JP5441405B2 - 静電トラップの改良 - Google Patents

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Description

本発明は静電トラップ、すなわち、その中に注入されたイオンがイオン検出中に実質的な静電場内で複数回反射されるタイプ、つまりすべての時間依存電場が比較的小さいタイプの質量分析器の改良に関する。本発明は特に、ただしこれに限定されないが、米国特許公開公報第5,886,346号において最初に開示されたオービトラップ質量分析器の改良に関する。
静電トラップ(EST)は、運動するイオンが実質的な静電場の中で複数回反射されるイオン光学デバイスの一種である。RF電磁場の場合と異なり、静電トラップ内への捕捉は、運動中のイオンについてのみ可能である。この運動が確実に起こるようにし、かつエネルギー保存を維持するために、データ取得時間Tmでのイオンエネルギーの損失が無視できる程度になるように、高真空が要求される。ESTには主に、イオンがトラップの座標のひとつに沿って運動方向を変えるリニア型、イオンが屈折点を持たずに複数回偏向する円形型、両方の運動が存在する軌道型の3種類がある。いわゆるオービトラップ質量分析器は、上記のうちの後者のESTカテゴリに分類されるESTの具体的な種類である。オービトラップの詳細は、米国特許公開公報第5,886,346号に記載されている。簡単にいえば、イオン発生源からのイオンが内側と外側の形付電極の間に設けられる測定用キャビティの中に注入される。外側電極は、測定キャビティへのイオン注入を可能にする円周上のギャップによって2つの部分に分割される。捕捉されたイオンのバンチが検出器(好ましい実施例においては、外側電極の2つの部分のうちの一方によって形成される)を通過すると、イオンバンチはその検出器の中にイメージ電流を誘引し、これが増幅される。
内側と外側の形付電極は、電源供給されると、キャビティ内に超対数的な電場を発生させ、静電場を使った注入イオンの捕捉を可能にする。超対数的電場のポテンシャル分布U(r,z)は、次式の形態をとる。
Figure 0005441405
ただし、rとzは円筒座標であり、z=0は電場の対称面、Cは定数、kは電場の曲率、Rm>0は固有半径である。
この分野において、質量mと電荷qを有するイオンの軸zに沿った運動は、q,k>0で厳密解を有する単調和振動子として説明される。
(2)z(t)=A・cos(ωt+θ)
ただし、
Figure 0005441405
であり、したがってωは軸方向の振動の周波数を1秒あたりのラジアンで定義したものであり、Aとθはそれぞれ軸方向の振動の振幅と相である。
以上は電極が理想的な超対数的な形状である理論的状況について述べたが、現実には実際の構成をどれだけ正確にこの理想的な配置に近づけられるかという点では限度がある。ハードマン他による”Interfacing the Orbitrap Mass Analyser to an Electrospray Ion Source”, Analytical Chemistry Vo. 75, No. 7, April 2003に記載されているように、理想的な電極形状からの逸脱および/または電気的摂動の導入によって理想的電場に摂動が生じ、その結果、理想的電場の調和軸振動が非線形振動に変形する。これは、質量精度の劣化、ピークの形状および高さの低下等の原因となることがある。
米国特許公開公報第5,886,346号 ハードマン他による"Interfacing the Orbitrap Mass Analyser to an Electrospray Ion Source", Analytical Chemistry Vo. 75, No. 7, April 2003
本発明は、一般的な意味において、実際の静電トラップが理想的ではないという性質から生じる問題に対応しようとするものである。
上記の背景に照らして、本発明の態様により提供される静電トラップでは、電場に計画的な非線形性または摂動を導入し、(単独のm/zを持つ)あるバンチの中のイオンの相分離の速度を制御または制限する。具体的には、本発明は、第一の態様として、質量分析計用の静電イオントラップであって、イオン捕捉容量を画定する電極配置を備え、前記電極配置は、イオンが実質的に等時間間隔の振動で変動し、前記捕捉容量のZ方向にイオンを捕捉する理想的ポテンシャルU(r,φ,z)と、前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)への摂動であるWとにより、ポテンシャルU’(r,φ,z)=U(r,φ,z)+Wによって定義される捕捉場を発生するように構成され、前記電極配置の形状は前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)のひとつまたは複数の等ポテンシャル線に略従うが、前記電極装置の少なくとも一部は、前記捕捉場に前記摂動Wを導入するように前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)からある程度逸脱し、前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)からの逸脱の程度は、前記捕捉されたイオンの少なくとも一部がイオン検出時間Tmでゼロより大きく約2πラジアンより小さい絶対位相の拡散を持つように前記トラップ内のイオンの相対位相が時間とともにシフトするのに十分であること、を特徴とする質量分析計用静電イオントラップが提案される。
本発明の第二の態様によれば、質量分析計用の静電イオントラップであって、イオン捕捉容量を画定する電極配置を備え、電極配置は、ポテンシャルU(r,φ,z)(ただし、U(r,φ,z)は捕捉容量のZ方向へのイオンを捕捉し、イオンが実質的に等時間間隔で振動するようにする理想的ポテンシャルである)によって定義される捕捉場を発生するように構成され、トラップはさらに、ポテンシャルU(r,φ,z)に摂動Wを導入し、時間の経過に伴うイオンの位相の相対的シフトを強制的に起こさせ、捕捉されたイオンの少なくとも一部のイオン検出時間Tでの絶対位相の拡散がゼロより大きく約2πラジアンより少なくなるようにする場摂動手段を備える静電イオントラップが提案される。
理想的でない静電トラップを詳細に理論的に分析し、摂動Wが質量分析器の全体的性能にどのように影響を与えるかを具体的に説明する。しかしながら、一般的な意味において、質量分析には数多くのトラップパラメータがさまざまな程度の影響を与え、これらのパラメータの例としては、電場発生手段が作る電場がどれだけ理想的電場に近いか、絶対的な意味とトラップの他の構成部品との相対的意味の両方におけるトラップの各寸法の精度、電場発生のために印加される電圧の精度と安定性等がある。それにかかわらず、広い意味では、これらのパラメータは、形状の「伸縮(stretching)」、電極の空間的位置の理想的電場U(r,φ,z)の等ポテンシャルに関するシフト、電極のひとつまたは複数の寸法が大きすぎる、または小さすぎることといった幾何学的歪みと、トラップ電極および/または追加の歪電極(たとえば、エンドキャップ電極)に印加される電圧や印加される磁場等の付加歪みに分類される。もちろん、これら(幾何学的歪みまたは付加歪み)のうちのひとつだけを使って適正な摂動Wを作りだすことも可能であるが、適当な摂動は、言うまでもなく、幾何学的歪みと付加歪みの両方を組み合わせることによって作り出される。
捕捉されたイオンへの影響という点で、トラップが理想的でないという性質を有することから、2つの一般的状況のいずれかが発生する。理想的トラップの場合、軸(Z)方向への振動の周波数ωは振幅と無関係である(後述の空間電荷効果による小さな漸近的シフトは別にする)。理想的でないトラップでは、摂動Wが(少なくとも)zの関数であると仮定すると、イオンのz方向への振動は振幅と無関係ではなくなり、イオンは時間とともに位相拡散(分離)するか、あるいは位相圧縮(バンチ)する。位相バンチングの場合、結果として、いわゆる「同位体効果」(後述)、質量精度の劣化、ピークの分割、不正確な定量(つまり、ピークの強度の測定値と実際値の関係の歪み)等のさまざまな望ましくないアーチファクトが発生し、そのいずれもがトラップの分析性能にとって致命的となりうる。位相分離の場合、位相の拡散は時間とともに増加を続ける。位相拡散がπラジアンを超えると、イオンは反対の相で運動を始め、その結果、全体的信号を徐々に減衰させるイメージ電流を補償する。
位相拡散が(測定時間Tに関して)急速に発生すると、信号の望ましい部分が原則的に失われてしまい、その一方で位相バンチングされたイオンから生成される信号は分析の面で劣り、あるいは不用である。第一の態様における本発明は、パラメータが位相拡散の増加速度を制限するように最適化されたトラップを提供する。実際のトラップのパラメータは、理想的な電場への摂動Wを引き起こし、ある程度の位相拡散を発生させる可能性が高い。しかしながら、トラップの測定期間Tに相応する時間について、位相拡散が約2πラジアン未満に保たれるように制約されれば、バンチングされていないイオンが検出され、分析性能が低下しない。
このことを見るための別の方法として、検出手段によって検出される「過渡信号(transient)」の減衰速度を考える。一般に、このような過渡信号は、トラップ内のイオンによって検出手段内に誘引されるイメージ電流を測定することによって生成される。過渡信号の振幅が急速に減衰するようなトラップは、時間領域において、低い分析性能を示し、特に、フーリエ変換信号における質量精度が低下する傾向がある。
そこで本発明の第三の態様によれば、質量分析計用のイオントラップであって、イオンがその内部に捕捉される電場を発生させる電場発生手段と、その質量対電荷比に応じてイオンを検出する検出手段とを備え、電場発生手段は、イオンを捕捉し、振動期間がその振動の振幅に依存し、時間の経過によってトラップ内のイオンの相対位相をシフトさせるような振動運動をイオンが示すような捕捉電場を発生させるように構成され、検出手段は、トラップ内のイオンから時間領域過渡信号を生成するように構成され、過渡信号はこれらのイオンに関する情報を含み、さらに、捕捉電場のパラメータは、検出された過渡信号がイオン検出時間Tで最大振幅からa)1%,b)5%,c)10%,d)30%,e)50%またはそれ以上まで減衰するように調整されているイオントラップが提供される。
本発明のさらに別の態様において、質量分析計用の静電イオントラップであって、その内部にイオンを捕捉する電場を発生させる電場発生手段と、その質量対電荷比に応じてイオンを検出する検出手段とを備え、電場発生手段は、円筒座標において、
Figure 0005441405
(ただし、Uは位置r,φ,zでの電場ポテンシャル、kは電場曲率、R>0は固有半径、W(r,φ,z)は電場摂動である)の形態の電場を発生させるように構成され、さらにWはrおよび/またはφの関数であり、zの関数ではないか、あるいはWは少なくともzの関数であるが、この場合、電場摂動Wにより、トラップのz軸に沿ったイオンの少なくとも一部の振動期間が、そのz方向への振動期間の増加とともに長くなる静電イオントラップが提供される。
実験を通じて、トラップのさまざまな特徴が、位相バンチングが優位に発生する原因となる摂動を発生させることが確認されており、この場合、バンチングされないイオン束からのピークは位相シフトの急速な成長によって失われる。本発明の好ましい特徴は、トラップの形状、構成および/または印加電圧に対して、バンチングされないイオン束の成長速度を制限し、位相シフトがイオン測定時間枠で約2πラジアンを超えないようにする管理された摂動を適用することを提案する。
本発明のまた別の態様によれば、質量分析計用の静電イオントラップであって、その内部にイオンを捕捉する電場を発生させる電場発生手段と、その質量対電荷比に応じてイオンを検出する検出手段とを備え、電場発生手段は、イオンを捕捉し、振動期間がその振動の振幅に依存し、時間の経過によってトラップ内のイオンの相対位相をシフトさせるような振動運動をイオンが示すような捕捉電場を発生させるように構成され、さらに、捕捉電場のパラメータは、検出されるべきトラップ内のイオンの少なくとも一部の位相拡散がイオン検出時間Tでゼロより大きく約2πラジアンより小さくなるように調整される静電イオントラップが提案される。
本発明はまた、少なくともひとつの捕捉電極を有する静電トラップ内にイオンを捕捉する方法であって、その、または個々の電極に実質的に静電捕捉ポテンシャルを印加して、容量Vで質量対電荷比m/qのイオンを捕捉し、これらのイオンが少なくとも第一の軸zに沿って複数回反射されるようにするための捕捉静電場をトラップ内に発生させるステップと、トラップの形状および/または、その、あるいは個々の捕捉電極に印加される捕捉ポテンシャルに対して歪みを加え、質量対電荷比m/qのイオンの少なくとも一部について測定時間Tで約2πラジアンを超えない相分離が起こるような摂動を捕捉静電場に引き起こすステップとを含む方法にも関する。好ましくは、上記の分離は正であるべきである。
本発明はまた、少なくともひとつの捕捉電極を有する静電トラップ内にイオンを捕捉する方法であって、その、または個々の電極に実質的に静電捕捉ポテンシャルを印加して、容量Vでイオンを捕捉し、これらのイオンが少なくとも第一の軸zに沿って複数回反射され、振動期間が容量Vで電場内に捕捉されるイオンの振動振幅Aの増大とともに長くなるようにする捕捉静電場をトラップ内に発生させるステップを含む方法にも関する。
本発明のさらにまた別の態様において、静電トラップの容認可能性またはその他を判断する方法であって、複数のイオンをトラップに供給するステップと、トラップ内のイオンの少なくとも一部を検出するステップと、そこから質量スペクトルを生成するステップと、(a)その質量スペクトルのピークが分割されていれば、性能の低いトラップであることを示すが、そのピークの分割があるか否かを確認するステップおよび/または(b)質量スペクトルにおける既知のイオンの同位体の相対的存在率は、これが予想された(理論上の、あるいは自然に発生する)存在率に対応する度合いがトラップの容認可能性を示すが、その相対的存在率を測定するステップのいずれかを含む方法が提供される。
本発明は、さまざまな方法で実現でき、以下に、いくつかの具体的実施例をあくまでも例として、添付の図面を参照しながら説明する。
図1を参照すると、静電トラップと外部保存装置を備える質量分析計の配置の概略が示されている。図1の配置は、本願と同じ譲受人に譲渡された世界特許出願第02/078046号に詳細に説明されているため、ここでは詳しく説明しない。しかしながら、本発明が関係する静電トラップの用途と目的をよりよく理解するために、図1を簡単に説明する。
図1に見られるように、質量分析計10は、気相イオンを生成する連続的または律動的イオン発生源20を備える。イオンはイオン発生源ブロック30を通過してRF伝送装置40に入り、これがイオンを冷却する。冷却されたイオンはリニアイオントラップに入り、リニアイオントラップは質量フィルタ50として機能し、対象とされる質量電荷比範囲内のイオンだけを抽出する。対象とされる質量電荷比範囲内のイオンは次に、転送八重極装置55を経て湾曲したトラップ60に進み、トラップ60がロッド群(一般に、四重極、六重極または八重極)にRFポテンシャルを印加することによって捕捉容量内にイオンを保存する。
上記の世界特許出願第02/078046号においてより詳しく説明されているように、イオンは湾曲トラップのポテンシャル井戸内に保持され、井戸の底はその出口電極に隣接して配置される。湾曲トラップ60の出口電極にDCパルスを印加することによって、イオンは湾曲トラップ60から垂直に、偏向レンズ装置70へと放出される。イオンは偏向レンズ装置70を通って静電トラップ80に至る。図1において、静電トラップ80はいわゆる「オービトラップ」型であり、外側の分割電極85と内側電極90を備える。オービトラップ80の下流では、イオンビームの光学軸上に任意の二次的電子乗算器が設置される(図1には示されていない)。
使用中、電圧パルスが湾曲トラップ60の出口電極に印加され、捕捉されたイオンを垂直方向に放出する。パルスの大きさは、好ましくは、世界特許出願第02/078046号に記載されているように各種の基準を満たし、湾曲トラップ60を出て、偏向レンズ装置70を通過するイオンが飛行時間において集束するように調整される。この目的は、イオンが同様の質量電荷比を持つ、短く、活発な束の畳み込みとしてオービトラップの入口に到達するようにすることである。このような束は、後述のように、検出を行うためにイオン束のコヒーレンスを必要とする静電トラップに非常に適している。
オービトラップ80にコヒーレントなバンチとして入るイオンは、中央電極90に向かって圧迫される。イオンは次に静電場内に捕捉され、トラップ内で三次元移動し、その中に捉えられる。本願と同じ譲受人に譲渡された米国特許公開公報第5,886,346号において詳細に説明されているように、オービトラップ80の外側電極はイオンがコヒーレントなバンチで通過するときに、イオンのイメージ電流を検出する。イオン検出システムの出力(イメージ電流)は、周波数領域に変換される時間領域の「過渡信号」であり、そこから高速フーリエ変換(FFT)を使って質量スペクトルに変換される。
オービトラップ80の動作モードと質量分析計装置10におけるその一般的な用途について説明したところで、次に、本発明をよりよく理解するために、オービトラップ80内でのイオン捕捉を理論的に分析する。
理想的電場における運動
米国特許公開公報第5,886,346号において説明されているように、オービトラップ80内の静電場の理想的形態は、上記導入部の方程式(1)において定義されるようなポテンシャル分布U(r,z)を有する。方程式(1)において、パラメータCは定数であることに注意する。この電場において、質量mと電荷qを有するイオンの軸zに沿った運動は、
Figure 0005441405
(前述の方程式(3)参照)での前述の方程式(2)によって定義される厳密解を持つ単調和振動として説明される。言い換えれば、このz方向への振動期間τ(=2π/ω)はz方向へのイオンの振動振幅Aに依存しない。
摂動電場における運動:2D摂動
実際の静電トラップの構成において、方程式(1)により定義される電場は、有限誤差により、近似することしかできない。
円筒座標(r,φ,z)において、ポテンシャル分布Uは一般に、次式のように表すことができる。
Figure 0005441405
ここで、上式のパラメータは方程式(1)に関して定義したとおりであるが、定数Cは電場摂動Wに置換され、この摂動はその最も一般的形態において三次元である。
Wがzに依存せず、以下の方程式(5)によって得られるラプラスの方程式を満たす状況を考える。
(5)ΔW(r,φ)=0
すると、z方向へのイオンの運動は、前述の方程式(2),(3)による定義のままであろう。特に、振動期間τ(=2π/ω)は、z方向への振動振幅Aに依存しないままである。方程式(5)の一般解は、(xy)座標において、次のように表される。
Figure 0005441405
ただし、
Figure 0005441405
α,β,γ,a,A,B,D,E,F,G,Hは任意の定数(D>0)、jは整数である。方程式(6)は一般的であるため、方程式(1)の中のrに依存する項のいずれかまたは全部を完全に除去し、これらを、他の座標系(楕円座標、双曲線座標等の座標系)における表現を含めた、その他の項に置換することができる。しかしながら、軸対称からこのように大きく逸脱させても、現実には有利になることはほとんどない。静電トラップの構成は、言い換えれば、摂動Wが小さいままであることが好ましい。たとえば、オービトラップの内側と外側の両方の電極の楕円変形の一致あるいは、x座標またはy座標に沿った外側電極に関する内側電極の平行移動は、方程式(2)と(3)にはまったく影響を与えないであろう(振動期間τは軸振動の振幅に依存しないままである)が、容認できる範囲内で動作するトラップを構成する上で、このような変形に関する誤差要件はそれほど厳しくない。
摂動電場における運動:3D摂動の問題
実際の静電トラップに伴う基本的な問題点は、摂動Wがzに依存している場合に発生する(さらにrおよび/またはφにも依存するか否かを問わない)。この場合、方程式(2),(3)は厳密には正しくなくなってしまい、振動期間τは振動振幅Aの関数となる。製造上の瑕疵の大部分が、後に詳述するように、少なくともz(と、通常、交差項rcos(φ)(ただし、l,j,nは整数))に依存する摂動Wを生じさせることになる。影響そのものは非常に複雑である。しかしながら、2つの単純であるが対照的な状況を考えることによって、有益かつ有意義にこの影響を概括することができる。
図2を参照すると、振動期間τのz方向へのイオンの振動振幅への依存性のグラフが示されている。点線200は、摂動がない(つまり、方程式(1)の状況)あるいは摂動がzに依存しない(上の「摂動電場における運動:2D摂動」の項に記載)理想的な状況を表す。静電トラップ内のイオンの振動期間は、所与の質量対電荷比について、その振動の振幅に関係なく一定である。
静電場が若干非線形であり(方程式(4))、摂動Wがzに依存する場合、振動期間τはAに依存し始める。図2の線220は、振幅が大きくなると振動期間Tが短くなる状況を単純化させて示している。ビーム内のイオンは、振幅範囲Δで拡散し、初期位相拡散Δθを見せる。もちろん、振動振幅Aへの振動期間τの実際の依存性は、線220が示すようにすべての考えうるAについて線形となる可能性はほとんどないが、Aの増大とともに振動期間τが線形に単調に減少するように表すことによって説明が簡単になることは理解されるであろう。振幅への期間の依存性が線形で単調に増減しない状況について、以下に説明する。
方程式(1)の理想的電場におけるイオンについて、衝突が起こらない場合、パラメータのシフトがない状態での方程式(2),(3)による振動の結果、時間tでの位相拡散Δθは一定となる。これは、図3の点線300で示されている。
摂動により、方程式(4)で定義される摂動を受けたポテンシャル分布のために電場が若干非線形になり、この摂動がzに依存している場合、イオンは依然として方程式(2),(3)に従って運動する。しかしながら、この場合、イオンの相θは時間tとともに変化する。図2の線220で示されているように期間τが振幅Aに依存する(つまり、Aの増大に伴ってτが減少する)場合、位相拡散は時間とともに増加する。これは、より大きなAを持つイオンは、相対的な意味において、より速く移動し、より小さなAのイオンは相対的にゆっくりと移動するからである。その結果として位相拡散が増加する様子は、図3の点線310によって示される。
位相拡散がπラジアンを超える地点において、イオンは逆位相での移動を開始する。これが、信号全体を漸次的に減衰させる相互のイメージ電流を補償する。
オービトラップには最小検出期間がある。検出期間が長いほど、分解能は高くなる。その一方で、測定期間が長くなることにより、位相拡散のシフトがπラジアンを超える。したがって、実際の静電トラップを製造する上での第一の制約となるのは、どのような摂動を導入しても、十分に長い測定期間Tの間に、相対位相の正味の変化が約2πラジアンを超えず、好ましくは、πラジアンを超えないようにすべきである点であることがわかる。
事実、実際のトラップにおいて、時間の経過による位相拡散の増加は普通、単純に若干非線形の電場(ポテンシャルの摂動Wによる)の結果として起こるのではない。ビーム内のイオン数が特定のレベル以上(通常、10,000から100,000イオン以上)に増えると、イオン間相互作用が空間電荷の結果としてイオンの運動に影響を与え始める。理想的電場(1)の場合、これによってイオンビームが拡散し、イオン束が大きくなるため、イオン間の距離が高レベルに達し、ビームの拡散は時間とともに遅くなる。この小さな、時間に依存する位相のドリフトθは、空間電荷の結果であり、ポテンシャルの摂動がなくても発生するが、周知の現象であり、図3において線320で概略的に示されている。線320は、ノンゼロ勾配の線に漸近的に近づくことがわかるであろう。
非線形電場の場合、これは方程式(4)で記述される摂動ポテンシャル分布によるものであり、その結果、振動期間τが振幅Aの増加とともに長くなるが(図2の線210)、空間電荷効果によるこの小さな時間依存の位相ドリフトは依然として存在する。しかしながら、この場合、線320によって表される空間電荷効果は、図2の線210によって与えられる振動期間の振幅への依存性に起因する位相の増大に関係があり、これを図3の線310で示す。線310と320を足すと、図3の線330となる。したがって、空間電荷の影響があっても、理想的電場に摂動を導入し、振幅Aの増加に伴って振動期間が短縮されるようにすることによって、線330はより短時間にπラジアンの位相シフトに近づく。上述のように、これはつまり、ある静電トラップの構成について、空間電荷効果が単に最大適正測定期間Tを短縮するだけにすぎないことを意味する。
しかしながら、振幅Aに伴って振動期間τが短縮するようになる摂動Wを加えた場合、より大きな問題が生じる。図2の線220は、やはり概略的に、またあくまでも例示のためだけに、この状況を表している。物理的に、図2の線220に示されているような依存性があると、イオンは相互に「バンチ」される。この理由は次のとおりである。空間電気による小さな時間依存の位相ドリフトθは、依然として存在する。しかしながら、これは、図2の線220に示されるTのAへの依存性の原因となる非線形電場の効果と組み合わされ、図3の線340に示される位相シフトを発生させる。
この反直感的な挙動のひとつの考えられるメカニズムは次のとおりである。イオンビームの端部のイオンは押されて、Aが小さく、あるいは大きくなる。たとえば、図2の振幅範囲Aの右端にあるイオンは、他のイオンの空間電荷効果によって、より大きなAへと押され、同時に、位相θが遅延する。しかしながら、線220により示される依存性の結果、より大きな振幅Aはより短い振動期間τ(およびより高い周波数ω)に対応し、イオンは強制的に位相θで捕捉され、イオンがビームの中央に来ると、同じ位相に戻る。
同様に、小さな振幅Aと位相θにおいて前方に押されるイオンは速度を落とし、ビームの中央に来ると、同じ位相に戻る。その結果、(上記の線330となる、もう一方の状況のように)イオンビームの位相拡散を継続的に増すのではなく、イオンビームはその位相拡散の増加を停止する。線340により示されるような特定の非線形性では、位相拡散は時間の経過によって減少し始める場合さえある。一見すると、これは好ましいように見えるが、実際には、よくても非常に好ましくなく、悪ければ静電トラップの性能が容認できない程度に低下することになるようなさまざまな結果をもたらす。たとえば、曲線340によってピーク周波数がシフトし、これが測定されたm/qに影響を与える。たとえば非線形性がイオンビームの断面の上で有意に異なる場合等、ビームが2つ以上のサブビームに分割し、そのそれぞれが独自の挙動を示すこともある。すると、分割ピーク(特に、後述する図8d,9dに見られる)、質量精度の低下、不正確な同位体比(強力なイオンビームが弱いビームよりゆっくりと減衰するため)、不正確な定量等が起こる。さらに、これらの影響は、質量対電荷比によって異なり、特定の質量対電荷比での位相バンチングを最小限にするようにデバイスを最適化できたとしても、質量対電荷比が異なれば状況を改善しない(あるいは、より悪化させる)。
現実において、摂動Wは複雑な構造を持つため、同じ質量対電荷比を有する同じイオンビームの中でも、部分によって大きく異なる影響を受けることがある。たとえば、ビームのある部分はひとつの平均速度(dθ/dt)で自己バンチし、そのビームの第二の部分は急速な位相拡散(時間t<<T内)を起こし、そのビームの第三の部分は異なる速度(dθ/dt)で自己バンチする。その結果、分割ピークが発生し、ピークのひとつの部分は周波数ω+(dθ/dt)で、他の部分は異なる周波数ω+(dθ/dt)となる。急速な位相拡散を見せたビームの第二の部分は、これも前述のように、大幅に抑圧される。これよりはるかに複雑な状況も考えられ、急速に、デバイスの質量精度が致命的に劣化することがある。
上記の説明から、次の結論が導かれる。静電場から見ると、小さな位相ドリフトの原因となる不可避的な空間電荷効果を回避する方法は皆無である。また、トラップのパラメータを、製造過程で、理想的電場(1)にまったく摂動を起こさないような厳しい許容範囲内に保つことを期待するのは非現実的である。したがって、最も好ましい現実的な状況は、トラップのパラメータを最適化し、静電場が実質的に超対数的となり、rおよび/またはφだけに依存する摂動Wを生じさせるようにすることである。この場合、空間電荷に起因する小さな時間依存の位相シフト以外に、時間の経過によるイオンの位相シフトはゼロであるべきである。
摂動Wがzおよび、あるいはその代わりにrおよび/またはφに依存する場合、時間の経過とともに位相バンチングではなく位相拡散が起こるようにトラップパラメータを最適化し、また位相拡散が十分に低速で起こり、正味の位相拡散がπラジアンを超えるのに要する時間が容認可能な測定時間Tより長くなるようにすることが好ましい。これは、位相バンチングがまったく起こらないという意味ではなく、実際には、位相分離がなくても、わずかな位相バンチングは容認可能なパフォーマンスを見せることがあり、全測定期間中に位相拡散が2πラジアンに満たない状態で、バンチングされていないイオンの少なくとも大部分が残ればよい。位相バンチングから生じる問題は、測定時間スケールTでのΔθの成長が低減するにつれ、減少する。
静電トラップの構成において変化するパラメータが多数あるのはもちろんだが、特に好ましい多くの最適化が紹介されてきた。これらはすでに実現されており、図4から7を参照しながら説明する。まず図4を参照すると、オービトラップ80の側面略図が示されている。このオービトラップの動作は前述のとおりであり、たとえば、米国特許公開公報第5,886,346号において詳細に記載されている。オービトラップ80は内側電極90(図1の端部に示されている)と外側分割電極400,410を備える。図4に見られるように、電極は、製造許容範囲内で可能なかぎり、方程式(1)の超対数的形状を有するように形付けられる。外側電極410の中に偏向板420がある。イオンは内側電極90と外側電極400,410の間に画定される捕捉容量内に、外側電極400,410の間のスロット425を通じて導入される。
エンドキャップ電極440,450は、捕捉容量内にイオンを閉じ込める。イメージ電流は、2つの外側電極400,410の間に接続された差動増幅器430を使って得られる。
ひとつの実施例において、外側電極400,410は軸(z)方向に伸張される。外側電極を理想的形状に関して軸方向に引き伸ばすことにより、マカロフがAnalytical Chemistry Vol. 72 (2000) pp 1156-1162に記載しているように、電磁力学的変調(electrodynamic squeezing)を使って注入されたイオンについて広い質量範囲での質量精度が改善される。さらに、内側電極90を、その対称軸を中心として軸方向に圧縮し、漸次的な位相拡散をもたらす摂動を起こすこともできる。さらに、あるいはその代わりに、電圧を端電極440,450に印加してもよい。
イオンはトラップのz軸に沿って調和運動を示すため、イオンはトラップの極限(+/−z)に向かって転換点を示す。これらの点において、イオンは比較的ゆっくりと移動するため、中央スロット425の近位においてポテンシャルを受けるときより、トラップ極限に向かって(軸方向へ)ポテンシャルを長い時間にわたって受ける(図5)。これらの転換点におけるイオンはまた、外側電極に比較的近くなる。その結果、転換点の付近でのトラップの形状は、イオンに対して比較的大きな影響を与える。その一方で、これらの転換点は、トラップの外側極限の軸方向に内側にある。その結果、この軸方向の極限(転換点の外側)におけるトラップの形状のイオンに対する影響は比較的限定されている。これは、転換点の領域におけるイオンに影響を与えるのは、これらの領域のうちの遠い電場だけであるからである。特に、トラップの長さの最後の10%の形状は、ほとんど無関係である。
図5に見られるように、イオン注入スロット425は軸方向に中央にある。イオンはこの地点を最大速度で通過し、したがって、ここで過ごす時間は統計的に短い。イオンはまた、その地点では、外側電極から十分に離間されている。このため、その部分のトラップの形状はイオンの軌道にある程度の影響を与えるものの、転換点でのトラップの形状ほど重要ではない。反面、図4の実施例におけるイオン注入スロット420は、中央(z)軸から遠くに位置され、ほぼイオンの転換点のうちのひとつの領域にある。このように、トラップのスロット420の領域の形状は、トラップの性能にとって比較的重要である。
関連する事柄として、その理想的な無限範囲に関して電極を切断することについての(電極極限での)補償を行う明白な必要性はないことが明らかとなる。
図5は、図4の実施例の別の配置を示すが、図5に加えた変更点と特徴は、図4の配置に適用されるものと相互に排他的ではないと理解すべきである。しかしながら、図4と5に共通する機能には、同様の参照番号が付与されている。
図5において、スペーサ電極460が外側電極410,420の間に設置され、これに電圧が印加される。一般的な意味において、外側電極の間に、これを分離するためのスペーサを設けることは好ましい。
図6は、また別の実施例を示す。ここで、外側電極400,410は、複数のセクション400’,400”,410’,410”に分けられる。この場合、バイアス電圧がこれらのセグメントに印加される。セグメントの各ペアはまた、このモードでのイオン検出に使用され、複数のイオン周波数での検出が可能となる。たとえば、図6の配置においては、差動信号が接続されたセグメントペア400’−410’と400”−410”の間に接続された場合、信号対ノイズ比を損なわずに、3周波数を検出できる。別の例として、信号は、400’と410”(たとえば、セグメント400”とセグメント410’が接地またはバイアスされている)の間で検出され、低い信号対ノイズ比でも、軸方向周波数の強力な三次高調波を供給する。検出周波数が増えることには、限定された検出時間T内で分解能がより高くなるという利点がある。これは特に、質量対電荷比の高いイオンについて有益である。
次に図7を参照すると、静電トラップ80のさらに別の実施例が示されている。図4の配置と同様に、オービトラップ80は一対の外側電極400,410を備え、その間に差動増幅器430が接続されている。外側電極410はまた、補償電極420を備える。
しかしながら、内側電極90は、2つのセグメント90’,90”に分割されている。バイアス電圧がセグメントに印加される。分割に加え、スペーサ電極470を、好ましくは対称軸(z=0)上に設けることもできる。もちろん、外側電極の有無を問わず、異なるセグメントを検出に使用することも可能である。
さまざまな実施例を紹介したが、これらは単純にトラップの寸法、形状、大きさ、制御等に対して、位相バンチングの原因となる摂動の影響を最小限にし、測定期間Tでの位相分離の増加速度を最適化(つまり、最小化)する摂動を維持するための調整を加えることの単純な例であると理解すべきである。図4から7に関して説明した組み合わせを自由に複合させることができる。多極電場、つまりz(ただし、n>2)に比例する項を含む電場は、他の手段でも生成できる。さらに、オービトラップ80は、質量に依存する収差補正を行うように、磁場に埋め込むことができる。これは特に、通常、外部保存装置からの抽出中に最大の散乱を起こす質量対電荷比が低いイオンにとって有効であり、この効果についてはさらに、世界特許出願第02/078046号に詳しく記されている。
また、偏向電極420(図4,7)への電圧を、偏向電極そのものが電場にほとんど非線形性をもたらさないように選択すべきであることがわかるであろう。一般的に、図4から7に関連して説明した幾何学的歪みの大きさは、数ミクロンから数十ミクロンである。
経験的に、幾何学的歪みに関するいくつかの最適範囲が特定されており、以下にこれを列記する。繰り返すが、これらは位相拡散を制限することが実験的に観察されたものであり、発明の概念全般を限定するものではないことを強調する。以下のリストにおいて、寸法D2は、(図6に示すように)対称軸(z=0)における外側電極400,410の内径である。寸法D1は、やはり対称軸(z=0)における内側電極90の外径である。
(A)今日のマッチング技術に関して、外側電極の最適な内径D2は20から50mmの間、任意で30mm±5mmである。
(B)好ましくは、D1<0.8D2、任意で0.4D2±0.1D2(D2が上記(A)のとおりの場合に、内側電極の直径D1は好ましくは12mmとなる)である。
(C)方程式(1)と方程式(4)のパラメータRは、好ましくは0.5D2<R<2D2の範囲、オプションとして0.75D2±0.2D2である。
(D)入口スロット425(たとえば図4)のz方向への幅は、好ましくは0.01D2から0.07D2の範囲、オプションとして0.02D2と0.03D2の間であるべきであり、zに垂直な方向(つまり、たとえば、図4を見る場合にページを見る方向)には0.2D2未満、オプションとしてで0.12D2と0.16D2の間であるべきである。
(E)システムの内側の全長は2倍(D2−D1)より大きく、もっとも好ましくはD2の1.4倍より大きくすべきである。
(F)方程式(1)の超対数的形態に関して、外側電極の形状の精度は5×10−4D2より高く、オプションとしてで5×10−5D2とすべきである。ただし、外側電極の内径は30mm、総偏差は7μmまたはそれ以上とする。トラップの性能は、外側電極の直径が名目上理想的か、若干大きい(つまり、小さくない)場合によりよくなることがわかっている。これに対して、性能は、中央電極が公称最大直径6mmであるときに中央電極が数マイクロメートルだけ薄い(つまり、薄すぎる)ときに改善され、若干(−4μmから−8μm)薄い電極によってトラップの性能が改善される。中央電極の直径が正確に公称直径またはそれより大きいと、トラップの性能が低下するようである。このひとつの実現可能な説明は、中央電極が若干薄いと、所与の直径でのz軸に平行なポテンシャル分布に、負の高次数項(たとえば、4乗以上の項)が導入されることである。その結果として得られる若干「平坦化された」ポテンシャルは、大きすぎないことを条件とするが、イオンに十分であるが過剰ではない力を加え、上記のようなイオンの望ましくない「自己組織化」を防止する。つまり、若干薄い中央電極によりもたらされる−xまたはその他の高次数項は、ゆっくりとした位相拡散を促進するようである。これは好ましい状況であり、位相は確かに拡散する(バンチングを防止する)が、容認可能な時間範囲内でのイオン検出ができなくなるほど高速ではない。
(G)外側電極の間のギャップは、好ましくは0.005D2より小さく、オプションとして約0.001D2とすべきである。しかしながら、外側電極の間の軸方向のギャップは、トラップの性能を損なうことなく、2−4μm大きすぎてもよいことが確認されている。
(H)z軸に沿った各方向への中央電極のシフトは0.005D2未満、オプションとして0.0005D2未満とすべきである。‘r’方向には、中央電極のシフトは0.01D2未満、最も好ましくは<0.001D2である。
(I)外側電極の理想的形状に関する軸方向へのさらなる伸張は、好ましくは0から10−3D2の範囲、オプションとして0.0003D2未満とすべきである。
(J)中央電極の可能な傾斜度はD2の1%未満、好ましくは0.1%D2未満とすべきである。
(K)外側電極の容認可能な位置ずれは0.003D2未満、好ましくは0.0003D2未満とすべきである。
(L)外側電極の間の容認可能な体系的不一致は0.001D2未満、好ましくは5×10−5D2未満とすべきである。一般に、オービトラップの注入側と検出側の間の鏡面対称は非常に重要であると思われる。通常、左右の外側電極の最大直径は約0.005%の範囲で相互に一致することが望ましく、これは直径30mmのトラップであれば1−2μmに対応する。
(M)容認可能な表面仕上げは2×10−4D2よりよく、オプションとしてでD2の3×10−5倍未満とすべきである。しかしながら、表面の平滑さに小さく、ランダムなばらつきがあると、有利な影響を有するようである。言い換えれば、ランダムな表面上の瑕疵により、性能が改善され、これに対し、広範囲の(体系的な)ばらつきがあると性能は劣化するようである。
上記の説明から(および図8,9,10に関連して後述する例を参照することにより)、一般に異なるパラメータによって「完璧な」トラップまたは「不用な」トラップが得られるのではなく、これらが相互に複雑に組み合わされ、これら両極端の間の範囲にあるトラップが実現することが明らかである。しかしながら、観察により、パラメータが以下に明記する範囲内にあると、容認可能なトラップが作製され、パラメータが下記の大きさに最適化されると、正しいピーク形状と位置を有する現時点で良好なトラップが生産されることが確認されている。さらに、上記のうち、(D),(E),(F),(G),(H)は、位相バンチングを支配的に発生させる、劣化を招く摂動に最も大きく貢献するようである。そのため、トラップの構成においては、振幅または寸法を好ましい範囲内に抑えるよう、特に注意を払うべきである。
上記の説明は、実際の静電トラップの性能における劣化の適正な物理的根拠を、理想的静電場への摂動という意味で説明し、容認可能なトラップの性能を実現するためには、イオンの少なくとも一部が位相バンチングされず、位相分離が急すぎないようにすべきであるとの要求事項を示した。トラップのパラメータを制御することにより、たとえば、上記(A)から(M)に記したパラメータの範囲を綿密に管理することにより、実際のトラップが本発明の基準(位相拡散の増加速度を最小化する)をどれだけ満たすかを直接決定することができる。しかしながら、ここでも経験的に、トラップの性能の可能性を示す多数の指標(つまり、測定期間Tでの位相拡散の増加速度に関する特定の要求事項を満たす可能性)が存在する。
各種の元素は、周知の、定義された相対的存在率比で本来存在する複数の同位体を有する。たとえば、炭素は2つの安定同位体12C,13Cを有し、これらは本来、それぞれ約98.93%と1.07%の比率で存在する。候補となる静電トラップを使って炭素同位体の質量スペクトルを得ることにより、測定された同位体の相対的存在率が、その候補となるトラップの適正さ、つまり、このトラップが最低限の性能要求事項を満たす可能性を示す指標となる。自己バンチングしていない信号が非常に急速に(時間t<<Tで)減衰する、性能の低いトラップの場合、自己バンチングした信号(図3の曲線340等)だけが残る。このような自己バンチングした信号は、質量スペクトルのピークが狭く、ピークの強度が良好であるため、容認可能な印象を与えるものの、13Cに関する小さいほうの同位体ピークは、天然存在率が示すものよりはるかに小さいように思われる。また、このピークは2つまたはそれ以上のサブピークに分割されることもある。
したがって、大雑把に言えば、実際のトラップが13Cの見た目上の天然存在率を約0.7%未満(予想される存在率は1.07%の範囲にある)であると示していれば、そのトラップは通常、拒絶される。
図8a−dと9a−dは、それぞれm/zが約195とm/zが約524で、電場摂動量が異なる場合のm/zに対するイオン存在率のグラフ(つまり、質量スペクトル)を示している。具体的には、図8aは、整数質量195での質量スペクトルの拡大図である。図9aは質量スペクトルであり、整数質量524で主ピークと整数質量525,526で2つのより小さなピークを有し、これは2つの同位体の存在を示す。各ピークのラベルはm/zを小数点第四位まで示したものと、オービトラップの解像度を示す。これらの2つの同位体ピークの相対的存在率(主ピークの強度に正規化したもの)はそれぞれ、理想的限界において、26%と4%である。
図8a,9aは、優良なパラメータで、つまり過渡信号の減衰速度(つまり、言い換えれば、位相分離の増加速度)が非常に低い状態で動作するオービトラップから得たものである。ここで、ピーク解像度は保存された過渡信号(つまり、測定時間T)の長さによって制限され、これは図8a,9aにおいて0.76秒である。
図8b,9bは、同じイオンを使った同じ範囲の質量スペクトルであるが、捕捉静電場に若干の非線形性を持たせたことにより、測定時間Tでの位相拡散の量は認識可能であるが容認できるレベルの場合のものである。図8bにおいて、主ピークは両側に小さな翼を作り、測定されたピーク位置も、より低い見掛け上のm/zのほうに非常にわずかにシフトしていることがわかる。図9bにおいても、主ピークと2つの同位体のピーク位置はわずかにシフトしており、同位体の相対的存在率は予想されたものと少し異なる。しかしながら、これらのピークは確かに良好な形を示し、ピーク分割もない。
図8c,9cを見ると、容認できない速度で位相拡張が行われるオービトラップの質量スペクトルが示されており、それぞれ図8a,8b,9a,9bに関して使用されたものと同じイオンが使用された。図8cにおいて、主ピークは非常に抑圧されており(存在率が図8aに示されている「実際の」存在率の40%より低い)、より多くの隣接するピークがあり、これもピークの実際の形状を変えている。図9cは、急速な位相拡張の問題も示している(測定時間全体Tに関して、位相バンチングされたイオンだけが短時間内に検出される)。主ピークは抑圧され(図9cにおいては、その強度が100%に再正規化されている)、2つの同位体は、あるべき数値よりはるかに高い相対的存在率を示している(それぞれ、26%と4.5%の理論的数値と比較して、約37%と7%)。図9cには、正しい外観(つまり、図9a,9bのピーク形状)とは異なり、主ピーク周辺のスペクトルの拡大部分が挿入されている。
最後に、完全を期して、図8d,9dは、非常に大きな非線形性が存在する、あるいはトラップに加えられ、位相バンチングが行われていないイオンが、短時間に(<<T)検出されなくなるようにした場合の質量スペクトルを示している。図8dには不良なピーク形状が見られる。つまり、狭い「スパイク」は位相バンチされたイオンによるものであり、そのスパイクの両側のスミア状の信号は急速に減衰する位相拡散信号による。図9dの質量スペクトルは、主ピークに関わる同様の問題を示している(位相バンチされたイオンによる急峻なスパイクと主ピーク周辺の小さなピークの広がり)。さらに、より小さな同位体ピークもまたいくつかに(「スパイク」と側波帯の広がりに)分割されており、これらはそれぞれ位相バンチされたイオンと急速に位相拡散するイオンによる。主ピークおよび同位体ピークの相対的な大きさも、理論的数値の近くにはない。
図10a,10bは、それぞれ急速に、およびゆっくりと増加する位相拡散を見せるトラップからの過渡信号(時間領域)を示す。図10aにおいては、過渡信号が明らかに急速に減衰する成分(約200msec)とよりゆっくりと減衰する成分(200msecを超える)を含む様子が見られる。これが、たとえば図9c,9dの分割ピークの原因となる。これに対し、図10bは、3秒と、はるかに低速で減衰する過渡信号を示す(図10a,10bの‘x’軸上の目盛りの違いに注意)。図10bの過渡信号は、質量スペクトルに変換すると、図8a,8b,9a,9bに示されているような良好な質量精度、ピーク形状等を示す。
性能の低いトラップのパラメータを示す別の指標は、質量校正における異常な非線形性の存在である。たとえば、質量範囲内に線形関数ではない、非単調な依存性が見られる場合、一般に、このトラップのパラメータは位相拡散の最大速度に関する要求事項を満たさないと判断される。良好なオービトラップは、イオン注入エネルギーへの質量偏差の固有依存性を有する傾向があり、150Vあたり0から40ppmへと注入エネルギーが増大すると、機能的なトラップであることを示すようである。負の傾斜(約−5から−10ppm以上)を示すトラップは、一般に作動しない。これは、より大きなスペーサ電極460(図5)を使用し、外側電極410,420を外側に移動させ、トラップ縁辺にある電場を弱めることによってある程度軽減(補償)できる。
最後に、前述の通り、摂動Wの複雑な構造から生じる分割ピークの存在は、通常、一般的なトラップの性能が容認できない程度であることを示すよいヒントとなる。
静電トラップの構成の安定性を最適化するために、前述の(A)から(M)によるようなパラメータそのものを最適化した上で、設計において温度不変材料、たとえば、トラップそのものにはInvar(登録商標)、絶縁体には石英またはガラス等を使用することが好ましい。さらに、イオンが横切る容量内は、高真空または超高真空に保つべきである。
もちろん、本発明は前述のオービトラップの各種実施例に限定されず、さまざまな変更を考案することができると理解するべきである。たとえば、この引用をもってその内容のすべてを本願に援用する本出願人による継続中の英国特許出願第0513047.1号に記載されているように、オービトラップの電極は、ひとつまたは複数の立体電極ではなく、一連のリングから形成することもできる。この場合、理想的な超対数的静電ポテンシャルU(r,φ,z)への好ましい摂動Wを導入するために、摂動電場U’(r,φ,z)の等ポテンシャルに一致する形状を有するリングを製造することができる。その一方で、これに加え、あるいはこれに代わり、前述の(A)−(M)に記載されたものと同じ効果を生むために、リングのいくつかまたは全部を軸(z)方向に相互に関して分離または圧縮することが好ましい場合もある。たとえば、外側のリング電極を、理想的等ポテンシャルに関して拡散させることにより、前述の(F)で述べた好ましい「平坦化」の形状に似せることができる。内側リング同士を圧縮しても、同様に、有利なより小さな直径の内側電極の配置に似る。
実際に、本発明はオービトラップだけに限定されない。このアイディアはその他の形態のEST、たとえばオープン形状(イオン軌道が複数回反射した後に重ならない)、あるいはクローズド形状(イオン軌道が実質的に同じ点を繰り返し通過する)のいずれかの多重反射システム等にも同様に応用できる。質量分析は、イメージ電流検出による周波数測定か、飛行時間分離(たとえば、検出のために二次的電子倍増管を使う)に基づいて行うことができる。後者の場合、もちろん、2πラジアンの位相拡散は、1回の反射期間のイオンの飛行時間の拡散に対応することが明らかである。本発明が適用されるESTの各種の例は、たとえば以下の明細書に記載されている。米国特許公開公報第6013913号、同第6888130号、米国特許出願第2005−0151076号、同第2005−0077462号、世界特許出願第05/001878号、米国特許出願第2005/0103992号、米国特許公開公報第6300625号、世界特許出願第02/103747号または英国特許公開公報第2,080,021号。
静電トラップと外部保存装置を備える質量分析計の配置の概略図である。 理想的および非理想的静電トラップにおける振動の振幅の振動期間への依存性を示すグラフである。 各種の摂動要素が存在する状態での、時間tに関する静電トラップのイオンの相対位相の変化を示す図である。 本発明の第一の実施例による静電トラップの側断面図である。 本発明の第二の実施例による静電トラップの側断面図である。 本発明の第三の実施例による静電トラップの側断面図である。 本発明の第四の実施例による静電トラップの側断面図である。 相分離の発生速度が増大するように静電界に導入される非線形性の程度を増した場合の、m/z=195付近での第一のサンプルの質量スペクトルを示す図である。 相分離の発生速度が増大するように静電界に導入される非線形性の程度を増した場合の、m/z=195付近での第一のサンプルの質量スペクトルを示す図である。 相分離の発生速度が増大するように静電界に導入される非線形性の程度を増した場合の、m/z=195付近での第一のサンプルの質量スペクトルを示す図である。 相分離の発生速度が増大するように静電界に導入される非線形性の程度を増した場合の、m/z=195付近での第一のサンプルの質量スペクトルを示す図である。 相分離の発生速度が増大するように静電界に導入される非線形性の程度を増した場合の、m/z=524付近での第二のサンプルの質量スペクトルを示す図である。 相分離の発生速度が増大するように静電界に導入される非線形性の程度を増した場合の、m/z=524付近での第二のサンプルの質量スペクトルを示す図である。 相分離の発生速度が増大するように静電界に導入される非線形性の程度を増した場合の、m/z=524付近での第二のサンプルの質量スペクトルを示す図である。 相分離の発生速度が増大するように静電界に導入される非線形性の程度を増した場合の、m/z=524付近の第二のサンプルの質量スペクトルを示す図である。 パラメータの最適化により、漸次的な相のspreadと過渡信号の漸次的減衰が見られる、ESTから生成された過渡信号を示す図である。 パラメータの最適化により、相が漸次的にspreadし、過渡信号の大きさの急速な初期減少が見られる、ESTから生成された過渡信号を示す図である。

Claims (53)

  1. 質量分析計用の静電イオントラップであって、
    イオン捕捉容量を画定する電極配置を備え、
    前記電極配置は、イオンが実質的に等時間間隔の振動で変動し、前記捕捉容量のZ方向にイオンを捕捉する理想的ポテンシャルU(r,φ,z)と、前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)への摂動であるWとにより、ポテンシャルU’(r,φ,z)=U(r,φ,z)+Wによって定義される捕捉場を発生するように構成され、
    前記電極配置の形状は前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)のひとつまたは複数の等ポテンシャル線に略従うが、前記電極配置の少なくとも一部は、前記捕捉場に前記摂動Wを導入するように前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)からある程度逸脱し、
    前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)からの逸脱の程度は、前記捕捉されたイオンの少なくとも一部がイオン検出時間Tでゼロより大きく約2πラジアンより小さい絶対位相の拡散を持つように前記トラップ内のイオンの相対位相が時間とともにシフトするのに十分であること、
    を特徴とする質量分析計用の静電イオントラップ。
  2. 請求項1に記載のトラップであって、
    前記電極配置は、イオンを捕捉する捕捉場を発生させる形状であり、前記トラップの長手方向zに、振動期間が振幅に依存するようにイオンが振動するようにすることを特徴とするトラップ。
  3. 請求項1のトラップであって、
    前記電極配置は、イオンを捕捉し、前記トラップの長手方向zに向かって、振動期間が振幅に依存する摂動単調和振動をイオンが行うようにする捕捉場を発生させる形状であることを特徴とするトラップ。
  4. 請求項2または3に記載のトラップであって、
    振幅Aの関数としての期間の平均変化率
    Figure 0005441405

    が正であり、増大する振幅によってイオン振動期間が増加することを特徴とするトラップ。
  5. 請求項1から4のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    前記電極配置の少なくとも一部の形状は、前記理想的等ポテンシャルから、前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)にn次(ただし、n≧2)の摂動を与えるのに十分な量だけ逸脱していることを特徴とするトラップ。
  6. 請求項5に記載のトラップであって、
    前記電極配置の少なくとも一部の形状の逸脱は、前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)から、前記理想的表現U(r,φ,z)に負の4次項を導入するのに十分な量だけ逸脱していることを特徴とするトラップ。
  7. 請求項1から6のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    前記電極配置は、その間に前記イオン捕捉容量を画定する第一と第二の電極構造を備えることを特徴とするトラップ。
  8. 請求項7に記載のトラップであって、
    前記第一の電極構造は、前記z方向に延び、最大直径D1を有する半径方向に内側の電極を有し、前記第二の電極構造は、やはり前記z方向に延び、最大直径D2を有する半径方向に外側の電極を有し、前記捕捉場は前記z方向に沿って、また半径方向に、ポテンシャル井戸の中にイオンを捕捉するように配置されていることを特徴とするトラップ。
  9. 請求項8に記載のトラップであって、
    前記内側と外側の電極は、U’(r,φ,z)の形態の捕捉場の等ポテンシャルにより画定される形状と一致し、U’(r,φ,z)=U(r,φ,z)+Wであり、U(r,φ,z)は、
    Figure 0005441405
    である理想的静電場を定義し、
    U(r,φ,z)は前記トラップ内の円筒座標における地点r,φ,zでのポテンシャル、kは電場曲率、R>0は固有半径であり、
    Wは少なくともzに依存し、前記イオン振動期間Tは、前記z方向に、前記イオン振動の振幅Aに依存し、その結果、イオンの正味の位相シフトが前記イオン検出時間Tでゼロより大きく2πラジアン未満となるようにする場の摂動であることを特徴とするトラップ。
  10. 請求項8または9に記載のトラップであって、
    前記外側電極は、U(r,φ,z)の前記理想等ポテンシャルに対して、前記z方向に伸張またはシフトされることを特徴とするトラップ。
  11. 請求項10に記載のトラップであって、
    前記外側電極の伸張量は、(1×10−3)D2を超えず、0.0003D2未満であることを特徴とするトラップ。
  12. 請求項8,9,10,11のいずれか一項に記載のトラップであって、
    前記内側電極は、z=0において、U(r,φ,z)の前記理想等ポテンシャルにより画定されるz=0おけるrの最大値より小さな最大直径D1を有することを特徴とするトラップ。
  13. 請求項12に記載のトラップであって、
    前記z方向への前記最大直径D1は、それが前記理想的表現U(r,φ,z)の等ポテンシャルと一致する場合にz=0において示される値より約0.03から0.07%小さいことを特徴とするトラップ。
  14. 請求項8から13のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    前記外側電極は、z=0において、U(r,φ,z)の前記理想等ポテンシャルにより画定されるz=0おけるrの最大値より大きな最大直径D2を有することを特徴とするトラップ。
  15. 請求項14に記載のトラップであって、
    前記最大直径D2は、前記理想的表現U(r,φ,z)の等ポテンシャルと一致する場合にz=0において示される値より約0.02%大きいことを特徴とするトラップ。
  16. 請求項8から15のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    前記外側電極は、第一と第二の軸方向に離間したセグメントを含むことを特徴とするトラップ。
  17. 請求項16に記載のトラップであって、
    さらに、前記外側電極の前記第一と第二の軸方向に離間したセグメントの間にスペーサが設けられていることを特徴とするトラップ。
  18. 請求項16または17に記載のトラップであって、
    前記第一と第二の軸方向に離間したセグメントは、D2の0.5%またはそれ以下だけ、また、その0.1%またはそれ以下だけ外側に変位されていることを特徴とするトラップ。
  19. 請求項7から18のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    前記外側電極は複数の軸方向に離間したセグメントを含むことを特徴とするトラップ。
  20. 請求項19に記載のトラップであって、
    前記外側電極は、軸方向に離間した第一と第二の相対的に内側のセグメントを、軸方向に離間した第三と第四の相対的に外側のセグメントの間に挟まれた状態で有することを特徴とするトラップ。
  21. 請求項1から20のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    さらに、前記トラップ内でイオンを検出するための検出手段を備えることを特徴とするトラップ。
  22. 請求項20に従属する場合の請求項21に記載のトラップであって、
    前記検出手段は前記第一、第二、第三、第四の軸方向に離間したセグメントのうちの2つを含むことを特徴とするトラップ。
  23. 請求項22に記載のトラップであって、
    前記検出手段はさらに、前記セグメントのうち前記検出手段の一部を形成する前記2つからの出力の差を測定するように接続された差動検出器を備えることを特徴とするトラップ。
  24. 請求項8から23のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    前記トラップのパラメータは、以下の一覧から選択された基準の少なくともひとつを満たすことを特徴とするトラップ。
    (a)前記外側電極の軸方向の位置z=0における内径D2は20mm<D2<50mmの範囲内、25から35mmの間である。
    (b)前記内側電極の軸方向への位置z=0における外径D1は<0.8D2、0.3D2と0.5D2の間である。
    (c)パラメータRは、0.5D2<R<2D2の範囲、0.55D2と0.095D2の間である。
    (d)前記トラップの軸方向への長さは、2(D2−D1)より大きく、1.4D2より大きい。
    (e)前記内側と外側の電極は前記超対数的形態に、(5×10−4)D2より高く、(5×10−5)D2より高い精度で一致する。
    (f)中央電極の傾斜度はD2の1%未満、その0.1%未満である。
    (g)前記外側電極の位置ずれはD2の0.3%未満、その0.03%未満である。
    (h)外側電極間の体系的不一致はD2の0.1%未満、その0.005%未満である。
    (i)表面仕上げは、2×10−4D2よりよく、3×10−5D2よりよい。
  25. 請求項8から24のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    さらに、前記トラップ内にイオンを注入するための、前記軸方向に外側の電極の間に形成された入口スロットを備え、
    前記入口スロットの前記z方向への幅は0.07D2未満、0.02D2と0.03D2の間であり、前記方向zに垂直方向への長さは0.2D2未満、同方向に0.12D2と0.16D2の間であることを特徴とするトラップ。
  26. 請求項1から25のうちのいずれか一項に記載の静電イオントラップであって、
    さらに、前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)に対して、前記捕捉されたイオンの少なくとも一部が、イオン検出期間Tでゼロより大きく約2πラジアン未満の絶対位相拡散を示すように、時間の経過とともに前記イオンの位相の相対的シフトを強制的に起こさせるような前記摂動Wを導入するように構成された場摂動手段を備えることを特徴とするトラップ。
  27. 質量分析計用の静電イオントラップであって、
    イオン捕捉容量を画定する電極配置を備え、
    前記電極配置は、ポテンシャルU(r,φ,z)により定義される捕捉場を発生させるように構成され、U(r,φ,z)は前記捕捉容量のZ方向にイオンを捕捉し、前記イオンが実質的に等時間間隔振動を行うようにするポテンシャルであり、
    前記トラップはさらに、ポテンシャルU(r,φ,z)に対して、前記捕捉されたイオンの少なくとも一部が、イオン検出期間Tでゼロより大きく約2πラジアン未満の絶対位相拡散を示すように、時間の経過とともに前記イオンの位相の相対的シフトを強制的に起こさせるような前記摂動Wを導入するように構成された場摂動手段を備えることを特徴とするトラップ。
  28. 請求項27に記載のトラップであって、
    前記場摂動手段は、静電場摂動Wに質量依存補正を提供するための磁石を備えることを特徴とするトラップ。
  29. 請求項27または28に記載のトラップであって、
    前記外側電極は、第一と第二の軸方向に離間したセグメントを有することを特徴とするトラップ。
  30. 請求項29に記載のトラップであって、
    さらに、前記外側電極の前記第一と第二の軸方向に離間したセグメントの間に設置されたスペーサを備えることを特徴とするトラップ。
  31. 請求項29または30に記載のトラップであって、
    前記第一と第二の軸方向に離間したセグメントは、D2の0.5%またはそれ以下、その0.1%またはそれ以下だけ分離されていることを特徴とするトラップ。
  32. 請求項27から31のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    前記外側電極は複数の軸方向に離間したセグメントを有することを特徴とするトラップ。
  33. 請求項32に記載のトラップであって、
    前記外側電極は軸方向に離間した第一と第二の相対的に内側のセグメントを、軸方向に離間した第三と第四の相対的に外側のセグメントの間に挟まれた状態で有することを特徴とするトラップ。
  34. 請求項27から33のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    さらに、前記トラップ内でイオンを検出するための検出手段を備えることを特徴とするトラップ。
  35. 請求項33に従属する場合の請求項34に記載のトラップであって、
    前記検出手段は、前記第一、第二、第三、第四の軸方向に離間したセグメントの2つを含むことを特徴とするトラップ。
  36. 請求項35に記載のトラップであって、
    前記検出手段はさらに、前記セグメントのうちの前記検出手段の一部を形成する前記2つの出力の差を測定するように接続された差動検出器を有することを特徴とするトラップ。
  37. 請求項27から36のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    前記場摂動手段は、前記摂動Wを前記理想的な場U(r,φ,z)に導入するように前記電極のうちの少なくともひとつに摂動電圧を印加するよう構成された電源を有することを特徴とするトラップ。
  38. 請求項27から36のうちのいずれか一項に記載のトラップであって、
    前記場摂動手段は、摂動電圧が印加されるひとつまたは複数のトラップエンドキャップを有することを特徴とするトラップ。
  39. 電極配置を備える静電トラップの中でイオンを捕捉する方法であって、
    前記電極の少なくとも一部に実質的に静電の捕捉ポテンシャルを印加し、前記トラップ内に、容量Vに質量対電荷比m/qのイオンを捕捉し、前記イオンが前記トラップの長さ方向の軸に沿って複数回の等時間間隔反射を行うようにするための捕捉静電場を発生させるステップと、
    前記トラップの形状を歪め、および/または前記捕捉ポテンシャルの少なくとも一部を歪め、および/または前記電極配置のひとつまたは複数の部分に追加の歪ポテンシャルを印加するステップとを含み、
    前記捕捉静電場内に、前記質量対電荷比m/qのイオンの少なくとも一部が、測定時間Tで2πラジアンを超えない位相分離を行うようにすることを特徴とする方法。
  40. 請求項39に記載の方法であって、
    さらに、前記トラップの前記形状を歪め、および/または前記捕捉ポテンシャルの少なくとも一部を歪め、および/または追加の歪ポテンシャルを前記電極配置のひとつまたは複数の部分に印加し、振幅Aの関数としての期間の平均変化率
    Figure 0005441405

    が正で、増大する振幅によってイオン振動期間が増加するようにするステップを含むことを特徴とする方法。
  41. 請求項39または40に記載の方法であって、
    前記摂動捕捉場はU’(r,φ,z)=U(r,φ,z)+Wの形態であり、ただしU(r,φ,z)は理想的捕捉ポテンシャル、Wはその歪みであり、前記トラップの前記形状を歪める前記ステップは、前記電極配置の少なくとも一部の前記形状を、前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)の等ポテンシャルから、前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)にn次の摂動であって、n≧2の摂動を加えるのに十分な量だけ逸脱するように歪めるステップを含むことを特徴とする方法。
  42. 請求項41に記載の方法であって、
    前記トラップの前記形状を歪める前記ステップは、前記電極配置の少なくとも一部の前記形状を、それが前記理想的ポテンシャルU(r,φ,z)の前記等ポテンシャルから、前記理想的表現U(r,φ,z)に負の4次項を導入するのに十分な量だけ逸脱するように歪めるステップを含むことを特徴とする方法。
  43. 請求項39に記載の方法であって、
    前記トラップは、前記捕捉静電場を発生させるための複数の捕捉電極と少なくともひとつの歪電極を備え、前記方法はさらに、前記歪電極に電圧を印加し、前記捕捉静電場に対し摂動を加え、前記捕捉場に前記摂動の少なくとも一部を作り出すステップを含むことを特徴とする方法。
  44. 請求項39に記載の方法であって、
    前記静電トラップは、その間に前記捕捉容量Vを画定する第一と第二の電極構造を備え、その各々は理想的捕捉場の等ポテンシャル線に略従い、前記トラップの前記形状に歪みを加える前記ステップは、前記第一と第二の電極構造のひとつまたは両方を、前記理想的捕捉場の等ポテンシャルに関して伸張またはシフトさせ、前記イオンの位相分離を起こさせる前記幾何学的歪みを導入するステップを含むことを特徴とする方法。
  45. トラップ内に質量対電荷比m/qのイオンを捕捉するための捕捉場を発生させるように構成された電極配置を備える静電イオントラップを作製する方法であって、
    前記電極配置のひとつまたは複数の構成部品を、公称の形状および/または寸法の規定誤差範囲内で製造するステップと、
    前記製造された構成部品の少なくともひとつのパラメータを、規定誤差範囲より高い精度で測定するステップと、
    前記電極配置の中の、測定されたパラメータが公称の形状および/または寸法より、質量対電荷比m/qの前記イオンの少なくとも一部が測定時間Tで2πラジアンを超えない位相分離を示すようにする摂動Wを前記捕捉場に追加することになるような量だけ異なることが判明した構成部品を選択するステップと、
    前記選択された構成部品からトラップを作製するステップと、
    を含むことを特徴とする方法。
  46. 請求項45に記載の方法であって、
    さらに、前記作製されたトラップの性能パラメータを決定するステップを含むことを特徴とする方法。
  47. 請求項46に記載の方法であって、
    前記トラップの性能パラメータを決定する前記ステップは、
    前記作製されたトラップに複数のイオンを供給するステップと、
    前記トラップ内で前記イオンの少なくとも一部を検出するステップと、
    前記検出されたイオンの質量対電荷比を直接または間接に表すデータを生成するステップと、
    を含むことを特徴とする方法。
  48. 請求項47に記載の方法であって、
    さらに、前記生成されたデータから質量スペクトルを得るステップと、
    前記得られた質量スペクトルのピークが分割されているか否かを確認するステップと、
    分割ピークが検出された場合に、前記作製されたトラップを拒絶するステップと、
    を含むことを特徴とする方法。
  49. 請求項47に記載の方法であって、
    さらに、前記生成されたデータから質量スペクトルを得るステップと、
    前記質量スペクトルにおける既知のイオンの同位体の相対的存在率を測定するステップと、
    前記相対的存在率が予測された、理論的または自然に発生する存在率に対応する程度が基準レベルを超えた場合に、前記トラップを拒絶するステップと、
    を含むことを特徴とする方法。
  50. 請求項47に記載の方法であって、
    前記トラップ内のイオンの質量対電荷比を直接または間接に表すデータを生成する前記ステップは、前記トラップ内の前記イオンから時間領域過渡信号を生成するステップを含み、前記過渡信号はこれらのイオンに関する情報を含み、
    前記トラップの性能パラメータを決定する前記ステップはさらに、イオン検出時間Tでの前記過渡信号の減衰を測定するステップを含み、
    前記方法はさらに、前記過渡信号が前記イオン検出時間T内に最大振幅から所定の基準レベル以下まで減衰した場合に、トラップを拒絶するステップを含むことを特徴とする方法。
  51. 請求項50に記載の方法であって、
    前記所定の基準レベルは、前記最大振幅の50%,30%,10%,5%,1%の中から選択されることを特徴とする方法。
  52. 請求項47に記載の方法であって、
    さらに、前記作製されたトラップに、第一のイオン注入エネルギーで複数のイオンを供給するステップと、
    前記第一のイオン注入エネルギーで前記トラップ内に注入された前記イオンの少なくとも一部を検出し、前記検出されたイオンのパラメータを表す第一のデータセットを生成するステップと、
    前記生成された第一のデータセットから第一の質量スペクトルを得るステップと、
    前記作製されたトラップに、第二のイオン注入エネルギーで複数のイオンを供給するステップと、
    前記第二のイオン注入エネルギーで前記トラップ内に注入された前記イオンの少なくとも一部を検出し、前記検出されたイオンのパラメータを表す第二のデータセットを生成するステップと、
    前記生成された第二のデータセットから第二の質量スペクトルを得るステップと、
    前記第一と第二の質量スペクトルの少なくとも一部を比較し、検出された質量の前記イオン注入エネルギーへの依存性があるか否かを確認するステップと、
    検出された質量のイオン注入エネルギーへの依存性があり、これが基準を超えると判断された場合に、前記作製されたトラップを拒絶するステップと、
    を含むことを特徴とする方法。
  53. 請求項45から52のうちのいずれか一項に記載の方法であって、
    前記測定された構成部品を選択する前記ステップは、測定された形状および/または寸法が、前記電極の正味の歪みが所望の大きさの摂動を導入するものであるように相補的である構成部品を選択するステップを含むことを特徴とする方法。
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