アナログ直交復調回路を使用して直交変調信号を復調すると、復調により得られる同相信号及び直交信号に直交誤差や、同相信号及び直交信号との間の遅延量の誤差を生じることがある。これは、アナログ直交復調回路が線形性に乏しい部品を使用しているからである。直交誤差及び遅延量の誤差は、同相信号及び直交信号にイメージ成分を発生させる。図1は、同相信号及び直交信号に発生するイメージ成分の説明図である。イメージ成分とは、キャリア周波数fcを中心にして送信信号の周波数(−f)と対称関係にある周波数(+f)に発生する不要波である。このような不要波は同相信号及び直交信号を劣化させる原因となる。
直交変調信号をデジタル信号に変換し、このデジタル信号にデジタル直交復調処理を施す上述の復調方法によれば、アナログ直交復調回路を使用しなくて済むため、同相信号及び直交信号に直交誤差や遅延量の誤差を生じにくくなることが期待できる。しかしながら、上述の復調方法を使用した場合においても、復調により得られる同相信号及び直交信号にイメージ成分が発生することがあり、このイメージ成分により同相信号及び直交信号が劣化することがあった。これは次の理由による。
直交変調信号をサンプリングするA/D変換器(アナログデジタル変換器)のサンプリング周波数がfであり、サンプリングタイミングを規定するためにA/D変換器に周波数fのクロック信号が入力される場合を想定する。このクロック信号に、f/2の周波数のクロック信号がクロストークノイズとして重畳されることがある。f/2の周波数のクロック信号の発生源は、例えば、直交変調回路に使用するD/A変換器(デジタルアナログ変換器)へ供給されるクロック信号でよい。またf/2の周波数のクロック信号の発生源は、例えば、送信信号及び受信信号の少なくともいずれかを処理するデジタル回路へ供給されるクロック信号でもよい。
図2の(A)はクロック信号の波形の説明図である。クロック信号の立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジの波形はある程度傾きを有する。A/D変換器は、立ち上がりエッジにおいてクロック信号の強度がある閾値VTを超えるタイミングで、入力信号をサンプリングする。このため、クロック信号の振幅が変化すると、クロック信号の強度が閾値VTを超えるタイミングすなわちサンプリングタイミングも変化する。
図2の(B)は、クロストークノイズが重畳されたクロック信号の説明図である。振幅の変動によるサンプリングタイミングの変化をわかりやすく図示するため、図2の(B)では、正弦波によってクロック信号の波形を模倣している。図2の(A)に図示する波形においても、クロストークノイズが重畳されると同様の現象が発生する。
図2の(B)に示す点線は、正弦波によって模擬的に表された元のクロック信号を示す。実線は、クロストークノイズが重畳された後のクロック信号を示す。重畳されるクロストークノイズは、元のクロック信号の周波数fの1/2の周波数(f/2)を持つ、同じく正弦波によって模擬的に表されたクロック信号である。
上記のクロストークノイズが重畳されたクロック信号には、振幅が大きい周期と振幅と小さい周期とが交互に現れる。このため、クロストークノイズが重畳されたクロック信号において立ち上がりエッジの強度が閾値VTを超えるタイミングでサンプリングすると、長いサンプリング間隔と短いサンプリング間隔とが交互に現れる。
A/D変換器は、直交変調信号から同相信号成分と直交信号成分を交互にサンプリングする。すなわち、A/D変換器が、連続するタイミングt1、t2、t3、t4、…t2n-1、t2nにて直交変調信号をサンプリングしたとすると、タイミングt1、t3、…t2n-1…で同相信号成分及び直交信号成分のいずれか一方がサンプリングされる。また、同相信号成分及び直交信号成分の残りの他方は、サンプリングタイミングt2、t4、…t2n…にてサンプリングされる。
したがって、短いサンプリング間隔と長いサンプリング間隔とが交互に現れると、同相信号成分及び直交信号成分のいずれか一方が早すぎるタイミングでサンプリングされる現象、及びこれらの成分の残りの他方が遅すぎるタイミングでサンプリングされる現象の少なくともいずれかが生じる。すなわち、同相信号成分がサンプリングされるタイミングと直交信号成分がサンプリングされるタイミングとの間の時間差に、サンプリング間隔の長短の差に応じた誤差が生じる。
このように、A/D変換器に入力される周波数fのクロック信号へf/2のクロック信号のクロストークノイズが重畳されると、同相信号成分がサンプリングされるタイミングと直交信号成分がサンプリングされるタイミングとの間の時間差に誤差が生じる。この誤差が、同相信号及び直交信号にイメージ成分を発生させ、同相信号及び直交信号を劣化させる原因となる。
そこで以下の実施例は、このようなサンプリングタイミング間の時間差の誤差を検出する。以下、添付する図面を参照して実施例について説明する。図3は実施例としての無線装置の第1例の概略構成図である。参照符号1は無線装置を示し、参照符号11はA/D変換器を示し、参照符号12はデジタル直交復調部を示し、参照符号13は誤差検出部を示す。図面では、デジタル直交復調部は「デジタルQDEM」と表記される。他の実施例を記載した図面においても同様である。
無線装置1は、A/D変換器11と、デジタル直交復調部12と、誤差検出部13を備える。A/D変換器11は、供給されるクロック信号により定まるクロックタイミングにおいて、アナログ形式の直交変調信号から同相信号成分及び直交信号成分をサンプリングする。このときA/D変換器11は、同相信号成分と直交信号成分を交互にサンプリングする。すなわち連続する2回のサンプリングタイミングにおいてA/D変換器11によりサンプリングされた信号成分の一方は同相信号成分であり、他方は直交信号成分となる。
デジタル直交復調部12は、A/D変換器から出力信号として出力される同相信号成分及び直交信号成分にデジタル直交復調処理を施し、同相信号及び直交信号を出力する。誤差検出部13は、デジタル直交復調部12から出力される同相信号及び直交信号に基づいて、同相信号成分のサンプリングタイミング及び直交信号成分のサンプリングタイミング間の時間差の誤差を検出する。
本実施例によれば、同相信号成分と直交信号成分との間のサンプリングタイミング間の時間差の誤差を検出することが可能となる。これによって、この時間差の誤差によって生じる同相信号及び直交信号の誤差の発生を検出することができる。したがって、例えば、同相信号及び直交信号の誤差を補償する際に、誤差検出部13により検出される時間差の誤差を指標値として用いることが可能となる。
次に、実施例に係る無線装置の第2例を説明する。第2例の無線装置は、サンプリングタイミング間の時間差の誤差により生じる同相信号及び直交信号の誤差を低減する。図4は、実施例に係る無線装置の第2例の概略構成図である。参照符号14は誤差低減部を示す。無線装置1は、図3を参照して説明した各構成要素に加えて誤差低減部14を備える。誤差低減部14は、誤差検出部13により検出される時間差の誤差に基づいて、時間差の誤差により生じる同相信号及び前記直交信号の誤差を低減する。
本実施例によれば、同相信号成分と直交信号成分との間のサンプリングタイミング間の時間差の誤差を低減することが可能となる。これによって、同相信号及び直交信号の品質が向上される。
誤差低減部14は、例えば、デジタル直交復調部12から出力される同相信号及び直交信号を補正することによって、同相信号及び前記直交信号の誤差を低減してもよい。このため無線装置1は、誤差低減部14として、例えば後述するように、同相信号及び直交信号の少なくともいずれかの遅延量を変更する遅延量変更部、及び同相信号と直交信号との間の直交誤差を補償する直交誤差補正部の少なくともいずれかを備えてよい。
また、誤差低減部14は、同相信号成分のサンプリングタイミング及び直交信号成分のサンプリングタイミング間の時間差の誤差を低減することによって、同相信号及び前記直交信号の誤差を低減してもよい。図5は、実施例に係る無線装置の第3例の概略構成図である。参照符号15は時間差誤差低減部を示す。
誤差低減部14は、時間差誤差低減部15を備える。時間差誤差低減部15は、A/D変換器11における同相信号成分のサンプリングタイミング及び直交信号成分のサンプリングタイミング間の時間差の誤差を低減する。本実施例のように、サンプリングタイミング及び直交信号成分のサンプリングタイミング間の時間差の誤差を低減することによっても、同相信号及び直交信号の品質を向上することができる。
上記の第1例から第3例の構成は、直交変調信号を復調する復調器に広く適用可能である。一方で、例えば、送信信号を直交変調した変調信号のフィードバック信号に基づいて、送信される変調信号に生じた非線形歪を補償するプリディストータに、上記の第1例から第3例の構成を使用してもよい。
図6は、実施例に係る無線装置の第4例の概略構成図である。無線装置1は、図4に示す第2例の構成により誤差が低減された同相信号及び直交信号をフィードバック信号として用い、フィードバック信号に基づいて非線形歪を補償するプリディストータを備える。なお、無線装置1は、第2例の構成に代えて、図5に示す第3例の構成により誤差が低減された同相信号及び直交信号をフィードバック信号として用いてもよい。
参照符号20はD/A変換器を示し、参照符号21は直交変調器を示し、参照符号22は増幅器を示し、参照符号23は周波数変換器を示す。参照符号30は歪補償係数生成部を示し、参照符号31は乗算器を示し、参照符号32は減算器を示し、参照符号33は歪補償係数演算部を示す。図面では、直交変調器は「QMOD」と表記される。他の実施例を記載した図面においても同様である。また、図4に記載した構成要素と同一の構成要素には、図4で使用した参照符号と同じ参照符号を付する。
無線装置1は、図4に記載した構成要素に加えて、D/A変換器20と、直交変調器21と、増幅器22と、周波数変換器23を備える。D/A変換器20は、デジタル形式の送信信号をアナログ形式に変換する。直交変調器21は、アナログ形式の送信信号を直交変調することによって直交変調信号を生成する。増幅器22は直交変調信号を増幅する。増幅器22により増幅された直交変調信号は分岐されその一方がアンテナから送信される。
分岐された直交変調信号の他方は周波数変換器23へ入力され、周波数変換器23は、直交変調信号を中間周波数信号へ変換する。A/D変換器11には、直交変調信号として中間周波数信号が入力され、A/D変換器11は、同相信号成分及び直交信号成分を中間周波数信号からサンプリングする。
また無線装置1は、歪補償係数生成部30と、乗算器31と、減算器32と、歪補償係数演算部33を備える。これら歪補償係数生成部30、乗算器31、減算器32、歪補償係数演算部33によってプリディストータが実現される。
歪補償係数生成部30は、送信信号の電力に応じた複数の歪補償係数を記憶する。歪補償係数生成部30は、送信信号を入力し、送信信号の電力に応じた歪補償係数を乗算器31に出力する。乗算器31は、受信した歪補償係数を送信信号に乗算することにより歪補償処理を施す。
減算器32は、誤差低減部14により誤差が低減された同相信号及び直交信号をフィードバック信号として入力し、送信信号を参照信号として入力する。減算器32は、フィードバック信号と送信信号との間の差信号を演算し、歪補償係数演算部33へ出力する。
歪補償係数演算部33は、適応アルゴリズムによって、受信される差信号が小さくなるように歪補償係数を演算する。歪補償係数演算部33は、歪補償係数生成部30に記憶される歪補償係数を、演算により求めた歪補償係数で置き換えることによって、歪補償係数生成部30に記憶される歪補償係数の内容を更新する。後述において、歪補償係数生成部30に記憶される歪補償係数の更新処理を更に説明する。
なお、歪補償係数生成部30は、特許請求の範囲に記載される歪補償係数記憶部の一例として挙げられる。また、歪補償係数生成部30及び乗算器31は、特許請求の範囲に記載される歪補償部の一例として挙げられる。また、減算器32及び歪補償係数演算部33は、特許請求の範囲に記載される歪補償係数演算部の一例として挙げられる。
本実施例によれば、フィードバック信号として歪補償係数の生成に使用される同相信号及び直交信号の品質が向上するため、プリディストータの歪補償性能が向上する。
図7は、実施例に係る無線装置の第5例の概略構成図である。参照符号2は送信信号発生部を示し、参照符号24は方向性結合器を示し、参照符号25はクロック発生部を示す。参照符号40は直交誤差補正部を示し、参照符号41はレート変更部を示し、参照符号42は遅延量変更部を示し、参照符号43はフィルタを示す。参照符号44は周波数特性解析部を示し、参照符号45はイメージ成分測定部を示し、参照符号46は制御信号生成部を示す。
図7の概略構成図では、図6に記載される構成に加えて、無線装置1が、送信信号を発生させる送信信号発生部2と、方向性結合器24と、クロック発生部25を備えることが明示されている。方向性結合器24は、増幅器22により増幅された直交変調信号を分岐し、分岐された直交変調信号の一方をアンテナに出力する。方向性結合器24は、分岐された直交変調信号の他方を周波数変換器23に出力する。
クロック発生部25は、サンプリングタイミングを定めるクロック信号を、A/D変換器11とD/A変換器20へ供給する。A/D変換器11へ供給されるクロック信号を「CLK1」と記し、D/A変換器20へ供給されるクロック信号を「CLK2」と記す。A/D変換器11のサンプリング周波数は、例えば、プレディストータによる歪補償を行う周波数帯域の拡大のため、D/A変換器20のサンプリング周波数の2倍に設定されていてよい。いま、A/D変換器11へ供給されるクロック信号CLK1の周波数を「f」とする。すなわちA/D変換器11のサンプリング周波数はfである。
無線装置1は、直交誤差補正部40、レート変更部41、遅延量変更部42及びフィルタ43を備える。直交誤差補正部40は、制御信号生成部46から出力される制御信号に従って、デジタル直交復調部12から出力される同相信号と直交信号との間の直交誤差を補正する。レート変更部41は、直交誤差補正部40により補正された同相信号及び直交信号のサンプルを1個おきに間引くことにより、同相信号及び直交信号のサンプリング周波数を「f」から「f/2」に変更する。
遅延量変更部42は、制御信号生成部46から出力される制御信号に従って、同相信号及び直交信号の少なくともいずれかの遅延量を変更する。フィルタ43は、同相信号と直交信号との間において遅延量を相対的に「1/f」だけずらすことにより、同相信号と直交信号の位相を同期させる。直交誤差補正部40、レート変更部41、遅延量変更部42及びフィルタ43の動作については後により詳しく説明する。
また、無線装置1は、周波数特性解析部44、イメージ成分測定部45及び制御信号生成部46を備える。周波数特性解析部44は、フィルタ43から出力される同相信号及び直交信号の少なくともいずれかの周波数特性を解析し、同相信号及び直交信号の少なくともいずれかの各周波数帯域毎の信号強度を測定する。周波数特性解析部44は、例えばFFTによって同相信号及び直交信号の少なくともいずれかの各周波数帯域毎の信号強度を測定してよい。
イメージ成分測定部45は、周波数特性解析部44の解析結果に応じて、同相信号及び直交信号の少なくともいずれかの既知の周波数帯域に現れるイメージ成分の信号強度を測定する。制御信号生成部46は、イメージ成分測定部45により測定されるイメージ成分の信号強度が所定の許容範囲に収まるように、遅延量変更部42による遅延量の変更量及び直交誤差補正部40による補正量の少なくともいずれかを調整し、イメージ成分の信号強度を低減する。
上述のとおり、A/D変換器11による同相信号成分及び直交信号成分のサンプリングタイミングの間の時間差の誤差に応じて、同相信号及び直交信号の少なくともいずれかにイメージ成分が生じる。したがって、例えば周波数特性解析部44及びイメージ成分測定部45は、同相信号成分及び直交信号成分のサンプリングタイミングの間の時間差の誤差を検出する誤差検出部13の一例として挙げられる。また、例えば直交誤差補正部40、遅延量変更部42及び制御信号生成部46は、上記の時間差の誤差を低減する誤差低減部14の一例として挙げられる。
次に、歪補償係数生成部30、乗算器31、減算器32及び歪補償係数演算部33による歪み補償処理を説明する。図8は歪み補償処理の説明図である。歪補償係数生成部30、乗算器31、減算器32及び歪補償係数演算部33は、例えば適応LMSによる歪み補償処理を実施する。
乗算器31は送信信号x(t)に歪補償係数hn-1(p)を乗算する。参照符号51は、送信信号の電力pに応じた歪関数f(p)を有する送信電力増幅器であり、図7における増幅器22に対応する。参照符号52は、送信電力増幅器51からの出力信号を帰還してこの帰還信号を復調する帰還系を示す。帰還系52により復調された帰還復調信号をy(t)と記す。
歪補償係数生成部30は、電力演算部61と、歪補償係数記憶部62を備える。電力演算部61は、送信信号x(t)の電力p(=x(t)2)を演算する。歪補償係数記憶部62は送信信号x(t)の各電力pに応じた歪補償係数を記憶する。歪補償係数記憶部62は、送信信号x(t)の電力pに応じた歪補償係数hn-1(p)を出力する。また、歪補償係数記憶部62は、LMSアルゴリズムにより求まる歪補償係数hn(p)によって、歪補償係数hn-1(p)を更新する。
歪補償係数演算部33は、共役複素信号生成部63と、乗算器64、65及び66、加算器67を備える。乗算器64は、送信信号x(t)と帰還復調信号y(t)の差e(t)と、u*(t)の乗算を行う。信号u*(t)は、帰還復調信号y(t)の共役複素信号y*(t)と歪補償係数hn-1(p)の積である。
乗算器65は、歪補償係数hn-1(p)とy*(t)の乗算を行い信号u*(t)を出力する。乗算器66は、e(t)とu*(t)の積に、ステップサイズパラメータμを乗算する。加算器67は、歪補償係数hn-1(p)とμ×e(t)×u*(t)とを加算する。
上記構成により、以下に示す演算が行われる。
hn(p)=hn-1(p)+μ×e(t)×u*(t)
e(t)=x(t)−y(t)
y(t)=hn-1(p)×x(t)×f(p)
u(t)=x(t)×f(p)=hn-1(p)*×y(t)
p=|x(t)|2
上記演算処理を行うことにより、送信信号x(t)と帰還復調信号y(t)の差信号e(t)が最小となるように歪補償係数h(p)が更新され、最終的に最適の歪補償係数値に収束し、送信電力増幅器の歪が補償される。
次に、フィルタ43による同相信号及び直交信号の少なくともいずれかの遅延量の調整処理を説明する。同相信号及び直交信号の少なくともいずれかの遅延量を変更するフィルタ43は、例えば、有限インパルス応答フィルタ(FIRフィルタ)によって実現することが可能である。タップ係数を適切に設定することによって、FIRフィルタは、入力信号を所望の時間だけ遅延させて出力することができる。例えば、図9のFIRフィルタのインパルス応答特性における8つの点で示されるようなポイントの値をタップ係数に採用することで、1/8シンボルだけ入力信号を遅延させることが可能になる。また、図9に示されるような8つのポイントの値をタップ係数に採用することで、5/8シンボルだけ入力信号を遅延させることが可能になる。このような処理は、フィルタ43は、FIRフィルタに限らず、無限インパルス応答IIRフィルタなどの他のデジタルフィルタによって構成してもよい。
図7を参照する。A/D変換器11へ供給されるクロック信号CLK1は、クロストークによって、D/A変換器20へ供給されるクロック信号CLK2が重畳されることがある。クロック信号CLK2の周波数は、CLK1の周波数fの1/2の周波数である。このため、クロック信号CLK1にクロック信号CLK2が重畳されると、図2の(B)に示すとおり、A/D変換器11のサンプリング間隔には、長い間隔と短い間隔とが交互に現れる。すなわち、同相信号成分のサンプリングタイミングと、直交信号成分のサンプリングタイミングとの間の時間差に誤差が生じる。
なお、A/D変換器11へ供給されるクロック信号CLK1へ対する周波数f/2の周波数成分のクロストークは、無線装置1のその他のデジタル回路、例えば送信信号発生部2へ供給されるクロック信号から生じることがある。したがって、クロストークによりクロック信号CLK1へ重畳される周波数f/2の周波数成分の発生源は、クロック信号CLK2に限定されない。
すなわち、クロック信号CLK2の周波数が、クロック信号CLK1の周波数の1/2でない場合であっても、クロック信号CLK2以外のクロック信号によって、クロック信号CLK1へ対する周波数f/2の周波数成分のクロストークが生じることがある。またクロック信号CLK2からクロック信号CLK1へのクロストークが全く発生しない場合であっても、クロック信号CLK2以外のクロック信号によって、クロック信号CLK1へ対する周波数f/2の周波数成分のクロストークが生じることがある。
図11は、同相信号成分及び直交信号成分のサンプリングタイミングの時間差の誤差による同相信号及び直交信号の少なくともいずれかに生じる誤差の説明図である。A/D変換器11のサンプリング周期(1/f)をTsと記す。参照符号71及び72は、デジタル直交復調部12において、A/D変換器11の出力信号にそれぞれcos(2π(1/4Ts)t)、sin(2π(1/4Ts)t)を乗算する乗算器である。
図7のレート変更部41は、デジタル直交復調部12により復調された同相信号を1個おきに間引くレート変更部41−1と、デジタル直交復調部12により復調された直交信号を1個おきに間引くレート変更部41−2を備える。実際には、A/D変換器11から出力されるサンプル列の偶数番目のサンプルを同相信号及び直交信号の一方として取得し、奇数番目のサンプルを同相信号及び直交信号の他方として取得することにより、デジタル直交復調部12とレート変更部41の処理を実現してよい。また、図7のフィルタ43は、同相信号の遅延量を調整するフィルタ43−1と、直交信号の遅延量を調整するフィルタ43−2とを備える。
図11中の部分A〜部分Gの信号をそれぞれ信号A〜信号Gと記す。信号Aは、A/D変換器11により、サンプリング周期Tsで直交変調信号をサンプリングした信号である。クロック信号CLK1に周波数(f/2)の周波数成分が重畳していない場合には、信号Aを下記の通り記すことができる。
信号A=I(t)cos(2π(1/4Ts)t)+Q(t)sin(2π(1/4Ts)t) …(1)
信号Bは、デジタル直交復調部12の乗算器71から出力される、cos(2π(1/4Ts)t)と信号Aとの積である。いまA/D変換器11が、サンプリングタイミングt=2n×Tsにおいて同相信号成分をサンプリングし、サンプリングタイミングt=(2n+1)×Tsにおいて直交信号成分をサンプリングする場合を想定する。nは整数である。信号Bは、同相信号のサンプル列I(0)、0、I(2Ts)、0、I(4Ts)…となる。
信号Cは、デジタル直交復調部12の乗算器71から出力される、sin(2π(1/4Ts)t)と信号Aとの積である。信号Cは、直交信号のサンプル列0、Q(Ts)、0、Q(3Ts)…となる。
信号Dは、サンプル列I(0)、0、I(2Ts)、0、I(4Ts)…のうち、値「0」のサンプルがレート変更部41−1によって間引きされ、サンプリング周波数が(f/2)に変更された同相信号のサンプル列I(2n×Ts)である。信号Eは、サンプル列0、Q(Ts)、0、Q(3Ts)…のうち、値「0」のサンプルがレート変更部41−2によって間引きされ、サンプリング周波数が(f/2)に変更された直交信号のサンプル列Q((2n+1)×Ts)である。
信号F及びGは、フィルタ43−1及び43−2によって信号D及びEの遅延量をそれぞれ調整し、信号DとEとの間において遅延量を相対的に「1/f」だけずらすことにより、位相が合致された同相信号と直交信号である。例えば、フィルタ43−1が同相信号I(2n×Ts)を「1/f」だけ遅延させることにより、直交信号Q((2n+1)×Ts)の位相と合わせる場合には、信号F及びGは、それぞれI((2n+1)×Ts)及びQ((2n+1)×Ts)となる。また例えば、フィルタ43−2が直交信号Q((2n+1)×Ts)を「1/f」だけ早めることにより、同相信号I(2n×Ts)の位相と合わせる場合には、信号F及びGは、それぞれI(2n×Ts)及びQ(2n×Ts)となる。
次に、クロック信号CLK1に周波数(f/2)の周波数成分が重畳し、A/D変換器11による同相信号成分及び直交信号成分のサンプリングタイミングの時間差に誤差が生じた場合を説明する。いま、サンプリングタイミングの時間差の誤差により、直交信号成分をサンプリングするタイミングt=(2n+1)×Tsが誤差ΔTだけずれた場合を想定する。
サンプリングタイミングt=2n×TsにおいてA/D変換器11によりサンプリングされたサンプル(信号A)は上式(1)と同様である。一方で、サンプリングタイミングt=(2n+1)×Tsにおいてサンプリングされたサンプル(信号A)は次式(2)の通りとなる。
信号A=I(t+ΔT)cos(2π(1/4Ts)×(t+ΔT))+Q(t+ΔT)sin(2π(1/4Ts)×(t+ΔT)) …(2)
次に、式(2)の信号Aとsin(2π(1/4Ts)t)との積である信号Cを算出する。乗算器72は、時刻t=2n×Tsにおいて「0」(=sin(n×π))を信号Aに乗算し、時刻t=(2n+1)×Tsにおいて「±1」(=sin(nπ+π/2))を信号Aに乗算する。このように構成することによって、デジタル直交復調部12の構成が簡易になる。
このため乗算器72は、時刻t=2n×Tsにサンプリングされることが予定されていたが実際にはt=2n×Ts+ΔTにサンプリングされたサンプル(信号A)にも、「0」(=sin(n×π))を乗算する。時刻t=(2n+1)×Tsにサンプリングされることが予定されていたが実際には時刻t=(2n+1)×Ts+ΔTにサンプリングされた信号Aにも「±1」(=sin(nπ+π/2))を乗算する。
したがって、nが偶数であるときのサンプリングタイミング(n×Ts+ΔT)にてサンプリングされたサンプルが入力された場合、乗算器72の出力信号Cは「0」となる。また、nが奇数であるときのサンプリングタイミング(n×Ts+ΔT)にてサンプリングされたサンプルが入力された場合、乗算器72の出力信号Cは、次式(3)のように表すことができる。
信号C=I(n×Ts+ΔT)cos(2π(1/4Ts)×(n×Ts+ΔT))+Q(n×Ts+ΔT)sin(2π(1/4Ts)×(n×Ts+ΔT)) …(3)
上式(3)を変形することにより、次式(4)が得られる。
信号C=−I(n×Ts+ΔT)sin((π/2Ts)×ΔT)+Q(n×Ts+ΔT)cos((π/2Ts)×ΔT) …(4)
式(4)の信号Cを1個ずつ間引くことにより、式(5)の信号Eが得られる。
信号E=−I((2n+1)×Ts+ΔT)sin((π/2Ts)×ΔT)+Q((2n+1)×Ts+ΔT)cos((π/2Ts)×ΔT) …(5)
このように直交信号成分のサンプリングタイミングの誤差ΔTによって、直交信号Eには、本来の直交信号成分Q((2n+1)×Ts)がQ((2n+1)×Ts+ΔT)へと変動する遅延量の誤差が生じる。また誤差ΔTによって、直交信号Eには、項「−I((2n+1)×Ts+ΔT)sin((π/2Ts)×ΔT)」及び項「cos((π/2Ts)×ΔT)」による直交誤差が生じる。
図12は、直交誤差補正部40と遅延量変更部42の動作の説明図である。構成要素73及び77は、遅延量変更部42による処理遅延を補償する遅延素子である。遅延量変更部42は、直交信号成分Q((2n+1)×Ts+ΔT)に生じた遅延誤差に応じて、同相信号の遅延量を調節することによって、同相信号に対する相対的な直交信号の遅延量の誤差を解消する。遅延量変更部42は、フィルタ43と同様のデジタルフィルタによって実現されてよい。
例えば、遅延量変更部42は、同相信号の位相を(Ts+ΔT)だけ進めることにより、フィルタ43−1へ出力する同相信号をI((2n+1)×Ts+ΔT)にする。これによって同相信号の位相は、43−2へ入力される直交信号成分をQ((2n+1)×Ts+ΔT)の位相と等しくなる。
直交誤差補正部40は、乗算器74及び76と加算器75と、遅延素子73を備える。乗算器76は、直交誤差項の一方である「cos((π/2Ts)×ΔT)」の逆数を直交信号に乗じることによって、直交信号に生じた誤差を低減する。乗算器74は、遅延量変更部42から出力される同相信号I((2n+1)×Ts+ΔT)にsin((π/2Ts)×ΔT)を乗算した結果を出力する。加算器75は、乗算器74の出力を直交信号に加えることにより、直交誤差項の他方である「−I((2n+1)×Ts+ΔT)sin((π/2Ts)×ΔT)」を消去又は低減する。
遅延量変更部42において調節される遅延量、及び直交誤差補正部40における補正値を決定する調整パラメータΔTは、後述するように、制御信号生成部46から入力される制御信号によって与えられる。制御信号生成部46は、イメージ成分測定部45により測定されるイメージ成分の信号強度が所定の許容範囲に収まるように調整パラメータΔTを調整し、イメージ成分の信号強度を低減する。
なお、本実施例では、遅延量変更部42は同相信号の遅延量を調整し、直交誤差補正部40は直交信号を補正することにより、サンプリングタイミングの誤差ΔTにより生じる同相信号及び直交信号の誤差を補正した。他の実施例では、遅延量変更部42は直交信号の遅延量を調整し、直交誤差補正部40は同相信号を補正することにより、サンプリングタイミングの誤差ΔTにより生じる同相信号及び直交信号の誤差を補正してもよい。または、遅延量変更部42は同相信号及び直交信号の両方の遅延量を調整し、直交誤差補正部40は同相信号及び直交信号の両方を補正してもよい。
また、本実施例では、遅延量変更部42による遅延量の誤差の補正と、遅延量変更部42及び直交誤差補正部40による直交誤差の補正との両方を行った。他の実施例では、遅延量の誤差の補正だけを行ってもよく、又は直交誤差の補正の補正だけを行ってもよい。遅延量の誤差及び直交誤差のいずれか一方を補正するだけでも、同相信号及び直交信号の品質の向上を期待することができる。
図13は、実施例に係る同相信号及び直交信号の誤差の低減処理の説明図である。なお、別な実施の態様においては、下記のオペレーションAA〜オペレーションAFの各オペレーションはステップであってもよい。
オペレーションAAにおいて周波数特性解析部44及びイメージ成分測定部45は、同相信号及び直交信号の少なくともいずれかに含まれるイメージ成分の強度を測定する。イメージ成分の強度が測定されることにより、同相信号成分のサンプリングタイミング及び直交信号成分のサンプリングタイミング間の時間差の誤差が測定される。オペレーションAAにて測定された測定量をM1とする。
オペレーションABにおいて制御信号生成部46は、直交誤差補正部40及び遅延量変更部42へ与える調整パラメータΔTの値を変更する。オペレーションACにおいて周波数特性解析部44及びイメージ成分測定部45は、同相信号及び直交信号の少なくともいずれかに含まれるイメージ成分の強度を測定する。オペレーションACにて測定された新たな測定量をM2とする。
オペレーションADにおいて制御信号生成部46は、新たな測定量M2が許容範囲内にあるか否かを判定する。新たな測定量M2が許容範囲内にあるとき(オペレーションAD:Y)、制御信号生成部46は、調整パラメータΔTの調整処理を終了し、調整済みの調整パラメータΔTを直交誤差補正部40及び遅延量変更部42へ与える。
新たな測定量M2が許容範囲内から逸脱しているとき(オペレーションAD:N)、制御信号生成部46は処理をオペレーションAEへ進める。オペレーションAEにおいて制御信号生成部46は、新たな測定量M2が許容範囲から逸脱している乖離量が、測定量M1が許容範囲から逸脱している乖離量よりも大きいか否かを判定する。
新たな測定量M2の乖離量の方が、測定量M1の乖離量よりも大きいときは(オペレーションAE:Y)、制御信号生成部46は処理をオペレーションAFへ進める。オペレーションAFにおいて制御信号生成部46は、オペレーションABにて調整パラメータΔTを変更する方向を反対方向に変更する。その後処理はオペレーションAAに戻る。新たな測定量M2の乖離量の方が、測定量M1の乖離量よりも大きくないときは(オペレーションAE:N)、処理はオペレーションAAに戻る。
なお、図13の実施例では、制御信号生成部46は、周波数特性解析部44及びイメージ成分測定部45の測定量が所定の許容範囲に収まるように、調整パラメータΔTの値を調整した。これに変えて、制御信号生成部46は、周波数特性解析部44及びイメージ成分測定部45の測定量が最小値となるように、調整パラメータΔTの値を調整してもよい。
本実施例によって、歪補償係数の生成に使用される同相信号及び直交信号の品質が向上するため、プリディストータの歪補償性能が向上する。
図14は、実施例に係る無線装置の第6例の概略構成図である。図7に記載した構成要素と同一の構成要素には、図7で使用した参照符号と同じ参照符号を付する。なお、本実施例では、レート変更部41は、デジタル直交復調器12から出力された同相信号及び直交信号のサンプルを1個おきに間引くことにより、同相信号及び直交信号のサンプリング周波数を「f」から「f/2」に変更する。また、フィルタ43は、レート変更部41から出力された同相信号と直交信号との間において遅延量を相対的に「1/f」だけずらすことにより、同相信号と直交信号の位相を同期させる。
本実施例では、クロック発生部25は、制御信号生成部46により調整される調整パラメータΔTの値によって、クロック信号CLK1及びクロック信号CLK2の少なくともいずれかの初期位相を調整する。
図15の(A)及び図15の(B)は、クロック発生部25の構成例を示す図である。クロック発生部25は、発信器80と、位相比較器81及び86と、低域通過フィルタ(LPF)82及び87と、電圧制御発信器83及び88と、分周器84及び89を備える。
クロック発生部25は、位相比較器81と低域通過フィルタ82と電圧制御発信器83と分周器84により形成される第1のPLL回路によってクロック信号CLK1を生成する。またクロック発生部25は、位相比較器86と低域通過フィルタ87と電圧制御発信器88と分周器89により形成される第2のPLL回路によってクロック信号CLK2を生成する。
図15の(A)のクロック発生部25は、クロック信号CLK1の初期位相値を調整する初期位相調整部85を備える。図15の(B)のクロック発生部25は、クロック信号CLK2の初期位相値を調整する初期位相調整部85を備える。またはクロック発生部25は、クロック信号CLK1及びCLK2の両方の初期位相値を調整できてもよい。
クロック信号CLK1及びCLK2の少なくともいずれかの初期位相値を調整することにより、クロストークによりCLK1へCLK2が重畳したときに生じるサンプリング間隔の長短が無くなる、又は、サンプリング間隔の長短が減少する。これによって、同相信号成分及び直交信号成分がサンプリングされるタイミングの間の時間差の誤差が無くなり、又は減少するため、同相信号及び直交信号の品質が向上する。
図16は、クロストークノイズが重畳されたクロック信号の説明図(その2)である。図2と同様に正弦波によってクロック信号の波形を模倣している。3つの波形は、それぞれクロストークを受けるクロック信号の初期位相値をずらした場合に生じる波形をそれぞれ表している。クロック信号の初期位相値を変更することにより、振幅が大きな波形部分と振幅が小さな波形部分との間の相対的な位置関係、すなわち相対的な強度が変更される。
図16の例では、一点鎖線のクロック信号の振幅が大きい波形部分の強度は、実線のクロック信号の振幅が大きい波形部分の強度よりも小さくなっている。一方で、一点鎖線のクロック信号の振幅が小さい波形部分の強度は、実線のクロック信号の振幅が小さい波形部分の強度よりも大きくなっている。このため、例えば、図示の閾値を信号値が超える時期をサンプリングタイミングとすると、実線のクロック信号により定まるサンプリングタイミングに比べて、一点鎖線のクロック信号により定まるサンプリングタイミングの方がサンプリング周期の長短の差が短い。
図17は、クロストークノイズが重畳されたクロック信号の説明図(その3)である。図2と同様に正弦波によってクロック信号の波形を模倣している。3つの波形は、それぞれクロストークにより重畳するクロック信号の初期位相値をずらした場合に生じる波形をそれぞれ表している。図16の場合と同様に、実線のクロック信号により定まるサンプリングタイミングに比べて、一点鎖線のクロック信号により定まるサンプリングタイミングの方がサンプリング周期の長短の差が短い。
図14を参照する。制御信号生成部46は、図7の実施例において直交誤差補正部40及び遅延量変更部42に与える調整パラメータΔTを調整したのと同様に、クロック信号CLK1及びクロック信号CLK2の少なくともいずれかの初期位相を調整する調整パラメータΔTを調整する。制御信号生成部46が、調整パラメータΔTを調整することにより、同相信号成分及び直交信号成分がサンプリングされるタイミングの間の時間差の誤差が無くなるか、減少される。このため、制御信号生成部46及び初期位相調整部85は、上述の時間差誤差低減部15の一例として挙げられる。
図15の(B)の本実施例では、クロック信号CLK2の初期位相を調整する。クロック信号CLK1への周波数f/2の周波数成分のクロストークが、他のクロック信号により生じる場合は、クロック信号CLK2に代えて、この他のクロック信号の初期位相を調整してもよい。
本実施例によれば、サンプリングタイミング及び直交信号成分のサンプリングタイミング間の時間差の誤差を低減されるため、同相信号及び直交信号の品質を向上することができる。
図18は、実施例に係る無線装置の第7例の概略構成図である。図14に記載した構成要素と同一の構成要素には、図14で使用した参照符号と同じ参照符号を付する。参照符号47は遅延器を示し、参照符号48は乗算器を示し、参照符号49は差動増幅器を示す。無線装置1は、遅延器47と、乗算器48と、差動増幅器49を示す。
遅延器47は、制御信号生成部46により指示される調整パラメータの1つである遅延量ΔDの分だけ、クロック信号CLK2を遅延させる。乗算器48は、遅延器47により遅延したクロック信号CLK2に、制御信号生成部46により指示される調整パラメータの1つである係数Aを乗じることにより、CLK2のレベルを変更する。差動増幅器49は、遅延器47により遅延量が調整され、乗算器48によりレベルが調整されたクロック信号CLK2を、クロック信号CLK1から減算し、その結果得られる差信号をA/D変換器11へ出力する。すなわち差動増幅器49は、クロック信号CLK2と逆位相の信号をクロック信号CLK1へ加える。
本実施例によれば、クロック信号CLK2と逆位相の信号がクロック信号CLK1に加えられるので、A/D変換器11へ供給されるクロック信号CLK1から、クロック信号CLK2によるクロストークの影響が消去又は低減される。
制御信号生成部46は、図7の実施例において直交誤差補正部40及び遅延量変更部42に与える調整パラメータΔTを調整したのと同様に、遅延量ΔD及び係数Aを調整する。なお、クロック信号CLK1への周波数f/2の周波数成分のクロストークが、他のクロック信号により生じる場合は、クロック信号CLK2に代えて、この他のクロック信号と逆位相の信号をクロック信号CLK1に加えてもよい。
図19は、実施例に係る無線装置の第8例の概略構成図である。図7に記載した構成要素と同一の構成要素には、図7で使用した参照符号と同じ参照符号を付する。無線装置1は、送信信号と、フィルタ43から出力されるフィードバック信号としての同相信号及び直交信号との差を誤差として測定する誤差測定部100を備える。
上述のとおり、A/D変換器11による同相信号成分及び直交信号成分のサンプリングタイミングの間の時間差の誤差に応じて、同相信号及び直交信号の少なくともいずれかに生じる誤差が発生する。したがって誤差測定部100は、誤差検出部13の一例として挙げられる。
制御信号生成部46は、誤差測定部100により測定される誤差が所定の許容範囲に収まるように、又は誤差が最小となるように、遅延量変更部42による遅延量の変更量及び直交誤差補正部40による補正量の少なくともいずれかを調整する。制御信号生成部46による、遅延量変更部42による遅延量の変更量及び直交誤差補正部40による補正量の調整処理は、図13を参照して説明したイメージ成分の信号強度に基づく調整処理と同様であってよい。
本実施例によっても、歪補償係数の生成に使用される同相信号及び直交信号の品質が向上するため、プリディストータの歪補償性能が向上する。
また、図14及び図18に示す実施例においても、周波数特性解析部44及びイメージ成分測定部45による誤差検出に代えて、誤差測定部100による誤差検出を用いてもよい。
図20は、実施例に係る無線装置の第9例の概略構成図である。図7に記載した構成要素と同一の構成要素には、図7で使用した参照符号と同じ参照符号を付する。無線装置1は、送信信号と、フィルタ43から出力されるフィードバック信号としての同相信号及び直交信号との間の相関を測定する相関測定部101を備える。
上述のとおり、A/D変換器11による同相信号成分及び直交信号成分のサンプリングタイミングの間の時間差の誤差に応じて、同相信号及び直交信号の少なくともいずれかに生じる誤差が発生する。このため時間差の誤差に応じて、送信信号とフィードバック信号との間の相関値も変化する。したがって相関測定部101は、誤差検出部13の一例として挙げられる。
制御信号生成部46は、相関測定部101により測定される相関値が所定の許容範囲に収まるように、又は相関値が最大となるように、遅延量変更部42による遅延量の変更量及び直交誤差補正部40による補正量の少なくともいずれかを調整する。制御信号生成部46による、遅延量変更部42による遅延量の変更量及び直交誤差補正部40による補正量の調整処理は、図13を参照して説明したイメージ成分の信号強度に基づく調整処理と同様であってよい。
本実施例によっても、歪補償係数の生成に使用される同相信号及び直交信号の品質が向上するため、プリディストータの歪補償性能が向上する。
以上の実施例を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
アナログ形式の直交変調信号から同相信号成分及び直交信号成分を交互にサンプリングするA/D変換器と、
前記A/D変換器の出力信号にデジタル直交復調処理を施し、同相信号及び直交信号を出力するデジタル直交復調部と、
前記デジタル直交復調部から出力される同相信号及び直交信号に基づいて、前記同相信号成分のサンプリングタイミング及び前記直交信号成分のサンプリングタイミング間の時間差の誤差を検出する誤差検出部と、
を備える無線装置。
(付記2)
前記誤差検出部により検出される前記時間差の誤差に基づいて、前記時間差の誤差により生じる前記同相信号及び前記直交信号の誤差を低減する誤差低減部を備える付記1に記載の無線装置。
(付記3)
送信信号を直交変調した変調信号を増幅する増幅器、
前記増幅器により増幅された変調信号から前記A/D変換器及び前記デジタル直交復調部によって復調された前記同相信号及び前記直交信号と、前記送信信号である参照信号と、の間の差が小さくなるように歪補償係数を演算する歪補償係数演算部、
演算された前記歪補償係数で記憶内容が更新される歪補償係数記憶部、
前記歪み補償係数に基づいて送信信号に歪補償を施す歪補償部をさらに備える付記1に記載の無線装置。
(付記4)
前記誤差検出部により検出される前記時間差の誤差に基づいて、前記時間差の誤差により生じる前記同相信号及び前記直交信号の誤差を低減する誤差低減部を備える付記3に記載の無線装置。
(付記5)
前記誤差低減部は、前記同相信号及び前記直交信号の少なくともいずれかの遅延量を変更する遅延量変更部を備える付記2又は4に記載の無線装置。
(付記6)
前記誤差低減部は、前記同相信号と前記直交信号との間の直交誤差を補正する直交誤差補正部を備える付記2又は4に記載の無線装置。
(付記7)
前記誤差低減部は、前記同相信号成分のサンプリングタイミング及び前記直交信号成分のサンプリングタイミング間の時間差の誤差を低減する時間差誤差低減部を備える付記2又は4に記載の無線装置。
(付記8)
第1周波数の第1クロック信号を前記A/D変換器に供給する第1クロック発生器と、前記第1周波数の1/2の周波数の第2クロック信号を供給する第2クロック発生器と、を備え、
前記時間差誤差低減部は、前記第1クロック発生器が供給する前記第1クロック信号及び前記第2クロック発生器が供給する前記第2クロック信号の少なくともいずれかの位相を調整する位相調整部を備える付記7に記載の無線装置。
(付記9)
第1周波数の第1クロック信号を前記A/D変換器に供給する第1クロック発生器と、前記第1周波数の1/2の周波数の第2クロック信号を供給する第2クロック発生器と、を備え、
前記時間差誤差低減部は、前記第2クロック信号と逆位相の信号を前記第1クロック信号に加える信号印加部を備える付記7に記載の無線装置。
(付記10)
前記誤差検出部は、前記デジタル直交復調部から出力される前記同相信号及び前記直交信号に含まれる不要波成分を検出する周波数特性解析部を備える付記1〜9のいずれか一項に記載の無線装置。
(付記11)
前記誤差検出部は、前記同相信号及び前記直交信号と前記送信信号との間の誤差量又は相関量を検出する付記4に記載の無線装置。
(付記12)
アナログ形式の直交変調信号からA/D変換器によって同相信号成分及び直交信号成分を交互にサンプリングし、
前記A/D変換器の出力信号にデジタル直交復調処理を施すことにより前記出力信号を同相信号及び直交信号へ変調し、
前記同相信号及び直交信号に基づいて、前記同相信号成分のサンプリングタイミング及び前記直交信号成分のサンプリングタイミング間の時間差の誤差を検出する、信号処理方法。
(付記13)
検出された前記時間差の誤差に基づいて、前記時間差の誤差により生じる前記同相信号及び前記直交信号の誤差を低減する付記12に記載の信号処理方法。
(付記14)
送信信号を直交変調した変調信号を増幅器により増幅し、
前記増幅器により増幅された変調信号から前記A/D変換器及び前記デジタル直交復調処理により復調された前記同相信号及び前記直交信号と、前記送信信号である参照信号と、の間の差が小さくなるように歪補償係数を演算し、
所定の記憶部に記憶される歪補償係数を演算された前記歪補償係数で更新し、
前記歪み補償係数に基づいて前記送信信号に歪補償を施す、付記12又は13に記載の信号処理方法。