆動連結されている。
発進クラッチCSは、内燃機関11と回転電機12との間に設けられている。発進クラッチCSは、入力軸Iと中間軸Mとを選択的に駆動連結する摩擦係合装置である。本実施形態では、発進クラッチCSは、湿式多板クラッチとして構成されている。また、本実施形態においては、発進クラッチCSは、その周囲を覆うクラッチハウジング内に油密状態で配置されており、基本的には当該クラッチハウジング内において常時油に浸っている。本実施形態では、その全体が常時油に浸った構成を採用することで、発進クラッチCSの冷却性能を良好に維持することが可能となっている。本実施形態においては、発進クラッチCSが本発明における「第一係合装置」に相当する。
回転電機12は、ロータとステータとを有して構成され(図示せず)、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。回転電機12のロータは中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。また、回転電機12は、インバータ装置(図示せず)を介して蓄電装置としてのバッテリ28に電気的に接続されている。なお、蓄電装置としてキャパシタ等を用いても好適である。回転電機12は、バッテリ28から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関11が出力するトルクや車両6の慣性力により発電した電力をバッテリ28に供給して蓄電させる。また、回転電機12のロータと一体回転する中間軸Mは、変速機構13に駆動連結されている。すなわち、中間軸Mは、変速機構13の入力軸(変速入力軸)となっている。
変速機構13は、本実施形態では、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に有する自動有段変速機構である。変速機構13は、これら複数の変速段を形成するために、一又は二以上の遊星歯車機構等の歯車機構と、この歯車機構の回転要素の係合又は解放を行い、変速段を切り替えるためのクラッチやブレーキ等の複数の摩擦係合装置と、を備えている。ここでは、変速機構13は変速用の複数の摩擦係合装置のうちの1つとして、第一クラッチC1を備えている。本実施形態では、第一クラッチC1は、湿式多板クラッチとして構成されている。第一クラッチC1は、中間軸Mと変速機構13内に設けられた変速中間軸Sとを選択的に駆動連結するように設けられている。本実施形態においては、第一クラッチC1が本発明における「第二係合装置」に相当する。変速中間軸Sは、変速機構13内の他の摩擦係合装置や軸部材を介して出力軸Oに駆動連結されている。
変速機構13は、複数の摩擦係合装置の係合状態に応じて形成される各変速段についてそれぞれ設定された所定の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速すると共にトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速機構13から出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置14を介して左右二つの車輪15に分配されて伝達される。これにより、駆動装置1は、内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方のトルクを車輪15に伝達させて車両6を走行させることができる。
また、本実施形態においては、駆動装置1は、中間軸Mに駆動連結されるオイルポンプ(図示せず)を備えている。オイルポンプは、オイルパン(図示せず)に蓄えられた油を吸引し、駆動装置1の各部に油を供給するための油圧源として機能する。オイルポンプは、中間軸Mを介して伝達される回転電機12及び内燃機関11の一方又は双方の駆動力により駆動されて作動し、油を吐出して油圧を発生させる。オイルポンプからの圧油は、油圧制御装置25により所定油圧に調整されてから、発進クラッチCSや変速機構13内に備えられる第一クラッチC1等に供給される。なお、このオイルポンプとは別に、電動オイルポンプを備えた構成としても良い。
また、図1に示すように、この駆動装置1が搭載された車両6の各部には、複数のセンサ、具体的には、入力軸回転速度センサSe1、中間軸回転速度センサSe2、出力軸回転速度センサSe3、及びアクセル開度検出センサSe4が備えられている。
入力軸回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するセンサである。入力軸回転速度センサSe1により検出される入力軸Iの回転速度は、内燃機関11の回転速度に等しい。中間軸回転速度センサSe2は、中間軸Mの回転速度を検出するセンサである。中間軸回転速度センサSe2により検出される中間軸Mの回転速度は、回転電機12の回転速度に等しい。出力軸回転速度センサSe3は、出力軸Oの回転速度を検出するセンサである。制御装置3は、出力軸回転速度センサSe3により検出される出力軸Oの回転速度に基づいて、車両6の走行速度である車速を導出することもできる。アクセル開度検出センサSe4は、アクセルペダル17の操作量を検出することによりアクセル開度を検出するセンサである。これらの各センサSe1〜Se4による検出結果を示す情報は、次に説明する制御装置3へ出力される。
1−2.制御装置の構成
次に、本実施形態に係る制御装置3の構成について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る制御装置3は、主に内燃機関11を制御するための内燃機関制御ユニット30と、主に回転電機12、発進クラッチCS、及び変速機構13を制御するための駆動装置制御ユニット40と、を備えている。内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40は、駆動装置1の各部の動作制御を行う中核部材としての機能を果たしている。
これらの内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40は、それぞれCPU等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、RAMやROM等の記憶装置等を有して構成されている(図示せず)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40の各機能部が構成されている。これらの各機能部は、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。更に、内燃機関制御ユニット30と駆動装置制御ユニット40との間でも、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。また、内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40は、上述した各センサSe1〜Se4による検出結果の情報を取得可能に構成されている。
内燃機関制御ユニット30は、内燃機関制御部31を備えている。
内燃機関制御部31は、内燃機関11の動作制御を行う機能部である。内燃機関制御部31は、内燃機関11の出力トルク(内燃機関トルクTe)及び回転速度の制御目標としての目標トルク及び目標回転速度を決定し、この制御目標に応じて内燃機関11を動作させることにより、内燃機関11の動作制御を行う。本実施形態では、内燃機関制御部31は、車両6の走行状態に応じて内燃機関11のトルク制御及び回転速度制御を切り替えることが可能とされている。ここで、トルク制御は、内燃機関11に目標トルクを指令し、内燃機関トルクTeをその目標トルクに追従させる制御である。また、回転速度制御は、内燃機関11に目標回転速度を指令し、内燃機関11の回転速度をその目標回転速度に追従させるように目標トルクを決定する制御である。
例えば、内燃機関制御部31は、車両6の通常走行時(ここでは、後述するアシスト走行モードでの走行時;以下同様)には、後述する要求トルク決定部42により決定される車両要求トルクTdのうち、内燃機関11による負担分である内燃機関要求トルクを決定する。そして、内燃機関制御部31は、決定された内燃機関要求トルクを上記目標トルクとしてトルク制御を実行する。また、本実施形態では、内燃機関制御部31は、後述する特定スリップ加速制御部46が生成する内燃機関トルク指令Ceを受け取り、その受け取った内燃機関トルク指令Ceに応じたトルクを上記目標トルクとしてトルク制御を実行することが可能である。
駆動装置制御ユニット40は、走行モード決定部41、要求トルク決定部42、回転電機制御部43、発進クラッチ動作制御部44、変速機構動作制御部45、特定スリップ加速制御部46、及びトルク調整制御部47を備えている。
走行モード決定部41は、車両6の走行モードを決定する機能部である。走行モード決定部41は、例えば出力軸回転速度センサSe3の検出結果に基づいて導出される車速や、アクセル開度検出センサSe4により検出されるアクセル開度等に基づいて、駆動装置1が実現すべき走行モードを決定する。その際、走行モード決定部41は、メモリ等の記録装置に記憶して備えられた、車速及びアクセル開度と走行モードとの関係を規定したモード選択マップ(図示せず)を参照する。
本例では、走行モード決定部41が選択可能な走行モードには、電動走行モード、パラレル走行モード、及び停車発電モードが含まれる。電動走行モードでは、発進クラッチCSが解放状態とされ、回転電機12の出力トルク(回転電機トルクTm)のみにより車両6を走行させる。パラレル走行モードでは、発進クラッチCSが係合状態(完全係合状態とスリップ係合状態とを含む)とされ、少なくとも内燃機関トルクTeにより車両6を走行させる。その際、回転電機12は、必要に応じて正の回転電機トルクTm(>0)を出力して内燃機関トルクTeによる駆動力を補助し、或いは負の回転電機トルクTm(<0)を出力して内燃機関トルクTeの一部によって発電する。すなわち、本例では、パラレル走行モードには更に、回転電機12が駆動力を補助するアシスト走行モードと回転電機12が発電する発電走行モードとが含まれる。停車発電モードでは、発進クラッチCSが完全係合状態、第一クラッチC1が解放状態とされ、車両6の停止状態で内燃機関トルクTeにより回転電機12が発電する。なお、ここで説明したモードは一例であり、これら以外の各種モードを備える構成を採用することも可能である。
要求トルク決定部42は、車両6を走行させるために必要とされる車両要求トルクTdを決定する機能部である。要求トルク決定部42は、出力軸回転速度センサSe3の検出結果に基づいて導出される車速と、アクセル開度検出センサSe4により検出されるアクセル開度とに基づいて、所定のマップ(図示せず)を参照する等して車両要求トルクTdを決定する。本実施形態においては、車両要求トルクTdが本発明における「要求トルク」に相当する。決定された車両要求トルクTdは、内燃機関制御部31、回転電機制御部43、特定スリップ加速制御部46、及びトルク調整制御部47等に出力される。
回転電機制御部43は、回転電機12の動作制御を行う機能部である。回転電機制御部43は、回転電機トルクTm及び回転速度の制御目標としての目標トルク及び目標回転速度を決定し、この制御目標に応じて回転電機12を動作させることにより、回転電機12の動作制御を行う。本実施形態では、回転電機制御部43は、車両6の走行状態に応じて回転電機12のトルク制御及び回転速度制御を切り替えることが可能とされている。ここで、トルク制御は、回転電機12に目標トルクを指令し、回転電機トルクTmをその目標トルクに追従させる制御である。また、回転速度制御は、回転電機12に目標回転速度を指令し、回転電機12の回転速度をその目標回転速度に追従させるように目標トルクを決定する制御である。
例えば、回転電機制御部43は、車両6の通常走行時には、要求トルク決定部42により決定される車両要求トルクTdのうち、回転電機12による負担分である回転電機要求トルクを決定する。そして、回転電機制御部43は、決定された回転電機要求トルクを上記目標トルクとして回転電機トルクTmを制御する。また、本実施形態では、回転電機制御部43は、後述する特定スリップ加速制御部46により決定される設定目標回転速度Nm1を上記目標回転速度として、回転電機12の回転速度制御を実行することが可能である。
また、回転電機制御部43は、負の目標トルクを指令し、負の回転電機トルクTm(<0)を出力させることにより、回転電機12に発電を行わせることができる。すなわち、回転電機12は、車両6の前進時には基本的に正方向に回転するため、正方向に回転しつつ負の回転電機トルクTm(<0)を出力して発電する。本実施形態においては、上述したように例えば発電走行モードでは内燃機関トルクTeの一部により回転電機12に発電させる構成とされており、回転電機12に発電させるためのトルクを「発電トルクTg」としている。この発電トルクTgは、負の回転電機トルクTm(<0)の絶対値に一致する。
発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSの動作を制御する機能部である。ここで、発進クラッチ動作制御部44は、油圧制御装置25を介して発進クラッチCSに供給される油圧を制御し、発進クラッチCSの係合圧を制御することにより、当該発進クラッチCSの動作を制御する。例えば、発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSに対する油圧指令値Pcsを出力し、油圧制御装置25を介して発進クラッチCSへの供給油圧を解放境界圧未満の解放圧に対応する解放油圧とすることにより、発進クラッチCSを解放状態とする。また、発進クラッチ動作制御部44は、油圧制御装置25を介して発進クラッチCSへの供給油圧を係合境界圧より大きい完全係合圧に対応する完全係合油圧とすることにより、発進クラッチCSを完全係合状態とする。また、発進クラッチ動作制御部44は、油圧制御装置25を介して発進クラッチCSへの供給油圧を、解放境界圧以上係合境界圧以下のスリップ係合圧に対応するスリップ係合油圧とすることにより、発進クラッチCSをスリップ係合状態とする。
ここで、「解放状態」は、発進クラッチCSの一方側回転部材(ここでは、入力軸I)と他方側回転部材(ここでは、中間軸M)との間で回転及び駆動力が伝達されない状態である。「スリップ係合状態」は、一方側回転部材と他方側回転部材とが回転速度差を有する状態で係合されている状態である。「完全係合状態」は、一方側回転部材と他方側回転部材とが一体回転する状態で係合されている状態(直結係合状態)である。また、「係合圧」は、一方側回転部材と他方側回転部材とを相互に押し付け合う圧力である。また、「解放圧」は、発進クラッチCSが定常的に解放状態となる圧である。「解放境界圧」は、発進クラッチCSが解放状態とスリップ係合状態との境界のスリップ境界状態となる圧(解放側スリップ境界圧)である。「係合境界圧」は、発進クラッチCSがスリップ係合状態と完全係合状態との境界のスリップ境界状態となる圧(係合側スリップ境界圧)である。「完全係合圧」は、発進クラッチCSが、当該発進クラッチCSに伝達されるトルクの変動に関わらずに定常的に完全係合状態となる圧である。以下、他の係合装置についても同様とする。
発進クラッチCSのスリップ係合状態では、入力軸Iと中間軸Mとが相対回転する状態で、これらの間で駆動力が伝達される。なお、発進クラッチCSの完全係合状態又はスリップ係合状態で伝達可能なトルクの大きさは、発進クラッチCSのその時点での係合圧に応じて決まる。このときのトルクの大きさを、発進クラッチCSの「伝達トルク容量Tcs」とする。本実施形態では、発進クラッチCSに対する油圧指令値Pcsに応じて、比例ソレノイド等で発進クラッチCSへの供給油量及び供給油圧の大きさを連続的に制御することにより、係合圧及び伝達トルク容量Tcsの増減が連続的に制御可能となっている。なお、発進クラッチCSのスリップ係合状態で当該発進クラッチCSを介して伝達されるトルクの伝達方向は、入力軸Iと中間軸Mとの間の相対回転の向きに応じて決まる。
また、本実施形態では、発進クラッチ動作制御部44は、車両6の走行状態に応じて発進クラッチCSのトルク制御及び回転速度制御を切り替えることが可能とされている。ここで、トルク制御は、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを所定の目標伝達トルク容量とする制御である。また、回転速度制御は、発進クラッチCSの一方側回転部材(ここでは、入力軸I)の回転速度と他方側回転部材(ここでは、中間軸M)の回転速度との間の回転速度差を所定の目標差回転速度に追従させるように、発進クラッチCSへの油圧指令値Pcs又は発進クラッチCSの目標伝達トルク容量を決定する制御である。
変速機構動作制御部45は、変速機構13の動作を制御する機能部である。変速機構動作制御部45は、アクセル開度及び車速に基づいて目標変速段を決定すると共に、変速機構13に対して決定された目標変速段を形成させる制御を行う。その際、変速機構動作制御部45は、メモリ等の記録装置に記憶して備えられた、車速及びアクセル開度と目標変速段との関係を規定した変速マップ(図示せず)を参照する。変速マップは、アクセル開度及び車速に基づくシフトスケジュールを設定したマップである。変速機構動作制御部45は、決定された目標変速段に基づいて、変速機構13内に備えられる所定の摩擦係合装置への供給油圧を制御して目標変速段を形成する。
上記のとおり、変速機構13には変速用の第一クラッチC1が備えられている。この第一クラッチC1は、例えば完全係合状態でワンウェイクラッチと協働して第1速段を形成する。この第一クラッチC1も、当然に変速機構動作制御部45の制御対象に含まれる。ここでは、第一クラッチC1の動作を制御する機能部を、特に第一クラッチ動作制御部45aとする。第一クラッチ動作制御部45aは、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1に供給される油圧を制御し、第一クラッチC1の係合圧を制御することにより、当該第一クラッチC1の動作を制御する。例えば、第一クラッチ動作制御部45aは、第一クラッチC1に対する油圧指令値Pc1を出力し、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1への供給油圧を解放油圧とすることにより、第一クラッチC1を解放状態とする。また、第一クラッチ動作制御部45aは、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1への供給油圧を完全係合油圧とすることにより、第一クラッチC1を完全係合状態とする。また、第一クラッチ動作制御部45aは、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1への供給油圧をスリップ係合油圧とすることにより、第一クラッチC1をスリップ係合状態とする。本実施形態においては、第一クラッチ動作制御部45aが、本発明における「第二係合装置動作制御部」に相当する。
第一クラッチC1のスリップ係合状態では、中間軸Mと変速中間軸Sとが相対回転する状態で、これらの間で駆動力が伝達される。なお、第一クラッチC1の完全係合状態又はスリップ係合状態で伝達可能なトルクの大きさは、第一クラッチC1のその時点での係合圧に応じて決まる。このときのトルクの大きさを、第一クラッチC1の「伝達トルク容量Tc1」とする。本実施形態では、第一クラッチC1に対する油圧指令値Pc1に応じて、比例ソレノイド等で第一クラッチC1への供給油量及び供給油圧の大きさを連続的に制御することにより、係合圧及び伝達トルク容量Tc1の増減が連続的に制御可能となっている。なお、第一クラッチC1のスリップ係合状態で当該第一クラッチC1を介して伝達されるトルクの伝達方向は、中間軸Mと変速中間軸Sとの間の相対回転の向きに応じて決まる。
また、本実施形態では、第一クラッチ動作制御部45aは、車両6の走行状態に応じて第一クラッチC1のトルク制御及び回転速度制御を切り替えることが可能とされている。ここで、トルク制御は、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1を所定の目標伝達トルク容量とする制御である。また、回転速度制御は、第一クラッチC1の一方側回転部材(ここでは、中間軸M)の回転速度と他方側回転部材(変速中間軸S)の回転速度との間の回転速度差を所定の目標差回転速度に追従させるように、第一クラッチC1への油圧指令値Pc1又は第一クラッチC1の目標伝達トルク容量を決定する制御である。
特定スリップ加速制御部46は、所定の特定スリップ加速制御を実行する機能部である。本実施形態では、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方のスリップ係合状態で車両6を加速させる制御を「特定スリップ加速制御」としている。特定スリップ加速制御は、特定スリップ加速制御部46を中核として、内燃機関制御部31、回転電機制御部43、発進クラッチ動作制御部44、及び第一クラッチ動作制御部45a等が協働することにより実行される。特定スリップ加速制御の詳細な内容については、後述する。
トルク調整制御部47は、特定スリップ加速制御の実行中に、所定のトルク調整制御を実行する機能部である。本実施形態では、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsと、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1と回転電機12が発電するための発電トルクTgとの加算値と、が等しい均衡関係となるように、発進クラッチCS、第一クラッチC1、及び回転電機12を協調動作させる制御を「トルク調整制御」としている。トルク調整制御は、トルク調整制御部47を中核として、回転電機制御部43、発進クラッチ動作制御部44、及び第一クラッチ動作制御部45a等が協働することにより実行される。トルク調整制御の詳細な内容については、後述する。
1−3.特定スリップ加速制御及びトルク調整制御の内容
次に、特定スリップ加速制御部46を中核として実行される特定スリップ加速制御、及びトルク調整制御部47を中核として実行されるトルク調整制御の具体的内容について、図2及び図3を参照して説明する。ここでは、まず特定スリップ加速制御の概略について説明し、その後、特定スリップ加速制御の実行中に当該特定スリップ加速制御と並行して実行されるトルク調整制御について説明する。なお、特定スリップ加速制御は、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方のスリップ係合状態で車両6を加速させる制御であり、本例では図2における時刻T02〜T07(図3においては、時刻T12〜T17;以下同様)の期間に実行されている。また、以下の説明では、特定スリップ加速制御が実行される前提として、アクセル開度検出センサSe4により検出されるアクセル開度はある程度大きく、要求トルク決定部42は車両6の走行抵抗よりも大きい車両要求トルクTdを決定しているものとする。
1−3−1.特定スリップ加速制御
本実施形態においては、特定スリップ加速制御は、所定の低車速状態で実行される。ここで、本実施形態では、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の完全係合状態で変速機構13において第1速段が形成されたと仮定した場合における入力軸Iの回転速度が、所定の低車速判定閾値X1以下となる状態を「低車速状態」としている。このような低車速判定閾値X1としては、例えば800〜1200〔rpm〕等の値を設定することができる。本例では、出力軸回転速度センサSe3により検出される出力軸Oの回転速度と第1速段の変速比との乗算値として導出される仮想の回転速度が低車速判定閾値X1以下である場合に、低車速状態であると判定される。例えば車両6の発進時等、車速がゼロに近い極低車速状態では、上記仮想の回転速度が低車速判定閾値X1以下となって特定スリップ加速制御が実行される。
本実施形態においては、少なくとも特定スリップ加速制御中は、内燃機関11に許容される許容回転速度域ANが設定されている。ここで、許容回転速度域ANは、第一回転速度N1以上であって、かつ、第二回転速度N2以下の回転速度の範囲である。これらの第一回転速度N1及び第二回転速度N2は、内燃機関11の特性に基づいて予め設定されている。本実施形態では、許容回転速度域ANの下限値である第一回転速度N1は、内燃機関11の自立運転を維持するのに必要な最低限の内燃機関トルクTeが得られる回転速度(アイドル回転速度)に対して所定の余裕分を加算した回転速度に設定されている。このような第一回転速度N1としては、例えば600〜900〔rpm〕等の値を設定することができる。また、許容回転速度域ANの上限値である第二回転速度N2は、特定スリップ加速制御中における内燃機関トルクTeとの関係で、内燃機関11の燃料消費率を良好に維持することができるような回転速度に設定されている。このような第二回転速度N2としては、例えば1000〜1300〔rpm〕等の値を設定することができる。本実施形態では、このような許容回転速度域ANが設定されているので、特定スリップ加速制御中における内燃機関11の回転速度は概ね許容回転速度域AN内で推移し、内燃機関11は燃料消費率に優れた状態で自立運転を維持することができる。
ここで、本実施形態においては、特定スリップ加速制御中は、基本的に、内燃機関11はトルク制御され、回転電機12は回転速度制御され、発進クラッチCS及び第一クラッチC1はトルク制御される。
回転電機制御部43は、特定スリップ加速制御中、回転電機12に目標回転速度を指令して、回転電機12の回転速度をその目標回転速度に追従させる回転速度制御を実行する。より具体的には、回転電機制御部43は、回転電機12の回転速度を目標回転速度に一致させるように目標トルクを増減させるフィードバック制御を行う。本実施形態では、この回転電機12の回転速度制御における目標回転速度は、発進クラッチCSの発熱量及びその冷却性能、第一クラッチC1の発熱量及びその冷却性能、並びに目標発電量G1等に基づいて決定される。発進クラッチCSのスリップ係合状態での発熱量は、当該発進クラッチCSを介して伝達されるトルク(伝達トルク容量Tcsに等しい)と、入力軸Iの回転速度と中間軸Mの回転速度との間の回転速度差と、に基づいて制御装置3により導出される。第一クラッチC1のスリップ係合状態での発熱量は、当該第一クラッチC1を介して伝達されるトルク(伝達トルク容量Tc1に等しい)と、中間軸Mの回転速度と変速中間軸Sの回転速度との間の回転速度差と、に基づいて制御装置3により導出される。発進クラッチCS及び第一クラッチC1の冷却性能は、これらに供給される油の温度及び量等に基づいて設定されている。
また、目標発電量G1は、バッテリ28の蓄電量や、車両6に備えられる補機類であって、電力を用いて駆動されるもの(例えば、車載用エアコンディショナーのコンプレッサ、パワーステアリング用のオイルポンプ、内燃機関11の冷却水のウォーターポンプ等)の消費電力等に基づいて、制御装置3により導出される。本例では、補機類の消費電力を十分に賄うことができ、かつバッテリ28の蓄電量が所定量以下の場合にはこれを回復させることができるように、目標発電量G1が決定される。なお、本実施形態では、車両6には回転電機12とは別のオルタネータ(発電機)は備えられていない。すなわち、本実施形態に係る駆動装置1は、オルタネータレス車両用の駆動装置である。
本実施形態では、特定スリップ加速制御部46は、発進クラッチCS及び第一クラッチC1のそれぞれの冷却性能をも考慮した上で、これらの発進クラッチCS及び第一クラッチC1の発熱量をそれぞれ適正化することができるような仮の目標回転速度を決定する。特定スリップ加速制御部46は、仮の目標回転速度に対して目標発電量G1に基づいて補正を行うことにより、特定スリップ加速制御中における回転電機12の目標回転速度である設定目標回転速度Nm1を決定する。このような設定目標回転速度Nm1は、少なくとも上記の第一回転速度N1よりも小さい値に設定され、例えば400〜700〔rpm〕等の値とすることができる。回転電機制御部43は、特定スリップ加速制御中は、上記のようにして決定された設定目標回転速度Nm1を回転電機12に指令して回転速度制御を実行し、回転電機12の回転速度Nmをその設定目標回転速度Nm1に追従させる。
内燃機関制御部31は、特定スリップ加速制御中、内燃機関11に目標トルクを指令して、内燃機関トルクTeをその目標トルクに追従させるトルク制御を実行する。本実施形態においては、内燃機関制御部31は、特定スリップ加速制御部46によって生成される内燃機関トルク指令Ceを受け取り、その受け取った内燃機関トルク指令Ceを目標トルクとしてトルク制御を実行する。ここで、本実施形態では、内燃機関トルク指令Ceは、要求トルク決定部42により決定される車両要求トルクTdと、目標発電量G1に基づいて導出される発電トルクTgと、の加算値として生成される。このとき、発電トルクTgは、目標発電量G1を設定目標回転速度Nm1で除算した除算値として導出される。よって、内燃機関制御部31は、特定スリップ加速制御中、内燃機関11に車両要求トルクTdと発電トルクTgとの加算値に等しい目標トルクを指令してトルク制御を実行し、車両要求トルクTdと発電トルクTgとの加算値に等しい内燃機関トルクTe(=Tg+Td)を内燃機関11に出力させる。なお、本実施形態では、内燃機関11の回転速度は、少なくとも特定スリップ加速制御の開始時には許容回転速度域AN内にある。
発進クラッチ動作制御部44は、特定スリップ加速制御中、基本的には発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを所定の目標伝達トルク容量とするトルク制御を実行する。本実施形態においては、伝達トルク容量Tcsの目標値は、内燃機関トルクTeに一致するように設定される。すなわち、発進クラッチ動作制御部44は、特定スリップ加速制御中、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを内燃機関トルクTe(=Tg+Td)に応じた容量とするように発進クラッチCSの係合圧を制御する。このように、発進クラッチCSをトルク制御することで、入力軸Iに伝達された内燃機関トルクTeの全部が、発進クラッチCSを介して回転電機12側に伝達されることになる。
なお、本実施形態においては、特定スリップ加速制御中、内燃機関11の回転速度が大きく上昇又は低下して許容回転速度域AN内から逸脱した場合には、発進クラッチ動作制御部44は、トルク制御の実行を中断し、入力軸Iの回転速度と中間軸Mの回転速度との間の回転速度差を所定の目標差回転速度に追従させる回転速度制御を実行する(時刻T04〜T05,時刻T14〜T15)。本実施形態では、特定スリップ加速制御中は回転電機12が回転速度制御されて中間軸Mの回転速度は設定目標回転速度Nm1に維持されるので、発進クラッチ動作制御部44が回転速度制御を実行することにより、入力軸Iと同期回転する内燃機関11の回転速度を許容回転速度域AN内に収束させることができる。すなわち、発進クラッチ動作制御部44は、特定スリップ加速制御中に内燃機関11の回転速度が許容回転速度域AN内から逸脱した場合には、内燃機関11の回転速度を再度許容回転速度域AN内に引き戻すように発進クラッチCSの係合圧を増減させるフィードバック制御を行う。なお、この発進クラッチCSの回転速度制御中も、入力軸Iに伝達された内燃機関トルクTeの全部が、発進クラッチCSを介して回転電機12側に伝達される。
第一クラッチ動作制御部45aは、特定スリップ加速制御中、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1を所定の目標伝達トルク容量とするトルク制御を実行する。本実施形態においては、伝達トルク容量Tc1の目標値は、要求トルク決定部42により決定される車両要求トルクTdに一致するように設定される。すなわち、第一クラッチ動作制御部45aは、特定スリップ加速制御中、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1を車両要求トルクTdに応じた容量とするように第一クラッチC1の係合圧を制御する。このように、第一クラッチC1をトルク制御することで、中間軸Mに伝達された内燃機関トルクTeのうち、車両要求トルクTdに相当する大きさのトルクが、第一クラッチC1を介して車輪15側となる出力軸Oに伝達されることになる。
本実施形態では、以上説明したような制御系が構築されており、特に、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsが内燃機関トルクTe(=Tg+Td)に一致するようにトルク制御され、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1が車両要求トルクTdに一致するようにトルク制御される。よって、内燃機関トルク指令Ceに基づく内燃機関トルクTe(=Tg+Td)の全部が発進クラッチCSを介して中間軸Mに伝達され、そのうち発電トルクTgが発電のために回転電機12のロータに伝達され、残りの車両要求トルクTdが第一クラッチC1を介して出力軸Oに伝達される。すなわち、特定スリップ加速制御中は、回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致するまでの時刻T02〜T03(時刻T12〜T13)を除き、基本的には、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsと、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1と発電トルクTgとの加算値と、が等しい均衡関係となる。すなわち、下記の式(1)
Tcs=Tg+Tc1 ・・・(1)
が成立する状態となる。これにより、回転電機12に目標発電量G1を発電させて必要とされる電力を賄いつつ、車両要求トルクTdを満足させることができる。
1−3−2.トルク調整制御
トルク調整制御では、特定スリップ加速制御中であって、かつ回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致する状態となった時刻T03(時刻T13)以降、特定スリップ加速制御の終了時まで上記の式(1)が成立した状態が維持される。すなわち、トルク調整制御部47は、回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致する状態となった後、第一クラッチC1が完全係合状態となるまでの間、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsと、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1と回転電機12が発電するための発電トルクTgとの加算値と、が等しい均衡関係を維持するように、発進クラッチCS、第一クラッチC1、及び回転電機12を協調制御する。なお、本実施形態では、トルク調整制御部47は、回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致しているか否かに関わらず、特定スリップ加速制御中は、車両要求トルクTdと発電トルクTgとの加算値に等しい内燃機関トルクTe(=Tg+Td)を出力させるように内燃機関11を制御する。
ところで、特定スリップ加速制御中は、内燃機関11はトルク制御されるので、当該内燃機関11の回転速度は一定値に維持される訳ではなく状況に応じて変化し得る。例えば内燃機関トルクTeの目標値(目標トルク)に対する実際値(内燃機関実トルク)のバラツキ等に起因して、内燃機関11の回転速度は上昇又は低下する場合がある。図示の例では、内燃機関11の回転速度が継続的に上昇又は低下した結果、時刻T04(時刻T14)において許容回転速度域AN内から逸脱している。この場合、上記のとおり本実施形態では、トルク調整制御部47は、発進クラッチCSの制御をトルク制御から回転速度制御に切り替える。そして、トルク調整制御部47は、発進クラッチCSの係合圧を変化させて伝達トルク容量Tcsを変化させ、内燃機関11の回転速度を許容回転速度域AN内に収束させる。
例えば図2に示すように、内燃機関11の回転速度が第二回転速度N2を超えて上昇した場合、トルク調整制御部47は、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを変化前の容量と比較して増大させ、発進クラッチCSを介して内燃機関11に伝達される負荷を増大させることで内燃機関11の回転速度を第二回転速度N2以下の速度域に向かわせる。また例えば図3に示すように、内燃機関11の回転速度が第一回転速度N1を超えて低下した場合、トルク調整制御部47は、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを変化前の容量と比較して低減させ、発進クラッチCSを介して内燃機関11に伝達される負荷を低減させることで内燃機関11の回転速度を第一回転速度N1以上の速度域に向かわせる。なお、本実施形態においては、内燃機関11の回転速度が許容回転速度域AN内から逸脱するという事象が、本発明における「外部からの変動要因」に相当し、この変動要因により、内燃機関11の回転速度を許容回転速度域AN内に収束させるための発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsの変化が生じる。
このように、本実施形態では、内燃機関11の回転速度の許容回転速度域AN内からの逸脱を、発進クラッチCSの回転速度制御によって是正するように構成したので、当該発進クラッチCSの回転速度制御中における伝達トルク容量Tcsは、強制的に変化されて内燃機関トルクTe(=Tg+Td)とは異なる容量となる。このとき、例えば変化後の発進クラッチCSの伝達トルク容量(これを「TcsA」とする)が変化前の容量よりも大きい場合には、発進クラッチCSを介して伝達されるトルク(変化後の伝達トルク容量TcsAに一致する)から発電トルクTgを減算した減算値が車両要求トルクTdよりも大きくなる。この状態では、仮に回転電機12が回転速度制御を行っていないとすれば、中間軸Mの回転速度は次第に上昇する。但し、特定スリップ加速制御中は、第一クラッチC1はスリップ係合状態にあるので、第一クラッチC1を介して伝達されるトルクは当該第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1に一致し、更にこれは車両要求トルクTdに一致するので特に問題はない。しかし、その状態で特定スリップ加速制御の終了時に第一クラッチC1がスリップ係合状態から完全係合状態へと遷移すると、発進クラッチCSを介して伝達されるトルクから発電トルクTgを減算した減算値と車両要求トルクTdとの差分に基づいて、第一クラッチC1が完全係合状態となる瞬間の前後で当該第一クラッチC1を介して車輪15側に伝達されるトルクに段差が生じる。
また例えば、変化後の発進クラッチCSの伝達トルク容量TcsAが変化前の容量よりも小さい場合には、発進クラッチCSを介して伝達されるトルク(変化後の伝達トルク容量TcsA)から発電トルクTgを減算した減算値が車両要求トルクTdよりも小さくなる。この状態では、仮に回転電機12が回転速度制御を行っていないとすれば、中間軸Mの回転速度は次第に低下し、やがて中間軸Mと変速中間軸Sとが同期して完全係合状態となる。この場合も、第一クラッチC1がスリップ係合状態から完全係合状態へと遷移するときには、発進クラッチCSを介して伝達されるトルクから発電トルクTgを減算した減算値と車両要求トルクTdとの差分に基づいて、第一クラッチC1が完全係合状態となる瞬間の前後で当該第一クラッチC1を介して車輪15側に伝達されるトルクに段差が生じる。このようなトルク段差が発生すると、車両6の乗員にショックを感じさせる可能性がある。
そこで、本実施形態では、トルク調整制御部47は、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsの変化(伝達トルク容量TcsAへの変化)が生じた場合であっても、上記式(1)が成立した状態を維持するように回転電機12を制御する。すなわち、トルク調整制御部47は、上記式(1)における発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを除いた残余の2つのパラメタ(第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1,発電トルクTg)のうち、発電トルクTgを調整することにより式(1)が成立した状態を維持させる。具体的には、トルク調整制御部47は、回転電機12の目標トルクを調整して回転電機トルクTmを調整することにより、式(1)が成立した状態を維持させる。このとき、本実施形態では、トルク調整制御部47は、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1を車両要求トルクTdに応じて一定に維持させる。なお、「一定に維持」は、積極的には調整しないことを意味する概念として用いており、時間の経過と共に車両要求トルクTdが変化する場合には、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1も車両要求トルクTdの変化に伴って変化し得る。
この場合、変化後の伝達トルク容量TcsAと、それに応じて調整された調整後の発電トルク(これを「TgA」とする)と、一定に維持される第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1と、の関係は、上記式(1)に準じて、下記の式(2)
TcsA=TgA+Tc1 ・・・(2)
となるように制御される。言い換えれば、トルク調整制御部47は、下記の式(3)に示すように、変化後の伝達トルク容量TcsAから第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1を減算した減算値に一致させるように発電トルクTgを調整して、調整後の発電トルクTgAとする。
TgA=TcsA−Tc1 ・・・(3)
なお、この場合、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1が車両要求トルクTdに一致すること、及び、発電トルクTgが負の回転電機トルクTm(<0)の絶対値であることを考慮すると、調整後の回転電機トルクTmAは、下記の式(4)
TmA=−TgA=Td−TcsA ・・・(4)
となる。
図2及び図3のタイムチャートには、発進クラッチCSの油圧指令値Pcs及び第一クラッチC1の油圧指令値Pc1を表す折れ線に隣接して、両矢印と共に括弧書きで、各時点における各クラッチの伝達トルク容量Tcs,Tc1の目標値が示されている。また、回転電機トルクTmを表す折れ線に隣接して、両矢印と共に括弧書きで、各時点における回転電機トルクTmの目標値が示されている。これらの図を参照して、時刻T03〜時刻T06(時刻T13〜時刻T17)のいずれの期間においても、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsの目標値が、回転電機トルクTmの目標値の絶対値である発電トルクTgと、車両要求トルクTdに一致するように設定された第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1の目標値と、の加算値に等しくなり、上記式(1)又は式(2)が成立していることが分かる。なお、各クラッチの伝達トルク容量Tcs,Tc1の目標値に応じて各クラッチの油圧指令値Pcs,Pc1が決定される。
以上説明したようなトルク調整制御を実行することにより、発進クラッチCSの回転速度制御によって伝達トルク容量Tcsが、特定スリップ加速制御中における当初の目標値(内燃機関トルクTe)とは異なる場合であっても、発進クラッチCSを介して伝達されるトルク(変化後の伝達トルク容量TcsA)から調整後の発電トルクTgAを減算した減算値は、常に第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1(=車両要求トルクTd)に一致する。従って、第一クラッチC1がスリップ係合状態から完全係合状態へと遷移する瞬間に、その前後で第一クラッチC1を介して車輪15側に伝達されるトルクが略一定に維持され、トルク段差によるショックが発生するのを有効に抑制することができる。
また、本実施形態では、特定スリップ加速制御中、回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致する状態となった後の全期間において、トルク調整制御が実行される。よって、実際に第一クラッチC1がスリップ係合状態から完全係合状態へと遷移する時点よりも十分に前の時点から、式(1)又は式(2)が成立する状態を維持することができる。また、本実施形態では、回転電機制御部43は、特定スリップ加速制御中の回転電機12の回転速度制御や、内燃機関11の回転速度が許容回転速度域AN内から逸脱した場合における発進クラッチCSの回転速度制御は、フィードバック制御により行われる。そのため、式(1)又は式(2)が成立する状態を実現するためには、ある程度の制御遅れが生じることはやむを得ない。この点、本実施形態では、回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致する状態となる特定スリップ加速制御の比較的初期の段階からトルク調整制御を実行するので、実際に第一クラッチC1が完全係合状態へと遷移する時点には、ほぼ確実に式(1)又は式(2)が成立する状態を実現することができる。よって、第一クラッチC1の完全係合状態への遷移時に、トルク段差が発生するのをほぼ確実に抑制することができる。
ところで、特定スリップ加速制御中、回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致するまでは、当該設定目標回転速度Nm1に向かって回転電機12の回転速度を低下させるため、回転電機12には、その絶対値が目標発電量G1に応じた発電トルクTgよりも大きなイナーシャトルクが作用する。そのため、回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致するまでは、そのようなイナーシャトルクが、トルク調整制御による上記式(1)の成立に影響を及ぼす。この点、本実施形態では、回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致する状態となって初めてトルク調整制御が実行されるので、設定目標回転速度Nm1に向かって回転電機12の回転速度を低下させるためのイナーシャトルクが、トルク調整制御に影響を与えるのを抑制することができる。
また、本実施形態では、特定スリップ加速制御中は、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方がスリップ係合状態に維持されるので、入力軸Iの回転速度及び出力軸Oの回転速度がそれぞれ同一の条件下では、発進クラッチCSの両側の入力軸Iと中間軸Mとの間の回転速度差、及び第一クラッチC1の両側の中間軸Mと変速中間軸Sとの間の回転速度差、をそれぞれ小さくすることができる。よって、例えば発進クラッチCSが完全係合状態とされて第一クラッチC1のみがスリップ係合状態とされる場合と比較して、第一クラッチC1の発熱量を低減することができる。これにより、第一クラッチC1が過熱するのを抑制して当該第一クラッチC1の耐久性を向上させることができる。なお、この場合、発進クラッチCSもスリップ係合状態とされるので、発進クラッチCSの発熱量は、当該発進クラッチCSが完全係合状態とされる場合と比較して増加する。しかし、本実施形態では、発進クラッチCSは、その全体がクラッチハウジング内において常時油に浸っており、冷却性能が非常に良好に維持されているので、特に問題はない。
1−4.特定スリップ加速制御及びトルク調製制御の処理手順
次に、本実施形態に係る特定スリップ加速制御及びトルク調製制御の処理手順について、図2及び図3のタイムチャート、並びに図4及び図5のフローチャートを参照して説明する。図2及び図3には、車両6の停止状態から特定スリップ加速制御が実行される場合の例を示している。なお、図4は特定スリップ加速制御時に実行されるトルク調整制御の全体の処理手順を示すフローチャートであり、図5は図4のステップ#05における回転速度制御判定処理の処理手順を示すフローチャートである。以下に説明する特定スリップ加速制御及びトルク調整制御の各手順は、制御装置3の各機能部により実行される。各機能部がプログラムにより構成される場合には、制御装置3が備える演算処理装置は、上記の各機能部を構成するプログラムを実行するコンピュータとして動作する。
本実施形態では、図2に示すように、時刻T01(時刻T11)以前の期間、停車発電モードが実現されて車両6の停止状態で回転電機12が発電を行っている。ここで、目標発電量G1に基づいて発電トルクTgが決定されており、停車発電モードでの内燃機関トルクTe及び回転電機トルクTmは、発電トルクTgに基づいて決定されている。時刻T01(時刻T11)において、アクセル開度が増加すると、車両6が発進することになる。このとき、出力軸Oの回転速度と第1速段の変速比との乗算値として導出される仮想の回転速度と低車速判定閾値X1との関係に基づいて、低車速状態判定及び特定スリップ加速制御開始判定が行われる。本例では、車両6の発進時は低車速状態にあるので、特定スリップ加速制御が実行される。
特定スリップ加速制御中は、停車発電モード中から引き続いて回転電機12は回転速度制御され、内燃機関11はトルク制御される。また、時刻T01〜T02(時刻T11〜T12)にかけて発進クラッチCSへの油圧指令値Pcsがスイープダウンされ、その後発進クラッチCSはトルク制御される。また、時刻T01〜T03(時刻T11〜T13)にかけて第一クラッチC1への油圧指令値Pc1が係合準備のためのプリチャージ圧に対応した値とされてからスイープアップされ、その後第一クラッチC1はトルク制御される。また、時刻T02(時刻T12)において回転電機12の目標回転速度が設定目標回転速度Nm1に設定され、所定時間だけ遅れて、時刻T03(時刻T13)において回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致する状態となっている。なお、時刻T02〜T03(時刻T12〜T13)にかけて、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1の増加に応じて、内燃機関トルクTeや、第一クラッチC1を介して車輪15側に伝達されるトルクが増加している。この状態では、パラレル走行モード(本例では、発電走行モード)が実現されている。
回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致した時刻T03(時刻T13)以降、トルク調整制御が実行される。トルク調整制御では、引き続き目標発電量G1に基づいて発電トルクTgが決定される(ステップ#01)。また、アクセル開度と車速とに基づいて車両要求トルクTdが決定される(ステップ#02)。また、第一クラッチC1のトルク制御において、当該第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1が、車両要求トルクTdに一致するように決定される(ステップ#03)。そして、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsが、ステップ#01で決定された発電トルクTgとステップ#03で決定された第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1(=車両要求トルクTd)との加算値に一致するように決定される(ステップ#04)。これにより、上記式(1)が成立する状態が実現する。なお、本例では、トルク調整制御中は発電トルクTgが一定に維持され、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsが、車両要求トルクTdの変化に応じて変化することにより式(1)の成立が維持される。この状態で、回転速度制御判定処理が実行される(ステップ#05)。回転速度制御判定処理の処理手順については、後述する。
回転速度制御判定処理による判定結果としての回転速度制御フラグがONに設定された時刻T04〜時刻T05(時刻T14〜時刻T15)の間は(ステップ#06:Yes)、発進クラッチCSの回転速度制御が実行される(ステップ#07)。発進クラッチCSの回転速度制御では、内燃機関11と同期回転する入力軸Iの回転速度を許容回転速度域AN内に収束させるように発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsの目標値が増減される。本実施形態では、発進クラッチCSの油圧指令値Pcsが取得されることにより、伝達トルク容量Tcsの目標値が推定されて取得される(ステップ#08)。この推定された伝達トルク容量Tcsの目標値が、上記で説明した変化後の伝達トルク容量TcsAとして扱われる。変化後の伝達トルク容量TcsAと上記式(3)とに基づいて発電トルクTgが調整され、調整後の発電トルクTgAが決定される(ステップ#09)。そして、上記式(2)が成立した状態を維持するように発進クラッチCS、第一クラッチC1、及び回転電機12が協調制御された状態で、車両6は走行する。
一方、回転速度制御フラグがOFFに設定された時刻T03〜時刻T04(時刻T13〜時刻T14)や時刻T05〜時刻T06(時刻T15〜時刻T16)の間は(ステップ#06:No)、発進クラッチCSのトルク制御が実行され、上記式(1)が成立した状態を維持するように発進クラッチCS、第一クラッチC1、及び回転電機12が協調制御された状態で、車両6は走行する。以上の処理を、特定スリップ加速制御中、逐次繰り返して実行する。
ここで、ステップ#05の回転速度制御判定処理の処理手順について説明する。回転速度制御判定処理では、図5に示すように、まず回転速度制御フラグがONであるか否かを判定する(ステップ#21)。なお、回転速度制御フラグの初期値はOFFに設定されている。回転速度制御フラグがOFFの場合には(ステップ#21:No)、次に内燃機関11と同期回転する入力軸Iの回転速度が取得される(ステップ#22)。取得された入力軸Iの回転速度が許容回転速度域AN内にあるか否かが判定される。つまり、入力軸Iの回転速度が、第一回転速度N1よりも低いか否か(ステップ#23)、及び、第二回転速度N2よりも高いか否かが判定される(ステップ#24)。入力軸Iの回転速度が、第一回転速度N1以上(ステップ#23:No)であって、かつ、第二回転速度N2以下の場合には(ステップ#24:No)、回転速度制御フラグはOFFに設定されたまま、回転速度制御判定処理を終了してステップ#05に戻る。一方、入力軸Iの回転速度が第一回転速度N1よりも低いか(ステップ#23:Yes)、又は、第二回転速度N2よりも高い場合には(ステップ#24:Yes)、回転電機制御フラグをONとする(ステップ#25)。
ステップ#21で回転速度制御フラグがONと判定された場合(ステップ#21:Yes)、又は、ステップ#25で回転速度制御フラグが新たにONとされた場合には、発進クラッチCSの回転速度制御による変化後の伝達トルク容量TcsAが、所定の制限値に到達したか否かが判定される(ステップ#26)。本例では、このような制限値は、調整前の発電トルクTgと車両要求トルクTdとの加算値に設定されている。すなわち、このステップ#26では、発進クラッチCSの回転速度制御による伝達トルク容量Tcsの強制的な変化量がゼロとなったか否かが判定される。変化後の伝達トルク容量TcsAが制限値に到達するまでは(ステップ#26:No)、回転速度制御フラグはONに設定されたまま回転速度制御判定処理を終了する。一方、変化後の伝達トルク容量TcsAがやがて時刻T05(時刻T15)において制限値に到達すると(ステップ#26:Yes)、回転速度制御フラグがOFFに設定されて(ステップ#27)、回転速度制御判定処理を終了する。回転速度制御判定処理の終了後は、ステップ#05に戻る。
図2及び図3を参照して、特定スリップ加速制御中は、車速の上昇に伴って変速中間軸Sと中間軸M(回転電機12)とが同期したか否かが判定される。なお、変速中間軸Sの回転速度は出力軸Oの回転速度と変速機構13において選択されている変速段(ここでは、第1速段)の変速比とに基づいて制御装置3により導出される。時刻T06(時刻T16)において中間軸Mの回転速度と変速中間軸Sの回転速度との間の回転速度差が所定値以下となったときに、これらが同期したと判定される。時刻T06〜T07(時刻T16〜T17)にかけて、第一クラッチ動作制御部45aによる第一クラッチC1への油圧指令値Pc1がスイープアップされ、これに応じて第一クラッチC1の係合圧は、スリップ係合圧から徐々に上昇する。本実施形態においては、油圧指令値Pc1のスイープアップ処理が、本発明における「増圧係合処理」に相当する。このスイープアップ処理後、時刻T07(時刻T17)において油圧指令値Pc1がステップ的に瞬時に完全係合圧まで上昇され、これに応じて第一クラッチC1の係合圧も完全係合圧まで上昇する。なお、スイープアップ処理が行われる時刻T06〜T07(時刻T16〜T17)のいずれかの時点で、実際に第一クラッチC1がスリップ係合状態から完全係合状態へと遷移する。この時点で、特定スリップ加速制御は終了する。
第一クラッチC1が完全係合状態となった後である時刻T07(時刻T17)以降は、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsと、車両要求トルクTdと発電トルクTgとの加算値と、が等しい関係となるように、発進クラッチCS及び回転電機12が協調制御される。すなわち、下記の式(5)
Tcs=Tg+Td ・・・(5)
が成立した状態を維持するように発進クラッチCS及び回転電機12が協調制御された状態で、車両6は走行する。
更なる車速の上昇に伴って、一体回転する変速中間軸S及び中間軸M(回転電機12)と入力軸I(内燃機関11)とが同期すると、時刻T08(時刻T18)において発進クラッチCSの油圧指令値Pcsがステップ的に瞬時に完全係合油圧まで上昇され、これに応じて発進クラッチCSの係合圧も完全係合圧まで上昇する。これにより、発進クラッチCSがスリップ係合状態から完全係合状態へと遷移する。時刻T08(時刻T18)以降は、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方の完全係合状態でパラレル走行モード(本例では、発電走行モード)が実現される。
2.第二の実施形態
本発明に係る制御装置の第二の実施形態について、図面を参照して説明する。図6及び図7は、本実施形態に係る特定スリップ加速制御及びトルク調整制御を実行する際の各部の動作状態の一例を示すタイムチャートである。本実施形態では、トルク調整制御における具体的な制御内容が上記第一の実施形態と一部相違している。それ以外の構成に関しては、基本的には上記第一の実施形態と同様である。以下では、本実施形態に係る制御装置3について、上記第一の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、特に明記しない点については、上記第一の実施形態と同様とする。
本実施形態においては、発進クラッチCSの回転速度制御によって、当該発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsが強制的に変化された場合、トルク調整制御部47は、上記第一の実施形態において説明した式(1)が成立した状態を維持するように、回転電機12に代えて第一クラッチC1を制御する。すなわち、トルク調整制御部47は、上記式(1)における発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを除いた残余の2つのパラメタ(第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1,発電トルクTg)のうち、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1を調整することにより式(1)が成立した状態を維持させる。具体的には、トルク調整制御部47は、第一クラッチC1の油圧指令値Pc1を調整して伝達トルク容量Tc1を調整することにより、式(1)が成立した状態を維持させる。このとき、本実施形態では、トルク調整制御部47は、発電トルクTgを一定に維持させる。
この場合、変化後の伝達トルク容量TcsAと、それに応じて調整された調整後の第一クラッチC1の伝達トルク容量(これを「Tc1A」とする)と、一定に維持される発電トルクTgと、の関係は、上記式(1)に準じて、下記の式(6)
TcsA=Tg+Tc1A ・・・(6)
となるように制御される。言い換えれば、トルク調整制御部47は、下記の式(7)に示すように、変化後の伝達トルク容量TcsAから発電トルクTgを減算した減算値に一致させるように第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1を調整して、調整後の伝達トルク容量Tc1Aとする。
Tc1A=TcsA−Tg ・・・(7)
図6のタイムチャートを参照して、本実施形態においても、時刻T23〜時刻T26(図7においては、時刻T33〜時刻T37;以下同様)の全期間で、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsの目標値が、回転電機トルクTmの目標値の絶対値である発電トルクTgと、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1の目標値と、の加算値に等しくなり、上記式(1)又は式(6)が成立していることが分かる。従って、本実施形態においても、第一クラッチC1がスリップ係合状態から完全係合状態へと遷移する瞬間に、その前後で第一クラッチC1を介して車輪15側に伝達されるトルクが略一定に維持され、トルク段差によりショックが発生するのを有効に抑制することができる。
ところで、バッテリ28の蓄電量や温度等を含むバッテリ状態や、車両6に必要とされる電力量等の状況次第では、回転電機12による発電量を所定の範囲内に維持しなければならない場合がある。本実施形態では回転電機12は回転速度制御されているので、このような場合、上記式(1)が成立した状態を維持させるために、上記第一の実施形態のように発電トルクTgを調整することが困難となる。従って、本実施形態に係るトルク調整制御は、回転電機12による発電量を変更することができないような状況で実行される制御として適している。
なお、状況に応じて本実施形態に係るトルク調整制御と、上記第一の実施形態に係るトルク調整制御と、を切り替える構成としても良い。この場合、図示はしていないが、制御装置3は、回転電機12による発電量を所定の範囲内に維持する必要性を判定し、発電量の変更の可否を判定する発電量維持判定部を備える構成とすると好適である。そして、発電量維持判定部により発電量の変更が可能と判定された場合には、トルク調整制御部47は、上記第一の実施形態において説明したように、第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1を一定に維持させて発電トルクTgを調整することにより、上記式(1)が成立した状態を維持させる。これにより、車両要求トルクTdを満足させつつ、第一クラッチC1の完全係合状態への遷移時に、トルク段差が発生するのをほぼ確実に抑制することができる。
一方、発電量維持判定部により発電量の変更が不可能と判定された場合には、トルク調整制御部47は、本実施形態において説明したように、発電トルクTgを一定に維持させて第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1を調整することにより、上記式(1)が成立した状態を維持させる。これにより、発電量を変更することができないような状況であっても、少なくとも第一クラッチC1の完全係合状態への遷移時に、トルク段差が発生するのをほぼ確実に抑制することができる。
3.その他の実施形態
最後に、本発明に係る制御装置の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、その実施形態でのみ適用されるものではなく、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記の各実施形態においては、回転電機12の回転速度が設定目標回転速度Nm1に一致する状態となった後、第一クラッチC1が完全係合状態となるまでの間、継続的にトルク調整制御が実行される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、少なくとも第一クラッチC1がスリップ係合状態から完全係合状態へと遷移する特定スリップ加速制御の終了時に式(1)が成立する状態となっていれば良く、第一クラッチC1が完全係合状態へと遷移する時点よりも前の特定スリップ加速制御中の任意の時点から継続的にトルク調整制御が実行される構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。例えば、第一クラッチC1の係合圧がスリップ係合圧から徐々に上昇されるスイープアップ処理の開始時(図2における時刻T06)から継続的にトルク調整制御が実行される構成とすることができる。或いは、制御遅れがほぼ完全に無視できる場合等には、第一クラッチC1がスリップ係合状態から完全係合状態へと遷移する瞬間の直前にトルク調整制御が実行される構成とすることも可能である。
(2)上記の各実施形態においては、トルク調整制御において、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsの変化が生じた場合に、上記式(1)における発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを除いた残余の2つのパラメタ(第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1,発電トルクTg)のうち、いずれか一方のみが調整される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、そのような場合に、式(1)が成立した状態を維持させるように第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1及び発電トルクTgの双方が調整される構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、変化後の伝達トルク容量TcsAと、それに応じて調整された調整後の第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1Aと、調整後の発電トルクTgAと、の関係は、上記式(1)に準じて、下記の式(8)
TcsA=TgA+Tc1A ・・・(8)
となるように制御される。
(3)上記の各実施形態においては、許容回転速度域ANが、第一回転速度N1以上であって、かつ、第二回転速度N2以下の回転速度の範囲に設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、許容回転速度域ANが、下限値である第一回転速度N1のみによって設定された構成や、上限値である第二回転速度N2のみによって設定された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(4)上記の各実施形態においては、発進クラッチCSの回転速度制御からトルク制御への復帰判定、すなわち、回転速度制御判定処理において回転速度制御フラグをONからOFFへと切り替えるための判定処理(図5におけるステップ#26の処理)が、発進クラッチCSの回転速度制御による変化後の伝達トルク容量TcsAに基づいて行われる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば上記復帰判定が、発進クラッチCSのトルク制御から回転速度制御への移行判定(図5におけるステップ#23,#24の処理)の指標でもある入力軸Iの回転速度に基づいて行われる構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、上記移行判定を行う場合における閾値と復帰判定を行う場合における閾値との間に差を設ける(ヒステリシスを設ける)構成としても良い。例えば、許容回転速度域ANの下限値としての第一回転速度N1に対して、その復帰判定のための閾値として、第一回転速度N1よりも大きい第三回転速度N3を設定することができる。また例えば、許容回転速度域ANの上限値としての第二回転速度N2に対して、その復帰判定のための閾値として、第二回転速度N2よりも小さい第四回転速度N4を設定することができる。但し、少なくとも第三回転速度N3よりも第四回転速度N4が大きい値となるように設定することが好ましい。
(5)上記の各実施形態においては、内燃機関11の回転速度の許容回転速度域AN内からの逸脱を、「外部からの変動要因」としている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えばバッテリ28の蓄電量や、バッテリ28が使用される環境(例えば、温度)等によっては、当該バッテリ28に充電可能な電力が制限される可能性がある。この場合、バッテリ28に許容される充電可能電力範囲からの逸脱が、「外部からの変動要因」となり得る。トルク調整制御では、そのような場合であっても、上記式(1)が成立した状態を維持するように、当該式(1)における発電トルクTgを除いた残余の2つのパラメタ(発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcs,第一クラッチC1の伝達トルク容量Tc1)のうち、少なくとも1つが調整される構成とする。この場合、車両要求トルクTdに相当するトルクが、適切に車輪15側に伝達されることを確保するべく、トルク調整制御部47が、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsを調整することにより式(1)が成立した状態を維持させる構成とすると好適である。
(6)上記の各実施形態においては、特定スリップ加速制御中、内燃機関11がトルク制御され、回転電機12が回転速度制御され、発進クラッチCS及び第一クラッチC1がトルク制御される制御系が構築されており、内燃機関11の回転速度が許容回転速度域ANを逸脱した場合にのみ発進クラッチCSが回転速度制御される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば特定スリップ加速制御中、常時、内燃機関11がトルク制御され、回転電機12が回転速度制御され、発進クラッチCSが回転速度制御され、第一クラッチC1がトルク制御される制御系が構築された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、特定スリップ加速制御中、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsは、内燃機関11の回転速度を一定に維持するために常時変化することになる。よって、トルク調整制御では、車両要求トルクTdに相当するトルクが、適切に車輪15側に伝達されることを確保するべく、トルク調整制御部47が、上記第一の実施形態のように、発進クラッチCSの伝達トルク容量Tcsの変化に応じて発電トルクTgを調整することにより式(1)が成立した状態を維持させる構成とすると好適である。
(7)上記の各実施形態においては、制御装置3による制御対象となる駆動装置1において、変速機構13に備えられる複数の摩擦係合装置のうちの1つである変速用の第一クラッチC1が「第二係合装置」とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば変速機構13に備えられる他のクラッチ、ブレーキ等の摩擦係合装置が「第二係合装置」とされた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。なお、第二係合装置が変速機構13内のブレーキとされる場合には、当該ブレーキの一方側回転部材は駆動装置ケース等の非回転部材であり、当該一方側回転部材の回転速度は常にゼロとなる。
(8)上記の各実施形態においては、制御装置3による制御対象となる駆動装置1に備えられる「第一係合装置」としての発進クラッチCSや「第二係合装置」としての第一クラッチC1が、供給される油圧に応じて係合圧が制御される、油圧駆動式の係合装置とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一係合装置及び第二係合装置は、係合圧の増減に応じて伝達トルク容量を調整可能であれば良く、例えばこれらの一方又は双方が、発生される電磁力に応じて係合圧が制御される、電磁式の係合装置として構成されることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(9)上記の各実施形態においては、制御装置3による制御対象となる駆動装置1において、変速機構13に備えられる変速用の第一クラッチC1が「第二係合装置」とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路で回転電機12と出力軸Oとの間に設けられた係合装置であれば、変速機構13に備えられる変速用の係合装置とは別の係合装置を「第二係合装置」とすることも可能である。例えば図8に示すように、回転電機12と変速機構13との間にトルクコンバータ21等の流体伝動装置を備える場合において、当該トルクコンバータ21が有するロックアップクラッチCLが「第二係合装置」とされた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、制御装置3は、ロックアップクラッチCLの動作を制御するロックアップクラッチ動作制御部51を「第二係合装置動作制御部」として備えている。そして、上記の各実施形態における第一クラッチ動作制御部45aが第一クラッチC1の動作を制御するのと同様の態様で、ロックアップクラッチ動作制御部51がロックアップクラッチCLの動作を制御することで、上記の各実施形態で説明した各種の作用効果を得ることが可能である。
(10)或いは、例えば図9に示すように、回転電機12と変速機構13との間に設けられる伝達クラッチCTが「第二係合装置」とされた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。なお、伝達クラッチCTを変速機構13と出力軸Oとの間に設ける構成としても良い。この場合、制御装置3は、伝達クラッチCTの動作を制御する伝達クラッチ動作制御部52を「第二係合装置動作制御部」として備えている。そして、上記の各実施形態における第一クラッチ動作制御部45aが第一クラッチC1の動作を制御するのと同様の態様で、伝達クラッチ動作制御部52が伝達クラッチCTの動作を制御することで、上記の各実施形態で説明した各種の作用効果を得ることが可能である。
(11)なお、制御装置3による制御対象となる駆動装置1において、ロックアップクラッチCL又は伝達クラッチCTが「第二係合装置」とされた構成では、変速機構13を、例えば変速比を無段階に変更可能な自動無段変速機構や、変速比の異なる複数の変速段を手動で切替可能に備えた手動有段変速機構、固定変速比(「1」を含む)の変速段を1つだけ有する固定変速機構等として構成することも可能である。また、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路に、少なくとも発進クラッチCS、回転電機12、及び第二係合装置の順に設けられているのであれば、変速機構13の位置は任意に設定することが可能である。
更に、制御装置3による制御対象となる駆動装置1にロックアップクラッチCL又は伝達クラッチCTが備えられる場合であっても、当該ロックアップクラッチCL又は伝達クラッチCTではなく、変速機構13に備えられる変速用の第一クラッチC1等を「第二係合装置」として、本実施形態に係る特定スリップ加速制御及びトルク調整制御を実行する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(12)上記の各実施形態においては、制御装置3が、主に内燃機関11を制御するための内燃機関制御ユニット30と、主に回転電機12、発進クラッチCS、及び変速機構13を制御するための駆動装置制御ユニット40と、を備えている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば単一の制御装置3が内燃機関11、回転電機12、発進クラッチCS、及び変速機構13等の全てを制御する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。或いは、制御装置3が、内燃機関11、回転電機12、及びそれ以外の各種構成、を制御するためのそれぞれ個別の制御ユニットを備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(13)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載された構成及びこれと均等な構成を備えている限り、特許請求の範囲に記載されていない構成の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。